リスク管理に金融理論は何ができるか 少子高齢化社会の進展下での ·...

【全面広告】日本経済新聞(夕刊)2016 年 8 月 23 日(火曜日)掲載 調使調調社会の持続可能性確保 実際の価格変動捉える 現実への応用が課題 構造型アプローチ採用 米国金利引き上げ注視 主催:一橋大学大学院商学研究科ファイナンス研究センター  後援:みずほフィナンシャルグループ お問い合わせ先:一橋大学政策フォーラム http: www.hit-u.ac.jp/kenkyu/project/forum.html 一橋大学政策フォーラム 平成28年度 第1回 世界金融危機と金利・為替 一橋大学大学院商学研究科ファイナンス研究センターは7月21日、世界金融危機から続く未知の危機へのリス ク管理を巡って金融理論は何ができるのかを考えるシンポジウム「世界金融危機と金利・為替」を東京・千代田 の一橋講堂で開いた。英国の欧州連合(EU)離脱決定やIT(情報技術)と金融を融合したフィンテックの出現 などで一段と混迷を深める金融政策について、第一線の研究者が活発に討論した。

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Page 1: リスク管理に金融理論は何ができるか 少子高齢化社会の進展下での · もしれない」との見方を示した。まれ、市場自体が不要になるかブロックチェーン技術に組み込傾向がある。将来、株の売買ももしれないが市場は規制を嫌うては取引スピード規制も必要かしている。高速化リスクに対し買が高速化され、値動きが加速

【全面広告】日本経済新聞(夕刊)2016年 8月 23日(火曜日)掲載

 

報告を受け、討論者がコメ

ントした。小川氏に対しては

清水氏が、「アジア通貨のここ

1年半の変化率を見ると、必ず

しも同じような動きをしていな

い。個々の経済状況を反映し個

別に通貨が動いているため、各

国の財政政策のモニタリングが

重要になる。通貨下落の背景で

もあった資本流出をマイナスに

しないためには資本流入も必要

だ。単に流出・流入をカウント

するのではなく、理由を把握し

た上でデータを管理すべきだ。

企業間取引の決済通貨の種類の

モニタリングも今後は重要な課

題だ」とコメントした。

 

花崎氏の報告には安田氏が、

「日本の社債をみると世界金融

危機時に格付けの高いもの、低

いものの間で資金調達の二極化

が進んだ。貸付金残高と預金残

高のギャップは広がり、少子高

齢社会を迎えてからの動きは注

視すべきだ。貸付金は伸びず家

計の貯蓄トレンドも下がってい

るが、企業は恒常的に資金余剰

で企業の生産性が今後の課題に

なる」と話した。

 

小林氏の報告には本多氏が

「伝統的な分析方法を用いない

新しいタイプの研究だ。個人の

分析行動を仮定した上で現実的

な市場がどう動くかというアプ

ローチだ。今までとは違う現象

がコンピューターの計算能力向

上と合わせて再現できている。

一方、仮定から議論を始めるた

め、投資家の行動は最終的に直

感なのか、データなのかの検証

に戻らざるを得ない場合もあ

る。ビッグデータを入手しても

思うような結果が出ないことも

ある。データの使い方とシミュ

レーションを組み合わせた研究

には可能性を感じる」とした。

 

中村恒氏には大橋氏が「投資

家は企業に働かせるか、もしく

は金融資産に投資するかを選

ぶ。モラルハザードがあると企

業は働かなくなり、期待生産性

が減少、その結果モラルハザー

ドがない場合に比べて金融資産

の魅力は低下する。それが金融

資産のリスクプレミアムを低下

させる。一方、無リスク金利は

上昇する。分析手法が革新的で

あるばかりでなく、モラルハ

ザードの資産価格への影響を厳

密かつ鮮やかに分析している」

とコメントした。

 

最後に高岡氏の報告に対して

は中村信弘氏が「信用リスクの

モデリングには、代表的アプ

ローチが2つある。報告では主

にマートンの構造型アプローチ

について述べていたが、格付け

推移行列やハザードレートと

いった誘導型アプローチもあ

る」とコメント。補足として数

理ファイナンスに関する数式を

紹介した。

 

花崎氏は「政府は個人の投資

を奨励しているが、金融のリス

ク管理が困難性を増している時

代に優遇税制によって個人の投

資を促すことが正しいのかどう

か。むしろ、投資面では情報産

業でもある金融機関に期待した

い。金融機関に期待される役割

は多様化しており、金融仲介、

決済業務そして市場取引も求め

られる。また、機関投資家によ

る企業に対するモニタリング活

動の重要性も増す」と話した。

  

小林氏は「金融取引の自動売

買が高速化され、値動きが加速

している。高速化リスクに対し

ては取引スピード規制も必要か

もしれないが市場は規制を嫌う

傾向がある。将来、株の売買も

ブロックチェーン技術に組み込

まれ、市場自体が不要になるか

もしれない」との見方を示した。

  

中村恒氏は、「金融には資金

を移転しながら経済の効率性を

上げる役割があり、リスクの発

生は不可避である。今後は、不

要に過剰なリスク拡大をどう削

減するかがポイントだ。たとえ

損失があっても投げ売りが拡大

する状況をいかに回避するか。

それには市場の整備が不可欠で

情報開示、モニタリングが大事

になる。政府介入も適切に行う

べきだが、適正な規制がどのレ

ベルかは今後の課題だ」と話し

た。

 

高岡氏は「金融工学は金融危

機の際、証券価格の高騰に合わ

せてモデルのパラメータを決め

るという失敗を犯した。実務上

の問題を解決する学問なので、

結果を示すことを重視するあま

り議論の仮定の妥当性が不十分

でも異議を唱えないケースも多

く、それが裏目に出た。この反省

を踏まえ、今後は研究における

仮定部分の把握が大事になる。

パラメータ誤差を明示的に扱う

手法の深化も重要だ」とした。

 

小川氏は「危機が起こると資

金が円に向かう。グローバル化

が背景にあるが、リスクが高ま

る中で円が安全な通貨として認

識されている。金融危機では信

用度が低いサブプライムローン

の不良債権化と同時にドルの流

動性不足があった。これに対し

米連邦準備理事会(FRB)が

日銀などと協定を結びドルを供

給した。今後危惧するのは米国

の金利引き上げだ。有事のドル

供給は期待できない。国際通貨

基金(IMF)だけにも頼れな

いので地域ごとの金融協力が大

切だ」と発言。

第2報告

第3報告

第4報告

第5報告

第1報告

少子高齢化社会の進展下での

金融セクターの役割

投資行動から構築する

金融市場の価格変動モデル

モラルハザードの価値評価

流動性の不足と信用リスクの分析

米国の金融政策と東アジア通貨の

動向

の移行が望まれる。

 

今後金融セクターに

は、長期的視点に立っ

た融資業務、顧客企業

サイドに立った企業価

値向上のための資金調

達支援、企業審査に加

えてマクロ経済・投資

動向・産業調査などの

各種情報生産能力の深

化、企業や事業特性に

対応した新たな金融商

品設計、リスクマネー

の供給などが求めら

れ、それらの活動を通

大小による「投資タイ

プ」で表現した。

 

そこに指数平滑化移

動平均、資金量などを

交えて、金融市場の価

格変動を表すシンプル

なモデルを考案し、実

際の価格変動に近いと

思える変動結果が得ら

れた。投資家の数を増

やし、タイプの異なる

投資家を追加すること

で、より実際の値動き

に近い結果が得られる

だろう。突発的な外部

 

モラルハザードによ

ってリスク資産の魅力

が減りシャープ比が低

下、無リスク資産に流

れ、無リスク金利が下

がるかと思いきや、理

論値は上がる。リスク

の市場価格は投資家の

限界行動と逆に動き、

期待値や成果が下がる

ことで、リスクヘッジ

の役割を果たす。課題

は考案したモデルの現

実への応用だろう。保

険契約者のモラルハザ

そして企業が各時点で

資産全額を分割可能な

リスク資産に投資する

という設定下で、一般

的なフレームワークを

論じた。さらにそれを

永久債発行企業に適用

して、信用リスク付き

永久債価格の解析解を

得た。

 

今後は、新規債券や

新株の発行を考慮に入

れ、また情報の非対称

性などを考えるなど、

より一般的な設定での

動し、東アジアの金利

も上昇するものの、米

国に有利な金利差とな

り、東アジア通貨が減

価する。東アジアの為

替の安定を目指すに

は、国際的政策対話、

資本・為替管理では、

危機時ではなく平時に

資本流入の急増に対し

規制をすべきだ。

 

資本の流出入をモニ

ターするためには、日

中韓と東南アジア諸国

連合(ASEAN)の

 

日本の家計貯蓄は、近年少子

高齢化の進展を背景に減少し続

けている。また、日本の企業金

融は戦後、銀行を中心に推移し

てきたものの、バブル期以降は

内部金融中心へと変わってい

る。

 

近年「貯蓄から投資へ」の転

換が叫ばれているが、金融資本

市場の複雑性は増しており個人

でのリスク管理は困難となって

いる。直接金融へのシフトは現

実的ではなく、金融機関の仲介

機能と資本市場の機能とが有機

的に結びついた金融システムへ

 

既存の価格変動モデルは、根

拠に欠けるものが多く、価格変

動がなぜ起こるのか、価格は制

御できるかなどランダム性のメ

カニズムを解明するものがなか

った。これらを解明することで

有効な金融政策、金融危機への

適切な対処、金融商品のリスク

管理につながる。

 

市場参加者のポジションに由

来する変動要因は「内部要因」

といわれ、どのくらいのスパン

で見ているかという「時定数」、

リスクをどの程度とるかといっ

た「リスク許容度」、投資幅の

 

金融危機では、企業・金融機

関のモラルハザードによるミク

ロ的な歪みが市場全体に累積

し、マクロ的金融の不安定化を

引き起こしている。モラルハザ

ードは、企業と投資家の間で企

業の経営努力が見えない状態

で、本来果たすべき努力を怠り、

投資家に損失をもたらす状況を

指す。

 

モラルハザードには、投資家

の利益を企業が横領するモデル

や企業プロジェクトの成功確率

が経営者の努力水準に影響され

るものなどがある。

 

金融危機以前から、流動性の

不足と信用リスクは重要なテー

マとして注目されてきた。今回

は、債券発行済み企業の流動性

デフォルトリスクに焦点を当

て、構造型アプローチで数理的

に分析した。

 

構造型アプローチとは、社債

を、企業価値を原資産とするプ

ットオプションのショートポジ

ションとして捉え、オプション

価格理論を援用、証券価格や信

用リスクを統合的に分析する手

法だ。 

 

今回は連続時間で無限満期、

 

英国のEU離脱交渉が年内に

は始まらないことが判明し、米

大統領選挙前に、米国の金利引

き上げの可能性が出てきた。東

アジア通貨にとって一番のリス

ク要因は米国の金利引き上げ

だ。東アジアでの生産ネットワ

ークが確立され、最終財は欧米

に輸出されている。その際、生

産ネットワーク内における域内

為替相場と欧米への輸出時のド

ルやユーロに対する為替の2つ

の為替リスクが懸念される。

 

分析結果によると、米国の金

利が引き上げられると資金が移

じて、経済社会のサステナビリ

ティを確保していく役割が期待

される。

要因を入れた場合の変化や実際

の価格変動がどの程度一致する

のか比較していきたい。

ードによる保険料の引き上げ、

ヘッジファンドの戦略的倒産に

応用したい。

考察を進めていきたい。

経済情勢を監視する国際機関

「AMRO」の役割が大きくな

るだろう。

社会の持続可能性確保

実際の価格変動捉える

現実への応用が課題

構造型アプローチ採用

米国金利引き上げ注視

一橋大学大学院

商学研究科教授

花崎

正晴氏

一橋大学大学院

商学研究科准教授

小林

健太氏

一橋大学大学院

商学研究科准教授中村

恒氏

一橋大学大学院

商学研究科教授

高岡

浩一郎氏

一橋大学大学院

商学研究科教授

小川

英治氏

討論者によるコメント

パネルディスカッション

学習院大学

経済学部教授

清水

順子氏

一橋大学大学院

商学研究科教授

安田

行宏氏

一橋大学大学院

国際企業戦略研究科教授

大橋

和彦氏

一橋大学大学院

国際企業戦略研究科教授

本多 俊毅氏

一橋大学大学院

国際企業戦略研究科教授

中村

信弘氏

 

パネルディスカッションでは

三隅氏が「英国のEU離脱決定

などの影響で金融政策は混沌と

している。フィンテックのよう

な新しい状況も出現し、様々な

リスクが顕在化する可能性があ

る。未知の危機へのリスク管理

について金融理論は何ができる

のか」とのテーマを示し、各パ

ネリストが議論した。

広  告

 〈出席者

〉(写真右から)

 〈パネリスト〉

高岡浩一郎氏

中村  恒氏

小林 健太氏

花崎 正晴氏

小川 英治氏

 〈司 会〉

一橋大学大学院

商学研究科教授

三隅 隆司氏

リスク管理に金融理論は何ができるか

主催:一橋大学大学院商学研究科ファイナンス研究センター  後援:みずほフィナンシャルグループお問い合わせ先:一橋大学政策フォーラム http: www.hit-u.ac.jp/kenkyu/project/forum.html

一橋大学政策フォーラム平成28年度 第1回

三隅氏(司会)

世界金融危機と金利・為替 一橋大学大学院商学研究科ファイナンス研究センターは7月21日、世界金融危機から続く未知の危機へのリス

ク管理を巡って金融理論は何ができるのかを考えるシンポジウム「世界金融危機と金利・為替」を東京・千代田

の一橋講堂で開いた。英国の欧州連合(EU)離脱決定やIT(情報技術)と金融を融合したフィンテックの出現

などで一段と混迷を深める金融政策について、第一線の研究者が活発に討論した。

財政政策の把握を

新分析方法に期待

革新的な分析手法

誘導型アプローチも

地域の金融協力大切

金融機関の役割増す

市場自体が不要に

仮定部分の把握大事

情報開示など重要

社債の二極化進む