乳幼児連れの散歩環境に関する研究 a study on the …(110~180 度程度) 浅い...

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.16, 2018 2 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.16, February, 2018 * 1 非会員・神戸市立工業高等専門学校都市工学科(Kobe City College of Technology) ** 2 正会員・神戸市立工業高等専門学校都市工学科(Kobe City College of Technology) 乳幼児連れの散歩環境に関する研究 A Study on the Status and Consciousness of Walking with Infants 三木原 芹奈*・小塚 みすず** Serina MIKIHARA*Misuzu KOZUKA** In this study, it aims to shows that the status and consciousness of walking with infants. It also aims to clarify the requirements for creating a better walking space. As a result of conducting the questionnaire survey, the following was shown. 1) The requirements frequently walk with their children. 2) It is expected that walking will refreshing feelings and reducing stress. In addition, it is done to enjoy the time spent with children. 3) Most of the respondents are satisfied with the walk, but have experiences of danger and anxiety. We quantitatively clarified the requirements for creating a better walking space, by Analytic Hierarchy Process. The requirements for a better walking space are inscribed below; "weather and temperature", "traffic volume of car", "step and irregularity", "presence or absence of resting place" and "accessibility". Keywords: people with infants, walk, questionnaire survey 乳幼児連れ,散歩,アンケート調査 1. 研究の背景 近年,我が国の人口は減少の一途を辿っており,少子化対策 の重要性は一層増してきている.土木計画分野においては,子育 て中の親が安心して外出できるような交通環境の整備を進めて いく必要がある. 乳幼児連れでの外出の際には,一般にベビーカーなどの帯同 具を利用することが多く,行動に制限を受けやすいといわれてい る.そのため,公共交通機関や商業施設での子ども連れやベビー カーや多くの荷物を持っている際にも,安全で円滑に移動できる ように,バリアフリー化などの施設改善が進められてきた.しか し実際は,公共交通機関や商業施設を利用する以前に,その場所 にアクセスする場面で道路の整備の状況や交通環境などによっ て,さまざまな移動の制約を受けている.現在の交通環境は法的 整備が進められているとはいえ,まだ多くのバリアが存在してい る.今後,少しでも負担や不安を減らし,外出できる都市環境を 整え乳幼児連れでも行きたい場所へ自由に行くことができれば, 子育てをより楽しめるようになり,また,自由に乳幼児を連れて 外出をする姿を見る機会が増えれば,子育てに良いイメージを与 える契機となると考えられる. 出産後,初めて子どもと一緒に自宅から外出する行為として, 病院への通院やお宮参りなどのがあるが,その他に重要な外出行 為の一つとして「散歩」がある.本研究では散歩の重要性を指摘 し,これに着目する.初めての定期的な外出において,何らかの 障害を感じた場合,その後の外出行動にも大きな影響を与えると 考える.仮に,心身への負担が少なく,外出が保育者のストレス 軽減やリフレッシュ効果などのプラスの効果がある場合,その後 の外出行動の心理的負担を抑え,積極的に外出するようになろう. 2. 研究の目的 日常生活活動において,まちなかには様々なバリアが存在す るが,それらの影響を大きく受けているのは高齢者や障がい者の ほかに子連れ・乳幼児連れにおける移動時において多々みられ, 既往研究でも報告されている.例えば,妊婦と乳幼児帯同者の外 出時に感じる行動制限について明らかにしたもの 1) ,子育て中の 母親の外出行動の実態とバリアの意識を居住地および個人・世帯 特性の違いから明らかにしたもの 2) ,公共交通等における乳幼 児連れ利用者の行動やその意識を把握したもの 3) ,親子での交 通行動について交通手段や目的地までの距離に着目したもの 4) などがある。これらは,外出での行動や,駅や施設内などある特 定の場所を対象としたものが多く,子連れ・乳幼児連れの散歩環 境に関する研究は,あまりみられない. そこで本研究は,乳幼児連れでの散歩環境の実態を明らかに するとともに,乳幼児を伴うよりよい散歩環境の要件を明らかに することを目的とする.なお,本研究で対象とする乳幼児とは, 子供の月齢・年齢が乳幼児(3 歳以下)としている. 3. 乳幼児連れの移動 3-1. 外出および散歩の定義 外出や散歩について工学の観点から考えると,単に空間的移動 のことを指すのではなく,社会的意味をもった場所間の移動を意 味することから,「交通」である.「交通」とは,広辞苑 5) では, 「隔地間における人の往復,貨物の輸送,意思の通達の総称」と 説明されているが,交通工学の分野では,「人が社会活動として, それぞれの距離障壁克服の意思に基づいて行う,人または物資の 場所的移動の行為」とされる.つまり,人と物資の移動に限定し ているとともに,そこには明確な意思が存在することになる.次 に,外出と散歩の違いについて考えると,両者には交通に対する 需要の違いがある.外出は,買い物や通院などある目的を達成す るために生じる移動であり,派生的需要である.一方,散歩は, 移動すること自体が目的となる,本源的需要である.そもそも交 - 395 -

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.16, 2018 年 2 月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.16, February, 2018

* 1 非会員・神戸市立工業高等専門学校都市工学科(Kobe City College of Technology)

** 2 正会員・神戸市立工業高等専門学校都市工学科(Kobe City College of Technology)

乳幼児連れの散歩環境に関する研究

A Study on the Status and Consciousness of Walking with Infants

三木原 芹奈*・小塚 みすず**

Serina MIKIHARA*・Misuzu KOZUKA**

In this study, it aims to shows that the status and consciousness of walking with infants. It also aims to clarify the

requirements for creating a better walking space. As a result of conducting the questionnaire survey, the following

was shown. 1) The requirements frequently walk with their children. 2) It is expected that walking will refreshing

feelings and reducing stress. In addition, it is done to enjoy the time spent with children. 3) Most of the respondents

are satisfied with the walk, but have experiences of danger and anxiety. We quantitatively clarified the requirements

for creating a better walking space, by Analytic Hierarchy Process. The requirements for a better walking space are

inscribed below; "weather and temperature", "traffic volume of car", "step and irregularity", "presence or absence of

resting place" and "accessibility".

Keywords: people with infants, walk, questionnaire survey

乳幼児連れ,散歩,アンケート調査

1. 研究の背景

近年,我が国の人口は減少の一途を辿っており,少子化対策

の重要性は一層増してきている.土木計画分野においては,子育

て中の親が安心して外出できるような交通環境の整備を進めて

いく必要がある.

乳幼児連れでの外出の際には,一般にベビーカーなどの帯同

具を利用することが多く,行動に制限を受けやすいといわれてい

る.そのため,公共交通機関や商業施設での子ども連れやベビー

カーや多くの荷物を持っている際にも,安全で円滑に移動できる

ように,バリアフリー化などの施設改善が進められてきた.しか

し実際は,公共交通機関や商業施設を利用する以前に,その場所

にアクセスする場面で道路の整備の状況や交通環境などによっ

て,さまざまな移動の制約を受けている.現在の交通環境は法的

整備が進められているとはいえ,まだ多くのバリアが存在してい

る.今後,少しでも負担や不安を減らし,外出できる都市環境を

整え乳幼児連れでも行きたい場所へ自由に行くことができれば,

子育てをより楽しめるようになり,また,自由に乳幼児を連れて

外出をする姿を見る機会が増えれば,子育てに良いイメージを与

える契機となると考えられる.

出産後,初めて子どもと一緒に自宅から外出する行為として,

病院への通院やお宮参りなどのがあるが,その他に重要な外出行

為の一つとして「散歩」がある.本研究では散歩の重要性を指摘

し,これに着目する.初めての定期的な外出において,何らかの

障害を感じた場合,その後の外出行動にも大きな影響を与えると

考える.仮に,心身への負担が少なく,外出が保育者のストレス

軽減やリフレッシュ効果などのプラスの効果がある場合,その後

の外出行動の心理的負担を抑え,積極的に外出するようになろう.

2. 研究の目的

日常生活活動において,まちなかには様々なバリアが存在す

るが,それらの影響を大きく受けているのは高齢者や障がい者の

ほかに子連れ・乳幼児連れにおける移動時において多々みられ,

既往研究でも報告されている.例えば,妊婦と乳幼児帯同者の外

出時に感じる行動制限について明らかにしたもの 1),子育て中の

母親の外出行動の実態とバリアの意識を居住地および個人・世帯

特性の違いから明らかにしたもの 2) ,公共交通等における乳幼

児連れ利用者の行動やその意識を把握したもの 3) ,親子での交

通行動について交通手段や目的地までの距離に着目したもの 4)

などがある。これらは,外出での行動や,駅や施設内などある特

定の場所を対象としたものが多く,子連れ・乳幼児連れの散歩環

境に関する研究は,あまりみられない.

そこで本研究は,乳幼児連れでの散歩環境の実態を明らかに

するとともに,乳幼児を伴うよりよい散歩環境の要件を明らかに

することを目的とする.なお,本研究で対象とする乳幼児とは,

子供の月齢・年齢が乳幼児(3歳以下)としている.

3. 乳幼児連れの移動

3-1. 外出および散歩の定義

外出や散歩について工学の観点から考えると,単に空間的移動

のことを指すのではなく,社会的意味をもった場所間の移動を意

味することから,「交通」である.「交通」とは,広辞苑 5)では,

「隔地間における人の往復,貨物の輸送,意思の通達の総称」と

説明されているが,交通工学の分野では,「人が社会活動として,

それぞれの距離障壁克服の意思に基づいて行う,人または物資の

場所的移動の行為」とされる.つまり,人と物資の移動に限定し

ているとともに,そこには明確な意思が存在することになる.次

に,外出と散歩の違いについて考えると,両者には交通に対する

需要の違いがある.外出は,買い物や通院などある目的を達成す

るために生じる移動であり,派生的需要である.一方,散歩は,

移動すること自体が目的となる,本源的需要である.そもそも交

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.16, 2018 年 2 月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.16, February, 2018

通は派生的需要の方がより多くの割合を占めており,目的地で何

らかの活動を行うために交通が発生する場合がほとんどである.

また,本源的需要としての交通が派生的需要としての交通に含ま

れる場合もある.例えば,乳幼児連れの交通の場合,公園へ行く

という交通需要に対して,一つの目的は「公園で時間を過ごす」

ために発生する移動があるが,もう一つに,公園への移動の際,

「散歩をするため」という異なる需要の目的を兼ねていることも

ある.以上を整理したものを図-1の交通需要の概念図に示す.

移動

交通(需要)

派生的需要

本源的需要

本研究における「外出」の位置づけ

本研究における「散歩」の位置づけ

図-1 交通需要の概念図

3-2. 持ち物

外出時の持ち物は,目的地や子どもの月齢によって異なる.例

えば,0歳児の場合,一般に,オムツポーチ,オムツ数枚,ビニ

ール袋,タオル,着替え,ミルクセット,授乳ケープ,母子手帳,

お気に入りのおもちゃなどをマザーズ(ママ)バッグに入れ持ち

歩く.これに,ベビーカーや赤ちゃんの重さを入れると,総重量

はおおよそ10~15kgになると言われている.

この荷物で,階段などを昇降する場合,子どもを抱え,マザー

ズバッグを肩にかけ,ベビーカーも持つことになる.移動の際,

とくに高低差は身体的な負担となるのはもちろん,精神的にもス

トレスとなる.交通環境の悪さは,交通機会を奪うことにつなが

ると考えられる.

3-3. 外出・移動具(帯同具)

外出時に一般的に使用されている移動具には,ベビーカー(A

型,B 型など)や抱っこ紐(横向き,対面向き,前向き,越溪,

おんぶひもなど)がある.これらの使用は子どもの月齢,天気,

交通目的,帯同者などによって選択される.表-1 はベビーカー

の種類とその特徴についてまとめたものである.ベビーカー使用

年齢は,メーカーやベビーカーの種類により異なるが,2歳まで

の使用が約8割を占めている 6).

表-1 ベビーカーの種類と特徴

種類

特徴 A型 B型

使用年齢 1ヵ月~ 7ヵ月~

リクライニング

角度

深い

(110~180度程度)

浅い

(着座姿勢の角度のみ)

価格 高いものが1主流 比較的安い

大きさ 大型が主流 小型

重量 重いタイプが多い 軽い

機能 主流は両対面タイプ 両対面機能なし

4. 乳幼児連れの散歩環境に関する調査

4-1. 調査の概要

乳幼児連れの散歩環境に対する意識を把握するため,アンケー

ト調査を実施した.調査対象は,兵庫県子育て支援事業に訪れた

乳幼児(0~3 歳児)連れの保護者(注1)を対象に,平成 29 年 12

月中旬~平成30年1月上旬に実施した.アンケート調査の概要

を表-2に示す.

表-2 アンケート調査の概要

調査対象者 神戸市在住の0~3歳児の親(注1)

調査期間 平成29年12月中旬~平成30年1月上旬

調査方法 ・会場調査(会場で説明後,会場で配布・回収)

・郵送調査(会場で説明・配布後,郵送により回収)

調査場所 兵庫県男女参画センター(神戸クリスタルタワー)

回収票数 94票(有効回答93票)

主な調査項目

① 回答者属性

② 乳幼児連れの外出環境

③ 乳幼児連れの散歩環境 等

4-2. 調査の結果

(1)回答者の属性

回答者は全員女性である.年齢構成は図-2 に示すように, 6

割強が30歳代である.子供の年齢・月齢は兄弟全てを尋ねてい

るため総計はサンプル数より多くなっているが,図-3 に示すよ

うに0歳児の親が最も多い.また,図は割愛しているが,職業は

専業主婦が約5割と最も多く,続いて,産休・育休中が約3割,

会社員が1割,パート・アルバイトが1割未満という構成である.

(2)散歩の状況

第一に,1 週間あたりの散歩の頻度について,「ほぼ毎日散歩

する(週 6・7日)」~「あまり散歩しない(週 1日以下)」の 4

段階で尋ねた.その結果,図-4のように,「ほぼ毎日散歩する」

の回答が約4割と最も多く,続いて「よく散歩する」,「たまに散

歩する」,「あまり散歩しない」の順となった.

20歳以下

19%

30歳代

67%

40歳代

14%

51

27

126 11

0102030405060

0歳児

1歳児

2歳児

3歳児

4歳以上

(人:子ども)

図-2 回答者年齢 図-3 子どもの年齢・月齢

39%

31%

26%

4% ほぼ毎日散歩する

(週6・7日)

よく散歩する

(週4・5日)

たまに散歩する

(週2・3日)

あまり散歩しない

(週1日以下)

図-4 散歩の頻度

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第二に,散歩する時間帯について,5つの時間帯を提示し尋ね

た.一日に散歩する回数は異なることが想定されるため,回答は

複数回答可としている.結果を図-5 に示す.選択数が多かった

ものから順にあげると,「10時から12時頃」が56票(60.2%)

と最も多く,続いて「14時から16時頃」が48票(51.6%),「12

時から14時頃」が37票(39.8%)となった.図の回答分布から,

散歩の時間は「10時から12時頃」と「14時から16時頃」の午

前と午後に2度のピークがあることが読み取れる.

第三に,1回あたりの散歩時間について,「10分以内」~「30

分以上」の4つの時間を設定し尋ねた.結果を図-6に示す.「30

分以上」が全体の 45%を占め最も多く,続いて「20 分から 30

分程度」が25%,「10分から20分程度」が23%,「10分以内」

が7%となった.散歩時間については,とくに子どもの月齢・年

齢と関係があると考えられるため,属性相関を確認した.その結

果を図-7 に示す.なお,とくに 2 歳児や 3 歳児の回答数は少な

くなっているのは,兄弟がいる場合は月齢・年齢が小さい方に合

わせて集計したためある.月齢が小さいほど短時間の散歩時間と

なっており,χ2検定でも有意水準 1%で統計的有意性は確認さ

れている.

第四に,散歩の目的について,図-8に示す10の選択肢をあげ,

複数回答可として尋ねたところ,「育児の気分転換」が63票と約

8

56

37

48

10

0

20

40

60

10時頃まで

10時~

12時頃

12時~

14時頃

14時~

16時頃

16時以降

(選択数)

図-5 散歩の時間帯

7%

23%

25%

45%

10分以内

10分~20分程度

20分~30分程度

30分以上

図-6 1回あたりの散歩時間

2

4

6

6

5

13

7

1

28

9

1

2

0% 20% 40% 60% 80% 100%

0歳児

1歳児

2歳児

3歳児

10分以内 10分~20分程度 20分~30分程度 30分以上

図-7 子供の月齢・年齢別の1回あたりの散歩時間

7割の回答者が選択した.続いて「子供とのコミュニケーション」,

「景色や自然を感じたい」の順に多く,散歩の行為や時間が母親

の気分を落ち着かせたり子供との時間を楽しむ役割,つまり,本

源的需要として散歩が行われていると考えられる.

第五に,日常的に子連れで通る道路についての満足度を5段階

評価で尋ねたところ,図-9 より,不満を感じている割合が高い

結果となった.不満の理由として,道路構造の問題から生じる(ベ

ビーカーによる)歩行しにくさや自動車のマナーの指摘が多く挙

げられ,この結果は,先行研究 7)と同様であることが確認された.

第六に,散歩中にヒヤリとしたことや危険や不安を感じた経験

の有無については,61名(66%)がそのような経験をしている.

内容として,歩きたばこや歩きスマホなどの「歩行者のマナーの

問題」,自動車や自転車の走行などの「交通安全の問題」,ベビー

カーが倒れたり,子供が落ちそうになるなどの「帯同具と道路構

造が関連した問題」が多く挙げられた.

最後,第七に,現在の散歩の状況に対する満足度について,「非

常に満足」~「非常に不満」の6段階で尋ねた.図-10より,最

も多かったのは,「どちらかといえば満足」であり,回答の半数

を占めている.また,上記で,散歩中の危険や不安の経験は多か

ったものの,8割強が満足側に感じていることから,散歩自体に

問題はなく,快適に行われていることが推察される.

3911

1516

3234

5354

63

その他なんとなく

記憶力や想像力を伸ばす友人との付き合い

子どもの運動能力を高める生活リズムを整える運動(健康維持)

景色や自然を感じたい子どもとのコミュニケーション

育児の気分転換

(回答数)

図-8 散歩の目的

3%

22%

36%

33%

6%

非常に満足

満足

どちらともいえない

不満

非常に不満

図-9 日常的に子連れで通る道路についての満足度

7%

30%

50%

10%

3%

非常に満足

満足

どちらかといえば満足

どちらかといえば不満

不満

非常に不満

図-10 散歩の状況に対する満足度

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4-3. よりよい外出環境の要件

(1)分析の方法

乳幼児連れのよりよい外出要件を明らかにするため,階層化意

思決定手法(AHP)を用いて分析を行った.AHP は項目間の一

対比較を行った結果について,重み付き重要度を算出することで,

項目間の関係を定量的に示すことができる.

分析にあたって,図-11に示す階層構造図を設定し,各層およ

び各要因間の重みづけを行い,最終的に階層全体での重みづけを

行うことで,定量的にその重要度の算出を行う.第1層の総合目

標には「乳幼児連れのより良い外出環境の要件」を設定した.第

2層の評価基準には「屋外の環境」,「安全・安心」,「道路構造」,

「場所の状況」の 4 項目を,さらにその下位の第 3 層には第 2

層の各評価基準に属する具体的な評価基準を設定した.質問に対

する評価の方法はそれぞれの項目間でどちらがどれだけ重要か

を一対比較し,その評点に幾何平均を用いて重み付きの評価値

(重要度)を算定している.例えば,図-12 は,A―B の 2 項目

間を比較する場合の評価の方法と評価値の算出に必要な数値の

関係を示している.なお,最終的な分析・考察評価にあたっては,

コンシステンシー指数(Consistency Index:以下,C.I)を求め,

結果の整合性を十分満足するものとした.

(2)分析の結果

散歩時における乳幼児連れのよりよい外出要件の重要度の算定

結果を表-3 に示す.分析の結果,評価基準の 4 基準について最

も重要度が高い要件は,「安全・安心」であり,次いで,「屋外の

環境」,「場所の状況」,「道路構造」の順となる.しかし,重要度

の値に大きな差はあるとは言えない.続いて,評価項目の総合重

要度を見る.12 項目の中で最も重要度が高いものは「天気や気

温」であり,次いで重要度が高い順に5つ挙げると,「車の交通

量」,「段差・凹凸」,「人の多さ・人気(ひとけ)」,「休憩所の有

無」,「場所の近さ」の結果となった.

なお,外出か散歩かにより,重視したり気にする事項が異なる

か否かを確認をするため,外出時の回答結果についても同様に重

要度を算出し,結果の比較を行うこととした.なお,散歩と外出

の評価結果については統計的有意差有無を確認する.両者の重要

度を比較したものを図-13に示す.まず,散歩時は外出時に比べ,

「空気の良さ」,「騒音」,「人の多さ・人気」,「歩道の有無」,「遊

び場の有無」,「場所の近さ」の6要件の評価が高く,散歩の際は

外出時に比べ空間の静けさや施設の状況といった,散歩時の快適

性を重視している.そして,t検定の結果,「騒音」,「歩道の有無」,

「車のスピード」で統計的有意差を確認することができた.散歩

の際に親と子どもが静かに落ち着いた環境の中で安全な空間を

移動できるか否かを意識していると考えられる.

5. まとめ

本研究では,乳幼児連れの散歩時の散歩環境の実態を明らか

にすることで,乳幼児を伴うよりよい散歩環境の要件を明らかに

することを目的に調査・研究を行った.

アンケート調査データに基づき集計・分析を行った結果から,

得られた成果を以下に示す.

第1層:総合目標

第2層:評価基準

第3層:評価項目

乳幼児連れのよりよい外出環境の要件

屋外の環境 安全・安心 道路構造 場所の状況

天気や気温

空気の良さ

騒音

車の交通量

車のスピード

人の多さ・人気

段差・凹凸

坂道・傾斜

歩道の有無

休憩所の有無

遊び場の有無

場所の広さ

図-11 階層構造図

非常に重要

かなり重要

重要

やや重要

同じくらい重要

やや重要

重要

かなり重要

非常に重要

項目A ✔ 項目B

重要性の程度 評点の数値 (重要性)

同じくらい重要 1

やや重要 3(1/3)

重要 5(1/5)

かなり重要 7(1/7)

非常に重要 9(1/9)

図-12 評価の方法

表-3 評価基準の重要度と評価項目の総合重要度

第2層:評価基準 第3層:評価項目

要件 重要度 要件 総合重要度 順位

屋外の環境 0.257

天気や気温 0.139 1

空気の良さ 0.039 12

騒音 0.079 8

安全・安心 0.259

車の交通量 0.107 2

車のスピード 0.059 10

人の多さ・人気ひとけ

0.092 4

道路構造 0.236

段差・凸凹 0.098 3

坂道・傾斜 0.055 11

歩道の有無 0.082 7

場所の状況 0.249

休憩所の有無 0.088 5

遊び場の有無 0.074 9

場所の近さ 0.087 6

**

***

0.00

0.05

0.10

0.15

天気や気温

空気の良さ

騒音

車の交通量

車のスピード

人の多さ・人気

段差・凸凹

坂道・傾斜

歩道の有無

休憩所の有無

遊び場の有無

場所の近さ

散歩 外出

※ **:5%有意

*:10%有意

図-13 散歩と外出の比較

この場合,項目Bの方が A よりもかなり重要であり,また,その程度は「かなり重要」であることを示す.評点は「7」となり,重要度の算出に用いられる.

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公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.16, 2018 年 2 月 Reports of the City Planning Institute of Japan, No.16, February, 2018

(1)アンケート調査の集計結果

・散歩をほぼ毎日のように行っている回答者が約 4 割おり,

週2・3日以上を含めると9割以上を占めた.

・30分以上散歩することが多く,その時間帯は,10時から12

時と14時から16時の2度のピークがある.

・散歩の目的として,「育児の気分転換」,「子供とのコミュニ

ケーション」,「景色や自然を感じたい」などの意見が多く,

主に母親の気分を落ち着かせたり,子供との時間を楽しむ

役割となることを期待されている.

・日常的に子連れで通る道路について,不満を感じている割

合が高く,その理由として,道路構造の問題から生じる(ベ

ビーカーによる)歩行しにくさや自動車のマナーの指摘が

多く挙げられた.

・散歩中にヒヤリとしたことや危険や不安を感じた経験者が6

割強と多く,「歩行者のマナー」,「交通安全」,「帯同具と道

路構造の関連」にたいして問題視している.

・現在の散歩の状況に対して,8割強が満足側に感じているこ

とから,散歩自体に問題はなく,快適に行われていること

が推察される.

(2)よりよい散歩環境の要件

・乳幼児連れのよりよい外出要件を明らかにするため,AHP

および統計的検定手法を用いて分析を行った.その結果,

散歩時に重視する要件には「天気や気温」,「車の交通量」,

「段差・凹凸」,「休憩所の有無」,「場所の近さ」などであ

ることが定量的に示された.

・外出時の評価との比較の結果,「空気の良さ」,「騒音」,「人

の多さ・人気」,「歩道の有無」,「遊び場の有無」,「場所の

近さ」の 6 要件の評価が高く,散歩の際は外出時に比べ空間

の静けさや施設の状況といった,散歩時の快適性を重視し

ていると考えられる.

・外出と散歩の間の評価の間に統計的有意差が確認できた項

目は,「騒音」,「歩道の有無」,

「車のスピード」であり,散歩の際に親と子どもが静かに落

ち着いた環境の中で安全な空間を移動できるかを意識して

いることが明らかとなった.

謝辞

本研究を進めるにあたり,アンケート調査にご協力いただいた,

兵庫県男女共同参画センター,兵庫県立神戸生活創造センター,

神戸市こども家庭局子育て支援部の各担当者様,そして,ご回答

いただいた子育て中の保護者に厚く感謝申し上げる.

補注

(注1)兵庫県や神戸市では様々な子育て支援事業を企画・実施

している.今回は,兵庫県男女共同参画センター・イー

ブン,兵庫県立生活創造センター,神戸市地域子育て支

援センター兵庫,神戸市地域子育て応援プラザ中央が共

催の子育て支援事業である,「きらきら」,「Baby きらき

ら」,「読み聞かせ広場」等への参加者を調査対象とした.

参考文献

1) 辰巳浩・堤香代子・吉城秀浩:都心での回遊行動の比較によ

る子連れ来街者の特性把握~福岡市天神地区を対象として~,

土木学会論文集D3(土木計画学),72/5,pp.I_435-I_445,2016.

2) 北川啓介・長坂真理子・呉明宣・井上暁代:妊婦と乳幼児帯

同者の行動制限とその要因,日本建築学会計画系論文集,

Vol.73巻・No.628号,pp.1243-1250,2008.

3) 大森宣暁・谷口綾子・真鍋陸太郎・寺内義典・青野貞康:子

育て中の女性の外出行動とバリアに対する意識に関する研究

-首都圏在住の乳幼児を持つ母親を対象として-,日本都市

計画学会都市計画論文集,Vol.46・No.3,pp.259-264,2011.

4) 小久保 亮佑 ・立枩 晃次 ・小松 尚:地域における子育て中

の親子の外出行動に関する研究 ~外出距離と交通手段,外出

先の関係を中心に,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.9-12,

2009.

5) 新村出:広辞苑(第6版),岩波書店,2008.

6) インターワイヤード株式会社 DIMSDRIVE事務局:『ベビーカ

ー』に関するアンケート,

http://www.dims.ne.jp/timelyresearch/2008/081031/

7) 小塚みすず:乳幼児連れ移動時の交通状況に関する研究,日

本福祉のまちづくり学会全国大会第20回東海大会,F-3,2016.

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