メキシコ合衆国:政治・経済の現状と今後の 展望 -...

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メキシコ合衆国は近年、経済・政治の両面にお いて大きな変貌を遂げている。まず経済面では、 1994年の大統領選挙後に発生した金融危機(通 称「テキーラ危機」)により、大きな影響を受け たが、その後成長を回復した。この回復の背景に は何があったのか。その答えの一部は、1994年 に米国及びカナダとの間で発効した北米自由貿易 協定(NAFTA)に見出される。NAFTA発効以 降、メキシコ経済は米国経済との統合を急速に深 め、2000年にかけて力強い成長を遂げた。さら に、このNAFTAを背景とした、輸出及び直接投 資流入の拡大や、米国からの堅調な労働者送金等 によって、メキシコ経済の対外ポジションは年々 強化され、外貨準備高も増加した。 次に、政治面においては、2000年の大統領選 挙で国民行動党(PAN)のヴィセンテ・フォッ クス候補が制度的革命党(PRI)の候補を破り、 71年ぶりに政権を獲得した。そして、この選挙 は過去数十年で初めて、政権交代期における政 治・経済的混乱を伴わないものとなった。2000 年第4四半期以降は、米国経済の減速を背景とし て、メキシコの景気も後退したが、この局面にお いても、それまでの経済の安定を維持するべく、 政府は慎重なマクロ経済政策を堅持し、特に、財 政赤字削減やインフレ抑制に努めた。 こうした政府の努力や、近年の対外経済環境の 改善にも助けられて2004年には経済成長の回復、 財政赤字の縮小ならびに債務状況の改善を達成し た。これらを受けて、2005年初旬には、Moody’ s 社、Standard & Poor’ s社が相次いでメキシコの 66 開発金融研究所報 メキシコ合衆国:政治・経済の現状と今後の 展望 *1 国際審査部第3班 八木 浩史 細野 健二 要 旨 メキシコは、近年政治・経済面で大きな変貌を遂げている。同国経済は、1994~95年に深刻な金 融危機を経験したが、1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)の枠組みの中で米国経済との 統合を急速に深め、2000年にかけて力強い成長を遂げた。その後の景気後退期も、堅実なマクロ経 済運営によって、経済の安定を維持し回復を果たした。2004年のメキシコ経済は、米国経済の回復 に伴う外需の拡大に支えられて、4%を超える実質GDP成長率を達成し、この間、石油関連収入や 一般税収の伸び等により財政収支が改善するとともに、債務指標も改善した。また、製造業輸出の拡 大や、労働者送金及び海外直接投資の流入拡大等に支えられて、対外ポジションも強化された。政策 面では、2000年の大統領選挙において、71年振りに勝利した国民行動党(PAN)のフォックス政権 が、慎重な財政・金融政策を堅持しており、マクロ経済の安定に貢献してきた。他方、与党が議会で 議席の過半数を確保できない中、難しい議会運営を強いられ、同政権が政策の柱として掲げてきた構 造改革の中には実現していないものも少なくない。 メキシコ経済が今後更なる発展を遂げるためには、税制改革ならびにエネルギー部門改革等の構造 改革を進めることが重要と考えられる。また、中国企業等との競争が増す中、高付加価値部門を含め メキシコ産業の更なる発展が望まれる。このためには、柔軟な労働市場環境の整備や電力部門改革等 が重要となるであろう。これらを通じて、メキシコ経済の成長を高めていくことが今後の課題である と考えられる。 第1章 はじめに *1 本稿は、筆者の個人的な見解であり、国際審査部及び国際協力銀行の公式見解ではない。なお、本行執筆にあたっては、データ 収集等で、メキシコ駐在員事務所玉川リサーチャーの多大な協力を得た。

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Page 1: メキシコ合衆国:政治・経済の現状と今後の 展望 - …...メキシコ合衆国は近年、経済・政治の両面にお いて大きな変貌を遂げている。まず経済面では、

メキシコ合衆国は近年、経済・政治の両面にお

いて大きな変貌を遂げている。まず経済面では、

1994年の大統領選挙後に発生した金融危機(通

称「テキーラ危機」)により、大きな影響を受け

たが、その後成長を回復した。この回復の背景に

は何があったのか。その答えの一部は、1994年

に米国及びカナダとの間で発効した北米自由貿易

協定(NAFTA)に見出される。NAFTA発効以

降、メキシコ経済は米国経済との統合を急速に深

め、2000年にかけて力強い成長を遂げた。さら

に、このNAFTAを背景とした、輸出及び直接投

資流入の拡大や、米国からの堅調な労働者送金等

によって、メキシコ経済の対外ポジションは年々

強化され、外貨準備高も増加した。

次に、政治面においては、2000年の大統領選

挙で国民行動党(PAN)のヴィセンテ・フォッ

クス候補が制度的革命党(PRI)の候補を破り、

71年ぶりに政権を獲得した。そして、この選挙

は過去数十年で初めて、政権交代期における政

治・経済的混乱を伴わないものとなった。2000

年第4四半期以降は、米国経済の減速を背景とし

て、メキシコの景気も後退したが、この局面にお

いても、それまでの経済の安定を維持するべく、

政府は慎重なマクロ経済政策を堅持し、特に、財

政赤字削減やインフレ抑制に努めた。

こうした政府の努力や、近年の対外経済環境の

改善にも助けられて2004年には経済成長の回復、

財政赤字の縮小ならびに債務状況の改善を達成し

た。これらを受けて、2005年初旬には、Moody’s

社、Standard & Poor’s社が相次いでメキシコの

66 開発金融研究所報

メキシコ合衆国:政治・経済の現状と今後の展望

*1

国際審査部第3班 八木 浩史細野 健二

要 旨メキシコは、近年政治・経済面で大きな変貌を遂げている。同国経済は、1994~95年に深刻な金

融危機を経験したが、1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)の枠組みの中で米国経済との統合を急速に深め、2000年にかけて力強い成長を遂げた。その後の景気後退期も、堅実なマクロ経済運営によって、経済の安定を維持し回復を果たした。2004年のメキシコ経済は、米国経済の回復に伴う外需の拡大に支えられて、4%を超える実質GDP成長率を達成し、この間、石油関連収入や一般税収の伸び等により財政収支が改善するとともに、債務指標も改善した。また、製造業輸出の拡大や、労働者送金及び海外直接投資の流入拡大等に支えられて、対外ポジションも強化された。政策面では、2000年の大統領選挙において、71年振りに勝利した国民行動党(PAN)のフォックス政権が、慎重な財政・金融政策を堅持しており、マクロ経済の安定に貢献してきた。他方、与党が議会で議席の過半数を確保できない中、難しい議会運営を強いられ、同政権が政策の柱として掲げてきた構造改革の中には実現していないものも少なくない。

メキシコ経済が今後更なる発展を遂げるためには、税制改革ならびにエネルギー部門改革等の構造改革を進めることが重要と考えられる。また、中国企業等との競争が増す中、高付加価値部門を含めメキシコ産業の更なる発展が望まれる。このためには、柔軟な労働市場環境の整備や電力部門改革等が重要となるであろう。これらを通じて、メキシコ経済の成長を高めていくことが今後の課題であると考えられる。

第1章 はじめに

*1 本稿は、筆者の個人的な見解であり、国際審査部及び国際協力銀行の公式見解ではない。なお、本行執筆にあたっては、データ

収集等で、メキシコ駐在員事務所玉川リサーチャーの多大な協力を得た。

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2005年11月 第27号 67

外貨建て長期債格付を引き上げており*2、本稿執

筆時点においても投資適格の格付を維持してい

る。

また、2004年時点のメキシコの経済規模は世

界第11位にあたる。G7を除けば、中国、スペイ

ン、韓国に次ぎ4番目であり、BRICsとして注目

されているインド、ブラジル、ロシアと同様、そ

の経済規模の大きさで注目される*3。さらに、日

本との関係という視点では、2005年4月に日墨

経済連携協定(EPA)*4が発効したことで、産業

界からも大きな注目を集めている。

1994~95年の深刻な金融危機を乗り越え、チ

リと並んで中南米で最も安定した成長を続けてい

る同国は今後どのような軌跡を辿るのであろう

か。本稿では、2006年7月の大統領選挙まで残

り1年を切った現在のメキシコ経済を取り巻く環

境を分析し、今後の課題等を展望することとした

い。以下では、まず第2章で政治状況を、第3章

ではマクロ経済状況について概観する。これを踏

まえ、第4章では、今後の政策的な課題を分析し、

第5章では特に中国との競争を取り上げる。最終

章では今後の見通しを述べ、まとめとする。

1.内政

(1)現政権の財政・金融政策運営は評価され

るも、構造改革の進展は限定的

2000年の大統領選挙において、71年ぶりに政

権交代を果たしたPANのフォックス大統領(任

期6年)は、政権発足以来、慎重な財政・金融政

策を堅持しており、マクロ経済の安定に貢献して

きた点は評価されよう。他方、与党は同政権発足

当初から上下両院において議席数の過半数を確保

できなかったことに加え、2003年7月に行われ

た下院議員選挙で与党が54議席を失ったこと等

から、厳しい議会運営を強いられており、フォッ

クス大統領が政策の柱として掲げてきた主要な構

造改革の中には実現されていないものも少なくな

い。特に、優先課題の一つであった非石油税収強

化を目的とした税制改革については、付加価値税

の免税品目の廃止ないしは削減を盛り込んだ改革

案が2001年4月、2003年11月と二度に亘り議会

に提出されたが、野党の反対等により、可決には

至らなかった*5。また、民間企業の参入・投資促

進等を目的とするエネルギー部門改革について

も、必要な政治的支持(議会での支持、世論上の

コンセンサス)が得られず、捗々しい進展は見ら

れない。まず、石油部門改革については、国営石

油公社(PEMEX)の投資資金を確保する観点か

ら、2004年末に同社に対する重い税負担を軽減

する法案が議会に提出され、2005年6月末によ

うやく可決された。しかし、その後、同税制改正

による中央・地方財政への影響を懸念する声が相

次いだため、フォックス大統領は、議会に対し代

替法案を検討するよう要請し、2005年9月から

の通常国会で再審議されている。また、同年9月

下旬には、石油パイプライン事業への民間投資等

を認める憲法改正法案が議会に提出されたが、前

述のPEMEX税制改正の審議が優先されているこ

第2章 最近の政治動向

*2 Moody’s社は2005年1月6日、メキシコの外貨建て長期債の格付を「Baa2」から「Baa1」へ引上げ、格付見通しを「安定的」と

した。この格上げは、対外債務比率等の指標の継続的な改善を反映したものであるとしている。また、Standard & Poor’s社は

2005年1月31日、同国の外貨建て長期債の格付を「BBB-」から「BBB」へ引上げ、格付見通しを「安定的」とした。この格上げ

は、対外ポジションの改善や国内金融市場の深化によるマクロ経済安定性の向上を反映したものであるとしている。

*3 IMFの世界経済見通し(World Economic Outlook, April 2005)の2004年の米ドル建名目GDPに基づく。なお、本資料によると、

中国は第7位、インドは第12位、ブラジルは第14位、ロシアは第15位となっている。

*4 同協定は、日墨間で物品、サービス及び資本等の自由な移動を促進し、経済上の包括的な連携を推進することを目的としている。

主要な内容は以下の通り。

( )関税の引き下げや撤廃等による貿易自由化。

( )相互の投資家への内国民待遇及び最恵国待遇の付与。

( )両国におけるビジネス環境の整備を協議するための委員会の設置。

( )貿易投資促進、裾野産業、中小企業、科学技術等、9分野における二国間協力の推進。

*5 但し、2003年11月の法案については、議会での審議の末、付加価値税の免税品目の一部廃止に代わって、生産・サービス特別税

(物品税)の課税品目の追加等が承認された。

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68 開発金融研究所報

と、依然政治的コンセンサスが形成されていない

こと等から、同法案の行方は不透明である。一方、

電力部門改革については、同部門を広く民間企業

に開放するために必要な憲法改正法案(電力事業

を国の独占事業とする憲法条項の改正)が2002

年に議会に提出されたが、支持が得られず、否決

されている。

(2)2006年7月の大統領選挙に向けた動き

2006年7月の大統領選挙については、現時点

では民主革命党(PRD:野党第2党)のロペ

ス・オブラドール 前メキシコシティー市長*6, 7が

最有力候補になると目されている。他方、上下両

院議員選挙も大統領選挙と同時期に実施される予

定であり、最近の地方選挙や世論調査における政

党別支持率を見ると、制度的革命党(PRI:野党

第1党)、国民行動党(PAN:与党)、民主革命

党(PRD)の順となっている。今回の選挙につ

いて、市場関係者の間では、有権者の4割に上る

と言われる無党派層や在外投票が選挙戦を左右す

るとの声が少なくなく、同選挙の行方は最後まで

目が離せないものになると予想される。経済政策

の行方については、慎重な財政・金融政策継続の

必要性について主要政党間で一定の政治的コンセ

ンサスが成立していることから、上記のいずれの

政党から大統領が選出されても、政策の大きな方

向性については大差はないのではないかと見る向

きが多い。他方、税制改革やエネルギー部門改革

等の主要な構造改革課題については、これまで政

党間で十分な政治的合意が得られてこなかった経

緯を踏まえると、次期政権の下でも改革が進まな

い可能性も否定できない。

2.外交

(1)対米関係を引き続き重視、但し対外経済

関係の多角化にも積極的

同国は1993年に米国及びカナダと北米自由貿

易協定(NAFTA)を締結し、同年にはアジア太

平洋経済協力会議(APEC)に、さらに1994年に

はOECDに加盟した。同国は対米関係を重視する

一方で、過度の対米経済依存を避けるべく、中南

米諸国やEUをはじめ、30を超える国・地域との

間で自由貿易協定や投資協定を締結し、対外経済

関係の多角化を図っている。

1.実体経済

2002年及び2003年のメキシコ経済は外需回復

の遅れに伴って、低い成長にとどまったが、

2004年に入り、米国を中心とする世界経済の拡

大にも支えられ四半期毎に成長が加速し*8、通年

で4.4%を記録した(図表1)。需要面では、輸出

(前年比11.5%増)、民間投資(同8.5%増)及び民

間消費(同5.5%増)が、また供給面では、運

輸・倉庫・通信業(同9.7%増)、建設業(同5.3%

増)、商業・レストラン・ホテル業(同4.9%増)、

金融業(同4.6%増)、農林水産業(同4.0%増)、

及び製造業(同3.8%増)等が軒並み拡大し、成

長を支えている*9。しかしながら、2005年に入り、

外需の減速や農業の低迷等により、上半期の成長

第3章 マクロ経済状況

*6 民主革命党(PRD)は、現時点で上院128議席中16議席、下院500議席中95議席を持つ野党第2党であるが、同党のオブラドール

氏は、メキシコシティー市長時代に、同市の環状高速道路を2階建てにする等、目に見える具体的な政策を実現すると共に、低

所得者層に配慮した政策運営を行っており、こうしたことが同氏の人気を支えているという見方もある。

*7 同氏は、裁判所によるメキシコシティー市内道路建設中止命令に従わず、建設を継続したことから、法廷侮辱罪で起訴され、

2005年4月には下院が同市長の刑事訴追免責特権剥奪を決議した。同氏が逮捕された場合、大統領選挙への出馬が困難になる可

能性があることから、訴追の行方が注目されていたが、同氏の支持を訴える大規模なデモが行われる中、捜査を指揮する警察庁

長官が辞任し、その後、警察庁は捜査を取り止めた。また、フォックス大統領も、同市長の大統領選挙出馬を阻止する意図はな

いと表明し、事態は収拾された。同氏は、大統領選挙出馬のため2005年7月末をもって市長職を辞職している。

*8 四半期ベースの実質GDP成長率(前年同期比)を見ると、2004年第1四半期には、2000年第4四半期以来最も高い3.9%を記録し、

以降、第2四半期同4.1%、第3四半期同4.6%、第4四半期同4.9%と成長が更に加速した。

*9 なお、2003年の産業構造(実質)は以下の通りとなっている。商業・飲食・ホテル業(GDP構成比21.4%)、製造業(同19.8%)、

金融・保険・不動産業(同17.3%)、運輸・通信・倉庫業(同12.2%)、農林水産業(同5.9%)、建設業(同4.1%)、電気・ガス・水

道業(同1.8%)、鉱業(同1.3%)、その他(社会・個人サービス等同16.1%)。

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2005年11月 第27号 69

率(前年同期比)は2.8%に減速している。

他方、インフレ率(消費者物価上昇率、年平均)

は2000年以降、一桁台で安定的に推移してきた。

2004年のインフレ目標は、「年間を通じて3%±

1%」*10であったが、石油価格を含む国際商品価

格の上昇や、天候要因による国内農産品価格の上

昇等により、毎月4.2~5.4%(前年同月比)の水

準で推移し、上述の目標レンジを若干超過した。

中銀は、2005年のインフレ目標についても2004

年と同じ「年間を通じて3%±1%」としている。

2005年1~6月期の実績を見ると、インフレ率

は前年同月比4.3~4.6%で推移しており、目標レ

ンジを若干超過しているものの、2004年第4四

半期における毎月の水準(前年同月比5.2~5.4%)

からは低下している。

雇用面では、マイナス成長を記録した2001年

以降、失業率*11は上昇傾向を辿り、2004年8月

にピーク(4.4%)に達した。その後は経済の回

復を背景に低下に転じ、2004年12月には3.0%ま

で低下した。しかし、2005年に入り、経済の減

速に伴って失業率は前年同期を若干上回る水準で

推移しており、6月時点で3.5%となっている。

2.金融

(1)インフレ・ターゲッティング政策の概要

中銀は、2001年よりインフレ目標政策(イン

フレ・ターゲッティング)を正式に導入している。

同政策では、まずインフレ目標値を定め、その上

で、この達成に向けて、中銀における市中銀行の

経常勘定貸越残高(コルト:Corto*12)に目標値

を設定する*13。中銀は、期中の物価動向を見なが

ら、インフレ目標の達成にあたって金融引き締め

や緩和が必要であると判断した場合には、この経

常勘定貸越残高目標値を変更することによって、

金融政策スタンスの変更(金融引き締め、緩和)

について市場にシグナルを送る仕組みとなってい

る。かかるシグナルによって、中銀は間接的に市

場金利に影響を与え、インフレ目標の達成を図っ

ている*14。

(2)直近の金融政策運営

上述の通り、2004年のインフレ目標は「年間

を通じて3%±1%」であった。中銀はこの目標

出所)メキシコ中央銀行、国家統計地理情報庁(INEGI)

4.4

-0.2

6.6

1.4

9.0

2.22.7

4.4

5.7 5.2

2000 2001 2002 2003 2004

% 実質GDP成長率

消費者物価上昇率(年末比)

失業率(年末)

-2

0

2

4

6

8

10

図表1 成長率、物価及び失業率の推移

*10 中銀は、インフレ目標を年末値に設定するのではなく、インフレ率を、年間を通じて恒常的に3%±1%の範囲内に抑制するこ

とを目標としている。

*11 労働人口のうち、1週間の労働時間が1時間未満の者が占める割合。

*12 西語でショート・ポジションの意。

*13 2005年9月23日現在、コルトの金額は79百万ペソとなっている。

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70 開発金融研究所報

の達成に向けて同年中に9回に亘って金融引き締

め(経常勘定貸越金額目標値の引上げ)を行った

が、供給面からのインフレ圧力(国際商品価格の

上昇や国内農産品価格の上昇等)を完全に抑制す

ることはできず、同年中のインフレ率は目標レン

ジを若干超過した。上述の通り、中銀は2005年

のインフレ目標も2004年と同様、「年間を通じて

3%±1%」としている。中銀はインフレ目標政

策を実施するにあたり、2005年中に物価に影響

を及ぼし得る主たる要素として、国内需要の動向

や賃金交渉の行方等を挙げており、これらの動き

を見ながら、上記のインフレ目標の達成に向けて、

慎重に金融政策を実施していく方針である。

(3)為替動向

国内通貨ペソは、完全変動相場制の下で、

2001年以降米ドルに対して漸次的な減価基調で

推移したが、名目為替レートの減価率(年末比)

は、2003年の9.0%に対し、2004年は0.3%にとど

まった。直近となる2005年7月末現在で、1ド

ル=10.69ペソとなっている。

(4)外資参入の進む銀行部門

金融部門の構成比を資産規模で見ると、商業銀

行51%、政府系金融機関*1515%、年金基金12%

となっており、商業銀行の中ではBanamex、

Bancomer及びSerfinが資産規模で3大銀行とな

っている。1998年に可決された金融改革法によ

って外資規制が緩和されて以降は、銀行部門への

外資参入が進んでいる。最近では2001年に、シ

ティ・グループがBanamexを買収し、これによ

って3大銀行がともに外資の傘下となった。また

2004年2月に、スペインのビルバオ・ビスカ

ヤ・アルヘンタリア(BBVA)が、出資先の

Bancomerを100%子会社化している。

(5)銀行部門の健全性と監督体制強化

銀行監督局(CNBV)の発表では、商業銀行の

不良債権比率は1999年の8.9%から徐々に低下し、

2005年6月末時点で2.3%となっている。また貸

倒引当率は1999年の108%から2005年6月末時点

で198.4%まで上昇している。さらに、自己資本

比率はほぼ横這いで安定的に推移しており、

2005年6月末時点で14.7%となっている。このよ

うに、銀行部門の財務指標は改善してきており、

また、CNBVが近年監督体制を強化してきている

ことも、銀行部門の強化に寄与している。

3.財政・公的債務

(1)公的部門財政の動向

同 国 で は 、 5 年 毎 に 「 中 期 開 発 計 画

(PRONAFIDE)」を策定し、この中で財政政策

の基本方針を示している。フォックス政権が発表

した「中期開発計画(2002~2006年)」では、政

府の一般財政(通称「伝統財政」)収支を2001年

実績のGDP比0.73%の赤字から中期的に均衡・黒

字化することを目標に掲げている。また、①上記

の「伝統財政」収支目標を前提として必要となる

財政資金の借入必要額に加えて、②その他の財政

コスト(銀行部門改革に伴う銀行預金保護庁

(IPAB)関連コストや「長期インフラプロジェ

*14 コルトを用いた金融政策の具体的な仕組みは以下①~④の通り。

① 市中銀行が手元資金のみで預金払い戻し等の資金需要に対応できない場合、その市中銀行は、中銀に開いている「経常勘定」か

ら資金を借りて対応することになる。そして市中銀行が中銀の経常勘定から「借越した」場合(即ち、中銀から見て貸越した場

合)には、市場金利の2倍の金利を中銀に支払わなければならない。

② このように、中銀内には各市中銀行の経常勘定が各々開かれており、日々、引出しや積立が行われているが、中銀は、毎月末時

点において、全ての市中銀行の経常勘定の合計額が、中銀から見てある水準の貸越しになるように目標を設定する。この貸越し

金額目標が「コルト」である。

③ 中銀は、この貸越し金額目標(コルト)を達成するべく、公開市場操作等を通じて市場の貨幣供給量を調整する。貸越し目標が

達成されれば、市中銀行のうち少なくとも1行に対しては中銀が貸越すことになり、上記の通り、その銀行は市場金利の2倍の金

利を中銀に支払うことになる。さらに、中銀がこの貸越し金額目標(コルト)を一層引き上げ、この目標を達成するべく、公開

市場操作等によって市場の流動性を一層吸い上げれば、一層の金融引き締めを意味することになる。

④ したがって、中銀による貸越し金額目標(コルト)の引上げは、市場に対して金融引き締めのシグナルを送ることになる。中銀

はこのシグナルを送ることによって、市場金利に影響を与え、以ってインフレ目標の達成を図る。

*15 主要な政府系金融機関は、NAFIN(事業内容:産業振興等)、Banobras(公共事業)、Bancomext(貿易金融)、SHC(住宅金融)

等。

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2005年11月 第27号 71

クト制度」*16にかかるコスト等)を加味した公的

部門の借入必要総額(Public Sector Borrowing

Requirement:PSBR)という指標にも目標値を

設定している。具体的には、このPSBRを2001年

実績のGDP比3.7%から中期的に同1.5%へ縮小す

ることを目指している。

フォックス政権はこれまで毎年、できる限り上

記の「中期開発計画」に沿った予算編成に努めて

きたが、議会審議等の結果、「中期開発計画」上

の目標を若干上回る水準の「伝統財政」収支赤字

目標及びPSBR目標が予算上設定されてきた。図

表2、3に示されているように、政府はこの予算

上の目標は概ね達成してきたが、「中期開発計画」

上の目標値はやや超過してきた(図表2、3)。

なお、2004年11月に議会で承認された2005年度

予算では、実質GDP成長率3.8%及びメキシコ産

出所)メキシコ財政公債省統計より筆者作成

2003 2004 2005 2006

中期計画上の目標 予算上の目標 実績値

-0.6

-0.4

-0.2

0

0.2

0.4

-0.2

-0.3 -0.3

0.0

-0.22

-0.5 -0.5 -0.5

0.2

図表2 伝統財政収支:「中期開発計画」上の目標値、予算上の 目標値、及び実績値

出所)メキシコ財政公債省統計より筆者作成

2.7 3.1 3.02.4

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

2003 2004 2005 2006

中期計画上の目標 予算上の目標 実績値

2.7 2.71.9

1.5

2.2

図表3 公的部門借入必要額(PSBR):「中期開発計画」上の目標値、 予算上の目標値、及び実績値

*16 Proyecto Infraestructura Productiva de Largo Plazo(Pidiregas)。具体的には、BOO方式(IPP事業等)及びBLT方式の他、

OPF方式(Obras Publicas Financiera:プロジェクトの建設、ファイナンスは民間部門が担う。完工次第、プラントの所有権を民

間事業者から公的部門に移転し、その際に、公的部門が民間事業者に対して見返りの支払いを一括して行う方式)を用いたイン

フラ整備事業制度。

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72 開発金融研究所報

原油輸出平均価格27ドル/バレルを前提として、

GDP比0.2%の「伝統財政」収支赤字、及び同

2.2%のPSBRを目標としている。

(2)財政の「自動調整メカニズム」の仕組み

政府は1999年に導入した「自動調整メカニズ

ム」、特に石油安定化基金*17を活用して、石油価

格の変動が財政に与える影響等を緩和している。

具体的な運営方法は、毎年予算編成の際に立法さ

れるその年の予算法で規定されている。直近とな

る2005年の予算法では、公的部門の石油関連収

入が予算上の想定を上回った場合、この余剰収入

は、PEMEX及び州の投資プロジェクトに充当さ

れることになっている。また、公的部門の非石油

収入、及び連邦政府の石油関連収入が予算上の想

定を上回った場合には、この余剰収入の25%は石

油安定化基金への積み立て、50%はPEMEXの投

資プロジェクト等に充当し、残り25%は財政収支

の改善に活かすことになっている。他方、歳入が

予算の想定を下回った場合には、①下回った原因

が、石油関連収入の伸び悩みによるものである場

合には、石油安定化基金からの取り崩し、②上記

①以外の原因によって歳入が予算の想定を下回っ

た場合には、歳出削減措置が採られることになっ

ている。

(3)公的債務

上述のPSBRのストック(残高)が公的債務残

高にあたるが、その規模は1999年末のGDP比約

42.8%に対して、2004年末時点では同約38.3%

(うち公的国内債務残高:同約24.0%、公的対外

債務残高:同約14.3%)と微減で推移している。

この公的債務残高全体のうち、約半分が一般の

「政府債務」(上述の「伝統財政」にかかる債務)

である。残りは、「予算外財政」にかかる債務で

あり、具体的には、銀行預金保護庁(IPAB)の

債務(GDP比約8%)や上述の「長期インフラ

プロジェクト制度」関連債務(同約4%)等を中

心としたものとなっている。財政公債省は、フォ

ックス政権発足以来、国内金融市場を育成する観

点等から、国内借入に重点を置いた財政ファイナ

ンスを、資金調達政策の柱に据えてきた。同政策

の下、公的対外債務から公的国内債務への実質的

な借換えが進んでいる。また、政府は国内外金利

の変化が公的債務利払い負担に与える影響を緩和

するべく、政府債務全体に占める固定利付債の割

合を高める政策を採っている*18。

4.国際収支・対外債務

(1)2000年以降、経常収支赤字は縮小、対

外債務はGDP比で減少基調

メキシコの輸出は、2001年に外需の減速等に

伴って1986年以来初めてマイナスの伸びとなり、

2002~2003年の輸出額も、ほぼ横這いと低迷し

た。しかし2004年に入り、国際的な原油価格の

上昇に伴う原油輸出額の増加や、米国経済の拡大

を背景とする対米製造業製品輸出の増加等によ

り、同年の輸出は前年比14.1%増の約1,880億ド

ルを記録した*19。一方、輸入も2001年以降ほぼ

横這いで推移していたが、2004年は好調な国内

経済を背景に輸出を上回る伸び(前年比15.4%増)

となったため、貿易収支の赤字幅は、2003年比

約30億ドル増の88億ドルへ拡大した(図表4)。

他方、2004年のサービス収支及び所得収支は

ほぼ例年並の水準となったが、経常移転収支は、

労働者送金の増加等により124億ドルの大幅な黒

字(前年比31億ドル増)を記録した。この結果、

経常収支の赤字幅は前年比で微減となる74億ド

ル(GDP比1.1%)にとどまった。

2004年の公的部門資本収支はマイナス(債務

の純返済)となったが、好調な海外直接投資流入

(約166億ドル)及び証券投資流入(約25億ドル)

等により、資本収支全体では115億ドルの黒字と

*17 財政公債省の発表によると、2005年6月末時点の石油安定化基金(FEIP)残高は、2004年末時点に比べ、約6億2600万ペソ増加

の122億3400万ペソに達している。

*18 現時点では、公的債務全体で見ると未だ5割以上が変動利付債となっている。

*19 経済省統計に基づく2004年の品目別輸出構成比、及び主要輸出相手国・地域は以下の通り。品目別輸出構成比:工業製品(輸出

全体の84.2%)、石油(同12.5%)、農水産品(同2.8%)。主要輸出相手国・地域:米国(87.3%)、EU(3.4%)、中南米諸国(3.0%)、

カナダ(1.5%)、NIEs(0.4%)、日本(0.3%)、中国(0.2%)。

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2005年11月 第27号 73

なった。

経常収支の赤字幅を上回る資本収支の黒字によ

り、2004年の総合収支は約41億ドルの黒字とな

り、これに伴って外貨準備高(グロス)も約41

億ドル増の642億ドルを計上した。また、対外債

務残高(GDP比)は、2000年末の25.9%から2004

年末には20.5%まで低下した。

1.税制改革

同国の財政は、歳入の約3分の1を石油関連収

入に依存しているため、原油価格変動の影響を受

け易く、それが財政の潜在的な脆弱性に繋がって

いるという指摘がなされてきた。また、非石油税

収のGDP比率は約15%とOECD諸国の中で最も

低く、他の中南米諸国と比べても低い水準に止ま

っている点にも改善の余地があった*20。このため、

非石油税収の水準を引き上げて石油関連収入への

依存度を引き下げるべく、フォックス政権は税制

改革を最優先課題の一つに掲げてきたが、上述の

通り、改革の柱であった付加価値税免税品目の削

減は政治的支持が得られず実現していない。現在

の財政構造を維持した場合、短期的には原油価格

高の恩恵を享受し、財政運営は容易となると思わ

れるが、中期的に原油価格が下落した場合には、

財政調整が必要となる可能性もあり、財政の健全

性を高めるためには税制改革は非常に重要な課題

となっている。

2.エネルギー部門改革

第2章でも若干触れたように、フォックス政権

は、エネルギー部門への民間企業の参入促進と、

これによる民間の投資拡大を目的としたエネルギ

ー部門改革を優先課題の一つに掲げてきたが、実

施に必要な政治的コンセンサスが得られず、抜本

的な改革は実現していない。

第4章 今後の政策課題

出所)メキシコ財政公債省、メキシコ中央銀行、IMF、国家統計地理情報庁(INEGI)、IFS、筆者推計

図表4 国際収支表

(十億米ドル)経常収支 -18.6 -17.6 -13.3 -8.5 -7.4(GDP比、%) -3.2 -2.8 -2.1 -1.3 -1.1貿易収支 -8.3 -9.6 -7.6 -5.8 -8.8(GDP比、%) -1.4 -1.5 -1.2 -0.9 -1.3輸出 (fob) 166.1 158.8 161.0 164.8 188.0うち:石油関連輸出 16.0 13.1 14.8 18.5 23.6

輸入 (fob) 174.5 168.4 168.7 170.5 196.8サービス収支 -14.9 -13.7 -11.9 -11.9 -11.0うち:金利支払い(ネット) -8.7 -8.6 -9.1 -9.3 -9.3

移転収支 4.7 5.8 6.2 9.3 12.4

資本収支 21.4 24.9 20.4 17.9 11.5うち:直接投資(ネット) 16.9 27.7 15.3 11.7 16.6

外貨準備高の増減(-:積み増し) -2.8 -7.3 -7.1 -9.4 -4.1

外貨準備高(グロス) 35.5 44.7 50.6 59.0 64.2(輸入月数比) 2.2 2.9 3.3 3.8 3.6

備考:対外債務残高(十億米ドル) 148.7 144.5 140.1 140.6 138.8(GDP比、%) 25.9 22.7 23.1 22.9 20.5

2000 2001 2002 2003 2004 (暫定)

*20 OECD(2004)。

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74 開発金融研究所報

まず、石油部門については、原油生産量が

2009年以降減少すると見込まれている。その主

因は、国内原油生産量の約7 0%を占める

Cantarell油田の生産能力が2006年以降低下する

と予測される中で、これを補完する大規模油田が

発見できていないことにある。メキシコ湾深海部

には、大量の原油が埋蔵されていると推測されて

いるが、今後の探鉱・開発に向けて、深海油田開

発技術を持つ民間企業との戦略提携を望む声が少

なくない。また、現時点では、前述のPEMEX関

連税制の改正も引き続き重要な課題であると認識

されている。

次に、電力部門については、メキシコ電力庁

(CFE)がPOISE(Programa de Obras e

Inversiones del Sector Electrico:電力セクター

投資事業プログラム)と呼ばれる、向こう10年

間の投資計画に基づいて投資を実行する限り、電

力不足になる懸念はないとされているが、エネル

ギー省の試算によれば、その必要投資額は2014

年までに5,930億ペソ(GDP比約8%相当*21)に

上り、政府財源のみでこれだけの規模の設備投資

資金を全て賄うことは困難とされている。フォッ

クス政権は、同部門を民間企業に開放するために

必要な憲法改正法案(電力事業を国の独占事業と

する憲法条項の改正)を2002年に議会に提出し

たが、支持が得られず否決され、今後の法案審議

の目処も立っていない。なお、送電事業及び配電

事業への民間参入に向けた改革についても、現在

のところ議論は進んでいない。

3.労働市場改革

フォックス政権は、生産性の向上や雇用の促進

等を目的とする労働市場改革を早くから重要課題

に掲げてきた。同政権の改革案では、雇用形態の

柔軟化が一つの柱となっており、具体的には、①

労使間における、労働時間の柔軟な取極めや、②

試用雇用の柔軟な運用、等を可能にするための規

制緩和が掲げられている。2002年には、企業、

労働組合及び労働省の3者間の合意事項に基づく

労働改革法案を議会に提出したが、一部の労働組

合が法案への反対を表明した他、議会内でも、労

働組合、企業及び識者等へのヒヤリングを行う必

要性が唱えられたこと等から、可決には至らなか

った。今後は、2005年9月からの通常国会で再

度審議される見通しであるが、その行方を占う上

では、制度的革命党(PRI、野党)の支持基盤で

もある労働組合の支持が得られるか、等が注目さ

れる。

中国製品との競争(後述)等が近年増す中で、

高付加価値部門を含むメキシコ産業の更なる発展

が望まれるが、こうした発展を生産性や雇用の面

から支える観点からも、労働市場改革の行方が注

目される。

4.金融部門改革

同国の銀行部門では、1994年末に深刻な金融

危機が発生し、その後破綻銀行への政府介入や、

財務状況の悪化した銀行への資本注入が行われ

た。また、銀行部門の不良債権は、銀行預金保険

基金(FOBAPROA)に移管され、代わって

FOBAPROA債が銀行部門に交付された。この

債券は、償還原資が不明確であるという指摘を

されていたが、1998年に可決された金融改革法

案によって、銀行預金保護庁(IPAB:FOBA

PROAの業務を引き継ぐ新機関)が設立され、

FOBAPROA債は、政府保証付きのIPAB債と一

定条件の下で交換されることとなった。この

IPAB債は、政府保証付き債券であるという点で、

政府の偶発債務であり、その規模は2004年末現

在で約8千億ペソ(約710億ドル)となっている。

しかしながら、これまでのところIPAB債の利払

いは、①IPABに移管された銀行資産からの現金

回収、②銀行部門がIPABへ支払う預金保険料、

及び③連邦政府からの予算配分によって手当てさ

れている。また、IPAB債の残高(GDP比)は、

1999年末の13.7%から2004年末の8.9%まで縮小

している。さらに、IPABは、IPAB債の借換え

により同債務の償還期間を長期化するとともに、

毎年の償還額を平準化する等の施策を講じてい

る。

*21 2004年の名目GDPで計算。

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2005年11月 第27号 75

本章では前章で触れた中国との競争について検

討する。図表5に示した実績からもわかるように、

近年米国市場においてメキシコ企業と中国企業と

の競争が増している。米国にとって、メキシコは

2002年までカナダに次いで第2位の輸入相手国

で、米国の輸入全体の約12%がメキシコからの

輸入であった。しかし、その後のシェアの動向を

見ると、2003年以降メキシコは中国に抜かれて

いる。また、製品別に米国の輸入相手国を見ても、

特に繊維や電機機器市場で中国製品のシェアが拡

大しており、逆にメキシコのシェアが縮小してい

る(図表6、7)。

しかしながら、メキシコの産業部門のうち、中

国との競争による影響を特に受けているとされる

繊維産業について見ると、①繊維産業がメキシコ

経済全体に占める割合(GDP構成比)は元々

1990年代で1.5%程度と小さい(図表8)。また、

②中国との競争が増した2000年代前半には、こ

の割合が1.0%まで低下する等、中国との競争に

よる負の影響は既にメキシコ経済に相当程度反映

されていると思われる。さらに③米国への輸出面

では、メキシコは( )付加価値が高い製品、

( )輸送コストが高く、米国に近いという地理

的優位性が活かせる製品、さらに( )ジャス

ト・イン・タイム方式の生産が必要な製品、等に

ついて引き続き競争力を有していると見られる。

具体的には、主力である自動車産業が依然として

好調であり、この分野において中国による負の影

響は必ずしも認められない(図表9)。上記①~

③の観点から見れば、今後、中国との競争による

負の影響は、メキシコ経済全体にとっては必ずし

も大きくないとの見方もあるが*22、いずれにせよ、

今後他の製品市場において競争が増す可能性も否

定できないこともあり、主力輸出産業の競争力を

第5章 中国との競争

出所)米国商務省統計より筆者作成

19.3

17.4

10.69.9

13.9

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004

0

5

10

15

20

カナダ

中国

メキシコ

日本

ドイツ

7.2

13.4

5.3

図表5 米国の輸入:主要輸入先国の構成比

出所)米国商務省統計より筆者作成

24.8 24.7

8.7

16.0

2.0

38.8

9.1

4.1

0

10

20

30

40

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004

中国

インド

パキスタン

メキシコ

トルコ

図表6 米国の繊維輸入:主要輸入先国の構成比

出所)米国商務省統計より筆者作成

8.6

6.0

21.7

17.920.2

12.0

0

5

10

15

20

25

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004

中国

メキシコ

日本

韓国

マレーシア

図表7 米国の電機機器輸入:主要輸入先国の構成比

*22 この点については、議論が一様ではない。例えば、労働集約的産業である繊維産業の雇用面に着目する議論もある。

出所)メキシコ財政公債省統計より筆者作成

2.5

2.3

1.4

1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004

図表8 メキシコ繊維産業が同国GDPに占める割合

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76 開発金融研究所報

高めることはメキシコにとって非常に重要な課題

であると思われる。このための施策として、前述

の労働市場改革や、エネルギーコストの抑制に必

要なエネルギー部門改革の重要性が指摘されてい

る。

メキシコ経済の見通しは、米国経済及び国際原

油価格といった外部環境の動向、また内政面では、

政府の経済政策及び構造改革の行方に大きく左右

される。短期的には、2006年7月に大統領選挙

を控えていることから、当面は、思い切った税制

改革及びエネルギー部門改革は容易ではないと予

想される。また、外需の減速等を考慮すると、

2005~06年の実質GDP成長率は2004年よりも減

速する可能性が考えられるが、堅実な政策が継続

されれば3%程度の潜在成長率が見込まれる*23。

財政面では、現状の見通しでは2006年にかけ

て石油輸出量がピークを迎えることから、石油収

入も同年に最高値に達し、以降は石油生産量の伸

び悩みや石油価格の軟化に伴って、緩やかに低下

する可能性が考えられる。このため、現在の慎重

な財政政策が次期政権に引き継がれ、歳入の減少

に合わせた財政調整等により、プライマリー収支

黒字を維持していくことが重要であると思われ

る。こうした慎重な財政運営によって、総合財政

収支についても政府の目標に沿って中期的に均

衡・黒字化していくことが望まれる。

国際収支面では、外需の減速に伴って輸出が鈍

化することが想定される。ただ、①輸出の鈍化に

伴う中間財輸入の鈍化や、②労働者送金の安定し

た流入が続けば、経常収支赤字の抑制に寄与する

と考えられる。また資本収支面は、海外直接投資

の安定的な流入が継続すれば、これも国際収支の

改善に作用すると思われる。

今後メキシコ経済が更なる発展を遂げるために

は、税制改革ならびにエネルギー部門改革等の構

造改革を進めることが重要と考えられる。また、

中国企業等との競争が増す中、高付加価値部門を

含むメキシコ産業の更なる発展が望まれるが、そ

のためには、労働市場改革やエネルギー部門改革

等が重要になると思われる。これらを通じて、メ

キシコ経済の成長を高めていくことが今後の課題

であると考えられる。

出所)米国商務省統計より筆者作成

38.6

31.0

27.1

23.9

13.7

5.7

13.4

9.0

1.80

10

20

30

40

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004

カナダ

日本

メキシコ

ドイツ

韓国

図表9 米国の輸送機器輸入:主要輸入先国の構成比

*23 IMF(2004a)。

第6章 今後の展望とまとめ

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2005年11月 第27号 77

注1)マキラドーラを含む。注2)ガソリン・ディーゼル製品及びサービスに係る特別税を除く。注3)長期インフラプロジェクト制度(PIDIREGAS)、銀行預金保護庁(IPAB)、高速道路建設事業者救済信託(FARAC)、開発銀行及びその他公的企業を含む。

注4)財及び非要素サービスの輸入比。注5)財及び非要素サービスの輸出比。出所)メキシコ財政公債省、メキシコ中央銀行、国家統計地理情報庁(INEGI)、PEMEX、IMF、世銀、筆者推計

図表10 メキシコ合衆国:主要経済指標

(前年比、%)成長実質GDP(1993年価格) -6.2 5.1 6.8 4.9 3.9 6.6 -0.2 0.8 1.4 4.4名目GDP(十億メキシコペソ) 1,840 2,530 3,179 3,848 4,600 5,498 5,812 6,267 6,895 7,635一人当たり名目GDP(米ドル) 3,087 3,527 4,187 4,328 4,879 5,819 6,144 6,334 6,162 6,445

対外部門輸出(fob)注1) 30.6 20.7 15.0 6.4 16.0 21.8 -4.4 1.4 2.3 14.1輸出数量 23.7 18.7 16.2 13.1 11.8 13.2 -2.3 -0.9 -2.5 2.1輸入(fob) -8.7 23.5 22.7 14.2 13.2 22.9 -3.5 0.2 1.1 15.4輸入数量 -13.4 23.0 22.0 14.9 14.3 19.4 -4.0 0.6 -1.3 9.3交易条件(2000=100) 96.8 98.0 96.5 91.4 95.6 100.0 97.2 100.0 102.4 108.4

為替レート名目為替レート(メキシコペソ/米ドル) 6.4 7.6 7.9 9.1 9.6 9.5 9.3 9.7 10.8 11.3(平均、-:減価) -47.4 -15.5 -4.0 -13.3 -4.4 1.1 1.2 -3.2 -10.5 -4.4実質実効為替レート(2000年=100) 170.1 149.5 124.7 122.9 112.9 100.0 91.2 88.7 104.3 112.2(平均、-:減価) … 13.8 19.9 1.4 8.9 12.9 9.6 2.8 -15.0 -7.0

物価・雇用消費者物価上昇率(期末、%) 52.0 27.7 15.7 18.6 12.3 9.0 4.4 5.7 4.0 5.2消費者物価上昇率(平均、%) 35.0 34.4 20.6 15.9 16.6 9.5 6.4 5.0 4.5 4.7失業率(%) 6.3 5.5 3.7 3.2 2.5 2.2 2.5 2.7 3.2 3.7実質賃金伸び率(平均、%) … -15.0 -0.4 2.1 -0.4 12.8 5.8 0.4 3.9 1.3

金融部門預金金利(%) 39.8 26.4 16.4 15.5 11.6 8.3 6.2 3.8 3.1 2.7貸出金利(%) 59.4 36.4 22.1 26.4 23.7 16.9 12.8 8.2 6.9 7.2財務省短期証券(TB)レート(%) 48.4 31.4 19.8 24.8 21.4 15.2 11.3 7.1 6.2 6.8

(GDP比、%)公的部門財政歳入 22.8 23.0 23.0 20.3 20.8 21.6 21.9 22.1 23.2 23.2うち:税収 注2) 7.6 8.2 7.8 6.1 6.2 7.2 6.7 6.5 7.7 8.3うち:石油収入 9.3 8.9 9.8 10.5 11.3 10.6 11.3 11.6 11.1 10.1歳出 22.9 23.1 23.6 21.6 21.9 22.7 22.6 23.3 23.9 23.5予算内収支 -0.2 -0.1 -0.6 -1.2 -1.1 -1.1 -0.7 -1.2 -0.7 -0.3予算外公的機関収支 0.2 0.1 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.0伝統財政収支(予算収支+予算外公的機関収支) 0.0 0.0 -0.7 -1.2 -1.1 -1.1 -0.7 -1.2 -0.6 -0.3伝統財政への調整 注3) -4.0 -5.6 -4.9 -5.1 -5.2 -2.6 -3.0 -2.1 -2.6 -2.2公的部門借入必要額(非経常収入を除く) -4.0 -5.6 -5.6 -6.3 -6.3 -3.7 -3.7 -3.3 -3.2 -2.5公的部門借入必要額(非経常収入を含む) -3.0 -4.8 -4.5 -5.9 -5.9 -3.3 -3.0 -2.6 -2.5 -1.0

公的債務 42.9 36.2 37.1 41.2 42.8 40.0 40.5 41.1 42.2 38.3国内債務 12.5 15.2 19.9 22.6 27.2 26.1 27.4 26.6 26.5 24.0対外債務 30.4 21.0 17.2 18.6 15.6 13.9 13.1 14.5 15.7 14.3

貯蓄・投資国内総投資 20.0 23.2 26.0 24.4 23.6 23.8 20.9 20.7 20.6 21.8総固定資本形成 16.1 17.8 19.5 20.9 21.2 21.4 20.0 19.2 18.9 20.2在庫投資 3.8 5.4 6.5 3.5 2.4 2.5 0.9 1.5 1.7 1.6国内総貯蓄 19.4 22.5 24.1 20.6 20.7 20.6 18.1 18.6 19.3 20.7対外経常収支 -0.6 -0.8 -1.9 -3.8 -2.9 -3.2 -2.8 -2.1 -1.3 -1.1

備考:外貨準備高(グロス、十億米ドル) 17.0 19.5 28.9 31.9 31.8 35.6 44.8 50.7 59.0 64.2(輸入月数比、ヶ月)注4) 2.5 2.4 2.8 2.8 2.5 2.2 2.9 3.3 3.8 3.6対外債務残高(グロス、十億米ドル) 165.3 156.2 147.7 158.9 166.5 148.7 144.5 140.1 140.6 138.8(GDP比、%) 68.7 48.5 37.6 40.7 34.4 25.9 22.7 23.1 22.9 20.5デット・サービス・レシオ(%)注5) 27.0 35.1 31.9 20.9 22.3 30.4 25.5 22.7 20.9 16.9メキシコ原油輸出価格(ドル/バレル、平均) … 18.9 16.5 10.1 15.7 24.6 18.6 21.5 24.8 31.0

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 (暫定)

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