仙台平野の地形と特徴的農村景観の背景...2.専業農家三浦さんの経営戦略...

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Page 1: 仙台平野の地形と特徴的農村景観の背景...2.専業農家三浦さんの経営戦略 三浦さん宅は地元の伝統特産野菜や地域在来野菜を採種栽培するなど、地域資源を守る形

仙台平野の地形と特徴的農村景観の背景仙台平野の地形と特徴的農村景観の背景2006 年 5 月 15日実施

参加者:二瓶 梓,今野 亜喜代,佐藤 信輔,瀬尾 結,吉田 真幸,井筒円佳

目 的

大都市仙台の市街地に接して広がる仙台平野には,都市近郊としての立地条件と特徴的な

自然地形や水条件を利用した農業地域が息づいている。今回は,名取川下流部の名取市下余

田地区,および大曲地区に広がる農村を訪ねた。自然地形や土地利用の観察,農業の経営戦

略そして国重文指定の伝統民家を訪ねながら,都市近郊において今なお伝統的な景観を維持

し続けている地区の背景について考えることを目的とした。

コース

名取駅に集合したのち,1.2 km 東にある田園地帯に向かった。都市的土地利用が途切れ

るあたりの中荷付近(地図の A 地点)で,自然堤防地形や後背湿地,旧河道などの微地形

を観察しながら進み,その先の下余田地区で専業農家を営む三浦さん宅に到着した(地図の

B 地点)。三浦隆弘さんは,若手ながら自然地形をうまく活用した農業経営を展開している。

農業経営についての話しを伺い,また,実際にセリの収穫作業を体験させていただいた。次

に自然堤防や旧河道地形の形態や堆積物の調査を行いながら(地図の C 地点)移動し,大

曲では国重要文化財に指定されている伝統的民家である洞口家住宅を見学した(地図の D

地点)。洞口家住宅では当主婦人から伝統的民家の造りや維持についてのご苦労を聞いた。

コースの最後に,仙台平野の東端にあたる閖上浜(地図の E 地点)に立ち,海岸侵食の実

体について学んだ。

盛りだくさんの内容であったが,調査の概要を以下に報告する。

調査地点図(国土地理院発行地形図を使用)

A地点 B地点 D地点 E地点

C地点

名取駅

0 1km

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1.仙台平野の地形

沖積平野は河川によって運搬された土砂が河川の氾濫により河道外へ供給されたり,河道

自体が蛇行などにより移動しながら地表に土砂を堆積させると同時に,海岸では河口から排

出された土砂が沿岸流と呼ばれる流れにのって移動し,海岸に打ち上げられ砂浜を成長させ

ることによって形成された地形である。

[沖積平野を構成する微地形]

自然堤防は,河川の流路に沿って形成された砂質の堆積地形であり,河川の増水時に河道

からあふれ出た流水中の土砂が流速の

減少とともに河岸部に堆積し形成され

た地形である。

旧河道は過去の河川の本流流路や溢

流流路に残された細長い帯状の連続す

る凹地である。

また,浜堤列は砂浜海岸において,

波に打ち上げられた砂質堆積物と,そ

れがさらに内陸側に風で運ばれてでき

た小規模な砂丘からなる海岸線にほぼ

並列して延びる一連の高まりである。 空中写真中のC地点における旧河道

調査地域付近の空中写真 (破線は旧河道地形)

調査対象地域には,自然堤防や旧河道地形が複雑に発達している。(吉田,井筒)

C地点

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2.専業農家三浦さんの経営戦略

○三浦さん宅は地元の伝統特産野菜や地域在来野菜を採種栽培するなど、地域資源を守る形

で農業を行っていこうとする専業農家である。名取市下余田地区にて専業農家として日々の

糧を得つつ、様々な NPO の事業運営に参画しながら、かつ、地元の小学校の食農教育など,

「食」と「農」をテーマの中心としながらも活動の幅と深さは多彩である。三浦さんら,当

地域の農家は都市的な生活を拒絶し、農業を選択しているため,今なお農村の元風景が残さ

れている。住宅化が進む農村が多いなか、三浦さんは専業農業として経済的な面などを考慮

した農業経営をおこなっていた。

三浦さん宅では下の図のように,収入や出荷先を考慮した野菜栽培を工夫すると同時に,

年間を通じた農作業ができるよう,予定が組まれていた。

セリ…名古屋や札幌にも配送されている。

春セリは食感が良く、香り高い。

冬セリは収入が良い。

冬セリの方が収入がよいのは、冬セリは育てるのに手間がかかり、あまり育てる人

がいないためである。

セリは米の2倍の高収入である。名取市では1775年からセリを特産品として栽

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培して村の経済を助けていた。名取市周辺は泥田がとして稲作に向かない土地が多

い。しかし、セリには適した土地である。

泥田の場合、稲は根がしっかりしていな

いので風ですぐ倒されてしまうが、セリ

は全体がほぼ水に浸かった状態で育つ

ので風にも強い。

ミョウガタケ…わらの中で生育する。これは太

陽の光に弱く、湿気や気温の調節が重要

だからである。

セリ刈り…セリ田を囲むあぜ道では、ウサギに ミョウガタケ

雑草を食させる無農薬主義が徹底されていた。そのため田んぼの水はとてもきれい

で、絶滅の危機に瀕しているアカガエルのタマゴが観察された。

セリ田 セリ刈り

○セリ刈りをして…

セリを口にするのはお正月のお雑煮を食べるときや、七草がゆを食べるときなどが多かっ

た。なので春セリを手にすることはほとんどなく、春セリの茎の太さ、香りの高さには驚い

た。茎が太いので刈るのは大変な作業かと思ったが、意外と初めてセリ刈りを体験する私た

ちでも簡単に刈ることができた。刈ったセリは、三浦さんオススメのレシピのセリ納豆でい

ただいた。細かく刻んだセリと納豆を合わせるだけの簡単なレシピである。セリの香りと食

感を生かされていてとてもおいしかった。

○今後の課題

現在60~70歳代が農業に力を入れており,息子世代は会社勤務である。このような状

態で,世代交代による農業衰退の危機にある。

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3.伝統的民家洞口家住宅

(1)洞口家住宅

洞口家住宅は仙台平野の水田地帯にある自然堤防上に位置する旧家で,敷地を廻る堀と屋

敷林が残されていた。この建築時期は江戸時代の宝暦(1751 ~ 1764)年間とされている。

国指定の主屋は「名取型」と呼ばれる田の字型四間取りを基本とするもので,保存修理後は

桁行十二間,梁行六間である。豪壮な梁組は旧仙台領内の大型農家の建築様式の特色をよく

示し,年代の古い点でも価値が高い。屋根は寄棟造,茅葺き。建物内部は床上部が桁行五間

を閉め,「なかま」,「でい」,「ちゃのま」,「なんど」,「こなんど」となっており,床上部と

土間の間仕切りはない。土間は広くて,多角形の上屋柱が独立して立ち,とくに土間境に復

元された化粧柱は他に例がない(洞口家説明資料による)。洞口家住宅は 1971 年に国指定

重要文化財になり,1985 年に文部省告示で追加指定され,1981 年~ 1982 年には母屋の,

1989 ~ 1990 年に表門,馬屋の修復工事が行われた。

(2)洞口家での聴き取り

洞口家住宅には計6本の独立柱が立っている。構造的に多数上屋柱が土間に立つのは古い

手法で,宝暦年代(1751 ~ 1764 年)の祈祷札の存在から推して,18 世紀中期を遡る古い

民家である。

洞口家は重要文化財に指定されたが最初の 10 年間はただ見学させていた。しかし,市民

の税金を利用して洞口家の状態を維持するた

め 2600 万もの大金を費やしていた。国からみ

れば,国指定文化財という風に残さなければい

けない貴重な建物だが,地域からみたら,国指

定文化財というよりは昔から存在する建物と

いう意識のほうが強いようである。

洞口家を「有効活用しなくてはいけない」と

いう考えが強くなり,見学だけでは一度見ただ

けで,あとはほとんどリピーターとなることは

ないから,洞口家にリピーターを獲得していく 国指定重要文化財洞口家住宅

ことが重要.であると考えたのである。若い人た

ちに農業の良さをアピール。そのきっかけとなったのが収穫祭である。企画した4人に加え

てボランティアの人々が70~80人で運営した。これが大変好評だった(1999 年)。 こ

の収穫祭の他,洞口家を開放して行ったレストラン経営によって従来の農家の暗く汚いイメ

ージを変えることも可能となった。これらの意見は女性が主張して成し遂げたものだと聞く。

そのほか,年 3 回のイベントを開催。今は事前に連絡しさえすれば,洞口家を解放してく

れるという。

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(3)まとめ

名取市には歴史的な建物が多いとは聞いて

いたが,改めてこの建物を見ると,とてもいい

状態で保存されているうえに,ただ見学される

建物でなく,地元の農産物を収穫したり,食事

をしたりもできることがわかった。(佐藤)

一般の方々にも気軽に利用していただける

よう重要文化財をうまく活用した当主夫人の

思い切った発想には驚かされた。現在,様々な

茅葺き屋根の葺き替え作業 地域にこのような歴史的な建物が数多くあるが

その中には有効活用されないままの建物が存在

する。洞口家の発想を手本として伝統を残していってほしいと感じた。(今野,瀬尾)

4.海岸侵食とその背景

(1)岩石海岸と砂浜海岸

海岸は岩石海岸と砂浜海岸に分類される。海岸は波によって砂の堆積/浸食が繰り返され

ている。波によって海底に運び去られる土砂がある一方で,河口から排出された土砂が沿岸

漂砂によって運ばれ,波で海岸に打ち上げられる。土砂収支のバランスが崩れると砂浜の拡

大/縮小が起こる。打ち上げられる砂が運び去られる砂より多ければ,砂浜が成長する。し

かし,何らかの原因で排出される砂が多いときには,砂浜は縮小する。今回見学した閖上海

岸では砂浜の成長が続いているという(松本,2003)。

閖上の砂浜海岸と海岸構造物

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(2)砂浜海岸における海岸侵食の原因

一つめは海上につくられた防波堤などの海岸構造物による漂砂のせき止めである。港の中

に波が入るのを防ぐために港の近くには防波堤などが建設された。しかし防波堤には波だけ

ではなく沿岸漂砂も防波堤でせき止める働きがある。実際,防波堤の下手側では土砂供給が

遮断され海岸線は侵食される。逆に上手側ではせき止められた土砂の供給で堆積が生じる。

このようにして自然に出来た海岸線は破壊されている。

もうひとつの砂浜海岸の縮小は河川からの排出土砂量の減少が考えられる。この原因は河

川上流・中流部における大規模ダムの建設,かつて行われていた河川敷・河床からの砂利採

取,治山の為の砂防ダムの建設が挙げられている(松本,2003)。

海岸線の変化には人間の活動が大きく関わっている。人命を守るため,また経済活動が海

岸侵食をもたらしており,この意味では人災である。

5.まとめに代えて

今回の実習では洞口家を訪問したり、旧河道を眺めたり初めて体験することばかりだった。

私はその中でも特に、生き残っていくために工夫を凝らす農家の人たちの姿が印象的であっ

た。専業農家では暮らしを立てにくいと言われがちであるが、三浦さんは見事に農家一本で

暮らしを立てていた。気さくで明るい人柄の三浦さんにとても惹かれ、農業の良さを感じ取

ることができた。農家のつらさや苦労も教えていただいたが、それ以上に農業に対する強い

思いを教えていただいた。また、今回の農業体験をしたことで他の農業の体験もしてみたい

と思った。(二瓶)

名取市で農業経営を行う三浦隆弘さんや国指定文化財を守り続ける洞口家の方々は従来

の方法とは違った方法でどちらも伝統的なものを残すことに成功していた。名取市以外にも

昔ながらの風物や建物が存在するが、昔と今ではだいぶ伝統のものを残すことは難しいよう

に感じる。二人の方々のように時代にそった工夫を試みることで大きな効果を生むというこ

とがわかった。このように、様々な方法に挑戦している人たちをもっとたくさんの人達に知

ってほしいと感じた。(今野)

農業一本で生活していくためには常に農繁期になる年間計画で農業経営をしていること

がわかった。農繁期が続く生活は体力的に考えて、高齢化が大きな問題だと改めて感じた。

海岸侵食を調べてみて、人の活動と自然災害から人を守ろうとして自然災害を招いている

ことが海岸侵食問題の解決の難しさだと思った。(吉田)

この実習に参加して、名取市ではお金になる農業を、苦労の末に確立された経営方法

でおこなっているということがわかった。また、洞口家では重要文化財でありながらも地域

住民のよりどころにしたいという洞口さんの思いが住宅の開放やレストラン経営にあらわ

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れていた。このような三浦さんや洞口さんの地元に対する熱い思いにふれられて良かったと

思う。これから、学んでいく上で良い勉強となる経験だった。(瀬尾)

私は名取市出身で現在も住んでいるが、中荷や高柳には行ったことがなかった。名取ではセ

リ農家が盛んだが、セリ農家を生で見たのは今回が初めてである。また、洞口家住宅は実を

言うと今回が初めてである。名取市に住みながら不勉強な自分を恥じた。閖上で進んでいる

海岸侵食には恐ろしさを感じた。名取市を自分で体感することは小学校以来なのであるが、

私の知らないものを見られてとても良かった。(佐藤)

文 献

松本秀明(2003):仙台湾海浜県自然環境保全地域の地形と地形変化。仙台湾海浜県自然

環境保全地域学術調査報告書。宮城県、179 - 199.