障がいの強みを活かした事業展開と アクセシビリティの改善で … ·...

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NTT技術ジャーナル 2016.4 40 182 特例子会社の強みを活かし, 事業を拡大 貴社の設立の経緯についてお聞かせください. NTTクラルティは特例子会社 として設立されてから 10年が経ち,その間,拠点はこの武蔵野の本社と札幌, 東京の綾瀬,神奈川の中山,それに山梨の塩山と計5カ所 に増えました.ここまで会社が成長した要因には,2002 年の「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促 進法)」の改正が背景にあります. 当社が設立される前,2003年のNTTグループの障が い者雇用率は1.53%で,当時の法定雇用率の1.8%を大 きく下回っていました.特例子会社という制度自体は以前 からあり,親会社と特例子会社の雇用率を連結し,算定す ることが認められていましたが,その後の改正で,グルー プ会社も連結できるようになりました.特例子会社の設立 を以前から検討していたNTTグループにとって,この改 正が後押しとなり,NTTクラルティが設立されました. その後,2013年4月に法定雇用率は2%となりましたが, 親会社であるNTT,およびNTTグループ会社18社が当社 の関係会社となり,障害者雇用率2.11%(2015年6月 現在)を達成することができました.現在当社の社員数は 273名,うち障がい者は220名で,全体の81%を占め ています. 当社設立の目的は,①NTTグループの障がい者雇用率 の向上に貢献すること,②NTTグループのビジョンの実 現に特例子会社としての強みを活かし貢献すること,③情 報通信分野においてアクセシビリティやユーザビリティの 向上に貢献すること,です. ◆幅広く事業を展開されていますね. 主な事業は4つの柱から構成されています.1番目は Webアクセシビリティの診断をはじめとする,障がいの 強みを活かした事業です.この中での主力業務は,ユニバー サルデザイン ・ バリアフリー化支援業務です.主にWeb サイトや機器 ・ サービスへのアクセシビリティ診断 ・ 分 析 ・ コンサルティングの実施です.また,障がい者 ・ 高齢 者向けのポータルサイト「ゆうゆうゆう」の運営や障がい 理解研修,NTTグループの紙資料のPDF化,名刺等の印 刷業務,さらに障がい者雇用関連や支援活動等の動向調査 と報告書の作成といった業務があります. 2番目は受託業務です.綾瀬 ・ 中山でNTT東日本の各種 料金に関する電話応対業務,および札幌で電話 ・ FAX機 器を購入したお客さまの保守サービスに関する勧奨業務を 行っています. 3番目は山梨県甲州市にある塩山ファクトリーにおける 物づくりです.ここには41名の知的障がい者が勤務し, 主に再生紙を原材料とした手漉き紙による製品の製造と販 売を行っています.具体的には,紙パックの規格外製品 のフィルム面を剥し,中の紙をとり出して攪拌.さらに, 紙漉きの工程を経て加工し,卓上カレンダーやノベルティ セット,メモカード,およびNTTグループで利用する表 彰状や電報の台紙等を作成しています. 4番目は健康増進事業です.2015年8月から始めたリ ラクゼーションルーム「Riang(リアン)」の運営を行っ ています.NTT武蔵野研究開発センタ内に施術室を設け, 特例子会社:障害者の雇用の促進及び安定を図るため,事業主が障害者の雇 用に特別の配慮をした子会社を設立し,一定の要件を満たす場合には,特例 としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものと みなして,実雇用率を算定できることとしている.また,特例子会社を持つ 親会社については,関係する子会社も含め,企業グループ による実雇用率算 定を可能としている(出典:厚生労働省資料). https://www.ntt-claruty.co.jp/ 障がいの強みを活かした事業展開と アクセシビリティの改善で 地域 ・ 社会に貢献を 2002年5月に公布された「障害者の雇用の促進等に関する法律」 の改正等を受け,NTTの特例子会社として2004年7月にNTTクラ ルティが設立された.同社のさまざまな取り組みや障がい者を取り 巻く課題について,半沢一也社長に話を伺った. NTTクラルティ 半沢一也社長 NTTクラルティ株式会社

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Page 1: 障がいの強みを活かした事業展開と アクセシビリティの改善で … · 主な事業は4つの柱から構成されています.1番目は Webアクセシビリティの診断をはじめとする,障がいの

NTT技術ジャーナル 2016.440

182182

特例子会社の強みを活かし, 事業を拡大

◆�貴社の設立の経緯についてお聞かせください.NTTクラルティは特例子会社*として設立されてから

10年が経ち,その間,拠点はこの武蔵野の本社と札幌,東京の綾瀬,神奈川の中山,それに山梨の塩山と計5カ所に増えました.ここまで会社が成長した要因には,2002年の「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」の改正が背景にあります.

当社が設立される前,2003年のNTTグループの障がい者雇用率は1.53%で,当時の法定雇用率の1.8%を大きく下回っていました.特例子会社という制度自体は以前からあり,親会社と特例子会社の雇用率を連結し,算定することが認められていましたが,その後の改正で,グループ会社も連結できるようになりました.特例子会社の設立を以前から検討していたNTTグループにとって,この改正が後押しとなり,NTTクラルティが設立されました.その後,2013年4月に法定雇用率は2%となりましたが,親会社であるNTT,およびNTTグループ会社18社が当社の関係会社となり,障害者雇用率2.11%(2015年6月現在)を達成することができました.現在当社の社員数は273名,うち障がい者は220名で,全体の81%を占めています.

当社設立の目的は,①NTTグループの障がい者雇用率

の向上に貢献すること,②NTTグループのビジョンの実現に特例子会社としての強みを活かし貢献すること,③情報通信分野においてアクセシビリティやユーザビリティの向上に貢献すること,です.◆幅広く事業を展開されていますね.

主な事業は4つの柱から構成されています.1番目はWebアクセシビリティの診断をはじめとする,障がいの強みを活かした事業です.この中での主力業務は,ユニバーサルデザイン ・ バリアフリー化支援業務です.主にWebサイトや機器 ・ サービスへのアクセシビリティ診断 ・ 分析 ・ コンサルティングの実施です.また,障がい者 ・ 高齢者向けのポータルサイト「ゆうゆうゆう」の運営や障がい理解研修,NTTグループの紙資料のPDF化,名刺等の印刷業務,さらに障がい者雇用関連や支援活動等の動向調査と報告書の作成といった業務があります.

2番目は受託業務です.綾瀬 ・ 中山でNTT東日本の各種料金に関する電話応対業務,および札幌で電話 ・ FAX機器を購入したお客さまの保守サービスに関する勧奨業務を行っています.

3番目は山梨県甲州市にある塩山ファクトリーにおける物づくりです.ここには41名の知的障がい者が勤務し,主に再生紙を原材料とした手漉き紙による製品の製造と販売を行っています.具体的には,紙パックの規格外製品のフィルム面を剥し,中の紙をとり出して攪拌.さらに,紙漉きの工程を経て加工し,卓上カレンダーやノベルティセット,メモカード,およびNTTグループで利用する表彰状や電報の台紙等を作成しています.

4番目は健康増進事業です.2015年8月から始めたリラクゼーションルーム「Riang(リアン)」の運営を行っています.NTT武蔵野研究開発センタ内に施術室を設け,

*特例子会社:障害者の雇用の促進及び安定を図るため,事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し,一定の要件を満たす場合には,特例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして,実雇用率を算定できることとしている.また,特例子会社を持つ親会社については,関係する子会社も含め,企業グループ による実雇用率算定を可能としている(出典:厚生労働省資料).

https://www.ntt-claruty.co.jp/

障がいの強みを活かした事業展開とアクセシビリティの改善で地域 ・ 社会に貢献を

2002年5月に公布された「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正等を受け,NTTの特例子会社として2004年7月にNTTクラルティが設立された.同社のさまざまな取り組みや障がい者を取り巻く課題について,半沢一也社長に話を伺った.

NTTクラルティ 半沢一也社長

NTTクラルティ株式会社

Page 2: 障がいの強みを活かした事業展開と アクセシビリティの改善で … · 主な事業は4つの柱から構成されています.1番目は Webアクセシビリティの診断をはじめとする,障がいの

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当社の国家資格を持つヘルスキーパー(企業内理療師)がNTT社員に対し,健康増進と維持を目的としてオフィスマッサージを行っています. 2016年2月にはNTT本社とNTT東日本ビル内にも施術室をオープンしました.

地方での雇用の促進が 特例子会社成長のカギとなる

◆今後の重点ポイントをお聞かせください.大きく2つあります.1つは,NTTグループからの受託

業務(料金問合せ受付業務,情報機器保守サービス勧奨業務)の安定的運営や障がいを強みにした事業の拡大,そして新規事業の立ち上げです.当社が力を入れているWebアクセシビリティについては,近年,NTTグループ以外の民間企業のニーズが増加傾向にあり,そうした需要を積極的に取り込みたいと考えています.また,研究所で行う革新的な情報通信技術の研究開発において,福祉 ・ 高齢者を対象とする分野でのモニター機能を提供することも可能です.健常者では気付きにくい点について,改良 ・ 改善することで,バリアフリー化を実現できる部分も多いことから,研究所との協力関係を一層強化したいと考えています.

一方,塩山ファクトリーは設立から5年が経ち,最近,ミシンを使って縫製した不織布のボールペンケース,また手漉き紙を利用したコースターづくりなど,新しい事業への取り組みを始めています.今後は,本格的な和紙をつくることや,紙の厚さや風合いにもバリエーションを持たせるようにすれば,アイデア次第でさまざまな商品を開発できると確信しています.新たな販路も開拓し,次の事業展開にも結びつけたいと考えています.

もう1つの重点ポイントは,障がい者雇用の促進です.事業の拡大につながる雇用について,私は地方に大きな潜在需要があるのではないかと見込んでいます.ある程度人口の多い地域で,今まで培ってきた知見 ・ ノウハウを活用して事業を拡大することは可能でしょう.幸い,NTT東日本グループは,地方に拠点も多く,連携して取り組むことのできる業務も多いのではないでしょうか.例えば,既存事業の発展形として,オフィスマッサージも首都圏のみならず,札幌など,地方に展開することも十分可能であると考えています.

厚生労働省は,原則5年ごとに障がい者の法定雇用率を見直すとしており,身体障がい者と知的障がい者の雇用に加え,2018年4月からは精神障がい者の雇用が義務化されます.法定雇用率も,現状の2%からさらに上がる可能性があるといわれています.これらを見据え,大手企業を中心に特例子会社の設立が加速し,雇用の促進を図る企業が増加しています.現在,特例子会社は全国に420社ほど設立されていますが,当社としても,一層雇用の拡大に努めたいと考えています.

健常者,障がい者分け隔てなく 困っている人には誰にでもサポートが必要

◆障がい者雇用を根付かせるために工夫されていることはありますか.健常者も障がい者も関係なく,お互いに働きやすい環境

を維持することが大切なのではないでしょうか.当社では,まず,障がいへの配慮に対する基本的な考え方を全社員に浸透させ,障がいを補い合う関係を構築するようにしています.例えば,視覚障がい者が外出する際には,必要であれば聴覚障がい者が誘導する.あるいは会議などの場では,聴覚障がい者には,手話通訳以外に,文字を起こす要約筆記といったサポートを視覚障がい者が行うなど,日常でお互いにサポートし合う関係ができています.

当社では障がい者と健常者を区別することはなく,障がい者はサポートを受ける立場で,健常者はサポートをする側である,というような概念もありません.障がいのある社員どうしでもサポートできることはしますし,健常者が手助けを必要としていれば,もちろんサポートします.当社は日常の中で障がい者と健常者が直にふれ合いながら,お互いに協力することによって,歩み寄り,配慮する心が養われ,誰もが障がいを理解する,また,理解しようという雰囲気があります.◆社員の方へのメッセージをお願いいたします.「クラルティ」という社名には,1人ひとりの才能が輝

くという意味合が込められており,その名のとおり,個々人が当社の業務に従事して光り輝くことが重要であると思っています.したがって,皆さんにはさまざまなことにチャレンジし,しっかりと輝いてほしい.社員1人ひとりが主役ですから,仕事に邁進し充実した日々を送ってほしいと思います.それにより,会社は発展し,地域 ・ 社会貢献にもつながっていくと思います.経営理念に「社員1人ひとりの働き甲斐を通して,バリアのない豊かな社会の実現に貢献します」とありますが,そのことを社員に継続して伝えていきたいと思います.◆今後の展望についてお聞かせください.

2020年に向けてのプロジェクトがNTTに設置されています.主要なグループ会社のメンバーとともに当社もその一員として参加しています.今後バリアフリーやスポーツ関係での連携依頼が増加してくるのではないかと思い ます.

例えば,研究所等がロードマップを作成するときに,健常者は地図を見れば分かるのですが,そのままでは障がい者には使いづらい.障がい者にとって,どのような情報が盛り込まれていれば,分かりやすく,役に立つのかという視点を持ち,当社として提案するなど,協力できることは多々あると思います.

2020年に向けて,クラルティが全社一丸となって一層光り輝くチャンスだととらえています.

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NTT技術ジャーナル 2016.442

担当者に聞く

◆まず業務内容についてお聞かせください.私たちは営業部アクセシビリティ推

進室に所属しています.営業部には,こ の 武 蔵 野 の 本 社 と 塩 山 フ ァ ク トリーを合わせ,約100名の社員が在籍しています.本社では,主に障がい者や高齢者に役立つ情報を提供するポータルサイト「ゆうゆうゆう」の運営やWebのアクセシビリティ診断業務等,障がいの強みを活かした事業に取り組んでいます.また,新規事業の企画といった業務も行っています.◆どのような仕事を担当していらっしゃいますか.

Webのバリアフリー化,機器 ・ サービスのユニバーサルデザイン化のための支援が私たちの仕事です.具体的には,誰もが求める情報やWebサイトに容易にアクセスできるよう,Webアクセシビリティの診断を行い,レポートを作成する業務です.例えば,映像に字幕がない,文字色が薄くて読みづらい,小さな文字が拡大できない,PDFの内容が音声ブラウザで正しく読み上げられないといったWeb上のバリアを改善するコンサルティングや,機器 ・ サービスの検証,モニター調査等,アクセシビリティ全般にかかわる業務です.さらに,アクセシビリティに関する研修や講演等も実施しています.◆会社設立以降,どのようなご苦労がありましたか.

私たちは会社設立と同時に入社し,事業の立ち上げから携わってきました.クラルティとしての強みを活かせることがないかと検討した結果,障がい者や高齢者向けのポータルサイトの制作や,Webアクセシビリティの診断という事業にたどりつきました.しかし,事業を始めて間もないころは,Webアクセシビリティの認知度も低かったため,全く情報が得られないようなWebサイトに改善を申し入れても「デザインは変えられない」と,なかなか改善していただけないという状況に陥りました.

しかし近年,国内でも「障害者権利条約」「障害者基本法」「障害者差別解消法」といった,バリアフリー化に関連する法律や環境が少しずつ整備されたこと,また,NTTグループで率先して取り組んでいることもあり,グループ内ではすぐに改善していただけることが増えてきました.またグループ外でも,この10年ほどの間に,Webサイトのバリアフリーについて,少しずつ認知度が高まり,改善に向け進展し始めました. ◆国内のWebサイトの使い勝手は良くなりましたか.

総じて改善傾向が見られますが,まだ十分とはいえませ

ん.例えば,NTTグループは2016年3月を目途に,公式サイトをJIS規格に準拠したつくりにしようと,多くの会社が改善に取り組んでいます.しかし,現状では公式サイトのみの改善ですから,生活に密着したサービスにかかわるような使用頻度の高いサイトにも規格が適用されなければ,使い勝手にはまだ課題が残るのではないかと思います.

さらに,省庁や自治体といった公的 ・ 公共機関については,必ずアクセシビリティに対応しなければなりませんが,民間企業については努力義務であることが,普及のボトルネックになっていると感じています.障がい者の立場からいえば,むしろ民間が運営している娯楽系や情報系のサイトにアクセスしたいという気持ちがあるのですが,アクセスできないというジレンマがあります.

しかし,国内においてもさまざまな法律が成立し,アクセシビリティに関するJIS規格が策定されるなど,外部環境の変化もあることから,今後,企業の間で,徐々に取り組みが増えていくものと期待しています. ◆スマートフォンなどのアクセシビリティはどうですか.

一方で,新しい技術により,サイトの見せ方が多様化し,操作している間に内容が更新されていくようなサイトが多く見受けられます.技術が向上した分,逆にアクセシビリティが追いつかなくなってきたという現状に葛藤を感じることもあります.

現在はスマートフォンやタブレットという新しい端末も普及し,それらのアクセシビリティについても,私たちは検証しています.しかし,海外から入ってきたツールについては,日本で「障害者差別解消法」が施行される以前に,関連の法令がすでに整備されていたせいか,諸外国のほうが進んでいると感じています.例えば,オーストラリアでは,1992年に「オーストラリア連邦障害者差別禁止法」が制定され,2000年のシドニーオリンピックの組織委員会のサイトが,この法律に基づき苦情を申し立てられ,サイトを改修するとともに,賠償金の支払いが命じられています.また,米国においては1990年に制定された「障害を持つアメリカ人法」に基づき,ディズニーランドがスケジュールやレストランメニューの閲覧,チケットの購入などへの対応を実施しています.

また,スマートフォンには音声読み上げ機能がありますが,ボタンやアイコンだけでは目的の情報にたどり着けないことがあります.以前,ラジオを聴こうと思ったのですが,ラジオ局のアイコンに,TBS ・ 文化放送 ・ ニッポン放送とテキスト情報が入っていなかったため,音声で読み上げてくれませんでした.画像アイコンを配置しても,「ボタン」「ボタン」「ボタン」と読み上げていくだけなのです.健常者ではなかなか気付かない部分を改善することが障が

クラルティならではのバリアフリー化支援で誰もが暮らしやすい生活を営業部 アクセシビリティ推進室 室長 小高公聡さん� 主査 田中章仁さん

小高公聡室長

田中章仁主査

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い当事者が行うアクセシビリティ検証の重要なポイントでもあります.◆アクセシビリティの問題はWebサイトだけにとどまりませんね.実は電子書籍にも問題があります.従来の紙媒体の場合,

視覚障がい者が読むには,誰かに読んでもらうか,点訳や音訳されたものでないと,アクセスができませんでした.一方,電子書籍はデジタルデータですから,音声読み上げ機能があれば,そのまま読み上げられるのではないかと期待していましたが,全く読み上げてくれません.その背景にはコピー問題の懸念があり,出版社側でセキュリティをかけている事情があるからです.そこで,デジタル系のアクセシビリティのソリューションとして,新たに電子書籍向けのソリューションの開発に取り組んでいます.これは,スマートフォンやタブレットを用いて音声で読み上げることが可能な合成音声付きEPUB「おともじん」という,Webアクセシビリティを応用した電子書籍制作サービスです.合成音声の部分には,NTTアイティの「Future Voice Crayon」という技術を使っています. ◆今後どのようなことに取り組みたいと考えていますか.

Webのみならず,障がい者にとっては,まだまだあらゆる所にバリアが存在しています.例えば,私たちは新し

い技術の勉強や最新情報の収集も必要なのですが,それさえも,本が読めなくてはどうにもなりません.ボランティアが朗読している音声付きの書籍は,人気のある文芸作品であれば,種類が豊富にあるようですが,ビジネス誌や技術誌等は手に入れることが難しい.また,音声化するのに半年~1年程度かかりますから,最新分野の技術書は音声化ができたときには,技術が陳腐化してしまう可能性があります.

さらに一歩外に出れば,まだまだ多くのバリアがありますから,それらを1つでも改善できればと考えています.研究所の技術がバリアの解消につながることもあると思いますから,協力しながら一緒にバリアフリー化の支援につなげていけるような業務に取り組みたいと考えています.

その一方で,最近は各駅にエレベータが普及し,車椅子でも公共の交通機関を利用しやすくなってきたと思います.このように,今までのバリアが少し改善されることで,障がい者も積極的に社会に出て行くことができると考えています.Webだけに限らず,製品やサービスから,どんどんバリアを取り除くために,さまざまな企業と協力し,アクセシビリティ改善の可能性を探りながら,業務を遂行したいと思います.

■知的好奇心を満たすビブリオバトルを開催!ビブリオバトル(Bibliobattle)をご存じでしょうか.1人ずつ面白いと思った本の魅力を5分で紹介し,参加者全員で一番読みたくなった本を投票により選ぶ「知的書評合戦」のことです.NTTクラルティでは,離れている拠点に一体感を持たせたいという趣旨から,全拠点をTV会議で結び,年2~3回,このバトルを行います.発表者にはそれぞれ応援団がつき,うちわや鳴り物で派手な応援合戦が繰り広げられるそうです(写真 1).ちなみに発表する本のジャンルに特に制限はなく,漫画もOKだとか.最近は,ビブリオバトルから発展し,フードバトルやメディア(映画)バトルも開催されるそうです.■パラリンピック出場も夢ではない,クラルティの社外活動同社には,アスリートの顔を持つ社員が大勢います.その中には世界レベルのスポーツ大会で活躍している人も少なくありません.例えば,ブラインドサッカー(視覚障がい)の日本代表選手やCPサッカー(脳性まひ)日本代表選手,さらにフィギュアスケートの知的障がい部門やフライングディスク,車いすバスケットボール,視覚障がい者マラソン等,皆さん多彩なスポーツで活躍しておられます(写真 2).中にはスペシャルオリンピックス日本に出場して銀メダルを取った方や,パラリンピック出場をめざす方もいらっしゃいます.また,「障がい者の主張」大会での知事賞を受賞された方もいて,社外でも大活躍しています.■CSR活動にも力を入れていますNTTクラルティでは,NTTグループだけではなく,一般の企業や学校関係者の方など,多くの方に,障がいに配慮された社内設備や業務の様子などを見学していただき,2015年度は,武蔵野 ・札幌 ・塩山合わせて約400名の方がお越しになったそうです.また,特別支援学校 ・ろう学校に通う障がいのある生徒さんや,手話通訳士をめざす方の職場実習の受け入れも行っています.その他,講演会で社員が講師を務めたり,地域貢献活動として近隣の小学校で出張授業を行うなど,障がいに関する理解を深めるためにさまざまな活動を行っています.

NTTクラルティア・ラ・カルトア・ラ・カルト

写真 1

写真 2