プロジェクト 一村一品プロジェクトが 年度から開始へ ·...

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日本の約7倍、南北に数千キロに及ぶ広大な国土 を有するアルゼンチンは一定の独立性を有する 23州から構成される連邦制の国です。各州は異 なる気候区分に属し、独自の自然環境、植生、固 有の文化、風土を有しています。このような多様 性を大事にしながら、地域固有のアイデンティテ ィを活かした地域開発を進めることが期待されて います。 昨年来、アルゼンチン側から日本の一村一品運 動(OVOP;One Village, One Product)手法を用 いた地域開発支援への要請があり、アルゼンチ ン関係機関・関係者との協議・ワークショップ ニュースレターJICA ARGENTINA #153 一村一品プロジェクトが 2019 年度から開始へ プロジェクト を経て、日本政府に正式支援要請がなされまし た。本年5月、河野外務大臣がアルゼンチンを訪 問した際にプロジェクトの採択・実施が発表さ れました。 これを受け、8月末から9月初めにかけて、日本 からプロジェクト詳細設計調査団がアルゼンチ ンを訪問し、社会開発省他との協議を経て、新 たな技術協力プロジェクト「アルゼンチンOVOP のコンセプトに沿った市場志向型インクルーシ ブバリューチェーンの構築」を2019年度から開 始することについて合意し、ミニッツ文書に署 名しました。

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Page 1: プロジェクト 一村一品プロジェクトが 年度から開始へ · 先の調査団はブエノスアイレスおよびサルタ州 内を訪問し、多くの関係者との協議、意見交換を

日本の約7倍、南北に数千キロに及ぶ広大な国土

を有するアルゼンチンは一定の独立性を有する

23州から構成される連邦制の国です。各州は異

なる気候区分に属し、独自の自然環境、植生、固

有の文化、風土を有しています。このような多様

性を大事にしながら、地域固有のアイデンティテ

ィを活かした地域開発を進めることが期待されて

います。

昨年来、アルゼンチン側から日本の一村一品運

動(OVOP;One Village, One Product)手法を用

いた地域開発支援への要請があり、アルゼンチ

ン関係機関・関係者との協議・ワークショップ

ニュースレターJICA ARGENTINA #153

一村一品プロジェクトが2019年度から開始へ

プロジェクト

を経て、日本政府に正式支援要請がなされまし

た。本年5月、河野外務大臣がアルゼンチンを訪

問した際にプロジェクトの採択・実施が発表さ

れました。

これを受け、8月末から9月初めにかけて、日本

からプロジェクト詳細設計調査団がアルゼンチ

ンを訪問し、社会開発省他との協議を経て、新

たな技術協力プロジェクト「アルゼンチンOVOP

のコンセプトに沿った市場志向型インクルーシ

ブバリューチェーンの構築」を2019年度から開

始することについて合意し、ミニッツ文書に署

名しました。

Page 2: プロジェクト 一村一品プロジェクトが 年度から開始へ · 先の調査団はブエノスアイレスおよびサルタ州 内を訪問し、多くの関係者との協議、意見交換を

一村一品運動(OVOP)とは、1970年代から大分

県の当時平松知事が提唱した住民参加型の地域

開発運動です。住民・生産者が地元の産品・特

徴を生かしながら、ブランドなど付加価値をつ

け、市場で売れる商品・サービスを開発してい

くことで、ヒット商品を生み出しつつ、コミュ

ニティの活性化を目指すものです。

JICAではこの一村一品運動の手法を参考にしな

がら、アジア、アフリカ等で、「OVOPプロジェ

クト」を実施し、成果を上げてきています。

JICAは世界中での経験を活かし、アルゼンチンら

しいOVOPプロジェクトを目指しています。

先の調査団はブエノスアイレスおよびサルタ州

内を訪問し、多くの関係者との協議、意見交換を

行い、すでにある地域開発プログラムや地域特

産物支援プログラムの現状と課題、JICA支援の

方向性について議論を行いました。面談先は

22か所に及び、手工芸品、織物、農産品、

非木材森林資源などの地域特産品の生産グ

ループ、特にソーシャルエコノミーと呼

ばれる分野で、団結・協同・連帯とい

った考え方に基づき、社会・環境・伝

統的な価値観を遵守しながら、構成

員の生活の質の向上を目指す生産者

とそれを支援する政府機関・団体との意見交換

を行い、OVOPの考え方を活かした支援の必要性、

有効性を確認しました。

アルゼンチンでのOVOPプロジェクトのキーワー

ドとして、次の3点をあげることができます。

(1)補助金から自立的な生産活動支援へ

 ばらまき型の補助金的な位置づけの生産者支

援ではなく、起業家意識を持った生産者を育成

し、その自立的な生産活動を支援する。 

(2)市場のニーズ・期待に沿った売れる商品開

生産者の視点から見た生産強化・商品開発ではな

く、市場で求められているモノから逆算して売れ

る商品を考え、そのために必要な原料・材料の特

定、必要な加工、商品開発を行う。

(3)ブランドなどの付加価値を生み出すバリュ

ーチェーン

 生産者や生産地域が大事にしているイメージ、

価値観をブランドとして発信し、そのブランドに

込められたメッセージを体現するような商品を

開発することで、消費者への訴求力を高める。よ

り競争の厳しい市場で勝ち抜くために必要な付加

価値を積み重ね、バリューチェーンを充実させ、

魅力ある商品・サービスを市場に送り出す。

2019年春にアルゼンチンでの一村一品プロジ

ェクトを開始します。地域色豊かな個性的なヒ

ット商品がたくさん生まれることを期待してい

ます。

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トゥクマン州における中小企業カイゼン統合プログラム

の派遣を計画しています」と三田村達宏JICAアル

ゼンチン事務所長は挨拶しました。

JICAの帰国研修員のマキシミリアノ・マルティ

ネス・マルケス氏は「私たちは高い目標を掲げ、

具体的な計画を立てています。2021年までのプロ

ジェクトの期間、官民一体となり、トゥクマン州の

生産分野と教育分野でカイゼン理念を周知、普及さ

せたいと思っています。これにより(州内の)中

小企業の生産性及び競争力を高めると共に雇用創

出を図り、州内の社会経済成長へ直接的なインパ

クトを与える文化の変革を起こす基礎を作りたい

と思っています」と抱負を述べました。

カイゼンプロジェクト

ボランティア着任のお知らせ

香川県出身の髙松明子日系社会青年ボランティア

(職種 幼児教育)が7月10日着任し、日亜学院の

幼稚部において2年間の活動を開始しています。

髙松さんは、「日本で幼稚園教諭として15年働い

てきました。アルゼンチンの幼児教育においてこ

新ボランティア着任

プログラム発足イベント ハビエル・イバニェスINTI総裁、イサベル・アマテ・ペレス、トゥクマン教育省教育事業局長、フアン・ルイス・フェルナンデス トゥクマン生産開発大臣、三田村達宏JICAアルゼンチン事務所所長、

マキシミリアノ・マルティネス・マルケスJICA帰国研修員(現トゥクマン中小企業次官)

トゥクマン州政府は生産開発省及び教育省が連

携し、国立工業技術院(INTI)とJICAアルゼンチ

ン事務所の協力を得て、2018年から2021年まで 中

小企業へのカイゼンプロジェクトを実施します。

今回のプロジェクトは、2016年JICA課題別研修

「 中南米地域中小企業・地場産業活性化」 に参

加した帰国研修員のマキシミリアノ・マルティ

ネス・マルケス氏(現在、トゥクマン州の中小

企業次官)が研修で得た知識を活かして発案し

たものです。

本プログラムは小中高等学校及び大学の教育機

関と各企業、州政府が連携して統合的に関わり、

共にプロジェクトを推進するというラテンアメリ

カで初めての試みとなることでしょう。

「JICAは日本の中小企業の生産性向上を目指す

理念の一つである「カイゼン」を通して、日本

の知識や技術移転を支援することでアルゼンチ

ンの経済成長に繋がることを期待しています。

本プログラムを支援するためにトゥクマン州政

府にシニア海外ボランティア(活動期間2年間)

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上間ラウラさんは2018年7月20日か

ら8月20日の間、「日系ネットワーク強化を通じた地域振興」研修に参

加し、「高知よさこい祭り」の運

営に関し、実践を通した日本のリ

ーダーシップの概念等を学びました。

「私は沖縄三世なので、次世代の日

系社会に貢献したいと思っています。

(中略)今回、高知県の最大のお祭りを

体験しましたが、他の地方の習慣や伝

統、祭事について学んだことを、今後アル

ゼンチンで実践してみたいと考えています。

また、今後ブエノスアイレス市内の高知よさこい

グループに参加し、各教育機関や文化関係団体と

連携しながら活動したいと考えています」と語っ

ていました。

今回の研修に参加した最初の動機は、祖母たち

の世代からこれからの新しい日系社会を担う青年

上間ラウラ研修生

研修生帰国報告

への世代交代がスムーズにできるために両世代間

の橋渡しの役割を担い、日系社会に変化をもたら

したいという思いからの挑戦でした。私はアルゼ

ンチン日系社会では、私たち若い世代が様々な物

事を決断する役割を果たせていないと言えます。今

後は日系社会の発展という目的に向かって先の世

れ ま で

の経験や

技術を実践

してみたい

と思います」

と抱負を語って

いました。

髙松さんは、子供

の頃、漫画家か幼

稚園教諭になるのが

夢で、幼稚園で仕事をする際には、必ず絵を描か

なければなりません。そのため、両方できること

からこの道に進むことにしました。また、小さい

時から弟や小さい従妹の世話をしていたので、子

どもたちの対応はいつも慣れていました。

このボランティアに応募したきっかけは、JICA

のボランティア活動を聞いて、外国で幼児教育に

関わる仕事をしたいと思い、ボランティア説明会

に参加し、応募するに至りました。過去には、観

光で外国旅行をしたことはありますが、仕事で海

外へ出たのは今回初めてです。

活動するにあたり、まず日亜学院の先生方が私に

上間ラウラ 高知のよさこい祭りに南米研修生と参加 (山下ファビオとあなみカロリネ ブラジル)(三宅ケン―チリ)(田中エリカと西井きみえ パラグアイ)

地元の人、世界の日系人、非日系研修生も参加して踊った「高知よさこい国際チーム」

の上間ラウラ研修生

期待する活動内容を把握し、それに応じた支援が

できればと思います。また、併せて日本の歌やあ

そびを通して日本文化に親しんでもらえればと思

います。そして、私の日本での経験や技術を伝え

ることを通じてお互いに向上していければと思い

ます。

アルゼンチンは初めてですが、最初の印象はとて

も良かったです。アルゼンチンについては、サッ

カーやパタゴニア地方についての知識はありまし

たが、(派遣される前に)JICA横浜の海外移住資料

館で資料を読んで詳しく知ることができました。

そこで、コルドバのコスキン療養所を運営してい

た方の中に香川県出身者がいたことがわかりまし

た。私の出身県である香川県とアルゼンチンの関

連を知っていくうちにとても興味が湧いてきまし

た。

最後に、この2年間、できる限りの力を発揮し、

現地の先生方や子ども達が期待する活動をできる

よう頑張りたいです。そして、 (帰国後には)こ

こアルゼンチンで得た経験等を日本で活かせるよ

う願っています。

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ボランティア調整員

 飯田暁ボランティア調整員は先月8月16日に着任。二年の

任期でボランティアの調整員として働く予定です。ホンジ

ュラス並びにパナマですでに調整員として働いた経験があ

ります。

「調整員として六年の経験があります。 二回ホンジュ

ラスで計二年間、そして、パナマで一度同じく四年間勤

務しました」

ブエノスアイレスには15年前、ボリビアでのボランテ

ィア時代に観光で数日訪れたことがあります。

「詳細は憶えていませんが、第一印象で気候の違いを感

じました。寒かったですね。それから、中米と比べてア

ルゼンチン人のスペイン語はとてもはやくて聞き取りに

くいと感じました」と素晴らしいスペイン語で答えてく

れました。

パナマ勤務後、日本に帰国し、一年半の間をおいて、

またJICAに応募しました。その結果が今回のアルゼンチ

ン勤務です。

「まだ具体的な仕事は始まっていませんし、アルゼンチ

ンの状況を知らないといけませんから勉強中ですが、今

のところ資料で知る限り、アルゼンチンにおけるボラン

ティアの活動レベルはとても高いと思います」

 今までの経験と違うのは、アルゼンチンでのボランテ

ィアの大部分がシニアボランティアであることで、すで

に深い経験を有する人が派遣されていることから、仕事

もやりやすいと考えています。

「常にボランティアの皆さんにお役に立てるように、

そして、また適材適所でいられるように仕事を進めた

いと思っています。そうすれば、ボランティアも受け

入れ機関もお互いに気持ちよく過ごすことができ、ひ

いてはそれが私も自分の仕事にやりがいを感じるとこ

ろです」

 業務においてはこれから地方の州の発展促進が中心

となるので、それぞれの地域の実情を把握する必要があ

り、出張が多くなる予定。その後、必要なボランティア

という適格な人材を見つけることです。

「現在、地方配属ボランティアを多く募集しています。

地方への配慮が高まっているこの気運の下、いろいろな

地域をまわり、アルゼンチンについての知識を高めたい

と思います」

「ブエノスアイレスはすでに大変な発展を遂げていま

す。問題を抱えている人達をそして困難な状況で生活

している人々を見つけ出し、それに手を差し伸べる、

それがJICAの本望であり、それに向かってできるだけの

努力をして貢献したいと思っています」と飯田調整

員は抱負を締めくくった。

上間ラウラ研修生参加の「高知よさこい国際チーム」のオフィシャルフラッグ

高知県議会にて高知県議会議員と共に。左から、下村勝幸氏、土森正典氏、坂本孝幸氏

代の人たちの経験等を踏まえ共に前進していくこ

とが未来を築く上で大事だと考えます。

今回参加した研修で「高知よさこい祭り2018」を

通して、同踊りがもたらす陽気さや一体感等を学

びました。また、高知県庁へ

の表敬訪問やこの祭典を率いる

担当者の前田正也氏ともお会いで

きる機会を得ました。

私の目標は、日系社会に新しい風を

取り入れるための扉を開き、これからの日系社会

に向けて挑戦することです。そのために大事なこ

とは、相手に寛容になることや、色々な人の意見

や考えに耳を傾けることだと思います。

上間ラウラさんの願いは、高知県の声をアルゼン

チンにそして世界に発信することです!

JICA アルゼンチン事務所に新ボランティア調整員着任