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令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた事業実施 可能性調査事業委託費(東部インドネシアにおける洋上天然ガス 発電プラント及びLNG配送チェーン実施可能構想追及と 新エネルギー需要創出の事業性調査)報告書 2020 2 三菱重工業株式会社 静岡ガス株式会社 丸紅株式会社

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Page 1: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた事業実施 可能性調査事業委託費(東部インドネシアにおける洋上天然ガス 発電プラント及びLNG配送チェーン実施可能構想追及と 新エネルギー需要創出の事業性調査)報告書

2020 年 2 月

三菱重工業株式会社

静岡ガス株式会社

丸紅株式会社

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i

成果報告書 目次

1. 前書き 1-1

1.1 調査内容 1-1

1.2 調査方法・体制 1-3

2. 事業プロファイルおよび調査手法 2-1

3. ニーズ、法制度、需要に関する分析 3-1

3.1 ニーズ分析 3-1

3.1.1 東部インドネシア電化率 3-1

3.1.2 国家開発計画、地域開発計画との整合性確認 3-2

3.2 法規制分析 3-6

3.2.1 天然ガス価格に関する規制 3-6

3.2.2 事業スキーム検討フローおよび関連法規制 3-7

3.2.3 許認可にかかる法規制分析 3-9

3.3 需要分析 3-21

4. 社会経済分析 4-1

4.1 社会経済分析概要 4-1

4.2 前提条件 4-1

4.3 経済社会分析結果 4-2

4.3.1 経済社会分析結果 4-2

4.3.2 感度分析 4-3

4.4 定性的事業効果 4-3

4.4.1 貿易収支改善 4-3

4.4.2 冷熱有効利用 4-3

4.4.3 近隣観光産業発展寄与の可能性 4-4

4.4.4 エネルギー安全保障の強化 4-5

5. 財務収益性分析 5-1

5.1 前提条件 5-2

5.2 キャッシュフロー分析の結果 5-3

6. ビジネススキームの選択肢 6-1

6.1 セグメント B へ配送するためのミッドストリーム・インフラ施設 6-1

6.2 想定されるビジネススキームの選択肢 6-6

6.2.1 Option 1: B-to-Bスキーム 6-6

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ii

6.2.2 Option 2:配送事業への PPP AP 供与スキーム 6-8

6.2.3 Option 3: 配送とサテライト施設への PPP AP供与スキーム 6-8

6.3 PPP AP供与スキームでの契約機関の分析 6-9

7. 次のステップに関する提案 7-1

8. HUB 建設計画 8-1

8.1 HUB 設置位置検討 8-1

8.2 HUB 設置位置・設備等基本計画 8-1

8.2.1 HUB基本仕様 8-1

8.2.2 FSU対象の大型 LNG船の設定 8-3

8.2.3 FSUの運用想定 8-5

8.2.4 BOG処理方法の検討 8-6

8.2.5 HUBの電力使用設備検討 8-8

8.2.6 その他 HUB設備 8-8

8.3 HUB 運営方法・組織の最適化検討 HUB 設備基本計画 8-15

8.3.1 HUB運営・保守 8-15

8.3.2 組織 8-15

9. 新エネルギー需要創造検討 9-1

9.1 需要の確実性検証 9-1

9.1.1 候補サイトの選定 9-1

9.1.2 天然ガス需要の検討 9-1

9.2 LNG 輸送方法の検討 9-10

9.2.1 日本の事例 9-10

9.2.2 北スラウェシ州での検討 9-11

9.3 現地調査 9-16

9.3.1 北スラウェシ州知事への提案 9-16

9.3.2 その他現地調査 9-17

9.3.3 ビツンの新規工業団地開発予定地の視察 9-17

9.3.4 ビツン港の視察 9-18

9.3.5 マナド港の視察 9-18

9.3.6 リクパン・リゾートホテルの視察 9-18

9.4 日本の実例から見た更なるエネルギー高度利用 9-19

9.4.1 日本のエネルギー高度利用例 9-19

9.4.2 インドネシアでのエネルギー高度利用の可能性検討 9-23

9.5 天然ガス普及によるインドネシアへの発展寄与の考察 9-24

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10. 小規模サイトの経済性改善策検討 10-1

10.1 小規模発電所の経済性確認 10-3

10.2 可能投資額に合った設備導入及び運用形態 10-9

10.2.1 可能投資額の検討 10-9

10.2.2 小規模発電所の設備導入検討 10-12

10.2.3 小規模発電所の運用形態検討 10-14

11. 相手国関係者に対しての報告会 11-1

12. CO2 排出量の削減等、環境社会面への影響評価 12-1

13. 日本企業の優位性、日本への裨益の検討 13-1

14. まとめ 14-1

[添付資料一覧]

別添 3-1 尼国 PPP関連規制の構成

別添 8-1 HUBのブロックフロー図

別添 8-2 大型 LNG船の概況

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[図表一覧]

図 2.1 LDPP事業対象候補サイトおよびセグメント分類

図 3.1 東部インドネシアにおける電化率

表 3.1 LDPP事業対象候補サイトおよび RUPTLにおけるステータス

図 3.2 国家戦略的インフラ案件(PSN)および優先インフラ案件の概要

図 3.3 MEMR省令によるガス価格規制

図 3.4 事業スキーム検討フレームワーク

図 3.5 事業に必要な許認可概要

図 3.6 LDPP事業関連許認可の概要

図 3.7 海洋空間計画の階層構造

図 3.8 海洋空間計画の利用とその海上用地認可

図 3.9 インドネシアの空間計画の階層

図 3.10 投資や事業実施を望む事業主体の用地認可取得の手続き

図 3.11 環境許可を得るための必要書類

図 3.12 AMDALと環境許可発行の手続きと期間

図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

表 3.2 RUPTL2019 に基づく各発電所の予測 LNG需要量

表 4.2 二酸化炭素排出削減

表 4.3 社会的費用便益分析結果(ベースケース)

表 4.4 感度分析(Economic NPV)

表 4.5 感度分析(Economic IRR)

図 4.1 冷熱利用イメージ

図 4.2 VGL 活用イメージ

表 4.6 石油ガス輸入元 (2017)

表 4.7 石油輸入元 (2017)

表 5.1 各発電所の概要

図 5.1 事業のサービスとキャッシュフロー概要

表 5.2 キャッシュフロー分析の前提条件

図 5.1 事業の想定 LNG需要量

表 5.3 財務条件に関する前提条件

図 6.1 ミッドストリーム・インフラ施設

図 6.2 ディーゼル・石炭のガス転換による便益

図 6.3 セグメント Aの施設をセグメント Bのフィリングステーションとして利用

図 6.4 再ガス化施設の冷熱利用イメージ(製氷・冷蔵施設)

図 6.5 需要リスクを低減できるモデュラーPLTMG

図 6.6 LPGの代替となる LNG VGLシステム

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図 6.7 B-to-Bビジネススキームの概要

図 6.8 配送事業への PPP AP供与スキーム

図 6.9 配送とサテライト施設への PPP AP供与スキーム

表 8.1 既存 FSUプロジェクト

図 8.1 FSU 用大型 LNG船写真(モデル)

図 8.2 FSU 用大型 LNG船仕様(モデル)

表 8.2 モデル船の仕様

図 8.3 FSU/LNG船の係留図

図 8.4 FSU/LNG船係留例

図 8.5 係留桟橋上のローディングアーム

図 8.6 クイックリリースフックの例

表 8.3 FSU 乗組員

表 8.4 マリンハウスの要員

図 9.1 日本の用途別 LNG販売量の推移

図 9.2 日本で導入されている天然ガスを利用した代表的な製品・設備

図 9.3 内燃機関(ガスエンジン)を用いた民生用コージェネレーションの基本構成

図 9.4 コージェネレーションによるエネルギー総合効率向上のイメージ

図 9.5 北スラウェシ州北部の地図

表 9.1 マナドの総合病院、ショッピングモール、ホテルでの潜在的な天然ガス需要

表 9.2 リクパンのホテルでの潜在的な天然ガス需要

図 9.6 マナド潜在需要 詳細

図 9.7 リクパン潜在需要 詳細

図 9.8 缶詰製造工程図

表 9.3 ビツンの缶詰工場での潜在的な天然ガス需要

表 9.4 ビツン潜在需要 詳細

図 9.9 ビツン潜在需要 詳細(分布図)

表 9.5 マナド、ビツン、リクパンの3地域の天然ガス潜在需要 まとめ

表 9.6 天然ガス需要の上振れの可能性 まとめ

図 9.10 日本での一般的な LNG製造・供給フロー

図 9.11 LNG輸送スキーム イメージ図

図 9.12 ガスコージェネレーションシステム導入 イメージ図

表 9.7 各検討ケースの前提条件

表 9.8 各検討ケースでの北スラウェシ州3地域への LNG輸送コスト算出結果

表 9.9 各検討ケースでの ISOコンテナリース本数

図 9.13 オリイ北スラウェシ州知事との面談

表 9.10 北スラウェシ州現地視察行程

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図 9.14 新規工業団地開発予定地

図 9.15 ビツン港

図 9.16 マナド港

図 9.17 PLNの変電所と、隣接された太陽光発電設備

図 9.18 マンション内電力融通システム「T-グリッドシステム」概念図

図 9.19 「電力融通」概念図

図 9.20 VPPイメージ

図 9.21 LNG冷熱利用例

表 10.1 小規模サイト - PLN 発電設備新設計画

図 10.1 モロタイ地図、SKPTの場所

図 10.2 SKPT地区開発予定と発電所の立地

図 10.3 SKPT Morotai Zone Layout/2018時点の状況・予定設備配置

図 10.4 発電所 流れ図(Block Flow Diagram)

図 10.5 発電所 敷地・配置図(Foot Print )

図 10.6 Kendari LNG HUBからの航路(Google Earth に記入)

図 10.7 LNG配送ルート(中・大規模サイト・小型 LNG 船)

図 10.8 LNG配送ルート(小規模サイト、(1)コンテナ船又は自航式バージ)

図 10.9 LNG配送ルート(小規模サイト、(2)コンテナ船又は自航式バージ)

図 10.10 LNG配送ルート(小規模サイト、(3)コンテナ船又は自航式バージ)

表 10.2 主な事業項目及び資産項目の一覧表

表 10.3 想定事業体区分(一例)

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[略号一覧]

AMDAL Analisa Mengenai Dampak Lingkungan (Environment Impact Assessment)

環境影響評価

ATR-BPN

Kementerian Agraria dan Tata Ruang/ Badan Pertanahan Nasional (Ministry of Agrarian Affairs and Spatial Planning / National Land Agency)

国家土地庁

BOG Boil off gas ボイルオフガス

BOR Boil off rate ボイルオフガス発生率

BTU British Thermal Unit 英熱量

BPP Biaya Penyediaan Pokok (Cost Electricity Supply)

電力供給コスト

CF Capacity Factor 設備利用率

CMMA Coordinating Ministry for Maritime Affairs and Investments

海洋担当調整省

CMEA Coordinating Ministry for Economic Affairs 経済担当調整省

COD Commercial Operation Data 運転開始日

COE Cost of Electricity 発電価格

ER Electrification Ratio 電化率

FPP Floating Power Plant, Storage, and Regasification

洋上天然ガス発電プラント

FSRU Floating Storage Regasification Unit 浮体式 LNG貯蔵再ガス化設備

FSU Floating Storage Unit 浮体式 LNG貯蔵設備

GHG Greenhouse Gas Emission 温室効果ガス

IGG Inert Gas Generator 不活性ガス発生機

KKP Kementerian Kelautan dan Perikanan (Ministry of Marine Affairs and Fisheries)

海洋水産省

KLHK Kementrian Lingkungan Hidup dan Kehutanan (Ministry of Environment and Forestry)

環境林業省

KPPIP Komite Percepatan Penyediaan Infrastruktur Prioritas (Committee for Acceleration of Priority Infrastructure Delivery)

優先インフラ案件加速化委員会

LDPP LNG Distribution and Power Plants 洋上天然ガス発電プラント 及びLNG配送チェーン

LNG Liquefied Natural Gas 液化天然ガス

MEMR Ministry of Energy and Mineral Resources エネルギー・鉱物資源省

METI Ministry of Economic, Trade, and Industry of Japan

経済産業省

MOHA Ministry of Home Affair 内務省

MOT Ministry of Transportation 運輸省

MPP Mobile Power Plant モバイル・パワープラント

MW Mega Watts メガ・ワット

OSS Online Single Submission オンライン・シングル・サブミッション

Perda Peraturan Daerah (Regional Government Regulation)

地方令

Permen Peraturan Mentri (Ministerial Regulation) 省令

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Perpres Peraturan Presiden (Presidential Regulation) 大統領令

PLN Perusahaan Listrik Negara (State Electricity Company)

国営電力公社

PLTD Pembangkit Listrik Tenaga Diesel (Diesel Power Plant)

ディーゼル発電所

PLTG Pembangkit Listrik Tenaga Gas (Gas-sourced Power Plant)

ガス発電所

PLTGU Pembangkit Listrik Tenaga Gas Uap (Combined Cycle Power Plant)

コンバインドサイクル発電所

PLTMG Pembangkit Listrik Tenaga Mesin Gas (Gas Engine Power Plant)

ガスエンジン発電所

PLTU Pembangkit Listrik Tenaga Uap (Coal-fired Power Plant)

石炭火力発電所

PMKP Peraturan Mentri Kelautan dan Perikanan (Ministry of Marine Affairs and Fisheries Regulation)

海洋水産省令

PMP Peraturan Menteri Perhubungan (Ministry of Transportation Regulation)

運輸省令

PMT Project Mission Team プロジェクト・ミッション・チーム

PP Peraturan Pemerintah (Government Regulation) 政令

Pre-FS Pre- Feasibility Study 予備的事業実施可能性調査

PSN Proyek Strategis Nasional (National Strategic Plan)

国家戦略的インフラ案件

RPJMN Rencana Pembangunan Jangka Menengah Nasional (Central/National Government Medium Term Plan)

国家中期開発計画

RTRL Rencana Tata Ruang Laut (Marine Spatial Plan) 海洋空間計画

RTRW Rencana Tata Ruang Wilayah (Land Spatial Plan) 土地空間計画

RUKN Rencana Umum Ketenagalistrikan Nasional (National Electricity Master Plan)

国家電力マスタープラン

RUPTL Rencana Umum Penyediaan Tenaga Listrik (PLN's Electricity Supply Master Plan)

電力供給事業計画

RZInci Rencana Zonasi Inci (Detail Zoning Plan) 詳細ゾーニング計画

RZKL Rencana Zonasi Kawasan Laut (Marine Zoning Plan)

海洋ゾーニング計画

RZKSN Rencana Zonasi Kawasan Strategis Nasional (National Strategic Zoning Plan)

国家戦略ゾーニング計画

RZKSNT Rencana Zonasi Kawasan Nasional Tertentu (Particular National Strategic Zoning Plan)

特定的国家戦略ゾーニング計画

RZWP3K Rencana Zonasi Wilayah Pesisir dan Pulau-pulau Kecil (Coastal and Small Islands Zoning Plan)

沿岸域・小島ゾーニング計画

SDGs Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標

SOE Badan Usaha Milik Negara (State-Owned Enterprise)

国営企業

SPPL Surat Pernyataan Pengelolaan Lingkungan (Statement letter to manage the environment)

環境管理計画書

UKL-UPL

Upaya Pengelolaan Lingkungan Hidup dan Upaya Pemantauan Lingkungan Hidup (Environmental Management Efforts and Environmental Monitoring Efforts)

環境マネジメント及びモニタリングプログラム

UU Undang Undang (Law) 法律

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1-1

1. 前書き

小型 LNGキャリア及び、FSRUを使用した LNG 海上輸送によるバーチャルパイプラインを

成功させるとともに、土地収用の問題を回避するために海上設置の浮体式ガス火力発電設

備を設置すること(LDPP:LNG Distribution & Power Plant)を検討した。

インドネシア共和国(以下、尼国)のエネルギー政策は、2019年 1月 31日付けの尼国

政府機関の発表資料によれば、再生可能エネルギーを拡大させ、その調整力としての火力

をガスに転換していくのが基本方針であり、更なる LNG 配送の重要性が増している。しか

しながら同国では島嶼部が多く、パイプラインの敷設が困難であることから、ガス配送

インフラが存在せず、また土地収用等の問題から新設発電所建設が遅延し、従来通りの

老朽油・ディーゼルに頼っている状況である。

【尼国政府機関の新電力整備基本方針】(2019年 1月 31日発表)

1)ガス火力、特にガスタービン・コンバインドサイクルの普及

2)ジャワ島以外の島嶼部における小規模ガス火力での LNG利用の拡大

3)ジャワ島以外の小規模石炭火力からガス火力への置換え

発電燃料のガス転換により CO2排出量が抑制され、環境性が確保されるとともに、電力

コスト低減により需要が拡大し、経済成長に寄与する。浮体式ガス火力発電設備(MFPP:MHI

Floating Power Plant)はそれらすべてを解決できるソリューションである。

1.1 調査内容

浮体式ガス火力発電設備及び LNG配送チェーンの整備に当っては、最終需要地における

安定したエネルギー需要の確保が極めて重要となる。これについて、従来の発電設備への

ガス供給のみならず、(1)脱塩・淡水化プラント、製氷、冷凍・貯蔵等によるコールド

チェーンの整備、(2)精錬・製鋼等の産業用電力、(3)空調設備、冷凍庫、コジェネ等

の民生用電力等といった新たなエネルギー需要の創出について事業性の評価を実施・検討

した。具体的な調査・実施項目は以下のとおり。

[事業実施可能性調査]

①-(1) 尼国制度等との整合性確認

尼国 PPPスキーム等に習熟した機関と連携して下記項目を実施した。

・尼国制度・法律及び尼国政府エネルギー関連中長期計画等の調査

・日本側計画の FSとの整合性確認

・尼国側ステークスホルダーに分かり易く、かつ実行可能なビジネスス・

トラクチャーの構築

・日本の優位性を折り込んだ諸計画の立案

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1-2

①-(2) HUB建設計画立案

昨年実施の FS結果に基づき、更に深堀りすることで HUB設置位置を絞った。

・HUBの具体的設置位置・設備内容等基本計画検討

・HUBの実施運営方法の最適構造検討

・実施運営母体(SPV)の経済性確認

・尼国政府支援/補助の必要性検討

・日本側ファイナンス供与スキーム検討

・HUB設置に係る環境リスクチェック

②-(1) 新エネルギー需要創造検討

昨年実施の FS結果を参照し、更に深堀りすることで具体策を提案した。

・候補サイトの中で数か所をピックアップし、需要の確実性を検証

(上振れ・下振れリスク分析も併せて実施)

・同上サイトでの民生及び産業用等での新規需要創造の可能性検討

(必要に応じて専門知識を有する有識者による現地調査を行った。)

②-(2) 小規模サイト改善策検討

昨年実施の FS結果を参照し、更に深堀することで具体策を提案した。

・小規模発電所の経済性再チェック

・上記に基づく可能投資額に合った設備導入及び運用形態の検討

・日本の実例から見た更なるエネルギー高度利用の可能性検討

③ CO2 排出量の削減等、環境社会面への影響評価

CO2 削減効果の他、大気汚染低減効果等、尼国の環境政策への貢献について検討した。

④ 日本企業の優位性、日本への裨益(経済効果)の検討

日本企業と共に、事業検討及び尼国関係者との作業部会等に参画しつつ、他国競合先

と差別化を図る一気通貫サービスの提供により優位性を確保するとともに、他国への

横展開も視野に入れて日本への裨益を検討した。

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1-3

1.2 調査方法・体制

本事業に係る実施体制は以下のとおりとした。

経済産業省

相手国関係機関:

海洋調整府

エネルギー・鉱物資源省

海洋地質研究所

国家企業管理省

海洋漁業省

海洋漁業技術エンジニアリングアセスメントセンター

技術評価応用庁

海洋調査技術センター

インドネシア大学

村落協同組合(KUD)等

三菱重工業(幹事法人)

全体統括

①-(1) 尼国制度等との整合性確認

①-(2) HUB建設計画立案

②-(1) 新エネルギー需要創造検討

②-(2) 小規模サイト改善策検討

外注先

川崎汽船

コーエイリサーチ&コンサルティング社

相手国事業者:

PT.PLN(国営電力公社)

PT.Pertamina(国営石油・ガス公社)

静岡ガス

②-(1) 新エネルギー需要創造検討

②-(2) 小規模サイト改善策検討

外注先

マクシード コンサルティング社

丸紅

①-(1) 尼国制度等との整合性確認

①-(2) HUB建設計画立案

外注先

コーエイリサーチ&コンサルティング社

Page 13: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

2-1

2. 事業プロファイルおよび調査手法

LDPP 事業の目的は東部インドネシアにおける発電所へのガス配送(ミッドストリー

ム)インフラを整備することにより、ディーゼルからガスへの転換、電化率の向上、

地球温暖化ガスの削減および地域経済(漁業、観光、精錬業等)発展への貢献を図るも

のである。2018年にプログラム・ミッション・チーム(PMT)は発電価格(COE)、配送

スキーム、東部インドネシアの潜在的大規模需要地にかかる分析調査を実施した。2019

年 11 月に CMMAと METIは政府間のジョイント・ワーキンググループの下さらなる調査

を実施することで合意した。また PMTはコンサルタントチームを起用の上、LDPP 事業

の実施可能なビジネススキームの評価・検討を本調査にて実施する。

前述の通り、LDPP事業の目的は東部インドネシアへの LNG配送インフラを整備する

ことである。対象候補サイトは 2つのセグメントに分類される。1)アンカーデマンドを

含む、比較的大きく堅固な電力需要(ひいてはガス需要)が見込まれるサイトをセグメ

ント A、2)より遠隔で小規模な需要が見込まれるサイトをセグメント Bとしている。

さらに、位置の問題から航行が困難と判断されている複数サイト(Langgur、Timika、

Merauke)についても現時点では検討対象に含まれる。

PMT および PLNの提案に基づき、本調査の検討を実施するにあたり、下図に含まれる

サイトを当面の候補地として検討する。

図 2.1 LDPP事業対象候補サイトおよびセグメント分類

出典:PMT情報を基にコンサルタントチーム作成

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3-1

3. ニーズ、法制度、需要に関する分析

東部インドネシアへの電力供給および電化率向上に対するニーズは高い。本 LDPP

事業は国・電力セクターの中期開発計画との整合性や PLN事業計画との親和性が確認さ

れている。事業が国家戦略的インフラ案件と見なされる可能性も存在する(更なる確認

が必要)。また需要に関する予備的な分析からは、ほとんどのガス需要は既存のディー

ゼル燃料発電からのガス転換であることが確認された。

3.1 ニーズ分析

3.1.1 東部インドネシア電化率

インドネシアは 2019年までに電化率 99.9%を目指している。これは 2015年に国連が

定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標 7にあたる「すべての人に信頼でき、

持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを 2030 年までに確保する」ことにも

由来する。

エネルギー鉱物資源省(MEMR)の統計によると、2018 年のインドネシア全国電化率

は 98.3%と高水準ではあるももの、地方格差が見られる。東部インドネシアは西部(ス

マトラ島、ジャワ島)と比較し低い。下図が示す通り、南カリマンタン島、マルク・

パプアエリアは全国平均を下回り、SDGsが目指す「すべての人に手ごろでクリーンな

エネルギー」を普及させているとは言い難い。

図 3.1 東部インドネシアにおける電化率

出典:エネルギー鉱物資源省 2019年統計

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3-2

また、電気が通っていても常時安定的な電力供給が実現されているか、など電化率の

定義が不透明である。以上から、東部の電力へのアクセスへのニーズは統計データが

示すよりさらに高いことが見込まれる。

3.1.2 国家開発計画、地域開発計画との整合性確認

(1) 国家開発計画との整合性

国家中期開発計画(RPJMN)2020-2024によると、電力・エネルギー開発について

尼国政府は下記の通り目標を定めている。

・2025年までにエネルギー・ミックスに占める再生可能エネルギーを 23%まで

上昇させ、持続可能なエネルギーを供給する。

・手ごろな価格でアクセスしやすい形で公平な電力供給を特に東インドネシア

向けに行う。

・国家のエネルギー安全保障を強化する。

エネルギー管理およびエネルギー利用については複数の課題が存在し、開発計画目

標の阻害要因となっている。

a) エネルギー備蓄とエネルギー安全保障

尼国には十分なエネルギー備蓄がなく、燃料輸入に依存していることから、エネ

ルギ―の安全保障は大きな懸念事項の一つである 1。

b) エネルギー供給インフラ

エネルギー利用にかかる課題についても中期開発計画にて指摘されている。エネ

ルギー(燃料)の生産現場と消費が期待される現場が遠く離れていることから、

供給インフラの整備の重要性が強調されている。天然ガスがその例であり、埋蔵

場所が東部インドネシアと、消費の中心地であるジャワ島から乖離していることが

原因の一つとなり、国産エネルギーの利用が限定されている状況である 2。

課題解決に向けた方策も国家中期開発計画 2020-2024 に記載されている。

・発電所における石油燃料の使用の削減による、石油燃料の輸入削減および

国家エネルギー安全保障の強化と発電コスト(COE)の低減促進 3

・エネルギー(特に天然ガス)配送インフラの開発整備と実施のための多様な実施

機関および資金源の導入(中央政府、地方政府、国営企業、民間企業など)4

1 Chapter 2 Strengthening Economic Resilience for Sustainable Growth: Environment and Strategic Issues, page 39 2 Chapter 6 Strengthening Infrastructure to Support Economic Development and Basic Services/Needs: Objective, Targets and Indicators, page 153 3 Energy and Electricity Access, page 152 4 Funding for Implementation, page 258

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3-3

以上より、LDPP事業の目的やスコープは尼国の政策方針に合致しており、事業を

実施することは上述の課題解決に直接的、間接的に貢献することが確認された。

(2) MEMR計画との整合性

MEMR が策定する国家エネルギー政策(RUKN)は、国営電力会社 PLN の電力供給

事業計画(RUPTL)のベースとなる。RUKN(2019-2038)には、国の電化率を現状の

98.3%から 2020年までに 100%にすることを目標として掲げている 5。

政府は同目標達成のため下記のような政策ガイドラインを設定した。

a) 適正な価格での地方電力供給を実現し、遠隔地域の電力需要を満たす

発電価格(BPP)を下げ適正な電力価格を実現するため、政府は発電価格の最大

の構成要素である燃料コストの効率化を目指す。発電燃料を石油から多様化し、

天然ガス燃料の利用最適化を図る。一次エネルギーミックスは、再生可能エネルギ

ーおよび LNG発電の増加と石油、石炭発電の低下見通しを示している。具体的には、

2025 年におけるエネルギーミックスの内訳が再生可能 23%、ガス 22%、石油 0.4%、

石炭 55%であるのに対し、2038年に再生可能 28%、ガス 25%、石油 0.1%、石炭 47%

となる展望である 6。

b) 国営企業および民間からの投資資金導入

政府および PLNの資金には限りがあることから、特に大規模な投資が必要とされ

る事業や、大規模なガス供給能力が要求される事業には民間資金の導入を促進する。

例として、政府は遠隔地の小規模発電所への LNGミルクラン供給によるインフラコ

ストの低減を是認している 7。

c) 環境に配慮したエネルギーの供給

温室効果ガスの削減目標(2030 年までに 29%削減)を達成するため、政府は発電

燃料の転換を促進している。特に発電所タイプが PLTG、PLTGU、PLTMGの場合は GHG

排出量の多い石油燃料からのガス転を促している 8。

以上より、LDPP事業は MEMR の政策方針と整合性はとれていることが確認できた。

特に東部インドネシアにおいてディーゼルと比較し環境に優しい天然ガス燃料を

供給し、より安価な電力の供給を目指す点において本事業の目的と合致する。

(3) PLN事業計画(RUPTL)との整合性

2019 年 12 月時点において、PMT が提案する候補対象サイトの大多数は RUPTL と合致

する。下表に示す通り、全 30サイトのうち 28サイトは RUPTLに掲載されている。残り

2サイトは北マルクに位置する Buli Bay、Weda Bayであり、RUPLTにおいては確認され

ていない。

5 Chapter 2, page. 67-68 6 Chapter 1, page 10-15, page 34-35 7 Chapter 1, page 26 and Chapter 2, page 74 8 Chapter 2, page 55-56

Page 17: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-4

表 3.1 LDPP事業対象候補サイトおよび RUPTLにおけるステータス

号 県 グリッド

PMT提案サイト

(2019年 12月) タイプ

設備

容量

RUPTLステ

ータス

1 South

Kalimantan Barito Kalsel

PLTG/MG/

GU/MG 200

2 South

Sulawesi Sulbagsel Makassar

PLTG/MG/GU

/MG 200

3

South East

Sulawesi

Sulbagsel Sulbagsel PLTU 200 4 Sulbagsel Sulbagsel 2 PLTU 200 5 Sulbagsel MPP Sulselbar PLTG/MG 120 6 Kendari MPP Sultra PLTMG 50 7

Maluku

Dobo Dobo PLTMG 10 8 Seram Seram PLTMG 20 9 Namea Namlea PLTMG 10 10 Saumlaki Saumlaki PLTMG 10 11 Tual Langgur PLTMG 20 12 Bula Bula PLTMG 10 13 アンボン アンボン Peaker PLTMG 30 14 アンボン アンボン 2 PLTG/MG/GU 50

15

North

Maluku

Ternate-Ti

dore Ternate 2 PLTG/MG 10

16 Ternate-Ti

dore MPP Ternate PLTMG 30

17 Bacan Bacan PLTMG 10 18 Sanana Sanana PLTMG 10 19 Morotai Morotai PLTMG 10 20 Halmahera Tobelo PLTG/MG 10 21 Halmahera Tobelo 2 PLTMG 20 22 Halmahera Buli Bay - - Not included

23 Halmahera MFPP Weda Bay - - Not included

24 West Papua

Fak Fak MPP Fak Fak PLTMG 10 25 Kaimana Kaimana PLTMG 10 26

Papua

Timika MPP Timika PLTG/MG 10 27 Timika Timika 2 PLTG/MG 30 28 Serui Serui 1 PLTMG 10 29 Merauke Merauke PLTMG 20 30 Merauke Merauke 2 PLTG/MG 20

注:発電所の名称およびタイプ、設備容量については RUPTLを反映している

出典: RUPTL 2019-2028 および PMTからの情報(2019年 12月時点)に基づき

コンサルタントチーム作成

コンサルタントチームが実施した対 MEMR、対 PLNインタビューによると、PLN は

RUPTL2020を作成中であり、サイトの適合性については最新の RUPTLも確認する必要が

ある。

Page 18: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-5

(4) 国家戦略的インフラ案件(PSN)、優先インフラ案件指定の能性

尼国政府はインフラ整備を通じた国家の経済成長促進に特に資すると認定した案件

の実施加速化に励んでいる。経済調整担当大臣府(CMEA)は 245案件と 2つのプログラ

ムを特に戦略的に重要であるとし、大統領令 2018年第 56号において PSNに指定してい

る。

PSN245案件の内 37案件は特に経済的なインパクトが期待されるとし、CMEA省令 2017

年第 5号により優先インフラ案件に指定されている。国家戦略的インフラ案件、優先

インフラ案件ともに、KPPIP(優先インフラ案件加速化委員会)により監督され、実施

加速化のため様々な支援、恩恵を享受している。

図 3.2 国家戦略的インフラ案件(PSN)および優先インフラ案件の概要

出典:KPPIP

上述の大統領令および CMEA省令によると、LDPP事業の対象候補サイト(発電所)は、

PSN および優先インフラ案件リストに含まれる(ただし、Buli Bayと Weda Bay を除く)。

a) 大統領令 2018年第 56号

セクション X (電力インフラ開発プログラム)において、「大統領令 2016年第

4 号にて規定される電力インフラ開発加速プログラムの対象である発電プラント、

トランスミッション、サブ・ステーション、配電に関しては PSN案件である」旨

規定されている。大統領令 2016年第 4号は、大統領令 2017年 14号として改正さ

れており、35GWプログラムとして広く知られている。

b) CMEA 省令 2017年第 5号

優先案件の加速化を規定する同省令において、18地域のガス火力発電所(Riau,

Bangka Belitung Island, Banten, West Java, Central Java, East Java, Central

Kalimantan, East Kalimantan, North Kalimantan, Central Sulawesi, South

Page 19: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-6

Sulawesi, Southeast Sulawesi, West Nusa Tenggara (NTB), East Nusa Tenggara

(NTT), Maluku, North Maluku, Papua, and West Papua)が優先案件に指定されて

いる(セクション 22、Appendix)。しかし、特定の発電所は本省令にて指定され

ておらず確認を要する。

以上より、LDPP事業の対象候補サイトは PSNおよび優先案件リストと整合性がとれ

ているものの、LNG配送であるミッドストリーム・インフラ整備事業についても同リス

トのスコープに含まれるか否かは明確にする必要がある。

3.2 法規制分析

3.2.1 天然ガス価格に関する規制

発電所向けの天然ガス価格に関しては、MEMR 省令 2017 年第 11号、同 2017年第 45

号(2017 年 58号および 2019年 14号にて改正)が発行されている。これらの省令は 1)

国産の天然ガス利用促進、2)ウェルヘッド発電所整備のインセンティブ付け、3)発電

コストの低減を目的としている。

本規制の下、政府は天然ガスの Freight on Board (FOB) 時点での上限価格を ICP

(Indonesia Crude Oil)価格の 11.5%とし、プラントゲートでの受渡価格上限を ICP

の 14.5%とした。下図に示す通り、FOB価格は LNG船/タンカーまでの価格(生産および

輸送)を含み、プラントゲート価格はミッドストリーム・インフラのコストを含む。

本規制のフレームワークでは、国が掲げる「東部インドネシアへ適正価格でアクセス

しやすい、公正なエネルギーの供給の実現」という政策目標を阻む可能性がある。

下図に示す通り、ミッドストリーム・インフラのパターンは多様であり、供給対象サ

イトの特徴に大きく左右される。特に東部インドネシアは西部と比較し異なるレベルの

困難性・課題(サイトの電力需要規模、ガス埋蔵・生産地からの供給ルートの関係など)

を有し、インフラ整備コストが増大する可能性を含む。 これらより、ICP価格の 14.5%

という一律上限を設定することは、東部インドネシアにおける LNG発電普及・促進の

実現を困難なものとしている。

各関係機関へのインタビューを通じ、多くの関係者が本価格規制は東部インドネシア

の現状にとって必ずしも適正ではないと思科していること、またガス価格にかかる新省

令の起案を MEMRが検討していることを確認した。

Page 20: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-7

図 3.3 MEMR省令によるガス価格規制

出典:MEMR省令 2017年第 11号、2017年 45号(2017 年第 58号、

2019年第 14号にて改正)に基づきコンサルタントチーム作成

3.2.2 事業スキーム検討フローおよび関連法規制

事業スキームは複数の観点から選定される。まず経済社会分析を実施する。事業が

国全体にもたらす社会的便益と社会的費用を計測し、社会全体として純便益(経済的

内部収益率が社会的割引率より高い、Economic NPV が正の値)を生み出すと判断され

る場合は事業への投資が有効とみなされる。その場合、次は財務的評価を行う。財務

費用便益分析の結果、財務的内部収益率(FIRR)が十分高く、何らかの政府支援や政府

保証を必要としない場合は B-to-Bスキームで実施することが可能である。

事業の EIRRが高くとも B-to-Bでは事業が成り立たないと判断される場合、PPP スキ

ームによる実施が検討される。これは、事業を公共事業として実施した場合と比較し

PPP の方が公共支出が低い場合(バリュー・フォー・マネー:VFM が認められる場合)

である。PPP スキームでは、事業の性質や財務収益性の見通しにより、VGF(ヴァイア

ビリティ・ギャップ・ファンディング)を利用した user pay スキームや、AP(アベイ

ラビリティ・ペイメント)スキームの検討がなされる。事業スキーム検討フレームワー

クのイメージは下図の通り。

Page 21: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-8

図 3.4 事業スキーム検討フレームワーク

出典:コンサルタントチーム

(1) B-to-Bスキームにかかる法規制

B-to-B 事業にかかる関連法規制は下記のようなものがある。

(a) ガス配送、貯蔵、再ガス化

MEMR省令 2018年第 4号では、ガス事業活動は民間事業体、国営企業により実施

することが可能である。これは、パイプライン、ガス貯蔵、配送事業を含む。

(b) 発電

MEMR省令 2017年第 10号により PLN は PPA(電力購買契約)の形で民間事業体

より電力を購入できる。

MEMR省令 2016年第 38号により遠隔地域、低開発地域、国境エリア、人口規模

の小さい諸島への電化を促進するために発電、配電事業への民間参入を許可する。

前述のとおり B-to-B スキームで事業が実施される場合は政府支援や政府保証を受け

ることが出来ない(財務省令 2019年第 135号により政府保証の申請には入札実施が

求められる)。しかし、もし事業が政府よりダイレクト・アサイメントを通じて実施

された場合は、一定の政府保証が適用される可能性がある。

以上より、法規制の観点からは B-to-B によるミッドストリーム・インフラ事業及び

発電事業の実施が可能である。

Page 22: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-9

(2) アベイラビリティ・ペイメントにかかる法規制

アベイラビリティ・ペイメントスキームにかかる関連法規制を下記に示す。政府保証

については、財務省令 2019年第 135号および 2018年第 101号に法的根拠がある。

(a) 配送、貯蓄および再ガス化

大統領令 2015年第 38号は輸送、石油、天然ガス、再生可能エネルギーを含む

インフラ整備を PPPスキームにより実施することが可能である旨規定する。LNGの

配送、貯蔵、再ガス化はこれらに含まれる。

(b) 発電

上記同様に、大統領令 2015年第 38号にて発電事業は PPPにて実施可能である旨

規定されているため、独立発電事業者(IPP)として発電所への投資、運営が可能

である。PPPスキーム下の IPP事例として代表的なものにセントラルジャワ石炭火

力発電所プロジェクトが挙げられる。中部ジャワ州バタン県において、出力計

2,000MW(1,000MW×2 基)の超々臨界圧石炭火力発電所が建設中であり、2020 年の

操業開始を見込む。

ミッドストリーム・インフラや発電部分の事業に PPP APスキームを適用することは

法的に可能であることが確認されたものの、現時点において LNGの配送事業を APスキ

ームで実施した実例はない。また、ミッドストリーム・インフラ事業の政府契約機関(GCA)

はどこが担うのか、今後確認が必要である。

PPP 法制度枠組みの詳細は別添 3-1を参照されたい。

3.2.3 許認可にかかる法規制分析

LDPP 事業には少なくとも 4つの主要な許認可が必要であり、それらは 1)用地認可、

2)環境許可、3)建設許可、4)操業/運営許可である。これらの許認可の発行は、本事業

が海洋空間計画(海上施設部分)および空間計画(陸上施設部分)に掲載されているこ

とが前提である。これら許認可制度は、インドネシア政府が現在策定を進めているオム

ニバス法(税制や許認可制度など投資関連の法律を一つにまとめたもの)により、今後

影響を受ける可能性がある。

本調査では空間計画、用地認可、環境許可に対しより焦点を置き(図 3.5)、現時点

でのファクト・ファインディング状況を記載する。事業スコープ・事業スキームがより

明確になれば、エネルギー鉱物資源省(MEMR)、運輸省(MOT)、環境林業省(KLHK)

および国営企業(プルタミナ、プルタガス)などの関連機関との協議、情報収集が望ま

れる。

Page 23: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-10

図 3.5 事業に必要な許認可概要

出典:コンサルタントチーム

LNG 配送というミッドストリーム・インフラの特徴から陸上および海上の用地が考え

られるため、許認可取得プロセスの整理も両パターンを念頭に行っている。現時点で

本事業に必要と考えられる許認可および法的根拠を下図に示す。

図 3.6 LDPP事業関連許認可の概要

出典:コンサルタントチーム

Page 24: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-11

第一のステップとして、本事業が海洋空間計画もしくは大統領令に掲載される必要が

ある。これは用地認可、環境許可取得に向けた前提条件となる。各許認可については

次セクションで述べる。

(1) 空間計画

(a) RTRL (海洋空間計画)

本事業が PSN(国家戦略的インフラ案件)ではない場合、海洋空間計画(RTRL)

にかかる政令 2019年第 32号および沿岸域・小島管理にかかる大臣規則 2016 年

第 23 号に基づき、海上用地認可を取得するには、プロジェクトが国レベルの海洋

空間計画、もしくは県レベルの RZWP3K(沿岸域・小島ゾーニング計画)に掲載さ

れている必要がある。

LDPP事業が LNGの配送事業(ミッドストリームのみ)とみなされる場合は国

レベルの海洋空間計画(PP(政令)2019年 32号)や沿岸域・小島ゾーニング計画

(Perda (地方令)の形式で規定される)には掲載されていない。一方で、ダウンス

トリームの発電事業までが事業スコープであり、LNG 配送(ミッドストリーム)が

事業全体の一部であると考えた場合は、大統領令 2018 年 56号に基づき PSNと見な

され、同時に既存 RTRL(政令 2019年第 32号 Appendix 9)にも既に掲載されている、

と見なされる可能性がある。

次項ではより詳細な海洋空間計画の階層構造および、海上用地認可への利用、

LDPP 事業に適用される可能性のあるシナリオについて述べる。

Page 25: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-12

図 3.7 海洋空間計画の階層構造

出典:沿岸域・小島の管理に関する法律 2007年第 27号(2014年 1号にて改正)、

海洋空間計画にかかる政令 2019 年第 32号、沿岸域・小島ゾーニング計画

に関する地方令 2016年第 23号を基にコンサルタントチーム作成

上図に示す通り、海洋空間計画は海域ゾーニング計画(RZKL)、沿岸域・小島

ゾーニング計画(RZWP3K)策定時のガイドラインとして機能する。海上用地認可の

取得には LDPP事業の施設位置、事業のステータス(PSNか否か)により、事業の

掲載が必要な空間計画は異なる。下図に詳細を示す。

Page 26: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-13

図 3.8 海洋空間計画の利用とその海上用地認可

出典:法律 2015年第 23号、海洋空間計画に関する法令 2019年第 32号、沿岸

域・小島の管理に関する省令 Permen KP 2016年第 23号の分析を元にコン

サルタントチームが作成

法律 2015年第 15号 27項によると、岸から 0-12 海里までの地域は、州政府の管轄で

ある。このため、岸から 12海里以上の地域は、海洋水産省の管轄と読み取れる。上図

のとおり、LDPP事業は地域により、2つの可能なシナリオが考えられる。基本シナリオ

として、本レポートでは大統領令 2018 年第 56号に基づき、LDPPが PSNに位置付けら

れると想定する。1つ目のシナリオとして、LDPP 事業が岸より 0-12 海里以内に位置

する場合、海洋水産省の推奨に基づき、各州知事から 7つの異なる海上用地認可を取得

する必要がある。2つ目のシナリオとして、事業が岸より 12海里以上の場所に位置し、

1つの統合した事業として扱われれば、海洋水産省が発行する1つの海上用地認可で

実施可能となる。どちらの場合でも、海洋空間計画ではなく、大統領令 2018年第 56号

に基づき、事業が PSNとして認識されなくてはならない。政令(PP)2019年第 32号の 122

項に基づき、事業が海洋空間計画に記載されることが理想であるが、現在の想定では、

事業が大統領令で PSNと認定され、政府が裁量権を発揮し許可を付与することとなる。

事業はその後、5年毎に策定される、次の海洋空間計画に記載されることとなる。

結論として、LPDD事業は既存の海洋空間計画と沿岸域・小島ゾーニング計画に載っ

ていない。しかしながら、事業が発電に不可欠な LNG 配送事業として、発電事業と一体

の事業と認定されれば、事業は大統領令 2018 年第 56号の PSN、または政令(PP) 2019

Page 27: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-14

年第 32 号に基づき、海上用地認可を取得する。本項目については、更に経済担当調整

省及び海洋担当調整省に確認する必要である。また、許認可に関連し、事業実施場所の

確定も必要となる。

b) RTRW(土地空間計画)

空間計画に関する Law 26/2007と PP 15/2010によると、事業は国家空間計画

(National RTRW)、州空間計画(Provincial RTRW)、県空間計画(Regency RTRW)

に含まれる必要がある。事業が陸上に位置する場合、まず概要が国家空間計画に

載せられる。事業の詳細は、島空間計画(Island RTR)及び国家戦略地域 9の RTR

に記載される。更に、州空間計画に記載された後、最後に県/市政府の空間計画に

載せられる。この県/市政府の空間計画は、詳細空間計画(RDTR)、県/市の戦略

地域空間計画、農業地域空間計画(県レベル)、市域空間計画から構成される。

空間計画の階層について、以下の図を参照されたい。

図 3.9 インドネシアの空間計画の階層

出典:法 2017 年第 26号

9 国家戦略地域とは、国の主権、防衛・安全、経済、社会、文化、環境、世界遺産等に関連し、優先して管理される地域とされている。(Government Regulation No. 15/2010)

Page 28: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-15

用地確定(Penetapan Lokasi)と用地認可(Izin lokasi)を得るためには、

これら空間計画に記載される必要があり、LDPP事業が国、省、県、及び市の空間

計画として認識される必要がある。しかしながら、LDPPの事業地は 7省に拡散し

ており、促進する法令等が無い場合、各空間計画への登録はチャレンジングな内容

である。

(2) 用地認可

a) 海上の用地認可 (Marine Location Permit)

沿岸域・小島の海上用地認可に関する海洋水産相令(PMKP)2019年第 24号によ

ると、海洋部の一部を 30日間以上利用する事業は、海上の用地認可(Izin Lokasi

Perairan)を取得する必要がある。

海上の用地認可は、ゾーニング計画に従って供与される。この条件により、事業

が海洋空間計画へ載せられることが必要である。

用地認可に関し、海洋空間計画とは別に、事業用地が保全地域の中核地域と接触

することが禁止されている。中核地域は一般的に a) 絶滅危惧種の居住区、b)エコ

システム保全必須、c) 教育と研究のための地域、等となっている。海上用地認可

の取得には、約 20営業日必要とされている。また、海上用地認可は海上管理許可

の元となっている。管理許可は活動内容によって、関連セクターの省庁(エネルギ

ー・鉱物資源省や運輸省等)が管轄する。このため、船舶の運航を管理する、運輸

省の管轄となる。

軍の地域・訓練地域の埋め立てまたは通行を行う場合、海上用地認可と海上管理

許可に加え、更なる許可が必要となる。これに関し、海洋水産省より、事業施設位

置が適正かどうかの確認をインドネシア防衛省にするべきとの助言を受けている。

結論として、LDPP事業で 30日以上用いられる HUB、FPP、FSRU、 Jetty等の

海上施設について、海上用地認可の取得が必要である。海上管理許可に関しては、

LNG の運送を目的とするため、エネルギー・鉱物資源省と協議が必要である。また

一定の条件(埋め立て、軍用地の通行等)についても確認が必要である。

b) 陸上施設の用地認可(Land Location Permit)

本事業は公共インフラ事業であるため、(公共インフラ事業の土地取得に関する

法律 2012年第 2号に基づき)公的機関、または(国家土地庁令 2019 年第 17号に

基づき)事業主体が、公共インフラ事業のための土地を取得する。

公的機関 10の土地取得は、法令 2012年第 2号により、土地決定(Location

Determination)となる。土地決定は、空間計画(RTRW)、社会経済状況、環境、

10 法令2012年第2号に基づく公的機関とは、国家機関、省庁、省庁以外の政府機関、省政府、市、国の規定したサービスを行う国営企業としている。

Page 29: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-16

調達、所有権、土地利用といった側面を考慮のうえ発行される。土地決定のレター

は、州知事、市長といった地方政府の長が発行する。資金源は、国家予算(APBN)

または地方予算(APBD)である。

本レポートで説明される土地の用地認可(Land Location Permit)の手続きは、

土地の許可に関する最新の国家土地庁令 2019 年第 17号に規定されている。この

法令は(公共インフラに限らず)投資と事業を実施する事業主体 11の用地認可の

ガイドラインとして発行されている。用地認可は発行から 3年間有効であり、必要

に応じ延長される。

用地認可を取得するためには、まず事業主体は OSS(オンライン・シングル・

サブミッション)のウェブサイトから申請する。OSS が発行する用地認可は、「コ

ミットメントを伴わない用地認可」と、「コミットメントを伴う用地認可」の 2種

類がある。しかしながら、OSS システムは用地認可発行のために新しく創設されて

おり、関連機関(国家土地庁等)への確認が必要である。

土地が事業主体により取得され、国家土地庁令 2019年第 17号に記載された条件

を満足する場合、OSSは「コミットメントを伴わない用地認可」を発行する。一方、

事業主体が未だ土地を取得していない場合、「コミットメントを伴う用地認可」を

発行する。各タイプはそれぞれ手続きにわずかな違いがあり、それを下図に示す。

【コミットメントを伴わない用地認可】

OSSの「コミットメントを伴わない用地認可」発行に伴い、土地局は 10日以内

に用地の技術的評価を実施する。評価の後、用地認可が認められ、事業主体が土地

利用の権利を持つ。

【コミットメントを伴う用地認可】

OSS の「コミットメントを伴う用地認可」発行に伴い、事業主体は用地取得の

遂行を声明書(Statement Letter)を発行する。その後、OSS は「コミットメント

を伴う用地認可」を発行する。事業主体は国家土地庁令 2019年第 17号に基づき

土地の技術的評価申請 12を認可発行から 10日以内に提出する。提出できない場合、

用地認可は否認される。土地の技術的評価申請の提出後、土地局が 10日以内に

用地の技術的評価を実施する。この評価結果は、地方自治体が用地認可の約束を

承認する元資料となる。もし土地局または地方政府が土地の技術的評価や承認を

規定日数以内に発行しない場合、用地認可が供与されたこととなり、事業主体は

土地を利用する権利を持つ。しかしながら、土地局または地方政府が技術的評価と

11 国家土地庁令2019年第17号の事業主体の定義は、株式会社(Perseroan Terbatas)、一般会社(Perusahaan umum)、地域一般会社(Perusahaan Umum Daerah)、国営法的組織(Badan hukum lainnya yang dimiliki oleh negara)、公共サービス機関(Badan Layanan Umum)等である。 12 1) 地域をカバーする地図、2) 事業活動計画、3) 土地に関する申請書、4) 事業番号Nomor Induk Berusaha (NIB).

Page 30: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-17

コミットメント承認の申請を退けた場合、用地認可は否認される。

図 3.10 投資や事業実施を望む事業主体の用地認可取得の手続き

出典:国家土地庁令 2019年第 17号

結論として、LDPP 事業は一般的ターミナル、特殊ターミナル、陸上発電施設等の用

地認可と用地認可の取得が必要である。LDPP事業の対象地域が 7省に広がることから、

この許認可取得は長い時間と作業が必要である。しかしながら、LDPP が国家戦略事業

に認定された場合、必要時間が短縮できると期待されるため、エネルギー・鉱物資源省

や経済担当調整省との詳細な協議が必要である。

(3) 環境許可

事業が環境許可を取得するためには、環境への影響度により、環境影響評価(AMDAL)、

環境管理・モニタリング効果(UKL-UPL)、または環境管理に関する声明書(SPPL)を

得る必要がある。AMDAL、UKL-UPL、SPPLに関する申請方法を下図に示す。

Page 31: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-18

図 3.11 環境許可を得るための必要書類

出典:環境保護と管理に関する法律 2009年第 32号、環境許可に関する

政令 2012年第 27号を元にコンサルタントチームが作成

AMDAL が適用される事業活動の種類を規定する環境・林業大臣令(Permen LHK)2012

年第 5号によると、事業の種類とインフラの規模から、LDPP事業実施には AMDALが

必要となる可能性が非常に高い。LDPP 事業は、対象地域が広く(7 省を対象とする)、

いくつかの活動の実施が必要な複合事業と定義できる。事業の施設規模から見ても、

Jetty の建設(6,000㎡以上)、洋上施設(50,000 DWT 以上)、ガスパイプライン(100km

以上)、LNG再ガス化ターミナル(LNG量 550 MMSCFD以上)については、AMDALの取得

が必要である。

AMDALを取得するためには、まず事業の洋上施設が海洋空間計画(RTRLまたは RZWP3K)、

陸上施設が土地空間計画(RTRW 等)に載る必要がある。しかしながら、事業は PSNの

一部であることから、関連する省庁(例として、洋上:海洋水産省、陸上:エネルギー・

鉱物資源省、運輸省、国家土地庁)が、環境林業省や関連する自治体に AMDALの実施と

環境許可の発行を推薦することができる。

どの機関(環境林業省、地方環境機関等)が LDPP事業の AMDALと環境許可を発行す

ることが適切かといった判断は、環境林業省と協議して決定されるべきである。

AMDAL 取得の手続きと期間を下図に示す。簡潔に言うと、AMDAL取得の期間は最低で

も営業日 155日間、合計 7.6ヶ月かかる。法令には各段階の必要期間が記載されておら

ず、書類の整備状況と事業の複雑性により、期間が変動する。

Page 32: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-19

図 3.12 AMDALと環境許可発行の手続きと期間

注記:SAEC:AMDAL評価委員会事務局(環境機関等)

AEC:AMDAL評価委員会(環境機関、技術組織、公共の代表者、関連する専門家等)

TT:技術チーム(独立した専門家)

*) 環境林業省との協議を含む

**) イニシエーターは 3年以内に SAEC に修正済 TOR を再提出できる

出典:環境保護と管理に関する法律 2009年第 32号、環境許可に関する政令 2012 年

第 27号を基にコンサルタントチームが作成

AMDALの準備に関し、環境インパクトに関する主要な懸念点の把握が重要である。LDPP

事業の潜在的な懸念として、a) 保全地域通過、b)危険な廃棄物や品物の取り扱い、c)

海上・陸上施設の漁業への影響(FPP、FSRU、Jetty等)、d) LNG ミルクラン配送からの

排出物、等が挙げられる。危険物に関し、本事業は海洋への排水、及び廃棄物の貯蔵が

挙げられ、追加的な許可が必要と思われる。潜在的なインパクトとその対策について、

一般や AMDAL委員会の意見を受け、許可供与の可否が決定される。

上述のとおり、LDPP 事業の環境許可取得のためには AMDAL の取得が必要と考えられ

る。事業が広範囲(7州)で実施されるため、複数の AMDALが必要となる可能性もある

(省毎に取得)。

しかしながら、PLTGU Java-1(配送ライン、FSRU、Jetty、パイプラインを含み1つ

の AMDAL)と同じく、 LDPP事業も1つの AMDALで良いと判断される可能性もある。

環境に関する懸念点に配慮しつつ、環境許可取得のため、環境林業省と協議を続ける

必要がある。

Page 33: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-20

(4) 建設許可と事業運営許可

a) 建設に関する許可

建設許可と事業運営許可は、業務内容と施設の種類に基づき、海上と陸上で異な

る。海上には HUB、FSRU、FPP、ガスパイプラインといった設備があり、陸上は Jetty

と発電施設が存在する。

海上施設については、船舶と海洋建築物の建設に関する運輸省令 2016 年第 129

号に基づき、海上施設の建設または移動の許可、水面下のパイプライン敷設許可の

取得が必要である。しかしながら、本法令は海上発電施設や FSRUといった海上浮

遊施設の十分な説明が無い。2016年以降、政府は海上施設の建設と設置に関する

新政令発行を検討している。この法令は、海上施設・施設の建設、交換、取り壊し、

機能移行を規定すると想定されている。海洋水産省のウェブサイトで閲覧できる

法令案は、運輸省令 2016年第 129号と異なり、石油やガス、電気に関連する可動

式の発電所、パイプライン、海上施設を規定している。これらの施設を建設するに

は、空間計画、保全地域、自然災害の歴史(地震が発生している)、原住民の有無、

軍用地等の施設との整合性が求められている。法令案は、必要な許可として、担当

省庁から環境許可と事業許可を取得することを求めている。しかしながら、この

法令は未だ発行されていないため、事前情報としてとらえ、実施に向けては更なる

確認が必要である。

更に、陸上の発電施設は、大統領令 2016年第 4号と MEMR省令 35/2014に基づき、

用地認可、環境許可、建築許可(Izin Mendirikan Bangunan)または建設許可の

取得が必要である。

b) 事業運営許可

HUB、FSRU、FPP、ガスパイプラインを含むミッドストリーム事業を運営するため、

以下の許可取得が必要と考えられる。

・まず MEMRに関し、石油とガスの事業関連し、4つの事業権が有る。法律 2001

年第 22号と MEMR省令 2018年第 52号(2017 年第 29 号を改正)によると、

1)精製権(Izin Pengolahan)、2)貯蔵権(Izin Penyimpanan)、3)輸送権(Izin

Pengangkutan)、4)通商権(Izin Niaga)から成る。LDPPにおいて、貯蔵権と

輸送権は取得できる。その他、海上発電施設について、機能は陸上の発電施設

と変わらないため、本レポートでは発電事業権(Izin Usaha Penyediaan Listrik)

が必要と想定する。

・次に運輸省に関し、インドネシア国内向け事業に携わる船舶は、インドネシア

国に登録することとなる。運輸省令 2019年第 46号(2018年第 2号を改正)の

規定に沿い、洋上発電施設、水中作業、Jetty建設船舶に対し、外国籍の船舶

が用いられる可能性がある。国家運輸会社の要請により、インドネシアの会社

Page 34: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-21

を優先する調達が行われた後で許認可が授与される。

Jetty等の陸上施設については、運輸省令 2017年第 20号に従い、特殊ターミナ

ルの許可が必要である。特殊ターミナルは、船舶の接岸と資機材運搬支援を目的に

建設され、既存の港湾の外に、鉱物やエネルギー事業のために建設される。特殊

ターミナルは、運輸省大臣にあて、海運総局長から 19日以内に提出される。

上記の建設許可と事業運営許可については、更に担当省庁(エネルギー・鉱物

資源省、運輸省等)と国営企業(プルタミナまたは Pertagas)と議論のうえで確

認を進める必要がある。

3.3 需要分析

東部インドネシアの需要を把握するため、需要カテゴリーを想定した。各対象地域・

発電所の需要量が a、b、c、d、eの 5つのカテゴリーに分類された。各カテゴリーの

細かい定義は下図に記載している。

図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

出典:コンサルタントチーム

(1) 需要計算

・需要を計算するため、PLNは各地域の売電記録を参照する(カテゴリーa に対応)。

また多くの変数を反映させており、人口予測、経済発展度(カテゴリーb,c,dに

対応)、実施される国家プログラム、商業利用発展度(カテゴリーeに対応)も

含まれている。

Page 35: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

3-22

・PUPTL2020の予想需要量は、2019 年版に記載の数値より小さくなる見込みである。

需要の低減は、発電容量と稼働率(CF)に影響することから、PLNは本事業の計画

に 3月頃発行される RUPTL2020を参照する様勧めている。

(2) LNG需要予測

各発電所の予想 LNG需要量を RUPTL2019で確認した。発電所毎の数値を下表に示す。

表 3.2 RUPTL2019 に基づく各発電所の予測 LNG需要量

Not included in PMT List

No 発電所

RUPTL PMT

2019 - 2023 2023 – 2028

BBTUD

1 PLTMG Ambon Peaker 1.71 - 2.28 1.71 4.2

2 PLTMG Langgur 1.08 - 1.89 1.27 - 1.44 0.33

3 PLTMG Bula 0 - 0.45 0.48 - 0.64 0.5

4 PLTMG Namlea 0.47 - 1.01 0.46 - 1 0.9

5 PLTMG Saumlaki 0.4 - 0.69 0.49 - 0.9 0.8

6 PLTMG Dobo 0.46 - 0.84 0.52 - 0.89 0.9

7 PLTMG Seram 0.82 - 1.2 0.6 - 0.83 1.2

8 PLTMG Seram 2 0 - 0.95 0.38 - 0.57 N/A

9 PLTG/MG Ambon 2 0 - 3.66 2.37 6.6

10 MPP Ternate 2.75 - 3.68 2.24 - 3.55 3.3

11 PLTG/MG Ternate 2 0.47 - 1.71 1.71 2.2

12 PLTG/MG Tobelo 0.38 - 0.47 0.38 - 0.47 0.38

13 PLTMG Bacan 0.27 - 0.96 0.35 - 0.71 0.4

14 PLTMG Sanana 0.47 - 0.62 0.65 - 0.83 0.7

15 PLTMG Morotai 0.43 - 0.73 0.83 - 1.31 0.9

16 PLTMG Tobelo 2 0.1 - 1.63 0.23 - 2.91 0.2

17 MPP Timika 0.95 0.95 0.9

18 PLTMG Merauke 1.39 - 1.88 1.25 - 1.96 1.5

19 PLTMG Serui 1 0.78 - 1.01 0.77 - 0.94 0.8

20 PLTG/MG Timika 2 2.87 - 4.09 3.32 - 4.35 3.3

21 PLTMG Serui 2 0 0.28 - 0.47 N/A

22 PLTMG Timika 3 0 0.95 - 1.9 N/A

23 PLTMG Merauke 3 0 0.76 - 1.52 N/A

24 PLTG/MG Merauke 2 0.76 - 1.52 1.52 1.5

25 MPP Fak-fak 0 - 0.74 0.55 - 0.73 0.7

26 PLTMG Fak-fak 0 - 0.38 0.38 - 0.57 N/A

27 PLTMG Kaimana 0 - 0.67 0.73 - 1 0.8

28 MPP Sultra (Kendari) 3.28 1.64 - 3.28 1.7

29 MPP Sulselbar 0 - 5.9 3.93 - 5.9 3.7

30 PLTG/MG/GU Makassar 0 - 7.42 7.13 - 7.29 7.8

31 PLTGU Kalsel 1 0 0 - 4.92 7.8

Page 36: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

4-1

4. 社会経済分析

本章では事業の社会・経済性について分析した。事業を実施することにより代替発電

コストの回避および温室効果ガスの排出削減が期待される。社会費用便益分析によると、

事業の社会的純現在価値(ENPV)は正の値、社会的内部収益率(EIRR)は割引率を上回

る値であった。またエネルギー安全保障の強化などの定性的な便益も期待され、事業

投資が社会全体にとって効率的であることを示している。

4.1 社会経済分析概要

経済社会分析は事業が国全体にもたらす社会的な費用と便益を計測し、事業投資への

妥当性を評価する。標準的な社会費用便益分析手法に基づき、本調査では事業を実施し

た場合と事業を実施しない場合の費用と便益を比較し、経済的内部収益率(EIRR)を

算出する。EIRRが社会的割引率(事業に求める社会的リターン)より高い場合は投資

効率性があると判断できる。社会的割引率はインドネシアの公共投資事業分析にて一般

的に用いられる 10%とし、経済的純現在価値(ENPV)も算出する。ENPVが正の場合は

社会的便益が社会的費用を上回ることを意味する。

4.2 前提条件

(1) 経済費用

分析期間を 23年(建設 3年、運営 20年)とし、PMT による提案対象サイトや費用

データに基づき分析する。財務費用は経済費用に換算され、有形支出(会計上認識で

きる資産)と無形支出(外部性など、市場を介さずに国富の減少となる)に大別される。

移転支出(税、補助金)は富の移動であり国富全体として増減はないので計算より除外

する。また金利(貨幣の時間価値)は割引率により代理されているため勘案しない。

費用はベース年の固定価格で表し、物価上昇の影響は除外する。標準変換係数 0.913を

内貨に適用するが、CAPEXの内貨外貨内訳が未確定のため、現時点では O&M費に適用し

ている。

(2) 経済便益

定量化した経済便益は事業実施により 1)回避される発電コスト、2)削減される温室

効果ガスである。

a) 回避される発電コスト

本事業を実施することにより、代替手法(ディーゼル、石炭発電)コストは回避

される。ADB14レポートを参照に、ここでは各燃料ごとの回避コスト単価に年間発電

量を乗じることにより、年間当たりの便益を算出した(下表)。

13 https://www.oecd.org/derec/adb/47145358.pdf pp50 14 ADB 2015 “Unlocking Indonesia’s Geothermal Potential” PP26-27

Page 37: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

4-2

表 4.1 回避発電コスト

代替発電燃料 年間発電量 回避コスト

(Cents/kwh)

年間回避コスト

(USD 百万)

ディーゼル 2,515,342 22.73 572

出典:コンサルタントチーム

b) 温室効果ガス削減

ディーゼル燃料と比較し、LNG発電の場合は二酸化炭素含む温室効果ガスの排出

量が少なく、その削減分は環境便益と見なすことができる。ICPP (2018)15によると

LNG の kWhあたり二酸化炭素排出量は 490 gCO2eq/kWh (中央値)であり、ディーゼ

ルより 110 gCO2eq/kWh少ないと推計されている。二酸化炭素の社会的費用(1ト

ン余計に排出した際に社会が被る損失額)を、一般的に許容される 30 USD/tCO2 16

とすると、年間あたり USD 8.3 百万の社会的費用削減便益が見込まれる。

表 4.2 二酸化炭素排出削減

代替発電燃料 単位排出量

(gCO2eq/kWh)

単位回避排出量

(gCO2eq/kWh)

年間回避排

出量(tCO2)

年間回避コスト

(USD 百万)

ディーゼル 17 600 110 276,688 8.3

出典:コンサルタントチーム

4.3 経済社会分析結果

4.3.1 経済社会分析結果

社会的費用便益分析の結果を下表に示す。社会的割引率 10%を用いると、便益の現在

価値は USD 3,710 百万、費用の現在価値は USD 2,979 百万であり ENPVは USD 731 百

万と正の値となった。EIRRは 16.8%と社会的割率より高くなった。これらの結果は本事

業が社会的に純便益をもたらし投資価値があることを示す。

表 4.3 社会的費用便益分析結果(ベースケース)

Economic NPV Economic IRR

USD 731 百万 16.8 %

出典:コンサルタントチーム

15 https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/02/ipcc_wg3_ar5_annex-iii.pdf 16 World Bank (2015) “Guidelines for Economic Analysis of Power Sector Projects” P40 17 Referred to latest data available: Intergovernmental Panel ICPP 2012

Page 38: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

4-3

4.3.2 感度分析

経済費用は建設の遅れなどが原因で増加する可能性があり、便益は電力需要(発電量)

低迷により減少する可能性がある。経済費用および便益が変動した場合の ENPV、EIRR

へのインパクトは下表の通り。費用便益のどちらか一方が 20%程度変動した場合でも

事業は正の NPV、10%以上の EIRRを示す。

これらの分析結果は暫定的であり、今後事業の候補対象サイトやコスト構造に更新が

見込まれる。よって分析結果も変更することを注記する。

表 4.4 感度分析(Economic NPV)

出典:コンサルタントチーム

表 4.5 感度分析(Economic IRR)

出典:コンサルタントチーム

4.4 定性的事業効果

4.4.1 貿易収支改善

上記経済便益(回避発電コスト)には石油(製品)輸入削減による貿易収支の改善が

含まれる。インドネシアは 2004年から石油の純輸入国であり、外貨流出(ひいては

自国通貨安をまねく可能性)の一要因となっていた。

ディーゼル燃料単価を 20.4 USD/MMBTUとすると、年間約 USD 450百万の削減が

見込まれる。

4.4.2 冷熱有効利用

セグメント Bにおけるディーゼル燃料からの LNG転換は漁業セクターの発展に寄与す

る可能性がある。LNGの再ガス化時に発生する冷熱は製氷や冷蔵施設に利用できる。

Economic NPV Benefit Increase /Decrease731 20% 10% 0% -10% -20%

-20% 2,069 1,698 1,327 956 585-10% 1,771 1,400 1,029 658 287

0% 1,473 1,102 731 360 -1110% 1,175 804 433 62 -30920% 877 506 135 -236 -607Co

st

Incr

ease

/Dec

reas

e

Economic IRR Benefit Increase /Decrease17% 20% 10% 0% -10% -20%

-20% 31.5% 28.0% 24.5% 20.8% 16.8%-10% 26.9% 23.7% 20.3% 16.8% 13.1%

0% 23.0% 20.0% 16.8% 13.5% 9.9%10% 19.7% 16.8% 13.8% 10.6% 7.0%20% 16.8% 14.1% 11.1% 7.9% 4.3%Co

st

Incr

ease

/Dec

reas

e

Page 39: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

4-4

図 4.1 冷熱利用イメージ

出典:コンサルタントチーム

冷熱の有効利用は単に氷の販売収入のみならず、氷を利用した漁業者が水産物を新鮮

に保つことで商品価値を高める可能性がある。また、冷蔵設備の不備で漁獲物が傷み、

漁業者の収入ロスが発生することを防ぐなどの波及効果が期待される。

4.4.3 近隣観光産業発展寄与の可能性

LNG がセグメント Bサイトの近隣観光産業にプラスの影響を与える可能性がある。

またインドネシアでは広く LPガスが調理に利用されているが、比較的単価が高い(23

USD/MMBTU)。仮に LNG VGLの形で調理ガスを導入した場合、単価は 19-20 USD/MMBTU程

度に抑えられると推計されている。LNG VGL は既にバリ、バンドンのホテルで活用事例

が存在する。これらのコスト削減は産業発展に寄与する潜在性を持つ。

Page 40: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

4-5

図 4.2 VGL 活用イメージ

出典:コンサルタントチーム

4.4.4 エネルギー安全保障の強化

国産 LNGを利用することで輸入石油への依存度を減らし、国家のエネルギー安全保障

を強化する効果がある。例えば、インドネシアでは 2017 年の石油ガス輸入額 USD 2.71

十億のうち、75%を中東諸国に依存している(下表)18。 このため輸入先の地政学ショッ

クや市場の不安定性、価格変動にさらされている。

表 4.6 石油ガス輸入元 (2017)

石油ガス 割合

UAE 32%

サウジアラビア 18%

アメリカ 13%

カタール 12%

イラン 8.2%

クェート 4.7%

その他 12.1%

出典: OEC

同様に、精製石油の輸入額は同年で USD 14.2 十億 19 原油輸入額は USD 7.44 十億.20

にのぼる(下表)。

18 https://oec.world/en/visualize/tree_map/hs92/import/idn/show/2711/2017/ 19 https://oec.world/en/visualize/tree_map/hs92/import/idn/show/2710/2017/ 20 https://oec.world/en/visualize/tree_map/hs92/import/idn/show/2709/2017/

Page 41: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

4-6

表 4.7 石油輸入元 (2017)

精製石油 割合 原油 割合

シンガポール 59% サウジアラビア 23%

マレーシア 18% ナイジェリア 18%

韓国 6.6% オーストラリア 14%

UAE 3.9% マレーシア 10%

カタール 2.7% アゼルバイジャン 6.2%

その他 9.8% その他 28.8%

出典: OEC

これらの輸入元は比較的分散されているものの、政治不安や自然災害といったショッ

クが発生した場合の影響は避けらない。日本の研究ではエネルギー安全保障の費用を

石油備蓄施設の建設・運営費用で代替し定量化する試みが見られる(JPY0.29/kWh)21が、

同手法はいまだ広く受容されていない。

以上の定量、定性分析より、LDPP事業は社会経済的に十分な便益をもたらすと考え

られる。

21 https://www.rite.or.jp/system/global-warming-ouyou/nipponbunseki/latestanalysiselectriccost/

Page 42: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

5-1

5. 財務収益性分析

MEMR から提供された設備情報、需要予測等を元に、キャッシュフロー分析を実施し

た。セグメント Bへの配送は、ISOタンクを用いる経済的なシステムを想定した。感度

分析の実施により、財務的収益性を確保し、かつ COE を低く抑えるためには、需要リス

クの管理が重要である。また場合により政府支援が期待されることが判明した。

LDPP 事業により LNGが配送される発電所は、MEMR から提供された情報に基づいて想

定した。発電所毎の施設概要、発電容量、稼働率(Capacity Factor)を下表に総括す

る。これら発電所は、規模と地域特性を考慮し、セグメント A 10カ所とセグメント B 13

カ所に分類した。キャッシュフロー分析では、LNG配送事業の HUBからまずセグメント

Aに配送し、その貯蔵タンクから ISOタンクへ充填することで、小規模な発電所の多い、

セグメント Bへも配送する想定としている。

表 5.1 各発電所の概要

場所 サイト セグ メント

A. 桟橋

B. 貯蔵 方式

C. リガス 設備

D. 陸上 接続

E. 発電所 接続

F. 発電所 型式

定格 出力 (MW)

COD 稼働率 (%)

1 Ambon Ambon Peaker A Jetty Ambon

MFPP Distribution

line

Distribution line

Gas Engine

30 2019 68

2 Ambon MFPP(as PLTG/ GU/MG ambon2)

A Distribution

line MFPP 50 2022 68

3 Temate MPP Temate A Jetty Temate

6K sRU on Jetty

Gas Pipeline Gas Pipeline

Gas Engine

30 - 53

4 Temate PLTMG Temate2 A Gas Pipeline Gas

Engine 20 2022 53

5 Makassar Makkasar MFPP A Jetty

Makassar MFPP

Distribution line

Gas Pipeline MFPP 50 80

6 Kalsel MFPP

(50MW,CF=80%) A

Jetty Kalsel

MFPP Distribution

line Distribution

line MFPP 50 80

7 Halmahera Buli bay

(for PT.Antem) A

Jetty Halmahera

6K sRU on Jetty

Gas Pipeline Gas Pipeline Gas

Engine 35

2023 -2025

60

8 Halmahera Weda bay A Jetty

Halmahera MFPP

Distribution line

Distribution line

MFPP 50 60

9 Timika Timika A Jetty MFPP Gas Pipeline

Gas Pipeline Gas

Engine 10 2019 45.8

10 Timika Timika 2 MFPP A Gas Pipeline MFPP 50 2019 49.3

11 Tobelo Tobelo B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 4.5 2019 65.2

12 Merauke Merauke B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 20 2019 72.6

13 Fak-Fak MPP Fak-Fak B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 4.5 2020 70

14 Bula Bula B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 3 2021 83

15 Bacan Bacan B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 2.3 2019 92

16 Sanana Sanana B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 4.5 2019 70

17 Morotai Morotai B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 5.3 2019 85.2

18 Kaimana Kaimana B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 6 2020 63.6

19 Langgur Langgur B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 10.5 2019 62.9

20 Namlea Namlea B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 10 2019 41.2

21 Saumlaki Saumlaki B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 4.5 2019 84.2

22 Dobo Dobo B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 6 2019 71.7

23 Seram Seram B ISO LNG Container Platform Gas Pipeline Gas Pipeline GSR 20 2019 28.5

出典:PMT提供のデータを元にコンサルタントチームが作成

Page 43: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

5-2

LDPP 事業のサービスと資金フローを下図に示す。LDPP 事業は「(1) LNG配送事業」、

「(2) サテライト施設の運営事業」、「(3) 発電事業」の 3つの事業から構成されている。

事業は、それぞれのサービス別、及び(2)と(3)は Segment毎に異なる事業者が事業実施

する想定であり、全部で 5つのキャッシュフローを作成した。それぞれのサービス費用

は、利用者から「配送費(Toll Fee)」、「サテライト費(Satellite Fee)」、「発電費(power

generation fee)」を徴収して実施する。LNGの費用は最終的な電気の購入者である PLN

が負担している。

図 5.1 事業のサービスとキャッシュフロー概要

出典:コンサルタントチーム

5.1 前提条件

(1) 基本的な前提条件

キャッシュフロー分析に用いた基本的な前提条件を下表に示す。

表 5.2 キャッシュフロー分析の前提条件

項目 前提条件

プロジェクト期間 23 年(建設 3年 + O&M 20年)

価格 2019年価格レベル

インフレ率 2.3%/年(IMF予測、USD)

インフレ率は販売価格とプロジェクトコストに付加

耐用年数 20 年

出典:コンサルタントチーム

(2) LNG価格

LNG はタングーガス田から供給される計画である。

LNG 価格は通常原油価格の影響を受け増減するが、計算では ICP (Indonesian Crude

Price)が 62.98 USD/barrelの場合を前提とした。また価格は事業期間を通じて変動せ

ず一定とした。

Toll fee (Use or Pay)

Toll + Satellite fee (Use or Pay)

Satellite terminalSatellite

terminalSatellite Terminal

Energy Conv.Energy

Conv.Satellite Energy Conv.

PLN (as

buyer)

LNG milk-run Electricity

LCE (Take or Pay)

Money flow (out)

Service flow

LNG Storage & regasification

Hub Function

LNG Dist. Function

Distribution SPC

LNG Supplier

LNG

Satellite terminalSatellite

terminalSatellite Terminal

Energy Conv.Energy

Conv.Satellite Energy Conv.

Electricity

LCE (Take or Pay)

Toll + Satellite fee

(Take or Pay)

LNG Storage & regasification

Toll + Satellite fee

(Take or Pay)

LNG (ISO Tank)

Segment A Segment A

Segment BSegment B

Satellite (A) Power Generation (A)

Satellite (B) Power Generation (B)

Page 44: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

5-3

(3) 需要予測

年間の LNG需要と消費量は、発電容量(MW)と稼働率(%)を乗じて求めた。キャッ

シュフロー分析の基本条件においては、23 の発電所が利用する合計約 23 million

mmbtu/yearの LNG需要量は、一定で変化しない条件とした。

図 5.2 事業の想定 LNG需要量

出典:コンサルタントチーム

(4) 財務状況

インタビュー結果および同国で実施された過去の事業経験より、財務費用はコンサル

タントにより下表のとおり想定された。

表 5.3 財務条件に関する前提条件

項目 前提条件

Equity : Debt Ratio 30% : 70%

Interest Rate of Debt 6.0% (in USD)

Up Front Fee 1.2%

Commitment Fee 1.2%

Repayment Period of Debt 18 years (including 3 years of grace period)

Repayment Method Principal and Interest Equal Payment

Dividend Policy Annual profit was disbursed as dividend without

retaining in the company

Value Added TAX (VAT)

VAT (10%) is imposed on the CAPEX. VAT is exempted

from OPEX as it is basically imposed on the final

consumer.

Corporate TAX 25%

出典:コンサルタントチーム

5.2 キャッシュフロー分析の結果

キャッシュフロー分析の結果、ディーゼル燃料による発電コストに比して LNG を使用

した場合には安価な発電コストが実現できる可能性が示された。

Page 45: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

6-1

6. ビジネススキームの選択肢

セグメント B(インドネシアの東部未開発地域)へ LNG を配送するには、ミッドスト

リーム施設への初期投資が必要である。施設の構成としては、HUB、S-LING(小型船配

送)、ISOタンク配送で構成される一連のシステムを提案する。このシステムが国へも

たらす社会的便益は大きく、電化率の上昇、Diesel-to-Gasのエネルギー転換、漁業へ

の冷熱システム供与、商業観光地域への LNG VGLサービス提供といった恩恵が見込まれ

る。しかしながら、初期投資が大きいため、財務的妥当性を確保するためには一定量

以上の LNG需要が必要である。業務実施のためには、「誰が LNG需要リスクを取るのか?」

という重要な質問への答えが求められている。

この観点から、3つの選択肢、1) PLN とプルタミナとの B-to-Bスキーム、2) 配送

HUB への PPP AP供与スキーム、3) 全てのミッドストリーム施設への PPP AP供与スキ

ームを提案する。ビジネススキームを決定し、事業を推進するため、政府間のワーキン

ググループにより、各選択肢のメリットとデメリットについての協議実施が望まれる。

6.1 セグメント B へ配送するためのミッドストリーム・インフラ施設

本事業の主目的は、セグメント B(インドネシアの東部未開発地域)への LNG 配送で

ある。技術的検討の結果、SLNGCの配送システムのみでは、本地域への配送が難しいこ

とが判明した。主な原因は、システム構築に必要となる Jetty施設の建設に多大な初期

投資が必要となるためである。更なる技術情報と協議により、ISOタンク配送システム

を含むことを提案する。下表に、アンボンと Timikaからの配送システム案を代表とし

て示す。

図 6.1 ミッドストリーム・インフラ施設

出典:インタビューと協議に基づきコンサルタントチームが作成

SLNGC Milk-run

Segment A1Ambon

Segment A2Timika

FS

FS

Fakfak

BulaSeram

Serui 1 Kaimana

Dobo

Langgur

Saumlaki

Merauke

LNGVGLLNG ISO Tank

LNGVGL

LNG ISO Tank

NamleaBacan

Segment A (e.g. Ambon & Timika) can serve as Filling Station (FS) for Segment B

LNG Distribution to the Sites of Segment B using ISO Tank on the Container Truck, Barge, or ContainerVessel

Segment B

Segment A

Small LNG Carrier

(SLNGC)LNG Carrier / Tanker

Hub(Storage & Regas,

power plant, loading station filling station)

Gas Field (Production

& Liquification)Tangguh

Page 46: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

6-2

基本的にミッドストリーム施設は次の 3項目で構成される。1) HUB、2) SLNGC 配送

システム、 3) ISOタンク配送システム。HUBと SLNGC 配送システムの実施により、

セグメント Aへ LNGが配送され、その主要な配送地域が、セグメント Bのフィリング

ステーション(FS)として機能する。ISO タンクは FSで LNGを充填され、コンテナト

ラック、バージ船、コンテナ船等を用いてセグメント Bへ配送される。これら配送手段

は地域特性により決定される。本システムの詳細とその社会的便益については、アンボ

ンを例に説明する。

便益1:ディーゼルや石炭から LNGへの燃料展開

デュアル・フュエルの発電設備燃料をディーゼルからガスに転換した場合、デュア

ル・フュエルの発電設備が起動時等にディーゼル・オイル等が必要な場合が多く、ガス

への燃料転換後もディーゼル・オイル関連設備の維持が必要となる。このため、LNG燃

料の発電設備導入に当っては、デュアル・フュエルでなく、ガス燃料専用の発電設備導

入が望まれる。

アンボンでは、PLTD FPPからのディーゼルを利用する PLTMGが建設中である。LDPP

では、海上の貯蔵、再ガス化、FPP(発電)機能を有する海上施設を提案している。こ

の想定では、既存の PLTD FPPが停止し、新規の PLTMG が LNGで運転される。また実施

が遅れている PLTU計画も LNG転換される。

その結果、国家政策である「Diesel to Gas」計画を推進することができる。また「Coal

to Gas」が行われることで、石炭火力発電削減にも貢献する。図 6.2にそのアイデアを

示す。

図 6.2 ディーゼル・石炭のガス転換による便益

出典:インタビューと協議に基づきコンサルタントチームが作成

PLTU Waai80 MW(Stop?)

Ambon Peaker PLTMG 30MW(Const.)

FPP Kaladeniz

PLTD60 MW

Supply gas

It is planned to be stopped due to high rental costs

Diesel to Gas Conversion

Coal to Gas Conversion

Onshore

Offshore

Supply Diesel

Example of LDPP Targeted Site in Ambon

By replacing PLTU Waai and FPP Kaladenis, the floating structure can be equippedwith storage, regasification,FPP and Filling Stationfunction.

Page 47: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

6-3

便益2:セグメント Aがセグメント Bのフィリングステーションとして機能し配送効

率が向上する

上記のアンボンに建設された施設(セグメント A)は、ナムレア(10MW)、バカン(10MW)、

ファクファク(10MW)、ブラ(10MW)、セラム(20MW)といったセグメント Bの地域へ

配送する場合、フィリングステーションとして機能する。

この場合、運送方法はバージ船またはコンテナ船である。またアンボン島内であれば

トラック輸送も考えられるが、今のところ PLNと詳細については議論できていない。

図 6.3 にシステムフローの概略を示す。

図 6.3 セグメント Aの施設をセグメント Bのフィリングステーションとして利用

出典:インタビューと協議に基づきコンサルタントチームが作成

便益 3:再ガス化施設から得られる冷熱利用による漁業振興

セグメント Bの各地域おいて、ISOタンクは再ガス化施設に接続され、ガス化された

後に発電のため PLTMGに送られる。この再ガス化の際に発生する冷熱は漁船洋上で使う

氷の製造、及び港の冷蔵施設において利用できるため、地域の漁業振興に貢献できる。

LNG Terminal in Segment A1: Ambon

Storage & Regasification ISO Tank Distribution Regasification & Energy Conversion

Modes of Transportation

LNG ISO Tank Trucks

LNG ISO Tank on Open Container Ship

LNG ISO Tank on BargeFS

3-in-1 FPP:1) Storage2) Regasification3) Power Plant

LNG ISO Tank

Segment B

B1. Namlea (10MW)

B2. Bacan (10 MW)

B3. Fak fak (10 MW)

B4. Bula (10 MW)

B5. Seram (20 MW)

Potential additional project sites as Segment B in the Ambon area can be added, to be served by LNG ISO Tank Truck (to be discussed with PLN)

Page 48: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

6-4

図 6.4 再ガス化施設の冷熱利用イメージ(製氷・冷蔵施設)

出典:インタビューと協議に基づきコンサルタントチームが作成

便益4:モデュラーPLTMG利用によるセグメント Bの需要リスク低減

発電施設の投資はミッドストリーム施設とは別である。特にセグメント Bの場合、PLN

が投資し、PLNの施設となること予想される。陸上の ISOタンクと再ガス化施設は、

発電容量が 1.5MW以下の「モデュラーPLTMG」に接続される。

このモデュラータイプは、実際の需要増加に合わせて増加させていくことができるた

め、需要リスクの低減に寄与することができる。

Page 49: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

6-5

図 6.5 需要リスクを低減できるモデュラーPLTMG

出典:インタビューと協議に基づきコンサルタントチームが作成

便益 5:パイロット事業として LPGを LNG VGLに転換し観光業振興に寄与

ガスエンジン排熱回収設備を導入することにより、新たな燃料を消費することなく、

冷水・温水等を周辺商業設備に供給可能となる。

また、ISOタンクは、LPGタンクと同じ機能を有する LNG VGL タンクに充填して利用

することができる。この LNG VGLタンクは付近の商業地域のホテルやレストランといっ

た施設に搬送され、より安価な調理燃料として活用される。

本技術は新しい物であるが、バンドン等の大都市で試験的に実施されている。

Diesel-to-Gas政策と並び、政府は LPG-to-Gas政策も推進している。主要な調理燃料

である LPGは中東地域からの輸入に依存しており、国家安全政策上、LPG-to-Gas 政策

はエネルギー源の多様化に資するためである。都市部においては都市ガス施設の構築が

求められているが、セグメント Bの様な地方部においては、LNG VGLを用いた政策推進

が解決策に成り得る。

Units can be added according to the demand growth

Segment B

Regasification

PLTMG 4…

PLTMG 30,75 MW

PLTMG 20,75 MW

PLTMG 10,75 MW

Gas for electricity

Increase Electrification Ratio ↑

Page 50: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

6-6

図 6.6 LPGの代替となる LNG VGLシステム

出典:インタビューと協議に基づきコンサルタントチームが作成

6.2 想定されるビジネススキームの選択肢

上記の便益創出は実現可能であるが、ミッドストリーム施設は基本的に大規模な初期

投資が必要であり、施設建設は簡単ではない。もし変動費が大きい場合、当初は小規模

なシステム構築を行い、事業を漸増していくことができるが、ミッドストリーム施設の

事業は初期投資が大きく、本事業には当てはまらない。

従って、「誰が LNG需要リスクを取るのか?」が重要な質問である。Use or Payまた

は Take or Pay方式は買主が需要リスクを取るスキームであり、その反対の Use and Pay

または Take and Pay方式は売主が需要リスクを受容することとなる。

本章では、上記を考慮にいれ、3つの可能性のあるビジネススキームの選択肢を示す。

6.2.1 オプション 1: B-to-Bスキーム

Business-to-business(B-to-B)スキームは、最も自然に検討されるスキームである。

ミッドストリーム施設が B-to-Bスキームで建設された場合、政府から財務的支援や

保証が供与される必要が無いこととなる。このために、政府が最も選好するスキームと

言える。

LDPP事業のミッドストリーム施設建設実施者は、プルタミナまたはその子会社(PGN、

プルタガス)が適当と考えられる。ビジネススキームの説明を簡略化するため、この

実施者を「サプライヤー」と呼ぶ。同様に(発電を行う)LNG の購入者は、通常 PLN(ま

Segment B

RegasificationPLTMG 4

PLTMG 3

PLTMG 2

PLTMG 1

Gas for electricity

LNGVGL

LNG VGL

LNG VGL is bigger version of LPG tank

(already used in Bandung and Bali hotels)

Tourism Spots

Cooking

Electricity

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6-7

たは大規模需要者として IPP)であり、ビジネススキームの説明では「発電事業者」と

呼ぶ。

B-to-B スキームでは、サプライヤーは LNG を発電事業者に提供し、対価として配送

費とサテライト費を受け取る。発電事業者は発電し、COE(cents/kWh)価格で PLNに

売電する。従って、電気を購入する PLNは、1)燃料費(LNGの FOB価格、パススルーと

なる)、2)配送費、3)サテライト費、4)発電費を支払う。図 6.7 に B-to-B スキームの

詳細を示す。

図 6.7 B-to-Bビジネススキームの概要

出典:インタビューと協議に基づきコンサルタントチームが作成

基本的に、本スキームが選択された場合、電気を購入する PLN は、全ての LNG 需要リ

スクを受容することとなる。電力需要が想定を下回り、必要とされる最低限の LNG量を

消費できない場合でも、Use or Payまたは Take or Pay の契約方式により、PLN はミッ

ドストリーム(及び発電)施設の建設費に由来する固定費を支払う必要がある。上の図

では、緑の矢印がこれらの契約形態を示している。

PLNが電力利用の計画と管理を実施しており、それが当然と考える方々も居られるが、

東部インドネシアは PLN でも管理できない比較的高い電力需要リスクを有していると

考えられる。

Toll fee (Use or Pay)

Satellite terminalSatellite

terminalSatellite

Jetty, Storage, Re-gasification

Energy Conv.Energy

Conv.Satellite Power Plant

Satellite TerminalSegment A

PLN (as

purchaser of

electricity)

SLNGC milk-run Electricity

Generation (Take or Pay)

“Use/Take or Pay” /AP money flow“Use/Take and Pay” money flow

Service flow

Fuel Cost (LNG Tariff pass through based on LNG SPA)

Gas provided to plant gate

Hub Function

Distribution

LNG Supplier

LNG tanker

Satellite Power PlantSegment A

Toll fee (Use or Pay)

Satellite Terminal

(Use or Pay)

Toll fee (Use or Pay)

Satellite Terminal

(Use or Pay)

Satellite terminalSatellite

terminalSatellite

Jetty, Storage, Re-gasification

Energy Conv.Energy

Conv.Satellite Power Plant

Satellite TerminalSegment B

Electricity

Generation (Take or Pay)

Gas provided to plant gate Satellite Power Plant

Segment B

Satellite Terminal

(Use or Pay)

Satellite Terminal

(Use or Pay)

Filling Station

LNG ISO Tank

Incl. ISO Tanktransport system

Small LNG

Carrier (SLNGC)

Midstream Infrastructure

Page 52: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

6-8

6.2.2 オプション 2:配送事業への PPP AP 供与スキーム

リスク受容の視点から、B-to-Bスキームが承諾されない場合、PPPスキームの活用が

考慮される。本事業において PPPスキームを選択する主な目的は、一部の LNG 需要リス

クの軽減である。このため、アヴェイラビリティペイメント(AP)の活用を提案する。

AP は、施設が利用可能な場合、施設への投資家に対し毎年定額が支払われる方式で

ある。

図 6.8 配送事業への PPP AP 供与スキーム

出典:インタビューと協議に基づきコンサルタントチームが作成

6.2.3 オプション 3: 配送とサテライト施設への PPP AP供与スキーム

オプション 3は、APの対象範囲にサテライト施設部分が追加された想定である。

言い換えると、全てのミッドストリーム施設が APにより支払われる想定となっている。

このスキームでは、PLNの受領リスクは発電部分のみ(ただし燃料費の需要リスクは LNG

SPA に依存)と最小化されている。反対に、ミッドストリーム施設に関わる需要リスク

は GCA へ移転されている。図 6.9の想定では、配送事業とセグメント Aのサテライト施

設は1つの事業主(黄色)により実施されており、セグメント Bのサテライト施設の事

業は別の投資家が実施している。セグメント Bへの配送で利用される ISOタンクの

知見が他の事業とは異なることを考慮し、別々の事業主と想定した。

Satellite terminalSatellite

terminalSatellite

Jetty, Storage, Re-gasification

Energy Conv.Energy

Conv.Satellite Power Plant

Satellite TerminalSegment A

PLN (as

purchaser of

electricity)

SLNGC milk-run Electricity

Generation (Take or Pay)

Fuel Cost (LNG Tariff pass through based on LNG SPA)

Gas provided to plant gate

Hub Function

Distribution

LNG Supplier

LNG tanker

Satellite Power PlantSegment A

Toll fee (Use and Pay)

Satellite Terminal

(Use or Pay)

Toll fee (Use and Pay)

Satellite Terminal

(Use or Pay)

Satellite terminalSatellite

terminalSatellite

Jetty, Storage, Re-gasification

Energy Conv.Energy

Conv.Satellite Power Plant

Satellite TerminalSegment B

Electricity

Generation (Take or Pay)

Gas provided to plant gate Satellite Power Plant

Segment B

Satellite Terminal

(Use or Pay)

Satellite Terminal

(Use or Pay)

Filling Station

LNG ISO Tank

“Use/Take or Pay” /AP money flow“Use/Take and Pay” money flow

Service flowToll fee (Use and Pay)

GCAAP payment

AP coverage

Incl. ISO Tanktransport system

Small LNG

Carrier(SLNGC)

Midstream Infrastructure

Page 53: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

6-9

図 6.9 配送とサテライト施設への PPP AP 供与スキーム

出典:インタビューと協議に基づきコンサルタントチームが作成

6.3 PPP AP供与スキームでの契約機関の分析

オプション 2またはオプション 3において、GCAは重要な役割を演じる。ミッドスト

リーム施設運営者自体が GCAと成ることができ、まずプルタミナが候補に挙げられる。

PPP 法制度においても、100%国有企業(SOE)は GCA に成ることができ、法制度の視点

からも妥当である。

しかしながら、プルタミナは利益を追求する企業である。このため、プルタミナが公

的機関として GCA の役割を遂行するが、リスクを負うことによる損失分、つまり AP と

配送費の差額(オプション 3の場合は APと配送費及びサテライト費の差額)は国から

供与(または還付)されることを提案する。

オプション 1 B-to-B スキームとオプション 2/3 PPP AP 供与スキームでのプルタミナ

の役割の違い

将来的に、プルタミナと PLNの意見をビジネススキーム選定に反映させることが重要

である。

Satellite terminalSatellite

terminalSatellite

Jetty, Storage, Re-gasification

Energy Conv.Energy

Conv.Satellite Power Plant

Satellite TerminalSegment A

PLN (as

purchaser of

electricity)

SLNGC milk-run Electricity

Generation (Take or Pay)

Fuel Cost (LNG Tariff pass through based on LNG SPA)

Gas provided to plant gate

Hub Function

Small LNG

Carrier(SLNGC)

Distribution

LNG Supplier

LNG tanker

Satellite Power PlantSegment A

Toll fee (Use and Pay)

Satellite Terminal

(Use and Pay)

Satellite terminalSatellite

terminalSatellite

Jetty, Storage, Re-gasification

Energy Conv.Energy

Conv.Satellite Power Plant

Satellite TerminalSegment B

Electricity

Generation (Take or Pay)

Gas provided to plant gate Satellite Power Plant

Segment B

Satellite Terminal

(Use and Pay)

Filling Station

LNG ISO tank

“Use/Take or Pay” /AP money flow“Use/Take and Pay” money flow

Service flowAP payment

GCAAP payment

AP coverage SPC 1

Toll fee + Satellite Terminal(Use and Pay)

AP coverage SPC 2

AP payment Satellite Terminal (Use and Pay)

Incl. ISO Tanktransport system

Midstream Infrastructure

Page 54: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

6-10

オプション 1では、プルタミナと PLN が事業に同意できた場合、事業実施者としての

プルタミナの役割は、ミッドストリーム施設の最適な EPC契約者と選定することである。

オプション 2または 3の場合、GCAであるプルタミナの役割は、ミッドストリーム

施設を建設・運営する一連のサービス、つまり資金調達、設計、建設、O&M等を提供

する、最適な事業者を選定することである。

Page 55: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

7-1

7. 次のステップに関する提案

ビジネススキームが決定した後、詳細な実施計画を策定されるための Pre-FS が実施

されるべきである。

Page 56: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-1

8. HUB建設計画

LNG小口配送全体のオペレーションの冗長性と小型 LNG船の稼働率向上を考慮すると、

HUB 基地を設けることに優位性がある。HUB 基地が無い場合、LNG 生産拠点から各サイ

トへ個別に輸送することになり、輸送効率が悪く、柔軟性に欠ける。このため、HUBの

建設計画について以下に検討した。

8.1 HUB設置位置検討

HUB 設置場所は、配送サイトの位置と数、LNG需要量、輸送ルート等を考慮して選択

される。大需要地に HUBを設置し、大型 LNG 船から大ロットの LNG を HUB で受け取り、

残りの配送サイトへ各サイトの受入制限に合わせた小口輸送をすることで全体の配送

効率を向上することが可能となる。小口輸送は各サイトの需要量や受入制限によって、

小型 LNG船・ISO コンテナ・LNGローリー等にて輸送する。HUB設備の設計コンセプト

は以下の通りである。

LNG貯蔵容量が約 138,000m3の FSU(Floating Storage Unit)

(浮体式 LNG貯蔵設備、既存 LNG船を改造)

FSUの係留桟橋を建設

陸上発電所のガス需要に応じた再ガス化装置を桟橋上に設置

桟橋はアクセス用のトレッスルで陸上に接続し、トレッスル上にはパイプラック

とケーブルラックを搭載

将来設置予定の FPPは桟橋と海岸の間のトレッスルに取り付け

上記設計コンセプトの前提で、HUB 設置場所は以下 3点を重視し選定する。

HUB 設置場所自体に比較的多くの LNG 需要があり、大型 LNG船から受け入れる量

の大部分を貯蔵可能であること

HUB 設置場所から各サイトへ航路上アクセスが容易であること

HUB 設置場所の海域に様々なタイプの LNG船がアプローチ可能な水深や広さがあ

ること

8.2 HUB設置位置・設備等基本計画

8.2.1 HUB基本仕様

HUB は以下の要素で構成される。

・LNG 貯蔵設備である FSU

・係留設備(桟橋/ドルフィン/フェンダー/ムアリングロープ/クイックリリース

フック)

桟橋/ドルフィン/フェンダー/ムアリングロープは、FSU の係留、FSUに LNGを供給す

Page 57: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-2

る大型 LNG船の係留、及び LNGを FSU から供給され、各需要地に LNGを運ぶ小型 LNG船

の係留に供する。荒天時の緊急離桟に備えクイックリリースフックを装備する。なお、

FSUと大型 LNG船は桟橋の両側に係留され、Ship to Shipの荷役は行わない計画とした。

また、小型 LNG船は、大型 LNG船が着桟していない状態のときにこの桟橋を利用する。

ブロックフロー図を別添 8-1に示す。

(1) HUB用 FSU桟橋と陸上をつなぐトレッスル

HUB 用 FSUが海岸から遠くない近深の海上に係留できる場合は、FSUと陸上を結ぶ

トレッスルを設置する。トレッスルは係留桟橋、補助設備搭載プラットフォームと

陸上を結び、天然ガス供給配管、受電用電線が搭載でき、FSUへの物資・人員の輸送

用通路を持つ。

HUB 用 FSUが遠浅の海上に係留しなくてはならない条件では、陸上への天然ガス

供給は海底パイプラインにより、陸上からの電力供給も海底送電線によって供給する。

この場合、FSUへの物資・人員の輸送にはサービスボートを用いる。

(2) 桟橋上設備

a)ローディングアーム

大型 LNG船で運ばれた LNGは、大型 LNG 船の着桟後、桟橋の大型 LNG船側ローデ

ィングアームを介して荷揚げする。FSU への荷揚げは桟橋の FSU側ローディングア

ームを使用する。小型 LNG船への払出しは FSU側ローディングアームから LNG 船側

のローディングアームを使用して行う。LNG船側ローディングアームは大型/小型

兼用とする。

b)荷揚げ/受入れ/払出し操作設備

荷揚げ/受入れ/払出し操作に必要な設備を桟橋上に有する。

c)その他保安設備等

法令その他規則の定める保安設備を有する。

(3) LNG気化・送気設備/BOG(Boil Off Gas)ブースター圧縮機/電力供給他

ユーティリティ設備搭載支援プラットフォーム

この支援プラットフォームには下記設備を搭載する。

a) HUB の FSUから対岸の陸上発電所に燃料ガスを供給可能とするために

LNG 気化・送気設備

b) FSU から発生する BOG を陸上発電所に送る BOGブースターガス圧縮機

c) 発電設備(FSU及び桟橋/支援プラットフォーム上の設備に電力を供給)

d) 冷却水設備

Page 58: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-3

e) 計装用空気/雑用空気設備

f) 生活用水造水設備

g) 保安設備

8.2.2 FSU対象の大型 LNG船の設定

HUB 基地建設に際し、投資額や土地収用リスク低減のために、既存の大型 LNG 船を改

造した Floating Storage Unit (FSU)を採用。既存の大型 LNG 船は一般的に推進器の劣

化が考え得るが、FSUは航行する必要が無く、桟橋に係船状態での LNG貯蔵が主目的で

あり、タンクの有効活用もできる利点がある。なお、大型 LNG船から FSUへの改造作業

を簡略化する目的のため、FSU桟橋上に再ガス化装置を設置し、桟橋上で LNG を再ガス

化し、陸上発電所へ送ガスする。

同じようなコンセプトの既存 FSUプロジェクトについては下記の通り。

表 8.1 既存 FSUプロジェクト

プロジェクト 船名 新造/改造 竣工 タンク容量

Delimara LNG in Malta Armada LNG Mediterrana 改造 1985 年 127,209m3

Delimara LNG(マルタ) Tenaga Empat 改造 1981 年 130,000m3

Melaka LNG(マレーシア) Tenaga Satu 改造 1982 年 130,000m3

Melaka LNG(マレーシア) Bahrain Spirit 新造 2018 年 173,400m3

Bahrain LNG(バーレーン)

2018 年末時点で竣工済みの大型 LNG 船隻数は 525隻(発注残 110隻)で、LNG 需要の

増加に伴い増加している。LNG船隊の大半は長期契約ベースで既存プロジェクトに従事

しているものが多いが、1990年代に竣工した大型 LNG 船は契約満了した(または満了し

つつ)あり、マーケットからの調達が比較的容易と考える。上記の理由から本検討では

1990 年代後半に建造された 138,000㎥のモス型 LNG 船を FSU対象船と想定。大型 LNG

船の概況については別添 8-2を参照。

Page 59: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-4

図 8.1 FSU用大型 LNG船写真(モデル)

図 8.2 FSU用大型 LNG船仕様(モデル)

表 8.2 モデル船の仕様

容量 137,419.9 m3

LOA 297.50 m

幅 45.75 m

高さ 25.50 m

ドラフト 11.215 m

総トン数 111,128 T

デッドウェイト 72,430 T

ボイルオフ率 0.15 %/日

主機関 蒸気タービン

Page 60: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-5

8.2.3 FSUの運用想定

本検討では FSU用の既存の大型 LNG船として、1990年代後半に建造された 138,000

㎥のモス型 LNG船を想定した。その他 FSUの運用前提を設定。

FSU のメンテナンスコスト削減とエネルギー効率の観点から、既存 LNG 船に搭載され

ている設備(ボイラーや蒸気タービン)は使用しない想定。既存設備は老朽化やエネルギ

ー効率が悪いという欠点があり、必要な改造費用や運転・保守要員のコストを吟味する

と継続利用は現実的ではない。但し、実際に導入する際には安全上の理由で既存設備を

生かしておく必要もあるため、港湾当局等と確認の上、運用条件を明確にして検討する

必要がある。本検討での運用想定は下記の通り。

・FSU として、既存の 138,000㎥のモス型 LNG船を 20年間使用する前提

(FSU としての改造と延命工事を行う)

・FSU は桟橋乃至ドルフィンバースに係船

・FSU では既設ボイラーや推進機、蒸気タービン発電機は使用せず、緊急離桟はタグ

ボートによる曳航を想定

・既設ボイラーを活用しないため、ガスフリー時に使用するヒーターやガスアップ時

に使用する LNG蒸発器の熱源は別途必要

・貨物を供給する大型 LNG船、小口配送する小型 LNG 船は桟橋を介して FSUと荷役を

行う(フレキシブルホースやフェンダーを用いての Ship to Ship(STS)荷役も検討

したが、FSUで頻繁に荷役が想定されるため、安全を考慮し、桟橋を介しての荷役

とした)

・大型 LNG船、小型 LNG船との荷役は同時に行わない

・Emergency Shut Down System/Ship shore linkは FSU・発電所・小型 LNG船・大型

LNG 船全てで同じシステムを使用する前提で設置する

・FSU から 24時間継続して桟橋上の再ガス化装置へ LNGを供給可能とする

・FSU では再液化装置を持たず、気化したガス(Boil-Off Gas)は陸側へ送気

・桟橋上にガスエンジン発電機を新設し、FSUと桟橋上設備の常用電源を全て賄う

・生活用水は陸上から FSUへ供給 (パイプライン敷設費用次第では本船上で電気によ

る造水)

・FSU は桟橋に係船していることから、洋上での STS を想定しないため、FSU にはタ

レットや STS 用のフェンダーは持たない

・サプライボートからの船用品供給を前提としたフェンダーは設置

・Dock exemptionを取得し、20年間入渠無し

Page 61: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-6

8.2.4 BOG処理方法の検討

旧型 LNG船の Boil-Off Rateは 0.15%/日で、外部からの自然入熱によるボイルオフ

ガス(Natural BOG)が発生し、その量は LNG 換算で 約 90 Mt/日となる。タンクに LNG

を貯蔵している限り BOGは常に発生し続けるため、既定のタンク圧制限を超えないよう

に BOG を処理する必要がある。BOGの処理方法としては、①エネルギーへ変換し活用す

るか、②焼却処分するか、③再液化するかの 3通りに限られる。また、Natural BOG

以外では、大型 LNG船から FSUへの LNG受入や FSUから小型 LNG船への LNG払出し等の

荷役時にも BOGは発生するため、BOGをただ焼却処理し無駄にすることなく、発電燃料

として有効活用できるような仕様とそのオペレーション方法を検討する。

(1) BOGの発生ケース

a) 外部からの自然入熱による BOG (Natural BOG)処理

b) 大型 LNG船から FSUへの LNG受入時に発生する BOG 処理

c) FSU から小型 LNG船への LNG払出時に発生する BOG 処理

d) FSU のガスフリー/ガスアップ時に発生する可燃性ガス処理

e) 小型 LNG船のガスフリー/ガスアップ時に発生する可燃性ガス処理

(2) BOGの発生ケースと処理方法の整理

a) 外部からの自然入熱による BOG (Natural BOG)処理

・FSU 用桟橋上にブースターガス圧縮機を設置し、発生した BOGを加圧し、天然ガス

供給ラインへ送り、陸上発電所で発電燃料として活用。

・陸上発電所で Natural BOG以上のガス消費量が無い場合、またはガス消費量が変動

する場合は余分な BOGを焼却処分する。FSUの既設ボイラーは使用不可前提のため、

焼却処分には FSUへ Gas Combustion Unit(GCU)を新設する。

・緊急離桟時の BOG処理も GCU にて行う。

・基本的には、陸上発電所で常にガス需要が存在しているため、発生する BOG は陸上

発電所で消費する前提。投資額を抑えるため、再液化装置の設置は考慮しない。

b) 大型 LNG船から FSUへの LNG受入時に発生する BOG 処理

・通常、LNG受入荷役開始当初は BOGが多く発生する。荷役レートを落とすことで BOG

を抑えることは可能だが、荷役時間の増加は避けたい。一般的に、陸上基地から

大型 LNG船へ LNGを供給する際の荷役レートは 10,000m3/hで設定されており、大

型 LNG船で発生した BOGを陸側へ返送することで LNG船のタンク圧を維持している。

・FSU も同様に陸側へ BOGを送る前提とし、FSU用桟橋上にブースターガス圧縮機を

設置し、天然ガス供給ラインへ送り、陸上発電所で発電燃料として活用する。

・加えて、FSUのタンク圧制限の設定値を上げることで FSU自身のタンクでできるだ

Page 62: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-7

け BOGを保持することで陸側へ送気する量を抑える。

・上記方法を以ってしても出てくる余分な BOGは GCU で焼却処分。

・大型 LNG船同士の Ship to Ship荷役では BOGを陸側に返送できないため、荷役

レートを落とすか、荷役を中断することで BOG発生を抑え、抑えきれない分は両船

のボイラー/GCUで焼却処分する。そのため、荷役レートの実績値は約 3,000~

4,000m3/hと低く、荷役時間が大幅に長くなる。頻繁な荷役が予想される FSUでは、

10,000m3/hで荷役可能な設備仕様とする。

c) FSU から小型 LNG船への LNG払出時に発生する BOG 処理

・LNG 払出荷役中に小型 LNG船側で BOGが発生する。

・基本的には小型 LNG船の蓄圧タンクで BOG を受けとめるが、小型 LNG 船から FSUへ

ガスを返送することでも対応可能。

d) FSU のガスフリー/ガスアップ時に発生する可燃性ガス処理

・ガスフリーとはタンク内部の可燃性ガスを空気へ置き換える作業で、先ずはタンク

内の可燃性ガスを不活性ガス(Inert gas)へ置き換えた上で、更に空気と置き換え

る作業。ガスアップはタンク内部の空気を可燃性ガスへ置き換える作業でガスフリ

ーと逆の手順になる。タンク内の定期検査等でガスフリー/ガスアップの作業が

必要となる。

・FSU の Inert Gas Generator (IGG)を用いて、タンク内の可燃性ガスと不活性ガス

を入れ替えるガスフリー/ガスアップを行う工程で不活性ガスが混入した可燃性

ガスが発生する。

・GTCC 等の発電設備では不純物の混ざった低カロリーガスを燃料として使用する

ことは困難であるため、不活性ガスが混入した可燃性ガスは陸上発電所へ送らず、

GCU での焼却処分となる。

e) 小型 LNG船のガスフリー/ガスアップ時に発生する可燃性ガス処理

・一般的に小型 LNG船自身の設備を用いてガスフリー/ガスアップを行うことは可能。

・但し、小型 LNG船上の GCUや IGG の処理能力は FSU に比べ相対的に劣るため、FSU

上の大容量 GCU/IGGを用いることでガスフリー/ガスアップの時間短縮が可能。

・FSUと小型 LNG 船の運用をセットで考え、それぞれの設備を最適化する検討が今後

必要。

・D)での検討と同じく、ガスフリー/ガスアップ時に発生する不活性ガスが混入した

可燃性ガスは陸上発電所で消費できないため、小型 LNG 船若しくは FSUの GCU で

焼却処分する。

Page 63: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-8

8.2.5 HUBの電力使用設備検討

今回 FSUに想定したモデル船の既存設備の有効活用につき、FSUとして必要となる

機器を電力使用の観点から検討を行った。

検討結果から、オペレーションの冗長性とメンテナンスの簡略化・費用低減を考える

と、既設ボイラーや推進機、蒸気タービン発電機は使用せずに、緊急離桟はタグボート

による曳航を想定する方針とした。また、陸上の系統電力に頼らず、桟橋上にガスエン

ジン発電機を新設し、FSU と桟橋上設備の常用電源を全て賄う方針とした。

なお、ガスエンジン発電機は、FSU への電力供給のほか、LNG 気化・送気設備用ポン

プ群、発生 BOGの陸上供給のためのブースターガス圧縮機、海水消火ポンプ等の桟橋・

支援プラットフォーム搭載機器の電力も供給する。

8.2.6 その他 HUB設備

FSU に想定したモデル船の既存設備の有効活用を前提として、HUBとして必要となる

設備について検討を行った。

(1) ローディング/アンローディングアーム

・上述の検討の通り、安全性を考慮し STSでの荷役は行わない前提。桟橋上にローディ

ング/アンローディングアームを設置する。

・コスト低減の観点から、ローディング/アンローディングアームは大型 LNG 船と FSU

間の荷役、小型 LNG船と FSU間の荷役の両方で共有できることが望ましい。

但し、大型 LNG船と小型 LNG船のマニホールド位置が大きく異なることも考えられる

ため、両船の仕様に合わせる。

(2) LNGバッファータンク

・桟橋上の再ガス化装置への LNG供給運転制御に必要な最小限の設備として、桟橋上に

LNG バッファータンクを設置。

・FSU の離桟・停電・荷役前 ESDテスト等で FSUから再ガス化装置への LNG供給が停止

することも考えられる。そのような場合でも、陸上発電所へ継続して送ガスする必要

があるため、陸上発電所の要件に合わせて LNGバッファータンクの大型化も検討する

必要がある。

(3) FSU・LNGC 係留設備

HUB における係留設備は、FSU 及び大型 LNG船、小型 LNG船が係留できるよう計画す

る。FSU用大型 LNG船仕様(モデル)に示すように、FSU 自体も大型 LNG船と同様の喫水

を要するので、水深 15mを確保できる海上に係留設備を設置する。係留設備は、以下の

Page 64: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-9

機器により構成し、ムアリングロープにより係留する。荒天時の緊急離桟に備えクイッ

クリリースフックを装備する。

・FSU/大型 LNG船・小型 LNG船の係留桟橋

・ブレスティングドルフィン

・ムアリングドルフィン

・ドルフィン間キャットウォーク

・ムアリングフェンダー

なお、係留桟橋上には、大型 LNG船から LNG を受入れるローディングアーム(小型

LNG 船への LNG払い出しの共用を考える)、FSUへの荷役用のローディングアーム(小型

LNG 船への LNG払い出しの共用を考える)を設置する。

図 8.3 FSU/LNG船の係留図

FSU/LNG船係留例を図 8.4に示す。ムアリングドルフィンとムアリングロープ及びト

レッスルの様子が分かる。また、係留桟橋上のローディングアームの状況を図 8.5に、

クイックリリースフックの例を図 8.6に示す。

Page 65: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-10

図 8.4 FSU/LNG船係留例

出所:Petronas社ホームページ

図 8.5 係留桟橋上のローディングアーム

出所:Flotech Performance Systems Limited 社ホームページ

Page 66: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-11

図 8.6 クイックリリースフックの例

出所:Trelleborg社ホームページ

(4) 桟橋・トレッスル

HUB における係留設備は、(5)項に述べたとおりであるが、FSUの運用にあたっては、

次に挙げる諸設備を搭載可能となるような独立の支援プラットフォームを付随させる。

・陸上発電所向け天然ガス供給のための再ガス化装置

・発生 BOGの陸上供給のためのブースターガス圧縮機

・FSU への電力供給のための発電設備

・陸上電力網から電力を受電可能な場合の周波数変換装置

(FSU:60Hz、尼国電力網:50Hz)

HUB 用 FSUが海岸から遠くない近深の海上に係留できる場合は、FSUと陸上を結ぶ

トレッスルを設置する。トレッスルは係留桟橋、支援プラットフォームと陸上を結び、

天然ガス供給配管、受電用電線が搭載でき、FSUへの物資・人員の輸送用通路を持つ。

HUB 用 FSUが遠浅の海上に係留しなくてはならない条件では、海岸までのトレッスル

が長くなり、コスト高となる。この場合は、トレッスルは設置せず、係留設備のほか、

以下の設備を搭載したプラットフォームを海上に設置し、陸上への天然ガス供給は海底

パイプラインにより、陸上からの電力供給も海底送電線によって供給する。FSU への

物資・人員の輸送にはサービスボートを用いる。

Page 67: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-12

・陸上発電所向け天然ガス供給のための再ガス化装置

・発生 BOGの陸上供給のためのブースターガス圧縮機

・FSU への電力供給のための発電設備

・陸上電力網から電力を受電可能な場合の周波数変換装置

(5) LNG受入れ・払出し設備

FSU に大型 LNG船から LNGを受け入れる場合は、通常の大規模陸上 LNG基地から大型

LNG船への荷役と同様の設備となり、FSUに転用する大型 LNG船の既存設備を活用する。

なお、発生 BOGの処理については 8.2.4(2)項 b)による。

FSUから小型 LNG船への LNG払出しの場合は、FSU側既存 LNG払出しポンプを小型 LNG

船の受け入れ可能量に合わせて換装する必要があるか注意を要する。この場合の発生

BOG の処理については、8.2.4(2)項 c)による。

(6) LNG気化・送気設備

LNG 気化・送気設備は、支援プラットフォーム上に設置することを想定し、以下の

機器により構成される。なお、高圧 LNGポンプの容量・吐出圧力、気化器の容量は陸上

発電設備の仕様により決定される。

・高圧 LNGポンプ用サクションドラム

・高圧 LNGポンプ

・オープンラック型気化器(気化熱源は海水)

・海水ポンプ(プラットフォーム下)

・気化ガス送出パイプライン

(7) 保安・防火設備

FSU 内の保安・防火設備は、既存大型 LNG船の設備を利用する。係留設備側では、

トレッスルで陸上と結ばれている場合は、下記保安・ユーティリティ設備のうち、配管・

ケーブルにより陸上側から供給できるものは利用する。

a) 保安設備(早期発見のための設備)

・監視カメラ

・可燃性ガス検知器

・低温検知器

・自動火災報知設備

・非常用発電設備

・非常時の脱出設備

Page 68: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-13

b) 防火設備

[水系消火設備]

・水幕設備

・散水設備

・水消火栓

[泡系消火設備]

・高発泡設備

・低発泡消火設備

・泡消火栓

・泡モニター

・粉末消火設備(固定式・モニター式)

・消火器(大型粉末・大型泡・小型)

[不活性ガス消火設備]

・窒素

・二酸化炭素

[その他の消火設備]

・海水消火ポンプ

・消火設備テストポンプ

・防災監視盤

・地震計

(8) ユーティリティ設備

FSUでは既設のディーゼルエンジン発電機及び非常用発電機は使用可能な状態に保つ

が、既設ボイラーは老朽化しており、改造コストも掛かる上、オペレーション・メンテ

ナンスに人員も要することから、既設蒸気タービン発電機は利用せず、プラットフォー

ム上に設置するガスエンジン発電機から電力を供給する。プラットフォーム上の発電

設備は、FSUへの電力供給のほか、LNG気化・送気設備用ポンプ群、発生 BOG の陸上

供給のためのブースターガス圧縮機、海水消火ポンプ等の桟橋・支援プラットフォーム

搭載機器の電力も供給する。

なお、トレッスルで陸上と結ばれている場合は、オペレーションが容易となるよう、

陸上電力網から電力を受電可能とし、トレッスル上に電力ケーブルを敷設し、周波数

変換後 FSUに電力供給することも検討対象とする。HUB 用 FSUを遠浅の海上に係留しな

くてはならない条件では、トレッスルが長くなるので、陸上電力網からの受電には海底

送電線敷設となる。

Page 69: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-14

(9) 冷却水設備

FSU では既存の設備を活用する。桟橋・支援プラットフォーム上の設備用の冷却水

設備は、海水冷却及び海水使用不可の設備のためのフレッシュウォーター冷却設備を

設置する。

(10) 計装用空気/雑用空気設備

FSU では既存の設備を活用する。桟橋・支援プラットフォーム上の設備用には、支援

プラットフォーム上に計装用空気/雑用空気設備を設置する。

(11) 生活用水

トレッスルで陸上と結ばれている場合は、陸上からパイプラインで受け入れることも

選択肢となるが、造水装置を支援プラットフォーム上に設置する。

(12) 陸上設備

HUB 用 FSUから陸上発電所へパイプラインで送ガス及び陸上から電力供給を受ける

場合には、陸上に以下の設備を設ける。HUB用 FSU及び桟橋、プラットフォームのオペ

レーション/メンテナンスを支援するための陸上倉庫・ワークショップ等は、マリンハ

ウスに付設する。

・ガスパイプラインのコネクション/メータリングステーション

・受変電設備

Page 70: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-15

8.3 HUB運営方法・組織の最適化検討 HUB 設備基本計画

8.3.1 HUB運営・保守

FSU はインドネシアの国内法上では船舶と見做され、最小乗組員数は 19名。24時間

陸上発電所へ送ガスが行われていることを考慮し、オペレーション要員 2名を加え、21

名で通常の運営・保守を行うこと想定。FSU上の防消火要員は FSUの乗組員で行う前提

だが、陸上発電所の防消火チームと連携することも可能と考えられる。全体のオペレー

ションを勘案したリスクアセスメントを実施した上で、最終的に港湾当局等から許可を

得て決定する必要がある。

陸側にマリンハウスを設置し、FSUでの荷役監督や桟橋上の再ガス化装置・ガスエン

ジン発電機等のメンテナンスを目的とした要員を配置する。また、各機器のメーカー推

奨メンテナンス方針に則り、メーカー技師等も随時派遣の上でメンテナンスを実施する。

8.3.2 組織

FSU 乗組員とマリンハウスの内訳は下表の通り。FSU のオペレーションは 3交代制、

FSU メンテナンスとコックは昼勤務のみと想定した。この場合、FSUのオペレーション

に必要な人員は合計で計 21名程度必要となる。

また、マリンハウスの要員は、全員は昼勤務のみと想定し、表 8.4 の通り合計で 8名

必要となる。

Page 71: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

8-16

表 8.3 FSU乗組員

オペレーション要員 シフト

① FSU メンテナンス要員

士官 荷役作業 2名

士官 2名

部員 荷役作業 2名

部員 3名

部員 桟橋待機 1名

オペレーション要員 シフト

② コック

士官 荷役作業 2名

部員 1名

部員 荷役作業 2名

部員 桟橋待機 1名

オペレーション要員 シフト

士官 荷役作業 2名

部員 荷役作業 2名

部員 桟橋待機 1名

表 8.4 マリンハウスの要員

オペレーション監督

マネージャー 1名

桟橋メンテナンス要員

雑務要員

スタッフ 2名

スタッフ 2名

事務要員

コック

スタッフ 2名

スタッフ 1名

Page 72: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-1

9. 新エネルギー需要創造検討

9.1 需要の確実性検証

本章では、国営電力公社(PLN)の商用電力系統に使用される火力発電用燃料以外の、その

他の天然ガスの利活用(新規需要創造)の可能性を検討し、かつ、その需要の確実性を検証し

た。また、そのような天然ガス活用による、当該地域への発展寄与の可能性についても、併せ

て検討を行った。

9.1.1 候補サイトの選定

上記を検証するためのモデルケースとして、北スラウェシ州での天然ガス普及事業モデルを

検討した。

北スラウェシ州をターゲットサイトに選定した理由は、当該地域には現在、総合病院、ショ

ッピングモール、ホテル等での商業用の天然ガス潜在需要とともに、缶詰工場等での産業用で

の天然ガス潜在需要が存在すること、さらに北スラウェシ州には、リゾート開発や工業団地

開発等の計画が存在することから、今後、さらなる天然ガス活用の余地・可能性も有している

と判断したことによる。

9.1.2 天然ガス需要の検討

9.1.2.1 日本の事例

北スラウェシ州での天然ガス普及事業モデルの検討に先立ち、まずは日本で天然ガスがどの

ように導入され、普及してきたのかを振り返りたい。

50 年前の 1969年 11月に、東京ガス・東京電力の共同の取り組みによって、日本は液化天然

ガス(LNG)を初めて輸入した。

日本が LNGの輸入に踏み切った理由は大きく分けて3つ挙げられる。1つ目は、高度経済成

長期でエネルギー需要が急増していたこと、2つ目は、大気汚染が深刻になり、硫黄酸化物を

出さないクリーンな燃料が求められたこと、そして 3つ目は、中東に集中する石油と違い、

天然ガスは広い地域に存在するメリットがあったことである。

LNG 導入以降、日本では図 9.1で示す通り、発電用燃料としての天然ガスの使用量が増加し

ていくとともに、都市ガス事業の原料としても天然ガスが普及・拡大していった。

都市ガス事業の原料としての天然ガスに焦点を当てると、日本では 1980 年代以降に、石油

等他のエネルギーの代替として工業炉や産業用ボイラなど産業用途が急速に拡大し、さらには

省エネルギー性や環境調和性に着目した、業務用厨房、ガス空調、ガスコージェネレーション、

燃料電池、天然ガス自動車等へとその用途が拡充された。

Page 73: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-2

図 9.1 日本の用途別 LNG販売量の推移

出典:一般財団法人 高度情報科学技術研究機構

図 9.2 日本で導入されている天然ガスを利用した代表的な製品・設備

業務用厨房 ガス空調

ガス工業炉 ガス蒸気(温水)ボイラ ガスコージェネレーション

燃料電池 燃料電池自動車 天然ガス自動車

商業用需要

産業用需要

家庭用/

その他

Page 74: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-3

9.1.2.2 北スラウェシ州での検討

前述のとおり日本では、工業炉、産業用ボイラ、業務用厨房、ガス空調、ガスコージェネレ

ーション、燃料電池、天然ガス自動車等の天然ガスを利用した製品・設備が普及している。

一方で、日本と異なり平均気温が高く、一般家庭での熱源(給湯)需要が少ないインドネシ

アでは、家庭用の天然ガス需要は決して大きくはないことが予想されるものの、天然ガスの

環境親和性や、コージェネレーションシステム*導入による、より高いエネルギー効率の実現

とエネルギーセキュリティの向上という利点を考慮すれば、商業用・産業用では、インドネシ

アでも十分に天然ガス普及の可能性があると考えられる。

そこで、北スラウェシ州においても、特にコージェネレーションシステムの導入をベースと

した商業用・産業用での天然ガス利用の可能性を検討し、それぞれの潜在的な需要を算出した。

図 9.3 内燃機関(ガスエンジン)を用いた民生用コージェネレーションの基本構成

出典:コージェネ財団

* 「コージェネレーションシステム」とは、熱源より電力と熱を生産し供給するシステムの

総称である。発生電力は商用電力系統と連系し供給され、廃熱から発生する蒸気や温水は、

製造業のプロセス利用や空調用の吸収冷凍機、あるいは給湯の熱源として利用されること

から、省エネルギー効果、CO2 削減効果、経済性向上といったメリットを得ることができ

る。また、コージェネレーションと商用電力系統が連系することにより、電力供給の冗長

化、安定化を図ることができる。

Page 75: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-4

図 9.4 コージェネレーションによるエネルギー総合効率向上のイメージ

出典:コージェネ財団

9.1.2.3 北スラウェシ州で天然ガス需要が期待される地域

北スラウェシ州の北部には、州都であり北スラウェシ州の中心都市となっているマナド、

国際ハブ港湾を持ち、経済特区(Special Economic Zone:SEZ)にも指定され、工業団地開発

予定地が存在するビツン、そして将来のリゾート開発が有望視され 2019 年にジョコウィドド

大統領が視察にも訪れたリクパンの3つの地域が、ある程度狭い範囲に集まっている。

今回、この3地域に注目して、コージェネレーションシステム導入による商業用・産業用で

の天然ガス利用の可能性と、その潜在需要を算出した。詳細を以下に記述する。

図 9.5 北スラウェシ州北部の地図

Page 76: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-5

[商業用需要の可能性]

まず商業用については、州都であるマナドと、リゾートエリアであるリクパンに、天然ガス

需要の可能性があると考えた。

マナドには数多くの総合病院、ショッピングモール、ホテルが存在し、リゾートエリアであ

るリクパンにもいくつかのホテルが存在する。

2018 年の現地調査の結果、このような総合病院、ショッピングモール、ホテルでは基本的に

電気式のセントラル空調が導入されていることを確認しており、これら施設にガスコージェネ

レーションシステムとともに廃熱利用ガス吸収冷凍機を組み合わせて導入することで、「低炭

素」・「省エネルギー」・「エネルギーセキュリティ強化」といったメリットを訴求することがで

きる。

上記ケースを前提としたマナド・リクパンの潜在的な天然ガス需要算出結果は、表 9.1、

表 9.2 のとおりである。

表 9.1 マナドの総合病院、ショッピングモール、ホテルでの潜在的な天然ガス需要

導入先 ガス利用が想定される設備 年間天然ガス需要

総合病院 CGS+廃熱利用ガス吸収冷凍機 175 BBTU

ショッピングモール CGS+廃熱利用ガス吸収冷凍機 729 BBTU

ホテル CGS+廃熱利用ガス吸収冷凍機 180 BBTU

合計 1,085 BBTU

* CGS:コージェネレーションシステム

* ショッピングモールは延床面積 100,000m2以上、ホテルは5ツ星を抽出した。

* インドネシアでは一年中気温が高いことを考慮し、調査で明らかになったそれぞれの

施設の件数・延床面積・営業時間に日本での 7月~9月の平均負荷想定を引用して

各施設で必要な電力需要と空調能力に対応するガス設備の規模を設定し、天然ガス

需要を算出した。

表 9.2 リクパンのホテルでの潜在的な天然ガス需要

導入先 ガス利用が想定される設備 年間天然ガス需要

ホテル CGS+廃熱利用ガス吸収冷凍機 85 BBTU

* ホテルは4ツ星を抽出した。

* 需要の算出方法はマナドと同様。

Page 77: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-6

図 9.6 マナド潜在需要 詳細

図 9.7 リクパン潜在需要 詳細

Page 78: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-7

[産業用需要の可能性]

次に産業用については、水産業が盛んで、新規の工業団地開発も予定されているビツンに

天然ガス需要の可能性があると考えた。

ビツン港は、国際ハブ港湾であると同時に、PPS(Pelabuhan Perikanan Samudera)と呼ば

れる国内に 7港しかない遠洋漁業にも対応可能な大型漁港に指定されており、沿岸部に

は①冷蔵・冷凍・製氷工場、②缶詰工場、③削り節等の工場が並んでいる。

このうち、図 9.8のとおり缶詰工場においては、その製造工程の中で「蒸煮」と「加圧加熱

殺菌・冷却」に熱需要があるため、石炭・油焚き発電設備や油焚き燃焼設備(ボイラ・乾燥

設備)を、ガスコージェネレーションシステムと高効率ガスボイラの併用に置き換えることで、

ビツンの産業用需要での天然ガス利用でも、「低炭素」・「省エネルギー」・「エネルギーセキュ

リティ強化」を図ることが可能である。

図 9.8 缶詰製造工程図

出典:公益社団法人 日本缶詰びん詰レトルト食品協会 「かんづめハンドブック」

北スラウェシ州開示のデータによればビツンには現在5件の缶詰工場が存在するとのこと

で、この5件の年間生産量と年間稼動時間に、インドネシア国内他地域の缶詰工場(日本企業

の出資)からヒアリングした年間ガス使用量を係数として引用することで、必要なガス設備の

規模を設定し、天然ガス需要を算出した。

結果は表 9.3のとおりである。

Page 79: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-8

表 9.3 ビツンの缶詰工場での潜在的な天然ガス需要

導入先 ガス利用が想定される設備 年間天然ガス需要

缶詰工場 CGS+高効率ガスボイラ 884 BBTU

表 9.4 ビツン潜在需要 詳細

*1 北スラウェシ州政府開示データ

*2 CGS(ガスエンジン式)の能力を①~③は 5,750kW相当、④・⑤は 1,500kW相当、

かつ年間稼動時間を 4,112hと想定し算出。

図 9.9 ビツン潜在需要 詳細(分布図)

① ② ③ ④ ⑤

年間生産量*1 【t/y】 34,400 15,000 12,000 7,500 6,000

年間需要想定 【MMBTU】

高効率ガスボイラ(A) 135,334 59,012 47,210 29,506 23,605

CGS*2(B) 189,638 189,638 189,638 60,127 60,127

CGS 排熱回収量(C) 26,575 26,575 26,575 10,118 10,118

TOTAL(A+B-C) 298,397 222,075 210,273 79,515 73,613

Page 80: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-9

表 9.5 マナド、ビツン、リクパンの3地域の天然ガス潜在需要 まとめ

地域 想定される主なガス需要 年間天然ガス需要

マナド 商業用(総合病院、ショッピングモール、ホテ

ル)での CGS+廃熱利用ガス吸収冷凍機の導入 1,085 BBTU

ビツン 産業用(缶詰工場)での CGS+高効率ガスボイラ

の導入 884 BBTU

リクパン 商業用(ホテル)での CGS+廃熱利用ガス吸収

冷凍機の導入 85 BBTU

合計 2,054 BBTU

9.1.2.4 需要の上振れ・下振れリスク分析

北スラウェシ州北部3地域の天然ガス潜在需要は表 9.5 のとおりだが、この天然ガス需要の

上振れ・下振れリスク分析について以下に記述する。

[上振れの可能性]

まず需要の上振れについては、表 9.6のとおりの可能性が考えられる。

表 9.6 天然ガス需要の上振れの可能性 まとめ

地域 天然ガス需要上振れケース

共通 北スラウェシ州に散在している既存のディーゼル発電設備の

燃料転換による天然ガス利用

マナド

空調以外の、業務用厨房などへの天然ガス導入(LPG の代替)

延床面積 100,000m2未満のショッピングモールや4ツ星以下の

ホテルなど、規模の小さい商業用施設も含めた天然ガスの普及

ビツン

缶詰工場以外の産業への天然ガス導入(ディーゼルの代替)

新規工業団地への電力用や、その入居企業への産業向け天然ガス

導入(ディーゼルの代替)

リクパン 空調以外の、業務用厨房などへの天然ガス導入(LPG の代替)

リゾート開発により将来建設される新規ホテルへの天然ガス導入

[下振れの可能性・リスクと、その対策]

次に需要の下振れについてだが、各地域共通して、今回の潜在需要想定は厳密な現場調査に

基づくものではなく、調査で明らかになった各施設の延床面積や営業時間、または工場の生産

量などに日本での事例を引用して天然ガス需要を算出していることから、実態との多少のずれ

が考えられる(ただし、上振れる可能性もある)。

Page 81: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-10

なお北スラウェシ州北部3地域での天然ガス潜在需要のベースを表 9.5のとおり年間で

2,054 BBTU(LNG換算で約 41,000t)と想定していることから、詳細は 9.2節に記載するが、

このような比較的小規模な需要地に LNGを届けるため、今回の北スラウェシ州での天然ガス

普及事業モデルの検討では、ISOコンテナによる LNG の輸送を想定している。

しかし小規模需要地での事業性確保の観点で ISOコンテナでの輸送を想定しているとは言え、

ベースとしている天然ガス需要はあくまで潜在的な需要のため、あまりにも実際の需要が下振

れた場合には、経済性が見合わなくなるリスクがある。

その対策としては、潜在需要を確実な需要とするために、補助金活用など北スラウェシ州

政府の後押しによってコージェネレーションシステムの導入を促進することが有効な対策と

考えられる。

その他、需要の確実性の観点では、やはり電力需要を取り込むことが有効と考えられるため、

前述の上振れの可能性にも記載した通り、北スラウェシ州に散在する既存のディーゼル発電

設備の燃料転換によって天然ガスを導入することが出来れば、安定的かつある程度まとまった

量の天然ガス需要を確保することが可能である。

9.2 LNG 輸送方法の検討

9.1 節で北スラウェシ州北部の3地域(マナド、ビツン、リクパン)での天然ガス潜在需要

を算出したが、本節では、それぞれの地域までのガス供給方法の検討について記載する。

9.2.1 日本の事例

まずは日本の事例を紹介する。日本で利用される天然ガスの 97%を占める輸入 LNG は、LNG

一次受入基地で受け入れられた後、気化器で気化され、都市ガス用として熱量調整・付臭が

施された上で、パイプラインにより需要地に輸送される。ただし事業性の観点から、大きな

ガス需要を見込めない地域へはタンクローリー等設備投資が少額となる輸送方法を一般的に

適用する。LNG を内航船、鉄道貨車で輸送し、現地基地(サテライト基地)で気化・供給する

場合もある。

図 9.10 日本での一般的な LNG製造・供給フロー

出典:清水エル・エヌ・ジー株式会社

Page 82: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-11

9.2.2 北スラウェシ州での検討

北スラウェシ州での検討に戻る。まず、今回の北スラウェシ州での天然ガス普及事業モデル

の検討では、インドネシア国内産の天然ガスを使用することを前提とした。東部インドネシア

地域に洋上天然ガス発電プラント(Floating Power Plant:FPP)や FSRUが配備されれば、そ

れら各サイトのいずれかから LNGを輸送することが可能だが、今回の検討では、既に LNG出荷

設備を有しているボンタン・バダック LNG基地を供給元として想定した。

また表 9.5が示す通り、ベースとなる北スラウェシ州での天然ガスの潜在需要は決して大き

くはないため、従来型の LNG船の使用や北スラウェシ州に LNG 受入基地を建設するのでは投資

コストが見合わないことが予想される。

そこで、小規模な量からでも LNGの輸送が可能で、かつ、そのままストレージとしても活用

できる ISO コンテナに着目した*。

具体的な LNG輸送スキームは、図 9.11、図 9.12が示すとおり、ボンタン・バダック LNG

基地から ISO コンテナで LNGを北スラウェシ州まで輸送し、各需要地にはサテライト基地を設

け、トラックで ISO LNGコンテナを届ける想定とした。

また ISOコンテナの陸揚げについては、(1)マナド・ビツンの2港で陸揚げするケースと、

(2)ビツンのみで陸揚げするケースの 2ケースを検討した。

* その他の ISOコンテナによる LNG輸送の主な特徴は以下の通りである。ISO LNG コンテナ

の活用は、その簡便性と投資コスト抑制の観点から、小規模な需要地への LNG 供給に非常

に適していると言える。特に、既存のガスパイプライン網が全くない地域でも LPGのよう

に需要家まで天然ガスを届けることが出来るため、インドネシアの都市ガス化への寄与度

が高いものと思料する。

[その他の ISOコンテナによる LNG輸送の主な特徴]

専用船を用意する以外にも、既存の定期コンテナ船に混載を行うことで、さらに投資

コストを最小限に抑えることが出来るため、非常に小規模な需要地へ LNGを輸送するこ

とも可能である。(ただし混載の場合、日本では高圧ガス保安法により他のコンテナ

貨物から一定の離隔距離を取る必要がある。インドネシア国内の規制に関しても、検証

が必要。)

また ISO コンテナは 1 本当たりの容量の小ささ(40ft サイズでも 18 トン程度)から、

基本的に輸送中に BOG処理を行う必要が無く、輸送オペレーションが容易である。(LNG

自身の冷熱によって気液平衡状態が続くため。)

港で陸揚げ後、再充填等の必要がなく、そのままトラックに積み替えて陸送が可能で

ある。

Page 83: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-12

(1)マナド・ビツン2港揚げケース

(2)ビツンのみで陸揚げするケース

図 9.11 LNG輸送スキーム イメージ図

Page 84: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-13

図 9.12 ガスコージェネレーションシステム導入 イメージ図

9.2.2.1北スラウェシ州3地域への LNG輸送コスト

表 9.5 の天然ガス需要を前提とし、前述の LNG 輸送スキームを適用した場合の北スラウェシ

州3地域への LNG輸送コストについて、使用船舶の容量もケース分けして表 9.7 のとおり 4

ケースでの算出を行った。

Page 85: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-14

表 9.7各検討ケースの前提条件

ケース1 ケース2 ケース3 ケース4

LNG 需要 ・マナド 1,085 BBTU/年

・ビツン 884 BBTU/年

・リクパン 85 BBTU/年 合計:2,054 BBTU/年

ISO コンテナ

必要本数

・マナド 1,241 本/年

・ビツン 1,011 本/年

・リクパン 98 本/年 合計:2,350 本/年

配送ルート 1. ボンタン LNG 基地 – ボンタン

コンテナヤード

(陸上輸送)

2. ボンタンコンテナヤード – ビ

ツンコンテナヤード

(海上輸送)

3. ビツンコンテナヤード – マナ

ド/ビツン/リクパン需要地

(陸上輸送)

1. ボンタン LNG 基地 – ボンタン

コンテナヤード

(陸上輸送)

2. ボンタンコンテナヤード – マ

ナド港

(海上輸送)

3. マナド港 – マナド需要地

(陸上輸送)

4. マナド港 – ビツンコンテナヤ

ード

(海上輸送)

5. ビツンコンテナヤード – ビツ

ン/リクパン需要地

(陸上輸送)

使用船舶 内向コンテナ船

(新造)

80×40ft ISO

コンテナ

内向コンテナ船

(新造)

150×40ft ISO

コンテナ

内向コンテナ船

(新造)

80×40ft ISO

コンテナ

内向コンテナ船

(新造)

150×40ft ISO

コンテナ

* 採用した ISOコンテナの仕様は、40ft サイズのもので、MMBTU/ton=51、ton/ISOタンク=18

の前提を置いている。

算出に当たっては、北スラウェシ州の将来の需要量が各需要地で仮に 2倍になるケースも

併せて計算を実施した。

結果は表 9.8のとおりであり、表 9.7のとおりの現状需要想定量においては、ケース 1が

最も競争力があるが、需要量が 2倍に増えた場合には、ケース2が最も競争力がある結果と

なった。

Page 86: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-15

表 9.8各検討ケースでの北スラウェシ州3地域への LNG 輸送コスト算出結果

ケース1 ケース2 ケース3 ケース4

マナド

①現状需要量 4.79 USD/MMBTU 6.37 USD/MMBTU 4.94 USD/MMBTU 6.45 USD/MMBTU

②需要量 2倍 4.67 USD/MMBTU 4.12 USD/MMBTU 4.82 USD/MMBTU 4.20 USD/MMBTU

ビツン

①現状需要量 4.75 USD/MMBTU 6.33 USD/MMBTU 4.90 USD/MMBTU 6.41 USD/MMBTU

②需要量 2倍 4.63 USD/MMBTU 4.08 USD/MMBTU 4.78 USD/MMBTU 4.16 USD/MMBTU

リクパン

①現状需要量 4.94 USD/MMBTU 6.53 USD/MMBTU 5.09 USD/MMBTU 6.61 USD/MMBTU

②需要量 2倍 4.82 USD/MMBTU 4.26 USD/MMBTU 4.97 USD/MMBTU 4.34 USD/MMBTU

[補足]

* ボンタンコンテナヤードは、現時点で建設途中だが、2020年に完成予定と言われている。

* あくまで輸送コストのみの算出であり、LNG の調達コストおよび LNG 充填費用は織り込ん

でいない。

* また、各港においては、ISOコンテナを陸揚げ後、トラックに即積み込みを行うことで、

コンテナヤードにて保管料が発生しない前提としている。

* ISO コンテナはリースにより調達を行うこととし、そのリース料を仮に 1本あたり 60 USD/

日とした。

* 各港では 1回の寄港当たり USD 10,000の費用が掛かる前提とした。

* またリース本数については、寄港ごとに LNG 充填された ISOコンテナの積み下ろしと空の

ISO コンテナの回収を行うオペレーションを想定し、表 9.9のとおりの本数を用意するこ

とを前提とした。

表 9.9各検討ケースでの ISO コンテナリース本数

ケース1 ケース2 ケース3 ケース4

① 通常需要量 160本 300 本 160 本 300 本

② 需要量 2倍 320本 300 本 320 本 300 本

* ケース1とケース3においてリース本数が 2倍となっている理由は、需要量を現状想定の

2倍(必要 ISOコンテナ数も 2倍)とすると、ケース 1とケース3の船型(80×40ft)で

は、ISOコンテナを 1年間で全量配送することが出来ず、コンテナ船が 2隻必要となるた

め。

Page 87: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-16

9.2.2.2 LNG輸送コスト算出結果の分析

繰り返しになるが、北スラウェシ州3地域への LNG輸送コスト算出結果は表 9.8のとおりで

あり、現状需要想定量ではケース 1が最も競争力があるが、需要量が 2倍に増えた場合には

ケース2が最も競争力を持つ。

なおケース3・ケース4(マナド・ビツンの2港揚げ)が、ケース1・ケース2(ビツンの

みでの陸揚げ)に比べてコスト高になっている理由は、2港揚げによる航行距離の増加に伴う

燃料費増と、マナド寄港に伴う追加港費がありながらも、陸揚げ後の需要地への陸上輸送費用

において、ビツンのみでの陸揚げと差が生じないことが想定されるためである。

この想定の背景は、一般的に輸送距離が短くなれば輸送量は安くなるはずであるものの、

北スラウェシ州の陸上輸送業者はビツンに集まっているという情報を得たことから、マナド内

における輸送だとしても、結局ビツン-マナド間の輸送料と同程度の費用が生じると考えられ

ることである。

以上から、北スラウェシ州での天然ガス普及事業モデルの検討においては、ビツンのみでの

陸揚げを前提とし、かつ、現状の需要想定では(80×40ft)の船型を使用することが望ましい

が、需要量が現状想定の 2倍にまで上振れすることが見込める場合には、(150×40ft)の船型

を使用することが望ましい。

また、ISOコンテナのリース料の低減により、さらに輸送コストを削減することが可能であ

るため、北スラウェシ州での天然ガス普及事業モデルをさらに深掘りしていく際には、必要な

本数の ISO コンテナを全量州政府が所有し、事業者は相場よりも低廉な価格でリースを受ける

ことができる、といったスキームを州政府に提案し、協力を取り付けることも、事業化を目指

す上で一つの検討要素となろう。

9.3 現地調査

9.3.1 北スラウェシ州知事との面談

2019 年 12月 4日、インドネシア現地の民間エネルギー企業の協力を得て、オリイ北スラウ

ェシ州知事に面会し、9.1 節の天然ガス需要および 9.2 節の LNG輸送スキームの想定に加え、

後述の 9.4節のエネルギー高度利用のコンセプト提案を取り入れた北スラウェシ州での天然ガ

ス普及事業モデルのプレゼンテーションを行うとともに、本モデルの事業性をより具体的に

調査するために、北スラウェシ州政府へのサポートを要請した。

オリイ州知事からは、サプライチェーン下流側の具体的な天然ガス利用先とその需要想定を

行った本提案に対するサポーティブな反応とともに、今後本モデルの事業性をより具体的に

調査する上で検討チームが訪問をしたい機関/施設/潜在需要家のリストを北スラウェシ州

政府に提出すること、また併せて、北スラウェシ州の投資調整庁(BKPM)を通して、検討チー

ムが事業検討実施を行う旨のレターを北スラウェシ州政府に正式に提出することの要請を受

けた。

Page 88: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-17

図 9.13 オリイ北スラウェシ州知事との面談

9.3.2 その他現地調査

北スラウェシ州での天然ガス普及事業モデルの、より詳細な検討を行う上での各機関/施設

/潜在需要家への訪問は、前述のとおり北スラウェシ州政府の正式なサポートを受けてから

実施することとなり、本事業調査期間においては、表 9.10の日程で北スラウェシ州現地の

様子を視察した。

表 9.10 北スラウェシ州現地視察行程

日付 内容

2019 年 12月 4日 ビツンの新規工業団地開発予定地の視察

ビツンの港湾を視察

2019 年 12月 5日 マナドの港湾を視察

リクパンのリゾートホテルを視察

9.3.3 ビツンの新規工業団地開発予定地の視察

ビツンの新規工業団地開発予定地は、2018年にも一度現地視察を行っている。しかし前回か

ら 1年経過したものの、今般の視察では工業団地開発予定地の様子に変化は見られなかった。

今後、北スラウェシ州政府のサポートを受け、本工業団地開発を担当するデベロッパーに

進捗状況を確認する。その他、2018年には建設中であったマナド-ビツン間の高速道路が完成

していることを確認したが、営業はまだ開始されていなかった。

図 9.14 新規工業団地開発予定地

* ゲートと管理事務所は存在するものの、土地の造成等は未だ行われていない様子だった。

Page 89: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-18

9.3.4 ビツン港の視察

9.2.2 項で記載のとおり、北スラウェシ州天然ガス普及事業モデルでの LNG 輸送スキームで

は、ISOコンテナの使用を想定しているため、ビツン港のコンテナヤードを視察した。

図 9.15 のとおり、ビツン港ではガントリークレーン等の設備や、大規模なコンテナヤード

を確認した。

図 9.15 ビツン港

9.3.5 マナド港の視察

9.2 節の LNG輸送スキームの検討において、マナド・ビツンの2港揚げよりも、ビツンのみ

で ISO コンテナを陸揚げする方が輸送コストを抑えられる結果にはなったが、マナド港を仮に

利用するとした場合にその機能を有しているのか、確認を行った。

マナド港は現在、旅客ターミナルと漁港が存在するのみで、いわゆる貨物ターミナルの機能

は有していない模様。ただし 2018年の現地調査時に、将来的にビツンのコンテナヤードの

機能をマナドに移転する計画を聴取している。

また上述の通り既存のコンテナヤードは存在していないものの、港には図 9.16 のとおり

広いスペースが存在し、ISOコンテナの保管場所として利用可能性があることを確認した。

図 9.16 マナド港

9.3.6 リクパン・リゾートホテルの視察

前述のとおり、リクパンは将来的なリゾート開発予定地域として、2019年にジョコウィドド

Page 90: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-19

大統領が視察に訪れるほど有望視されている。

今回、北スラウェシ州での天然ガス普及事業モデルの潜在需要先の一つでもあり、上述のジ

ョコウィ大統領も訪れた、Paradise Hotel & Resort を訪問した。

なお 2018年の現地調査でもリクパンを訪問したが、ジョコウィドド大統領訪問の効果か、

今般の現地調査ではリクパンの道路整備が格段に進んでいることを確認した。またリクパンに

は PLN 所有の変電所が存在しているが、2018 年の現地調査時には無かった太陽光発電設備が

変電所に隣接して建設されていたことを確認した。

Paradise Hotel & Resort ではホテルマネージャーにインタビューを行った。聴取内容は

以下のとおりである。

周辺のホテルも同様だが、Paradise Hotel & Resort の電力は PLNの系統電力から供給を

受けており、ガスは調理用に LPGを使用している。

リクパンは北スラウェシ州の中心部からは離れているため、調理用の LPG供給の不安定さ

が課題となっている。

将来のリゾート開発によって、周辺に5ツ星ホテルも含め、新しいホテルの建設が進んで

いく見通し。

今後、Paradise Hotel & Resortへ新しいエネルギー供給システムの構築を提案するので

あれば、その際はホテルオーナーに話を通してもよい。

図 9.17 PLNの変電所と、隣接された太陽光発電設備

9.4 日本の実例から見た更なるエネルギー高度利用

9.3.1 項で触れているとおり、本章で検討した北スラウェシ州での天然ガス普及事業モデル

には、9.1 節の天然ガス需要および 9.2 節の LNG 輸送スキームの想定に加えて、日本の実例か

ら見た更なるエネルギー高度利用(LNG 冷熱の冷凍倉庫・製氷への利用)のコンセプトを取り

入れることを検討した。以下に詳細を記述する。

Page 91: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-20

9.4.1 日本のエネルギー高度利用例

まずは日本の実例を紹介する。

なお 9.1節の天然ガス需要算出の前提としているガスコージェネレーションの利用も厳密に

はエネルギーの高度利用と言えるが、ここではその他の例を示す。

[エネルギーマネジメントシステム:EMS]

まずはエネルギーマネジメントシステム(EMS)を紹介する。EMS は、電気、ガス、熱などの

エネルギーの見える化や設備の最適運用などを実現するシステムのことである。

情報通信技術(ICT)を用いてエネルギーの使用状況を適切に把握・管理することで、需要

家の手を煩わせることなく省エネおよび負荷平準化など、エネルギーの効率的な利用を実現す

ることができる。

なお、EMSを活用し、エネルギーを効率的に使う社会システムを「スマートコミュニティ(ス

マートシティ/タウン)」と呼ぶ。

具体的な事例として、日本のエネルギー・ユーティリティー企業では、T-グリッドシステム

*の採用による、クラウド型 EMSを活用した、マンションと一戸建を複合したスマートタウン

を展開している。

* T-グリッドシステムは、マンションの各戸に燃料電池を設置し、マンション内の余剰宅か

ら不足宅へ電力を融通しあうことで更なる省エネと CO2 削減を可能とし、外部からの電力

購入量を大きく低減する。

図 9.18 マンション内電力融通システム「T-グリッドシステム」概念図

出典:静岡ガス株式会社

Page 92: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-21

図 9.19 「電力融通」概念図

出典:静岡ガス株式会社

[バーチャルパワープラント:VPP]

次に、バーチャルパワープラント(VPP)について紹介する。世界的に温室効果ガス削減が

叫ばれている中、日本では 2011年の東日本大震災以降、温室効果ガスの排出量は増加してお

り、2013年度には過去最高の排出量を記録した。

その解決策の一つとして太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電の積極的な

導入が検討されているが、電気は常に需要と供給のバランスをコントロールする必要があるに

も関わらず、再生可能エネルギーの多くは天候や気温など、自然の影響を大きく受けるため、

発電量が大きく左右されることが避けられないという課題がある。

その課題を解決する方法が VPPである。VPPは「仮想発電所」という名前のとおり、最適な

電力需給バランスを実現するために、分散型の発電設備、電力貯蔵設備、需要家の EMS などを

高度なエネルギーマネジメント技術で遠隔・統合制御し、あたかも一つの発電所のように機能

する仕組みである。

つまり VPPは、再生可能エネルギーによる発電に併せて、コントロール可能な分散型発電

設備を集約して需給調整を行うことができるのである。

そのため日本では、VPPが電力の需給バランスを効率良く経済的に最適化させる役割を果た

すとして注目されている。

Page 93: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-22

図 9.20 VPP イメージ

出典:「エネルギー革新戦略」の検討状況 | 資源エネルギー庁

[LNG 冷熱利用]

最後に、LNGの冷熱利用について紹介する。約-162 ℃の LNG は、通常 LNG 受入基地で再ガ

ス化されて、需要家に供給される。この際に LNG の持つ冷熱エネルギーの大部分は、海水や

空気などの加温流体に放出されるが、LNG 1 トンを再ガス化する際に放出される冷熱エネルギ

ーは約 48MJ(約 20,000 kcal)にも達するため、この冷熱エネルギーは、未利用エネルギーとし

て可能な限り有効利用することが課題となっている。

日本で LNGの冷熱を利活用しているのは大手のエネルギー・ユーティリティー各社が所有す

る全国 6箇所の LNG基地で、液体窒素/酸素等の産業ガスの製造、冷凍倉庫、冷熱発電が複数

の基地で行われ、エチレンプラントでの活用、プラスチックの破砕なども行われている。

上述のとおり冷熱利活用はいくつかの用途に分類できるが、最も多い活用事例は産業ガスヘ

の応用で、次に冷熱発電があり、冷凍倉庫への利用、ドライアイス、その他と続く。

冷熱発電を除けば、いずれも、LNG 基地あるいは発電所で必要なものではなく、LNG 基地や

発電所が位置する場所に立地する他産業に合わせて計画されている。

Page 94: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-23

図 9.21 LNG 冷熱利用例

9.4.2 インドネシアでのエネルギー高度利用の可能性検討

ICT の発達によりインドネシアでも将来的に EMSや VPP の活用が期待されるが、9.4.1 項で

紹介したエネルギー高度利用の中でも、足元のインドネシアの課題解決に最も寄与するだろう

と推測されるのが、LNG冷熱利用、とりわけ、冷凍倉庫・製氷への活用である。

インドネシア政府は 2014 年に策定した「中期国家開発計画(2015‐2019) 」(RPJMN)におけ

る政府の役割の一つとして国家の均衡の維持への貢献を掲げており、地域間の開発格差の縮小、

地方部における生活水準の改善を優先目標にしている。

特に開発が遅れている周縁部離島における公共施設の整備や水産業振興による雇用創出は

国内の安定に寄与する戦略的成長セクターと位置付けており、インドネシアの水産行政を所掌

する海洋水産省(KKP)では、2015 年から 2019 年の優先課題として、国境付近の 15離島に

総合海洋水産センター(SKPT)の設置計画を進めている。

Page 95: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

9-24

この計画は水産施設の整備に加え、離島の経済活性化のため、水産物の高付加価値化や島外

への水産物の流通等を整備するものであり、インドネシア政府は同計画 15島の中で、特に

漁場が豊かで漁業開発の潜在性が高く、漁業に依存している 6島(サバン、ナツナ、モロタイ、

サウムラキ、モア、ビアク)における SKPT 及び市場の整備を日本政府に要請したことから、

現在、国際協力機構(JICA)がインドネシアの離島における水産セクター開発計画に対する

支援事業を展開している。

このような背景から、特に東部インドネシアの離島に LNGが届けられる場合は、LNG 冷熱を

冷凍倉庫や製氷に利用することで、これまで保存方法が無く腐らせてしまっていた水産物を冷

凍して流通することを可能とし、当該地域の水産業振興に大きく貢献することが可能と考えた。

北スラウェシ州でも、特にビツンは前述のとおり PPS にも指定されている大型漁港であり、

既に冷凍倉庫は存在しているものの、LNG 冷熱という未利用エネルギーの活用でランニング

コストを低減することで、さらなる冷凍倉庫・製氷設備の拡充を図ることが可能と考える。

9.5 天然ガス普及によるインドネシアへの発展寄与の考察

天然ガスの普及が当該地域にもたらす効果について、一義的には国産の天然ガスを普及させ

ることで輸入 LPGの使用を抑制することが出来、それに掛かる補助金の削減に貢献が可能であ

るということに加え、前述のとおり、ミクロな観点では、当該地域には LNG冷熱利用による

水産業振興が考えられるほか、9.1.2 項で述べているとおり、天然ガスの導入、とりわけ、

コージェネレーションシステムを活用することによって、「低炭素」・「省エネルギー」・「エネ

ルギーセキュリティ強化」を達成することが可能である。

世界的な動きとして、温室効果ガスの削減は、今後益々各国の課題と認識されていくことが

予想され、インドネシアでも、早期にこの課題に取り組む姿勢が見られている中、天然ガスの

普及は、その一助となるはずである。

なお、インドネシアではまだコージェネレーションシステムの開発、設計、エンジニアリン

グ、製造、運転、メンテナンスに必要な技術を持った人材が限られているが、このようなコー

ジェネレーションを用いたガスエンジンのエネルギー最適利用に関する高度なノウハウは現

在日本企業が世界をリードするところであり、インドネシアでの導入に当って日本企業が技術

力の点で他国と差別化を図ることも可能と考える。

またコージェネレーションシステムの普及が進めば、設計技術とともに高度なメンテナンス

技術の現地移転が進んでいくことが予想されるため、コージェネレーションシステムの運転員

や各機器のメンテナンス要員の採用など、現地での新規雇用機会の創出にも貢献することが

可能である。

なお、ここまでに検討してきた天然ガス普及事業モデルは、北スラウェシ州以外でもその

地域の状況に合わせた展開が可能である。インドネシアの発展のためにも、各地で本章記載の

コンセプトが実現されていくことを期待する。

Page 96: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

10-1

10. 小規模サイトの経済性改善策検討

PLN の発電設備新設計画のうち、計画発電容量が 20MW 以下を「小規模サイト」と定義し、

その経済性を向上・改善するための方策を検討した。以下に小規模サイト名、計画発電容量、

現時点での予想稼働率と発電容量を示す。

表 10.1 小規模サイト - PLN 発電設備新設計画

LNG は大型 LNGC(LNG Carrier)により、インドネシア国内の LNG 液化基地より輸送され、

LNG 配送用 HUB基地に設ける FSU(Floating Storage Unit)に貯蔵される。HUBから各発電設

備サイトへの配送は小型の LNG船を用いて行う計画であるが、小型 LNG船が着岸可能な水深

の岸壁と、LNGを受け入れ・貯蔵する設備が必要である。小規模サイトにおいては、岸壁

設備、貯蔵設備の建設に必要な費用に対する取り扱い LNG量の比が中・大規模サイトに比べ

て少ないため、発電単価にしめる設備償却コストの割合が大きくなり、発電単価が高くなる。

この点を改善するために、受け入れ設備・貯蔵設備の建設に必要な費用を低減する検討を

小規模サイトについて行った。

① LNG の輸送・貯蔵を ISOコンテナにし、輸送船を小型のコンテナ船あるいは自走式のバ

ージとすることで、水深が浅く、安価な岸壁設備でも荷役が行えるようにする。

② LNG の貯槽を設けず貯蔵設備を ISO コンテナとすることで、設備の建設費を低減する。

一方、LNG電力の需要を拡大するために、ホテル・病院・ショッピングモール・工業団地

等に、高効率コジェネレーション設備を導入し、LNG の ISOコンテナを配送、貯蔵、ガス化

PLN発電設備新設計画 計画発電容量 予想稼働率 稼働発電容量(小規模サイト名) (MW) (%) (MW)

1 Tobelo 1 10 18% 1.82 Tobelo 2 20 6% 1.23 Fak-Fak 10 32% 3.24 Bula 10 25% 2.55 Bacan 10 21% 2.16 Sanana 10 33% 3.37 Morotai 10 45% 4.58 Kaimana 10 38% 3.89 Namlea 10 41% 4.1

10 Saumlaki 10 38% 3.811 Dobo 10 43% 4.312 Seram 20 29% 5.813 Serui 10 37% 3.714 Merauke 2 20 37% 7.415 Merauke 20 36% 7.216 Langgur 20 33% 6.6

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10-2

して発電に用いる事で、エネルギー利用効率の向上をはかると同時に、LNG の利用を発電

以外に拡大し、総合的な LNGの需要増により経済性をあげるため、以下の方策が考えられる。

魚缶詰工場に LNGの ISOコンテナを配送、貯蔵、ガス化して、自家発電・ボイラー

燃料に使用

発電所での LNG ガス化の際の冷熱を利用して、冷媒を冷やし、冷凍倉庫・製氷工場等

へ供給、冷熱を有効利用

町村部の家庭用燃料(LPG の代替)としてガス導管を敷設して都市ガスを供給

中小店舗、施設、家庭用燃料として、LNG の小型ボトル(ボンベ)を配送

沿岸部で、漁業等に必要な浄水が入手困難な場合、海水淡水化の小型装置を用いて

浄水製造(淡水化装置に電力を供給)

これらを踏まえて小規模サイトの一事例としてモロタイ・サイト(モロタイ島)について

検討を行った。モロタイは漁場が豊かで漁業開発の潜在性が高く、漁業に依存している 6島

(サバン、ナツナ、モロタイ、サウムラキ、モア、ビアク)の1つである。現在、国際協力機

構(JICA)がインドネシアの離島における水産セクター開発計画に対する支援事業を展開し

ている。

10.1 小規模発電所の経済性確認

1) モロタイの現状

漁業を中核産業とした地域であり、漁港が沿岸部に点在している。人口密集は Duruba

地区の都市部のみで、点在している各漁港近傍には数百戸規模の集落がある。漁村部には

自然エネルギー利用の発電設備として、太陽光パネルと数百 KWクラスのディーゼル発電を

組み合わせたハイブリッド発電所が 2か所ある。(Wawama村、Juanga村)

新設の PLNガス火力発電所は島の南部、半島部の東海岸に立地の計画がある。観光施設と

して、数軒のホテルがあり、リゾート型のホテルは南部西海岸の Juanga村近郊、中部東海岸

の BuhoBuho村近郊に存在している。モロタイ島南東部には、海洋水産省(KKP)により、

総合海洋水産センター(SKPT)の漁業産業地区が計画され、開発中である。(SKPT Morotai)

Page 98: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

10-3

図 10.1 モロタイ地図、SKPT の場所

2) 発電所立地・規模

LNGの ISOコンテナを小型コンテナ船又は自走式バージで配送し、発電所敷地内に貯蔵、

ガス化して 1.5MWクラスのパッケージ型ガスエンジン発電機(複数)に供給する発電設備の

構成を検討した。現在の予想発電需要 4.5MWに対応するため、1.5MW のパッケージ型ガスエ

ンジン発電機を 4機設置し、稼働率約 70%で対応可能とした。ISOコンテナは予想発電需要

を満たすため、18基貯蔵、約半数を 8日毎に入れ替える。また、将来の電力需要増加に対応

できるよう、発電機・ISO コンテナ貯蔵のスペースに余裕を設けた。発電所のサイトは PLN

計画の場所(南部半島部東海岸 Juanga 地区)ではなく、コンテナ荷役に好都合な SKPT 漁業

産業地区近傍とした。

Page 99: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

10-4

図 10.2 SKPT地区開発予定と発電所の立地(Google Earth に記入)

すでに計画され、開発中の SKPT Morotaiの区割り・設備配置を下図に示す。建設中の

突提は小型コンテナ船又は自航式バージ船の係留、ISOコンテナの荷役・輸送に十分な設備

と考えた。地区内には、250 トン容量の冷凍倉庫が既に存在しており、新設冷凍倉庫は 200

トン容量が 2棟、新設製氷工場は日産 10トンが各々計画されている。

Page 100: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

10-5

図 10.3 SKPT Morotai Zone Layout/2018 時点の状況・予定設備配置

(出典):Buka Rencana/Review dan Penyempurnaan Masterplan dan Bisnisplan PSKPT di Kabupaten Plau Morotai/ BAB06 (SKPT=Sentra Kelautan dan Perikanan Terpadu)

Page 101: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

10-6

3) 計画設備概要

今回計画した設備の概要を以下に示す。あくまで種々の条件を仮定して、計画したもので、

具体化にあたってはさらに詳細な調査・検討が必要である。

- LNG はコンテナ輸送用の小型コンテナ船又は自航式バージ船で運搬、8日周期で

SKPT の桟橋で荷役、トラック輸送し、発電所敷地内に貯蔵。18基貯蔵し、8日間で

約 9基分を消費し、入れ替える。

- 気化器は空気加熱式、発電機は 1.5MWを 4ユニット設置。

- 電力は送電設備を介して島内グリッドに接続・送電する。

- 気化冷熱を利用した、冷媒冷却装置を設置。冷媒は配管により、SKPT地区の冷凍倉庫、

及び製氷工場等に供給される。

設備構成と流れ図、および概略の発電所敷地・配置計画を以下に示す。

図 10.4 発電所 流れ図(Block Flow Diagram)

Overview of Small Scale LNG Distribution Network at MorotaiMorotai island Duruba province (population approx. 48,000 ) Power supply and Cold chain application

Power Distribution for 48,000 population

4 Power Units

E. Power

Small Scale LNG distribution Terminal

9 Containers to be replaced every 8 days

GAS

18 Conatiners LNG Storage LNG

LNG

LNG

(Future Space)

Cold Chain application Option

Refrigerated Storage

Refrigerant Supply

Refrigerant Return

Cold Chain application Option

Ice Maker for fishery use

Refrigerant Supply

Refrigerant Return

Gas Engine Generator1.5 MW unit

LNG ISO Container40' class

LNG Vaporazer(Air heater type)

LNG ISO Container40' class

LNG ISO Container40' class

Heat Exchangerfor Cold Chain

LNG ISO Container40' class

Page 102: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

10-7

図 10.5 発電所 敷地・配置図(Foot Print )

4) LNG Containerの供給

LNG ISOコンテナは、中・大規模サイトに設置される LNG HUB 基地において充填され、

輸送される。地理的な観点から、Kendari を HUBと仮定し、検討した。

航路は Kendari HUB – Morotai – Tobelo – Bacan – Sanana – Kendari HUB

の回航ルートを想定した。以下の図に想定した航路・距離を示す。

Morotai

Foot Print of LNG Container based Power station (4 GEG Units) Approx. 100m x 100m

Power to Grid

Power Delivery Container access road

Yard

Gas Engine Generator

Mainte

Access LNG ISO Container Storage

road Gas Engine Generator Control House

Office

Gas Engine Generator

Gas Engine Generator

Vaporizer

Container access

Refregerant Unit road

to/from

Cold Storage and/or

Ice Maker

Page 103: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

10-8

Kendari HUB – Morotai – 550 nm(海里) Morotai – Tobelo – 40 Tobelo – Bacan – 300 Bacan – Sanana – 130 Sanana – Kendari HUB - 230

図 10.6 Kendari LNG HUBからの航路(Google Earthに記入)

以下に述べる発電単価の推算にあたっては、上記の回航航路費用を各サイトへのコンテナ

配送数により配分した数値を用いた。

5) 発電単価の推算

設備構成を基に、CAPEX・OPEXを推算の結果、発電単価は前述の単価に比べ低減が可能で

ある。発電単価の構成は以下とした。

(CAPEX)

(1)発電所建設費用

- 発電機(ガスエンジン)1.5MW x 4基

- LNG気化器

- ISOコンテナ 18基

- 送電設備

- 防消火・保安設備、その他付帯設備

- 土木、配管、電気、計装工事を含む発電所建設工事

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(2)岸壁整備費用は SKPTの岸壁を使用するため、費用は無しとした。

(3)冷熱利用のための設備費用は含まない。

(OPEX)

(1)LNG ISOコンテナ輸送費

- HUBでの LNG充填費用

- Container 輸送船回航費用

- SKPT 岸壁でのコンテナ荷役費

- 発電所・岸壁間のトラック輸送費

(2)発電所の運転・保守管理費

10.2 可能投資額に合った設備導入及び運用形態

小規模サイトの発電単価及び中・大規模サイトの発電単価をあわせて総合的に評価し、

事業として経済性が成り立つことを確認する。

10.2.1 可能投資額の検討

PLN の発電設備計画全体について、小・中・大規模サイトについて、概算で CAPEX・OPEXを

算出し、発電単価の比較を行った。あわせて、想定されるサイトを組み合わせた場合の総合

評価を行った。全 22サイトについて、各サイトの発電設備、LNG 貯蔵・ガス化設備、LNG

受入れ設備、港湾設備を概略計画し、合計の CAPEX、OPEXを算出した。この際、LNGの配送

方法・ルートを下図のように仮定して各配送ルート毎に配送コストを推算し、取り扱い LNG で

比例配分した。

なお、中規模サイトではあるが、地理的に小型 LNGCの入港は困難と判断していた Timika

については、河口付近に小型 LNG船が入港できると考えて、第3章に述べた小型 LNG船によ

るミルクランの経路に含める事とした。Timikaで LNG ISOコンテナに充填の上、近隣の小規

模サイトに輸送する計画とした。

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10-10

(1)■Kendari HUB - Makassar - Kalsel –Kendari HUB (2)■Kendari HUB – Halmahera Weda/Buli bay – Ternate (3)■Ternate – Ambon – Timika – Kendari HUB 総航海距離は約 4500海里、一航海は 18日間。(1)と(2)の間で HUBにて LNGを積み増しする。

図 10.7 LNG配送ルート(中・大規模サイト・小型 LNG 船)

■Kendari HUB – Morotai – Tobelo – Bacan – Sanana – Kendari HUB 総航海距離は約 1250海里、一航海は 8日間。

図 10.8 LNG配送ルート(小規模サイト、(1)コンテナ船又は自航式バージ)

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10-11

■Kendari HUB – Serui – Fak Fak – Bula – Seram –Kendari HUB 総航海距離は約 2400海里、一航海は 12日間。

図 10.9 LNG配送ルート(小規模サイト、(2)コンテナ船又は自航式バージ)

■Timika – Merauke – Saumlaki – Langgur – Dobo – Kaimana - Timika 総航海距離は約 1900海里、一航海は 11日間。

図 10.10 LNG配送ルート(小規模サイト、(3)コンテナ船又は自航式バージ)

Page 107: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

10-12

10.2.2 小規模発電所の設備導入検討

モロタイを事例に小規模サイトへの発電その他を含めた設備導入により、LNG 需要の創設

と経済性改善を検討した。

1) 発電設備

新設発電所は短時間での設置、運転開始が可能なパッケージ型ガスエンジン発電機を

使用する。すでに発電設備(デイーゼル燃料)がある場合は、ガス燃料方式への改造、ま

たは置き換えを実施。いずれの場合も LNG ISOコンテナを発電所内に貯蔵し、ガスを供給

する。将来の電力需要増加に対しては、発電パッケージの増設、ISO コンテナ供給量の増加

にて対応が可能。

(モロタイでの事例)

SKPT地区 新設発電所 6 MW

Wawama村 既設発電設備(燃料転換) 300 KW

Juanga 村 既設発電設備(燃料転換) 600 KW

2) 冷熱利用

新設発電所では、LNGを気化器に供給する手前に冷媒冷却器を設置し冷媒を近隣に新設

予定の漁業関係の冷凍倉庫及び製氷工場に供給する。既設発電所での発電を LNG に転換し

た場合も、同様の冷媒冷却器を用いて冷媒を小規模の製氷工場に供給し、漁業用の氷製造

に資する。

(モロタイでの事例)

SKPT地区 新設冷凍倉庫 400 ton

SKPT地区 新設製氷工場 6 t/日

3) コジェネレーション

現存、あるいは将来開発が見込まれるリゾートホテル等、比較的大規模な施設にコジェ

ネレーション設備を導入し、LNG ISO コンテナ から供給されるガスにより自家発電、さら

にコジェネレーション・システムによる空調、温水供給等によりエネルギーの有効活用を

実現する。

(モロタイでの事例)

Juanga地区 既設リゾートホテル

BuhoBuho地区 既設リゾートホテル

4) 都市ガス

パイロットプロジェクトとして小規模の村・町に都市ガス導管を敷設し、ガス供給をす

る。小規模発電・コジェネレーション用に気化したガスの一部を都市ガス導管網に供給する。

現状は高価な LPGを家庭用に使用しているが、代替燃料としての LNG 利用を促進する。

(モロタイでの事例)

Wawama 村 (小規模発電 300KW) 約 350戸(推定人口 2,000人)

Juanga 村 (小規模発電 600KW) 約 250戸(推定人口 1,500人)

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10-13

Buho Buho地区 既設リゾートホテル近傍の村

(自家発電・コジェネ) 約 300戸(推定人口 1,800 人)

5) 小型 LNGボトル(VGL)配送事業

ISO コンテナから小型の LNGボトル(VGL)に LNGを充填し、現在 LPGボトルを使用して

いる需要家に配送する。中小規模の施設の LPG代替燃料としての LNG 利用を促進する。LNG

VGL 充填ステーションを設置しトラックで各需要家に配送する。

(モロタイでの事例)

SKPT地区 新設発電所内に充填装置を設置

6) LNG による発電設備及びその他の活用による経済効果

将来、電力需要の伸長が見込まれるが、現在需要は小さい地域では、少ない初期投資で

事業が開始でき、必要最小限の設備で運用が可能である。設備は需要に応じて、容易に

増設できるメリットがある。発電以外の事業は、多様な地域産業の創設・伸長に寄与する

ため、地域全体に経済効果をもたらす。

10.2.3 小規模発電所の運用形態検討

発電事業、LNGコンテナ配送事業、その他の活用事業の切り分けについて検討した。多岐

にわたる事業展開であり、それぞれの地方の特殊性もあるので、具体的な切り分けについて

はサイト毎に検討が必要である。

Page 109: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

10-14

表 10.2 主な事業項目及び資産項目の一覧表

No 小規模サイト事業 事業内容 資産

1 発電 LNG貯蔵・気化・発電・電力供給・送電 発電所・ISOコンテナ

2 LNGコンテナ配送(海上輸送) 荷役(港)・海上輸送 輸送船

3 LNGコンテナ配送(陸上輸送) 荷役(サイト)・陸上輸送 トラック

4 LNG HUB LNG受入れ・貯蔵・LNG払出・ガス供給 FSU・HUB設備・マリンハウス・

海底 P/L・海底ケーブル

5 LNGコンテナ充填 充填 充填設備

6 LNG気化冷熱供給 冷媒冷却・冷媒供給 冷媒冷却設備・冷媒供給管

7 冷凍倉庫 冷凍保管 冷凍倉庫・冷凍機

8 製氷工場 製氷・氷輸送 製氷機械

9 缶詰工場 缶詰・LNG気化 ボイラー・ISOコンテナ

10 コージェネレーション装置 発電・コジェネ・LNG気化 コジェネ装置・ISOコンテナ

11 町村部ガス供給 ガス供給 ガス導管

12 小型 LNGボトル配送 LNGボトル充填・ボトル配送 LNGボトル

一例として想定事業体の区分を示す

表 10.3 想定事業体区分(一例)

No 小規模サイト事業 事業内容 事業体

1 発電 LNG貯蔵・気化・発電・電力供給・送電 電力会社(PLN等)

2 LNGコンテナ配送(海上輸送) 荷役(港)・海上輸送 LNG配送会社

3 LNGコンテナ配送(陸上輸送) 荷役(サイト)・陸上輸送 LNG配送会社

4 LNG HUB LNG受入れ・貯蔵・LNG払出・ガス供給 LNG配送会社

5 LNGコンテナ充填 充填 LNG配送会社

6 LNG気化冷熱供給 冷媒冷却・冷媒供給 電力会社(PLN等)

7 冷凍倉庫 冷凍保管 冷凍倉庫会社

8 製氷工場 製氷・氷輸送 製氷会社

9 缶詰工場 缶詰・LNG気化 缶詰会社

10 コージェネレーション装置 発電・コジェネ・LNG気化 ホテル等の事業体

11 町村部ガス供給 ガス供給 ガス会社

12 小型 LNGボトル配送 LNGボトル充填・ボトル配送 ガス会社

LNG 配送会社にはこの事業の要として、LNG の需要拡大を画し、事業全体の管理を担う事

が求められる。また、各地方政府の理解と協力が不可欠であり、法整備、条例の制定などが

必要であると考える。

Page 110: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

11-1

11. 相手国関係者に対しての報告会

三菱重工業株式会社、静岡ガス株式会社及び丸紅株式会社は、日尼政府間協力の枠組み

におけるプログラム・ミッション・チーム(PMT)のメンバーとして、日尼合同作業部会に

事業性調査・検討結果を報告した。

Page 111: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

12-1

12. CO2排出量の削減等、環境社会面への影響評価

尼国の気候変動対策について、尼国初となる NDC(Nationally Determined Contribution)

が 2016年 9月に提出されている。これによると、2030 年迄の排出削減として、BAU比で

29%(条件なし、CM1)、41%(条件付、CM2)の削減目標を掲げている。エネルギー部門

における削減対策ついては、2014年に施行された「National Energy Policy(政令

No.79/2014)」に基づき、以下のようなエネルギーミックス(一次エネルギーベース)を

設定している。

・新・再生可能エネルギー: 2025年に少なくとも 23%、2050年に少なくとも 31%

・石油: 2025年に 25%未満、2050年に 20%未満

・石炭: 2025年に最低 30%、2050年に最低 25%

・ガス: 2025年に最低 22%、2050年に最低 24%

また、NDCの Annexとして、BAUと各対策シナリオ(条件付、条件なし)の想定が示さ

れている。想定される対策として、ガス火力発電に関する記載はないが、ガスサプライ

チェーンに関する施策が示されている。ガス供給網と CNGステーションの整備は、現在

使用されている石油及び石油製品(ガソリンやディーゼル燃料等)の利用を代替させる

施策であり、上述の長期目標での一次エネルギーベースの石油消費抑制の具体的施策とし

て位置づけられていると考えられる。

BAU としては実施されないガスサプライチェーン整備について、緩和シナリオでは条件

付き(CM1)、条件なし(CM2)のいずれのシナリオでも 100%の達成と位置づけられている。

本事業は、ガスサプライチェーン構築に大きく貢献する事業であり、長期での気候変動

対策にも貢献する事業であると言える。

洋上天然ガス発電プラントは、主に尼国の島嶼部へ導入するものである。島嶼部では

ディーゼル発電による電力供給が主力であり、これを天然ガス発電へ代替することによる

CO2 排出削減効果を推計した。CO2 削減量は、2025年時点で約 214万トン/年となった。

政府のエネルギー・輸送部門における CO2削減目標 3,800万トンの約 5.6%に相当する削減

量となる。

また、SO2、NOx、ばいじん等の大気汚染物質については、尼国では「大気汚染の防止に

関する政令(1999年)」に基づいて全国での環境基準が定められている。火力発電所から

排出される大気汚染物質については、「火力発電所の活動における固定発生源からの排出

基準に関する環境大臣規制(2008年)」で規定されている。

洋上天然ガス発電プラントの導入は、島嶼部におけるディーゼル発電をガス火力発電所

へ代替するものであり、尼国での SO2、NOx、ばいじんの低減に資するものである。

Page 112: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

13-1

13. 日本企業の優位性、日本への裨益の検討

日本企業は、特に LNGインフラに関する広範な技術ノウハウを包括的に有している一方、

海外ではそういった企業は見当たらない。したがって、本事業は日本企業の総合的技術力

を存分に活かすことができる分野であり、本実施可能性調査をベースとした横展開が大い

に期待できる。また、本事業の実施によりガス供給インフラ設備と浮体式発電設備、更に

は、インドネシア島嶼部におけるコールドチェーン、産業用電源、民生用コージェネレー

ション等の関連設備の輸出が見込まれると共に、我が国においても尼国におけるエネルギ

ー安全保障強化によるエネルギー価格の安定化が見込まれる。

Page 113: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

14-1

14. まとめ

本 FS では、尼国東部島嶼部における小型 LNGキャリア及び FSRUを使用した LNG海上

輸送によるバーチャルパイプライン、土地収用の問題を回避するために海上設置の浮体式

ガス火力発電設備を設置すること(LDPP:LNG Distribution & Power Plant)の事業性調査

を実施した。調査の結果、LDPP事業は尼国の中期開発計画(RPJMN)、電力マスタープラン

(RUKN)および PLN計画(RUPTL)と十分な親和性を有する。また、今後国家戦略的イン

フラ案件(PSN)リストに含まれる可能性もある。未だ海洋空間計画(RTRL)や沿岸・諸島

ゾーニング計画(RZWP3K)には含まれていないものの、PSN 案件として見なされる場合は

許認可取得プロセスを加速させることができる。尼国政府の意向の通り、本事業の主な

目的は東部インドネシア、とくに電化率が低いエリアへの裨益である。本調査では当該

エリアをセグメント Bと分類し、対照的に比較的まとまった規模の電力需要のあるサイト

をセグメント Aと分類している。

セグメント Bへのガス供給を実現するには、3-in-1ハブ基地、小型 LNG船、ISO タンク

による配送システムが推奨される。同インフラは上流のガス供給および下流の発電との間

のギャップを埋める。よって、ミッドストリーム・インフラと呼ばれる。当ミッドストリ

ーム・インフラは尼国へ大きな便益をもたらす。ディーゼルからのガス転を促進すること

により発電コスト(COE)を下げるとともにディーゼルの輸入超過にかかる貿易赤字を

改善する。電力の安定供給は経済成長促進へ貢献する。また、再ガス化時に発生する冷熱

を有効活用することにより漁業セクターを支え、LNG VGLの供給は観光セクターの発展に

裨益する。経済便益は十分であり(暫定的な事業スコープを用い経済的内部収益率が 16%)、

公共事業として優先実施するに値する。

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別添 3-1 尼国 PPP関連規制の構成

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Appendix 1: Related PPP Regulations Framework in Indonesia

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別添 8-1 HUB のブロックフロー図

Page 117: 令和元年度 質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた ...3.12 AMDAL と環境許可発行の手続きと期間 図 3.13 需要カテゴリーの初期想定

Typical facility BLOCK FLOW DIAGRAM of HUBBlock Flow Diagram HUB

(LNG-Carrier) (Small LNGC)

Mooring Jetty LNG Carrier/Small LNGC side FSU Support Platform Trestle

Mooring Jetty FSU side

FSU

135,000M3Power Station(by PLN)

Gas supply piping to shore Gas supply piping to Power StationGas supply to FPP

Power transmmission cable to shore

FPP-GTCC Mooring Jetty(s) Future

Power transmmissionsystem

FPP-GTCC(s) Powerconnectionto grid

Power Grid

Re-Gas Module

BOG Booster Compressor

Gas Engine Power Generator

Power to FSU

LNG transfer piping (FSU to Re-gas Module)

Frequency Converter Power from Onshore Power Station

BOG from FSU

LNG transfer piping (LNGC to FSU)/ (FSU to Small LNGC)

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別添 8-2 大型 LNG船の概況

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8-2-1

(1)大型 LNG船概況

2018年末時点で竣工済みの大型LNG船(40,000m3以上)の隻数は525隻(発注残110隻)

で、LNG需要の増加に伴い増加している。大型 LNG船は Tangguh等の LNG積出港から需

要地へ大量輸送する際に使用される。大型 LNG 船はタンク形式と推進システムにおいて

目覚ましい技術革新が進んでおり、様々なシステムが存在している。そのため、旧型の

LNG 船は新型の LNG 船に比べ燃費が著しく悪く、FSU 等へ改装して再利用されるケース

が出てきている。

(2)大型 LNG船のタンク形式

大型 LNG船隊のタンク形式は冷凍タンクで、メンブレン型とモス型に大別される。

メンブレン型は LNG船隊の約 67%が採用しており、タンク内面がメンブレンと呼ばれる

薄いステンレス鋼で覆われている。スロッシング(タンク内貨物液の揺動)による影響を

受けるため、積み付け制限がある。モス型はアルミ合金製の自立球型タンクで、スロッ

シングの影響を受けないことから積み付け制限がない。故にモス型の方が FSU に適して

いると思われる。各タンク形式とも防熱処理が施されているが、自然入熱により蒸発

(ボイルオフ)が発生。旧型 LNG船の Boil-Off Rateは 0.15%/日程度だが、近年防熱

性能が向上し、Boil-Off Rate は 0.08%/日程度となっている。

図 8-2-1 タンク別構成比

出典 IGU 2019 World LNG Report

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8-2-2

(3)大型 LNG船の推進システム

LNG 船の推進システムは技術革新により燃費が大きく向上している。1990年代までは

LNG 船の推進システムは蒸気タービン(Steam Turbine)が主流であったが、2000 年代か

ら二元燃料ディーゼル機関電気推進(DFDE)が普及をはじめ、最近では低速ディーゼル

二元燃料機関 (高圧 ME-GIと低圧 X-DF)が主流になりつつある。

表 8-2-1 大型 LNG船推進システム

推進システム 説明

蒸気タービン

(Steam Turbine)

混焼ボイラーで蒸気タービンを動かし、プロペラ軸を

減速機で駆動

二元燃料ディーゼル機関

電気推進 (DFDE)

軽油・ガス燃焼が可能なディーゼル発電機から電動

モーターへ給電し、プロペラ軸を減速機で駆動

二元燃料ディーゼル機関

電気推進 (TFDF)

重油・軽油・ガス燃焼が可能なディーゼル発電機から

電動モーターへ給電し、プロペラ軸を減速機で駆動

再液化装置付き

ディーゼル機関 (SSD)

大型低速ディーゼル機関。再液化装置でボイルオフガス

を再液化するため、ガスを燃料として使用しない。

再熱式蒸気タービン

(RST)

従来の蒸気タービン機関の熱効率を向上

STaGE USTと DFDEを組み合わせたシステム

低速ディーゼル二元燃料

機関(高圧) (ME-GI)

重油・ガス燃焼が可能な大型低速ディーゼル機関で、

プロペラ軸を直接駆動。ガス燃焼を高圧噴射する。

低速ディーゼル二元燃料

機関(低圧) (X-DF)

重油・ガス燃焼が可能な大型低速ディーゼル機関で、

プロペラ軸を直接駆動。ガス燃焼を低圧噴射する。

図 8-2-2 推進システム別構成比

出典 IGU 2019 World LNG Report

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8-2-3

図 8-2-3 推進システム別燃費比較

出典 IGU 2019 World LNG Report

表 8-2-2 大型 LNG船写真

船名 Arctic Voyager Tangguh Jaya Patris

タンク

容量 142,930 m3 154,810 m3 173,400 m3

タンク

形式 モス型 モス型 メンブレン型

推進

システム ST DFDE ME-GI

造船所 川崎重工業 三星重工業 大宇造船

全長 289.50 m 285.101 m 294.90 m

型幅 48.40 m 43.40 m 46.40 m

総トン数 120,236 t 101,158 t 114,758 t

出典 川崎汽船