アユの通称 'ボケ病'...

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アユの通称"ボケ病"に関する研究(平成13〜22年度) 誌名 誌名 栃木県水産試験場研究報告 ISSN ISSN 13408585 著者 著者 石川, 孝典 尾田, 紀夫 小原, 明香 渡邊, 長生 渡辺, 裕介 土居, 隆秀 横塚, 哲也 澤田, 守伸 糟谷, 浩一 巻/号 巻/号 55号 掲載ページ 掲載ページ p. 4-17和文抄録(p.1) 発行年月 発行年月 2012年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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  • アユの通称"ボケ病"に関する研究(平成13〜22年度)

    誌名誌名 栃木県水産試験場研究報告

    ISSNISSN 13408585

    著者著者

    石川, 孝典尾田, 紀夫小原, 明香渡邊, 長生渡辺, 裕介土居, 隆秀横塚, 哲也澤田, 守伸糟谷, 浩一

    巻/号巻/号 55号

    掲載ページ掲載ページ p. 4-17和文抄録(p.1)

    発行年月発行年月 2012年3月

    農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

  • 4

    アユの通称“ボケ病"に関する研究(平成 13,.....22年度)

    石川孝典・尾由紀夫・小原明香・渡遁長生

    渡辺裕介 l・土居隆秀・横塚哲也・津田守伸・糟谷浩一

    Research on so-called ‘boke' disease of ayu Plecoglossus altivelis

    TAKANORI ISHIKAWA, NORIO ODA, SAYAKA KOHARA, TAKEO WATANABE,

    YUUSKE WATANABE,I TAKAHIDE DOI, TETSUYA YOKODUKA,

    MORINOBU SA W ADA AND KOUICHI KASUY A

    アユの通称 「ボケ」と呼ばれる病名lは,かつては細菌

    性鰍病 (BacterialGill Disease : BGD) のことを指す用語

    であったが, 1990年代より見られるようになった不活発

    遊泳,食欲の低下,突然の大量死を特徴とする不明病に

    ついても「ボケJ (以下,ボケ病と記す)と呼ばれるよ

    うになった。1)両者ともに 3 病魚は体を左右に斜傾させ,

    主に池壁沿いや排水口の縁辺部を緩慢に遊泳する行部J異

    常が共通して認められる。栃木県内のアユ養魚魚、場て、は,

    上応瓜訂註L分「濃農酌j度主 1%の塩水浴を 17なJ:丈いし 2時間施すことでで、ほぼi

    1癒密する7症主例と,同じ処置を施しても症状がほとんど改善

    されない症例が見られ,後者について生産者から予防策

    や治療策の開発が強く求められてきた。栃木県では 1993

    年頃から塩分濃度 1%の短時間ti[水浴が著効を示さない

    発症事例が摺加し 2)2002年以降,ボケ病は細菌性冷水

    病とならびアユの養殖経営を圧迫する主要な魚病となっ

    た(図 1)。過去 10年間の細菌性冷水病とボケ病の 2疾

    病の合計被害額は, 2006年を除き,アユ養殖における魚

    病被害額の 90%以上を占めている。当場では様々な観点

    から発症要因や対処法に関する研究に取り組んできた

    が, 2006年度まで、に有効な予防策や治療策を見山すこと

    ができなかった。 3-17)

    いっぽう 3 和田 18)は園内各地から収集した病魚の鰍の

    病理組織標本観察から,ボケ病を異型細胞型,長梓菌(細

    菌性鯨病)型,その混合感染型および萎縮壊死型の 4型

    に分類した。また, Wada et al.19)は本県で発生したボケ

    病病魚の鯉を病理組織学的に観察し,彼端に肥大した異

    型細胞と,その細胞内に電子顕微鏡下でボックスウイノレ

    ス様粒子が見られることを報告した。 さらに福田 20) は,

    本県で発生した具型細胞型病魚、の鯨からウイルス様粒子

    を濃縮し,その DNAを抽出して解析することに成功し

    l栃木県なかがわ水遊園

    た。解析の結巣, ポックスウイルス手|に分類されるウイ

    ノレスであると結論し,名称を P/ecoglos.l'usalli陀/i.l'Poxvirus

    (PaPV) とすることを提案し,このウイノレスに特異的な

    PCRプライマーを設計した。

    「ボケ病」という通称が病魚の遊泳行動の特徴を指し

    て広まった経緯,治療効果が異なる症例の混在,また病

    理組織学的研究の結果はボケ病Jが単 の疾病では

    ない "J能性を強く示している。そこで筆者らは,上述の

    研究を実施した日本獣医生命科学大学ならびに東京海洋

    大学とともに農林水産ー省消費・安全局委託事業「養姫衛

    生管理問題への調査・研究」を受託し,緊密な協力関係

    のもと, 2007年度から 2010年度まで,調査や実験をとお

    し,通称「ボケ病」の病態や病理等を分析および整理し,

    その対処法を提案した。本報告では,その概要を紹介す

    る。

    百万円70

    一冷水病 ーーボケ病60

    50

    40 ‘

    、•

    4 ,

    、、、、

    、、、、.

    d e

    、、、、、、、

    、、、,

    30

    20

    10

    。2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2∞9 2010

    年次

    回 1 栃木県内のボケ病によるアユ魚病被害額の推移

    1 症例調査

    2007年度から 2009年度まで,栃木県内のアユ養魚場

    を対象にボケ病の症例を収集した。生産者がボケ病であ

    ると自己判断した飼育群や病徴の認められない飼育群に

  • 5

    ついて,飼育状況,発痕後の死亡状況,餌止めや塩水浴

    などの対応措置状況,その効果を聞き取った。あわせて

    調査対象11干から検体を採取し,鯨の DNA抽出物を鋳型と

    した PaPVの PCR法による検出 10)既知の BGD原凶菌

    Flavobacteriul11 branchiophilumの PCR法による検出 21)

    鯨のウェットマウン卜t謀本の顕微鏡観察による長ー枠菌の

    有無機認を行った。 2009年度にはこれらの検査に力IIえ,

    Diff-Quick (DQ)染色を施した鯨スタンプ標本 (DQスタ

    ンプ標本) 21)を顕微鏡で観察し,異fEJ細胞や長梓歯の有

    無を調べた。調査対象個体は塩水浴実施前のものとし,

    検査結果にしたがって制査症例を奥型細胞11長梓菌型

    およびそれらの混合感染型の 3型に分類した。和田 18,13)

    は,異型細胞が出現していた個体はすべて PaPV-PCR陽

    性であること.PaPV-PCR陰性個体には典型的な巽型細胞

    が認められないことを報告している。そこで 3型の分類

    にあたっては.PaPV-PCR 陽性で BGD-PCR陰性かつ一長梓

    菌が顕微鏡観察されない個体を異型細胞型.PaPV-PCR陰

    性で BGD乎CR陽性もしくは長棒菌が観察される個体を

    長稗菌型.PaPV平CRr場性かつ BGD-PCR陽性もしくは長

    梓菌が観察される個体を混合感染型とした。なお,萎縮

    壊死砲についてはこれまでの観祭事例が千葉県の 2事例

    のみである 18)ため,調査を割愛した。

    3カ年に得られた 130症例の内訳は,異型細胞型 84_6%.

    長梓菌型 3.8%.混合感染型 11.5%であり.96.2%が異型細

    胞の関与する症例であった。具型細胞の関与する症例が

    ボケ病の主体を占める傾向は,栃木県以外の地域の病魚、

    も加えて不1-1田 l目、 23)が分類した結果と一致した。

    130症例中,発症後の死亡状況や塩水浴等の実施状況に

    関する情報が明確な 55症例について,死亡率を調査した。

    塩水浴等の対応措置をねった上での平均累積死亡率は,

    異型細胞明 1H%. 長梓菌翠)0_8%. 混合感染型 190%で

    あった。長梓菌型の死亡率は低く,具型細胞が関与する

    型のボケ病の死亡率が高かった。累積死亡率の出現範囲

    は,長梓菌型が 0_7~0_9%と安定して低い値であるのに刻

    し,異型細胞型は 0_0~64_9%. 混合感染型は 0_1~73.2%

    ときわめて広かった。長梓菌型に来lする治療法は確立さ

    れているものの,異型細胞が関与する症例に対する安定

    的な治療法が確立されていないことが明らかとなった。

    また. PaPV 感染とボケ病発生との関係を推定するた

    め.PaPV-PCR 陽性で発症した例数,発症しなかった例数,

    PaPV-PCR陰性で発症した例数,発症しなかった例数を整

    玉県した。症例数の多い 2008年度と 2009年度のデータを 4

    分割表に集計し,オッズ比の算定とフィッシャーの直接

    確率の計算を行った(表 1)。荷主f一度とも,また 2カ年分

    の合算データにおいても.PaPV感染とボケ病発生との間

    に強い関連が推定され,福田ら 24)が行った全国的調査の

    結果と一致した。これらのことから.PaPV 感染とボケ病

    発生は強く関連することが示唆された。

    表 1 症例調査結果におけるボケ病発症と

    PaPV感染とのオッズ比による解析結果

    2∞8年度 2009年度 2力年合計発症あり発症なし 発症あり発症なし 発症あり発症なし

    PaPV陽性症例 17 28 45 4

    PaPV陰性症例 28 2 16 4 44

    オッズ比 119 112 124

    95・.CI 15.3 -924.9 14.4 -873.4 29.1 -525.9 フィッシャーの

    3.98E-09 9.18E-09 3.55E-18 直接確率 (P)

    2 長棒菌型ボケ病と混合感染型ボケ病の原因の検討

    f定例調査において検査項目とした鯨への長梓菌の付積

    状況は,ウェットマウン卜標本や DQスタンプ棟本の観

    察とあわせ,既知の BGD原因菌 F.branchiophilumの PCR

    j去による検出により調査した。 しかし,これまでボケ病

    病魚の鯨に付着している長枠商が F.branchiophilull1であ

    るという確認はなされていなかった。また,長梓菌型と

    混合感染型に対する短時間砲水浴の治療効果の違いが,

    付着している菌種の違いによるものである可能性も完全

    には否定されていなかった。そこで. 2009年度に混合感

    染型に分類された症例の検体の側から菌を分離し F.

    branchiophillll目標準菌株 (NBRC-15030) と比較した。ま

    た,分離菌株を用いて感染試験を行った。 26)

    分離した長梓菌 6菌株はコロニ一色,菌形,運動性,

    グラム染色,チトクローム・オキシダーゼ試験,カタラ

    ーゼ試験において F.branchiophilulI1標準菌株および既報

    27)と完全に一致した。また, 一般細菌同定キット API20

    (シスメックス・ビオメリュー)を用いた生化学的性状

    20項目の比較では, 一昔11の項目で菌株聞にわずかな差異

    が認められたものの,分離蔭i株と標準菌株はほぼ同じ性

    状を有していた(表 2)。

  • 表2 病魚偲から分離された 6菌株の形態学的および生化学的性状試験結果

    I頁目丁目)901

    コロニ一色 黄色

    菌形 長棒菌

    Motility at 200

    C

    グラム染色

    チトヲローム・オキシヲーゼ +

    カタラーゼ +

    .l¥PI20

    ONPG +

    ADH 十

    LDC

    ODC

    CIT

    H~

    URE

    TDA

    IND

    VP +

    GEL +

    GLU +

    MAN

    I~コ

    SOR

    RHA

    SAC

    MEL

    AMY

    ARA

    水'NBRC-15030

    ホ2N T N:lt tested

    ト一一一一→日01

    T回 902

    黄色

    長4里菌

    +

    +

    +

    +

    +

    分離菌株

    丁目)903 丁目コ904

    黄色 黄色

    長十早箇 長栂閏

    十 十

    十 +

    + +

    + +

    +

    + +

    + +

    十 +

    TE正905

    黄色

    長f早閏

    +

    +

    +

    +

    +

    TBJ906

    黄色

    長禅問

    +

    +

    +

    +

    +

    +

    TB090G

    TB0901

    1 TB090-l 88

    TB0905

    100 11 ~~ 11 TB0903

    jI TB0902

    55 1

    標準菌t;(' a;i;幸匝27)

    黄色 黄色

    長t早箇 長手早菌

    + 十

    + 十

    +

    +

    + N T叫

    +

    +

    一刀ID'obllctfrilllllbnl1lclliopllillllll

    I 1 Flarobac削fII川 SIICOllIC{I1ISparlial

    48-1 I一一一一Flm.ob州問IfJIIherC,1'11ilf1l1]Jarflal

    97 I ,----Flmobacterfll川 CO/lllll1tr1re

    63 1 」一一 Flmob町 1tU'll1l1ljoIJ1lsoJ/iae

    Flarobacteri 11111 p~ dlrophil 11111

    Tellocibaclllllllllllaritillllllll

    図 2 病魚偲から分離された 6菌株の 16SrDNA塩基配列情報に基づく系統樹 (NJ法)

    6

  • 7

    分離 6伝i株の遺伝学的解析については, 日本大学生資

    源科学部海洋生物資源科学科に依頼して実施した。 16S

    rDNA領域の塩基配ダiJ (約 1500bp)をダイレクトシーケ

    ンス法により決定し 3 既知の細菌の配列情報と比較して

    N巴ighbor一Joining(NJ)法によりデンドログラムを作成

    した(図 2) 0 6菌株ともに F.brallChiophilulIlと同クラ

    スターを形成し,分離菌株は遺伝学的にも F

    branchiophilulIlとほぼ一致した。26)

    また, 6f,芸it朱を分離した症例の病魚 5尾の偲について,

    常法により薄切標本を作成し 病理組織さ学的に観察し

    た。薄切標本を F.bra町 hiophilulIlに対する抗体で免疫蛍

    光染色したところ,蛍光顕微鏡下ですべての個体から献

    の二次鯨弁に付着する長梓菌の群集を明確に篠認する

    ことができた(図 3) 0

    図 3 蛍光抗体j去による病魚眼の

    F branchiophi /um染色像

    (Scale bar = 20μm 矢頭部分が F branch i oph i / um)

    表 3 長樗菌感染試験における設定区

    攻撃菌株 攻撃方法 設定区 収容尾数 平均体重(g)

    観察区 40 4.4 高濃度

    サンプリング区 40 4.4

    観察区 40 4.7 低濃度

    サンプリング区 40 4.7

    A株(TB0901)

    観察区 40 4.6 高濃度

    サンプリング区 40 4.6

    観察区 40 4.2 低濃度

    サンプリング区 40 4.3

    B株(TB0904)

    観察区 40 4.3 高濃度

    サンプリング区 40 4.2 一一 一 一一一一一 一回目

    観察区 40 4.5 低濃度

    サンプリング区 40 4.6

    対照

    これらの結果から,混合感染型に分類した症例の検体

    の鰍から分離した 6菌株は,既知の BGD原凶菌 F

    branchiophilulIlであると推定された。

    次に,分離した菌株の病原、性を確認するために 6菌

    株から無作為に 2菌株を選び,感染試験を行った(表 3)。

    26)

    ドナーおよびレシ ピエン卜の死亡状況を図 4に示し

    た。非攻撃の対照区では死亡が認められなかったが,攻

    撃した 4観察区の累積死亡率一は約 20から 80%を示 し,

    アユに対する強い病原性が磁i認された。累積死亡率は菌

    株や幽濃度にかかわらず,対照区より有意に高かった。

    また,試験期間中の BGD-PCR陽性率の推移は, i共試:t1¥".

    の死亡状況や長梓菌の観察結果と ー致していた。

    100

    芸80I 梼 60υ 毎40I '* 20 。

    :~

    Lff-... o 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

    経過日数

    → -A株・高JQ.度 ・-B株・高濃度 →ーA株・低濃度-..-B株・低;濃度 一ー一対照・高濃度 『一対照・低濃度

    図 4 分離長得菌の感染試験における

    供試魚の累積死亡率の変化

    アユの BGDに対して短時間指水桝が顕著な効果を示

    すことは広く知られている 。 栃木県内における長枠産i~

    ボケ病の累積死亡率は 1%以ドであり,混合感染型ボケ

    病の平均累積死亡率は 19%であるo 長梓菌型ボケ病が

    BGDであり,混合感染型ボケ病が BGDと具型細胞型ボ

    ケ病の合併症であると仮定すると, ift合感染型に対する

    海水浴の効果が不安定である理由を説明しやすい。ボケ

    病のうち長科l量i型は BGD,混合J.¥1iは BGDと具型細胞型

    ボケ病の混合感染症,と整:Elllすることが妥当である。

    3 異型細胞型ボケ病の原因の検討

    異君主細胞型ボケ病については PaPV感染との関連がき

    わめて強く示唆されてきた。しかし, PaPVの感染性や病

    原性については明確には杷援されていなかった。そこで,

    2009年度に,異型非111胞型ボケ病病魚、と健;.t-;'魚の同居感染

  • 表4 同居感染における試験設定

    健常fII. 権病fII. 汚染排水飼育区

    設定区 水槽[レシピエント} {ドナー} 水槽 (健常1.!t)

    番号収容尾数 平均体重収容尾敏 平均体重

    番号収容尾散 平均体重

  • 福岡ら 24)が実施した同居感染試験,同じく福田ら 30)

    が実施した凍結病魚、H暴露による感染試験で, レシ ピエン

    トが PaPV-PCR陽性となった。また,当場が笑施した感

    染試験 26)では,同居区のレシピエン卜,同居区の排水で、

    飼育したレシヒ。エン卜がともに PaPV-PCR陽性となった。

    さらに,ある養魚場を対象とした症例調査においては,

    その年初めての ACGDが飼育池 l函で 5月 26日に発生

    した後, 7月 l日までの 36日間で養魚、場内の他の飼育池

    10函に次々と ACGDが発生した例 25)が確認された。こ

    れらのことから, PaPVは飼育水を介して水平感染するも

    のと推察された。

    いっぽう,福田ら 24)は,栃木県漁業協同組合連合会ア

    ユ種市センターにおいて, 2007年度と 2008年度の 2ヵ年

    にわたり,採卵親魚、とそれに出来する仔稚魚、について

    PaPVの保|差i検査を行った。その結果, 2007年度に保菌検

    査を行った親魚 5系統中 2系統から PaPVが検出され,う

    ち l系統に由来する仔魚、が PaPV-PCR陽性を示 した。 こ

    のことは,親から子への垂直感染の可能性を示唆するが,

    PaPVが親魚,仔稚魚ともに検出されなかった 2008年度

    の翌年にも栃木県内では多数の ACGDの症例が認められ

    た。30)

    アユ以外の魚種の PaPVに対する感受性を調査するた

    め,コイ,フナ, ペへレイ,ニジマス,メダカ,ニホン

    ウナギ,キンギョ,ナマズに対し感染試験を実施した結

    果は,ベへレイ,ニジマス,メダカで PCRにて増幅産物

    が権認されたが, DNAの噌幅はきわめて微弱で、,死亡や

    行動の変化は見られなかったという。 20) 現在のところ,

    PaPVの病原性はアユに対してのみにしか確認されてい

    ない。

    また,福岡ら 20)は,複数のアユ養魚場に近接して流下

    する栃木県さくら市地先の荒川でフk生昆虫の幼虫,成虫,

    陸生昆虫および魚類を採集し, PaPV-PCR検査を行った。

    アユ以外の生物から PaPVが検出されることはなく,ヒ

    述の垂直感染,他;魚種からの感染を含め, PaPVの感染源

    を特定するには至っていない。

    PaPV嬢種による感染試験20) や同居感染試験26,30)にお

    ける PaPV-PCR検査の結果から, PaPVはアユに感染後,

    アユの体内で概ね 4日から 7日程度でt普殖すると考えら

    れた。

    福閏ら 241は, PaPV浸漬攻撃後 32日目のアユに PaPV

    を再曝露し,丙感染の有無を調査した。その結果, PaPV

    は感染耐過魚体内では増殖しにくい,あるいは再感染し

    にくいと報告している。少なくとも栃木県内の症例調査

    において, PaPV-PCR陽性履歴のある飼育群が, ACGD

    終息後に再度 PaPV-PCR陽性となった事例はなし、。

    5, ACGD (異型細胞性偲病)に関する情報の整理

    養殖生産現場や魚、病検査機関にとって,魚病の発生を

    的確に把握するためには,病態・病理に関する情報が欠

    かせない。そこで, ACGDに関するこれらの情報を整理

    した。当揚が 2006年度までに収集したボケ病に関する情

    報 3-17)は,病型が分離されておらず,複数の病型が含ま

    れている可能性がある。 しかし,鰍のウェットマウント

    標本に長梓菌が観察されなかった症例が調査対象となっ

    ており,主として ACGDに関する情報であると推察され

    ることから,参考情報として使用した。

    ACGDが発症すると,飼育池の池壁沿いの上層付近で 3

    壁側とは反対のカ向に向かつて体を左右に斜傾させて遊

    泳する病魚、が多数見られるようになる。遊泳は緩慢とな

    るため,定位しているように見られる個体が多い。重症

    な個休は次第に水面付近で横臥や立ち泳ぎのような行動

    を示すようになり 3 突如,狂奔し 3 旋同し,横臥して池

    j去に沈んでいく。病魚の体色は黒化する。重症な他|体で

    は黒化した部分と主主化した部分がまだら模f;f{に見られる

    など,酸素欠乏時に頻繁に観祭される体色変化と同様の

    状態を示す。3,4) 病魚は食欲が著しく減退ないし廃絶す

    る。18) 死亡は発症群の中の大型の個体から始まり,次第

    に小型の個体に}l~がっていく (図 7) 0 4)

    110

    100

    .!A 90 樹

    苦80時

    言70U ぽ 60

    50|塩,昔前{制後塩,昔前1塩浴後塩,昔前塩,一塩浴前塩,時!塩糊塩浴撞塩,苔前:塩崎1臼自 2日目 3日目 48目 日目 6日B

    図 7 ボケ病の進行と死亡魚平均体重の推移

    発症の兆候はきわめて不明確である。このため,突然

    に行動異常が認められ,数時間後には大量死亡が始まる

    といった観察事例が多い。3,4)注意深く観察すると,群と

    しての行動異常が観察される前に,養魚池に設置されて

    いる曝気用水車後方の池の角部や排水口付近など,池の

    中の水流の緩い場所に,上述の斜傾した遊泳状態を示す

    個体が数尾観察される。

  • 病;0,では,自!3i等板J')交に大型!s.1型細胞が出現し,重症

    化すると鯨薄板の癒合,鯉弁の促体化に至る。鯨の外観

    は,制業の股JI長,充血が特徴的である。22) 充lflLの結果,

    鰍や肝臓は時赤色に変化する 3) が,細菌性冷水病の病

    中・病後の影響を受けている個体ではこれらの変化は明

    隊に観察することができない。また,鯨のウェットマウ

    ン卜標本を検鋭すると, 高頻度で赤色点が観察されるが,

    非発症魚でも赤色点が観察されることがあるため,必ず

    しも ACGDを疑う柾木とはできなし、(図 8,針。17)

    A

    図 8 異型細胞性偲病魚

    A 病魚、の充血した偲, B 病魚偲の動脈癌(矢頭)

    和田が開発した鯉の DQスタンプ標本を用いた異型細

    胞検出法 22)では,鯉、薄板が根棒化している病魚および鯨

    薄板の癒合は顕著だが根棒化はしていない病f",~から作製

    した標本には,容易に異型細胞が観察される。{偲薄板の

    癒合が少ない病魚から作製した標木の場合,やや検出の

    精度が低下するものの,顕微鏡が準備できれば,生産現

    場で迅速に異型細胞を確認することができる。なお,本

    法では,具型細胞と同時に長梓菌や短梓菌を観察するこ

    とも I.IJ古巨である (区110)。

    lUL i夜に闘しては,ヘマトクリット (Ht) 値と lirL媛タン

    パク量の著しい上昇が認められる。 4) これらの変化は,

    健常魚、を酸素欠乏状態に置いたときにもj,Jj様に見られ

    10

    た。 したがって, ACGDにおいては,告!tの呼吸機能が低

    下 し,酸素欠乏状態に陥る結果として Htfnl等が上昇する

    図 9 病魚偲に観察された偲弁の梶棒化と

    大型異型細胞(矢頭) (HE染色, x 400)

    図 10 DQ染色を施した病魚偲スタンプ標本

    (矢頭大型異型細胞、円内長得菌)

    と考えられた。なお, Ht値が 50をj也えると死亡率が高く

    なった。 3、4)lIlLi青中の電解質であるナトリウム (Na),塩

    素 (Cl) は健常群より低かった。13、1X) 窒素代語、I産物であ

    るアンモニア (NH3) ,尿素態窒素 (BUN) ,尿酸 (UA)

    は健常群より高かった。18) 鰍薄板上皮は l価イオンの交

    換や窒素代謝産物の排池の主要門戸であり,偲の機能が

    低下することで、血清電解質のバランスが損なわれ,泊L"P

    に窒素代謝産物が土自力日していると考えられた。 18)

    ACGDに関する疫学的調査は,悩|卦らが全国湖泊河川

    養嫡研究会の「アュの疾病研究部会J会員県を中心iこ実

    施した。24.30)発生時期は 4片から 10片で, 8月が発生の

    ピークとなっている。発生水温祐-は 16"Cから 250

    Cで,特

    lこ 170Cから 20CC付近で好発する傾向が見られた。発生時

    のf~l体サイズは 4.6g から 150g と広範にわたるが,特に

    20g以下の併に多く発生する傾向が認められた。終息、まで

    の累積死亡率は 0.03%から 100%と幅広く,死亡率の低い

  • 症例と高い症例に二極化する傾向が見られるが 3 概ね

    10%以下に収まっている症例が多い。飼育水の種類,飼

    育水温,種苗の系統,魚体サイズ,飼育密度と ACGDの

    発生の関係は不明確であった。 24、30)当場が 2006年度まで

    に収集した情報 3-17)では,飼育水の溶存酸素量 (DO) ,

    遊離炭酸,全炭酸,アンモニア態窒素 (NH/-N)濃度, pH,

    飼育池の換水率,飼育密度,流速,飼育魚、への給餌率お

    よびアスコノレビン酸投与について, ACGDの発生との闘

    ては Na+とC1が健常群より低くなる 18)ことから,取水浴

    は巾清中の Na+とC1のバランスを補正する働きがあると

    推論した。

    11

    100

    90

    80

    70

    60

    50

    40

    30

    (ま)時徳川明

    20

    t .----4・、

    ゆー・・ーーー令 4・一一一一+----・日 比]よムι」ιL~よムムI

    o 8 16 24 32 40 48 56 64 72 80 88 96

    経過時間

    ー〉ー0.4%区

    →ー1.0首区

    10

    塩水浴による ACGDの死亡被害軽減

    現在, PaPVの感染源や感染環を特定するには至ってい

    ない状況にある。 20,24.30)ACGDによる被害を軽減するた

    めには, 当面,発生後の治療・対処に対策を集中しなけ

    ればならない 28)しかし,アユ養魚、場で多用されている

    塩水浴による ACGD治療法の効果は不安定であり,未だ

    最適化されていないと考えられる。そこで,塩水浴治療

    法の最適化を目指し,塩ノk浴治療に関する情報を整理し

    係は認められなかった。

    6.

    --uー0,同区

    寸ー1.2%区

    図 11異なる濃度で実地した塩水浴における生残率の変化

    (ま)掛部川明

    48

    。AV

    AV

    G

    、。

    帆V

    40 16 24 32

    経過時間

    塩水濃度0.6%

    8

    一←食塩0首区

    →ー0.8%区

    100

    90

    80

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    た。

    かつて当場では,ボケ病発症時の対策として長時間の

    塩水浴に効果が見られることがあるというアユ養魚場か

    らの聞き取り調査結果に基づき, 2003年度に塩水浴の濃

    度・継続時間・方法に関する水槽実験を行った。 8)その

    結果記分濃度 0.6%で,適宜塩水を交換するなど、塩水浴

    中の水質維持に鼠意し,発症魚、をできるだけ長く塩分に

    l曝すことで,死亡率を軽減できると提言した(図 11,12)。

    しかし,一般的に面積が 100rrf前後に及ぶ事業規模の養

    殖池で塩水交換を行 うことは,交換期の綴水貯水槽の確

    保や食塩使用量増加に伴う経費負担が現実的ではなく,

    養殖生産現場に普及することはなかった。

    そこで,養殖生産現場に適用可能な塩水浴方法を開発

    するため,上述した効果の高い塩水浴方法と他の塩水桝

    )J法の違いに注目し,調査と実験を進めた。

    BGD治療に際し,当場は生産者に対し,塩分濃度 1%

    で lないし 2時間の塩水裕を指導している。これは,塩

    分濃度 1%という環境下で生存が国難になるという BGD

    原因菌 F.branclziophilulIlの性質を利用した除菌力訟であ

    一合一塩水/差し水反復法ベ〉一塩水無交換法

    異なる手法で実施した湯水浴における生残率の変化

    淡水魚が不足する塩類を拙から徒動輸送により取り込

    んで、いることはよく知られている。31)ACGDでは,鯨薄ー

    板上皮に形成される大型異型細胞や,それに伴う鯉薄板

    --塩水/淡水交互法一←塩水交豊島法ーやー一対照区(かけ流し)

    図 12

    る。

    いっぽう, ACGDの病魚、を用いた塩水浴試験では,試

    験期間 6日間をとおし,塩水浴区と対照区の間に PaPV保

    菌半の差は認められなかった。26)ACGDにおける境水浴

    の効果は除菌ではなく,別の機作によるものと考えられ

    た。和田 23)は塩水浴個体について血清生化学検査を行

    い Na+と Clが噌加することを報告した。ACGDにおい

  • の癒合等により鯉の機能が著しく低下していると考えら

    れる。ACGDにおける権水怖には,外音IIJJ言境7l

  • 13

    病魚、に悪影響を与えていると考え,現在は図 14の実験結

    果を根拠に,生産者にタlし24時間以上の餌」上め後,かっ

    水温上昇を避けるため早朝ないし夕方以降の塩水浴実施

    を指導している。

    4

    3

    A

    」¥国

    E)Mm刷閉山市川酬総

    hn川山「入Ah

    。開始時 17時間後 24時間後 41時間後 48時間後 65時間後

    図 14 餌止め 24時間後に実施した

    塩水浴中のアンモニア態窒素濃度の変化

    しかしながら,長時間塩水浴は昼間にも及ぶため,夏.

    季にはノki.昆上昇を避けられないことも多い。症例調査を

    行う {ドで,アユ養殖生産者の一人から,気ili¥tの津川、とき

    は,塩分濃度 1.3%科度の短時間塩水浴の方が病魚の死亡

    率が低くなる傾向があるとの情報を得,確認のための試

    験を実施した。日)

    ACGDを発疲した 100rri飼育池の病魚群に筑分濃度

    1.3%の;塩水浴を 2時間施した後, 3L1秒程度の注水を再開

    し,徐々に淡水化した。塩水浴中,治療群には水面を激

    しく飛び跳ねる個体が多く見られたが,寝水浴中の死亡

    率は 0.5%にとどまった。翌日には,症状が改善されて死

    亡魚は見られなかった。塩水浴は夏季に実施し,気ilili.も

    高かったが,ノ'ki昆上昇を 2時間で O.4OCに抑えることがで

    nυn刃向

    MU

    1

    n

    h

    u

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    h

    J

    U

    S体

    u

    内,

    きた。 しかし, 3日後には ACGDに特徴的な症状が丙び

    観察されるようになり,死亡数が増加した。情報を提供

    した生産者によれば,症状を観察しながら同じ胤/k裕を

    反復実施することで死亡率を低く抑えることができると

    いう(私信)。水温や NH/-N濃度の上昇を回避できる取

    水浴方法で、あり ,iIE例調査において復数の成功事例が見

    られている。今後,追試験の実施が必要であるが,現状

    では生産現場に適用可能な夏季の塩水浴法として生産者

    に推奨している。

    塩水浴時に観察される死亡には一つの特徴がある。人

    が飼育池で作業を行っている時間帯に,より多くの個体

    が死亡するという現象である(図 15) 0 4)例えば,手綱

    を水中に入れて死亡魚、を回収する作業を行うと死亡率が

    急激に高くなる。 この時,病魚は手網あるいは人や人影

    から逃避する行動を示し,激しく遊泳する様子が観察さ

    れる。そして急激に運動した個体が,そのまま狂奔し,

    横臥し,死亡に至る。 ACGDでは偲の機能の低下に伴い,

    酸素取り込み能が著しく低下していると考えられる。激

    しい運動により酸素袋求量が高まったため,病;魚がさら

    に衰弱したものと惟察される。

    酸素取り込み能が低下している病魚を死亡に至らせな

    いためには,病;魚を安静状態に置くことが重要である。

    ACGDの病魚、が池の角や排水口近くなど比較的流速の弱

    い場所に集まりやすいことから想像されるように,養魚

    j也に設置されている曝気用水車が作り出している通常時

    の流速は,病魚にとって強すぎると推測される。福田ら

    28)は症例調査において,水車;を停止させ,酸素ガスを養

    魚池に通気した事例B これらの処置に塩ノk浴を組み合わ

    せた事例では,累積死亡率がすべて 30%以下と低く抑え

    られていることを報告した。このことから,現在,筆省

    らは魚、病指導にあたり, ACGDが疑われたときは阜ち

    図 15 塩水浴期間中の時間当たり死亡率の推移

  • に水車を壁側に向け,7l

  • 15

    にある。筆者らが 2009年度に行った症例調査では,早期

    にPaPVの保菌を確認し,発症前に末、j処した群の平均累積

    死亡ギは 1.0%,発疲後に対処した群は 5.7%であり,早期

    発見・早期治療が有意に死亡被害量を低減することがわ

    かった。26) これまでに述べてきたボケ病に関する知識や

    対応策を実践することで,栃木県におけるボケ病被書は

    着実に減少する傾向にある。

    ボケ病対策は,早く正確に病型を確定することに始ま

    る。すなわち, BGOとACGOの見きわめが重要となる。

    和田が開発した OQスタンプ標本による具型細胞や長梓

    菌の確認技術 22)は,迅速性,簡使性という点できわめて

    優れた手法である。顕微鏡を導入すれば,養殖生産者 rl身が簡易診断することが可能であり,異型細胞が観察さ

    れれば,早期に餌止め,水車の向きの変更などの対応を

    決断することができる。長梓~iが観察されたときには,

    BGO, BGOとACGOの混合感染,までは特定できずとも,

    とりあえず短時間取水浴を決断することができる。異型

    細胞は長梓菌に比べ観察しづらいが,現在の症例数ベー

    スでの具型細胞検出率は PaPV-PCR検査に対し, 63%と

    なっており,異型細胞検出に経験を積み,検査個体数を

    土台やすことで、検出効率の向上が期待で、きる。2R)木県にお

    いても当揚が生産者に対し,本技術の普及に努めている

    が, I日分には使われていない状況にある。アユ養殖生産

    者に対する木技術の研修機会の治大と普及が今後の課題

    である。

    塩水浴の実施にあたっては,これまで述べてきたとお

    り,環境条件を;111J御して塩水浴そのものによる死亡被害

    を抑制する必要がある o 筆者らは,境水浴開始後に急激

    に 00が低下することを確認している。35)ACGOでは病

    魚の酸素取り込み能が低下しているため, 00レベルがド

    がると致命的な結果につながる可能性がある o 氷中の

    NH/-N 濃度についても監視を怠ると,大量死亡に王らし

    める可能性が高い。それぞれの養殖生産者が,随時,;J<

    I鼠, 00, NH/-N 濃度,塩分濃度なとかの水質i裏目をチェ

    ックできるように,測定器具の導入と測定の習慣付けを

    促していくことが重要である。 しかし,水瓶, 00,塩分

    濃度, NH4十

    N濃度など,それぞれの項目がかかわり合っ

    て病魚へ影響を与えているため,筆者らは未だ,遵守す

    べき各項目の基準値を養殖生産者に対して示すことがで

    きずにいる。筆者らは,大まかな目安すら存在しないこ

    とが 2 生産現場における塩水浴の効果を不安定にしてい

    る主要な原因であると考えている。基準値を求めるため

    の調査を継続する必要があるが,かかわり合う項目が多

    いため 3 基準値の策定はきわめて悶難であると 予想され

    る。 したがって,ACGO発症時の新たな対処法について

    もあわせて検討していく必要があると考えている。

    症例調査の中には,塩水浴を実施せず 3 絶食,流速の

    緩和,飼育池の 00 レベノレの向上などの処置だけで病魚、

    を低死亡率のまま回復させた事例も含まれている o 筆者

    らがこれまで行ってきた試験をとおし,示唆的な現象も

    観察されている。各種の試験を実施するため 3 病魚を発

    症池から試験池に移動する作業を何度も行ったが,発症

    池から活魚、輸送水槽あるいは試験池に病魚を移し替える

    だけで発症池に比べ明らかに死亡率が下がる例,病魚、を

    塩水に移し替えると直ちに症状が緩和され,通常の遊泳

    状態に戻る例を多く経験している o これらに共通してい

    るのは“新しい水"であるo 理論的には酸素取り込み能

    が低下している魚をハンドリングすれば,椴素要求量が

    高まって椴素欠乏の症状が充進すると考えられる o にも

    かかわらず,症状が緩和される理由としては,発症池の

    NH/-N濃度と“新しい水"の NH/-N濃度の差,すなわ

    ちアユ体内の NH3濃度と外部環境水の NH4+-N濃度の勾

    配が大きくなることによる体内環境の改善が想像され

    る。また,症例調夜からは,酸素供給による症状の緩和

    にまだ多くの可能性が考えられる。今後も 当場の魚病指

    導業務をとおして,必要な情報を収集し, ACGDによる

    f~病被害対策技術の改善を図っていき たい。

    謝辞

    木研究を遂行するにあたり,東京海洋大学の福田穎砲、

    名誉教授,日本獣医生命科学大学の和凹新平准教授には

    長期にわたり,終始暖かいご指導とご協力を賜った。 日

    本大学の間野{fI¥宏専任講師には菌株の解析に係る技術

    的ご指導をいただいた。また,栃木県養殖漁業協同組合

    の庖野哲男代表理事組合長をはじめ,アユ生産者のみな

    さんには供試魚、や有益な d情報の提供に多大なるご協力

    をいただいた。 さらに,木試験は農林水産省消費・安全

    局委託事業 「養猫衛生管理問題への調査・研究」の一部

    として実施され,委託事業に係る部分では(社)日本水産

    資源保護協会の反問]稔養殖衛生センター長をはじめ,多

    くの職員の皆様にご助言をいただいた。

    この場を借りて,こ、協力いただいた多くの方々に厚く

    お礼申し上げるo

  • 引用文献

    1 ) 和田新平不明病(rボケJ). r新魚、病図鑑J緑書

    房,東京 2006;71

    2) 石井日出郎アユ疾病対策試験 通称ボケ病対策試験

    栃木71

  • 17

    28) 福岡穎穂,井上友恵、,和田新平.4.アユのボケ病の防

    |徐技術に関する研究ーアユポックスウイノレスの病原

    性と迅速診断法に関する検討一 平成22年度養姫衛生

    管理問題への調査・研究成果報告書 2011;39-53

    29) Wada S, H Atami, 0 Kurata, K Hatai, K Kasuya, Y

    Watanabe, H Fukuda. Histopathology of gilllesions of ayu

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    年度養殖:衛性管理技術開発研究成果報告書 2008;

    85目 99.

    35) 尾田紀夫,石川孝典,渡漫長生.5 アユのボケ病の防

    除技術に関する研究 ボケ病魚の治療技術の開発

    とマニュアル化 。'jZ成22年度養殖衛生管理問題への

    調査・研究成果報告書 2011;55-64

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    細胞性鯉病 (AtypicalCellular Gill Disease: ACGD)診

    断・治療マニュアルヲ魚類防疫技術書シリーズ XXVII

    (社)日本水産資源保護協会,東京 2011

  • 〔研究報告〕

    アユの通称“ボケ病"に関する研究 (p4-17)

    養殖アユに大きな被害をもたらしている“ボケ病"と呼ばれ

    る原因不明の病気について原因の究明と治療法の検討を行い

    ました。ボケ病は細菌性の鯨病とウイルス性の鰍病の 2種類に

    分けられ、両者に同時感決する例も多いことがわかりました。

    細菌性の鯨病は病魚を 1%の食主主水に 2時間科度浸けることで

    治療できます。ウイルス性の鯨病で、は、通常水温11寺には病魚、を

    低濃度の庖水に長時間浸ける方法、高7.kimtn寺には高濃度の塩水

    に短時間浸ける方法に治療効果がありました。ただし、塩水の

    水質悪化に注意しないと大量死を招くことがあります。

    /