観光振興による地方創生に向けて ·...
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2017 年 3 月 2 日
観光振興による地方創生に向けて
日本再興戦略では「観光立国」を目指すこととしており、さらに 2020 年には訪日
外国人客数を 4,000 万人とすることが目標として設定されている。また、地方創生戦
略においても、多くの地方公共団体において観光振興への取組施策が示されている。
2016 年時点で訪日外国人客数は、2,400 万人を突破、2020 年の東京五輪に向け、
着実に伸びていくものと思われる。しかし、今後、ポスト五輪後の特に地方創生の観
点から、どうやって観光を地方創生に結び付けていくかについては、様々な工夫が必
要とされる。
本レポートでは、現在の観光の実態や動向、先進的な取り組みを紹介しつつ、弊社
が過去に実施した観光による地域活性化についての調査結果などを踏まえ、観光によ
る地方創生を進めていく上でのポイントについて、紹介をしていきたい。
1.観光産業の現状
1-1.急増する訪日外国人客への対応
2016 年の訪日外国人客数は、2,400 万人を突
破した。弊社のみずほインサイト(2017.1.20)
「インバウンドの展望と中期的なホテル不足の
試算」では、2015 年に比べて増勢は鈍化してい
るものの、2 割超のペースで伸びてきているこ
とから、現在のペースを維持すれば、2020 年の
訪日外国人客数は、政府目標の 4,000 万人に到
達するとしている。
一方、2016 年のインバウンド消費額について
は3.7兆円と、2015年の流行語大賞となった「爆
買い」の収束により一転して一人当たり支出額
が大きく減少に転じたことから伸び率が大幅に
減少した。
モノ消費からコト消費への移行する傾向や、
リピート客の増加でゴールデンルート以外の地
方分散の進展などが進むことで滞在日数の増加
や一人当たりサービス支出が増加に転じること
は想定されるが、「爆買い」の一部が越境 EC 市
場に移行とされるように、急激な伸びの期待は
難しいと思われる。
1-2.新たな国内旅行機会の創出
訪日外国人旅行客数は急増しているが、国内
の旅行消費額 24.8 兆円のうちの日本人の国内
旅行消費額は 20.4 兆円（宿泊旅行 15.8 兆円、
日帰り旅行 4.6 兆円）と 8 割を占めており、大
宗を占める国内旅行の動向にも注目する必要が
ある。国内旅行の特徴としては、60 代・70 代の
参加意欲が高いことであり、今後の人口減少社
会の中で、国内シニア層の国内旅行市場におけ
る存在感は、増していくことが予想されるが、
多様な世代での旅行機会拡大を増やさなくては、
長期的な人口減少の影響は避けられない。
旅のあり方は、市場の成熟化にあわせ「物見
遊山型」の観光から「リゾート観光」、「先進型
観光（特別な目的を持った観光）」へと移行して
いくとされている。人々が求めるものが変化し
ている中、旅行機会を創出には、いかに魅力あ
る「コト」「思い出づくり」の機会を提供できる
かが、大きなカギを握ってきているともいえる。
Working Papers
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2.国･地方自治体の取組
ここでは、新しい観光のあり方に向けて、国
や地方自治体などが、どういった新しい取り組
みを進めているのかについて、主要なものを紹
介する。観光による地方創生を検討する上での
参考となれば幸いである。
2-1.国の取組
(1) 「明日の日本を支える観光ビジョン」－世
界が訪れたくなる日本へ－
「明日の日本を支える観光ビジョン」では、
観光をわが国の成長戦略の柱、地方創生の切り
札として位置づけている。その上で、観光をわ
が国の基幹産業へ成長させて「観光先進国」を
実現することを目指している。そのために、①
「観光資源の魅力を極め、地方創生の礎に」、②
「観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が
国の基幹産業に」及び③「すべての旅行者が、
ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に」
の 3 つの視点を柱に「10 の改革」を進めていく
こととしている。
図表1 「明日の日本を支える観光ビジョン」のポイント
資料：「明日の日本を支える観光ビジョン」－世界が訪れた
くなる日本へ－（概要版）より作成
このなかで特に地方創生という観点では、街
並み（景観）の整備や、疲弊した温泉街や地方
都市を、未来発想の経営で再生・活性化するこ
となどの改革の進展や、滞在型農山漁村の確
立・形成・広域観光周遊ルートの確立などを目
指すこととされている。
(2) IoT おもてなしクラウド事業
「明日の日本を支える観光ビジョン」の「視
点３：すべての旅行者が、ストレスなく快適に
観光を満喫できる環境に」に対応する形で、「誰
もが独り歩きできる観光の実現」に向けて、2020
年をめどに「IoT おもてなしクラウド事業」が
進められている。同事業では、訪日外国人が、
入国時から滞在・宿泊、買い物、観光、出国ま
でストレスなく快適に過ごすことができる環境
整備を目指している。具体的には交通系 IC カー
ドやスマートフォンに利用者属性（国籍・利用
言語）などを紐づけることで、ホテルや百貨店、
レストランなどの利用において利用者個人に最
適な情報・サービスが提供できる環境の整備を
目指すこととしている。例えば、このサービス
により自国言語での交通案内・メニューの案内、
宗教・習慣に対応したハラール対応・ベジタリ
アン向けのレストラン情報の提供といったきめ
細やかな対応などが可能になることが期待され
る。
図表2 IoT おもてなしクラウド事業のイメージ
出所：総務省 HP
(3) 日本版 DMO への取組
観光庁では、観光地域づくりの地域における
舵取り役を担う日本版 DMO の設立に向けた各種
支援を行っている。日本版 DMO 法人には、地域
の「稼ぐ力を引き出す」ことや地域への誇りと
愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った
観光地域づくりが期待されており、多様な関係
者との共同、明確なコンセプトに基づく観光地
域づくりのための戦略策定と、戦略を着実に実
施する調整機能が求められている。平成 29 年 1
月 20 日現在で、複数の都道府県に跨る観光地域
づくりを行う広域連携 DMO 候補法人が 4 件、複
「観光先進国」への「3つの視点」と「10の改⾰」
視点１「観光資源の魅⼒を極め、
地⽅創⽣の礎に」
視点２「観光産業を⾰新し、国際競争⼒を⾼め、我が国の基幹産業に」
視点３「すべての旅⾏業者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に」
■「魅⼒ある公的施設」を、ひろく国⺠、そして世界に開放■「⽂化財」を、「保存優先」から観光客⽬線での「理解促進」、そして「活⽤」へ■「国⽴公園」を、世界⽔準の「ナショナルパーク」へ■おもな観光地で「景観計画」をつくり、美しい街並へ
■古い規制を⾒直し、⽣産性を⼤切にする観光産業へ■新しい市場を開拓し、⻑期滞在と消費拡⼤を同時に実現■疲弊した温泉街や地⽅都市を、未来発想の経営で再⽣・活性化
■ソフトインフラを⾶躍的に改善し、世界⼀快適な滞在を実現■「地⽅創⽣回廊」を完備し、全国どこへでも快適な旅⾏を実現■「働きかた」と「休みかた」を改⾰し、躍動感あふれる社会を実現
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数の地方公共団体に跨る区域を一体として観光
地域づくりを行う地域連携 DMO 候補法人が 56
件及び原則として基礎自治体である単独市町村
の区域を一体とした観光地域づくりを行う地域
DMO が 63 件の計 123 件が、DMO 候補法人として
登録されている。
図表3 日本版 DMO のイメージ
出所：観光庁 HP
(4) 観光分析の各種ツールの登場
地域の観光のための観光入込客数の分析など
については、調査時点によるズレや重複での主
計など、幾つかの問題が指摘されてきた。
しかし、メガデータの利用・分析により観光
客の行動分析のためのデータ入手が容易となっ
てきている。例えば、内閣府地域経済分析シス
テム（RESAS）では、観光に関して訪問者の観光
地での滞在や流動、外国人の移動相関分析とい
ったデータが提供されている。
こうしたメガデータの登場は、データに基づ
く仮説の検証と、それに基づくプロモーション
や地域での事業展開などが行われ、かつその事
業効果の検証を可能とする。さらに、こうした
データの利用・分析の優劣が地域の競争力にも
つながる可能性が出てきているといえる。
2-2.地方自治体などの取組
ここでは、インバウンド誘致や新たな観光へ
の対応への取組を進めている事例について紹介
する。
(1) 岐阜県高山市
高山市では、今後の少子高齢化・人口減によ
り市内の経済規模が縮小、また国内市場の縮小
も見込まれるなか高山市ではインバウンド観光
への取組を積極的に行っている。
インバウンドへの取組として、「お客様を呼
ぶ」、「モノを売る」、「交流する」ということを
横断的に展開するための海外戦略専門部署の設
置、官民一体となった海外誘客（トップセール
スで交渉のドアを開けてもらい、その後を民間
が引き継ぎ連携を深めていく）の実施や「外国
人観光客が安心してひとり歩きできるまちづく
り」に向けた①多言語化対応、②バリアフリー
対応なども進めている。
現在、高山市の観光ホームページは 11 の言語
に対応しており、また海外向けのホームページ
では、海外の人の興味・関心に合わせた写真を
活用したり、海外の人にとって必要な情報提供
なども行っている。さらに、安心してまちある
きをしてもらうために利用者の属性の登録・メ
ールアドレスなどを入力することで利用可能な
市内に無料 Wi-Fi 環境を整備している。利用者
の許諾を取った上で、入手したメールアドレス
を用いて、アンケートの実施や様々な案内など
の事後フォローも行っている。
図表4 岐阜県飛騨高山観光協会の外国人向け web サイト
出所：飛騨高山外国人向け HP
http://www.hida.jp/english/
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(2) 兵庫県豊岡市
兵庫県豊岡市は、「コウノトリ悠然と舞うふる
さと」の実現をめざした環境経済戦略を進めて
いる。
観光面では、1300 年の歴史を誇る城崎温泉が、
様々なプロモーション活動の流れのなか海外の
著名旅行ガイド「ロンリープラネット」に紹介
されたことから、海外での知名度が一気に高ま
り、多くの外国人観光客が当地を訪問するよう
になった。
また、2016年には豊岡版DMOが立ち上がった。
豊岡版 DMO には、市のほかに民間から高速バス
運営会社を手掛けるウィラー・アライアンス、
地元のバス会社である全但バス、旅行会社のジ
ェイティービーなども参加している。同団体は、
海外向け宿泊予約サイト「Visit Kinosaki」の
運営や着地型商品の企画・販売などを行う。同
サイトは、英語・フランス語の 2 か国語に対応
しており、宿泊予約や着地型ツアーの紹介のほ
か、旅館とは何か、温泉のマナー、浴衣の着方
などまでも紹介している。
図表5 海外向け宿泊予約サイト「Visit Kinosaki」
出所：「Visit Kinosaki」HP
http://visitkinosaki.com/
また、城崎温泉では、2013 年の志賀直哉来湯
100 年を機に、地域限定販売の出版レーベルを
立ち上げた。最初に志賀直哉「城崎にて」と「注
釈・城崎にて」の二冊組を出版、第二弾では万
城目学の書き下ろし新作「城崎裁判」、第三弾と
して湊かなえによる書き下ろし「城崎へかえる」
を出版している。撥水性の高い紙を使うことで、
温泉に浸かりながら読むこともでき、装丁にも
地域ならではのこだわりをみせている。こうし
た地域発・地域ならではのコンテンツ発信も特
筆すべき点といえよう。
(3) 熊本県阿蘇地域振興デザインセンター
阿蘇地域振興デザインサンターでは、熊本県
と阿蘇地域の旧 12 町村が一緒になって設立し
た公益財団法人であり、阿蘇地域全体の地域振
興、観光振興などを進めている。また阿蘇くじ
ゅう広域観光圏においても、その取りまとめな
どで中核的に活躍している。
阿蘇地域デザインセンターでは、地域振興と
観光振興を一体化させた取り組みとしてスロー
な阿蘇づくり「阿蘇カルデラツーリズム」を展
開させている。そこでは、「ゆっくりと過ごす」
ことをキーワードとしているとともに、観光客
のニーズ変化に対応して、訪問者が地域の人々
との交流をとして地域の良さを実感、地域の違
った魅力を発見していくために「もてなしの人
づくり」を重視した取組を行っている。そのた
めに地域のコンシェルジュといった形で、地域
の人を前面に出し、さらに様々な体験型のコン
テンツを整備している。
図表6 阿蘇旅の市場
出所：阿蘇 NAVI HP：http://www.asonavi.jp/
5
3.弊社における観光振興への取組－「e-
地域資源活用事業」「e-地域連携推進
事業」と「地域旅で地域力創造」－
ここでは、弊社が観光振興に関わった取り組
みとして、以下二つの事例を紹介したい。
3-1.「e-地域資源活用事業」「e-地域連携推
進事業」とは
「e-地域資源活用事業1」は、平成 20 年度か
ら 22 年度の 3 年度間、「e-地域連携推進事業2」
は、平成 23 年度・24 年度の 2 年度間にかけ、
地域総合整備財団（以降「ふるさと財団」）が実
施した事業である。両事業共に、①「テーマ」
による観光、②複数市区町村での連携及び③来
訪者・地元住民等へのタイムリーかつ利便性あ
る情報提供という 3 つの特徴を持って取り組む
地方での取組を支援した。
図表7 「e-地域資源活用事業」及び「e-地域連携推進事
業」の特徴
上記、両事業を通して、全国で、23 テーマに
のぼる観光振興の支援を行った。
同成果については、東京大学大学院教授坂村
健氏が代表を務めるユビキタスネットワーキン
グ研究所の協力・連携の下、以下の「ふるさと
ユビキタス3」という共通プラットフォームにま
とめられている。
図表8 「e-地域資源活用事業」及び「e-地域連携推進事
業」の成果（ふるさとユビキタス）
資料出所：http://furusato-info.jp/
(契約終了のため維持更新などは行われていない)
現在、同事業で連携して事業に取り組んだユ
ビキタスネットワーキング研究所では、これら
の成果を通し、観光地や博物館などでまちある
きを楽しむアプリ「ココシル」を提供している。
また、東京オリンピックに向けて実施される
「IoT おもてなしクラウド事業」などでも中核
的役割を果たしている。
3-2.「地域旅で地域力創造」とは
地域旅で地域力創造－観光振興と IT 活用の
ポイント－4」（佐藤喜子光5・椎川忍6編著）（以
降：「地域旅で地域力創造」)は、新しい観光へ
の進展、そのための地域資源の見直し、地域の
体制整備、情報提供のあり方など、従来型の観
光からの脱却・発展を目指した。
「地域旅で地域力創造」では、①観光の本質
は、地域振興のきっかけであり、地域のファン
づくりを行い、観光を梃子に地域振興を行って
いくこと、②観光の目的が変容していること、
③地域資源の再評価・見つめ直しが重要である
こと、④消費者ニーズに対応した新たな商品の
開発が必要となること、⑤そのための受入体制
整備が必要であること、及び⑥地域ファンづく
りに向け情報提供を「事前」「現地(事中)」「事
ｚｚｚｚｚｚｚｚｚｚｚｚｚｚｚｚｚ
市町村単独
(行政界の制約)
広域連携
(消費者目線)
呼び込む情報
・市町村内に限定した
情報提供（周遊）
観光資源
(自然景観･観光施設)
・物見遊山型
テーマ型（非従来型資源)
・ニューツーリズム
（体験･非日常経験）
事前・現地(事中)・事後
情報の提供
（消費者の欲しい情報)
従来型観光e‐地域資源活用事業
の目指した観光
6
後」の三段階に分け提供していくことの必要性
などを提案している。
図表9 「地域旅で地域力創造」の章構成 序章 地域力創造（椎川忍）
第 1 章 地域が立つ観光とは（佐藤喜子光）
第 2 章 地域のファンをつくる地域旅（大方優子/齋藤明子）
第 3 章 地域とファンをつなぐ ICT（岩城博之）
第 4 章 先進的な取り組み事例
1 各地の個性とその背景を活かした特色あるツーリズムを育て
る自治体（山口県/吉井明生）
2 市民が創った観光ビジョンに基づいて観光施策を推進する自
治体（福井市/中川伸一）
3 行政の枠を超えて“新しい出雲・伯耆の国”を演出する情報
発信センター（NPO 法人大山中海観光推進機構/石村隆男）
4 物見遊山の観光地からニューツーリズムのメッカへ転身を図
る司令塔（社団法人天草観光協会/岩見龍二郎）
5 グランドデザイン“スローな阿蘇”を実現していくプロモーター
（財団法人阿蘇地域振興デザインセンター/坂元英俊）
6 埋没している地域資源を商品化するランドオペレーター（御所
浦アイランドツーリズム推進協議会/吉岡慎一）
資料出所：「地域旅で地域力創造」、（）内は団体名/執筆
担当者、団体名は発行時点のもの
4.まとめ
ここでは、主として「地域旅で地域力創造」
の本質を紹介しながら、これからの観光による
地方創生を進めていく上で重要となる点を「ま
とめ」として整理していきたい。
4-1.地方創生の入口として出口を考える
（観光は入口に過ぎない）
「地域旅で地域力創造」では、見るだけの観
光では国は立たないとしている。これは、当然
である。地域に来てもらって、そこでモノある
いはコトを消費してもらってはじめて観光が、
地域を支えていくものとなるのである。当然、
来てもらわなくてははじまらないが、「観光」は
入口で、そこから以下に地域の生業（なりわい）
や暮らしぶりを伝えて、それを域内消費につな
げられるかが勝負である。
（観光は地域のショールーム）
そのために「観光」を「地域のショールーム」
として考え、来訪者に対して行政と産業と住民
が一体となって地域社会の持ち味、らしさ、気
質生活文化などを活かした「地域社会そのもの
の商品化」と「その情報の発信と流通」を行い、
「来訪者に地域の魅力を体験してもらって地域
のファンになってもらうこと」が重要である。
「地域旅で地域力創造」では、こうした地域
の地域のファンづくりのための新しいツーリズ
ムを「地域旅」として提唱している。地域旅で
は、「地域らしさ」を見せて、「地域の食」を味
わってもらい、五感を使って「地域の生活文化」
を体験してもらって、“自分たちの地域のファン”
になってもらうものである。その上で、帰って
からも、消費者の経験価値に刷り込まれている
「地域での感動、満足感や御贔屓意識」から、
その地域の地場産品を継続的に買ってもらう流
れを効果的かつ循環拡大的に作り出していく仕
掛けである。
図表10 地域旅を梃子にした地域力の創造
資料出所：「地域旅で地域力創造」を基に一部、編集して
作成
（出口としてのふるさと納税、越境 EC の可能性）
現実に、国内ではふるさと納税の選択の際に、
こうした訪問した先での交流などがあれば、選
択候補の絞り込みには寄与するはずである。ま
た、海外においても、越境 EC 市場が本格化して
いくなかで、訪問した先の思い出と共に購買に
つながる動きが出ていく可能性もでてきた。
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（コンテンツづくりが重要）
観光振興による地方創生を行うためには、観
光産業という狭い範囲で捉えるのではなく、地
域全体で、地域の魅力を発信し、その上で、地
域が何を提供していくのかということの提供に
力をかけていくべきである。先進事例で示した
阿蘇地域振興デザインセンターの取組にみられ
るような人をベースとした様々な観光コンテン
ツづくりが重要である。
4-2.消費者の目線で売れるコンテンツを探し、
研き上げる
（非日常体験から異日常体験へ）
地域（集落）に行くと「ここには、何もない」
とよく聞く。いい意味で謙遜している表現かも
しれないが、実は、地域にいるからこそ、「内の
目」でみているからこそ、気づいていないこと
がよくある。
これまでの観光は、雄大な風景、自然、自治
上では経験したことのないもの、言い換えれば
「非日常の空間・体験」のフィールドを観光資
源として多く扱ってきた。
逆に地域の人の生活・暮らしの空間や習慣、
地域の風土、地域の生業などの「日常空間・体
験」については、資源として捉えてはいなかっ
た。ところが、地域外（外部の目）からみれば、
普段の日常とはちょっと異なった「異日常の生
活・体験」の珍しさにあふれたものであり、こ
うした異日常の生活・体験を地域の人と交流・
共有していく楽しみ・思い出による満足感が、
旅において大きな要素を占めるようになってき
ている。
国内の他の地域に行ってすら、産直で、近く
のスーパーでは並ばない野菜、魚を見たり、そ
の地域の風習による特別なものをみて驚くこと
が多い。
筆者の場合は、沖縄県糸満市米須地区の村あ
るきで見つけた民家の塀に着いた蓋が、気にな
り、理由を聞いて、納得した。この蓋は、電力
検針をする人のハブ対策のためのものだという
ことだ。検針のときに、休んでいるハブと出く
わし襲われることが多かったため、塀の外から
メータ検診ができるように、蓋をつけたのだそ
うだ。地元の人と交流していられなかった情報
で、いろいろな機会に吹聴している。ほんの小
さな出来事ではあるが、こうした異日常の経験
は、地元との交流の中で味わう楽しみなどが、
今後の旅においては求められるものではないか
と考える。現在、この糸満米須地区では、「村ま
るごと博物館」と称して、地区全体のまちある
き体験などを多様な世代が参画して実施してい
る。
図表11 米須地区村まるごと博物館(沖縄で感じた異日常）
資料出所：e-地域資源活用事業報告書より一部編集
（外の目の活用）
外国人が「外の目」で見つけた例であれば、
オーストラリア人のスキー客が、ニセコのパウ
ダースノーに目をつけたこと、アレックス・カ
ーが徳島県祖谷地区の古民家に目をつけたこと
などが該当する。また、最近では、富士山と五
重塔、桜が一枚の写真におさまるスポットとし
て、富士吉田市の「富士浅間神社」がタイ人に
人気のスポットとなったことも、「外の目」であ
る。富士吉田市の例は、SNS などでの情報拡散
が、発信に大きな役割を果たした点も重要であ
る。
当然、「外の目」には国内の地域外の人達も含
まれており、これから観光を考えていく上では
「外の目」の立場で、どういった風景、活動、
暮らしぶりなどに興味を得、それを、どういう
コトを通して体験させるコンテンツに研きあげ
8
ていくのかが重要である。
（行政の壁とは関係ない旅行者の目線）
もう一つ、観光客の目線という中では、観光
協会などの提供する観光マップの範囲である。
近年は、広域観光圏での取組が進んだことや、
スマホなどでの検索、まちあるきのための観光
地でのアプリなどが提供されていることで解消
はされているが、観光客にとっては、市町村境
界や県境は全く意味がなく、今、移動できる範
囲内で、今、体験できるコトなど行政界の壁を
超えた情報提供が重要である。大きな視点でみ
れば、旅行者の満足度につながり、日本、当地
へのリピートなどへの展開にもつながることで
あり、観光関係者には考えてもらいたい。
実際、飛騨高山観光圏の外国人向けウェブサ
イトでは、周辺中部圏まで含めた情報を検索、
入手できるような工夫が行われている。
4-3．ICT の活用（情報発信）
（事前・現地(事中)・事後の 3 つの情報提供）
「地域旅で地域力創造」では、観光行動をサ
ポートするための情報として、「観光のための事
前情報提供」と「観光をフォローする現地(事中)
情報」と「観光のための事後情報」の 3 段階に
分けてフォローアップしていく必要があるとし
た。このうちの一部は、スマホの普及や各種ア
プリの登場などで、フォローされつつある。こ
こでは、こうしたアプリなどを紹介しつつ、観
光に必要な ICT 活用と、そのポイントについて
整理したい。
（事前情報として活躍する SNS や各種アプリ）
事前情報とは、訪問前に「旅へ誘う」「旅のテ
ーマ決定」「旅行企画（旅程）の決定」「旅行準
備」のための情報提供であり、現在は、地域ご
との観光情報提供や宿泊や旅程の予約サイトな
ど、数多くの利用可能なものも登場している。
現在、法律による日数制限などが話題となっ
ているエアビーアンドビー7などの民泊提供者
と利用者のマッチングサイトや、レジャー・遊
び・体験の予約サイトのアソビュー8などは、今
後、旅のコンテンツを検討する上で、活用可能
であろう。また、キッチハイク9というサイトは、
食べる人と食べたい人を結びつけるというコン
セプトで作られており、まさに地域の人と旅人
が食事を一緒にする体験を通して思い出づくり
ができるものであり、地域においての料理提供
者などの増加などに期待したい。
（現地(事中)情報として活躍する各種アプリ）
現地(事中)情報は、まさに旅行をしていると
きのヘルプ情報を提供してくれる専用のヘルプ
デスク機能と、1 人で歩いていては気づかない
情報などを提供してくれるガイド機能を提供し
てくれるものを想定していた。
こうした情報は、車のナビゲーション機能と
しては、あったが、現在はスマホの普及やまち
あるきアプリなどが存在しており、多くの観光
地において実用化されている。また多言語化対
応についても、進められつつある。
ただ地元の人やお店の人が教えてくれた、地
元の人ならではのとっておきの情報、旬の情報
を得ることの喜びに勝るものはない。旅行中の
情報提供については、ICT での提供に加えた地
元のもてなし力の充実に力を入れる方が重要と
考える。
ただし、ICT でなくてはできないこともある。
それは、例えば、CG（コンピュータグラフィッ
クス）と AR（拡張現実）を使って、何もなくな
った廃墟に往時の面影を再現してみせることや、
訪問時期とは違った季節の風景を重ねあわせて
みることなどにより時間と空間を超えた体験を
味あわせることである。こうした工夫について
は、地域として検討してみてはどうだろうか。
前述の e-地域資源活用事業では奈良県の飛鳥
地方で、そうした取組を実施したことがある。
（発展途上の事後情報提供）
事後情報は、旅行の思い出作りとその拡散及
び、次なる旅行（リピート）への誘い、地域で
9
経験したコトや食べたものなどの販促などを行
っていくための情報提供である。
現在では、思い出づくりと、その拡散につい
ては、SNS の普及などで多く行われるようにな
っている。現実に、前述の富士吉田市にみるよ
うな形で、投稿された写真などで観光客が急増
する地域が増えている。
また、旅への誘いという点でも、検索連動型
広告などの活用は行われているが、観光地自ら
が、能動的に行っている状況は、まだ本格化し
ていない。
高山市が無料 Wi-Fi の利用者からメールアド
レスを取得、許諾を得た上で、帰国後の訪問者
などにアンケートや各種案内などを行っている
程度にとどまっている。
事後情報を活用した地域のファンづくりから
の地域のプロモーションによるふるさと納税へ
の展開や越境 EC に向けた積極的な取り組みに
ついては、今後の課題となっている状況と考え
る。
4-4．地域における受入態勢
（多様な主体の巻き込み）
観光は地域のショールームとしているように、
観光産業に関わる人達だけでは、地域全体の「ら
しさ」や「雰囲気」を伝えていくには限界があ
る。また、繰り返しになるが、観光者にとって
は、市町村境界も観光協会の会員か非会員かと
いった区別は関係がない。訪問地の周辺含め旅
行期間中を満足させるために必要なものやコ
ト・情報を求めているのである。そのためにも、
地域間・地域内の多様な主体が参画して地域全
体で観光振興を検討していく必要がある。
（司令塔と戦略の必要性）
地域によっては、関係者の巻き込みこそが最
も難しいことかもしれないが、そのためにも強
力な司令塔が必要である。また、地域の強み・
弱みをしっかりと見極めて戦略を立てた地域経
営視点での観光振興が必要となる。
幸い、前述のように観光客の行動に関してど
ういった属性（国籍、性別・年齢）の人達が滞
在・日帰りしているのといったデータが活用で
きるようになってきた。こうしたデータを活用
した戦略策定及び事業実施の検証が必要である。
特にターゲットの設定については、「誰にとっ
てもいいところ」は、最終的には特徴がなく「ど
うでもいいところ」ともなりかねないため、地
域の持つ DNA・地域資源・最終のゴールとなる
地方創生を見定め、ターゲットを明確に決めて
いくことが必要である。
（地域の「もてなし力」向上）
ここでいう「もてなし力：は、広い意味での
訪問者への寛容性といったいわゆる「おもてな
し」の心と同時に、地域において体験型コンテ
ンツを提供するいわゆる地域のファンづくりの
最前線で活躍する人材の「もてなし力」の向上
でもある。
地域を感じさせるコンテンツの提供者は、自
身が、自らの専門能力を活用していることは当
然であるが、それぞれが、地域のナビゲーター、
エンターテイナーであることも求められる。体
験者に、もう一度、やってみたくなる、あるい
は誰かに紹介したくなるように思わせるための
「もてなし力」向上である。前述の阿蘇カルデ
ラツーリズムでは、まさにこうした点に着目し
体験コンテンツの整備を進めている。こうした
地域全体での観光振興に向けた取り組みが地域
のファンづくり、地域振興につながっていくた
めに必要であると考える。
みずほ総合研究所 社会・公共アドバイザリー部
上席主任研究員 岩城 博之
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1 「e-地域資源活用事業」：弊社は、平成 20 年度、21 年度、22 年度の 3 か年にわたり本事業の支援をふるさと財団より
受託している。本事業の概要及び各年度の報告書については、下記参照。
事業概要：http://www.furusato-zaidan.or.jp/chiiki/pdf5/1263521580914.pdf
平成 20 年度：http://www.furusato-zaidan.or.jp/chiiki/pdf5/1243236562267.pdf
平成 21 年度：http://www.furusato-zaidan.or.jp/chiiki/pdf5/1275872511993.pdf
平成 22 年度：http://www.furusato-zaidan.or.jp/chiiki/pdf5/1321407102406.pdf 2 「e-地域連携推進事業」：弊社は、平成 23 年度・24 年度の 2 か年にわたり本事業の支援をふるさと財団より受託してい
る。本事業の概要及び各年度の報告書については、下記参照
事業概要(平成 23 年度)：http://www.furusato-zaidan.or.jp/chiiki/pdf5/1301630122767.pdf
平成 23 年度：http://www.furusato-zaidan.or.jp/chiiki/pdf5/6-H23-e-chiikirenkei-houkokusho.pdf
平成 24 年度：http://www.furusato-zaidan.or.jp/chiiki/pdf5/H24-echiiki-houkokusyo-yukawamura.pdf 3 ふるさとユビキタス：http://furusato-info.jp/。なお、現在は契約期間満了につき、メンテナンスは行われていないものの、
データについてはユビキタスネットワーキング研究所のご厚意により、データの検索・閲覧は可能。また、リンクなどが
削除されているものや、OS などの違いから最新のスマートフォンなどで閲覧できない場合もあることなど、ご留意いた
だきたい。なお、事業を実施した地方自治体は、データ更新などを行うことは可能である。 4 地域旅で地域力創造－観光振興と IT 活用のポイント－」、佐藤喜子光・椎川忍編著、学芸出版社、2011 年。著者は、
同書、「第 3 章 地域とファンをつなぐ ICT」を担当執筆。 5 佐藤喜子光：NPO 法人地域力創造研究所理事長。近畿日本ツーリスト㈱、立教大学大学院観光学研究科教授などを
経て現職。地域力創造アドバイザー。 6 椎川忍：地域活性化センター理事長。前自治財政局長（元地域力創造審議官(初代)）。地域に飛び出す公務員ネットワ
ーク代表ほか。 7 Airbnb(エアビーアンドビー)：空き部屋を提供したい人と宿泊したい人をマッチングするサイト：
https://www.airbnb.jp/about/about-us 8 asoview(アソビュー):レジャー･遊び･体験の予約サイト：http://www.asoview.com/ 9 Kitch Hike(キッチハイク)：料理をつくる人と食べる人をつなぐマッチングサイト：https://ja.kitchhike.com/
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言やコンサルティング等を目的とするものではありません。また、本資料は、当社が信頼
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