豪州及び日本のインフラ分野における ppp プロジェクト ~民...

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1 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 豪州及び日本のインフラ分野における PPP プロジェクト ~民間部門参入の促進に向けて~ 2010 8 日本貿易振興機構(ジェトロ) 海外調査部 アジア大洋州課

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豪州及び日本のインフラ分野における PPP プロジェクト

~民間部門参入の促進に向けて~

2010 年 8 月

日本貿易振興機構(ジェトロ)

海外調査部 アジア大洋州課

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目次

序論 ................................................................................................................................................. 4

要旨 ................................................................................................................................................. 5

グローバルな PPP の概要 ................................................................................................................. 6

オーストラリアにおける PPP 市場の概要 ........................................................................................ 10

オーストラリアの PPP 市場分析 ..................................................................................................... 11

日本の PFI 市場の概要 ................................................................................................................... 21

日本の PFI 市場分析 ....................................................................................................................... 22

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略語・用語解説

¥ 日本円 ※本報告書におけるオーストラリア・ドルとの換算レートは,1A$=

82.3 円と仮定

A$ オーストラリア・ドル ※本報告書における日本円との換算レートは,1A$=

82.3 円と仮定

AJBCC Australian-Japan Business Co-Operation Committee(豪日経済委員会)

BOO Build-Own-Operate

BOT Build -Operate -Transfer

BTO Build-Transfer-Operate

Cabinet Office 内閣府(日本)

COAG Council of Australian Governments(豪政府評議会)

オーストラリアの政府間会議。連邦首相,州政府等の長,地方自治体連合の会

長で構成される。

Cth Commonwealth of Australia(オーストラリア連邦政府)

DBFO Design Build Finance Operate

DBO Design Build Operate

EOI Expression of Interest(関心表明)

EPA Economic Partnership Agreement(経済連携協定)

FM Facility Management(施設運営)

GFC Global Financial Crisis(世界金融危機)

IA Infrastructure Australia(豪州インフラ委員会)

JETRO Japan External Trade Organization(日本貿易振興機構;ジェトロ)

JREIT Japanese Real Estate Investment Trust

MLIT Ministry of Land Infrastructure and Transport(国土交通省)

NSW New South Wales(ニューサウスウェールズ州)

PFI Private Finance Initiative

PPA Laws Public Property Administration Laws(公物管理法)

PPP Public Private Partnership(官民パートナーシップ)

RFP Request for Proposals(提案依頼書)

RO Rehabilitate Operate

RTO Rehabilitate Transfer Operate

SPC Special Purpose Company(特別目的会社)

SPV Special Purpose Vehicle(特別目的事業体)

Superannuation

fund

Australian equivalent to a “Pension fund” (オーストラリア年金基金)

VfM Value for Money(バリュー・フォー・マネー)

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序論

日本貿易振興機構(ジェトロ)は,オーストラリアと日本の両国間におけるインフラ分野

での双方向のビジネス促進, また, 第三国での日豪協力を日豪経済委員会(日本側),

及び豪日経済委員会(豪州側)とともに推進している。特に, オーストラリアの PPP

(Public Private Partnership~官民連携~)は世界的にも先進的なものであることから,

この度,ジェトロはアーンスト アンド ヤング監査法人に依頼し,オーストラリアと日

本の PPP と PFI(Private Finance Initiative)市場における外資系企業の事業機会と参

入障壁に係る調査報告書を作成した。

報告書の構成

1)要旨

2)グローバルな PPP の概要

3)オーストラリアにおける PPP 市場の概要

4)オーストラリアの PPP 市場分析

5)日本の PFI 市場の概要

6)日本の PFI 市場分析

PPP/PFI

日本とオーストラリアでは,官民連携に関連して,語法に差異がみられる。本報告書においては,各市

場の進展度に応じて,日本の状況においては「PFI」,オーストラリアの状況においては「PPP」とい

う語句をそれぞれ用いている。

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1要旨

インフラの必要性と民間事業の役割

世界各国でインフラ投資は政府の優先課題となっている。品質の高い社会・経済インフラへの需要は,

政府の財源を遥かに上回る事が予想される。政府はいかにしてこの財源ギャップを克服し,国民が要求

する質の高い投資を呼び込めるか,そして民間投資を増やしていけるのかという問題意識は,官民パー

トナーシップ(Public Private Partnership)を発達させていく上での重要な課題となっている。この

理由から PPP は,日本とオーストラリアの公的機関において,調達方法として広がりつつある。

現在のオーストラリアと日本の PPP 活動

今日,オーストラリアと日本は,比較的活発な PPP 市場である。インフラ需要が増えており,PPP 市

場は将来大きな成長が見込まれる。

しかしながら,それぞれの国の PPP 市場における発展アプローチは異なり,その結果,それぞれの

PPP 市場への参入機会には大きな違いが生じている。

オーストラリアにおける PPP の利用は導入初期の 1980 年代から相当な進化を遂げており,経済イン

フラ(道路,鉄道,空港等)と社会インフラ(学校,病院,刑務所等)など,広範囲にわたる事業分野

で,インフラサービスの提供に利用されている。一方,日本の PFI モデルは政府建築物,学校,病院,

リクリエーション施設などに限られており,現行法が道路,鉄道,空港などのある特定の事業分野への

大幅な権限を有した PFI の利用を制限している。

導入方法も全く異なる。オーストラリアでは民間事業者が一般に,25 年~30 年にわたるインフラ施設

の設計,建設,ファイナンス,オペレーション(DBFO- Design Build Finance Operate)への責任を

負う。日本の PFI プロジェクトでは BTO(Build Transfer Operate:建設・譲渡・運営)モデルが一

般的に利用され,そこでは,民間事業者の役割は建設とファイナンスが主となる。また,インフラ資産

は建設完了時に,オペレーションを行う政府に移管されている。従って,民間事業者は,建設・ファイ

ナンスからオペレーション・サービスの提供まで,一貫したプロジェクト・ライフ全体におけるアレン

ジ能力を保持していない場合が多くなる。

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2グローバルな PPP の概要

世界経済の成長と人口増加により,インフラ事業への資本投資の必要性がますます高まっている。オー

ストラリアと日本の両政府もこれらの課題に直面しており,諸外国と同様にインフラの開発・改善に必

要な資本,及びそれに対応すべき政府の財源とのギャップの拡大に直面している。この財源ギャップを

克服するために,今後のインフラ整備は,できるだけ効率的でコスト効果の高い方法が必要とされる。

官民パートナーシップとは何か (Public Private Partnership :“PPP”)?

PPPとは「公的機関と民間事業者がパートナーとなり,協力して公共インフラやサービスを提供する」

というコンセプトで,政府調達モデルの一つである。典型的なPPPでは,通常は民間部門により融資を

受けて運営される独立した事業体の設立を伴う。その目的は,資産を構築し,顧客にサービスを提供す

ることで,その見返りとして提供されたサービス相応の報酬を得ることにある。

成功したPPPプログラムの主要な特徴として,以下の点が挙げられる。

► 建築及びデリバリーに伴うリスクについて,効果的な管理を要する主要な資本投資プログラムがあ

る。

► 民間部門が専門的技術を有するため,バリュー・フォー・マネー(VfM, Value for Money:支払

いに対して最も価値の高いサービスを供給すること)の視点に適ったサービスを提供出来る。

► ①公的機関がニーズを把握し,サービスのアウトプットを評価できる。②契約を結ぶことで,長期

にわたる公共サービスを効果的に提供できる,かつ平等で責任を持って実施される。③公的機関と

民間部門との間でリスクを明確にし,法律上の拘束力を持たせることでリスク分担させる。

► プロジェクトの一部として認識された資産やサービスのコスト計算を“ホール・オブ・ライフ”

(Whole-of-life~契約期間を通した)ベースで行うことができる。

► プロジェクト費用が相当な額となり,調達コストと不釣合ではない。

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PPP のメリットは何か?

国際的に,PPPプロジェクトには多数のメリットがあるとされる。

バリュー・フォー・マネーの立証

PPPプロジェクトは,伝統的な方法で行われる資産調達と比較し,より「バリュー・フォー・マネー」

の視点に適ったサービスを提供する事が可能となる。

► 設計,建設,運営プロセスを組み合わせることでシナジー効果を発する。 民間部門の融資を利用

する事で追加的な財務コストが発生する可能性もあるが,これは多くの場合は設計,建設及び運営

を組合わせることで得られるシナジー効果と相殺される。このシナジー効果は,運営コストの削減,

サービス向上,そして民間部門へのリスク移転などが挙げられる。

インフラの強化

水,排水,エネルギー供給,電気通信,輸送などの基礎的事業の品質や規模も,PPPから生み出される

イノベーション効果や効率性の追求によって向上させることができる。病院,学校,公務員住宅,不動

産,刑務所などの公共サービスにも適用できる。

効率的・効果的な施設の提供

民間事業者は通常,施設が利用可能になるまで支払いを受け取ることができないため,PPPによる契約

体系は,建設や調達手法において当該施設が効率的に完成されるほか,欠陥によるリスクを未然に防ぐ

ことが可能となる。民間事業者と公的機関は,引受能力制約やバックオーダーなどの問題を協力して解

決していく必要がある。

イノベーションとベスト・プラクティス の実現

民間事業が培ったノウハウと経験は,コスト削減と納期短縮を推進し,その結果,設計,建設,施設運

営プロセスが改善する。改善された当該プロセスを将来のプロジェクトに適用することにより,公共事

業においてもベスト・プラクティスを実現していくことが可能となる。

資産・サービスの標準化

契約期間中,資産とサービスは一定の基準を維持できる。公的機関は,出来上がったものが決められた

スペックを満たした時点でサービスの対価を払う。公的機関からの資金に依存する従来型の調達方法と

は対照的な方法となっている。

柔軟性

PPPは様々な種類のインフラ需要にも対応できるような柔軟性があり,またPPPの原則は様々な状況で

も適用可能となっている。

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PPP を成功させる必要条件はどういうものか?

PPP事業のベストプラクティスを検証した結果,主要なポイントは下記の通り。

政治的なコミットメント

民間部門にとって国の政策は重要であり,PPPがビジネス機会を生み出す魅力的な事業として理解され

ない限り,入札に必要な資源は積極的に投入されない。

法制度の対応

PPPプロジェクトは,国の法律システムに基づいたサポートが必要となる。例えば次のようなものが含

まれる。

► PPP に対応できる既存のコンセッション法。

► PPP が不利になるような税法上の措置の排除。

► PPP に対応した公共支出管理の改善

専門性

公共と民間の両部門が,PPPを実施するに当たり必要とされる専門性を持つことが求められる。例えば,

調達元の公的機関は,個々の契約を交渉できる能力が求められ,金融,法務,技術専門家にアクセス出

来ることが必要とされる。

プロジェクト優先度

政府はPPPプロセスにおいて,優先度の高い事業分野を識別出来ることが求められる。調達を開始する

前に事業の商業的実現性を検証することにより,民間部門は安心して入札できる。また,調達不能とな

るケースを減らし,結果的に発生する入札コストを防ぐことができる。

契約のフローと標準化

リスクモデルを使用した,一定の予測可能な契約のフローは,PPPプログラムの成功を支援する。契約

ストラクチャーに関するガイドラインもコストを抑える要因となる。

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公共機関にとってバリュー・フォー・マネー(VfM)の重要な要素とは何か?

PPPの利点は公共・民間の両部門に及ぶ。公的機関のプロジェクトマネージャーからの回答によると

PPPは下記の点で評価されている。

► リスクの移転: 設計,建設,運営,ファイナンスを含むリスクを民間部門に移転できる。

► 成果ベースでの仕様:測定可能なプロジェクト成果を基準とした報酬体系を使用することにより,

高い品質の確保と納期の短縮が可能となる。これは,従来の公共調達アプローチの手法とは対照的

である。

► 長期契約:PPP プロジェクトの長期に渡る契約期間は,初期投資のコストを回収できる。

► 競争:価格ベースでの競争の結果,価格の適正さを維持しやすくなる。

PPP スキームを確立させるための課題とは?

PPPスキームを確立させるためには,先ずはPPPプログラムを可能とさせる条件を満たすことが必要で

ある。幾つかの国ではPPPが発展したのに対して,他の国では,法制や文化的な違い,地方分権化の進

展度合いなどの基本的な構造問題が,PPPを発展させる上での課題となっている。

法的,文化的な違い

例えば日本では,契約書の取り扱いなど,PPP法制を導入するに当たっての課題が幾つかみられる。

また,「競争原理」や「評価方法」といった新たな概念に慣れることなど,従来の調達とは異なる,

PPP特有の文化的差異を経験する必要がある。

コンセッション法や法制の改正

十分なコンセッション法を導入する必要がある。例えばイタリアでは,法制や組織的フレームワークが

確立されるまでは,貸手はプロジェクトにコミットしなかった。法制や組織的フレームワークの重要な

要素として,財務省内のタスク・フォース(具体的な特定の目的のために一時的に編成される部局や組

織のこと)の設置とコンセッション法の導入が指摘されている。

ストラクチャー上の課題

法制度による問題とは別に,特に発展途上国や新興諸国におけるPPPの発展に関して,改革を導入する

上での政治上の問題や,国内資本市場の未開発などの制約条件が挙げられる。

国際的背景

PPP はイギリスを発祥地とするが,ほどなく他国も追随し,現在では公共サービスを提供する方法と

して世界中の多くの国で利用されている。各国において独自の PPP 政策が確立され,自らの経験から

学び(肯定的,否定的なものの両方),独自の構造やアプローチの定型化によってコスト削減が図られて

いる。PPP は入札コストが多大にかかることから民間部門の参加意欲を減退させ,競争を減尐させる

と批判されている。さらに,多くの民間部門の参加やアクセスを提供できる市場機会を創出するために,

公的機関はこのような障壁を取り除くべきだと考えられる。各国政府は,これらの問題に対応し,入札

コストを削減して競争を促進するために,定型化やより良い調達方法に関する公的機関の教育を実施し

ている。

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3オーストラリアにおける PPP 市場の概要

オーストラリアにおける PPP の利用は導入初期の 1980 年代から相当な進化を遂げており,経済イン

フラ(道路,鉄道,空港等)と社会インフラ(学校,病院,刑務所)の広範囲にわたる事業分野におい

て,インフラサービスの提供に利用されている。オーストラリア市場は,政府調達のプロセスが透明且

つ明瞭であるとの定評を受けている。また,民間部門が提供するサービスも幅広く,より多くのリスク

移転を可能とする。

オーストラリアにおける PPP の広範囲にわたる利用は,連邦政府に設置された豪州インフラ委員会

(Infrastructure Australia)が導入した「国家官民連携政策および指針(National PPP Policy and

Guidelines )」により促進されている。これは,州及び自治区レベルでも,各々の PPP 政策および指

針を有するインフラストラクチャー部門,州の PPP インフラ・プロジェクトのデリバリーを監督する

独自の PPP 専門部隊の設置によりサポートされている。

オーストラリアにおける PPP 市場の発展の特徴は以下を含む:

► 法律上,広範囲のインフラ事業において民間事業者の公共施設の所有と管理運営が認められている。

► インフラストラクチャー事業において,調達方針が明確かつ簡素に示されている。

► インフラストラクチャー事業を担当する連邦大臣が存在し,豪州インフラ委員会(Infrastructure

Australia)という団体が中心になって国内のインフラストラクチャー事業の方針を設定し管理す

る。

► 各州の PPP 担当の官庁とインフラストラクチャー大臣は,調達方法やガイドラインを十分に理解

しており,各州間,連邦政府との協調的かつ協力的なネットワークが整っている。

► 国内外の金融機関,建設会社,施設管理業者,機関投資家の参加が浸透している。

► 会計制度や税務制度が十分に理解され,公共事業投資が長期にわたって促進されるように整備され

ている。

州政府や連邦政府は,今後 10 年間で,7,500 億豪ドルを投資して,学校,病院から情報通信,鉄道

網,空港などの施設に投資する計画があると示唆している。今後のインフラストラクチャー整備に必要

な投資は,政府だけで全ての資本を調達することは不可能であり,民間企業の役割が重要になっている。

全ての事業が PPP によって行われるのではなくとも,仮にインフラ投資の全体の 15%だけを PPP で

賄う場合には 1,120 億豪ドルの投資が必要となり,国内市場の参加者だけで,資本から人的資源まで

負担することは不可能である。従って,オーストラリアにおける PPP 市場でインフラストラクチャー

事業を行うには,今後資本調達,建設,事業運営の全ての分野で,外国からの民間事業者の積極的な参

加に頼るしかない。そのような状況で,オーストラリアの PPP 市場は常に変化し続け,都市鉄道網や

再生利用エネルギーといったような新規市場で,今まで以上に特別な技術の導入が必要とされる。

インフラストラクチャー事業に対して,国内外の民間事業者の参加を今後とも促すためには,下記の点

を改善する必要がある。

► 新規参入者が入札で競争していくために,簡単で,早い時期での事業要項が入手できるようになる。

► 新規参入者が,インフラストラクチャー事業に入札する上で,コンソーシアムを作ることを可能と

する。

► 新規参入者がインフラストラクチャー事業の規模,必要な資金投資の額を十分に理解して,投資ア

プローチを判断できるように,広範囲の事業分野にわたった将来の主要プロジェクト機会を与える

ようなデータベースを構築する。

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4オーストラリアの PPP 市場分析

4.1 概要

オーストラリアにおける PPP の利用は導入初期の 1980 年代から相当な進化を遂げており,経済イン

フラ(道路,鉄道,空港等)に関しては民間部門が全ての市場リスクを負担する形式で,社会インフラ

(学校,病院,刑務所)に関しては,主にサービス提供および施設の提供に対する報酬支払のベースで

利用されている。

民間部門の提供するサービスも幅広く,この結果,プロジェクトの実施をプロジェクト・ライフ全般の

観点から行うことにより,多くのリスク移転を可能とし,PPP モデルが今までの政府調達方法と比較

してバリュー・フォア・マネーに沿った成果を提供できる結果となっている。

オーストラリアにおける PPP の広範囲にわたる利用は,連邦政府に設置された豪州インフラ委員会

(Infrastructure Australia)の努力で導入された「国家官民連携政策および指針(National PPP

Policy and Guidelines )」により促進されている。インフラストラクチャー整備は,オーストラリア

のどの政府にとっても優先課題である。自治体,州政府や連邦政府は,今後 10 年間で,7,500 億豪

ドルを投資して,学校,病院から情報通信,鉄道網,空港などの施設に投資す計画があると示唆した。

今後のインフラストラクチャー整備に必要な投資は,政府だけでは全ての資本を調達することは不可能

であり,民間企業の役割が重要になってくる。すべての事業が PPP によって行われるのでないとして

も,仮にインフラ投資の全体の 15%だけを PPP で賄うとすると,1,120 億ドルの投資が必要となり,

国内市場の参加者だけでは,資本から人的資源まで負担することは不可能である。

従って,オーストラリアの PPP 市場でインフラストラクチャー事業を行うには,今後資本調達,建設,

事業運営といった全てのプロジェクト・ライフの分野で,外国からの民間事業者の積極的な参加に頼る

しかない。そのような状況で,オーストラリアの PPP 市場は常に変化し続け,都市鉄道網や再生利用

エネルギーといったような新規市場で,今まで以上に特別な技術の導入が必要になり,市場が変化して

いくことになると予想される。

4.2 法律,政策と手続き

オーストラリアでは 1980 年代のシドニー・ハーバー・トンネル計画などのプロジェクトを先駆けとし

て,20 年以上前からインフラ整備に民間部門が活用されてきた。1990 年代を通じて法律は度々改正さ

れ,それによって PPP は発展し,規定面の大枠は主にビクトリア州の パートナーシップ・ビクトリア

(Partnerships Victoria) によって設定された。

1990 年代以前の法的枠組みでは,政府が PPP モデルをインフラサービス全般にわたって利用すること

を支援していなかった。むしろ特定の法律の制約から,インフラサービスの提供に民間が関与すること

が妨げられていた。

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図表1 オーストラリアにおける PPP 市場の発展

規制緩和と民営化の拡大をめざす動きを受けて,オーストラリアでは 1990 年代を通して数多くの法律

が制定され,民間部門の参入機会が拡大した。具体的には,空港法(Airports Act 1996),道路交通法

(Roads Act 1993 ),国家鉄道会社法(National Rail Corporation Act 1992),電気通信法

(Telecommunications Act 1997 ) などが制定された。

こうした法律の制定により,所有権,リース条件,政府に対するサービス提供の自由度が,従来よりも

格段に高まり,民間部門の公共インフラへの関与が促進された。

ビクトリア州が 2000 年に パートナーシプ・ビクトリア(Partnerships Victoria) 政策の枠組みを導

入し,それによって PPP 市場が包括的に形成され始めた。 同政策は公共インフラおよび関連した付随

サービスを PPP 方式で提供する政府全体の枠組みの整備を目指した。

アレン・コンサルティング・グループ(Allen Consulting Group)の報告書(「PPP の成果とオースト

ラリアにおける従来の調達形態」2007 年発表)が取り上げたように,効率性をもたらす PPP の価値が

理解されるのに伴い,こうした方針が他の州にも採用されるようになってきた。PPP には次のような

長所がある。

► 契約の締結段階から最終的な完成まで,コスト効率が高いことが実証されている 。

► PPP は従来式の調達と比べ予算が超過する程度が著しく低い(統計的にはほぼゼロ) 。

► PPP ではプロジェクトの進行において厳しいリスク分析が行われる 。

► 管理,建設,及び継続的なサービスを結合することで経済的効果が期待できる。

► 民間部門の技術革新と効率的な資産活用術を最大限利用できる 。

こうして PPP の価値が認識され,PPP 政策や枠組みはオーストラリアのほぼすべての州と準州に導入

され,最終的に豪政府協議会 (COAG) が 2008 年に 豪州インフラ委員会(Infrastructure Australia)

の設立に同意した。

オーストラリアの連邦市場は,連邦政府コーデイネ-ター・ジェネラル(Coordinator General 連邦統

括調整官~インフラ省事務次官が兼任)の調整のもと,インフラストラクチャー大臣によって統括され

ており,このモデルは現在,殆どの各州政府の所管でも導入されている。多くの州も,インフラストラ

クチャー大臣の管轄のもと,中央連絡窓口としての役割である各州コーディネーター・ジェネラル

(Coordinator General)に支えられ,インフラストラクチャーの政策,優先順位,規定などが管理さ

れている。

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4.3 連邦政府の政策措置とプロジェクト実施

4.3.1 豪州インフラ委員会(Infrastructure Australia)

豪州インフラ委員会(Infrastructure Australia )は独立した法定の諮問委員会であり,連邦,州,準

州,地方政府,投資家などに対し,国家的に重要なインフラ事業の優先順位,政策や規制の変更を通知

することがその主な職務である。同委員会は,連邦インフラ基金を国家的プロジェクトの優先順位にそ

って割り当てる責任がある。同委員会はプロジェクト選定に当たり,厳格な評価プロセスを行う。

4.3.1.1 「国家官民連携政策および指針」(National PPP Policy and Guidelines)

2008 年に豪政府協議会(COAG)は,「国家官民連携政策および指針」(National Public Private

Partnership Policy and Guidelines)を承認した。その結果,すべての連邦,州,準州の政府機関が同

政策及び指針を適用することとなり,各法域で従来適用されてきた政策や指針は廃止された。

さらに,同政策および指針 では次のように規定,すなわち「 インフラ提供に関する同指針の適用は各

法域が決定するものとする」,また「一部の領域では,独自の条件や原則を適用する」とすることで,

柔軟性を維持するとしている。同政策および指針が規定する手順とは異なる扱いが適切な場合は,まず

管轄 PPP 当局 (通常,財務または経理担当) の承認を得る必要がある。

PPP ガイドラインの導入により,各州政府はプロジェクトの資本支出が 5,000 万豪ドル(41 億円)を超

える場合は,従来の調達方法と PPP のバリュー・フォー・マネー(VFM)を比較しなければいけない

ことを義務付けられている。このプロセスは民間部門が下記 6 つの重要項目にわたり,VFM を実現で

きるか評価するものである。

► プロジェクトが十分な規模,長期的な期間を有するもの

► 複雑なリスク形態,及びリスク移転の機会

► プロジェクト・ライフにわたり一環したコスト査定

► 技術革新(アウトプット仕様を満たすための技術革新を問題提起できる環境にあるか)

► 資産用途(第三者の利用または効率的な設計によりコストを削減することができるか)

► 設計,建設,オペレーションの要求書を合わせること

4.3.2 各州レベルの政策設定とプロジェクトの実施

豪州インフラ委員会(Infrastructure Australia)の指針導入によって各地域の政策と指針は共通化さ

れた。 それでも各州では依然として,多くのプロジェクトが進展しており州独自の政策が残っている。

オーストラリアの PPP 市場の重要な特徴の一つとして,各州ベースで,特別な知識とスキルを持ち,

PPP を通してインフラ事業を調達するための管轄機関を設置している。多くの州では,民間事業の参

加を促すための PPP 省庁がある。

4.3.2.1 州単位でのインフラ優先事項

それぞれの州で,インフラ事業の優先順位が存在するため,PPP のスコープや規制の内容については,

各州のインフラストラクチャー計画を参照する必要がある。

一般に,州政府は,地域ニーズに焦点をあてて PPP 事業の計画を作成する。最近では,これは病院,

学校から水,道路,鉄道インフラまでに及んでいる。

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4.4 プロジェクトの種類と範囲

オーストラリアでは,多くの市場において PPP が発展してきた。プロジェクトの規模も広範囲にわた

り,5,000 万豪ドル(約 41 億円)の小規模社会インフラから,最大 40 億豪ドル(3,292 億円)の有料

道路などの大規模経済インフラにまでまたがっている。

この結果,オーストラリアは,経済,社会インフラといった広範囲にわたる公共サービスの提供が可能

となった。その様なインフラプロジェクトには,下記の分野がある。

► 資産,サービスの利用に従って政府の支払いが行われる政府のコアサービス,宿舎タイプのプロジ

ェクトからなる社会インフラプロジェクト

► 有料道路など民間事業者が利益享受と需要リスクをとる経済性あるプロジェクトを基盤とした経済

インフラプロジェクト

PPP モデルを使ったプロジェクトの多様化は,民間事業者が政府のサービス・ニーズを長期にわたっ

て満たし,バリュー・フォー・マネー(VfM)に適ったサービスを供給できる能力を持つことに対して,

公共部門が確信を持ち始めた結果として生じている。民間部門は新しい事業分野への参加に限らず,提

供するサービスの範囲も拡大させている。従来の政府の非中核サービス(クリーニング,ケータリング

等)に限らず,最近ではこれに臨床サービスなど政府のコアサービスまでをも含む総合的なサービスを

提供している。

4.5 PPP モデルの構造

オーストラリアでは,民間事業者が 25 年から 30 年にわたり,インフラ施設の設計から,建設,ファ

イナンス,オペレーション(DBFO)までの責任を負うモデルが一般的に採用されており,その結果,

民間事業者は,プロジェクト・ライフにわたり一貫したアプローチを取る必要がある。

プロジェクト・デリバリーの構造は通常 DBFO(Design Build Finance Operate)モデルにより遂行

されており,インフラストラクチャーやサービス調達に使われるスキームは,一般的には以下のような

形態をとる。

図表2 インフラストラクチャーやサービス調達に使われるスキーム

公的機関は,SPV(Special Purpose Vehicle; 特別目的事業体)と契約を交わし,SPV は施設の建築,

そしてその後のサービス提供(運営)を専門委託事業者から調達する。パフォーマンス・リスクはサービ

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スを提供している委託者,上記の場合は SPV の下請け業者に転嫁される。資本金は通常第三者投資家

により提供され,借入は SPV が委託機関から受取る支払を担保とする。

4.6 市場参加者

政府による PPP 調達プロセスの効率性の向上および予定されているプロジェクト数が増加しているこ

とで,オーストラリアの PPP 市場は国内・海外双方における民間部門事業者から高い注目を浴びてい

る。連邦政府と州政府が PPP に対して同様のアプローチを採るようになったため,民間部門は投資に

関わる判断を以前のように州ごとではなく,全国ベースで行う事が可能となった。

オーストラリアでは,広範囲にわたる各種サービスを提供する機会が PPP を通して民間部門に与えら

れるため,民間企業は複数の企業グループとしてコンソーシアムを結成し,入札を行う。オーストラリ

ア市場における民間部門の市場参加者は,競争力を維持するため,PPP 市場において必要とされる能

力を有するチームを結成し,さらに他の民間部門の請負事業者との間で戦略的アライアンスを結成する

ことで,これらの社内で培われた能力の増強を図っている。その結果,特定の事業分野に特化したチー

ムを結成する動きが,病院や道路などの分野でみられる。

典型的な入札コンソーシアムは,PPP プロジェクトに必要な以下の主要能力を政府に示す必要がある。

► 資金調達力。

► 必要なインフラの構築力。

► 要求された基準を満たすサービスの提供。

プロジェクト規模が多様化した結果,オーストラリアでは,二重構造の市場が発達した。規模が 10 億

豪ドル(約 823 億円)を超える大規模プロジェクトについては,国内市場だけで 2 つから 3 つ以上のコン

ソーシアムを結成することは不可能であり,その分競争が減退している。ただし,最近の大規模交通機

関プロジェクト,特にシドニー・メトロやゴールドコースト・高速鉄道(Rapid Transit)など海外の

運営経験が必要とされるプロジェクトに関しては入札コンソーシアムの数は 5 つから 6 つへと増加が

みられた。規模が 10 億ドル未満の小規模プロジェクトには,国内で 5 つから 6 つのコンソーシアムを

結成する十分なキャパシティーが存在する。

その結果,オーストラリアで結成される通常のコンソーシアムは以下のような構成になっている。

► エクイティ投資家 。

► PPP および実施プロジェクトの分野で実績のある建設会社 。

► 施設管理会社(ハード施設管理/ソフト施設管理)。

► 専門的技術や特別なテクノロジーへのアクセス権を有する技術パートナー。

アウトプットサービス仕様を適切に満たすためにコンソーシアムに求められるスキルは広範囲に及ぶ。

その概要は,最近のゴールドコーストの高速鉄道(Rapid Transit)の入札に参加したコンソーシアム

の一覧から読み取ることが可能(下表を参照)。

入札市場は広く一般に浸透しており,コンソーシアムは,各種の企業群や施設管理者,債券投資家,株

式投資家から構成されている。

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図表3 Gold Coast Rapid Transit Rail projectに登録したコンソーシアムの一覧 Consortium Consortium Members Role

gcSMaRTmove ► AnsaldoSTS

► SMRT International

► Thiess

► Mitsui

► Royal Bank of Canada

► Systems integration

► Transport operations

► Construction company

► Rolling stock provider/Supply Chain

► Finance

MoveGC ► Veolia Transport

► Alstom

► Leighton Contractors

► Macquarie

► Transport operations

► Rolling stock provider

► Construction company

► Finance

GC Connect ► MTR

► John Holland

► ITOCHU

► Royal Bank of Scotland

► Transport operations

► Construction company

► Systems integration

► Finance

GoldinQ ► Keolis

► DownerEDI

► Bombardier

► McConnell Dowell

► Plenary

► Transport operations

► Engineering

► Rolling stock provider

► Construction company

► Finance

KirraLink ► TransdevTSL

► Acciona

► CAF

► Mitsubishi

► Seymour Whyte

► Capella

► Transport operations

► Engineering

► Rolling stock provider

► Supply Chain/machinery provider

► Construction company

► Finance

SNCLavalin ► SNCLavalin

► BMD

► Thales

► Verkehrs

► Ernst and Young

► Engineering

► Construction company

► Security/computer systems

► Transport operations

► Finance

4.6.1.1 外国企業の関与

外国企業がオーストラリアのプロジェクトに入札する際,特に制約はない。

オーストラリア市場への諸外国からの参加者は活発で,それは,最近のゴールドコーストの高速鉄道プ

ロジェクト(Rapid transit)の際に形成されたコンソーシアム一覧からも分かかる。

今日までプロジェクトの大半は国内市場参加者により提供されていたが,現在では日本およびヨーロッ

パの事業者が市場に参加している。インフラプロジェクトの需要増加に伴い,海外からの参加は今後も

増加する事が見込まれる。ビクトリア州の淡水化施設に対しての伊藤忠商事の役割は,他の日系請負業

者にオーストラリアの PPP 市場がオープンであるという証左とも言えよう。

4.7 資金調達 大半のPPPは,政府機関がプロジェクトの顧客となるため,契約の相対リスクは大変低く,さらに,オ

ーストラリアにおける強靭な契約の枠組みやPPPプロジェクトをサポートする法律が整備されているた

め,国内・海外を問わず多くの金融機関から株式,社債等幅広い融資商品の対象として注目を浴びてい

る。

他の全ての金融市場と同様に,世界金融危機は,PPPプロジェクト資金の供給,価格設定,支払期間等

にプレッシャーを生じさせたが,取引は引き続き行われている。しかし,金融危機前のレベルにいつ復

帰するかは不明である。

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一般的にオーストラリアPPP市場のプロジェクト・ファイナンスの構造では,総プロジェクト費用の

75~90%がデット市場からの資金調達,10~25%はエクイティ投資で構成されている。 社会インフラ

プロジェクトは,経済インフラに比べてデットによる資金調達が大きい傾向がみられる。

4.7.1 エクイティ

歴史的にインフラストラクチャーは,オーストラリアで高く評価されており,請負業者から金融機関ま

で,幅広いエクイティ投資家による多額で多様な資金プールが存在していた。オーストラリア PPP 市

場には投資銀行,特殊投資家(Specialist investors),年金基金,請負業者などの投資家が一般的に出

資している。

4.7.2 借入金融による資金調達

上記のように,歴史的にオーストラリアの PPP 市場には国内・海外の銀行から高い関心を持たれてい

る。世界金融危機の前はプロジェクトへの融資の際には活発な競争がみられ,PPP プロジェクトのス

ポンサーは大変流動的な銀行市場の恩恵を享受できた。しかし,世界金融危機以降,借入金融は明らか

に減尐した。ただし,銀行の借入金融市場は,PPP スポンサーの資金調達方法として引き続き存在し,

今後市場も回復していくものと予想される。

4.7.3 債権による資金調達

世界金融危機以前,オーストラリアの PPP 市場は競争力の高い債券金融市場の便益を強く受けた。し

かし世界金融危機以降,オーストラリアにおける債券金融に欠かせない存在であったモノライン保険会

社の多くは市場を去り,その結果 PPP プロジェクトの債券金融は大変制限されている。債券金融は,

再び復活する事が予想されるが,その時期は不明である。

4.7.4 機関投資家

オーストラリアの法制度では,個人の退職年金を支払うことが企業に義務付けられている。そのため,

退職年金基金が最大の機関投資家による投資源となっている。

金融監督局は 2009 年 9 月 30 日時点で,退職年金の資産総額概算は 1.2 兆豪ドル(99 兆円)を超えた

と報告した。これらの資産の内,現在インフラに直接投資されている資産の割合は比較的小さいものの,

PPP プロジェクトやより広範なインフラ部門に対するエクイティによる資金供給の比率は高く,さら

に伸びていくものと思われる。

オーストラリアの退職年金基金の多くは,国内や海外のインフラに投資してきた実績がある。インダス

トリー・ファンド・マネジメント(Industry Funds Management),ビクトリ・ファンド・マネジメ

ント(Victorian Funds Management),ユニスーパー(UniSuper),豪州自動車販売協会(Motor

Traders Association of Australia),ヘースティングス・ファンド・マネジメント(Hastings Funds

Management),エー・エム・ピー・キャピタル・インベスターズ(AMP)などの基金が主要なインフ

ラ投資家であり,それぞれインフラ投資を専門とするチームが世界的に投資案件を探している。

業界が成長し成熟する中,インフラ投資家としての基金の役割は着実に強まっている。2002 年には,

上場/非上場インフラが退職年金基金投資全体に占める割合は平均 2%にすぎなかったが,2012 年まで

には 5%まで上昇すると予測されている。既に予測より 4 年早い 2008 年時点で,その割合は平均 5%を

超え,2009 年には 6%を超えた。

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4.8 税制

オーストラリア PPP プロジェクトに関連する税法は納税者にとって理解しやすい内容であり,民間部

門がインフラプロジェクトへ投資する際の障壁とはなっていない。

しかし,以前からそのような状況ではなく,過去には,税法上意図しない課税措置が発生するなどの課

題が多く存在していた。通常,コンソーシアムプロジェクトが負う業務リスクの度合いは,関連する経

済的・社会的インフラの種類によって異なる。 一般的に,社会インフラの PPP 協定は,不利な課税措

置を招きリスクが高い。

しかし,税制改正の一環として,税法上の問題を取除くための連邦政府の判断により,2007 年に採択

250 号(Division 250)が導入された。これにより,オーストラリアの PPP プロジェクトに対する税

制環境は随分と良好になった。

4.9 オーストラリア PPP 市場における民間事業の機会

4.9.1 市場機会

オーストラリアの連邦,州,市町村の各政府は,多大なインフラ投資へのニーズを抱えており,その規

模は今後 10 年間で 7,500 億ドル(約 61.7 兆円)にのぼるとも予想されている。オーストラリアの各

政府レベルでの財政源を合算しても,上記インフラストラクチャーの構築に必要となる財務投資には満

たない可能性が高い。

政府の財源と投資ニーズとのギャップを埋めるため,連邦政府と州政府は公共インフラを供給するに当

たり,より多くの民間事業者の参加を促進することが予想される。すべての事業が PPP によって行わ

れる訳でないとしても,仮にインフラ投資の全体の 15%だけを PPP で賄うとすると,1,120 億ドル

の投資が必要となり,国内市場の参加者だけでは資本から人的資源まで全てを負担することは困難であ

る。

従って,オーストラリアにおける PPP 市場でインフラストラクチャー事業を行うには,今後資本調達,

建設,事業運営のすべてにわたる各領域で,外国の民間事業者の積極的な参加に頼るしかない。

そのような状況で,オーストラリアの PPP 市場は常に変化し続け,都市鉄道網や再生利用エネルギー

といった新規市場で,今まで以上に特別な技術の導入が必要とされる。

特にオーストラリアの PPP 市場で大きく必要とされるものは以下となる。

► 新しい事業分野への参入のための専門技術(例:都市鉄道やソーラー・フラッグシップ・プログラ

ム~Solar Flagships Program)

► 10 億豪ドル超の大型プロジェクトの資本調達 。

このため日本企業(および他の外国企業)がオーストラリア市場に参入し,こうした分野における知識

やスキルを提供する機会が生まれている。

オーストラリアの PPP 市場のこうした分野に日本企業や他の外国企業が参加していることは,最近の

プロジェクトであるビクトリア州の海水淡水化プロジェクト,ゴールドコーストの高速鉄道(Rapid

Transit)プロジェクトにも表れている。

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4.10 オーストラリア PPP 市場における民間事業者参入の問題

4.10.1 情報のアクセス

オーストラリアの PPP 市場では,できる限り早くプロジェクトに関与する必要がある。入札市場は,

小数の洗練された参加者で形成されており,オーストラリア市場に迅速に対応する。これら入札者は,

いくつもの事業分野にまたがってポートフォーリオ的にプロジェクトに入札し,迅速にコンソーシアム

を形成する。

コンソーシアムは多くの場合,プロジェクト開始情報が開示されるか,政府調達官庁が市場ヒアリング

を行う段階で応札希望者が発表する「プロジェクトへの関心表明(EOI- Expression of Interest)」の

前に形成される。

このため,オーストラリア市場への参入を検討している外国企業は,フィージビリティースタディ

(FS 調査)以前の早い段階でプロジェクトについて十分理解する必要があり,調達官庁をフォローし

て情報を把握し,「関心表明」の段階で他社より有利な立場に立たなければならない。

4.10.2 国内市場入札への参加アクセス

広範囲にわたるプロジェクトを行うための専門知識が求められることから,オーストラリアでは,多く

の場合,入札コンソーシアムは評価基準を満たした優秀な小数の企業グループ群で形成されている。コ

ンソーシアムに参加できないことは,競争力向上に必要な知識と経験が必要とされる外国企業には障害

となる。

外国企業がコンソーシアムに招かれるためには,コンソーシアムの入札競争力を向上させる自社能力を

強力にアピールする「価値ある提案」をする必要がある。通常は,以下のいずれかの分野に基づいてい

る:

► 強力な技術力。

► 資本調達(エクイティまたはデット)。

この能力を実証するためには,オーストラリア現地において市場知識を蓄積し,他社との緊密な関係を

構築していく必要がある。

4.10.3 市場機会

海外の民間事業者がより一層オーストラリア PPP 市場に関与し投資を最大化させるため,オーストラ

リアは,オーストラリア PPP 市場を魅力的にして,他国の市場と差別化させる必要がある。外国企業

(建設請負人,オペレーター,金融関連機関など)は,過去の納入実績に裏付けされた様々な事業分野

での投資案件,魅力あるプロジェクト規模での実績がなければ市場にコミットすることができない。

近年における PPP 政策やガイドラインの全国的な統一化の促進や,税法など法制改正による契約に関

わる法律的枠組みの改善,インフラストラクチャーの需要増加など,オーストラリアは,日本の民間部

門の事業者に大変魅力的な投資機会としての特質を提供する努力を行っている。

4.10.4 入札コスト

オーストラリアの入札プロセスは 12 ヵ月~18 ヵ月かかり,入札者が提案書の作成作業の全てを負担す

ることになる。優先提案者に選定されるまでには,時間と手続き上の労力,デューデリジェンス(「投

資対象の適格性を把握するために投資家が行う調査」)といった要因が,入札者の大きなリスク負担と

なる(億単位の出費を伴うことも頻繁にある)。

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これは国内外の参加者の参入障壁となっている。特に大型の複雑な経済インフラプロジェクトに関して

は,これが当てはまる。

全国レベルで PPP 政策の統一化への動きが盛んになるに従い,増加する入札コストがオーストラリア

PPP 市場内の競争関係にもたらす負の影響を緩和することが要望されている。この問題については,

連邦政府と州政府も既に認識しており,対応を始めている。

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5日本の PFI 市場の概要

日本のPFI制度は1999年 7月公布のPFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促

進に関する法律)の施行以降活用され始めた。日本の PFI マーケットは,小規模事業(50 億円から

300 億円)が特徴で,特に,社会インフラ(例えば,政府建築物,学校や病院など)が主となっている。

BTO 方式(民間事業者が自らの資金で対象施設を建設し,完成後すぐに公共に所有権を移転するが,

維持運営は民間で行う形式)が採用されている。日本の事業モデルでは,事業リスクの移転を制限して

いるので,民間企業の参加は,施設建設と資金調達という分野に限られている。このような状況では,

リスク移転やサービスレベルの向上,必要資金に見合う以上の価値を創出するといった,PFI 事業を適

切に構築することで生じる恩恵を受けていないことになる。こういった恩恵を生み出し,より一層多く

の投資家が日本の PFI マーケットに参加するためにも,日本は,今まで以上にリスク移転を促し,プ

ロジェクト・ライフにおける一貫したコスト計算の導入などが課題と言われている。

日本の PFI マーケットの特徴は次のとおり。

► PFI マーケットでは,小規模の事業が多数存在する。

► ほとんどの PFI 事業は BTO 方式で,施設の建設が民間事業者の主たる役割となっている。

► PFI 事業は地方色が強く,実際は都道府県及び市レベルの政府が調達を管理している。

► 小規模資金の事業が多く,事業内容が制限されている,入札方針が地方ベースであることから,国

内における PFI 事業への関心は低下している。

► 海外の事業者が日本の PFI 事業に参加していない。

► 日本の法体系では,大規模な経済インフラ(鉄道網,道路,空港など)の事業には民間事業者が参

入できないものがある。

► PFI 事業への機関投資家の関与が欠けている。

► 機関投資家の長期的投資を促進するような会計,税制度が未発達。

日本の PFI マーケットへの国内外の民間企業社からの参入を促進するにあたっては,次のような課題

がある。

► 国,地方自治体レベルで,PFI 事業の調達方法や入札方法を簡素化し定型化する。

► 国,地方自治体レベルで,PFI 事業の市場情報のアクセス向上を図る。

► 道路,鉄道,港湾,空港といった幅広い経済インフラに民間企業が参加できるよう,現在の法制度

を改正する。

► 国,地方自治体レベルで,多数の PFI 事業の機会を今まで以上に促進する。

► PFI 事業は投資資産の一つであると,日本の機関投資家の認識を促す。

► J-REITs(不動産投資信託)のように長期的投資を促進するような新たな法制度を検討する。

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6日本の PFI 市場分析

6.1 概要

日本の PFI 法は,1999 年に制定され,2001 年に改正後,日本の PFI 市場の成長に大きく寄与した。

日本では,政府系住宅施設,教育,医療,リクリエーション施設などを含むいくつもの事業分野におい

て PFI 事業が著しく進展している。日本の PFI 市場は小規模のプロジェクト(50 億円から 300 億円)

から構成されており,特に社会インフラに関わる事業(例,政府建物,学校施設,病院)が主要な分野

となっている。所有形態の類型は,Build-Transfer-Operate 方式が主流となっている。

日本のモデルは,民間へのリスク移転の度合いが限られており,民間部門の提供するサービス範囲は建

設とファイナンスが中心で,プロジェクト・ライフ全体の観点からサービスを提供することの妨げとな

っている。また,現行の日本の会計・税務制度も,機関投資家が日本の PFI 事業に長期的な投資をす

る際の制約要因となっている。これらの要因は,インフラプロジェクトに投資するための必要な資金調

達に大きく影響している。

PFI インフラ市場により多くの関心を引き付けるためにも,日本は,リスク移転,プロジェクト全ての

期間におけるコスト計算などに関して,より洗練されたアプローチを検討する必要がある。

下表に見るとおり,現在,日本の PFI 市場は,個々のプロジェクトが 50 億円から 300 億円単位となる

総額約 2,000 億円から 3,000 億円規模の市場が存在し,現在 220 あまりのプロジェクトが運営段階

に入っている。

図表4.運営段階に入っている日本のプロジェクト

312

19

43

90

131

176

206

224

0

50

100

150

200

250

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

Nu

mb

er o

f p

roje

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6.2 法律,政策と手続き

日本の法制度では,民間部門からの調達は,国,都道府県,市区の自治体,公的機関によって行われる。

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日本では,インフラ事業の法的枠組みは以下の二つのレベルに分けて考えることができる。

► 国レベル(国有財産法)。

► 地方レベル(地方自治法)。

近年における日本政府の公共インフラ施設およびサービスの民間部門からの調達は,主につぎのとおり

の枠組みで行われている。

► PFI 法。

► 公共サービス改革法。

► 指定管理者制度。

一方,道路,港湾,空港などのような,比較的大規模なインフラプロジェクトは,各種の公物管理法に

よって制約されており,PFI の取り組みに影響を及ぼしている。

6.3 民間事業者の参加を制限する法令

日本では,経済インフラプロジェクトは公物管理法によって制限されている。同法は道路,下水道,都

市公園などの公共財は公的機関が管理するべきものと規定している。

この法体系のもとでは,プロジェクトにおける民間事業者の役割は制限を受ける。これらの法律は,民

間部門が担えない点を以下のとおりに挙げている。

► 公共物を所有する。

► 公共物を管理または運営すること。

公物管理の制度のもとで民間部門が行える全ての事業範囲は,2004 年 6 月に発表された「公共設備等

の整備等において民間事業者の行い得る業務範囲」に明記されている。

http://www8.cao.go.jp/pfi/160601gyoumuhani.pdf

この中で,国土交通省は,個別法において公共施設等の設置,管理,運営の規定を挙げ,それを 3 つ

の分類の法律に分けている。

1. 公共施設等の管理者を国と地方公共団体に限定しているもの。

2. 公共施設等の管理者を原則として地方公共団体としながら,民間事業者の設置管理も認めるもの。

3. 公共施設等の管理主体について民間,公共団体の区分に係りなく認めているもの。

以下が関連法規とその分類の一例となる。

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図表5 公共設備等の整備等において民間事業の行い得る事業範囲

6.3.1.1 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI 法)

「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI 法)は,日本の内閣府の民

間資金等活用事業推進室(PFI 推進室)を通じて,民間資金の活用を促進している。

この PFI 法は,1997 年 7 月に法制化されたもので,イギリスの PFI システムをモデルとしてる。その

後,PFI 推進室は,数々の基本方針と日本のさまざまな PFI システムの方面から,4つのガイドライ

ンを発表している。ガイドラインには,以下のようなものがある。

► PFI 事業実施プロセスに関するガイドライン。

► PFI 事業におけるリスク分担等に関するガイドライン。

► 契約に関するガイドライン。

► モニタリングに関するガイドライン。

6.3.1.2 国家, 都道府県及び市などの地方自治体レベルでの調達

2008 年度において,339 の PFI 事業のうち 130 の事業が地方自治体によって実施されており,PFI 事

業全体においても一定のシェアを占める。

通常,PFI 事業は,その公共施設を管轄している政府内の関連部門が所管するが,事業の開始から終了

にいたるまで,政府部内の例えば,予算グループ,法務グループや総務グループなど様々な部門が関与

する。ただし,地方自治体では,PFI チームといった専門グループが設置されていないことが多い。

本来,PFI 事業は,PFI 法に基づいて運営されるものであるが,県や市町村レベルでは,それぞれが独

自に策定した PFI 政策やガイドラインが存在し,事業判断に活用されている。

6.4 プロジェクトの種類と範囲

日本の PFI 市場は,主に小規模(資本投資額 50 億円から 300 億円)の社会インフラプロジェクトが一

般的である。経済インフラ(湾岸,空港,道路)プロジェクトは,現在の日本の法制度の下では PFI

を適用して実施される見込みがないのが実情であろう。

法令名 公共施設等の

管理者の区分 詳細

鉄道事業法 3 鉄道事業法では従来から民間が事業者になることは制約がなく,PFI 事業において

もその事業範囲に相違は無い。

道路運送法 3 道路運送法により,自動車道事業者(政府機関)は民間部門に自動車道事業の管

理を委託する事ができるが,管理を委託した事業者について第三者に対する経営

上の一切の責任は委託者が負担する。

道路法 1 道路法は道路法上の道路に関する様々な権限を国土交通大臣,都道府県(指定都市)

に与えている。例えば,道路の新設,改築および管理,道路の区域の決定又は変

更,道路の供用の開始又は廃止など。

実際の建設工事や維持修繕等の事実行為については民間の選定事業者が行う事が

可能である。

航空法,空港整備法 1 & 3 空港整備法は,飛行場のうち航空ネットワークで重要な空港について,国と地方

公共団体が一定の費用分担のもと,その整備を行うことを定めている。

飛行場の設置,管理は,航空法において定められている。

港湾法 3 港湾法のもとでは港湾施設の設置,管理主体は公的主体に限られていない。実際

に民間事業者が設置,管理を行う港湾施設は港湾内に多数存在している。

都市公園法 1 都市公園法は,都市公園の設置,管理,および占用の許可等を行う権限を国土交

通大臣および地方自治体に与えている。PFI 事業者は管理者の承認のもと事実行為

としてのイベント開催,教室・講座等の開催,施設の点検・維持補修,清掃,植

栽の管理など,一定の活動を行う事が出来る。

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PFI プロジェクトは,多くが建物や機械の建設,管理などハード面のサービスに大きく限定されている。

一般的にプロジェクトの入札は,仕様書を詳細に特定した“インプット”ベースで行われている。これは,

社会インフラの多くが BTO 方式で実施されていることを意味している。そのため,技術革新,プロジ

ェクトライフサイクル全体での(管理・運営を含む)コスト計算,また多種多様なサービス提供を通じ

てバリュー・フォー・マネー(VFM)を実証する機会がなく,民間事業者参加によるメリットが活か

されていない。

こうしたアプローチは,インフラプロジェクトの引渡し期間を早めることができるが,一方で,日本の

PFI 市場に対する国内外の投資家とオペレーターの事業参入意欲を引き下げる方向にある。日本の内閣

府が最近発表した情報によると,40%のプロジェクトについて入札者が1社,70%のプロジェクトにつ

いて2社の入札者とのこと。そして 2007 年度の 69 のプロジェクトのうち 21 のプロジェクトについて,

入札者がゼロであったとのこと。こうした結果は競争入札を大幅に減尐させ,政府がバリュー・フォ

ー・マネー(VfM)を実現する可能性を著しく減じている。

6.5 市場参加者

日本市場では,多くのプロジェクトで BTO に対応したコンソーシアムが形成され,“インプット”ベー

スでの要求仕様に対処しているのが現状である。

PFI プロジェクトは,多くが建物や機械の建設,管理などハード面のサービスに限定されているため,

コンソーシアムのメンバーの貢献はこれらサービスの提供に限定される。よって,プロジェクトを実施

する際に構成される SPC(特別目的会社)においては建設会社が最も大きな役割を果たしている。ま

た,プロジェクトの資本投資額が通常 50 億円から 300 億円であることから,地元および都道府県レベ

ルの建設会社が主な事業参加者となることも多い。

継続的なサービスの提供は,通常は公共機関により行われ,民間事業者は建物の維持以外は要求されな

い。そのため,技術,運営,エンジニアリングに関して専門事業者の果たす役割は限定的となる。

さらに,資本投資額が主に 50 億円から 300 億円であることから,資金調達ニーズも低く,機関投資家

がプロジェクトを査定するためのデユ―・デリジェンス(「投資や M&A などの取引に際して行われる,

対象企業や不動産・金融商品などの資産の評価活動」)などが行われず,公共機関の提示価格もそれに

応じて低くなっている状況がある。また,資金調達の大半はプロジェクトを担当する建築会社の資本投

資と銀行借入でまかなわれている。

これらを背景として,日本のコンソーシアムの構成は一般に以下のようになる。

► プロジェクトにデット(有利子負債)を提供する日本の銀行。

► 実行されるプロジェクトでの事業経験があり,必要とされる資本を提供できる建設会社。

► 施設管理会社。

日本の市場は,プロジェクトが小規模であり,BTO アプローチが主であるなどの理由から入札者数が

減尐している傾向にある。プロジェクトは地元レベルで行われる事が多く,プロジェクトの事業分野や

サービスが広範囲に発達していない状況であり,入札市場が発達する機会は限定的といえる。

6.5.1.1 外国企業の関与

日本のプロジェクトに入札することについて,外国企業の参入に法的制約はない。しかし,日本の PFI

市場では小規模プロジェクトが多いこと,サービス範囲が限定されていること等の理由から,日本の

PFI 市場への外国企業の参画はこれまで限定的なものでした。

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6.6 資金調達

日本の PFI モデルは民間部門へのリスク移転が比較的低いので,プロジェクト・ファイナンスは通常,

デットまたは債券による調達が 90%以上,エクイティ投資が 10%となっている。

デット(有利子負債)は通常,プロジェクト期間である 15 年~30 年まで継続されるため,プロジェク

ト契約期間中に実質的なリファイナンス(返済期限が到来した債務者が,債権者から新たな融資を受け

て,その資金で当面の債務返済を行うこと)する必要性はない。

6.6.1 エクイティ

特別目的会社(SPC)の株式投資家は通常,建設会社のようなコンソーシアム・メンバーがなる。建設

会社は建設代金によって利益を稼ぐが,SPC のオペレーションから利益や配当金を得るようなインセ

ンティブがほとんどない。

日本の制度では,この種の負債比率の高い会社が借入金の返済前に株式配当金を支出することを制限し

ているため,SPC は配当(しかも配当には源泉徴収による課税がされる)によるリターンを期待する

株式投資家(エクイテイー)からの資金ではなく,財源の多くを負債に依存する,負債比率の高いSP

Cとなっている。

6.6.2 借入金融

PFI マーケットにおける大多数の事業は,銀行によるデットでファイナンスされている。すなわち,

PFI の資金調達はほとんどが日本の銀行からの調達でまかなわれている。

6.6.3 機関投資家

今までの日本のインフラ・プロジェクトは,機関投資家を引き付ける要素が不足し,主に銀行からの資

金に依存していた。その理由として次の点が挙げられる。

► インフラ・プロジェクトの投資資産クラスとしての評価の欠如

► 特別目的会社(SPC)の営業利益や株主配当に対する課税

► 借入金による株式配当の制約

► 投資を魅力的にさせるリスク・リターンの不足

► プロジェクトが比較的小規模

6.6.3.1 機関投資家によるインフラ投資の促進-J-REIT(Japanese Real Estate Investment

Trust)制度の応用

日本における不動産証券市場は,日本版不動産投資信託(J-REIT)が導入された 2000 年から大きく

成長した。

J-REIT は,ある一定の法的要件を満たせば配当に対する税務上の損金扱いが可能となる。そのうちの

一つの要件として,課税所得のうち,毎年 90%以上を配当する必要がある。

短期間で J-REIT は国内・外の投資家,日本の個人投資家,機関投資家に有望な投資先として広く受け

入れられるようになった。

J-REIT は,導入当初は主にオフィス・ビルに集中していたが,最近では住宅 J-REIT,商業 J-REIT,

ロジスティック J-REIT(例:倉庫業)などにも拡大してきた。

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今後は,機関投資家を引き付けるために,インフラ事業にも J-REIT のストラクチャーを使用すること

が考えられる。

6.7 税制

日本の PFI プロジェクトに関わる課税制度は,通常の日本の法人課税制度と相違はなく,日本の PFI

事業への参加 は特別目的会社(Special Purpose Company ;SPC)を通して行われる。

通常 SPC の資金は銀行融資により調達され,株主による資本金投資は最小限に留まる。よって資本は

株主(通常建設会社)のバランス・シート(賃借対照表)または投資に対する日本政府との直接合意に

より成立する。

このようなストラクチャーの機関投資家(海外または国内)にとっての主要な問題は,SPC の事業利

益が課税され,さらに当該利益が配当される際に源泉徴収により課税がなされる点である。

日本における居住者に対する以下の支払は源泉徴収の対象となる:

► 利息(特定の割引債券の償還利益を含める)。

► 配当 。

► 給料,賃金,ボーナス等の報酬。

► 退職金 。

► 従業員以外に対する手数料等の報酬。

6.7.1 内国法人への支払いに対する源泉税

日本国内の内国法人への以下の支払は源泉税の対象となる:

► 利息(特定の割引債券の償還利益を含む) 。

► 配当。

► 匿名組合の利益分配金。

6.7.2 プロジェクト会社による海外投資家への支払い利益に関わる税務の概要

SPC の株主が非居住者(オーストラリア居住者)である場合,SPC からの配当は日本において源泉課税

の対象となる。

日豪租税条約の下,株主が 10%以上の持分を所有する場合,配当源泉税率は 5%に軽減される。それ以

外の場合は通常 10%の軽減税率が適用となる。また,株主が上場企業である等,日豪租税条約上 23 条

における適格者の定義を満たし,且つ 80%以上の持分(間接,直接)を 12 ヶ月以上所有している場合に

は,ゼロ%の軽減税率が適用される。法人以外の形態の納税者の場合は(例えば REIT)例外の適用があ

る。

6.8 日本の PFI 市場における民間事業の機会

6.8.1 主要事業機会

2009 年度,15 兆円 にもおよぶ下記のような医療,運輸輸送を含む公共投資が発表された。

► 地方の医療システムを改善するために,3,100 億円の補助金の拠出。

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► 道路網整備に 2,500 億円の投資。

現行の PFI 法では,民間部門がこれらのプロジェクトに積極的に参画していくことは難しい面がある。

6.9 日本の PFI 市場における民間事業者参入の問題

6.9.1 プロジェクトの規模,サービスの範囲

日本における PFI 事業の大半は,BTO ベースの小規模プロジェクトとなる。上述のように,この方法

では民間事業者の活用は限定的となり,機関投資家からの投資を惹きつけるようなものではない。

6.9.2 民間部門の参加を制限する法令

日本における大規模なインフラ事業で,PFI や PPP 事業が発展しない最大の理由に,公物管理法の存

在がある。同法の下にも様々な法律が存在し,民間部門の参加を制限している。最も大きな法的阻害要

因として,民間部門に対して,公共財産やプロジェクトの所有が基本的には認められていないという点

がある。

6.9.3 日本の特別目的会社(SPC)に関連する税制

SPC(特別目的会社)から株主への効率的な利益還元方法は今のところない。オーストラリアのように

利益は事業レベルで課税され,利益配当は税引後ベース,又は税額控除扱いになるのと異なり,日本の

税制では,事業レベルで課税され,かつ利益配当や還元された利益も源泉課税の対象になる。

このような税制は,機関投資家の投資意欲を損ねるうえ,PFI 事業が資本を調達する上での障害にもな

る。また,このような税制は,日本での PFI プロジェクトの事業サイズを制限するものでもある。

6.9.4 PFI プロジェクト情報や地方調達機関へのアクセス

今回のインタビューで最も多く指摘されたことは,PFI のプロジェクト情報へのアクセスの問題であっ

た。現段階では,日本の PFI プロジェクトの情報を集約した情報システムが,政府には存在しない。

一般に都道府県や地方自治体レベルで,個別にプロジェクト情報が管理され,かつ日本語で公開されて

いるため,日本の PFI プロジェクトに対する興味を削ぐことになる。これは,日本の PFI 市場に参加

したいオーストラリアや諸外国の参加者に対しては情報アクセスを難しくするものといえる。

以上

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