岐阜大学ポケットゼミナールの活動の紹介: 植物を使った環境 ... · 2011....

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岐阜大学ポケットゼミナールの活動の紹介: 植物を使った環境エンリッチメント 渡辺雄貴1、鈴木益廣2、落合知美2、松沢哲郎2 (1.岐阜大学応用生物科学部、2.京都大学霊長類研究所) ○謝辞○ このエンリッチメントをおこなうにあたって、前田典行さんはじめ人類進化モデル研究センターの飼育スタッフ、霊長類 研究所の職員の方〄には、多大なご理解とご協力をいただきました。厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。 セイヨウタンポポ シロツメクサ 植物を使った環境エンリッチメントには、安全であること、手軽であること、加工が しやすいなどという利点があげられる。自然のものを利用しているため化学物質等 を含まず、動物たちが口に入れても危険性が少ない。また、野草や堅果などは季 節ごとに違う種類を採集できる。竹やひょうたんなどは、加工がしやすいためフィー ダー作りなどに適しているだろう。京都大学霊長類研究所において、私たち岐阜大 学ポケットゼミナール生の活動の一環として、主に週末にチンパンジーやテナガザ ル、オマキザルなどに、植物を使った環境エンリッチメント実施のお手伝いをおこ なってきた。その概要を報告する。 利点 ○安全性 ○手軽さ ○地産地消 ○季節変化がある ○加工がしやすい○経済的 欠点 ×耐久性 ×知識の欠如による事故の可能性 植物を使った環境エンリッチメントの利点欠点 はじめに 方法 竹フィーダーひょうたんフィーダー○使用する道具 ・竹 ・のこぎり ・廃材 ・ひも ・葉 ・フィーダーの中に入れる食べ物 (.レーズン、ドングリなど) ○作成手順 1. 節のある長めの竹を用意する 2. 節を残すもの、両節を切り落とすものなど、いろいろな形に切る クリ ドングリ ピーナッツ ひまわりの種 干しブドウ 両節を残す 片節残す 両節とも切る ○使用する道具 ・ひょうたん ・ひょうたんごっこ(市販) ・バケツ ・キリ ・のこぎり ・フィーダーの中に入れる食べ物 竹の大きさや節を活かして、用途に合わせて さまざまな種類のフィーダーを作成することが できる。また、加工がしやすいため穴の大きさ や位置によって難易度を変えることができる。 果肉を取り出す際は、非常に臭いが厳し いが、乾燥させれば臭いも気にならない。 ひょうたん特有のくびれが、中身の餌をと りにくくしている。竹よりも割れやすいため、 力の強い動物種では簡単に割られてしま う可能性がある。 竹にランダム に穴をあけ、 その穴に紐を 通す。 竹にランダム に大きめの穴 をあける。 両節を取り除いた 竹の口の部分に 切り込みを入れ、 紐を写真のように 巻きつける。 工夫した点 ・竹を切る際に、用いるのこぎりは、刃の細かいものを用いた方が 切りやすいため、できるだけ刃の細かいのこぎりを使う。 ・竹の中に葉などを詰める、入口に紐を括るなどをして、中の餌が 取り出しにくくなるようにする。 1, 京都大学霊長類研究所内で管理されている果樹 果実採集 季節ごとに実った果実を採集する。右の表は、京都 大学霊長類研究所内で管理されている果樹の一覧 である。これらは、合計121823211本ある。こ れらの果実は、鈴木によって管理されている。渡辺 は、20087月から、スモモとモモ、ウメの樹計約30 本の木の摘心をおこなった。 【摘心について】 摘心は、果樹の管理方法の 一つである。摘心をすること で、果実に十分に養分がいく ようにし、おいしく、大きい実 をつけるようになる。具体的 な方法として、主枝以外の枝 を、根元から葉56枚の位置 で剪定をする。 堅果の採集 主に、秋に実をつけるドングリ(コナラ、ク ヌギ、スダジイ、ウバメ)を採集する。 2008(928()119())は、ド ングリを計9200g採集した。野草同様に、 全個体にまんべんなくいきわたるように与 え、与えすぎに注意する。 岐大ポケゼミでは、植物を使った環境エンリッチメントのお手伝いとして、基本的に は毎週日曜日に、季節に応じて野草や堅果、果実の採集竹やひょうたんを使った フィーダーの作成をおこなってきた。 フィーダー作成 フィーダーの作成には、研究所の敷地内に生えている竹とひょうたんを使用した。 マダケ Phyllostachys bambusoides イネ科マダケ属 ・稈は高さ1020m、径は515cmに達する。 ・観賞用とされるほか、茎は建材にも使われる。 ・抗菌作用があるため、腐食しにくいため容器にも利用される。 ・冬は水をあまり吸収しなくなるため、この時期に採取し、乾燥させたものを用いる。 ・乾燥が十分な竹は、硬さと柔軟性を兼ね備えている。 ヒョウタン Lagenaria leucantha ウリ科ユウガオ属 6月末~7月初め頃に着果する。 ・成長過程では青〄としていたものが、徐〄に白くなり軽くなったときが成熟状態。 ・成熟すると、果皮は毛が落ちて、硬くなる。 ・苦くて食べることのできない果肉や種は、腐らせることによって取り除くことができる。 工夫した点 ・「ひょうたんごっこ」という市販の酵素を用いて、果肉と種を取 り出す作業時間を短縮させた。 苦労した点 ・ひょうたんは、簡単に割られてしまうため動物種が限られてし まう点。 竹やひょうたんを使って作成するフィーダーは、穴の位置や大きさによって、難易度を自由にすることが可能なため、さまざまな動物種に対して応用するこ とが可能だろう。京都大学霊長類研究所のチンパンジーやテナガザル、オマキザルに 実験的に竹やひょうたんフィーダーを導入すると、動物たちが興味を 持つことから環境エンリッチメントとしてのその効果は確認できている。しかし、こうした環境エンリッチメントを続けるためには、毎日の掃除への影響や、動 物の健康状態など、より多方面からの検討が必要だと思われる。また、フィーダーを導入前と導入後の行動レパートリーの変化や活動時間配分の違いなど をしっかりと調査することで、はじめて環境エンリッチメントとしての効果について評価ができるだろう。 一生懸命、竹フィーダーの中の 餌をとろうとしているプチと、それ を見ているパル 竹フィーダーの中の餌を、指 を器用に用いて、食べている オマキザル 竹の中身を一生懸命取 り出そうとするツヨシ 撮影:打越万喜子 ○作成手順 1. 収穫したひょうたんに穴をあける 2. 穴をあけたひょうたんに、約40度のぬるま湯で溶かした 「ひょうたんごっこ」をいれる。 3. 23日たち、溶けたひょうたんの中身を、スプーンなど で取り出す。 4. ひょうたんの表皮を、取り去る。 5. 中身を取り出したひょうたんを、洗い、乾燥させる。 6. 乾燥が済んだひょうたんに、レーズン等をいれる。 社名:Yakult 価格:1980酵素成分によって、通常なら23週間かかる種や果肉の取り 出し作業が、23日で済む。 この時期は、強烈なにお いを発するため、周囲に 迷惑のかからないように 注意する。 おわりに ひょうたんフィーダー の中身を、一生懸命 取り出そうとするパル。 結局、歯を使って、噛 み割ってしまった。 野草採集 主に、春に研究所周辺に生えている野草 (タンポポやカラスノエンドウ、スイバやシ ロツメクサなど)を採集する。全個体にいき わたるように、まんべんなく与える。 シロツメクサ タンポポ 野草を食べるパル :イチゴは、草本性の植物のため本数は記載しなかった 切る場所 種名 学名 本数 カキノキ カキノキ カキ Diospyros kaki 10 グミ グミ グミ Elaeagnus multiflora 4 クルミ クルミ クルミ Juglans mandshurica 2 クロウメモドキ ナツメ ナツメ Zizyphus jujuba 8 クワ イチジク イチジク Ficus carica 3 ザクロ ザクロ ザクロ Punica granatum 1 ツツジ スノキ ブルーベリー Vacinium corymbosum 4 バラ オランダイチゴ イチゴ Fragaria chiloensis キイチゴ キイチゴ Rubus palmatus 1 ザイフリボク アメリカザイフリボク Amelanchier alnifolia 1 サクラ アンズ Prunus armeniaca 17 ウメ Prunus mume 23 サクランボ(セイヨウミザクラ) Prunus avium 4 スモモ Prunus salicina 75 モモ Prunus persica 9 ユスラウメ Prunus tomentosa 1 ビワ ビワ Eriobotrya japonica 1 リンゴ リンゴ Mulus pumila 5 バンレイシ アシミナ ポーポーノキ Asimina triloba 6 ブナ クリ クリ Castanea crenata 28 マタタビ マタタビ キウイフルーツ Actinidia chinensis 2 ミカン キンカン キンカン Fortunella japonica 2 ミカン ミカン Citrus tachibana 4 合計 211

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Page 1: 岐阜大学ポケットゼミナールの活動の紹介: 植物を使った環境 ... · 2011. 11. 11. · 岐阜大学ポケットゼミナールの活動の紹介: 植物を使った環境エンリッチメント

岐阜大学ポケットゼミナールの活動の紹介:

植物を使った環境エンリッチメント渡辺雄貴1、鈴木益廣2、落合知美2、松沢哲郎2(1.岐阜大学応用生物科学部、2.京都大学霊長類研究所)

○謝辞○このエンリッチメントをおこなうにあたって、前田典行さんはじめ人類進化モデル研究センターの飼育スタッフ、霊長類研究所の職員の方〄には、多大なご理解とご協力をいただきました。厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。

セイヨウタンポポ シロツメクサ

植物を使った環境エンリッチメントには、安全であること、手軽であること、加工がしやすいなどという利点があげられる。自然のものを利用しているため化学物質等を含まず、動物たちが口に入れても危険性が少ない。また、野草や堅果などは季節ごとに違う種類を採集できる。竹やひょうたんなどは、加工がしやすいためフィーダー作りなどに適しているだろう。京都大学霊長類研究所において、私たち岐阜大学ポケットゼミナール生の活動の一環として、主に週末にチンパンジーやテナガザル、オマキザルなどに、植物を使った環境エンリッチメント実施のお手伝いをおこなってきた。その概要を報告する。

利点○安全性 ○手軽さ○地産地消○季節変化がある○加工がしやすい○経済的

欠点×耐久性×知識の欠如による事故の可能性

植物を使った環境エンリッチメントの利点と欠点

はじめに

方法

■竹フィーダー■■ひょうたんフィーダー■

○使用する道具・竹・のこぎり・廃材・ひも・葉・フィーダーの中に入れる食べ物(例.レーズン、ドングリなど)

○作成手順1. 節のある長めの竹を用意する2. 節を残すもの、両節を切り落とすものなど、いろいろな形に切る

クリドングリ

ピーナッツ

ひまわりの種 干しブドウ

両節を残す 片節残す 両節とも切る

○使用する道具・ひょうたん・ひょうたんごっこ(市販)

・バケツ・キリ・のこぎり・フィーダーの中に入れる食べ物

竹の大きさや節を活かして、用途に合わせてさまざまな種類のフィーダーを作成することができる。また、加工がしやすいため穴の大きさや位置によって難易度を変えることができる。

果肉を取り出す際は、非常に臭いが厳しいが、乾燥させれば臭いも気にならない。ひょうたん特有のくびれが、中身の餌をとりにくくしている。竹よりも割れやすいため、力の強い動物種では簡単に割られてしまう可能性がある。

竹にランダムに穴をあけ、その穴に紐を通す。

竹にランダムに大きめの穴をあける。

両節を取り除いた竹の口の部分に切り込みを入れ、紐を写真のように巻きつける。

工夫した点・竹を切る際に、用いるのこぎりは、刃の細かいものを用いた方が切りやすいため、できるだけ刃の細かいのこぎりを使う。・竹の中に葉などを詰める、入口に紐を括るなどをして、中の餌が取り出しにくくなるようにする。

表1, 京都大学霊長類研究所内で管理されている果樹

果実採集季節ごとに実った果実を採集する。右の表は、京都大学霊長類研究所内で管理されている果樹の一覧である。これらは、合計12科18属23種211本ある。これらの果実は、鈴木によって管理されている。渡辺は、2008年7月から、スモモとモモ、ウメの樹計約30

本の木の摘心をおこなった。

【摘心について】摘心は、果樹の管理方法の一つである。摘心をすることで、果実に十分に養分がいくようにし、おいしく、大きい実をつけるようになる。具体的な方法として、主枝以外の枝を、根元から葉5,6枚の位置で剪定をする。

堅果の採集主に、秋に実をつけるドングリ(コナラ、クヌギ、スダジイ、ウバメ)を採集する。2008年(9月28日(日)~11月9日(日))は、ドングリを計9200g採集した。野草同様に、全個体にまんべんなくいきわたるように与え、与えすぎに注意する。

岐大ポケゼミでは、植物を使った環境エンリッチメントのお手伝いとして、基本的には毎週日曜日に、季節に応じて野草や堅果、果実の採集、竹やひょうたんを使ったフィーダーの作成をおこなってきた。

フィーダー作成 フィーダーの作成には、研究所の敷地内に生えている竹とひょうたんを使用した。

マダケ Phyllostachys bambusoides イネ科マダケ属・稈は高さ10~20m、径は5~15cmに達する。・観賞用とされるほか、茎は建材にも使われる。・抗菌作用があるため、腐食しにくいため容器にも利用される。・冬は水をあまり吸収しなくなるため、この時期に採取し、乾燥させたものを用いる。・乾燥が十分な竹は、硬さと柔軟性を兼ね備えている。

ヒョウタン Lagenaria leucantha ウリ科ユウガオ属・6月末~7月初め頃に着果する。・成長過程では青〄としていたものが、徐〄に白くなり軽くなったときが成熟状態。・成熟すると、果皮は毛が落ちて、硬くなる。・苦くて食べることのできない果肉や種は、腐らせることによって取り除くことができる。

工夫した点・「ひょうたんごっこ」という市販の酵素を用いて、果肉と種を取り出す作業時間を短縮させた。苦労した点・ひょうたんは、簡単に割られてしまうため動物種が限られてしまう点。

竹やひょうたんを使って作成するフィーダーは、穴の位置や大きさによって、難易度を自由にすることが可能なため、さまざまな動物種に対して応用することが可能だろう。京都大学霊長類研究所のチンパンジーやテナガザル、オマキザルに実験的に竹やひょうたんフィーダーを導入すると、動物たちが興味を

持つことから環境エンリッチメントとしてのその効果は確認できている。しかし、こうした環境エンリッチメントを続けるためには、毎日の掃除への影響や、動物の健康状態など、より多方面からの検討が必要だと思われる。また、フィーダーを導入前と導入後の行動レパートリーの変化や活動時間配分の違いなどをしっかりと調査することで、はじめて環境エンリッチメントとしての効果について評価ができるだろう。

一生懸命、竹フィーダーの中の餌をとろうとしているプチと、それを見ているパル

竹フィーダーの中の餌を、指を器用に用いて、食べているオマキザル

竹の中身を一生懸命取り出そうとするツヨシ撮影:打越万喜子

○作成手順1. 収穫したひょうたんに穴をあける

2. 穴をあけたひょうたんに、約40度のぬるま湯で溶かした「ひょうたんごっこ」をいれる。3. 2~3日たち、溶けたひょうたんの中身を、スプーンなどで取り出す。

4. ひょうたんの表皮を、取り去る。5. 中身を取り出したひょうたんを、洗い、乾燥させる。6.乾燥が済んだひょうたんに、レーズン等をいれる。

社名:Yakult

価格:1980円

酵素成分によって、通常なら2、3週間かかる種や果肉の取り出し作業が、2,3日で済む。

この時期は、強烈なにおいを発するため、周囲に迷惑のかからないように注意する。

おわりに

ひょうたんフィーダーの中身を、一生懸命取り出そうとするパル。結局、歯を使って、噛み割ってしまった。

乾燥まで済ませた

ひょうたん

野草採集主に、春に研究所周辺に生えている野草(タンポポやカラスノエンドウ、スイバやシロツメクサなど)を採集する。全個体にいきわたるように、まんべんなく与える。

シロツメクサ タンポポ 野草を食べるパル

※:イチゴは、草本性の植物のため本数は記載しなかった

切る場所

科 属 種名 学名 本数カキノキ カキノキ カキ Diospyros kaki 10グミ グミ グミ Elaeagnus multiflora 4クルミ クルミ クルミ Juglans mandshurica 2クロウメモドキ ナツメ ナツメ Zizyphus jujuba 8クワ イチジク イチジク Ficus carica 3ザクロ ザクロ ザクロ Punica granatum 1ツツジ スノキ ブルーベリー Vacinium corymbosum 4バラ オランダイチゴ イチゴ Fragaria chiloensis ※〃 キイチゴ キイチゴ Rubus palmatus 1〃 ザイフリボク アメリカザイフリボク Amelanchier alnifolia 1〃 サクラ アンズ Prunus armeniaca 17〃 〃 ウメ Prunus mume 23〃 〃 サクランボ(セイヨウミザクラ) Prunus avium 4〃 〃 スモモ Prunus salicina 75〃 〃 モモ Prunus persica 9〃 〃 ユスラウメ Prunus tomentosa 1〃 ビワ ビワ Eriobotrya japonica 1〃 リンゴ リンゴ Mulus pumila 5バンレイシ アシミナ ポーポーノキ Asimina triloba 6ブナ クリ クリ Castanea crenata 28マタタビ マタタビ キウイフルーツ Actinidia chinensis 2ミカン キンカン キンカン Fortunella japonica 2〃 ミカン ミカン Citrus tachibana 4

合計 211