メキシコの石油産業の動向jpec レポート 2 2 メキシコの石油産業 2.1 概要...

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JPEC レポート 1 平成 27 10 19 メキシコの石油産業の動向 本レポートでは、米国エネルギー省(DOE)エネルギ ー情報局(EIAEnergy Information Administrationのレポートを主なベースとし、メキシコの石油産業の動 向について紹介する。 1 はじめに メキシコは、経済的には GDP(国内総生産)が 約 1 2,800 億米ドル(2014 年)と世界 15 位の国家で あり、中南米ではブラジルに次ぐ 2 位の経済国である。 また、貿易関係では、経済協力開発機構(OECD)、ア ジア太平洋経済協力(APEC) 、北米自由貿易協定 NAFTA) の加盟国でもあり、 2015 10 月に大筋 合意した TPP (環太平洋経済連携協定)参加国でもあ る。 メキシコの貿易金額(2013 年実績)は、輸出入とも約 3,800 億米ドルである。地理的には、 北部で米国と国境で接し、かつメキシコ湾を挟んで米国と対峙している。この地理的関係か ら、メキシコの米国との貿易金額割合は、輸入が約半分、輸出が約 8 割となっており、同国 の米国依存度が大きいことがわかる。ちなみに外務省の報告によると同年 日本からの輸出が 97 億米ドル、輸入が約 42 億米ドルといずれも割合は大きくない。なお、人口は、約 1 2 千万人と日本と同規模である。 メキシコは、石油埋蔵量が豊富なメキシコ湾内に米国との領海線ならびに EEZ 排他的経 済水域)が引かれている。また、カナダ〜米国間に多数敷設されているインフラ(国際石油 パイプラインおよび鉄道網)は、メキシコ〜米国間には存在しない。従って、同国の石油交 易は、全てメキシコ湾内でのタンカーによる海上輸送に依存している。 今回は、前回の JPEC レポート(2012 12 月)報告以降、新たなメキシコの石油産業動向につ いて報告する。 2 2 2 0 0 0 1 1 1 5 5 5 1 1 1 1 はじめに 1 2 メキシコの石油産業 2 2.1 概要 2 2.2 石油分野の法改正 2 2.3 石油の埋蔵量 2 2.4 油田開発および石油生産 3 2.5 石油パイプライン 5 2.6 製油所 6 2.7 石油の需給 7 2.8 原油の性状 8 2.9 原油の輸出 8 2.10 石油製品の輸入と輸出 12 3 まとめ 12

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JPECレポート

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平成 27年 10月 19日

メキシコの石油産業の動向

本レポートでは、米国エネルギー省(DOE)エネルギ

ー情報局(EIA、Energy Information Administration)

のレポートを主なベースとし、メキシコの石油産業の動

向について紹介する。

1 はじめに

メキシコは、経済的にはGDP(国内総生産)が 約

1兆 2,800億米ドル(2014年)と世界 15位の国家で

あり、中南米ではブラジルに次ぐ 2位の経済国である。

また、貿易関係では、経済協力開発機構(OECD)、ア

ジア太平洋経済協力(APEC) 、北米自由貿易協定

(NAFTA) の加盟国でもあり、2015年 10月に大筋

合意したTPP(環太平洋経済連携協定)参加国でもあ

る。

メキシコの貿易金額(2013年実績)は、輸出入とも約 3,800億米ドルである。地理的には、

北部で米国と国境で接し、かつメキシコ湾を挟んで米国と対峙している。この地理的関係か

ら、メキシコの米国との貿易金額割合は、輸入が約半分、輸出が約 8割となっており、同国

の米国依存度が大きいことがわかる。ちなみに外務省の報告によると同年 日本からの輸出が

約 97億米ドル、輸入が約 42億米ドルといずれも割合は大きくない。なお、人口は、約 1億

2千万人と日本と同規模である。

メキシコは、石油埋蔵量が豊富なメキシコ湾内に米国との領海線ならびにEEZ(排他的経

済水域)が引かれている。また、カナダ〜米国間に多数敷設されているインフラ(国際石油

パイプラインおよび鉄道網)は、メキシコ〜米国間には存在しない。従って、同国の石油交

易は、全てメキシコ湾内でのタンカーによる海上輸送に依存している。

今回は、前回のJPECレポート(2012年12月)報告以降、新たなメキシコの石油産業動向につ

いて報告する。

JJJPPPEEECCC レレレポポポーーートトト 222000111555 年年年度度度 第第第 111999回回回

1 はじめに 1

2 メキシコの石油産業 2

2.1 概要 2

2.2 石油分野の法改正 2

2.3 石油の埋蔵量 2

2.4 油田開発および石油生産 3

2.5 石油パイプライン 5

2.6 製油所 6

2.7 石油の需給 7

2.8 原油の性状 8

2.9 原油の輸出 8

2.10 石油製品の輸入と輸出 12

3 まとめ 12

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2 メキシコの石油産業

2.1 概要

メキシコの石油産業は、同国経済にとって重要な構成要素である。過去 10年間にわたり、

その割合は下がってきてはいるが、2014年 石油分野の輸出収入が輸出収入全体の 11%を生

み出し、かつ石油産業からの利益が政府歳入の約 1/3を占めている。

国際統計専門サイト「Global Note 2014年実績」によれば、中南米諸国の主な石油関連ラ

ンキング(カッコ内は世界ランク)は下記のとおりである。いずれの項目もベネズエラ、ブラ

ジル、メキシコがトップ 3を占めている。なおメキシコは、石油輸出国機構(OPEC)に非加

盟である。

・石油確認埋蔵量:①ベネズエラ(1位)、②ブラジル(15位)、③メキシコ (18位)

・石油生産量 :①ベネズエラ(10位)、②メキシコ(11位)、③ブラジル(12位)

・石油消費量 :①ブラジル(6位)、②メキシコ(12位)、③ベネズエラ (25位)

2.2 石油分野の法改正

2013年 12月 メキシコ政府は、憲法一部改正(エネルギー改革を含む)により、石油・

ガスの上流部門へ外資を含む民間企業参入規制を解禁した。このエネルギー改革は、国営石

油会社PEMEX(Petroleos Mexicanos)の同分野での 75年間の独占が終了したことを意味

する。同改革は、ライセンス契約、生産物分与契約、利益分与契約およびサービス契約など

を可能としている。従来はサービス契約のみで、外国企業に対しサービスに関する対価のみ

支払われていた。そのため外国企業は、規制により石油上流部門からの収益金額が小さかっ

た。今回の憲法改正により、新規プロジェクトでは、PEMEXを含め競争入札により落札企

業が決定されることに変更された。

ちなみに 2015年 7月 メキシコでは、民間企業などに対し 14海洋鉱区の石油探査および

生産に関する入札が実施された。そのうちの 2鉱区のみ適正な付け値と判断され、3社企業

連合(Sierra Oil&Gas、Talos Energy、Premier Oil)が受注した。

2.3 石油の埋蔵量

2015年BP統計によれば、メキシコの石油確認埋蔵量は 111億 bbl(世界 18位)となっ

ている。その大半が重質原油であり、最大の石油埋蔵地帯はCampeche湾内(メキシコ南部

の海洋)の海盆に集中している。また、同国北部の内陸盆地にも、かなりの量が埋蔵されて

いる。なお、同国の確認埋蔵量は、従来のPEMEX の数値に根拠が乏しいことから、1998

年に再評価され大幅に下方修正されている(図 1参照)。

JPECレポート

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2.4 油田開発および石油生産

2014年 メキシコは、石油と他の液体燃料を合わせて約 280万BPD生産した。内訳は、

原油約 240万BPD、他約 40万BPDはコンデンセート、天然ガス液および製油所ゲイン(製

油所の「In(入り)体積」に対し「Out(出)体積」が増えることをいう)の合計量であった。同国の石

油生産量は、2004年のピーク時から約 27%落ち込み、2014年の原油生産量は 1986年以来

の最低レベルであった。2015年には、さらに落込む見込みである(図 2参照)。

2.4.1 海洋油田の開発

2014年 メキシコ産原油の3/4の約180万BPD

がCampeche湾内の海盆で生産されている。油田

別生産量は、Ku-Maloob-Zaap (KMZ)油田(90

万BPD)、次いでCantarell油田、Coastal

Tabasco油田およびAbkatun Pol Chuc油田(各

30万BPD)となっている。KMZおよびCantarell

油田で産出する原油は、大半が重質油でMaya原

油として販売されている。Abkatun Pol Chuc油田

図 1 メキシコの原油確認埋蔵量 推移 (BP統計より)

(単位:億bbl)

図 2 メキシコの石油生産量 推移 (BP統計より)

(単位:万BPD)

図 3 油田別産油量 (出所:PEMEX)

全産油量:240万BPD (2014年)

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は、同湾南西部Tabasco州沖合に位置している。同油田で産出する原油はMaya原油より軽質

である(図3、図4参照)。なお、PEMEXが生産する海洋油田は浅海海域であり、多くの埋蔵量が

ある深海部の海洋油田は、資金力および技術力不足により開発が遅れている。

Cantarell油田(1979年 生産開始)は、世界最大級の油田の 1つであったが、その産油

量はここ 10年間で大幅に減少している。1997年 PEMEXは、油田内圧を維持するため窒

素注入工法を開発し、数年間は産油量が増加した。しかしながら、その後 再び産油量は急速

に減少している。2014年 同油田は、ピーク時(210万BPD、2004年)の約 85%減に相当

する 32.2万BPDの生産量であった。メキシコ全産油量に占める同油田のシェアは、2004

年の 63%から 2014年には 13%へと大きく下落し、同油田の石油分野への相対的な貢献度も

小さくなってきている。

一方、KMZ油田が、近年メキシコで最も生産量の多い油田として浮上してきている。

PEMEXは、窒素注入工法を採用した結果、2004~2013年にかけて、同油田の産油量は約

3倍の 86.4万BPDに増加した。同時に、Ayatsil油田(同油田の衛星油田、予想産油量 15

万BPD)の開発もあって、同社は次の 10年間にわたり、さらに産油量が増えることを期待

している。

図 4 メキシコの油田地帯

(出所:Bentek Energy a unit of Platts)

Campeche湾

内陸油田

海洋油田

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Campeche湾の南西部Tabasco州沖合の小規模海洋油田は、「Litoral de Tabascoプロジ

ェクト」および「Abkatun-Pol-Chucプロジェクト」で構成されている。2014年 両プロジ

ェクト合わせて 62万BPD生産した。有望なTsimin油田およびXux油田の発見を含んでい

る「Litoral de Tabascoプロジェクト」の産油量は、2008年の 20万BPD未満から 2014年

には 32万BPDへと増え、Cantarell油田の減少量を幾分相殺することに貢献した。一方、

「Abkatun-Pol-Chucプロジェクト」の産油量は、1990年代半ばのピーク水準の 70万BPD

超より大幅に減少し、2014年は 30万BPD以下であった。

2.4.2 内陸油田の開発

2014年 メキシコの内陸油田の総産油量は、60万BPDで同国産油量合計の 25%を占めて

いる。南部にある Samaria-Luna油田(20万BPD)、南部小規模油田群(30万BPD)お

よび北部小規模油田群(10万BPD)の 3地域に分散している(図 4参照)。

北部で最も注目すべき内陸油田開発は、Chicontepec油田の「Aceite Terciario del Golfo

プロジェクト」である。PEMEXは、同油田を将来の重要な生産資源と位置付け、多額の投

資を行い下記プロジェクト推進している。同油田の原油確認埋蔵量は約 6.4億 bblで、推定

埋蔵量は 150億 bblを超えるとされている。

Chicontepec油田は、潜在能力があるにも拘らず産油量は 2013年から減少し、2014年で

は 4.9万BPDとPEMEXの期待に応えていない。同油田は、単一油田ではなく小規模油田

により構成され、その堆積層は高度に破砕開発されかつ内部圧力が低い。その結果、同油田

は、油井開発に多額のコストがかかり、原油回収率が低くかつ油田減衰率が高くなっている。

しかしながら、同社は、積極的な掘削計画による大幅な増産(目標生産量:30万BPD)を

計画している。

しかし、石油アナリストは、Chicontepec油田の生産ピークが遥かに早く訪れると予想し

ている。エネルギー規制局(メキシコ)は、同油田開発がPEMEXの探査生産予算のかなり

のシェアを占めていることから、同プロジェクトの収益性と同社の開発計画について懸念を

高めている。

2.5 石油パイプライン

メキシコは、国内の石油パイプラインを保有しているが、国際石油パイプラインは保有し

ていない。PEMEXは、同国主要な生産拠点と製油所および輸出基地を結ぶ広範囲な石油パ

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イプラインを運営している。そのネットワークは、同国南部地域に集中しており総延長は

4,830kmを超えている(図 5参照)。

近年 メキシコでは、石油パイプラインからの石油泥棒が問題視されている。組織化された

窃盗団グループおよび武装したギャング(いくつかは麻薬カルテルとタイアップしている)が、

石油パイプラインの移送エリアを支配し石油を窃盗している。同国当局は、2013〜2014年

に不法に燃料を抜き取られた件数は、3,000件(前年比 66%増)を超え、その損失は約 8億

米ドル(約 960億円)に上ると発表されている。また、窃盗にともなう石油パイプラインの

損傷による石油漏えいが、沿線大火災の原因になることも問題視されている。

2.6 製油所

メキシコには6ケ所の製油所(原油精製能力合計:154万BPD)があり、その全てをPEMEX

が操業している(図 5、表 1参照)。同社によれば、製油所の稼動率は 2013年の約 95%から、

翌 2014年には約 90%に落込んだと報告している。

PEMEXは、製油所の能力を改善することによって、石油製品の輸入量を減らすことを計

画している。Minatitlan製油所(2012年完成)では、拡張によりガソリン(4.7万BPD)

とディーゼル油(3.4万BPD)増産を実施した。2014年 12月 同社は、Tula製油所(31.5

万BPD) を拡張し、ガソリンおよびディーゼル油を 14万BPDから 30万BPDに増産する

計画である。

図 2 石油パイプラインと製油所の位置 (出所:米国EIA)

図 5 メキシコの石油パイプラインと製油所の位置

(出所:EIA)

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石油アナリストは、メキシコが米国の石油精製センター(複数の製油所)に近接しているた

め、同国製油所には石油精製における国際競争力の優位性がないと主張している。同アナリ

ストは、PEMEXの限られた資本を、下流側より上流側に投資する方がより生産的であると

指摘している。

製油所名 原油精製能力

(万BPD) 特記事項

1 Cadereyta 27.5 Delayed Cokerを備えた高機能製油所で、重質なMaya

原油の処理が可能。

2 Ciudad Madero 19.0 Delayed Cokerを備えた高機能製油所で、重質なMaya

原油の処理が可能。

3 Minatitlan 18.5 Residue Conversion装置を備えている。

4 Salamanca 24.5

2015年内にアップグレード完成の見込み。完了後は

Delayed Cokerにより重質なMaya原油の処理が可能

となる。

5 Salina Cruz 33.0 クリーン燃料プロジェクトを実施中。

6 Tula 31.5 ガソリンおよびディーゼル油を 14 万 BPD から 30 万

BPDに増産予定

合計 154.0

PEMEXは、米国のDeer Park製油所(33.4万BPD、Texas州)の権益の 50%を所有して

いる。同製油所は、処理原油の半分以上はメキシコ産Maya原油で、残りはアフリカ産原油

やベネズエラ産原油などである。精製したガソリン(2〜3万BPD)およびディーゼル燃料

(約 0.5万BPD)は、タンカーでメキシコ向けに輸出している。

2.7 石油の需給

メキシコは、石油生産量が

消費量を上回っており、石油

の純輸出国である(図6参照)。

ただし、石油製品については

純輸入国となっている。過去

5年間、メキシコの石油消費

量は比較的堅調に推移し、

2014年には平均190万BPD

の石油を消費した。同国政府

表 1 メキシコの製油所一覧 (出所:PEMEX)

図 6 メキシコの石油生産量と消費量

(2015年以降は予測、出所:EIA)

(単位:百万bbl)

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のデータによれば、石油製品消費量のうちガソリンが約 45%およびディーゼル油が 23%を占

めている。

2.8 メキシコ原油の性状

代表的なメキシコ産原油は、Maya原油、Isthmus原油、Olmeca原油およびAltamira

原油である(表 2参照)。

原油名 API度 硫黄含有量 (wt%)

蒸気圧 (lb/in2)

動粘度 (SSU@100ºF)

流動点 (℃)

Maya 21.0-22.0 3.4-3.8 6.0 320 -32

Isthmus 32.0-33.0 1.8 6.0 60 -37

Olmeca 38.0-39.0 0.73-0.95 6.2 38 -48

Altamira 15.5-16.5 5.5-6.0 3.0 1,280-1,750 0

Maya原油は、重質(API度 21~22)、高硫黄(3.4~3.8wt%)であり、金属分(V、Ni)

が多い原油である。同重質原油は、軽質原油に比べガソリンや中間留分(軽油、ジェット燃

料、灯油)の収率が低くなる。同原油の積出港は、Cayo Arcas エリア(Campeche州)、

Dos Bocas港(Tabasco州)および Salina Cruz港(Oaxaca州)である。

Isthmus 原油は、中質(API 度 32~33)かつ中硫黄(1.8wt%)原油である。同原油は、

ガソリンおよび中間留分の収率が良く、Arab light 原油および Ural 原油(ロシア)に性状

が類似している。同原油の積出港は、Dos Bocas 港および Salina Cruz 港(Tabasco州)、

Pajaritos港(Veracruz州)である。

Olmeca 原油は、メキシコ産原油の中で最も軽質(API 度 38~39)かつ低硫黄(0.73~

0.95wt%)で、潤滑油や石油化学原料に最適な特性を有している。同原油の積出港は、

Pajaritos港(Veracruz州)である。

Altamira原油は、重質(API比重 15.5〜16.5)かつ高硫黄(5.5〜6.0wt%)で、Maya原

油のようにガソリンや軽油の収率が低く、アスファルトの製造に適している。同原油の積出

港は、Tampico港(Tamaulipas州)である。

2.9 原油の輸出

2.9.1 概要

メキシコ産原油の米国への輸出は、1980年代および1990年代を通じ着実に増加してきた。

2004年に160万BPDのピークを記録したが、2006年以降は米国のシェールオイルの増産、

(単位:百万BPD)

表 2 メキシコ産原油の性状一覧

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同国産油量の減少および国内燃料需要の増大を反映して、米国への原油輸出量は急減(2007

年比、2013年実績は 4割減)している。

2014年 メキシコは、原油を 114万BPD輸出し、そのうちの大半(約 69%、78.1万BPD)

が米国向けであり、Maya原油がメインとなっている。米国(メキシコ湾岸)の製油所は、

高機能設備を備えており、重質原油であるMaya原油を処理することに適した装置構成にな

っている。そのような理由もあり、今後も米国は同国産原油の輸入を続けると予測される。

2014年 同国は、カナダ、サウジアラビアに次いで、米国への石油輸出国第 3位となってい

る(図 7参照)。一方 同国は、Maya原油より軽質な原油(Isthmus原油、Olmeca原油)

の大半を輸出せず、国内消費用に充当している。

2.9.2 米国/メキシコ 原油スワップ協定

米国は、エネルギー政策・保存法(1975年施行)を制定し、40年間にわたり米国産原油

の輸出を原則禁止にしてきた。しかしながら 2015年 8月 米国商務省は、メキシコへの原油

輸出を認可すると発表した。今回の米国とメキシコの原油スワップ協定は、米国のシェール

オイル由来の軽質原油とメキシコの重質かつ高硫黄原油の交換(最大で 10万BPD程度の等

量交換)を伴うものである。この協定合意は、両国にとって経済的にも環境保護の面からも

有益であると期待されている。なお、本協定は、エネルギー政策・保存法の例外規定を活用

するとみられる。

図 7 米国の国別原油輸入量 推移 (出所:EIA)

(単位:百万BPD)

JPECレポート

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メキシコの 6製油所のうち 3製油所(Cadereyta、Ciudad Madero、Salamanca)は、

Delayed Coker装置(重質油を熱分解し、軽質油留分および石油コークスを製造)を備え、

低硫黄ガソリンの製造が可能である。他の 3製油所は、同装置または同類のアップグレーデ

ィング装置がなく、重質な高硫黄原油を処理するようには設定されていない。

一方、米国のメキシコ湾岸の製油所は、十分なコーキング能力および脱硫能力を備えてお

り、重質かつ高硫黄原油の処理に適している。今回の原油スワップ協定は、両国の製油所の

特性を生かし、両国製油所の操業効率を上げることを目指している。

EIAは、Eagle Ford堆積層(米国Texas州)から得られるシェールオイルとコンデンセ

ートおよびメキシコ産 3原油(Maya原油、Isthmus原油、Olmeca原油)の製品収率と硫

黄分レベルを分析した。その結果、Eagle Ford原油は、メキシコ産原油に比べナフサ留分の

硫黄含有量が低いことが判明した(図 8、図 9参照)。自動車ガソリンに混合または、さら

に精製されるナフサ留分にとって、硫黄分の差異はとりわけ重要である。

メキシコ政府は、同国全土のガソリンの品質を硫黄含有量 30ppmレベルに達することを

望んでいる。しかしながら、この硫黄分規制を満足するガソリン(プレミアムガソリンを除

く)は、同国の首都圏でしか入手できていないのが現状である。

メキシコ政府は、今回のスワップ協定により輸入するEagle Ford原油を活用して、同国

製油所においてメキシコ産原油と一部置換処理する。それにより、硫黄分除去能力を確かな

図 8 メキシコ原油とEagle Ford原油

の製品収率 (出所:EIA)

(単位:ppm)

図9 メキシコ原油とEagle Ford原油

のナフサ中の硫黄分 (出所:EIA)

(収率単位:%)

JPECレポート

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ものにすると同時に、低硫黄ガソリンの製造能力を拡大することができることを目指してい

る。その結果、同国のガソリン市場において低硫黄ガソリンの供給量が増え、大気への SOx

排出量を低減し、環境対策としても有益となることが目的のひとつである。

2.9.3 原油販売会社PMIの動向

P.M.I. Comercio Internacional(PMI、1989年設立)は、国際市場での大手原油販売会社

である。2011 年 同社は、メキシコ産原油合計の 52.5% に当たる 134 万 BPD を国際市場

で販売した。同年、Maya原油の全輸出量の 76.6%に当たる 126万BPDを輸出した。なお、

Isthmus原油(9.9万BPD)およびOlmeca原油(19.4万BPD)の輸出もしている。現在、

輸出先は米国が 79.2%、欧州向け 14.0%、残り 6.8%は極東向けとなっている。

近年、PMI社は、米国がシェールオイルの増産により原油自給率が増加しているとして、

販売先の多様化を目指している。その一環として、中国の大手企業と原油供給契約を結んだ。

また、インドへの原油販売量も増やしている。ちなみに、PEMEXも同様の動きがあり、特

に東アジア市場を注視し、2015年 3月には韓国向けの原油輸出を開始したと発表している。

2.9.4 原油輸出基地

メキシコ産原油の輸出基地は、前述したCayo Arcasエリア、Pajaritos港、Dos Bocas港、

Cd. Madero港および Salina Cruz港にある。

PEMEXは、Cayo Arcasエリア(水深 75m)に原油貯蔵用の浮船を 2隻保有している。1

隻は「Ta Kuntah」と称する浮体式石油貯蔵出荷設備(FSO)で、230万 bbl(37万 kℓ)の

原油貯蔵能力、80万BPDの原油積出し能力を持つ。もう 1隻は、「YummKakNaab」と

称する浮体式石油生産貯蔵出荷設備(FPSO)で、60万BPDの原油処理能力(粗原油から

のガス分離と安定化、原油の混合など)および 220万 bbl(35万 kℓ)の原油貯蔵能力を持つ

(写真 1、写真 2参照)。

写真 1 FSO 「Ta Kuntah」

(出所:PEMEX HPより)

写真 2 FPSO 「YummKakNaab」

(出所:PEMEX HPより)

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2.10 石油製品の輸入と輸出

メキシコは、主要な原油輸出国であるにも拘らず、石油製品については純輸入国である。

PEMEXによれば、2014年 石油製品を約 64万BPD輸入している。そのうちの 58%はガ

ソリンで、残りの大部分はディーゼル燃料とLPGであった。

一方 2014年 メキシコは、石油製品を約20万BPD輸出している。そのうちの約6万BPD

が米国向けで、品目の多くは残渣燃料油、ナフサおよびペンタンプラス類(C5+C6+C7など)

であった。米国のメキシコからの石油製品輸入量は、2010年の高レベル(13.2万BPD)か

ら近年は減少傾向にある(図 10参照)。

3 まとめ

メキシコは、GDP世界 15位、中南米ではブラジルに次いで第 2位の経済国である。同国

の石油産業分野は、石油埋蔵量では世界 18 位の原油輸出国である。しかしながら、石油製

品については逆に純輸入国になっている。これは、同国の石油製品消費量(約 200 万 bbl)

に対し、同国内製油所の精製能力(154万 bbl)が不足しているためである。

これは、メキシコの石油生産が毎年減少してきていることが一因である。2013年 12月同

国政府は、憲法一部改正によりPEMEXの独占政策を改め、外国企業にも石油上流部門への

参入を認めるエネルギー改革を実施した。今後、外国からの資本および技術が流入し、油田

開発(特に深海域海洋油田)ならびに石油生産の増加が予想される。

(単位:千bbl)

図 10 米国のメキシコからの石油製品輸入推移 (出所:EIA)

JPECレポート

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メキシコの石油交易は、地理的および経済的条件から大半を米国に依存している。しかし

ながら、米国ではシェールオイルの増産により、同国産原油の輸入減少が見込まれている。

同国では、その対策として欧州ならびにアジア向け輸出を増やそうとしている。一例として、

同国は、2004年を最後に日本向け原油輸出を停止していた。2014年 前述の政策変更により、

同国は日本向け原油の輸出(実績:Isthmus原油 約 33万 kℓ)を再開している。また、2016

年春にパナマ運河拡張工事(Panamax 級タンカー〈6〜8 万 DWT〉が限度であったが、

Suezmax 級タンカー〈16 万 DWT 程度〉まで通航可能となる)が完成の見込みであり、同

国の輸出政策に追風となる可能性がある。

日本を含むアジア諸国は中東依存度が高く、かねてよりエネルギー安全保障上 原油ソー

スの多様化が課題である。日本としてもメキシコ産原油の輸出政策には、今後注視が必要で

ある。

≪出典および参考資料≫

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