レーザーキャパシターターゲットを用いた高強度磁場発生の...

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レーザーキャパシターターゲットを用いた高強度磁場発生のための Warm Dense Matter の導電率計測 佐々木徹 1) ,菊池崇志 1) ,高橋一匡 1) ,原田信弘 1) 長友英夫 2) ,藤岡慎介 2) ,砂原淳 3) 長岡技術科学大学 1) ,大阪大学 2) ,レーザー総研 3) 背景 マグネターが発生する超高強度磁場を実験室系で 模擬する場合[1] や高速点火型慣性核融合の高速電 子のガイディング[2],高強度磁場中での原子核物理 等,高強度磁場を発生させることで様々な現象の物 理的理解が可能となる.現在,パルスで高強度磁場 を発生させるためには爆縮法を用いた磁場濃縮法 [3] やレーザーキャパシターターゲットを利用した 高強度磁場発生法[4]がある.この中でも kT クラス の磁場を発生させることができるレーザーキャパシ ターターゲットは,レーザーの高強度化に伴い更な る高強度磁場を発生させることが期待できる.しか しながら,コイル材質により発生する磁場強度が異 なることから,その物理的な機構を解明する必要が ある. レーザーキャパシターターゲットは,キャパシタ ー部に高強度レーザーを照射し,高速電子が輸送す る大電流により磁場を発生させることができるが, (1)高速電子のフラックス,(2)コイルの電気伝導率, (3)コイルの表皮効果によりコイル抵抗が上昇,発生 する磁束が変化すると考えられる.高速電子のフラ ックスはレーザー強度に強く依存するため,改善す ることが可能であるが,磁場を発生させるためには コイルに大電流を流す必要があるため,コイルの抵 抗を決める電気伝導率と表皮効果の影響を検討する 必要がある.大電流が流れるコイルは Warm Dense Matter(WDM)状態となるため,その際の電気伝導率 が不明であり,また,その際の表皮効果の影響を検 討するためにも電気伝導率が必要である. レーザーキャパシターターゲットによる高強度磁 場を発生させるためにはコイルの抵抗値を明らかに する必要があり,大電流が流れている領域での電気 伝導率が発生させる磁場強度を決定すると考えられ る.本研究では,系統的に様々な材料の電気伝導率 を評価し,電磁流体コードを通して表皮効果及び磁 気濃縮の効果を明らかにすることで,更なる高強度 磁場を発生させるための条件を明らかにすることが 目的である. 実験装置及び方法 レーザーキャパシターターゲットのアブレーショ ン時である WDM DC 導電率を行うために,図 1 に示すようなパルスパワー放電装置を用いた[5].本 装置の特長は,定積で且つ温度が均一な WDM を長 時間維持することができ,ガラスキャピラリーを剛 体として用いているため外部からの光学計測が可能 であり,電圧-電流履歴を利用することで直接投入エ ネルギー量及び DC 導電率が計測できることである. 3.78 μF(1.89 μF×2)のコンデンサバンクを約 8 kV に充電し, 自爆型ギャップスイッチを介してパルス 放電を発生させる. 短絡試験により回路インダクタ ンスは 170nH と見積もった. ガラスキャピラリー (ϕ1x10mm)に封入された金属試料へパルス放電によ ってエネルギーを投入することで定積加熱を行い, WDM を生成する. また,ストリークカメラにマウ ントした分光器により WDM からの発光スペクトル の時間変化を観測する. WDM の密度はガラスキャ ピラリーに封入する金属試料の量により任意に決定 できる. また,WDM の温度は観測された発光スペ クトルから評価する. 実験結果と考察 2 に直径 0.3mm のニッケル細線を定積パルスパ ワー放電法により加熱したときの典型的な電圧- 流波形及びそれらから求められる投入エネルギーの 時間変化及び導電率の時間変化を示す.放電開始後 1μs までかけてニッケル細線が加熱される.その後, 電圧がピークを迎えたタイミングでアブレーション が開始し,電圧が急激に減少し,電流値が最大値を Current Transformer 3.78μF ~10kV Streak Camera Spectrometer High Voltage Probe High Voltage Pulser V Rotary and Tubo Molecular Pumps (~10 -3 Pa) 10mm 1mm Ni:φ 0.1~0.3mm Timing Pulser 100MΩ 100MΩ 2000pF 1 パルスパワー定積加熱放電装置

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  • レーザーキャパシターターゲットを用いた高強度磁場発生のための

    Warm Dense Matterの導電率計測

    佐々木徹 1),菊池崇志 1),高橋一匡 1),原田信弘 1),

    長友英夫 2) ,藤岡慎介 2) ,砂原淳 3)

    長岡技術科学大学 1),大阪大学 2) ,レーザー総研 3)

    背景

    マグネターが発生する超高強度磁場を実験室系で模擬する場合[1]や高速点火型慣性核融合の高速電子のガイディング[2],高強度磁場中での原子核物理等,高強度磁場を発生させることで様々な現象の物理的理解が可能となる.現在,パルスで高強度磁場を発生させるためには爆縮法を用いた磁場濃縮法[3]やレーザーキャパシターターゲットを利用した高強度磁場発生法[4]がある.この中でも kT クラスの磁場を発生させることができるレーザーキャパシターターゲットは,レーザーの高強度化に伴い更なる高強度磁場を発生させることが期待できる.しかしながら,コイル材質により発生する磁場強度が異なることから,その物理的な機構を解明する必要がある. レーザーキャパシターターゲットは,キャパシター部に高強度レーザーを照射し,高速電子が輸送する大電流により磁場を発生させることができるが,(1)高速電子のフラックス,(2)コイルの電気伝導率,(3)コイルの表皮効果によりコイル抵抗が上昇,発生する磁束が変化すると考えられる.高速電子のフラックスはレーザー強度に強く依存するため,改善することが可能であるが,磁場を発生させるためにはコイルに大電流を流す必要があるため,コイルの抵抗を決める電気伝導率と表皮効果の影響を検討する必要がある.大電流が流れるコイルは Warm Dense Matter(WDM)状態となるため,その際の電気伝導率が不明であり,また,その際の表皮効果の影響を検討するためにも電気伝導率が必要である. レーザーキャパシターターゲットによる高強度磁場を発生させるためにはコイルの抵抗値を明らかにする必要があり,大電流が流れている領域での電気伝導率が発生させる磁場強度を決定すると考えられる.本研究では,系統的に様々な材料の電気伝導率を評価し,電磁流体コードを通して表皮効果及び磁気濃縮の効果を明らかにすることで,更なる高強度磁場を発生させるための条件を明らかにすることが目的である.

    実験装置及び方法

    レーザーキャパシターターゲットのアブレーショ

    ン時である WDM の DC 導電率を行うために,図 1に示すようなパルスパワー放電装置を用いた[5].本装置の特長は,定積で且つ温度が均一なWDMを長時間維持することができ,ガラスキャピラリーを剛体として用いているため外部からの光学計測が可能であり,電圧-電流履歴を利用することで直接投入エネルギー量及び DC 導電率が計測できることである. 3.78 µF(1.89 µF×2)のコンデンサバンクを約 8 kVに充電し, 自爆型ギャップスイッチを介してパルス放電を発生させる. 短絡試験により回路インダクタンスは 170nH と見積もった. ガラスキャピラリー(ϕ1x10mm)に封入された金属試料へパルス放電によってエネルギーを投入することで定積加熱を行い, WDM を生成する. また,ストリークカメラにマウントした分光器によりWDMからの発光スペクトルの時間変化を観測する. WDM の密度はガラスキャピラリーに封入する金属試料の量により任意に決定できる. また,WDM の温度は観測された発光スペクトルから評価する.

    実験結果と考察

    図 2に直径 0.3mmのニッケル細線を定積パルスパワー放電法により加熱したときの典型的な電圧-電流波形及びそれらから求められる投入エネルギーの時間変化及び導電率の時間変化を示す.放電開始後1µsまでかけてニッケル細線が加熱される.その後,電圧がピークを迎えたタイミングでアブレーションが開始し,電圧が急激に減少し,電流値が最大値を

    CurrentTransformer

    3.78μF~10kV

    Streak Camera

    Spectrometer

    High VoltageProbe

    High VoltagePulser

    V

    Rotary andTubo Molecular Pumps (~10-3Pa)

    10m

    m

    1mm

    Ni:φ 0.1~0.3mm

    Timing Pulser

    100MΩ

    100MΩ2000pF

    図 1 パルスパワー定積加熱放電装置

  • 迎える.これは同時に計測を行っているストリーク像とも一致しており,また,放電開始後 3µsまでプラズマが閉じ込められていることを確認している.また,ニッケル細線の導電率の時間変化から,アブレーション後急激に導電率が上昇し,およそ 105 S/m程度のオーダーで一定値となることが読み取れる. このときのプラズマパラメータを明らかにするため,同時に分光計測を行った結果を図 3に示す.この結果より,放電開始後からニッケル細線が黒体放射様の発光を示し,その後,灰色体のようにニッケルのスペクトルが観測されることがわかる.アブレーション後の電子温度を灰色体近似で求めるとおよそ 5000~7000K 程度の温度であることが明らかとなった.これは従来の他の材料の結果[6]と比較すると,同じ温度・密度の場合では導電率が極めて高いことがわかる.一方,レーザーキャパシターターゲットの典型的な周波数はおよそ 100MHz程度のパルスであることを考えると,WDM 領域では,表皮効果よりも物質の導電率によって電流値が制限されている可能性が示唆される.

    まとめ

    系統的に様々な材料の電気伝導率を評価し,電磁流体コードを通して表皮効果及び磁気濃縮の効果を明らかにすることで,更なる高強度磁場を発生させるための条件を明らかにするため,現在レーザーキャパシターターゲットに用いられているニッケル材料を中心に過去の導電率計測結果との比較を行い,その影響を評価した.その結果,ニッケルの場合には他の材料と比べて高密度プラズマ状態では導電率が高いことが明らかとなった.また,表皮効果の観点からレーザーパルスとの関係を検討すると,基本的には表皮効果よりも材料自身の導電率が影響し,ニッケル材料の場合には電流を流しやすい可能性があることを示唆している.

    REFERENCES

    [1] R. C. Duncan and C. R. Thompson, Astrophysical Journal, Part2, 392, pp. L9-L13 (1992). [2] S. Fujioka, et. al., Plasma Physics and Controlled

    Fusion, 54, 124042 (2012) [3] F. S. Felber , et. al., App. Phys. Lett., 46, 1042 (1985). [4] S. Fujioka, et. al., Sci. Rep., 3, 1170 (2013). [5] Y. Amano, et. al., Rev. Sci. Instrum., 83, (2012). [6] T. Sasaki, et. al., Phys. Plasmas, 17, 084501(2010).

    0 0.5

    1 1.5

    2 2.5

    3Vo

    ltage

    [kV]

    -15-10

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    [S/m

    ]

    Time[us]

    (a)

    Average conductivityassuming capillary radius

    Achiving capillary radius

    (b)

    図 2 ニッケル細線(0.3mm)の典型的な電圧,電流,

    投入エネルギー,導電率の時間変化.(a)ニッケル

    細線がアブレーションする前の状態.(b)ニッケル

    細線がアブレーション後キャピラリーに閉じ込

    められている時間帯

    336nm0us

    5us

    10us

    737nm551nm

    図 3 ニッケル細線(0.3mm)の発光スペクトル強度

    の時間変化