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15日サ会誌 2014, 34(1)
PETによる心臓サルコイドーシスの活動性病変評価 〔総説〕
心臓サルコイドーシスの活動性病変評価に18F-FDG PETは役立つのか?
諸井雅男1, 5),宇野公一2),山田嘉仁3),山口哲生3),諸岡 都4),窪田和雄4),廣江道昭5)
Masao Moroi1, 5), Kimiichi Uno2), Yoshihito Yamada3), Tetsuo Yamaguchi3), Miyako Morooka4), Kazuo Kubota4), Michiaki Hiroe5)
【要旨】Fluorodeoxyglucose(FDG)は糖のアナログであり,18F-FDGPETは細胞の糖代謝を画像化する.近年,心臓サルコイ
ドーシスの活動性病変を評価する方法として,18F-FDGPETが有力であることが示された.しかしながら心臓におけるマクロファージなどの炎症細胞へのFDGの取り込みを評価するためには,正常心筋細胞への取り込みを抑制する必要がある.そのためには18時間以上の絶食と検査前の低炭水化物食(5g以下)による前処置が重要である.また,長時間絶食の確認には血中遊離脂肪酸濃度が役立つ.長時間絶食によっても不全心筋細胞はFDGを取り込む.実際の心臓サルコイドーシス病変部位では不全心筋細胞と炎症細胞が混在すると考えられる.瘢痕病巣との区別は重要で,心筋血流SPECT,心筋脂肪酸代謝SPECTが参考となる.18F-FDGPETは臨床的には治療の評価および心内膜下心筋生検のガイドとしての活用が期待される.
[日サ会誌 2014; 34: 1]キーワード:炎症細胞,心筋細胞,糖代謝,グルコーストランスポーター,脂肪酸代謝
Can We Evaluate Active Lesions of Cardiac Sarcoidosis with 18F-FDG PET?
Keywords: inflammatorycells,myocardialcells,glucosemetabolism,glucosetransporters,freefattyacidmetabolism
1)東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科2)外苑東クリニック3)JR東京総合病院 呼吸器内科4)独立行政法人国立国際医療研究センター 核医学科5)同 循環器内科
著者連絡先:諸井雅男(もろい まさお) 〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6 東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科 E-mail:[email protected]
1)DivisionofCardiovascularMedicine,TohoUniversityOhashiMedicalCenter
2)GaienHigashiClinic3)Department of RespiratoryMedicine, JR TokyoGeneralHospital
4)Division ofNuclearMedicine,Department ofRadiology,NationalCenterforGlobalHealthandMedicine
5)DepartmentofCardiology,NationalCenter forGlobalHealthandMedicine
はじめにグラム陽性の嫌気性細菌であるアクネ桿菌(Propioni-
bacterium acnes)に対する過敏性免疫反応がサルコイドーシスの本体とする説が有力であるが,未だに確定されていない1,2).アクネ菌は常在菌であり,通常状態では病変を形成しない.宿主の状況によってマクロファージが活性化され,これに捕食されても殺菌されず細胞内で増殖する.活性化されたマクロファージは組織への病変の拡散を防ぐためにサイトカインを分泌しリンパ球を動員する.こうして炎症病変が形成されると考えられている.心臓サルコイドーシス病変の初期にはリンパ球やマクロファージを主体とした炎症細胞や障害心筋細胞などが混在し,類上皮細胞の出現から時間の経過とともに線維化・瘢痕形成に至ると考えられる.この病変形成における経時的変化のどの時期に心臓サルコイドーシス患者の病変が相当するのかを判断することは治療に重要である.線維化・瘢痕形成に至る前の活動性炎症に対しては副腎皮
質ステロイドホルモン薬(以下ステロイド)や免疫抑制薬が有効であるからである.逆に線維化・瘢痕形成に至った心臓にはこれらの治療は無効であるばかりか副作用が目立つことになりかねない.病理所見は重要であるが,心筋に巣状に形成される病変を心内膜下心筋生検で的確に捉えるのは容易ではない.さらに病変部位によって進行は異なるかもしれない.近年,心臓サルコイドーシスの活動性炎症性病変を評価する方法として,18F-FDGPETが有力であることが示された3).しかし,条件によっては18F-FDGは正常心筋細胞にも取り込まれるため(生理的集積),必ずしも炎症性病変に集積しているとは限らないことも指摘されている.本稿では18F-FDGPETを中心に心臓サルコイドーシスの活動性炎症病変の画像診断についてその有用性と限界について述べる.
67Ga SPECTと18F-FDG PETについてSPECTとは,singlephotonemissioncomputedtomog-
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17日サ会誌 2014, 34(1)
PETによる心臓サルコイドーシスの活動性病変評価 〔総説〕
影上の対策が必要になる.検査直前の血中遊離脂肪酸濃度が高ければ高いほど生理的集積は抑制されるので読影に際して生理的集積かどうか判断に迷う場合には検査直前の血中遊離脂肪酸濃度が参考になる.自験例では血中遊離脂肪酸が0.8mEq/L以上では生理的集積は抑制されている可能性が高い10).また,左室心筋への集積パターンによっても生理的集積かどうかはある程度推察可能である(Figure3).心臓の大きさがほぼ正常で左室にびまん性にFDGの集積が認められる場合は,生理的集積の可能性が高い(Figure3A).また左室の側壁および心基部のリング状集積(Figure3B)も健常人で認められるので生理的集積の可能性がある.さらに不全心筋ではGLUT4ではなくてSGLT1によりFDGが取り込まれることが報告されており12),不全心筋では長時間絶食によってもFDGの取り込みを抑制できない可能性もある.不全心筋細胞と炎症細胞によるFDGの取り込みを区別するのは困難であるが,炎症部位には不全心筋と炎症細胞は混在する.このことが炎症部位にFDGの集積が明瞭になっている可能性も否定できない.注意しなければならないのは,炎症細胞が存在せず,不全心筋細胞のみの場合でもFDGは集積するということである.FDG集積が活動性炎症ではなくて不全心筋を反映しているかどうかを検討するには,心エコーや心筋血流SPECT,心筋脂肪酸代謝SPECT,心臓MRIなどの他の方法が有用である13,14).
18F-FDG PETの実際の読影方法まずはじめに, 全身のMIP像で心臓を含め全身の臓
器へのFDGの集積の有無をみる.MIP像とはmaximumintensityprojectionの略で最大値輝度投影法と訳される.三次元データ(二次元データの重ね合わせでもよい)をある方向から投影し,その投影線上で最も強い信号だけを
取り出して表示する方法である.Figure4aはサルコイドーシス患者のMIP像である.心臓への集積の他に肺への集積も確認できる.サルコイドーシスは全身性疾患であるので心臓以外の臓器への集積は診断の重要な根拠となりうる.心臓のどの部位にFDGが集積しているのかを確認するには前額断(Figure4b)や横断像(Figure4c)を利用する.この症例では,横断像で心室中隔への集積を認める.この症例では認めないが,右室自由壁にFDGの集積を認める場合もある.
左室心筋への集積が認められる場合には,斜断層法による再構成(短軸像,垂直長軸像,水平長軸像)を行う.Figure5はFigure4の 症 例 の201TLと123I-BMIPPSPECTおよび18F-FDGPETの斜断層法による再構成(短軸像,垂直長軸像,水平長軸像)をまとめたものである.201TLでは欠損像を認めないが,123I-BMIPPでは側壁のみ集積が目立ち,その他の部位への集積は低下している.18F-FDGでは前壁,下壁および心室中隔への集積が目立つ.左室側壁へのFDGの集積は認めない.この所見を参考とし右室中隔側への心内膜下心筋生検を行ったところ,類上皮細胞と非乾酪性肉芽腫を認め,心臓サルコイドーシスと診断された.このように18F-FDGPETは心筋生検のガイドとなり得る.
18F-FDG PETの心臓の適用疾患18F-FDG-PET検査の心疾患での保険適用(2012年4月改
訂)には以下の2つがある.1.虚血性心疾患による心不全患者における心筋組織の
バイアビリティ診断(他の検査で判断のつかない場合に限る.)
2.心臓サルコイドーシスにおける炎症部位の診断が必要とされる患者
Figure 2. FDGの集積機序
HH
CH2OH
OHOH H
OHH
OH
O
HH
CH2OH
OHOH H
18FH
OH
O
Glucose(ブドウ糖)
18F-FDG FDG FDG FDG-6-P×
×
Glucose
CO2
Glucosehexokinase
ATP ADP
phosphatase
hexokinase k3
: Glucose transporter(GLUT)
正常心筋細胞:GLUT4 インスリン依存性炎症細胞:GLUT1 GLUT3 インスリン非依存
phosphatase k4
Glu-6-P
Fru-6-PTCAcycle
滞留
CO2
Glycogen
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19日サ会誌 2014, 34(1)
PETによる心臓サルコイドーシスの活動性病変評価 〔総説〕
この保険適用によると18F-FDG-PETは心臓サルコイドーシスと診断された患者にしか使用できないことになる.心臓サルコイドーシスは診断が難しい疾患の1つである.心臓サルコイドーシスは早期のステロイド使用が有効であるので,早期診断が重要である.この観点からは,心臓外のサルコイドーシスと診断された患者において心臓病変が疑われた場合に活用できることが望まれる.
Figure 5. 斜断層像
201Tl
前壁
前壁
心尖部
下壁
下壁
123I-BMIPP 18F-FDG
短軸 中隔
中隔
側壁
心尖部
側壁
垂直長軸
水平長軸
心臓サルコイドーシスで18F-FDG-PETが特に有用な場合
ステロイド治療の評価として有用と考えられる.Figure6は治療前とステロイド治療3 ヵ月後の18F-FDGPET画像である.改善しているのが一目でわかる.この所見はステロイド減量の参考になる.また心内膜心筋生検施行に際して盲目的に行うよりも,FDG集積部位をターゲットとして行う方が生検の陽性率が上がる可能性がある.今
Figure 6. 心臓サルコイドーシス患者のステロイド治療前後の18F-FDG PET画像
治療前 治療3ヵ月後
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日サ会誌 2014, 34(1)20
PETによる心臓サルコイドーシスの活動性病変評価〔総説〕
までの報告では心臓サルコイドーシスにおける心内膜下心筋生検の陽性率は20%以下であるので,18F-FDGPET画像をガイドとした生検は期待される.
おわりに心臓サルコイドーシスは診断が困難な疾患の1つであ
る.臨床症状は多彩で,バイオマーカーなどの血液検査も診断項目としては絶対的なものはない.完全房室ブロックを来した中年女性でペースメーカーが留置されて安心し,5年後に心不全で再入院したケースもある.このときはすでに左室駆出率は10%であり,左室心筋は瘢痕形成となっていた.肺サルコイドーシスで経過観察されていた患者で新たな右脚ブロックが認められ,最終的に心臓サルコイドーシスと診断された場合もある.肺サルコイドーシスと診断された患者では自覚症状がなくとも年に1度は心電図を評価し,新たな右脚ブロックの出現や心機能の低下といった変化があれば積極的に心臓サルコイドーシスを疑ってもよいかもしれない.そのときにどのようにして心臓病変の有無を評価したらよいのであろうか.心エコー,67Gaシンチグラフィ,心臓MRIなどに加えて18F-FDGPETも有力な検査法となりうると思われる.そのためには18F-FDGPETを正確に評価する必要がある.
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