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重力波が拓く新たな天文物理学
磯貝 友希MIT物理学部
Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory
2016年2月11日、記者会見で重力波の初観測が発表される
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今日の目標:重力波の5W1Hを学ぶこと
•What
•When/Where/Who
•How
•Why
?
What: 「重力波」とは何か。。。の前に「一般相対性理論」とは?
アインシュタイン博士が1915から1916年に発表した、重力を幾何学的に説明する理論
重たいものは時間と空間を歪める。その歪みが重力。
重いものは空間を歪ませる
重いものは空間を歪ませる
光も重力で曲がる
• エディングトンの実験(1919年)
•一般相対性理論の予測した空間の歪みを観測
星
太陽
月
地球
Dyson, F.W.; Eddington, A.S.; Davidson, C.R. (1920). "A Determination of the Deflection of Light by the Sun's Gravitational Field, from Observations Made at the Solar eclipse of May 29, 1919".Phil. Trans. Roy. Soc. A 220 (571-581): 291–333.
時間は皆に平等
時間は皆に平等。。。ではない•早く動いたり、重いものの近くにいると相対的に時間は遅くなる
•例えば、超高速でお隣のブラックホールの近くに行って帰ってくると、自分にとっては1年の旅でも、地球に残った人には100年以上ということも。。。
時間は皆に平等。。。ではない•早く動いたり、重いものの近くにいると相対的に時間は遅くなる
•例えば、超高速でお隣のブラックホールの近くに行って帰ってくると、自分にとっては1年の旅でも、地球に残った人には100年以上ということも。。。
•実は浦島太郎は宇宙人に誘拐されていた!?
浦島太郎イラスト credit: C爺のCG http://blog.goo.ne.jp/bogi88/e/b27fccd00239e4bfed13d81698b27746
重いものは時間を歪める
Hafele, J. C. Keating, R. E. "Around-the-World Atomic Clocks: Observed Relativistic Time Gains". Science 177 168–170 (1972).イラスト credit: V. Bobblehead Productions, http://www.conspiracyoflight.com/Hafele/HafeleKeating.html
•一般相対性理論の予測した時間の歪みを観測
一般相対性理論によると。。。みんな年を取りたくない!
Principle of Extremum Aging:
重力以外の力がかかっていない場合、物体はできるだけ時間がゆっくり流れている方に動く
ニュートンの木の子孫@東大:www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/overview/images/NewtonL.jpg
Happy Anti-Aging!
Fast
Slow
日常生活にある一般相対性理論:GPSシステム
•複数の衛星からのシグナルを使って
位置を特定する測位システム
•衛星軌道上と地表では時間の流れが
異なるので、一般相対性理論の補正
がないと、1日に11kmも誤差が出る
•一般相対性理論が出てきた当時は
一般生活への応用があるとは
考えられていなかったが、約一世紀
たった現在日常生活で使われている
一般相対性理論が予測した現象の中で、まだ実証できていなかったのが「重力波」
•一般相対性理論が予測した時空間の歪みの現象の多くは、実験・観測で確かめられた。。。
•一般相対性理論の予測の中で、重力波はまだ人類が成し遂げていない100年越しの宿題
重力波は質量が加速したときに起きる
•今までの時間・空間の歪みは、動かない質量によるもの
•電荷を動かすと電磁波(光)が発生するように、重力波も物体が動く際に発生する
重たい物体を動かしてみると時空間の歪みが波として伝播する ⇒ 重力波!
Credit: LIGO Collaboration
強い重力波のためには、近くにある、重くて動き回っている発信源が必要
•重力「波」: 他の波と同じように、周波数と強さがあり、遠くになればなるほど弱くなる
•強い重力波を作るには、ものすごく重たいものが、ものすごいスピードで動き回っている必要がある
When/Where/who:いつどこで誰が重力波を生み出すのか?
•重力はものすごく弱い力なので、地球上では観測不可能な強さの重力波しか生み出せない
•宇宙の中で観測可能なほど強力な重力波発生源は限られる• 中性子星・ブラックホール連星の衝突
• 超新星爆発(スーパーノヴァ)
• パルサー
• ビッグバン
超新星爆発(スーパーノヴァ)は自らの重力に耐え切れなくなった星の最後の大爆発
•例えば、太陽の重さの8倍以上の星の一生の最後に起きる
•太陽が一生のうちに作り出すエネルギーと同等のエネルギーを数日で放出
•同じ銀河系内で起きれば、昼間に肉眼で見えるほど明るくなる
•かに星雲(右図)の元となった1054年に起きた超新星爆発は、日本と中国の文献にも残っている
スーパーノヴァは重要な重力波源候補
•統計的には約30年に1度は銀河系内でスーパーノヴァが起きるはず。。。
•私たちが住む天の川銀河で最後に起きたスーパーノヴァは1604年
•現在の地球周辺の候補は、さそり座のアンタレス(550光年)と、オリオン座のベテルギウス(640光年)
重い星の一生の最後はスーパーノヴァが起こり、後には中性子星やブラックホールが残る
•太陽の約8倍から40倍ぐらいまでの重さの星は、スーパーノヴァの後に中性子星になる
•重さは太陽とほぼ同じだが、半径は10km程度⇒密度は太陽の1014倍
•地球上すべての人間を、砂糖キューブの押し込めたぐらいの密度
イラスト Credit: Casey Reed/Penn State University
規則的なパルス信号を送る中性子星は、「パルサー」と呼ばれている•回転軸と電磁波ジェットの方向(磁場の軸)がずれていて灯台
•最初のパルサーは「LGM1」と名付けられた
Credit: M. Kramer
Credit: R. N. Manchester
規則的なパルス信号を送る中性子星は、「パルサー」と呼ばれている
Little Green Man
•回転軸と電磁波ジェットの方向(磁場の軸)がずれていて灯台
•最初のパルサーは「LGM1」と名付けられた
Credit: M. Kramer
Credit: R. N. Manchester
重力波の間接証拠:ハルス・テイラーの連星パルサー
Weisberg, J. M.; Taylor, J. H.; Fowler, L. A. (1981). "Gravitational waves from an orbiting pulsar". Scientific American 245: 74–82.Weisberg, J.M.; Taylor, J.H. (2005). "The Relativistic Binary Pulsar B1913+16: Thirty Years of Observations and Analysis". ASP Conference Series 328.
太陽の約40倍以上の重さの星は、スーパーノヴァの後にブラックホールになる
• ブラックホールは、一般相対性理論によって予測されている、時空間が歪みすぎて光すら脱出できない天体
•当初はアインシュタインを含め存在を信じている物理学者はほとんどいなかったが、70年代のX線観測の間接的証拠で大部分の物理学者が信じるようになった
イラスト Credit: Casey Reed/Penn State University
Image credit: NASA/CXC/M.Weiss
中性子星・ブラックホールの連星が観測できる重力波候補No.1• 2つの中性子星・ブラックホールがお互いに回りあって、
衝突する最後の瞬間が強力な重力波源
•見える星の3分の2は連星
宇宙の歴史を知りたければ遠くを見ればいい
地球
太陽 こと座ベガ(織姫星)
クエーサー
宇宙背景放射
8分20光秒
25光年
100億光年
460億光年(今から140億年前/宇宙の始まりから40万年後)
Planck Collaboration: The Planck mission
宇宙背景放射からわかる宇宙の歴史
宇宙の年齢:137億年
重力波を使って宇宙の起源に迫る!•電磁波(可視光線・X線・マイクロ波・ガンマ線・赤外線等)は
宇宙誕生40万年後から
•重力波を使えば、「宇宙の始まり」から1秒以内の状態の情報が
手に入る
今までのまとめ
•重力波は時空間の地震のようなもので、
今までは間接証拠があるだけだった
•発信源は、中性子星・ブラックホール、スーパーノヴァ、ビッグバン等
how:重力波をどうやって観測するか
•重力波は空間を伸び縮みさせる
距離を正確に測ってその変化を観測する
•距離 = 時間 x 速さ
• レーザーを使って光を鏡に反射させ、戻ってくる時間を測る
光の速さは一定なので距離が分かる
• ただし、重力波を測るためには長さの超精密測定が必要
•精密計測は、比較測定が有効
2本の腕の長さの差を検出する
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鏡
鏡
Credit: LIGO Collaboration
重力波を測るためにはどのくらいの精度が必要か?•今回観測された重力波の強さだと、4kmの腕の長さのうち、距離の変化は10−18m
𝐿 = 4𝑘𝑚Δ𝐿 = 10−18𝑚
10−18mとはどれだけ小さいか
•髪の毛: 10−4m
• ウイルス: 10−7m
• ナノテクノロジー:10−9m
•分子・原子: 10−10m
•原子核: 10−15m
•重力波検出器: 10−18m
• 4kmある2本の腕の長さの差を、原子核の千分の一以下の精度で測る技術が必要!!
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10−18mレベルの距離を測ろうとすると、地球上のあらゆるものが邪魔をする。。。
•地面振動
• ビームテューブ内のガス
•鏡の分子の揺れ
•量子的ノイズ
• 。。。
数々のテクニカルな問題を乗り越えて。。。
• 2015年、アメリカにある検出器、Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory (LIGO)の工事がついに完成!
• 9月にデータを取り始める
LIGOハンフォード:ワシントン州
LIGOリビングストン: ルイジアナ州
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重力波データのアウトプットの例:ブラックホールが衝突する音
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http://www.blackholehunter.org/
Why:どうして重力波を観測したいのか
•重力波は他の物質と干渉しない• 発信源の情報を何にも邪魔されず、そのままの状態を教えてくれる
•時空間の中を通ってくる電磁波と違い、重力波は時空間の歪みそのもの
宇宙に向けた全く次元の違うシグナルのチャンネル!!
New!!光
重力波
宇宙は重力波の交響曲で満ちている!
•中性子星、ブラックホール、超新星爆発、パルサー、ビッグバン等々
• しかも宇宙で一番力強い・エクストリームな現象の宝庫
•地球上では実現できない、天然の高エネルギー研究室
California Institute of Technology Archives
You Can
Join!!http://www.einsteinathome.org/
約13億年前。。。太陽の約30倍の重さのブラックホールが衝突太陽の質量3個分のエネルギーが重力波として放出される
GW150914
9月14日のイベント
GW150914の発見で分かったこと
• ブラックホールの直接観測
•重い(太陽の質量の30倍)ブラックホールの発見
• ブラックホール連星の存在確認
• ブラックホールの成り立ち・存在頻度を知る手掛かり
•相対性理論が強い重力場でも正しいことを検証
LIGO ProjectはNational Science Foundation (NSF)の一番大きな投資
•重力波観測はハイリスク・ハイリターン
• $1.1 Billionプロジェクト
NSFの果たした役割:
• 2段階投資でリスクヘッジ:Prototyping, Always!
•協力体制・マネジメントの構築• CaltechとMITとの協力体制の構築
• ディレクターの変更
世界のネットワーク
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KAGRA
LIGOIndia
驚きと予想外の発見に備える
•光では新しい波長の望遠鏡を作るたびに予期していなかった発見があった
•重力波も予期しないシグナルに満ちている可能性も十分ある
•重力波にはまだ広大な波長域が残っている
Credit: NASA
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