松村雅文(編集委員会) · 星科学会の紹介のため、同会の研究会のプロ...

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30稿 天文教育 2013 3 月号(Vol.25 No.21993 3 月号と 2003 3 月号 20 年前と 10 年前の「天文教育」~ 松村雅文(編集委員会) 1. はじめに 20年前や10年前は、「天文教育」誌にはど んな記事が掲載されていたのでしょうか。 前回[1]は、20年前の199212月号と、10 年前の20031月号の記事を紹介しました。 その原稿の作成時、最初は楽しみながら書い ていました。しかし、執筆しているうちに、 20年前や10年前の記事とは言え、客観的に紹 介することは、実はとても難しいことに気が ついてきました。これは、私の力量の限界に よるのですが、別の理由としては、物事を客 観的に評価するには、 20年や10年の時間はま だまだ短い、といったこともあるように思え ます。紹介する内容はどうしても私自身の主 観が入ってしまい、不十分なものにならざる を得ません。異論反論があれば、どうぞ会誌 にご投稿ください。 このような制約つきで恐縮ですが、今回は 19933月号と20033月号を見てみましょ う。前回と同様、支部会や観望会等の報告は 省略しています。 2. 20年前:19933月号 1 は、20 年前(1993 3 月号)の「天 文教育普及研究会回報」(「天文教育」の旧称) No.11)の表紙です。この号の主な記事は、 次のようなものでした。 (1) 原著論文:身障者用天体観測装置の試作 II 天体望遠鏡の製作 (根岸 ) (2) 「天文教育・普及の直面する問題―いま、 天文関係者のやるべきこと」のフォーラ ムとポスター 1 1993 3 月号の表紙 (3) 天文台ブームはこんな問題も引き起こした ―新聞記事から発した展開 (黒田武彦) (4) 茶話会「天文雑誌を斬る」詳報(鈴木文二) (5) 外惑星の年周視差 (佐藤明達) (6) コロンブスの航海 (斎藤馨児) (7) 日本惑星科学会について (1)では、望遠鏡がどの方向を向いても、観 測者の目の高さが一定に保てるように、望遠 鏡の支柱が上下に昇降できる望遠鏡システム を製作したことについての論文です。車椅子 が望遠鏡架台の脚にあたらないように、観測

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Page 1: 松村雅文(編集委員会) · 星科学会の紹介のため、同会の研究会のプロ グラムが掲載されました。 3. 10年前:2003年3月号 次に、10 年前の2003

-30- ■ 投 稿 ■

天文教育 2013年 3月号(Vol.25 No.2)

1993年 3月号と 2003 年 3月号 ~20 年前と 10 年前の「天文教育」~

松村雅文(編集委員会)

1. はじめに

20年前や10年前は、「天文教育」誌にはど

んな記事が掲載されていたのでしょうか。

前回[1]は、20年前の1992年12月号と、10

年前の2003年1月号の記事を紹介しました。

その原稿の作成時、最初は楽しみながら書い

ていました。しかし、執筆しているうちに、

20年前や10年前の記事とは言え、客観的に紹

介することは、実はとても難しいことに気が

ついてきました。これは、私の力量の限界に

よるのですが、別の理由としては、物事を客

観的に評価するには、20年や10年の時間はま

だまだ短い、といったこともあるように思え

ます。紹介する内容はどうしても私自身の主

観が入ってしまい、不十分なものにならざる

を得ません。異論反論があれば、どうぞ会誌

にご投稿ください。

このような制約つきで恐縮ですが、今回は

1993年3月号と2003年3月号を見てみましょ

う。前回と同様、支部会や観望会等の報告は

省略しています。

2. 20年前:1993年3月号

図 1 は、20 年前(1993 年 3 月号)の「天

文教育普及研究会回報」(「天文教育」の旧称)

(No.11)の表紙です。この号の主な記事は、

次のようなものでした。

(1) 原著論文:身障者用天体観測装置の試作

II 天体望遠鏡の製作 (根岸 潔)

(2) 「天文教育・普及の直面する問題―いま、

天文関係者のやるべきこと」のフォーラ

ムとポスター

図 1 1993年 3月号の表紙

(3) 天文台ブームはこんな問題も引き起こした

―新聞記事から発した展開 (黒田武彦)

(4) 茶話会「天文雑誌を斬る」詳報(鈴木文二)

(5) 外惑星の年周視差 (佐藤明達)

(6) コロンブスの航海 (斎藤馨児)

(7) 日本惑星科学会について

(1)では、望遠鏡がどの方向を向いても、観

測者の目の高さが一定に保てるように、望遠

鏡の支柱が上下に昇降できる望遠鏡システム

を製作したことについての論文です。車椅子

が望遠鏡架台の脚にあたらないように、観測

Page 2: 松村雅文(編集委員会) · 星科学会の紹介のため、同会の研究会のプロ グラムが掲載されました。 3. 10年前:2003年3月号 次に、10 年前の2003

1993年 3月号と 2003年 3月号 ~20年前と 10年前の「天文教育」~ -31-

天文教育 2013年 3月号(Vol.25 No.2)

床を製作したことも合わせて報告されていま

す。車椅子でも観測できるための装置として

は、今なら”ワンダーアイ”など、様々な工夫

がされていますが、先駆けとなった研究だと

思います。

(2)は、第3回目になった天文教育フォーラ

ム(相模原市市民会館での日本天文学会 1993

年春季年会で開催)[4]への問題提起です。最

近では、天文の研究者と教育普及の関係者の

合同の問題を議論する、というスタンスで行

われる場合が多いです。しかし、ここでは、

天文研究者に教育普及の意識を持ってもらい

たい、という当会側の意図が強く表れていた

ように思われます。

(3)は、新聞の取材と報道に関し、朝日新聞

1993 年 1 月 19 日の記事の問題を指摘したも

のです。実は、(3)は伏字が多く、これだけで

はその内容は明確に判りませんが、ある望遠

鏡メーカーについての上述の新聞記事の内容

は、正確ではなかったということです。

(4)のタイトルは少し物騒です。この記事は、

当時発行されていた三つの天文雑誌(「天文ガ

イド」、「月刊天文」、「スカイウォッチャー」

の各誌1)の編集者と天文教育普及関係者の意

見交換の報告でした。この意見交換会は、各

雑誌と天文教育普及の発展のために批判的に

意見を交換するという意図だったようです。

しかし、タイトルとは正反対に、なんと主催

者側が編集者たちに斬られてしまった、とい

う“落ち”から、この記事は始まっています。

(5)は、外惑星の見かけの運動も、恒星の年

周視差と同じように解釈できるという指摘で

す。この話は、この著者も文献を引用してい

るように、古くから言われているようです。

(6)では、コロンブスが航海をしたとき、ど

のように経度を決定したのかは、明らかでな

1 「月刊天文」は 2007 年1月号から休刊。「ス

カイウォッチャー」は 2000 年 10 月号から休

刊(「星ナビ」が後継)。

いという問題が指摘されています。

(7)では、1992 年 4 月に設立された日本惑

星科学会の紹介のため、同会の研究会のプロ

グラムが掲載されました。

3. 10年前:2003年 3月号

次に、10 年前の 2003 年 3 月号(図 2)を

見てみましょう。この号は特集が二つもあり、

全 107 ページに及んでいます。

図 2 2003年 3月号の表紙

◎特集1 『すばる』や『ハッブル』を使い

こなせ! (関東支部報告から)

(1)すばる望遠鏡の教育・普及利用を目指して

(縣 秀彦・篠原秀雄)

(2)「未知の星雲を探せ!-すばるアーカイブ

は宝の山-」

(木村かおる・志岐成友・川井和彦)

(3)「ようこう」の教育・普及事業の成果

(矢治健太郎)

Page 3: 松村雅文(編集委員会) · 星科学会の紹介のため、同会の研究会のプロ グラムが掲載されました。 3. 10年前:2003年3月号 次に、10 年前の2003

-32- ■ 投 稿 ■

(4) 天文データセンターの紹介 (古荘玲子)

(5) HST の教育・普及活動 (永井智哉)

この特集は、2002 年 11 月 30 日に行われ

た関東支部集会の内容についてのものです。

すばる望遠鏡という日本が世界に誇る大望遠

鏡の成果を、如何に教育や普及に生かすのか、

他の観測機器のデータの利用も含めて、論じ

られています。

◎特集2

(6)詳報:2002 年度ノーベル物理学賞 (福江 純)

(7)日本のX線天文学,その歴史と成果 (小山勝二)

二つ目の特集は、 2003 年 1 月号に引き続

き、2002 年のノーベル物理学賞に関する X

線天文学の紹介になっています。X 線は直接

目に見えないため、馴染みが薄い感がありま

すが、2003 年 1 月号の記事と合わせて読む

と、世界と日本における X 線天文学の進展の

様子がとても良く判ると思います。

◎実践報告

(8) みんなで人間星座を作ろう

―大阪教育大学・スカイクルーの活動―

(内野有加・瀬野良子・横尾武夫)

(9) 小中学生のための天文学習教材(1)

(長島康雄・渡辺 章)

(10) 教員・社会人研究者たちによる共同研究

(大島 修)

(8)は、大阪教育大学の学生ボランティア集

団“スカイクルー”のメンバーが、懐中電灯

をもって星座の星の配列を再現する、という

“人間星座”の紹介です。

(9)は、ブルネオペーパーを用いての太陽黒

点の記録方法の紹介です。ブルネオペーパー

は、青写真(日光写真)用の教材として今で

も使われています。太陽黒点の記録にも使え

ることは、私自身は初めて認識しました。

2003 年 1 月号にも、食連星の研究の紹介

記事は載っていましたが、(10)では更に詳し

く紹介されています。大きな発見がなされた

ことの報告です。

◎連 載

(11)「天文学への道」第一回 林 左絵子さん

(富田晃彦)

(12)「星と☆形―The Symbol of Stars」第 4 章

(西村昌能)

(13) ちょっと気になる天文用語(小特集)

(福江 純)

(14) 読者の声:「ちょっと気になる天文用語」

への追加 (佐藤明達)

天文関係で仕事をするには?という疑問に

答える連載の一回目が、(11)の記事でした。

(12)は 2003 年 1 月号の続きで、ペンタグ

ラム(☆の形)が詳説されています。

(13)は、普通に使っている天文用語(星座

の名前、太陽系の天体の名前、etc.)の解説

です。(14)は、2002 年 11 月号の天文用語の

解説記事への追加の解説(投稿記事)です。

言葉一つをとっても、奥が深いですね。

文献等

[1] 松村雅文(2013)「天文教育」2013 年 1 月

号 (vol.23 No.1) 50-52

[2]「天文教育普及研究会」No.11 , 1993 年

3 月号 (vol.5 No.1 に相当)

[3] 「天文教育」2003 年 3 月号 (vol.15 No.2)

[4] 天文教育フォーラムのウェブページ

http://tenkyo.net/forum.html

松村雅文

天文教育 2013 年 3 月号(Vol.25 No.2)