七尾線観光列車“花嫁のれん”の概要j r ea 2016年 vol.59 n o.1 (47) 40105...

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J R EA  2016年 Vol.59 N o.1 (47) 40105 七尾線観光列車“花嫁のれん”の概要 平成27年3月14日の北陸新幹線開業を期に北陸地 域は大変注目を集めており、多くのお客様にお越し いただいている。平成27年10月~12月に開催され る北陸デスティネーションキャンペーン(以下、「北 陸DC」)にあわせ、“和と美のおもてなし”をコンセ プトとして改造した七尾線観光列車「花嫁のれん」 を平成27年10月3日より運転開始した。 本稿では、「花嫁のれん」のデザインコンセプトや 車両概要について紹介する。 キーワード:観光列車、七尾線、伝統美、北陸DC 1.はじめに 七尾線観光列車「花嫁のれん」は、平成27年3月14日 に新たに開業した北陸新幹線(長野~金沢)の終着駅で ある金沢駅と、全国有数の温泉街の最寄駅である和倉温 泉駅との間を運転する観光列車である。運転路線は能登 半島南部を縦断する七尾線(津幡~和倉温泉)と北陸新 幹線開業にあわせ開業した第3セクター会社のIRいしか わ鉄道線(金沢~津幡)である。 「花嫁のれん」の車両改造は北陸DC開幕に合わせて運 転を開始するスケジュールで進め、この車両改造は北 陸新幹線金沢開業から約半年となるこの北陸DCを期に、 改めて北陸の魅力を全国にアピールする目的で行った。 2.列車概要 (1)編成構成 「花嫁のれん」はキハ48形気動車2両を改造している。 和倉温泉方の1号車は1000番台の車両(キハ48-1004)、金 沢方の2号車は便所付きの0番台の車両(キハ48-4)であ る。(図−1) (2)改造コンセプト 「花嫁のれん」の車両デザインは“和と美のおもてな し”をコンセプトとし、内外装で地域の伝統美を表現す ることを目指した。 外装には、伝統工芸である輪島塗や加賀友禅で用いら れる図柄を配しており、基調となっている赤と黒の車体 色は輪島塗の重箱のような雰囲気を表現した。また、側 面の図柄や帯には金色を用いて、金沢金箔のイメージも 取り入れている。(写真−1、図−2) 1号車の客室はポールで仕切られた8つの半個室となっ ており、ゆったりとくつろぎの旅を楽しめる空間をデザ インした。各部屋には部屋ごとに異なる友禅のオールド コレクション(大正・昭和初期に用いられた友禅の図柄 集)の図柄をあしらって部屋ごとに異なる雰囲気を演出 しており、各部屋へのアクセスは湾曲した通路とし床面 は飛び石柄にして日本庭園の雰囲気を表現している。デ ッキ部は物販カウンターとともに伝統工芸品の展示棚を 設置しており、沿線の伝統工芸品を観賞してお楽しみい 西日本旅客鉄道株式会社金沢支社車両課課員 前田 秀剛 MAEDA Hidetake 図−1 「花嫁のれん」編成構成

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J R EA  2016年 Vol.59 N o.1

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七尾線観光列車“花嫁のれん”の概要

平成27年3月14日の北陸新幹線開業を期に北陸地域は大変注目を集めており、多くのお客様にお越しいただいている。平成27年10月~12月に開催される北陸デスティネーションキャンペーン(以下、「北陸DC」)にあわせ、“和と美のおもてなし”をコンセプトとして改造した七尾線観光列車「花嫁のれん」を平成27年10月3日より運転開始した。本稿では、「花嫁のれん」のデザインコンセプトや車両概要について紹介する。キーワード:観光列車、七尾線、伝統美、北陸DC

1.はじめに

七尾線観光列車「花嫁のれん」は、平成27年3月14日に新たに開業した北陸新幹線(長野~金沢)の終着駅である金沢駅と、全国有数の温泉街の最寄駅である和倉温泉駅との間を運転する観光列車である。運転路線は能登半島南部を縦断する七尾線(津幡~和倉温泉)と北陸新幹線開業にあわせ開業した第3セクター会社のIRいしかわ鉄道線(金沢~津幡)である。「花嫁のれん」の車両改造は北陸DC開幕に合わせて運転を開始するスケジュールで進め、この車両改造は北陸新幹線金沢開業から約半年となるこの北陸DCを期に、改めて北陸の魅力を全国にアピールする目的で行った。

2.列車概要

(1)編成構成「花嫁のれん」はキハ48形気動車2両を改造している。和倉温泉方の1号車は1000番台の車両(キハ48-1004)、金

沢方の2号車は便所付きの0番台の車両(キハ48-4)である。(図−1)(2)改造コンセプト「花嫁のれん」の車両デザインは“和と美のおもてなし”をコンセプトとし、内外装で地域の伝統美を表現することを目指した。外装には、伝統工芸である輪島塗や加賀友禅で用いられる図柄を配しており、基調となっている赤と黒の車体色は輪島塗の重箱のような雰囲気を表現した。また、側面の図柄や帯には金色を用いて、金沢金箔のイメージも取り入れている。(写真−1、図−2)1号車の客室はポールで仕切られた8つの半個室となっており、ゆったりとくつろぎの旅を楽しめる空間をデザインした。各部屋には部屋ごとに異なる友禅のオールドコレクション(大正・昭和初期に用いられた友禅の図柄集)の図柄をあしらって部屋ごとに異なる雰囲気を演出しており、各部屋へのアクセスは湾曲した通路とし床面は飛び石柄にして日本庭園の雰囲気を表現している。デッキ部は物販カウンターとともに伝統工芸品の展示棚を設置しており、沿線の伝統工芸品を観賞してお楽しみい

西日本旅客鉄道株式会社金沢支社車両課課員

前田 秀剛MAEDA Hidetake

図−1 「花嫁のれん」編成構成

一 般 論 文

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ただける。このデッキ部壁面や展示棚には金沢金箔を用いており、展示品のみならず車体も観賞いただきたい。2号車の客室には放送装置と大型液晶ディスプレイを備えたイベントステージを設置しており、土日の運転日を中心に沿線自治体の協力により伝統芸能などの披露を行っておもてなしをしている。座席はステージを観賞いただきやすいように回転する仕様とし、席配置はカウンター席・2人ボックス席・4人ボックス席とお客様のお好みにより選べるようバラエティーを持たせた。(3)列車名とロゴマーク花嫁のれんとは、嫁入り道具の一つとして花嫁の幸せを願い婚礼の日にのれんを贈る石川県を中心に伝わる伝統文化である。特にこの列車が走る能登地域には夫婦岩と称される機具岩(はたごいわ)やパワースポットとして有名な「聖域の岬」などがある「幸」に満ちた土地である。このような「幸」に満ちた地域でお客様をおもてなしし、お客様の幸せを願う思いからこの観光列車に「花嫁のれん」と名づけた。(写真−2)ロゴマークは伝統工芸の加賀水引をモチーフに、花嫁のれんをくぐる神聖で幸せな気持ちを表現しており、全ての文字が切れずにつながった「花嫁のれん」の文字は、人と人、心と心を結ぶ列車であることを表現している。(図−3) 3.改造内容

(1)腰掛け「花嫁のれん」の腰掛けは回転座席とソファー席の2種

類を製作し、ステージを見やすいように回転する回転座席と、よりゆったり過ごしていただけるソファー席を選んでいただけるようにした。回転座席はレバー操作により腰掛けを回転することができ、60°ピッチで固定することができる。モケット色は車体色の赤と黒を用いた柄で、座席背面には木の格子を配している。(写真−3)ソファー席は1号車の半個室の一部の座席に使用しており、広々とゆったりとくつろいでいただけるように検討して製作した。もたれカバー(枕カバー)もロゴマークをあしらったオリジナルのものである。(2)テーブル車内では和倉温泉の加賀屋総料理長監修による食のおもてなしも行っており、食事をお楽しみいただきながらゆったりと旅を楽しんでいただくために全ての席にテーブルを設置した。テーブルは石川県の県木である“档(アテ、能登ヒバ)”を用いており、様々な席配置があるが、それぞれの座席で使やすい形状を検討し5種類の形状のテーブルを製作し設置している。(写真−3)(3)イベントステージ伝統芸能など(七尾まだら・和菓子作り体験など)の披露を行うためのイベントステージを2号車に設置している。ステージ床面はフローリングとし、タイルカーペットである通路部との間に段差が生じないように施行している。壁面には65インチの大型ディスプレイを設置しDVDプレイヤーからの映像を表示することができ、DVDの音声は各車の天井に新設したスピーカーから再生できる。また、BGM再生装置も搭載しており、CDやSDから各車にBGMを流すこともできるようにしている。(写真−4)

写真−1 車両外観

写真−3 回転座席とテーブル

図−2 客室構成

図−3 ロゴマーク 写真−2 花嫁のれん

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(4)床面客室の床面はタイルカーペットを敷いた。1号車は「日本庭園の飛び石」をイメージした図柄とし、不規則に並ぶ石をパターン数を増やしすぎずに表現することに苦心した。2号車は黄金色の「流水」をイメージした柄とし、イベントステージの華やかな雰囲気を表現している。(写真−5)(5)照明天井の照明は曲がりくねった通路の形に沿って設置した白色のドーム天井を、ラインLEDで照らす間接照明とし、光の道を天井に演出している。壁面には電球色LEDのブラケット灯を設置し手元を暖かな色で照らしている。(写真−6)(6)便所従来の循環式便所から車椅子対応の真空式便所に置き

換えた。それに伴いオムツ交換台・ベビーキープ・洗浄便座といった設備も新たに設置した。便所内の壁面にも輪島塗の柄をあしらい便所内もお楽しみいただけるようにしている。また、便所のピクトサインに和服を着た男女をデザインする等お楽しみいただく細かな工夫も施している。(写真−7)(7)物販カウンター物販カウンターには商品棚の他、飲食店営業許可に関わる手洗い・換気扇・冷蔵庫を設置し、アテンダントによる案内用の放送装置も設置した。冷蔵庫は機関停止留置中でも動作させ、運転前の予冷を行うことができるように、外部給電用の配線工事を行っている。また、手洗いは専用の水タンクを新設し殺菌装置を通し出水する構造とした。将来の機器追加のためのコンセントも備えている。(写真−8)(8)展示棚沿線の伝統工芸品を展示するための展示棚は、黒色を基調としたデザインで製作し、背面には金沢金箔を使用している。伝統工芸品は沿線自治体のご協力により「加賀水引」「輪島塗」「珠洲焼」等貴重な作品を展示しており、ご乗車のお客様に好評いただいている。(写真−9)

写真−5 床面(上:1号車、下:2号車)

写真−6 客室照明

写真−8 物販カウンター

写真−9 展示棚

写真−4 イベントスペース 写真−7 多目的便所、ピクトサイン(便所)

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(9)外装「花嫁のれん」は観光列車専用車両であり、営業運転時の他車両との併結を想定していない。そのため、車両デザイン上の観点から前面の貫通扉・各種ジャンパ栓受・栓納メを閉塞した。また、前部標識灯も初期の気動車で多く用いられていた1灯式の前部標識灯のデザインを取り入れ、前面上部左右に2灯設置されていた前部標識灯を撤去閉塞し、上部中央に真鍮メッキで装飾した大型の前部標識灯を1灯設置した。ヘッドマーク・帯も真鍮で製作しており、これらは赤と黒の中に金色の輝きを取り込むデザインである。(写真−10)(10)外部給電「花嫁のれん」は車内でお飲み物等を提供するための冷蔵庫を搭載しており、運転前に冷蔵庫を稼動させて適切な温度で出区することが求められる。機関を始動させることで冷蔵庫の電源が得られるが、必要以上のアイドリングを行うことは環境面および近隣住民への配慮の点から好ましくない。そのため、AC100Vのコンセントを接続することで冷蔵庫のみを稼動させる外部給電装置を新設した。

4.車内サービス

今回は「花嫁のれん」の車両改造を中心に紹介したが、本列車は“和と美のおもてなし”をコンセプトとしている通りおもてなしというソフトサービスにも力を入れているので紹介する。車内でお客様をおもてなしする和装アテンダントは、そのおもてなしで全国的に有名な和倉温泉の加賀屋の客室係と加賀屋で研修を受けた当社のグループ会社社員が担当する。また、食事のおもてなしは、加賀屋総料理長監修による“和軽食セット”および“ほろよいセット”、さらに世界的に活躍するパティシエ辻口博啓氏オリジナルセレクトスイーツの“スイーツセット”を事前予約でご用意

している。ほろよいセットのお酒は「花嫁のれん」オリジナルラベルの宗玄(能登の地酒)を用意するなど、どれもここでしか味わえないおもてなしを用意している。(写真−11)乗降いただく各駅でもお楽しみいただけるように、花嫁のれんを掲出したり、駅名票や建物の装飾、お出迎え等趣向を凝らして取り組んでいる。(写真−12)

5.おわりに

北陸地域は、2015年3月の北陸新幹線金沢開業以来非常に注目していただいており、これまでを大きく上回る皆様にお越しいただいている。そのような環境の中、「花嫁のれん」も10月3日にデビューして以来、話題にしていただいており、連日多くのお客様にご乗車いただいている。この状況が一過性のものとならず、永く皆様に愛し続けていただける列車となるような取り組みをしっかりと行っていくとともに、皆様のご指導を是非ともお願い申し上げる。また、2015年10月10日より富山県の城端線氷見線では、観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール(べるもんた)」の運行を開始している。沿線の風景を楽しめる列車としてこちらもご好評を頂いており、「花嫁のれん」とともに「べるもんた」も多くの皆様に愛していただける列車となることを切に願っている。

写真−10 外装(前面)

写真−11 食のおもてなし(要事前予約)

写真−12 駅のおもてなし