イタリアの上場会社における...

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  55

はじめに

 イタリアの株式会社については,その規模の大小を問わず,またその発

行する株式が取引所において公開されているかどうかを問わず,多くの会

社の株式の所有構造上,支配的な株主が存在しており,そのような株主に

過度の支配権の集中がみられることが特徴的であると言われてきた(1)。そ

のような支配権の集中は,ときに過半数の株式保有によって実現され,と

( 1)  イタリアにおいて支配権集中問題は長い歴史をもつとされ,上場会社に対するある調査によれば,1947年,1987年と2000年の各年度の上場会社のうち20%の持ち株比率を有する支配株主の存在が確認できない会社数が全体に占める割合がそれぞれ10%,4.35%と12.99%であるとされた(Aganin Alexander and Paolo Volpin, The History of Corporate Ownership in Italy, in Randall K. Morck ed. A HISTORY OF CORPORATE GOVERNANCE AROUND THE WORLD: FAMILY BUSINESS GROUPS TO PROFESSIONAL MANAGERS (University of Chicago Press, 2005) at 325─59)。

論  説

イタリアの上場会社における 支配権集中問題の現状と課題

李   艶 紅

はじめにⅠ イタリアの上場会社おける株式所有構造Ⅱ イタリアの上場会社における支配権集中の状況Ⅲ 支配権強化メカニズム(CEMs)の利用状況Ⅳ 支配権集中に見られた変化の原因分析をめぐっておわりに

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56  比較法学 49巻 2号

きに半数以下の株式保有によっても実現されてきた。とくに,上場会社で

は,後者の株式所有形態,すなわち,一定割合(半数以下)の株式保有の

みによって,会社やその会社が支配的な地位を占める他の会社に対して実

質的な支配権を行使する例が多くみられる。このような支配構造は一般的

に「ピラミッド支配構造」と称される。また,一部の株式会社またはいく

つかの株式会社が利益共同体としてのグループを形成している場合におい

ては,少量のみの株式を保有しつつ、株主間契約(グループ内部において

は株主間契約が実質的に会社間契約となる)を通じて,関連する会社間にお

いて支配権を固定化または強化している例もみられる。さらには,無議決

権優先株式(貯蓄株式とも呼ばれる)などの種類株式を発行し,当該種類

の株式を保有する株主に対して当該株式会社の重大な経営判断事項につい

て拒否権を付与している例もみられる。

 他方で,イタリア政府や地方政府が一定程度の影響力を及ぼしている株

式会社においては,いわゆる「黄金株」を利用し,政府等が当該会社に対

する一定の支配権を留保してきている例もみられる。とりわけ公的なサー

ビスまたは国家の基幹産業に関連する株式会社についてそうした例は多

い。

 このようにして,イタリアにおいては,閉鎖的な中小規模の株式会社か

ら,上場した大規模の株式会社に至るまで,支配権集中問題が 1つの大き

な特徴となっており,上述したようなさまざまな取り決め等によって,そ

のような状況が作り出されてきている。これらの取り決めについては,一

般的に投下資本と会社支配権との間の不均衡的な関連を持たせるものとし

て特定され,支配権強化メカニズム(Control Enhancing Mechanisms,

CEMs)として定義されるとともに,そうした CEMsはヨーロッパ諸国に

おいて伝統的に利用されてきたとされる。イタリアもまさにそうした国の

1つであるといえよう。

 ところが,近年の調査研究によれば,イタリアでは CEMsの利用例が

減少傾向にあるとされている。本稿は,そのような変化がみられた状況に

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  57

注目し,近時の調査文献などを通じてその変化の状況を確認し,変化をもた

らした要因を探るものである。

Ⅰ イタリアの上場会社おける株式所有構造

 本章では,イタリアの上場会社の株式所有構造について概観し,支配的

な地位にある株主の属性について紹介する。

 イタリア上場会社における会社支配の形態は以下の 2つに大別される。

すなわち,(a) 1人の株主が独自で支配的な株式(controlling share)を所

有する形態,(b)共通の利害関係を有する株主グループによって当該上

場会社を支配する形態である(2)。

1  特定株主による単独支配

 イタリアでは,たとえ大規模な会社であっても 1人の株主が支配的な割

合の株式を所有している例が多くみられる。また,そのような支配的な株

主は, 1人の個人(individaul)ではなく,さらに他の株主によって支配さ

れている中間的な持株会社(a holding company)であるというのが典型的

である。

 バーリー&ミーンズの著書(3) においても紹介された,支配権を維持する

ためのツールとして「ピラミッド構造(pyramided)」というデバイスは,

イタリアにおいて広く利用されてきている。このピラミッド構造を構築す

ることによって,頂点に位置する株主は,支配権を留保しつつ,その構造

のなかでつながりを持つメンバー会社の 1社または複数社を取引所に上場

( 2)  Lorenzo Stanghellini, Corporate Governance in Italy: Strong Owners, Faithful Managers. An Assessment and a Proposal for Reform, 6: 1 Ind. Int’l & Comp. L. Rev. 91, 126─68.

( 3)  Adolf A. Berle, JR. & Gardiner C. Means, THE MODERN CORPORATION AND PRIVATE PROVERTY (1932), at 72─75.

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させうることから,長期間にわたって,こうした構造の有効性(effects)

は増幅されてきた(amplify)(4)。

2  株主グループによる支配

 イタリアにおいては,ほぼすべての上場会社が株主グループによって支

配されているとされ,そして,そのような株主グループは主に 3つの形態

があるとされる。すなわち,第 1の形態は,家族構成員による株主グルー

プであり,家族が支配しているものである。第 2の形態は,株主間契約を

通じて利害関係を共有する株主のグループが支配するものである。第 3の

形態は,民営化された会社において政府またはその代表者が支配権を有し

ている場合である(5)。以下,これら 3つの形態について紹介する。

( 1 ) 家族による支配

 家族支配は一般的に家族企業の創設過程における遺留物であるとされ

る。家族企業においては,株主間の関連性が強く,株主グループは利害関

係を共有し,株主間契約などといった束縛を必要としないことが一般的で

ある。ところが,家族企業におけるこのような株主グループの拡大または

株主間の関連性が希薄である場合においては,株主間契約の締結を選ぶこ

とがしばしばみられる。

( 2 ) 株主間契約を通じた支配

 株主間契約が会社支配の場面において広く利用されてきている場面は主

に 2つある。 1つは,高い割合の株式を保有する株主が,会社のコーポレ

ート・ガバナンスに関連する事項について何らかの取り決めを定めておき

( 4)  2001年に出版された書籍によれば,当時のイタリアにおいて産業企業の53%がピラミッド構造に内包されているとされた(Bianchi Marcello, Magda Bianco and Luca Enriques, Pyramidal Groups and the Separation between Ownership and Control in Italy, in Fabrizio Barca and Marco Becht ed. THE CONTROL OF CORPORATE EUROPE, Oxford University Press, 2001) at 154─86。

( 5)  A. Alexander and P. Volpin, supra note 1 at 330─332.なお,それぞれの形態に関する分節も,A. Alexander and P. Volpinの文献による。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  59

たい場合,そしてもう 1つは,低い割合の株式を保有する株主が,会社の

その他の大株主との間にさまざまな取り決めをしておくことによって会社

に対する一定の支配権を留保しておきたい場合において利用される。株主

間契約はその利用目的または契約内容によってさまざまであり,広範に利

用されてきてはいるものの,その契約自体の正当性と実現可能性について

疑わしいものもあるとされる。

( 3 ) 民営化会社における政府等の支配

 イタリアでは,1990年代に民営化された公的な企業において,政府等の

大株主が自らを取締役として選任し,自らの代理人をそうした会社に送り

込むという実態が見られてきている。

Ⅱ イタリアの上場会社における支配権集中の状況

 イタリアの上場会社における支配権集中の状況を知るため,本稿では,

以下, 3つの資料を取り上げたい。

1  CONSOB 資料から見た状況

 CONSOB(Commissione Nazionale per le Socieà e la Borsa, CONSOB, イタリ

ア証券取引委員会(英:Italian Securities and Exchange Commission))はイタ

リア上場会社のコーポレート・ガバナンスに関する年次報告書(Report on

corporate governance of Italian listed companies)を2012年から発表してき

ている(6)。2014年版が 3回目の報告書であり,2012年の報告書はイタリア

( 6)  CONSOBによるこのような年次報告書は,CONSOBのホームページにおいて1998年版までにさかのぼることができる。年次報告書のタイトルと内容が年度によって異なるが,とりわけ「上場会社の所有関係と支配構造」に関する情報は過去の報告書においても少なからず得られる。本稿はこれらをも参考にする(available at: (http://www.consob.it/mainen/consob/publications/annual_report/annual_report.html?symblink=/mainen/consob/publications/annual_report/index.html) last visited 30, JUN 2015)。

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語による16頁の簡略なものであるのに対して,2013と2014年版は英語によ

る40頁を超える報告書となっており,その内容は,イタリア上場会社にお

ける所有関係と支配構造(第 1章),会社の機関(第 2章),年次株主総会(第 3章)および関連取引(第 4章)に関するものとなっている(7)。以下,

本稿では,主として2014年の年次報告書(以下,「2014 Report」または,「報

告書」という)の「第 1章 上場会社の所有関係と支配構造」の部分のみ

を取り上げ,適宜前年度の関係箇所と比較しながら紹介する。

 報告書第 1章の冒頭では,以下のような総説が掲げられている。

 「高度な集中所有とそれによる支配権移転の競争可能性が制限されて

いることが,依然としてイタリア上場企業の重要な特徴であり,それ

は,支配モデルと所有構造に関する2013年末までのデータによって示さ

れたとおりである。

 上場会社のほぼ70%(それは市場資本総額のおよそ64%を計上する)が,

普通株式の半分以上の割合を保有する 1人の株主(「過半数支配会社

(“majority controlled companies”)」),または,50%より少ない割合しか保

有していないものの,支配的な地位を有している 1人の株主(低持分支

配会社“weakly controlled companies”)のいずれかによって支配されてい

る(majority controlled)。このような 2種類の支配構造(coalitional control

structures)に関しては,2013年12月末時点において,上場企業数(244社

のうち38社)と市場資本総額における比重(10.4%)との双方がそれぞれ

の歴史上の記録(それぞれが,1998年には28社と8.3%)に比べた場合,

2010年の数値において下落はあったものの(それぞれ,51社と12.4%),

依然として高い水準を維持してきている。」。

( 7)  2012年から2014年のコーポレートガバナンス年次報告書の全文は CONSOBのホームページにおいて入手できる(http://www.consob.it/mainen/consob/publications/rcg/index.html) last visited 30, JUN 2015。以下,これら 3年間の報告書の引用に際しては,それぞれ,2012 Report,2013 Reportと2014 Reportとする。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  61

 また,2013年末までの統計によれば,わずか10社が分散所有,すなわ

ち,何らの支配関係も確認されていない会社(widely held)として分類さ

れた(8)。こうした2014 Reporrtでも分かるように,従来から,支配権の集

中は,その態様が,過半数支配会社と低持分支配会社に分かれているもの

の,イタリアの上場会社における「重要な特徴」となっている。

 また,2014 Reportによれば,2013年12月末までのイタリアにおける上場

会社数は244社であり,それらは,大きく 3つに分類されるという。もっ

とも多いのは産業部門の会社136社であって上場会社総数の55.8%を占め

ており,それに次ぐサービス部門の会社数は55社であって22.5%を占め,

第三の金融関係の会社は53社であって21.7%を占めているという(9)。

 さらに,2014 Reportでは,イタリア上場会社の支配モデルに関して

1998年および2010年から2013年までの各年のデータを公表し,その変化を

示している。

 すなわち,前述したように,会社の支配モデルを「過半数支配会社」,

「低持分支配会社」,「株主間契約支配会社」および「非支配会社」(10)に大き

く分類している(11)。そのうえで,2014 Reportのデータによると,1998年,

そして2010年から2013年までの間に,過半数支配会社はほとんど変わるこ

となく上場会社総数の半数前後を占めており,それに比べると低持分支配

会社数は 3割から 4割の間を推移してきているものの,市場資本総額比の

割合としては,過半数支配会社が減少傾向にあることとは反対に低持分支

配会社は増加傾向にあるとされる(12)。

 このような変化について,2014 Reportでは関連する説明は見当たらな

( 8)  2014 Report, supra note 7 at 11.( 9)  2014 Report, supra note 7 at 12.(10)  非支配会社をさらに,「共同会社(cooperative companies)」,「分散所有会

社」に分類した。2014 Report, supra note 7 at 13.(11)  なお,これら以外にいずれの類型にも属さないモデルに関して「非分散所有

会社(non─widely held)」に分類した。2014 Report, supra note 7 at 13.(12)  詳しくは,以下のとおりである。2014 Report supra note 7 at 13.

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い。ただ,低持分支配会社数は2010年以降,上場会社総数において占める

割合が大きくなってきており,それに伴って市場資本総額に占める比率も

増加し,もっとも多いときである2011年には45.8%を占めていたことは明

らかである(13)。

2  2012年調査論文から見た状況

 CONSOBによる調査以外にも,イタリア上場会社の株式所有状況に関

する資料が数多く存在する。その中でも,2012年に三人の研究者によって

発表された文献を取り上げる。なぜならば,かかる文献は確認可能な全て

の上場会社を対象に,歴史的に遡って調査可能なデータを元にしている点

に特徴があるからである。同文献は,Francesca Cuomo(14) 氏 , Alessandro

Zattoni(15) 氏および Giovanni Valentini(16) 氏による The Effects of Legal

  

Table 1.2─Control model of Italian companies(end of the year)

controlled companies non─controlled companies total

majority controlled1

weakly controlled2

controlled by a shareholders” agreement3

cooperative companies

widely held4

non─widely held5

no.%

market cap6

no.%

market cap6

no.%

market cap6

no.%

market cap6

no.%

market cap6

no.%

market cap6

no.%

market cap6

1998 122 31.2 33 21.8 28 8.3 10 3.1 10 24.1 13 11.5 216 100.0

2010 128 20.6 53 43.0 51 12.4 8 3.4 11 20.3 19 0.3 270 100.0

2011 123 22.3 55 45.8 48 12.0 8 3.2 8 16.4 18 0.3 260 100.0

2012 125 22.8 49 44.0 42 10.1 8 3.2 10 19.2 17 0.7 251 100.0

2013 122 24.1 48 40.1 38 10.4 8 3.3 10 21.6 18 0.5 244 100.0

(13)  同上。(14)  Francesca Cuomo, Norwich Business School, University of East Anglia.専門分

野は,コーポレートガバナンスなど。(15)  Alessandro Zattoni, Parthenope University, Naples, Italy and Bocconi

University, Milan, Italy.専門分野は,経営とコーポレートガバナンスなど。(16)  Giovanni Valentini, Bocconi University.専門分野は,テクノロジーと産業政策

分野など。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  63

Reforms on the Ownership of Listed Companies(17) (以下,「2012年調査文献」

という)である。

 2012年調査文献は,イタリアの銀行と保険会社を除いた(18) すべての上

場会社について,1985年,1995年,2000年と2005年の 4つの年度のデータ

を収集し,(ⅰ)集中的所有(ownership concentration)の状況,(ⅱ)CEMs

の利用件数,および(ⅲ)所有と支配の比率(ownership─control ratio)の

3つの観点から調査分析を行っている。

 (ⅰ) 集中的所有について

 2012年調査文献によれば,当該調査では普通株式(ordinary shares)を

2%以上保有する株主に対して情報を収集して,直接保有第一株主(the

first direct shareholder)(19) の持ち株比率を通じて所有関係の集中を調査し

た。

 (ⅱ) CEMsの数について

 同調査文献においては,会社が支配権とキャッシュフローに関する権利

とのかい離を意図する法的なディバイスの利用状況についても調べた。調

査対象は,欧州においてもっとも普及されてきたピラミッド構造,デュア

ルクラス構造およびシンジケート契約に限定して,年度ごとにどれくらい

の数のそれらデバイスが利用されたかを調査している。

 (ⅲ) 所有と支配の比率

 所有と支配の比率を調べるために,2012年調査文献では,上場会社にお

ける特定支配株主(the ultimate owner)のキャッシュフローに関する権利

と会社支配権との間のレートを計算してデータを集積している。所有と支

(17)  Industrial and Corporate Change, Vol. 22, No. 2, at 427─458, JUN, 2012. available at, http://icc.oxfordjournals.org/content/early/2012/06/12/icc.dts015.abstract, last visited 30, JUN 2015.

(18)  銀行と保険会社を排除した理由として,当該分野の会社が銀行法またはその他の関連法規によって規律するためであると説明された(2012年調査文献434頁)。

(19)  普通株式を直接にもっとも高い持ち株比率を保有する株主のことを言う。

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配の比率は,それが低ければ低いほど,本来はキャッシュフローに関する

権限に比例すべき支配権が強いことになる。比率の数値が 1に近いほど,

支配権と所有関係との間のかい離の度合いが低いこととなり,比率の数値

が 0に近いということが意味するところは,当該かい離の度合いが高いこ

とであるとされている(20)。

 こうした 3つの観点からの調査分析の結果,サンプルとされたすべての

会社の1995から2005年までの間の平均値の変化が明らかになった。すなわ

ち下記の表 1と 2が示すように,CEMsの採用数が減じられ,所有と支配と

の間の均衡が取れつつあり,集中所有が減少傾向にあるということである。

 また,これら計算された指標の各年度の比較は以下のようになってい

る(21)。

 指標の変化からもわかるように,集中所有は少しずつではあるが減少し

てきており,また,CEMsの数に関しても2005年の指標は1985年と1995年

に比べればほぼ半減されてきている。反対に,所有と支配の比率に関して

は,増加傾向がみられる。その比率は1985年の0.76,1995年の0.81と2005

(20)  2012年調査文献435頁。(21)  “Table 3 Means and t─test for differences in mean of ownership structure

variables over time”より一部引用(2012年調査文献441頁)。(22)  “Figure 1 Ownership structure indicators: average before and after legal

reforms (1995─2005)” (2012年調査文献440頁)。

表 1 :1995年~2005年所有関係指標(Ownership Structure Indicators)の変化(22)

1

0.8

0.6

0.4

2

1.5

0.5

0

1

1995 2005Year

CE

Ms

O/C

rat

io; O

wn.

Con

c.

O/C ratioOwn. Conc.CEMs

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  65

年の0.92と推移してきており,少しずつ 1に近づいてきていることに注目

すれば,所有と支配は比例関係に近づいてきているようである。言い換え

れば,特定支配株主が保有する普通株式の割合とそれが表彰する議決権と

の間に存在する不均衡が 1株 1議決権原則の場合の均衡さに近づいてきて

いるということが言えそうである。集中所有に関する指標が1985年の

0.58,1995年の0.55および2005年の0.50と推移してきており,特定株主によ

る集中所有の度合いがさほど変化してきていないとするならば,CEMsの

利用数の減少にあらわれているように,特定支配株主が支配権を行使する

ツールを放棄してきたために所有と支配の比率が 1に近づいてきたことと

考えられよう。他方で,2012年の文献のなかでは,具体的な会社の持ち株

(23)  2012年調査文献では,イタリアにおいてもっとも大規模なプライベート・グループである the Agnelli groupのみを取り上げた。Agnelli groupのメイン企業が Fiat S. p. Aである。

集中所有(%) CEMsの数 所有と支配の比率(%)

1985年 57.63 29 0.30

1995年 54.19 39 0.50

2000年 61.01 12 0.77

2005年 63.62 9 0.81

   調査文献が示したように,特定支配株主による集中所有の割合は逓増であるのに対して,ピラミッド構造などの CEMs数の減少に伴い,所有と支配の比率は 1に近づいてきていることが見て取れる(2012年調査文献に基づき,上記表は筆者作成)。

表 2 :1995年~2005年所有関係指標(Ownership Structure Indicators)の変化

集中的所有 CEMsの数 所有と支配の比率

1985年 0.58 1.04 0.76

1995年 0.55 1.12 0.81

2005年 0.50 0.55 0.92

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66  比較法学 49巻 2号

比率に関するデータは 1例しか提供されていない(23)。したがって,特定

株主による普通株式の所有比率に変化があるかどうかについては,さらに

他のデータをみる必要がある。

3  EU 裁判所「黄金株」判決後の株式所有構造

( 1 ) イタリア「黄金株」判決

 イタリアでは,1990年代に通信部門と金融部門を中心に国有企業の民営

化が進められた。当時はヨーロッパ統合からの外圧も存在したが,第二次

世界大戦後から維持されてきた混合経済という経済構造の元で,国有企業

の民営化は,「国家財政への負担の軽減」,「当該企業の負債の削減」など

の解決策として導入された(24)。OECDは,イタリアを「1993年から98年

までの間でもっとも民営化が進んだ国」と評価したが,たしかに1990年代

のイタリアにおける民営化政策は1990年に GDP比で10.9%に達していた

財政赤字を1999年には 2%程度にまで縮小させるというめざましい成果を

上げていた(25)。

 他方で,イタリアの民営化政策の実施過程では,他の欧州諸国でもみら

れるように「黄金株(golden shares)」の利用が認められた。すなわち,株式

を市場に公開する一方,政府またはその関係者にある種の特別な権利を留

保するために特別の株式が用いられたのである。このような「黄金株」の

利用は,1990年代当初の段階から EU(当時は EC)委員会によって批判的

に受けとめられ,後にこの問題は EU委員会によって EU裁判所に提訴さ

れるに至った(26)。

(24)  堺憲一「1990年代におけるイタリア経済の特質」東京経大学会誌281号(2007年)199─231頁。

(25)  小林浩人「民営化の進展と今後の見通し(イタリア)」JETROユーロトレンド Report 5 33─42頁(2000年)。

(26)  「黄金株」事例については,拙稿「EUにおける『黄金株(golden shares)』を通じた会社支配のあり方─ EU裁判所の判例分析を中心に─」早大法誌64巻1号283─338頁(2013年)。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  67

 具体的には,2000年に EU委員会が提訴した事例(European Commission

v. Italian Republic [2000])(27),2005年事例(European Commission v. Italian

Republic [2005])(28) と2009年事例(European Commission v. Italian Republic

[2009])(29) がある。また,それら以外にも,EU委員会によって提訴され

たわけではないが,ミラノ市政府が保有していた「黄金株」に関して先決

判決が求められた2007年事例(Federconsumatori and others v. Comune di

Milano [2007])(30) もある(以下,個別事例を取り上げる場合を除き,これらの

事例を「イタリアにおける『黄金株』判決」と総称する)。

 EU裁判所は,いずれの事例においても,「資本移動の自由」と「開業

の権利」に違反すると判示した。すなわち,イタリア民法典に法的根拠を

持って制定された特別法で存在していた場合であっても,「黄金株」に付

与された特別権利が定められる必要性と妥当性が求められ,上記の 4つの

事例では,いずれも必要性と妥当性は認められないとされたのである。そ

の理由は,「黄金株」の利用については,極めて例外的に,かつ限定的に

しか認められない,というものであった。もっとも,イタリアにおける勅

令192/2001号においては,同勅令の適用を受ける会社を「その適用範囲

は,EU域内における電力とガス分野の完全な自由競争市場が完成される

までの間に,イタリア国内で行われている当該分野の自由化と民営化の進

行状態を保護するために,国家または他の公権力に直接または間接的に支

配され,かつ,国内市場で支配的な地位を占めるものの,正規の金融市場

に上場されていない企業法人を対象にする」(31) といった形で限定していた

が,それでも「黄金株」として付与された特別な権利は EU裁判所によっ

て否定された。

(27)  Case C─58/99, ECR I─03811.(28)  Case C─174/04, ECR I─04933.(29)  Case C─326/07 ECR I─2291.(30)  Case C─463/04 and C─464/04, ECR I─10419.(31)  Commission v. Italian Republic [2005], para.6.

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68  比較法学 49巻 2号

 イタリアの場合,上記のように主に勅令(décret)を通じて,国務大臣

に対して特殊な権限を付与する「黄金株条項(“golden share” clauses)」を

会社の定款に記載し,国家に対して特権が付与されてきた。具体的な勅令

の内容は,その関係する分野によってさまざまであるが,勅令の根拠とな

る法規定はイタリア民法典にある。すなわち,イタリア民法典2449条(32)

によれば,「国家または地方公共団体が株式会社に参加する場合には,そ

の定款において 1人または数人の取締役または監査役を任命する権限を付

与することができる」( 1項)と定められているのである。また,「そのよ

うな取締役または監査役は,当該役員を任命した団体によってのみ解任で

き,かつ,総会によって任命された役員の同様の権利と義務を有する」( 2項)とも定められている。さらに,同2452条においては,「本節の諸規

定は国民的利益にかかわる株式会社においても,その会社事務,株式の移

転,議決権ならびに取締役,監査役および指導者の任命に関して,当該株

式会社につき特別な規律を定めた特別法の諸規定と両立しうる限りにおい

て適用される」と定められている(33)。

 このような法規定の下,「黄金株条項」に関しては,以下のように具体

的な利用例が見られた。

 第 1に,1994年 7月30日勅令332/1994(GURI No 177 of 30 Jul. 1994)「株

式会社において国家と公的機関によって保有された株式持分の売却のため

の促進手続き(acceleration of the procedures)」 2条により,国家の安全保

障,運送,電信,エネルギー源とその他の公共サービス分野において活動

する国家が支配する会社の支配権を放棄するに先立ち,国務大臣が行使で

きる一定の権限を留保するために,臨時株主総会の決議を通じて, 1つま

たは複数の「特別な権限」が付随した 1つの「条項」がその会社の定款に

(32)  イタリア民法典第 5編労働・第 5章会社・第 5節株式会社・第12款「国家または地方公共団体の参加する会社」に定めている(風間鶴寿『全訳イタリア民法(追補版)─民法・商法・労働法─』(1973年,法律文化社)376頁参照。)。

(33)  イタリア民法典第 5編労働・第 5章会社・第 5節株式会社・第13款「国民的利益にかかわる会社」に定めている(風間・前掲注32,377頁参照。)。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  69

導入されなければならないとされた。そのうえで,かかる「特別な権限」

について,政府の特別承認権,政府による 1人以上の取締役または 1人の

監査役の指名権および政府が会社の一部決定に対する拒否権であると具体

的に明示された(34)。これらの規定に基づき,イタリア政府によって,1995

年10月 5日にはエネルギー部門の会社 ENI S. p. Aの定款に,1997年 3月21

日には通信分野の会社 STET S. p. Aと Telecom Italia S. p. Aの定款に,そ

れぞれ「黄金株」条項が盛り込まれた(35)。

 第 2に,2001年 5月25日勅令192/2001号において,電気とガス分野の会

社について, 2%以上の株式を保有する株主の議決権は自動的に停止する

と規定された。すなわち,そのような会社の株式資本において,その取得

方法の如何を問わず, 2%を超えた株式保有については,超過した部分の株

式の議決権は自動的に停止されなければならず,かつ,株主総会(deliberative meetings)における定足数に算入されてはならないとされたの

である。また,将来のまたは繰延べられた取得権利あるいは応募する権利

も同様に行使されてはならないとされた(36)。

 第 3に,イタリア民法典2449条の規定と勅令474/1994号の結合的な規

定がある。

 民法典2449条の規定は既に述べたとおりであるが,それに基づいて制定

された,勅令474/1994号 4条 1項の規定によれば,直接または間接的に

政府または公的機関に支配される会社において,取締役の選任は「リス

ト・システム」に従わなければならないと定められた。当該システムによ

れば,政府には,それが有する議決権とは関係なく,取締役の選任権とい

う「特別な権利」が認められることとなる(37)。

 実際,上記の規定にしたがって,ミラノの市有企業であった AEM S. p.

(34)  Commission v. Italian Republic [2000], para. 1 and 3.(35)  Id., para. 6.(36)  Commission v. Italian Republic [2005], para. 6.(37)  Federconsumatori and others v. Comune di Milano [2007], paras. 4, 5 and 14.

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70  比較法学 49巻 2号

Aの民営化のプロセスの中で,ミラノ市議会は,ミラノ市が当該会社の株

式資本の33.4%を保有することを条件として,当該会社の取締役会構成員

数の 4分の 1を超えない取締役を選任できる権利を同社の定款に記載する

旨を決議した。これに加えて,市議会には AEM S. p. Aの定款規定によっ

て,市議会が直接選任できない取締役の選出「リスト」の作成に参加でき

る権利が付与された。すなわち,ミラノ市は,AEM S. p. Aにおいてその

資本の相対的多数(33.4%)を有するに過ぎないにもかかわらず,取締役

の絶対的多数を実質的に選任できる権限を自己のために留保することとな

ったのである(38)。

( 2 ) 「黄金株」判決以降における当該会社の所有構造

 「黄金株」判決において,EU裁判所は,イタリア政府またはミラノ市

が各関係する会社において行使してきた特別な権利は投資者の投資意欲を

阻害するものであると判示した。そのため,これらの一連の「黄金株」判

決以降,イタリアでは2012年の勅令21/2012と56/2012をもって1994年民営

化法の改正を行った。1994年法と比較すれば2012年勅令は,株式の所有制

限,会社支配権に関する特別な権利の定めなど詳細な規定を設けている。

さらに,勅令21/2012で見られた文言は,後に同56/2012によってさらに

厳格なものに変更されるなどした(39)。

 ところで,EU裁判所による一連の「黄金株」判決以降,これらの関係

(38)  Id., paras. 9 and 10.(39)  勅令21/2012において,「国防および国家安全分野ならびにエネルギー,運

送と通信産業部門に関連する企業の所有関係に対する特別権利に関する規則」と定めたところを,勅令56/2012では「勅令によって特定したネットワーク,製品,装備および関連する他のものなどが……関連分野において政策的に重要なものである」などといったより厳格な文言による規定が見られた。EU委員会によれば,2011年現在同委員会が,イタリアにおける通信・資源分野に関連する国内法上に定められた「黄金株」関連規定が資本移動の自由原則と開業の自由に違反するため EU裁判所に提訴する判断を出していたところ,このような2012年法改正がなされたため,EU委員会は引き続き同国の動向を注目したいと示した(OJ C 208, 3.7.2014 at 414)。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  71

する会社において政府が保有していた株式または政府に認められていた特

別権利に変化はあったのだろうか。いくつかの上場会社のコーポレート・

ガバナンス・レポートと年次報告書を確認したところ,政府による持ち株

比率の減少などが見られ,またそれらの株式に付随された特別な権利に関

する修正も見られた(40)。しかしながら,そのような修正が関連する各社

の株式所有関係において著しい変化をもたらすまでには至っていないよう

である。とりわけ,ピラミッド構造,株主関契約および議決権種類株式(議決権優先株式(41))などのメカニズムを組み合わせて利用し,継続して

実質的支配を行っているように見受けられる。

3  小括

 本章では,CONSOBの調査資料,2012年調査文献および「黄金株」判

決後の関連するいくつかの会社の実態についてみてきた。CONSOB資料

と2012年調査文献によれば,イタリア上場会社において株式の集中所有構

造が明らかにされたと同時に CEMsの利用が減少していたことが見受け

(40) 産業分類 CEMsの利用

政府保有割合

1990年代 現在 (2014年末)

ENI S. p. A エネルギー 不明 37.6% 30%

Telecom Italia S. p. A 通信 ある 5.2% 0%

AEM S. p. A エネルギー ある 49% 33.4%

ENEL エネルギー 不明 64.5% 25.5%

FINMECCANICA 国防・航空 ある 30% 30%

   上記会社のホームページなどを参照し,筆者によって作成。(41)  ここでいう議決権優先株式は,それを利用した会社によって名称が異なるの

みならず,実際に議決権の行使の有無,行使対象事項に関しても会社ごとに事情が異なり,なお,一般的に“Savings Shares”という名称が定着しているようである(たとえば,Telecom Italia S. p. Aなど。同社2014年度コーポレート・ガバナンス・レポート参照 http://www.telecomitalia.com/content/dam/telecomitalia/en/archive/documents/governance/cg_annual_report/2014/relazione─CG─2013─ENG.pdf)。

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られた。しかしながら,実態としては,「黄金株」判決後も,関連する会

社においては,CEMsの利用例の減少があるとは必ずしも言えないようで

ある。この点は,後述するように,EU報告書を通じても窺い知ることが

できる。

Ⅲ 支配権強化メカニズム(CEMs)の利用状況

1  EU 比例性原則に関する報告書

 2007年に EU委員会は,EUにおける比例性原則に関する報告書(Report

on the proportionality principle in the European Union, 2007(42)(以下,「EU報告書」と

いう))を公表した。比例性原則とは,「資本と支配の比例性(proportionality)」(43)

のことである。EU報告書では,その調査目的について,EU域内上場会

社において比例性原則に対するさまざまな「逸脱(diversions)」の存在を

特定するためであるとし,とりわけ EU構成国レベルにおいてどのような

関連規制が置かれ,それらの「逸脱」の経済的重要性,そしてさまざまな

「逸脱」が EU投資者に対していかなる影響を及ぼしているのかを評価す

るためであるとした(44)。ここで言う「逸脱」について,同報告書は,「支

配権強化メカニズム」(Control Enhancing Mechanisms, CEMs)がこれに該

当するとし,調査対象地域の上場会社をサンプルとして,利用状況の詳細

(42)  Shearman & Sterling LLP, Institutional Shareholder Services Europe (ISS Europe) and ECGI, Proportionality Between Ownership and Control in EU Listed Companies External Study Commissioned by the European Commission.

(43)  比例性については,「最終的な経済的リスクと会社支配との間の比例性のことであり,会社の利益または清算における残余財産分配に参加する無制限の権利を有する株式資本およびそのような株式資本だけが,負担するリスクに比例して,通常,支配権を持つべきであるということを意味する。会社の残余の利益および財産に対する権利の保有者は,それらの決定の最終的な効果がそれらによって負担されるように,会社の事項について決定するためにもっとも適切に与えられている」と解される。

(44)  EU報告書, 7頁。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  73

をまとめた。

 EU報告書によれば,CEMsとは,「株式会社における支配権(議決権の

割合)が投下資本の割合に比例せず,投下資本以上の会社支配権を獲得す

ることによって,特定の株主が支配権を強化するなどのことを可能にする

仕組みの総称」であるとされる(45)。

 これらの CEMsの多くは,いわゆるファミリー企業における創業者一

族などの支配株主が長期的に安定した経営を維持するために用いられてき

た伝統があるとされる。

 EU報告書は,EU構成国16か国のほかに,アメリカ,オーストラリア

および日本の計19カ国の規制の枠組みを調査し,EU域内464の上場会社

を対象に行ったアンケート調査などに基づいて作成されたものである。

EU16か国とは,ベルギー,ドイツ,デンマーク,エストニア,フィンラ

ンド,フランス,ギリシア,ハンガリー,アイルランド,イタリア,ルク

センブルク,オランダ,ポーランド,スウェーデン,スペインおよびイギ

リスである。EU域内464の上場会社の内訳は,上記16の対象構成国の各

国における20社の大規模上場会社(Market Cap (<€2bn) Top 20)と,国によ

って会社数は異なるが,直近に上場した小規模会社(Small and recently

listed companies)が含まれている。その中で,イタリアについては,大規

模上場会社20社と直近に上場した小規模会社19社の合計39社がサンプルと

された。

 同調査結果によれば,EU諸国では,これまでさまざまな CEMsが利用

されてきていることが明らかにされた。イタリアの場合もその例に漏れ

ず,報告書の調査結果に掲げられた13種類の CEMsのうち,複数議決権

株式,預託証書(depository certificates)と議決権上限設定が法規制上禁止

されているものの(ただし,複数議決権利制度については,2014年から 1株あ

たり 2倍の議決権の付与を限度に認められるようになった),それらを除いた

(45)  EU報告書, 7頁。

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9種類の CEMsが利用可能であるとされた(46)。また,実際に,イタリア

の上場会社39社のなかで,59%の会社においてさまざまな CEMsが利用さ

れているとされた(47)。そのうえで,イタリアの上場会社のなかでもっと

も一般的に利用されてきた CEMsの種類としては,株主間契約とピラミ

ッド構造であるとのことであった(48)。

 他方で,EU報告書によれば,CEMsの利用によって,株式会社の「資

本と支配の比例性(proportionality)」(49) に不均衡の問題が生ずることは事

実であるものの,CEMsの利用と上場会社のパフォーマンスとの間には直

接的な因果関係を見いだすことができないとのことであった。したがっ

て,同報告書は,CEMsの利用に対して否定的に評価する根拠はないと結

論づけている。もっとも,EU報告書のなかでは,投資者サイドからの意

見として CEMs全般に対して否定的な評価が多く(50),また,一部の

CEMsに対して中立的な意見も見られたことも紹介されている(51)。以下

(46)  EU報告書,15頁。 9種類の CEMsについては,後述する。なお,2014年 6月24日勅令91号20条によって金融市場統合法に導入された同法127条の 5(Ariticle 127─quinquies Vote increase)の定めによれば,定款の定めをもって,

24ヶ月以上継続して同一種類の株式を保有した場合において,最大 2個までの議決権を付与することができるとしている。

(47)  具体的には,23%の会社が 1種類の CEMs,23%の会社が 2種類の CEMs,10%の会社が 3種類の CEMs,3%の会社が 3種類以上の CEMsを利用している。EU報告書,58頁。

(48)  EU報告書,19頁,22頁と58頁。(49)  比例性については,「最終的な経済的リスクと会社支配との間の比例性のこ

とであり,会社の利益または清算における残余財産分配に参加する無制限の権利を有する株式資本およびそのような株式資本だけが,負担するリスクに比例して,通常,支配権を持つべきであるということを意味する。会社の残余の利益および財産に対する権利の保有者は,それらの決定の最終的な効果がそれらによって負担されるように,会社の事項について決定するためにもっとも適切に与えられている」と解される。

(50)  とくに否定的な評価が強かったのが,特権優先株式,黄金株,ピラミッド構造および複数議決権株式である(EU報告書,32頁以下)。

(51)  無議決権優先株,株主間合意などに対して,中立的であると回答された(EU報告書,32頁以下)。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  75

では,同報告書をもとに,EU諸国における CEMsの利用状況(本節)と

イタリアでの利用状況(本章・ 2)について見てみることとする。

( 1 ) 支配権強化メカニズムの種類

 CEMsは,比例性原則から逸脱する概念であり,その種類としてはさま

ざまなものが存在するが,EU報告書は13種類の CEMsを取り上げてい

る。その上で,EU報告書はそれら13種の CEMsを大きく 3類型に分類し

ている。すなわち,①第 1類型として,特定支配株主の支配権強化メカニ

ズム(Blockholder control enhancing mechanisms)を挙げ,これは,議決権

をレバレッジすることによって,特定支配株主(ブロック所有株主)の当

該会社に対する支配権を強化するものであるとし,その例として,一部の

種類株式とピラミッド構造をリストアップした。②第 2の類型は,支配権

固定メカニズム(Mechanisms used to lock─in control)であり,こうしたメカ

ニズムを通じて,当該会社に対する支配権を固定する機能を有するものと

して,特権的優先株式(priority shares),預託証書(depository certificates),

議決権上限設定,株式所有の上限設定およびスーパーマジョリティー条項

を挙げた。これら以外にも,③第 3類型として,その他支配権強化メカニ

ズム(Other control enhancing mechanisms)があり,特別な法制度に基づき

EU会社が利用しているパートナーシップ・リミテッド・バイ・シェアズ(partnership limited by shares),政府が有する黄金株などの影響力,そして

株式の相互保有および株主間契約を挙げた。以下,これら CEMsの類型

について概観する。

 (ⅰ) CEMsの各類型

 ① 第 1類型:特定支配株主の支配権を強化するメカニズム

・複数議決権株式(Multiple voting rights shares)

 複数議決権株式とは,ある会社が,同等の投資額にもかかわらず異なる

議決権を付与して発行される株式のことを言う。たとえば, 1つの種類の

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株式については,その種の株式の 1単元につき 1議決権を認め,もう 1つ

の種類の株式については,その種の株式の 1単元につき10議決権を認める

というのが一般的である。多くのヨーロッパ企業において異なった議決権

を有する株式を発行している例がみられるが,とりわけスウェーデンとオ

ランダにおいて多く見られている。また,一部の国においては,同一種類

の株式において異なった議決権を付与している例が認められ,フランスの

場合,同種類の株式にもかかわらず,保有期間によって一部の株式には 2

倍議決権が認められている(52)。

・ 無議決権株式または無議決権優先株式(Non─voting shares or Non─

voting preference shares)

 無議決権株式とは,議決権を有さず,かつ,優先配当などのような特別

な権利も有さない株式である。無議決権優先株式とは,議決権は有さず,

そのかわりより高い配当が分配または保証される株式のことをいう。イタ

リア,ドイツとイギリスにおいてその利用例が多く見られる(53)。

・ピラミッド構造(Pyramid structures)

 ピラミッド構造とは,ある主体(たとえば家族企業または株式会社)が他

の企業を支配する場合に用いられるものであり,被支配企業の支配的持分(controlling stake)を保有することによってそれを実現し,かかる支配のプ

ロセスが複数段階に上って繰り返えされる場合に生じる構造のことをい

う。ピラミッド構造のアイデアは,支配と所有関係の分離を複数の企業を

関係づける(chaining)ことを通じて実現するという発想に由来するとさ

れる。ピラミッド構造は,結果として,企業グループの最上位に位置する

持株会社(またはそれを支配する個人株主)が比較的に少数の投資をもっ

て,各段階における企業グループ内の従属会社の少数派株主を「犠牲にし

(52)  EU報告書, 7頁,18頁と26頁。(53)  EU報告書, 7頁,19頁と28頁。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  77

て」企業グループ全体を支配することを可能にしている(54)。

 したがって,ピラミッド構造に含まれる企業数が多ければ多いほど,支

配と所有との間の比例性からの乖離の程度がより高くなるとされている。

EU報告書では,直接的な株式所有 5%以上と間接的な株式所有20%以上

の場合における株主構造について調査がなされている(55)。

 ② 第 2類型:支配権固定化メカニズム

・特権的優先株式(priority shares)

 特権優先株式とは,ある会社において,ある種の株式を有する株主に対

して,その株式所有比率に関係なく,当該会社の意思決定に特別な権利ま

たは拒否権を付与している場合の,当該種類株式のことをいう。その利用

例は,オランダ,イギリスおよびフランスで見られている。特権的優先株

式によって株主に提供される「特権」の内容等については,その利用例と

国ごとにさまざまである。たとえば,取締役会に特定の候補者を提案する

権利を与えている例から,直接に取締役を選任できる権利または株主総会

の決議を経た決定事項に対する拒否権を与えている例までさまざまであ

る(56)。

・預託証書(depository certificates)

 預託証書とは,金融機関がある会社の株式を引き受け(underlying),当

該株式を裏付けにして発行される証書のことである。こうした場合におい

て,金融機関は当該会社の議決権を行使する。預託証書を持つ者は,該当

する株式について議決権は有さず,株式の金銭的な権利のみを有する。こ

(54)  この点,EUにおける会社法上級専門家グループが行った調査によれば(後掲注95),たとえば, 6段階に及ぶ企業グループにおいて,最上位の持株会社を支配する株主が,最下位の会社のわずか1.56%を所有することによって当該企業グループへの支配を可能とする。

(55)  EU報告書, 7頁,19頁と28─30頁。(56)  EU報告書, 8頁,20頁。

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のようなメカニズムはオランダにおいて見られている(57)。

・議決権上限設定(voting right ceilings)

 議決権上限設定は,株主が保有する株式の割合に関係なく,一定限度以

内でしか議決権が行使できないことをいう。このような議決権に対する上

限設定は,自由譲渡できる(outstanding)あらゆる議決権の付随する有価

証券に対して一定の割合までしか保有できないような形で設定する場合

や,または,保有株式数等にかかわらず,株主総会において行使可能な議

決権の割合について上限を設定するような場合などがみられる。

 議決権上限設定はヨーロッパ諸国において非常に一般的に利用されてい

るが,ベルギーとオランダでは利用例が見られていない。また,一部の共

済銀行(co─operative banks)では,頭数議決権ルール(“one head─one vote”

rule)が採用されており,このような議決権上限設定に類似した趣旨で利

用されている。すなわち, 1人の株主はその持ち株比率に関係なく, 1議

決権のみしか行使できないというルールである。たとえば,Italian Banche

Popolariにおいて,このルールが採用されている(58)。

・株式所有の上限設定(ownership ceilings)

 この種の CEMsは,株式を所有することについて,一定割合を上限と

して制限するものである。主として,ある会社において潜在的な投資者が

一定限度を超えて当該会社に資本参加することを防止するためであるとさ

れる。イタリア,イギリスおよびその他多くのヨーロッパ諸国で見られ

る(59)。

(57)  EU報告書, 8頁,20頁と30頁。(58)  EU報告書, 8頁,20頁と30─31頁。(59)  EU報告書, 8頁,21頁と32頁。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  79

・特別過半数条項(supermajority provisions)

 会社の定款または国内法により,特定の会社の重要な事項に対するさま

ざまな変更について,50%+ 1の議決権を有する株主に対して特別な承認

権を認めるというものである(60)。

 ③ 第 3類型:その他のメカニズム

・ パートナーシップ・リミテッド・バイ・シェアズ(Partnerships

limited by shares)

 特別な法律によって一部のヨーロッパ国家において認められている会社

形態のことをいう。この種の会社は, 2種類の株式(持分)を発行したり

することなく, 2つのグループの異なったパートナーズを存在させてい

る。そのうちの, 1つのグループは一般パートナーズ(general partners)

であり,会社の経営を担当する。もう 1つのグループは休眠パートナーズ(sleeping partners)であり,会社に出資し,会社経営を監視する権限のみ

を有する。一般パートナーズが無限責任を負うのに対して,休眠パートナ

ーズは有限責任のみを負うものとされる(61)。

・黄金株(Golden shares)

 この黄金株は,特別な権利を留保しておくことを望む国家,地方政府ま

たは政府当局がコントロールする企業において発行され,主に,元国有企

業の民営化後に政府の影響力を維持するために利用される。特別な権利と

は,企業買収を阻止する場面,議決権を制限する場面,そして経営判断を

否決する場面などにおいて行使される(62)。

(60)  EU報告書, 8頁と21頁。(61)  たとえば,フランスの Societes en Commuandite par Actionsとドイツの

Kommanditgesellschaft auf Aktienがこの類型に属するとされた。EU報告書,8頁と22頁。

(62)  EU報告書, 8頁,21頁と32─34頁。

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80  比較法学 49巻 2号

・株式の相互保有(cross─shareholdings)

 EU報告書の調査によって確認された株式の相互保有とは,会社 Xが会

社 Yの株式を保有すると同時に,会社 Yも会社 Xの株式を保有する状況

のことである。また,環状保有(circular holdings)のような状況もある。

すなわち,Aの株式を Bが保有し,Bの株式を Cが保有し,Cの株式を

Aが保有した状況が,株式の相互保有の特殊形態であるとされた(63)。

・株主間契約(shareholders agreements)

 株主間契約については,公式または非公式な形で株主間で締結される。

その具体的な取り決めについてはさまざまなものがあるとされる(64)。

 以上のような13種類の CEMsについて,EU報告書では,種類別に説明

した上で,各国における利用状況,各会社における利用状況を調査したう

えで,その利用実態をまとめている。同報告書の作成に際しては,そうし

た利用状況が投資者の投資判断にどのような影響を与えうるのかを調べる

べく,調査対象国を含んだ世界範囲での特定可能な機関投資者に対して,

アンケート調査を行い,そのうち445通の回答が得られている。それらの

回答にもとづいて,同報告書はその第 5章において CEMsが投資者に与

えるインパクトをまとめている。以下では,そうした投資者サイドからの

評価について紹介する。

 (ⅱ) 投資者サイドからの評価

 上記のアンケート調査において,その回答者の内訳は,Asset Manager

(Investment Fund/Mutual Fund)が60%であってもっとも多く, Hedge Fund

が11%,Pension Fundが10%,Insurance Companyが 7%およびその他

投資者が12%という割合を占めていた。

(63)  EU報告書, 8頁,22頁と34頁。(64)  EU報告書, 8頁,22頁と35頁。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  81

 アンケート調査における回答では,ほとんどの CEMsに対して「否定

的」または「非常に否定的」であるという見方がなされていたが,無議決

権優先株式,パートナーシップ・リミテッド・バイ・シェアズと株主間契

約に関しては「中立的」との見方をもなされていた(65)。また,CEMsの

利用が投資判断に影響を及ぼすと回答する機関投資家が多く,その 8割の

機関投資家が CEMsの存在によって会社の株価が10%~30%ディスカウ

ントされると回答した(66)。

 他方で,上場会社が CEMsの利用について廃止すべきなのかどうかに

ついて問うたアンケートの回答では,216通のうち153通が,CEMsの導入

自体は上場会社の状況などに鑑みて,ケースバイケースであるとの意見を

示し,もっとも多かった。

 (ⅲ) EU報告書の結論

 調査の結果,EU報告書の結論によれば,比例性原則への逸脱と,上場

会社の経済的なパフォーマンスまたは会社のガバナンスとの間に因果関係

が存するとの確証はないとされた。しかしながら,投資者が,それらのメ

カニズムの存在に対して,否定的にとらえていること,それらのメカニズ

ムに関してより多くの透明性の確保が投資決定に資することになるとの裏

付けが存在するとされた。

2  イタリアにおける CEMs の利用状況

( 1 ) 概説

 EU報告書は,イタリア上場会社のサンプルとして,大規模上場会社の

20社と直近に上場された株式会社として19社を調査対象として挙げてい

る。EU報告書によれば,イタリア上場会社における CEMsの利用状況は

以下のとおりである。

(65)  EU報告書,84頁。(66)  EU報告書,88頁。

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82  比較法学 49巻 2号

 まず,規制の枠組みから確認した結果,13種類の CEMsのうち,複数議

決権株式,預託証書,議決権上限(67) の 3種類がイタリアの会社法上にお

いて利用不可能なメカニズムであり(ただし,複数議決権については,2014

年に採択された勅令により,現在,2倍を限度として利用可能となっている(金

融市場とうごう法127条の 6)。),特権優先株式が規制上からはとくに禁止さ

れるかどうかについて不明確であり,それら以外の 9種類の CEMsが法

規制上明確に利用可能とされる。

 また,実際の CEMs利用状況に関する調査結果によれば,無議決権株

式= 0%,無議決権優先株式=30%,ピラミッド構造=45%,議決権上限

設定=10%,株式保有の上限設定=30%,黄金株=20%,株主間契約=

40%という状況にあるとされた。すなわち,イタリア上場会社にもっとも

一般的に利用される CEMsとしては,ピラミッド構造,株主間契約であ

るということが明らかにされた。

 しかしながら,CEMsをまったく利用していない会社がサンプル会社全

体の41%を占めており,また,大手上場会社のなかでは15%が CEMsに

ついて未使用であり,直近に上場された会社のなかでは,69%の上場会社

に CEMsの利用が認められないことが調査によって示された。以下では,

EU報告書にもとづいてさらに詳述する。

( 2 ) 種類株式の利用

 調査対象となったイタリアの上場会社において,複数議決権株式を利用

している会社は,調査時点において確認されていないが, 2種類以上の株

式を発行している会社は 7社あった(68)。その 7社とは,金融関連の会社

Unicredito Italiano 社, San Paolo IMI 社,Banca Monte dei Paschi 社と

(67)  規制上禁止されているメカニズムではあるが,歴史的な原因から実際に 3社がこのメカニズムを利用していることが,同報告書のなかで示されている(EU報告書,20頁)。

(68)  EU報告書,59頁。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  83

Banca Intesa社の 4社以外に,Edison社,Fiat社および Telecom Italia社

である。そのうち,San Paolo IMI社以外の 6社が普通株式と無議決権優

先株式(貯蓄株式(savings share)ともいう)を発行している。無議決権優

先株式は,株主総会において自らの利益に直接的に関連付けられる事項,

たとえば,合併,会社の解散または無議決権優先株式の普通株式への転換(conversion)などといった事項に対してのみ拒否権を有するとされてい

る。無議決権優先株式には,比較的に高い配当が得られ,累積可能とされ

ている。また,会社の清算に際して普通株式に優先した残余財産分配請求

権が認められるとされている(69)。

 また,Fiat社,Banca Monte dei Paschi社と San Paolo IMI社において

議決権優先株式(preference voting shares)が発行され,Fiat社では市場で

の取引をも可能にしているのに対して,他の 2社では市場に対して公開し

ていなかった(70)。

 この点,直近に上場した株式会社については,すべての会社が 1種類の

株式のみを発行していた。

( 3 ) ピラミッド構造の利用

 調査対象となった20の大手上場会社のうち, 9社がピラミッド構造を利

用していた。それらの会社は,金融関連部門の会社である Autostrade社

と Banca Intesa社とMediobanca社,事業会社である ENEL社,Edison

社と Fiat社,石油・ガスなどエネルギー関連部門である ENI社と Snam

Rete Gas社,通信部門の会社である Telecom Italia社であった。

 以下では,EU報告書でまとめた上場会社間のピラミッド構造を取り上

(69)  このような無議決権優先株式について,各会社での発行割合は,以下のとおりである。Banca Monte dei Paschi社で0.2%,Unicredito Italiano社で0.3%,Edison社において2.6%,Fiat社6.3%,Banca Intesa社13.4%および Telecom Italia社31%となる(EU報告書,59頁)。

(70)  それぞれの発行割合は,Fiat社8.7%,Banca Monte dei Paschi社18.7%とSan Paolo IMI社15.2%となる(EU報告書,59頁)。

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84  比較法学 49巻 2号

げて紹介する(71)。

 ①  金融大臣が影響力を及ぼしているいくつかの会社間の株式所有関係

の例

 まずは,ENI社,ENEL社と Snam Rete Gas社の間の株式所有関係の例

をみてみよう。ENELと ENI両社の株主がともに金融大臣と Cassa

Depositi e TPrestiti社であり,それぞれの会社においておおよそ20%と

10%の株式を保有する。Cassa Depositi e TPrestiti社は,その株式の70%

を金融大臣によってコントロールされている。また,ENI社は Snam Rete

Gas社の50%の株式を保有する過半数支配株主(majority shareholder)で

ある。

 ② Edison社のピラミッド構造の例

 次に Edison社のピラミッド構造を例に挙げよう。Edison社の主要株主

はフランスの Electricite de France Group(以下,EDF Groupという)と

(71)  図表資料は全て EU報告書による(EU報告書,59─61頁)。

VR=OR: 50%

VR=OR: 21.4% VR=OR: 10%

VR=OR: 70%

VR=OR: 20% VR=OR: 10%

Enel Eni

Snam Rete Gaz

Ministry of Finance Casa Depositi e Prestiti

OR=Ownership rights; VR=Voting rights

States/government entitiesItalian companies in sample

① Eni, Enel と Snam Rate Gas 3 社間の株式所有関係

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  85

Transalpina di Energia Srl(以下,TDES社という)である。それぞれ

Edison社の議決権株式の17.3%と71.2%を保有している。

 TDES社の50%の株式をWGRM社が保有し,WGRM社は EDF Group

の傘下にある持株会社であり,残りの TDES社株式の50%が Delmi S. p. A

に保有されている。また,Delmi社の過半数支配株主が AEM S. p. Aであ

り,AEM社は同社の51%の株式を保有している。さらに,AEM社資本

の43.3%をミラノ市政府が保有している。これが Edison社のピラミッド

構造である。

 さらに,EDF Group,AEM S.p.A,Delmi S.p.AとWGRMの 4社の間に

は,TDES社を通じて Edison社に対する支配権を行使するための株主関

契約をも締結しているとされる(72)(上記の図表資料参照)。

VR=OR: 43.3%

Edison

OR=Ownership rights; VR=Voting rights

Non─Italian companies in sampleItalian companies in sample

States/government entities

Companies outside sample Shareholders agreements

OR: 16.9%VR: 17%

Transalpina de Energia Srl

Delmi S. p. A

AEM S. p. A

WGRMEDF Group

French State

VR=OR: 51%

VR=OR: 83%

VR=OR: 50% VR=OR: 50%

VR=OR: 50%VR=OR: 50%

OR: 69.4%VR: 71%

Comune de Milano

② Edison 社のピラミッド構造

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86  比較法学 49巻 2号

( 4 ) 議決権または株式所有の上限設定

 議決権株式の取得に上限が設定されている会社は,主にエネルギー関連

の上場会社であり,その取得制限は 5%または15%が一般的であった(73)。

 株式所有の上限設定も議決権に対する制限同様,一定割合を定めている

例が,産業部門,エネルギー関連部門または金融関連部門のさまざまな会

社において見られた。また,その所定の株式所有比率は,0.5%から 4%な

どさまざまであった(74)。

( 5 ) 黄金株の利用

 1994年 7月30日法474号イタリア民営化法第 2条にもとづき,一部の政

策的な株式会社の定款において,政府またはその他の公的機関に対して特

別な権利を付与することが定められた。これらの特別権利は「国家の極め

て重大な利害関係(vital interests of the State)」(75) を守るためにのみ行使し

うるとされた。EU報告書の調査では,ENEL,ENI,Finmeccanicaおよ

び Telecom Italiaの 4社において,そうした黄金株の利用がみられた。ま

た,近時に上場した 2つの会社においても,黄金株に類似した権利を政府

が有していることが確認された。

(72)  EU報告書,60頁。(73)  たとえば,Snam Rete Gasと Ternaがともに石油・ガスに関連する会社であ

り,議決権株式の取得につき 5%の制限が設定され,金融部門の会社であるUnicredito Italianoが15%の上限を設定した(EU報告書,61頁)。

(74)  たとえば,ENEL,ENI,Finmeccanicaおよび Banco di Verona e Novaraなどに株式所有制限が見られた(EU報告書,62頁)。

(75)  2004年政令(a decree of the Prime Minister of 2004)において,「国家のきわめて重大な利害関係(vital interests of the State)」とは何かを定めた。すなわち,(a)石油,エネルギー,原材料(raw materials),通信および運輸の供給と分配に関する厳しいかつ真の脅威が存在する場合,(b)公的サービスの一時的な中断をもたらすような厳しいかつ真の脅威が存在する場合,(c)発電所(plants)およびネットワークの安全に厳しいかつ真の危険が存在する場合,(d)国防と国家秩序(public order)に厳しい真の危険が存在する場合,(e)公共衛生にかかわる緊急事態などの場合である(EU報告書,62頁)。

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  87

 これらのうち,ENEL,ENI,Finmeccanicaおよび Telecom Italiaの 4

社においては,政府当局が特別な権利を有していた。すなわち,会社解散

の決議,会社分割の決議,子会社の譲渡および特別権利の修正などに対す

る拒否権を政府当局に与えることがそれら会社の定款に明記されていた。

 また,ENEL,ENIと Finmeccanicaの 3社においては,金融部門所管

大臣が株主総会の意見を聞くことなく取締役会の構成員を 1人選任できる

権利を有していた。しかし,このような取締役選任が実際になされた例は

ないとされている。

 他方,近時に上場した会社のリストのなかで,Save S. p. Aと Terna S. p.

Aの 2社において,政府機関による株式保有は見当たらないものの,黄金

株に類似した特別の権利が存在していることが明らかとなっている。すな

わち,Save社においては,イタリアの運送部門所管大臣と経済部門所管

大臣が同社に対してそれぞれ 1名の会社経営に対する監督役(internal

auditor)が選任できる権利を有するとしたうえ,経済部門の所管大臣が指

名した監督役が監督委員会(the Internal Auditors Committee)の会長になる

とされた。また Terna社では,定款において,会社の解散,分割および特

別権利の修正などの決定について政府関係者に拒否権を付与し,金融部門

所管大臣が同社に対して取締役会の構成員を 1名選任できる権利が定めら

れていた。

( 6 ) 株主間契約

 調査対象会社のうち,大手上場会社 8社と近時に上場した 1社におい

て,株主間契約の利用が認められた。株主間契約の一般的な目的は,契約

当事者たる株主らが当該会社に関する自らの権利と義務を共同で行使し,

また一定の意思決定に関して協同する立場を取るということである。たと

えば,Autostradeと Telecom Italiaとの間に結ばれた契約によれば,当該

会社に対する支配権を行使し,取締役会の構成などといった企業統治に関

連して影響を及ぼすような内容が定められている。また,それらの契約内

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88  比較法学 49巻 2号

容のなかには,優先的新株引受権(pre─emption)に関する内容も含まれて

いた。

3  小括

 このようにして,イタリア上場会社に対する調査でも,さまざまな

CEMsの利用が確認された。そのうち,もっとも利用率の高い CEMsは,

ピラミッド構造と株主関契約であった。また,このような CEMsが大規

模上場会社において多く利用されていることにも留意すべきである。ピラ

ミッド構造の利用データによれば,大規模上場会社が45%であるのに対し

て直近で上場した小規模会社では11%となり,株主間契約については,大

規模上場会社が40%であるのに対して直近で上場した小規模会社のなかで

は 5%の利用例しか見られなかった。しかしながら,20%以上の持ち株比

率を有する主要株主の存在に関する調査では,大規模上場会社における割

合が65%であったのに対して,直近で上場した小規模会社については89%

にも昇っていた。EU報告書は,89%という割合の実態についての調査に

おいて,主として新規上場したファミリー企業の関係者がより高い割合の

株式を保有しており,かつ取締役をも兼ねていることが一般的であるとし

ている。また,89%という数字が意味するところは,イタリアの新規上場

会社のなかで,集中所有の状況が依前として著しいことも指摘している。

そうすると,とりわけ直近で上場した小規模会社のなかでは,CEMsの利

用に依拠せず,実際に 1株 1議決権に基づく普通株式を20%以上の割合で

保有することによって,ファミリー企業等が支配を確立しているという傾

向がみてとれる。

Ⅳ 支配権集中に見られた変化の原因分析をめぐって

 これまでイタリアの上場会社における株式所有構造の特徴である,支配

権集中に関する状況を中心に述べてきたが,やはり,さまざまな調査から

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  89

支配権が集中されている実態がみてとれた。他方,1990年代に比較して,

とりわけ,2000年以降においては,支配権集中に変化がみられてきてい

る。それは,すなわち,さまざまな CEMsが法規制上利用可能であるが

ために,これまでの長い実務経験上 CEMsの利用実態が見られてきてい

るにもかかわらず,近時の調査データからはそれが減少傾向にあるという

ことである。

 前述した2012年の調査文献(76) では,このような支配権集中にみられた

変化について分析を行っている。同調査文献では,「税制改正の影響」,

「市場の影響」および「法改正の影響」の 3つの観点から原因分析が行わ

れた。結論として,同調査文献の意見では,「税制改正の影響」と「市場

の影響」による因果関係は認められないとされ,「法改正の影響」に起因

すると結論づけられた(77)。

 すなわち,2012年調査文献によれば,「税制改正」が直接的に CEMsの

利用数を減少させるような結果を見出すことはできないとし,また,「市

場の影響」という視点からは,イタリアにおいてそもそも機関投資家の比

重が低く,機関投資家による影響は考えにくいと分析した。そのうえ,

1998年法改正と2004年会社法改正によって株主権利の拡大が直接的な影響

を与えた可能性が高いと説いた。

 ところが,同調査文献は,上記した法改正の詳細な分析を行っていない

ため,以下では,こうした変化をもたらした原因分析をめぐって,まず,

法改正について検討してみる。そして,その後,2012年調査文献ではとく

に言及がないものの,EUからの影響について検討することとする。

1  法改正の影響

( 1 ) 1998年金融市場統合法

 イタリアでは,金融市場の抜本的な変革を目的として,主に上場会社を

(76)  2012年調査文献(本稿Ⅱ・ 2)。(77)  2012年調査文献。

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規制対象として,1998年 2 月24日付1998年法58号「金融市場統合法(Financial Markets Consolidated Act of 1998, FMC Act.)」が制定された(78)。

 改正当時におけるイタリア金融市場の特徴としては,株式所有の固定

化,株式の集中所有,そして銀行,保険会社,政府支配企業(79) または家

族企業によるその他一般的な株式会社に対するピラミッド構造による支

配,または,大規模株式会社の支配的な持分を所有した小規模会社を最小

限度の資本出資をもって設立したうえで大規模株式会社を支配するといっ

た状況が見られた(80)。

 そのため,制定当時の金融市場統合法は,とりわけ上場会社に対して,

市民による投資がしやすく,株主権利が十分に保障されて,株式会社にお

ける株式所有関係を明確にすることなどに関連する規定が盛り込まれた。

同法は,株式会社における株主相互間の関連性,株式の所有状況およびグ

ループに含まれている会社間のつながりをより透明性の高いものにするこ

とを重要な目的の 1つとして掲げていた。そのうえで,同法のエンフォー

スメントに関しては,多くの権限をイタリア銀行(中央銀行),CONSOB,

保険会社監督局(IVASS, the Assurance Supervisory Institute)などの公的機関

に認めることとされた(81)。

 こうした1998年の金融市場統合法により,イタリアの上場会社における

株主権利の拡大と少数派株主の保護が図られたとされる。

 具体的には,まず,上場会社の少数派株主は,自らの議決権の行使を適

(78)  1998年法(1998年 7月 1日施行)は1996年投資法を吸収した法典であり,その後,度重なる改正を経て,今日に至るまでたくさんの追加条文が盛り込まれている。法典自体216の条文からなるが,枝番が多く付されてきた。直近の改正は2015年 1月24日法2015年 3月26日施行となっている(Legislative Decree No. 58 of 24 Feb. 1998, see note 1)。

(79)  政府支配企業とは,政府によって全部または部分的に所有されている会社(wholly or majority State─owned companies)または直接的にまたは間接的に政府に支配されている会社の双方をいう。

(80)  L. Stanghellini, supra note 2, at 126─68.(81)  See, e.g. FMC Act. Article 7.

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  91

当な機関に対して委任することができるとされた(FMC Act. 136─144)。こ

のような規定の趣旨は,少数派株主の議決権を集めることによって支配株

主に対抗できるようにするためであると解された。また,会社の定款規定

をもって議決権の郵便での行使を認めるようにした。そのうえで,通常の

株主総会を招集するための定足数が資本の20%から10%に引下げられた(FMC Act. 125)。さらに,取締役,監査役,その他経営責任者に対する責

任追及の訴えについて,従前の株主総会決議を経てから提起できるとされ

ていたことが改められ,資本金の 5%以上を出資した株主によって提起で

きるようにした(82)。そして,監査役会への告発など監督権限行使を求め

うる株主の持ち株比率を従来の 5%から 2%へと引き下げ,裁判所への訴

訟提起要件も持ち株比率の10%から 5%へと引き下げられた(FMC Act.

128─129)。

 次に,金融市場統合法により,株主関契約に対する規律が導入された。

すなわち,従前の株主間契約は,会社との間には何ら拘束力がなく,あく

までも株主間での合意であり,会社法などの規律が及ばなかったところ,

金融市場統合法により,上場会社における株主間契約については,会社の

登記所に登録し公開されなければならないこと,また新聞などを利用して

その内容を公表しなければならず,さらに,CONSOBにも届け出なけれ

ばならないとされた(FMC Act. 122)。加えて,株主間契約の有効期間につ

いては,それを 3年を超えて定めることができず(ただし,更新すること

は認められる),期間の定めのない株主間契約については,一方株主が予告

したうえで,契約を破棄することができるものとされた(FMC Act. 123)。

(82)  このような規制緩和にもかかわらず,1998年改正後から2004年までの 6年間において少数派株主によって提起された株主代表訴訟は 1件たりとも見当たらなかったとされる(Marco Ventoruzzo, Experiments in Comparative Corporate Law: The Recent Italian Reform and the Dubious Virtues of a Market for Rules in the Absence of Effective Regulatory Competition, 40 Texas International Law Journal 113, 141)。

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92  比較法学 49巻 2号

( 2 ) 2004年新会社法

 イタリアにおいては,2004年 1月 1日に会社法の現代化と評される新会

社法が施行された(83)。イタリアでは,1942年民法典の中に実質的な意味で

の会社法に関する規定が置かれているが,それまでは大きな改正はなく,

2004年新会社法は60年ぶりの大改正であるとして大きく注目された。新会

社法は金融市場統合法が上場会社に対する規律を新会社法のなかで上場会

社と非上場会社の区別を問うことなく制定法として明文化したことが主な

特徴であるとされた(84)。他方で,新会社法は,企業結合に関する規定を

設け,ドイツやポルトガルにつぐコンツェルン法制の導入例としても注目

された(85)。

 前述したように,イタリアにおいて株式会社間またはグループを形成す

る株式会社間においては,ピラミッド構造などによる会社支配関係が構築

されていることが慣例となっている。しかしながら,そのような株式会社

間の支配関係がもたらす弊害に対処するための法規制が必ずしも整備され

てきておらず,そのため,新会社法によってグループ企業に関連する包括

的な規定が創設された。そのなかでも,とくに支配会社の被支配会社に対

する責任を明確化するための規定が置かれたことが注目される。すなわち,

民法典第2497条において,「指揮および協同(direction and coordination)に

よって自己または第三者の企業家的な利益(entrepreneurial interest)のた

めに,正規の会社および企業家的業務執行の諸原則(principles of good

management)に違反して行為する会社または法的主体(legal entity)は,

(83)  イタリア会社法2004年改正に関する和文文献としては,早川勝「イタリア会社法の現代化の試み」同志社法学56巻 6号117─145頁(2005年)参照。

(84)  具体的には,上場会社にのみ適用されてきた株主間契約に関する規制,株主代表訴訟などに関する規定を会社法上に定めたことが挙げられよう(See e.g. M. Ventoruzzo, supra note 82 at 137─54)。

(85)  Guido A. Ferrarini, Corporate Governance Changes in the 20th Century: A view from Italy, in Klaus J. Hopt and others ed. CORPORATE GOVERNANCE IN CONTEXT

CORPORATIONS, STATES, AND MARKETS IN EUROPE, JAPAN, AND THE US, Oxford University Press 2005, 31, at 48─50.

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  93

収益力および参加価値(profitability or value of the shares)に生じた損害に

ついて,株主に対して直接的に責任を負い,会社の財産の不可侵性に対す

る侵害について,会社債権者に対して責任を負う。ただし,指揮および協

同の統合の結果を考慮して損害がない場合,または損害が指揮および協同

に向けられた行為によって全体として埋め合わせられる場合には,責任を

負わない。」と定められたのである。このような規定により,他の会社に

対して指揮または協同で権利を行使する支配会社が,正規の業務執行の諸

原則に違反して指揮または協同して自己または第三者の利益のために権利

を行使した場合において,被支配会社の株主に対して収益力または企業価

値に生じた損害,そして,その会社の債権者に対して会社の自己資本に生

じた損害について責任を負うこととした(86)。

 ただ,こうした民法2497条の新設については,評価が分かれているよう

である。すなわち,同規定によって,グループ企業における支配会社が負

うべき責任が明文化されたことから,これを,「重要なイノベーション」

であると評価する向きもある。なぜならば,同規定が導入される以前にお

いて,支配会社に対する責任追及については,民法上の一般原則,たとえ

ば不法行為責任またはその他の既存原則に依拠してのみ可能であり,理論

上可能であるにとどまるとされてきた(87)からである。

 他方で,民法2497条の有効性については,甚だ疑問であるとする意見も

目立っている。そのような批判は主として 3つの項目に分けて主張され

る。すなわち,第 1に,法文上の支配株主は「会社またはその他の法的主

体」に限定され,自然人は含まれないこと,第 2に,法文上の該当要件に

ついて何ら法的な定めが見当たらず文言があいまいであり,その上,適用

する場合の立証責任も少数派株主または債権者に課されていること,そし

て,第 3に,同条後段のただし書の規定ぶりは支配株主に有利な規定とな

っていること,が批判の的とされた。以下,こうした批判の内容について

(86)  早川・前掲注(83)128頁。(87)  M. Ventoruzzo, supra note 82 at 143.

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94  比較法学 49巻 2号

もう少し紹介する。

 第 1に,法文上の支配株主は,会社または法的主体に限定され,自然人

は含まれないと解されている。しかし,実際上,多くのグループ企業にお

いて,被支配会社は最終的に単独の自然人によって支配されていることが

一般的であるため,このような規定では,真の支配株主が適用を免れるこ

とが危惧されている(88)。

 第 2に,法文上の諸要件があいまいなままで,立証責任も少数派株主ま

たは会社債権者に課されたことに関しては,主に 3つのことが指摘されて

いる。すなわち,原告は,( 1)支配株主が「自己または第三者の企業家

的な利益のために活動した」こと,( 2)「正規な会社経営における諸原則

に違反」したこと,および( 3)支配株主の活動によって「収益力および

参加価値」または「会社の財産の不可侵性」に対する損害がもたらされた

ことについて立証しなければならない。しかしながら,これらの要件が具

体的にいかなるものなのかについて,新会社法には他に定めが見当たらな

いというのである。すなわち,( 1)における「企業家的な利益」とは何

か,会社利益と如何に区分すべきかが明らかではない。また,( 2)につ

いても,「正規な会社経営における諸原則」とは何かがそもそも明らかで

はないため,それに違反したかどうか立証が難しい。同様に,( 3)にお

ける会社損害の立証の難しさゆえに,原告には著しく過大な責任が負わさ

れているものと説かれている(89)。

 第 3に,民法典2497条後段の規定は,グループ全体として利益の埋め合

わせが認められれば,責任はないとされた。このような規定は,たとえ

ば,親会社による子会社に対する利益搾取に対して見て見ぬふりをするよ

うな規定となり得るため,むしろ支配株主に有利な規定であり,少数派株

主の保護とはなり得ないと評されている(90)。

(88)  M. Ventoruzzo, supra note 82 at 144.(89)  Id.(90)  Id.

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  95

( 3 ) 小括

 このようにして,イタリアでは,1998年金融市場統合法および2004年の

会社法改正によって,株主権利の拡大および支配会社の責任の明確化が図

られた。また,これら以外にも,2005年投資者保護法(Investors Protection

Act. Law December 28, 2005, No. 262)(91) が制定され,株式会社における取締

役会構成員の少なくとも 1名が少数派株主によって提出された候補者リス

トから選出されなければならない(92) といった規定が盛り込まれた。

 前述した2012年調査文献では,このような法整備が実際の CEMsの減

少に寄与し,株主権利の拡大,少数派株主への保護といった法制度上の手

当てがなされたことによって,株式会社の所有構造が単純化し,かつ,

CEMsの減少の下支えとなっているとした(93)。しかしながら,これまで

みてきたように,ピラミッド構造,株主間契約または種類株式を利用した

CEMsが利用されてきた歴史的な要因としては,必ずしも会社法またはそ

の他の法制度の不備というわけではなく,むしろ,これらの CEMsの利

用自体が合法的な枠組みのなかで行われてきたということを考えれば,私

見としては,2012年調査文献のような結論を導きだすことには多少の躊躇

を覚える。

2  EU の影響

 他方で,EU諸国においては,企業がその事業活動を行う上で,グルー

プとして活動することが主たる形態となっており,とりわけ共通通貨であ

るユーロの登場により,国境を越えた企業グループの活動が一層目立って

きている。EUの企業グループに関する会社法制としては,会社法第 7指

令などが規制枠組みとなってきたが,必ずしも十分に機能していないとさ

(91)  金融市場統合法に組み込まれている(FMC Act. Chapter IV─bis Protection of investors)。

(92)  FMC Act. 32─bis, 32─ter.(93)  2012年調査文献452頁。

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96  比較法学 49巻 2号

れてきている。なぜならば,グループ内部における個別企業の株主,債権

者等の利害関係者が晒されてきたリスクへの対策が講じられてきていない

とされているからである(94)。

 EU委員会は,2002年に,会社法専門家から構成される「会社法上級専

門家グループ(the high level group of company law experts on a modern regulatory

framework for company law in Europe)」を設置し,会社法上のさまざまな問

題に対処すべく助言を求めた。会社法上級専門家グループは,2002年11月

4日付の報告書(95) のなかで,上述したような企業グループに関する問題

についても助言を行った(96)。その助言の趣旨は,企業グループの透明性

の確保,利害関係者間の利害対立および企業グループの構造上の問題につ

いて対処すべきである,というものであった。

 その後,2004年末に,EU委員会が設置したヨーロッパ・コーポレー

ト・ガバナンス・フォーラム(European Corporate Governance Forum)によ

り,各構成国におけるコーポレート・ガバナンスに関連したテーマをめぐ

って勧告(recommendation)または声明(statement)という形式で EU委

員会に対する政策助言が行われた(97)。そのうち,2007年 9月に公表された

声明は「資本と支配の比例性」に関するものであった(98)。この声明の中

で,同フォーラムは,CEMsの利用に関する透明性を改善すべきであり,

(94)  三浦哲男「欧州企業にみる企業グループの統治と少数株主の保護」富大経済論集52巻 2号171─91頁(2006年)。

(95)  Report of The High Level Group of Company Law Experts on a Modern Regulatory Framework for Company Law in Europe, 4 NOV. 2002, available at (http://ec.europa.eu/internal_market/company/docs/modern/report_en.pdf) last visited 30 JUN 2015.

(96)  Id. at 94─100.(97)  詳しくは,正井章筰「EUにおけるコーポレート・ガバナンスをめぐる議論

─ヨーロッパ・コーポレート・ガバナンス・フォーラムの声明を中心として─」早大比法43巻 1号(2009年) 1 ─46頁。

(98)  European Corporate Governance Forum Working Group on Proportionality, available at (http://ec.europa.eu/internal_market/company/docs/ecgforum/workinggroup_proportionality_en.pdf), last visited 30 JUN 2015.

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イタリアの上場会社における支配権集中問題の現状と課題  97

情報開示を強化することによって,よりよい投資判断と評価につながり,

市場の活性化に資する旨を明示した。具体的には,公開買付け指令10条に

よる開示義務および透明性指令の下での開示義務に加えて,会社は,

CEMsを利用する場合においてそれらに関する詳細な情報開示を行うこと

が求められる,とした。また,議決権を行使する事項に関して,一定の基

準値を超えて議決権株式を取得した株主に株主総会における特別な権利を

認める場合,そうした株主に関する情報,とくに,株式保有数および属性

などが明らかにされる資料を公開すると同時に,そのような特別な取り扱

いを行う理由について説明すべきであるとされた(99)。

 さらに,2007年に,EUにおける「株主の権利指令(Shareholder Rights

Diretive)」と称される,「上場会社における株主の一定の権利の行使に関

する2007年 7月11日のヨーロッパ議会と理事会の指令2007/36/EC」が採

択され(100)(なお,同指令は2015年 7月に改正され,「長期志向株主のエンゲー

ジメントの促進に関する指令」に名称変更された),同指令のイタリア国内法

化などによる対応が求められるとともに(101),さらに,EU委員会によっ

て設置されたヨーロッパ・コーポレート・ガバナンス・フォーラムが公表

してきた声明などから,いわゆる透明性指令(102) が公布され,それに対応

したイタリア上場会社のディスクロージャー要件の改善(103) なども行わ

れ,高度の情報公開の進展が現に見られてきている(104)。このような EU

(99)  Id., at 4─6.(100)  同指令を扱った和文文献としては,正井章筰「EUにおける株主の権利指令

について─ドイツと日本の制度との比較において─」早法84巻 4号19─65頁(2009年),同・翻訳「EUにおける株主の権利指令」早法84巻 4号179─98頁(2009年)など。

(101)  A. Zattoni and C. Mosca, Corporate Governance and Initial Public Offerings in Italy, A. Zattoni ed. CORPORATE GOVERNANCE AND INITIAL PUBLIC OFFERINGS, Cambridge Press 2012, at 210─237.

(102)  2001年 5月28日付けの指令 Directive 2001/34/EC。(103)  A. Zattoni, supra note 101.(104)  いくつかのイタリア上場会社のホームページを辿って,コーポレートガバナ

ンスに関する年次レポートを調査したところ,株式所有構造,会社機関,

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98  比較法学 49巻 2号

からの影響がイタリアにおける CEMsの減少に寄与したかどうかは定か

ではないが,CEMsの採用による情報開示のコスト負担は,近時に上場し

たイタリアの株式会社について,1種類の CEMsをも採用していない会社

が大多数を占めている要因の 1つとなっているのかもしれない。

おわりに

 イタリアでは,全体としてみれば上場会社の株式所有構造上における支

配権の集中が依然として見られたままである。しかしながら,上述したよ

うに,近時は,CEMsの利用減少の傾向も見られてきている。本稿はその

ような傾向の誘因を探ってみたが,最終的にその明確なものは見い出せな

かった。他方で,イタリアにおける近時の上場会社のコーポレート・ガバ

ナンスをめぐる議論では,本稿でみたような株式会社における支配権集中

の問題が必ずと言ってよいくらい出てきている。なぜならば,イタリア特

有の所有構造と支配権の集中がゆえに,支配株主と少数派株主との間の利

害対立を如何に解決するのかということが会社の機関構造に関する制度の

あり方を左右するからだといわれている(105)。世界的にみれば,株式の分

散所有が進展している国はアメリカ,イギリス,そして日本のみである。

イタリアにかかわるこうした議論が今後どのような変化を辿っていくかは

注目に値するといえよう。

*本稿は,日本証券業協会の支援を受けた研究成果の一部である。

CEMsの利用状況などが詳細に情報開示されていることが確認できた。(105)  See e.g. A. Zattoni and C. Mosca, supra note 101.