教育itシステムとしてのgoogle classroom...

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ʲ  ݪஶʳ 教育ITシステムとしてのGoogle classroomとChromebook 山川 純次 Junji YAMAKAWA Google classroom and Chromebook as an Educational IT system 2019 岡山大学教師教育開発センター紀要 第9号 Reprinted from Bulletin of Center for Teacher Education and Development, Okayama University, Vol.9, March 2019

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【原  著】

教育ITシステムとしてのGoogle classroomとChromebook

山川 純次

Junji YAMAKAWA

Google classroom and Chromebook as an Educational IT system

2019岡山大学教師教育開発センター紀要 第9号 別冊

Reprinted from Bulletin of Center for Teacher Educationand Development, Okayama University, Vol.9, March 2019

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原  著【研究論文】

岡山大学教師教育開発センター紀要,第9号(2019),pp.1−12

教育ITシステムとしてのGoogle classroomとChromebook

山川 純次※1

 「2030年代を生きる力」と「働き方改革に利するITスキル」を教育するためのアクティブ・ラー

ニングをサポートする教育ITシステムの構築においてGoogle classroomとChromebookを検討し

た。教育クラウドプラットフォームのひとつであるClassroomと,Webアプリケーションを利用する

Chromebookを用いて教育ITシステムを構築すると低コストで導入と運用ができると考えられた。ま

たこの教育ITシステムはGoogleアカウントを経由して作業環境やデータ・ファイルをスマートフォ

ンとPCの間で同期するため,スマホ・ネイティブ世代の情報処理能力をスムースに拡張することが

できる。これにより国際化が要請されているスマホ・ネイティブ世代が経験するデジタル・デバイ

ドを軽減し,また2030年代に向けて我が国のビジネス・ワーカーが持つITスキルを向上させること

が期待される。

キーワード:アクティブ・ラーニング,教育ITシステム, Google classroom, Chromebook,スマホ・

ネイティブ世代

※1 岡山大学大学院自然科学研究科

Ⅰ 緒言 現在,我が国では学校教育において「2030年代を生きる力」と「働き方改革に利

するITスキル」を効率的に養成するために,教育ITシステムを再構築する必要性が

高まっている。

 文部科学省は,初等教育から高等教育までにおいて,アクティブ・ラーニングを

サポートするための学習支援システム(LMS)の導入を要請している1)。岡山大学では

オンプレミス(On-Premise)型LMSのWebClass2)やMoodle3)が導入されアクティブ・ラー

ニングがサポートされている4)。しかしこれらのLMSはコースの立ち上げや学習者の

登録そしてLMSサーバの維持管理に多大な労力を必要とするため教師の利用コストを

押し上げている。またこれらのLMSはスマートフォンとの親和性が低いため,ログイ

ンや講義資料のダウンロード,課題提出などの作業が煩雑となり,学習者の利用コ

ストを押し上げている。

 さらに我が国において2020年度より開始される「小学校プログラミング教育5)」を

実施するための教育ITシステムが検討されているが,これは高等教育においても重

要な課題である。しかしプログラミング教育に必要となるアプリケーションはイン

ストールと管理に多大な労力が必要であり,これが運用コストを押し上げている。

 一方,教育ITシステム端末である学習者用パーソナル・コンピュータ(学習者用

PC)は,起動の遅さや頻繁なアップデート作業によるネットワーク帯域の占有問題6),

そして高機能化したOSが求めるハードウェア要求水準の高さが教育現場での利用コ

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ストを押し上げている。つまり2018年現在,我が国で運用されている教育ITシステ

ムの多くは,教師と学習者の利用に於いて高コストであると言える。

 これらの状況に加えて,現代の学習者はスマホ・ネイティブ世代7)に属しているた

め,新たなデジタル・デバイドに直面している8)。これはスマートフォンを使った情

報処理に過剰適応する余り,メカニカル・キーボードとポインティング・デバイス

を備えた旧来型PCを利用した作業に支障が生じるというものである。

 これらの理由により現在,我が国では初等教育から高等教育までにおいてITスキ

ル教育が効果的に行われておらず,このことが我が国のビジネス・ワーカーが持つ

ITスキルを主要先進国最低レベルに留めている9)原因の一つと考えられる。したがっ

てスマホ・ネイティブ世代の情報処理能力を拡張する教育が強く要請されている。

 内閣府の調査によれば,学習者が教育ITシステムを利用する時間の8割程度はWeb

ブラウザ経由の作業である10)。また近年は教師や学習者が低コストで利用できるクラ

ウド型LMS(教育クラウドプラットフォーム)が登場している11)。総務省でも平成26年

度~ 28年度に先導的教育システム実証事業12)が行われ,教育クラウドプラットフォー

ムが次世代の教育ITシステムとして検討された。このプラットフォームはローカル・

サーバの管理を必要としないため導入と維持管理が容易である。さらにプログラミ

ング環境にもクラウドベースの統合開発環境(Web IDE)と呼ばれるシステム13)が登場

している。これらの新しい技術により,教育用ITシステムをWebブラウザを中心とし

たシステムに再構築することが容易な状況となっている。

 本稿ではGoogle社が提供する2つの教育用ソリューション,すなわちクラウド型

LMSであるGoogle Classroom14)とWebブラウザを中心としたPCであるChromebook15)を利

用した教育ITシステムの構築について検討した。

Ⅱ Google classroom1 Google classroomの概要

 Google classroom (以降はClassroomと省略)はG suite for Education16)を構成す

るソフトウェアの一つでクラウド型LMSの一つである(図1)。

 Classroomは岡山大学で運用されているオンプレミス(On-Premise)型LMSである

WebClassやMoodleとは対照的なLMSである。ClassroomはGoogle社より無償提供され

ており導入と利用のコストは発生しない。更にLMSサーバ・マシンの管理や更新,

LMSソフトウェアの更新などの管理コストも発生しない。Classroom上に構築する講

義である「クラス」に含まれる全ての学習教材はGoogle社が提供するクラウド・ス

トレージであるGoogle Driveに保存される。岡山大学ではG Suite for Educationを

利用するためのアカウントである岡山大学Googleアカウント17)が全教職員および全

学生に無料で提供されておりClassroomを直ちに利用できる状況にある。

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図1: Google classroom

 Classroomのデータ・セキュリティに関してはホワイト ペーパー 18)がGoogle社よ

り出されており,その内容から判断すると教育用ICTとして十分なセキュリティを備

えていると考えられる。

2 Classroomの利用

 Classroomが備える機能を具体的な利用例と共に示す。

 

1) まず準備として教員および学生が普段に使用しているGoogleアカウントに加えて岡山

大学Gmailアカウントの利用を開始する。教師,学生とも複数のGoogleアカウントを持つ

ことになるが実用上はそれほど混乱しない。教師,学生ともClassroomへ岡山大学Gmailア

カウントでログインする。

2) 教師はClassroomにクラスを設定するとクラスコードが発行されるので学生に通知す

る。学生はClassroomにクラスコードを入力して利用を開始する。コースへの学生の登録

作業は不要である。また岡山大学Google Classroomは岡山大学Gmailアカウントのみが登

録可能であり他のGmailアカウントでは登録できない。ただし登録後は学外からでも自由

にClassroomを利用できる。

3) 講義に必要な資料は教師がClassroomにアップロードする。講義資料のアップロードは

学外からでも可能である。学生はこれらの講義資料をスマートフォン等にインストールし

たClassroomアプリ経由で利用するが,スマートフォン等が十分な性能であれば印刷する

必要性は低い。

4) 課題がグループ・ワークの場合,学生はG Suiteの共同作業機能を利用してグループ毎

に作業ファイルをシェアし分担作業で取り組む。グループの学生が教室内で同時に作業す

ることも,別の時間に異なる場所で作業することもできる。分担作業が終了したら共有ファ

イルを各学生個人のGoogle Driveにコピーし更に加筆する。最後にファイル形式をPDFに

変換しClassroomに設定された「課題」トピックに提出する。提出時刻が記録され提出ファ

イルもClassroomに集約されるため,提出課題の管理も容易である(図2)。

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図2:課題提出画面

5) 教師は提出された課題を採点しClassroomの「返送」機能により学生に採点結果を通知

する。学生は採点結果を岡山大学Gmailで受け取る。

6) 講義期間中に課した全ての課題の採点結果一覧はClassroomの集計機能を使って表計

算用ファイルに書き出し,検討を加えた後に岡山大学の教務サーバに登録する。講義が

全て終了したクラスはアーカイブする。教師以外からクラスが見えなくなるが全内容は

Classroomに保存されているので再利用は容易である。

 この例で見られるようにClassroomはLMSとしての基本的な機能を備えている。ま

た他のLMSに比べて機能が限定されているため利用開始に必要な準備が少なく,講義

開講後のLMSクラス立ち上げも容易である。またGoogle Driveを介してG Suiteの各

アプリケーションと連携するためファイルのコピーやバージョン管理に関する作業

時間を短縮することが可能である。筆者が担当する講義(2018年度の鉱物結晶学およ

び鉱物結晶学実験)でClassroomを利用したが,授業アンケートによると概ね好評で

あった。

 Classroomにアップロードされた資料を講義中に閲覧する程度であれば2018年現在

で標準的なスマートフォンやタブレットの処理能力で十分である(図3)。

 しかし,情報検索やワード・プロセッシング,表計算そして画像編集やプログラ

ミング等を並列して高速に実行(マルチタスキング)するのは難しい。こういった作

業を遂行するために,スマートフォンで蓄積したデータをシームレスに利用しつつ

情報処理能力を拡張するデバイスの一つがChromebookである。

 

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図3:スマートフォンやタブレットによるClassroomの利用

Ⅲ Chromebook1 Chromebookの概要

 ChromebookはChrome OSがインストールされたPCの総称である(図4)。

図4:Chromebookのデスクトップ

 ChromebookはG Suite for Educationと親和性が高いため,アメリカ合衆国のK-12

教育市場では事実上標準の教育用PCとなりつつある。Futuresource Consulting

Ltd.の調査によると合衆国のK-12教育市場に向けて2016年に出荷されたPCの58% 19),

2017年に出荷されたPCの87%20)を占めている。

 ChromebookはChromeブラウザの動作に最適化されているため他のOSを搭載したPC

に比べてWebアプリケーションの動作が速い。エントリーレベルのChromebookでも

Webベースの対話型3次元結晶構造教材21)が問題なく表示と操作が可能である(図5)。

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図5:対話型3次元結晶構造教材 

 また軽量にも関わらず8時間前後の長時間駆動を実現している製品が多い。更に

ノートブック・タイプのPCとしては比較的低価格である。このため導入や運用が容

易であり,スマホ・ネイティブ世代が情報処理能力を拡張するために追加導入する

PCに適していると考えられる。

 Chromebookにスマートフォンで使用しているGoogleアカウントでログインすると,

個人設定,連絡先,ブックマーク,作業ファイルなどが連携される。このためスマー

トフォンで実行していた作業をシームレスに継続することが可能である。つまり「ス

マホで行った作業をChromebookで仕上げる」といった作業をスムースに実行できる。

またログインに使ったGoogleアカウントには更にChromebookにインストールしたソ

フトウェアなどの情報が追加される。これにより別のChromebookにログインした場

合も作業環境が直ちに再現され,作業ファイルのバージョン管理や作業環境の細か

い設定を揃える作業が不要となる。この機構により,たとえば使用中のChromebook

が故障しても代替のChromebookにログインすれば作業環境を完全に復元することが

可能となっている。またこの機構は,ChromebookをPCの取り扱いに慣れていない児

童や生徒のIT教育の現場で採用した場合,機器の破損やOSの不調などのシステム・

トラブルによる教育の中断を最小限に抑えること保証する。

 Chromebookは利用できるアプリケーションがWebアプリケーションのみであるため

自由度が低いと思われているが,2018年現在,既に様々な情報処理作業用のWebアプ

リケーションが登場しているため,Chromebookで実行できる作業は他のOSを搭載し

たPCに並びつつある。

2 Webアプリケーション

 WebアプリケーションはWebブラウザから利用するアプリケーションの総称である。

岡山大学に導入されているG Suite for Education16)もその一種であり,ワープロ,

表計算ソフト,プレゼンテーション・ソフトの他,電子メール・クライアントやカ

レンダー型スケジューラと大容量クラウド・ストレージが利用できる(図6)。

 

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図6: G Suite for Education 

 岡山大学で情報教育に用いられているオフィス・ソフトのデータ・ファイルと完

全な互換性を持たないが,文章作成やプレゼンテーションなどの作業は問題なく実

行できる。Webアプリケーションはインストールとアップデートの作業が不要なので

ソフトウェアの管理コストを大幅に圧縮できる。

 G Suite for Educationの利用技術が世界標準である点も重要と考えられる。筆

者の研究室ではフランスのグルノーブル大学,ポアチエ大学やソルボンヌ大学か

ら国際インターンシップ学生を受け入れているが,彼らは例外なくG Suite for

Educationの利用技術を習得しており,国際インターンシップ内容の充実に寄与して

いる。我が国の学生が一層に国際化するためには,これら国際標準となっている技

術の習得が必要と考えられる。

3 Web IDE

 Web IDEはWebアプリケーションの一種で,Webブラウザ上で動作するプログラミン

グ環境である。Web IDEにはソフトウェア開発に必要な機能の大部分が実装されてい

る。従来のプログラミング教育ではアプリケーション版IDEが用いられてきたが維持

管理コストが高い。これに対してWeb IDEでは維持管理作業が不要になる。

 Web IDEの一例としてGoogle Colaboratory22)を示す(図7)。このWeb IDEには

1. モダンな体系のプログラミング言語であるPythonの処理系

2. 優れた対話型ユーザ・インターフェース

3. Amazon Web Service23)やGoogle Cloud Platform24)へ発展する利用技術

といった機能が実装されている。Pythonは世界最大のソフトウェア開発者コミュニ

ティであるstack overflowの2018年度調査に拠ると世界で最も求められているプログ

ラミング言語の一つである25)。このため,2030年代を担う学習者が学ぶプログラミ

ング言語に適していると考えられる。

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図7: Google Colaboratory

 またWeb IDEの利用技術はAmazon Web ServiceやGoogle Cloud Platformといった

クラウド・コンピューティングの利用技術と共通である。クラウド・コンピューティ

ングは今後,急速な普及が見込まれており,その利用技術の習得は2030年代に我が

国の中核を担う学習者にとって有益であると考えられる。

4 Chromebookのセキュリティ

 Chromebookはユーザ・データをNote PC内部ではなくGoogle Cloud上に置く。

Google Cloudは,Ceph26)などのソフトウェアに代表されるオブジェクト・ストレー

ジ技術27)に基づき,ユーザ・データをチャンク(chunk)と呼ばれる小片に分割した上

で暗号化し,更に冗長性を持たせて複数のデータ・サーバに分散して記録する。こ

のため一箇所のGoogle Cloudサーバが不調になってもユーザ・データは安全に復号

化される28)。

 ChromebookはOSを収めたシステム・ファイル領域への書き込みをハードウェア機

構で制限している。この機構はWrite Protect Screwと呼ばれておりChromebook内部

の物理的なネジが構成パーツである29)。したがってChromebookのOSを改竄するため

には筐体を分解する必要がある。ダウンロードしたファイル等はハードウェアで暗

号化してユーザ・ファイル領域に保存されるため,Chromebookを分解してストレージ・

デバイスを取り出してもデータを閲覧する事は困難となっている。

 これらに加えてChromebookには最初からウィルス対策ソフトウェアが搭載されて

おり,ウィルス検出用ファイルはインターネット接続毎に更新される。またChrome

ブラウザも「サンドボックス」と呼ばれる機構を装備し,一つのタブがWebサイト閲

覧によりウィルスに感染しても他のタブには影響が及ばないよう配慮されている30)。

 以上の機構によりChromebookは強固なデータ・セキュリティを確保しており,教

育現場で必要とされるデータ保護に十分に応えるシステムとなっている。

 このようにChromebookは,インターネットを使った情報検索やワープロそして表

計算ソフトの利用技術に加えてプログラミング技術の教育にも利用でき,データの

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セキュリティも十分に配慮されているため,教育用ICTシステムとして十分な機能を

備えていると考えられる。

Ⅳ 総論 ClassroomとChromebookを利用した教育ITシステムは大幅な時短と費用削減の可能

性を持っている。Classroomは,

1. スマートフォンとの高い親和性

2. シンプルな機能

 (ア) コースの作成とアーカイブが容易

 (イ) 随時にコースを立ち上げられるので学務の集中を回避できる

3. クラスの管理が容易

 (ア) 提出物の管理が容易

 (イ) レポート採点通知が容易

 (ウ) 成績処理が容易

4. LMSの管理が不要

 (ア) LMSサーバの管理が不要

 (イ) 管理人による学習者の登録作業が不要

5. 高いセキュリティ

 (ア) Googleによる個人情報保護

 (イ) 岡山大学Gmailアカウント限定アクセス

といった特徴を備えており,LMSに関わる様々なコストの削減を可能にすると考えら

れる。一方Chromebookは

1. スマートフォンとのシームレスな連携

2. 高度なセキュリティ

 (ア) データ保護性能の高さ

 (イ) 自動アップデート

 (ウ) ウィルス対策が不要

3. C/Pの高いハードウェア

 (ア) 高速な動作

 (イ) 軽量かつ長時間駆動

4. Webアプリケーション利用による管理コストの低さ

5. G Suite for Educationとの高い親和性

6. Web IDEによる新世代プログラミング開発環境

といった特徴を備え,初等教育から高等教育までの情報教育で行われる,情報検索,

ワープロや表計算,作図,画像処理,プログラミングなどの演習は十分に行えるため,

スマホ・ネイティブ世代のIT処理能力を拡張する目的に適合すると考えられる。

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 これらの特徴によりClassroomとChromebookで構成された教育ICTシステムは低コ

ストで世界標準のITスキルを教育することが可能であると考えられる。そしてスマ

ホ・ネイティブ化する学習者が将来経験するであろう新たなデジタル・デバイドを

軽減し,我が国のビジネス・ワーカーのITスキル向上に資することが可能であると

考えられる。

参考・引用文献 1)  文部科学省(2015)「新しい学習指導要領等が目指す姿」中央教育審議会初等中

等分科会(第100回)配布資料,http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/

chukyo3/siryo/attach/1364316.htm,最終閲覧日 2018.9.20

2)  日本データパシフィック株式会社(2018)「WebClass」https://www.datapacific.

co.jp/webclass/,最終閲覧日 2018.9.20

3) moodle.org(2018)「Moodle」,https://moodle.org/,最終閲覧日 2018.9.20

4)  山川純次,柴田次夫(2012)「岡山大学理学部におけるe-ラーニングシステムの

導入と運用」岡山大学教師教育開発センター紀要,第二巻,第一号,120-125.

DOI : http://doi.org/10.18926/CTED/48200

5)  文部科学省(2018)「小学校プログラミング教育の手引(第一版)」http://

www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1403162.htm, 最 終 閲 覧 日

2018.9.20

6)  谷崎朋子(2018)「現場で戦う教員が明かす、高校の情報科教育とセキュリティ

対策の現状」http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1807/26/news007.html,

最終閲覧日 2018.9.20

7)  野田正彰(2009)「「スマホネイティブ世代」の今とこれから――『コンピュー

タ新人類の研究』から三〇年を経て」児童心理,第70巻,11月号,773-781, 金

子書房

8)  平井智尚(2018)「新しいデジタル・デバイドについての考察」慶應義塾大

学メディア・コミュニケーション研究所紀要 第59巻,157-167,http://www.

mediacom.keio.ac.jp/publication/pdf2009/hirai.pdf

9)  ガートナー・ジャパン(2018)「ガートナー、主要先進国のワークプレースに関

する実態調査結果を発表」https://www.gartner.co.jp/press/html/pr20180312-

01.html,最終閲覧日 2018.9.20

10)  内閣府(2013)「平成25年度青少年のインターネット利用環境実態調査報告書

(HTML版 )」http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h25/net-jittai/

html/2-1-2.html,最終閲覧日 2018.9.20

11)  総務省(2017)「先導的教育システム実証事業に係る成果物の公表」http://

www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu05_02000097.html, 最 終 閲 覧 日

2018.9.20

12)  総務省(2017)「先導的教育システム実証事業(平成26年度~ 28年度)」http://

www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/sendou.html, 最

終閲覧日 2018.9.20

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13)  Amazon Web Services, Inc.(2018)「AWS Cloud9」https://aws.amazon.com/

jp/cloud9/,最終閲覧日 2018.9.20

14)  Google (2018)「Google Classroom」https://edu.google.com/intl/ja/k-12-

solutions/classroom/,最終閲覧日 2018.9.20

15)  Google (2018)「Chromebook」https://www.google.com/chromebook/,最終閲

覧日 2018.9.20

16)  Google (2018) 「G Suite for Education」https://edu.google.com/intl/ja_

ALL/higher-ed-solutions/g-suite/,最終閲覧日 2018.9.20

17)  岡山大学情報統括センター (2018)「岡山大学Gmail」https://www.citm.

okayama-u.ac.jp/citm/service/gmail_home.html,最終閲覧日 2018.9.20

18)  Google (2018)「Google Cloudのセキュリティとコンプライアンスに関するホワ

イト ペーパー」https://static.googleusercontent.com/media/gsuite.google.

com/ja//intl/ja/files/google-apps-security-and-compliance-whitepaper.pdf

19)  Futuresource Consulting Ltd.(2017)「Sales of Mobile PCs into the US

K-12 Education Market Continue to Grow, As OS Battle Heats Up」https://

www.futuresource-consulting.com/Press-K-12-Education-Market-Qtr4-0317.

html,最終閲覧日 2018.9.20

20)  Futuresource Consulting Ltd.(2018)「Global K-12 Mobile PC Market

Projected to pick up in 2018, as Large National Projects Compensate the

Slow Down in the USA」https://futuresource-consulting.com/Press-K-12-

Education-Market-Growth-Forecast-in-2018-0318.html,最終閲覧日 2018.9.20

21)  山川純次(2013)「理科教育におけるWebベースの対話型3次元結晶構造教材」岡

山大学教師教育開発センター紀要,第三巻,第一号,27-31. DOI : http://doi.

org/10.18926/CTED/49484

22)  Google (2018)「Google Colaboratory」https://colab.research.google.

com/,最終閲覧日 2018.9.20

23)  Amazon Web Services, Inc.(2018)「Amazon Web services」https://aws.

amazon.com/jp/,最終閲覧日 2018.9.20

24)  Google (2018)「Google Cloud」https://cloud.google.com/, 最 終 閲 覧 日

2018.9.20

25)  stack overflow (2018)「Developer Survey Results 2018」 https://insights.

stackoverflow.com/survey/2018,最終閲覧日 2018.9.20

26)  Sage Weil (2007)「Ceph: Reliable, Scalable, and High-Performance

Distributed Storage」University of California, Santa Cruz.

27)  Tech Target Japan (2017)「いまさら聞けないオブジェクトストレージ入門」

http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1705/23/news01.html,最終閲覧日

2018.9.20

28)  Google (2017)「Google Cloud Platform での保存時の暗号化」 https://

cloud.google.com/security/encryption-at-rest/default-encryption/?hl=ja,

最終閲覧日 2018.9.20

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Page 13: 教育ITシステムとしてのGoogle classroom …ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56536/...WebClassやMoodleとは対照的なLMSである。ClassroomはGoogle社より無償提供され

山川 純次

29)  Kevin Fessler (2018)「Remove the Write Protect Screw」https://www.

ifixit.com/Guide/Remove+the+Write+Protect+Screw/8636,最終閲覧日 2018.9.20

30)  Google (2018)「Chromebook のセキュリティ」https://support.google.com/

chromebook/answer/3438631?hl=ja,最終閲覧日 2018.9.20

                                     

Google classroom and Chromebook as an Educational IT system

Junji YAMAKAWA*1

 The Google classroom and the Chromebook in constructing an educational

IT system were studied. The system will be used to support the active-

learning for educating “the power to live in the 2030's”and “IT skills for

the reforming of the working way”. The Classroom is one of the educational

cloud platform and the Chromebook is a low cost high performance PC system

that based on the Web-application. so It was thought that if the Classroom

and Chromebook will be used in the educational IT system, the cost of

introduction and operation of the system can be done at low cost.

 In addition, this educational IT system synchronizes work environment and

data files between smartphone and PC via Google account so that smartphone-

native generation's information processing ability can be smoothly expanded.

The system also will reduce the digital divide that experienced by the

smartphone-native generation where internationalization is being requested,

and it is expected to improve the IT skills of Japanese businesspersons and

workers toward the 2030's society.

Keywords: Active-learning, Educational IT system, Google classroom, Chromebook, Smartphone-native generation

*1 Graduate school of Natural Science and Technology, Okayama University

                                     

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