漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の - …...(3)...

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1 【研究論文】 漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の 文章理解に及ぼす影響 Effects of Ratio of Sino-Japanese and Origina on Reading Comprehension by the Chinese N Learning Japanese as a Second Languag KOMORI, Kazuko 1 はじめに 一般に,中国語を母語とする日本語学習者(以下,中国人学習者)は,他の言語を第一言語 (以下,Ll)とする日本語学習者に比べて,日本語の文章理解において有利であると言われる。 その背景には,文章理解の成功に高い既知語率が必要であること,および日本語の語彙に占める 漢語の割合の高さがあると考えられる。 文章理解には,語や統語などの言語的知識,テキスト構造に関するメタ言語的知識文章の内 容に関わる世界知識,文章理解を促進するメタ認知方略の知識など,複数の知識が関わっており, 語彙知識はその一部に過ぎない。しかしながら,読み手が文章の95~98%(延べ語数換算)の 語の意味を知らなければ,内容の理解は困難であることが,第二言語としての日本語や英語の習 得研究で明らかになっており(小森,2005;小森・三國・近藤,2004;三國・小森・近藤,2006; Hirsh&Nation,1992;Hu&Nation, 2000;Laufer,1989),語彙知識は な要因である。とりわけ,言語習熟度が低い段階では,言語処理が自動化されていないため,単 語認知や統語解析などの低次の言語処理に認知資源が多く消費され,文章理解が進まないという 現象が起こる(Anderson,1983;McLaughlin,1990)。そのため,文章理解を促進す 分な語彙知識が必要になると考えられる。 一方,日本語には,漢語,和語,外来語,混種語の4種類の語種があるが,新聞や雑誌などの 一般的な書き言葉では,延べ語数の約半数を漢語が占める(国立国語研究所,1964,1970)(’)。 高校教科書や大学の学術書などにおいては,漢語の占める割合はさらに高くなり,7割以上であ ると言われている(国立国語研究所,1983;松下,2011)。加えて,漢語の7割程度は,「緊張」 と『緊張』のような日本語と中国語の両言語で用いられる同形語である(混同を避けるため,日

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【研究論文】

漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の

          文章理解に及ぼす影響

Effects of Ratio of Sino-Japanese and Original Japanese Words

on Reading Comprehension by the Chinese Native Speakers

      Learning Japanese as a Second Language

小 森 和 子

KOMORI, Kazuko

1 はじめに

 一般に,中国語を母語とする日本語学習者(以下,中国人学習者)は,他の言語を第一言語

(以下,Ll)とする日本語学習者に比べて,日本語の文章理解において有利であると言われる。

その背景には,文章理解の成功に高い既知語率が必要であること,および日本語の語彙に占める

漢語の割合の高さがあると考えられる。

 文章理解には,語や統語などの言語的知識,テキスト構造に関するメタ言語的知識文章の内

容に関わる世界知識,文章理解を促進するメタ認知方略の知識など,複数の知識が関わっており,

語彙知識はその一部に過ぎない。しかしながら,読み手が文章の95~98%(延べ語数換算)の

語の意味を知らなければ,内容の理解は困難であることが,第二言語としての日本語や英語の習

得研究で明らかになっており(小森,2005;小森・三國・近藤,2004;三國・小森・近藤,2006;

Hirsh&Nation,1992;Hu&Nation, 2000;Laufer,1989),語彙知識は文章理解を促進する重要

な要因である。とりわけ,言語習熟度が低い段階では,言語処理が自動化されていないため,単

語認知や統語解析などの低次の言語処理に認知資源が多く消費され,文章理解が進まないという

現象が起こる(Anderson,1983;McLaughlin,1990)。そのため,文章理解を促進するには,十

分な語彙知識が必要になると考えられる。

 一方,日本語には,漢語,和語,外来語,混種語の4種類の語種があるが,新聞や雑誌などの

一般的な書き言葉では,延べ語数の約半数を漢語が占める(国立国語研究所,1964,1970)(’)。

高校教科書や大学の学術書などにおいては,漢語の占める割合はさらに高くなり,7割以上であ

ると言われている(国立国語研究所,1983;松下,2011)。加えて,漢語の7割程度は,「緊張」

と『緊張』のような日本語と中国語の両言語で用いられる同形語である(混同を避けるため,日

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 2             『明治大学国際日本学研究』第4巻第1号            (2)

本語には「」を,中国語には「』を付す)。同形語は,日本語では簡略字,中国大陸では簡体

字,台湾では繁体字と,地域によって使用される字体は違うものの,意味や概念において共通し

ているものが多い(2)。そのため,中国人学習者であれば,日本語の習熟度が低く,日本語の読み

方を知らなくても,意味は分かるという現象が起こる。よって,第二言語としての日本語で,文

章を理解するためには,95~98%程度の高い既知語率が必要であるとしても,日本語の語彙には

漢語の占める割合が高く,さらに漢語には中国語でも用いられる同形語が多いため,必然的に,

中国人学習者は日本語の文章理解は比較的容易であるということになる。

 ところが,中国人学習者は,漢語の知識に依存するあまり,和語を使うべきところで漢語を用

いて,不自然な日本語を産出することが多いという指摘もある(佐治,1992;鈴木,1999;張,

2009)。例えば,「*話題が発生する」「*現代化を建設している」「*32人を殺す事件が暴発した」

という不自然な文が産出されるのは,和語の知識が不十分なため,「話題が出る」「現代化に取り

組んでいる」「32人を殺す事件が起きた」と表すことができないと考えられる。また,語彙テス

トの研究においても,中国人学習者は和語の問題項目において正答率が低く,意味や用法の知識

が十分に習得されていないという報告もある(小森・三國・徐・近藤,2012;宮岡・玉岡・酒井,

2011)。

 以上を総合すると,中国人学習者が日本語の文章を正しく理解できるか否かは,どのような語

種構成の文章を対象としているかに依存する可能性が推測される。よって,中国人学習者の文章

理解を検討する際には,文章の語種比率の影響を考慮に入れる必要がある。そこで,本研究では,

中国人学習者は,漢語の占める割合が高ければ高いほど,日本語の文章理解を,より容易に,よ

り正確に遂行できるのか,漢語の割合が小さくなり,和語や外来語が多くなればなるほど,理解

に困難が生じるのか,また漢語と和語の比率と日本語習熟度との間にはどのような関係があるの

か,について検討する。

 本研究から得られる知見は,中国人学習者に,どの段階で,どのような文章を読ませるのが,

語彙習得や文章理解において有効であるかを検討する際の一助となるであろう。また,中国人学

習者の日本語能力を判定する試験において,どのような語種構成比で問題項目を作成すれば,試

験全体の難易度を調整できるのか,読解問題の難易度を検討するためには,どのような語種構成

の文章を選定すれば良いのか,という点において,参考となる情報が提供できるのではないかと

考える。

ll 先行研究

 中国人学習者の文章理解における漢語と和語の関係に関する研究成果は,管見の限り,高野

(2007a,2007b)しか見当たらない。高野(2007a,2007b)では,中国人学習者を対象に,文章

に含まれる漢語と和語の,意味や読み方に関する知識と,当該文章の内容理解との関係を検討し

た。その結果,和語は,漢語に比べて,意味や読み方の正答率が低く,習得が不十分であること

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 (3)     漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の文章理解に及ぼす影響       3

が明らかとなった。また,漢語も和語も,意味や読み方の正答率は内容理解の正答率と相関して

いたが,和語の方が漢語より,内容理解との相関が高い傾向が認められた。但し,高野(2007a,

2007b)で用いられた文章に占める漢語と和語の比率が不明であるため,漢語と和語のいずれが

多かったのか,漢語と和語の比率の違いが文章理解とどのように関わるのか,については,明ら

かになっていない。

 一方,大規模テストや語彙テストの分析結果から,中国人学習者の和語の習得の遅れが示唆さ

れる。まず,日本語能力試験の試験科目の1つである文字・語彙(3)には,漢語,和語,外来語に

ついて,意味や用法を問う問題が出題されている。例えば,平成19年の1級の文字・語彙の試

験では,意味や方法を問う空所補充問題15問のうち,漢語と和語がそれぞれ7問,外来語が1

問,出題されている。このうち,漢語と和語の平均正答率(全員が不正解だった場合は0,全員

が正解した場合は1で,0~1の間の値をとる困難度の指標の一つ)について,中国語を母語と

する受験者(以下,中国人受験者)の試験結果(4)を見ると,漢語が0.761,和語が0.511であっ

た。これは,漢語は,中国人受験者の76%以上が正答しているのに対して,和語では,51%し

か正答していない,ということを表している。また,同年の2級の文字・語彙では,空所補充10

問の中で,中国人受験者の平均正答率は,漢語(3問)は0,897,和語(6問)は0.406と,極端

な差があった。漢語では約90%の受験者が正答するのに対して,和語の設問では正答者が40%

程度だということである。このように,日本語能力試験の1級や2級の分析結果を見ると,中国

人学習者にとって,和語は意味や用法の習得が困難であることが窺える。

 また,宮岡・玉岡・酒井(2011)では,独自に開発した語彙テストを中国人学習者に実施し,

分析した結果,漢語に比べて,和語の正答率が極めて低く,和語の問題は困難度が高くなる傾向

が示された。宮岡他(2011)に示されたデータを見ると(5),和語12問の正答率は,最も低いも

ので0.228,最も高いものでも0.431であった。易しい問題でも,学習者の43%しか正答できて

いない,ということである。一方,漢語では,0.085という極端に難しい問題項目もあったが,

12間中5問は正答率が0.8以上であり,80%以上が正答する易しい問題項目が多かった。なお,

宮岡他(2011)の漢語とは,漢字二字熟語のことであり,「無難」「出世」「愚痴」など,日本で

造語された和製漢語も含まれている。しかし,これらは中国語の知識が応用できない語であるた

め,中国人学習者を対象とした分析において,漢語に分類するのは妥当でないと,筆者は考えて

いる。なお,これら和製漢語の正答率を見ると,それぞれ,0.085,0.100,0.157と極めて低く,

その他の漢語とは,明らかに難易度の傾向が異なっている。

 さらに,小森・三國・近藤・徐(2012)では,中国人学習者が,同形語とそれに対応する和語

を,どの程度正しく習得しているか,正誤判断テストによって調査した。例えば,中国語では

『整理共笈』と言えるが,日本語では「*髪の毛を整理する」と漢語(同形語)を用いるのは不自

然であり,「髪の毛を整える」と和語を用いるのが自然である。調査の結果,中国語と同じ連語

形式が許容される場合には(例えば,『保持佑統」,「伝統を保持する」,「伝統を保つ」),漢語で

も,和語でも,正答率が高いのに対して,中国語と同じ連語形式が許容されない場合には(例え

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 4             『明治大学国際日本学研究』第4巻第1号            (4)

ぱ,『整理芸友』と「*髪の毛を整理する」,『建没家庭』と「*家庭を建てる」),日本語能力試験1

級取得者でも,正しく習得できていないことが示された。この結果から,中国人学習者は,日本

語の漢語も和語も,中国語と同じ意味用法であるという思い込みを強く持ち,そのため,中国語

の知識を過剰に日本語に転用してしまい,結果として,日本語の意味用法の習得が不十分になっ

ていることが示唆されている。

皿 研究課題

以上の議論を踏まえ,本研究では,以下の二点を研究課題として設定する。

研究課題1. 日本語の文章に占める漢語と和語の比率の違いは,中国語を母語とする日本語

      学習者(以下,中国人学習者)の文章理解に,どのような影響を及ぼすか。

研究課題2.中国人学習者の日本語習熟度の違いは,漢語と和語の比率の異なる文章の内容

      理解に,どのような影響を及ぼすか。

 なお,本研究においては,漢語とは,中国語でも用いられている日本語の漢字語彙と定義する。

漢語は,広義には,「中国語から移入されて日本語になった語であり,さらに漢字音を使って日

本で作られた語も含めて(西尾,2002:83)」定義されることが多いが,和製漢語は,和語と同

様に,日本語独自の語であるため,中国人学習者にとっては,Llの知識で処理することができ

ない。また,宮岡他(2011)の結果からも,和製漢語の正答率は,和語以上に低く,習得が困難

な語であることが明らかである。よって,本研究においては,和製漢語は漢語には含めないこと

とする。

IV 調査の概要

1調査対象者

 調査は2010年8月に中国の北京市にある大学において実施した。調査対象者は,日本語を学

んでいる学部2年生から修士2年生までの92名(男性18名,女性74名)である。調査対象者

の選定は,当該大学の教員の協力を得て,中級,上級,超級レベルの学習者が同数程度ずつにな

るように行った。なお,調査対象者には,2日間の調査であること,日本語のテストを受験する

こと,調査終了時には謝金が支払われることが事前に告知されていた。

 調査対象者の平均日本語学習歴(調査実施日時点)は3年6カ月で,最も短い者で1年,最も

長い者で9年であった。また,日本語能力試験1級(旧試験)の合格者は33名で,合格者の平

均得点は340点(標準偏差24.48)と極めて高い値であった。

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(5) 漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の文章理解に及ぽす影響 5

2 手 続 き

 2-1調査の流れ

 本節では,調査の大まかな流れを述べる。なお,調査の詳細は,次節以降で論じる。

 まず,調査は二日間に分けて行われた。一日目に,調査の目的,方法,流れ,注意事項等につ

いて,10分程度で解説をした。その後,日本語習熟度テストを実施した。日本語習熟度テスト

には,45分の時間制限を設けたが,全員が時間内に終了した。その後,簡単なアンケートに答

えてもらった。なお,日本語習熟度テストは,一日目の調査終了後に採点し,日本語習熟度別に

群分けした。

 二日目は,読解テストを実施した。読解テストは2種類あり,両方で40分の時間制限を設け

た。読解テストが終了した後に,一人一人に参加の謝礼を配布した。

 2-2 日本語習熟度テスト

 日本語習熟度テストは,平成18年度の日本語能力試験の1級と2級の,文字・語彙,文法,

読解の3類から,識別力の良かった問題項目を中心に,困難度の値も考慮しながら,筆者が編集

したものである。識別力や困難度の値は,『平成18年度日本語能力試験分析評価に関する報告書』

を参照した。

 問題項目数は,1級と2級からそれぞれ22問ずつ,合計44問となった。類別では,文字・語

彙15問(1級7問,2級8問),文法15問(1級8問,2級7問),読解14問(1級と2級,各1

種類の文章と設問が7問)である。

 なお,日本語能力試験の問題項目を使用するに当たり,財団法人日本国際教育支援協会に対し

て,試験問題転用許可依頼書を提出し,著作権に関わる処理を行った。

 日本語習熟度テストは1問1点で採点し,92名の正答数得点を求めたところ,平均が31.207

点(最低12点,最高44点),標準偏差(以下,SD)が9.286となった。この結果を基に,人数が

概ね均等になるように,平均点の辺りに中位群を設定し,全体の平均点+1SDの近辺に上位群の

平均が,また,全体の平均点一1SD付近に下位群の平均が,それぞれくるように,下位群,中位

群,上位群の群分けを行った。その結果を表1に示す。なお,一元配置の分散分析により,3群

の習熟度テストの得点の差が統計的に有意であることを確認した[F(2,91)=309.921,p〈.001]。

表1 日本語習熟度別3群の日本語習熟度テストの結果

M SD Min Max N

下位群

中位群

上位群

19.483

32.727

40.867

3.651

4.163

1.408

9臼ρOQり

12り0

5814

2り044

QりQJO

9自00QU

注1:満点は44点(2級問題22問,1級問題22問)

 2;Mは平均で,SDは標準偏差を示す

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 6          『明治大学国際日本学研究』第4巻第1号         (6)

 2-3 読解デスト

 2-3-1テキスト

 読解テストは,研究課題に基づき,漢語と和語の比率を考慮した3条件のテキストをオリジナ

ルで作成した。作成は,筆者の他,日本語教育歴30年の日本語教師1名と共に,協議しながら

進めた。

 漢語と和語の比率における3条件とは,漢語を中心としたテキスト(以下,漢語テキスト),

漢語テキストの漢語部分を和語に書き換えて作成した和語中心のテキスト(以下,和語漢字テキ

スト),および和語漢字テキストの和語をひらがなで表記したテキスト(以下,和語かなテキス

ト)の3つである。また,テキストは,タスポに関する文章とエコポイントに関する文章の,2

つのトピックで作成した(詳細は後述)。なお,このようにして書き換えたテキストの一部抜粋

を巻末の付録に示す。

 テキストの作成手順としては,はじめに漢語テキストを作成し,次に漢語テキストを土台に漢

語部分を和語に置き換えるという方法で,和語漢字テキストを作成した。但し,全ての漢語を和

語に置き換えることは困難であったので,命題を担う述語や文章理解に重要だと思われる漢語を

選び,それらを和語に置き換えることとした。最後に和語漢字テキストの和語の表記をひらがな

にして,和語かなテキストを作成した。なお,前述したように,本研究では,中国語でも用いら

れている語のみを漢語と考える。

 漢語テキストから和語漢字テキストへの書き換えに際しては,まず,中国語でも用いられてい

る語がどれであるかを確認した。その上で,対象となる漢語については,本文中での意味を変え

ることなく,相応の和語を探すよう努あた。和語への置き換えには,漢語が文章中で表わしてい

る意味内容を辞書で確認し,辞書内の意味記述に用いられている和語をヒントにしたり,共起し

ている語を基にコーパスで検索して和語を探す等して,慎重に進めた。また,調査対象者が学習

者であることから,馴染みのない和語や『日本語能力試験出題基準【改訂版】』に載っていない

和語は不適当であると考え,使用頻度や難易度にも留意した。

 例えば,漢語テキストにある「個人でタスポを申請する」という部分を書き換えるために,

「申請する」を『広辞苑(第六版)』や『新明解国語辞典(第六版)』等の国語辞典で確認すると,

〈国家や公共の機関に向かって一定の行為を求めること,願い出ること〉とある。この意味記述

の中で用いられている和語は,「求める」「願い出る」であったが,「求める」という和語は「買

う」「要求する」「欲する」等の意味を持つ多義語であるため,「タスポを求める」という書き換

えは不適切であると考えた。また,「願い出る」は「日本語能力試験出題基準【改訂版】」に収録

されていない語であるため,学習者には未知語である可能性がある。一方,「タスポ」を現代日

本語書き言葉均衡コーパスのデモンストレーション版である少納言(http://www.kotonoha.

gr.jp/shonagon/search_form)で検索すると,「導入する」「必要だ」「申し込む」が共起語と

して多数ヒットする。この中で「申し込む」は「申請する」とほぼ同義であり,かつ,日本語能

力試験の出題基準に掲載されている語である。そこで,「申請する」は,和語テキストでは「申

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(7) 漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の文章理解に及ぼす影響 7

し込む」に書き換えることとした。

 また,書き換えに際して,統語構造を変えなければ,和語に置き換えにくい場合は,極力,平

易な構造になるように留意して書き換えた。例えば,漢語テキストの中の「タバコの購入を希望

する者」は,「購入」と「希望」を,「買うこと」と「望む」という和語に置き換えると,「タバ

コを買うことを望む者」となるが,まわりくどい表現となる。そこで,「タバコを買いたい者」

と書き換えることとした。また,日本語としての使用頻度や親近性を考えて,和語ではなく外来

語に書き換えた例が,1例ある。「厳格に確認した」という漢語テキストは,「厳しくチェックし

た」とした。これは,コーパスで検索したところ,「厳しく」は,「確認する」に相当する和語の

「確かめる」との共起頻度が低く,「チェックする」との共起頻度の方が高かったためである。こ

のようにして書き換えた語の漢語と和語の対応は,表2と表3の通りである。表には,日本語能

力試験の出題級を示したが(0は出題基準外),漢語の方が和語より,級のレベルが高いことが

分かる。

 次に,本研究の実験計画(後述)を考慮し,2つのトピックのテキストを作成した。1つはエ

コポイントに関するテキストで,もう1つはタスポに関するテキストである。エコポイントやタ

スポというのがどのようなものであるか,どのような点で有効か,どのような課題が残されてい

るか,を解説するという流れの文章構成になるように作成した。作成にあたっては,文章理解に

影響を及ぼすテキスト要因を,2つの文章の間でできるだけ均質になるようにした。具体的には,

テキストの長さ(文字数),形態素数(語数),語種比率,語の難易度等に留意した(表4,表5)。

形態素は,名詞,動詞,形容詞(形容動詞を含む),連体詞,接続詞,指示詞,助詞,助動詞等

から成る。なお,本研究における語種比率は,自立語の内容語に占める漢語と和語の比率とした。

また,語の難易度は日本語能力試験の出題級(1級から4級)を指標とした。

 2-3-2設 問

 上記のそれぞれのテキストについて,読解テストとして,12の設問を作成した。作成には,

テキストの作成と同じ日本語教師と筆者の2名が当たった。

 設問形式は,4問は多肢選択式,8問は正誤判断式である。難易度は,局所的理解を測る比較

的易しい問題から,情報を統合しなければ解答できないやや難しい問題まで,困難度にばらつき

が出るように留意した。

 また,設問の語や文字は,本文に用いられた語や文字に基づいて作成された。すなわち,漢語

テキストの場合には,本文で漢語が使われている語は設問でも漢語で提示され,本文で和語が使

われている語は設問でも和語で提示した。

 なお,本調査実施後に,2つのトピックのテストの問題項目について,内部一貫性信頼性をク

ロンバックのα係数(折半法)で求めたところ,エコポイント(12項目)はα=.658,タスポ

(12項目)はα=.601で,内容的に一貫していることが確認された。また,各設問が,能力の

高い者と低い者を弁別するのに有効であるか否かを検討するために,点双列相関係数で識別力を

確認したところ,エコポイントは最も低い項目でRbi、=.335,最も高い項目で1~bl,=.564,12項

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(8)『明治大学国際日本学研究』第4巻第1号8

表3 タスポの書き換え語一覧表2 エコポイントの書き換え語一覧

漢語 和語漢 証ロロ 和  語

語彙 級 語彙 級  語彙 級 語彙 級4               2                     2

+ 243334+3233433322+34444 341221

4              4                    2

るもるるるる配いむにけくるう客うついむ紙るすくすにてるるるるぐる

悪で頼で始チ心し書急き厳減買おも持詳申申増貸多出初で比要広捕防漏

                    

1312220212202102112+202202232020

                   2

るもるる始る惧るるに機にるる客るるなる書るる半る初法るるるるるる

すです・すすす  すすすすすすすす筋す・すすすす

   で  

激格  

細請  

うで

化外存能認望載  少入得有請加与出鉱較要及導止出

悪以依可開確危希記急契厳減購顧取所詳申申増貸大提当ど比必普補防流

    4                4     」4

2343+22432342+41+41122313 2422230

    2                2     り0

ト段るるるル るるるるうるいるるるうてにむてるするてるくるるぐめる

    作   え 高 あ つ込  “

ス きめにべ  め 替 

め  めが  軽  え がうめ め   え

    ・  り も 要もし  以

リ値で始新レ基成決限取買高最出定必使前気申全増促下ど認置広守防た抑

 

十222222221211202 2132021220121221

0

表格るるる準準るるるるる上高るるいるににるにるるるでるるるるる的る

               な        法

覧∵す すすすすす すす魁す前由す的すすす鋤すすすすすす

  旨始発  成定定換入  出定糾用  請面加進下よ定置及護止 制

  ム目

               け「        の

一価可開開基基形決限交購向最算指な使事自申全増促低ど認配普保防目抑

平均語彙級  1.531 平均語彙級  2.438 平均語彙級  1.406 平均語彙級  2.900

注1:複合語等の場合には、+で2つの級を繋いで示した

 2;空欄は文法表現で、語彙級での掲載がないもの

注1:複合語等の場合には、+で2つの級を繋いで示した

 2:空欄は文法表現で、語彙級での掲載がないもの

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(9) 漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の文章理解に及ぼす影響

       表46種類のテキストの計量的特徴

9

トピック テキスト条件  総文字数  漢字含有率* 形態素数  漢語含有率**和語含有率** 外来語含有率**

漢  語 1,385 31.480 591 46.398 34.870 正6.715

 エコ     和語漢字ポイント

1,398 28.469

和語かな 1,424 24.579

585 34.294 46.398 17.291

漢  語 1,250 34.160 556 48ユ48 46.465 5.387

タスポ  和語漢字 1,246 31.140

和語かな 1,270 26.850

553 33.670 60.606 5.724

注1:*は総文字数に占める割合(%),’*は形態素数の中の内容語(延べ語数)に占める割合(%)

 2:和語漢字条件と和語かな条件は,形態素数,漢語含有率,和語含有率は同じ

表56種類のテキストの語彙難易度の比率(単位:%)

トピックテキスト条件  1級語彙 2級語彙 3級語彙 4級語彙 級外語彙

漢  語 7.783 22.335 7.445 50.254 12.183

 エコ     和語漢字ポイント 7,009 19.145 10.940 ’51.966 10.940

和語かな

漢  語 6.115 20.144 6ユ15 57.194 10.432

タスポ  和語漢字4.882 17.541 7.766 60.398 9.403

和語かな

目の平均がRbi、=.466であった。タスポは,最も低い項目でRbi、=.281,最も高い項目で

Rbi、=.566,12項目の平均がRbi、=.430であった。識別力は0.3程度以上の値が望ましいとされ

ていることから(Brown,1996),エコポイントもタスポも,テストの設問が読解能力の高い者

と低い者を識別する設問から成っていると言える。

 2-4 テキストの割り当て

 上述の通り,エコポイントとタスポの読解テストは,それぞれ,漢語テキスト,和語漢字テキ

スト,和語かなテキストの3条件ずつ,計6種類,作成されたが,本節では,これらの6種類の

テキストが調査対象者にどのように割り当てられたか,について述べる。

 まず,テキスト要因や設問の難易度の影響を考慮して,調査対象者には,エコポイントとタス

ポの,どちらか一方ではなく,2種類のテキスト両方を,読んでもらうこととした。また,テキ

ストの条件には,3条件あるので,トピックとの組み合わせを次の3パターンにした。①エコポ

イント(漢語テキスト)とタスポ(和語かなテキスト),②エコポイント(和語漢字テキスト)

とタスポ(漢語テキスト),③エコポイント(和語かなテキスト)とタスポ(和語漢字テキスト)

の組み合わせである。この3パターンを,下位群,中位群,上位群のそれぞれで,人数が均等に

なるように,カウンターバランスをとって,割り当てた。

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10 「明治大学国際日本学研究』第4巻第1号 (10)

3.分析結果

読解テストは,1問1点で採点した。各群の読解テストの得点は以下の通りである。

表6読解テストの結果 (単位:点)

下位群

2V=29

中位群

1>=33

上位群

1V=30

合 計

1V=92

M   SD M   SD M   SD M   SD

エコポイント・漢語テキスト 9.700 1.418 10.091L640 10.2001.135 10.0001.390

エコポイント・和語漢字テキスト 8.200 1.398  9.455 1.753  10.300 3.683  9.323 2.535

エコポイント・和語かなテキスト 7.111 2.934  9.545 1.572  10.700 1.636  9.200 2.497

エコポイント・全テキスト 8379 2.211 9.697  1,630    10.400  2.343     9.511  2.206

タ ス ポ・漢語テキスト 7.200 1.033 8.7272.005 10.4001.506 8.7742.Ol2タ ス ポ・和語漢字テキスト 7.700 2.214  9.545 1.440  10.700 1.160  9.323 2.023

タ ス ポ・和語かなテキスト 7.333 2.062  9.455 1.809  10.200 1.476  9.067 2.100

タ ス ポ・全テキスト 7.414 1.783  9.242 1.751 10.433 1.357  9.054 2.035

注1:Mは平均で,SDは標準偏差を示す

 2:いずれのテストも満点は12点

 「皿 研究課題」で示したように,本研究の目的は,テキスト要因と日本語習熟度要因の二つ

の要因が文章理解に及ぼす影響を検討することである。本研究のテキスト要因とは,読解テキス

トにおける漢語と和語の比率で,具体的には,漢語テキスト,和語漢字テキスト,和語かなテキ

スト,の3条件である。日本語習熟度要因は,日本語習熟度テスト(44点満点)に基づき群分

けされた,下位群,中位群,上位群の3群である。また,文章理解能力は,筆者らによって作成

された読解テストの得点を指標とする。すなわち,独立変数はテキスト要因(3条件),および

日本語習熟度要因(3群)で,前者は被験者内要因,後者は被験者間要因である。従属変数は読

解テストの得点となる。

 そこで,エコポイントとタスポのそれぞれのテキストについて,テキスト要因と日本語習熟度

要因の3×3の反復測定の分散分析を行った。

 3-1 エコポイントの分析結果

 エコポイントでは,テキスト要因の主効果は有意ではなかった[F(2,83)=1.561,n.s.]が,

日本語習熟度要因の主効果が有意であった[F(2,83)=7.789,p〈.01]。交互作用は有意でなかっ

た[F(4,89)=1.451,n.s.]。日本語習熟度要因の主効果が有意だったので,3群のいずれに差

があるのかを確認するために,Bonferroniの多重比較を行ったところ,下位群と中位群,下位

群と上位群に,それぞれ5%水準,1%水準で有意差が認められた。但し,中位群と上位群の間

の差は有意ではなかった。すなわち,上位群≒中位群〉下位群,という結果となった。

 また,交互作用は有意でなかったが,表6を見ると,テキスト要因の3条件の得点の差が大き

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 (11)    漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の文章理解に及ぼす影響      11

いので,念のため,日本語習熟度要因とテキスト要因のそれぞれについて,単純主効果の検定を

行った。その結果,日本語習熟度要因では,和語かなテキストにおいて,単純主効果が有意であっ

た[F(2,83)=7.594,p〈.01]。また,和語漢字テキストにおいては,有意傾向が認められた

[F(2,83)=2.690,p<.074]。すなわち,和語かなテキストの読解テストにおいては,下位群,

中位群,上位群の得点の差は統計的に有意であり,また,和語漢字テキストにおいては,この3

群の差に有意な傾向がある,ということである。なお,表6を見ると,漢語テキストも,下位群

が最も得点が低いが,統計的に有意な差ではなかった[F(2,83)=0.167,n.s.]。以上のことか

ら,和語の比率が高く,かなの含有率が高いテキスト,すなわち,漢語の比率が低く,漢字含有

率が低いテキストの文章理解には,日本語習熟度が影響するが,漢語の比率が高く,漢字含有率

が高くなればなるほど,文章理解に日本語習熟度は影響しなくなる,ということが示唆される。

 また,テキスト要因についても,単純主効果の検定を行ったところ,下位群においてのみ,テ

キスト要因の差が有意であった[F(2,83)=3.881,p<,05]。すなわち,下位群は,漢語テキス

ト,和語漢字テキスト,および和語かなテキストの得点の差が有意である,ということである。

なお,中位群[F(2,83)=0.314,n.s.]と,上位群[F(2,83)=0.169, n.s.]においては,テキ

ストの違いによる得点の差は有意ではなかった。これらのことから,下位群は,漢語の比率が高

い方が,また,漢字含有率が高い方が,文章理解を促進するが,中位群や上位群では,テキスト

の漢語と和語の比率の差や漢字含有率の相違は,文章理解に影響を及ぼさない,ということが示

される。

 3-2 タスポの分析結果

 エコポイントと同様に,タスポの分析を行った。その結果,テキスト要因の主効果は有意では

なかった⊂,F(2,83)=0.809, n.s.]が,日本語習熟度要因の主効果が有意であった[F(2,83)=

24.236,p〈.OOI]。また,交互作用は有意でなかった[F(4,89)=0.208, n.s.]。日本語習熟度

要因の主効果が有意だったので,3群のいずれに差があるのかを確認するために,Bonferroni

の多重比較を行ったところ,下位群と中位群,下位群と上位群,中位群と上位群の,いずれにお

いても,それぞれ1%水準,1%水準,5%水準で有意差が認められた。すなわち,上位群〉中位

群〉下位群,という結果となった。

 次に,日本語習熟度要因とテキスト要因のそれぞれについて単純主効果の検定を行った。その

結果,日本語習熟度要因においては,漢語テキスト[F(2,83)=8.158,p<.01],和語漢字テキ

スト[F(2, 83)=7.385,p<.01],和語かなテキスト[F(2,83)=9.109, p〈.001]の,全ての

テキストで,日本語習熟度の単純主効果が有意であった。すなわち,いずれのテキストの文章理

解も,下位群,中位群,上位群の得点の差は統計的に有意である,ということである。このこと

は,漢字や漢語の含有率が低いテキストだけでなく,高いテキストでも,日本語習熟度が高くな

ればなるほど,理解が促進するということを示している。換言すれば,漢字や漢語の含有率が高

いか否かよりも,日本語習熟度が高いか否かが,タスポの文章理解に影響を及ぼした,というこ

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 12            『明治大学国際日本学研究』第4巻第1号           (12)

とである。なお,前述のエコポイントでは,漢語テキストの文章理解では日本語習熟度の差は有

意ではなかったため,日本語習熟度は影響していないことが示された。よって,タスポの場合,

漢語テキストにおいても日本語習熟度の差が有意であったことが,エコポイントの結果と異なっ

ているということになる。

 一方,テキスト要因について,単純主効果の検定を行ったところ,下位群[F(2,83)=0,237,

n.s.],中位群[F(2,83)=0.787, n.s。],上位群[F(2,83)=0.225, n.s.]のいずれにおいても,

テキスト要因の差が有意でなかった。いずれの群でも,漢語テキストの得点が最も高いが,これ

は統計的には有意な差ではないということである。このことから,タスポの場合は,日本語習熟

度要因が最も影響が大きく,テキストの漢語比率や漢字含有率の影響は顕著でないことが明らか

となった。

V 考  察

 本研究の研究課題1は「文章の漢語と和語の比率の違いは,中国語を母語とする日本語学習者

の文章理解に影響を及ぼすか」であり,テキスト要因が文章理解に及ぼす影響を検討した。また,

研究課題2は「中国語を母語とする日本語学習者の日本語習熟度の違いは,漢語と和語の比率の

異なる文章理解に,どのように影響を及ぼすか」であり,日本語習熟度要因が文章理解に及ぼす

影響を検討した。分析の結果,テキスト要因と日本語習熟度要因は相互に関連し,さらに,テキ

ストのトピックによって,異なる傾向が認められた。

 まず,エコポイントの文章理解では,下位群は,漢語テキストの得点が最も高く,次に和語漢

字テキスト,最も低かったのは和語かなテキストであった。また,この差は統計的にも有意であっ

た。一方,中位群は,得点の上では,下位群と同様の傾向を示しているものの,統計的に有意な

差ではなかった。また,上位群は,得点を見てもテキストの3条件の間に差がなかった。これら

の結果から,日本語習熟度の低い中国人学習者の場合,和語が多く,漢字の含有率が低いと,内

容理解が困難になるが,日本語習熟度が一定程度以上になると,和語が多く含まれ,漢字の含有

率が低いテキストでも,内容理解が進むようになるということが示唆される。これは,日本語習

熟度が高くなるにつれて,和語の習得が進むためであると考えられる。

 但し,この傾向は中国人学習者に特有の傾向であると考えるべきであろう。前掲の表2の書き

換え語の一覧を見ると,漢語の方が和語よりも,日本語能力試験の出題級の高い語が多いことが

分かる。従って,一般的には,漢語テキストの方が難易度の高い語が多いため,文章としての難

易度も高いと考えるべきであろう。よって,他の言語をL1とする学習者の場合には,和語テキ

ストより,漢語テキストの方が,内容理解の得点が低くなると予想される。また,試験の作成等

において,読解や聴解の難易度を高くしようとして,文章中の語彙の難易度を上げると,日本語

習熟度の低い中国人学習者には,むしろ,易しくなってしまうという不合理な結果になる可能性

が否定できない。日本語能力試験の出題級(旧)は,語彙の使用頻度や教科書での提出順序等を

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 (13)    漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の文章理解に及ぼす影響      13

考慮して配当されたものであるため,中国人学習者を対象とした試験の作成においては,出題基

準の配当級よりも,同形語の比率や漢語と和語の比率を考慮するべきであろう。

 一方,タスポの文章理解では,下位群,中位群,上位群の全てにおいて,漢語テキスト,和語

漢字テキスト,和語かなテキストの間には,得点の差が認められなかった。しかし,この結果は,

タスポの内容理解において,漢語や漢字の含有率が高いか否かが,内容理解に影響を及ぼさない,

ということではないと考える。タスポにおけるこの結果は,下位群や中位群が,漢語テキストの

得点が伸びなかった,ということを示していると考える。和語かなテキストの得点を見ると,下

位群も中位群も,エコポイントとタスポで,得点がほとんど同じである(下位群:7.111と7.333,

中位群:9.545と9.455)。しかし,エコポイントであれば,和語テキストから漢語テキストに得

点の伸びが見られるが(下位群:7.111から9.700,中位群:9.545から10,091),タスポでは,下

位群(7.333から7,200)も中位群(9.455から8.727)も,得点が下がってしまった。すなわち,

漢語テキストの得点が伸びなかったことが,テキスト要因の影響が統計的に認められなかった原

因であると考えるのが,妥当である。

 では,下位群や中位群で,漢語テキストの読解の得点があまり高くならなかったのはなぜだろ

うか。その背景には,エコポイントとタスポの漢語テキストにおける和語の含有率の差があると

考えられる。前掲の表4にあるように,漢語テキストの漢語含有率・和語含有率は,エコポイン

トは48.398%・34,870%であったが,タスポは48.148%・46.465%と,タスポの方は,漢語テキ

ストでも和語含有率が高い。この和語含有率は,エコポイントの和語テキストと同程度の含有率

であった。このように,漢語テキストであっても,タスポは和語含有率が高かったため,下位群

や中位群はタスポの漢語テキストの得点が高くならなかったのではないか,と考える。すなわち,

下位群や中位群にとっては,タスポの漢語テキストでも,和語比率が高すぎて,内容理解が促進

されなかったということである。

 一方,上位群の結果に注目すると,エコポイントでもタスポでも,語種の比率の差が内容理解

に影響していないという興味深い現象が認められた。今回の上位群は全員日本語能力試験1級に

合格しており,得点も340点程度と高得点であった。このように高い日本語能力を有する者であ

れば,和語も十分に習得できており,内容理解においても,語種の違いによる影響が小さいと考

えられる。また,和語をひらがな表記したテキストの得点が,和語を漢字表記したテキストの得

点とほとんど同じであった。このことから,上位群は,語の,意味,書字形態,音韻のそれぞれ

の情報が正しく強く結び付いているということが示唆される。

 以上を総合すると,日本語習熟度の低い中国人学習者は,和語の比率が高くなると,内容理解

が困難になるが,高い日本語能力を有する中国人学習者の場合には,語種の比率が内容理解に及

ぼす影響は極めて小さい,ということが示唆される。

 ところで,エコポイントとタスポとで和語含有率が異なってしまった原因としては,テキスト

の作成手順と外来語の含有率の違いが考えられる。テキストは,最初に漢語で作成してから,和

語に書き換えて,和語テキストを作成した。漢語テキストの作成の際には,エコポイントとタス

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 14            『明治大学国際日本学研究』第4巻第1号           (14)

ポとで,漢語含有率が同程度になるように調整した。しかし,外来語の含有率が,エコポイント

は比較的高く,タスポは低かったため,必然的に,エコポイントでは和語比率が低くなり,タス

ポでは和語比率が高くなってしまった。そこで,今後は,外来語の含有率も考慮しながら,テキ

ストの漢語,和語の比率を調整して,テキストの語種比率の違いが内容理解に及ぼす影響につい

て,再度,調査をする必要がある。これは今後の課題である。

VI おわりに

 中国人学習者は,日本語の文章理解において有利である,と称されることが多いが,本研究の

結果から,その傾向は,漢語が多く含まれる文章において,日本語習熟度の低い者に顕著な現象

である,ということがわかった。よって,どのような文章を読むかによって,中国人学習者が有

利になる場合とそうでない場合があると考えるのが妥当であろう。なお,本研究では,.日本語能

力試験1級(N1レベル)以上の日本語能力を有する学習者の場合には,和語と漢語の含有率の

違いが文章理解に影響を及ぼさなかったことから,語種や漢字の含有率の影響は,初級,中級レ

ベルまでの学習者に認められる現象であり,日本語能力試験1級程度以上の上級,超級レベルで

は,その影響が小さくなると言える。

 しかし,本研究の結果から,初級や中級の中国人学習者は,漢字の知識があることによって,

他の言語を第一言語とする日本語学習者より,日本語の文章の内容理解において有利である,と

いう結論を導くことはできない。こうした結論を導くためには,他の言語を母語とする学習者を

対象に,同様の調査を行わなければならない。すなわち,他の言語を母語とする学習者において

は,和語漢字テキストや和語かなテキストだけでなく,漢語テキストの文章理解でも,言語習熟

度の違いが有意であるということを実証する必要がある。もし,他の言語を母語とする学習者に

おいても,本研究と同様の結果,すなわち,漢語や漢字の含有率が高いテキストの方が和語の含

有率が高いテキストより読解テストの得点が高いという結果が得られたとしたら,漢語や漢字の

知識が文章理解に及ぼす影響は,中国人学習者だけに関わることではない,ということになる。

よって,今後は他の言語を母語とする学習者にも同様の調査を行い,中国人学習者の結果と比較

し,考察を深めたい。

 また,テキストに含まれる漢語と和語をどの程度習得しているか,調査を行う必要がある。今

回は,漢語テキストを作成してから,漢語を和語に書き換えるという方法で,和語テキストを作

成したが,書き換えの対象となった漢語と書き換えられた和語が,同じ意味であることを,調査

対象者が知っていたか否かを確認していない。そのため,和語テキストの文章理解の方が読解テ

ストの得点が低かったとしても,それは,当該和語の意味や用法を習得していなかったことに起

因する可能性がある。例えば,今回の調査では,「国民の環境に対する意識向上を促進する」は,

「国民の環境に対する意識を高めるように促す」とし,「促進する」という漢語を「促す」に書き

換えた。日本語の「促進」と中国語の『促遊』では,意味は同じであり,使い方も極めて近い。

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 (15)    漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の文章理解に及ぼす影響      15

「意識向上を促進する」は,『促遊杁沢提高』となる。また,日本語では『促進する』は〈うなが

しすすめる〉という意味であり,「促す」という和語とほぼ同義であろう。ところが,中国語の

場合,『促』には,『促遊』と同じ意味のほかに,〈短い〉という意味もある。そのため,『『促』

と言えぱ,「息が短い」,すなわち,〈息が切れる〉ことを表わす。よって,日本語の「促す」が

「促進する」に対応する和語であるということを知らない中国人学習者なら,「促す」という語を

見て,中国語の〈短い〉という意味を転用して,解釈しようとするかもしれない。もし,「促す」

の意味を知らなかったのであれば,文章理解における漢語と和語の含有率の違いは,日本語の語

彙習得が不十分であることや中国語からの負の転移によるものであるということになる。よって,

テキストに含まれている漢語と和語をどの程度正しく知っていたかも,確認する必要があるであ

ろう。

 さらに,タスポでは,漢語テキストでも和語の比率が高く,下位群や中位群はあまり読解テス

トの得点が高くなかった。よって,今後は,漢語と和語のいずれの比率が高いかという相対的な

関係だけでなく,どの程度の漢語率になると,また,どの程度の日本語習熟度の学習者だと,文

章の内容理解が可能になるのかという,漢語率の閾値や日本語能力の閾値を探索するべきであろ

う。なお,漢語率はテキストのタイプとも関係があるため,今後は様々なタイプ,ジャンルのテ

キストで調査を行う必要もある。今回は,筆者が書き下ろした文章を材料にして調査を行ったが,

今後は,オーセンティックな材料,例えば,漢語が多く含まれる評論・論説文,新聞,専門書と,

和語が比較的多いエッセイやプログのような話し言葉に近い文章等を比較し,それぞれどの程度

の漢語率,和語率であるのかを分析した上で,それがどのように文章理解に影響を及ぼすのかを

検討することによって,漢語率や和語率が文章理解に及ぼす影響を考察することができるであろ

う。更に,エコポイントとタスポでは,外来語の比率にもやや差があったことから,漢語と和語

の比率に加えて,外来語の比率や外来語の習得も同時に検討する必要があると考える。

 今後も,以上のような課題について,引き続き調査を行い,中国人学習者の日本語の学習や習

得において,漢字や漢語がどの程度,どのように関わるのかを検討していきたい。

付 記

 本研究は平成20~24年度文部科学省科学研究費基盤研究C(研究課題:論文作成のための日本語の共

起表現の抽出一日中対照コーパスの分析を中心に一(研究代表者:文化学園大学 三國純子),課題番

号:20520479)の助成を受けて行われたものである。

                    〈注〉

(1) 国立国語研究所によると,1964年発表の『現代雑誌九十種の用字用語調査(3)』では漢語占有率は

 47.5%,1970年発表の『電子計算機による新聞の語彙調査』では46.9%,1994年発表の『現代雑誌

  200万字言語調査』では499%と,大規模語彙調査の結果はほぼ等しい。また,西尾(2002)による

  と1956年発行の『例解国語辞典』,1969年発行の『角川国語辞典』の漢語占有率は,それぞれ53.6

  %,52,9%である。

(2) 日本語と中国語とでは,漢字表記の字体は異なるが,中国語をLlとする日本語学習者は中級レベ

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16 「明治大学国際日本学研究』第4巻第1号 (16)

  ル以上になると,字体の違いによる学習への影響がほとんど生じなくなることが実証されている(茅

  本,1996;玉岡他,2002)。

(3)なお,2010年に日本語能力試験が改定されてからは,言語知識という科目の中に,これまでの文

  字・語彙と文法が含まれている。

(4) データは『平成19年度日本語能力試験分析評価に関する報告書』に基づく。

(5)宮岡他(2011:7)表4より。

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国立国語研究所(1994)『現代雑誌200万字言語調査』秀英出版

佐治圭三(1992)『外国人が間違えやすい日本語の表現の研究』ひつじ書房

新村出(編)(2008)『広辞苑(第六版)』岩波書店

鈴木智美(1999)「意味的な誤用に見られる主な傾向一慣習的に定着した表現及び類似の表現に関わる

  誤り一」『日本語学習者の作文コーパス:電子化による共有資源化』(研究課題番号08558020)

高野多江子(2007a)「漢字圏日本語学習者の読解における語処理一音韻・意味両処理と漢字語の分類

  からみた一考察」『言語と交流』10,37-48,言語と交流研究会

高野多江子(2007b)「文章理解における漢字語の音韻処理の重要性」『日本語教育研究』52,83-106,長

  沼スクール

玉岡賀津雄・宮岡弥生・松下達彦(2002)「日本語学習者の心的辞書(mental lexicon)の構造一中国

  語を母語とする超上級日本語学習者の漢字熟語の処理を例に一」「日本語教育学会中国地区研究集

  会予稿集』1-9,日本語教育学会

Page 17: 漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の - …...(3) 漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の文章理解に及ぼす影響

(17) 漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の文章理解に及ぼす影響 17

張麟声(2009)「作文語彙に見られる母語の転移一中国語母語話者による漢語語彙の転移を中心に」『日

  本語教育』140号,59-69,日本語教育学会

西尾寅弥(2002)「語種」斉藤倫明(編)『朝倉日本語講座3 語彙・意味』(pp.79-109)朝倉出版

日本語能力試験実施委員会・日本語能力試験企画小委員会(監修)国際交流基金・日本国際教育支援協会

  (発行)(2009)『平成19年度日本語能力試験分析評価に関する報告書』凡人社

松下達彦(2011)「日本語学術共通語彙(アカデミック・ワード)の抽出と妥当性の検証」『2011年度日

  本語教育学会春季大会予稿集』244-249,日本語教育学会

三國純子・小森和子(2008)「コーパスを用いた論文作成のための慣用的共起表現の抽出」『小出記念日本

  語教育研究会論文集』16,55-68,小出記念日本語教育研究会

三國純子。小森和子・近藤安月子(2006)「聴解における語彙知識の量的側面が内容理解に及ぼす影響

  一読解との比較から一」「日本語教育』125,76-85,日本語教育学会

宮岡弥生・玉岡賀津雄・酒井弘(2011)「日本語語彙テストの開発と信頼性一中国語を母語とする日本

  語学習者のデータによるテスト評価一」「広島経済大学研究論集』第34巻第1号,1-18,広島経済

  大学

山田忠雄・柴田武・酒井憲二・倉持保男・山田明雄(編)(2005)「新明解国語辞典第六版』三省堂

Page 18: 漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の - …...(3) 漢語と和語の比率の違いが中国人日本語学習者の文章理解に及ぼす影響

18 「明治大学国際日本学研究』第4巻第1号 (18)

付 録

テキストの抜粋(タスポ)

(1)漢語テキスト

 社団法人日本タバコ協会,全国タバコ販売協同組合連合会などの団体が,未成年者の喫煙防止

対策の一環として,2008年7月より,「taspo(タスポ)」対応のタバコの自動販売機の運用を開

始した。タスポとは,所有者が成人であることを厳格に確認した上で発行される成人識別ICカー

ドのことである。タスポは成人なら誰でも申請できるが,タスポを所有していない者は,成人で

あっても,この自動販売機でタバコを購入することができない。タスポは,他人へ譲渡したり,

貸与することは禁止されている。そのため,自動販売機でタバコの購入を希望する者は,タスポ

を申請しなければならないのである。

② 和語漢字テキスト

 社団法人日本タバコ協会,全国タバコ販売協同組合連合会などの団体が,未成年者がタバコを

吸うのを防ぐ対策の一環として,2008年7月より,taspo(タスポ)対応のタバコの自動販売機

を使い始めた。タスポとは,持っている者が成人であることを厳しくチェックした上で出される

成人識別のICカードのことである。タスポは成人なら誰でも申し込めるが,タスポを持ってい

ない者は,成人であっても,この自動販売機でタバコを買うことができない。タスポは,他の人

へあげたり,貸してはいけない。そのため,自動販売機でタバコを買いたい者はタスポを申し込

まなければならないのである。

(3)和語かなテキスト

 社団法人日本タバコ協会,全国タバコ販売協同組合連合会などの団体が,未成年者がタバコを

すうのをふせぐ対策の一環として,2008年7月より,taspo(タスポ)対応のタバコの自動販売

機をつかいはじめた。タスポとは,もっている者が成人であることをきびしくチェックした上で

だされる成人識別のICカードのことである。タスポは成人なら誰でももうしこめるが,タスポ

をもっていない者は,成人であっても,この自動販売機でタバコをかうことができない。タスポ

は,ほかの人へあげたり,かしてはいけない。そのため,自動販売機でタバコをかいたい者はタ

スポをもうしこまなければならないのである。