先行き不透明感が増す アジア繊維産業の景気動向 - toray...出所:fiber...

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35 繊維トレンド 2008.3・4 月号 海外動向 〔繊維動向〕 1.世界繊維産業の変化のポイント 世界繊維産業の将来展望は、長期的観点に立つ と明るい。世界の人口は毎年 8,000 万人増加してお り、世界人口の 42 %を占める BRICs(ブラジル、 ロシア、インド、中国)は年率 8 ~ 11 %の高度経 済成長を遂げ、繊維消費量の拡大に加えて富裕層 人口の増加に伴う高級ゾーンの衣料品の需要が伸 びている。しかし、短期的視点に立つと、年初来、 世界経済の先行きが不透明になり、繊維景気の後 退が憂慮される事態を迎えている。 世界の繊維需給は過去 7 年間、中国の大増産に 対して世界経済の好調による繊維消費の増加、先 進国及び中進国繊維産業の規模縮小によって、か ろうじて需給バランスを保ってきている。今回の 米国サブプライムローンの混乱によって、世界経 済が減速に向かうようなことになると、薄氷状態 の世界繊維需給のバランスが崩れる危険が高まり、 アジアの繊維工場の採算悪化が進む可能性が強い。 今年は、繊維のマクロ情勢を正確に把握すること が必要な年であり、アジア繊維産業の現状はどう なっているのか、また、どのような方向に変化し ようとしているのかについて、重要なポイントを 整理すると次の通りである。 (1)世界の繊維生産は、合繊化率と長繊維化率が 高まっている。米国の調査機関 Fiber Organon に よると、2006 年の世界繊維需要量(生産量)は 6,453 万トン(オレフィン等を含まず)、合成繊維 が 54 %、綿が 40 %、その他繊維が 6 %であり、 長短別の比率は 67 %が短繊維、33 %が長繊維であ る。約 10 年前の 1996 年は合成繊維が 46 %、綿が 45 %であり、短繊維が 74 %、長繊維が 26 %の比 率であったから、過去 10 年間に合繊のシェアが 8 ポイント、長繊維の比率が 7 ポイント増えている。 先行き不透明感が増す アジア繊維産業の景気動向 小山 英之(こやま ひでゆき) 特別研究員 1970 年社団法人福井県繊維協会入会。1992 年調査部長を経て、2005 年同協会退職。その 間、1992 年に繊維工業審議会臨時委員、1997 年繊維産業審議会専門委員として繊維ビジョ ンの策定に参加。2006 年 2 月から(株)東レ経営研究所特別研究員。 1 年初から米国のサブプライムローン問題によって世界の株価が混乱、米国政府の対策が積極的に行われて いるが、根幹が金融収縮に絡んでいることから、世界経済の減速化が懸念されている。 2 世界織物需要は、昨年約 5 %増加したと推定され、世界の織物生産量の 5 割を占める中国は、昨年の設備 投資で織物生産能力が約 1 割強増加しており、世界の織物需給は薄氷を踏むような脆弱なバランスを保っ ている。今年下半期の先進国経済の動向次第では、需給に亀裂が入ることも想定され、マクロ情勢の動き に注意が必要である。 3 原燃料コストは一部に値下がりも見られるが、依然として高水準を続けており、米ドルの下落に伴ってア ジア主要繊維国の通貨が上昇するなど、アジア繊維産業の採算が「原料高の製品安」で徐々に悪化して、 先行きは予断を許さない状況を迎えている。 要 点

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  • 35繊維トレンド 2008.3・4 月号

    海外動向〔繊維動向〕

    1.世界繊維産業の変化のポイント

    世界繊維産業の将来展望は、長期的観点に立つと明るい。世界の人口は毎年 8,000 万人増加しており、世界人口の 42 %を占める BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)は年率 8 ~ 11 %の高度経済成長を遂げ、繊維消費量の拡大に加えて富裕層人口の増加に伴う高級ゾーンの衣料品の需要が伸びている。しかし、短期的視点に立つと、年初来、世界経済の先行きが不透明になり、繊維景気の後退が憂慮される事態を迎えている。世界の繊維需給は過去 7 年間、中国の大増産に

    対して世界経済の好調による繊維消費の増加、先進国及び中進国繊維産業の規模縮小によって、かろうじて需給バランスを保ってきている。今回の米国サブプライムローンの混乱によって、世界経済が減速に向かうようなことになると、薄氷状態の世界繊維需給のバランスが崩れる危険が高まり、

    アジアの繊維工場の採算悪化が進む可能性が強い。今年は、繊維のマクロ情勢を正確に把握することが必要な年であり、アジア繊維産業の現状はどうなっているのか、また、どのような方向に変化しようとしているのかについて、重要なポイントを整理すると次の通りである。

    (1)世界の繊維生産は、合繊化率と長繊維化率が高まっている。米国の調査機関 Fiber Organon によると、2006 年の世界繊維需要量(生産量)は6,453 万トン(オレフィン等を含まず)、合成繊維が 54 %、綿が 40 %、その他繊維が 6 %であり、長短別の比率は 67 %が短繊維、33 %が長繊維である。約 10 年前の 1996 年は合成繊維が 46 %、綿が45 %であり、短繊維が 74 %、長繊維が 26 %の比率であったから、過去 10 年間に合繊のシェアが 8ポイント、長繊維の比率が 7 ポイント増えている。

    先行き不透明感が増すアジア繊維産業の景気動向

    小山英之(こやまひでゆき)特別研究員

    1970 年社団法人福井県繊維協会入会。1992 年調査部長を経て、2005 年同協会退職。その間、1992年に繊維工業審議会臨時委員、1997年繊維産業審議会専門委員として繊維ビジョンの策定に参加。2006年 2月から(株)東レ経営研究所特別研究員。

    1 年初から米国のサブプライムローン問題によって世界の株価が混乱、米国政府の対策が積極的に行われて

    いるが、根幹が金融収縮に絡んでいることから、世界経済の減速化が懸念されている。

    2 世界織物需要は、昨年約5%増加したと推定され、世界の織物生産量の5割を占める中国は、昨年の設備

    投資で織物生産能力が約1割強増加しており、世界の織物需給は薄氷を踏むような脆弱なバランスを保っ

    ている。今年下半期の先進国経済の動向次第では、需給に亀裂が入ることも想定され、マクロ情勢の動き

    に注意が必要である。

    3 原燃料コストは一部に値下がりも見られるが、依然として高水準を続けており、米ドルの下落に伴ってア

    ジア主要繊維国の通貨が上昇するなど、アジア繊維産業の採算が「原料高の製品安」で徐々に悪化して、

    先行きは予断を許さない状況を迎えている。

    要 点

  • 繊維トレンド 2008.3・4 月号36

    世界の人口は、前述のごとく毎年 8,000 万人増加しており、綿は食料問題もあって増産が期待できず、今後の繊維需要の増加は合繊が賄うことになり、生産コスト面からも長繊維化率がますます高まるであろう。したがって、今後の国際競争は合繊長繊維テキスタイル分野において、厳しさを増すことになろう。

    (2)世界繊維生産量に占めるアジア地域(中東地域は含まず)のシェアは、中国の大増産によって急速に高まっている。ポリエステル、ナイロン、アクリルの三大合繊のアジアの生産シェアは、1985 年の 38 %が 95 年に 56 %、06 年には 81 %に達し、綿糸のアジアの生産シェアは、85 年の 49 %

    から 95 年に 60 %、06 年には 74 %になっている。テキスタイルのアジアの生産シェアも糸の増産に連動して高まっており、綿織物は 85 年の 45 %が95 年 65 %、06 年 73 %になり、合繊長繊維織物の生産シェアは筆者の推定調査によると 05 年で90 %の高率に達している。中国繊維産業の設備増強、インドの台頭を考えると、今後一段とアジア地域の生産シェアがアップするであろう。

    (3)中国の繊維生産量は、世界シェアの約 5 割に達し、世界繊維産業の国際競争は「中国と他のアジア諸国」の戦いの構図になっている。図表 1 は世界合繊ファイバー、綿糸の国別生産動向を示したものである。中国の合繊ファイバーの世界シェ

    区 分

    2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年

    2006年(B) 増加率 (A) 数 量 シェア B/A

    世 界 計 25,650 25,914 27,599 28,889 30,904 33,080 34,238 100.0% 33.5% アジア計 17,593 18,218 19,777 21,343 23,115 25,881 27,583 80.6% 56.8% 中 国 5,945 7,267 8,794 10,342 12,333 15,908 17,774 51.9% 199.0% インド 1,568 1,569 1,690 1,793 1,904 1,848 2,152 6.3% 37.2% 台 湾 3,112 2,891 2,985 2,948 2,943 2,563 2,363 6.9% -24.1% 韓 国 2,632 2,363 2,302 2,240 1,978 1,655 1,457 4.3% -44.6% 日 本 1,232 1,167 1,054 954 913 881 849 2.5% -31.1%

    合繊ファイバー

    インドネシア 1,054 1,191 1,133 1,144 1,064 1,077 1,108 3.2% 5.1% タ  イ 786 836 889 865 1,011 965 841 2.5% 7.0% マレーシア 314 423 342 367 348 363 337 1.0% 7.3% その他アジア 623 511 588 690 621 621 702 2.1% 12.7% 米 国 3,061 2,620 2,713 2,589 2,707 2,565 2,357 6.9% -23.0% 西欧計 3,007 2,792 2,876 2,773 2,772 2,552 2,473 7.2% -17.8% トルコ 745 669 728 767 840 794 787 2.3% 5.6% ドイツ 750 672 663 650 665 644 653 1.9% -12.9% イタリア 556 502 517 459 396 353 349 1.0% -37.2% フランス 140 157 157 155 146 133 134 0.4% -4.3% 東 欧 588 563 575 586 599 585 570 1.7% -3.1% 世界計 19,490 20,154 20,998 22,291 23,671 24,977 25,611 100.0% 31.4% 中 国 6,576 7,609 8,500 9,836 10,871 12,145 12,656 49.4% 92.5% インド 2,290 2,216 2,189 2,091 2,248 2,443 2,517 9.8% 9.9% パキスタン 1,707 1,734 1,870 1,956 2,105 2,244 2,326 9.1% 36.3% インドネシア 417 425 413 396 395 407 415 1.6% -0.5%

    綿  糸

    タ  イ 299 340 346 351 339 360 356 1.4% 19.1% 韓 国 288 298 301 280 263 243 232 0.9% -19.4% 台 湾 281 280 286 265 250 239 230 0.9% -18.2% 日 本 159 139 122 107 103 92 79 0.3% -50.3% 米 国 1,895 1,621 1,528 1,351 1,345 1,120 1,064 4.2% -43.9% トルコ 1,005 1,040 1,129 1,153 1,239 1,290 1,298 5.1% 29.2% ロシア 272 296 296 275 263 262 265 1.0% -0.3% ブラジル 778 698 562 848 925 904 930 3.6% 19.5% エジプト 180 151 189 185 195 213 213 0.8% 18.3%

    単位:千トン

    (注)合繊ファイバー生産量はポリエステル、ナイロン、アクリルの計。綿糸は8月に始まる1年間の生産データ、2000~04年は確定値、2005~06年は暫定値、ただし日本は暦年の確定値。

    出所:Fiber Organon、ICAC

    図表 1 世界合繊ファイバー、綿糸生産推移

    海外動向

  • 37繊維トレンド 2008.3・4 月号

    先行き不透明感が増すアジア繊維産業の景気動向

    アは 52 %(2006 年)、2000 ~ 06 年の 6 年間の増加率は 3倍の急増を示している。中国の合繊ファイバーの長短別生産内訳は、フィラメント 62 %、ステープル 38 %で、「中国と他のアジア諸国」の戦いは合繊長繊維分野において厳しくなっている。他方、最近関心が高まっているインドの合繊ファイバー生産量は、過去 6 年間で 37 %増であり、アセアン(インドネシア、タイ、マレーシア)は、中国の圧迫を受けて合繊ファイバーの生産は若干増の停滞を続けている。合繊先発国の米国は 23 %減、西欧 18 %減、日本 31 %減であり、中国と正面からバッティングしている韓国は 45 %の大幅減産、コスト競争力の強い台湾も 24 %の減産に追い込まれている。

    綿糸の中国の増産も凄まじく、世界シェアは49 %(2006 年)に達し、2000 ~ 06 年の増加率は1.9 倍である。中国に次いで増産を示しているのがパキンスタンで 36 %増加しており、注目すべき動きとしてトルコが 29 %増産している。他方、綿糸生産量第 2 位のインドは 10 %増と停滞、日本は綿紡業界の大幅規模縮小で 50 %減、米国は綿織物の減産の影響を受けて 44 %減少、韓国、台湾、アセアン諸国も 2割弱減少している。

    (4)アジア・テキスタイル業界の設備投資の動向を革新織機の導入状況で見ると、中国一極集中が歴然となっている。図表 2 に示すごとく、2000 ~06 年のアジアの革新織機の導入台数は 35 万 4,079

    区  分 00~06年 合計

    WJ織機 22,940 11,026 18,557 14,796 19,132 9,473 13,930 109,854

    世界合計 AJ織機 14,181 12,451 20,943 20,509 16,129 18,958 22,947 126,118レピア等 22,313 11,026 31,590 27,338 30,273 25,045 29,756 177,341

    計 59,434 34,503 71,090 62,643 65,534 53,476 66,633 413,313 WJ織機 23,368 10,877 17,757 14,440 18,971 9,305 13,835 108,553

    アジア計 AJ織機 10,799 9,050 18,428 17,648 13,755 17,124 21,166 107,970レピア等 13,494 12,246 24,714 19,687 24,294 19,709 23,412 137,556

    計 47,661 32,173 60,899 51,775 57,020 46,138 58,413 354,079 WJ織機 18,191 8,114 15,863 13,991 17,877 8,565 11,406 94,007

    中 国 AJ織機 6,309 6,405 16,052 14,228 10,012 11,917 15,369 80,292レピア等 10,932 9,113 19,358 16,157 20,342 12,151 15,377 103,430

    計 35,432 23,632 51,273 44,376 48,231 32,633 42,152 277,729 WJ織機 1,753 1,353 1,041 42 581 116 127 5,013

    台 湾 AJ織機 1,001 362 222 284 179 65 103 2,236レピア等 190 36 123 109 152 125 90 825

    計 2,944 1,771 1,386 435 912 306 320 8,074 WJ織機 897 347 106 14 56 59 58 1,537

    韓 国 AJ織機 1,496 293 299 250 205 113 138 2,794レピア等 531 151 360 256 93 187 129 1,707

    計 2,924 791 765 520 354 359 325 6,038 WJ織機 321 264 145 170 225 105 118 1,348

    日 本 AJ織機 313 333 199 226 328 232 303 1,934レピア等 366 259 47 106 231 283 125 1,417

    計 1,000 856 391 502 784 620 546 4,699 WJ織機 393 290 154 102 0 0 30 969

    インドネシア AJ織機 498 223 148 294 114 164 455 1,896レピア等 173 105 54 34 37 91 223 717

    計 1,064 618 356 430 151 255 708 3,582 WJ織機 0 20 58 79 175 55 186 573

    タ イ AJ織機 211 254 243 428 107 141 235 1,619レピア等 355 297 206 187 189 120 150 1,504

    計 566 571 507 694 471 316 571 3,696 WJ織機 0 0 0 18 30 148 947 1,143

    インド AJ織機 188 281 91 259 1,108 2,447 1,983 6,357レピア等 366 380 452 617 1,008 2,276 2,732 7,831

    計 554 661 543 894 2,146 4,871 5,662 15,331

    単位:台

    出所:ITMF

    2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年

    図表 2 アジア主要国の革新織機の導入推移

  • 繊維トレンド 2008.3・4 月号38

    台で、世界導入台数の 86 %を占め、中国の導入台数は 27 万 7,729 台で、世界シェアが 67 %と高率になっている。他方、中国のライバルであるインドの革新織機導入台数は、1 万 5,331 台と少ない。ちなみに、2006 年末の中国の革新織機設置台数は約38 万台であり、インドは革新織機 2 万 7,000 台、フライ織機 150 万台、手機織機 350 万台である。インド織物業界は老朽フライ織機を大量に抱え、生産性、品質面において中国に歯が立たない状況になっている。なお、中国の革新織機の投資は、昨年がピークであり、今年は投資優遇措置が撤廃され、今後、増設テンポは徐々に鈍化すると予想される。しかし、対抗馬のインドの設備投資は2004 年以降、徐々に増加しつつあるが、その力は中国に比較して弱く、中国の一極支配が一段と強まることになろう。

    2.世界経済の減速懸念と先行き不透明感が増すアジア繊維産業

    今年のアジア繊維産業の景気は、先行き不透明感が高まっており、予断を許さない状況になっている。その要因は、「世界景気の後退」「高コスト問題」「対ドル為替レートの上昇」の 3 点であり、各問題点について見てみたい。

    (1)世界景気の後退問題

    周知の通り米国の景気を支えてきた住宅ブームは、サブプライム問題によって新規住宅着工件数が大幅に減少、米国景気の先行き懸念から今年 1月に世界同時株安が発生している。サブプライムローンとは、信用力の弱い個人等を対象とした住宅ローンであり、2004 年から急速に拡大、残高は1兆 5,000 億ドル(160 兆円)、住宅ローン総額の約15 %に達している。このローンは審査基準が甘く、金利が高いことが特徴で、住宅ローン担保証券(RMBS や CDO)の形で証券化され、それが更に債務担保証券(CDO)の形に再証券化されて投資家に販売されている。サブプライム問題は、2006 年後半以降の焦げ付

    きの増加に端を発し、昨年 7月に格付け機関のムーディーズによる住宅ローン担保証券・債務担保証券の格付け引下げによって、住宅関連証券の相場が急落、金融資本市場で流動性不足や信用収縮が一挙に拡大している。欧米大手金融機関 20 社の関連損失は、今年 1 月で 1,000 億ドルの巨額に達し、モノラインと呼ばれる金融保証会社の経営悪化の

    懸念も加わって、その動揺は国境を越えて世界中に波及している。このサブプライム問題によって、金融機関の融資基準が一段と厳しくなり、貸し渋りが、優良な住宅ローンばかりでなく一般消費ローンや企業向け融資に広がりつつある。また、住宅価格の下落は逆資産効果を強めており、昨年のクリスマス商戦が不調に終わるなど消費全体に影響が出始めている。大幅な株価の下落を受けて、ブッシュ大統領は 1 月に 1,500 億ドル(16 兆円)の緊急経済対策を打ち出し、FRB(連邦準備制度理事会)も金利の引き下げを実施し、懸命な景気対策が実施されている。最悪のシナリオとして、今後、米国経済の後退

    が進むようなことになると、好調を持続しているアジア経済にも影響を及ぼし、EU、日本の経済も減速する可能性が高まるであろう。好調の中国経済は、北京オリンピックの開催準備で、現在、過熱状態にあるが、米国経済の悪影響を受けて変調をきたすようなことになれば、公害問題、水不足、不動産バブル、貧富の格差等の構造問題を抱えているだけに、先行き下方修正も想定され、このような悪夢は何としても避けなければならい。さて、アジア繊維産業の景気の動向であるが、

    先進国市場に大きく依存していることもあって、米国、EU、日本の景気動向次第となっている。すなわち、世界のアパレル貿易は、輸入額ベースで約 8 割を米国、EU、日本の先進国が占めており、先進国の景気が悪化すると、アジア繊維産業は甚大な影響を被ることになる。近年、繊維大国の中国、インドは、急速な経済成長によって繊維の内需向け出荷が順調に拡大しているが、最大のサプライヤーの中国は、衣料品生産量の 5 割を輸出しており、日、米、欧の先進国向け輸出の比率が65 %に達している。先進国経済がクシャミをすれば、アジア繊維産業は風邪を引くと言われる体質は、今もって変わっていない。アジア繊維景気の現状であるが、昨年は米国、

    EU、日本の穏やかな景気回復を背景に、先進国向け繊維輸出が堅調になり、中国、インド等の内需拡大もあって比較的順調に推移した。しかし、昨年秋口以降、原燃料の高騰の影響が、アジア繊維工場の経営面に本格的に現れ、各国業界は価格の値上げが最大の課題になっている。国別動向としては、特に中国繊維産業がアパレル、テキスタイル共に好調に推移している。中国アパレル業界は、昨年 1 ~ 11 月の規模以上(年商 500 万元以上)の

    海外動向

  • 39繊維トレンド 2008.3・4 月号

    先行き不透明感が増すアジア繊維産業の景気動向

    工場の衣料品生産量は 179 億 6,800 万枚、前年比13.4 %増と順調に増加、衣料品輸出は昨年 1 ~ 10月で 956 億 1,827 万ドル、前年比 23 %増となっている。また、中国のテキスタイル業界は、織物輸出に鈍化傾向が現れるなどマイナス要因があったものの、ニット生地輸出の増加、オリンピックブームによる内需の好調が支えとなって、昨年の民間経営のテキスタイル工場(年商 500 万元以上)の工業生産額は、3 兆 500 億元、前年比 21.9 %増、利益総額は 1,152 億元、前年比 32 %増と好調である。マクロ的には、設備投資に伴う生産増加によって順調に推移しているが、個々の工場の収益状況

    となると人件費の上昇、糸高、染料・糊材の価格アップ、染色排水の規制強化、人民元高、輸出時の増値税の還付率引下げ等のコストアップによって、収益率のやや低下が表面化している。アセアン、韓国、台湾等のテキスタイル業界も、昨年上半期は堅調に推移したものの、秋口から「原材料高の製品安」が顕著となり、タイ、マレーシア等は自国通貨の米ドル交換レートの高騰もあって、多くのテキスタイル工場は収益の低下に見舞われている。なお、参考までにアジア主要国のテキスタイル

    輸出動向を示すと、図表 3 の通りである。アジア

    区 分

    2002年 2003年 2004年 2005年

    2006年(B) 2007年1~6月 (A) 金 額 シェア B/A 金 額 前年比

    中 国 1,960,987 3,143,346 4,377,607 4,716,087 4,894,432 48.4% 149.6% 2,254,606 0.7%

    合繊長織物

    合繊短織物

    綿織物

    毛織物

    ニット生地

    韓 国 2,409,834 2,065,106 1,929,074 1,764,704 1,555,135 15.4% -35.5% 778,997 -1.8%台 湾 1,797,748 1,701,722 1,734,820 1,650,526 1,306,041 12.9% -27.4% 884,552 -0.8%日 本 1,133,275 1,150,438 1,201,400 1,100,943 1,098,929 10.9% -3.0% 523,303 2.4%インドネシア 591,923 542,695 468,358 495,746 488,336 4.8% -17.5% 257,305 11.9%タ イ 149,167 152,449 168,708 192,493 200,151 2.0% 34.2% 105,704 10.9%インド 442,660 752,382 677,144 611,138 574,365 5.7% 29.8% *** ***6 カ国計 8,485,594 9,508,138 10,557,111 10,531,637 10,117,389 100.0% 19.2% *** ***中 国 1,247,472 1,311,181 1,797,116 2,289,888 2,979,684 64.4% 138.9% 1,498,928 8.5%韓 国 213,123 199,331 229,619 225,169 201,190 4.3% -5.6% 90,064 -10.5%台 湾 265,419 271,085 286,192 311,533 211,495 4.6% -20.3% 125,931 -11.8%日 本 309,469 335,886 363,303 358,090 358,097 7.7% 15.7% 176,254 3.3%インドネシア 190,157 247,260 237,205 275,826 235,244 5.1% 23.7% 136,170 15.3%タ イ 194,061 219,757 269,874 268,645 266,083 5.8% 37.1% 144,922 15.9%インド 230,730 296,230 311,041 326,990 375,374 8.1% 62.7% *** ***6 カ国計 2,650,431 2,880,730 3,494,350 4,056,141 4,627,167 100.0% 74.6% *** ***中 国 3,716,011 4,709,637 5,251,183 6,031,459 7,020,604 66.1% 88.9% 3,359,603 4.1%韓 国 635,040 637,504 685,531 655,840 607,970 5.7% -4.3% 288,852 -3.6%台 湾 565,583 492,817 575,455 492,341 361,105 3.4% -36.2% 219,974 -8.5%日 本 951,630 996,767 1,149,188 1,023,678 969,658 9.1% 1.9% 454,158 -7.6%インドネシア 371,276 360,014 367,363 411,500 397,994 3.7% 7.2% 174,949 -11.6%タ イ 271,156 300,684 343,060 345,664 386,477 3.6% 42.5% 220,219 27.5%インド 908,533 971,569 913,275 861,075 875,255 8.2% -3.7% *** ***6 カ国計 7,419,229 8,468,992 9,285,055 9,821,557 10,619,063 100.0% 43.1% *** ***中 国 239,587 340,954 504,203 526,030 560,733 56.8% 134.0% 277,999 3.1%韓 国 95,065 71,675 88,817 87,560 70,341 7.1% -26.0% 34,539 -0.8%台 湾 2,363 1,909 1,722 1,507 5,369 0.5% 127.2% 1,770 -33.1%日 本 375,587 361,029 387,539 350,009 322,469 32.6% -14.1% 111,185 -4.7%インドネシア 39 482 625 3,404 754 0.1% 1833.3% 165 132.4%タ イ 1,414 1,101 1,309 855 681 0.1% -51.8% 312 23.8%インド 17,694 11,779 18,140 27,858 27,572 2.8% 55.8% *** ***6 カ国計 731,749 788,929 1,002,355 997,223 987,919 100.0% 35.0% *** ***中 国 2,006,687 2,508,654 2,995,153 3,652,257 4,640,538 46.5% 131.3% 2,656,680 20.9%韓 国 2,700,327 2,758,321 2,761,287 2,688,723 2,899,078 29.1% 7.4% 1,585,487 14.0%台 湾 2,157,245 1,969,366 1,976,127 1,862,675 1,482,924 14.9% -31.3% 1,003,157 1.2%日 本 412,105 485,207 573,419 600,666 631,885 6.3% 53.3% 311,752 4.1%インドネシア 42,286 59,922 100,405 74,540 88,862 0.9% 110.1% 47,622 5.8%タ イ 93,428 104,921 143,830 155,569 159,364 1.6% 70.6% 77,575 -2.5%インド 27,356 45,670 45,671 44,284 72,047 0.7% 163.4% *** ***6 カ国計 7,439,434 7,932,061 8,595,892 9,078,714 9,974,698 100.0% 34.1% *** ***

    単位:千ドル

    出所:日本繊維輸出組合

    図表 3 アジア主要国のテキスタイル輸出の推移

  • 繊維トレンド 2008.3・4 月号40

    主要国の輸出総額に占める中国のシェアは、合繊長繊維織物が 48 %、合繊短繊維織物が 64 %、綿織物が 66 %、毛織物が 57 %、ニット生地が 47 %である。インドの輸出シェアは、綿織物、合繊短織物がそれぞれ 8 %、合繊長繊維織物は 6 %と日本並みのポジションにある。昨年 1 ~ 6 月の中国の輸出で注目すべき点は、ニット生地が 21 %増と好調なのに対して、織物輸出は合繊長繊維織物が前年比横ばい、綿織物が同 4 %増、毛織物が同3 %増と頭打ち傾向を示している。前述のごとく、中国は革新織機の大増設が続いているにもかかわらず織物需給がバランスを保っているのは、国内の衣料消費の増加と衣料品輸出の好調によって、国内縫製工場向け出荷が増加していることによるものである。今年のアジア繊維業界の景気動向であるが、万

    が一米国経済の減速が第 2 四半期以降表面化し、日本、EUの経済の後退が始まり、繊維消費が落ち込むような事態が起こると、下半期は先進国の繊維輸入が減少し、アジア繊維産業の景況は下降することになろう。昨年、中国は革新織機、編機等の大増設を実施し、生産能力が約 1 割強アップしており、もしオリンピック終了後に中国の内需に減速傾向が現れると、好調な中国繊維業界の景気が冷え込む恐れがあり、アジアの繊維需給動向に十分な注意が必要になっている。「好況時の不況対策」という言葉もあり、少々悲観的な面ばかりを想定して記述したが、今年は、世界の経済動向から一瞬たりとも目が離せない年であり、用心の上にも用心して、速い経営対策が肝要となっている。

    (2)高コスト問題と為替相場の高騰

    アジア繊維産業の先行き不透明感を増している第 2 の問題点は、原油価格の高騰に伴う「高コスト問題」である。中国、インド、ロシア等の目覚ましい経済発展によって、原油消費量が増加しており、石油の枯渇問題もからんで大規模な投機資金が流入、原油価格は乱高下の不安定な相場展開になっている。投機資金は、株から商品マーケットへシフトし、原油・石油関連製品ばかりでなく、石炭、天然ガス、あるいは農産物等の商品相場に大きな影響を与えている。石油連盟の資料によると、日本の原油輸入価格(CIF 価格)は 2000 ~ 02年まで 1 バレル 20 ドル台で推移、03 年に 30 ドル台、04 年 12 月が 39.9 ドル、05 年 12 月には 55 ドル、前年比 37 %アップ、06 年 12 月は 58.6 ドル、

    昨年 12 月(上中旬価格)は急騰して 90.8 ドル、前年比 55 %のアップになっている。韓国、台湾も中東湾岸諸国からの原油輸入が主体であり、日本と同じような価格推移を示している。中国は、国家統計局のデータによると国産原油が 54 %、輸入原油が 46 %であり、原油価格は国際相場にほぼ連動した動きを示している。さて、アジア繊維産業の高コスト問題であるが、

    原油価格に連動するナフサ等の石油製品の価格アップによって、アジア各国の合繊糸の価格が軒並み高騰しており、昨年 1 年間にポリエステル糸は、品種、品質によって各国間にバラツキがあるが大よそ 10 ~ 15 %アップ、NY綿花、豪州羊毛東部市場相場も約 15 %高騰している。染料は、中国の環境規制を受けて中間体材料の需給が逼迫し、中国を含むアジア各国の染料の価格が昨年 1 年間に平均 1 割以上高騰、一部の染料は 30 ~ 40 %アップしており、助剤、糊材等の価格も一様に高騰している。また、合繊工場、サイジング工場、染色工場で使用される重油あるいは繊維品の輸送関連のガソリン、軽油の価格は、日本等の価格が自由化されている国と、中国のように価格統制されている国とでは価格動向に差が出ている。日本の場合、昨年 1年間の重油価格は中小企業向けで約 3割アップ、ガソリンは 2 割弱高騰しており、他方、中国はインフレや社会不安を抑えることを目的にガソリン・重油等の価格を統制しており、昨年 11 月 1日に 1年 5カ月ぶりに約 10 %引き上げている。織布業、撚糸・仮撚業は、電力料金が加工コス

    トで大きなウェートを占めているが、アジア各国とも石油関連商品の大幅アップに比較して、電力料金は小幅アップで推移している。しかし、石炭、LNG の価格も高騰しており、今年は予断を許さない状況になっている。日本化学繊維協会の「世界主要国の工業用電力料金比較」(化繊ハンドブック)によると、2005 年のデータで日本が 1 キロワット当たり 12 円、米国 5.7 円、ドイツ 8.4 円、韓国 5.9円、台湾 5.7 円、OECD平均 7.3 円であり、中国は福井県繊維協会の調査によると 12 ~ 13 円である。アジア繊維主要国の電力料金が小幅のアップで落ち着いた動きを示しているのは、石油依存度が低いことが大きな要因である。電気事業連合会によると、アジア各国の電源別の発電量は、日本が原子力 27 %、石炭 27 %、LNG23 %、石油 13 %、水力 8 %であり、中国は石炭 79 %、水力 15 %、石油 3%、LNG1%で、石炭が圧倒的なシェアを占め、

    海外動向

  • 41繊維トレンド 2008.3・4 月号

    先行き不透明感が増すアジア繊維産業の景気動向

    日本と比べて石油依存度が低い。韓国は、石炭39 %、原子力 38 %、LNG12 %、石油 9 %で、日本と似ており、インドは石炭 68 %、水力と LNGは共に 12 %、石油 5 %、原子力 3 %で、中国に似ている。なお、中国の電力料金は、石炭の価格にスライドする制度をとっており、昨年 1 年間に中国内の石炭の価格が 10 %上がり、大手電力会社の5社が政府に対して 3回にわたって値上げを申請したが却下されている。しかし、今年は値上げが避けられない情勢となっており、中国繊維業界はエネルギー関係の本格的な高コスト時代を迎えつつある。

    (3)為替レートの問題

    アジア各国の為替レートの変化に異なる動きが出ている。世界主要国の米ドル交換レートの変化

    を示すと、図表 4の通りである。08 年 1 月/ 06 年12 月の米ドル交換レートの変化は、日本円、中国元、タイバーツが約 7 %、インドのルピーは11.7 %、マレーシアリンギットは 8.5 %それぞれ高くなっている。他方、韓国ウォンとパキスタンルピーは 1.3 %下落、インドネシアルピアも 3.7 %のダウンとなっている。ただし、韓国は 06 年 12月/ 05 年 12 月のウォンレートが 11 %高騰して繊維業界がウォン高に苦しみ、インドネシアも 8 %上がっている。なお、EU ユーロの 08 年 1 月/ 06年 12 月の米ドル交換レートは 10.3 %高くなり、中東の UAE ディルハム、サウジアラビアリアルは米ドルとリンクして横ばいであり、そのためアジア地域から EU 向け輸出は為替の影響を受けず、他方、中東、米国向け輸出は中国、日本、インド、タイ、マレーシア等は値上げが必要となっている。

    区 分 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年

    B/A12月 12月 6月 12月(A) 3月 6月 9月 12月 1月(B)

    ユーロ 0.7443 0.8487 0.7784 0.7534 0.7634 0.7400 0.7316 0.6871 0.6760 -10.3% 指 数 100.0 114.0 104.6 101.2 102.6 99.4 98.3 92.3 90.8 円 102.20 121.00 112.40 114.87 116.45 121.37 115.40 110.96 106.75 -7.1% 指 数 100.0 118.4 110.0 112.4 113.9 118.8 112.9 108.6 104.5 元 8.2764 8.0780 8.0148 7.8226 7.7453 7.6398 7.5410 7.4205 7.2530 -7.3% 指 数 100.0 97.6 96.8 94.5 93.6 92.3 91.1 89.7 87.6 ウォン 1,044.9 1,037.7 940.8 926.5 950.0 925.8 937.6 923.1 938.1 1.3% 指 数 100.0 99.3 90.0 88.7 90.9 88.6 89.7 88.3 89.8 ルピア 9,030 9,955 9,300 9,105 9,205 8,856 9,223 9,240 9,442 3.7% 指 数 100.0 110.2 103.0 100.8 101.9 98.1 102.1 102.3 104.6 バーツ 39.17 41.37 38.10 35.65 35.27 34.49 34.31 33.84 33.18 -6.9% 指 数 100.0 105.6 97.3 91.0 90.0 88.1 87.6 86.4 84.7 リンギット 3.8000 3.7732 3.6435 3.5590 3.5160 3.4165 3.5090 3.3430 3.2559 -8.5% 指 数 100.0 99.3 95.9 93.7 92.5 89.9 92.3 88.0 85.7 ルピー 43.83 46.18 45.92 44.51 44.56 40.55 40.85 39.47 39.31 -11.7% 指 数 100.0 105.4 104.8 101.6 101.7 92.5 93.2 90.1 89.7 ルピー 59.67 59.77 60.14 60.49 60.71 60.73 60.65 61.22 61.29 1.3% 指 数 100.0 100.2 100.8 101.4 101.7 101.8 101.6 102.6 102.7 ディルハム 3.6725 3.6725 3.6725 3.6725 3.6725 3.6725 3.6725 3.6725 3.6725 0.0% 指 数 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 リアル 3.75 3.75 3.75 3.75 3.75 3.75 3.75 3.75 3.75 0.0% 指 数 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 ペソ 11.135 10.410 11.367 10.860 11.147 10.845 11.066 10.837 10.932 0.7% 指 数 100.0 93.5 102.1 97.5 100.1 97.4 99.4 97.3 98.2

    指数:2004年12月=100

    出所:IMF(注)上記レートは各月6~7日の交換レート、2008年1月は15日、IMFのSDR交換レートより米ドル交換レートを算出。

    E  U

    日 本

    中 国

    韓 国

    インドネシア

    タ  イ

    マレーシア

    インド

    パキスタン

    U A E

    サウジアラビア

    メキシコ

    図表 4 主要国通貨の米ドル交換レート推移

  • 繊維トレンド 2008.3・4 月号42

    海外動向

    区 分 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年1~6月

    単 価 前年比 中 国 0.49 0.52 0.53 0.53 0.52 0.55 7.8%

    合繊長織物 韓 国 0.82 0.83 0.70 0.81 0.81 1.03 25.6%台 湾 0.53 0.57 0.57 0.68 0.68 0.69 0.0%

    日 本 1.62 1.80 1.96 1.93 1.89 1.98 6.5% 中 国 0.33 0.36 0.42 0.47 0.53 0.57 11.8%合繊短織物 台 湾 0.81 0.84 0.84 0.80 0.89 0.92 7.0% 日 本 1.94 2.05 2.18 2.14 1.97 1.99 -3.1% 中 国 0.62 0.64 0.75 0.76 0.77 0.81 5.2%綿織物 台 湾 1.43 1.51 1.51 1.45 1.38 1.45 3.6% 日 本 2.67 2.86 3.24 3.16 3.07 3.05 0.7% 中 国 3.28 3.58 3.64 3.65 3.79 4.03 6.9%毛織物 台 湾 4.10 3.41 3.41 4.12 4.95 4.53 -8.1% 日 本 5.86 6.50 6.59 6.46 6.50 6.10 -2.9%

    単位:ドル/㎡

    出所:各国通関統計 (注)中国の単価は、リニアメートルを平方メートルに換算して算出。 韓国は統計上の問題によって2007年は4~9月の平均単価。

    図表 5 アジア主要国のテキスタイル輸出平均単価の推移

    参考までに、アジア主要国の織物の輸出平均単価を示すと、図表 5 の通りである。昨年 1 ~ 6 月の中国の輸出平均単価は、合繊長繊維織物が前年比 7.8 %、合繊短繊維織物 11.8 %、綿織物 5.2 %、毛織物 6.9 %とそれぞれアップしている。日本は、合繊長繊維織物 6.5 %上昇、合繊短繊維織物 3.1 %ダウン、綿織物は横ばい、毛織物は 2.9 %下がっており、合繊長繊維織物の単価アップは、高密度の織物が増加してm2 当たりの単価が高くなったものである。韓国の合繊長繊維織物の輸出平均単価は25.6 %もアップしているが、これは輸出量の約15 %を占める低価格商品の撤退によって平均単価が上昇したもので、合繊長繊維織物の 1 割強の減産で染色工場の稼働率が低下し、ドルが 1ドル 930ウォン台で安定していると言っても、輸出採算は厳しい状況が続いている。アジア主要繊維生産国は、昨年秋以降、テキスタイル価格の 1 割以上のアップを目指して努力しているが、値上げの達成状況は商品によってバラツキがあり、今年は世界経済の不安定化が進んでいることから、価格アッ

    プの実現は厳しさを増している。以上のように、今年下半期以降のアジア繊維景

    気は、先進国の経済動向と世界の 5 割を生産する中国の繊維需給動向がマイナスに振れるようなことが起こると、量産ゾーンの商品が価格面、工場の稼働面で大きな打撃を受けることが想定され、高付加価値品もミドル高級ゾーンを主体に影響が出ることになろう。今年は世界経済の不透明感が強まる年であり、

    先進国のアパレル・小売業界は消費者に感動を呼び起こす高感性・高機能商品の開発を一層求めるようになるであろう。また、産業資材分野も自動車、家電等のユーザー業界の新技術・新商品の開発が強化され、ハイテク新資材のニーズが高まることから、技術開発を得意とする日本は、アジア繊維産業の中で最も優位なポジションになるであろう。わが国繊維産地は、目先の世界経済動向に振り回されることなく、時流を読んだ新技術・新商品の開発とグローバルなビジネス展開に総力を挙げなければならない。