吊り荷の揺れを考慮した 3 自由度ヘリコプタの 出力フィードバッ … ·...

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吊り荷の揺れを考慮した 3 自由度ヘリコプタの 出力フィードバック制御 2012SE064 石井雄基 指導教員:高見勲 1 はじめに 本研究では 3 自由度ヘリコプタを制御対象に, 機体中心 から吊り下げた観測できない吊り荷の揺れを考慮した制御 則を設計する. システムの拡大系を導出し, 最適サーボシス テムを適用する. 吊り荷はヘリコプタの回転翼によって生 じる吹き下ろし風 (ダウンウォッシュ) によって揺れる. ルマンフィルタを利用した出力フィードバックを用いるこ とで吊り荷の揺れを抑制する. 2 制御対象とモデリング 本研究で用いる 3 自由度ヘリコプタの概略図を図 1 示す. 実験機には前後にローターが 2 つ付いており, 適切 な電圧を入力することで機体の姿勢を保つ. 1 に示され た通り, エレベーション角度を ϵ[rad], トラベリング角度を λ[rad], ピッチ角度を ρ[rad] 吊り荷の揺れ角度を θ[rad] する. 1 3 自由度ヘリコプタの概略図 状態変数を x(t)=[ϵ(t) ρ(t) λ(t) θ(tϵ(tρ(t) ˙ λ(t) ˙ θ(t)] T , 入力を u(t)=[u f (t) u b (t)] T として状態方程式を定める. { E 0 ˙ x(t)= A 0 x(t)+ B 0 u(t) y(t)= Cx(t) (1) E 0 = 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 e 1 0 0 0 0 0 0 0 0 e 2 0 0 0 0 0 0 0 0 e 3 e 4 0 0 0 0 0 0 e 4 e 5 (2) e 1 =(L 2 a + L 2 b )(M f + M b + M p )+ M w (L 2 w + L 2 b ) (3) e 2 = L 2 h (M f + M b ) (4) e 3 =(L 2 a + L 2 h )(M f + M b )+ L 2 w M w + L 2 a M p (5) e 4 = L 2 a M p , e 5 = l 2 M p (6) A 0 = 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 a 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 a 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 a 3 0 0 0 0 (7) a 1 = -(M f + M b + M w + M p )gL b (8) a 2 = -(u f 0 + u b0 ) L 2 a + L 2 b K f ,a 3 = M p gL a (9) B 0 = [ 0 0 0 0 b1 b2 0 0 0 0 0 0 b1 -b2 0 0 ] T (10) b 1 = L 2 a + L 2 b K f ,b 2 = K f L h (11) C = [ 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 ] (12) 3 拡大系の導出 出力 ϵ,λ を目標値に定常偏差なく追従させるために拡 大系を導出する. 観測出力 y(t) と目標値 r(t) との偏差を e(t) とし, 区間 [0,t] で積分した値を e(t)dt とする. 拡大 系の状態変数を x e (t)=[ e ϵ (t)dt, e λ (t)dt, x(t)] T とす ると, 以下のようになる. ただし,A = E -1 0 A 0 ,B = E -1 0 B 0 とする. { ˙ x e (t)= A e x e (t)+ B e u(t) e(t)= C e x e (t) (13) A e = [ A O 8,2 -C O 2,2 ] ,B e = [ B O 2,2 ] (14) C e =[ -C O 2,2 ] (15) 4 制御系設計 4.1 最適サーボシステム システムに対して評価関数を次のように定義し, 最小化 を行う. J e = 0 (e(t) T Q 1 e(t)+ ω(t) T Q 2 ω(t)+ u(t) T R e u(t))dt (16) ただし, 重み行列を Q 1 0,Q 2 0, R e 0 とする. (16) を最小にするコントローラーゲイン K e =[KG] リッカチ方程式の正定対称解 P e を用いて導出する. 1

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Page 1: 吊り荷の揺れを考慮した 3 自由度ヘリコプタの 出力フィードバッ … · ンL およびカルマンゲインF を設計した. シミュレーショ ンによりカルマンフィルタを利用した出力フィードバック

吊り荷の揺れを考慮した 3自由度ヘリコプタの出力フィードバック制御

2012SE064 石井雄基

指導教員:高見勲

1 はじめに

本研究では 3 自由度ヘリコプタを制御対象に, 機体中心

から吊り下げた観測できない吊り荷の揺れを考慮した制御

則を設計する.システムの拡大系を導出し,最適サーボシス

テムを適用する. 吊り荷はヘリコプタの回転翼によって生

じる吹き下ろし風 (ダウンウォッシュ)によって揺れる.カ

ルマンフィルタを利用した出力フィードバックを用いるこ

とで吊り荷の揺れを抑制する.

2 制御対象とモデリング

本研究で用いる 3 自由度ヘリコプタの概略図を図 1 に

示す. 実験機には前後にローターが 2 つ付いており, 適切

な電圧を入力することで機体の姿勢を保つ. 図 1に示され

た通り,エレベーション角度を ϵ[rad],トラベリング角度を

λ[rad],ピッチ角度を ρ[rad]吊り荷の揺れ角度を θ[rad]と

する.

図 1 3自由度ヘリコプタの概略図

状態変数を x(t) = [ϵ(t) ρ(t)λ(t) θ(t) ϵ(t) ρ(t) λ(t) θ(t)]T ,

入力を u(t) = [uf (t)ub(t)]T として状態方程式を定める.{

E0x(t) = A0x(t) +B0u(t)

y(t) = Cx(t)(1)

E0 =

1 0 0 0 0 0 0 00 1 0 0 0 0 0 00 0 1 0 0 0 0 00 0 0 1 0 0 0 00 0 0 0 e1 0 0 00 0 0 0 0 e2 0 00 0 0 0 0 0 e3 e40 0 0 0 0 0 e4 e5

(2)

e1 = (L2a + L2

b)(Mf +Mb +Mp) +Mw(L2w + L2

b)  (3)

e2 = L2h(Mf +Mb) (4)

e3 = (L2a + L2

h)(Mf +Mb) + L2wMw + L2

aMp (5)

e4 = L2aMp, e5 = l2Mp (6)

A0 =

0 0 0 0 1 0 0 00 0 0 0 0 1 0 00 0 0 0 0 0 1 00 0 0 0 0 0 0 1a1 0 0 0 0 0 0 00 0 0 0 0 0 0 00 a2 0 0 0 0 0 00 0 0 a3 0 0 0 0

(7)

a1 = −(Mf +Mb +Mw +Mp)gLb   (8)

a2 = −(uf0 + ub0)√L2a + L2

bKf , a3 = MpgLa (9)

B0 =

[0 0 0 0 b1 b2 0 00 0 0 0 b1 −b2 0 0

]T(10)

b1 =√L2a + L2

bKf , b2 = KfLh (11)

C =

[1 0 0 0 0 0 0 00 0 1 0 0 0 0 0

](12)

3 拡大系の導出

出力 ϵ,λ を目標値に定常偏差なく追従させるために拡

大系を導出する. 観測出力 y(t) と目標値 r(t) との偏差を

e(t) とし, 区間 [0,t] で積分した値を∫e(t)dt とする. 拡大

系の状態変数を xe(t) = [∫eϵ(t)dt,

∫eλ(t)dt, x(t)]

T とす

ると,以下のようになる.ただし,A = E−10 A0,B = E−1

0 B0

とする. {xe(t) = Aexe(t) +Beu(t)

e(t) = Cexe(t)(13)

Ae =

[A O8,2

−C O2,2

], Be =

[B

O2,2

](14)

Ce = [ −C O2,2 ] (15)

4 制御系設計

4.1 最適サーボシステム

システムに対して評価関数を次のように定義し, 最小化

を行う.

Je =

∫ ∞

0

(e(t)TQ1e(t) + ω(t)TQ2ω(t) + u(t)TReu(t))dt

(16)

ただし, 重み行列を Q1 ≻ 0,Q2 ≻ 0, Re ≻ 0 とする. 式

(16) を最小にするコントローラーゲイン Ke = [K G] は

リッカチ方程式の正定対称解 Pe を用いて導出する.

1

Page 2: 吊り荷の揺れを考慮した 3 自由度ヘリコプタの 出力フィードバッ … · ンL およびカルマンゲインF を設計した. シミュレーショ ンによりカルマンフィルタを利用した出力フィードバック

4.2 同一次元オブザーバ

実験機は吊り荷の揺れ角度 θ(t) とその一回微分 θ(t) を

観測することができない.よって入力信号 u(t)と出力信号

ϵ(t),ρ(t),λ(t),ϵ(t),ρ(t),λ(t) から状態変数を推定する同一

次元オブザーバを用いる. 出力フィードバックコントロー

ラは次のように表せる [1].{˙x(t) = Ax(t) +Bu(t)− L(η(t)− Cx(t))

u(t) = Kx(t) +Gω(t)(17)

L はオブザーバゲインである. 分離定理によりコントロー

ラゲインKe とオブザーバゲイン Lは独立に設計できる.

4.3 カルマンフィルタ

カルマンフィルタは入力や出力にノイズが存在すると

き, ノイズを低減させるための同一次元オブザーバを設計

する手法の一つである.以下のようにシステムを定める.{x(t) = Ax(t) +Bu(t) + υ(t)

η(t) = Cx(t) + σ(t)(18)

ただし υ はシステムノイズ,σ は観測ノイズである.υ,σ は

それぞれ無相関な白色ノイズであり, 平均値が 0 であると

仮定すると以下の式を満たす.

E[υ(t)υ(t)T ] = Qkδ(t− τ), Qk ⪰ 0 (19)

E[σ(t)σT ] = Rkδ(t− τ), Rk ≻ 0 (20)

このとき,推定誤差の共分散行列は以下のようになる.

Jk = limx→∞

E[{x(t)− x(t)}{x(t)− x(t)}T ] (21)

式 (21)を最小にするカルマンゲイン F はリッカチ方程式

の正定対称解 Pk を用いて導出する.

F = PkCTR−1

k (22)

5 シミュレーション

システムの極に対して,オブザーバゲイン Lとカルマン

ゲイン F を設計した.図 2にそれぞれの固有値を示す.

図 2 推定誤差システムの極配置

吊り荷の揺れを考慮していないコントローラと, オブザー

バ並びカルマンフィルタを利用した出力フィードバックコ

ントローラによる振る舞いを比較する. トラベリング角度

を 0[deg] から 180[deg] へ追従させた時のトラベリング角

度を図 3,吊り荷の揺れ角度の推定値を図 4に示す.

図 3 トラベリング角度を 0[deg]から 180[deg]へ追従

図 4 吊り荷の揺れ角度の推定値

実際のヘリコプタはダウンウォッシュの影響を受けて吊り

荷が揺れる.ロープ長を 0.5m,吊り荷の質量を 0.15kgとし

た時,システムノイズを θ に,観測ノイズを ϵ,ρ,λに混入さ

せてダウンウォッシュを想定した. 同一次元オブザーバと

カルマンフィルタによる吊り荷の揺れ角度の推定値の比較

を比較を図 5に示す.

図 5 吊り荷の揺れ角度の推定値

6 おわりに

本研究では, 観測できない吊り荷の揺れを抑制するため

最適サーボシステムを構成してコントローラゲイン Ke を

設計した. 同一次元オブザーバを構成してオブザーバゲイ

ン Lおよびカルマンゲイン F を設計した.シミュレーショ

ンによりカルマンフィルタを利用した出力フィードバック

の有用性を示した.

参考文献

[1] 島崎, 池田:『オブザーバを用いた積分型最適サーボ系

の 2自由度構成』,システム制御情報学会論文誌,Vo.6,

No.7,pp347-349,1993.

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