中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp ·...

120
中国市場開拓に挑む中小企業 2012年2月 日本貿易振興機構(ジェトロ) 生活文化産業部 海外調査部

Upload: others

Post on 28-Jul-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

中国市場開拓に挑む中小企業

2012年2月

日本貿易振興機構(ジェトロ)

生活文化産業部

海外調査部

Page 2: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、あるいは懲罰的損害

および利益の喪失については、一切の責任を負いません。これは、たとえ、ジェトロが

かかる損害の可能性を知らされていても同様とします。

Page 3: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

はじめに

日本が人口減尐局面となる中で、国内市場中心に事業展開してきた中小企業の事業環境

は厳しさを増しています。こうした中、日本の中小企業の間には、成長を続ける新興市場

開拓を通じて自社ビジネスの拡大を目指す動きが顕在化しており、とりわけ 2010 年に日

本を抜いて GDP 規模で米国に次ぐ世界第2位となった中国市場の開拓を目指す企業が増

えています。

しかし、海外でのビジネス経験が尐ない中小企業にとって、競争の厳しい中国での市場

開拓は容易なものではありません。ジェトロではこうした中小企業の中国市場開拓を支援

すべく、2010 年度から「アジア・キャラバン事業(中国)」を实施しており、2011 年度

は、33 都道府県から約 100 社の中小企業にご参加いただきました。

アジア・キャラバン事業は、日用品、化粧品などを扱う中小企業の中国市場開拓を支援

する事業で、上海に常設ショールームを開設して商談を支援するほか、2011 年度には、(1)

上海・天津・成都・武漢の4都市で商談会、(2)天津のほか武漢など内陸部の一大消費地

における日系および現地大手百貨店でのアンテナ販売、(3)中国全土をカバーするネット

販売など、さまざまなツールで企業の売り込みを支援してきました。

また、事業に併せて参加企業の中から 30 社に対して、現在の状況や市場開拓における

課題や留意点、今後の戦略等についてインタビューを实施いたしました。本報告書は各社

へのインタビューを通じて明らかとなった中国市場開拓における課題や留意点を検証する

とともに、各社の取り組みをケーススタディーとしてとりまとめたものです。

ご多忙な中、インタビューにご協力をいただいた企業の方々にこの場を借りて厚くお礼

申し上げます。本報告書が中国市場開拓を目指す中小企業の方々や中国にご関心のある

方々のご参考になれば幸いです。

なお、本文中の内容、名称、数値などは原則としてインタビュー实施時点のものである

ことを予めお断り申し上げます。

2012 年2月

日本貿易振興機構(ジェトロ)

生活文化産業部

海外調査部

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 4: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

< 目 次 >

第1章 中国市場開拓における課題と留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1.販売戦略策定時の課題と留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

(1)市場セグメント・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

(2)販売商品・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

(3)価格設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

(4)販売チャネル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

(5)プロモーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

2.市場参入後の課題と留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

(1)代金回収・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

(2)知的財産権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

(3)商習慣・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

(4)法規制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

(5)人材育成・人脈形成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

第2章 企業ケーススタディー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

1.インテリア・日用雑貨・ファッション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

(1) ディーティー・アンド・カンパニー(メガネケース) 千葉県習志野市 ・・・・・ 9

(2) ACCENT(インテリアファブリック・生活雑貨) 東京都渋谷区 ・・・・・ 13

(3) クレセル(温度計・湿度計) 東京都豊島区 ・・・・・ 16

(4) デメテル(テレビショッピング) 東京都豊島区 ・・・・・ 19

(5) 家田紙工(美濃和紙) 岐阜県岐阜市 ・・・・・ 22

(6) 江戸川物産(デザイン雑貨) 愛知県春日井市 ・・・・・ 25

(7) シンラクリエイション(デザイン雑貨) 愛知県名古屋市 ・・・・・ 30

(8) 日吉屋(和傘) 京都府京都市 ・・・・・ 33

(9) シンコハンガー(ハンガー) 大阪府大阪市 ・・・・・ 38

(10) プレーリードッグ(タオル) 大阪府大阪市 ・・・・・ 42

(11) TTN コーポレーション(畳) 兵庫県伊丹市 ・・・・・ 47

(12) 三宅化学(灯油ポンプ) 奈良県磯城郡

田原本町

・・・・・ 51

(13) グリーンプラス(ガラスコーティング剤) 山口県下関市 ・・・・・ 54

(14) ビッグバイオ(水質浄化ブロック) 熊本県宇城市 ・・・・・ 57

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 5: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

2.キッチン・テーブルウェアー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61

(1) 廣田硝子(ガラス食器・小物) 東京都墨田区 ・・・・・ 61

(2) オークス(キッチン・住宅設備機器) 新潟県三条市 ・・・・・ 64

(3) セブン・セブン(魔法瓶) 新潟県燕市 ・・・・・ 67

(4) カネワカ商店(陶磁器総合卸) 岐阜県土岐市 ・・・・・ 70

(5) 東洋アルミエコープロダクツ(アルミ製品) 大阪府大阪市 ・・・・・ 75

3.バス・トイレタリー・衛生用品・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80

(1) 藤波タオルサービス(おしぼり) 東京都国立市 ・・・・・ 80

(2) 浅野撚糸(タオル) 岐阜県安八郡安八町 ・・・・・ 83

(3) 早川バルブ製作所(浄水器) 岐阜県山県市 ・・・・・ 87

(4) プーキートレーディング(除菌・消臭剤) 香川県木田郡三木町 ・・・・・ 92

(5) ハヤシ商事(和紙加工販売) 高知県土佐市 ・・・・・ 95

4.美容・健康・福祉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98

(1) 生活の木(ハーブ・アロマ関連製品) 東京都渋谷区 ・・・・・ 98

(2) フィットライフ(化粧品・健康食品) 東京都港区 ・・・・・ 101

(3) エフシーエー(ドクターズコスメ) 大阪府大阪狭山市 ・・・・・ 104

(4) MTI ジャパン(除菌・消臭ミスト) 兵庫県神戸市 ・・・・・ 107

(5) 晃祐堂(熊野筆) 広島県安芸郡熊野町 ・・・・・ 110

(6) アイ・プルーナ(化粧品) 福岡県福岡市 ・・・・・ 113

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 6: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

1

第1章 中国市場開拓における課題と留意点

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 7: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

2

第1章 中国市場開拓における課題と留意点

ジェトロはアジア・キャラバン事業に参加いただいた日系企業のうち、30 社に対してヒ

アリング調査を实施した。本章ではヒアリングによって得られた結果を集約・類型化し、

中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。

中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

者としては(1)市場セグメント、(2)販売商品、(3)価格設定、(4)販売チャネル、

(5)プロモーション、後者としては(1)代金回収、(2)知的財産権、(3)商習慣、

(4)法規制、(5)人材育成・人脈形成が挙げられる。

以下、参考となり得る日系企業の具体的なコメントも交えながら、それぞれの課題と留

意点への対応を検討する。

(表)中国市場開拓における課題と留意点

項目 課題・留意点

販売戦略策定時

市場セグメント

国土面積が広く、所得格差も大きな中国で市場開拓を推進するに

は、販売ターゲットとする地域、所得階層、年代別のきめ細かな市

場セグメントが重要。

販売商品

メード・イン・ジャパンに対する中国人の評価は高いが、日本製だ

から売れるというわけではなく、中国人の生活習慣や嗜好にマッチ

した商品の投入が必要。

価格設定 中国では価格に対する要求が厳しく、価格設定は大きな課題。日本

から輸出する場合、価格は日本での販売価格の 1.5~3 倍にもなる。

販売チャネル 販路構築のためには、パートナーとしての代理店の活用が重要であ

り、その選定がカギを握る。

プロモーション PR 資料を事前準備するとともに、試験販売やデモンストレーショ

ンなど商品価値を理解させるための仕組みづくりが不可欠。

市場参入後

代金回収 現金もしくは前払い決済を徹底することで、未回収リスクを回避す

ることが基本。

知的財産権 模倣品対策のためには、商標など自社の知的財産権を取得しておく

ことが重要だが、申請費用との兼ね合いが課題。

商習慣 商談や契約面で日本と異なる商習慣を理解することが不可欠。

法規制 中国の法規制は頻繁に改正が行われるため、パートナーからの情報

収集や社内の体制整備も必要。

人材育成・

人脈形成

言葉の問題もあり、適切な中国人材の採用・育成が不可欠。併せて

人的ネットワークの構築も中国ビジネスにおいては重要。

(出所)アジア・キャラバン事業参加企業に対するヒアリングを基に作成

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 8: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

3

1.販売戦略策定時の課題と留意点

(1)市場セグメント

中国は国土面積が日本の約 25 倍、人口は約 11 倍という大国であり、地域ごとに所得格

差が大きく、消費水準も異なる。市場開拓においては、そうした特性の違いに配慮した地

域、所得階層、年代別のきめ細かな市場セグメントが重要となる。

そのためには中国市場についてしっかりとリサーチすることが必要であり、どの地域の

どの顧実層に、どの値段で売るかといった綿密なマーケティングが求められる。

所得階層別では、まずは富裕層をターゲットとし、その後、中低所得者層向けの販売を

展開する意向を持つ企業が多く見られた。その理由としては「販売価格が日本より高くな

るため、販売ターゲットとして中間層以上の所得層を狙わざるを得ない」「いきなり中低

所得者層から販売していくと、買い叩かれる恐れがある」といった意見があった。また「日

本製は富裕層や政府関係者、中国製は上位中間層」という形でのすみ分けを目指すところ

もあった。

地域別では、沿海部の大都市を狙うところが多く、「内陸部はインフラが沿海部に比べて

未発達で、商品の輸送が困難とみられるため、上海や北京といった大都市からの展開を考

えている」といった声があった。ただし、今後の成長が期待できる内陸部に対する関心も

高く「将来的には、上海以外の周辺都市や内陸新興地域へのビジネス展開も考えている」

とのコメントも尐なくない。企業によっては競争の厳しい大都市を避けて、地方都市を狙

う戦略を持つところもあった。ただし、内陸部の市場は沿海部に比較すれば発展途上であ

り、自社製品が受け入れられるどうかについて慎重な見極めも必要になる。

重要なことは、中国を一律にとらえるのではなく、地域や都市ごとの市場特性を踏まえ、

自社製品の展開に相応しい発展段階の地域や都市で売り込むことであろう。

(2)販売商品

メード・イン・ジャパンに対する中国人の評価は一般的には高い傾向がみられるが、日

本製だから売れるというわけではない。企業からは「日本製だから売れるということでは

なく、商品と販売チャネルが一致しないと売れないと考えている」との指摘もあった。す

なわち、中国市場開拓においては中国人の生活習慣や嗜好にマッチした商品の投入が課題

となる。

そのためには、まず中国人の生活習慣など、統計数字に表れない本当の中国の姿を把握

することが必要になる。その上で、中国人が生活の中で求めるものが何なのかをリサーチ

し、そこに自社製品を提案していくことが肝要である。例えば「中国でインターネット調

査や家庭の实態を知るための家庭訪問を 100 件以上行ってきた。その結果を踏まえて、中

国向けに仕様を変更した商品の現地生産を始めた」といった取り組みを行っているところ

もある。

また、その際には、中国人とのコミュニケーションが大切であり、相手の提案を理解し、

それに合わせて改良をしていく姿勢を示すことが不可欠となってくる。ただし、自社での

調査には限界もあることから「代理店にサンプルを送り、販売店を回ってもらい、どのよ

うなサイズ、色が良いかを調査させ、反応が良かったものを中心に中国で販売する」こと

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 9: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

4

を検討している企業もあった。

中国の消費者の嗜好を念頭におきつつ、「メード・イン・ジャパン」をアピールすること

も差別化の観点から重要となる。ヒアリングした企業からは「中国市場に投入する商品ラ

インは、日本らしさがあり、値段が高めの商品を選定した。高価格商品の投入により、自

社のイメージを上げることもできた」「富士山が描かれているなど、一目見て日本の商品

と分かるものを中国人がよく買っていくといった傾向をつかんでおり、どういう商品が中

国で受けるのかマーケティングできていたことが中国で販売する上で強みになった」「無

理に現地の嗜好に合わせて大幅に変更するのではなく、日本のデザインで、日本の息吹が

入った商品を売っていきたい。その中で、パッケージについては現地に合わせて変えるな

ど、変更すべき部分は柔軟に対応していく必要がある」といったコメントもあった。

(3)価格設定

中国人は価格に対する要求が厳しく、価格設定は中国市場参入において直面する大きな

課題となっている。日本から輸出する場合、関税や輸送コストなども含めると、価格は高

いものでは日本での販売価格の 1.5~3倍以上にもなるという声は多くの企業から聞かれ

た。特に取引開始の時点では尐量からの取引となるため、商品単価は高くなる傾向があり、

一部の富裕層にしか販売できない高価な商品にならざるを得ないケースも尐なくない。

他方、拡販のため定価より安い価格でインターネット販売したため、低価格が定着して

しまい、価格を戻すことができなくなってしまったという失敗事例もあった。また、「中

国では消費者がインターネットで日本の販売サイトをチェックしており、同一商品につい

て日中で価格差があるとすぐに気付かれて、信頼を失う」という指摘もあった。

対応策としては、「高くても売れる商品を展開すること」を挙げる企業があったが、「中

国はデザインや品質などの付加価値を理解してくれない。知名度のないブランドでの中国

展開は本当に難しい」との意見もあった。

製品価格を引き下げるためには、中国での現地生産も検討課題となる。「最終的には、

商品普及のためには中国での生産が不可欠だと考えており、これを可能にするための事業

展開が今後の当社の方向性」「中国での当社製品の価格には割高感がある。メード・イン・

ジャパンにこだわり日本で製造し輸出を続けていくか、価格面を考慮して現地生産を行う

べきか検討が必要」との意見もあった。また、企業の中には輸出では価格が市場ニーズに

見合わないため、中国製商品で対応することに方針転換した企業もあった。

ただし、中国ではメード・イン・ジャパンを求める消費者もおり、「日本語の表記は逆

に売りになるため、現地生産していく際も日本語の表記を尐し残す」といった方策を検討

しているところもあった。

(4)販売チャネル

販売チャネルについては、自社で最初から構築しようとすると、時間やコストがかかる

ことから、パートナーとして代理店を活用するところが多く、代理店に代金回収リスクを

負担させたり、中国における交渉窓口にしているところも尐なくない。したがって代理店

の選定は中国市場開拓におけるカギを握るともいえる。

代理店の選定に当たっては「相手企業をよく調べ、自らの目で見て確認し、熱意をみて

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 10: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

5

判断している」「社長の目で選ぶところが大きい。代表同士が面談し、互いに信頼できる

企業かを確認して取引が始まった」「代理店の選定基準は、有力な販売ネットワークがあ

り、商品価値を分かってくれるところ」「代理店の選定で重視しているのは、当社のスタ

ンスを理解してくれるかどうか」といった意見が聞かれたが、まず重要なことは相互の信

頼関係を構築できる相手かどうかを慎重に見極めることであろう。

ただし、代理店任せでは、小売店のフォローが行き届かない懸念があるため、「自ら实

際に見に行くことが重要」「自社で売り方を確立していく必要性を感じている」との指摘

もあった。加えて、選定後のフォローや計画的に新規代理店を増やしていくことも販路拡

大のためには重要になる。

(5)プロモーション

中国市場開拓においては、試験販売やデモンストレーションなど商品価値を理解させる

ための仕組みづくりが不可欠となる。ヒアリングした企業からは「商談会ではパンフレッ

トの中国語版など PR 素材を充实させ、サンプルも数種類そろえて出展したところ、バイ

ヤーの反応も良かった」「販売員の説明があるのとないのとでは売れ行きが全く異なる。

説明付きで販売すると日本よりも売れる」「中国の消費者も購入に際しては細かな点まで

チェックし、品質に納得しないと買ってくれない。品質確認の観点からも、ショールーム

で製品の实物を手にとってもらうことが重要」との指摘もあった。

また、プロモーションにおいては PR 資料や各種販促ツールなどの事前準備も重要とな

る。企業の間からは「中国に限らず海外展開に当たっては、相手国に向けたパンフレット、

ビデオなどの資料の事前準備、価格戦略などしっかり準備をした上で实際の商談に望むこ

とが重要」「展示会では開催日に先立って現地に入り、代理店と一緒にバイヤーはもちろ

んのことプレスも事前に回り、展示会にきてもらうように働き掛ける、展示会に向けた現

地語でのプレスリリースを準備する、などの努力もしている」といった声も聞かれた。

これらに加えて、代理店経由で販売する場合には、代理店への十分な説明(商品に関す

る専門的な知識や販売ターゲットなど)もプロモーションを展開する上では必要になって

くる。

2.市場参入後の課題と留意点

(1)代金回収

中国市場参入後の大きな課題の1つが代金回収である。これについては、現金もしくは

前払い決済を徹底することで、未回収リスクを回避することがまずは基本となる。实際、

各企業にヒアリングしたところでは「決済は、前払いか信用状(L/C)での契約を徹底し

ている」「代金が前払いされた後に出荷することを徹底している。ビジネスが大きくなっ

たら、初めに手付金をもらってから商品を生産し、船積みする前に残金の支払いを確認す

る」といった対応をとっているところが多かった。

ただし、現金もしくは前払い決済を条件とするには、商品の魅力を十分に説明して、相

手に先払いしても欲しいと思わせる必要がある。企業の中には「相手に対して自社の商品

を前払いでも購入したいと思わせるには、消費者へのアピールも重要だ。当社は広告に多

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 11: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

6

額の費用をかけられないが、商品のユニークさを強調し、面白い会社だと認識してもらう

ことで、日本や海外のメディアへの露出を増やすことができた。その結果、高級なイメー

ジが定着して、値段が高くても購入してもらえるようになった」といった取り組みを行っ

ているところもあった。

他方、当面は前払いの取引を基本としつつも、そうすると大きな商売が取れないため、

取引額が大きくなった時の対応を検討課題として考えている企業もあった。

(2)知的財産権

中国においては模倣品の氾濫など知的財産権の保護が市場開拓における大きなリスクと

なる。その対策のためには、商標・意匠・特許など自社の知的財産権を取得しておくこと

が重要であり、今般ヒアリングした企業では、商標については登録を済ませているか、も

しくは申請手続き中のところが多かった。

他方、申請に当たっては費用がかかるため、その兼ね合いが課題となる。また、知的財

産権を取得したとしても、現实には模倣品対策は容易でない。特に、意匠権などデザイン

模倣については対策が難しいのが現状だ。

具体的な模倣品対策の事例として、ヒアリングしたある企業は「メディアへの企業イメ

ージや商品の打ち出し」が重要と指摘。その背景として「富裕層は模倣品ではなく、オリ

ジナルの高くても品質が良いものを購入してくれる。ブランディングができていれば、模

倣品を恐れる必要はない」との見解を示した。

また、悪質な知的財産権の侵害に対しては断固たる措置を取ることも必要だ。ある日系

企業は模倣業者と裁判で徹底的に戦い、最終的には商品の販売を停止することと商標を同

社に渡すことで和解したが、同社は「裁判は費用も時間もかかるが、模倣品が出てきたら

しっかり正当性を主張して、模倣業者に断固とした態度を見せたほうがいいと考えている」

と強調している。

この他、技術については特許を取得しているところが多かったが、ある企業は「当社の

技術は簡単には模倣できないし、現状では輸出しか行っていないため、技術漏えいの心配

もない」と指摘。その上で「特許を申請することは技術を開示することにもなるので、あ

えて申請はしない予定」とコメントした。

(3)商習慣

日本と中国では言葉はもちろん文化や法制度も異なるが、加えて、商談や契約面で日本

と異なる商習慣があり、それを理解することも市場開拓においては不可欠となる。ヒアリ

ングした企業からも「中国は日本と商習慣が異なるためリ契約面がリスク要因となる」「商

習慣の違いが大きいことは課題だ。特に中国では小売店のバイイングパワーが強く、リベ

ートや入店料などが高い」「契約書に記載されているルールに則ってビジネスが行われる

だろうと安心してはいけない」といった声が聞かれた。

また、商習慣の違いにおける留意事項として「商談の最初の段階で商品に高い関心を持

ち、比較的大規模の取引話になって喜んでいても、中国企業は大風呂敷を広げる傾向があ

るようで、話半分くらいで聞いておかないと、生産調整や輸出準備などの計画が大きく狂

う」といったリスクを指摘するところもあった。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 12: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

7

(4)法規制

中国では法規制において未整備な面があり、運用に問題があることに加えて頻繁に改正

が行われる。ある企業からは「中国では法改正が頻繁に行われるため、これまで輸出でき

ていたものが急に止まってしまうといったリスクもある。こうした法改正やトラブルに対

応するためには、日ごろから情報収集をしっかり行っておくことが大切だと考えている」

との指摘もあった。

このため、パートナーからの情報収集や社内の体制整備も市場開拓においては必要とな

る。ヒアリングした企業からは「商品下げ札の表示などにも細かい決まりがある。信頼で

きる現地企業と組むか、自社でしっかりした体制を作らないと、この内容を把握して、商

品を販売することは容易ではない」「日本以上に厳しい労働契約法などが施行され、企業

に適切な労務管理が求められる。同法などを細かく勉強して、現地で従業員を管理するこ

とは、かなりの労力を強いられる」との声も聞かれた。

(5)人材育成・人脈形成

中国ビジネスにおいては言葉の問題という障壁もあり、適切な中国人材の採用・育成が

不可欠となる。このため、言葉の壁や商習慣の違いに対応し、円滑な事業展開を図るため、

中国人スタッフを採用した企業もあった。加えて、採用後の従業員の教育や育成も重要と

なる。ある企業は「中国人の仕事に対する日本人との感覚の違いに苦労している。このた

め、中国人社員とは常にコミュニケーションを図るよう心掛けており、朝会ったらあいさ

つをする、ごみがあったら拾うなど適宜注意し、書類の整理の仕方なども細かく指示して

いる」と語る。

人材育成に併せて、人的ネットワークの構築も中国ビジネスにおいては重要となる。企

業の間からは「中国は人と人の関係が強く、コネクションがないとなかなかビジネスに参

入できない」「中国での販売に当たっては、緊密な人間関係が求められるとの話もある。

人的ネットワークの構築も今後の大きな課題であり、商談会への参加などを通じて、尐し

ずつネットワークを広げていきたい」との声があった。人脈形成においては地道な努力が

必要であり、ある企業は「社長自ら、またはその家族が地に足をつけてやることが大事だ。

中国人は飲食を通じて人間関係を構築する面があり、そういった機会を通じて、相手を判

断しているところもある」と指摘した。

以上、中国市場開拓における課題と留意点について検証してきたが、これらに加えて日

本国内でのビジネスを決して疎かにしないことが重要なこともあらためて指摘しておきた

い。ヒアリングした企業からは「中国で事業を行うにはやはりリスクがあるので、日本で

の事業をすべて投げ捨てて取り組むのではなく、日本の基盤を持った上で取り組まなけれ

ばならない」「中国のバイヤーの関心は日本での实績や評判だ。商談会に参加したバイヤ

ーの中には、日本のインターネット販売価格や評判などの情報を事前調査してきたり、日

本の通販雑誌の当社商品掲載ページを持ってきたりするところもあった」などのコメント

があったが、これらの意見は日本国内で基盤を確立することが中国ビジネスにおけるリス

ク対策や販売プロモーションの観点からも重要なことを示唆しているといえよう。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 13: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

8

第2章 企業ケーススタディー

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 14: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

9

第2章 企業ケーススタディー

1.インテリア・日用雑貨・ファッション

優れたデザインの製品で上海市場開拓へ

−レザー製メガネケース販売のディーティー・アンド・カンパニー−

社 名 : ディーティー・アンド・カンパニー

創 立 : 1996 年

資 本 金 : 500 万円

本 社 : 千葉県習志野市谷津 2-22-29-205

代 表 者 : 代表 関本 大介

従 業 員 数 : 1 名

U R L : http://www.ne.jp/asahi/dtc/net/

ディーティー・アンド・カンパニー(本社:千葉県習志野市)はオリジナルデザインの

レザー製メガネケースなどを販売する中小企業だ。自社でデザインし、日本国内の企業に

生産委託した製品の中国展開を目指している。関本大介代表に 2011 年 12 月 22 日、中国

市場開拓の経緯や課題について聞いた。

<デザイン性、日本らしさを強みに中国のニッチ市場狙う>

問:海外市場開拓の経緯は。

答:当社の主なビジネスは、自社でデザインし、東京都墨田区の企業に製造委託したレザ

ー製メガネケース、スマートフォンケースや関連アクセサリーの販売だ。製品の素材は主

に日本国内で調達している。1996 年に海外ブランドのメガネフレームや、関連アクセサリ

ーの輸入・販売を始めたのが海外ビジネスのきっかけだ。

当社は、日本のメガネ市場全体でもデザイン性の高い製品や輸入製品など、ニッチな市

場をターゲットとしてきたが、近年では市場規模も頭打ちになっていた。こうした中、国

内ではギフト市場や文房具(ステーショナリー)市場など他分野への展開を目指す一方、

海外のメガネ市場への売り込みを本格的に考えた。

問:中国市場を目指した理由は。

答:2011 年 4 月に江蘇省蘇州市で開催された展示会に出展したことがきっかけだ。出展

の際には、蘇州のほか上海市を視察し、現地市場の活気を肌で感じた。沿海地域の主要都

市のメガネ市場は十分成熟しており、ニッチな当社製品が受け入れられる素地があると判

断した。また、日本からの距離も近く、現地の物価が相対的に安いため、旅費・出展料な

どの営業経費が欧米の 2 分の 1 から 3 分の 1 で済む。

輸入業務を開始した 1996 年時点と比較して、現在では日本のメガネアクセサリー市場

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 15: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

10

は相当な規模に拡大している。当社は、デザイン性の高い自社製品を中国のメガネ市場で

展開することで、市場にまだない価値を提供し、新たな市場を作り出すことができればと

考えている。

国産革を使用したメガネケース

<自社製品にふさわしい発展段階の都市を選ぶ>

問:中国市場をどのようにとらえているか。

答:当初は中国市場に関する知識が尐なく、中国を一律にとらえ、メード・イン・ジャパ

ンを強みに、富裕層相手の高級市場にメガネケースを売り込みたいと考えていた。しかし、

ジェトロの事業を通じて上海市、天津市、四川省成都市などを訪問し、都市によって市場

の特徴が異なることに気付いた。例えば、上海市の市場は既に飽和状態で、メード・イン・

ジャパン製品であっても価格と品質のバランスが取れ、なおかつ「中国にはまだない」と

いった特色がなければ売れないと感じた。

他方、成都は訪問前には場所さえよく知らなかったが、四川省は約 8,000 万人の人口を

抱えると聞き、今後の市場としての潜在性を感じた。ただ成都市場は発展途上という印象

で、自社製品が受け入れられるには、まだ早いと感じた。自社製品にとってふさわしい発

展段階の都市で売り込む必要がある。

日本の消費者は不良品など製品の品質に厳しいといわれるが、中国の消費者も購入に際

しては細かな点までチェックし、品質に納得しないと買ってくれない。自分の目でよく見

て確認することを重視しているようだ。品質確認の観点からも、ショールームで製品の实

物を手にとってもらうことが重要だ。

中国の消費者はデザインや品質に加え、ブランドを重視する傾向があるようだ。日本製

品に対して消費者は高い安心感を持っているため、現地でブランド力のある会社に当社製

品を販売してもらうのが 1 つのやり方だと感じた。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 16: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

11

問:中国市場開拓の状況は。

答:上海のショールームを訪れたバイヤーにコンタクトし、商談を進めている。先方はバ

ッグのセレクトショップを展開する企業だ。現在はネット販売だけだが、近く上海に实店

舗を出店する予定だ。当社は、当該企業ブランドの製品を相手先ブランド製造(OEM)で

供給するビジネスモデルを検討している。先方は、日本らしさが強く表れたデザインの製

品を求めている。

支払い条件については、製品受注時に半分、納品時に残りの半分との条件を提示したが、

この点についてはまだ回答を得ていない。当社は、この条件に応じてもらえなければ、取

引は行えないと考えている。

<現地ニーズに合致した価格設定が課題>

問:中国市場開拓に向けた課題は何か。

答:価格が現地のニーズに合わないのが一番大きな問題だ。日本から中国へ輸出すると、

貿易会社や問屋のマージン、関税や増値税などが賦課されるため、日本の売価の 2~3 倍

の価格になる。香港であれば関税はかからないため、この点で差が大きい。中国では消費

者がインターネットで日本の販売サイトをチェックしており、同一商品について日中で価

格差があるとすぐに気付かれて、信頼を失うことにもなる。

模倣品対策については、会社名、ブランド名について中国で商標権を取得する予定だ。

ただし、意匠権の登録などデザイン模倣についての対策は難しいのが現状だ。

多くの中国企業と接触したが、総じてメールへの反応が遅い。英語対応ができる企業が

尐なく、当社のビジネス展開上、大きな壁になっている。中国語での対応が可能になれば、

さらにチャンスが広がるだろう。

ハンドメードのグラスホルダー

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 17: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

12

<上海市場で成果をあげることを最優先>

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:当初は自社ブランドによる完成品の販売だけを考えていたが、有力企業から OEM を

受注し、当該企業の販促品などのかたちで相手先ブランドで売り込むことも 1 つの方向と

考える。相手先ブランドでの OEM 生産ならば、自社製品と競合することがない上、同一

製品についての日本と中国との価格差の問題も解決できる。発注先の現地企業から、現地

の市場ニーズに関する情報を入手できることも大きなメリットだ。

今後は、メガネケース以外にも、メガネチェーンなど比較的手ごろな価格帯の製品をシ

ョールームに出展し、違う切り口で市場展開してみようかとも考えている。

中国市場では、まずは上海市場の開拓で成果を挙げることが最優先課題で、現状では上

海以外の開拓は考えていない。中国以外の市場への展開については、距離などの利便性か

らアジアを対象として考えている。

(河野円洋)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 18: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

13

中国市場に新しいライフスタイルを提案

-インテリアファブリック・生活雑貨の「ACCENT」-

社 名 : 有限会社 ACCENT

創 立 : 2002 年

資 本 金 : 300 万円

本 社 : 東京都渋谷区東 3-9-19 ポーラ恵比寿ビル 4F

代 表 者 : 代表取締役 前田 昭夫

従 業 員 数 : 30 名

U R L : http://www.act-style.co.jp/

ACCENT(本社:東京都渋谷区)は、インテリアファブリックや生活雑貨を企画・販売

する中小企業だ。「アクセントのあるライフスタイル」をコンセプトに、ポップな色使いや

デザインで新しいスタイルを提案、中国市場開拓にも取り組み始めた。林達朗海外事業部

次長に 2011 年 10 月 3 日、海外進出の経緯や中国ビジネスの課題について聞いた。

<中国企業と合弁で生産・輸出拠点設立>

問:中国市場開拓に取り組んだ経緯ときっかけは。

答:当社は 2002 年の創業当初から輸入卸売業として海外ビジネスを開始した。インドや

中国からの輸入が主だったが、09 年に国内の展示会でシンガポール企業から受注したこと

を機に輸出にも取り組み、Mega Show など香港展示会に出展するようになった。単発の

案件が多かったが、輸出国はシンガポールやオーストラリア、ドバイなどで、商社経由で

はなく仲介貿易というかたちをとり、すべて自社で行っていた。

11 年に中国法人(南京 ACCENT)を設立した。当時生産委託していた中国側のパート

ナーの A 社との合弁で、「生産および第三国向け輸出の拠点」という位置付けだ。設立以

前は主に第三国向け輸出中心の事業展開を考えていたが、パートナーの助言もあり中国市

場向けの販売(内販)も考えるようになった。

<日本とほぼ同価格帯で販売>

問:中国市場開拓に向けた戦略や具体的な取り組みは。

答:今後中国市場を開拓していくに当たっても、可能ならば日本と同様の方法をとりたい。

自社で企画し、生産、仕入れ、卸といった流れで、年に 4 回カタログを作り、新商品の提

案をするといった方法が中国でもできれば理想的だ。

ターゲット層は日本と同じく 10~30 代の独身女性や働く女性などだ。価格帯も日本と

ほぼ同じに設定していくつもりだ。当社の主要商品は 240 元(1 元=約 12.3 円)ほどだが

日本でいう「一般 OL」層が、これを購入するかという疑問もあった。しかし、支出構造

の違いや、購買意欲を分析すると「買えない」ということはないと考えている。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 19: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

14

ACCENT の主力商品 CRAFTHOLIC®。

癒されるキャラクターと心地よい肌触りが魅力

当初は中国に進出した日系百貨店との取引を目指すべきだと考えていたが、テナント出

店は資金や人材派遣の面で負担が大きく、まずは卸売業から始める方針に転換した。現在

は現地専門店チェーンへの直販が主だが、今後は販売力のある代理商との取り引きも視野

に入れていきたい。

<リーダー層の現地人材の育成は時間をかけて>

問:中国市場開拓に向けて留意すべきリスクは。

答:中国は日本と商習慣が違うことがリスクだといわれているものの、今のところそれほ

ど特殊性を感じたことはない。

インターネット上などには模倣品も登場しているが、模倣品に関しては基本的なこと以

外は対策をとっていない。イタチごっこになってしまい、その時間と労力を掛ける余裕は

当社にはまだない。まずは当社が中国市場にしっかりと参入して、本物の魅力をアピール

することが重要だと考えている。当社は中国の E コマース(電子商取引)サイトも開設に

向けて取り組み、サイト運営会社や販売店と協力し「本物はここで売っている」とアピー

ルすることで、消費者に安心して当社の商品を買っていただける環境を整えたい。

そのほかの懸念として、現地人材の採用・育成。現地人材に関しては、リーダークラス

の人材育成が特に難しい。現在、南京 ACCENT の董事長と董事は日本側から、総経理は

中国側 A 社の総経理が董事と兼務している。総経理は、当社のコンセプトや経営方針に関

してよく理解しているため、当方としても心強く、総経理の判断に任せることが多い。し

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 20: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

15

かし、若い人材は経験不足もあり自分で提案して売り込むという営業スタイルがなかなか

根付かない。

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:この度、中国でインテリアショップを運営する台湾資本の企業と成約した。受注でき

たのは、当社の商品が先方の品ぞろえの中で薄い部分だったからだろう。当社が扱うよう

なキャラクター雑貨やデザイン雑貨の中国市場での需要はまだまだ伸びていくとみている。

そうした市場に対して、多種多様なものが企画できることが当社の強みだと考えている。

当社の商品は日本ではある程度認知されているが、中国ではまだ知られていない。根気

よく、一歩一歩開拓していく必要があると考えている。

Accent Style 原宿店。

ショップ限定商品も充実した CRAFTHOLIC®のオンリーショップ

(米川拓也)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 21: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

16

メード・イン・ジャパンの精度を武器に市場開拓

-温度計・湿度計の「クレセル」-

社 名 : 株式会社クレセル

創 立 : 1964 年

資 本 金 : 2,500 万円

本 社 : 東京都豊島区南長崎 6-25-14-102

代 表 者 : 代表取締役 原 大博

従 業 員 数 : 45 名

U R L : http://www.crecer.jp/index.html

クレセル(本社:東京都豊島区)は、温度計や湿度計、歩数計など健康関連の計測器を

製造販売する中小企業だ。「快適な生活環境作り」をコンセプトに、機能性、デザイン性に

優れた商品を提供している。メード・イン・ジャパン製品の精度を武器に、2011 年から中

国市場の開拓に取り組み始めた。原大博代表取締役に 2011 年 10 月 27 日、海外進出の経

緯や中国ビジネスの課題について聞いた。

<販路によって提案する製品を変える>

問:中国市場開拓に取り組んだ経緯ときっかけは。

答:当社の最初の対中ビジネスは、12~13 年前に中国から物を仕入れたことだった。製品

の製造に使える部品がないか探すため、日本 DIY 協会主催のミッションで広州交易会に参

加した。その後、英語を話せる人材もいる寧波市の商社を経由して、まずは白灯油ガラス

棒(ガラス温度計に組み込む部品)の 20 万~30 万円の取引から始めた。それから徐々に、

別の部品やパッケージなどの生産も委託するかたちで取引を拡大していった。

5~6 年前、新聞広告などを使い中国語を話せる人材を募集し、数人の応募があった中か

ら日本在住の中国人(日本の会社を定年退職した人)を採用した。この人が上海に帰国す

ることになった際、当社の上海事務所の所長として働いてもらうことになった。現在、上

海事務所はこの人と、現地の人が 1 人の計 2 人体制で稼働している。仕入れが主だが、11

年初めごろから中国での販売にも取り組み始めている。

問:中国市場開拓に向けた戦略や具体的な取り組みは。

答:当社の製品は途上国には売れない。温度計にしても湿度計にしても、それをエアコン

で調整し管理できるような環境にあることが求められるからだ。中国の消費レベルが向上

するにつれて、当社製品も売れるよう期待している。

中国市場での販売に当たり、どの商品ラインを主として販売していくかなどの戦略を立

てているわけではない。日本では、当社製品は経由する問屋によって売り場が変わること

がある。例えば、道工具系、バス(風呂)・トイレ系、ギフト系、文具系など、問屋が持

っている販路がどれかによって、製品が並ぶ末端小売店が決まる。中国でも同様に、バイ

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 22: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

17

ヤーがどの系統の販路を持っているか、どの商品を求めるかで販売するアイテムも変わる

ため、商談の際にはカタログですべての商品ラインアップをみせるようにしている。販路

がどこかによって売る商品を柔軟に変えられる、また、さまざまな販路があるともいえる

だろう。

第 12 回中国西部国際博覧会(成都)のジェトロブースに出展

<製品の用途を入念に説明して売り込む>

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:中国では、温度計、湿度計ともに興味を示す人が多いと感じている。理由として考え

られるのは 2 つだ。1 つは、メード・イン・ジャパン製品の精度だろう。日本ではこれら

の計測器は経済産業省の許認可が必要で、それがないと製造できない。「許認可の証明書

を見せてほしい」という中国人バイヤーがいたように、そうしたメード・イン・ジャパン

の精度や信用度が現地で受け入れられるのだと思う。

2 つ目は、用途に関する提案が受け入れられたことだろう。温度や湿度の身体への影響

や、湿度がインフルエンザ対策になることについて丁寧に説明したところ、すんなり理解

してくれたのだと思う。

<両国の考え方の違いがリスク要因>

問:中国市場開拓に向けて留意すべきリスクや課題は。

答:製造面でのリスクは 2 つ挙げられる。まず 1 つは、日本と中国で考え方や感覚が違う

ことだ。先方が製造した商品に、「これは不合格(NG)だ」といっても、「中国や米国

では合格だ」といった回答が返ってくる。「中国や米国では合格でも、日本では不合格だ」

と伝え、擦り合わせながらやり取りしている。

2 つ目は、中国での製造コストの上昇だ。原価が上昇しても日本では価格に転嫁するこ

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 23: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

18

とはできず、どこでそれを吸収するかが悩みだ。コスト上昇に伴って、ある商品の収益率

が減尐した場合、吸収しきれないのであれば、新商品を作ることも考えられる。しかし、

それには初期費用がかかるなど、簡単には対応できない。とはいえ、当然まだ日本で製造

するよりは安い。当社から中国ビジネスは切り離せない。

デザイン性の優れた同社の

温度・湿度計。メード・イン・

ジャパンの精度を武器に

中国市場開拓に挑む

販売面では、商習慣や法制度が違うといったリスクがある。輸入は以前からしていたが、

中国での販売はゼロからのスタートで、分からないことが多い。特に代金回収にはリスク

があり、急に多額の取引はできない。また、代理店の採用に当たっても、相手が信用でき

る会社かどうかを判断するのが難しい。ジェトロへの相談に加え、信用調査などを活用し

ていく必要があるだろう。

価格面での課題も残る。日本の製品は高く、特に関税や輸出関連費用を含めると現地で

は 3~5 倍の価格になる。どうやってうまく売っていくかが今後の課題だ。

(米川拓也)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 24: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

19

中国市場の潜在性に商機求める

-テレビショッピング・ビジネスのデメテル-

社 名 : デメテル株式会社

創 立 : 1988 年 3 月

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 東京都豊島区池袋 4-1-1 サントスビル

代 表 者 : 代表取締役 山藤 剛

従 業 員 数 : 12 名

U R L : http://www.demeter.co.jp

全国各地に多くのテレビ局があり、一般家庭でも 60 以上のチャンネルを視聴できると

いう中国。日本でテレビショッピングや通信販売向け商品の販売ビジネスを手掛けるデメ

テル(本社:東京都豊島区)は、年々充実する中国のテレビを活用した市場の開拓に向け、

積極的に取り組んでいる。その状況や今後の方向性について 2011 年 12 月 20 日、山藤剛

社長と秦晶海外貿易営業部主任に聞いた。

<契約書案の詰めで難航>

問:中国市場開拓のきっかけは。

答:当社のビジネスモデルは、テレビショッピングや通販向け商品を企画開発して、それ

を卸売業者に販売するというものだ。その過程で、中国企業に当社の企画開発商品の生産

を委託し、中国で検品して日本に輸入する業務を長年行ってきた。

また、海外向けは、10 年から台湾のテレビショッピング会社と取引を開始し、順調に推

移している。台湾でのビジネス経験を踏まえて中国でも同様に展開できるのではないかと

考えた。また、台湾の市場規模が限られる中、ポテンシャルの大きい中国市場に参入する

ことで、さらなるビジネスチャンスを求めた。

問:現在の取り組み状況と問題点・課題は。

答:中国での商談会では、販売している商品を PR するだけでなく、販売の仕組み、ノウ

ハウなど当社の強みも合わせて PR している。展示コーナーでは、テレビショッピングの

動画を放映しているほか(日本人が出演する動画で日本企業であることを PR)、これま

での中国での商品開発で培った日中貿易の経験、自社で企画開発した商品の生産委託の経

験などを紹介した。

实際に中国企業とも接触・交渉しており、既に大手テレビショッピング会社数社と商談

した。商談では、商品展開、価格面の交渉はスムーズに進んだが、最後の契約書の中身の

詰めの段階で壁に突き当たった。

先方企業から提示のあった契約書案には、先方に有利な条件が多く盛り込まれていた。

具体的には、①商品の納品が遅れた場合はマージンを徴収する。先方企業は、自社都合に

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 25: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

20

より、注文をすべて取り消すことができ、また当社は、先方企業が被った損失を負担する、

②商品の販売は委託販売形態。そのため、先方企業は無条件で返品でき、さらに返品送料

は当社負担となる、③支払いは商品到着後 90 日間以内で、支払いも全額ではなくその 10%

が保証金として預かりとなる、④先方が想定する売り上げ見込みが達成できない場合、不

足金分は当方が補填(ほてん)する、などだ。さらに、番組の製作費用の一部負担なども

求められた。

<在庫管理などにも課題>

このほか、返品された商品についても、日本ならほかの卸し先に販売できるが、中国で

はほかの売り先がないのが实態だ。尐なくとも通販で返品が発生したときに代替の売り先

を確保できることや、貿易会社などとの連携を通じて、在庫や返品された商品に対応でき

る体制をとっておくことが望ましいと考えている。

こうした観点から、現地で在庫管理を任せられる貿易会社との商談も進めている。ただ

し、中小規模の貿易会社との取引でも折り合いが付かない部分が尐なくない。例えば中国

の貿易会社の多くは在庫リスクを負わない上、「発票」(正式な領収書)を発行できない

企業が非常に多い。小規模レベルに限らず、100 人以下程度の企業は発票を出さないとこ

ろが大半ではないかと思う。また、小規模な貿易会社との取引では、代金回収も大きな課

題になっている。

テレビショッピング会社との商談が難航していることもあり、現在は中国で小規模に展

開しているネット販売企業に商品を提供するビジネスを行っている。小口ではあるが、即

効性があり、複雑な条件や契約書なども発生しないし、支払いも基本的に前払いが条件に

なっている。中国での取引先選定に当たっては、インターネットを通じて候補先業者を検

索することから始めている。

デメテルのショールーム

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 26: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

21

<地方テレビ局との連携も視野に>

問:中国市場での展開の可能性をどうみるか。

答:中国では「価格が高いと売れない」という話をよく聞くが、高くても売れる商品を展

開するのがビジネスではないかと感じている。テレビショッピングでよく売れる商品は、

紹介の際にアクションを付けられるものや、視聴者を驚かせられる商品だ。また、中国人

は「見え」の意識が強い傾向があるので、こうした意識を満足させられる商品戦略が重要

だと考えている。

さらに、地域的にはこれまで北京市や上海市など、波及効果の大きい沿海地域の大都市

を中心に展開を考えてきたが、地方のテレビ局から攻めるのも一案かもしれない。四川省

成都市や天津市など地方都市にも有望な市場がある。これらの市場では日本の商品も尐な

いため、参入余地は上海市よりも大きいだろう。地方のテレビ局の中には、中国全土に波

及力のあるテレビ局もあるので、こうしたテレビ局との連携も今後検討していきたい。

なお、当社では、これらの中国市場開拓に向けた取り組みに加え、同時に小ロットで低

価格な商品を、日本の中小企業に代わって輸入する事業も实施している。中国市場開拓と、

中国製品の日本への輸入業務の双方をバランス良く展開していきたい。

(中井邦尚、黄海嘉)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 27: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

22

中国では欧米と全く別のアプローチが必要

-美濃和紙老舗の「家田紙工」-

社 名 : 家田紙工株式会社

創 立 : 1889 年

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 岐阜県岐阜市今町 3 丁目 6 番地

代 表 者 : 代表取締役社長 家田 学

従 業 員 数 : 16 名

U R L : http://www.iedashikou.com/

岐阜提灯の老舗メーカー家田紙工(本社:岐阜県岐阜市)は「アート・ミーツ・クラフ

ト(アートとクラフトとの出会い)」をコンセプトに、美濃手すき和紙を使用した伝統的な

技術と新しい感性を融合させた商品を相次いで開発している。海外向けには、和紙製の窓

ガラス装飾「スノーフレーク」を主力商品として、欧州を軸に市場を開拓している。家田

学社長に 2011 年 10 月 25 日、海外進出の経緯や中国ビジネスの課題について聞いた。

<「メゾン・エ・オブジェ」で欧州市場を開拓>

問:海外市場開拓の経緯とビジネス概要は。

答:2008 年1月、パリで開催された「メゾン・エ・オブジェ」のジェトロブースに初参加

後、09 年にジェトロの輸出有望案件発掘支援事業に採択され、海外市場開拓の動きが本格

化した。この後、毎年「メゾン・エ・オブジェ」に出展、ドイツ・フランクフルトの企業

とディストリビューター契約を交わした後は、ドイツ、オーストリア、スイス、ルクセン

ブルク、ロシアなどでの販売体制が確立した。11 年に入って、スイスの出版社の通信販売

やフランスのギフト雑貨店ルート向けに、「スノーフレーク」のギフトセットを新規受注

した。本格的な海外市場開拓に取り組んでから 3 年たち、やっと海外ビジネスのめどが立

ってきたところだ。この 1 年で輸出額は 2.5 倍に伸びており、予想以上の成果を上げるこ

とができた。

和紙製の窓ガラス装飾「スノーフレーク」は、水だけで簡単に窓ガラスに貼ることがで

き、剥がせば繰り返し使える手軽さや、ロシア人女性の手による雪の結晶のデザインのユ

ニークさで「優れモノ」商品になった。ロシア市場にも関心を持ち、09 年 6 月にジェトロ

などの支援を得て、サンクトペテルブルクでの「和紙製品展示商談会」に参加した。これ

を皮切りに、モスクワでのアンテナショップ出展、商談会参加などを重ね、ロシアビジネ

スが開花するまでに 3 年かかった。いろいろ経験して思うのは、ロシア市場開拓の糸口は、

フランスの「メゾン・エ・オブジェ」だった。フランスまで来るようなバイヤーでないと、

ロシアで輸入できる能力を持っていないことが分かった。

11 年の「メゾン・エ・オブジェ」では、ロシアのバイヤー4 社と商談した。ロシアでは

歳暮を贈る習慣があり、企業間の歳暮をプロデュースする会社から、「スノーフレーク」

のギフトボックスを使いたいという話がある。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 28: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

23

和紙製の窓ガラス装飾「スノーフレーク」(左)、パリのインテリア・デザイン関連見本

市「メゾン・エ・オブジェ」出展ブースの様子(右)

<中国人実習生の意見をもとに中国向け商品を開発>

問:中国市場開拓の経緯は。

答:中国との接点は、中国からの实習生受け入れと中国からの調達、加工貿易だ。

实習生は、岐阜の同業者組合が浙江省湖州市から 40 人の实習生を受け入れた際に、当

社も 2 人受け入れたのが始まりだ。近年は湖州市が都市化して实習生募集が難しくなり、

現在は山東省威海市から 3 人の实習生を受け入れている。

17 年前に調達を検討するため初めて中国を訪れ、そのときから中国の変化を見てきた。

難しい市場という印象が強く、中国でモノを売る意識は全くなかった。3 年前に「スノー

フレーク」が完成したときに、上海で商品の市場性を調査したが、当時の現地の反応は「(お

しゃれでハイセンスな観光名所の)上海の新天地ならば売れるかもしれない」という程度

のものだった。しかし、中国は変化が速いので、当社商品に市場開拓の切り口があるのか、

一度、市場という視点でとらえてみようと考えた。

問:中国市場開拓に向けて工夫したことは。

答:中国人实習生の意見を取り入れ、中国では「福」の字をかたどった壁飾りが縁起担ぎ

で飾られることから、「福」という字が入った和紙の装飾商品を開発した。また、「スノ

ーフレーク」は白い和紙で雪の結晶を表現しているが、中国では白は葬式の色で縁起がよ

くないと聞き、薄い赤色に染めた商品を開発した。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 29: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

24

しかし、今回投入した商品は中国で受け入れられなかった。中国では「スノーフレーク」

より切り絵のように大きくて細工が細かいものの方が評価される。中国の祝いごとの色は、

真っ赤と金色が基本。また、デザインや色を中国向けに変えようとしたが、かえって和紙

の美しさが失われてしまった。

<欧米市場で通じる宣伝文句が中国では使えない>

問:中国市場開拓の難しさや留意点は。

答:中国の消費者の反応は、極めて難しいということをあらためて認識した。

和紙は 1,300 年の歴史があり、手づくりという特徴がある。欧州のように、ハンドメー

ドペーパーの歴史がある地域では手づくりの紙に対する絶対的価値観があるが、中国では

手づくりの紙に価値を見いだす人がほとんどいない。

商談会に参加したバイヤーや通訳と話を交わすうち、中国人が日本の和紙の原料の楮(こ

うぞ)を知らず、和紙に対する意識が日本や欧米と全く異なることに気付いた。欧米で通

じる和紙の宠伝文句が、中国ではことごとく通用せず、根本的にアプローチを変えないと

いけないことが分かった。

今回気付いた中国ビジネス上の留意点は増値税。商品の受け手となる代理店や法人が中

国側にないため、流通税である増値税を、商品の出し手である当社が支払う必要があった。

今後、本格的に中国に輸出することになれば、中国に受け手を作る必要があると考えてい

る。

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:当社の商品を中国で販売していくには、日本的なものを享受する価値観を創っていく

しかない。雑貨として掘り下げるのは難しいと感じている。

上海の新天地で企画イベントを行う店を持つ他社から、同店舗での「スノーフレーク」

販売の話があり、具体化したい。今後は、これまでの経験や出会いを通じて、中国展開の

糸口を探っていく方針だ。

11 年 6 月、岐阜県が県の取材と情報発信のため招いた中国人有力ブロガーが、美濃市の

工房を取材した。そのブロガーの訪問記にコメントを残している人は、上海、北京、深セ

ンといった沿海部の限られた都市の人しかいない。こういったことからも、当社商品に関

心を持つ人がいる地域は、現状では限定的といえるのではないか。

ロシア市場開拓の成功体験では、ロシア人はイタリアやフランスの良いモノを無条件で

受け入れる傾向があり、直接ロシアに行くのではなく、フランスやイタリアから攻めると

よいことが分かった。中国でも、まず、沿岸部を抑える必要があると考えている。

(西本敬一、日向裕弥、小林伶)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 30: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

25

リスクをとって成長市場に賭ける

-デザイン雑貨の「江戸川物産」-

社 名 : 江戸川物産株式会社

創 立 : 1968 年 11 月

資 本 金 : 3,000 万円

本 社 : 愛知県春日井市牛山町溝端 1600-1

代 表 者 : 代表取締役 朝倉英太郎

従 業 員 数 : 25 名(パート・アルバイト含む)

U R L : http://www.edg.jp/

江戸川物産(本社:愛知県春日井市)は 2005 年から、無限の広がりを感じさせるデザ

イナー加藤真治氏のトートバッグや T シャツ、ファブリック、文房具を北米、欧州、台湾、

韓国など世界 20 ヵ国・地域に向けて販売してきた。市場として成長を遂げている中国で

も販路拡大を模索している。朝倉英太郎社長に 2011 年 10 月 19 日、海外ビジネスの経緯

や中国ビジネスの課題について聞いた。

<一度は撤退も経験>

問:海外ビジネスの始まりは。

答:1995 年ごろから本格的に輸入ビジネスに取り組んできた。中国からは割り箸、竹皮と

いった包装材料や資材を中心に仕入れてきた。現在、米国、台湾、韓国からも輸入してい

るが、メーンは中国で、仕入れ額の半分を占めている。縫製品、雑貨は、中国に協力工場

(江蘇省の南通と揚州、広東省広州)があり、10 年ぐらいの付き合いになっている。

2005 年からアーティスト、絵本作家としても活躍している加藤真治氏と契約して、

「Shinzi Katoh Design」で海外展開を開始した。香港の展示会参加から始まり、ジェト

ロの支援も受けて、ドイツ、パリ、ニューヨークなどの展示会に出展した。その当時は、

アジアの中では韓国や台湾を輸出先として想定していた。中国は物価水準が低く、雑貨が

あまり普及していなかったため、対象ではなかった。

しかし、07~08 年には協力工場の意向を受けて、当社 100%の子会社を設立し、在庫を

当社が引き受けるかたちで、上海の古い町並みを残す保護地区の田子坊に出店した。しか

し、採算は合わず、10 年の上海万博時に撤退することになった。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 31: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

26

本社 1 階のショールームに並ぶ各商品

<1 つの世界観を売り込む>

問:中国への本格展開を目指す背景は。

答:中国に対しては 5 社ぐらいに輸出实績はあるが、ほかの国に比べ低価格を求められる

ことが多く、継続はしているものの、ボリュームがなかなか伸びない状況だった。ただ、

最近は中国が市場として成長しているため、香港、シンガポールの既存の代理店も中国へ

の輸出を要望している。また、中国に 6 店舗を持つ日本の取引先もあり、間接的に当社の

製品が入っている。台湾の取引先 2 社も中国に直営店があり、こちらにも当社の商品が置

かれている。

そこで当社として本格的に、トートバッグを主体に弁当箱や文房具などを販売していき

たいと考えた。

实はこの 9 月から中国展開の仕組みを作り直そうとしているところだ。10 月末に大連の

展示会に行く予定で、ワゴン 2 台を当社の商品でデコレーションして、ワゴンごと売り出

すかたちで 1 つの世界観を売り込もうと考えている。展示会には南通の協力工場と共同で

参加する。同工場とは、半分ずつ出資して南通に総代理店をつくろうという構想がある。

ただし、これは現時点の構想で、今後の交渉次第でどうなるかは分からない。

当社の中国の協力工場からいったん日本に輸入し、それから中国に輸出するというスタ

イルではコストが合わない。最低生産ロットを中国で販売できるようになれば、商流は日

本を経由する必要がないので、大幅にコストダウンできると考えている。コストダウンに

より、現地の相場価格に近づけたい。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 32: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

27

ワゴンでの商品デコレーション

<都市の富裕層をターゲットに>

問:狙う地域や年代は。

答:まずは南通に店舗を設置して(ワゴン 2 台)、その後にほかの地域での販売について

考えてみたい。各都市に総代理店の下の 2 次代理店をつくるイメージだ。南通協力工場の

社長によると、南通市街地だけでも 100 万人以上の人口があり、中国では 2・3 級都市で

も十分に商圏になり得るという。この社長が持っているネットワークを使って、それぞれ

の都市の富裕層を狙っていきたい。

ターゲットは日本でも 100%女性だ。上海の田子坊に出していた直営店でのデータによ

ると、30 代後半から 40 代前半がメーンの顧実だった。

問:海外ビジネス体制は。

答:私を含めて 3 人。うち 1 人が専従でそのほかは兼務。中国語が話せる者が 1 人いる。

米国にも駐在員が 1 人いる。中国人は雇っていたが今はいない。

当社では中国の特異性や、一度日本に輸入して中国に再輸出するため商流が異なるとい

う点を踏まえて、中国と中国以外を分ける体制を取っており、私が中国を担当している。

<「掛け率」めぐりせめぎ合い>

問:中国ビジネスの留意点は。

答:中国企業との商談を通じて、中国では日本と同じように「掛け率」という概念が一般

的に使われていることが分かった。購入者が販売価格を自由に決める米国などほかの海外

と同じだと思っていたら、意外にも「掛け率」を使う特殊な物差しを使う点で日本と同じ

だった。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 33: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

28

「掛け率」は小売店などの販売価格(上代)に対する卸値の割合のことで、販売価格を

示しておいて、その卸値の割合を示すスタイルだ。有名ブランドなら高い掛け率(例 65%)

でも受け入れられるが、中国企業との商談では低い掛け率(例 45%)を求められる。当社

は世界的に有名だと主張して高い掛け率を求めるが、先方はそれほど知名度がないとして

低い掛け率を求めてくるため、せめぎ合いになる。

中国で主力商品になるトートバッグ

<価格重視で付加価値に無理解な市場>

問:中国市場での今後の課題は。

答:「Shinzi Katoh Design」のシリーズは、中国の通販サイトの淘宝などで偽物が多く

出回っている。以前にジェトロの協力も得て、偽物工場を特定し訴訟しようとしたが、弁

護士に「裁判に勝っても賠償金はとれない可能性が高い」といわれた。商標登録はしてお

り、中小企業にとってこの登録費用や対策業務の負担が大きいにもかかわらず、現实には

偽物対策は難しい。

また、中国は諸外国に比べ価格への要求が厳しく、デザインや品質などの付加価値を理

解してくれない。知名度のないブランドでの中国展開は本当に難しい。

さらに、中国では中間マージンが高い。中国は日本より銀行の金利などが高いことから、

代理商などは金利を超える利益が生み出せないとなると銀行に預金した方がまし、として

買ってくれない。

このほか、売掛金の問題もある。中国に限らず、外国との取引はできる限りキャッシュ

をもらってから輸出することが重要だ。そのためには商品の魅力を十分に説明して、相手

に先払いしても欲しいと思わせる必要がある。

リスクとしては共産党一党独裁のカントリーリスク、人件費の高騰、為替など数多くあ

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 34: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

29

るが、近年、日本以上に厳しい労働契約法などが施行され、企業に適切な労務管理が求め

られるということもある。同法などを細かく勉強して、現地で従業員を管理することは可

能かもしれないが、かなりの労力を強いられることになる。

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:「Shinzi Katoh Design」シリーズの海外売り上げ比率を、現在の 20%から 5 年後に

約 5 割にもっていきたい。現在日本市場は頭打ちで、努力しても成長は難しいが、中国の

場合は努力に見合った成長が期待できる。中国も含めて高成長を期待できる国・地域に注

力していきたい。

私は46歳だが、今後 10~20年間日本国内にこだわっていては、会社は大きくできない。

成長性の大きい国でもうひと花咲かせたい。ただし、今回の仕組みでうまくいかない場合

には、中国事業を 1 度ストップするかもしれない。今回はそれくらいリスクをとって、中

国事業に取り組んでいる。

(宗金建志)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 35: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

30

5年後を見据え、中国市場開拓に着手

−デザイン雑貨の「シンラクリエイション」−

社 名 : シンラクリエイション株式会社

創 立 : 1996 年

資 本 金 : 300 万円

本 社 : 愛知県名古屋市中区栄 5-4-26

代 表 者 : 代表取締役 塚本 泰希

従 業 員 数 : 20 名

U R L : http://www.sinra.co.jp/

シンラクリエイション(本社:愛知県名古屋市)は、スマートフォン関連グッズをはじ

めとしたデザイン雑貨の製造・販売などを手掛け、これまでに韓国や台湾での販売実績を

持つ。さらに、中国市場の 5 年後を見据え、商談会に積極的に参加するなど販路開拓に向

けて動き始めた。自ら商談にも臨む塚本泰希代表取締役に 2011 年 10 月 24 日、中国市場

開拓の経緯や課題について聞いた。

<韓国、台湾と同じ文化レベルの都市圏をターゲットに>

問:中国市場開拓を目指した経緯は。

答:これまでの販路は国内の雑貨店中心だったが、商材自体がワールドワイドなため、そ

れだけではもったいないと感じていた。約 3 年前からパソコン関連の小物デザインなどを

取り扱うビジネスを始め、商品が増えてきたのは 1 年ほど前。3 年前から国内の展示会に

出展した際などに、海外のバイヤーからも引き合いを受けるようになり、2011 年の春ごろ

から本格的な海外ビジネスを始めるようになった。現在は台湾、韓国などでスマートフォ

ン用のケースを中心に販売している。

中国は、台湾経由で西安に尐量を輸出している程度。これまで販売してきた韓国、台湾

と同じ文化レベルの都市圏は、有望な販売先となり得ると考え、上海と天津での展示・商

談会に参加した。自ら商談に立ち会い、陣頭指揮を執っている。

問:中国での商談会に参加してどのような印象を受けたか。

答:商談会での自社商品に対する一般消費者の反応は良く、手応えはあったので、今後何

らかの方法で販路を設けていきたい。ただ、やや時期尚早ではないかという印象も受けた。

しかし、今は時期尚早としても、5 年後を見据えて準備していかなければならない。

<価格設定、類似品との差別化などが難問>

問:中国市場開拓の課題は。

答:まずは価格面の問題がある。日本から輸出して中国で販売しようとすると、日本での

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 36: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

31

販売価格の約 1.5 倍になってしまう。

次に、差別化が難しいという点もある。当社の製品はデザイン勝負のもので、家電製品

などとは異なり、付加価値が分かりやすい性質の商品ではない。他方、中国では似たよう

な商品が安価で売られており、差別化が図りにくい。

また、コピー製品も多く出回る国なので、一部の商品について意匠登録や商標登録をす

る手続きを進めている。これまで台湾、韓国では登録してこなかったが、中国では状況が

異なるので必要と感じた。また、商談したバイヤーから、製品名を漢字表記にするよう求

められた。漢字表記されたネーミングの方が売りやすいということのほかに、商標を取る

ためでもあるという。バイヤー自身もコピー製品が出てくることに危機意識を持っている。

このほか、税制面でも中国ビジネスは難しいと感じた。

商談会は、日本のさまざまな物を扱っているバイヤーが来ており、相手の本気度を見定

めるのが難しい。上海などは文化レベルが高く、雑貨展も多いので、ギフト展のような業

種を絞った展示商談会に参加することが有効なのではないかという印象を持った。マッチ

ング性を高めることにより、商談の成功率を上げていきたい。

デザイン性と機能性を兼ね備えたスマートフォン用ケース

「Trolley Case(トローリーケース) for iPhone4/4S」

<人の目に付くスマートフォン用ケースには商機>

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:中国ではまず、上海などの都市部をターゲットとしていく方針だ。香港も有望と考え

ている。中国の消費者はまず、自動車や衣服など人の目に付くところから金をかけると聞

く。そうした意味では、当社のスマートフォン用ケースは外に持ち出すものなので、金を

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 37: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

32

かける層は間違いなくいるので、商機はあると思う。

また、将来的には、上海以外の周辺都市や内陸新興地域へのビジネス展開も考えている。

ただし、こうした地域は現段階では当社の商品が受け入れられるには時期尚早という印象

だ。

商品展開としては、韓国や台湾で売れたものを中国でも投入していく方針だ。製品名を

漢字表記にすることは検討しているが、今のところ中国市場用のデザインなどは考えてい

ない。

さらに、中国と並行して、北米や欧州でのビジネスチャンスも探っていく。デザインで

は差別化できており、ニューヨークでの展示会にも参加を希望している。

(日向裕弥、小林伶)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 38: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

33

デザイン照明で中国市場を攻める

-老舗和傘メーカーの「日吉屋」-

社 名 : 株式会社日吉屋

創 立 : 江戸時代後期(法人改組 2003 年 10 月)

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 京都府京都市上京区堀川寺之内東入ル百々町546

代 表 者 : 代表取締役 西堀耕太郎

従 業 員 数 : 8 名

U R L : http://www.wagasa.com/

日吉屋(本社:京都府京都市)は、江戸時代後期創業の京都で唯一の和傘メーカーだ。

従業員は 8 人で、「伝統は革新の連続」を企業理念に掲げ、伝統的和傘の継承だけでなく、

和傘の技術と構造を生かした新商品を手掛けて、グッドデザイン賞などを受賞し注目を集

めている。世界 14 ヵ国に総代理店を持ち、中国でも販売拡大を狙う。西堀耕太郎代表取

締役に 2011 年 11 月 17 日、中国ビジネスの経緯や戦略などを聞いた。

<和傘の細かい陰影を照明に生かす>

問:海外市場を目指す背景は。

答:年々日本の市場が小さくなっており、和傘メーカーは京都で当社のみ、全国でも 10

社程度だ。こうした状況に危機感もあり、2004~05 年にかけ、和傘を使って新しい商品

を作る取り組みを開始した。その結果、京和傘の伝統技術と構造を生かした和風照明シリ

ーズ「古都里-KOTORI-」が生まれた。

和傘の特徴である竹骨の幾何学構造が描き出す細やかな陰影と、和紙や布地を透過して

広がる優しい明かりが特徴だ。シェードは着せ替えができ、取り外したシェードは和傘の

ように折り畳み、コンパクトに収納できる。和傘の場合は通常 2~3 週間かけて 1 本製造

するが、「古都里-KOTORI-」はある程度の量を確保するため、1 時間半で製造できる

ようにした。

この商品の市場をどこに設定するかを調査した際に、日本国内の照明市場規模は約

6,000 億円で、成長市場とはいえなかった。デザイン照明はその中でも数%の市場規模し

かなく、そこで国内大手メーカーと海外メーカーが競争している状況だった。

当社はまず、各都道府県の県庁所在地に 1 店舗ずつ取扱店を獲得していこうと考えた。

単純にするために、都道府県の数を 50 とすると、50 店舗で毎月 2 個売れば、合計で 100

個売れる。それでも十分な数ではないので、海外 10 ヵ国に販売先をつくり、各国に 100

個ずつ、合計で 1,000 個の販売を目指そうという発想だ。

この商品は洋审で洋家具として使用されると想定している。洋家具のデザインはイタリ

ア、フランス、北欧が最先端で、そこで評価を得られれば、日本を含めて、世界中で使用

してもらえると判断した。そこで、ハイエンド向けのデザイン照明で欧州市場を開拓しよ

うとなった。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 39: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

34

日吉屋は京都で唯一残る和傘メーカー

<海外の建築プロジェクトに参入図る>

問:海外販売の状況は。

答:市場開拓の結果、現在 14 ヵ国に総代理店がある。代理店の条件は(1)適宜しっかり

と連絡がとれる優秀な人材がいる、(2)電気工事ができる、(3)建築関係の顧実を持つ、

の 3 点。(2)、(3)を満たすところとして、設計事務所、工務店などがあり、フローリ

ング、壁紙、家具などをコーディネートして、建築物件に納入する企業が対象になる。小

売店やショールームを所有しているとなお良い。

当社のデザイン照明は小売りで大量に安く売れるものではないため、建築関係のプロジ

ェクト(ホテル、商業施設)に参入すれば、当社の希望する価格でまとまった量を売るこ

とができる。その際は、建築物件に合わせてカスタマイズする。

「古都里-KOTORI-」は和紙を使用しているため、ジャパニーズランプというイメー

ジでみる国もある。販売先が日本料理屋やすしバーなどに限られる国も出てくることも想

定して、傘の骨がランプを包む形の照明を開発し、「MOTO」と名付けた。リングを手で

昇降させ、フレームを開閉させる画期的な構造は和傘から着想を得た。「MOTO」はイタ

リア語で「動」の意味だ。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 40: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

35

左が「MOTO」、右が「古都里-KOTORI-」

<市場に合わせて大きさ、色などのアレンジが必要>

問:中国市場を目指した背景と戦略は。

答:10 年に、経済産業省の事業で、ロンドン発の国際インテリア見本市の上海開催版「100%

Design Shanghai」に試験的に出展した。中国は所得格差が大きく、平均所得も一定水準

に達していないと思っていたが、沿岸部を中心に急速に経済成長を遂げており、高級品を

買える人も多いと分かった。

人口の 10%を富裕層として計算しても、市場は大きく、成長している。かつ、中国人は

インテリアへのこだわりが強く、特に富裕層は高いものや誰も持っていないものを求める。

日本からも近く、時差も 1 時間程度で連絡もしやすい。また、現地の人の多くは日本のこ

とが好きで、あるバイヤーは「日本の商品は中国で売れる。なぜ日本企業はもっと輸出し

ないのか」と話していた。メディアで反日感情が強いと報道されることもあるが、私自身

は嫌な思いをした経験はない。

海外市場は、現地語で現地の人材が開拓することが必須と考えており、中国・香港・マ

カオを含めた地域の総代理店(中国企業)に開拓を委託している。当社の製品はニッチな

ハイエンド向け商品なので、上海を中心に同代理店と一緒に、建築関連分野向け「古都里

-KOTORI-」と「MOTO」を展開していく。同代理店は中国に多くの支店があり、他省

へも展開していける。

海外に売る際には、その国に合わせてサイズ、色、明るさなどアレンジする必要がある。

例えば明るすぎるものは駄目だとか、日本のものだと小さすぎるとか、ひもが見えると美

しくないといったことだ。

中国でも無地のものは人気が出ないと指摘され、中国のグラフィックデザイナーと、モ

ダンチャイナのイメージにアレンジするため「古都里-KOTORI-」の和紙の部分に現代

風の中国柄をいれた。私は現地の人とのコミュニケーションが大切だと思っている。相手

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 41: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

36

の提案を真摯(しんし)に受け止め、相手の求めることを理解し、それに合わせて改良を

していく姿勢を示すことが不可欠だ。あるフランス人から、「通常、日本人はこちらが提

案をすると、分かりましたとその場ではいうが、实際は何もしない」と言われたことがあ

る。

問:海外ビジネスの体制は。

答:海外担当は私自身で、新規開拓と代理店対応を主にやっている。このほか、外部の 2

人の力を借りている。うち 1 人には契約書確認や代理店とのコンタクトを担当してもらい、

もう 1 人には、一般の顧実で代理店のない国からの注文に対応してもらっている。私は代

理店とは英語でやりとりしている。なお、中国の代理店には日本語ができるスタッフも 1

人いる。

輸出は私自身が担当している。小さいロットで、国際スピードサービス(EMS)で送る

ところから始めて、尐しずつ輸出業務に慣れていった。代金については基本的に 100%前

払いでもらう。

<メディアへの露出が重要>

問:中国市場開拓の課題は。

答:今のところ課題はあまりない。一般的には、模倣品の氾濫、信頼できる相手を見つけ

ることの難しさなどが挙げられる。これは中国以外の国も同様で、信頼関係をいかに構築

していくか、相手に対して自社の商品を前払いでも購入したいと思わせることができるか

どうかにかかってくる。

購入したいと思わせるには、素材、デザインも大切だが、消費者へのアピールも重要だ。

当社は広告に多額の費用をかけられないが、伝統的なものを使って新しいものを生み出し

ている商品のユニークさを強調し、面白い会社だと認識してもらうことで、日本や海外の

メディアへの露出を増やすことができた。その結果、高級なイメージが定着して、値段が

高くても購入してもらえるようになった。

展示会では、開催日に先立って現地に入り、代理店と一緒にバイヤーはもちろんのこと

プレスも事前に回り、展示会にきてもらうように働き掛ける、展示会に向けた現地語での

プレスリリースを準備する、などの努力もしている。

当社の商品は国際特許出願中で、国際商標は取得している。他社から訴えられないため

で、模倣品を取り締まるためではない。模倣品対策としては、メディアへの企業イメージ

や商品の打ち出しが大切だ。当社は中国でも既に雑誌などで紹介されている。オリジナル

がどの企業か、どこがその代理店かを消費者に知ってもらうことが重要だ。模倣品があっ

たとしても、富裕層は模倣品ではなく、オリジナルの高くても品質が良いものを購入して

くれる。ブランディングができていれば、模倣品を恐れる必要はない。

ただし、中国だけではなく欧州でもそうだが、電圧の違いには当初苦しんだ。また、中

国の強制製品認証制度(CCC)の認証取得には費用と時間を費やした。規格を調べるとこ

ろから始めて、1 年以上かかった。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 42: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

37

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:11 年の上海の展示会に出展した際、傘を使ったテントを持って行った。このほか、バ

イオプラスチックを使用した傘の製造も考えるなど、新商品を常に考え、中国に限らずに

投入して、その反応を見ながら、柔軟に改良して新商品を売っていきたい。

大手企業は代理店とともに展示会に出展し、来場する顧実に応じて、担当の代理店がそ

の国の言葉で対応するかたちになっている。当社も最終的にはそれを目指したい。中国企

業との商談については中国の代理店の担当者が、韓国企業との商談については韓国の代理

店の担当者が対応するというイメージだ。12 年のドイツの照明器具の展示会で、代理店に

呼び掛けて一緒に来てもらって試してみたい。

また、海外での需要が拡大して、業績が拡大したら、それに応じて従業員を現在の 8 人

から増やすことも考えたい。

(宗金建志、鷲北弥那子、加藤祐子)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 43: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

38

直接輸出に挑戦、現地生産も視野に

-ハンガーづくり 60 年の「シンコハンガー」-

社 名 : シンコハンガー株式会社

創 立 : 1923 年(法人改組 1950 年 2 月)

資 本 金 : 2,500 万円

本 社 : 大阪府大阪市生野区舎利寺 2 丁目 9 番 2 号

代 表 者 : 代表取締役社長 新子政友

従 業 員 数 : 70 名

U R L : http://www.hanger-net.co.jp/

シンコハンガー(本社:大阪府大阪市)は 1950 年 2 月の設立以来、ハンガーひと筋に、

家庭用・店舗ホテル用・流通用と各分野で一定のシェアを誇る従業員数 70 人の中小企業

だ。ハートやクジャク、チョウの形をしたおしゃれなハンガーで知られている。日本の大

手小売り、総合スーパー(GMS)などに低価格の中国製品が流入していることを受け、海

外に活路を得ようと、まずは中国への直接輸出を目指している。新子政友代表取締役社長、

千葉幸則専務取締役に 2011 年 10 月 31 日、中国ビジネスの経緯や戦略、課題を聞いた。

<海外市場に活路を見いだしたい>

問:なぜ中国市場を目指すのか。

答:当社は日本国内トップシェアのハンガーメーカーだが、昨今大手小売り、GMS など

がプライベートブランドを立ち上げ、中国工場から直接輸入して低価格で販売し始めた。

日本メーカーの商品が中国製品に取って代わられたかたちだ。

そこで海外に活路を見いだすことになった。価格面、洋服文化の歴史の長さを考えると、

米国、欧州などが輸出先として適当とも思われたが、自社で直接輸出した経験がないため、

まずは隣国で、市場として急成長している中国で試験的に販売してみることにした。中国

向けの自社輸出で経験を積んだ後、米国、欧州に展開していくつもりだ。

これまで、間接輸出のかたちでは中国、香港、シンガポールなどに既に輸出している。

しかし、日本の問屋と中国の問屋が取引の間に入っている。当社から日本の問屋に対して、

こうした新商品を中国や香港で販売して欲しいと提案しても、实現していない。その理由

や中国で求められているニーズを小売店から直接聞けないことが課題で、中国での販売拡

大の突破口がなかなか開けなかった。そこで、既に取引している小売店には現状ルート(日

本の問屋、中国の問屋を経由)で継続販売を行いつつ、新規小売店には直接販売か、難し

ければ中国の問屋(代理店)を通じて販路拡大を狙うことにした。

<まず高所得者層に販売、それから中所得者へ>

問:中国での販売戦略は。

答:2011 年に入り、ジェトロが企画・運営する展示商談会に参加している。当社の「S&

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 44: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

39

F」シリーズの「ニュー立体スライドハンガー」は中国を含めて海外 6 ヵ所で特許を取得

済みで、スラックスが滑り落ちにくく、取り出しやすいローリングバーを使用し、スラッ

クスやスカートを掛けるバーがアップダウンする機能もある。また、洋服を脱ぐ順番に掛

けることができるという特徴もある。これを展示商談会に出品している。

このほかにも、ハートやクジャクなどのデザインハンガー「Luette」や、バラやチョウ

などのデザインハンガー「SILUE」も販売するつもりだ。また、最近はハンガーだけでな

く、より生活の彩りを豊かにするような商品も提供しているが、それらのうち薬やアクセ

サリーを収納するケース「Larca.」も投入する。

中国で販売する価格は日本よりも尐し高めになる。ターゲットは当面、富裕層を考えて

おり、その後、中低所得者層の方向に販売展開していきたい。いきなり中低所得者層から

販売していくと、買い叩かれる恐れがある。

日本ではハンガーは黒が基本だが、中国では黒は売れない。また、日本ではピアスケー

スはピンク、パープル、ブルーの順に人気があるが、中国ではブルーに人気があるなど、

両国の嗜好(しこう)に違いがある。中国に合わせた仕様に調整することで対応をしてい

きたい。

現時点では、中国に小売店を持つグループ企業や日本に拠点を持つ商社を代理店候補と

して、商談している。前者の担当者は日本語も堪能で、「S&F」「Luette」「SILUE」

の 3 つの総代理店になりたいと希望している。これについては、このグループ企業が中国

国内をどこまでカバーしているのか、自社以外のほかの小売店での販売を開拓する意欲が

あるのか、購入量なども踏まえて確認していきたい。

「ニュー立体スライドハンガー」は

海外6カ所で特許を取得

品ぞろえ豊富なおしゃれデザインハンガー

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 45: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

40

後者については、日本に拠点があるため、国内販売で円決済の取引をし、ここを通じて、

中国の大手家電量販店に販売できるよう契約書の最終の詰めを行っている。

日系を含めた中国の小売店の反応もよく、代理店が決まったら教えて欲しいといわれて

いる。ネット販売を行う企業からの引き合いもあり、同じく代理店が決まったら連絡する

ことになっている。

また既に、中国のドラッグストアチェーンの日本法人には、国内取引のかたちで薬用携

帯プチケースを 10 月 18 日に納品した。北京で試験販売して、うまくいけば、ほかの省に

展開していくことになっている。

問:海外ビジネスの体制は。

答:千葉専務と企画担当者の 2 人体制だ。中国語を話せないので、メールなどは翻訳ソフ

トを使ってみたり、先方も英語で連絡をしてきたりしている。幸いジェトロの輸出有望案

件に認定されていることもあり、中国語の堪能な専門家と逐一連絡を取り合い、メールな

どを見てもらっているので助かる。

<中国ビジネスの課題は中国語>

問:中国市場開拓の課題は。

答:中国ビジネスが困難なのは、言葉の問題があるからだ。英語でのコミュニケーション

が難しく、中国語が必須になる。成都の商談会に参加した際は、通訳を通じてのコミュニ

ケーションだったため、微妙なニュアンスが伝わらず、商談相手の知りたい内容がなかな

か理解できないことがあった。

また、中国企業と商談していると、値段について、FOB 価格ではなくて CIF 価格や DDP

価格の提示を要求されるケースがあり、海上運賃や保険料、輸送時間などをあらかじめ調

査して、提示できるようにしておく必要があると感じた。ただ、その場合は輸送業者やロ

ットなどが決まっていなければならないので、困難な面もある。さらに、小売店と直接取

引したいと思っていたが、小売店と商談してみると、貿易権を持っていないところが意外

に多く、中国では代理店を決めることが重要だと分かった。

懸念されるのは模倣品の問題だ。権利を取得することも大切だが、商品ごとに取得する

と申請費用がかさむため、その判断が難しい。当社は中国で社名とロゴの商標は既に申請

している。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 46: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

41

大阪本店の6階にあるショールーム LABO

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:将来的には信頼できる工場とパートナーを組んで、中国で生産した製品を中国で販売

していくことも考えなければならない。同時に、日本で生産した製品を「メード・イン・

ジャパン」のブランドで輸出するという 2 本立て体制だ。

このような体制であれば、低価格の製品を要求する日本の顧実には、中国の工場で生産

した「メード・イン・チャイナ」製の低価格の輸入品を買ってもらうということも可能に

なる。まずは輸出展開をしていき、人員を 1 人雇用できる程度の売り上げになったら、現

地スタッフを雇用して、現地法人を設立することも考えたい。

(宗金建志、鷲北弥那子、加藤祐子)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 47: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

42

模倣品には断固とした態度で

-ケーキタオルの「プレーリードッグ」-

社 名 : 株式会社プレーリードッグ

創 立 : 1993 年 12 月

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 大阪府大阪市中央区安土町 3-4-16 船場オーセンビル 7F

代 表 者 : 代表取締役 松岡 良幸

従 業 員 数 : 26 名

U R L : http://www.prairiedog.com/

プレーリードッグ(本社:大阪府大阪市)はケーキそっくりにデコレーションされた「ル・

パティシエ」というブランド名のタオルで知られている。同社は 10 年以上前から中国で

委託生産を行ってきたが、2010 年からは中国での販売にも取り組み始めている。松岡良幸

代表取締役に 2011年 11月 18日、海外進出の経緯や中国ビジネスの課題について聞いた。

<ギフトショーをフルに活用して市場開拓>

問:海外に向けた取り組みは。

答:当社は、私が 1993 年に設立した繊維製品の企画・製造・卸売会社で、従業員は 26 人。

93 年まで私は繊維を扱う商社に勤めていたが、その当時は日本から海外へ繊維製品を輸出

するケースはあまりなかった。そこで、設立当初から、自社の製品をいつか海外に輸出し

たいという思いを持っていた。

05 年1月から「ル・パティシエ」というブランド名で、イチゴの飾りがついたショート

ケーキ型のタオルを販売している。「ル・パティシエ」は日本国内で評判となり、06 年か

ら海外販売のため、ドイツ、フランス、米国などの展示会に出展した。米国には 07 年 10

月、現地法人を設立し、現地人材を雇用している。さらなる拡販を狙って、欧州、米国、

中国、香港を中心に、1 年に 10 回以上ギフトショーなどに出展して、新商品を宠伝してい

る。既に 50 ヵ国以上での販売实績がある。

日本本社で商品開発を行い、展示会やネット販売で世界中に広める方針で取り組んでい

る。海外で販売する商品は、基本的には日本と同じ仕様だ。日本で売れるものを作れば、

世界でも売れると考えている。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 48: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

43

ケーキと見まがう「ル・パティシエ」のケーキタオル

<拡大する消費市場に注目>

問:中国市場開拓を始めたきっかけは。

答:10 年以上前から中国で生産を始め、山東省などに生産協力工場がある。インドなどで

も生産しているが、中国は製造設備が整い、船積みして 1 週間で日本に入荷できるなどリ

ードタイムも短いため利便性が最も高く、今でも生産の中心地だ。

中国での販売は 10 年 10 月から始めた。人口が多く、経済発展も著しいため、生産地と

してより消費市場としての重要性が高まっている。日本で製品を企画し、日本と中国で生

産している。日本から中国へ輸出すると、関税などで日本よりも約 30%高くなってしまう。

「メード・イン・ジャパン」のブランドイメージも大事だが、一定の数量売れないと意味

がない。日本製も中国製も含むすべての当社商品の中国での販売を行うため、上海に現地

法人を設立した。

現地法人の責任者は日本本社に勤務していた中国人女性だ。中国で委託生産した商品の

輸入業務を担当していたが、結婚・出産を機に中国に帰ることになった。仕事への熱意が

あり、出産後には日本に戻って働きたいとの意向で産休扱いを申し出てきた。まさにその

時、中国での国内販売を検討していたため、彼女を責任者として現地法人を設立すること

に決めた。日本本社で勤務した約 5 年の間にスタッフと仕事をする中で、国籍や文化の違

いを超えて日本の考え方を学んで理解してくれたので、信頼関係が築けていた。現地法人

は副総経理で営業担当の彼女と、経理担当の 2 人体制だ。展示会には私も現地に赴き、支

援している。

<ブランドの確立が必要>

問:具体的な販売戦略は。

答:販売先は、化粧品会社やショッピングセンターに出店しているチェーンストアなどで、

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 49: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

44

化粧品会社に対してはその企業名などを入れて、相手先ブランドによる OEM のかたちで

販売するケースもある。

ただし、本気で中国で商売を行うならば OEM 生産などではなく、自社で販売を行い、

当社のブランドの信用を築いていかなければならないと考えている。現地法人の事務所家

賃が 12 年に 20%上昇する見込みのため、単に輸入・卸売りの拠点としてだけでなく、小

売店やアンテナショップとしても活用したい。百貨店からの引き合いもあるし、ショッピ

ングモールに入ることも検討している。また、内陸部にフランチャイズで出店する方法も

あると思っている。

当社の販売ターゲットは中間層以上の所得層だ。販売価格は日本と同程度か約 20%高く

なる商品もある。中国で生産している商品でも、増値税などが発生するため、日本より高

くなってしまうことも尐なくない。

中国では主に「ル・パティシエ」のケーキタオルや「デザイナーズ・ジャパン」などの

ブランドで展開するエコバッグを販売している。赤のエコバッグが売れるなど、日本の売

れ筋とは違う傾向がみられることもある。今後は中国向けに仕様の変更も考えるかもしれ

ない。

中国の売れ筋エコバッグは日本と異なる

<裁判でしっかり正当性を主張>

問:模倣品対策はどうか。

答:「ル・パティシエ」は 05 年から日本で大ヒット商品となり、07 年から欧米向けを中

心に輸出も伸びた。その 1 年後には中国や台湾製のケーキタオルの模倣品を海外展示会で

見かけるようになった。08 年にフランスや米国で行われた展示会に出展した際には、当社

の商標「ル・パティシエ」とよく似た商標「ル・シェフ・パティシエ」を用いた、当社商

品とそっくりのケーキタオルを見つけた。

その模倣企業は商品だけでなく、当社のパティシエという商標も取得していた。さらに

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 50: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

45

悪質だったのは、日本の展示会での当社の陳列の様子を撮影し、自社のウェブサイトのト

ップに掲載していたことだ。腹が立ったが、冷静に行動し、日本と中国の特許事務所を通

して 1 年半をかけて準備し、北京の裁判所に訴えを起こした。

裁判ではケーキタオルを 05 年から日本で販売してきたことを訴えたが、中国で自社製

品の販売实績がなかったため、内容的に勝つことは難しいとも思った。しかし、当社の商

品を模倣していることは明らかで、裁判では私自らそのことを強く訴えた。和解の話し合

いの場が設けられたが、私は相手企業に対して徹底的に戦う意思を伝えた。

最終的には、相手企業が当社の商品にそっくりな商品の販売を停止することと、商標を

当社に渡すことで和解し、訴えを取り下げた。話し合いは 8 時間にも及ぶ長丁場となった

が、その間は裁判官が付き合ってくれた。裁判官は私の気持ちを理解してくれた。中国の

司法も国際基準に近づいてきていると感じた。裁判は費用も時間もかかるが、このときの

経験から、私は模倣品が出てきたらしっかり正当性を主張して、模倣業者に断固とした態

度を見せたほうがいいと考えている。できる限り迅速に相手に通告することも大切だ。中

国企業は簡単に模倣するが、自社が裁判で訴えられるとやはり困る。互いにしっかりと話

し合えば解決できると私は考える。現在は会社名や販売計画のあるブランド名の商標は、

日本だけでなく中国や欧米に国際登録出願を行っている。

<海外事業はトップが先頭に>

問:ジェトロの事業で中国の商談会などに出展されているが、その成果は。

答:11 年はジェトロの事業に参加し、沿岸部だけでなく成都や武漢など内陸部も訪れてい

る。成都の商談会に参加してみて、今まで私は内陸部のことは十分理解していなかったが、

訪れてみると目覚ましい発展を遂げており、新しいビジネス候補地になり得ることが分か

った。

また、实際のビジネスとして、長春の企業から引き合いが来ている。先方は百貨店で販

売しているほか、販売店への卸売りも行っている。

当社は現地法人に中国人の社員がいるため、商談会では中国人が中国語のパンフレット

を使って説明している。商談会だけを考えれば、通訳を使った対応でもいいかもしれない

が、商談会への参加は出会った企業とのその後のやり取りが大切なので、中国語の話せる

人材が自社にいなければならない。また、私自身も現在中国語の勉強をしている。

問:中国での課題は。

答:中国で販売するには、中国規格の国家標準(GB)の条件を満たす必要があり、商品下

げ札の表示などにも細かい決まりがある。信頼できる現地企業と組むか、自社でしっかり

した体制を作らないと、この内容を把握して、商品を販売することは容易ではない。

また、10 月から専門のスタッフを雇用し、日本でのネット販売に力を入れている。コス

トを安く抑えて、消費者を獲得できるツールだし、展示会に出展している大手企業は、展

示会の場でそのウェブサイトを紹介し、来場した企業が会社に戻ってからアクセスできる

ようにするといった使い方をしている。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 51: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

46

当社も中国でネット販売を行いたいが、リアルタイムで対応できるようにしないと、フ

ォローが中途半端になる。かつ、フォローは人任せでなく、自社で行う必要がある。この

ため、日本のネット販売を約 1 年で軌道にのせ、経験を積み重ねた後に、中国でも展開し

たいと考えている。

最後に、海外事業はトップ自らが積極的に行わないと難しい。私は現在海外事業に注力

しており、国内事業の大部分は社員に任せている。私が海外に意識を向けている間に、社

員は力をつけたと感じている。当社の売り上げ全体に占める海外の割合は現在 1 割未満で、

中国の売り上げはその中でもわずかだ。今後、私と現地社員を中心に、海外事業に積極的

に取り組み、売り上げを拡大していきたい。

(鷲北弥那子、宗金建志、浅日美樹)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 52: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

47

富裕層の多い上海から市場開拓

-老舗畳製造の「TTN コーポレーション」-

社 名 : 株式会社 TTN コーポレーション

創 立 : 1934 年 4 月創業、1989 年 6 月設立

資 本 金 : 3,000 万円

本 社 : 兵庫県伊丹市北伊丹 9 丁目 80 番 3

代 表 者 : 代表取締役 辻野 福三郎(辻野 佳秀)

従 業 員 数 : 415 名

U R L : http://www.ttn-corporation.net/

TTN コーポレーション(本社:兵庫県伊丹市)は 1934 年に創業した老舗の畳メーカー

で、関東・関西を販売エリアとし、24 時間稼働の畳・ふすま製造工場を完備していること

でも知られる業界トップメーカーだ。4 代目の辻野福三郎社長の下、伝統的な畳から、デ

ザインやインテリア性を重視した新しい畳まで、幅広い提案を行っている。国際営業部の

早川豊史氏に 2011年 10月 13日、海外進出の経緯や中国ビジネスの課題について聞いた。

<人工イ草の畳「igusa・mono」で海外市場に挑戦>

問:中国市場開拓を目指した経緯は。

答:当社の売り上げはここ数年、前年比 20%増で伸びているが、畳業界自体は和审離れで、

今後縮小することは間違いないと考えている。国内市場が縮小するまでに海外での販路を

確保しておきたいと考え、中国を中心とした海外市場開拓を目指すことにした。国際営業

部を 2010 年 10 月に立ち上げたが、自分は商社出身で国際ビジネスの経験があったため、

立ち上げの際に誘われて入社した。

現在、当社の畳の売り上げの大半は天然イ草製だが、海外では人工イ草(ポリプロピレ

ン製)を使った「igusa・mono」という自社ブランドの畳の販売を考えている。海外では

富裕層をターゲットと考えているが、当面は欧米よりも中国の富裕層市場が有力だとみて、

中国市場開拓を目指すことにした。

問:製品開発の経緯は。

答:当社が海外展開向けに開発した「igusa・mono」畳の特徴は、ファッション性(縁が

なく、基本の形は正方形で色展開が豊富、和审にも洋审にも合う)と、機能性(水に強く、

厚さは 14 ミリと薄いがクッション性は従来の畳以上)にある。国内で 3 年間の営業活動

を続け、有名な旅館やホテルなどに導入されるなどの实績がある。「igusa・mono」は国際

出願のかたちで商標登録を申請している。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 53: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

48

「igusa・mono」畳は洋室にも合わせやすい

問:中国市場の開拓戦略は。

答:中国には既に畳店が多くあり、富裕層が家に和审を作るのが一種のステータスになっ

ている。当初、従来の天然イ草の畳を既製品として輸出しようと考えたが、中国でも日本

同様 1 ミリ単位のオーダーメードの製品が求められていることや、中国メーカー製造の畳

との価格差が大きかったため、日本からの輸出では採算が合わなかった。そのため人工イ

草の既製品で挑戦することにした。

販売地域としては上海を考えている。富裕層が多く、沿海部にあり日本から近いこと、

当社の顧問が上海に詳しいこと、がその理由だ。10 年 12 月以降、5 回上海に出張し、う

ち 3 回は独自のマーケット調査に出掛けて営業活動を行っているが、これまで中国市場で

の实績はなかった。

日本では 45 センチ四方のものや 90 センチ四方のものを取り扱っているが、中国(上海)

ではどのサイズ、色の商品が売れるか分からないため、このほかに 1 メートル四方のもの

も含め、11 色を用意している。製品価格を下げたくないという思いもあるが、日本で製造

すると高価格にならざるを得ないので、中国で OEM 生産することも考えている。その場

合、畳表は日本から中国に輸出するつもりだ。

<取引企業は辻野社長の目で選ぶ>

問:中国市場開拓の成果は。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 54: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

49

答:上海の企業と代理店契約を締結中だ。相手企業は上海に営業拠点を持ち、輸出入権も

持っている。また、日本支店もある。本業は鉄鋼の輸入・加工・販売の会社だが、社長が

京都大学に留学した経験があり、日本語が堪能なことも大きな信頼の 1 つだ。

先方は中国の総代理店契約を希望していたが、ほかの地域での販売はそこの地元企業の

方がいい可能性もあり、また現時点では先方の实力が分からないため総代理店契約にはし

なかった。

やり取りは、先方の営業担当も日本語ができるため日本語で行っている。商品は同社の

日本支店に渡し、国内決済の予定だ。同社にはサンプルを送り、販売店を回ってもらう。

どのようなサイズ、色がいいか分からないため調査を实施してもらい、反応が良かったも

のを中心に中国に送る予定だ。

問:中国以外での取り組みは。

答:中国に限らず世界で販売することを考えている。09 年に経済産業省の支援を受けイタ

リアの「ミラノ・サローネ」に SOZO_COMM(生活関連産業ブランド育成事業)の 1 社

として出展したほか、12 年 1 月にパリで行われる「メゾン・エ・オブジェ」でもジェトロ

のジャパンブースに出展する。

また、香港、シンガポールに総代理店を持っている。香港の代理店はウッドデッキを日

本から輸入している企業で、10 年 3 月にシンガポール国際家具インテリア展示会「ホスピ

タリティー・アジア」のジェトロのジャパンブースに出展した際、先方が当社のブースに

来て知り合った。シンガポールの代理店は信頼の置ける日本企業を通じて知り合った。海

外企業の信用情報入手は難しいが、当社の場合、取引企業は辻野社長の目で選ぶところが

大きい。香港、シンガポールの場合は代表同士が面談し、互いに信頼できる企業かを確認

して取引が始まった。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 55: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

50

人工イ草の畳表はカラーもデザインも豊富

<ビジネスのスピードの早さが強み>

問:今後の中国ビジネスの方向性と課題は。

答:海外事業は辻野社長と自分が担当している。海外の企業から日本企業はビジネスの決

断スピードが遅いとよくいわれるが、当社の海外事業の方針は社長が自ら決めるため、そ

の決断スピードが早い。自分も決断が要求されるような場面には、できるだけ社長と一緒

に行くようにしている。

当社の課題は、中国で日本の家具屋に相当する流通形態を発見できていないので、どの

チャネルに販売していけばいいのか、どうしたら富裕層に当社の商品を見てもらうことが

できるのか、という戦略を定めきれていない点だ。「100%Design Shanghai」というイ

ベントが 11 年 11 月に上海で開催されるが、この展示会は建築家や設計事務所からの来場

者が多いので成功率が高いという。当社も 12 年の出展を検討するため出張して見学する

予定だ。

このほか、価格競争が激しいということがある。中国の大手電子商取引サイト淘宝網で

の販売でも引き合いがあるが、価格面が課題で成約に至らない。製品価格を落とすために

中国での OEM 生産も考えている。今後は、中国語が分かる人材も欲しいし、将来的には

現地法人の設立も視野に入れて考えたい。

(鷲北弥那子、宗金建志、西尾瑛里子)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 56: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

51

直接輸出で拡販目指す

-灯油ポンプ製造の「三宅化学」-

社 名 : 三宅化学株式会社

創 立 : 1959 年 1 月創業、1977 年 7 月設立

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 奈良県磯城郡田原本町八尾 44-1 番地

代 表 者 : 代表取締役 立川 勝彦

従 業 員 数 : 30 名

U R L : http://www.tp-miyake.co.jp/

三宅化学(本社:奈良県田原本町)は従業員 30 人、長年にわたり「トーヨーポンプ」

ブランドの家庭用灯油ポンプの製造販売を行っている業界トップメーカーだ。これまで日

本の代理店を通じて中国に輸出していたが、自社での輸出に取り組み始めた。営業部課長

の竹元厚美氏と生産管理課長の牧野真次氏に 2011 年 11 月 1 日、海外進出の経緯や中国ビ

ジネスの課題について聞いた。

<これまで中国・台湾・マレーシアなどに間接輸出>

問:中国市場開拓を目指したきっかけは。

答:1971 年、奈良県北部で「トーヨーポンプ」ブランドの手動式ポンプの製造・販売を始

めた。現在は手動式に加え電動式ポンプも製造しており、日本国内では一定のシェアを確

保している。しかし、今後国内市場が縮小し、事業拡大が難しくなってくる恐れがあるた

め、海外でポンプ事業を拡大させていきたいと考えている。

広東省東莞市の日系工場と協力関係にあり、10 年以上前から中国で生産した商品を日本

に輸入し販売している。そこで、生産地の中国での販売を考えた。人口が多い点も魅力だ。

将来的には中国に自社工場も持ちたいと考えている。

現在、灯油ポンプや水槽用ポンプは日本の代理店を通じて輸出しているが、当社自身に

よる輸出はまだ行っていない。代理店による輸出では販売店が限られるため、中国での販

売をさらに拡大したいという思いがある。日本では一般的に商社を通じて小売店に販売す

るという流れが多いが、中国ではメーカーから直接購入したいという声も多いと聞いてい

る。そのため、今後は自社で販路を開拓し、輸出量を増やしていきたいと考え、取り組み

始めたところだ。

現在は中国、台湾、マレーシアなどに当社製品が間接輸出され、灯油ポンプや水槽用ポ

ンプが売れている。しかし、どのような消費者層にどのような目的で購入されているかが

分からない。自社で輸出することで、消費者のニーズを把握し、商品の仕様に反映してい

きたい。

<金魚が飼える中所得層以上をターゲットに>

問:中国の市場開拓戦略は。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 57: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

52

答:当社自身による海外市場開拓は初めてなので、分からないことが多い。そこでジェト

ロの事業に参加し、勉強している段階だ。輸出は最初の 1 回までが大変だが、それを達成

できれば様子が分かってくると聞いたので、まずはそこまでの一歩を踏み出したい。

ジェトロの天津のアンテナショップではかなりの売り上げがあった。当社の灯油ポンプ

(手動)が人気で、アンテナショップでの購入者は水槽用ポンプとして使用するのが目的

のようだった。こうした点を考慮して、ターゲットは金魚などを飼える、所得が中の上程

度の消費者を考えている。また、湯たんぽも売れた。湯たんぽはゴム製のものは中国にも

あるが、プラスチック製のものは日本にしかない。湯たんぽはインターネット販売の淘宝

商城にも出品しており、日本の湯たんぽとして認知されているので期待している。

三宅化学本社工場

<中国語人材の確保が課題>

商談会で面談した企業は、事前に当社製品をリサーチしてから訪れてくるようだった。

現在引き合いが来ているが、海外を担当する社員 3 人は中国語ができず、先方は中国語し

かできないため、まだ回答できていない。商談相手とはこれから話し合い、約半年で取引

を開始するか見極めたい。1~2 年かかるようなら、断った方がいいと思う。

今後は日本人、中国人を問わず中国語ができる人、中国に精通した人材も入れたいと考

えている。しかし、既に 1 回募集したが、良い人材にめぐり合えなかった。当社の場合は

海外事業だけを担当してもらうわけにはいかないので、国内の仕事も担当できる人材を探

している。

中国での販売地域はこれから見極めたい。当社の主力製品の灯油ポンプは、中国全域で

販売したい。しかし、生産工場は広東省にあるので、その付近から販売を始めたいという

思いもある。当社のポンプ技術の特許権は既に切れているが、商標(TOYO PUMP)は

2011 年に入ってから日本の特許事務所に依頼し、中国で申請済みだ。

<既に模倣品が流通>

問:中国市場開拓のリスクは。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 58: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

53

答:当社の課題は模倣品だ。当社製品の模倣品が既に中国で出回っている。中国企業が製

造したもので、当社ブランド名の「TOYO PUMP」を 1 文字変えて「TOYA PUMP」と

して販売されている商品があった。外観は当社製品とそっくりだが、内部の技術までは模

倣できていないため、機能に問題がある商品が出回っている。

しかし、当社がきちんとした製品を製造・販売すれば、中国でもその良さが認知される

のではないかと思っている。また、中国の雑貨販売店は売り場で商品をしっかり管理して

おらず、ほこりをかぶってもそのままになっていることが多い。当社は百貨店やホームセ

ンターを販売先として考えている。

(左)手動式ポンプ、(右)ポリ湯たんぽ

<まず地域ごとの代理店契約を>

問:今後の中国ビジネスの方向性と課題は。

答:やはり言葉、文化の違いがビジネスの課題だ。日本の場合は大手小売店で「棚割り」

をし、棚をもらえると一気に全国展開されるが、中国はそうではない。各地域で営業活動

を行う必要がある。代金回収方法の確立なども今後の課題だ。

また、海外ビジネスでは相手企業の見極めが難しい。直接海外の顧実と取引するのは未

知の世界だが、まずは挑戦し、勉強しながら改善していきたい。中国は駆け引きの多い国

だから、総代理店ではなく、地域ごとの代理店契約を結んでいきたい。

今後、中国の商品に加えて、メード・イン・ジャパンの製品の輸出も含め、中国での販

売を拡大していきたい。そして、今後は市場調査も行い、中国向けに製品の仕様を考えて

いきたい。

(鷲北弥那子、宗金建志、加藤祐子)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 59: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

54

トップセールスと独自技術で切り開いたアジアの販路

-ガラスコーティング剤の「グリーンプラス」-

社 名 : 株式会社グリーンプラス

創 立 : 平成 12 年

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 山口県下関市王司上町 1 丁目 7-20

代 表 者 : 代表取締役 加藤 功

従 業 員 数 : 5 名

U R L : http://www.greenplus.jp/

円高などの逆風をものともせず、海外市場を次々に開拓しているのは、ガラスコーティ

ング剤など環境関連製品のグリーンプラス(本社:山口県下関市)だ。輸出を目指した 2009

年から 2 年余りで販路は台湾、マレーシア、シンガポールへと拡大、現在は中国市場の開

拓に取り組んでいる。従業員わずか 5 人の同社がこのようにスピード展開できた理由など

について 2011 年 10 月 17 日、加藤功社長に聞いた。

<船舶用の商品を改良>

問:どんな商品を扱っているのか。

答:当社はガラスのコーティング剤を中心として、環境関連製品の製造販売を行っている。

船舶のガラス磨きを手掛ける中で、潮風などの過酷な状況にさらされたガラスを磨くには、

特殊な技術が必要なため、00 年に「GP コーティング」という商品を開発した。ガラスコ

ーティングの主流である撥水(はっすい)剤とは異なり、まずガラスの表面を研磨して、

ガラス本来の透明感をよみがえらせた上でコーティングするという手法だ。一般の撥水剤

の持続期間が 3 ヵ月ほどであるのに対し、GP コーティングは 1 年間以上効果を持続させ

ることが可能だ。

船舶向けだけでは需要が限られているため、12 年前に自動車向けにも対応できるよう商

品を改良した。しかし日本の国内市場の状況は芳しくなく、日本以外の市場にも活路を見

出す必要があり、ジェトロの力を借りて、まずは台湾から海外市場に進出することにした。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 60: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

55

グリーンプラスの加藤功社長

<台湾のニーズにうまく合致>

問:具体的にはどのように行ったのか。

答:台湾への足掛かりになったのは、ジェトロによる山口県内企業と台湾の地域間交流支

援(RIT)事業のミッションに参加したことだ。台湾で、当社の商品を取り扱う可能性の

ある代理店を何社か紹介してもらい、その中から实際の取引相手になった洗車サービスを

提供する企業、台湾 Cars と出会った。

同社は、百貨店や大型ショッピングセンターなどの立地のいい商業施設の駐車場に洗車

コーナーを設置しており、台湾とマレーシアにそれぞれ約 70 店舗ずつ展開していた。対

象顧実層に高級車オーナーが多いため、当社の商品とニーズが合致した。GP コーティン

グは日本から輸出しているので、現地での販売価格は一般のコーティング剤の倍以上にな

るが、高級車オーナーは価格にはあまりこだわらず、効果の持続期間を重視する傾向にあ

る。

問:成功の理由は。

答:最初は同社の反応はあまりよくなかった。そこで商談会が終わった後、帰国日の直前

にも時間を確保してもらい、自ら社長の車にコーティング剤を施し、日本に戻った。その

後 2 ヵ月で一般の撥水剤との違いが現れ始め、4 ヵ月目に同社との契約に至った。商品販

売を開始してから 3 ヵ月目には、取り扱いが同社の全店舗に拡大し、現在は同社のパンフ

レットの中で、商品紹介のトップに GP コーティングが紹介されている。

成功につながった要因としては、①台湾の高級車市場が拡大していること、②百貨店の

駐車場に洗車コーナーを持つ業態だったこと、③台湾ではスコールがあり、排ガスでガラ

スの表面に付着した油膜に雤粒があたるとガラスが曇りやすいなど、コーティング剤の潜

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 61: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

56

在需要が大きい市場だったこと、が挙げられる。

<中国市場は大都市から開拓>

問:中国市場の取り組みについて。

答:中国での市場開拓は、ジェトロの支援を受けながら行っている。台湾の代理店を経由

することも検討したが、商品の品質を PR するには自らが直接市場開拓したほうが適当と

考えた。現在は、3 社ほどの代理店と商談を進めている。その中でも高級車のボディコー

ティングを行っている現地日系企業や、高級中古車のネット販売を行っている会社からは、

かなり好感触を得ている。

問:今後の展開方針は。

答:今後は、2、3 年かけて上海、北京などの大都市を中心に展開していきたい。こうした

大都市では車のガラスコーティングサービスが普及しており、競争も厳しくなりつつある。

一方で大連、青島などではまだ撥水剤につての知識もないというほど、地域によって市場

の成熟度合いは異なる。

本格的な展開に当たって、模倣品などの懸念もあるが、液体混合剤の技術は簡単には模

倣できないし、現状では輸出しか行っていないため、技術漏えいの心配もない。特許を申

請することは技術を開示することにもなるので、あえて特許は申請しない予定だ。

現在 GP コーティングの売り上げの 8 割は海外向けが占めている。日本の国内市場は、

新車台数の減尐に比例して売り上げも落ちている。高級車オーナーが増加している中国や

台湾のほうが、商品価値の評価も高く、新しい商品も意欲的に取り入れる柔軟性もあり、

拡大の余地が大きい。

<フットワークと独自技術が決め手>

問:海外市場開拓のポイントは何か。

答:まずは、自らデモンストレーションをして足で稼ぐこと。台湾 Cars の従業員には自

ら技術指導を行い、店長クラスの車はすべて自分がコーティングしている。人を動かそう

とする場合、特に海外では命令だけでは伝わらないことも多々ある。自ら動く積極性が重

要だ。

次に、GP コーティングがオンリーワンの技術だったことだ。代理店やユーザーに商品

価値を理解してもらえた。3 つ目が、自ら現地に赴いて活動する中で、台湾側代理店の董

事長や購買担当者、ジェトロ事業で紹介された専門家やコーディネーターなど、信頼でき

る人に多く出会えたことだ。発展性のある市場開拓に結び付けることができた。

(黄海嘉、林裕子)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 62: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

57

世界中から代理店希望が殺到

-水質浄化ブロックの「ビッグバイオ」-

社 名 : 株式会社ビッグバイオ

創 立 : 2000 年

資 本 金 : 4,600 万円

本 社 : 熊本県宇城市小川町西海東 2100

代 表 者 : 代表取締役社長 阪本 惠子

従 業 員 数 : 45 名(パート含む)

U R L : http://www.big-bio.com/

ビッグバイオ(本社:熊本県宇城市)は「子どもが遊べる自然を取り戻したい」という

阪本惠子社長の理念の下、微生物を利用した生活関連商品の研究、開発、製造に取り組む

中小企業だ。海外向けには、マレーシアの河川水質浄化プロジェクトを皮切りに、アジア、

アフリカ、欧米で公共事業や一般家庭用品販売事業を展開している。ジェトロが中小企業

の日用品、化粧品などの中国市場開拓を支援する目的で実施している「ジェトロ・アジア・

キャラバン事業(中国)」にも参加中だ。岩下智明専務に 2011 年 8 月 25 日、海外進出の

経緯や中国ビジネスの課題について聞いた。

<外部専門家の力も活用>

問:海外市場開拓の経緯とビジネス概要は。

答:初の海外ビジネス展開は 2000 年、マレーシアのマハティール首相(当時)によるラ

ンカウイ島メラカ川の水質浄化プロジェクトに関して引き合いがあったのがきっかけだ。

自分にとっても初の海外ビジネスだったが、マレーシア側が 00 年の 9 月から 12 月にかけ

て 4 回来日して訪ねて来たため、当社製品を調達したいという熱意を感じ、取引を検討す

ることにした。公共事業では、マレーシアのほか、インドのニューデリーで当社の製品が

試験的に導入され、08 年 6 月に契約、11 年 1 月に 2 万個の水質浄化ブロックを納品した。

このほか、中国、韓国で池の浄化用に水質浄化ブロックを納めている。

近年では、マラリア対策で不快害虫(蚊など)発生防止材が、国際機関を通じて、ネパ

ールやナイジェリアなど途上国で検討されている。加えて一般家庭向けに、水槽用水質浄

化材を米国、欧州、中国などで販売している。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 63: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

58

水槽用水質浄化材「エコ・バイオリング」

問:海外ビジネス体制は。

答:本社では、自分を含め 3 人が海外事業を担当。ジェトロが主催する展示会やセミナー

に積極的に参加し、情報収集や自社ではアポイントメントがとりにくい企業とのマッチン

グの機会を活用している。また、東南アジアのビジネスは、マレーシア在住の専門家、ア

フリカのビジネスは東京在住の専門家を窓口に、外部の人材の力も借りている。

中国では 08 年に上海に現地法人を設立し、自社商品の販路拡大、資材調達をしている。

また、韓国、台湾には総代理店を設けている。世界中から代理店契約の引き合いがあり、

年間の取引額や相手先企業の熱意を総合的に判断して、契約先を決めている。

問:海外ビジネスの市場性と課題は。

答:途上国では生活雑排水が処理されずに排水され、アオコや不快害虫の発生が深刻だ。

10 年 10 月に参加したマレーシアの展示会では、マラリアやデング熱の感染症を媒介する

蚊の発生を抑える不快害虫発生防止材の評価がとても高かった。現在、アフリカが重点拡

販地域の 1 つになっている。

途上国ビジネスの懸念は政権交代。決まっていた取引について、一から商談を始めなけ

ればならなくなったことがあった。

決済は、前払いか信用状(L/C)での契約を徹底している。昨今の急激な円高で海外の

代理店は支払いのタイミングを見計らっているようだ。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 64: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

59

「エコ・バイオリング」を使用して約 10 年間、水の入れ

替えをせずに水質を維持している水槽

<環境意識の変化で中国市場が拡大>

問:中国市場開拓の経緯と課題は。

答:ジェトロが主催する展示会に水質浄化ブロックを製造するメーカーと共同で出展した

のが始まり。北京のイトーヨーカ堂から引き合いがあり、4 年前に一般家庭向け水槽用水

質浄化材の販売を開始した。富裕層が興味を示すのではないかと思ったが、価格が高いこ

とで、割高の当社製品への理解が得られにくかったことが挙げられる。対面で商品説明を

しないと購入に結び付けるのが難しい。

しかし、中国人の環境問題に対する意識は徐々に変化してきた。日本と変わらない価格

(1 個 3,500 円相当)の水質浄化材を 1 人で 10 個、20 個と買う人も出てきた。

このほか、野菜の農薬を落とす洗浄剤、パイプのヌメリ取り、洗濯槽・洗濯物の除菌剤

が売れている。

公共事業では、江蘇省の南京中国近代史遺跡博物館(南京旧総統府)の池の浄化に水質

浄化ブロックが採用されている。

<アジア・キャラバン事業で取引先開拓>

問:「ジェトロ・アジア・キャラバン事業(中国)」参加の成果は。

答:11 年 7 月に实施された上海の商談会では、ジェトロのコーディネーターが調整した商

談日程が用意され、見込み高い商談先が多数来場した。小売店、ネット通販業者、代理店

などとの商談が継続し、中には成約したものもある。中国は人と人の関係が強く、コネク

ションがないとなかなかビジネスに参入できない。当社でフォローしていたが、なかなか

成約に至らなかった商談先と、これまでとは違うアプローチで商談する機会になり、再度、

フォローするきっかけになったところもある。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 65: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

60

商談会後も、ジェトロから引き合い情報が随時送られてくるので、上海現地法人の営業

担当がフォローアップしている。中小企業にとって、自社コストによる営業活動では限界

がある中、「オールジャパン」として非常に効果的な販売促進の機会になっている。評価

できる点として、長期間にわたって实施されること、テスト販売会や、企業間取引(B to B)

商談会があることが挙げられる。

要望として、試験的な売り込みにとどまらない、本格的な中小企業向けのサポート内容

があればより有効だろう。

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:ネット販売をやりたいと考えている。現在は、代理店がネット販売しているが、自社

でも直接やりたい。

水質浄化ブロックについては価格の問題があり、その点をクリアすることが最優先だ。

輸送コストを考えるとなかなか難しい部分が出てきている状況で、ベンチャー独自で解決

できる問題ではない。

現在、中国全土に代理店を設けているところだ。代理店契約を希望する相手が多く、引

き合いがあれば、上海法人がすぐ相手と連絡をとっている。上海法人は 10 人体制。現地

にすぐ動ける営業がいることが強みになっている。

中国でのパートナー選びは、相手企業をよく調べ、自らの目で見て確認し、熱意をみて

判断している。

(日向裕弥、一瀬友太)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 66: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

61

2.キッチン・テーブルウェアー

日本の息吹が入ったオンリーワン製品で取り組む

−ガラス食器・小物の「廣田硝子」−

社 名 : 廣田硝子株式会社

創 立 : 1950 年(創業:1899 年)

資 本 金 : 1,500 万円

本 社 : 東京都墨田区錦糸 2-6-5

代 表 者 : 代表取締役会長 廣田 達夫、代表取締役社長 廣田 達朗

従 業 員 数 : 8 名

U R L : http://www.hirota-glass.co.jp/

廣田硝子(本社:東京都墨田区)は、和洋ガラス食器やインテリア用ガラス、ガラス小

物を製作する中小企業だ。明治 32年創業以来の伝統的な技法を基盤に手作りにこだわり、

機械生産にないぬくもりをもったガラス器を作っている。同社は日本の息吹が入ったオン

リーワン製品の中国市場開拓に取り組み始めた。廣田達朗代表取締役社長に 2011 年 10 月

4 日、海外進出の経緯や中国ビジネスの課題について聞いた。

<日本らしさがあり、高価格の商品を投入>

問:中国市場開拓に取り組んだ経緯ときっかけは。

答:当社はこれまで日本の商社を経由した輸出は多尐あったものの、海外販路開拓に自ら

取り組んだことはなかった。2010 年、パリの展示会「メゾン・エ・オブジェ」に初めて出

展した際、尐しずつでも自社で直接取り組んでいくことの必要性を感じた。

10 年にいくつかの海外展示会に出展したが、中国は日本から距離が近く、顧実と頻繁に

顔を合わせることもできるので、販路開拓に取り組むことにした。

問:中国市場開拓に向けた戦略や具体的な取り組みは。

答:当社の製品は安くはないので、購入できる人は限られると思う。しかし、中国には希

尐性や珍しさを好む人が多く、売れる可能性は十分にあることを知った。形や色について

も、無理に現地の嗜好(しこう)に合わせて大幅に変更するのではなく、日本のデザイン

で、日本の息吹きが入った商品を売っていきたい。その中で、パッケージについては現地

に合わせて変えるなど、変更すべき部分は柔軟に対応していく必要があるだろう。商品デ

ザイン自体を変更するとなると負担やリスクも大きくなるが、パッケージの変更程度なら

可能だ。

問:中国市場へ投入する商品について、工夫した点は。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 67: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

62

答:中国市場に投入する商品ラインについては、日本らしさがあり、値段が高めの商品を

選定した。値段については、中途半端な価格帯のものよりも突き抜けて高いくらいの方が

目を引くと考えた。既存実は当社の商品の良さを分かってくれるが、初見実がそれを分か

ってくれるかがポイントだ。高価格でも、モノ・技術・質の面でより良い商品に良い反応

を示してくれた。また、高価格の商品を投入したことにより、自社のイメージを上げるこ

ともできたように思う。そうした工夫を継続しつつ、まずは徐々に進めていきたいと考え

ている。

デザイン性のあるガラスで中国市場開拓に挑む。

写真は竹をモチーフにした徳利揃いによるガラス器

<モノを買う思考はまだ 70~80 年代の日本に近い>

問:中国市場開拓に向けて留意すべきリスクは。

答:経験が浅いこともあり、まだ具体的なリスクを感じていないというのが正直なところ

だ。ただ、展示会で来場者が当社のロゴなどの写真を撮っていた際は、商標を取られるリ

スクを感じ、その後すぐに商標申請を行った。商品についてはまねをされたら仕方ない、

まねできない商品を作ることが先決だと考えている。

そのほか、契約先からの代金回収もリスク要因だが、それは今後どれくらい商売が大き

くなるかによる。当面は前払いの取引が基本となるだろう。しかし、そうすると大きな商

売が取れないため、取引額が大きくなったときにどうするかと考えている。

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 68: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

63

答:中国人の生活レベルが向上してきていることを感じ、中国市場開拓に取り組むには今

しかないと思っている。中国ではモノへの欲求はまだまだあり、これから売っていくチャ

ンスはあると考えている。

ガラスの加工方法は昔からそれほど変わっていない。その中でどのように新しい部分を

出していくか。当社でしかできない発想、オンリーワン商品をどうやって作っていくかが

大事だと考えている。加工についても当社しかできない加工を行い、記憶に残る製品を作

ることが重要だ。日本でもまだまだ開拓しなくてはならない部分はあるが、同時並行で海

外販路開拓も行っていきたい。

(米川拓也)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 69: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

64

製品の企画・開発力で中国市場に挑戦

-キッチン・住宅設備機器の「オークス」-

社 名 : 株式会社オークス

創 立 : 1954 年 6 月

資 本 金 : 2,240 万円

本 社 : 新潟県三条市島田 2-8-3

代 表 者 : 代表取締役社長 佐藤 俊之

従 業 員 数 : 54 名

U R L : http://www.aux-ltd.co.jp

日本有数の金属製品分野の産業集積地、新潟県三条市・燕市。オークス(本社:三条市)

は、こうした産業集積をフルに活用し、キッチン用品を中心にさまざまな商品を企画・開

発してきた中小企業だ。同社は商品の企画力・販売力を強みに、2011 年を「海外市場開拓

元年」と位置付けて、中国市場開拓に本格的に取り組み始めた。その状況や今後の方向性

について 2011 年 10 月 21 日、佐藤俊之代表取締役社長と渡辺正幸マーケティング本部・

市場開発部長に聞いた。

<11 年を「海外市場開拓元年」に>

問:中国市場開拓のきっかけは。

答:当社のビジネススタイルは、自社では生産せず、製品の企画や設計をした上で協力工

場に生産を委託し、製品を通信販売業者、生活協同組合、百貨店・専門店に販売するとい

うもの。当社がある三条・燕地域は、ステンレス、樹脂、木製品の生産地のため、周辺に

立地する工場とタイアップして事業を進めてきた。

以前はホームセンターにも商品を提供していたが、2~3 年前からはホームセンターの品

ぞろえは圧倒的に中国製が中心になっている。そのため、現在、新たな販売先として百貨

店・専門店ルートを開拓している。

当社製品の大半は周辺地域を中心に日本で生産されているが、一部製品は中国でも委託

生産している。これまでも台湾向けに一部製品を輸出してきたが、日本が人口減尐期に入

り、国内市場の拡大が望めない中、海外市場開拓を進めたいとの思いが強まっていた。11

年を「海外市場開拓元年」ととらえている。

<販売ルートを持つ貿易業者をまず取引先候補に>

問:現在の取り組み状況は。

答:輸出を本格展開するに当たり、社内に新たに市場開発部を設置。同部を中心に、中国

市場を突破口とした市場展開を図ろうとしている。

中国は、輸出という面ではなかなか難しい市場と認識している。当社としては、まずは

国内の取引先メーカーなどを通じ、販売ルートを持っている貿易業者との接触を目指して

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 70: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

65

いる。あくまでも当社の「オークス」ブランドを高く評価してくれる相手と取引していき

たい。

現地での商談会では、当社製品のうち、「スチームロースター」、「クイックフライヤ

ー」、「ロカポット」などキッチン用品を紹介した。中国の華北地域は、脂っこい食事を

好む傾向があるのか、天津市での商談会では、油のろ過機能がある「クイックフライヤー」

の評判が高かった。業者との商談では、現地での商品在庫の確保を求められたり、商品の

買い取りではなく、当社側にリスクの残る委託での販売を求められたりと、対応が難しい

面もあった。こうした中、天津での商談会で台湾に本社があるテレビショッピング会社と

接触でき、当社製品の買い取りという条件で話がまとまった。

同社との商談は、中国語対応が可能な日本の商社を通じて行っている。中国企業と中国

語でやり取りできるか否かは当社にとっては大きな違いだ。

同社が出展したスチームロースター

<台湾向け取引と中国向け取引は別物>

問:課題と今後の方向性は。

答:現時点での最大の課題は、取引相手の中国側業者をどのように選別するかという点だ。

さまざまな引き合い案件は入ってくるものの、当社からアプローチしても全く反応がない

ケースも尐なくない。また、当社の総代理店を引き受けるとの意向を示した業者もいたが、

企業の信用状況が定かではなく、取引を見送ったケースもある。当社としては、「入店料」

を払わないと取引できないような企業とは取引できない。独自に店舗を持っている商社と

取引していければ、と考えている。

そのほか实際の販売に当たり、悩ましいのが売価の設定だ。物流など諸経費を勘案する

と、どうしても日本での売価の 2 倍程度が現地の価格水準になってしまう。現地の日系小

売業の売り場責任者は、1.2 倍ぐらいが最適と話している。日系小売店の中には、現地で

の売価が高すぎて売れ行きが伸び悩んでいるところもあるようだ。さらに、商品の企画力・

開発力が強みの当社としては、製品のライフサイクルが短くなっていることを踏まえ、開

発製品数を増やし、面としての供給をいかに増やしていくかも大きな課題だ。今後さらに

製品の開発スピードを速めていきたい。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 71: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

66

とはいえ、当社は中小企業。全面的に対中ビジネスを進めていくとなると、より多くの

資本が必要なので、可能な部分から展開していきたい。

なお、台湾での取引経験をそのまま中国でも生かすことができるとは考えていない。当

社としては、台湾向け取引と中国向け取引は別物と考えている。

(中井邦尚、若松佳祐)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 72: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

67

市場性、ブランド管理上のリスクを踏まえた製品を投入

-真空ステンレス魔法瓶メーカーの「セブン・セブン」-

社 名 : 株式会社セブン・セブン

創 立 : 1971 年 6 月

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 新潟県燕市花見 300 番地

代 表 者 : 代表取締役社長 澁木 収一

従 業 員 数 : 40 名

U R L : http://www.sevenseven77.com

金属洋食器製造で圧倒的な国内シェアを誇る新潟県燕市に本社を置き、真空ステンレス

魔法瓶を日本国内で生産する唯一のメーカー、セブン・セブン。近年は魔法瓶製造技術を

生かして、チタン製テーブルウエアなど新分野での製品開発にも力を入れている。同社の

中国での市場開拓の現状、今後の方向性について 2011 年 11 月 8 日、マネジング・クリエ

イティブ・ディレクター兼東京営業所長の鶴本晶子氏に聞いた。

<中国では汎用型の大型魔法瓶、ハイエンド製品は先進国で>

問:中国市場開拓の取り組みのきっかけは。

答:これまでも汎用的で大容量の魔法瓶を商社経由で海外に輸出してきた。近年、日本を

訪れた中国人観光実が当社のショールーム(注)を訪れたり、百貨店経由で販売している

当社の高付加価値型チタン製テーブルウエアを購入したりするようになってきた。また、

既に相手先ブランドによる OEM 生産ではあるが、当社製造の商品が中国で販売されてい

る实態もある。そこで、自社の製品のうち、どのような形状、デザイン、価格帯なら、中

国での展開が可能となるのか見極めていきたいと考え、7 月の上海での商談会に参加した。

「SUS gallery」に展示されているチタン製テーブルウエア

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 73: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

68

問:現在の取り組み状況は。

答:上海の商談会に当社のデザイン性の高い魔法瓶を出展した。商談会場で、すぐにでも

当社製品を入手したいという引き合いも多く寄せられた。具体的には、電子商取引(EC)

サイトを運営している企業から、ネットショップで販売したいという引き合いを受けたほ

か、コーポレートギフトとして活用したいとの話もあった。ただし、ネットショップから

の引き合いについては、ネット出店に際し出店料を支払うことが条件となっていたことも

あり、最終的には取引を断念した。

現地で商談した企業のうち、ある商社との取引を検討している。この商社は、日本に倉

庫を持ち、「メード・イン・ジャパン」製品の中国での展開を強みとしている。また、定

期的にコンテナで中国向けに出荷し、取引条件も完全前払いで、円建て決済が可能とあっ

て、当社には回収面のリスクがない。

また、中国で展開する商品分野についてこの商社は、出展した魔法瓶よりももう尐し大

型の製品を大量に扱いたいと要望してきた。この要望を受け、今後中国で展開すべき商品

分野を再検討した。その結果、今回出展した魔法瓶のように、デザイン性の高い商品を展

開すると、模倣品やブランド管理の問題も生じ得ることから、これら商品の中国での販売

はまだ機が熟していないとの結論に至った。

上海の商談会に出展された同社製魔法瓶

それに代わる中国市場向け製品として、現在海外市場で年間 1 億 3,000 万円ほどの売り

上げがあり、耐久性の高い大型魔法瓶を考えている。この製品は、イスラム教の聖地メッ

カへの巡礼者なども愛用しており、また汎用的に展開しているものでもあり、ブランド管

理の必要性もそれほど高くない。

ただし、この商社との取引に向けての大きな課題は、商社側の日本語での対応の可否だ。

現在当社は中国語で対応ができる体制になっておらず、先方の状況次第では、今後社内の

体制を再構築していく必要がある。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 74: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

69

なお、デザイン性の高いハイエンドなチタン製テーブルウエアは、まず日本、欧米など

先進国市場で展開し、知名度やブランド力を高めていくことが先決と考えている。その上

で、シンガポールや香港、台湾などの、高所得者層が実層の百貨店などにセレクティブに

展開していきたい。

<複数の事業柱で国内工場の稼働率の維持・向上を図る>

問:中国を含めた海外市場の今後の展開方針は。

答:燕市の主力製品の金属洋食器の出荷額が年々減尐している一方で、中国からの当該製

品の輸入額は増加の一途をたどっている。幸い燕市の当社工場はフル稼働の状況だが、日

本国内の工場がしっかり稼働することが経営体力を高めることにつながると考えている。

国内工場の稼働率を維持・向上させていく上でも、従来からの魔法瓶を中心とした商品

と、ハイエンドなチタン製テーブルウエアという複数の柱で、中国を含む海外市場に商品

を展開していきたい。

(注)同社は 2007 年、東京・外苑前にショールーム「SUS gallery」をオープンした。

(中井邦尚)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 75: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

70

ネットで出会った中国の代理商と信頼関係築く

-陶磁器総合卸の「カネワカ商店」-

社 名 : 和洋陶磁器総合卸商社 カネワカ商店

創 立 : 1957 年

資 本 金 : n.a.

本 社 : 岐阜県土岐市土岐津町土岐口 723-2

代 表 者 : 代表者 加藤若雄

従 業 員 数 : 6 名

U R L : http://www.ob.aitai.ne.jp/~kanewaka/index.html

カネワカ商店(本社:岐阜県土岐市)は、従業員 6 人の零細企業ながら、中国の輸入業

者とのビジネスマッチングサービスのモニター募集で出会った中国の代理商と信頼関係を

育んできた。上海での物産展での売れ行きに自信を深め、代理商と二人三脚で、日本の陶

器の販路開拓に挑んでいる。輸出を担当する加藤浩成副代表に 2011 年 10 月 26 日、中国

市場開拓の経緯や課題について聞いた。

<曲折を経て中国への輸出ルートを確立>

問:中国市場開拓の経緯は。

答:地場産業は今はどこも大変だが、20 数年前にはウォルマートやマークス・アンド・ス

ペンサーといった欧米の量販店が岐阜の陶磁器を大量に仕入れに来ていた。また、私が大

学を卒業後 4 年ほど働いていた貿易会社の名古屋支社は、美濃焼、瀬戸焼のノベルティー

といった陶磁器や岐阜県関市の刃物など地場産品を輸出していた。

こういった状況を目にしていたので、家業を継いで当社で働くようになってから輸出を

やりたいと思っていたものの、円高の進行で価格的に難しく、国内販売に専念してきた。

しかし、国内市場が年々縮小する一方で、中国は市場になるという話を聞き、中国での販

売に関心を寄せていた。

3 年前、アリババドットコムの日本法人のアリババが、中国市場への輸出を目指す国内

の中小企業や個人事業主に対して、中国の輸入業者とのビジネスマッチングや交渉などを

行う総合支援サービスを始めた。サービス提供開始に合わせて同社が開設した、日本から

中国への輸出に特化したウェブサイトの利用モニターに応募したのが中国ビジネスのスタ

ートになった。

5~6 品をビジネスマッチングサイトに載せたところ、中国でネット販売している個人か

らアクセスがあった。サンプル商品を送っても先方に届かないとか、メールの返事が来な

いという期間を間に挟んだが、後日、事情があって連絡がつかなかったことが判明した。

2010 年の年明けに連絡があり、サンプル商品を再送した先の杭州在住の女性が、現在の中

国側のパートナーの代理商になった。

1 カートン分の商品を 3 回発送、その商品を彼女が中国最大の通販サイト「淘宝網」で

販売したところ売れ行きがよく、9 カートン分の商品の発注が来た。1 度に大量の荷物を

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 76: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

71

送ると税関で商品が止められるリスクがあると聞き、国際宅配業者のアドバイスに従って

1 日 1 カートンずつ発送することにした。しかし、手違いで最後の 6 カートンがまとめて

発送されてしまい、商品が税関で止められる事態が発生した。2 ヵ月後に商品は彼女に届

いたものの、商品が抜かれるなどのトラブルがあり、正式に輸出手続きをする必要性を感

じ、フォワーダーを探した。

幸いなことに親戚が海運会社にいたので相談したところ、混載(LCL)貨物になる尐量

にもかかわらず快く引き受けてくれ、中国事情も教えてくれた。「中国で通関するには、中

国の貿易権を持っている業者に輸入代行してもらうように」というアドバイスを杭州の女

性に伝え、彼女が上海の貿易会社を見つけてきたので、10 年 5 月から LCL 貨物として出

荷を開始し、商品を発送するルートが確保できた。

<上海物産展での売れ行きが自信に>

問:中国市場開拓の動向は。

答:10 年 10 月に上海万博関連のイベントの一環として、上海伊勢丹で岐阜県物産展を開

催する話があった。代理商の彼女に出展の意向を確認したところ、「中国人ではやりたくて

もなかなかできない伊勢丹での販売なので、ぜひやりたい。商品が余ったら全部引き取る」

と意欲をみせた。同時期に上海のガーデンホテルで行われた地場産品紹介のプレゼンテー

ションもぜひやりたいということで、美濃焼のアピールをしてもらった。資料の中国語へ

の翻訳も彼女が行った。

上海伊勢丹での岐阜県物産展での経験は、中国で日本の陶器が売れるという自信につな

がった。物産展での販売価格はインターネット販売価格の 1.5~2 倍にもかかわらず、ため

らうことなく当社の商品を買う購買層がいることに驚いた。1 週間の物産展でどれくらい

売れるか分からず、日本から 11 カートン輸出したところ 8 割が売れた。3~4 日で品切れ

になった商品もあり、物産展の後半は棚が寂しくなるほどだった。

中国での小売価格は、増値税や関税がかかり、日本での小売価格の 2~3 倍になるにも

かかわらず、その後も代理商が運営するインターネット販売の売り上げは勢いよく伸びた。

また、代理商は若くてやる気があり、10 年 9 月には直接輸入に従事できるように有限公司

を設立した。代理商になる信頼できるパートナーが中国側にできたことが、安心材料にな

った。

中国にパートナーができたもう 1 つのメリットは、生産委託先の開拓だ。物販に従事す

る会社から相手先ブランドによる OEM 生産の引き合いが来ているが、そのパッケージを

日本でつくるとミニマム数量も価格も合わないため、中国での委託生産を考えている。委

託生産先の開拓は、杭州の代理商にやってもらうことにしている。他社に話を聞くと、中

国での事業が大きくなると自前の現地法人を立ち上げるところもあるが、当社の場合、杭

州の代理商がある程度その機能を果たしてくれている。

当社の場合、中国ではネット販売から開始したが、販売できる数量に限界があることが

分かった。上海伊勢丹の物産展での経験から、店頭で販売するルートを模索し始めている。

ほかの地場産品メーカーが日本製陶器の中国での流通のパイオニアである上海の貿易会社

を連れてきたことがあった。その縁で、茶器セットや花瓶など、年間 300~400 本、定期

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 77: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

72

的にオーダーが来るようになった。20 フィートコンテナ 2 本を出荷することもある。この

貿易会社を通じて、天津伊勢丹や成都イトーヨーカドーに当社の商品が 2~3 品、定番で

入っている。しかし、この貿易会社が扱っていない商品もあるため、卸・小売りをさらに

探したいと考えている。

<商談会を通じて複数の販路窓口の必要性に気付く>

問:中国での商談会に参加した成果は。

答:中国ビジネスの交渉ごとは、信頼できる代理商を窓口にするといいと聞く。当社には

杭州の代理商がいるので、そこを窓口にすればいいと思っていた。しかし、上海、天津、

成都などでの商談会に参加して、商談に来るバイヤーの中には、自社で貿易権を持ってい

るところが多く、直接取引を希望することに気付いた。

日中貿易の専門家に相談したところ、「小売店で棚を確保したり卸に商品を取り扱ったり

してもらうには、バイヤーを接待したり店頭を定期的に確認したりする苦労がある。社員

1 人の杭州の代理商が対応するのは難しいので、インターネット販売は杭州の代理商に任

せつつも、商流にあった卸を見つけてはどうか」とアドバイスを受けた。

確かに、日本での販売も、例えばホームセンターに自社商品の棚があったら営業担当者

が店頭に顔を出し、商品を確認し、店の人とコミュニケーションを図ることが拡販に欠か

せない。中国でもマンツーマンの営業ができるパートナーがいないと、販路が広がらない

ことに気付いた。

現在は、商談に来たものの貿易権を持っていない会社や個人には、杭州の代理商を紹介

する一方で、貿易権を持っていて直接取引を希望するような大手の卸や小売りとは直接取

引を検討している。

<売れ筋は日本固有の絵柄や鮮やかな色使いの商品>

問:中国の主な購買層と売れている商品は。

答:中国のネット販売は、オンライン店舗の売り手が買い手とチャットしながら売買する。

チャットを通じて購入者との交流を図っている杭州の代理商によると、当社の商品の購入

者は富裕層で知識層が多い。例えば、大学の教授、医者、高所得のエリートビジネスパー

ソンなどだ。また、日本料理店のオーナーが店内ディスプレー用に購入することもある。

発送先は全国に広がっており、先日は新疆ウイグル自治区から注文があった。

中国は磁器の文化なので、陶器はいかにも日本を感じる日本的な柄、黒地に金色など鮮

やかな色使いの商品が売れている。商品の種類では、茶器と酒器のセットが多く出ている。

日本国内では 7~8 年前から外国人観光実向けの商品を販売しており、観光庁が主催する

「魅力ある日本のおみやげコンテスト」で、2010 年はトラディショナルジャパン部門で銀

賞、11 年はアメリカ賞を受賞した。

日本での観光実向け商売を通じて、富士山が描かれている酒器など、一目見て日本の商

品と分かるものを中国人がよく買っていくといった傾向をつかんでおり、どういう商品が

中国で受けるのかマーケティングできていたことが中国で販売する上で強みになった。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 78: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

73

中国で人気の同社商品~花瓶 黒牡丹孔雀御車車

ぐい飲み 五色平安絵巻 酒器 桜富士

<優良な出展者だけを選別するネット販売網で信頼性を高める>

問:ネット販売の平均単価は。

答:ネット販売の平均単価は 300 元(1 元=約 12.2 円)以上で、数千元のこともある。先

日は、5,800 元の九谷焼の花瓶が売れた。ネット販売では価格の安い商品しか売れないと

いう状況は変わってきている。

中国のネット販売業界は玉石混交で、その中でいかに生き残るか、杭州の代理商も考え

ている。当初、「淘宝網」にインターネット店舗を構えていたが、最近、法人しか出展で

きない「淘宝商城」にインターネット店舗を移している。

出展、決済が無料の淘宝網に対し、淘宝商城は出店保証金、販売手数料、技術サポート

費用などのコストが出展者にかかる。しかし、出展に当たり淘宝の審査もあり、商品の質

に対する消費者からの信頼を得られやすいメリットがある。淘宝側も、ニセモノを扱うよ

うな出展者を淘汰(とうた)し、優良な出展者を選別していくことで、淘宝商城全体に対

する消費者の信頼・利便性を高め、結果としてインターネット販売の売り上げ向上につな

げる方針だ。杭州の代理商は、勝負どころの今を乗り切り、インターネット販売の世界で

生き残ることが将来的にプラスと考えている。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 79: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

74

<前払いを徹底して求める>

問:中国市場開拓の留意点は。

答:代金回収が大変なことは以前から聞いており、代金が前払いされた後に出荷すること

にしている。商談会で出会った通訳から受けた「初めはきちっと支払うものの、途中で金

額が大きくなってから支払わなくなることがあるので、前払いを徹底すること。ビジネス

が大きくなったら、万一キャンセルされたときに大量の在庫を抱えるリスクを避けるため、

初めに手付金(30~40%)をもらってから商品を生産し、船積みする前に残金の支払いを

確認するべきだ」というアドバイスはとても有意義だった。

杭州の代理商からは、中国人は交渉が巧みなので、交渉で負けないように、と注意され

た。「カタログに記載している販売価格の○%掛け、という商売は中国ではダメ。高く売

れるところは高く売るのが中国では当たり前で、一品一品、値段を交渉すること」とアド

バイスされた。

<信頼できる中国人パートナーと販路開拓に挑む>

問:中小企業にとっての中国ビジネスの難しさは。

答:信頼できる代理商ができたので中国での販路開拓に挑めるが、当社のような零細企業

が自分の力だけで海外ビジネスを切り開くことは難しい。当社の場合、自分に貿易の経験

があったこと、フォワーダーがすぐ見つかったこと、パートナーが見つかったことなど、

恵まれていた。中小企業が輸出をするには、言葉(外国語)、貿易实務の知識、ネットワ

ーク、人材といった壁がある。

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:实際の店舗で売ることの重要性を再認識している。杭州の代理店は、インターネット

店舗で上海伊勢丹の物産展での販売の様子を動画で紹介している。日系百貨店での販売实

績は、ネット販売の消費者の信頼を得るのに有効だ。また、国内大手の和陶器加工販売会

社が、上海久光百貨店で陶器専門スペースを設けているが、11 年の春節の売り上げは過去

最高だったという業界紙の記事を見た。売り場があれば、中国で陶器は売れる。

11 年 9 月、日本の全国商工会連合会が、全国 47 都道府県の地域産品メーカーの商品を

展示販売するショップ「+8」を、上海の田子坊エリアにオープンした。展示販売されて

いる約 400 アイテムの中で、当社の 1 アイテムが 9 月末時点で売り上げがトップだったと

報告を受けている。

幸運にも中国でパ-トナ-を得ることができ、中国での販路開拓をしようと本気で取り

組み始めた。中国でも多くの人たちの生活が豊かになれば、食器に対してももっと触手が

伸びてくると考えており、そこにチャンスがあると信じ、いろいろな販売ルートを開拓し

ていく。

(西本敬一、日向裕弥、小林伶)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 80: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

75

地場企業との取引拡大を狙う

-クッキングホイルの「東洋アルミエコープロダクツ」-

社 名 : 東洋アルミエコープロダクツ株式会社

創 立 : 1969 年 11 月

資 本 金 : 2 億円

本 社 : 大阪府大阪市西区西本町 1 丁目 4-1(オリックス本社ビル 13F)

代 表 者 : 代表取締役社長 冨岡 祥浩

従 業 員 数 : 182 名(11 年 4 月 1 日現在)

U R L : http://www.toyoalumi-ekco.jp/

東洋アルミエコープロダクツ(本社:大阪府大阪市)は従業員 182 人、クッキングホイ

ル、レンジフードカバー、レンジパネル、アルミ容器などを製造する業界トップメーカー

だ。2006 年に業務用製品を中心に中国市場開拓を始めてから 6 年目になる。さらにレン

ジパネルなど消費者向け製品の輸出を拡大しようとしている。海外事業部の中川圭一マネ

ジャーに 2011 年 11 月 1 日、海外進出の経緯や中国ビジネスの課題について聞いた。

<冷凍ギョーザ事件を契機に消費者向け事業を中国で展開>

問:中国市場開拓のこれまでの取り組みは。

答:当社の事業は業務用のパッケージ事業と、一般消費者向けのコンシューマー事業の大

きく 2 つに分かれる。中国市場開拓は 06 年に両事業で始めた。冷凍食品用のアルミ容器

やプラスチック容器などを扱うパッケージ事業の顧実である冷凍食品メーカーが中国での

現地生産に切り替える中、容器提供メーカーとして中国で生産しなければ既存の仕事を失

うためだった。また、当社は既に香港、台湾への輸出实績があったため、中国も人口が多

く当社製品を使用する人も多いのではないかと考え、進出したいという思いも持っていた。

顧実は山東省青島市や上海市などの日系冷凍食品メーカーが中心だ。中国に協力工場が

複数あり、3 年前には江蘇省蘇州市に単独資本で製造工場を設けた。

しかし、進出して間もなく、08 年に中国製冷凍ギョーザ事件が発生し、日系冷凍食品メ

ーカーの事業活動に影響を及ぼしたため、中国での売り上げはほとんどなくなった。そこ

で国内シェア 1 位のコンシューマー事業での中国における取り組みを加速させた。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 81: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

76

業務用では冷凍食品などの容器を製造

製品は当社から商社機能を持つ上海の現地法人に輸出し、中国各地に配送される。中国

は物流環境が悪く、また荷物の扱いも粗雑だと感じている。上海の現地法人は設立当初は

日本人 1 人、中国人 1 人の体制だったが、現在は日本人 2 人、中国人 3 人で運営している。

販売地域は人口の多い沿海部の 3 エリア(北京市、上海市、広東省深セン市)を中心に展

開しているが、今後は成長が著しい内陸部にも展開していきたいと考えている。

コンシューマー事業の中心商品は、レンジの油はねをガードするスチールレンジパネル

と換気扇の油汚れを防ぐレンジフードフィルターで、ほかにも熱の伝導を良くするため片

面を黒色に加工したクッキングホイルなどを展開している。販売店は当初は日系小売店が

中心で、日本での取引関係から中国での納入に至ったところが多かった。

現在では中国系やカルフールなど外資系の小売店にも納入を進め、今では日系よりも取

引が多くなっている。今後さらに拡大していきたい。

<地場代理店との取引を狙う>

問:中国企業との商談の成果は。

答:当社は既に中国での生産や市場開拓を行っており、先に述べたとおり中国系企業との

取引が日系企業よりも増えているが、まだ十分とはいえない。さらなる拡大のため、これ

までの当社とは異なるアプローチをしたいと思い、11 年にアジア・キャラバンに参加し、

展示会や商談会への出展、タオバオ・モール(陶宝商城)でのインターネット販売などを

始めた。

展示会や商談会では、これまで出会えなかった代理店と直接面談できたのが良かった。

現在 2 社と契約に向けて話し合いを進めている。1 社はインターネット販売を行う日系企

業で、良質な食品を中心に日本のこだわり商品を取り扱っている。もう 1 社は現地のスー

パーマーケットだ。現在の中国での販売量は日本と比べると尐ないが、潜在的な市場は大

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 82: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

77

きいので、将来的には日本より大きくなると考えている。

ただし、中国での当社製品の価格には割高感がある。メード・イン・ジャパンにこだわ

り日本で製造し輸出を続けていくか、価格面を考慮して現地生産を行うべきか検討してい

る。

中国にも輸出しているレンジパネルやレンジフードフィルター

問:中国市場の開拓戦略は。

答:当社の商品はレンジパネルやレンジフードフィルターなど、油汚れの掃除の手間を省

くためのもので、生活必需品ではない。しかし、中間層を中心に生活が豊かになり、多忙

になった中国人にとって、使うと便利で時間の節約になる商品だ。展示会などで当社ブー

スを訪れる人に説明すると、2 割ほどの人は商品の良さを分かってくれる。日本の市場に

比べるとまだ発展途上だが、良い商品だと認知されれば今後需要が高まるのではないかと

考えている。特に中国は油を使用する料理が多いという点でも、レンジパネルなどの潜在

的需要が大きいのではないかとみている。

当社は現地法人設立当初から、中国でインターネット調査や家庭の实態を知るための家

庭訪問を 100 件以上行ってきた。その結果を踏まえて、1 年ほど前から中国向けに仕様を

変更した商品の現地生産を始めた。例えば、中国のキッチンは日本より広いので、例えば

レンジパネルなどは、サイズを大きくしている。まだテスト販売の段階だが、今後改良を

進めて売れる商品を作っていきたい。商品開発後には消費者インタビューなどを行い、そ

れをさらに開発に反映させ、開発の方向性などを変えている。

<自社で小売店のフォローが必要>

問:中国市場開拓で留意すべきリスクは。

答:日本では通常、商品はメーカーから商社を経由して小売店に流れており、商社は小売

店に対しデリバリー、欠品補充などの対応をしている。しかし、中国では小売店で欠品が

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 83: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

78

出ても欠品補充をしないため、流通任せでは売り場の維持が難しい。メーカーにとっては、

店舗販売でいかに欠品をさせないかが課題になる。

そこで当社は自分たちで小売店の販売フロアを定期的に確認して回っている。現在は上

海市の現地法人の社員が北京市など各地域の小売店を回っているが、販売店が増えればフ

ォローが難しくなるため、北京市、深セン市に支店を作ることなども考えている。

また、代金の支払いについては、中国では「いかにお金を払わないか」が優秀な財務責

任者の判断基準とも聞くが、中国企業は「商品が不要になった」「破損した(实際は破損

していなくても)」などと、理不尽に代金支払いを拒んでくることがある。そのため当社

もできるだけ現地の人同士でコミュニケーションをとってもらうとか、回収先が遠方でそ

れが未回収の理由になっているようならば近くに代理店を置くように考えるなど、代金未

回収のリスクが尐なくなるよう気を付けている。

労務管理については、中国人による賃上げ交渉が頻繁にある。当社も市場価格に見合う

ように努めているが、従業員に説明し、納得できる給与を支払っていれば問題ないと考え

ている。

知的財産権については、当社製品の模倣品はまだ中国で出回っていないようだ。しかし、

日本で開発する商品で、将来中国で販売する可能性があるものは、特許権や商標権を国際

出願するか検討する体制にしている。現在、社名の商標登録は済ませている。

問:今後の中国ビジネスの方向性と課題は。

答:将来的にはパッケージ事業、コンシューマー事業とも、日本と同じかたちで展開して

いきたいと思う。現在は売り上げの海外比率はまだ 1 割以下だが、今後 2~3 割まで拡大

したい。また、日本の商品をそのまま輸出・販売するのでなく、当社の企画・開発力を生

かし、現地で調達する資材を使いながら、「中国ならでは」の商品を展開していきたい。

現在の輸出商品は日本と同じパッケージに最低限の中国語の説明を記載したシールを貼

って販売している。中国ではメード・イン・ジャパンを理由なく求める消費者もおり、日

本語の表記は逆に売りになるようだ。そのため、今後現地生産していく際も日本語の表記

を尐し残そうと思っている。これもインターネット調査や家庭訪問を实施した結果を踏ま

えたものだ。

問:海外進出を検討する中小企業に向けてのアドバイスは。

答:現地に拠点を構えていない場合、小売店のフォローが行き届かない懸念がある。その

ため、しっかりした販売パートナーを見つけることが大事だ。その上でさらに自ら实際に

見に行く必要もあると思う。

また、中小企業の場合は、海外ビジネスの初期段階は日本の金融機関などから情報を取

得することも重要だ。当社の上海法人設立の際にも、当初自力で行っていたが限界を感じ、

銀行、地元大阪の産業振興機構、ジェトロにアドバイスをもらった。

ただし、これまでの中国ビジネスのさまざまな局面で、いろいろな人に相談しながら判

断を下してきたが、それぞれの経験も意見も異なるため、自分の中で考えがまとまらない

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 84: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

79

ことが多いのが实態だ。そのような中で、自分でいかに腹をくくり、事業を進めていける

かがポイントではないかと思う。

さらに、中国ビジネスではスピードが非常に重要視されるので、即断即決できる組織に

社内を整備しておくことも重要だ。

(鷲北弥那子、宗金建志、加藤祐子)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 85: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

80

3.バス・トイレタリー・衛生用品

おもてなし文化の代表選手、おしぼりを中国へ

-「藤波タオルサービス」-

社 名 : 株式会社藤波タオルサービス

創 立 : 1967 年 9 月

資 本 金 : 2,000 万円

本 社 : 東京都国立市泉 1-12-3

代 表 者 : 代表取締役社長 藤波 璋光

従 業 員 数 : 160 名

U R L : http://www.fujinami.co.jp

おしぼりは日本の「おもてなし文化」の代表選手ともいえる。藤波タオルサービス(本

社:東京都国立市)は、おしぼりレンタルビジネスなどを手掛ける中小企業だ。中国から

の商品調達の経験を踏まえ、中国市場開拓に向けた第一歩を踏み出した。同社の中国での

市場開拓の現状と今後の方向性について 2011 年 9 月 30 日、藤波克之代表取締役専務兼経

営戦略室長に聞いた。

<大連の物流倉庫を対中輸出に活用したい>

問:中国市場開拓の取り組みのきっかけは。

答:これまでは売り上げの半分ほどを占める外食産業向けの消耗品販売ビジネスの一環と

して、中国の東北 3 省から割り箸を輸入していた。2006 年ごろからは、現地の割り箸メ

ーカー経由で、広東省の委託先工場を 10 ヵ所ほど紹介してもらい、20 数点の製品を当該

工場から輸入している。

11 年 7 月には遼寧省大連市に、中国で調達する製品の中国内での物流・日本向け輸出を

一括して取り扱う物流倉庫を設けた。この物流倉庫は中国製品用の倉庫だが、これを活用

して日本製品の対中輸出ができないかと考えた。

当社はかつて、ニューヨーク、モスクワなどでの市場展開を模索したほか、ドイツでサ

ンプル販売したこともある。中国のネットサイトにも 1 年ぐらい出品していたが、本格的

に海外市場への参入を目指すのは今回が初めてだ。

おしぼり業界全体を見渡すと、個々の企業は頑張っているものの、業界全体の発展は遅

れている面もある。当社は、おしぼりという日本の伝統文化を生かして、海外ビジネスを

展開したい。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 86: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

81

おしぼり冷温庫をはじめとする藤波タオルサービスの製品

<おしぼりの冷温庫が広州の展示会で好評>

問:現在の取り組み状況は。

答:日本で展開している(おしぼりを保温する)冷温庫は、日本で製作した金型を中国に

輸出し、現地メーカーが製造している。そのメーカーが広東省広州市で開催された展示会

に製品を出展したところ、反応は上々だった。中国は日本に比べレストラン内に個审が多

いため、レストラン向けの需要も見込めるほか、北京の高所得者層向け美容院などでの需

要も考えられる。

もう 1 つ可能性があると考えているのは、ペーパータオルだ。8 月に天津市の伊勢丹で

開催されたアンテナショップ事業に参加したところ、当社の芳香剤付きタオルが、わずか

1 つだったが、売れた。これまで中国で自社製品の販売实績がなかった当社にとっては、

画期的な第一歩になった。

中国のどの地域で、当社のどのような商品に販売の可能性があるのか、現時点で見通し

は立っていない。しかし、何とか突破口を開き、中国市場の開拓に向けて焦点を絞り込ん

でいきたい。

自社で企画開発した商品をいかに日本以外の企業に展開していくかが今後の課題になる。

当社は、まず日本で販売展開をしている商品を展開していきたい。

他方、おしぼりについては、中国の消費者の意識はそれほど高くないと感じている。ま

た、潜在的な取引先のレストランをみても、外見は立派だが、消費者が享受できるサービ

スの水準はまだまだ低いと思う。ハードに比べ、ソフトが追い付いていない印象だ。

<担当者の育成が最も重要>

問:最も重要と考える点は。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 87: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

82

答:中国ビジネスのプラットフォームを整備していくためには、担当者の育成が何よりも

重要だ。当社は、12 年春に日本の大学を卒業する中国人女性にアルバイトで来てもらい、

中国への出張や商談に同席してもらっている。

当社は元来、町工場的な企業で、これまでは中国や海外企業から商談が入ると、社内の

人間は外国語での対応に不慣れなので、逃げ腰になっていた面がある。それが彼女の活躍

により、中国企業とのやり取りや商談が、自社でスムーズにできるようになった。これだ

けでも、当社にとっては大きな進展だ。

問:中国市場展開の課題やリスクをどのように考えるか。

答:中国ビジネスはリスクがあることも認識しているので、一歩一歩前進していきたい。

中国の外食産業への販売に当たっては、緊密な人間関係が求められるとの話もある。人的

ネットワークの構築も今後の大きな課題。商談会への参加などを通じて、尐しずつネット

ワークを広げていきたい。

中国での法人設立は慎重にしていきたい。当社としては、日本国内の事業も極めて重要

だ。退却が可能なかたちで、中国でのビジネスを展開していきたい。

(中井邦尚)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 88: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

83

中国展開で必要なのは日本での実績

-高機能タオルの「浅野撚糸」-

社 名 : 浅野撚糸株式会社

創 立 : 1969 年

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 岐阜県安八郡安八町中 875-1

代 表 者 : 代表取締役社長 浅野 雅己

従 業 員 数 : 16 名

U R L : http://www.asanen.co.jp/

高機能タオル「エアーかおる」を生産・販売する浅野撚糸(本社:岐阜県安八町)は、

世界初の撚糸(ねんし)工法で特許を取得。毎月 3 万枚が売れる日本での実績や話題性が

評価され、世界各国から引き合いが来ている。2010 年 8 月の上海ギフトショー出展を皮

切りに展示会や商談会に参加し、中国での販路を模索している同社の浅野雅己社長(2011

年 10 月 20 日)と海外プロジェクト顧問の豊田周平氏(11 年 10 月 26 日)に、中国市場

開拓の経緯や取り組みについて聞いた。

<苦境をバネに開発した「魔法のタオル」>

問:商品開発の経緯は。

答:02 年まで事業は順調だったが、受注していた仕事が中国に移管されるようになり、廃

業寸前まで追い込まれた。生産拠点としての中国台頭のあおりを受けたことで商品開発の

必要を感じ、中国やほかの国がまねできない技術を開発。現在、7 件の特許を取得し、8

件を申請中だ。主力の技術については中国と米国でも特許を取得し、欧州でも申請中だ。

当社のこうした技術でよった特殊な糸を使って、05 年に老舗のタオルメーカーのおぼろタ

オル(三重県津市)とともに、高機能タオル「エアーかおる」の開発を始めた。

「エアーかおる」を商品化した 07 年、経済産業省の新連携支援事業(中小企業の異分野

連携を促進するための施策)の認定を受け、日本国内の販路開拓に取り組んだ。しかし、

価格に見合った価値が認知されず、なかなか販路が広がらなかった。

転換点は 10 年 5 月、当社専務の発案で開発した、バスタオルの半分の幅のタオル(商

品名「エニータイム」)の発表だった。他社が作っていないサイズにすることで、吸水性

や速乾性に優れ、干すときに場所をとらない(ハンガーに掛けて干せる幅)、頭に巻ける

といった、商品の特徴を明確に打ち出せるようになった。これにより、テレビショッピン

グ、通信販売、百貨店や大型ショッピングセンターなどで取り扱われるようになった。

当社の糸は、今では日本を代表するアパレルメーカーでも採用され、欧州からも引き合

いが多い。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 89: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

84

軽量感、吸水性、速乾性、ふわふわ感の持続力などの高機能が話題のタオル

「エアーかおる エニータイム」(左)と「エニーかおる デオ なでしこ」(右)

問:中国市場開拓の経緯は。

答:「エアーかおる」の日本での話題性によって、海外からたくさんの引き合いがあり、

タイや台湾にテスト出荷している。中国ではもともと販売するつもりはなかったが、東京

ギフトショー出展時に来場した中国人ジャーナリストから中国に輸出すべきだ、と言われ

た。また、中国市場開拓は、日本の撚糸(ねんし)業界が世界で生き残れるかどうかの「テ

スト」という意識もあり、開拓に取り組むことにした。

上海ギフトショーに 10 年 8 月と 11 年 3 月の 2 回参加し、約 800 枚の名刺を交換した

が、商談にはつながらなかった。理由として、上海で採用した人材が相次いで辞めて体制

が整わなかったこと、初めての海外展示会への出展で様子見のところもあったことなどが

挙げられる。また、価格設定に失敗した。定価 230 元(1 元=約 12.1 元)の「エニータイ

ム」を、拡販のため 199 元の価格でインターネット販売に出したところ、安い価格が定着

してしまい、価格を戻すことができなくなってしまった。

<バイヤーの関心は日本での評判>

問:その後の展開は。

答:上海久光百貨での販売、中国楽天でのインターネット販売などをしてみたが、十分な

成果は挙がらなかった。しかし、10 年 10 月、上海万博関連のイベントの一環として、上

海伊勢丹で開催された岐阜県物産展に参加したときは盛況で、中国内販にポテンシャルが

あると分かった。

11 年に入り、ジェトロが企画・運営する展示商談会に参加し、日本商材に興味のあるバ

イヤーと時間をとって商談をすることができ、大手のインテリア用品店やテレビ通販会社

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 90: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

85

などとの商談が継続している。

問:市場開拓を通じて分かったことは。

答:中国のバイヤーの関心は日本での实績や評判だ。商談会に参加したバイヤーの中には、

日本のインターネット販売価格や評判などの情報を事前調査してきたり、日本の通販雑誌

の当社商品掲載ページを持ってきたりするところもあった。

当社は日本でさまざまな媒体で取り上げられているため、当社商品が紹介されている日

本の通販カタログや女性誌を展示商談会に持ち込んでいる。また、日本のテレビ通販の動

画を見せたり、録画した DVD を提供したりもしている。カタログ、ウェブサイト、DVD

は中国語と英語でも作成済みだ。加えて、販促のしやすさから「エアーかおる」の中国語

(「艾可麗」)と英語表記(「AirKaol」)を定め、ともに中国で商標登録済みだ。

<やってみないと分からないことが多い中国市場>

問:中国市場開拓の難しさは。

答:繊維の色落ち検査基準が日本と異なることだ。中国の色落ち検査の塩素濃度は日本よ

り濃いため、日本では色落ち検査に合格している商品にもかかわらず、中国の検査では若

干色落ちして、「特級」がとれない。やってみて初めて分かることも多く、中国で販売す

るために必要な中国語ラベルや包装の手配など、限られた人材しかいない中小企業が行う

ことは容易ではない。中国で商品を販売するために必要な手続きなどを一括して請け負っ

てくれる会社があると、中国市場参入のハードルが低くなるのではないか。

問:これから中国市場参入を検討する中小企業へのアドバイスは。

答:大企業の下請けになっている中小企業が多いが、自社の強みがどこにあるか見極める

必要がある。自社の強みがないところはやらないほうがよい。また、売り上げの数%でも

最終製品を持っていることが重要だ。

中国に行ってみないと分からないことが多い。まずは、展示会、商談会などの機会を活

用して中国のバイヤーや消費者と交流を図るところからスタートすべきだろう。また、社

長自ら、またはその家族が地に足をつけてやることが大事だ。中国人は飲食を通じて人間

関係を構築する面があり、そういった機会を通じて、相手を判断しているところもある。

中国に限らず海外展開に当たっては、相手国に向けたパンフレット、ビデオなどの資料の

事前準備、ジェトロなどのアドバイスを得ながらの価格戦略などしっかり準備をした上で

实際の商談に望むことが重要だ。

<他社とのコラボレーションで拡販を狙う>

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:中国各地での展示商談会参加などを通じて、いくつかの販路開拓の可能性が出てきた。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 91: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

86

ネットショップ、通販、店舗など状況が分かってきたのでそれぞれの販路を見極め、11 年

内に今後の方針を決め、事業計画を作る予定だ。

全身を拭くことができ、ターバンのように洗髪後の頭にも使える「エニータイム」は、

機能的優位性がある上、価格は決して富裕層だけがターゲットの商品ではない。化粧品は

ヘアケアとも関連が深いので、化粧品会社などとのコラボレーションも狙っている。地域

についても特に絞るつもりはない。上海で商品展示のノウハウなどを蓄積した後、ほかの

都市でも展開できるのではないか。

一番の問題は、中国に自社の拠点がないことだ。代理店との取引を点から線にしていく

には、現地常駐のスタッフを置く必要性を感じている。当社の役員でもある息子を上海の

大学に通わせており、将来的には中国に根を張って中国市場開拓に取り組んでほしいと考

えている。

中国で通じれば世界に通じるはずで、日本の繊維の力を試してみたい。将来的には、中

国にも工場をつくる覚悟がある。

(西本敬一、日向裕弥、宗金建志、小林伶)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 92: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

87

中国の「浄水器元年」をビジネスチャンスに

−「早川バルブ製作所」−

社 名 : 株式会社早川バルブ製作所

創 立 : 事業創立:昭和 29 年 1 月 15 日(会社設立:昭和 38 年 12 月 1 日)

資 本 金 : 7,800 万円

本 社 : 岐阜県山県市東深瀬 94-2

代 表 者 : 代表取締役社長 早川 徹

従 業 員 数 : 120 名

U R L : http://www.hvs.co.jp/

早川バルブ製作所(本社:岐阜県山県市)は、浄水器部品やシャワー浄水器なども手掛

ける水栓メーカーだ。2012 年が「浄水器元年」になるといわれる中国での販路を開拓する

ため、09 年に中国拠点を設立し、現在複数の代理店と契約している。早川徹社長に 2011

年 10 月 25 日、中国市場開拓の経緯や今後の課題・方針などについて聞いた。

<販路開拓は 2 方向から>

問:中国市場開拓の経緯は。

答:1998 年ごろから、先代社長が担当して、部品の調達や委託加工を中国でやっていた。

先代社長は 2006 年末に亡くなったが、生前は中国で販売することを夢見ていた。私が中

国に定期的に行き始めたのは、急逝した父の跡を継いだ 2006 年末からだ。

自分も日本市場には閉塞感を感じていた。日本の水栓メーカーは淘汰(とうた)が進み、

既に 8 社だけ。それぞれの顧実や販路もおおむね決まっている。また住宅着工件数もバブ

ル経済時には年間約 170 万戸あったが、現在では約 80 万戸程度に減尐している。小さく

なっていくパイを奪い合うようなビジネスだけではなく、中国ビジネスに挑戦してみよう

と思うようになった。

また、中国には水栓メーカーは約 3,000 社あると聞くが、良い商品が尐ないと感じてい

た。欧米系の大手企業が参入しているので、競争する上で厳しい面もあるが、それだけ水

栓メーカーがあるならば、そのメーカー向けの部品販売や、水道水が飲めない国なので、

浄水器などでは可能性があるのではないかと感じていた。

また、中国人留学生を社員として採用しており、彼らからも浄水器は中国で売れるので

はないかとの話を聞いていた。07~08 年ごろには取引のあった大手浄水器メーカーの何社

かが中国ビジネスに参入するとの情報もあり、このころから当社も中国での挑戦を本格的

に考え始めた。

中国での販路開拓は、自社ブランド品を販売してくれる代理店の募集と、日本から運ん

だ水栓部品と中国で調達した水栓部品を日系の委託加工工場に持ち込み、組立と品質検査

を行った上で日系の浄水器メーカーに納入するという 2 方向から始めた。

なお、中国での浄水器の販売には中国衛生部の許認可が必要で、当社も自社ブランド品

でそれを取得した。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 93: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

88

<現地法人による調達で仕入価格も割安に>

問:中国での現地法人の設立経緯とその役割は。

答:中国の現地法人は 09 年 3 月に設立した。15 年前に勤めていた日本の税理士系コンサ

ルタント会社が 7~8 年前に上海に法人を設立しており、最初はそこに間借りした。その

コンサルタント会社には現地法人設立時にもさまざまな支援を受け、現在も当社の税務顧

問会社になっている。

当初は、資本金を持ち込まなければならない現地法人はつくりたくなく、支店のような

感じで商売できればと考えていた。しかし、浄水器販売に必要な許認可は、現地法人でな

ければならない上、代理店を含む取引先との取引通貨の元は、当時日本への送金が自由に

できなかったため、ある意味、やむなく現地法人を設立した。

上海の現地法人(上海水生活貿易)は、当社の在中国責任会社になっており、許認可申

請元で、代理店との契約も現地法人名で行っている。商品は現地法人が日本の親会社であ

る当社から購入し、中国で在庫を持つ仕組みができている。

また、中国に委託加工先が 4~5 社あるが、日本本社が見積もりを取るとドル建てにな

り為替変動を見込んで高めの価格が提示されるが、現地法人が見積もりを取ると人民元建

てになるのでダイレクトな部品価格になる。このため、親会社が中国から調達する際に現

地法人を介することで安く仕入れられることが多く、ここにも現地法人を設立した意義が

あった。

<「水は自分でつくるのが安心」>

問:中国市場開拓に対する戦略は。

答:中国では 12 年が「浄水器元年」になるといわれている。まだまだ上海や北京などの

大都市を除くと「浄水器」という商品の存在自体があまり知られていないようだ。他方、

中国では飲料水として売られているポリタンクの水が、水道のホースから容器に入れられ

ている映像がニュースで流れるなど、水に対する信頼感がなくなっている。こうした報道

の影響もあり、「自分の水は見えるところで自分がつくるのが安心」という価値観が上海

などで徐々に出てきていると思う。

今後、多くのメーカーの参入が予想され価格競争も非常に激しくなるはずだ。当社の製

品は、日本製の長所であるコンパクトな浄水器で、日本だけではなく欧米、そして中国の

許認可条件にしっかりと対応できている。かつ目詰まりも尐なく、大容量で浄水が使用で

きる商品であることを訴求して競争に打ち勝っていきたい。またシャワー浄水器や洗濯機

用など、用途別の浄水商品などと絡めて展開することで、中国での拡販の可能性は十分あ

ると考えている。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 94: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

89

シャワー浄水器「スキンビューティーⅢ」(左)と家庭用浄水器「磨水Ⅳ」

問:中国ビジネスの状況は。

答:現在、契約している代理店は上海に 2 社、遼寧省瀋陽、山東省青島、河南省鄭州にそ

れぞれ 1 社ずつの計 5 社。こうした代理店は、北京や上海で開催される水の展示会に単独

で出展するなどして開拓してきた。年 2 回ほど、中国の展示会に出展している。

月に 1 週間は自分で中国に出向いているほか、日本にいる営業担当の中国人スタッフ 2

人や現地法人の中国人スタッフ 1 人が市場開拓に取り組んでいる。

<中国人スタッフは日本で採用>

問:中国人スタッフの活用状況は。

答:現在、日本での中国人社員は総務課に 1 人、開発課に 1 人、営業担当として 2 人。総

務と開発の社員は岐阜の大学を卒業した留学生。そのほか生産部門には、夫婦で移住して

いる 2 人とその親類の人が 1 人、そのほかに实習生 3 人がいる(社員 120 人中、中国人は

10 人)。

以前中国で採用した営業担当の中国人スタッフを置いていたが、「報告する」という習

慣がないのか現地の状況について報告を求めてもほとんど上がってこなかった。また、自

分が担当した顧実は自分の顧実という意識が強く、会社を辞める際に一緒に顧実を連れ去

ってしまう例も他社ではあるようだ。日系水栓メーカーの現地法人で管理職経験もある中

国人を採用したこともあるが、給与が高い一方で成果は全くと言っていいほどなかった。

中国で採用したスタッフが 1 年たたないうちに辞めるということが 2 人続いたので、当

社の中国人スタッフの知り合いで、日本に住んでいる、日本人のビジネスのやり方を肌で

感じた経験のある中国人を日本で採用し、当社の仕事に慣れさせてから、現地法人で勤務

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 95: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

90

させるように方針を転換した。親会社の風土が分かっており、複数の同僚とも人間関係が

構築できているので、これまで現地で採用していた中国人のように、すぐに辞めることは

ないと考えている。現地法人にいる 1 人の社員も、岐阜県の大学卒業後、5 年間本社で働

いた。現地法人で代理店支援・受発注管理・倉庫管理を行っている。

中国人スタッフの採用で留意しているのは、賃金や待遇について後からトラブルが発生

しないよう、採用の際に、あらかじめ日本での給与と中国での給与を提示し、なぜその違

いがあるのかなどもしっかりと説明していることだ。中国人は給与や待遇について、はっ

きり要求する。本人が納得いくまで根気強く話を聞き、説得していくことが肝要だ。

<ネット販売での値下げに注意>

問:中国ビジネスで留意すべき点は。

答:当社のようにエンドユーザーが使う日用品を代理店方式で販売していると、代理店を

粘り強くフォローをしていかないと値段競争になってしまい、「○○店では、もうこんなに

安売りされている」とか、「××元でネット販売されてしまっているではないか」という話

になり、代理店間の調整も難しく、新規代理店開拓にも支障を来たすことになる。

またインターネット上での販売を自由に認めてしまうと、代理店にとって百貨店など店

舗に入っての販売は入店料などが非常に高く利幅が尐ないが、ネット販売はそれに比べて

利幅が大きいので価格を下げても販売できる。こうなると、顧実は安く購入できるネット

での購入にばかり行ってしまい、实店舗で購入する人が尐なくなってしまう。当社のよう

な中小企業は、広告を打つコストも限られるので、代理店に、店舗の店頭に出してもらう

ことこそが広告になる。だが、店頭は实績が出ない場合は外されることもあり、ネットで

の販売価格を監視したり、調整していくことは大変重要だと考えている。

今は、代理店と契約する際に、店頭やネット上での最低売価を当社側が指定できること

を契約書に盛り込むようにしている。また、社員に毎週ネットの掲載価格をつぶさに調べ

させて安く売られていないかチェックし、安売りしているところがあれば警告している。

値段を崩されて困るものは、安易にネットで販売することは危険だ。ひどいネット販売業

者の中には、仕入れもせずにネットに格安で商品写真を出し、受注してから仕入れる(仕

入れられなければ発注した実に売らないだけ)というところもある。

次に、思いも寄らぬ規定が存在する点にも留意すべきだ。以前、規定に反しているとは

知らず商品パンフレットに中国国旗を載せていたことをとがめられ、上海の代理店が公安

当局に呼び出されて、パンフレットの回収と罰金を求められた。パンフレット 5,000 部は

日本で印刷し中国に持ち込んだ際には輸入増値税も払っており、税関もパンフレットを確

認していたが、後からそんな指摘を受けることになってしまった。

また、商品パンフレットについては、日本でのパンフレットに掲載しているような他社

商品との性能比較は禁じられているとの指摘があり、変更しなければならなくなった。も

しかすると、これは競合商品の販売会社からの指摘だったのかもしれないが。

<11 年 12 月下旬からアンテナショップ兼モデルルームを開設>

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 96: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

91

答:さらなる販路拡大を図るには、まずは中国人のニーズにあった商品ラインナップを早

期に揃えること。そしてコストを「現地化」(購買層が買える値段)にする必要性を強く

感じている。また、販売方法については、今は代理店による販売を行っているが、代理店

任せになっている点は否めず、小売りを経験すること、自社で売り方を確立していく必要

性を感じている。大手メーカー品でもない限り、専属代理店になってくれるところはない

し、代理店は売れるものを売る姿勢だから、PR の仕方や、店頭での品物の置き方、説明

の仕方などももっとブラッシュアップをして、代理店に「売りたい、売れる」と思っても

らうようにしていかないといけない。

また浄水器は、マンション物件向けなど不動産業者や建築・建材業者に採用してもらえ

ば量が販売できる。そのためにはショールームも必要だ。

そんなことから 11 年 12 月下旬にアンテナショップ兼ショールームとして、上海万博会

場の近くの三林地区で、上海の大手デベロッパーが開発、運営をはじめる新しいショッピ

ングモール内に店舗開店を予定している。このモールは、日本企業では「ユニクロ」や「サ

ンリオ」も入居する予定だ。

この店では単に商品を置き販売するだけではなく、代理店やマンションのデベロッパー、

建築・建材業者に見にきてもらえる、ユーザーを連れてきてもらえるモデルルームのよう

な店づくりをしたいと思っており、ここを拠点に業者向けの外商活動もしていく計画だ。

この店舗で商品がそんなに多く売れるとは思っていないが、この店があることで、ほかの

代理店のための広告も打ちやすくなると考えている。2 年間で芽が出ればいいと考えてい

る。

大企業のように次々に新商品を打ち出せるところは別として、中小企業が丁寧に商品を

売っていくには、パートナーが大変重要。とはいえ、あまりに代理店任せにしていては売

れなくなり、そのうち代理店が扱ってくれなくなる。自ら店を持つ方針も持っているが、

代理店も大事にフォローし、また計画的に増やしていかないと販路が拡大していかない。

日本国内の業者で、当社の商品を中国でビジネス展開をしたいというところも出てきて

おり、中国での人脈、販路を持っている日本の業者に代理商になっていただくことも進め

ている。「水」に関するニーズ、浄水器に関するニーズ、「メード・イン・ジャパン」へ

のニーズは確实にあるわけで、それが残っているうちに、中国や中国人をより理解すると

ともに、日本式の慣れたやり方にこだわりすぎないようにして、中国での販路を早期に確

立していく覚悟だ。

(西本敬一、日向裕弥、小林伶)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 97: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

92

高機能除菌・消臭剤で中国市場を開拓

-香川県の「プーキートレーディング」-

社 名 : プーキートレーディング株式会社

創 立 : 1994 年

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 香川県木田郡三木町大字井戸 2048-1

代 表 者 : 代表取締役社長 堺 正和

従 業 員 数 : 64 名(2009 年 1 月現在)

U R L : http://www.pooky.co.jp/

中国では、国民の健康意識の変化などから、室内の除菌・消臭剤に対するニーズが今後

高まることが予想される。次亜塩素酸を活用し、瞬時に効果を発揮する高機能の除菌・消

臭剤を販売するプーキートレーディング(本社:香川県三木町)は中国の除菌・消臭剤市

場開拓を目指している。同社の中谷宗昌・第 2・第 3 事業(ペット事業・ケア事業)ゼネ

ラルマネジャーに 2011 年 10 月 5 日、市場開拓の戦略やリスクについて聞いた。

<円滑な事業展開に中国人スタッフを採用>

問:中国市場開拓の経緯は。

答:次亜塩素酸水を中国市場で販売する計画は当初はなかったが、新型インフルエンザの

流行があり、中国での感染予防対策も含めた商品開発に方向転換した。ただし、本格的に

中国に進出しようというわけではない。次亜塩素酸水自体、日本でもまだなじみの薄い除

菌・消臭剤なので、まずは反応をみながら、可能性を探る程度の意識で中国市場開拓に取

り組み始めた。

中国向け 用途別スプレー各種

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 98: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

93

問:戦略や具体的な取り組みは。

答:既に中国に進出した他社からも、中国ビジネスに関してアドバイスをもらっている。

次亜塩素酸水を扱うケア事業が発足する以前から、当社の畜産事業やペット事業では中国

進出を検討しており、特に畜産事業では既に中国での事業立ち上げの準備を始めている。

中国での畜産事業の経験から、言葉の壁や商習慣の違いに対応し、円滑に事業を展開しよ

うと、2 人の中国人スタッフを採用した。やはり、中国人スタッフがいるのといないのと

では、大きな違いがある。

販売戦略の面では、日本国内で販売している商品のほかに中国向け商品を増やした。ま

た、使用目的も除菌・消臭だけでなく、中国のニーズに合わせて、ほかの効果にも重点を

置いた商品説明を加えるなど、中国向けのアレンジを行っている。

空間除菌・空間消臭用 噴霧器セット

<大連市に現地法人を設立、事業拠点に>

問:今後の中国ビジネスの方向性や問題は。

答:進出の第一歩を踏み出したところだが、当社商品に対する中国での関心の高さを感じ

ている。ただし、今後实際の取引開始までには相当な労力が必要だ。中国人スタッフがい

ることは、中国側とのコンタクトの取りやすさなど、効率的なビジネスの推進には役立つ

が、商談をまとめることは非常に難しい。

特に、次亜塩素酸水のように、まだ中国で一般的には全く知られていない商品の場合、

一般消費者はもちろん、中国で販売を手掛けてくれる代理店への十分な説明が必要だ。そ

れがなければ、代理店も販売ができないため、どうしても代理店になってくれそうな会社

への働き掛け(商品に関する専門的な知識や販売ターゲットの示唆、代理店の育成など)

に多くの時間がかかる。

当社が痛感した問題の 1 つは、中国国内に自社の拠点を置くなど、現地で事業を展開で

きる状況にしないと、なかなか商談が進まないということだ。そこで当社は、遼寧省大連

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 99: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

94

市に現地法人を設立し、中国での事業・物流拠点とすることを決定した。

もう 1 つの問題が価格だ。輸送コストと物価水準の違いのため、当社の商品は中国で販

売する段階で非常に高価になってしまう。特に、量が尐ない段階では、そうなる。中国側

もリスクを避けるため、取引のスタート時点では尐量からの取引となるため、商品単価は

高くなる。このような状態の間は、一般に広く普及できるような価格ではなく、一部の富

裕層にしか販売できない高価な商品にならざるを得ない。

従って、大量の輸出が可能な段階にならなければ、広く普及させられる価格に抑えるこ

とは困難だ。しかし、大量の輸出が可能になったとしても、競合する一般的な除菌・消臭

剤に比べれば相当高価にならざるを得ない。最終的には、商品普及のためには中国での生

産が不可欠だと考えており、これを可能にするための事業展開が今後の当社の方向性にな

る。

<商習慣の違いによるトラブルに留意>

問:留意すべきリスクは。

答:中国で信頼が置けて販売力のある会社をみつけ、強い協力関係を持ってビジネスを推

進できる事業環境ができない限り、自社で中国に現地法人を設立して、实際に事業を展開

していくことが必要だ。日本からの遠隔操作だけでは事業はなかなか進展しないと強く感

じている。そのためには、中国語のできるスタッフの採用や法人設立など、相当の投資が

必要だ。

特に留意しなければならないのは商習慣の違いだ。商談の最初の段階で商品に高い関心

を持ち、比較的大規模の取引話になって喜んでいても、そこから先に具体的な話が進まな

いというケースが度々あった。中国企業は大風呂敷を広げる傾向があるようで、話半分く

らいで聞いておかないと、生産調整や輸出準備などの計画が大きく狂う危険性がある。

また、「自分たちのミスや間違いに対して謝罪して対処することをしない」「契約書が

あっても、ないに等しい」というのは、中国企業との交渉の中で实際に何度か経験した。

契約書を交わしているから、それに記載されているルールにのっとってビジネスが行われ

るだろうと安心してはいけない。

こうした商習慣の違いによる困惑やトラブルは、中国進出企業の多くからよく耳にする。

当社も確かにこれらの問題を实感しており、中国進出に当たって感じた単なる苦労話では

なく、場合によっては大きなリスクになり得ると思う。

(岩田知統、真家陽一)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 100: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

95

土佐和紙の技術で高級ティッシュを売り込む

-和紙加工販売の「ハヤシ商事」-

社 名 : ハヤシ商事株式会社

創 立 : 1933 年

資 本 金 : 2,800 万円

本 社 : 高知県土佐市高岡町乙 3192-4

代 表 者 : 代表取締役社長 坂本 英輔

従 業 員 数 : 75 名

U R L : http://www.tissue.co.jp/

中国市場に取り組んで 2011 年で 3 年目。和紙加工販売のハヤシ商事(本社:高知県土

佐市)は、土佐和紙ならではの製紙技術が息づいた高品質のローションティッシュを中国

市場向け戦略商品と位置付け、代理店経由で中国各地に販売している。坂本英輔社長に

2011 年 10 月 25 日、話を聞いた。

<百貨店や高級スーパーなどで展開>

問:中国市場開拓のきっかけは。

答:当社は 1958 年創業で、主力商品は、高知県の伝統工芸品である土佐和紙に伝わる、

優れた和紙原料技術や薄くて丈夫な紙質といった特徴を生かした高品質のティッシュペー

パーやトイレットペーパーだ。中でも日本のキャラクターポケットティッシュ分野での当

社製品のシェアは約 6 割に達している。

日本は人口の減尐や市場縮小に直面しており、今後も開拓できるニッチ市場はまだある

ものの、全体の伸びしろはあまりない。今後の展開先として中国を検討し始めたのは 7 年

前で、4 年前ごろからジェトロの支援も受けながら合弁先や販売先の開拓に本腰を入れ始

めた。中国で合弁先を探すのは「10 社に 1 社ヒットするくらい」といわれるほど難しいと

聞く。このため、日本の取引先の商社から当社の商品を中国でも販売したいという打診を

受け、まずは輸出からスタートすることにした。

問:現在の具体的な取り組み状況は。

答:現在中国で販売しているのはローションティッシュの「モイストファミリー」という

シリーズ。名前も「慕逸●(2 点しんにょうに舌)」(モイストの発音の当て字)という中

国名で展開している。価格はボックスが 1 箱 34~35 元(1 元=約 12.2 円)、ポケットテ

ィッシュ 6 個パックが 18~19 元、8 個パックが 23~24 元と、日本の 2 倍ほどだ。

このシリーズを中国で販売しようとしたきっかけは、取引先から、このシリーズは中国

で売れるのではないかと勧められたことだ。中国では良質なローションティッシュはまだ

まだ尐ないため、良いものを求める消費者向けの市場があると考えている。また、ティッ

シュペーパーはもらってうれしいものなので、ギフトとしての選択肢もあると考えている。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 101: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

96

ハヤシ商事の坂本社長(左)とローションティッシュ「慕逸适(モイスト)」

販売先は主に百貨店や大型スーパーなどで、現在最も好調なのは北京市の高級スーパー

だ。また上海市は販売箇所が最も多く、近郊都市を含めて幅広く展開している。

カルフールにも販売していたが、店によって売れ行きに差があり、入店料、リベート、

サンプル代とさまざまな経費がかかるため、現在は販売していない。ベビー用品専門店に

も商品を置いているが、棚の配置場所があまり目立たないこともあり、販売方法には改善

の余地があると感じている。

代理店の選定基準は、有力な販売ネットワークがあり、商品価値を分かってくれるとこ

ろだ。現在取引している総代理店は日系商社との合弁会社。そのほか地方の代理店も含め

9 社ほどと契約している。中国の代理店は日本の代理店と比較してベンダー機能が強く、

商談などは当社で進めなければならないことが多い。ただ現在当社商品を取り扱っている

地方の代理店は現時点では比較的、積極的に当社商品を販売しているように思う。

<サンプルで感触を確かめてもらう>

問:中国での販売の工夫や課題は。

答:商品棚の一角にサンプルボックスを置き、ティッシュを手に取って感触を確かめられ

るようにしたり、サンプルを提供したりしている。「日本製」「抗菌仕様」ということも

パッケージに明記して PR している。

課題は、商習慣の違いが大きいことだ。特に中国では小売店のバイイングパワーが強く、

リベートや入店料などが高い。このため、販売の諸経費は日本に比べると 2 倍ほどかかっ

ている。また日本と距離が離れているため、状況が充分にみえてこなかったり、情報がフ

ィルタリングされたりしていることも難点だ。

問:今後の展開方針は。

答:まずはブランドの認知度を高め、商品が一定量販売できるようにしたい。販売にはさ

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 102: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

97

まざまな諸経費がかかり、量を増やさなければなかなか採算は取れない。現在の 3~4 倍

に販売を伸ばし、商品がある程度中国市場に根付くことができた段階で、中国での OEM

生産や自社工場設立と、ステップを踏んで事業を拡大していく方針だ。

原紙だけ販売してほしいという会社もあるが、ブランドの育成にとってはマイナスにな

るため断っている。また、今後はギフト用やノベルティー商品も増やしていきたいと考え

ている。

(黄海嘉、松浦健太郎)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 103: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

98

4.美容・健康・福祉

潜在的要求を知り、じっくり市場を育てる

-ハーブ・アロマ関連製品の「生活の木」-

社 名 : 株式会社生活の木

創 立 : 1967 年

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 東京都渋谷区神宮前 6-3-8

代 表 者 : 代表取締役 重永 忠

従 業 員 数 : 600 名

U R L : http://www.treeoflife.co.jp/

生活の木(本社:東京都渋谷区)は、ハーブ・アロマテラピー関連製品の開発・製造・

販売に取り組む中小企業だ。日本全国の直営店で、世界 51 ヵ国・地域の提携農園から厳

選したオーガニックハーブや精油などを販売しているほか、サロンやカルチャースクール

を運営し、生活の中にハーブを取り入れる提案を幅広く行っている。同社は現在、中国市

場向け販売に取り組んでいる。重永忠代表取締役社長に 2011 年 9 月 26 日、海外進出の経

緯や中国ビジネスの課題について聞いた。

<ターゲットマーケティングが必要>

問:中国市場開拓に取り組んだ経緯ときっかけは。

答:当社と中国とのつながりは、20~30 年ほど前に中国からハーブなどの材料の調達を開

始したことに始まる。現在、日本のアロマ文化は飽和状態とまではいかないものの、ある

程度普及しており、数年ほど前からアジア市場を開拓していかなくてはならないと感じて

いた。3 年前から台湾で販売を始めたが中国でもある程度販売が見込めるだろうと考えた。

問:中国市場開拓に向けた戦略や具体的な取り組みは。

答:現在は中国市場についてリサーチをしている段階だ。単純に「中国は人口が多いから

店を出す」というのではなく、「どの顧実層に、どの値段で売るか」など、まずはしっか

りとしたターゲットマーケティングが必要だと考えている。

可能なら中国でも直営店を運営できればいいが、法人設立、価格設定などの面でハード

ルも多い。特に価格設定についてはリサーチ結果が出てみないと判断できず、最初の 1 年

間はそうしたマーケティング活動が続くだろう。「とにかく、どこでもいいから売ってい

く」ではなく、じっくりと市場を育てていくことが必要だ。

<12 年採用者の半数は外国人>

マーケティング活動の次の課題として従業員教育が挙げられる。単に販売員を置けばい

いわけではなく、アロマについてしっかりと勉強し知識を持った人材を採用・育成してい

かなければならない。当社では毎年 10 人程度の新卒を本社採用しているが、2012 年はそ

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 104: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

99

の半分ほどに外国人(中国、台湾、韓国、スリランカから各 1 人ずつ)を採用する。彼ら

に日本で数年経験を積ませ、企業理念などについて理解させた後に現地に派遣したいと考

えている。

アロマテラピー関連商品のショーウィンドーの様子

問:中国でのマーケティングのポイントは。

答:現地の人々の生活習慣など、本当の中国の姿を把握しないと、どの商品を提供してい

いのか分からない。数字だけの統計に表れない、实際の中国の姿を知ることが肝要だ。中

国人が潜在的に持っている「こうなりたい。こういうモノがほしい」といった要求がどこ

にあるか、今の中国人の生活の中で欠けているもの、こうあったらいいと求めるものが何

なのかをリサーチし、そこに当社の製品を提案していきたいと考えている。

台湾でのビジネスの経験からは、人の使い方を含めいろいろと学ぶことができたため、

中国でもそれを生かすことができると考えている。ただし、台湾で成功したモデルがその

まま中国で生かせるとは考えていない。「良い売り場と良い商品を作れば売れる」という

わけではない。

<留意すべき 4 つのリスク>

問:中国市場開拓に向けて留意すべきリスクは。

答:①人的リスク、②法的リスク、③情報面のリスク、④契約面のリスクなどが挙げられ

る。

まず①について、人材の確保や育成はじっくり行っていきたいと考えている。誰でもい

いわけではない。併せて、労務問題や賃金上昇リスクについても留意が必要だ。②につい

ては、商品を安定的に輸出できるのか否かということ。特に消耗品に関しては、商品への

ニーズがあったとしても、継続的に輸出できないと消費者が困ることになってしまう。③

は当社が出した情報が、的確に消費者に伝わるか否か。④の契約に関しても、中国は日本

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 105: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

100

と商習慣が異なるためリスク要因となる。逆にいうと、これらのリスクがクリアできれば、

マーケットはあると考えている。

<東アジアからの引き合いが増える>

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:日本のアロマ文化の普及の流れは特殊だった。日本アロマテラピー協会(現、日本ア

ロマ環境協会)が 1996 年に設立され、その後社団法人化し、アロマテラピーの資格認定

制度を作った。現在、総受験者数は全国に約 28 万人以上(当社のスタッフも 600 人のう

ち 8 割が有資格者)、また、正確な統計はないものの、アロマテラピーを使っているか、

あるいは体験したことがある人は 3,000 万人いるといわれている。

資格認定制度の効果は大きかった。それまでの消費者は「モノがほしい」という欲求だ

けだったが、資格制度ができたことで「それを勉強し、職業にしたい」と考えるようにな

った。これがアロマ文化の普及に大きく貢献したと思う。こうした日本のアロマ文化普及

の流れを、アジア諸国の人々もみている。彼らが、自国でもアロマを普及させたいという

流れがそろそろ始まると期待している。

東京ビッグサイトで開催される「東京インターナショナル・ギフト・ショー」に出展し

た際には、中国や台湾、韓国、シンガポールなど東アジアからの顧実が多く、引き合い件

数も多かった。また、当社の東京・表参道店に情報収集に来るアジア人実も多い。

中国をはじめこれらアジア諸国では、アロマ文化はまだ広まっておらず、まとまった店

舗もない。そうした中、現地のオピニオンリーダーといえる人物が日本に視察に来ている

のだろう。成果はまだこれからだが、消費者にマッチする商品さえ提供できれば市場はあ

ると判断している。消費者に現場で实際にアロマを体験してもらい、自分でどのように使

うか分かってもらうことが必要だ。そうした地道な活動により、アロマを知る人が生まれ、

その人経由でさらにほかの人へと伝わっていくことができれば普及は早いだろう。

モラージュ菖蒲店の様子

(米川拓也)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 106: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

101

差別化したせっけんで取引先を絞り込み

-化粧品・健康食品の「フィットライフ」-

社 名 : フィットライフ株式会社

創 立 : 2005 年

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 東京都港区六本木 7-15-13

代 表 者 : 代表取締役 崎山 泰祐

従 業 員 数 : 5 名

U R L : http://www.fitlife.co.jp/

フィットライフ(本社:東京都港区)は、医薬部外品・化粧品・健康食品の製造販売と

輸出入を行う従業員数 5 人の中小企業だ。生薬やハーブなどの天然素材を生かした製品の

企画・開発を行い、現在、洗顔用せっけんなどの中国市場向け販売に取り組んでいる。崎

山泰祐代表取締役に 2011 年 9 月 29 日、海外進出の経緯や中国ビジネスの課題について聞

いた。

<欲しい物に対する欲求は日本人より強い>

問:中国市場開拓に取り組んだ経緯ときっかけは。

答:当社の対中ビジネスのきっかけは、約 2 年半前に中国から輸入を始めたことだ。当時

は中国に工場を持つ日系企業からの輸入が主だったが、現在はマスクなど一部の製品は現

地企業から輸入している。2 年前に上海マート(上海世貿商城)で開かれた「上海国際ギ

フト展」に単独出展したが、当社のせっけんは泡立ちや香り、形などについて来場者の反

応が非常に良かった。その後、現地の百貨店でのせっけんのテスト販売などを経て、販売

が見込めると判断し輸出を開始した。

問:中国市場開拓に向けた戦略や具体的な取り組みは。

答:日本では、洗顔用、手洗い用など、せっけんの用途が細分化されている。中国では、

そうした商品はあるものの消費者に浸透していない。百貨店の売り場をみても、例えば洗

顔用は化粧品売り場に陳列されているなど、せっけんとして 1 つの売り場にまとまって置

いていないのが現状だ。

とはいえ、中国の消費者は、「安心・安全」など品質が高いものは値段に関係なく購入

している。欲しい物に対する欲求は日本人より強いといえるのではないか。また、日本の

3 倍もの値段の商品でも迷わず購入するなど、物を見てから購入を決めるまでのスピード

が速い。入場料や棚代に費用をある程度かけたとしても、その商品が爆発的に売れるかも

しれないといった期待感がある。

日本国内で 1個 1,000 円のせっけんの 1 ヵ月当たりの販売数は数百個程度だが、1個 100

円のせっけんは数万個も売れる。中国でもこうした低価格帯でボリュームゾーンをとらえ

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 107: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

102

られるような商品を提供すれば、大きな市場があると期待している。ただ、日本製だから

売れるということではなく、商品とチャネルが一致しないと売れないと考えている。

フィットライフの緑茶せっけん

<法改正やトラブル対応にはまず日ごろの情報収集>

問:中国市場開拓に向けて留意すべきリスクは。

答:中国側からオファーは数多く来ており、ここから相手先の絞り込みを行うことになる

が、先方が提示してくる企画書をどこまで信用していいのか分からない。「当社は大手と

取引がある」、あるいは「当社は中国内に販売店が数百店舗ある」などとアピールをして

くる会社もあるが、实際に見てみないと本当のところが分からないといった不安がある。

また、輸出する製品の商務局への登録・申請を現地の代行会社に依頼する際にも、会社

によって金額が大きく異なる場合がある。「商務局に知り合いがいるので絶対に税関を通

せる」とアピールし、数万元という大きな料金を提示する会社もあった。代行会社の提示

する金額には、申請实費のほかに手数料が含まれていると考えられるが、申請实費の基準

額が实際はいくらなのか、また、手数料の相場はどの程度なのかなど相場観がないため判

断が難しい。

また、中国では法改正が頻繁に行われるため、これまで輸出できていたものが急に止ま

ってしまうといったリスクもある。せっけんに関しても以前は雑品として扱われていたた

め輸出が容易だったが、規制が改正されたことを受け、現在は通関や検査に時間がかかる

ようになった。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 108: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

103

こうした法改正やトラブルに対応するためには、日ごろから情報収集をしっかり行って

おくことが大切だと考えている。また、何かトラブルが起きたときには、現場で解決する

ことが必要だ。

<華南地域や内陸にも商機あり>

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:単純に中国市場開拓とはいっても、国土が広いため、地域ごとの細分化が必要と考え

ている。地域ごとに地場の有力企業を押さえることができれば理想的だ。中国人は「利益

を挙げる」というビジネスの鉄則をしっかりと考えているように思う。出張ベースで中途

半端に取り組む程度では市場開拓は難しい。これから徐々に販売体制を構築していき、よ

り多くの人々に当社の商品を使ってもらうことで、市場が徐々に広まっていけばいいと考

える。

上海はビジネスの中心とはいえ、物やサービスがあふれすぎている。広州などの華南地

域や内陸なども攻めるべきだと考えている。

(米川拓也)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 109: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

104

販売ターゲットを絞り、リピーターを増やす

-ドクターズコスメの「エフシーエー」-

社 名 : 株式会社エフシーエー

創 立 : 2006 年

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 大阪府大阪狭山市半田 1-43-1 エクセレンシーアイ 205

代 表 者 : 代表取締役 植村 冨美子

従 業 員 数 : 6 名

U R L : http://www.drfumiko.com/

エフシーエー(本社:大阪府大阪狭山市)は自ら医院を経営する形成外科医の植村冨美

子氏が 2006 年に設立したドクターズコスメ(医師によって研究開発された化粧品)の会

社だ。成長著しい中国で、女性のための自立した美と健康を提案したいと 06 年には上海

に現地法人を設立、11 年 10 月からエステサロンの経営を始めた。植村社長に 2011 年 11

月 17 日、海外進出の経緯や中国ビジネスの課題について聞いた。

<患者の質問から化粧品開発に乗り出す>

問:製品開発の経緯は。

答:形成外科は事故でけがをした患者などの顔や身体の手術を行う。そのような患者から

「化粧水などの化粧品をいつから使用してよいか」、また「どのような商品を使用できる

か」という質問が多い。私はサービスの一環として、適切にアドバイスできるよう化粧品

について調べ、化粧品知識を身につけて自身で開発を始めた。

当社の化粧品はエッセンス(美容液)の使用方法に特徴があり、自分で求める効果に合

わせて 3 種類のエッセンスを調合して使用してもらうようにしている。化粧品に求める効

果には個人差がある。季節によって水分や皮脂などの増減もあり、夏には紫外線を浴びた

肌のケアをしたいなど、求めるものが変わる。私はネットやメールで相談を受け、サポー

トをしている。

問:海外(中国)市場開拓を目指したきっかけは。

答:日本には化粧品が数え切れないほどあり、ドクターズコスメもさまざまなものがある。

このような中で資本を投じて事業を行っても、あまり成果が上がらないと感じた。そこで

海外に視野を広げて、本業の医院があるので距離的に近く移動時間が短い中国に進出する

ことにした。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 110: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

105

エフシーエーの化粧品

<自身で許認可取得や貿易の手続き>

問:現在までの中国での事業状況は。

答:当社の化粧品は中国国家食品薬品監督管理局(SFDA)の許認可を取得済みだ。SFDA

の許認可取得には、通常 6~8 ヵ月かかると聞いていたが、实際には 3 年かかった。申請

は代行業者を使用せず自社で行った。中国の役所も日本と同様に、窓口に行けば必要な書

類が分かるようになっていると思ったからだ。費用は自社で手続きを行ったため代行業者

に頼むよりも安かった。申請書類は、どの部分が悪かったか分からないまま何度も差し戻

されたが、正攻法で手続きを行った。

現地法人は 06 年、上海に 100%単独資本で設立した。11 年 10 月 10 日に、上海市のマ

ッサージサロンで 2 审、計 4 台のベッドを借りて、エステサロン「医龍国際痩身麗顔中心」

を開店した。サロンには 4 人の社員がおり、店長が日本人で、残り 3 人は日本語の話せる

中国人だ。サロンの店長は日本で募集して上海に派遣した。

サロンのウェブサイトやチラシも作ったが、まずは駐在員の配偶者など日本人をターゲ

ットにし、口コミなどで中国人にも広げていきたいと考えている。私は北京で放送局のキ

ャスターが通うというサロンなども見学したが、日本に比べて清潔感があまりないと感じ

た。

商品の輸出手続きも私自身で行っている。中国側の輸入者は上海の現地法人だ。貿易实

務は通信教育で学び、書類も自分で書いて提出している。輸出当初は国際郵便から始め、

DHL などの国際宅配便へと徐々に変更していった。

販売地域は上海を中心に考えているが、蘇州(江蘇省)のサロンでも扱ってもらってい

る。商品は日本と同じものを輸出しており、現地生産は今のところ考えていない。海外生

産にした結果、日本と同品質の商品を作れなかったと他社から聞いたことがあり、不安が

あるためだ。当社の商品は幅広い顧実層に大量に売るのではなく、美容に関心があり、当

社商品を気に入った人が購入してリピーターになってくれればよいと考えているため、量

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 111: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

106

産はしていない。

<中国人社員とのコミュニケーションを大事に>

問:ジェトロのアジア・キャラバン事業に参加した経緯は。

答:中国は報道される姿と实際の姿に乖離があると感じる。地方都市などを自分の目で見

てみたかったので同事業への参加を希望し、私自身内陸部の成都(四川省)や武漢(湖北

省)に行った。ジェトロの事業は定期的にウェブサイトでチェックしており、10 年もアジ

ア・キャラバン事業が实施されているのを把握していた。同事業の 2 年目の实施というこ

とで関心が高く、参加を決めた。

問:中国市場開拓で留意すべきことは。

答:中国では行政手続きなどで日本に比べて時間がかかるので、それを見越したスケジュ

ールを設定しておくことが必要だ。

よく指摘される中国語がビジネスの障害になっているという問題は、中国の中でも多様

な方言があり、全員が普段標準語を話しているわけではないので、あまり気にしていない。

むしろ中国人の仕事に対する日本人との感覚の違いに苦労している。

このため、私は上海の中国人社員とは常にコミュニケーションを図るよう心掛けており、

朝会ったらあいさつをする、ごみがあったら拾うなど適宜注意し、書類の整理の仕方など

も細かく指示している。また、サロンでは笑顔でお実様を迎え、お実様の名前を覚えるよ

う教えている。さらに、模倣品対策として、必要と思われる名称などを中国で商標登録し

ている。

なお、中国で事業を行うにはやはりリスクがあるので、日本での事業をすべて投げ捨て

て取り組むのではなく、日本の基盤を持った上で取り組まなければならないと考えている。

問:今後の中国ビジネスの方向性は。

答:日本でも中国でも、顧実は 1 度良いサービスを受けるとまた受けたくなるものだ。当

社はそのような人にリピーターになってもらい、そこからの口コミで尐しずつ顧実を増や

していきたい。現在は日本人が中心だが、今後中国人を増やしていきたい。

(鷲北弥那子、宗金建志、浅日美樹)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 112: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

107

日本の先端技術を世界に届ける

-除菌・消臭ミスト販売の「MTI ジャパン」-

社 名 : MTI ジャパン株式会社

創 立 : 2008 年 11 月

資 本 金 : 5,500 万円

本 社 : 兵庫県神戸市東灘区向洋町中 2 丁目 10 番 六甲アイランドビル 4F

代 表 者 : 代表取締役 谷川 哲平

従 業 員 数 : 19 名

U R L : http://www.mti-jpn.com/

MTI ジャパン(本社:兵庫県神戸市)は谷川哲平社長が 2008 年に設立した企業で、情

報産業システムサービスやオープン系・制御系システム開発などを行っているほか、先端

技術を応用した製品を扱う商社部門を持つ。同社はその商社部門で、日本の優れた技術を

世界に届けようと、海外展開を図っている。海外展開の経緯や中国ビジネスの課題につい

て 2011 年 10 月 13 日、谷川社長に聞いた。

<「安心・安全」を売り込む>

問:中国市場開拓を目指した経緯は。

答:当社は 08 年に設立したベンチャー企業で、従業員は 19 人、商社部門、ものづくり部

門および先端技術部門を持つ。設立当初から日本の優れた技術を世界に届けることを目的

の 1 つにしており、海外ビジネスの経験を持つ社員も複数いる。海外への事業展開は設立

当時から計画されており、今回海外市場開拓に向けて本格的に動き出した。

IT 産業は経済動向の影響を受けやすく、一方で研究開発(R&D)には多額の費用がか

かるため、その資金を生むためにも安定的に収益を上げられる商品販売機能が重要だ。商

社部門では日本企業の持つ先端技術に注目し、そうした技術を使った製品を開発して、販

売している。そのフィールドを国内から海外へ広げる。

中国の魅力は世界一の人口を抱える市場の大きさと、日本からの地理的な近さだ。また、

中国は市場経済が育っている段階で、今後、戦後日本の高度経済成長期のような発展をし

ていくと考えている。「安心・安全」の概念は日本でも生活に余裕ができて初めて定着し

たが、中国もこれからそうなると考えている。

問:海外展開を目指す製品は。

答:香料・防腐剤・アルコールなど一切の薬剤を使用せず、低酸素弱酸性純水と銀イオン

だけでつくられた ChaNt(チャント)という安心・安全な除菌・消臭ミストを開発し、展

示・販売している。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 113: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

108

<高付加価値の「メード・イン・ジャパン」にこだわる>

問:中国市場の開拓戦略は。

答:販売地域にこだわりはないが、内陸部はインフラが沿海部に比べて未発達で、商品の

輸送が困難とみられるため、上海や北京といった大都市からの展開を考えている。既に中

国語翻訳したパンフレットは作成した。

当社は、ChaNt の「水だけなのに体に良い効果がある」というユニークさに自信を持っ

ている。しかし、特徴を簡単に説明することが難しく、見てすぐにどのような製品か理解

してもらえないので、単に商品を陳列するだけではなく、特徴を一目で理解してもらえる

工夫が必要だと考えている。写真で陳列棚の提案を行ったり、コラボ商品などと一緒にセ

ット販売用の飾り付けをして展示するなど、販売者が自店での販売シーンを即座にかつ容

易にイメージできるようにし、その商品が売れる商品だと感じてもらえるようにしている。

この製品は技術を中国に持ち込めば現地生産も不可能ではないが、高付加価値製品とし

て「メード・イン・ジャパン」にこだわった製造と、安心・安全の規格を保持するための

設備投資・維持のために値段を下げることはしない方針だ。

出産祝いやさまざまなギフトシーンをイメージできる展示方法なども含めて提案

問:中国市場での取り組みの成果は。

答:ChaNt は現時点で売り上げは出ていないが、3 社から声がかかっている。そのうちの

1社は通信販売を行う企業で、日本製品を専門に取り扱うカタログを年4回発行している。

現在は商談を進めているところだが、費用を当社がどこまで負担するかなどが課題になっ

ている。

<マーケティングが課題>

問:今後の中国ビジネスの方向性と課題は。

答:当社の課題は販売戦略だ。技術的な面でのものづくりは得意だが、中国向けにどのよ

うなものを作るか、どのような販売方法が適切かなどの判断となる経験値が浅いため、こ

れからのマーケティングが重要なカギだと考えている。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 114: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

109

また、今後化粧品として販売するなどの場合には、中国国家食品薬品監督管理局(SFDA)

の許認可申請が必要になる。その費用、期間、手続きの難しさも課題だ。SFDA の許認可

取得は、实際に売れる見込みがないと申請手続きにかかる多額の費用を負担できないため、

商品の販売先と一定の販売量が確保できる見通しがつき次第实施する方向で考えている。

このほか、中小企業にとって海外展開は、出張経費などの費用負担が大きいことも課題

だ。言葉の壁も大きく、中国語のパンフレット作成の際には、当社は中国語翻訳を安価で

請け負う業者に依頼できたのでさほど苦労しなかったが、中小企業にとって、その費用も

無視できない。

商談が進んだ場合には、中国人スタッフを現地で雇いたいと考えている。商談の際に、

当社は英語でのやり取りを希望しているが、中国企業からは中国語しかできない担当者が

来ることが多く、メールでのやり取りも中国語指定の場合が多いためだ。

問:長期的な展開は。

答:今後はアジア圏で、ChaNt にも利用している水の加工技術を活用した商品を中心に、

事業を展開していきたいと考えている。当社は単純にものを売るだけではなく、中国、ア

ジアに安心・安全を届けていきたい。現在は ChaNt でしか实現できない機能を持つ化粧

品として、肌への効果を訴求した商品販売を開始し、消臭除菌だけでなく、化粧品分野へ

の展開を始めた。将来的にはさらに付加価値を付けて別の形の商品も販売していきたい。

また、原料として水やその加工技術を販売する B to B も視野に入れている。

(鷲北弥那子、宗金建志、西尾瑛里子)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 115: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

110

高級化粧筆のブランド力強化図る

-熊野筆の「晃祐堂」-

社 名 : 株式会社晃祐堂

創 立 : 1979 年

資 本 金 : 1,000 万円

本 社 : 広島県安芸郡熊野町出来庭 6 丁目 6-28

代 表 者 : 代表取締役社長 植松 藤盛

従 業 員 数 : 40 名

U R L : http://www.koyudo.co.jp/

晃祐堂(本社:広島県安芸郡熊野町)は、熊野町の伝統工芸品の熊野筆を使った商品を

生産、販売する中小企業。匠(たくみ)の技が集約された伝統技術に、革新的な発想を取

り入れた商品を展開している。中国市場開拓は、スピード重視ではなく、商品価値を理解

してもらうことに重点を置いた展開を心掛けている。同社の土屋武美専務取締役に 2011

年 10 月 17 日、中国市場開拓の現状について聞いた。

<日本製と中国製を併売>

問:取り組みのきっかけは。

答:当社は職人を育成し、質の高い製品を国内で生産しているが、それとは別に、コスト

を抑えた製品を求める顧実の要望に応えるため、20 年前から中国で生産を行っている。

100%出資で中国に進出、工場を 3 つ持っている。これまでは対日輸出を中心としてきた

が、市場としての中国に注目が集まるにつれ、市場開拓の必要性を感じていた。

問:市場開拓に向けた戦略や方針は。

答:中国では化粧筆を販売している。当初は日本からの輸出品を中心に中国で展開しよう

と考えていたが、価格が市場ニーズに見合わないため、中国製商品で対応することに方針

転換した。日本からの輸出品は関税や増値税を合わせると、中国製の約 2 倍の価格になっ

てしまう。中国で販売している中国製と日本製の商品の差別化は行っていないが、日本の

ブランドとしてのイメージを PR するため、日本製も併売している。日本製はパッケージ

をギフト風にするなど、中国製よりも付加価値を付けるように工夫している。

ターゲット層は、日本製は富裕層や政府関係者、中国製は上位中間層とすみ分けしてい

る。インターネットを通じた試験販売の結果では、日本での売れ筋商品とほぼ同価格帯か、

尐し上くらいが売れると感じており、価格にして 1 万円前後のものが売れ筋になっている。

ハート型ブラシ、リキッド用ブラシなど、見た目や实用性が重視される商品では、逆に低

価格帯の商品はあまり売れていない。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 116: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

111

晃祐堂の化粧筆

<対面販売の効果は大>

取引相手の代理店の選定で重視しているのは、当社のスタンスを理解してくれるかどう

かだ。ジェトロのアジア・キャラバン事業を通じて 10 社ほどの代理店から引き合いがあ

ったが、その中の日系の代理店を通じて、大型ショッピングセンターの広いフロアスペー

スを借りて、日本の化粧品や雑貨を販売している。この代理店は「熊野筆の技術を使った

化粧筆が中国で理解されるまでに時間がかかるだろう。1 年くらいの時間をかけて尐しず

つやっていく」と、スピードではなく、商品の良さをユーザーに理解してもらうためのマ

ーケティングを心掛けている。

商品価値を理解してもらおうと、現地での試験販売、デモンストレーションを積極的に

行っているところだ。2011 年 7 月に上海の花園飯店内の三越で試験販売を行った際には、

3 日間で通常店舗の半月分以上を売り上げた。販売員の説明があるのとないのとでは売れ

行きが全く異なる。説明付きで販売すると日本よりも売れるという印象を持った。

また 8 月には成都イトーヨーカドー双楠店で開催されたイベント「ぷちええとこ 広島」

に参加し、熊野筆を代表してメーク講習や販売を行ったところ、大盛況だった。

イベントの波及効果はとても大きいと感じている。11 年 1 月に広島のテレビ局主催のイ

ベントに参加したことがきっかけで、担当者の目にとまり、大連のテレビ局が企画する広

島特集に当社を紹介してもらい、取材を受けることになった。こうしたことがきっかけで

知名度が高まることが期待できる。

<地域により販売戦略を変える>

問:今後の方向性や目標は。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 117: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

112

答:日本では中小企業でも、味千ラーメンやハニーズのように、中国では大手企業並みに

知名度が高まった企業が何社もある。当社はこれまで日本向け輸出や相手先ブランドによ

る OEM 生産が多かったためにブランド形成が遅れてしまったが、今後ブランド力を強化

していきたいと考えている。

まだスタートを切ったところだが、目下の課題は価格設定だろう。香港や台湾では輸入

価格でも販売可能だが、中国市場では輸入価格では高すぎてしまうので、市場ニーズに見

合う価格で展開する必要がある。またマーケティングに関しては、1 社の努力では販促効

果に限界があると感じている。中国人に实際に使用してもらうと、発色の違いや品質も理

解してもらえるが、1 社だけの力でそこまで持って行くのは難しい。

地域としては、基本的には日系百貨店がある地域で販売している。内陸でも販売してい

るものの、やはり上海が一番売れ行きが良い。また北京は日本製のギフト需要が高く、1

万円台の商品でも販売は好調で有望な市場だ。一方で成都の消費者は消費意欲は旺盛だが、

高価格帯のものはなかなか売りづらい。地域によって売れ方が異なるため、戦略を変えて

いく必要があると感じている。

(黄海嘉、安池久美)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 118: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

113

福岡の地の利を生かし中国・韓国で展開

-化粧品の「アイ・プルーナ」-

社 名 : アイ・プルーナ株式会社

創 立 : 2007 年

資 本 金 : 500 万円

本 社 : 福岡県福岡市南区高宮 1 丁目 13-25 エレガンス秋山1階

代 表 者 : 代表 三浦 織江

従 業 員 数 : 6 名

U R L : http://k-bijin.com/

「良い商品ならば日本より高くても中国で売れる」。近年の中国の急速な経済発展ぶりを

物語る言葉だ。化粧品事業を展開するアイ・プルーナ株式会社(本社:福岡県福岡市)

の三浦織江社長は、中国の展示会に数回出展し、バイヤーと接触する中で、それを肌で実

感した。同社長に 2011 年 10 月 26 日、海外展開の経緯やビジネスの課題について聞いた。

<ジェトロのアジア・キャラバン事業に参加>

問:中国市場開拓に取り組んだきっかけは。

答:主力商品の「黒豚コラーゲンプルーナ」は、国産で安心感のある黒豚に含まれるコラ

ーゲンに着目した商品だ。リピーターの増加や口コミを通じて販路を拡大してきた。地元

で商品の認知度が高まりつつある中で、次のステップとして全国展開を考えていたが、東

京や大阪でのプロモーションより、中国・韓国でのプロモーションの方が、福岡の地の利

を生かした経済的メリットがあるのではないかとも考えていた。その際にジェトロのアジ

ア・キャラバン事業に採択され、中国市場での取り組みが本格化した。

アイ・プルーナ株式会社三浦社長(左)と成都市の商談会で展示したサンプル

<上海商談会で知り合った代理店を介して行政手続き>

問:現在の具体的な取り組み状況は。

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 119: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

114

答:アジア・キャラバン事業では、8 月に天津市での商談会、10 月に成都市で開催された

西部国際博覧会の商談会に参加した。成都市からの帰りに韓国の全州で開催された展示会

にも参加。中国、韓国ともバイヤーの反応が良く、本格的な市場展開に向けて確かな手ご

たえを感じることができた。

まずは 2012 年に本格的に販売開始できるよう、中国での商標登録、ラベル表示の登録

のほか、化粧品の販売に際し中国で取得が義務付けられている国家食品薬品監督管理局

(SFDA)への登録などの行政手続きを進めている。9 月に申請したが、SFDA の認可が

下りるまでに 1 年前後かかると聞いている。

7 月に上海の商談会(ブース出展はせず)で知り合った代理店を介して、行政手続きを

申請しているところだ。この会社は日本にも拠点があり、日本語も問題なく対応も親切で、

さらに日本の地方自治体の案件も扱っているため信頼できると判断、中国での販売はまず

ここと連携して進めたい。成都市の商談会で知り合ったバイヤーには各地の大手有名企業

も多かった。まずは上海の代理店を通じてコンタクトを取り、中国市場に臨んでいきたい。

<「日本ブランド」への信頼を実感>

問:展示会に出店して感触はどうか。

答:天津市の商談会では、パンフレットの中国語版など PR 素材が準備不足だったため、

あまり手応えはなかった。だが、成都市の商談会では PR 素材を充实させ、サンプルも数

種類そろえて出展したところ、バイヤーの反応も良かった。9 社から商談があり、その中

には大手百貨店やテレビショッピング会社、ネット通販会社なども含まれている。また現

地の美容関連を扱う新聞社からの取材もあった。

バイヤーからは、パッケージのデザインが「かわいい」と好評だったほか、付け心地も

良いと評価された。当社の商品価格は、クリームが 3,000 円(50 グラム)、ローションが

1,900 円(50 ミリリットル)だが、その会社が抱える顧実層によって価格に対する反応は

さまざまだった。中国の感覚でも「販売しやすい」というバイヤーも尐なくなかった。中

国での販売価格が日本の 1.5 倍ほどなら、消費者も納得するだろうとのコメントが多かっ

た。ジェトロに实施してもらった価格意識調査(注)でも、消費者が許容できる価格帯や

関心がうかがえる結果が表れていた。韓国消費者の方が、ウォン安ということもあり、「高

い」という感想が多かったが、それでも国際見本市の後にインターネット情報サイトや多

くのブログに好意的な情報が多数アップされたのには驚いた。

また中国のバイヤーから、クリームはダウンサイジングすればより販売しやすい価格に

なるとの提案もあった。そのほか、首筋にアプローチした商品であること、日本の黒豚コ

ラーゲンを使用していることなど、従来の化粧品とは異なった目新しい特徴に特に敏感に

反応してもらえた。

またバイヤーと直接接して、日本の化粧品は中国や韓国で信頼が高く、関心が高いとい

うことを实感した。当社のように日本ではまだ全国展開していない商品でも、中国の市場

では「日本ブランド」という点でプラス評価の段階から展開できるメリットは大きい。

さらに、中国や韓国の消費者は日本の消費者と比べて、好き嫌いをはっきり口に出す。

商談会でも、バイヤーの反応はとても分かりやすかった。良い商品であれば、口コミなど

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.

Page 120: 中国市場開拓に挑む中小企業 - jetro.go.jp · 中国市場開拓における課題と留意点をとりまとめた。 中国市場開拓における課題と留意点は、販売戦略策定時と市場参入後に分けられる。前

115

による宠伝効果も非常に期待できると感じた。

韓国釜山での創業・フランチャイズ国際見本市

<各種販促ツールをそろえて消費者に PR>

問:中国で展開するに当たっての今後の課題は。

答:まずは早期に SFDA の認可を取得し、販売できる体制を整えていく。それまでにウェ

ブサイトや動画ニュースの中国語版など、各種販促ツールをそろえ、販売できるようにな

るまでに消費者へのアピールを最大限に高めたい。

また中国では低価格帯から高価格帯まで、ニーズに合わせて展開し、低価格帯では商品

をダウンサイジングし、高価格帯ではセット販売するなどで対応する必要性も感じている。

パッケージも輸出向けに改良する予定だ。展開する商品も当初はクリームだけで考えてい

たが、商談会ではほかの商品も欲しいという要望が多く、化粧水やせっけんなども展開し

ていくことを検討している。

中国展開を始めたことで、日本国内のマーケットでもプラスの影響が出てきている。先

行投資も多く大変な部分は尐なくないが、こうした動きがあることは国内の評価にもつな

がる。今後中国での販売が軌道に乗れば、「国際企業」としてのイメージも後押しして、

国内市場でも相乗効果が期待できるだろう。

(注)ジェトロが实施したアジア・キャラバン事業の消費者グループインタビュー(PMS

分析)調査。アジア・キャラバン事業参加企業の商品に関して、中国市場では「いくらが

最適な価格か」を解明すると同時に、消費者の忌憚(きたん)のない評価を得るために实

施したグループインタビュー。

(黄海嘉)

Copyright (C) 2012 JETRO. All rights reserved.