インドネシア国 水産資源の有効活用による だし調味料新製品...

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2 9 3 201 7 インドネシア国 水産資源の有効活用による だし調味料新製品開発事業にかかる 基礎調査 業務完了報告書 インドネシア国 独立行政法人 国際協力機構 JICA かね七株式会社 国内 JR 17-020

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  • 平成 29 年 3 月(2017 年)平成

    29年3月

    独立行政法人 

    国際協力機構

    インドネシア国

    水産資源の有効活用による

    だし調味料新製品開発事業にかかる

    基礎調査

    業務完了報告書

    999909 ②一部非公開 表紙

    インドネシア国 

    インドネシア国水産資源の有効活用によるだし調味料新製品開発事業にかかる基礎調査 

    業務完了報告書

    インドネシア国

    独立行政法人

    国際協力機構(JICA)

    かね七株式会社国内

    JR(先)17-020

  • 3

    目次

    略語表 5

    図表リスト 7

    要約 11

    はじめに 17

    第 1 章 事業概要 22

    1-1 事業実施体制 22

    1-2 原材料調達・製品製造・販売までの流れ 23

    1-3 原材料調達の方針 23

    1-4 投資・資金計画 23

    1-5 生産・販売計画 24

    1-6 要員配置・育成計画 25

    1-7 製造原価 26

    1-8 財務分析 26

    第 2 章 事業の背景と目的 27

    2-1 かね七株式会社の既存事業の概要 27

    2-2 当事業発案・検討の背景と経緯 31

    2-3 当事業の目的と必要性 32

    2-4 当事業における本調査の位置づけと調査の実施概要 34

    第 3 章 事業対象地域・分野が抱える開発課題の現状 36

    3-1 開発課題の概要 36

    3-2 現地機関、海外機関による支援や事業の状況と残された課題 38

    3-3 残された課題に対する当事業の位置付け 38

    第 4 章 投資環境・事業環境の概要 40

    4-1 外国投資全般に関する各種政策及び法制度 40

    4-2 提案事業に関する各種政策及び法制度 54

    4-3 ターゲットとする市場の現状 64

    4-4 販売チャンネル 70

    4-5 競合の状況 78

    4-6 サプライヤーの状況 82

    4-7 既存のインフラ(電気、道路、水道等)や関連設備等の整備状況 84

    4-8 社会・文化的側面 88 4-9 調味料嗜好調査、日本食に対する印象 91 第 5 章 事業戦略(非公開部分につき非表示) 101

    第 6 章 事業計画(非公開部分につき非表示) 102

  • 4

    第 7 章 本事業を通じ期待される開発効果 103 7-1 国家中期開発計画(2015-2019)の政策目標への開発効果 103

    7-2 地元漁民所得向上効果 103

    7-3 雇用効果 104

    7-4 造粒技術の移転効果 104

    第 8 章 現地 ODA 事業との連携可能性 105

    8-1 連携事業の必要性 105

    8-2 連携事業の内容と期待される効果 105

    第 9 章 事業開始までのアクションスケジュール(非公開部分につき非表示) 107

  • 5

    略語表

    AMDAL Analisis Mengenai Dampak Lingkungan 環境影響評価

    API-P Angka Pengenal Importir Produsen 製造業向け輸入業者登録

    API-U Angka Pengenal Importir Umum 非製造業向け輸入業者登録

    ASEAN Association of South‐East Asian Nations 東南アジア諸国連合

    BAPPEDA Badan Perencznaan Pembangnan Daeran 地方開発企画庁

    BKPM Badan Koordinasi Penanaman Modal 投資調整庁

    BPOM Badan Pengawas Obat dan Makanan 国家食品医薬品監督庁

    CV Commanditaire Vennootschap 有限会社

    CVS Convenience Store コンビニエンスストア

    DKPTKA Dana Kompensasi Penggunaan Tenaga Kerja Asing 外国人労働者雇用補償金

    FTZ Free Trade Zone 自由貿易区

    GDP Gross Domestic Product 国内総生産

    HGU Hak Guna Usaha 事業権

    HGB Hak Guna Bangunan 建設権

    HP Hak Pakai 使用権

    IL Izin Lokasi 立地許可

    IMB Izin Mendirikan Bangunan 建設許可

    IMTA Izin Mempekerjakan Tenaga Kerja Asing 外国人労働許可書

    IPP Independent Power Producer 独立発電事業者

    IRR Internal Rate of Return 内部収益率

    IU Izin Usaha 営業許可

    JETRO Japan External Trade Organization 日本貿易振興機構

    JICA Japan International Cooperation Agency 国際協力機構

    KAPET Kawasan Pengembangan Ekonomi Terpadu 経済発展統合地域

    KBLI Klasifikasi Baku Lapangan Usaha Indonesia インドネシア標準産業分類

    KEK Kawasan Ekonomi Khusus 特別経済地域

    KITAS Kartu Izin Tinggal Terbatas 一時滞在許可証

    LPPOM-MUI Lembaga Pengkajian Pangan Obat-obatan dan Kosmetika Majelis Ulama Indonesia

    インドネシア・ウラマー評議会

    食料・薬品・化粧品研究所

    MD Makanan Dalam Negeri 国内食品(番号)

    ML Makanan Luar Negeri 輸入食品(番号)

    MSG Monosodium Glutamate グルタミン酸ナトリウム

  • 6

    NIK Nomor Induk Kepabeanan 税関登録番号

    NJOP Nilai Jual Objek Pajak 土地建物課税評価額

    NPV Net Present Value 正味現在価値

    NPWP Nomor Pokok Wajib Pajak 納税者番号

    PKP Pengusaha Kena Pajak 付加価値税課税業者

    PLN Perusahaan Listrik Negara 電力公社

    PMA Penanaman Modal Asing 外国投資

    PPS Pelabuhan Perikanan Samudera 遠洋漁業に対応可能な大型漁

    PT Perseroan Terbatas 株式会社

    RPTKA Rencana Penggunaan Tenaga Kerja Asing 外国人雇用計画書

    SEZ Special Economic Zone 経済特別地域

    SPPL Surat Pernyataan Pengelolaan Lingkungan 環境管理誓約書

    TDP Tada Daftar Perusahaan 会社登録証

    UD Usada Dagang 個人商店

    UKL/UPL Upaya Pengelolaan Lingkungan Hidup dan Upaya Pemantauan Lingkungan Hidup

    環境監視/管理方法

    (正式名称:斜字はインドネシア語)

  • 7

    図表リスト

    ページ 図表番号 名称

    22 表 1.1 関係各社の業務分担

    23 図 1.1 原材料調達から製品の製造、販売まで流れ(初期段階)

    24 表 1.2 設備投資計画

    25 表 1.3 予定販売額

    32 表 2.1 かね七株式会社のカツオ・煮干だし調味料売上高の推移

    33 表 2.2 日本食品に対する海外消費者アンケート

    36 表 3.1 各国の排他的経済水域面積と海面漁業生産量割合

    37 表 3.2 インドネシア国州別指標

    44 表 4.1 投資分野において閉鎖されている事業分野及び条件付きで開放されている事業分野リストに関する大統領規程 2016 年第 44 号

    添付書類リスト

    47 表 4.2 主要投資調整庁長官規程

    51 表 4.3 雇用形態別に見た労働法上の義務

    58 図 4.1 ビトゥン経済特区の位置

    58 図 4.2 ビトゥン経済特区の土地利用計画

    61 表 4.4 工場排水水質基準(水産業)

    65 表 4.5 インドネシアの食料品市場規模の推計

    65 表 4.6 日本の食品市場規模の推計

    66 表 4.7 インドネシアの国内総生産(GDP)、1 人当たり GDP の推移

    66 表 4.8 アセアン諸国の 1 人当り GDP の推移

    67 表 4.9 アジアの所得中間層の定義

    67 表 4.10 インドネシア国中間層の推計

    68 表 4.11 アジア主国・地域における使途別消費支出構成比比較(2009 年)

    71 表 4.12 周辺各国の販売チャンネル別売上構成比

    71 表 4.13 インドネシアにおける食品小売りの業態別構成比

    74 表 4.14 主要小売業態と対象顧客層、展開エリア

    75 図 4.3 大手食品メーカー系ディストリビューター経由の流通

    78 図 4.4 ディストリビューターから消費者までの流通経路

    79 表 4.15 インドネシアの月間 1 人当たり食料費支出の内訳

    79 表 4.16 インドネシアの調味料市場規模

    80 表 4.17 風味調味料の市場規模

    81 表 4.18 競合商品の販売価格

  • 8

    83 表 4.19 北スラウェシ州のカツオ節製造業者

    85 表 4.20 国営電力会社(PT.PLN)Region Ⅶの発電方式別発電所数と発電量

    85 表 4.21 ビトゥン市の上水道水源別設備給水容量

    86 表 4.22 県/市別道路状況別道路延長

    87 表 4.23 ビトゥン市の車種別自動車保有台数

    88 図 4.5 マナド-ビトゥン間の有料道路計画

    91 表 4.24 性別

    91 表 4.25 年齢

    92 表 4.26 職業

    92 表 4.27 出身地

    93 表 4.28 甘味について

    93 表 4.29 苦味について

    93 表 4.30 塩味について 94 表 4.31 酸味について 94 図 4.6 甘味についての感想 94 図 4.7 苦味についての感想 94 図 4.8 塩味についての感想 94 図 4.9 酸味についての感想 95 表 4.32 購入価格 96 表 4.33 魚だし料理をするか

    96 表 4.34 魚だしの使用頻度

    96 表 4.35 日本食を食べたことがあるかないか

    97 表 4.36 どんな日本食を食べたことがあるか

    97 表 4.37 日本食を食べた理由

    97 表 4.38 日本食を食べた場所

    97 表 4.39 日本食の味は好きか

    98 表 4.40 日本食に対する印象

    98 表 4.41 日本食を食べたいか

    98 表 4.42 自分自身で日本食を作ってみたいか

    98 表 4.43 日本食を作りたくないと回答した理由

    99 表 4.44 食料品の購入先

    99 表 4.45 1 度の買物における購入金額

    100 表 4.46 現製品パッケージデザインからだし調味料であることが認識できるか

    100 表 4.47 鯵

  • 9

    100 表 4.48 ソウダガツオ

  • 11

    要約

    魚介風味のだしの現状は粉末化、造粒した顆粒状の風味調味料あるいは液体調味料とな

    り、誰もが簡便にだしをとれる製品が主力となっている。国内のだし調味料市場は、味の

    素の「ほんだし」など大手メーカーの製品が 90%以上を占める寡占状態にあり、多数の中

    小企業も参入する競争状態にある。また、魚介だし調味料の主原料となるカツオ資源は資

    源の枯渇、資源保有国の漁獲規制、国際的な缶詰需要の増加などから世界的に原材料不足

    となり、価格が上昇して関連製造企業の経営に圧迫を与えている。かね七株式会社(以下、

    かね七(株))もこの様な市場環境から売上高が伸び悩んでおり、国内では現在の商品と流

    通ルートでの更なる販路拡大は難しくなっている。一方、近年の海外での和食ブームを反

    映して海外での需要は急速に増加している。この様な国内の事業環境を考慮し、以下の様

    な目的で海外進出を図ることとした。

    (1) 人口の増大や急速な経済成長により食品市場の著しい拡大が期待される東南アジア諸

    国で近年の和食ブームに合わせて、新たな市場の開拓を図る。

    (2) だし調味料事業拡大のための消費市場も原料となるカツオも共に東南アジアにあると

    すれば、世界的なカツオ漁場を周辺海域に抱え、その巨大な人口から将来の消費市場と

    しても大きな需要を見込めるインドネシアが最初の生産拠点を置くのに最も相応しい

    国である。

    インドネシア国東部地域、スラウェシ州は、海洋資源に恵まれ漁業が最も盛んな地域で

    あるが、流通インフラや加工業などの開発が遅れた地域である。沿岸漁村地域には多くの

    漁業者や水産加工業者が存在するがほとんどが零細事業者で、市場ニーズに応じた製品加

    工や販売を行なうことができず、豊富な資源を有する水産業が必ずしも漁業者や地元住民

    の生活向上に寄与できていないのが現状である。北スラウェシ州ではコールド・チェーン・

    システム、加工センター、水産クラスター整備などの加工・流通関連分野の施設整備が「ミ

    ナポリタン開発計画」の一環として位置づけられている。また、PPS(遠洋漁業に対応可能

    な大型漁港)に位置づけされるビトゥン漁港も 25の外環漁港の 1つとして水産分野の基盤施

    設が重点的に整備される計画があり、水産資源の付加価値産業化、新規小規模産業の設立

    による雇用の創出、農漁村地域の生計の向上など、水産業を核とした地域開発を目指す本

    事業の目的とも整合する。

    本事業は基本的に水産物加工業の現地工場進出であり、事業活動を通じて海洋産業振興

    にある程度の寄与が可能である。しかし、工場操業の初期の段階では主要な原料となるカ

    ツオは安定供給を確保するため大手漁業者から仕入れざるを得ず、必ずしも地元漁業者を

    直接潤すわけではない。そこで本事業の今後の課題として次の2点が挙げられる。

    (1) 提携企業と共に地元漁業者の組織化を図り、地元漁業者から優先的に生魚を確保する手

    立てを考える。必要とあれば原料魚保管のための冷凍施設増設も考慮する。

    (2) 水産資源の効率利用を進めるために、提携企業と共にこれまで廃棄していた煮熟液、骨

  • 12

    などの利用が可能となる設備投資を行い、カツオエキス、骨粉カルシウムの利用や販売

    も考慮する。また、廃棄せざるを得ない部位(内蔵、頭など)については肥料化を図る

    など全体としての資源利用効率を高める。

    進出にあたり外国投資に関する法制度および各種政策(投資法、投資調整庁の基準、会

    社法、土地基本法、労働法、投資インセンティブ、食品衛生法、環境衛生法、ハラール認

    証など)について検討した結果外国投資全般に関する法制度に対して特に大きな懸念事項

    は見当たらない。水産物関連の加工事業であるが、原材料は提携会社から水産加工物であ

    るカツオ荒節を購入するため、直接の水産物加工にはあたらない。仮に提携会社との合弁

    事業が一体的な水産加工と判定された場合はネガティブリストの「中小零細企業・協同組

    合のために留保されている或いはパートナーシップが条件付けられている事業分野」に抵

    触することになるが中小企業である提携会社とパートナーシップを組むため進出の条件を

    満たすことができる。

    インドネシアの食品消費市場の第 1 の魅力は、人口規模の大きさ(世界 4 位)に支えら

    れた市場規模の大きさである。さらに第 2 の魅力は、急速な経済成長に伴う消費生活の豊

    かさであり、第 3 の魅力は、食品購買力の増加に寄与する所得の中間層の台頭である。こ

    うした状況下で当初は日本風料理のための風味調味料として差別化を図り、高級食材の一

    部として上位中間層以上の購買層を顧客対象とする。業務用は日本食レストランや日系チ

    ェーンストアが販売対象である。この場合は一定の味と品質を確保していれば固定的な顧

    客層として安定的な販売が可能であるとみられる。ハラール認証が必須となること、大手

    ディストリビューターに依存した場合、販売手数料等のコストが発生することが懸念事項

    である。

    インドネシアにおける食品販売チャンネルの特徴は、「伝統的小売」がマーケットの主流

    を占めていることである。地方都市ではまだ伝統的小売が 70%以上を占めると推定され、

    ベトナムを除く他の東南アジア諸国の中では格段に高い。ただし、ジャカルタ周辺ではす

    でに近代的小売が 60%を上回っていると推定されている。食品小売店への流通は食品メー

    カーから指名され、商品を流通市場に卸す「ディストリビューター」と呼ばれる一次卸売

    業者が担っている。ディストリビューターは一般に物流機能も備えており、広い営業エリ

    アを持つ大手メーカー系と特定地域のみをカバーする地域ディストリビューターに大別さ

    れる。インドネシアの食品流通の特徴は、近代的小売業態、伝統的小売業態および飲食サ

    ービス(フードサービス)の 3 つの小売業態で異なった流通経路をたどることである。ま

    た、インドネシアは国土が 1 万以上の島から構成されているため消費財流通に関しては、

    地域ごとに小規模な地域ディストリビューターが存在しており、全国レベルの商品配送に

    対するハードルが高いことも特徴である。近代的小売業態では、販売先であるハイパーマ

    ート、ミニマート等は大手小売業者が中心となるため、価格などの条件交渉はメーカーが

    直接担当し、商品は先方の小売業の物流センターまたは店舗への物流だけをディストリビ

    ューターが担当するケースが多い。近代的小売業態の市場は販売ネットワークの構築には

  • 13

    さほどの労力を要しないが、リスティングフイーが高額となるためメーカーの利鞘の薄い

    商品を販売するにはハードルが高いと言われている。伝統的小売業態の市場ではディスト

    リビューターはグロシールと呼ばれる二次卸に商品を販売する。グロシールは小売店舗を

    兼業することも多く、古くからある家業的な商売で、地縁・血縁関係で培った人的ネット

    ワークを基に、中小・零細小売店に仕入れた商品を販売している。

    風味調味料の市場流通量はインドネシア味の素社の推計を基に積算すると 2016 年には約

    13 万トンが流通し、小売価格ベースで7兆 1,000 億ルピア(570 億円)となり、日本のだし

    調味料市場規模 600 億円(酒類食品統計年報:日刊経済通信社)と同規模になる。

    日系ブランドのインドネシア味の素社の「Masako(マサコ)」が最も認知度が高く、ブラ

    ンド名はインドネシアの消費者に深く浸透している(シェア 60%)。Masako はチキン風味

    とビーフ風味の 2 種類があり一般消費者用にはいずれも 11g×6 袋のセット販売が基本であ

    るが、スーパーマーケット、ミニマーケット、パサールの小売店のいずれでも 1 袋単位の

    販売を行っている。このほかに 147g 入りの袋売りもある。次いでユニリーバの「Royco(ロ

    イコ)」がある。チキン風味とビーフ風味の 2 種類あり、同じく 11g×6 袋のセット販売が基

    本であるが、バラ売りも行われている(シェア 30%)。インドネシアの風味調味料市場はイ

    ンドネシア味の素社のMasakoとユニリーバ社のRoycoの寡占市場となっておりそのブラン

    ドは中間層から低所得者層までの消費者まで広く浸透している。本事業の製品をこれらの

    市場で販売するには非常に高い参入障壁があると考えるべきであろう。したがって、まず

    顧客層のターゲットを比較的これらの大衆商品との競争が少ない上位中間層以上に絞って

    アプローチすべきである。そのためには、製品そのものの差別化を図るため、①日本料理

    の基本素材であること、②魚介ベースの調味料であること、③健康食の要素を持つことの 3

    点を強調し上位中間層以上の消費者にブランドを浸透させていく必要があろう。

    カツオ節サプライヤーはビトゥン市水産業者名簿に 5 社と 1 事業組合がカツオ節製造業

    者として掲載されている。このほかに南ミナハサ県アムランに1社が立地している。これ

    らの製造業者が生産したカツオ節はわずかの中国、韓国向けを除き殆どが日本に輸出され

    る。インドネシアのカツオ節製造業者は全て北スラウェシ州に立地している。カツオエキ

    スはインドネシアの他社から調達の予定であるが相手先を模索中である。昆布エキス、椎

    茸エキスはインドネシア国内で入手可能であるが品質に問題があり、中国等からの輸入も

    考慮している。グルタミン酸ナトリウムは国内調達を原則とする。でんぷんについては国

    内調達、乳糖、食塩については米国、オーストラリアからの輸入品を想定している。

    既存のインフラ(電力、道路、水道、海上輸送など)や関連設備等の整備状況について

    検討した結果、本事業では特に問題点が見受けられなかった。

    前述したことを踏まえ、かね七株式会社(本社 富山県富山市)と CV.SIJ Tanjung Merah

    社(北スラウェシ州ビトゥン市)との合弁で現地法人(株式会社)をビトゥン市の経済特

    区(SEZ)に設立する。出資金額は現時点で総額 25 億ルピア(約 2,000 万円)、出資比率はか

    ね七㈱70%、CV.SIJ Tanjung Merah 社 30%を予定している。事業に必要な用地は CV.SIJ

  • 14

    Tanjung Merah 社がビトゥン経済特区(SEZ)内に自社用地の拡張目的で購入する敷地内に設

    立法人が工場、倉庫、事務所等の建物を建設することとし建設費単価を 750 万ルピア/㎡(約

    60,000 円)とすると 120 億ルピア(約 9,600 万円)の投資となり、調達原資はかね七㈱から

    の短期借入金とする予定である。流動層式造粒機、粉砕機、振動振るい機等の製造機器類

    及び自動包装機一式、総額 11,170 万円(約 140 億ルピア)はかね七(株)を通じて日本から購

    入する。調達原資はかね七(株)からの短期借入金とする。3 年目にかね七(株)本社が社内に

    ある中古の造粒機 1 台を無償で提供する。設備投資総額は 20,770 万円(約 260 億ルピア)

    となる。機器類及び建物の減価償却は、進出予定地域がマナド・ビトゥン「経済発展統合

    地域(KAPET)」の域内にあるため、機器類は定額法による 4 年間の償却、建物は定額法によ

    る 10 年間の償却とし処理する。

    原材料調達・製品製造・販売までの初期段階(操業開始から 5 年目まで)のビジネスプ

    ロセスを策定した。6 年目以降は製品製造量の増加にともない提携企業の協力の下に原材料

    の素となるカツオ生魚の調達やカツオ節製造・調達の拡大・組織化を図る。

    原材料はハラール取得の際、製造、流通過程の追跡が容易なため可能な限りインドネシ

    ア産の材料を使用する。主原料であるカツオ節粉末については、提携会社が自社製または

    現地カツオ節製造企業より買い付けた特注仕様のカツオ荒節を現地法人社内で粉砕したも

    のを使用する。事業第 2 段階からは、カツオ節に加え現地で未活用となっているトビウオ

    あるいは地元漁港で多く水揚げされるヒラソウダ(ソウダガツオ)、ムロアジを原材料とし

    た「あごだし調味料」、「煮干しだし調味料」などの新製品開発も行う。グルタミン酸ソー

    ダーは、インドネシア味の素をはじめ 10 数社がサトウキビを原材料に国内生産を行ってい

    る。その他の原材料についてもインドネシア産の入手が可能であるが、品質、価格によっ

    ては一部中国等からの輸入品を使用することもある。

    販売予定の商品は、日本と同様に「顆粒かつおだし調味料」4g スティック(実包 4.5g)×12

    本=1 袋(48g)単位の小口家庭用向け商品と 500g ガゼット袋(gusset、マチ付き袋)入り

    の業務用商品(国内では 500g×2 袋入りで販売)の 2 商品を想定する。

    製品は流動層式造粒機(月間最大生産量 7 トン/月)の生産量から、安全在庫 3 カ月分を含

    む初年度年間総生産量を 75,000kg と想定し、在庫分を除く 60,000kg を初年度の予定販売量

    とする。2 商品の予定販売量はそれぞれ 50%ずつとし、4g スティック×12 本入り約 55 万 5

    千袋、500g ガゼット 6 万袋が初年度の販売量となる。同様に 5 年目は予定販売総量 120,000kg

    (4g スティック 111 万袋、ガセット約 12 万袋)の販売を予定している。

    かつおだし調味料は家庭用向けの 4g スティック 1 本で 650 ルピア(約 5.2 円)、12 本入り

    1袋 7,800 ルピア(約 62.4 円)の販売価格を想定している。業務用は 500g 入り 1 袋 70,000 ル

    ピア(約 560 円)である。

    要員配置・人材育成については、設立法人の管理者 1 名は、かね七(株)本社よりの出向者

    が駐在員としてその任に充たる。管理者補佐は、かね七(株)本社で研修を経験し、顆粒だし

    調味料の製造に経験を持つ現地の人材を充てる予定である。製造・包装工程に従事する従

  • 15

    業員 14 名(うち 2 名は 3 年目から採用)および営業担当者 2 名は現地採用する。これらの要

    員に対する育成計画を策定し実施する。

    本事業で生産する顆粒だし調味料の製造原価は売上価格の 52%になる。製造原価に含ま

    れる項目は、直接製造にかかわる原材料費、包装材料費(在庫分を含む)、賃金、その他の

    労務費、電力費、水道料、修繕費である。

    前述した減価償却条件で財務分析をすると単年度黒字となるのは 4 年目となる。累積赤

    字は 6 年目で解消する。6 年目以降の営業利益を定額で推移すると仮定して期間 10 年間の

    内部収益率(IRR)を計算すると 11.2%となる。また、インドネシア中央銀行の政策金利(公

    定歩合)は直近で約 5%であることから割引率を 5%として正味現在価値(NPV)を計算する

    と 77,543 千円となり、リスクの少ない投資案であると仮定すれば採算の取れる投資と判断

    される。

    また、マナド国立大学日本語学科の協力のもと嗜好調査を実施した結果、甘味と塩味に

    ついては良い結果が得られているが、苦味と酸味については余り感じられないとの回答が

    多くあった。これらの結果を精査して新製品開発を行う予定である。

    本事業を通じ期待される定性的な開発効果は、①水産分野の起業家育成、②水産関係者の

    ネットワーク形成、③持続可能な水産管理技術の向上、④貧困漁業者支援、⑤地元漁民の

    所得向上効果、⑥雇用効果、⑦造粒技術の移転効果などである。

    現地 ODA 事業との連携可能性については、インドネシア北スラウェシ州においては水産

    加工業が数多く進出している割には、これらを支える関連産業の集積が少なく、企業単独

    で開発効果の高い事業を行うには大きな投資額を要する。そこで、より高い開発効果と投

    資額の軽減を図る方策として、次のような ODA 事業との連携を再検討する必要がある。①

    州・市、漁業協同組合、水産加工事業組合など公共・準公共部門との共同事業の模索、②

    公共部門の進める開発計画への参画・協力(ミナポリタン計画、ビトゥン経済特区等)、

    ③技術移転や設備提供による日本の「だし文化」を広めることを中心にした事業展開、④

    カカオ、コーヒー、果実等スラウェシ島の農業開発プロジェクトとの連携(水産加工廃棄

    物の肥料化等)、⑤他の水産加工 ODA 事業との連携(インドネシア国 有効利用されてい

    ない縞タコの加工・衛生管理技術の普及・実証事業等)など。

    事業開始までのアクションスケジュールについては、本調査を通じ、収支計画では 4 年

    目に単期黒字となりその後 6 年目に累積赤字は解消されるが、原材料の安定的な供給など

    の観点から現地サプライヤーについて調査を継続的に行う。また初期投資額は約 2 億 800

    万円と高額であり、進出に対しビジネスプロセス、生産プロセスを見直し改善すると共に、

    適切な機材の選定を行う必要がある。そのため上記事項を解決するためにも更なる調査の

    時間を有する。また本調査を行った北スラウェシ州においては水産加工業が数多く進出し

    ている割には、これらを支える関連産業の集積が少ないことが明らかである。そのため政

    府や漁協などに対し ODA 事業とし技術指導などの観点から協力し、高い開発効果と投資額

    の軽減を図る。

  • 16

  • 17

    はじめに

    1. 調査名

    水産資源の有効活用によるだし調味料新製品開発事業にかかる基礎調査

    (英文名)

    Survey on New product development business aimed at effective utilization of fishery resources

    2. 調査の背景

    インドネシアは世界第 3 位の排他的経済水域を有する水産資源大国であり、海面漁業生産量も 3 位(2013 年)と常に世界の上位を占める漁業大国である。インドネシア政府は「国家中期開発計画」(2015-2019)で今後優先して開発すべき産業分野の 1 つとして「海洋産業」を、また地域格差解消の重点地域として東部地域を挙げている。

    また、海洋水産省は前の国家中期開発計画(2010-2014)を受けて政策目標を定めており、そのうちの 1 つに「水産業を核とした地域開発(ミナポリタン開発計画)」を定めている。ミナポリタン開発計画では、資源利用の効率性を改善することを目的に、

    本提案事業の対象地域である北スラウェシ州でのコールド・チェーン・システム、加

    工センター、水産クラスター整備などの加工・流通関連分野の施設が整備される計画

    である。 しかし現状では、水産加工技術や設備が不十分であるため、大部分が生鮮品、低加工

    品として消費され、あるいは加工品の原材料としてそのまま輸出されており、豊富な

    水産資源が必ずしも地元の漁業者の生活向上に寄与できていない状況である。また、

    加工の工程において廃棄される魚介・部位が多く、資源が有効に活用できていない状

    況である。

    3. 調査の目的

    通常のだし調味料製造工程では原材料のカツオの約 80%(頭・皮・骨・内臓・水分)

    が廃棄されているが、かね七株式会社の製造技術では、従来廃棄されていた部分の 15%

    をだし調味料に加工することが可能となる。従来廃棄されている魚介部分を含め原料を

    調達し、インドネシア内で加工し、インドネシア内での販売と周辺国へ輸出を行うビジ

    ネスモデルの実現可能性を明らかにすることを本調査の目的とする。本提案事業が進展

    することにより、インドネシア内での資源が有効に活用され、高度な水産物の生産技術

    移転により、水産加工産業が活性化されることで、地元の漁業者の所得向上が期待され

    る。

    4. 調査対象国・地域

    インドネシア国北スラウェシ州周辺、ジャカルタ、スラバヤ等

  • 18

    5. 団員リスト

    氏 名 担当業務 所属先 1 石黒 広一 富山 総括 現地調査 企画書 かね七株式会社 2 石黒 勝久 富山 総括補佐 1.製造管理調査 かね七株式会社 3 鍋嶋 淳一 富山 総括補佐 2.分析調査 かね七株式会社 4 針原 幸治朗 富山

    (交代前) チーフアドバイザー、総括補佐 3.販路・嗜好調査

    富洋建材株式会社

    5 黒澤 靖彦 東京 報告書作成 1.各種制度・漁獲量等調査

    株式会社国際開発

    アソシエイツ 6 大田 勉 千葉

    (交代後) チーフアドバイザー、販路・嗜好

    調査、報告書作成 2.工場管理・建設・設計

    千葉工業大学

    7 小野 修一郎 東京 報告書作成 3.化学分析調査 千葉工業大学 8 原 洋平 千葉 報告書作成 4.市場・インフラ調査 千葉工業大学

    6. 現地調査工程

    第 1 回現地調査(2016 年 4 月 19 日~5 月 10 日)

    調査団員:

    石黒広一 かね七㈱ (4 月 19 日~4 月 26 日) 針原幸治朗 富洋建材㈱ (4 月 20 日~5 月 10 日) 黒澤靖彦 ㈱国際開発アソシエイツ (4 月 20 日~4 月 28 日) 原洋平 千葉工業大学 (4 月 22 日~4 月 27 日)

  • 19

    調査日程・調査内容:

    調査月日 調査地 調査内容

    4月19日(火) ジャカルタ 成田~ジャカルタ移動(石黒)

    4月20日(水) ジャカルタ ビトゥン

    成田~ジャカルタ移動(針原、黒澤) ジャカルタ~マナド~ビトゥン移動(石黒)

    4月21日(木) ジャカルタ ビトゥン

    ジャカルタ市内日本食品専門店パパイヤ視察 ジャカルタ JICA インドネシア事務所訪問 ジャカルタ日本料理丸福 布川社長面談 信越ポリマ-インドネシア七山社長面談(針原、黒澤) Tanjung Merah 社訪問(石黒)

    4月22日(金) ビトゥン ジャカルタ

    ビトゥン市副市長 Lr.Maurits Mantiri 氏他表敬訪問 マナド大学ナランデ教授面談(嗜好調査打合せ他) 成田~ジャカルタ移動(原)

    4月23日(土) マナド ビトゥン

    Tumunpa 漁港視察 Tanjung Merah 社訪問 ビトゥン漁港視察、周辺の漁業者ヒアリング ジャカルタ~マナド移動(原)

    4月24日(日) マナド 市内大型スーパーマーケットの調味料調査

    4月25日(月) ビトゥン 北ミナハサ県 ミナハサ県 ジャカルタ

    ビトゥン漁港の魚種・漁獲量・魚価調査 ケマ漁港の魚種・漁獲量・魚価調査 マナド国立大学日本語学科訪問 学生と調味料嗜好調査の打合せ マナド~ジャカルタ移動(石黒)

    4月26日(火) マナド ジャカルタ 帰国

    市内スーパーマーケットの調味料調査 マナド・タウンセンター内日本食店視察 マナド~ジャカルタ移動(原) ジャカルタ~成田移動(石黒)

    4月27日(水) マナド ジャカルタ 帰国

    市内スーパーマーケット等の調味料市場調査 マナド~ジャカルタ移動(黒澤) ジャカルタ~成田移動(原)

    4月28日(木) ビトゥン 帰国

    Tanjung Merah 社訪問 ジャカルタ~成田移動(黒澤)

    4月29日(金) ビトゥン ビトゥン市工業立地担当チーフと面談(針原)

    4月30日(土) マナド 市内食品店訪問調査

    5月1日(日) スラバヤ マナド~スラバヤ移動 スラバヤ市内食品市場調査

    5月2日(月) スラバヤ スラバヤ市内食品市場調査 スラバヤ~マナド移動

    5月3日(火) ビトゥン ビトゥン漁港調査 マナド市内食品調査

    5月4日(水) ビトゥン ビトゥン漁港調査、マナド市内食品調査

    5月5日(木) 北ミナハサ県 ビトゥン市周辺の漁港調査

    5月6日(金) 北ミナハサ県 ビトゥン市周辺の漁港調査

    5月7日(土) マナド マナド市内食品店調査

    5月8日(日) ジャカルタ マナド~ジャカルタ(移動)

    5月9日(月) ジャカルタ ジャカルタ市内食品および日本食品専門店パパイヤ視察 JICA インドネシア事務所訪問

    5月10日(火) 帰国 ジャカルタ~成田移動(針原)

  • 20

    第 2 回現地調査(2016 年 9 月 8 日~9 月 26 日) 調査団員:

    針原幸治朗 (9 月 8 日~9 月 26 日) 19 日間 黒澤靖彦 (9 月 8 日~9 月 19 日) 12 日間 原洋平 (9 月 8 日~9 月 19 日) 12 日間

    調査日程・調査内容:

    調査月日 調査地 調査内容

    9月 8日(木) ジャカルタ 成田~ジャカルタ移動

    9月 9日(金) ジャカルタ

    JICA インドネシア事務所 JETRO ジャカルタ事務所 インターコンチネンタルホテル村田氏

    9月10日(土) マナド ジャカルタ~マナド移動

    9月11日(日) マナド マナド市内調味料調査、日本食店視察

    9月12日(月) マナド

    マナド・タウンセンター、メガモール等大型ショッピングセンターの調味料調査

    9月13日(火) ビトゥン 北 ミ ナ ハ サ 県 ケマ

    Tanjung Merah 社訪問、打合せ ビトゥン漁港 ケマ漁港の魚種・漁獲量・魚価調査 ビトゥン漁港捕獲魚成分分析

    9月14日(水) マカッサル ミナハサ県 トンダノ

    マナド~マカッサル移動 BAPPEDA 派遣 JICA 専門家奥山氏訪問(針原、黒澤) マナド国立大学日本語学科訪問 学生と調味料嗜好調査の打合せ(原)

    9月15日(木) マナド

    マカッサル~マナド移動(針原、黒澤) マナド・タウンセンター内日本食店(原)

    9月16日(金) ビトゥン ミナハサ県 トンダノ

    ビトゥン市第 1 アシスタントと面談(針原) マナド国立大学日本語学科訪問 調味料嗜好調査学生アンケートの実施(原、黒澤) Tanjung Merah 社で魚種別成分分析実施(原、黒澤)

    9月17日(土) マナド

    UD.TRIKORA 社(マナド食品製造企業)Yulinda 氏面談(針原) マナド国立大学日本語学科 Franky Najoan 教授と面談 学生によるアンケート調査を依頼(原、黒澤)

    9月18日(日) ビトゥン ジャカルタ

    ビトゥン漁港捕獲魚成分分析(針原) マナド~ジャカルタ移動(原、黒澤)

    9月19日(月) マナド 帰国

    北スラウェシ州庁舎(マナド)で北スラウェシ州経済

    担当第 2 アシスタント Sanny 氏、ビィトン市第 1 ア

    シスタント Hermanus 氏面談と面談(針原) ジャカルタ~成田移動(原、黒澤)

    9月20日(火) ビトゥン ビィトン港、Tanjung Merah 社(提携企業)で捕獲魚成

    分分析(針原)

    9月21日(水) マナド

    UD.TRIKORA 社(マナドの食品製造企業)の工場視

    察及びマナド市場調査 UD.TRIKORA 社長他 同行

    (針原)

  • 21

    調査月日 調査地 調査内容

    9月22日(木) マナド近郊 マナド市近郊のス-パ-・マ-ケットで日本食品調査

    (針原)

    9月23日(金) 北ミナハサ県

    ミナハサ県

    ミナハサ県、北ミナハサ県近郊ス-パ-・マ-ケット

    の視察 UD.TRIKORA 社 Yulinda 工場長、社長 同行

    (針原)

    9月24日(土) ビトゥン

    北ミナハサ県

    ビィトン港、Tanjung Merah 社(提携企業)、Kema 港

    で捕獲魚の成分分析

    ビィトンカツオ節製造工場視察(針原)

    9月25日(日) ジャカルタ マナド~ジャカルタ移動(針原)

    9月26日(月) 帰国 ジャカルタ~成田移動(針原)

  • 22

    第 1 章 事業概要

    1-1 事業実施体制 1-1-1 法人設立形態

    かね七株式会社(本社 富山県富山市)と CV.SIJ Tanjung Merah 社(北スラウェシ州ビトゥン市)との合弁で現地法人(株式会社)をビトゥン市の経済特区(SEZ)に設立する。

    出資金額は現時点で総額 25 億ルピア(約 2,000 万円)、出資比率はかね七株式会社70%、CV.SIJ Tanjung Merah 社 30%を予定している。

    1-1-2 用地、建物、機械設備 事業に必要な用地は CV.SIJ Tanjung Merah 社がビトゥン経済特区(SEZ)内に自社用

    地の拡張目的で購入する敷地内に設立法人が工場、倉庫、事務所等の建物を建設する。

    顆粒だし調味料の製造、包装に必要な機械設備一式は、かね七株式会社が日本で準備

    し、設立法人が日本から輸入する。また、操業 3 年目に予備として中古の流動層式造粒機 1 台をかね七株式会社が無償で提供する。

    1-1-3 関係各社の業務分担 表 1.1 関係各社の業務分担

    会社名 業務分担 社内体制

    設立現地法人 工場、倉庫、事務所の建設

    顆粒だし調味料の製造

    顆粒だし調味料の包装

    製品の出荷

    初年度:管理者1名、管理者補佐 1 名、 営業 2 名、従業員 12 名(計 16 名)

    2 年度:同上 3 年度:管理者 1 名、管理者補佐 1 名、

    営業 2 名、従業員 14 名(計 18 名) 4 年度:同上 5 年度:同上

    かね七株式会社 工場建設資金の貸付

    製造・包装機器の提供

    (有償)

    製造技術の指導

    設立現地法人に駐在員派遣(管理者、技術

    指導)

    3 年度目に中古の流動層式造粒機 1 台を無

    償提供

    CV.SIJ Tanjung

    Merah 社

    用地拡張

    工場、倉庫、事務所等の建

    原材料(カツオ荒節)の供給

    (製造、買い付け)

    出荷配送の協力

    工場、倉庫、事務所建設用地の貸与

    出荷配送人員の提供

    (出所:JICA 調査団作成)

  • 24

    建物は 1,600 ㎡程度の工場・倉庫、簡易事務所を建設することとし、建設費単価を 750万ルピア/㎡(約 60,000 円)とすると 120 億ルピア(約 9,600 万円)の投資となる。調達原資はかね七株式会社からの短期借入金とする予定である。

    流動層式造粒機、粉砕機、振動振るい機等の製造機器類および自動包装機一式、総額

    11,170 万円(約 140 億ルピア)はかね七株式会社を通じて日本から購入する。調達原資はかね七株式会社からの短期借入金とする。3 年目にかね七(株)本社が社内にある中古の造粒機 1 台を無償で提供する。設備投資総額は 20,770 万円(約 260 億ルピア)となる。 機器類及び建物の減価償却は、進出予定地域がマナド・ビトゥン「経済発展統合地域

    (KAPET)」の域内にあるため、機器類は定額法による 4 年間の償却、建物は定額法による 10 年間の償却とする。

    表 1.2 設備投資計画

    (出所:JICA 調査団作成)

    1-5 生産・販売計画 1-5-1 予定販売量

    販売予定の商品は、日本と同様に「顆粒かつおだし調味料」4g スティック(実包 4.5g)

    ×12 本=1 袋(48g)単位の小口家庭用向け商品と 500g ガゼット袋(gusset、マチ付き

    袋)入りの業務用商品(国内では 500g×2 袋入りで販売)の 2 商品を想定する。

    製品は流動層式造粒機(月間最大生産量 7 トン/月)の生産量から、在庫分を含む初

    年度年間総生産量を 75,000kg と想定し、在庫分を除く 60,000kg を初年度の予定販売量

    とする。2 商品の予定販売量はそれぞれ 50%ずつとし、4g スティック×12 本入り約 55

    万 5 千袋、500g ガゼット 6 万袋が初年度の販売量となる。同様に 5 年目は予定販売総

    (単位:円)

    1年目 2年目 3年目 4年目 5年目

    建物 96,000,000 0 0 0 0

    粉砕機 (カツオ荒節を粉末にするもの) 5,000,000フローコーター FLO120型 (予備カートリッジ3台含)

    44,500,000 0 0 0 0

    反転機 13,000,000 0 0 0 0

    集塵機 3,000,000 0 0 0 0

    粉砕機 (規格外顆粒粉砕するもの) 6,100,000 0 0 0 0

    ふるい掛機 1,700,000 0 0 0 0

    ボイラー 1,000,000 0 0 0 0

    コンプレッサー 2,400,000 0 0 0 0

    スティック自動充填包装機(4g包装用) 30,000,000 0 0 0 0

    ガゼット自動充填包装機(500g包装用) 5,000,000

    合計 207,700,000 0 0 0 0

  • 25

    量 120,000kg (4g スティック 111 万袋、ガセット約 12 万袋)の販売を予定している。

    1-5-2 商品別予定単価 かつおだし調味料は家庭用向けの 4g スティック 1 本で 650 ルピア(約 5.2 円)、12 本

    入り1袋 7,800 ルピア(約 62.4 円)の販売価格を想定している。業務用は 500g 入り 1 袋

    70,000 ルピア(約 560 円)である。

    競合商品となりうる Ajinomoto Indonesia の Masako(鶏味)は 11g 入りパックで 600 ル

    ピア(4.8 円)、11g パック×6 袋で 3,000~3,500 ルピア(24~28 円)で販売されており、

    ユニリーバの Royco も同じく 11g 入りパック×6 袋で 2,300 ルピア(約 18 円)とさらに安

    価で販売されている。両者と比べると 1 袋売りでグラム当たりの価格で約 3 倍から 3.6

    倍の開きがある。

    1-5-3 予定販売額 操業開始から 5 年間の製品の販売額は表 1.2 に示す。4g スティック×12 本の小売り

    用商品と主に日本食レストラン等業務用に販売する 500g ガゼット商品はほぼ同額の売上額を想定する。

    表 1.3 予定販売額

    (出所:JICA 調査団作成)

    1-5-4 在庫量 現在かね七(株)の安全在庫量はコンテナー1 台分(15 トン)を基準に商品 3 ヶ月分を

    想定しており、本事業でも同等量を想定する。

    1-6 要員配置・育成計画 1-6-1 要員配置計画

    設立法人の管理者 1 名は、かね七(株)本社よりの出向者が駐在員としてその任に充

    たる。管理者補佐は、かね七(株)本社で研修を経験し、顆粒だし調味料の製造に経験

    を持つ現地の人材を充てる予定である。

    製造・包装工程に従事する従業員:14 名(うち 2 名は 3 年目から採用)および営業担当者:2 名は現地採用する。

    (単位:円)

    商品名 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目4gスティック×12本 34,632,000 41,558,400 48,484,800 58,905,600 69,326,400500gガゼット 33,600,000 40,320,000 47,040,000 57,120,000 67,200,000合計 68,232,000 81,878,400 95,524,800 116,025,600 136,526,400

  • 26

    1-6-2 人材育成計画 管理者については、事前にかね七(株)本社にて事業全般の管理方法、現地の商習慣、

    製品・製造工程への理解はもとよりインドネシアの文化への理解、工場建設地である

    北スラウェシ州地域の習慣や現地雇用者への接し方などについて充分な研修を行う。

    管理者補佐についても、本事業会社の経営方針、取り扱う製品・製造工程への理解、

    工場管理(マニュアル作成、品質管理)などの研修をかね七(株)本社で集中的に行う。

    従業員、営業担当者については採用後に管理者および補佐が取り扱う製品・製造工

    程への理解などの研修、現場実習などをかね七(株)本社で集中的に実施する。なお必要

    に応じてかね七(株)本社から講師を派遣する。

    1-7 製造原価 本事業で生産する顆粒だし調味料の製造原価は売上価格の 52%になる。製造原価に含

    まれる項目は、直接製造にかかわる原材料費、包装材料費(在庫分を含む)、賃金、そ

    の他の労務費、電力費、水道料、修繕費である。

    1-8 財務分析 1-8-1 収支計画

    減価償却費をマナド・ビトゥン「経済発展統合地域(KAPET)」の優遇措置を受けて建物:10 年の定額償却、生産設備を 4 年の定額償却とした場合、単年度黒字となるのは 4 年目となる。累積赤字は 6 年目で解消する。

    1-8-2 収益性分析 6 年目以降の営業利益を定額で推移すると仮定して期間 10 年間の内部収益率(IRR)

    を計算すると 11.2%となる。また、インドネシア中央銀行の政策金利(公定歩合)は直近で約 5%であることから割引率を 5%として正味現在価値(NPV)を計算すると77,543 千円となり、リスクの少ない投資案であると仮定すれば採算の取れる投資と判断される。しかし、投資リスクが 12%以上の利回りを要求する投資と判断すれば、本事業の採算は取れないこととなる。

  • 27

    第 2 章 事業の背景と目的

    2-1 かね七(株)の既存事業の概要 2-1-1 会社概要

    商号 かね七株式会社

    創業 明治 17 年

    設立 昭和 36 年 10 月

    資本金 4,500 万円(自己資本金 11 億円)

    従業員 140 名(男 55 名、女 85 名)

    事業内容 食料品製造(煮干、花かつお、鰹パック、味付海苔、カルシウム小魚、

    昆布巻、ほたるいか珍味、にぼし純だし、かつお純だし、風味調味料等)

    事業所

    富山本社・工場

    〒939-3521 富山県富山市水橋畠等 297 TEL/076-478-1111 FAX/076-479-1101 東京支店・札幌支店・仙台支店・名古屋支店・新潟営業所

    工場

    鉄筋コンクリート、鉄骨造、2 階建(一部 3 階建) 総建築面積延 13,488 平方メートル(4,080 坪) 敷地面積 33,065 平方メートル(10,000 坪)

    関連会社 大協薬品工業(株)、大協薬品(株)、水井食品(株)他

    関係会社 丸魚富山中央魚市(株)

    主要取引銀行 北陸銀行本店、富山第一銀行本店

  • 28

    2-1-2 沿革 明治 17 年 石黒商店・煮干の卸売業として創業 大正 7 年 石黒重次商店に商号変更、花かつお削りぶし発売 昭和 36 年 かね七海産株式会社に法人改組 昭和 37 年 味付海苔発売 昭和 38 年 本社工場を新築移転

    昭和 40 年 厚生大臣賞受賞(優良工場施設) 削りぶし、日本農林規格認定工場に指定

    昭和 42 年 仙台支店開設 昭和 48 年 農林大臣賞受賞(花かつお) 昭和 49 年 第 7 回全国加工海苔品評会で優秀賞受賞 昭和 52 年 カルシウム小魚発売、札幌支店開設 昭和 53 年 昆布巻・そうざい発売 昭和 54 年 ほたるいか珍味・黒づくり発売、東京支店新築 昭和 55 年 仙台支店新築 昭和 56 年 本社管理社屋建設

    昭和 59 年 創業 100 年を迎え、社名をかね七株式会社に変更 にぼし純だし発売

    昭和 60 年 かつお純だし発売 昭和 61 年 高温高圧調理殺菌機(レトルト殺菌機)導入 昭和 63 年 風味調味料にぼしだし・かつおだし発売 平成 元年 ドーム工場(花かつお、パック、海苔)新築 平成 2 年 フリーズ・ドライ(真空凍結乾燥)製品発売 平成 3 年 風味調味料、日本農林規格認定工場に指定

    平成 4 年 丸魚富山中央魚市(株)が関係会社になる 自動粉末乾燥冷却装置導入

    平成 5 年 煮干冷蔵庫新築(移動ラック式) 平成 6 年 煮干工場新築 平成 7 年 花かつお遠赤焼機、削り包装機導入 平成 8 年 煮干遠赤焼機導入 平成 9 年 健康食品、海草麺を発売 平成 10 年 エアーフロー式除塵選別機導入

    平成 12 年 HACCP(総合衛生管理)安全基準に対応した風味調味料工場新築 深層水使用製品発売

    平成 13 年 ISO9001「1994 版」認証取得 品質方針:『お客様に安全で信頼される商品づくりをする』

    平成 14 年 あさ漬の素、顆粒ドレッシング発売 平成 15 年 ISO9001「2000 版」認証取得 平成 20 年 昆布巻詰め合わせ「匠の伝承」発売

    平成 21 年 高温高圧調理殺菌機(レトルト殺菌機)更新 ISO9001「2008 版」認証取得

    平成 22 年 無添加純だし発売 エアーシャワー室増設

  • 29

    2-1-3 製造商品一覧

    商品カテゴリー 主な商品名

    花かつお、かつ

    おパック

    遠赤焙焼かつお厚削り 遠赤焼 かつおソフト削り 料亭仕込みソフトパック 遠赤焼 料亭仕込み花かつお のりかつお

    しっとりいわし 鰹パック K-5 華けずりこんぶ 花鰹糸がき 花鰹徳用花かつお

    あさ漬けの素 あさ漬けの素 レモン風味 あさ漬けの素 旨辛風味 あさ漬けの素 かつお風味

    あさ漬けの素 こんぶ風味 あさ漬けの素 キムチ風味

    削りぶしだしパ

    ック

    おもてなしの味 焼あごだしパック おもてなしの味 鰹だしパック おもてなしの味 焼あごだしパック おもてなしの味 こんぶだしパック まごころギフト

    黄金だし 30 袋入り 削り節徳用削りぶし 削り節いわし削り 焼きあご天然だしパック 味だしパック 料亭仕込み天然だしの素パック

    粉末 にぼし粉末 300g あわせ粉末 80g にぼし粉末 200g

    にぼし みそ汁にあうにぼし たべる小あじ だし煮干 たべる小魚 瀬戸内産白口にぼし 音戸にぼし 小桜えび(着色) 愛媛県産素干しえび 山口産たれ付き田作り

    遠赤外線焼煮干 あご煮干 うるめ煮干(無頭) 無加塩たべる小魚 氷見にぼし 瀬戸内産ちりめん 骨になる奴 いきいき煮干 創業だし煮干

    だし・お茶 風味調味料白えびだし 4g×8 本 風味調味料白えびだし 4g×25 本 緑茶 0.9g×5 本 焼あごだし 4g×10 本 かつおだし 4g×12 本 にぼしだし 4g×12 本 こんぶだし 4g×12 本 しいたけだし 4g×12 本 かつおだし 1kg にぼしだし 1kg こんぶだし 1kg こんぶ茶 3g×8 本 しいたけ茶 3g×8 本

    かつおだし 4g×50 本 にぼしだし 4g×50 本 こんぶだし 4g×50 本 海洋深層水配合かつおだし

    4g×12 本 海洋深層水配合にぼしだし

    4g×8 本 海洋深層水配合こんぶだし

    4g×12 本 無加塩かつお純だし 80g 無添加かつお純だし 4g×6 本 無添加にぼし純だし 4g×6 本 無添加こんぶ純だし 4g×6 本 うどんおでんだし 8g×8 本 うめ茶 3g×8 本

    ほたるいか ほたるいかのイタリアン風オイル漬け 白えびのスペイン風オイル漬け ほたるいか粕漬 ほたるいか生姜煮 ほたるいか黒作り

    ほたるいか沖漬 いか黒作り ほたるいか素干し 7 尾 ほたるいか黄金煮 白えび甘酢漬

  • 30

    ほたるいか塩辛

    ギフト 煮魚詰合せ 波の彩 波の宴

    雅の華 雅の華昆布巻 匠の伝承

    そうざい 海藻美人 かれい煮付 ぶり煮付

    赤魚煮付 にしん姿煮 棒たら甘露煮

    業務用商品 かつおだし 1kg、4g×50 本 にぼしだし 1kg、4g×50 本 こんぶだし 1kg、4g×50 本

    かつお削りぶし業務用 あさ漬の素かつお風味 4g×50 本 あさ漬の素こんぶ風味 4g×50 本

    珍味 甘えび入ゴマふりかけ 白えび入ゴマふりかけ 味付カルシウム小魚

    山海の彩 にしん昆布巻 さけ昆布巻 たらこ昆布巻 ぶり昆布巻 棒たら甘露煮 鯛の子風うま煮

    真だら甘露煮 にしん姿煮 にしん小巻 さけ小巻 黒豆ふくめ煮 栗甘露煮

    昆布巻き 手つくりにしん昆布巻 手つくりさけ昆布巻 昆布太郎にしん

    昆布太郎さけ ふるさと巻にしん ふるさと巻紅さけ

  • 31

    2-2 当事業発案・検討の背景と経緯 かね七株式会社の商品、市場環境が現在置かれている状況は以下のとおりである。

    2-2-1 魚介だし製品の変化 かね七(株)の前身石黒商店は煮干しの卸売業として創業し、以来煮干し、花かつお削

    り節など魚介だしの素となる食材を販売してきた。魚介風味のだしは、和食の素材の

    美味しさを引き出すために不可欠な、伝統的な基本調味食品として昔から親しまれて

    きた。しかしその商品形態は経済の高度成長期に大きく変化してきた。代表的製品で

    あるカツオだしの家庭での消費形態を見ると、カツオ枯節本体を削ってだしをとる伝

    統的な消費形態は現在ではほぼ消滅している。これに代わって削る手間を省いた削り

    節やだしパック製品が包装技術の革新と相まって 1970 年代から急速に成長した。その

    後は食の多様化、簡便化の進行とともに削り節の市場も停滞縮小し、代わって登場し

    たのが材料エキスを粉末化、造粒した顆粒状の風味調味料あるいは液体調味料である。

    かね七(株)もこのような時代の変化に対応して主力商品の煮干し、削り節からだしパ

    ック、顆粒風味調味料製品、さらには昆布巻きなどの惣菜製品を発売するなど製品の

    多角化を図ってきた。これらの商品も、利用の簡便性から一時は生産を伸ばしてきた

    が、さらなる食生活、調理法の変化や単価の低下などの影響で、2000 年代半ばからは

    だしパックや削り節の販売額が漸減する傾向となった。主力は風味調味料やつゆ・た

    れなどのより簡便なものに移っている。特に顆粒だし調味料は低価格であるため、イ

    ンスタントのだしの素として家庭料理用調味料あるいはインスタント麺のだしの素と

    して食の簡便化、個食化につれて普及した。

    2-2-2 厳しい魚介風味調味料の生産市場環境 かね七(株)は製薬企業を関連会社に持つことなどから、薬品製造に使用される流動層

    式造粒装置を利用した顆粒風(風味調味料)の独自の生産ラインを備えており、栄養、う

    まみ、風味を効率よく体に取り入れられる顆粒スティックタイプの商品シリーズを販

    売しており、風味調味料の生産には独自のノウハウを持っている。

    国内における風味調味料の市場規模は業界誌などによって大きく異なるといわれて

    いるが、「酒類食品統計年報」(日刊経済通信社)によれば 1990 年代前半に 900 億円程

    度まで成長したがその後急落し近年は 600 億円程度と推計している。

    風味調味料の生産企業を見ると「ほんだし」を主力製品に持つ最大手の味の素が 60%

    弱のシェアを持ち上位大手 5 社で 90%以上のシェアを占める寡占状態にある。このよ

    うな大きな成長の期待できない市場環境の下で中小企業が業績を伸ばしていくことは

    容易ではない。

  • 32

    2-2-3 カツオ節価格の上昇 生のカツオからカツオ節の生産までをおこなういわゆる一次加工メーカーは、かね

    七(株)のような二次加工メーカーとは完全に分業しており。国内では鹿児島県の枕崎

    市、山川町(指宿市)と静岡県の焼津市にほとんどが集中している。かね七(株)も国内

    産の原料はこれらのカツオ節製造業者から入手している。一方、カツオ節の輸入も増

    加しており、最近ではフィリピン、インドネシアが主な輸入先である。風味調味料用

    にはカツオ以外の節類も輸入されており、こちらも主な輸入先はインドネシア、フィ

    リピン、中国である。かね七(株)もカツオ節商社を通じてこれらの節類を購入してい

    る。

    原料となるカツオは資源の枯渇、資源保有国の漁獲規制、国際的な缶詰需要の増加

    などから価格が上昇し、2013 年には大幅な仕入れ価格の上昇と原材料不足となり関連

    製造企業の経営に圧迫を与えている。だし調味料製造企業もこのような市場環境から

    売上高が伸び悩んでおり、国内では現在の商品と流通ルートでの更なる販路拡大は難

    しくなっている。

    2-3 当事業の目的と必要性

    2-3-1 新たな消費市場の開拓 かね七(株)のだし調味料は近年、海外での需要が急速に増加している。最近 5 か年の

    売り上げでは国内の売り上げが横ばい傾向なのに対して、海外の売り上げは約 5 倍に

    急増している。おもな輸出先は米国、ベトナム、韓国、ミャンマー、オーストラリア、

    台湾などである(表 2.1)。

    表2.1 かね七株式会社のカツオ・煮干だし調味料売上高の推移

    (出所:JICA 調査団作成)

    このような海外での需要増加の要因の一つは近年の和食ブームにあると考えられる。

    日本の伝統的食文化である和食は、その多様な食材、栄養バランスに優れた健康的

    な食事の構成、自然の美しさや季節の表現などの特徴からユネスコの世界無形文化遺

    産に登録され、またミラノ万博で人気を博するなど海外で大きく注目されている。な

    かでも日本企業の進出が著しい東南アジア諸国では、日本料理店の普及などから一般

    家庭でも日本食が好まれるようになっている。

    日本貿易振興機構(JETRO)の「日本食品に対する海外消費者アンケート調査(2013 年

    (単位千円)2010年 2011年 2012年 2013年 2014年

    国内 73,372 72,243 71,242 77,658 77,962海外 6,208 7,646 4,912 13,458 34,237合計 79,580 79,889 76,154 91,116 112,199

  • 33

    12 月調査)」(表 2.2)によれば調査対象都市のうちジャカルタ(インドネシア)、バンコク

    (タイ)、ホーチミン(ベトナム)の東南アジア諸国 3 都市ではいずれも、最も好きな外国

    料理として日本料理をあげており日本料理の人気が突出している。また好きな理由と

    しては「味の良さ」と並んで「健康への配慮」があげられており、健康食としての人

    気も高い。このような日本料理への関心の高まりは今後も東南アジア諸国から日本へ

    の旅行者の増加、各国への日本の外食産業の進出などと合わせて日本食品の需要拡大

    に繋がっていくであろう。

    また、今後の東南アジア諸国の人口の増大や急速な経済成長により食品市場そのも

    のの著しい拡大も期待される。かね七(株)としても今後は拡大する東南アジアの市場に

    積極的に進出して業績の拡大を図るつもりである。

    表2.2 日本食品に対する海外消費者アンケート

    (出所:日本食品に愛する海外消費者アンケート調査(JETRO)に基づきJICA調査団作成)

    2-3-2 海外生産拠点の構築 海外進出のもう一つの目的は海外生産拠点の構築である。だし調味料の事業拡大の

    ための消費市場も原料となるカツオも共に東南アジアにあるとすれば、もはや生産拠

    点を日本国内に置く必要性は見られない。これまでは販売実績やコスト削減の観点か

    ら人件費の安いベトナムや流通の拠点となるタイなどへ生産拠点を構築することを検

    討してきたが、今後は世界的なカツオ漁場を周辺海域に抱え、その巨大な人口から将

    来の消費市場としても大きな需要を見込めるインドネシアが最初の生産拠点を置くの

    に相応しいと考えている。

    (単位:%)

    好きな外国料理 ジャカルタ バンコク ホーチミン 日本料理が好きな理由 ジャカルタ バンコク ホーチミン

    日本料理 50.4 66.6 37.8 味の良さ 30.6 40.5 24.9イタリア料理 4.6 2.0 7.2 健康に配慮 22.2 28.5 25.4中国料理 22.0 12.8 23.4 美容に配慮 7.9 1.8 5.8韓国料理 7.0 6.8 13.8 安全性が高いから 7.9 5.1 10.6インド料理 0.6 0.4 0.6 洗練されている・高級感 7.9 10.5 14.8アメリカ料理 2.6 3.4 3.6 流行している 4.4 5.1 2.1フランス料理 0.8 2.6 7.0 身近にある 4.8 1.5 3.7タイ料理 2.2 - 4.4 経済的・リーズナブルな価格 3.2 1.2 2.1中東・アラブ料理 4.4 0.2 0.4 その国が好き 7.1 5.4 8.5メキシコ料理 0.2 0.2 - 宗教倫理に適合している 4.0 0.3 2.1スペイン料理 0.2 - 0.2 その他 0.0 0.0 0.0

    ベトナム料理 1.8 2.4 -アフリカ料理 0.2 0.6 -ロシア料理 - - 0.2インドネシア料理 - 0.4 -ブラジル料理 - 0.2 -その他 3.0 1.4 1.4

  • 34

    2-4 当事業における本調査の位置づけと調査の実施概要 2-4-1 調査の位置づけ

    かね七(株)は中小企業であるため、海外進出の調査に充てる人材が少なく外部のコン

    サルタントを活用できる本 JICA 基礎調査が必要となった。本調査で期待した公的、財

    政的支援は以下の通りである。

    (1) インドネシア国においては現地法人の設立および工場立地の要件について複雑な許認可条件が課せられると聞いており、各種許認可をクリアするための情報と調査

    支援が必要であった。 (2) 進出予定地域はマナド・ビトゥン経済統合開発地域などの外資企業の投資に対する

    各種優遇措置が受けられる地域に指定されていること、またビトゥン経済特区(SEZ)

    の計画があることから北スラウェシ州政府、ビトゥン市などとの接触に当たり調査

    支援が受けられると考えた。

    (3) 最近インドネシアの漁業政策では外国船の乱獲から水産資源を保護するため、遠洋漁業に対する非常に厳しい規制がなされており、今後の規制の動向について調査支

    援を期待した。

    (4) だし調味料に関しては国・地域によって食習慣や味覚の好みの違いがあることが予想される。インドネシア国内の一般市場調査だけでなく、直接消費者の味覚嗜好を

    確かめるためマナド国立大学と提携してアンケート調査を行う必要があった。 (5) 製品の安定的出荷量と品質水準を維持するため原料魚の漁獲量および含有脂肪分

    の季節変動調査を行う必要があった。 (6) 製品の販路については、近年のインドネシア国の著しい経済発展を反映して変化が

    激しいため、最新の情報で販売ルートの調査を行う必要があった。

    2-4-2 調査の実施概要 現地調査は、第 1 回調査:2016 年 4 月 19 日~5 月 10 日および第 2 回調査:2016 年

    9 月 8 日~9 月 26 日の 2 回に分けて行われた。それぞれの現地調査の実施概要は以下

    の通りである。

  • 35

    (1) 第 1 回現地調査実施概要 調査項目 調査結果

    工場立地の適地選

    優遇措置の適用

    ビトゥン市副市長との面談で工場立地への協力を確認。

    ビトゥン市工業立地担当者との面談で経済特区内への進出を推奨

    される。

    漁業規制の影響

    原料魚の漁獲量、

    魚価調査

    漁業規制により調査期間中はカツオの水揚げがなくカツオ節サプラ

    イヤーも操業停止中のため調査ができなかった。

    代替原料魚種として周辺漁港のソウダガツオ、ムロアジの漁獲量を

    確認。

    漁業者ヒアリングによる情報収集。

    だし調味料消費者

    嗜好調査

    マナド国立大学日本語学科に学生アンケート調査を依頼。

    市場調査、販売ル

    ート調査

    ジャカルタ、マナド、スラバヤで類似製品の販売状況、価格を調査。

    流通関係者、日本食品店、外食レストランをヒアリング。

    (2) 第 2 回現地調査実施概要

    調査項目 調査結果

    工場適地選定 北スラウェシ州経済担当アシスタントおよびビトゥン市第 1 アシスタントとの面談により経済特区内の適地推薦を受ける。

    原料魚調査 ビトゥン市より最新の漁獲量データ入手。

    捕獲魚の魚種別脂肪成分調査。

    漁港別廃棄魚種、廃棄量の調査。

    ビトゥンのカツオ節製造業者の視察、ヒアリング。

    だし調味料消費者嗜好

    調査

    前任担当者と連絡が取れなくなったため、再度マナド国立大学

    日本語学科で学生対象の嗜好アンケート調査を実施および学

    生による周辺消費者へのアンケート調査依頼。

    市場調査、販売ルート

    調査

    マナドの食品企業より販売ルートの紹介を受ける。

    北スラウェシ州各地のスーパーマーケット市場調査(ヒアリング)

    その他 南スラウェシ州マカッサルに BAPPEDA 派遣 JICA 専門を訪問、情報収集を行う。

  • 36

    第 3 章 事業対象地域・分野が抱える開発課題の現状

    3-1 開発課題の概要 インドネシア国は世界第 3 位の排他的経済水域を有する水産資源大国であり、海面漁

    業生産量も 3 位(2013 年)と常に世界の上位を占める漁業大国である。またインドネシア国は水産物輸出国でもある。しかし水産加工技術や設備が不十分であるため、大部分が

    生鮮品、低加工品として消費あるいは加工品の原材料として輸出されており、豊富な水

    産資源量と比較して国内の水産物の消費量が少ない。そのため消費量全体を増加させる

    ためには、市場で受け入れられる多様な水産加工製品を製造販売する技術と市場ニーズ

    把握の情報整備が不可欠となっている。また、国際水産物市場においても同様な理由で

    他国に高付加価値製品加工の地位を奪われ、外貨獲得の機会を逃している。

    表 3.1 各国の排他的経済水域面積と海面漁業生産量割合

    (出所:水産白書(水産庁, 2012)に基づきJICA調査団作成)

    かね七(株)が進出を想定しているインドネシア国東部地域は、海洋資源に恵まれ漁業

    が最も盛んな地域であるが、流通インフラの未整備や加工業など開発が遅れた地域でも

    あり、北スラウェシ州の一人当たりGDPはインドネシア平均の80%程度と低い地域である。沿岸漁村地域には多くの漁業者や水産加工業者が存在しているがほとんどが零細事

    業者であり、市場ニーズに応じた製品加工や販売を行なうことができず、豊富な資源を

    有する水産業が必ずしも漁業者や地元住民の生活向上に寄与できていないのが現状で

    ある。

    国名領海+排他的経済

    水域面積

    国土(内水面を

    含む)面積順位

    世界の海面漁業生産量に占

    める割合(順位)2011年

    1位 米国 762万k㎡ 3位 6.2%(4位)

    2位 オーストラリア 701万k㎡ 6位 0.2%(57位)

    3位 インドネシア 541万k㎡ 15位 6.4%(3位)

    4位 ニュージーランド 483万k㎡ 76位 0.5%(31位)

    5位 カナダ 470万k㎡ 2位 1.0%(21位)

    6位 日本 447万k㎡ 62位 4.6%(6位)

  • 37

    表3.2 インドネシア国州別指標

    (出所:Statisical of Yearbook Indonesia (Badan Pisat Starjstik, 2015-2016)に基づきJICA調査団作成)

    このような現状を踏まえインドネシア国政府は「国家中期開発計画」(2015-2019)で今後優先開発すべき産業分野の1つとして「海洋産業」を、また地域格差解消の重点地域として東部地域を挙げている。また、海洋水産省は前の中期計画(2010-2014)を受けて政策目標を定め、次の6つの施策分野を通じてその実現を図ろうとしている。

    ①水産業を核とした地域開発(ミナポリタン開発計画)、②水産分野の起業家育成、③

    水産関係者のネットワーク形成、④持続可能な水産管理技術の向上、⑤貧困漁業者支援、

    ⑥住民組織強化である。

    ミナポリタン開発計画では資源利用の効率性を改善するため、生産施設と生産工程、

    加工と流通、環境管理の必要性の3つを統合させ、1つのシステムとして確立することを目指している。その具体策の1つとして、本事業の対象地域である北スラウェシ州においてコールド・チェーン・システム、加工センター、水産クラスター整備などの加工・

    流通関連分野の施設整備される計画で、本事業に連動・整合するものと位置づけられる。

    また、PPS(遠洋漁業に対応可能な大型漁港)に位置づけされるビトゥン漁港も25の外環

    Province

    thousand %thousandrupiahs

    Rank thousandPercentage ofPoor People

    MarineFisheries

    % ton %

    Aceh 4,906.8 1.95 26,585.01 26 837.42 16.98 17,758 2.76 157,944 2.62Sumatera Utara 13,766.9 5.46 38,045.85 13 1,360.60 9.85 43,085 6.70 484,313 8.02Sumatera Barat 5,131.9 2.04 32,549.44 19 354.74 6.89 12,185 1.89 214,734 3.56Riau 6,188.4 2.45 109,832.52 3 498.28 7.99 14,764 2.30 107,305 1.78Jambi 3,344.4 1.33 46,004.12 7 281.75 8.39 2,680 0.42 48,031 0.80Sumatera Selatan 7,941.5 3.15 38,834.86 11 1,085.80 13.62 7,358 1.14 48,186 0.80Bengkulu 1,844.8 0.73 24,520.48 28 316.50 17.09 7,487 1.16 60,705 1.01Lampung 8,026.2 3.18 28,781.83 23 1,143.94 14.21 7,757 1.21 157,968 2.62Kepulauan Bangka Belitung 1,343.9 0.53 41,960.45 8 67.23 4.97 17,304 2.69 203,285 3.37Kepulauan Riau 1,917.4 0.76 95,396.95 5 124.17 6.40 30,017 4.67 139,331 2.31DKI Jakarta 10,075.3 4.00 174,824.11 1 412.79 4.09 3,290 0.51 226,060 3.74Jawa Barat 46,029.6 18.25 30,110.13 22 4,238.96 9.18 18,231 2.83 206,156 3.41Jawa Tengah 33,522.7 13.29 27,613.04 25 4,561.82 13.58 22,545 3.51 242,072 4.01DI Yogyakarta 3,637.1 1.44 25,693.39 27 532.58 14.55 1,754 0.27 5,387 0.09Jawa Timur 38,610.2 15.31 39,903.87 9 4,748.42 12.28 59,513 9.25 385,878 6.39Banten 11,704.9 4.64 36,972.96 14 649.19 5.51 6,058 0.94 59,302 0.98Bali 4,104.9 1.63 38,112.66 12 195.96 4.76 15,654 2.43 116,910 1.94Nusa Tenggara Barat 4,773.8 1.89 17,228.76 33 816.62 17.05 24,791 3.85 227,084 3.76Nusa Tenggara Timur 5,036.9 2.00 13,620.02 34 991.88 19.60 27,135 4.22 111,415 1.85Kalimantan Barat 4,716.1 1.87 27,975.16 24 381.91 8.07 13,890 2.16 165,622 2.74Kalimantan Tengah 2,439.9 0.97 36,834.82 15 148.82 6.07 6,439 1.00 66,384 1.10Kalimantan Selata 3,922.8 1.56 33,545.74 18 189.49 4.81 9,166 1.43 178,916 2.96Kalimantan Timur 3,351.4 1.33 145,859.68 2 252.68 6.31 28,176 4.38 111,199 1.84Kalimantan Utara 1 618.2 0.25 4

    Sulawesi Utara 2,386.6 0.95 33,781.40 17 197.56 8.26 19,500 3.03 295,204 4.89

    Sulawesi Tengah 2,831.3 1.12 31,878.01 21 387.06 13.61 50,855 7.91 263,887 4.37Sulawesi Selatan 8,432.2 3.34 35,592.79 16 806.35 9.54 36,642 5.70 287,897 4.77Sulawesi Tenggara 2,448.1 0.97 32,115.11 20 314.09 12.77 27,119 4.22 150,588 2.49Gorontalo 1,115.6 0.44 22,589.06 30 195.10 17.41 7,985 1.24 102,534 1.70Sulawesi Barat 1,258.1 0.50 23,362.01 29 154.69 12.05 12,088 1.88 46,717 0.77Maluku 1,657.4 0.66 19,146.36 32 307.02 18.44 51,947 8.08 538,121 8.91Maluku Utara 1,138.7 0.45 21,124.26 31 84.79 7.41 3,077 0.48 218,097 3.61Papua Barat 849.8 0.34 68,586.11 6 225.46 26.26 13,646 2.12 119,984 1.99Papua 3,091.0 1.23 39,850.48 10 864.11 27.80 23,209 3.61 290,438 4.81

    Indonesia 252,164.8 100.00 42,432.08 27,727.78 10.96 643,105 100.00 6,037,654 100.00

    PopulationPer Capita Gross Regional

    Domestic ProductPoor People

    Number of FishCapture

    Production of FishCapture

  • 38

    漁港の1つとして水産分野の基盤施設が重点的に整備される計画であり、水産資源の付加価値産業化、新規小規模産業の設立による雇用の創出、農漁村地域の生計の向上など、

    水産業を核とした地域開発を目指す本事業とも整合する。

    3-2 現地機関、海外機関による支援や事業の状況と残された課題

    (1) 北スラウェシ州への援助案件 インドネシア国で展開されている日本国の水産関係の援助案件は多国間協力を除く

    と2014年度終了の「水産政策アドバイザー」の派遣のみであるが、過去には「水産加工中小企業技術支援」、「水産物の持続的競争力強化」、「持続的沿岸漁業振興」の

    技術協力プロジェクトがある。

    また、東部インドネシア地域の開発格差解消を地方分権化の下で進めるための支援

    事業である「スラウェシ地域開発能力向上プロジェクト」が北スラウェシ州を含むス

    ラウェシ6州で2007年~2010年から始まり現在も継続している。北スラウェシ州では「国家防災庁及び地方防災局の災害対応能力強化プロジェクト」(2011~2015年)などの援助もある。

    古くは有償資金協力事業として「クバン港・ビトゥン港開発事業」(1996年)などもあったが、近年インフラ整備援助はジャワ島に集中している。

    今後、インドネシア国が計画している「外環漁港整備」の開発援助や「ビトゥン経

    済特別地域(SEZ)」への企業誘致協力の可能性もある。

    (2) 残された課題

    本事業は基本的に水産物加工業の現地工場進出であり、事業活動を通じて海洋産業

    振興が目標とする「水産分野の起業家育成」、「水産関係者のネットワーク形成」、

    「持続可能な水産管理技術の向上」等についてはある程度の寄与が可能である。しか

    しながら、工場操業の初期の段階では主要な原料となるカツオ節は提携企業あるいは

    地元カツオ節製造業者からの購入を想定しているため、その原料となるカツオは安定

    供給を確保するため大手漁業者から仕入れざるを得ず、必ずしも地元漁業者を直接潤

    すわけではない。

    また、ミナポリタン開発計画では「水産資源利用の効率性を改善するため、生産施

    設と生産工程、加工と流通、環境管理の必要性を統合させ、1つのシステムとして確立する。」としているが、本事業の現段階の製造工程では水産資源の効率利用は必ずし

    も完全に機能しているわけではない。

    3-3 残された課題に対する当事業の位置付け ミナポリタン開発計画が目指す水産業を核とした本格的な地域開発を進めるために

    は、本事業も次の段階で以下の 2 つの課題を追及していく必要があろう。

  • 39

    ① かね七(株)と地元漁業者の組織化を図り、地元漁業者から優先的に生魚を確保する

    手立てを考える。必要とあれば原料魚保管のための冷凍施設増設も考慮する。

    ② 水産資源の効率利用を進めるために、生産規模が月間 20 トンを超えた段階で、提

    携企業と共にこれまで廃棄していた煮熟液、骨などの利用が可能となる設備投資を

    行い、カツオエキス、骨粉カルシウムの利用や販売も考慮する。また、廃棄せざる

    を得ない部位(内蔵、頭など)については肥料化を図るなど全体としての資源利用

    効率を高める。

  • 40

    第 4 章 投資環境・事業環境の概要

    4-1 外国投資全般に関する各種政策及び法制度 当事業が進出を目指しているインドネシア国は外国投資、貿易に対して自国産業の保

    護政策をとっており、外国企業の参入ハードルの高い国である。現在、外国企業がイン

    ドネシア国内で投資・事業活動を行うことは、基本的に「投資法」(2007 年制定)で規定

    されている。「投資法」では外国企業にも原則として全ての事業分野で国内企業と同等

    の待遇が与えられることになっているが、実際は国益優先の観点からネガティブリスト

    と呼ばれる大統領令によって外資には閉鎖あるいは条件付きでしか解放されていない

    事業分野がある。

    これらの事業分野は自国の産業保護の観点から農林業、水産業、資源エネルギー産業、

    流通業の分野に多く、工業分野では、危険物、アルコール関連と一部の農産加工、水産

    加工事業を除けば、製造業はほぼ外資 100%での進出が可能である。ネガティブリスト

    は「投資法」発効後も 4 次にわたり改定されており、規制の緩和は進んでいる。最新版

    は 2016 年 5 月改定の「大統領令第 44 号」である。

    外国企業の進出形態は、駐在員事務所か現地法人(株式会社)のいずれかであり、支

    店での進出は認められていない。現地法人の設立については「会社法」(2007 年制定)

    で定められている。

    また、「投資法」では企業設立の便を図るため、ワンドア統合サービスとして各主管

    官庁から受ける許認可を投資調整庁などの権限移譲を受けた組織/機関を通して受ける

    ことが義務付けられている。

    以下に関連法制度の詳細を述べる。

    4-1-1 投資法(2007 年制定)

    インドネシア国内で事業を行うための投資活動は 2007 年制定の「投資に関するイン

    ドネシア共和国法律 2007 年 25 号」(以下「投資法」)で基本的に規定されている。そ

    の主な内容、特徴は以下のとおりである。(原文翻訳出所:ジャカルタ・ジャパンクラ

    ブ JJC)

    (1) 投資に関する統一法(内外無差別の原則)

    投資法は従前の外国投資法(67 年制定)、内国投資法(68 年制定)及びそれぞれの

    改正法(70 年制定)を一本化した投資に関する初の統一法として内外無差別の原則が

    採用され、インドネシアで投資活動を行う投資家全てに対し国内、国外を問わず同等

    の待遇が与えられることになった。(第 6 条)

  • 41

    (2) 全ての産業分野の投資に対する有効性

    この法律の規定は原則として、全ての産業分野への投資に対して有効としているが、

    「国益に留意しつつ」という条件が付いており、外資には閉鎖または条件付きで解放

    される事業分野がある。これらの事業分野は後述するネガティブリストと呼ばれる大

    統領令により別途定められている。また他の個別法での投資に係る規定との矛盾をな

    くすため、投資に直接関連するすべての法規は本法に基づき、その規定を整合する義

    務があるとしている。(第 2 条、第 4 条、第 12 条、第 13 条)

    (3) 事業体の形態

    国内投資は法規に基づき法人形態、非法人形態または個人事業のいずれの形態でも投

    資できるが、外国投資は法律で別途規定がある場合を除き、国内法に基づく有限責任会

    社の形態により、国内に所在することが義務付けられている。(第 5 条)

    (4) 送金の自由

    投資家は資本、利益、銀行での金利、配当金、その他の収入、原材料・資材購入資

    金、追加投資・債務支払い資金、ロイヤリティー、技術サポートに対する支払い、知

    的財産権に対する支払い、投資会社で働く外国人の個人収入等を外貨で送金する権利

    が明記されている。(第 8 条)