齊木議長 それでは、まず初めに、3人の方 · てみたいと思います。...

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4 ○齊木議長 それでは、まず初めに、3人の方 にお話しいただく前に、5月25日から28日に金沢 で、ユネスコの創造都市ネットワークの総会が行 われました。さらに、5月30日には名古屋で、ユ ネスコのデザイン都市のフォーラムが行われまし た。このいずれも中心になって、いろいろ基調講 演を行っていただき、また名古屋ではモデレータ ーとして貴重な準備をいただきました。私どもは、 この佐々木先生を「デザイン都市・神戸」創造会 議のアドバイザーとして、昨年からお迎えしてお ります。今日は、まず3人のゲストのお話をして いただく前に、これまでの少しおさらいをするこ とと、金沢と名古屋のユネスコ・創造都市ネット ワークの成果をぜひ紹介していただきたいと思い ます。 それでは、佐々木先生、よろしくお願いします。 ○佐々木教授 皆さん、こんにちは。先ほど御 紹介いただきましたけ れども、齊木学長とは創 造都市の仕事で海外で も何度も御一緒させて いただいておりますの で、久しぶりに神戸でお 話しする機会を得て、大 変うれしく思います。 では、早速ですけれど、金沢や名古屋でしゃべ ったことをもっと短くしたバージョンでお話をし てみたいと思います。 まず、創造都市とは何かということでは、これは 宣伝ですけれど、私の本がありますので、これを 読んでいただくのが一番早いので、ぜひお読みい ただきたいのですが、いろいろ学者風に定義をい たしますとくどくどとあるんですけれども、要は、 先ほどどなたか言われましたけれども、例えば神 戸の創造都市といえば、神戸の市民の皆さんが創 造性を持って働き、暮らし、活動できると、そう いう都市のことだというふうに御理解いただけれ ばよいと思います。

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Page 1: 齊木議長 それでは、まず初めに、3人の方 · てみたいと思います。 まず、創造都市とは何かということでは、これは 宣伝ですけれど、私の本がありますので、これを

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○齊木議長 それでは、まず初めに、3人の方

にお話しいただく前に、5月25日から28日に金沢

で、ユネスコの創造都市ネットワークの総会が行

われました。さらに、5月30日には名古屋で、ユ

ネスコのデザイン都市のフォーラムが行われまし

た。このいずれも中心になって、いろいろ基調講

演を行っていただき、また名古屋ではモデレータ

ーとして貴重な準備をいただきました。私どもは、

この佐々木先生を「デザイン都市・神戸」創造会

議のアドバイザーとして、昨年からお迎えしてお

ります。今日は、まず3人のゲストのお話をして

いただく前に、これまでの少しおさらいをするこ

とと、金沢と名古屋のユネスコ・創造都市ネット

ワークの成果をぜひ紹介していただきたいと思い

ます。

それでは、佐々木先生、よろしくお願いします。

○佐々木教授 皆さん、こんにちは。先ほど御

紹介いただきましたけ

れども、齊木学長とは創

造都市の仕事で海外で

も何度も御一緒させて

いただいておりますの

で、久しぶりに神戸でお

話しする機会を得て、大

変うれしく思います。

では、早速ですけれど、金沢や名古屋でしゃべ

ったことをもっと短くしたバージョンでお話をし

てみたいと思います。

まず、創造都市とは何かということでは、これは

宣伝ですけれど、私の本がありますので、これを

読んでいただくのが一番早いので、ぜひお読みい

ただきたいのですが、いろいろ学者風に定義をい

たしますとくどくどとあるんですけれども、要は、

先ほどどなたか言われましたけれども、例えば神

戸の創造都市といえば、神戸の市民の皆さんが創

造性を持って働き、暮らし、活動できると、そう

いう都市のことだというふうに御理解いただけれ

ばよいと思います。

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そして、これがなぜ21世紀の初頭に世界的潮流

になったかということを申しますと、チャール

ズ・ランドリーというイギリスのコンサルタント

と、リチャード・フロリダというアメリカの学者

がおりまして、この二人が2000年と2002年に相次

いで本を書きますが、私の本は、ちょうどその真

ん中に位置していまして、こういった本が出るよ

うになったということです。

それはどういうことであるかといいますと、20

世紀というのは、製造業の世紀だったわけです。

製造業ですから、神戸にもたくさんございますが、

大量生産・大量消費型の大型の向上が町の中心に

集まっていて、それが活動していると都市が元気

であるという時代があったわけです。これは、大

体先進国では空洞化していきますので、新しいタ

イプの産業のあり方というものが模索されており

ました。その中で、創造産業あるいは文化産業、

または個性的な商品を生み出していくような、そ

ういったクリエイティブなビジネスというものが

注目されていきまして、大量生産や大量消費にか

わって、新しいフレキシブルなシステムというも

のが都市の中に広がってくる。そうすると、その

都市というものが、やはりクリエイティブなアイ

デアを持っている人たちによって支えられてきま

すので、そういった人たちが好んで住む都市が、

世界的にクリエイティブ・シティとして注目を集

めるということになったわけです。

そういったことを、この3冊の本は共通に議論

しておりまして、ちょうどこの2004年にユネスコ

という国連の教育・文化・科学の機関が創造都市

ネットワークというものを始めようということを

言い出します。

なぜかと申しますと、2001年に文化多様性に関

する世界宣言というものが出されます。当時この

背景にあったのは、グローバリゼーションは主に

金融と経済を中心にして広がります。そのときに、

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文化というものが画一化していくのではないか。

例えば、映画産業というものがハリウッドのひと

り勝ちになって、これは日本でもありましたけど

も、シネコンプレックスにかかっている映画が全

部ハリウッドのもの。映画産業の祖国といえばフ

ランス、イタリアですけど、そこの映画産業も今

やもうどんどん衰退してしまうということになる

と、文化多様性が映画の分野では失われるのでは

ないかということが問題になっていました。

ユネスコとしては、地球経済の中で生物多様性が

失われれば、地球の持続的発展がうまくいかない。

人類の発展がうまくいかない。同じように、文化

多様性というものを高める、そういった取り組み

をしようではないかということで、ユネスコ条約

Convention on Cultural Expression文化表現の多

様性に関する条約というものを広げまして、それ

を進めるために、全世界に創造都市のネットワー

クというものを広げましょうという提唱をいたし

ました。これが2004年です。

それから、ちょうど10年たったというわけです。

どういう組み立て方をしていたかといいますと、

7つのジャンルで創造都市というものをユネスコ

は申請を受け付けておりまして、これがお互いに

協力し合って進めましょうというわけであります。

昨年の暮れに新しく28都市が加わりまして、現

在、世界32カ国、69都市が加盟しています。デザ

インの分野の加盟については、16都市になりまし

て、今回お見えの3都市は、いずれもこのデザイ

ン分野の、ユネスコではサブネットワークと言っ

ておりますが、この分野の都市です。そして、ヘ

ルシンキは昨年12月1日に新規に加わっていただ

きました。もちろん、新規に加わったからまだこ

れからだっていうことはありません。実力はもう

十分にございまして、なぜ今まで入らなかったの

かというふうに思うぐらいです。だから、学ぶこ

とはとてもたくさん、グラーツにしても深圳にし

てもあると思います。

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ユネスコが考えているのは、この地球経済の持

続可能な発展というものを都市のレベルからどう

進めるかということでして、そのために、このネ

ットワークに期待されているのは、都市と都市が

お互いに、個性的な文化産業を発展させながら地

球環境の改善、あるいは平和とか、あるいは人権

とか、あるいは社会から排除されている人たちを

包摂するソーシャルインクルージョンを創造都市

という事業をつなげながら広めていこう。そして、

特にグローバルサウスと言うのですけれども、途

上国で非常に困難な、あるいは格差が地球的規模

で広がっている中で、そういったところも手を差

し伸べて一緒に歩いていこうということで進めて

おります。

そして、年次総会というものが2008年のサンタ

フェ以来ですね、私も参加してきたのですけど、

毎年各都市で開催されるようになりました。この

年次総会が、金沢で今年行われて、69都市のうち

61都市が参加をする大変大きな会合になりました。

そこで私が基調講演をさせていただいたのですが、

これまでの10年を振り返って、これから先の10年

という形で、どういった課題があるかということ

を話させていただきましたが、端的に言いますと、

恐らく数年のうちにクリエイティブ・シティ・ネ

ットワークは100を超えるという大きな動きにな

ります。

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ユネスコというと、皆さんこれまでは世界遺産

しか知らないんですね。メディアの人たちも世界

遺産しか知らない。だけど、多分、世界遺産以上

に大事なプログラムとして、この創造都市ネット

ワークは発展します。それはなぜかと言えば、過

去の文化遺産を守るだけじゃなくて、新しい文化

産業をつくって、そして創造的な活動によって市

民の生活レベルを上げる、生活の質を改善すると

いう、現に今、生きているテーマに取り組んでい

る都市がネットワークを組んでいるからでありま

す。

そうは言っても、この100ぐらいの都市になって

ですね、中にはうまく市民の参加が進まなくて停

滞している都市も、一部には出てきているんでは

ないかと予測されます。それでは困るので、4年

ごとに、モニタリングという評価を入れまして、

もしうまくいっていなければ改善のテーマを出し

て、さらに4年後にもう一回評価をして、創造都

市として一旦認定はしたけれど、認定取り消しだ

というようなことも考えていこうということが、

金沢の会議では話されました。

一方で、積極的な提案からいたしますと、この

ネットワークを内容面でも量的にも広げるために、

現在ユネスコは大変大きな財政危機に直面してい

ます。これは、アメリカが分担金を払わなくなっ

た、パレスチナが加盟したということがあって払

えなくなった。そこで、ユネスコの財政危機があ

るのですが、なかなか事業は展開しないので、都

市がもっと自発的にいろんな事業を財政的な支援

も含めてやっていきましょうと。金沢市は、ユネ

スコの創造都市の世界的な研究所をつくってもい

い、そのための資源を出しましょうという提案を

いたしました。神戸の場合、まだそこまで話が煮

詰まってないので、これから神戸市としては、ど

んなネットワークへの貢献ができるかをぜひ考え

ていただきたいところでございます。

この流れの中で、少し神戸の10年を振り返って

みたいのですが、今から20年前、大震災で神戸の

町は大変な大きな被害を受けました。そこから立

ち直る過程で、最初の10年でほぼ物的なインフラ

は改善された。ところが、人々の生活面、あるい

は心の豊かさという点で、まだまだ課題が残って

いたので、文化創生都市宣言というものをいたし

まして、そして創造都市・神戸という提案が出て

きたわけです。

このときに、今日お見えの商工会議所のメンバー

であります岩田さん、それから今日は来られてい

ませんが、矢崎さん、このお二人の積極的な提言

がありまして、デザイン都市という分野でユネス

コに申請してはどうかという働きかけがあって、

私もそれをぜひやってくださいと応援をしたわけ

ですけれども、そういう中から、このユネスコ創

造都市に神戸が日本で最初に認定をされるという

ポジションを得ることができたわけです。そこか

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らこのKIITOという拠点施設もでき、そして、神戸

デザインデーという取り組みもある。

また、今議論されているのは、今年もまたビエ

ンナーレが展開されるなど多面的な事業が次々展

開されてきました。私は、ぜひこの神戸の震災復

興のプロセスで文化・芸術によって人々の生活を

改善していく、都市を再生していくという、こう

いった経験というものを、世界的に神戸は広げた

らどうかと思うのです。というのは、つい最近も

火山が爆発したり、地震が起きたりして、これは

日本だけのことじゃない。世界中がそうなってい

ます。世界中が、大きな予想を超える災害、自然

災害が頻発するようになってきた。そういう中で、

物理的に都市を復興するだけでなく、芸術・文化

というものを使いながら、人々の生活を豊かにし、

そして、被害を受けた人たちを勇気づけていって、

あすに向かって生きる力を伸ばしていく。これは、

創造都市の大事なテーマだと思います。

そういった都市のあり方を、私はレゼリアン

ト・クリエイティブ・シティと。レゼリアントっ

て、一部では国土強靭化っていうような法律もで

きて、レゼリアントっていう言葉を使っているん

ですけど、それは正しくないと思っていまして、

もっとやわらかい復元力のあるような、そういっ

た創造都市を目指す。その先頭に神戸が立ったら

どうかというのが、私のメッセージでありまして、

こういったことを金沢の総会の場でも発言させて

いただきました。

この後、皆さん大いに議論をしていただいて、

神戸の新しい創造都市の方向について、実りある

ディスカッションをいただければありがたいと思

います。

どうもありがとうございました。(拍手)

○齊木議長 ありがとうございました。

佐々木先生からは、神戸に何ができるのか、そ

して、創造都市として何を担っていくことができ

るのか、そのような問いかけをいただいたと思い

ます。ありがとうございました。