弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインar:aortic regurgitation as:aortic...

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大学大学院医学 員 安  大学 学第 大学 学第 大学 大学 潟大学医 h 大学大学院医学 センター 安 井  大学大学院医学 大学 大学 員  大学 大学 井  センター 幹  大学 学第 大学大学院医学 大学大学院医学 大学医学 センター 益  大学大学院医学 Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1261 Ⅰ. 1患における 2に対する 3に対する 4に対する 5Maze Procedure Ⅱ.大 1.大 患における 2.大 に対する 3.大 に対する 4.大 に対する Ⅲ. 12に対する Ⅳ. 1における 2に対する 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(20002001年度合同研究班報告) 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン Guidelines for Surgical and Interventional Treatment of Valvular Haert Disease ( JCS 2002 ) 委員 大学 大学大学院医学 大学大学院医学 大学第一 大学大学院医学

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Page 1: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

班 長 松 田   暉 大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科

班 員 安 倍 十三夫 札幌医科大学外科学第二

川 副 浩 平 岩手医科大学外科学第三

北 村 信 夫 京都府立医科大学心臓血管外科

小 柳   仁 東京女子医科大学心臓血圧研究所外科

庄 村 東 洋 神戸市立中央市民病院胸部外科

林   純 一 新潟大学医歯学総合研究科呼吸循環器外科

松 h 益 山口大学大学院医学研究科器官病態内科学

宮 武 邦 夫 国立循環器病センター心臓血管内科

安 井 久 喬 九州大学大学院医学系研究院循環器外科

矢 田   公 三重大学胸部外科

吉 田   清 川崎医科大学循環器内科

協力員 秋 山 真 樹 川崎医科大学循環器内科

岡 田 行 功 神戸市立中央市民病院胸部外科

川 合 明 彦 東京女子医科大学心臓血圧研究所外科

小坂井 嘉 夫 宝塚市立病院

小 林 順二郎 国立循環器病センター心臓外科

小 松 幹 志 札幌医科大学外科学第二

澤   芳 樹 大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科

高 橋 俊 樹 大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科

田 中 伸 明 山口大学医学部附属病院検査部

谷 口 和 博 大阪労災病院心臓血管外科

中 谷   敏 国立循環器病センター心臓血管内科

益 田 宗 孝 九州大学大学院医学系研究院循環器外科

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1261

合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本心臓病学会,日本胸部外科学会,日本心臓血管外科学会

序 文

Ⅰ.僧帽弁疾患1.僧帽弁疾患における術前診断と評価2.僧帽弁狭窄症に対する経皮経静脈的僧帽弁交連切開術の適応

3.僧帽弁狭窄症に対する手術適応,術式とその選択4.僧帽弁閉鎖不全症に対する手術適応,術式とその選択5.慢性心房細動とMaze Procedure

Ⅱ.大動脈弁疾患1.大動脈弁疾患における術前診断と評価

2.大動脈弁狭窄症に対する経皮経静脈的大動脈弁交連切開術の適応

3.大動脈弁狭窄症に対する手術適応,術式とその選択4.大動脈弁閉鎖不全症に対する手術適応,術式とその選択

Ⅲ.三尖弁疾患1.三尖弁疾患の診断と評価2.三尖弁閉鎖不全症に対する手術適応と術式選択

Ⅳ.連合弁膜症1.連合弁膜症における術前診断と評価2.連合弁膜症に対する手術適応,術式とその選択

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインGuidelines for Surgical and Interventional Treatment of Valvular Haert Disease(JCS 2002)

目 次

外部評価委員

黒 澤 博 身 東京女子医科大学心臓血圧研究所外科

米 田 正 始 京都大学大学院医学研究科器官外科学心臓血管外科

高 本 眞 一 東京大学大学院医学系研究科心臓外科呼吸器外科

鄭   忠 和 鹿児島大学第一内科

吉 川 純 一 大阪市立大学大学院医学研究科循環器病態内科学

Page 2: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021262

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

Ⅴ.その他1.感染性心内膜炎の管理と手術適応2.冠動脈疾患合併弁膜症患者の手術3.上行大動脈瘤合併弁膜症患者の手術

4.他臓器障害(危険因子)を有する弁膜症患者の手術5.人工弁埋め込み患者の管理6.生体弁の適応と選択

(無断転載を禁ずる)

ACC:American College of Cardiology

AHA:American Heart Association

AR:aortic regurgitation

AS:aortic stenosis

AVA:aortic valve area

AVR:aortic valve replacement

CABG:coronary artery bypass grafting

CAD:coronary artery disease

CMC:closed mitral commissurotomy

CT:computerized tomography

CVP:central venous pressure

Dd:end-diastolic dimension

Ds:end-systolic dimension

EF:ejection fraction

FS:fraction shortening

LV:left ventricle

MAP:mitral annuloplasty

MR:mitral regurgitation

MRI:magnetic resonance imaging

MS:mitral stenosis

MVA:mitral valve area

MVR:mitral valve replacement

NYHA:New York Heart Association

OMC:open mitral commissurotomy

PTAC:percutaneous transluminal aortic commissurotomy

PTMC:percutaneous transvenous mitral commissurotomy

TAP:tricuspid annuloplasty

TR:tricuspid regurgitation

TS:tricuspid stenosis

TVR:tricuspid valve replacement

日本循環器学会は,我が国における循環器診療の質の

向上と安全性の確保,さらにその標準化をめざして主要

疾患群の診断および治療に関するガイドラインの作成を

大きな事業として取り組んできた.今回,外科系疾患の

ガイドラインとして弁膜疾患の非薬物治療に関するガイ

ドライン班が発足した.班員は,心臓外科医に加えて平

素より弁膜症の診断・治療と研究にかかわって来た循環

器内科医により構成された.循環器を専門とする外科医

と内科医が一緒になり外科関連のガイドラインを作成す

ることは,我が国の循環器学の歴史において特筆すべき

ことであり,診療のレベル向上と標準化を図る上で大変

意義深いものと考えられる.

弁膜症に対する診断と治療は,循環器疾患治療の過去

半世紀以上にわたる目覚ましい進歩の中で当初より最も

関心度が高く,また,先導的立場にあった.すなわち,

黎明期の僧帽弁狭窄症に対する診断と閉鎖式交連切開術

から,開心術の代表でもあった弁への直達手術の時代に

入った.診断面では,心臓カテーテル検査による血行動

態評価が治療方針確立に大きな役割を果たしてきたが,

近年,超音波検査が断層法から Doppler 法の開発・進歩

を経て弁膜症診断の中心を担うようになり,弁膜症に対

する一般的な診断技術はほぼ完成の域に達した感があ

る.一方,手術治療では,手術成績の向上とともに対象

疾患に大動脈弁疾患も加わり,近年では,リウマチ性弁

膜症の激減と高齢者の増加と相俟って僧帽弁閉鎖不全症

と大動脈弁疾患が主たる診療対象となって来ている.

逆流性弁病変は慢性容量負荷により心室機能の低下と

心室のリモデリングを来しやがて不可逆性の心筋障害を

生じるが,それを回避するための至適手術時期の確立が

長らく求められてきた.最近,心機能や心筋組織所見か

らみた手術適応に関する見解が報告され,僧帽弁,大動

脈弁位ともに手術至適時期に関する議論もある程度落ち

着いてきたが,未だ循環器内科と外科医の間では意見の

相違が見られる.これは,手術リスクというバイアスが

かかることと,遠隔期の評価が単に生存率から見たもの

から quality of life をも考慮したものに移行しつつあるこ

とに起因する.人工弁の耐久性も課題である.近年,弁

本ガイドラインで用いられる主な略語 序  文

Page 3: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

置換を回避する弁形成術が急速に進歩し,とくに僧帽弁

閉鎖不全症では修復が第一選択となってきたが,このよ

うな状況では外科医によって手術の適応や術式の選択が

異なる可能性が出て来た.また,感染性心内膜炎に対し

ては内科的治療方針はほぼ確立されているものの,外科

的治療の至適時期については未だ議論が残されている.

このように弁膜症に対する臨床の現場では,今なお循

環器内科医と外科医が議論しながら個々の症例ごとに至

適治療を模索している場合が少なくない.かかる状況の

中で,統一された信頼できるガイドラインを作製し弁膜

症に対する治療体系を一層確立させることは極めて重要

と考えられる.本ガイドラインは少しでも多くの臨床の

現場で活用されることを期待してまとめられた.

なお,この分野では AHA/ACC のガイドライン1)が

既に世に出ており広く使われているところであるが,本

ガイドラインは我が国の特徴も考慮して独自に編集して

きた.しかし,両者をある程度対比できることも重要で

あることから,ガイドラインの形式については,

AHA/ACC の形式を踏襲した(表 1).

成人に見られる僧帽弁疾患は狭窄症および閉鎖不全症

に分けられるが,両者が様々な程度に合併していること

もまれではない.病態および治療を考えるときには弁の

器質的変化の重症度のみならず,僧帽弁膜症によって二

次的に惹き起こされた左室機能障害,右室機能障害,肺

血管障害の程度も考慮しなければならない.

1)病 因

成人で見られるMSの病因はほとんどすべてリウマチ

性と考えてよい2).時に高度弁輪部石灰化に伴うもの,

先天性 MS に遭遇することもあるが稀である.リウマチ

性の場合には大動脈弁をはじめとした他の弁にも病変が

及んでいることが多く,その場合には連合弁膜症の様相

を呈する.形態的にリウマチ性MSと考えられる例でも

リウマチ熱の既往が明らかでないことは多い.

2)病 態

MS の主病態は弁狭窄に伴う左房から左室への血液流

入障害である.心拍出量を保つために左房圧が上昇しさ

らに肺静脈圧が上昇しついには肺高血圧に至る.病状の

進展とともに心拍出量は低下し,また肺高血圧のために

右心系の拡大をきたす.右心系の拡大は三尖弁閉鎖不全

を生じ肝腫大をはじめとした右心不全症状を引き起こす

ことになる.左房は拡大し心房細動が起こり,その両者

があいまってしばしば心房内に血栓形成を見る.左室機

能は通常保たれているが時に機能が低下している症例が

あり3),リウマチ性心筋炎の後遺症4)または硬化した僧

帽弁複合体の関与5)6)などが考えられている.

3)自然歴

小児期にリウマチ熱に罹患した後,7~8 年で弁の機

能障害が見られるようになり,さらに 10 年以上の無症

状時期を経て 40 才~ 50 才で症状を発現することが多

い.未治療の MS に関する自然予後の研究によれば,

MS は緩徐ながらも持続的に進行する疾患であり,10年

生存率は全体として 50~60 % である7)8).もちろん生存

率は初診時の症状に依存し,初診時に自覚症状の軽微な

群では 10 年生存率は 80 % 以上と良好であるが,自覚

症状が強い場合には 0~15 % と低い7)-9).現在では薬物

治療を行うためこれより予後は良好であると思われる

が,いずれにしろ進行性の疾患であることにはまちがい

ない.進行度合いについては非常に個人差が大きくその

予測は困難であるが,弁口面積は年間平均約 0.09 cm2程

度縮小し,軽度狭窄症の例で進行が早い傾向にあったと

の報告がある10).

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1263

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表1 ガイドラインのクラス分け

クラスⅠ手技・治療が有用・有効であることについて証明されているか,あるいは見解が広く一致している.

クラスⅡ手技・治療の有用性・有効性に関するデータ又は見解が一致していない場合がある.クラスⅡa:データ・見解から有用・有効である可

能性が高い.クラスⅡb:データ・見解により有用性・有効性が

それほど確立されていない.

クラスⅢ手技・治療が有用でなく,ときに有害となる可能性が証明されているか,あるいは有害との見解が広く一致している.

僧帽弁疾患Ⅰ

僧帽弁疾患における術前診断と評価

Ⅰ-1Ⅰ-1

僧帽弁狭窄症(MS)1

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4)診 断

(1)症状:最もよく見られる初発症状は労作時呼吸困難

である.時には左房内血栓に基づく全身塞栓症で発

症することもある.これは心房細動例に見られるこ

とが多いが,時に洞調律例においても見られる.

(2)身体所見:聴診でⅠ音の亢進,僧帽弁開放音,心尖

部拡張中期ランブル等を聴取する.右心不全例では

肝腫大,末梢浮腫等を認める.

(3)胸部レントゲン写真:左 2,3 弓の突出,気管分岐

角の開大等,左房拡大所見を見る.肺門部肺動脈の

拡張が見られるが,末梢側の肺動脈の巾は狭小化す

る.肺間質の浮腫を示唆する Kerley B line や

bronchial cuffing,perivascular cuffing などを認める.

(4)心電図:左房負荷,心房性期外収縮,心房細動,右

軸偏位などを認める.

(5)心エコー検査(表 2):MS の診断,重症度評価

(表 3)に必須である.非侵襲的であることから経

過観察にも適している.断層エコー法で僧帽弁前尖

の特徴的ドーム形成や,交連部の癒合,弁下組織の

変化を認める(表4 11)).短軸像で弁口をトレース

することにより弁口面積を計測する.左房は拡大し

時に左房内血栓を認めるが,多くの場合,左房内血

栓の確認には経食道心エコー法が必要である.断層

法,M モードエコー法で左室機能も評価しておく.

ドプラ法を用いれば弁間の圧較差や pressure half-

time 法に基づく弁口面積を算出することができる.

MR や他弁疾患の合併の有無,程度評価も行う.

TR がある場合には簡易ベルヌイ式を用いて肺動脈

圧を推定できる.下大静脈の拡張の程度から右房圧

の高低を予測する.

(6)経食道心エコー検査(表 5):PTMC 前などのよう

に左房内血栓の有無を確認しなければならないとき

に適応となる.弁の形態や重症度評価を行う目的で

は通常経胸壁エコー検査で十分であり,経食道心エ

コー検査をルーチンに行う必要はない.

(7)負荷心エコー検査:弁狭窄が軽度であるにもかかわ

らず労作時呼吸困難を訴える場合がある.このよう

なときには運動時に著明に弁口部圧較差が増大し,

左房圧・肺動脈楔入圧が上昇し肺高血圧を来たして

いる可能性が考えられる.これを確かめる一手段と

して運動負荷エコー検査が用いられる.エルゴメー

ター施行後にドプラ検査により肺動脈圧の異常上昇

を認めたときには何らかの侵襲的治療が必要である.

(8)心臓カテーテル検査(表 6):肺動脈圧を中心とし

た血行動態評価,狭窄僧帽弁口面積の算出,冠動脈,

左室機能に関する情報等が得られる.これらのほと

んどは心エコー検査で推定することができるため,

最近は本疾患における心臓カテーテル検査の意義は

減少しつつある.ただし冠動脈疾患の評価は本検査

でしか行えず,中年以降の症例で手術を前提とする

際には本検査を施行するべきである.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021264

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表2 経胸壁心エコー法の適用

1 診断,重症度評価(肺動脈圧,右房圧推定を含む),合併他弁疾患の評価,心機能評価 Ⅰ

2 PTMC の適応決定のための弁形態評価 Ⅰ

3 症状が変化した患者の再評価 Ⅰ

4 自覚症状に比して安静時心エコー所見が軽症の際に運動負荷ドプラ法により運動時血行動態を見る Ⅱa

5 症状が安定している中等症以上の患者のフォローアップ Ⅱb

6 症状が安定している軽症患者の定期的フォローアップ Ⅲ

表3 弁口面積からみたMS の重症度

正   常 4.0 ~ 6.0 cm2

軽 度 狭 窄 1.6 ~ 2.0 cm2

中等度狭窄 1.1 ~ 1.5 cm2

高 度 狭 窄 1.0 cm2以下

表4 Sellors の弁下部組織重症度分類 11)

Ⅰ型 交連部は癒合するが弁尖の変化は軽く,弁の可動性も保たれ弁下部病変も軽度

Ⅱ型 弁尖は全体に肥厚,腱索短縮,弁下組織の癒合あり

Ⅲ型 弁尖の変化は高度で石灰化もみられ,弁尖,腱索,乳頭筋は癒合して一塊となる

表5 経食道心エコー法の適用

1 PTMC 術前の心房内血栓検索 Ⅰ

2 心房細動に対する除細動が必要であり,かつ抗凝固療法が十分でない患者に対する心房内血栓検索 Ⅰ

3 心房細動に対する除細動が必要であり,かつ抗凝固療法が十分である患者に対する心房内血栓検索 Ⅱb

4 経胸壁心エコー法で診断と重症度評価について十分な情報が得られなかった場合 Ⅱa

5 MS に対するルーチン検査 Ⅲ

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1)病 因

収縮期の僧帽弁閉鎖には,弁輪,弁尖,腱索,乳頭筋,

左房,左室機能等種々の因子が影響を与えている.した

がって何らかの理由によりこれらの何れかが異常を来た

すと MR につながる事態となりうる.MS の場合にはほ

とんどがリウマチ性であるが,MR の場合には僧帽弁逸

脱や虚血性心疾患等の非リウマチ性疾患によるものが多

い(表 7).

2)病 態

MR の基本病態は左室の容量負荷,左室後負荷の減少,

左房圧の上昇であるが,厳密には急性 MR と慢性 MR

に分けて考える方がよい.急性の MR は左室に急激な

容量負荷がかかるが,左房左室はこの負荷を代償性拡大

で受け止める余裕がないため肺鬱血と低心拍出量状態を

生じ時にショック状態に陥る.一方,慢性 MR の場合

には左室左房が拡大することにより容量負荷を代償し,

肺鬱血も来さないことからしばらく無症状で経過する.

また低圧系の左房に逆流血流を駆出することにより左室

にとっての後負荷は低い状態で経過し左室駆出率

(LVEF)も正常以上に保たれる.しかし長年の経過を経

て代償機構が破綻すると左室がますます拡大し,肺鬱血

も出現しまた LVEF も低下してくる.LVEF が正常下限

にまで低下したときはすでに心筋機能障害が進行してい

ると考えて良い12).

3)自然歴

MR の自然歴は病因によって異なる.たとえば僧帽弁

逸脱症候群の予後は一般に良好とされている13).しかし

flail leaflet と呼ばれる高度の逆流を伴うものでは10年間

の経過観察中に約 90 % が手術を受けたかもしくは死亡

したとの報告もある14).また,リウマチ性の MR でも逆

流の程度が中等症までであれば長期間無症状で経過する

といわれている.もちろん症状があるか,または左室機

能障害がある例では予後は悪く,内科的治療の 5年生存

率は約 50 % とされている15).

4)診 断

(1)症状:急性重症 MR はほとんどの場合,強い息切

れと呼吸困難を訴える.時に起坐呼吸となりまたシ

ョック状態となる.一方,慢性 MR の場合には初

期は症状を欠くが,病状の進行に伴って肺鬱血およ

び低心拍出量に基づく労作時呼吸困難,動悸,息切

れ,易疲労感等を訴えるようになる.重症になると

発作性夜間呼吸困難や起坐呼吸を呈する.時に心房

細動が発生しそれに伴って急速に呼吸困難を呈する

場合もある.

(2)身体所見:聴診ではⅠ音減弱,心尖部収縮期雑音,

Ⅲ音を聴取する.胸部レントゲン写真では左室,左

房の拡大に伴う心陰影の拡大(左 4 弓,3 弓突出)

を認め,重症例では肺鬱血像を認める.心電図では

左房負荷,左室肥大の所見を認める.時に心房性不

整脈や心房細動を認める.

(3)心エコー検査(表 8):断層エコー法で左室,左房

の拡大程度,壁運動,LVEF,左室の代償性壁肥厚

程度を評価する.カラードプラ法を利用することに

より逆流程度の評価のみならず,逆流の発生部位,

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1265

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表6 MS 患者に対する心臓カテーテル検査の適用

1 臨床症状からは侵襲的治療の必要性が示唆されるにもかかわらず心エコー検査では重症度,血行動態を十分に評価できない例での重症度,血行動態評価 Ⅰ

2 外科的治療を予定している患者で下記を満たす例における冠動脈造影検査

狭心症 Ⅰ心電図や心筋シンチグラムなどでの虚血性変化 Ⅰ心筋梗塞の既往 Ⅰ左室壁運動異常 Ⅱa複数の冠危険因子 Ⅱa40才以上 Ⅱa

3 外科的治療を予定している患者で上記基準のいずれも満たさない例における冠動脈造影検査 Ⅲ

4 PTMC 施行候補例で心エコー検査では僧帽弁逆流が十分に評価できない例での左室造影検査 Ⅱa

5 PTMC 施行予定例での術前ルーチン検査 Ⅱb

6 MS のルーチン検査 Ⅲ

僧帽弁閉鎖不全症(MR)2

表7 MR の原因疾患

リウマチ性

非リウマチ性僧帽弁逸脱原発性/腱索断裂/straight back 症候群/漏斗胸家族性/Marfan 症候群/Ehlers-Danlos 症候群心房中隔欠損症/肥大型心筋症/甲状腺機能亢進症

虚血性心疾患

感染性心内膜炎

拡張型心筋症などの拡大心

アミロイドーシス

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また断層法と併用することにより僧帽弁逸脱症,リ

ウマチ性,感染性心内膜炎後などの逆流の病因を推

定することができる.たとえば僧帽弁逸脱症では前

尖または後尖または両尖が収縮期に弁輪線を越えて

左房側にずれ込むことから診断をつけることができ

る.重症例では肺静脈圧の上昇を介して右心系にも

負荷を及ぼし,右心系の拡大と三尖弁逆流を認める

ことがある.その場合には三尖弁逆流に連続波ドプ

ラ法を適用することにより右室圧を推定することが

できる.

*僧帽弁逸脱症の術前精査としての心エコー検査の

意義(表 9):僧帽弁逸脱症で手術治療を考える

際には,心エコー法は逸脱の診断をつけるのみな

らずその重症度評価を行い,さらに術式の決定ま

での役割を担う必須の検査と言えよう.

断層エコー法では左室長軸断層像で探触子を内側から

外側にくまなく振り分けることにより逸脱の部位を同定

する.さらに短軸像で逸脱に応じたハンモック様エコー

を認めることにより部位確認を行う.一方,カラードプ

ラ法では逸脱に伴う僧帽弁逆流の出現部位,程度を評価

する.逆流ジェットは逸脱部位と逆方向に吹き付ける.

すなわち前尖の逸脱であれば左房後壁へ,後尖の逸脱で

あれば左房前壁へ吹く.また内側の逸脱であれば外側へ,

外側の逸脱であれば内側へ吹き付ける.このように逆流

ジェットはしばしば偏位し,かつ壁に沿って吹いており,

一断面で逆流ジェットの全貌をとらえることは困難なこ

とが多い.多断面からの評価を行って逆流を過少評価し

ないようにする.左室側の吸い込み血流が明瞭に認めら

れれば逆流は中等度以上と考えてよい.

上記のごとく断層エコー法(長軸,短軸),カラード

プラ法を駆使し,どこの弁尖が,どのぐらいの範囲で逸

脱を起こしており,逆流はどの程度かを評価する.それ

によって外科治療の際の難易度もある程度予測すること

ができる.

(4)経食道心エコー検査(表 10):経胸壁エコー検査で

僧帽弁構築が十分に評価できる時には経食道心エコ

ー検査は必ずしも必要ない.経胸壁法で十分評価で

きない時,心房細動例で血栓塞栓症の既往があり心

房内血栓の有無を確認したい時,術中評価が必要な

時,等に経食道心エコー法の適応がある.

(5)心臓カテーテル検査(表 11):肺動脈圧を中心とし

た血行動態評価,冠動脈,左室機能に関する情報等

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021266

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表8 MR における経胸壁心エコー検査の適用

1 MR が疑われる患者の診断,重症度評価,心機能評価,血行動態評価 Ⅰ

2 MR の発生機序の解明 Ⅰ

3 無症候性の重症 MR における心機能,血行動態の定期的フォローアップ Ⅰ

4 症状に変化のあった MR の重症度評価,血行動態評価 Ⅰ

5 心拡大がなく心機能も正常の軽症 MR の定期的フォローアップ Ⅲ

表9 僧帽弁逸脱症に対する心エコー検査の適用

1 聴診で僧帽弁逸脱症が疑われた患者での診断と重症度評価 Ⅰ

2 病状の変化した僧帽弁逸脱症における重症度評価 Ⅰ

3 形成術術前評価として逸脱弁尖の検索 Ⅰ

4 有意の逆流を伴う僧帽弁逸脱症で病状が安定している例における定期的フォローアップ Ⅱa

5 有意の逆流を伴わない僧帽弁逸脱症で病状が安定している例における定期的フォローアップ Ⅲ

表10 MR における経食道心エコー検査の適用

1 重症 MR が疑われるにもかかわらず経胸壁心エコー法で十分な情報の得られなかった MR の重症度評価,病因解析 Ⅰ

2 形成術の際の術式指示,成否判定のための術中エコー Ⅰ

3 感染性心内膜炎が疑われる時 Ⅱa

4 MR のルーチン検査 Ⅲ

表11 MR における心臓カテーテル検査の適用

1 外科的治療の可能性がある例で,明瞭なエコー像が得られないなどのために心エコー検査では重症度,血行動態を十分に評価できない例での重症度,血行動態評価 Ⅰ

2 外科的治療を予定している患者で下記を満たす例における冠動脈造影検査狭心症 Ⅰ心電図や心筋シンチグラムなどでの虚血性変化 Ⅰ心筋梗塞の既往 Ⅰ左室壁運動異常 Ⅱa複数の冠危険因子 Ⅱa40 才以上 Ⅱa

3 外科的治療を予定している患者で上記基準のいずれも満たさない例における冠動脈造影検査 Ⅲ

4 感染性心内膜炎の場合 Ⅲ

5 MR のルーチン検査 Ⅲ

6 MR で手術治療を考慮していない例 Ⅲ

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が得られる.肺動脈楔入圧の v 波が顕著な場合は高

度の MR の存在を示唆するが例外もある.左室造

影によって MR の重症度を評価する.しかしなが

ら,これらのほとんどは心エコー検査で推定するこ

とができるため,MS と同様,最近は本疾患におけ

る心臓カテーテル検査の意義は減少しつつある.む

しろ弁形成術を前提とした評価で術式を決定する際

には心臓カテーテル検査よりも心エコー法の方が情

報量が多い.ただし冠動脈疾患の評価は本検査でし

か行えず,中年以降の症例で手術を前提とする際に

は本検査を施行するべきである.

1)病態生理

MS と MR の合併で,MS が優勢の場合には,病理生

態は MS のそれに類似し左室容積は増大しない.MR が

優勢の場合には左室容積は増大する.MR のため左室流

入血流量が増加し,このため左房-左室圧較差は同じ弁

口面積の狭窄症単独の場合と比較して高値となる.

2)診 断

(1)心エコー検査:心エコー検査は必須の検査法であ

る.優勢の弁病変の決定(MS か MR)は,断層心

エコー図法により左心室腔の形態を評価することで

可能である.またドプラ心エコーにより,僧帽弁逆

流量,逆流率等が MR 単独の場合と同様に算出で

きる.MS の評価については MR が合併している場

合でも pressure half-time 法により僧帽弁口面積が正

確に算出できる.僧帽弁の平均弁口圧較差は,前述

のように同じ弁口面積の MS 単独の場合と比較して

高値となる.

(2)心臓カテーテル検査:僧帽弁口面積は心臓カテーテ

ル検査時の総僧帽弁口血流量と弁口圧較差から求め

ることができるが,MR が合併する場合には標準的

な順行心拍出量測定値(熱希釈法,Fick 法など)

は順行血流と逆行血流の差であるので,これを用い

て計算すると弁口面積はより小さく算出される.混

合型弁膜疾患患者では,正確な評価をするために血

行動態を検討する運動負荷試験が有用であると報告

されている.

PTMC(percutaneous transvenous mitral commissurotomy,

経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術)はシングルバルーンカ

テーテルを用いて狭窄僧帽弁口を開大する治療法であ

り,1984 年に井上らによって初めて臨床応用された16).

欧米では当初ダブルバルーンを用いて弁口を開大する方

法が多く用いられていたが,PTMC の簡便性,効果,安

全性が広く認識されるにつれ,近年は,本邦はもちろん

のこと世界中でイノウエバルーンカテーテルを用いる

PTMC が行われている17).

リウマチ性 MS の治療法としての PTMC は既に確立

されていると言ってよく,適応を誤らなければ,その効

果は外科的に行う交連切開術と同等である.

1)PTMCの適応(表12)

一般的に MS の外科的治療の適応は,薬物治療を行っ

ても NYHAⅡ度以上の臨床症状があり弁口面積が 1.5

cm2 以下とされている.PTMC の適応も基本的にはこれ

に準じるが,手術に比較して低侵襲で安全に施行できる

ことから,臨床症状が強くまたその臨床症状が MS に起

因することが明らかであればこの基準を満たす以前に行

ってもよい.このような例では安静時の僧帽弁間圧較差

が小さくても運動負荷やペーシングにより頻脈にするこ

とにより圧較差の増大を認めることがあるので必要に応

じてこれらの負荷を行うとよい.また妊娠や出産を控え

た女性では,現時点で症状が軽度であっても妊娠後期の

容量負荷による症状出現の可能性を考慮して施行するこ

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1267

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

僧帽弁狭窄兼閉鎖不全症3

僧帽弁狭窄症に対するPTMC の適応

Ⅰ-2Ⅰ-2

表12 MS における PTMC の推奨

1 症候性の MS で弁形態が PTMC に適しており特に禁忌がない例 Ⅰ

2 無症候性であるが,肺動脈圧が 50 mmHg 以上の肺高血圧を合併している MS で,弁形態が PTMCに適しており特に禁忌がない例 Ⅱa

3 臨床症状が強く(NYHAⅢ~Ⅳ),MR や左房内血栓がないものの弁形態は必ずしも PTMC に適していないが,手術のリスクが著しく高い例 Ⅱa

4 妊娠や出産を控えた女性で,現時点で症状が軽度であっても妊娠後期の容量負荷により症状の出現する可能性がある例 Ⅱa

5 無症候性であるが,新たに心房細動が発生した MSで弁形態が PTMC に適しており特に禁忌がない例

Ⅱb

6 無症候性でかつ軽症の MS Ⅲ

Page 8: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

とがある.

(1)心エコー検査

PTMC の成否を決定する最も大きな要因は弁形態であ

る.これを評価するために術前に必ず心エコー法を行い

詳細に弁形態を観察しなければならない.バルーンによ

る狭窄弁口開大の機序はリウマチ性変化により癒合した

交連部の裂開と弁口全体のストレッチと考えられている

が18),交連部が裂開されるためには両交連部ともに癒合

が軽度であることが望ましい.両側の癒合が高度の場合

には交連部が裂開されず弁葉が裂けることにもなる.癒

合が片側に特に強い場合にはバルーンにより癒合の軽い

方のみが裂開され効果が不十分であるのみならず,時に

癒合の軽い方の交連部が過度に裂けそこから高度の MR

を生じることがある.また交連部がうまく裂開されても

リウマチ性の変化により弁腹部の可動性が良好でない例

や,弁下組織の変化が高度である例では,弁口開大の効

果は柔軟な弁に比較して劣る.これらを勘案して PTMC

の適応基準がいくつか報告されている19)20)(表13,14).

一般に,PTMC のよい適応は僧帽弁直視下交連切開術

(OMC)のよい適応でもあり,これらの適応とならない

例では弁置換術の適応となる.

(2)経食道心エコー検査

左房内血栓の検索は通常経胸壁エコー検査だけでは不

十分であり,PTMC の術前には経食道心エコー検査が必

要となる.ただし弁の形態や重症度評価を行う目的では

通常経胸壁エコー検査で十分であり,経食道心エコー検

査をルーチンに行う必要はない.

2)PTMC が不適応と考えられる病態(表15)

PTMC が不適応と考えられる病態は,(1)心房内血栓,

(2)3 度以上の MR,(3)高度または両交連部の石灰沈

着,(4)高度 AR や高度 TS または TR を伴う例,(5)

冠動脈バイパス術が必要な有意な冠動脈病変を有する

例,とされている16).左房内に血栓がある例では術中に

血栓を遊離させる可能性があり PTMC の絶対的禁忌で

ある.左房内血栓の検索は経胸壁心エコー法では不十分

であり,必ず経食道心エコー法を行う.血栓の好発部位

は左心耳内であるが,左心耳に限局する血栓はカテーテ

ル操作が適切に行われれば術中に遊離させる可能性が低

く必ずしも絶対的禁忌ではないとの意見もある.3 度以

上の MR の合併は PTMC によりさらに増悪する可能性

もあり,最初から外科的治療の対象となる.手術適応と

なる他弁疾患や冠動脈疾患を合併している場合にはそれ

らの手術とともに僧帽弁手術を行えばよく,PTMC の適

応とする必要はない.

3)成 績

熟練した術者が施行する場合,PTMC の技術的成功率

は 98 % 以上であり,これにより平均左房左室間圧較差

は術前 12~13 mmHg から術後 3~6 mmHg に,弁口面

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021268

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表13 Wilkins のエコースコア 19)

1 わずかな制限 わずかな肥厚 ほぼ正常(4~5mm) わずかに輝度亢進

2 弁尖の可動性不良,弁中部, 腱索の近位 2/3 まで肥厚 弁中央は正常,弁辺縁は肥 弁辺縁の輝度亢進基部は正常 厚(5~8mm)

3 弁基部のみ可動性あり 腱索の遠位1/3以上まで 弁膜全体に肥厚(5~8mm) 弁中央部まで輝度亢進肥厚

4 ほとんど可動性なし 全腱索に肥厚,短縮,乳頭 弁全体に強い肥厚,短縮, 弁膜の大部分で輝度亢進筋まで及ぶ 乳頭筋まで及ぶ

重症度 弁の可動性 弁下組織変化 弁の肥厚 石灰化

上記 4項目について 1~4点に分類し合計点を算出する.合計 8点以下であれば PTMC のよい適応である.

表14 Iung の分類 20)

グループ1 前尖が柔軟であり石灰沈着もなく弁下組織の変化も軽度.腱索も肥厚がなく 10 mm 以上の長さがある.

グループ2 前尖が柔軟であり石灰沈着もないが,弁下組織の変化は高度.腱索は肥厚しており 10 mm未満に短縮している.

グループ3 透視で石灰沈着が明らかである.弁下組織変化は問わない.

*グループ1,2,3の順に PTMC の成績が悪くなる.

分 類 僧  帽  弁

表15 PTMC が不適応と考えられる病態

1 心房内血栓 Ⅰ

2 3 度以上の MR Ⅰ

3 高度または両交連部の石灰沈着 Ⅱa

4 高度 AR や高度 TS または TR を伴う例 Ⅱa

5 冠動脈バイパス術が必要な有意な冠動脈病変を有する例 Ⅱa

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積は 1.0~1.1 cm2 から 1.9~2.0 cm2 に増大する.また通

常,心拍出量も 1 割程度増加する21).急性期の血行動態

は PTMC と外科的交連切開術との間に有意差は認めら

れていない.また合併症発生率も外科手術と比べて大き

な差はなく,Inoue らの 981 例の経験によれば,主な合

併症は高度 MR の発生(2.5 %),塞栓症(0.3 %),心タ

ンポナーデ(1.1 %),心房中隔欠損残存(11.0 %),で

あり死亡例はなかったという.なお心房中隔欠損残存は

ほとんどの場合,軽度であり,また大半の例で次第に縮

小していくことが知られている.一方,米国の国立心肺

血液研究所(NHLBI)による 738 例の全国集計によれ

ば,高度 MR が 3 %,塞栓症が 3 %,心タンポナーデが

4 %,死亡率が 3 % といずれも高めであり,施設や術者

の熟練度が合併症発生低減に重要であることがうかがえ

る.実際,NHLBI の報告でも 25 例以上の経験を有する

施設では合併症の発生が少ないという 17)22).従って

PTMC は経験豊富な施設で熟練した術者により施行され

なければならない.

PTMC 直後の成否の予測因子には,上述の僧帽弁形態

のほかに年齢,外科的交連切開術の既往,NYHA 心機

能分類,高度狭窄,MR,洞調律,肺動脈圧,高度 TR,

バルーンサイズなど種々報告されている23)24).しかしこ

れらの因子は感度はよいが特異度は低く,現実には

PTMC の成否を正確に予測することは簡単ではない.

PTMC 施行後 3 年から 5 年程度の長期成績は弁形態や

NYHA 心機能分類,年齢,開大後弁口面積などに依存

し,これらが良好な群では経過は良好であり,また生存

率も 5 年で 93 % と良好である17).弁に石灰化を有する

例や,弁尖の肥厚が強い例,弁下組織の変化が強い例で

は再狭窄発生率が高くなる25).

1)外科的治療の適応

(1)歴史的背景

MS に対する外科的治療は,1948 年に Bailey ら,

Harken らが“閉鎖式”僧帽弁交連切開(裂開)術

(closed mitral commissurotomy, CMC)に成功したのを契

機に全世界で広く行われるようになった25).CMC は,

手指を左心耳より心腔内に挿入して,用指的にあるいは

拡大器を用いて“非直視下”に癒合した僧帽弁交連部を

裂開し弁口を拡大する術式であり,その後人工心肺装置

が開発され,開心術が可能となった後も一定期間MSに

対する標準術式として用いられた.しかし,僧帽弁の解

剖学的形態によってその手術成績・遠隔成績が左右され

ることより,1970 年頃からはわが国でも直視下交連切

開術(open mitral commissurotomy, OMC)を第一選択術

式とする施設が多くなり,現在,先進国ではCMCは殆

ど行われなくなった.OMC では直視下に僧帽弁を観察

し,交連切開に加えて病変に応じて腱索切開や乳頭筋切

開,石灰化部分の除去などを行うことができ,MS に対

する基本術式として良好な遠隔成績が報告されてい

る26)27).OMC で対応できない病変に対しては僧帽弁置

換術(mitral valve replacement, MVR)が行われるが,有

効弁口面積の広い二葉弁の開発や耐久性の向上した生体

弁の開発などにより良好な遠隔予後が期待されるように

なった.バルーン付カテーテルを用いた経皮的僧帽弁交

連切開術(percutaneous transvenous mitral commissurotomy,

PTMC)は 1980 年代に登場15)し,その低侵襲さと Device

の改良により広く普及されるようになったが,その適応

は概ね CMC に合致する.PTMC ついては前項に記載さ

れているので,ここではその詳細は述べない.

(2)手術適応と手術時期(図1,2)

ここで扱うMS またはMSr(軽度逆流をともなうMS)

は基本的にはリウマチ性の病変である.手術適応を考え

る上で,① NYHA 2 度以上の臨床症状,②心房細動の

出現,③血栓塞栓症状の出現の 3点が重要である.一般

的に弁狭窄が中等度以上(僧帽弁口面積≦ 1.5 cm2)に

なると流体力学的に左房から左室への血液流入障害が生

じるとされ,労作時に左房圧の上昇に基づく臨床症状

(息切れ,呼吸困難感)が出現するようになる.また,

左房拡大,心房細動発作,肺高血圧などの所見も認めら

れるようになる.血栓塞栓症のエピソードで本症の存在

が初めて気づかれるといった場合もある.弁狭窄がさら

に高度(弁口面積≦ 1.0 cm2)になると安静時にも左室

への血液流入が障害されるようになる結果,症状は重症

化し,肺鬱血・肺高血圧や心房細動は固定化する.さら

に TR が加わり,肝腫大・腹水など右心不全の徴候が認

められるようになり,終末期には心臓悪液質をきたす.

MS に対する外科治療は従来,手術にともなうリスク

や手術の効果を考慮し,上述のような臨床症状・所見の

出現を待って行うのが基本と考えられてきた.しかしな

がら,PTMC の普及や開心術の成績が向上した今日では,

術後の洞調律の維持や血栓塞栓症の防止,肺高血圧や他

臓器不全の予防,と言った観点から,従来より早期に外

科的治療を行うことも考慮されるようになって来てい

る.NYHA 心機能分類の悪化や運動耐容能の低下に加

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1269

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

僧帽弁狭窄症に対する手術適応,術式とその選択

Ⅰ-3Ⅰ-3

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えて,心臓エコー検査で左房径の拡大,弁口面積の経時

的狭小化,運動負荷時の肺高血圧,心房細動発作の出現

は手術適応を考慮する指標となる.

左房内血栓も手術適応の指標となる.血栓の付着部位

は左房壁,左心耳内,心房中隔,僧帽弁,僧帽弁弁輪部

または肺静脈内などである(まれに球状血栓が形成され

ることがある)が,断層心エコー上少なくとも 2方向か

ら描出し,さらに経食道心エコー法,胸部 CT により,

その存在ならびに形態を確認する必要がある.手術の適

応となる左房内血栓は,一般に①ボール状血栓,②大き

な血栓,③可動性を持つ壁在血栓,および④肺静脈を圧

迫する壁在血栓などである.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021270

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

病歴,理学的検査,胸部 X 線,心電図,心エコー�

あり�なし�

なし�あり�

中等度または高度狭窄症�MVA ≦ 1.5cm2

はい�はい�

左房内血栓�MR ≧ 2 度�

軽度狭窄症��MVA > 1.5cm2

自覚症状�Af,塞栓症の既往�

OMC または�MVR を考慮� PTMC を考慮�

弁形態が PTMC に適切�運動負荷試験�

いいえ�PAP > 60 mmHgPCWP ≧ 25 mmHg圧較差 > 15 mmHg

いいえ�

他の原因を探す�

図1 NYHA 心機能分類Ⅰ・Ⅱ度のMS に対する治療指針

病歴,理学的検査,胸部 X 線,心電図,心エコー�

中等度~重度狭窄症�MVA ≦ 1.5cm2

はい�

はい�

はい�

軽度狭窄症��MVA > 1.5cm2

PAP>60mmHgPCWP ≧ 25mmHg圧較差>15mmHg

他の原因を探す�

PTMC を考慮�(左房内血栓,MR 3~4 度を除く)�

運動負荷試験�

弁形態がPTMCIに適切�

いいえ� いいえ�

高リスク手術の適応�

いいえ�

OMC�または MVR

図2 NYHA 心機能分類Ⅲ・Ⅳ度MS に対する治療指針

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2)外科的治療法の種類と選択

外科治療に際しては,僧帽弁の弁肥厚,弁石灰化,弁

の可動性,弁下部組織の変性程度,僧帽弁逆流の程度,

を検討し術式を選択する.

(1)手術の種類と特徴

OMC は,直視下に僧帽弁を観察することにより,交

連切開術に加えて腱索切開術,乳頭筋切開術および石灰

化除去術などを合わせて行うことができ,弁病変に応じ

てより根治性の高い弁形成術を遂行しえる点で選択され

る.MVR は,PTMC や OMC の適応とならない進行し

た MS 患者に対し行われる.機械弁に対する術後の抗凝

固療法や感染性心内膜炎などの人工弁関連合併症に対す

る予防が不可欠となる.

(2)術式の選択と適応基準

(a)病態と術式

一般に Sellors 分類11)Ⅰ~Ⅱ型の MS の内,Wilkins 19)

の total echo score 8 以上,弁下部スコア 3 以上のいずれ

かの症例では PTMC の成功率が低いために OMC また

は MVR が推奨されている.また,弁下部スコア 4 の

Sellors 分類Ⅲ型では MVR を選択すべきであるとされて

いる29).

① OMC:OMC の要点は,弁口面積の回復をどこま

で求めるかにあり,狭窄を呈した弁口を大きな逆流

を残すことなく少しでも大きく開大できれば弁機能

は術前よりも確実に良くなり,臨床症状は著明に改

善される.症例によっては OMC 後の弁逆流発生が

避けられないこともあり,その場合,遠隔成績に支

障を来たす(表 16).両弁尖の接合状態を向上させ

る工夫として,OMC 時に電動ヤスリを用いて弁尖

の肥厚・硬化部分を薄く柔軟にする方法30)も報告さ

れているが,症例数が少なく充分な遠隔成績が得ら

れるには至っていない.一般に Sellors 分類(MS)

のⅡ度で僧帽弁逆流が軽微かないものが OMC のい

い適応となる.

② MVR:僧帽弁に著明な石灰化や線維化,高度な弁

下部癒合を認める場合には,PTMC や OMC の成功

する可能性が低く MVR の適応となる.また OMC

後の再狭窄例なども MVR の適応となることが多い

(表 17).MVR では,弁下組織温存術式が左室機能

の温存に有利とされている31)32)が,MS では病態上

後尖およびその弁下組織の温存が困難なことが多

く,また,その効果についても MR と異なり MS

では必ずしも実証されていない33).弁膜に塊状の石

灰化が残る場合は,その部分を脱石灰,切除する必

要がある.また,弁膜が直接心筋と癒合し弁下組織

が一塊となっている症例もあり,このような高度な

弁下病変を伴う症例や弁輪に高度石灰化が及ぶ症例

では左室破裂に留意すべきで,弁下組織や石灰の摘

除に際して慎重な操作を要する.

(b)年齢,病期,その他の患者背景による選択

MS に対する外科治療の適応において,年齢,病期な

どに一定の適応基準はない.高齢者や腎不全・肝不全な

ど他臓器疾患を合併するハイリスク症例,手術適応のあ

る担癌患者または妊娠中の MS 症例などに対しても,弁

病変が PTMC に不適当であれば合併疾患を十分に検討

した上で OMC や MVR を考慮する.また,心房細動合

併例で左房内血栓や血栓塞栓症の既往がある場合には,

MS による症状の有無にかかわらず手術の可能性を検討

すべきである.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1271

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表16 MS に対する OMC の推奨

1 NYHA 心機能分類Ⅲ~Ⅳ度の中等度~高度 MS(MVA≦1.5cm2)の患者で、弁形態が形成術に適しており、①PTMC が実施できない施設の場合。 Ⅰ②抗凝固療法を実施しても左房内血栓が存在する場合。

2 NYHA 心機能分類Ⅲ~Ⅳ度の中等度~高度 MS 患者で、弁に柔軟性がないか、あるいは弁が石灰化しており、OMC か MVR かを術中に決定する場合。 Ⅰ

3 NYHA 心機能分類Ⅰ~Ⅱ度の中等度~高度 MS(MVA≦1.5cm2)の患者で、弁形態が形成術に適しており、①PTMC が実施できない施設の場合。 Ⅱa②抗凝固療法を実施しても左房内血栓が存在する場合。

Ⅱa③充分な抗凝固療法にもかかわらず塞栓症を繰り返す場合。 Ⅱa④重症肺高血圧(収縮期肺動脈圧 60~80 mmHg 以上)を合併する場合 Ⅱa

4 NYHA 心機能分類Ⅰ~Ⅳ度のごく軽度の MS 患者Ⅲ

表17 MS に対するMVR の推奨

1 NYHA 心機能分類Ⅲ~Ⅳ度で中等度~高度 MS の患者で,PTMC または OMC の適応と考えられない場合 Ⅰ

2 NYHA 心機能分類Ⅰ~Ⅱ度で高度 MS(MVA≦1.0cm2)と重症肺高血圧(収縮期肺動脈圧 60~80 mmHg以上)を合併する患者で,PTMC または OMC の適応と考えられない場合 Ⅰ

注)MS の弁口面積からみた重症度(表 3)を参照

注)MS の弁口面積からみた重症度(表 3)を参照

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3)手術成績と遠隔予後

(1)手術危険率

初回施行例における手術危険率は一般に OMC で数 %

以下であるが,MVR では MS 病変の程度や患者の重症

度が高く大動脈遮断時間も長くなるために 5 % 前

後32)34)35)と OMC に比べるとやや高率である.また,70

才以上の MVR 症例では手術危険率は 7 % 35),収縮期肺

動脈圧が 60 mmHg を超える肺高血圧症例や再手術症例

では 10 % 前後34)-38),と報告されている.弁下組織温存

の MVR については,手術危険率が 5 % と非温存 MVR

の 14 % に対し成績良好であったとする報告もある32)が,

MS では弁下組織温存 MVR が困難な症例も多く未だ統

一された見解は得られていない.患者の背景や主要臓器

障害の有無など個々の症例で術式の選択や周術期管理な

どを十分に検討する必要がある.

(2)遠隔予後

① OMC:Sellors 分類による OMC 347 例の遠隔成績

の検討39)では,術後 14 年の非再手術率がⅠ型で

73.5 %,Ⅱ型で 88.9 %,Ⅲ型で 84.0 % と各群で有

意差を認めず,石灰化や弁下部病変を認める MS に

対しても OMC により比較的良好な中期遠隔成績が

得られたと報告されている.一般に遠隔死亡に関連

する因子として,高年齢,高肺血管抵抗および弁尖

石灰化が,血栓塞栓症に関連する因子では,塞栓症

既往歴,弁尖石灰化および可動性の低下が指摘され

ている40).また,再手術に関連する因子としては,

術前弁口面積,弁尖石灰化ならびに可動性,僧帽弁

逆流が報告されている.

② MVR:MVR 後,人工弁が正常に機能している限

り僧帽弁の狭窄は解除され,肺循環を含めた血行動

態が改善し自覚症状も軽減される.MVR の遠隔成

績は,人工弁の耐久性や人工弁関連の合併症,抗凝

固療法のコントロール,肺高血圧・左房拡大・心房

細動・右心不全といった MS 関連の血行動態異常,

等に影響されるが,通常,適切な抗凝固療法や外来

follow-up が行なわれていれば悪くはない.MVR 術

後の生存率に影響する遠隔期の合併症として,脳梗

塞,心筋梗塞,全身血栓塞栓症,血栓弁,脳出血,

消化管出血,人工弁感染性心内膜炎,不整脈ならび

に心不全などがある.

③その他:最近の PTMC,OMC,MVR の術後 7 年の

遠隔成績に関する比較検討41)では,各々の生存率は

95 %,98 %,93 % と差がなかったが,再手術回避

率は OMC,MVR で各々 96 %,98 % と PTMC の

88 % に比し,また,NYHA 心機能分類は OMC が

平均 1.1 と PTMC と MVR の 1.4 に比し有意に良好

であった.また,手術死亡は PTMC,OMC で 0 %,

MVR で 1.6 % と MVR 症例に重症例が含まれてい

るにもかかわらずいずれの手術成績も良好であり,

僧帽弁の病態に応じた術式の選択により良好な手術

成績と遠隔成績が得られることが示されている.

1)外科治療の適応

急性 MR では,末梢血管拡張薬,カテコールアミン

の投与によって血行動態の改善が得られない場合,緊急

手術の適応となる.IABP の使用は多くの場合手術を前

提とした循環動態の維持に用いられることが多い.

慢性 MR の手術時期の決定には経時的な臨床症状の

聴取と経胸壁心エコー検査が必要である.6~12 ヶ月お

きの病歴聴取,理学的検査,心エコー法などによって無

症候性左室機能不全が進行し始めるのを速やかに検出し

手術を施行することが必要である1).

MR による後負荷の低下によって見かけ上駆出が亢進

しているように評価されるため,心機能の標準的な指標

である左室駆出率(LVEF)は他の弁膜症の場合に比べ

て信頼性が低いとされている.しかしながら,僧帽弁手

術後の予後を予測する因子として術前の LVEF が重要で

あることが報告されている42)-45).術前の LVEF が 60 %

未満の症例ではそれ以上に比較して術後の生存率が悪

く,左室機能低下が進行し始めていると考えられる45).

経胸壁心エコー法による左室収縮末期径(LVDs),ま

たは容量は後負荷による影響が LVEF より少なく,左室

機能が低下し始める時期を知るうえで有用である 46).

LVDs が 45 mm 以上(収縮末期容積指数(LVESVI):

50ml/m2)の場合は手術後の左室機能が正常に復帰しな

い可能性があり,これを手術時期の決定に用いることが

有用である46)47).

2)外科治療法の種類と選択

MR に対する外科治療としては現在,(1)僧帽弁形成

術,(2)僧帽弁の後尖を温存したり,腱索を再建して乳

頭筋と弁輪の連続性を維持する僧帽弁置換術(MVR),

(3)僧帽弁を完全切除する MVR,がある.それぞれの

長所と短所を以下に概観する.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021272

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

僧帽弁閉鎖不全症に対する手術適応,術式とその選択

Ⅰ-4Ⅰ-4

Page 13: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

(1)僧帽弁形成術:僧帽弁形成術は自己の固有の弁が温

存される.従って人工弁による置換術に比して,長

期間の抗凝固療法やその他の人工弁に関連した遠隔

期の合併症(弁機能不全,人工弁感染症など)のリ

スクを回避できる.さらに僧帽弁を温存することに

よって,それを切除する場合と比較して左室機能が

良好であり,術後遠隔期の生存率が良好となる48)49).

従って,僧帽弁の形成術が可能である場合はこれが

第一選択となる.しかしながら僧帽弁形成術は技術

的に困難な場合がある.とくに僧帽弁前尖の病変,

弁や弁輪の石灰化,リウマチ性の病変では僧帽弁の

形成術が成功する可能性が低くなる.

(2)僧帽弁の後尖を温存したり,腱索を再建して乳頭筋

と弁輪の連続性を維持する MVR:これらの術式は

僧帽弁の機能が置換された人工弁によって確実に得

られるだけでなく,左室機能が良好に保たれ,乳頭

筋と弁輪との連続性を温存しない術式に比べて術後

の遠隔期生存率が良好である50)-52).一方,人工弁を

使用することに伴う,短期および長期の合併症が機

械弁,生体弁ともにそれぞれ存在する.

(3)僧帽弁前・後尖を完全に切除して,MVR を行う必

要のある症例は,弁の破壊が高度である症例,弁下

の腱索の肥厚癒合や石灰化が高度で弁および腱索の

完全な切除が望ましい症例である.しかしこのよう

な症例でも人工腱索を作製し弁輪と乳頭筋の連続性

を可及的に再建することが推奨されている.

3)術式の選択と適応基準(図3,表18,19)

(1)左室機能と症状からみた手術適応

(a)左室機能正常で無症候性の患者

このような患者に対しては手術治療は直ちには行わ

ず,内科的治療を行うことが一般的である.6 ヶ月ない

し 1年毎の病歴チェック,理学的所見,および心エコー

検査によって心不全症状が出現した場合,あるいは心機

能低下が進行し始めた時点で速やかに手術を計画するこ

とが推奨される.正常な左室機能を有する無症候性の患

者に積極的に弁形成術を行う施設も一部に存在する.し

かしながら弁形成術が成功する確率が 100 % でないこ

とから,手術が MVR になった場合の人工弁由来の合併

症,機械弁の抗凝固療法に関連する危険を考慮する時,

これらの患者群に直ちに手術を行うことは推奨されない.

(b)左室機能が正常で症状を有する MR 患者

心エコー法により評価した左室機能が正常(LVEF ≧

60 %,LVDs < 45 mm)であるが,心不全症状を有する

患者では速やかに手術を行うことが推奨される.この場

合,弁の形成術が可能であれば心機能を維持し,MVR

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1273

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

重症僧帽弁閉鎖不全症(MR)6 ヶ月毎に�臨床評価�心エコー検査�

急性 MR

弁形成術�または弁置換術�

慢性 MR

自覚症状�

NYHA Ⅲ-Ⅳ� NYHA Ⅱ� NYHA Ⅰ�

弁形成術の�可能性は?�

弁形成術�

EF ≧ 30%

内科療法�

弁置換術�

EF>60%かつ�Ds<45mm

弁形成術の�可能性は?�

EF≦60%または�Ds≧45mm

EF>60%かつ�Ds<45mm

弁形成術�

弁形成術�または弁置換術�

心房細動�肺高血圧症�

yesyes

yes

yes

no

nono

no

*�

図3 重症MR 患者における治療指針.(重症MR:3~ 4度の逆流)

*:弁下組織温存MVR

Page 14: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

に伴う合併症や機械弁の場合の抗凝固療法を回避するこ

とができる.

(c)左室機能不全がある無症候性の患者

左室の機能不全が進行し始めた患者(LVEF < 60 %,

または LVDs ≧ 45 mm)では,症状の有無にかかわらず

手術を施行するべきであるという点でほぼ意見が一致し

ている.心機能が良好に保たれている時期に手術を行う

方が遠隔期の生存率がよいことが示されてきており45),

心機能を可能な限り維持する手術が望まれる.この観点

から弁形成術がもっとも望ましい手術である.

(d)左室機能不全がある症候性の患者

MR による左室の機能不全が進行するに従い,手術の

危険と術後遠隔期の生存率が悪化する.手術後には重症

MR による後負荷の軽減がなくなるため,LVEF が術前

の値よりさらに低下する可能性が高い事も考慮されるべ

きである.従って高度の心機能不全が進行する前に手術

を施行するのが原則である.一方,高度の心不全が進行

した MR 症例に対して手術が可能かどうかを判断する

のは難しい.手術可能な症例は一般的に LVEF が 30 %

以上を維持している症例である.低下した心機能を可及

的に温存するためには僧帽弁形成術が有利であることは

明らかである.

高度の左室機能不全のある MR 症例と,心筋の収縮

障害が一次性原因である疾患(心筋症など)に二次性に

MR が合併している症例とは鑑別が困難であることが多

い.後者では一次性の原疾患に対する手術が可能である

場合にのみ付加的にMR に対する手術を行うことがある.

この場合は多くの場合,僧帽弁の形成術が適応になる.

(2)慢性の心房細動かその既往を有する場合

心房細動は MR 患者に合併することが多い不整脈で

ある.僧帽弁手術の術前に慢性の心房細動が存在するこ

とは手術後の遠隔期の生存率の低下を予測する因子であ

り45),心房細動の発生前に手術を行うことが望ましい.

また,心房細動は左房内に血栓を形成し血栓塞栓症を引

き起こすことがあり,抗凝固療法の適応となる.僧帽弁

手術後に術前の慢性心房細動が洞調律に復帰するかどう

かを予測する因子は,左房径(50 mm 未満)と術前の慢

性心房細動持続期間である45).術前の慢性心房細動持続

期間が 3ヶ月以内の症例では全例洞調律に復帰したとの

報告もある52).従って,慢性心房細動の存在そのものが

僧帽弁手術の適応決定に重要な意味を持つとともに,そ

の出現した直後,早期に手術を行うことが,抗凝固療法

を必要としない洞調律への復帰のために重要である52)53).

(3)病因からみた手術適応

(a)僧帽弁逸脱症

僧帽弁逆流で手術適応となり外科に紹介される患者の

80~90 % は僧帽弁逸脱による弁逆流である.弁逸脱に

よる僧帽弁逆流は弁形成術の良い適応と考えられている

が,逸脱部位によって形成術の手術手技や遠隔成績が異

なる.後尖逸脱は弁形成術の最も良い適応であり,逸脱

症例の 50~60 % を占める.手術は標準的な矩形切除と

弁輪形成術により再現性の高い手術成績が得られる.一

方,前尖逸脱や両弁尖の逸脱症例は 1980 年代はじめに

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021274

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表18 MRにおける手術適応についての推奨

1 形成術が可能と思われる急性症候性 MR の患者 Ⅰ

2 NYHA 心機能分類≧Ⅱ度の自覚症状を有する左室機能正常の患者 Ⅰ

3 軽度左室機能低下のある症候性または無症候性の患者 Ⅰ

4 中等度左室機能低下の患者 Ⅰ

5 心房細動があるが,左室機能が保持された無症候性患者 Ⅱa

6 肺高血圧症(収縮期肺動脈圧:安静時> 50 mmHg,運動時>60 mmHg)を有する左室機能が保持された無症候性患者 Ⅱa

7 LVEF が 50~60 % で LVDs が 45 mm 未満の無症候性患者 Ⅱa

8 LVEF が 60 % 以上で LVDs が 45~55 mm の無症候性患者 Ⅱa

9 腱索を温存できる可能性が高い高度左室機能不全患者 Ⅱa

10 左室機能が保持された無症候性患者で,僧帽弁の形成が可能な場合 Ⅱb

11 左室機能が保持された無症候性患者で形成の可能性が疑わしい場合 Ⅲ

*左室機能正常   :LVEF≧60%,LVDs<45mm

軽度左室機能低下 :LVEF:50~60%,LVDs:45~50mm

中等度左室機能低下:LVEF:30~50%,LVDs:50~55mm

高度左室機能低下 :LVEF<30%または LVDs>55m

表19 僧帽弁形成術の適用

1 僧帽弁逸脱症(後尖) Ⅰ

2 感染性心内膜炎・非活動期 Ⅰ・活動期 感染巣が限局している Ⅱa

感染巣が広範囲に及ぶ Ⅱb

3 リウマチ性 MR Ⅱb

4 虚血性 MR Ⅱb

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は弁形成術の適応が限られていたが,腱索移植術,人工

腱索による腱索再建術,edge to edge suture など新しい手

術手技の開発により,形成術の対象となり優れた遠隔成

績も報告54)-57)されている.

弁逸脱は心エコー図検査の進歩により容易に診断がで

きるので,これに対する手術手技に関しても手術前から

十分に議論できる.弁形成術の達成率と遠隔期を含む手

術成績は施設間や外科医によって異なるが,形成術の成

績が良い施設では弁逸脱による僧帽弁逆流に対する手術

適応の時期が早まる傾向にある.

(b)虚血性MR

虚血性 MR は急性心筋梗塞による左室機能不全がそ

のベースにある.従って,一般に虚血性 MR の患者の

予後は,他の原因による MR 患者より手術成績,遠隔

期の生存率ともに不良なことが報告されている58)59).虚

血性 MR は急性心筋梗塞による機械的合併症としての

乳頭筋断裂,慢性期での左室のリモデリングより僧帽弁

のテザーリングを来して弁逆流を生じるものに代表され

る.急性期の機械的合併症としての僧帽弁逆流は緊急手

術の対象であり,多くはMVR となることが多い.一方,

左室のリモデリングにより生ずる MR は僧帽弁が正常

であるために functional mitral regurgitation(FMR)と言

われ,左室への前負荷あるいは後負荷により逆流の程度

は変化する.FMR の手術適応に関しては議論の多いと

ころであり,血行再建術のみでも中等度以下のものは改

善あるいは消失することもあると言われているが,最近

では逆流量,逆流弁口面積が中等度を境に弁形成術を推

奨する報告60)や中等度虚血性 MR は血行再建術のみで

は改善することはないので積極的な弁輪形成術が推奨さ

れるとの報告もある61).いずれにしても臨床例における

FMR のメカニズムがすべて解明されているわけではな

いので,これらに対する弁輪形成術を主とした弁形成術

の限界と MVR の適応に関しては意見の一致を見ていな

いのが現状である62)63).

(c)感染性心内膜炎

僧帽弁の感染性心内膜炎の内科治療中および治療後の

MR に対する弁手術としてはやはり可能である限り僧帽

弁の形成術が推奨される64).一方,感染が完全に収まっ

ていない活動期のばあいでも感染巣を完全に切除できる

場合には僧帽弁の形成術が可能であるとされている64)65).

しかし感染巣の残存が危惧される場合には弁を完全に切

除して MVR を行うことが活動期感染性心内膜炎を治療

する上で必要である.(Ⅴ-Ⅰ“感染性心内膜炎の管理と

手術適応”を参照).

(d)リウマチ性MR

リウマチ性 MR では僧帽弁の肥厚,石灰化を来たし,

しばしば弁輪にも石灰化が及ぶ.さらに弁下組織の肥厚,

癒合,短縮をも合併することが多く,僧帽弁の形成術を

行うことが困難である.また僧帽弁の形成術が成功した

場合でも遠隔期に再手術が必要となる症例が多いことが

知られている66)67).したがって,一般にリウマチ性の

MR に対しては MVR が行われる.この場合でも乳頭筋

と弁輪との連続性を維持する術式の方が左室機能を温存

できるため有利である.

(4)年齢からみた手術適応

高齢者の MR 患者に対する僧帽弁手術は年齢が上が

るとともにその手術死亡率が上昇し,遠隔期生存率は低

下する.特に 75 歳を超える患者では MVR だけでなく,

弁形成術においても手術死亡率は 75 歳以下に比較して

有意に上昇する45).したがって無症状あるいは軽い症状

の高齢者 MR 患者に手術を勧めるかどうかは難しい問

題である.高齢者に手術を進める場合には自覚症状のあ

ることが重要な因子であり,自覚症状が乏しい MR 患

者の場合には内科治療のほうが適している場合が多い.

4)手術成績と予後

過去 10 年間の米国 Society of Thoracic Surgeon の

National Database の解析によると,MVR および僧帽弁

形成術の手術危険率はそれを単独で行った場合に各々 6

% と 2 %,冠動脈バイパス術(CABG)を同時に行なっ

た場合に 13 % と 9 % であり,いずれについても僧帽弁

形成術の手術危険率の方が MVR の手術危険率に比較し

て低値であった68)(表 20).一方重症 MR の手術危険率

に対する年齢の効果を 75歳以上と 75歳未満とで分けて

検討したメイヨークリニックのデーターではいずれの手

術方法でも 75歳以上の高齢者の方が手術危険率が高く,

弁形成術の方が手術危険率が低いことが示唆されている

(表 21).

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1275

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表20 手術危険率に対する CABG の影響

単独症例 CABG 合併症例

MVR 6 % 13 %

僧帽弁形成術 2 % 9 %

表21 手術危険率に対する年齢の影響

75歳未満 75歳以上

MVR 5.7 % 30.8 %

僧帽弁形成術 1.3 % 6.8 %

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予後に影響を与える因子として報告されている因子を

表 22 に示す.MR に対する手術の予後を術前の LVEF

で検討した 409 例の検討では,術前の IVEF 60 % 以上,

50~60 %,50 % 以下でそれぞれ 10 年生存率が 72 %,

53 %,および 32 % であった49).MVR と形成術の予後を

術前の因子を多変量解析で訂正した検討では,僧帽弁形

成術の予後が MVR 術後と比較して多変量解析後も有意

に良好であるという結果が報告されている49)(表 22).

慢性心房細動を合併する弁膜症に対して Maze

Procedure を行って洞調律を積極的に回復することを提

唱する施設がある.その根拠は,とくに僧帽弁形成術が

施行されかつ洞調律に回復することによって抗凝固療法

を施行しなくても血栓塞栓症を回避できたとする報告や

人工弁置換術がなされても洞調律に回復することによっ

て有意に血栓塞栓症が減少した,とする報告にある69)-73).

また,心拍出量と運動耐容能も洞調律の回復によって

10~15 % 増大し,QOL が改善すると考えられている.

一方,僧帽弁術後に慢性心房細動が持続した症例と洞調

律に復帰した症例との間に遠隔期生存率の有意な差が現

時点では証明されていない74)ため,Maze Procedure を同

時に行うことは手術時間と術後出血の危険を増すのみで

その恩恵が少ないとする意見もある.最近,Left Atrial

Maze Procedure や Pulmonary Vein Isolation などの左房に

のみ Maze Procedure を行う術式で手術時間と術後出血

の危険性を低く抑えるという試みも行われている74)75).

以上,慢性心房細動を有する僧帽弁膜症に対して

Maze Procedure などを同時に行うことは推奨される.し

かし,Maze Procedure がなされても洞調律に復帰しない

症例が約 20 % あり,左房径が大きくなると(> 70 mm)

洞調律の復帰率がさらに悪くなるので,それらの症例に

おいては Maze Procedure は不必要な処置になる.した

がって,適応に関してはいまだ議論の余地があり,今後

の推移を見守る必要がある.

1)疾患および病態,予後の概略

(1)疾患および病態

大動脈弁狭窄症(AS)は,大動脈弁の退行変性や先

天性二尖大動脈弁,リウマチ・炎症性変化などによって

大動脈弁の狭窄を生じる病態である.その結果,左室は

慢性的に圧負荷を受け,求心性肥大を呈する.

(2)原 因

メイヨークリニックでの外科切除標本による AS の原

因検索では,退行変性(老人性)が 51 %,石灰化した

先天性二尖大動脈弁が 36 %,リウマチによると考えら

れる炎症性変化が 9 % であった76).より多くの AS 患者

を対象とした年齢別検討では,70 歳以上では退行変性

48 %,二尖弁 27 %,炎症性 23 % に対して,70 歳未満

では二尖弁 50 %,炎症性 25 %,変性 18 % と,比較的

若い年齢層で二尖弁の占める割合が高かった77).1965年

と 1985 年の 2 つの調査時期で AS の原因の変化をみる

と二尖弁,炎症性が減少し,退行変性によるものが増加

していた77).

(3)予 後

1968 年の Ross と Braunwald の報告78)では男性の後天

性 AS の死亡年齢は平均 63 歳で,狭心症が出現してか

らの平均余命は 5年,失神では 3年,心不全では 2年で

ある(図4).死因として多い突然死は主としてこれら

の症状のある患者に見られ,無症状の患者では 3~5 %

にすぎない.したがって,これらの症状のある重症の

AS 症例では,可及的早期に手術を行うというのが一般

的である.また,無症状であっても血行動態的に重症の

AS(最高血流速度4.0 m/s 以上)では 2 年以内に心事故

を発生することが多く79),注意深い経過観察を必要とす

る79)80)が,無症状である間は突然死の危険は高くないと

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021276

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表22 予後に影響を与える術前因子

1 術前の左室機能

2 術前の NYHA 心機能分類

3 心房細動

4 冠動脈疾患合併

5 手術術式(MVR vs 形成術)

慢性心房細動とMaze Procedure

Ⅰ-5Ⅰ-5

大動脈弁疾患Ⅱ

大動脈弁疾患における術前診断と評価

Ⅱ-2Ⅱ-2

大動脈弁狭窄症(AS)1

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いう79).無症状かつ軽症ないし中等症の AS においては,

手術自体のリスクと人工弁に起因する合併症の発症のバ

ランスを考慮して通常は内科的に経過観察を行う.

2)各診断法の意義と重要度

理学所見(遅脈や,頸部に放散する胸骨右縁第 2~3

肋間の荒い収縮期駆出性雑音),心電図の左室肥大など

で AS が疑われたときは,まず断層心エコー法により81),

本症に特徴的な所見(エコー輝度の増強した大動脈弁,

大動脈弁の開放の制限や収縮期のドーミング,左室の求

心性肥大,上行大動脈基部の拡大 post-stenotic dilatation

など)を検出する.次に,連続波ドプラ法で大動脈弁レ

ベルでの最大圧較差を求めて AS の重症度を診断す

る81)-83).心エコー・ドプラ法からみた軽度,中等度,高

度 AS を弁口面積,連続波ドプラによる最高流速,簡易

ベルヌイ式による圧較差としてまとめると,表 23 のよ

うになる1)83)84).連続波ドプラ法による圧較差は大動脈

弁逆流や左室機能低下などがあると不正確になるので,

その場合には圧較差による重症度評価に加えて,連続の

式による弁口面積81)85)あるいは断層像上での弁口面積の

計測も行われる.後者の場合,硬化の強い弁では経胸壁

心エコーでは計測が困難な場合もあり,経食道心エコー

法を用いた弁口面積の計測86)が有用なこともある.

軽症または中等症で無症状の AS では非侵襲的に連続

波ドプラ法で経過観察を行なう87).すでに AS による症

状がある場合には,連続波ドプラ法で重症 AS と診断さ

れれば冠動脈疾患の好発年齢である中年以降(40 歳以

上)の症例に対し手術前に冠動脈造影を行うだけで手術

実施を検討88)してよい.理学所見や症状が重症 AS を示

唆するにもかかわらず,連続波ドプラ法で求めた圧較差

や弁口面積が重症でない場合には詳細な血行動態評価の

ために心臓カテーテル検査が必要である1)(表 24).

左室機能低下例(左室駆出率(LVEF)< 50 %)や大

動脈弁逆流がある場合には,ドプラ法による評価が必ず

しも正確に重症度を反映しない場合があるので,診断の

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1277

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

100

80

60

40

20

0 40 50 60 63 70

0 2 4 6

80

年齢(歳)�

生存率(%)�

無症状期��(狭窄の進行,�心筋の過負荷)�

重症な自覚症状�の出現�

狭心症�

失神�心不全�

平均生存期間(年)�

平均死亡年齢�(♂)�

図4 AS の自然歴

表23 AS の重症度

連続波ドプラ法に 簡易ベルヌイ式によ弁口面積 よる最高血流速度 る収縮期最大圧較差(cm2) (m/s) (mmHg)

軽 症 >1.5 <3.0 <36

中等症 1.5~1.0 3.0~4.0 36~64

重 症 ≦1.0 ≧4.0 ≧64

表24 AS の治療方針を判断する上での診断的手法の実施

1 心電図検査 Ⅰ

2 胸部 X 線写真 Ⅰ

3 心エコー・ドプラ法 Ⅰ

4 心臓カテーテル検査(含 冠動脈造影) Ⅱa

5 経食道心エコー法 Ⅱb

6 心プールシンチグラフィー Ⅱb

7 DSA による左室造影 Ⅱb※弁口面積の重症度は文献1)による.但し,体格の小さな患

者では,0.75cm2以下を重症とする報告もある.

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確定のために心臓カテーテル検査を行う.狭窄の著しい

大動脈弁口部にカテーテルの挿入が困難な例では時間を

かけてカテーテル挿入を試みることはせず,連続波ドプ

ラ法による大動脈弁口圧較差の評価と,肺動脈内造影剤

注入での digital subtraction angiography(DSA)による左

室造影または心プールシンチ法で左室機能を評価する.

また,大動脈弁閉鎖不全症(AR)を合併する時はその

診断に心エコー・ドプラ法や大動脈造影が有用である

(表 24).

3)外科治療の適応に関する判断のポイント

AS では,狭心症,失神,あるいは心不全という臨床

症状の出現した時点で手術の絶対適応と考えられる.通

常,これらの症状が出現するまでには長い無症状の期間

があるが,無症状の AS においては突然死は稀であり,

突然死の前にはしばしば狭心症などの症状が認められ

る79)という.無症状の AS の生存率は健常群と差がなく,

AS による症状の出現は 1 年で 14 %,2 年で 38 % であ

った79).したがって,無症状の AS での大動脈弁人工弁

置換術(AVR)では開心術自体の危険率も考えるべき

で,AVR の至適時期決定のためには,心エコー法によ

る左室機能評価と連続波ドプラ法による注意深い観察を

行う必要がある.圧較差が軽度であれば 1~2 年毎に,

高度であれば症状の出現に注意しながら 3~6 か月おき

に心エコー法と連続波ドプラ法による評価を行う.一方,

AS による症状が出現した時には,たとえ狭窄が中等度

でもその時点で手術適応を考慮すべきである.

最近では,人口の高齢化に伴い 70 および 80 歳台の

AS 患者が増加しているが89)90),これら高齢者に対する

AVR の手術適応は,患者の身体活動度,精神状態,お

よび一般的な生活の質を含め,手術のリスクと術後の予

後を考慮して決定する.患者の年齢と実際の身体状況が

一致しない時には実際の年齢よりも身体状況を重視す

る.高齢者に対する AVR は手術手技,麻酔,心筋保護

などの進歩により近年成績が向上して来ているが,術前

の心機能低下例や,高齢者ゆえ合併の多い冠動脈疾患の

ために冠動脈バイパス術の追加が必要な症例では手術死

亡率が高い89).AVR 単独の手術例では NYHA 心機能分

類が重症なほど手術死亡率が高い90)と報告されている.

4)まとめ

AS の治療における最重要ポイントは,「いつ外科的

治療(手術)にふみきるか」ということである.手術の

目的は,1)症状と運動制限の改善,2)左室機能の保護,

および 3)生命予後の改善である.これらの目的を達す

るためには,手術自体のリスクもふまえて,患者の年齢

や全身状態,内科的治療による場合の予後と外科的治療

後の予後のバランスを十分に考慮したうえで手術適応を

決めなければならない.

1)疾患および病態,予後の概略

(1)疾患および病態

大動脈弁閉鎖不全症(AR)は種々の原因により大動

脈弁の逆流を生じ,拡張期の左室容量負荷を生じる.

AR は弁自体に原因がある場合と,大動脈基部の異常に

よる場合がある.AR はまた,病態の発症と進行状況に

よって,慢性 AR と急性 AR が区別される.

(2)原 因(表 25)

大動脈弁自体の病変による AR の原因として,リウマ

チ熱,老年者の石灰化大動脈弁,感染性心内膜炎,外傷

性,先天性二尖大動脈弁,心室中隔欠損,粘液腫様変性,

先天性四尖大動脈弁,全身性エリトマトーデス,慢性関

節リウマチ,強直性脊椎炎,高安病(大動脈炎症候群)

などがある91).また,大動脈基部の異常のために AR を

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021278

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

大動脈弁閉鎖不全症(AR)2

表25 AR の原因

¡大動脈弁自体の病変・リウマチ熱・老年者の石灰化大動脈弁・感染性心内膜炎・外傷性・先天性二尖大動脈弁・心室中隔欠損・粘液腫様変性・先天性四尖大動脈弁・全身性エリトマトーデス・慢性関節リウマチ・強直性脊椎炎・高安病(大動脈炎症候群)

¡大動脈基部の異常・加齢による大動脈拡大・嚢胞性中膜壊死(Marfan 症候群)・大動脈解離・骨形成不全症・梅毒性大動脈炎・強直性脊椎炎・ベーチェット病・乾癬性関節炎・潰瘍性大腸炎関連の関節炎・再発性多発軟骨炎・Reiter 症候群・巨細胞性動脈炎・高血圧症・ある種の食欲抑制薬

Page 19: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

生じる病態として,加齢による大動脈拡大,嚢胞性中膜

壊死(孤立性および,古典的 Marfan 症候群),大動脈解

離,骨形成不全症, 梅毒性大動脈炎,強直性脊椎炎,ベ

ーチェット病,乾癬性関節炎,潰瘍性大腸炎関連の関節

炎,再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis),Reiter

症候群,巨細胞性動脈炎, 高血圧症,ある種の食欲抑制

薬等がある91).

上記のうち,とくに急激な症状経過をとる急性 AR の

原因として,大動脈解離や感染性心内膜炎,また,外傷

による大動脈弁の障害がある.

(3)予 後

急性の AR では,通常,左室拡大は明らかではなく,

慢性 AR のようには左室コンプライアンスは未だ増加し

ていない.そのため,拡張期半ばで左室圧は左房圧を凌

駕し,僧帽弁早期閉鎖やそれに続く拡張期僧帽弁逆流を

生じうる.左室拡張末期圧は上昇する.通常,著しい前

方拍出低下とともに肺水腫あるいは心原性ショックを生

じる.もし,元来コンプライアンスの低下した圧負荷肥

大心に急性 AR が生じたとすれば,とくに重篤な血行動

態の悪化を生じうる.たとえ,集中治療を行ってもこれ

に反応しない場合も多く,原因治療のためにも時期を逸

することなく早期の外科治療が推奨される.

一方,慢性 AR では,原因によらず逆流を受ける左室

は拡大を伴う遠心性肥大を生じ,比較的長期にわたって

無症状に経過する.多くは中年期以降に有意な心拡大や

左室機能の低下を生じる.左室収縮能が正常の無症状

AR 患者についての大規模研究は存在しないが,Bonow

ら1)は複数の臨床研究を表 26 のようにまとめて報告し

ている.

2)各診断法の意義と重要度

(1)急性AR

(a)理学所見・心電図・胸部 X 線写真

急性 AR は重篤感が強く,末梢血管の収縮が著しく,

チアノーゼも見られるが,慢性 AR でみられる特徴的理

学的所見に乏しく,AR 重症度を過小評価する可能性が

ある.慢性 AR では特徴的な拡張期雑音も急性 AR では短

く,音も小さく,気づかれにくい.しかし,前方拍出低

下を代償するための頻拍は必ず存在する.左室は,正常

大の可能性があり,胸部 X 線写真で肺うっ血を認めて

も初期には心拡大は必ずしも指摘できないことがある.

(b)心エコー検査・X 線 CT・心臓カテーテル検査・そ

の他

心エコー検査では AR の重症度と原因を確認し,三尖

弁逆流があれば肺高血圧の程度を評価する.連続波ドプ

ラ AR シグナルの圧半減時間の短縮(300 ms 以下),僧

帽弁血流速E波の減速時間の短縮(150 ms 以下),僧帽

弁の早期閉鎖等の所見により,大動脈拡張期圧と左室拡

張期圧の差が速やかに小さくなる現象を確認する81).大

動脈解離により生じた急性 AR は速やかに外科的処置が

必要であり,大動脈解離が疑われる時には造影 CT や経

食道心エコー検査の実施を考慮する92).それでも診断が

不確実な時には,患者の血行動態の安定性を考慮しつつ

心臓カテーテル検査,大動脈造影,及び,冠動脈造影を

行う.患者の全身状態にもよるが,心エコー法で診断が

つかず,血管造影も実施しない時には CT の他に MRI

による検査も考慮する93)94).

(2)慢性 AR

(a)理学所見・心電図・胸部 X 線写真

慢性の重症 AR は,普通,拡張期雑音と心尖拍動の外

側変位,脈圧の増大と,これによる末梢での特徴的所見

(de Musset sign,Corrigan pulse,Traube sign,Quincke

sign など)によって気づかれる.Ⅲ音もしばしば聞かれ

るが,必ずしも心不全を示すものではない.心尖部で聴

取される Austin-Flint ランブルは,重症 AR の特徴的所

見である.胸部 X 線および心電図は,心臓の大きさ,

調律,左室肥大および伝導障害の評価に役立つ.

(b)心エコー検査・心臓カテーテル検査・その他

心エコー検査は,AR の診断を確認するために実施さ

れる.大動脈弁の形態と AR の原因,重症度の半定量的

評価,左室径,心筋重量,収縮能を評価し,また,大動

脈基部径を評価する.カラー・ドプラ法による AR シグ

ナルの表示面積や幅による AR 重症度の半定量評価の

他,連続波ドプラ AR シグナルの圧半減時間の計測95)や,

下行大動脈の逆転波96),AR の収縮帯の幅97)なども参考

にする.

重症 AR の患者でも無症状で活動的な生活を送れてお

り,心エコー検査で十分な情報が得られればフォローア

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1279

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表26 AR の自然歴 1)

1 左室収縮機能正常の無症状 AR 患者・症状の発現 and/or 左室機能障害の出現 <6.0%/pt-yr・無症状だが左室機能障害が出現 <3.5%/pt-yr・突然死 <0.2%/pt-yr

2 左室収縮機能低下のある無症状 AR 患者・心症状の発現 >25%/pt-yr

3 症状のある AR 患者・死亡率 >10%/pt-yr

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ップには他の検査は不要である.重症 AR で,活動に制

限があるか,症状があいまいな時には,運動負荷試験に

よる血行動態の評価が有用である98)-100).心エコー検査

による左室機能評価が困難な時には,安静時の LVEF を

評価するために心プール・シンチグラフィーや高速

CT,MRI,場合によっては観血的であるが左室造影が

有用である.初回評価時にすでに AR による症状がある

が,心エコー検査で左室機能または AR の重症度が評価

困難な時には,大動脈造影を含む心臓カテーテル検査を

行ない正確な重症度評価,心機能を知る必要がある(表

27).

3)外科治療の適応に関する判断のポイント

急性 AR では,その原因疾患からみても,内科的に心

不全のコントロールが困難な状況下で生じており,外科

的治療の適応について早急に検討する必要がある.

慢性 AR では,AR 重症度と,症状の有無,左室の大

きさと収縮機能が治療法選択のための重要な情報とな

る.代償期には内科治療を継続しながら,症状と心エコ

ー検査の定期的フォロー・アップを行ない,左室機能が

低下する前に手術(AVR)を行うことが予後の改善に

つながると考えられている.

従来,症状のある慢性 AR では収縮末期径(LVDs)

が 55 mm を超え,かつ, % FS が 25 % 未満の症例は術

中術後の予後が不良101)で,そうなる前に手術を行うこ

とが勧められていた.現在でも術前の心機能障害の程度

が術後の予後の指標となるという考えは有用であるが,

国外では LVDs が 55 mm を超えても必ずしも術後の経過

不良を意味するものではないという報告102)-104)もある.

しかし,一方では,術中術後の予後改善を期待する時,

より早期の手術を推奨する報告もある.例えば,重症の

慢性 AR(3 度または 4 度)で,ハイリスク群((1)

NYHAⅢ-Ⅳの症状,(2)NYHAⅡの症状,(3)LVEF <

55 %,または(4)LVDs/BSA ≧ 25 mm/m2)では,よ

り早期の手術を推奨する報告105)や,心筋の病理組織学

的検討から心筋間質の線維化が進行する前の時期の手術

を推奨する報告106)もある.しかし,具体的な数値基準

は LVDs をはじめ,これを BSA で除した値(LVDs/

BSA)の使用についても,本邦でも適切に使用できるか

どうかについての十分な根拠はない.

また,無症状の AR 患者では,LVDs が軽度拡大まで

の場合は年 1 回,LVDs が中等度拡大では 4~6 か月毎

にフォロー・アップの心エコー検査を行いつつ内科治療

を継続し,LVDs が高度拡大に至れば,たとえ無症状で

あっても手術が勧められるという報告もある107).ただし,

胸痛,動悸,失神,それに労作時呼吸困難,起座呼吸,

発作性夜間呼吸困難など AR による症状を生じた場合に

は「症状出現」として手術適応の再評価が必要である.

慢性重症 AR の患者管理の例を ACC/AHA ガイドラ

イン1)から引用する(図 5).

4)まとめ

慢性の重症 AR では,長い経過の中で最適な手術時期

はいつなのかを決定することが最も重要かつ困難な問題

である.また,外科的治療の適応については単なる生命

予後の改善だけでなく,生活の質も含めた予後の改善が

望まれる時代となっている.

1)疾患および病態,予後の概略 

AS と AR 合併の場合,その病態生理は優勢な病変の

それに類似する.例えば,重症 AS と軽症 AR を合併す

る患者では,その病理生態は重症 AS に類似し,左室に

は拡張ではなく求心性肥大が生じる.中等度以上の AS

と中等度以上の AR を合併する患者では,同じ弁口面積

の AS 単独の場合と比較して左室-大動脈圧較差は高値

となる.これは AR によって収縮期の左室駆出血流量が

増加することにより生じる.また AS による求心性肥大

でコンプライアンスが低下した左室に AR による容量負

荷が加わるため,それぞれ単独の場合より容易に左室拡

張末期圧の上昇をきたす.どちらの病変も単独では手術

の適応とみなすほど重症でない程度でも,合併すると大

動脈弁置換術(AVR)を必要とすることがある.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021280

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表27 AR の治療方針を判断する上での診断的手法の実施

1 心電図検査 Ⅰ

2 胸部 X 線写真 Ⅰ

3 心エコー・ドプラ法 Ⅰ

4 心臓カテーテル検査(含 冠動脈造影) Ⅱa

5 大動脈造影 Ⅱa

6 経食道心エコー法 Ⅱb

7 心プールシンチグラフィー Ⅱb

8 運動負荷試験 Ⅱb

9 CT Ⅱb

10 MRI Ⅱb

大動脈弁狭窄症兼閉鎖不全症(ASR)3

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2)診 断

(1)心エコー法

心エコー法は必須の検査法である.断層心エコー法に

より左室腔の形態を評価することで優勢の病変(狭窄か

閉鎖不全か)を決定できる.AR の重症度評価について

は心エコー・ドプラ法により AR 単独の場合と同様に大

動脈弁逆流量,逆流率を求めることができる.AS の重

症度評価について,連続の式による大動脈弁口面積の算

出は AR の存在の影響を受ける.すなわち,AR により

収縮期の左室駆出血流量が増加するため,大動脈弁口面

積はより大きく算出される108).また,前述のように同じ

弁口面積の AS 単独の場合と比較して左室-大動脈圧較

差は高値となる.

(2)心臓カテーテル検査

大動脈弁口面積は心臓カテーテル検査時に総大動脈弁

口血流量と弁口圧較差から求めることができるが,AR

が合併する場合には,標準的な順行心拍出量測定値(熱

希釈法,Fick 法など)は,順行血流と逆行血流の差で

あるので,これを一回総拍出量として計算すると,弁口

面積はより小さく算出される.熱希釈法による心拍出量

の代わりに左室造影上の 1回総拍出量(拡張末期容積―

収縮末期容積)を用いる方法もある.これは理論的には

妥当な方法であるが,至適基準と比較した臨床的検証は

なされていない.より正確な大動脈弁口面積は心臓カテ

ーテル検査法よりもむしろ心エコー・ドプラ法により求

められる.

1)PTACの概略

PTAC(percutaneous transluminal aortic commissurotomy)

は経皮的バルーン大動脈弁切開術(percutaneous balloon

aortic valvotomy)や経皮的バルーン大動脈弁形成術

(PTAV: percutaneous transluminal [balloon catheter] aortic

valvuloplasty,あるいは percutaneous transvalvular aortic

valvuloplasty 109)) とも呼ばれる AS の治療法の一つであ

る.経皮的に血管内に進めたバルーン・カテーテルを経

静脈経心房中隔的または逆行性に狭窄した大動脈弁に進

め,狭窄大動脈弁口を通過させ,バルーンを短時間膨ら

ませて AS の重症度を軽減しようとする方法である.

本法による,高齢者の AS 軽減の機序は主には弁尖の

石灰沈着の破砕で,弁輪の伸展や,石灰化あるいは癒合

した交連の裂開もある程度は関与しているという1).

2)成人 AS に対する PTAC の適応基準と判断のポイント

若年者 AS と成人 AS では PTAC の有効性が異なるた

め,先天性 AS に対しては別に適応が定められなければ

ならない.成人 AS で弁の石灰化が高度な例では,第一

選択の治療法は AVR である.成人 AS での PTAC は,

僧帽弁狭窄症(MS)に対する経皮的僧帽弁形成術

(PTMC)とは異なり,術後早期から弁閉鎖不全や再狭

窄などを生じ110),外科手術より長期予後は不良である.

また,調査対象は異なるが,PTAC 治療が行なわれなか

った AS 症例の自然歴111)と比較しても 1 年生存率は同

程度でしかなかった.

以上のことより,成人の重症 AS で待機的に AVR が

実施可能な状況であれば AVR が第一選択となる.しか

し,重症 AS で心原性ショックに陥った状況では AVR

の予後は不良で,AVR よりも外科的侵襲度が低いとい

う意味で救命処置としての PTAC 選択の余地が残され

る112).1998 年の ACC/AHA task force report 1)でも成人

の AS に対する PTAC について,PTAC は AVR の代替

とはならないとしている.それでも PTAC が選択され

る状況として,重症の AS で難治性肺浮腫,または,心

原性ショックの患者で,AVR への橋渡しとして,一時

的に血行動態を改善させる目的などが挙げられてい

る113).

ACC/AHA task force report 1)の成人 AS 患者における

PTAC の適応についての表を引用する(表 28).

3)まとめ

現在,成人 AS に対する PTAC は外科手術のリスクが

高い高齢者や心不全合併例について姑息的な手段として

のみ行なわれている.本邦で多数例を対象にした報告は

少ないが,玉井ら114)の検討では,AS の原因によって

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1281

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

大動脈弁狭窄症に対するPTACの適応

Ⅱ-2Ⅱ-2表28 成人 AS 患者における PTAC のための推奨

1 AVR のリスクが高い血行動態的に不安定な患者において,AVR を前提としたブリッジの役割としての PTAC Ⅱa

2 重大な病的状況を合併している患者における一時しのぎとしての PTAC Ⅱb

3 緊急の非心臓手術外科を必要とする患者 Ⅱb

4 AVR に対する代替 Ⅲ

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PTAC の効果が異なる可能性があり,リウマチ性の AS

では,術前の AS 重症度が他群よりもやや軽く,若年の

傾向はあったが,PTAC により比較的良好な成績が得ら

れたという.

1)外科的治療の適応(表 29)

(1)症候性 AS

狭心症,心不全症状としての呼吸困難,失神などの症

状を認める症例では,手術によって症状は軽快し,生命

予後も改善する.AS 症例にみられる左室駆出率の低下

は狭窄による後負荷の上昇(afterload mismatch)が原因

であり,中等度までの収縮能低下であれば狭窄解除によ

って改善する.冠動脈疾患などAS以外の疾患の合併に

よって心機能が高度に低下している症例を除けば,大動

脈弁置換術は心機能低下例においても生命予後を改善す

る.よって超高齢など臨床的手術禁忌を持たない症候性

AS は,全例手術適応があると考えて良い.高度左室機

能低下のために心拍出量が低下し大動脈弁圧較差が減じ

ている症例では,圧較差が低くても解剖学的に狭窄が存

在すれば手術によって心機能の回復の可能性があるが,

狭窄がなければ高度の心機能障害であり手術禁忌であ

る.以上から,症候性 AS に関しては NYHA,弁圧較差,

弁口面積,左室機能,心電図変化などの検査結果にかか

わらず手術適応があり,手術時期については左室機能か

らの考慮が必要となる(表 30).

(2)無症候性 AS

無症状の AS に対する手術適応については一定の基準

はない.一般的に無症候性 AS 症例に対する手術と術後

の合併症の可能性は内科治療を継続した場合の突然死の

回避と生存率の改善よりも高く手術の臨床的意義は低い

とされている1).一方無症候性であっても突然死の可能

性の高い症例に対しては手術適応があると考えられる.

そのような症例とは,運動耐用能の低下,左室収縮能の

低下,高度の心肥大,高度の AS を認める症例である.

高度の AS を持つ症例が他の心臓外科手術を受ける場合

は,AS の症状の有無にかかわらず大動脈弁置換術を行

うべきである.中等度の AS 症例についてもほぼ同様に

考えてよい.

2)術式とその選択

AS に対する機械弁置換術は耐久性に優れ,成績も安

定した標準術式であると考えられるが,狭小弁輪症例や

高齢者,若年者などでは個々の症例の病態に対応し,か

つ,機械弁の成績を上回る利点が期待されれば生体弁,

ステントレス生体弁,あるいは他の術式の選択が行われ

る(Ⅴ-6生体弁の適応と選択,の項を参照).

狭小弁輪症例に対しては人工弁輪やソーイングカフの

デザインを工夫することによって従来よりも 1サイズ大

きい弁口が確保できる狭小弁輪用人工弁が開発され弁輪

拡大術を必要とする症例は極めて少なくなった.必要と

される人工弁のサイズについて運動負荷時に狭小弁で圧

較差を生じることの報告は多いが,狭小弁の生命予後に

関する報告は少なく,一定の結論は得られていない.し

かしながら,患者の体格と弁輪径が無関係とは考え難く,

患者の体格(体表面積:BSA)とドプラー心エコーで求

めた effective orifice area(EOA)から心筋肥大の改善や

長期生存率の改善のためには indexed EOA(EOA/

BSA)> 0.85 cm2/m2 が必要であるとされている115).日

本人の体格から考えると 21 mm 以上の標準人工弁か 21

mm に相当する狭小弁輪用人工弁であれば大多数の症例

でこの基準を満たすと考えられる.しかし,2 サイズ以

上の大きい弁を必要とする場合,とくに活動性の高い非

高齢者や狭小弁輪を有する低左室機能症例では弁輪拡大

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021282

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

大動脈弁狭窄症に対する手術適応,術式とその選択

Ⅱ-3Ⅱ-3

表29 AS における AVR の推奨

1 症状を伴う重症 AS Ⅰ

2 CABG や他の弁膜症手術,上行大動脈の手術を行う患者で重症 AS を伴うもの Ⅰ

3 CABG や大動脈,あるいは他の心弁膜の手術を行う患者で中等症の AS を伴うもの Ⅱa

4 無症状の重症 AS で・左室収縮機能不全を伴う Ⅱa・運動負荷に対し異常な反応(低血圧など)を示す

Ⅱa・弁口面積が<0.6cm2 Ⅱa・大動脈弁通過血流速度>4.0m/sec Ⅱa・心室頻拍を伴う Ⅱb・著明なあるいは過剰な左室肥大(≧15mm)を伴う

Ⅱb

5 上記 4 .に掲げるいずれの項目も認めない無症状の AS 患者で突然死を予防するための手術 Ⅲ

表30 症候性 AS の手術施行時期

左室機能正常(LVEF≧50%) できるだけ早期に対応

左室機能低下(LVEF<50%) 準緊急手術にて対応

心不全症例 緊急手術で対応

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術116)-118)を考慮する必要がある.

*上行大動脈拡大合併症例における大動脈への同時手術

の適応については,Ⅴ-3 上行大動脈瘤合併弁膜症患

者の手術,の項を参照.

3)術成績と予後(表 31,32)

AS に対する AVR の急性期,慢性期の risk factor とし

て,高齢,緊急手術,CABG との同時手術,左室機能

不全,心不全症状,僧帽弁との同時手術,心房細動,狭

小人工弁の使用,血栓・塞栓症や感染性心内膜炎などの

人工弁関連の合併症,等が指摘されている119)-122).一般

に単独 AVR の手術危険率は 5 % 未満である34)68)が,高

齢者では 70才以上で 3~10 % 前後119)120),80才以上で 5

~15 % とされている121)-125).また,CABG との同時手術

の危険率も AVR 単独に比し高くなり,非高齢者で 5~

10 % 前後34)68)119),80 才以上の高齢者では 10~20 % 前

後と報告121)-125)されている.

4)Controversies

第 2世代の生体弁やステントレス生体弁などの登場に

よって大動脈弁置換術は術式の選択が広がった.脳出血

などの出血性病変や悪性腫瘍手術などの Major Surgery

の機会の多い高齢者にとって,これらの弁の選択が

QOL の向上をもたらすことは疑いのないところである.

ステントレス生体弁は優れた血行動態から高齢者のみで

はなく 40~50 歳代でも適応とするといった意見もある

が,現時点では遠隔成績は未だ不明であり,適応年齢の

拡大は議論の余地があろう.

高齢者の狭小弁輪症例は,心機能の低下や弁輪から

Valsalva 洞,大動脈に至る石灰化を伴うことがありこの

ような症例では狭小弁輪用機械弁で手術侵襲の低い手術

とするか,ステントレス生体弁を用いたり,弁輪拡大術

を行って血行動態の改善を求めていくかに意見が分かれ

るところである.

5)まとめ

AS の外科治療では,適切な時期に患者の QOL を最

も改善しかつ良好な遠隔成績を得られる術式の選択が重

要である.

1)手術適応(表 33)

基本的に,大動脈弁または大動脈弁輪の形態学的異常

により,高度(Ⅲ~Ⅳ度)の弁逆流を呈する患者につい

て手術の必要性が検討されるが,中等度の弁逆流であっ

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1283

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表32 予後に影響を与える因子

1 高齢

2 緊急手術

3 低左室機能

4 心不全症状

5 CABGとの同時手術

6 僧帽弁との同時手術

7 心房細動

8 狭小人工弁の使用

9 人工弁関連の合併症

表31 AS に対する AVR の手術危険率

1 単独 AVR 非高齢者 <5%高齢者(≧80才) 5~15%

2 CABG との同時手術 非高齢者 5~10%高齢者(≧80才) 10~20%

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の手術適応,術式とその選択

Ⅱ-4Ⅱ-4

表33 AR の手術適応についての推奨

1 胸痛や心不全症状のある患者(但し,LVEF>25%) Ⅰ

2 冠動脈疾患,上行大動脈疾患または他の弁膜症の手術が必要な患者 Ⅰ

3 感染性心内膜炎,大動脈解離,外傷などによる急性 AR Ⅰ

4 無症状あるいは症状が軽微の患者で,・左室機能障害(LVEF 25~49%)があり,高度の左室拡大(脚注)を示す Ⅰ・左室機能障害(LVEF 25~49%)があり,中等度の左室拡大(脚注)を示す Ⅱa・左室機能正常(LVEF≧50%)であるが,高度の左室拡大(脚注)を示す Ⅱa・左室機能正常(LVEF≧50%)であるが,定期的な経過観察で進行的に,収縮機能の低下/中等度以上の左室拡大/運動耐容能の低下を認める Ⅱa・左室機能正常(LVEF>50%)であるが,軽度以下の左室拡大(脚注)を示す Ⅱb

5 高度の左室機能障害(LVEF<25%)のある患者 Ⅱb

6 全く無症状で,かつ左室機能も正常で左室拡大も有意でない Ⅲ

注)左室拡大の程度は体格を考慮する必要がある.エビデン

スに基づく確定的な判定法は現在のところないが,左室

を回転楕円体として拡大が長軸と短軸方向に均等に進行

すると仮定した場合,表 34 がひとつの目安となると考え

られる.

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ても,他の弁膜疾患や冠動脈疾患,上行大動脈疾患など

に対して手術が必要な場合には,同時に大動脈弁の手術

も考慮されることがある.

高度大動脈弁逆流(心エコーで severe AR)を呈する

患者について AR の手術適応を決定する際に考慮すべき

因子を列挙すると,臨床症状1),左室機能105)127)128),左

室拡大105)129),さらに年齢,他疾患の合併などである.

本症の手術では,体外循環と心停止が必須であり,これ

らを安全に施行することが可能であり,術後数年以上の

生存や症状改善による生活の質(QOL)の向上が期待

できることが条件となるのは云うまでもない.

(1)自覚症状の有無からみた手術適応とそのタイミング

従来,AR の手術適応については,手術の risk および

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021284

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

慢性の重症 AR

再評価�

症状なし� 症状出現�

異常�

初回の検査?�

いいえ� はい� はい� いいえ,または�初回の検査�

#3

臨床評価 6 か月毎�心エコー 4~6 か月毎� 正常�

臨床評価 6-12 か月毎�心エコー 12 か月毎�

臨床評価 6 か月毎�心エコー 12 か月毎�

3 か月後�再評価�

3 か月後�再評価�

臨床評価+心エコー�

症状はあるか?�

左室径は #4

不明瞭�

運動負荷 #1

核医学検査など #2

運動に対する血行動態的�反応を考慮�

ない� ある�

AVR

正常EF�(EF≧50%)�

境界域のEF�または判定困難�

EF低下�(EF<50%)�

安定しているか?�

LVDs > 55 mm�または�

LVDd > 75 mm

LVDs < 45 mm または�LVDd < 60 mm

LVDs 45-50 mm または�LVDd 60-70 mm

LVDs 50-55 mm または�LVDd 70-75mm

心エコーでの左室機能は?�

図5 慢性重症ARの管理計画(重症 AR:3~4度の逆流)

基本的には症状と心エコー検査で経過を追う.#1:臨床症状に乏しい場合には運動負荷時に症状の確認を行うという選択もある.#2:臨床所見と心エコー検査所見に隔たりがある時や,境界域の EF の場合には核医学検査や超高速 CT,MRI,左室造影や血管造影を含む心臓カテーテル検査が有用である.

#3:左室の中等度拡大の場合には運動負荷時の反応を見るのも有用である.#4:左室径については欧米での報告をもとに記述した.しかし,体格の小さな患者では,慎重な臨床的判断により,より小さな値の適用を考慮する必要もある.

LVDd=左室拡張末期径,LVDs=左室収縮末期径.

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術後の代用弁および抗凝固療法に関連する合併症の risk

等を考えて,臨床症状の有無が最も重要視されてきた.

すなわち,臨床症状の出現あるいはその増悪を待って手

術が行われるのが一般的であった.最近でもその考えを

支持する報告がみられる126).

AR に伴う臨床症状(NYHA 心機能分類Ⅲ~Ⅳ度)の

ある患者は,一般に手術適応である99)101)126)130).ただし

高度左室機能障害(LVEF < 25 %)を呈する症例につ

いては,手術成績および術後の症状改善,生命予後も比

較的不良といわれる101)131)132).症状が曖昧ないし軽微

(NYHA 心機能分類Ⅱ度)の患者については,慎重に手

術適応を検討する必要があり,症状の出現に大動脈弁逆

流以外の因子が関与していないかを十分検討することが

重要である.また運動負荷試験や一定期間の心エコー検

査による観察も有用な情報を提供する.その結果,左室

収縮機能の低下(LVEF < 50 %)或いは中等度以上の

左室拡大(LVDs > 50~55 mm,または LVDd > 70~

75 mm)の進行などが認められた場合はその時点で手術

適応が考慮される99)107)129).一方,無症状(NYHA 心機

能分類Ⅰ度)の患者に対する手術適応については,これ

まで多々議論がなされてきた.一般に左室拡大が軽度で

左室収縮機能も正常(LVEF > 50 %)の場合には,直

ちに手術適応とはされず,心エコー検査による経時的な

評価が行われる.そして経時的な心エコー検査で,左室

収縮機能の障害(LVEF < 50 %)が認められた場合に

は,その時点でたとえ無症状であっても手術が考慮され

る99).ただし LVEF > 50 % であっても,高度の左室拡

大(LVDs ≧ 55 mm,または LVDd ≧ 75 mm)が認めら

れれば,後述の如くその時点で手術適応が考慮される99)

133).症状の出現や日常活動の制限,運動耐容能の低下な

どが認められるようになれば,「症状出現」として,す

みやかに手術が勧められる.

(2)左室機能からみた手術適応とそのタイミング

AR では,左室の代償機序により比較的長期にわたっ

て無症状に経過し,前述の如く左室機能とくに収縮機能

が低下し始めるのと併行して症状も出現すると一般的に

考えられてきた.しかしながら,無症状あるいは症状の

軽微な時期に,すでに不可逆的な心筋障害をきたしてい

る症例が少なからずあり,その左室心筋障害例の手術成

績が比較的不良であること101)131)132),術前左室機能障害

の術後改善性に限界があることが明らかにされ134)135),

より早期の手術が勧められるようになっている.すなわ

ち,左室収縮機能障害のおこる以前に手術(AVR)を

行うことが予後の改善,術後QOLの向上につながると

考えられる.したがって,心エコー検査,核医学検査

(心プール・シンチグラフィー),MRI などの非侵襲的

検査にて測定した左室機能が軽度または中等度低下

(LVEF 0.25~0.49)を呈する患者は,症状の有無に関わ

らず手術適応が考慮される128)133).ただし NYHA 心機能

分類Ⅳ度の症例では術後左室機能回復に限界があり,年

齢,術後 QOL 改善の可能性なども考慮して手術適応の

可否が判断されるべきである.一方,先述のとおり左室

機能障害が高度(LVEF < 0.25)の患者は,大半の症例

で左室心筋は不可逆性変化をきたしており132),手術直後

または比較的早期に死亡することが多いと報告されてい

る.しかし,このような症例でも内科治療単独よりも外

科治療の生命予後が比較的良好である可能性がある131).

他方,無症状でかつ左室収縮機能が明らかな低下を示さ

ず EF が正常値下限の場合には,複数回の測定や,心エ

コー以外の検査による測定を行いながら,運動耐容能や

左室拡大の進行具合なども考慮して総合的に手術タイミ

ングを決定するのが一般的である.

(3)左室拡大からみた手術適応とそのタイミング

左室拡大の程度は体格を考慮して判断することが望ま

しい.ここでは,欧米からの報告をもとに以下の通りま

とめたが,本邦の AR 患者では“AR に対する弁置換術

の適応”の脚注の数値を目安(表 34)として,左室拡

大の程度を判定するのが実際面で合理的であろう.

代償期にある慢性 AR では容量負荷により進行性に左

室の拡大が続くが,左室全体としての収縮機能は長期間

にわたって正常に維持され,臨床的にも無症状に経過す

る.病期が進み左室の拡大があるレベルを超えて高度に

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1285

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表34 体格を考慮した AR における左室拡大の程度

LVDs(mm) LVDd(mm)

体表面積(BSA) 1.4 m2 1.7 m2 2.0 m2 1.4 m2 1.7 m2 2.0 m2

高度左室拡大 >48 >52 >55 >65 >70 >75

中等度左室拡大 43~48 47~52 50~55 60~65 65~70 70~75

軽度左室拡大 <43 <47 <50 <60 <65 <70

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なると,代償機転が破綻し収縮機能が低下し始める.最

近では術後予後および左室機能の改善性または可逆性と

の関連で,術前の臨床症状よりも左室拡大の程度がより

重要な独立した因子(predictor)であるとの報告が多く

みられる.左室拡大の程度からみた手術タイミングにつ

いて要約すると以下の通りである.

a)左室高度拡大(LVDs > 55 mm,または LVDd > 75

mm)では,症状の有無,LVEF の如何によらず手術適

応である99)101)107)130).しかし,高度拡大で LVEF 低下

や症状が出現した場合は術後予後が不良であるため,

拡大が高度となる前に手術することが勧められる.

b)左室中等度拡大(LVDs 50~55 mm,または LVDd

70~75 mm)では,症状の出現進行があれば手術適

応が考慮される99)129).また無症候で,LVEF が正常

であっても,3~6 ヶ月毎に心エコー検査を実施し,

運動耐容能の低下136)や LVEF の低下が認められれば

手術適応とされる.

c)左室軽度拡大(LVDs < 45~50 mm,またはLVDd

< 60~70 mm)では,無症状で左室機能が正常に保

たれている場合は,内科治療が奏功するため,直ち

に手術は勧められない.但し,定期的に心エコーを

実施し,症状が出現したり,LVEF が低下した場合

や左室拡大が進行する場合は手術適応とされる.

(4)その他の因子と手術適応

a)冠動脈疾患,上行大動脈疾患または他弁膜の手術が

必要な場合は手術適応である.

b)運動負荷試験で明らかな運動耐容能の低下がある場

運動負荷試験は症状の疑わしい患者では有用な情報

を提供する.但し,運動負荷に対する LVEF の低下

のみでは判定できない.

c)急性か慢性か

感染性心内膜炎,大動脈解離,外傷などによる急性

大動脈弁逆流で,肺高血圧,肺うっ血,心室性不整

脈,ショックなどを呈した場合には,速やかに手術

が施行されないと予後不良である.

2)術式とその選択

AR に対する術式は弁置換術と弁修復術に大別される

が,大部分の症例で弁置換術が行われる.現時点に於い

て,成人の慢性大動脈弁閉鎖不全症に対する弁修復術は

一般的でなく,手術成績,遠隔成績に関する情報が少な

いため本稿では省略する.代用弁は機械弁と生体弁に大

別されるが,65 歳未満の非高齢者,すでに,他弁位に

機械弁が置換されている場合,透析患者などで機械弁が,

高齢者,ワーファリンが使用しにくい症例などで生体弁

が適している(代用弁の選択については別項を参照).

生体弁では,血行動態的にも有利なステントレス生体

弁137)が導入され,AVR に加えて基部再建にも用いられ

るようになったが,現時点では長期遠隔成績は明らかで

はない.また,自己肺動脈弁を用いた Ross 手術138),凍

結保存同種弁139)も血行動態的に優れ感染にも抵抗性を

有し,主に大動脈基部再建に用いられているが,前者で

は肺動脈弁の再建も要し手術侵襲が大きいこと,後者で

は本邦では入手しにくいことが問題点となり,多くの施

設ではその適応は限られている.

3)手術成績と予後

大動脈弁置換の在院死亡率は欧米の報告では 3~5 %

とされているが,本邦と異なり,冠動脈疾患の合併が多

いのが特徴である.本邦では日本胸部外科学会の調査報

告で,1998~9 年の大動脈弁単独置換は 6736 例で在院

死亡 265例であり,3.9 % の死亡率であった34).

遠隔生存率は術後 5 年で 70~80 %,術後 10 年で 60

% 程度とされている報告が多いが,虚血性心疾患の合

併の少ない我が国では術後 10 年で 90 % 前後との報告

も少なくない140)141).遠隔死亡の主な原因は心不全,突

然死,心筋梗塞および代用弁関連の合併症などであり,

表 35のごとく遠隔死亡の術前予測因子(predictor)が

報告されている103)142).

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021286

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表35 遠隔死亡と関連のある術前予測因子(predictor)

1 心エコー法・左室内径短縮率(FS)<27%・左室収縮末期径(LVDs)>50~55mm

または25~27mm/m2

・左室拡張末期径(LVDd)>70~75mmまたは35~38mm/m2

・左室拡張期半径/壁厚(R/Th)>3.8または収縮期血圧X拡張期半径/壁厚

(SBP×R/Th)>600

2 心カテーテル・アンギオ法・心係数<2.2 l/min/m2

・肺毛細管契入圧>12 mmHg・左室駆出率<50%・左室収縮末期容積指数>90~200 ml/m2

・左室拡張末期容積指数>200~300 ml/m2

3 その他・NYHA 心機能分類 Ⅲ-Ⅳ度・運動耐容能低下・左室肥大(心電図)・EF RIアンギオ<45%・女性

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4)Controversies

慢性 AR の適切な手術時期の決定については現在でも

議論のあるところである101)-104).重症 AR で自覚症状を

伴えば手術の良い適応であり,かつて左室 LVDs > 55

mm かつ %FS < 25 % の症例は予後不良101)と報告され

たが,前述の如くこの条件に該当しても必ずしも予後不

良とは限らないとの意見もある.また,術前の NYHA

心機能分類のⅢ,Ⅳ度が独立した術後の予後決定因子で

あり126),NYHA 機能分類Ⅰ,Ⅱ度のより早期の手術が

予後を改善する可能性があるとも報告されている105).

一方,重症 AR でも自覚症状のない場合には,一般的

には症状が出現するまで安全に待てるという最近の報告

がある129).しかし,症状が出現した時にはすでに心機能

低下が著しく手術時機を逸している場合もあり,これを

避けるためにはやはり定期的フォロー・アップが重要で

あり,LVDs の拡大や左室収縮能の低下を認めた場合に

はたとえ無症状でも手術が勧められるという107).このよ

うに無症状の AR に対する手術適応については統一的見

解が確立していないのが現状である.

なお,これまで手術適応の判定に用いられてきた数値

基準は,主に欧米人の男性患者のシリーズでの成績に基

づくものであり,欧米人でも体格の小さな女性において

前述の Ds > 55 mm,EF < 55 % の“55ルール”を手術

適応の指針とした場合には,その遠隔予後は男性に比し

不良であったという報告もあり143),平均的に体格の小さ

な日本人を対象にした場合,本邦でも欧米で得られた数

値をそのまま適用してよいかどうかについては今後も検

討が必要である.

AHA/ACC の AR での高度左室拡大を Ds > 55 mm

とする根拠となった論文の対象患者の平均 BSA が 2.0

m2 であり,また,日本人の平均 BSA が 1.6~1.7 m2 で

あることより,本稿では,体格の小さな患者の基準を体

表面積の 2.5 乗の比を用いて算出してみた.左室を回転

楕円体として拡大が長軸と短軸方向に均等に進行すると

仮定して算出しているが,無症候性 AR の左室拡大を示

すひとつの指標になりえるかと考える(表 34).

手術適応を最終的に決定する場合にもうひとつの大き

な問題は手術リスクである.当該施設での手術成績も考

慮に入れて最終的に手術を決定すべきであろう.

1)病因と病態

三尖弁膜病変には三尖弁逆流,三尖弁狭窄,先天性三

尖弁閉鎖不全症があるが,器質的に生じることは稀で多

くは機能的に生じる.三尖弁疾患は血行動態的には狭窄

と逆流に分けられるが,正常三尖弁に機能不全が生じる

と,その結果,血行動態異常はほとんどが逆流を示す.

これは収縮期,拡張期の右室圧上昇,右室腔拡大,三尖

弁輪拡張と同時に起きる.

(1)三尖弁狭窄(tricuspid stenosis:TS)

(a)病因:TS の原因は大部分がリウマチ性で,単独に

存在することはきわめて稀であり,僧帽弁膜症に合

併することが多い.リウマチ性三尖弁障害により通

常は狭窄症と閉鎖不全症の両方が生じる.

(b)症状と身体所見:拡張期に右室への流入障害が生じ

るため,右房圧・静脈圧は上昇し,食欲不振,嘔気,

嘔吐,肝腫大による右上腹部痛が出現し,また低心

拍出量のため易疲労性が出現する.身体所見として

は,頸静脈怒張,肝腫大,腹水,浮腫などが認めら

れる.聴診所見は,三尖弁開放音,吸気時に増強す

る前収縮期および拡張中期雑音である.

(c)頸静脈波:洞調律では,右房収縮に伴う a 波の上昇

が著明で y 谷は緩徐となる.右房の拡大により心房

細動を生じると右房圧はさらに上昇する.

(d)心エコー検査:断層心エコー法で三弁尖のエコー輝

度増強と可動制限,拡張期ドーム形成,右房の拡大

などが重要な所見である.三尖弁逆流の合併につい

て,カラードプラ法により評価を行う(後述).ま

た,連続波ドプラ法を用いて三尖弁流入血流速度波

形を計測することにより,僧帽弁狭窄と同様に右

房-右室圧較差を推定することが可能である.

(2)三尖弁逆流(tricuspid regurgitation:TR)

(a)病因(表 36):三尖弁は僧帽弁に比べ coaptation

zone の幅が狭く,また右室圧が低く tight な閉鎖を

必要としないため,軽度の TR は健常者にも高率に

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1287

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

三尖弁疾患Ⅲ

三尖弁疾患の診断と評価Ⅲ-1Ⅲ-1

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認められる.TR の発生機序としてもっとも一般的

なものは,左心不全と肺高血圧の合併,あるいはど

ちらかに続発する右心室の拡張または右心不全によ

る二次性(機能性)のものである.一次性の TR は

頻度は少ないが,原因としてリウマチ熱,感染性心

内膜炎,カルチノイド,外傷,マルファン症候群,

三尖弁逸脱,エプスタイン奇形などにより生じる.

(b)症状と身体所見:臨床的には中等度~高度 TR を検

出することに意義がある.自覚症状は TS と同様,

右心不全症状が中心である.聴診上,第 4肋間胸骨

左縁で最強の全収縮期逆流性雑音を聴取し,吸気時

に増強,呼気時に減弱する(Rivero-Carvallo 徴候).

重症例では TR 雑音を欠く場合があり注意が必要で

ある.

(c)頸静脈波:高い v 波とそれに続く急激な y 下降が特

徴的である.

(d)心エコー検査:心エコー法は,三尖弁の構造・運動

を評価し,弁輪の大きさを測定,さらに三尖弁機能

に影響しうる他の心臓異常を検出するのに有用であ

る.器質性の場合,弁尖の収縮期逸脱,疣贅,切れ

た腱索などが認められる.機能性逆流の場合にはこ

のような器質的病変がみられず,中等度以上の逆流

の場合には三尖弁輪の拡大や三尖弁尖の収縮期離開

を認める.TR の診断はカラードプラ法により収縮

期に三尖弁から右房へ逆流するジェットによりなさ

れ,重症度評価にカラードプラ法による半定量評価

法が一般的に用いられている.日常的によく用いら

れる方法として,右房を 3等分し,逆流ジェットの

到達度によって重症度を評価するものである.逆流

ジェットが右房内三尖弁側 1/3以内にある場合を軽

度,2/3までを中等度,それ以上を高度とする.

*TR シグナルからの収縮期右室圧推定

TR が認められた場合には,TR に対して連続

波ドプラ法を適用することにより,右室圧を推定

することが可能である.カラードプラガイド下で

三尖弁逆流シグナルに平行にビームを設定し,連

続波ドプラ法を用いて逆流血流の最大速度の計測

を行う.計測された TR 最大速度をVとすると,

簡易ベルヌイの式(圧較差 P=4V2)を用いるこ

とにより,右房-右室間の収縮期圧較差が計算さ

れる.収縮期右室圧(肺動脈狭窄がなければ肺動

脈圧)は,右房右室間の圧較差+右房圧であるた

め,連続波ドプラ法によって求められた圧較差に

推定右房圧を加えることにより,収縮期右室圧

(肺動脈圧)が推定可能である.右房圧は TR が

軽度のものは 5 mmHg,中等度のものは 10

mmHg,高度のものは 15 mmHg として計算する.

2)三尖弁疾患に対する管理

適切な治療戦略は臨床状態と三尖弁異常の原因により

決まる.内科療法か外科療法またはその両方を必要とす

る場合がある.たとえば,重症 MS による肺高血圧があ

り,そのため右室拡大と TR が生じた患者には,MS を

軽減させて肺動脈圧を低下させると,TR が著明に軽減

されることがある.しかし,三尖弁に高度のリウマチ性

変形のある場合には,MS の治療後にも回復しないと思

われ,外科療法が必要となる.

1)三尖弁閉鎖不全症(TR)の概略

(1)外科的治療からみた TR の概略

後天性 TR の外科治療の対象は多くは二次性(機能性)

TR と感染性心内膜炎である.前者は僧帽弁もしくは僧

帽弁と大動脈弁の疾患に起因した三尖弁輪の拡大による

TR である.従って,左心系の疾患を治療すれば TR は

軽快するはずであるが,中には残存し,術後に右心不全

を生ずる症例が見られるため,その治療が必要である144).

また,後者は三尖弁単独の場合もあるが,僧帽弁や大動

脈弁にも感染が認められる症例もある.外科治療として

は形成術が第一選択であるが,人工弁置換術を余儀なく

される症例もある.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021288

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表36 三尖弁閉鎖不全症の病因

二次性三尖弁閉鎖不全症左心系弁膜症左室心筋疾患(心筋梗塞を含む)心房中隔欠損症肺性心

三尖弁自体の異常(isolated tricuspid valve disease)先天性心疾患心内膜症欠損症心室中隔欠損症(stradding tricuspid valve)肺動脈閉鎖(intact ventricular septum)エプスタイン奇形マルファン症候群カルチノイド三尖弁逸脱感染性心内膜炎右心房粘液腫外傷

三尖弁逆流に対する手術適応と術式選択

Ⅲ-2Ⅲ-2

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(2)TR の病因の外科的分類

二次性 TR の病因としては僧帽弁もしくは僧帽弁と大

動脈弁の疾患に起因した三尖弁輪の拡大による TR が最

も多いが,心房中隔欠損症に起因した右心系負荷に伴う

三尖弁輪の拡大による TR も多く認められる(表 36).

以下,主に二次性 TR の外科治療の適応,手術術式,

手術成績を中心に概説する.

2)TR の外科治療の適応(表 37)

(1)二次性 TR

二次性 TR の手術適応は一般に逆流が 3 度以上

(moderate 以上)とされる.しかし,TR が 2度であって

も心房細動や肺高血圧を合併し,弁輪拡大を認める症例

は手術適応と考えられる.

(2)感染性心内膜炎

感染性心内膜炎による TR の手術適応は内科的治療に

より感染が制御できない場合と心エコー上疣贅が遊離し

そうな場合である.このような症例は感染により弁葉が

破壊されていたり,大きな疣贅が弁に見られることが多

い.

3)TR の外科治療の術式とその選択(図 6)

(1)弁輪縫縮術(弁輪形成術)

弁輪拡大による二次性 TR に対しては弁輪形成術

(annuloplasty)が行われるが,Suture Annuloplasty と

Ring Annuloplasty の 2 種類に分類される.Suture

Annuloplasty は縫合により拡大した弁輪を縫縮・形成す

る術式で,Kay 法145)に代表される Annular Plication と

De Vega 法146)に代表される Semicircular Annuloplasty が

代表的である.Kay 法は後尖を縫い潰して三尖弁を 2尖

にする術式(bicuspidization),De Vega 法は後尖から前

尖の弁輪を 1本の糸で縫縮する術式である.共に術式は

容易で短時間で行えるが,問題点は肺高血圧が残存する

症例や遠隔期に左心系の病変が悪化した症例に TR の再

発がみられることである.

一方,Ring Annuloplasty は人工リングを弁輪に縫着す

ることにより,拡大変形した弁輪を理想的な形状に縫

縮・形成するものであり147)-151),Suture Annuloplasty に比

べると遠隔期の TR の再発は少ないものと期待されてい

る.問題点としては人工材料のためにコストがかかるこ

と,感染の可能性があることが上げられる.

弁輪形成術の選択基準は確立されていないが,術前に

肺高血圧が認められる症例では Ring Annuloplasty を選

択するとする報告がある152).

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1289

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表37 TR の手術適応についての推奨

1 高度 TR で,僧帽弁との同時初回手術としての三尖弁輪形成術 Ⅰ

2 高度 TR で,弁輪形成が不可能であり,三尖弁置換術が必要な場合 Ⅱa

3 感染性心内膜炎による TR で,大きな疣贅,治療困難な感染・右心不全をともなう場合 Ⅱa

4 中等度 TR で,弁輪拡大,肺高血圧,右心不全をともなう場合 Ⅱa

5 中等度 TR で,僧帽弁との同時再手術としての三尖弁輪形成術 Ⅱa

6 中等度 TR で,弁輪形成が不可能であり三尖弁置換術が必要な場合 Ⅱb

7 軽度 TR で,弁輪拡大,肺高血圧をともなう場合 Ⅱb

8 僧帽弁が正常で,肺高血圧も中等度(収縮期圧60mmHg)の TR Ⅲ

No Yes

二次性三尖弁閉鎖不全症�

1 度� 2 度�

弁輪拡大�

経過観察� 手術適応�

弁置換術� 弁輪縫縮術�

3 度� 4 度�

図6 二次性 TR に対する外科治療指針

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(2)弁形成術(valvuloplasty)

感染により破壊された弁はできれば人工弁置換術をせ

ずに,感染部を切除した後に残存した弁葉を縫い合わせ

るか,または,自己心膜を補填することにより弁形成を

行う152)ことができる場合がある153).

(3)弁置換術

感染性心内膜炎で弁形成術が困難な症例やリウマチ性

弁膜症により狭窄兼閉鎖不全の症例は人工弁置換術を余

儀なくされることが多い.代用弁には機械弁と生体弁が

ある.三尖弁単独症例では生体弁が選択されることが多

いが,左心系の弁に機械弁が使用されている症例では,

最近の機械弁の抗凝固性からみて,機械弁を使用する選

択もある.

4)手術成績と予後(表 38)

(1)弁輪縫縮術(弁輪形成術)

二次性 TR の実測生存率は主に左心系の疾患に依存す

るので本稿ではこれには言及せず,三尖弁逆流の遠隔期

における制御能と再手術回避率について述べる.

(a)Suture Annuloplasty

De Vega 法による遠隔期における TR の制御能(mild

以下の逆流)は 66.2 % ~ 92.0 % と報告されている.ま

た,再手術回避率は 10 年で 94.9 % ~ 96.7 % と報告さ

れており,ほとんどの再手術例は術前の肺高血圧の残存

や左心系の病変の悪化による TR の増悪である154).また,

本邦における Kay 法は三尖弁位の再手術回避率が 10 年

で 93.6 %,17年で 69.7 % と報告されている155).

(b)Ring Annuloplasty

中隔尖での縫合糸の組織切れによるリング脱離のため

TR が増悪し,再固定を要した症例が報告されている.

Ring Annuloplasty による遠隔成績の報告は少ないが,一

般に遠隔期における TR の制御能(mild 以下の逆流)は

比較的良好である152).

(2)弁置換術

(a)生体弁

生体弁による三尖弁弁置換術の国内の報告では,弁関

連事故回避率は 10 年で 74.9 % で,再手術回避率は 10

年で 75.5 % である156).再手術の原因は,弁自体の破損

や硬化,パンヌスの増生,感染などである.ブタ生体弁

の弁機能不全は 7年目以後より着実に増加すると報告さ

れているが,最近本邦でも使用されるようになったブタ

大動脈弁を無圧固定処理した生体弁では更に優れた耐久

性が期待されている.

(b)機械弁

機械弁(St. Jude Medical valve)による弁置換術の国

内の報告では,弁 freedom from valve thrombosis は 10 年

で 78.0 % で,再手術回避率は 10 年で 83.0 % である.

再手術の原因としては血栓弁,パンヌスの増生などであ

る157).最近の 2葉弁は抗血栓性に優れているので,左心

系に機械弁が使用されている場合は三尖弁位も機械弁を

使用する事が多くなっている.

6)Controversies

弁輪縫縮術に対し,Suture Annuloplasty を行うか Ring

Annuloplasty を選択するかは意見の分かれるところであ

る.上述したごとく,術前に肺高血圧を認める症例には

Ring Annuloplasty が望ましいと考えられるが,未だ議論

の残るところである.

また,2 度の TR に対しては,術後のより良好な

quality of life(QOL)を目指して,心房細動を有し弁輪

拡大を認める症例には積極的に弁輪縫縮術をすべきと考

えられるが,この点についても今後の検討が必要である.

更に,Ring Annuloplasty において使用するリングの種

類には rigid ring と flexible ring の選択があるが,生理的

な三尖弁輪の収縮拡張能を温存するには flexible ring が

望ましいとも考えられる.しかし,flexible ring の遠隔

成績はまだ明らかではなく,今後の検討が待たれる.

7)まとめ

二次性 TR に対する外科治療についての 適応と治療

指針を表 37,図 6に示した.

3 度以上の逆流があれば手術適応であるが,僧帽弁膜

症や心房中隔欠損症に伴う合併手術としては,2 度にお

いても三尖弁輪拡大を伴っておれば弁輪縫縮術を加えて

おく方が遠隔期の QOL を良くすることがある.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021290

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表38 本邦における TR に対する再手術回避率

1 三尖弁輪縫縮術(1)Kay 法:93.6%(10年)(2)De Vega法:96.7%(10年)(3)Carpentier-Edwards ring:97.5%(10年,15年)

2 三尖弁置換術(1)生体弁:75.5%(10年),62.7%(18年)(2)機械弁:83.0%(10年),75.0%(15年)

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連合弁膜症では複数の血行動態障害が連合し,重症度

も多様である.連合弁膜症の管理についての臨床研究は

少なく,個々の連合弁膜症に関する大規模なデータはほ

とんどない.したがって,血行動態と左室機能障害につ

いて症例ごとに検討し,治療方針を決定しなければなら

ない.以下に各々の連合弁膜症の病態とその評価方法に

つき述べる.

1)大動脈弁狭窄症(AS)兼僧帽弁狭窄症(MS)

(1)病態生理

AS と MS の合併はほとんどがリウマチ性心疾患に続

発して起こる.MS により左室充満は低下し,AS 単独

の場合よりもさらに左室駆出血流量が減少する.低心拍

出により AS の理学所見が強調されて MS の理学所見は

見落とされやすいが,自覚症状は逆に MS に基づくもの

が見られる(肺高血圧による).また,左室駆出血流量

が減少するため左室-大動脈圧較差は同じ弁口面積の

AS 単独の場合と比較して低値となる.

(2)診 断

心エコー法により,MS の評価は MS 単独の場合と同

様に行える.PTMC が実施できるか否かは特に重要であ

る.AS の評価については,ドプラ心エコー法により連

続の式から大動脈弁口面積を算出できる.しかし,左室

駆出血流量が減少するため大動脈弁口面積はより小さく

算出されることに注意が必要である.また,左室―大動

脈圧較差は前述のように AS の重症度を過小評価する.

MS に対してバルーン切開術(PTMC)が成功した場合

は,その後に大動脈弁を再評価する.PTMC 後に MS に

よる左室前負荷軽減作用が消失し,左室前負荷の増大が

生じるので,注意深い観察とAS の再評価が必要である.

2)大動脈弁狭窄症(AS)兼僧帽弁閉鎖不全症(MR)

(1)病態生理

AS と MR の合併は,リウマチ性心疾患に続発して起

こる場合が多い.この他に高齢者の退行性 AS/MR,稀

に若年患者の先天性 AS/僧帽弁逸脱(MVP)がある.

AS の存在により左室収縮期圧が上昇し,MR の程度を

増悪させる.また,MR により左室駆出血流量が減少す

るため,AS の重症度の評価が困難になる158).さらに

MR により左室壁運動が亢進し,その結果 AS による収

縮期左室機能不全の発生がとらえにくくなる.心房細動

が発生すると,心房収縮の喪失と肥大した左室による充

満障害が起こり,心拍出量はさらに減少する.

(2)診 断

心エコー法により AS と MR の両方の重症度を評価す

る.断層心エコー法により,左室容量・機能,壁厚を評

価する.MR の重症度評価は,断層心エコー法,心エコ

ー・ドプラー法により MR 単独の場合と同様に行える.

僧帽弁の形態(器質的異常の有無)には特に注意を払う

べきである.僧帽弁の器質的異常がない場合は,AS の

修復後に MR は改善する.AS の評価については,ドプ

ラ心エコー法の連続の式により大動脈弁口面積を算出で

きる.中等度以上の MR が合併した場合,左室駆出血

流量が減少するために大動脈弁口面積はより小さく算出

される.また,左室―大動脈圧較差は,MR により左室

駆出血流量が減少するために同じ弁口面積の AS 単独の

場合より低値になる.

3)大動脈弁閉鎖不全症(AR)兼僧帽弁狭窄症(MS)

(1)病態生理

AR と MS が合併する場合は,重症 MS と軽症 AR の

組み合わせが頻度的に高く,その場合の病態生理は孤立

性 MS と類似している.中等症以上の MS と中等症以上

の AR が合併した場合,病理生態は複雑になり評価を誤

りやすい.MS の存在により左室充満が制限され,左室

前負荷が軽減される159)-161).したがって,重症 AR の場

合でも血行動態面での亢進は比較的少なく典型的な AR

の理学的所見(脈圧増大等)は出現しにくい.左室腔拡

大も AR 単独の場合と比較して軽度である.

(2)検査法

MS 単独の場合と異なり,pressure half-time 法を用い

た僧帽弁口面積の測定は,高度 AR の存在下では不正確

となる場合がある.AR の評価については AR 単独の場

合と異なり,左心室腔の形態や,ドプラ心エコー法によ

り求めた大動脈弁逆流量は AR の重症度を必ずしも反映

しないことに注意が必要である162).また,断層心エコー

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1291

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

連合弁膜症Ⅳ

連合弁膜症における術前診断と評価

Ⅳ-1Ⅳ-1

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法による僧帽弁評価により,MS に対して PTMC が可能

となれば PTMC 成功後に AR を再評価する.PTMC 後

には MS による左室前負荷軽減作用が消失し左室前負荷

の増大が生じるので,心エコー法による経過観察が必要

である.

4)大動脈弁閉鎖不全症(AR)兼僧帽弁閉鎖不全症(MR)

(1)病態生理

MR と AR は両病変とも左室容量負荷を生じ,左室拡

大をきたす.MR が,僧帽弁の器質的異常により生じて

いる場合と,AR の容量負荷による僧帽弁輪拡大により

生じている場合がある.後者の場合,AR が修復される

とMR は改善する.

(2)診 断

断層心エコー法により,左室容積・機能を評価する.

僧帽弁の器質的変化の有無は僧帽弁の手術的治療方針決

定に重要である.僧帽弁の器質的変化が無く,僧帽弁輪

拡大による弁尖の接合不全から MR が生じている場合

は,AR が修復されると MR は改善する場合が多い.

各々の弁の逆流量や逆流率はドプラ心エコー法による連

続の式と PISA 法の組み合わせで理論的に求めることが

できる.

5)僧帽弁狭窄症(MS)兼三尖弁閉鎖不全症(TR)

(1)病態生理

中等度以上の MS と TR が共存する場合は,MS によ

る肺高血圧症が TR を増悪させていることが多い.この

場合, MS が修復され肺動脈圧が低下すると,多くの場

合 TR は改善する.一般的に肺高血圧が重症で右心室の

拡大があり,三尖弁の解剖学的構築が変形していない場

合には,MS の治療後に TR の改善が期待できる.一方,

三尖弁に高度のリウマチ性変形や腱索断裂がある場合

は,MS の治療後にも三尖弁機能は回復しない.しかし,

MS の修復後に TR が改善するか否かを確実に予測する

のは困難である163)-165).

(2)診 断

断層心エコー法によって僧帽弁と三尖弁の両方の解剖

学的構築を評価し,ドプラ心エコー法により肺動脈圧を

推定する.三尖弁の解剖学的構築が変形しておらず肺高

血圧が重症である場合は,MSの治療後にTRの改善が期

待できる.

6)まとめ

連合弁膜症に関する臨床研究が希少であるために信頼

できるガイドラインを作成することは困難であるが,現

時点で妥当と考えられる術前診断法について述べた.連

合弁膜症の管理については,解決されていない問題

(MS と AR との合併で MVR を行う際の AVR の適応,

MR と AR との合併の場合の術式など)が多く,今後の

検討が必要である.とくに高齢者では退行性変性(石灰

化)にともなう AS が僧帽弁疾患をともなうことも少な

くなく,また,AS の圧差も毎年 5 mmHg 程度増加して

いくという報告があり,個々の症例に応じた慎重な対応

が必要と考えられる.

この項では成人の大動脈弁,僧帽弁の双方に弁機能不

全を有する連合弁膜症に対する外科治療のガイドライン

を記述する(二次的三尖弁閉鎖不全症の外科的治療のガ

イドラインについては別項「三尖弁疾患」を参照).

1)対象疾患の概略

(1)外科的治療からみた疾患の概略

外科的治療,すなわち手術適応の対象となる大動脈

弁・僧帽弁の連合弁膜症はそれぞれの単弁疾患単独症例

に比べて,その病態生理は複雑かつ重篤なことが多い.

そして,ほとんどの症例では大動脈弁,僧帽弁のそれぞ

れに対する手術が必要となり両弁同時手術,特に両弁置

換術となれば手術時間が長くなるために術中,術直後の

合併症も多くなり手術リスクが比較的高くなる.そこで,

術前におけるそれぞれの弁病態を正確に診断し,手術リ

スクや遠隔成績も加味した上で各弁に対する術式を慎重

に決定しなければならない.

原因疾患については,大動脈弁・僧帽弁の連合弁膜症

の殆どはリウマチ性(リウマチ熱後遺症)であり,その

他,弁組織硬化や炎症性によるもの,まれに先天性,感

染性心内膜炎やマルファン症候群のこともある.

(2)基本となる病態,病期,および分類

大動脈弁,僧帽弁の両弁機能不全を有する連合弁膜症

としては,それぞれの弁の機能不全を,狭窄

(Stenosis:S)と閉鎖不全(Regurgitation:R)の 2 つに

大別し,さらにそれら弁病変の重症度(機能的不全の程

度)を,高度(大文字で表す)と軽度(小文字で表す)

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021292

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

連合弁膜症における手術適応,術式とその選択

Ⅳ-2Ⅳ-2

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に表現すると,それぞれの組み合わせにより表 39 の如

く,全部で 16 病態に分類される.ただし,一般的には

別項のごとく,弁狭窄は軽度,中等度,高度の三段階に,

弁逆流は心エコー検査・ドプラー法では 3~4 段階,ア

ンギオ法では Sellers の四段階に重症度が分類されるが,

ここで言う軽度(小文字で表す)とは,単弁疾患単独と

しては手術適応とされない程度のものを指している.

また,狭窄(S)と閉鎖不全(R)のそれぞれが副病

変(r,s)として大動脈弁,僧帽弁に合併した場合をも

考えれば,さらに多種多様の組み合わせができるが,外

科的治療の臨床では主病変のみの考慮でその治療対策が

決定されているので,この項では主病変のみによる 16

病態についてのみ検討する.

2)外科的治療の適応(表 40)

(1)病期,症状,年齢,合併症との関係

従来,大動脈弁・僧帽弁の連合弁膜症の手術適応につ

いては,単弁疾患症例と同様に臨床症状の有無が最も重

要視され,一般的に NYHA 心機能分類でⅢ度以上とさ

れてきた.そして,この基準に合う症例でも,まず強心

薬・利尿剤を中心とした内科的治療が始められ,症状の

改善があれば外科的治療はなるべく先送りする方向で進

められてきた.しかし,ここ 10 年来,開心術の成績の

向上・安定化が進むにつれて,臨床症状のみではなく,

弁機能不全の程度や血行動態・肺循環動態の評価,さら

に左室収縮機能の指標なども重視される傾向が強くなり

つつある.連合弁膜症では両弁の機能不全が重なり合い

相乗的に血行動態に悪影響を及ぼすため,単弁疾患の場

合に比べ,それぞれの弁機能不全の程度に比してより早

期から重症の臨床症状が出現することが多い.即ち,臨

床症状が同じ程度の重症度(たとえば,従来の見解によ

る単弁疾患の手術適応時期とされてきた NYHA 心機能

分類Ⅲ度の場合)でも,大動脈弁,僧帽弁それぞれの弁

機能不全の程度は単弁疾患の時よりも軽いことが多い.

一般に,左室機能障害による血行動態の異常および左房

圧上昇による肺鬱血,肺高血圧などが自覚症状に反映さ

れることから,それぞれの弁病変自体の重症度よりも自

覚症状を優先的に考えて,NYHA 心機能分類Ⅲ度が連

合弁膜症において手術適応を考慮すべき時期とされてき

た.しかし,最近では手術成績の向上と相まって,より

良好な遠隔予後,術後の生活の質(QOL)向上や心機

能の回復を目指して NYHAⅡ度でも手術適応が考慮さ

れるようになってきている.内科治療にもかかわらず,

臨床症状の悪化や運動耐容能の低下に加えて,定期的な

心エコー検査で左房径の拡大,弁口面積の経時的狭小化,

運動負荷時の肺高血圧,左室収縮機能の低下,左室拡大

の進行などが認められる場合には手術を行うことが勧め

られる.また,心房細動発作の出現,左房内血栓,血栓

塞栓症のエピソードなども手術適応を考慮する指標とな

る.当然,冠動脈バイパス術や上行大動脈に対する手術

を行う患者では,自覚症状の軽重に関わらず,血行動態

的に異常をきたしている原因となっている弁膜病変に対

して手術適応が検討されるべきである.さらに,単弁疾

患の場合と同様に,連合弁膜症においても自覚的に無症

状あるいは症状の軽微な時期にすでに不可逆的な心筋障

害や肺循環動態の異常をきたしている例が少なからずあ

り,そのような症例の遠隔予後は比較的不良であること

も加味して,より早期の手術が勧められるようになって

きている.

年齢については,近年の開心術成績の向上,安定化と

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1293

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表39 連合弁膜症:罹患弁とその重症度による分類

①AS・MS ⑤AR・MS

②AS・Ms ⑥AR・Ms

③AS・MR ⑦AR・MR

④AS・Mr ⑧AR・Mr

⑨As・MS ⑬Ar・MS

⑩As・Ms ⑭Ar・Ms

⑪As・MR ⑮Ar・MR

⑫As・Mr ⑯Ar・Mr

表40 連合弁膜症の手術適応に関する推奨

1 明らかな臨床症状(NYHA 心機能分類Ⅲ~Ⅳ度)を有する患者 Ⅰ

2 冠動脈バイパス手術や上行大動脈に手術を行う患者で,血行動態的に有意の異常を生じている連合弁膜症の患者 Ⅱa

3 軽微な臨床症状(NYHA 心機能分類Ⅱ度)を有する患者で,内科治療にもかかわらず,臨床症状の悪化,運動耐容能の低下,運動負荷時の肺高血圧,心房細動発作の出現,血栓塞栓症のエピソード,左房径の拡大,弁口面積の経時的狭小化,左室機能低下,左室拡大の進行,左房内血栓などを認める Ⅱa

4 無症状あるいは症状が曖昧な患者であっても,主たる弁膜病変が単独ですでに手術適応とされる基準を満たしている場合(表 16,17,18,29,33 を参照) Ⅱa

5 高度の精神・神経障害(痴呆,運動性麻痺)を伴う高齢者症例 Ⅲ

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共にあまり問題視されないことが多くなってきたが,や

はり75歳を境に術中,術後合併症による手術リスクが非

高齢者の約2倍と高くなることは十分考慮されるべきで

ある.高齢者の定義として,前期高齢者(65~74 歳),

後期高齢者(75~89歳),超高齢者(90歳以上)などに

分けられることがあり,最近ではいずれの患者数も増加

傾向にある.高齢者症例の特徴は,術前に腎機能障害,

老人性肺変化,肝硬変を含む肝機能異常,甲状腺機能低

下,脳血管障害,全身的動脈硬化症などを伴っているこ

とが多いことにあり,周術期に急性腎不全,呼吸不全,

肝機能不全,脳梗塞・各臓器の塞栓症など種々の他臓器

不全を合併する可能性が比較的高い(「他臓器障害(危

険因子)を有する弁膜症患者の手術」の項を参照).特

に脳合併症,腎機能不全,肝機能不全の存在は,連合弁

膜症手術では単弁疾患手術に比べて大動脈遮断時間をは

じめ,体外循環時間,手術時間が長くなるため,手術リ

スクを高めることになる.しかし,高年齢や術前合併症

の存在は,手術の絶対的禁忌につながるものではない.

これに対し,手術の絶対的不適応と考えられる条件とし

ては,精神・神経障害(痴呆)や脳梗塞による高度の運

動性麻痺などがあげられる.

(2)弁病態から見た手術適応

連合弁膜症における大動脈弁,僧帽弁のそれぞれに対

する手術適応は各々の単弁病変の場合の手術適応に準ず

る.すなわち AR,MR では Sellers 分類Ⅲ度以上の高度

逆流,AS では圧較差 50 mmHg 以上,MS では中等度狭

窄以上(弁口面積< 1.5 cm2)の狭窄が,病態の重症度

からみた基本的な従来の適応基準である.しかし,先述

した如く連合弁膜症では,大動脈弁,僧帽弁の両弁の機

能不全が相乗効果的に血行動態を悪化させていることを

十分考慮した上で判断されるべきである.その組み合わ

せや弁機能不全の程度によっては手術適応から除外され

る場合も多い.

a)大動脈弁主病変の場合の僧帽弁に対する手術適応

AR での左室容量負荷や AS での左室圧負荷が MR を

増強させることから Sellers 分類Ⅳ度の MR を手術適応

と考えることが多く,重症 AS と重症 MR があり肺高血

圧を示す場合には大動脈弁手術と同時に僧帽弁手術も適

応になる.しかし,MR がⅢ度以下の場合には,大動脈

弁手術で MR 程度が著明に改善されることがあり,表

41-2,3 のごとく僧房弁手術が不要な場合が多いとされ

ている.従って,術前の経胸壁あるいは経食道心エコー

検査により,僧帽弁の病態および形態的異常を正確に評

価することが重要である.大動脈弁病変の左室負荷によ

る機能的 MR では,僧帽弁の形態的異常は軽度か或い

は殆ど認められないために僧帽弁に対する手術は不要で

ある.形態的に明らかな僧帽弁の弁輪拡大(dilated

annulus),弁尖の逸脱(leaflet prolapse),或いは弁尖の

可動性制限(restricted leaflet motion)などが認められる

場合は,僧帽弁に対しても手術が必要である.軽症の

MR(Mr)は手術不要として放置可能な場合が多いのに

対し,軽症のMS(Ms)は容易に交連切開が可能である.

それでも手術適応の判断に迷う場合には,大動脈弁手術

を行い,一旦体外循環から離脱した後に術中心エコー検

査をして僧帽弁病態を再評価し,僧帽弁に対する手術の

要否を手術室の中で決めることもある.

b)僧帽弁主病変の場合の大動脈弁に対する手術適応

MR,MS のいずれの僧帽弁病変の場合でも,従病変

としての大動脈弁病変は過小評価されることが多い.と

くに MS の場合には心拍出量は低下して,左室充満が制

限されるとともに大動脈弁通過血流量が減少するため

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021294

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表41 連合弁膜症:治療手技の選択

1.A,M 共に中等症以下 AsMs ArMs NYHA 心機能分類Ⅱ度以下 薬物・内科治療AsMr ArMr

2. 同上 同上 NYHA 心機能分類Ⅲ度以上 A→手術M→NT

3.A が重症 ASMs ARMs表 40 参照 A→手術

ASMr ARMr M→NT

4.M が重症 MSAs MRAs表 40 参照 A→手術

MSAr MRAr M→手術

5.A,M 共に重症 ASMS ARMS表 40 参照 A→手術

ASMR ARMR M→手術 or NT

6.超低左心機能合併 ── NYHA 心機能分類Ⅳ度 心臓移植

A:大動脈弁,M:僧帽弁,NT:手術不要(none touch)

連合弁膜症の病態 連合弁膜症の種類 臨床症状 治療手技

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AS 時の弁圧較差や AR での逆流量も少なくなる166).従

って,表 41-4 のごとく大動脈弁機能不全(R・S)の重

症度が一ランク低くても,僧帽弁とともに大動脈弁も手

術適応とされる.即ち,AR では中等度逆流(Sellers 分

類Ⅱ度),AS では圧較差 30 mmHg から手術適応が考慮

される1).

3)外科的治療法の種類と選択

(1)手術の種類と特徴

連合弁膜症においても,単弁疾患時と同様,弁形成術

と弁置換術の 2つの手技があり,大動脈弁,僧帽弁それ

ぞれに適した手技が選択される.そして,その適応にお

いては術前の弁機能を連合弁膜症によるための血行動態

の特徴から過大評価あるいは過少評価をしないように注

意し,手術適応のないものには不必要な手術侵襲を加え

ずに手術リスクを低くすることが原則である.

(2)術式の選択と適応基準

(a)病態と術式

大動脈弁,僧帽弁の両弁に手術適応となった場合の手

技選択は基本的には単弁疾患例と同様である(各々単弁

疾患の項目を参照).簡単に言えば,MS で弁尖の可動

性が保たれている場合には直視下僧帽弁交連切開術

(Open mitral commissurotomy:OMC)が適応となる.

AS では多くの症例で大動脈弁置換術(AVR)が行われ

るが,軽症例では交連切開と弁尖石灰化部分を切除した

りして,弁尖肥厚部分を菲薄化し弁膜の可動性を回復さ

せ得たとの報告もある30).先天性AS合併例では大動脈

弁尖の石灰化が強く一般的に AVR が行われる.大動脈

弁輪狭小化を合併している例では弁輪拡大術を合わせて

行う症例も存在する.

リウマチ性 MR では弁尖の肥厚,石灰化をきたし,

さらに弁下組織の肥厚,癒合,短縮を伴うことが多く,

弁形成術を行うことは困難であるため,僧帽弁置換術

(MVR)が行われる.また弁形成術を行い得た場合でも

遠隔期の再手術が高率であることが知られている.非リ

ウマチ性 MR で弁輪拡大のみによる場合は人工弁輪を

用いて弁輪縫縮術を行いMVRを避ける.弁尖逸脱によ

る MR は逸脱部分を切除したり,腱索再建により逆流

を制御できる場合が多い.腱索延長には腱索短縮手技,

腱索短縮または離断の場合には人工腱索による腱索再建

術が行われることがあるが,複雑な手技を要する程,遠

隔成績は不良となる.リウマチ性 MR に対する弁形成

術の遠隔期成績について,MVR よりも血行動態,手術

術後の再手術率を含めての合併症発生率において良好と

の成績が出始めている66)168)169)

AR では一般的に AVR が行われる.弁尖逸脱が限局

している場合は弁尖縫縮か弁尖切除縫縮術で AVR を避

けることが出来る症例もあるがその適応は確立されてお

らず,充分な長期遠隔成績の報告もないことより,中途

半端な大動脈弁形成術よりも弁置換術が優先されること

が多いのが現状である.

連合弁膜症の場合にはリウマチ性病変が多く,弁形成

術の適応可能な症例は限られる.しかし,大動脈弁・僧

帽弁ともに弁置換を施行した場合,術後遠隔期の代用弁

に関連する合併症の発生率が高くなる可能性があるた

め162),出来れば 2つの代用弁の使用を避けるよう弁置換

は主病変弁だけにする努力が求められる.とくに僧帽弁

位における代用弁に関連する術後遠隔期合併症の発生率

が大動脈弁位よりも高いことから,MVRの回避がより

強く求められる(表 54,55).

連合弁膜症の手術では,単弁手術よりも手術時間,人

工心肺時間,大動脈遮断時間が比較的長くなるため,よ

り確実で安定した心筋保護が求められる.

(b)年齢,病期,心機能等患者背景による選択

連合弁膜症においても代用弁種の選択において年齢が

考慮される.近年,高齢者における生体弁の耐久性が若

年層ほど悪くはないとのデータが示されるようになり,

65~70 才以上の高齢者では大動脈弁,僧帽弁位ともに

生体弁が選択されることが一般的となっている170)-172).

術式については,年齢はあまり考慮されていない.病

期,心機能については手術適応時期は前述した如く考慮

される.術式においては僧帽弁では弁置換術よりも弁形

成術の方が手術リスクが低いとされている149)173).弁形

成術の場合には,重症例ほど逆流・狭窄をできる限り残

さない確実な手術手技が求められる.その他,有効弁口

面積の大きい代用弁の選択が求められる.また MVR で

は弁下部組織を温存する術式の方が左室機能を温存でき

るため,とくに心不全の強い症例において有利であ

る174).

大動脈弁,僧帽弁の両弁機能不全が著しく長期の左室

負荷のために左室収縮機能が極端に低下した症例に対し

ては,心臓移植の適応も考慮される.弁膜症に起因した

心臓移植適応患者は,欧米における全心臓移植適応症例

の約 2.5~3.5 % を占めている175).

4)手術成績と予後

大動脈弁,僧帽弁の両弁置換術の病院死亡率は,従来

5~19 % 176)-179)と報告されてきたが,近年では単弁置換

術と比べてもさほど高くはなくなった180)との意見もあ

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1295

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

Page 36: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

る.ただし,術前 60 mmHg 以上の肺高血圧合併例では

病院死亡が 38.5 % 181)に及んだとする報告もある.術後

の長期予後としては,合併症非発生症例では NYHA 心

機能分類Ⅰ度またはⅡ度で経過するのが一般的である.

術後の合併症としては単弁疾患術後と同様に血栓塞栓

症,血栓症,感染性心内膜炎,Paravalvular leak などが

ある(Ⅴ-5“人工弁移植患者の管理”,表 54,55 参照).

各合併症の発生率は,使用人工弁,施設,人種,等によ

って若干のバラツキも認められる182)-194)が,一般に単弁

置換に比し二弁置換施行例で高率とされている.例えば,

血栓塞栓症の発生率は,20 才以下の若年者二弁置換症

例の 20 年間 follow-up の報告では 1.01 %/patient-year 195)

となっており,MVR のみの 0.5 % 196)の約二倍となって

いる.長期生存率では actuarial survival rate として 5,10,

20,24年目それぞれで 90.4 %,85.6 %,84.4 %,82.4 %

との報告180)がある.

5)まとめ

近年の開心術成績の安定化とともに連合弁膜症に対す

る手術適応は,心不全を有する重症例や高齢者へも適応

が拡大されて来ている.また,手術手技の向上にともな

いより積極的に弁形成術が導入されるようになり,人工

弁の機能や耐久性の向上と相まって,術後の心機能の回

復や QOL も考慮に入れてより早期から手術適応が考慮

されるようになってきた.

1)概 説

感染性心内膜炎(infective endocarditis;IE)は,感染

症(菌血症或いは敗血症),弁膜逆流症および感染性塞

栓症を基本病態とする.発熱や心不全症状を有し,心雑

音や Osler 結節などの典型的な所見を認める患者では容

易に診断出来る.しかし,典型的な病態を呈さない場合

も少なくなく,診断と有効な治療が遅きに失して重篤な

合併症を引き起こすことがある.従って,IE の管理は

先ず本症を疑って確定診断のために努力が払われること

から始まる.そして,IE の確定診断が得られるか強く

疑われる患者の管理には,「活動期 IE は外科疾患である」

ことを念頭にあたることが肝要である.内科的治療中に

手術治療を必要とする症状や所見が高い頻度で発現し,

これらが全く見出されずに内科治療を完遂できることは

比較的少ないことを銘記すべきである.

2)外科的治療の適応

(1)基本的事項

本症の外科治療の適応が,内科治療によっても治癒せ

しめ得ないか,重篤な合併症が予想される場合であるこ

とは他疾患と同様である.本症では,感染,弁機能障害

および塞栓と疣贅形成の 3つの病態について,それぞれ

に適格な判断が必要であり,通常これらに関する詳細な

情報を得るのに経食道心エコー検査は極めて有用であ

る.いずれの病態に基づく適応も,内科治療中はもちろ

んのこと,内科治療開始と同時に手術を要することも稀

ではなく,病期とは無関係に緊急的に外科治療の導入を

計ることが少なくない.ただし,脳合併症発症まもない

患者の手術に対しては,周術期の増悪を避ける上で慎重

にタイミングを計らなければならず,手術時期の決定が

極めて難しいこともある(controversies 参照).

(2)病態から見た適応とそのための診断法

(a)持続性感染症

感染症が適切な抗生剤投与によっても消退しない患者

において,他に臨床的或いは心エコー検査上の所見が得

られない場合の手術適応は必ずしも明瞭でなく,かつそ

の判断も難しい.ただ臨床経験上はこのような例には,

経過中に弁逆流の増悪や疣贅の増大,また何らかの塞栓

症状を認めることが少なくないため,実際の手術適応は

より明確に決定することが出来る.しかしそうでない場

合も一定期間(10 日程度),最も効果的な抗生剤が適切

に投与された後も,感染所見が持続する時は外科治療が

推奨される.感染症が薬物的に制御できないことは局所

における感染の持続を意味するもので,本症の診断がな

され弁逆流を有する患者には手術を考慮するのが良い.

経食道心エコー法の診断率は極めて高いものの197)198),

可動性のない疣贅や小さな弁輪膿瘍の形成など,感染巣

の描出に限界があるからである199)-201).特に人工弁感染,

とりわけ術後早期発症例にこの傾向が強く注意を要す

る 202)203).一方,薬物治療が奏功しがたい,真菌や

MRSA を起炎菌とする感染の際にも,薬物抵抗性の持

続性感染がそれ単独で手術適応となる204)205).

(b)うっ血性心不全

IE における心不全の発現は感染活動期に発症する弁

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021296

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

その他Ⅴ

感染性心内膜炎の管理と手術適応

Ⅴ-1Ⅴ-1

Page 37: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

膜の破壊によるもので急性かつ進行性であることが多

い.人工弁感染でも生体弁は固有弁と同様に穿孔や破裂

を来し,機械弁は弁周囲が裂開して急激な逆流を生ずる.

また人工弁では,稀に疣贅形成によって弁狭窄が心不全

の原因になることもある.いずれにしても,IE におけ

る心不全の発現は感染局所の活動を意味し,発症早期に

見られることがほとんどで,抗生剤治療に固執すべき病

状にはない.手術を遅らせることによる悪影響,すなわ

ち腎機能を始めとする他臓器障害や心機能代償不全な

ど,生命予後を直接不良ならしめることは良く知られて

いる.

心不全の診断は,自覚症状と理学所見或いは胸部 X

線検査によって比較的容易になされる.心エコー法では,

弁逆流の定量,左室機能や肺動脈圧が評価でき,血行動

態上の裏付けが得られる.NYHA 心機能分類Ⅲ~Ⅳ度

の心不全はそれのみで緊急的手術の適応であり,Ⅱ度で

あっても,心エコー所見で急性弁逆流による左室収縮不

全や肺高血圧が認められる場合は手術を考慮する.

(c)疣贅と塞栓症

IE の管理において塞栓症を如何に回避するかは,極

めて重要な問題である.時として致命的な塞栓症を経験

し,あるいは重篤な後遺症を残すこともある.とは言え,

心エコー法で捉えられる疣贅の特徴のみで,塞栓症のリ

スクを予測して手術適応を決定するのは必ずしも容易で

ない.現在までの研究では,10 mm 以上の疣贅が 10

mm 以下よりも201),僧帽弁位の疣贅が大動脈弁位より

も201),また同じ僧帽弁位でも前尖に付着している疣贅が

後尖よりも塞栓症の発症率が高いとされている206)207).

また,起炎菌に関しては,ブドウ球菌や真菌感染症では

疣贅のサイズとは無関係に塞栓症の頻度が高いことが知

られている208)209).しかし,弁置換術の危険性及び終生

つきまとう術後合併症との比較において検証されたデー

タがなく,これらの特徴をもって塞栓症予防のための弁

置換術を即断することはできない.今日におけるおおよ

その統一見解は,僧帽弁前尖に治癒傾向のない 10 mm

以上の大きな疣贅が見られる場合には早期手術を考慮す

ることである.むしろ,一般的には塞栓症を繰り返した

り心不全症状を認めるか,感染の持続等,他の病態と併

せて手術を決定することが多い.

3)手術成績と予後

IE の外科治療は手技的に弁置換術であるが,早期手

術成績は一様でない.術前の心不全の状態や他の合併症

の有無によって大きく異なる.一般に通常の弁膜症と遜

色ない成績が得られていると思われるが,特に心不全合

併例や早期人工弁感染の死亡率は 30 % 以上と不良であ

る210)-213).しかし,最近では手術成績も次第に向上して

おり,また,遠隔成績も 5 年生存率がおよそ 80 % と良

好である212).

4)Controversies

IE の外科治療に際し,最も深刻な問題は脳合併症で

ある.術前の診断の有無に係わらず手術中に重篤な脳出

血や脳浮腫を合併する症例を,少なからぬ外科医が経験

している.1995 年の本邦におけるアンケート調査では,

IE 患者の脳合併症による死亡率が 11 % と報告されてい

る213).しかし,その後の研究でも手術の脳合併症に対す

るリスクを術前の所見から検討したものは少なく,どの

ような検査法で,どのような所見をもって手術時期を決

定すべきか明らかでない.IE における脳出血は,感染

性脳動脈瘤(mycotic aneurysm)の破裂,出血性脳梗塞,

或いは脳動脈炎による緩徐な出血などと考えられ,その

発生機序は様々であり程度もまちまちである.いずれに

しても脳出血は術中に増悪して致命傷になりかねず,手

術に先だって脳出血を示す CT・MRI 像がないことを確

認する必要がある.他方ある程度の大きい脳梗塞も術

中・術後に重篤な脳浮腫を来すことがあるので,術前検

査は必須である.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1297

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

○固有弁および人工弁心内膜炎に共通する病態

○人工弁心内膜炎における病態

8 弁置換後2ヵ月以内の早期人工弁感染 Ⅰ

9 人工弁周囲逆流の出現 Ⅰ

10 抗生剤抵抗性のブドウ球菌,グラム陰性菌による人工弁感染 Ⅱa

11 適切な抗生剤治療後(10 日程度)も持続する菌血症で,他に感染源(原因)がない場合 Ⅱa

12 大きさや特徴を問わない疣贅形成 Ⅱb

1 弁機能障害による心不全の発現 Ⅰ

2 弁輪膿瘍・仮性大動脈瘤形成および房室伝導障害の出現 Ⅰ

3 真菌性心内膜炎 Ⅰ

4 適切な抗生剤治療後(10 日程度)も感染所見が持続する患者で,心エコー検査で病変が確認される場合 Ⅰ

5 抗生剤治療中の疣贅の増大傾向 Ⅱa

6 抗生剤治療中の塞栓症の再発 Ⅱa

7 可動性のある 10 mm 以上の疣贅 Ⅱa

表42 感染性心内膜炎の手術適応

Page 38: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

脳出血や脳梗塞所見が確認された場合の手術時期に関

しては,病変の固定化を待つのが安全であるが,中には

待機できない患者も少なくない.脳合併症発症後数週間

から 1 ヵ月間の手術は危険性が高いとされる214)が,高

度な心不全や感染症状に対する緊急手術適応との二律背

反に未だ明確な指針は得られていない.MRA 診断と予

後との関連など,さらなる集学的研究が必要である.

5)まとめ

多彩な症状を呈するIEも,基本的には感染症であり,

発症早期の抗生剤治療の在り方によって予後が大きく左

右される.手術適応とすべき前述した病態の多くが感染

の制御に問題があるか,または困難である場合であって,

感染が抗生剤治療に抵抗性であるかどうかの見極めが最

も肝要である.

1)概 説

我が国においても冠動脈疾患(CAD)は年々増加し,

その結果,弁膜症患者に合併する頻度も徐々に高くなっ

ている.日本胸部外科学会の学術調査によると,1996

年の弁膜症手術総数 7654 件のうち CABG 同時手術は

563 件(7.4 %)215)であるが,1999 年には 9092 件中 878

件(9.7 %)に施行34)されている.特に大動脈弁手術と

の同時手術は僧帽弁手術より多く,増加傾向も顕著であ

る.同じ学術調査でも,僧帽弁手術に占める同時手術は

1996年が 8.3 %,1999年が 9.8 % であるのに対し,大動

脈弁手術では 10.2 % から 13.3 % へと急速に増加してい

る.これらのデータは CAD 合併症患者が社会の高齢化

を背景にそのベースにおいて増加しつつあることを意味

するもので,それぞれの病態の評価と治療法の選択が

益々重要になってくるものと思われる.

2)外科的治療の適応

(1)基本的事項

CAD を合併した弁膜症の同時手術の適応には,それ

ぞれの単独手術との比較において手術リスクが高くなる

かどうかが問題視されてきた.言うまでもなく,同時手

術では大動脈遮断時間,体外循環時間,引いては手術時

間が延長するが,それが手術成績にどの程度影響するか

である.しかし,周術期管理,とりわけ術中心筋保護法

の格段の進歩によって開心術の安全性が確保されてきた

今日においては,弁膜症手術と CABG の併設に異議を

唱えるものはいない.さらに我が国における手術成績は

年々向上し,同時手術のデータはないものの,全弁膜症

手術の死亡率が 3.0 %,待機的 CABG が 2.0 % と極めて

良好であること34)から,CAD を合併する弁膜症患者の

手術適応に関しては同時手術のリスクを考慮する必要は

ないと思われる.

(2)病態から見た適応

CAD を合併する弁膜症の中では大動脈弁狭窄症(AS)

と僧帽弁閉鎖不全症(MR)が多く経験される.前者で

は動脈硬化を共通の病因とする老人性 AS が,後者では

CAD に続発する虚血性MR がほとんどを占める.

(a)大動脈弁手術時の CABG の適応

AVR を必要とする患者が CAD を合併している場合

は,冠血行再建術を併せて施行するのが一般的である.

以前より大動脈弁手術の重要な危険因子の一つとして

CAD の合併が明らかにされており216)217),また合併する

CAD を放置した場合の術後早期および遠隔期成績は,

同時手術を施行した場合より不良であることが知られて

いる218)-221).加えて,術前 CAD が広範であったり,同

時手術としての冠血行再建が不完全であると術後左室機

能に悪影響をもたらすため,有意狭窄を有する冠動脈は

すべて血行再建の対象とすることが推奨される223)224).

特殊な理由で完全冠血行再建を避ける場合には,少なく

とも左前下行枝や支配領域の大きい冠動脈の CABG を

優先して併設すべきである.

(b)冠動脈バイパス術時の大動脈弁手術の適応

CABG を必要とする患者が,それ単独で手術適応と

なる高度な大動脈弁障害を合併している場合は,同時手

術としての AVR を行うべきである.しかし,大動脈弁

障害が中等度である場合の AVR に関しては統一された

見解はなく,障害が軽度の場合の方針はさらに不明瞭で

ある.弁障害が中等度以下の患者では,それ単独では手

術適応とならず,同時に行われる AVR はあくまでも病

変の進行を先取りする予防的弁置換術である.したがっ

てこの際,CABG のみを行った後に必要となる AVR の

可能性,すなわち弁病変の進行に対する検証が重要であ

る.AS の血行動態的進行度を追跡したいくつかの研究

によると,弁口面積の狭小化は 0.1~0.14 cm2/年,圧較

差の増大は 6.3~7.9 mmHg/年とされるが,いずれの論

文も患者による個人差が大きいことを示しており,個々

の進行度を予測することは困難であるとしている224)-227).

一方,無症状の AS123 例を臨床的に追跡した最近の

prospective study は,弁狭窄の重症度による予後の違い

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021298

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

冠動脈疾患合併弁膜症患者の手術

Ⅴ-2Ⅴ-2

Page 39: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

を明らかにしている228).ドプラ法による jet velocity が 3

m/sec 以下では,症状発現率が 8 %/年で,event-free

survival が 84 %(2年)であるのに対し,jet velocity 3~

4 m/sec のグループは 17 %/年と 66 %,4 m/sec 以上の

グループは 40 %/年と 21 % であったとしている.また

同じ無症状の中等度 AS の追跡結果で,4 年後の event-

free survival が 59 % であったとする研究80)や,軽度 AS

では 10 年で 92 % であったとする研究がある229).した

がって,CABG 時 AVR の適応としてよい AS は中等度

以上であって,軽度 AS の適応を正当化する根拠は見当

たらない(表 23:AS の重症度参照).

以上 AS について述べたが,AR の進行に関して,中

等度以下の逆流に注意を喚起した論文はなく,同時手術

は現在のところ推奨されない.

(c)僧帽弁疾患と冠動脈疾患の同時手術

ほとんどが CAD とそれに起因する虚血性の MR 合併

であり,他の僧帽弁膜症と CAD がたまたま合併するこ

とは極めて少ない.いずれにしても,僧帽弁膜症手術時

の有意狭窄を有するすべての冠動脈への CABG の併設

は,大動脈弁膜症と同様広く容認されているところであ

る.また,比較的重症の僧帽弁障害に対する CABG 時

の同時手術も一般的であり,その有益性が報告されてい

る230)が,軽症の弁障害に対する同時手術の必要性を説

く意見は見当たらない.中等度 MR に関しては,CABG

のみでも許容できる遠隔成績であったとする研究があ

る231)が,心機能低下例では僧帽弁形成術の併設に明ら

かな予後の改善効果がみられている232).手技的には弁輪

縫縮だけでよく233),比較的容易な手技であるため併設さ

れてよいと考えられる.

3)手術成績と予後

成人の心臓外科における手術成績および遠隔予後に関

する最も重要な規定因子が,手術時年齢と左室機能であ

ることは多くの研究が明らかにして来たところであり,

また今日においても同様であろう.その意味では CAD

を合併した弁膜症患者は高齢傾向にあり,また左室機能

も低い傾向にあることから,手術成績は単独弁膜症患者

より一般的に不良である.しかし CAD 合併僧帽弁閉鎖

不全症の手術成績と予後には,僧帽弁に対する手術手技

の違いが影響する.弁形成術において,弁置換術よりも

早期手術成績が優れ遠隔期合併症も有意に少ないことは

良く知られているが,CABG との同時手術でも同様で

あるとする研究がある49).僧帽弁置換術と CABG の同

時手術は,単独僧帽弁置換術より手術成績と予後が明ら

かに不良であるが,僧帽弁形成術を行った同時手術は単

独弁形成術とほとんど変わらないとされている.

4)Controversies

CAD における左室機能障害によって生ずる MR に対

し CABG のみでよいとするものと,弁輪形成を同時に

加えることを主張するものがある.この点に関する論争

は,心筋虚血発作時に見られる固定しない MR に対し

ても230)234),また慢性左室収縮障害に伴う固定した MR

に対しても235)236)見られるところである.今後の研究に

待たなければならないが,現時点では虚血発作に伴う一

過性の MR には CABG のみが,心筋梗塞に伴う慢性

MR には CABG と弁輪形成術が行われることが多い.

5)まとめ

CAD と弁膜症を合併する患者は増加しつつあるが,

手術適応に関する直接的なデータは極めて少ない.この

ガイドラインは,弁膜症に合併する CAD の治療成績と

弁膜症の進行についての研究結果を参考に,現状の我が

国の心臓外科の成績を考慮して作成した.

1)概 説

上行大動脈瘤を合併する弁膜疾患の中では,病因・病

態的に大動脈弁疾患が重要であり,その合併頻度も極め

て高い.我が国の集計をみても,真性上行大動脈瘤手術

の実に 82 % に大動脈弁手術が併設されている34).多く

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1299

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

弁膜症手術時の CABG

CABG 時の弁膜症手術

2 CABG を施行する患者で,手術適応となる高度弁膜症を有する場合 Ⅰ

3 CABG を施行する患者で,中等度 AS(平均圧較差 30~50 mmHg または弁口血流速度 3~4 m/sec)を有する場合 Ⅱa

4 CABG を施行する患者で,左室機能低下を認め中等度の MR を有する場合 Ⅱa

5 CABG を施行する患者で,軽度 AS,または中等度以下の AR あるいは MR を有する場合 Ⅲ

1 弁膜症手術を施行する患者に認められる有意狭窄を有する冠動脈 Ⅰ

表43 冠動脈疾患合併弁膜症の手術適応

上行大動脈瘤合併弁膜症患者の手術

Ⅴ-3Ⅴ-3

Page 40: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

は外科治療の主体が大動脈瘤にあり,その目的のために

大動脈弁に対する同時手術が必要になると思われる.し

かし,一方では大動脈弁に対する手術に際し上行大動脈

の拡大を認める場合の同時手術の適応が問題となる.

2)病態から見た手術適応

大動脈基部における径の拡大はしばしば大動脈弁閉鎖

不全症(AR)を合併する.Marfan 症候群に代表される

典型的な annuloaortic ectasia(AAE)以外にも,上行大

動脈近位部の拡大が sino-tubular junction を伸展して様々

な程度の AR を生ずる.一部の患者では上行大動脈瘤或

いは AAE が主たる病変として診断されるが,心不全を

呈するような高度 AR が診断のきっかけとなることも少

なくない.手術適応はバルサルバ洞を含む上行大動脈の

径と AR の重症度の両面から判断される.

3)上行大動脈瘤(或いは拡大)手術時の大動脈弁疾患に対する手術適応

大動脈弁疾患の手術適応は本ガイドラインにあるよう

に,ほぼ見解の一致をみている.他の心臓手術時の大動

脈弁に対する手術適応も,CABG との同時手術の適応

の項に述べられている.したがって,上行大動脈瘤との

成因において,因果関係の無い大動脈弁疾患に対しては,

同時手術の適応を CABG 時に併設する場合と同様に考

えてよい.しかし,実際には上行大動脈瘤に合併する大

動脈弁疾患は大動脈基部の拡大に続発する AR が大多数

を占め,大動脈弁に対する手術を大動脈病変から切り離

して別個に扱うことはできない.このような症例には

Bentall 手術のような大動脈基部の再建を必要とするが,

その際 AR の重症度にかかわらず大動脈弁を含めて再建

の対象とするため,大動脈弁手術の併設の是非が考慮さ

れることはない.近年大動脈弁を温存して基部再建を行

う方法がとられ良好な成績が報告されるようになった237)238)

が,合併する AR に対する手技上の改良であり,現在の

ところ手術適応に関係するものではない.

4)大動脈弁手術時の上行大動脈瘤(拡大)に対する手術適応

大動脈瘤に対する待機的手術に関しては,必ずしも明

確な適応基準がある訳ではない.上行大動脈径が 6 cm

を境に破裂の危険性が極めて高くなることを示した上行

大動脈瘤の予後調査239)や,大動脈弁置換術時の上行大

動脈径が 5 cm 以上では弁置換後に高率に大動脈解離を

発生したとする研究240)を参考に,予防的大動脈切除術

の適応が決定されている.即ち上行大動脈の拡大に対す

る手術適応は,最大径 5 cm を目処に決定するのが一般

的である.しかしながら,前述のように AR が大動脈近

位部の拡大に起因する場合は,基部再建術が外科治療の

根本的な意味を持ち 5 cm 以下の大動脈径でも手術適応

とされる.特にマルファン症候群は破裂や解離を合併し

やすく 4.0~4.5 cm で合併手術が推奨され,また経時的な

径の拡大速度も危険因子として考慮する必要がある239)241).

同じように大動脈二尖弁に合併する上行大動脈病変に対

しても注意が喚起されている.二尖弁の血行動態的障害

の程度によらず上行大動脈に拡大がみられる場合があ

り242)243),家族性或いは遺伝的素因が示唆されている244).

したがって,マルファン症候群に準じて同時手術を計画

するのがよく,未だ十分なデータはないが 4.5 cm 以上

の拡大は上行大動脈置換術の併設を考慮すべきであろ

う245).

5)まとめ

大動脈瘤に対する外科治療の適応は本ガイドラインの

範疇にないが,同時手術としての上行大動脈置換術の適

応について,おおよその目安を示した.近年における上

行大動脈に対する待機手術の成績・長期予後は極めて良

好であり積極的な同時手術が推奨される.

近年,社会の高齢化や生活様式の欧米化にともない,

弁膜症患者においても高齢者や生活習慣病を合併してい

る症例が増加している.これらの患者では,長期間の鬱

血性心不全や血栓塞栓症による臓器障害に加えて,老人

性肺疾患,輸血後肝炎,糖尿病などにより肺・肝・腎な

どの主要臓器機能の低下をきたしている場合が少なくな

い.さらに高齢者や糖尿病患者では全身の動脈硬化性病

変,とくに大動脈の石灰化・粥腫性変化や脳・末梢血管

の閉塞性動脈硬化をともなっている症例も多く,体外循

環の施行に際してしばしば問題となる.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021300

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表44 大動脈弁手術における上行大動脈瘤(拡大)

に対する合併手術の推奨

1 上行大動脈最大径が 5 cm 以上 Ⅰ

2 上行大動脈最大径が 4.5 cm 以上の二尖弁に伴う大動脈弁疾患 Ⅱa

3 AR が上行大動脈近位部の拡大に起因する場合・上行大動脈最大径が 4.0 cm 以上のマルファン症候群 Ⅱa

他臓器障害(危険因子)を有する弁膜症患者の手術

Ⅴ-4Ⅴ-4

Page 41: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

このような脳血管病変や他臓器障害をともなう弁膜症

患者においては,術前における評価,手術適応の可否,

手術術式の選択および周術期の管理に特別な配慮が必要

となる.

1)脳血管病変(表 45,46)

(1)術前近接期の脳梗塞,脳出血

弁膜症患者の術前に脳梗塞や脳出血を生じた場合,頸

動脈エコー・ドプラ検査,脳 CT 検査などが行われる.

他方,心腔内血栓とくに左房内血栓の有無の検索には経

胸壁心エコー検査あるいは経食道心エコー検査が有用で

ある.

一般的に梗塞・出血などの脳血管障害の発症後は,出

血性梗塞,再出血のリスクが低くなるまでの期間(4 週

以上)を空けて開心術を行なうべきとされている246).

左房内血栓による脳梗塞では,抗凝血薬や抗血小板剤

投与により脳梗塞の再発を予防しつつ,脳梗塞発症後 4

週間以上経過した時点で弁膜症手術を行うことが推奨さ

れるが,大きな血栓,ボール状血栓,可動性のある壁在

血栓および肺静脈を圧迫する壁在血栓の残存する症例で

は,より早期の手術が必要な場合も少なくない.

感染性心内膜炎(IE)の患者では,その 20~40 % に

おいて臨床経過中に疣贅塞栓による脳梗塞や脳出血など

の脳合併症が起こると言われている247).IE における脳出

血は,別項(感染性心内膜炎の管理と手術適応)のごと

く,感染性脳動脈瘤の破裂,出血性脳梗塞或いは化膿性

動脈炎からの緩徐な出血などによるとされているが248)249),

脳出血は開心術中に増悪して致命傷となり得るので,手

術に先だって CT/MRI 検査で脳出血の有無を確認する

ことが必須である.疣贅による脳梗塞も術後に重篤な脳

浮腫をきたすことがあるので術前検査が必要である250).

手術時期については,脳合併症発症後 1ヶ月以内の手術

は危険性が高いとされているが,感染や心不全がコント

ロールできない場合や疣贅塞栓を繰り返す症例には脳梗

塞発症早期でも緊急手術を考慮しなければならないこと

もある.感染性脳動脈瘤については,開心術時のヘパリ

ン使用により動脈瘤破裂のリスクが高くなるとの証拠は

なく,未破裂の脳動脈瘤の存在自体は開心術の禁忌とは

ならないとも言われている251).疣贅塞栓による脳梗塞も

出血像がなければ最小限のリスクで弁膜症手術が行い得

るとの報告も見られる252).

本邦の脳合併症を有する感染性心内膜炎 181例に対す

る外科治療の検討214)では,脳合併症発症後 1 週間以内

に手術を行なった場合の手術死亡および脳神経症状悪化

の症例は各々 31 % と 44 % であり,発症後 1~2週間の

手術ではそれぞれ 17 % と 17 %,発症後 2~3 週間の手

術では 10 % と 10 %,発症後 3~4週間の場合では 26 %

と 11 %,4週以後のそれでは 7 % と 2.3 % であった.

(2)閉塞性動脈硬化病変

閉塞性脳動脈硬化をともなう弁膜症患者では,体外循

環中の脳灌流圧低下により脳虚血を生じる可能性があ

り,とくに両側の内頸動脈に高度の閉塞性病変を有する

症例では開心術後の脳合併症発生率は 20 % に達すると

の報告もある246).脳梗塞の既往のある症例や一過性脳虚

血発作(TIA)を有する症例,頸動脈に雑音を聴取する

症例では,術前検査で脳血管病変の有無を調べることが

必要である.とくに頸動脈ドプラ検査(或いは carotid

arterial duplex scan)は,内・外頸動脈の硬化性病変の程

度や血流パターンを容易に検索出来るのでスクリーニン

グとして有用である.病歴や頸動脈ドプラ検査から高度

の閉塞性脳血管病変の存在が強く疑われる症例では,さ

らに脳 MR angiogram や脳血流シンチを行ない頭蓋内血

管病変の検索や脳虚血の有無と程度を評価することが重

要である.一般に管腔狭窄が高度(70~90 % 以上)に

ならないと血流低下を来さないといわれ,高度の狭窄を

有する症候性内頸動脈狭窄例は脳外科手術の適応とされ

ている253)254).さらに重症の内頸動脈狭窄(70~99 %)

があり,脳虚血発作が再発している例では緊急頸動脈内

膜切除術(CEA)を行うとする報告がある255).一方,局

所脳虚血の原因は,血流動態不全でなく微小塞栓が重要

とする意見もあり,90 % 以下の内頸動脈狭窄を有する

が無症状な症例に対する予防的CEAは推奨出来ないとも

いわれている256).したがって,一過性黒内症や TIA が

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1301

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表45 脳合併症危険因子検索のための術前検査

1 脳 CT,脳 MRI/MRA 検査:脳梗塞,脳出血,頭蓋内血管病変(瘤,等)の検索

2 頸動脈ドプラ検査:頸動脈閉塞病変に関する検索

3 経食道心エコー:左房内血栓や心内疣腫の有無,上行大動脈壁の性状評価

4 胸部 CT(非造影,造影):上行大動脈壁の性状評価

表46 開心術に際して注意すべき脳血管障害

1 脳梗塞や脳出血発症後4週以内

2 脳虚血症状を有する内頸動脈/頭蓋内動脈の高度狭窄

3 両側内頸動脈の高度狭窄病変

4 症候性脳動脈瘤

5 巨大脳動脈瘤(≧25mm)

Page 42: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

あり,重症(70~90 % 以上)の内頸動脈/頭蓋内動脈狭

窄病変が証明される患者では,術後脳合併症の危険性は

比較的高いと考えられ,脳外科との連携した治療が重要

である.

高度の内頸動脈狭窄/頭蓋内狭窄病変を有する患者の

開心術に際しては,人工心肺の灌流圧を高目(70~80

mmHg 以上)に保つことが脳灌流を維持するのに有効

とされている.このことは症候性症例のみならず無症候

性症例においても重要と考えられる.高度の閉塞性病変

により人工心肺中の脳循環不全が危惧される患者では,

頸動脈内膜摘除術や浅側頭動脈-中大脳動脈バイパス術

など脳外科手術を先行させる,或いは同時に行うことに

より,開心術/弁膜症手術における脳合併症発生率の低

下が期待できるとの報告があるが246)257)258),それらの実

際面での適応については,先述の通り議論が残されてい

る.

(3)脳動脈瘤,脳動静脈奇形

脳卒中(stroke)の 5~15 % は脳動脈瘤の破裂による

と云われ,弁膜症患者においても脳卒中,とくにくも膜

下出血(SHA)の既往がある場合には,術前検査でその

有無を調べることが重要である.一般に脳 CT 検査や脳

MRI/magnetic resonance angiography(MRA)がスクリー

ニング検査として有用である.

小さい脳動脈瘤(< 10 mm)は一般に破裂の危険性

は少ないが,脳神経症状のある例(症候性)では瘤サイ

ズに関係なく,破裂の危険性は比較的高くなるといわれ

ている259)260).症候性でより大きな脳動脈瘤,とくに巨

大(≧ 25 mm)な脳動脈瘤のある例では,弁膜症手術

の術中・術後の脳浮腫などにより症状増悪や脳合併症発

生の危険性が高くなると考えられる.また弁膜症患者で

は,術後抗凝固療法が必要となる場合が多く,(1)若年

者,(2)SHA の既往のある症例,(3)脳動脈瘤破裂の

家族歴のある症例,(4)大きな脳動脈瘤の症例,(5)脳

神経症状を有する症例,などでは弁膜症手術と脳外科手

術の適応に関し,両者の手術タイミング,代用弁の選択

などの面で特別な配慮が当然必要と考えられる.将来的

に破裂の可能性の高い脳動脈瘤を合併する症例での代用

弁の選択は,可能な限り生体弁が望ましいとされるが未

だ統一的な指針は得られていない(別項:生体弁の適応

と選択-参照).

脳動静脈奇形は比較的まれな疾患261)であり,弁膜症

患者で問題となることは少ない.弁膜症手術と脳外科手

術のタイミングや弁膜症手術後の抗凝固療法との関連

で,脳動脈瘤合併例と同様な配慮が必要である.

2)上行大動脈の動脈硬化性病変(表 45,47)

上行大動脈の高度石灰化や粥腫硬化をともなう症例で

は,大動脈遮断や送血管挿入によって shower emboli や

大動脈解離を生じることがある為,その性状には充分に

留意しなければならない.このような患者は頸動脈/頭

蓋内動脈や腹部大動脈にも動脈硬化性変化をともなって

いる場合が多い262).

上行大動脈の動脈硬化性病変の検索には,術前検査と

して胸部 CT 検査や経食道心エコー検査,さらに術中エ

コー検査がとくに有用である263)264).上行大動脈の動脈

硬化性病変は次の 3 つのタイプに分けられることがあ

る.Type 1-“porcelain aorta”: extensive, circumferential

medial calcification of the ascending,Type 2- ragged,

friable, ulcerated intraluminal disease,および Type 3-

liquid intramural disease : grumous, liquid, toothpaste-like,

cholesterol debris of atherosclerosis within the aortic wall で

ある265).Type 3 の変化は術中エコー検査でも検出が難

しいことがあり,送血管挿入や大動脈切開を行って初め

て判ることも多く,したがって術後 debris による脳合併

症の発生はこのタイプのものに比較的多く認められる.

術中エコー検査で,上行大動脈に 3 mm を越える壁肥

厚や部分的な石灰化,粥腫の突出などが見られる場合に

は,送血管挿入を比較的正常な部位に移動したり,腋窩

動脈や大腿動脈に変更するなどの対策がとられる266).最

近では前者が送血部位に選ばれることが多い267)268).心

筋保護液は逆行性に注入することが推奨される.大動脈

遮断の部位も比較的安全な部位に移動する必要がある.

上行大動脈の動脈硬化性変化が高度の症例では,大動

脈遮断は行わずに超低体温循環停止や中等度低体温心室

細動のもとに弁置換術,弁形成術を行うなどの方法が報

告されている.その際に人工血管による上行大動脈置換

も同時に行い,比較的良好な手術成績,遠隔予後が得ら

れたとする報告も散見される269)270).

3)肺機能障害合併例

弁膜症手術対象患者に合併する肺機能障害としては,

弁膜症に起因するもの,慢性閉塞性肺疾患(chronic

obstructive pulmonary disease:COPD),肺線維症などの

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021302

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表47 開心術に際して注意を要する上行大動脈病変

1 高度石灰化

2 上行大動脈壁厚≧ 3 mm

3 造影 CT または大動脈造影上の上行大動脈の壁不整

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拘束性肺疾患,肺梗塞などがあげられる.肺機能障害合

併の有無や重症度評価には,ルーチン検査として,ベッ

ドサイドの Spirometry や動脈血ガス採取が行われている

が,異常値を示す症例では精密肺機能検査や肺換気血流

シンチを行って,その原因検索や重症度判定を行う必要

がある(表 48).

(1)弁膜症に起因する肺機能障害

僧帽弁疾患では,慢性的肺うっ血による間質や気管支

の浮腫,左房容積拡大による主気管支の圧迫や肺コンプ

ライアンスの低下,肺高血圧による肺内血流分布異常に

ともない,肺の拘束性障害や閉塞性障害,拡散能障害を

生じる.したがって,僧帽弁手術による血行動態や肺う

っ血の改善はこれらの悪循環を断ち切り,術後の呼吸状

態にも良好な効果を及ぼす.僧帽弁手術における術前後

の肺機能の検討では,術後近接期に一時的な落ち込みが

見られるものの,その後,術前値に比し有意に改善する

とされている271)272).しかし,病悩期間の長い重症の僧

帽弁疾患症例では,肺機能障害が強く心機能の低下や低

栄養状態と相俟って術後の呼吸管理に難渋する症例も稀

ではない.三尖弁逆流を有する肺高血圧合併例の検討で

は,肺活量,一秒率,肺拡散能,肺内血流分布ともに改

善しなかったとする報告273)もある.しかし,いかに肺

機能障害が重症であっても,それが弁膜症に起因するも

のと考えられる場合は手術適応を検討する必要がある.

巨大左房合併例では,長期間の慢性的肺鬱血に加えて,

巨大左房による左主気管支の圧迫や胸腔内容積減少にと

もなう肺コンプライアンスの低下によりとくに呼吸機能

が低下しているとされている.このような症例に対して,

僧帽弁手術に左房縫縮術を加えることは術後の呼吸管理

上も有用274)とされている.

(2)器質的肺疾患の合併

一秒率や予測%肺活量が 50 % を下回る場合,room air

下の動脈血の PCO2 が 50 mmHg 以上,または PO2 が 70

mmHg 未満の場合には重症の器質的肺疾患の合併を考

慮しなければならない(表 49).

重症の肺高血圧を呈する肺梗塞や肺線維症合併例で

は,術前に酸素や NO 負荷275),またはプロスタグランデ

ィン製剤の負荷による心臓カテーテル検査により,術後,

肺動脈圧が低下する可能性があるかどうか調べておく必

要がある.これらの負荷に反応しない症例では,開心術

は禁忌と考えられる.慢性気管支炎,肺気腫に代表され

る COPD の重症例は,開心術はもちろん,全身麻酔の

危険因子でもある.気管支拡張剤やステロイドを内服し

ている COPD の合併は,開心術の手術死亡や術後の縦

隔炎発生の危険因子にあげられている246).術前からの抗

生剤や気管支拡張剤の投与,喫煙者での術前の充分な禁

煙期間の設置,適切な理学療法の実施など,綿密な周術

期の呼吸管理を計画しなければならない276).肺線維症な

どの拘束性障害を合併する場合にも同様な周術期呼吸管

理を要するが,拘束性障害の重症例を手術の禁忌として

いる報告は認められない.しかし,感染をともなった気

管支拡張症や膿胸,肺炎などは,開心術による感染増悪

や術後の人工弁感染が懸念され,開心術の適応には慎重

な検討を要する.

4)腎機能障害合併例

(1)非透析腎機能障害症例

近年の高齢化や糖尿病に代表される動脈硬化性疾患の

増加,等にともない,弁膜症手術対象患者にも腎機能障

害を合併するものが少なからず見られるようになった.

人工心肺を用いた CABG の検討277)によると,術前の血

清 Cr 値が 1.5~2.0 mg/dl の中等度腎機能障害例では術

後急性期に腎機能が悪化するリスクが 2倍となり,さら

に,鬱血性心不全や糖尿病も合併している症例ではさら

にそのリスクが増す,とされている.また,クレアチニ

ン・クリアランスでは 30 ml/分以下が開心術後の腎機

能障害や腎不全発生の指標の一つとされている278).術後

腎不全の予測因子として,高齢,鬱血性心不全の既往,

再手術,糖尿病,腎疾患の既往,等があげられるが,腎

機能障害悪化の対策として,腎毒性のある薬剤を使わな

いこと,クレアチニンクリアランスに応じた薬剤投与量

の調節,少量のドーパミン投与による腎血流量の増加,

高潅流圧拍動流体外循環の使用,周術期の LOS や低血

圧の回避,等が有効な対策として報告されている276)279).

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1303

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表48 肺合併症危険因子のための術前検索

1 スクリーニング検査としてのベッドサイド Spirometryと動脈血ガスデータ分析

2 上記検査異常例に対する精密肺機能

3 肺梗塞の合併が疑われる症例に対する肺換気血流シンチ

表49 開心術に際して注意を要する肺機能障害

1 一秒率や予測 % 肺活量が 50 % 以下

2 室内空気下の動脈血ガスデータで PO2 ≦ 70 mmHg,PCO2≧ 50 mmHg

Page 44: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

(2)慢性透析症例

透析の長期化や透析人口の増加,高齢化により,透析

患者に対する弁膜症手術も稀ではなくなった.透析患者

では,広範な代謝異常による組織の脆弱性,創傷治癒の

遅延,出血傾向,易感染性などの多彩な障害をともなう

ようになり,術式の選択から周術期管理まで慎重な対応

を要する.透析患者では止血に難渋することが多く,術

前の抗血小板剤やワーファリンの投与例では薬剤の効果

が無くなる様に充分な間隔を空けて中止しなければなら

ない.貧血や低アルブミン血症に対する術前補正も有効

である.また,術直前の透析により電解質の補正や血液

浄化を充分に行なっておかなければならない.透析患者

では,上行大動脈や弁輪部の石灰化も高率に見られ280),

かかる症例では aortic no-touch technique や慎重な弁輪部

処置が要求される.透析患者に対する弁膜症手術の手術

死亡率は 0~21 % 281)-285)と報告されており,術前の

NYHA Ⅳ度,CABG との同時手術,緊急手術,60 ヵ月

以上の透析歴,などが危険因子とされている.遠隔成績

は非透析患者に比較すると一般に不良とされており,欧

米の報告では術後 3 年の生存率 30~80 % 281)282)284),遠

隔成績に関与する因子として糖尿病性腎症,肝疾患合併,

二弁置換が報告されている282).また,透析患者における

人工弁の選択は,代謝異常により Ca が沈着しやすいの

で一般に生体弁よりも機械弁が望ましいとされている

が,透析患者では長期生存例が少ないために両者による

遠隔成績の差を認めないとする報告281)285)もあり,腎不

全の原疾患や合併症も考慮した上で個々の症例で選択す

る必要があると考えられる(別項:生体弁の適応と選

択-参照).

(3)腎移植後症例

腎移植患者に対する開心術では,免疫抑制剤投与にと

もなう易感染性や腎不全の再燃が懸念される.サイクロ

スポリンなどの免疫抑制剤による腎毒性を留意しなけれ

ばならない一方で,移植腎に対する拒絶反応が再燃する

とこれも腎機能障害を助長する.免疫抑制剤の血中濃度

を頻回にモニターし,免疫抑制剤の投与量を適切に保た

なければならない286).

4)肝機能障害合併例

(1)術前肝予備能評価

重症化した連合弁膜症においては,心機能の低下や三

尖弁閉鎖不全の合併による中心静脈圧の上昇から肝うっ

血を呈することが多い287)288).肝機能障害が三尖弁閉鎖

不全に起因する場合,外科的治療により可逆的に正常化

することが期待できる.しかし,既に不可逆的な肝障害

に陥っている症例やウイルス性肝炎に代表される非心原

性肝障害を合併する症例では,開心術にともなう手術侵

襲が致死的な肝不全を招く場合があり手術適応を決定す

るに際しては慎重な検討を要する.すなわち,肝障害を

有する弁膜症例においては術前検査により,1)肝障害

が心原性か非心原性か,2)肝障害が可逆的か不可逆的

か,3)不可逆的な場合,残存肝機能はどの程度か,把

握することが極めて重要である.

肝機能は,肝臓の構成からは肝細胞機能(肝細胞増殖

因子,など),肝類洞機能289)(ヒアルロン酸,など),網

内系機能289)(インターロイキン 6,など)からなり,ま

たその作用からは,エネルギー・糖代謝機能,蛋白・ア

ミノ酸合成代謝機能(肝アシアロシンチグラム,など),

解毒・メディエーター産生機能などに分類される.従来

からの一般生化学検査や止血検査,ICG 試験,等からみ

た指標に加えて,近年では残存肝機能や予備能を把握す

るためにこれらの各種肝機能を評価する検査法が導入さ

れている(表 51).肝生検による組織学的評価は,肝硬

変の進行度や肝障害の原因(肝炎,うっ血など)を明確

にしえる検査であるが,侵襲的なためにとくに出血傾向

のある症例ではリスクが高い.肝生検は,他検査では適

応を判定し難い場合で明らかな凝固障害を有さない症例

に限られる.

(2)術前管理

術前の患者管理は,基本的に肝障害を有する患者の他

の外科手術における管理に準じる.

ワーファリン投与患者における術前止血能のコントロ

ール,高カロリー・高蛋白食による栄養管理,非吸収性抗

生物質やラクツロースの投与による腸内清掃,腹水合併

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021304

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表50 開心術に際して注意を要する腎機能障害

1 血清クレアチニン値≧ 1.5 mg/dl

2 クレアチニン・クリアランス< 30ml/分

3 抗凝固剤や抗血小板製剤投与中の慢性透析

4 糖尿病性腎症による慢性透析

5 腎移植後

表51 高度肝機能障害合併例に対する肝機能精密検査

1 ヒアルロン酸(肝類洞内皮機能の評価)

2 肝アシアロシンチグラム(肝合成能,肝代謝能の評価)

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例に対する利尿剤の投与や塩分制限,高度肝機能障害例

に対する新鮮凍結血漿の投与,などが有用とされている.

(3)術中管理・体外循環管理

術中の体外循環においては,十分な肝灌流を維持しつ

つ肝代謝障害を防止する手段を講じなければならない.

三尖弁閉鎖不全の確実な修復,出血量の軽減や体外循環

時間の短縮をはじめ,吸引脱血システム併用体外循環に

よる低中心静脈圧と高灌流量(灌流指数> 2.4)の維

持290),常温体外循環による肝内代謝低下の予防,現存す

る肝障害に起因した排泄・解毒障害に対する早急な限外

濾過,などが有用とされている.

(4)術後管理

過度の脱水にともなう腎不全,循環不全の発生に留意

しつつ,術中管理同様,中心静脈圧を可及的低値にコン

トロールすることが肝要である.他,低アルブミン血症,

高血糖,高アンモニア血症に対する治療も必要である.

(5)手術成績と手術適応

ICG 排泄試験は,肝内シャントの影響を受けるが,一

般に慢性肝炎から肝硬変への進展の指標の一つとして

15 分停滞率 25 % 以上が指摘されている(日本肝臓学

会:慢性肝炎診療のためのガイドライン).肝機能障害

例に対する開心術の手術成績の検討では,Child 分類291)

C 群の手術,術前コリンエステラーゼ 2000 IU/L 以下292),

総ビリルビン値 2 mg/dl 以上かつプロトロンビン時間

49 % 以下の症例293)では手術成績は不良と報告されてい

る(表 52).また,Child 分類 B 群において手術死亡が

50 % に達している報告では,手術成績に関与する因子

として人工心肺時間との関連性が示唆されており294),手

術成績の向上には手術侵襲の軽減が不可欠と考えられ

る.また,人工弁の選択に際しては,消化性潰瘍病変,

食道静脈瘤を合併している,あるいは将来合併する可能

性があれば生体弁の選択が望ましいと考えられる(Ⅴ-6

“生体弁の適応と選択”を参照).

現在使用可能な人工弁は様々な問題点を抱えており,

人工弁を移植された患者の管理は患者の予後を決定する

重要な因子となっている.人工弁の種類は大きく機械弁と

生体弁に分類され,それぞれに合った管理が必要となる.

1)人工弁の分類

(1)機械弁

(a)ボール弁

ケージの中にボールを入れた弁で,Starr-Edwards 弁

が耐久性に優れ数多く使用されたが,現在装着している

患者はほとんどいないと推定される.

(b)傾斜ディスク弁

円形ディスクがハウジングの中でオクルーダーとして

傾斜しながら開閉する弁で,大小 2つの弁口を持つ.代

表格の Björk-Shiley 弁は現在市販されていないが,この

弁を移植された患者は多く生存している.現在本邦で使

用可能な傾斜ディスク弁は第二世代以降のものであり,

Medtronic-Hall 弁と Omnicarbon 弁がある.

(c)二葉弁

2 個の半円形の弁葉が蝶番機序でハウジングと結合

し,開口時には中心と辺縁 2つの計 3つの弁口を持つ弁

で,血行動態に優れた弁として,現在の機械弁の主流と

なっている.代表格の St. Jude Medical 弁は世界的に 100

万個以上を使用されており,安定した成績をあげている.

その他本邦で使用可能な弁に,CarboMedics 弁,

Bicarbon 弁,TEKNA 弁,Mira 弁,ATS 弁や Jyros 弁が

ある.

(2)生体弁

生体弁には,自己弁,同種弁,異種生体弁があるが,

詳しくは生体弁の適応と選択の項を参照願いたい.

2)人工弁に伴う合併症(表 53)

人工弁を移植された患者を管理するためには,人工弁

に伴う合併症を充分に知っておく必要がある.本ガイド

ラインでは米国胸部外科学会と胸部外科医協会の合同の

人工弁合併症定義標準化特別連携委員会が提唱し,1996

年に改訂されたガイドライン295)296)に従って人工弁関連

合併症を示す.ただし,上記ガイドラインでは外科手術

を受けたすべての弁について規定されているため,人工

弁のみならず形成術を施行された弁も含んでいるが,本

ガイドラインでは対象を前述した人工弁に限定する.最

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1305

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表52 開心術に際して注意を要する肝機能障害

1 ICG 15 分停滞率≧ 25 %

2 Child 分類 B・C 群

3 血清コリンエステラーゼ≦ 2000 IU/L

4 血清総ビリルビン値≧ 2mg/dl かつプロトロンビン時間≦ 49 %

人工弁移植患者の管理Ⅴ-5Ⅴ-5

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近の機械弁による人工弁関連合併症の発生頻度を表 54,

55 に示した.報告によって,各合併症の発生頻度に若

干のバラツキを認めるが,総じて大動脈弁位に比し僧帽

弁位で塞栓症の頻度が高率となっている.

(a)構造的弁劣化(Structural valvular deterioration)

狭窄や閉鎖不全の原因となる人工弁そのものに起因す

る人工弁不全を意味する.ただし,感染及び血栓弁によ

るものは除外する.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021306

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表53 人工弁に伴う合併症

1 構造的弁劣化(Structural valvular deterioration)

2 非構造的弁劣化(Nonstructural dysfunction)

3 血栓弁(Valve thrombosis)

4 塞栓症(Embolism)

5 出血性合併症(Bleeding event)

6 人工弁心内膜炎(Prosthetic valve endocarditis)

表54 単弁置換術(AVR,MVR)後の機械弁関連による合併症頻度

AVR

Aoyagi (1994) SJM 178 3.9 1.0 0.4 - 0.4 -

Nakano (1994) SJM 425 4.5 1.4 0.1 0.05 0.21 0.16

Copeland (1995) CM 603 2.5 1.09 1.61 0 0.45 0.71

Borman (1998) BC 726 2.2 1.13 1.26 0.06 0.69 0.19

Butchart (2001) MH 736 7.0 2.2 1.2 0.04 0.4 0.04

Khan (2001) SJM 666 5.8 2.5 2.0 0.3 0.3 -

MVR

Aoyagi (1994) SJM 577 5.9 1.1 0.3 - 0.03 -

Nakano (1994) SJM 636 5.2 1.63 0.18 0.09 0.06 0.36

Copeland (1995) CM 476 2.5 2.27 1.45 0.64 0.27 1.09

Borman (1998) BC 475 2.2 2.14 0.63 0.54 0.98 1.46

Butchart (2001) MH 796 7.6 4.0 1.4 0.03 0.4 0.1

Khan (2001) SJM 513 5.2 2.9 1.9 0.2 0.3 -

Author Valve No. of mean FU Embolism Bleeding Thrombosis Endocarditis Paravalvular-type pts (yrs) (%/pt-yr) (%/pt-yr) (%/pt-yr) (%/pt-yr) leak(%/pt-yr)

*SJM:St. Jude Medical 弁,CM:CarboMedids 弁,BC:Bicarbon 弁,MH:Medtronic-Hall 弁

表55 二弁置換術後(AVR+MVR)の機械弁関連による合併症頻度

Kinsley (1986) SJM 126 3 1.7 - 0.85 0.01 -

Armenti (1987) SJM 92 2.8 4.6 1.2 0 2.5 -

Burchhardt (1988) SJM 81 2.6 1.1 - - - -

Arom (1989) SJM 100 5 1.29 0 0.32 0 0.32

Czer (1990) SJM 74 3.3 2 3.1 0 0.3 0

Smith (1993) SJM 64 5 0.3 0.3 0 0.3 0.3

De Luca (1993) CM 76 1.5 0.3 0.65 - - -

Nakano (1994) SJM 223 0.5-12 0.79 0.1 0 0.2 0.2

Ibrahim (1995) SJM 70 4.2 5 2.1 0.001 1 1.26

Baucet (1995) SJM 132 9.7 1.6 1.01 0.7 0.3 0.1

Copeland (1995) CM 144 2.5 3.1 1.24 0 1.55 1.24

Borman (1998) BC 150 2.2 1.37 0.69 0.69 0.69 2.06

Butchart (2001) MH 234 6.6 3.4 1.6 0 0.7 0.2

Author Valve No. of mean FU Embolism Bleeding Thrombosis Endocarditis Paravalvular-type pts (yrs) (%/pt-yr) (%/pt-yr) (%/pt-yr) (%/pt-yr) leak(%/pt-yr)

*SJM:St. Jude Medical 弁,CM:CarboMedids 弁,BC:Bicarbon 弁,MH:Medtronic-Hall 弁

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(b)非構造的弁劣化(Nonstructural dysfunction)

人工弁そのものには由来しない人工弁の狭窄や閉鎖不

全の原因となる異常を意味する.パンヌス形成などによ

る弁葉可動不全,人工弁周囲逆流,狭小人工弁や臨床上

問題となる溶血性貧血などが含まれるが,感染弁と血栓

弁は除外される.

(c)血栓弁(Valve thrombosis)

感染症がない状態で,人工弁もしくは人工弁周囲の血

栓形成により人工弁の血流経路の一部が閉塞したり人工

弁の機能が損なわれる状態を意味する.

(d)塞栓症(Embolism)

感染症がない状態で,術後麻酔から覚醒した後に起こ

った全ての塞栓症を意味する.一過性及び永続性の神経

症状と末梢性の塞栓症が含まれる.術中脳梗塞,塞栓が

原因ではない心筋梗塞,及び非血栓物質に起因する塞栓

は除く.

(e)出血性合併症(Bleeding event)

死亡,入院,視力喪失などの永久的な障害の原因とな

ったり,輸血を必要とする体内または体外への大量出血

を意味する.抗凝固療法や抗血小板療法の有無には関わ

らない.脳梗塞後出血は含まない.

(f)人工弁心内膜炎(Prosthetic valve endocarditis)

植え込まれた弁への感染症を意味する.血液培養,臨

床症状及び手術もしくは解剖時の組織学的検査により診

断される.感染に伴う血栓弁,塞栓症,出血性合併症及

び弁周囲逆流はこれに含まれる.

3)人工弁植え込み患者の管理

(1)抗凝固療法

抗凝固療法を行う場合に考慮すべき点として,人工弁

位,人工弁種,及び血栓塞栓の危険因子(心房細動,左

室機能不全,血栓塞栓の既往,左房内血栓,拡大した左

房,凝固亢進状態)がある1)297).

抗凝固療法のモニタリングとしてはプロトロンビン時

間を用いる場合が世界的で,プロトロンビン時間を標準

化した INR(International Normalized Ratio;患者のプロ

トロンビン時間を正常血漿のプロトロンビン時間で除し

た値を International Sensitivity Index で乗した値)が用い

られている298).本邦ではトロンボテストの使用頻度が高

かったが近年 INR へ移行している施設が多いようであ

る.

(a)機械弁

機械弁植え込み患者では全例にワーファリン投与によ

る抗凝固療法が必要となる.ワーファリン投与下におい

ても年間 1~3 % 程度に血栓の合併が認められる299).海

外では当初INRを高め(3.0~4.5)に設定していたが,

この治療域では出血性合併症の発生率が高いこと及び

INR を若干低めに設定しても血栓塞栓の発生率に変わり

がないことから,INR を比較的低めに設定するようにな

ってきた300)-305).

治療域の INR 値として, European Society of

Cardiology は,第一世代(Starr-Edwards 弁と Björk-

Shiley standard 弁)では 3.0~4.5,第二世代(Medtronic-

Hall 弁や St. Jude Medical 弁など)では大動脈弁位で 2.5

~ 3.0,僧帽弁位で 3.0~ 3 .5 を推奨している 297).

American College of Chest Physicians からは機械弁であれ

ば 2.5~3.5 を推奨している299).ACC/AHA のガイドラ

インでは,血栓塞栓症の危険因子がない大動脈弁置換で,

第一世代の機械弁では 2.5~3.5を,第二世代の機械弁で

は 2.0~3.0を,僧帽弁置換術または血栓塞栓症の危険因

子を持つ大動脈弁置換術に関しては 2.5~3.5を推奨して

いる1).

本邦では機械弁に対してはトロンボテストで 10~25

% に調節することが標準であった141)189).この値は INR

では 1.6~2.8程度に相当し,海外の基準に比し低めの値

であったが,血栓塞栓症の発生頻度は 1 % 前後と低値

であった.近年,本邦より INR の範囲で 1.2~3.0 と欧

米に比し低いレベルで管理した場合の遠隔期成績の報告

が散見されるようになった306)-309)が,INR が 2.0~3.0 の

範囲であれば血栓塞栓症の発生は低率であり,出血の合

併症も低いことが明らかになってきており,日本人にお

ける至適 INR 値を決定する場合,人種の差を考慮する

必要があると考えられる.今後大規模な prospective

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1307

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表56 機械弁弁置換患者の抗凝固療法に関する推奨

クラスⅠ1 第 2 世代以降の機械弁による AVR 術後で危険因子を持たない患者に対する INR 2.0~3.0 を目標としたワーファリン投与

2 第2世代以降の機械弁による MVR 術後の患者に対する INR 2.0~3.0 を目標としたワーファリン投与

クラスⅡa1 機械弁による MVR 術後の患者に対する INR 2.0~

3.0 を目標としたワーファリン投与に加えてアスピリンの少量投与(80~100 mg)

クラスⅡb1 第 2 世代以降の機械弁による AVR 術後で危険因子を持つ患者に対する INR 2.0~3.0 を目標としたワーファリン投与に加えてアスピリンの少量投与(80~100 mg)

2 機械弁による MVR 術後で危険因子を持つ患者に対する INR 2.0~3.0 を目標としたワーファリン投与に加えてアスピリン以外の抗血小板剤の投与

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study が必要と考えられるが,本ガイドラインでは日本

人向けに低めの INR での管理を提唱する.

また,抗凝固療法に抗血小板療法を併用することにつ

いて,以前は出血性合併症の増加の報告が見られた310)311)

が,これは投与量等に問題があったためと考えられてい

る.最近では少量のアスピリンまたはジピリダモールの

併用は有用との報告が多く312)-314),危険因子を持つ症例

での併用をすすめるものもある1)299).

(b)生体弁

生体弁植え込み後 3カ月以内は血栓塞栓症の危険性が

高いとされているため315),ワーファリンによる抗凝固療

法(INR で 2.0~3.0または 2.5~3.5)が推奨されている.

3 カ月以降は,危険因子を持たない症例では抗凝固療法

を行わないか少量のアスピリン投与が推奨されてい

る1)297)299).また,血栓塞栓症の危険因子を合併する場合

には抗凝固療法を継続することが推奨されている.この

場合,大動脈弁置換後では INR で 2.0~3.0 が推奨され

ているが,僧帽弁では各ガイドラインで値がかなり異な

っており,INR で 2.0~4.5までの幅がある1)297)299).

(c)歯科的処置を実施する患者に対する抗凝固療法

抜歯などの出血を伴う歯科的処置を行う場合,処置の

2~3 日前からワーファリンを中止し,止血を確認後可

能であれば処置当日からワーファリンを再開する297).

(d)非心臓手術を実施する患者に対する抗凝固療法1)

大きな外科手術を実施する場合にはワーファリンを

72時間前までには中止し,INR が 1.5以下になったこと

を確認する必要がある.術後活動性の出血がないことを

確認の後ワーファリンを再開する.抗血小板療法は 1週

間前に中止する.血栓症合併の危険性が高いと判断され

た場合には,周術期で INR が 2.0未満の期間にヘパリン

の持続投与が推奨される.ヘパリンの投与量は aPTT が

55~70 秒に維持されるように調節し,術前 4~6 時間前

に中止する.術後は活動性の出血がないことを確認の後,

可及的早期にヘパリン投与を再開する.ヘパリンの皮下

投与も魅力的な方法であるが316),有効性に関する明らか

な証拠はない.

なお,緊急で外科的処置が必要な場合にはワーファリ

ン投与例に対するビタミン K の投与または新鮮凍結血

漿の投与が行われるが,前者では凝固亢進状態を誘発す

ることがあるため,後者が好ましいと考えられている.

(2)人工弁感染性心内膜炎の予防

人工弁置換術後の患者では,歯・口腔,呼吸器,消化

器,泌尿生殖器,等における外科的手技や処置にともな

い菌血症から容易に人工弁感染性心内膜炎を発症するこ

とがあり,感染性心内膜炎のハイリスク患者として処置

前に適切な抗生剤を予防的に投与することが推奨されて

いる.歯・口腔,呼吸器,食道,等における処置ではα

型溶血性連鎖球菌,食道を除く消化器や泌尿生殖器では

腸球菌を原因とした菌血症を生じやすく,予防投与する

抗生剤として表 58,59 のようなものが推奨されてい

る317).

(3)経過観察のための診察

抗凝固療法が必要な患者では,INR 値が安定した後も

月 1回の INR 検査が必要である298).

来院の頻度は個々の患者の状態によるが,合併症のな

い無症候で,抗凝固療法の必要がない患者でも最低年 1

回の来院が望ましい.病歴及び理学的検査は必須であり,

心電図及び胸部レントゲン検査は有用な検査である.全

血球検査及び LDH の測定は溶血の判定に有用であり,

その他 BUN,クレアチニン,電解質などは必要に応じ

て施行する.心機能不全や弁機能不全の症状・所見があ

る場合には心エコー検査が有用となる.ルーチン検査と

しての心エコー検査についての見解は定まっていない

が,生体弁では経年的に構造的劣化の危険が増大するの

で,植え込み後 5~8 年を経過したものではルーチン検

査に含めるべきとの意見がある.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021308

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表57 出血を伴う歯科処置/外科手術を必要とする患者の抗凝固療法

クラスⅠ1 歯科処置ワーファリンを処置 2~3 日前に中止する.処置後は止血確認後速やかに再開する.

2 外科手術ワーファリンを手術 72 時間前までには中止し,INR2.0 以下の期間は aPTT が 55~70 秒となるようにヘパリンの持続投与を行う.ヘパリンの投与は術前 4~6 時間前に中止する.手術は INR が 1.5 以下になっていることを確認して施行する.術後,活動性出血がないことが確認され次第ヘパリンの持続投与を再開し,ワーファリン再開により INR が 2.0 以上になるまでヘパリンの投与を続ける.緊急の場合は新鮮凍結血漿による凝固系の改善を行う.

クラスⅡb1 外科手術ワーファリンを手術 72 時間前までには中止し,INR2.0 以下の期間はヘパリンの皮下投与を行う.手術はINR が 1.5 以下になっていることを確認して施行する.術後,活動性出血がないことが確認され次第ヘパリンの皮下投与を再開し,ワーファリン再開により INR が 2.0 以上になるまでヘパリンの投与を続ける.

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(4)人工弁再手術の適応

人工弁再手術の適応が考慮される場合としては,中等

度~高度の人工弁機能不全(構造的,非構造的を問わな

い),内科的に治癒困難な人工弁心内膜炎,人工弁に起

因する高度な溶血,血栓弁,人工弁-患者ミスマッチ,

再発性血栓塞栓症,抗凝固療法に起因する重症再発性出

血がある.

弁膜症の外科治療は形成術と弁置換術に大別され,可

及的に自己弁を温存する形成術が試みられる.しかしな

がら,弁形成術が適応可能な症例は限られており,弁置

換術を適応せざるをえない症例が少なくない.人工弁は

機械弁と生体弁に分けられる.生体弁の利点は血栓塞栓

症に伴う合併症が少なく,抗凝固療法の必要性が軽減で

きる点にあるが,機械弁に比し耐久性に劣ることより再

手術の確率が高いという欠点がある318)319).1998 年現在

本邦においては生体弁の使用頻度は弁置換症例の 1割強

程度で,機械弁の使用が圧倒的多数を占めているが,欧

州では 3割弱,米国では 5割以上の症例で生体弁が使用

されている.患者の高齢化が進んでいる本邦においても

将来的に生体弁の使用比率が高まると予想されている.

本ガイドラインでは 2001 年現在において日本で使用可

能な生体弁を中心に,弁置換手術での生体弁の適応ガイ

ドラインを示す.

1)生体弁の種類

生体弁の種類としては自己弁,同種弁及び異種弁があ

り,異種弁は豚大動脈弁を用いたものと牛心膜を用いた

ものに分けられる.また,異種弁は構造的にステントが

付いたもの(ステント生体弁)とステントを外したもの

(ステントレス生体弁)に分けることができる.

(1)自己弁

自己弁とは同一患者内の弁を転位させることを意味

し,肺動脈弁を大動脈弁位に移植する Ross 手術がその

代表的な例である320).Ross 手術は通常の人工弁が挿入

不可能な狭小弁輪にも適応でき,血行動態的にも優れて

いる.移植された肺動脈弁(新しい大動脈弁)は自己組

織であることより,移植後の成長も期待でき,乳児小児

にも良い適応を持った弁である.抗凝固療法も不要であ

り,優れた遠隔成績が報告されている321)-323).しかしな

がら,肺動脈弁位に対しても弁置換術を必要とすること

より,手術のリスクが増大する欠点を有する.欧米では

肺動脈位には同種弁が用いられることが多いが,本邦で

は供給の問題より,異種弁や手作りの弁(異種心膜・自

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1309

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表58 歯・口腔,呼吸器,食道領域の各外科的手技・処置時における人工弁感染予防のための抗生剤投与

1 標準的投与 アモキシシリン 成人 2 g,小児 50 mg/kg PO 処置 1 時間前

2 経口投与不能例 アンピシリン 成人 2 g,小児 50 mg/kg IV or IM 処置 30 分前

3 ペニシリンアレルギー例 クリンダマイシン 成人 600 mg,小児 20 mg/kg PO 処置 1 時間前

セファレキシン 成人 2 g,小児 50 mg/kg PO 処置 1 時間前

セファドロキシル 成人 2 g,小児 50 mg/kg PO 処置 1 時間前

クラリスロマイシン 成人 500 mg,小児 15 mg/kg PO 処置 1 時間前

4 ペニシリンアレルギー+ クリンダマイシン 成人 600 mg,小児 20 mg/kg IV 処置 30 分以内

経口投与不能例 セファゾリン 成人 1 g,小児 25 mg/kg IV or IM 処置 30 分以内

対     象 抗 生 剤 分   量 投与 投与時期

表59 食道を除く消化管,泌尿生殖器領域の各外科的手技・

処置時における人工弁感染予防のための抗生剤投与

(PO:経口投与,IV:静注,IM:筋注)

1 標準的投与:(1)成人:アンピシリン 2 g の IM or IV とゲンタマイ

シン 1.5 mg/kg(≦ 120 mg)を処置前 30 分以内に併用,その 6 時間後にアンピシリン 1 g の IMor IV,またはアモキシシリン 1 g の PO

(2)小児:アンピシリン 50 mg/kg の IM or IV(≦ 2 g)とゲンタマイシン 1.5 mg/kg を処置前 30 分以内に併用,その 6 時間後にアンピシリン 25 mg/kgの IM or IV,またはアモキシシリン 25 mg/kg 経口投与

2 アンピシリン/アモキシシリンのアレルギー例(1)成人:バンコマイシン 1 g の IV(1~2 時間かけ

て)とゲンタマイシン 1.5 mg/kg(≦ 120 mg)の IM or IV を処置開始前 30 分以内に終了

(2)小児:バンコマイシン 20 mg/kg の IV(1~2 時間かけて)とゲンタマイシン 1.5 mg/kg(≦ 120mg)IM or IV を処置開始前 30 分以内に終了

生体弁の適応と選択Ⅴ-6Ⅴ-6

(PO:経口投与,IV:静注,IM:筋注)

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己心膜・ゴアテックスなどを材料としている)を用いる

場合が多い.遠隔期において大動脈弁位に使用した自己

肺動脈弁の不全(多くは閉鎖不全)の発生が認められる

ことがあるが,肺動脈弁位においた人工弁不全の発生率

の方がはるかに高く,再手術の主原因となってい

る321)322).

(2)同種弁

同種弁とは人間のドナーから摘出した大動脈弁または

肺動脈弁をレシピエントの大動脈弁位または肺動脈弁位

に移植するもので,摘出後すぐに移植するものと,冷凍

保 存 し て 必 要 な 時 に 解 凍 し て 使 用 す る も の

(cryopreserved allograft)とがあるが,使いやすさの点よ

り後者が一般的になっている.血行動態に優れ,抗凝固

療法も不要なことより若年患者の大動脈弁や肺動脈弁に

用いられている324).また,感染にも強いとされており,

活動期感染性心内膜炎における弁置換術にも好んで用い

られる.欧米では冷凍保存の同種弁が市販されており325),

広く一般的に用いられているが,本邦では一部の施設が

試験的に作成しているのみで,多くは海外より個人輸入

に頼らざるをえない状況であり,一般的に使用されるま

でには至っていない.

(3)異種弁

(a)ステント付豚大動脈弁(表 62)

豚の大動脈弁を組織固定した後,ステントにマウント

させたものである.現在本邦で市販されているものは第

2 世代以降のものであり,カーペンター・エドワーズ・

スープラアニュラ生体弁,ハンコックⅡ生体弁及びモザ

イク生体弁がある.組織固定にはグルタルアルデヒドが

用いられ,カーペンター・エドワーズ・スープラアニュ

ラ生体弁及びハンコックⅡ生体弁では低圧固定を,モザ

イク生体弁では無圧固定処理がなされている.石灰化抑

制処理としてカーペンター・エドワーズ・スープラアニ

ュラ生体弁やハンコックⅡ生体弁では表面活性剤を,モ

ザイク生体弁ではαアミノオレイン酸が用いられてい

る.ステント材料として,カーペンター・エドワーズ・

スープラアニュラ生体弁ではエルジロイが,ハンコック

Ⅱ生体弁やモザイク生体弁ではデルリンが用いられてい

る.

第 1 世代では 20 年を越える遠隔成績が出されてお

り326)-328),カーペンター・エドワーズ・スープラアニュ

ラ生体弁及びハンコックⅡ生体弁でも 10 年を越える遠

隔成績が明らかになっているが329)-332),モザイク生体弁

は発売後間もないことより良好な早期成績は報告されて

いるが333)334),遠隔成績はまだ明らかとなっていない.

(b)ステント付牛心膜弁(表 62)

牛心膜弁は牛の心膜から型抜きした 3枚の半円形シー

トをステントにマウントさせたものである.ステント付

豚大動脈弁に比し大きな有効弁口面積を持つとされてい

る335)が,第 1 世代では早期の人工弁機能不全が問題で

あった.現在市販されているカーペンター・エドワーズ

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021310

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

表60 生体弁による弁置換術の適応に関する推奨

クラスⅠ1 易出血性疾患の合併などによりワーファリン投与が不可能あるいはそれを拒否する患者

2 AVR を必要とする 65 歳以上の患者で血栓塞栓の危険因子を持たない場合

クラスⅡa1 ワーファリン投与のコンプライアンスに問題があると思われる患者

2 妊娠を希望する若い女性3 活動性の感染性心内膜炎で AVR を必要とする患者に対する同種弁による AVR

4 TVR を必要とする患者

クラスⅡb1 MVR を必要とする 70 歳以上の患者で血栓塞栓の危険因子を持たない場合

2 血栓が形成された機械弁に対する再弁置換術3 成長が期待される患者における自己肺動脈弁による

AVR

表61 生体弁弁置換患者の抗凝固療法に関する推奨

クラスⅠ1 生体弁による AVR で危険因子を持たない患者に対する術後 3 カ月間における INR 2.0~3.0 を目標としたワーファリン投与

2 生体弁による AVR で危険因子を持たない患者に対する術後 3 カ月間以降における抗凝固療法の中止

3 生体弁による MVR 術後で危険因子を持たない患者に対する術後 3 カ月間における INR 2.0~3.0 を目標としたワーファリン投与

4 生体弁による弁置換術後で危険因子を持つ患者に対する INR 2.0~3.0 を目標としたワーファリン投与

クラスⅡa1 生体弁による MVR 術後で危険因子を持たない患者に対する術後 3 カ月間以降における抗凝固療法の中止

クラスⅡb1 生体弁による AVR 術後で危険因子を持たない患者に対する術後 3 カ月間以降におけるアスピリンの少量投与(80~100 mg)

2 生体弁による MVR 術後で危険因子を持たない患者に対する術後 3 カ月間以降におけるアスピリンの少量投与(80~100 mg)

クラスⅢ1 生体弁による MVR 術後で危険因子を持たない患者に対する術後 3 カ月間以降におけるアスピリン以外の抗血小板剤の投与

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牛心のう膜生体弁(ペリマウント)はステントへの心膜

シートの固定法を改良し,10 年を越える優れた遠隔成

績が得られている336)-340).

(c)ステントレス生体弁

ステント生体弁ではステントと縫着輪が付いている

分,有効弁口面積が狭くなり,血行動態的に同種弁に劣

るとされている.同種弁はドナー不足の問題により供給

が限られることより,同種弁に近い血行動態を持つもの

として開発された.豚大動脈弁と基部をそのまま使用し

たフリースタイル弁は既に本邦で市販されており,豚大

動脈弁の外側をダクロン布で被覆したトロント SPV 弁

も治験を終了している.

フリースタイル弁は無圧固定処理及びαアミノオレイ

ン酸による石灰化抑制処理がなされており,同種弁と同

様な方法で挿入される.優れた血行動態が報告されてい

る137)341)が,長期遠隔期成績の報告はまだない.

2)生体弁の選択

生体弁のおもな長所は,前述の如く弁の種類を問わず

血栓塞栓症の発生が低く,抗凝固療法を必要としない,

または,軽減できるため,抗凝固療法に伴う出血の合併

が低率であることである.生体弁のおもな短所は構造的

劣化率が比較的高く,再手術の必要性が高いことである.

生体弁の構造的劣化率は年齢や弁位に影響されるといわ

れており326)-332)336)-339),年長者や大動脈弁位及び三尖弁

位での劣化率は低率である.大動脈弁位における 65 才

以上の患者327)329)332)336)337)や,僧帽弁位における 70 才以

上の患者328)-330)339)では生体弁の構造的劣化率が低いこと

より,患者が血栓塞栓の危険因子を持たない場合は生体

弁の良い適応を持つと考えられている.三尖弁位におけ

る生体弁の構造的劣化率が低いことも知られている342)

が,適応に関しての明らかな証拠を得るまでには至って

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 2002 1311

弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン

表62 生体弁の構造的劣化

Burr, et al. 1992 - 574 500 7 <65 94±1 88±2 Carpentier-Edwards standard65~69 98±1 90±4 ブタ生体弁70~79 100 95±3 (Carpentier-Edwards supraannular≧80 100 100 ブタ生体弁でも同様)

13~15 <65 62±8 37±765~69 98±3 63±870~79 95±5 74±19≧80 100 -

Pelletier, et al. 1992 7 330 421 10 <45 70 55 Carpentier-Edwards standard45~54 84 69 ブタ生体弁と55~64 93 66 Carpentier-Edwards ≧65 93 95 supraannular ブタ生体弁

Burdon, et al. 1992 7.3 857 793 15 16~39 33±7 38±12 Hancock I ブタ生体弁と40~49 54±1 37±6 Hancock MO ブタ生体弁50~59 57±6 38±560~69 73±6 62±6≧70 93±3 61±15

Khan et al. 1998 7 (AVR) 243 248 15 <65 46±8 44±7 Hancock I ブタ生体弁と7.3 (MVR) ≧65 76±8 44±17 Hancock MO ブタ生体弁

Jamieson et al. 1998 8.8 564 478 18 21~40 3±4 - Carpentier-Edwards standard41~50 26±8 6±5 ブタ生体弁51~60 39±7 13±661~70 59±7 -≧70 83±9 90±8

Marchand et al. 1998 7.2 535 11 <61 78±5 Carpentier-Edwards 牛心のう61~70 89±4 膜弁(構造的劣化による再70< 100 手術で評価)

Banbury et al. 1998 8.8 310 12 <65 86 Carpentier-Edwards 牛心のう≧65 96 膜弁

David et al. 2001 7.2 (AVR) 670 310 15 <65 76±6 76±5 Hancock IIブタ生体弁6.9 (MVR) ≧65 100 89±4

報告者 年 平均追跡期 植え込み弁数 推定人工弁構造的 年齢 人工弁構造的劣化非発生率 コメント

(年) AVR MVR 劣化期間(年) AVR MVR

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いない.

出血のリスクが高い合併症を有するなどの理由で抗凝

固療法が不可能な場合や,患者が抗凝固療法を拒否する

場合には生体弁の適応となる.また,抗凝固療法のコン

プライアンスに問題があると考えられる患者にも生体弁

の適応が考慮される.

弁置換術後に妊娠を考えている女性患者における人工

弁選択には未だ議論のあるところであるが,抗凝固療法

としてのワーファリンの投与は患者や胎児へのリスクと

なるため343)344),妊娠分娩に関しては生体弁の方が機械

弁に比し安全と一般的には考えられている345)-347).妊娠

分娩が異種生体弁の構造的劣化に及ぼす影響については

未だ明らかにされていない345)346)が,患者年齢が若いこ

とより生体弁の構造的劣化による再手術は避けられない

ことについて患者の同意を得る必要がある.異種生体弁

に比し,自己弁や同種弁が有利と考えられている348)が,

明らかな証拠はない.

腎不全患者,血液透析患者,高カルシウム血症患者及

び小児患者に生体弁を植え込んだ場合には生体弁の構造

的劣化率が高くなるため,通常生体弁は適応とならない.

ただし,自己弁では成長の可能性があると考えられてお

り,大動脈弁置換に限り自己弁による置換術(Ross 手

術)は小児,若年者にも良い適応と考えられている.ま

た,透析患者では元々長期予後が不良であることより,

人工弁の種類は予後に影響を与えないとする報告281)285)

が最近出てきており,腎不全の原疾患や合併症の有無に

よっては必ずしも機械弁にこだわることなく,生体弁を

選択することも考慮すべきである.

再弁置換手術を施行する場合,再手術の理由が生体弁

の機能不全であれば機械弁を,機械弁の血栓弁であれば

生体弁を考慮するのが一般的である.また,充分な抗凝

固療法下においても頻回に血栓塞栓症を合併する症例に

おいても生体弁による再手術が考慮される.

生体弁選択にあたっては,構造的劣化による再手術の

可能性と生体弁の有用性を患者に説明し,患者の意向を

十分に考慮にいれながら決定しなければならない.

本ガイドラインの作成に際しては,従来の AHA/

ACC のガイドラインの体裁を踏襲しつつ,本邦の特徴

を生かしたものにするように留意した.すなわち,欧米

人との体格差や人種差を考慮して,とくに心拡大や心肥

大の基準からみた手術適応,抗凝固療法の適正基準,な

ど,AHA/ACC のガイドラインと異なる見解も併記し

た.また,AHA/ACC のガイドラインが出版されてか

ら 5年近く経過していることから,最近の論文をできる

だけ引用することにより,最新の情報にも精通できるよ

うに配慮したつもりである.本ガイドラインが日本循環

器学会の会員のみならず,若い先生方にとっても臨床現

場の有用な指針の一つとなれば幸いである.

Circulation Journal Vol. 66, Suppl. IV, 20021312

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2000-2001年度合同研究班報告)

付  記

Page 53: 弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドラインAR:aortic regurgitation AS:aortic stenosis AVA:aortic valve area AVR:aortic valve replacement CABG:coronary artery

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