スポーツにおける ict技術活用の現状について · スポーツにおける...

使使使スポーツにおける ICT技術活用の現状について 飛躍のチャンス2020年オリンピック・パラリンピック 2020年にはオリンピック・パラリン ピック東 京 大 会が開 催されますが、 過去の東京、長野大会がICTの 技術革新を進める原動力となった ともいわれています。 現在ICT技術 がスポーツにどのように活用されて いるか、また、今後期待される技術 について紹介します。 ナイキ ライズ “ハウス オブ マンバ” LEDコート (画像提供:AKQA社) バスケパッドの画面

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Page 1: スポーツにおける ICT技術活用の現状について · スポーツにおける ict技術活用の現状について 飛躍のチャンス2020年オリンピック・パラリンピック

ICTにより進化する

バスケットボールの試合風景

 

最近、バスケットボールの試合

を観戦された方はいらっしゃるで

しょうか。といっても躍動する選

手のプレーではなく、監督やマネ

ージャーがいるベンチの様子です。

試合中に監督やマネージャーが

「バスケパッド」というタブレッ

ト端末を操作している光景がしば

しばみられます。

 

㈱バスケプラスという会社が開

発したソフトウエアを使って、試

合記録をつけ、結果を分析してい

ます。選手がどこのポイントから

シュートを打ち成功した、あるい

は失敗した、もちろん瞬時に成否

の確率が算出されます。これによ

り、今日の試合でどの選手のシュ

ートがよく決まっているのかとい

ったデータを簡単な操作で記録し、

選手の交替や戦術変更にあたりデ

ータを引き出し活用することがで

きるのです。手書きのスコアブッ

クではできないことも可能になり、

監督の指揮の方法も変わりつつあ

ります。これまで監督が作戦指示

を出す際には、ホワイトボードと

マジックペンを使用していました

が、このタブレット上にバスケッ

トコートが表示され作戦ボードと

しても使用可能です。独自のフォ

ーメーションや戦術を自由自在に

作成することもできます。タイム

アウト時に監督が当日の選手のプ

レー状況を解析したデータを把握

し、瞬時に次の作戦や選手交代等

の判断に活用できるので、ゲーム

展開を飛躍的に進化させることが

できるといいます。

 

試合後も、各選手のデータの蓄

積により3か月前よりこんなにシ

ュート確率が上がったといった選

手の進歩を知ることもできます。

バスケパッドの試合データをイン

ターネットを通じてクラウド型サ

ーバに記録することで、過去のデ

ータと合算したり、対戦相手毎に

記録を残したり、特定選手の個人

データだけを抜き出して表示した

りすることも可能となるのです。

 

次に観客席に目を転じてみます。

プロフェッショナルバスケットボ

スポーツにおけるICT技術活用の現状について飛躍のチャンス2020年オリンピック・パラリンピック

 2020年にはオリンピック・パラリンピック東京大会が開催されますが、過去の東京、長野大会がICTの技術革新を進める原動力となったともいわれています。現在ICT技術がスポーツにどのように活用されているか、また、今後期待される技術について紹介します。

ナイキ ライズ “ハウス オブ マンバ” LEDコート (画像提供:AKQA社)

バスケパッドの画面

Page 2: スポーツにおける ICT技術活用の現状について · スポーツにおける ict技術活用の現状について 飛躍のチャンス2020年オリンピック・パラリンピック

ールリーグ「ターキッシュ

エア

ラインズbjリーグ」の試合で観

客席を見ると、ここでもスマート

フォンやタブレット端末を操作し

ながら観戦している人が散見され

ます。

 

多くの人が試合の様子をフェイ

スブックやT

witter

などのSNS

に投稿し、同好の人たちと情報を

共有しながら観戦を楽しんでいる

のです。なかには、bjTVとい

う試合映像インターネット有料視

聴サービスを契約し、「プレイバ

イプレイ」といって、一つひとつ

のプレーや審判の判定をテキスト

データで配信するサービスでプレ

ーを確認しながら観戦している人

もいます。

 

同リーグには青森から沖縄まで

チームがあり、たとえば京都のチ

ーム「京都ハンナリーズ」が沖縄

まで遠征して試合を行うことがあ

ります。自分たちの応援するチー

ムが遠征し応援に行けない場合に

は前述のbjTVで試合のインタ

ーネット中継を自宅のパソコンや

スマートフォン、タブレット端末

で視聴します。視聴するだけでは

なく、これらのICT端末を利用

して応援メッセージやプレイの感

想をリアルタイムでSNSに投稿

し、試合会場から投稿する応援仲

間と盛り上がるのです。

 

このようにICTの進歩により

スポーツを見せる側、見る側のスタ

イルが大きく変化しつつあります。

 

次に、試合の場ではなく、IC

T技術によりバスケットボールの

練習のスタイルが変わるかもしれ

ない事例をご紹介します。

インタラクティブ

LEDバスケットコート

 

NIKE社が中国の上海で、A

KQA社の協力のもとにリリース

した、全面LEDのバスケットボ

ールコートが話題となりました。

「House of M

amba

」と名付けら

れたこのコートは選手の動きに連

動してリアルタイムで映像が変化

します。

 「LEDディスプレイ」で構成

されたコートと、「モーショント

ラッキング技術(高速で動く物体

を物理的な軌跡としてリアルタイ

ムに記録する技術)」を組み合わ

せ、選手の動きをリアルタイムで

可視化することを実現したもので

す。このLEDバスケットコート

上では選手一人ひとりの動きをモ

ーションセンサー(赤外線などを

使って対象を周囲から観測して動

きを認識することによって選手を

追う仕組み)で捕捉します。

 

また、世界最高峰選手の指導で

作成された訓練ドリルも開発され

ています。理想的な選手の動きが

コート上に表示され、トレーニン

グ時はその選手の軌跡が足下に矢

印表示されるので、その方向に動

いていくことで、練習生が理想の

動きを体感し身につけることがで

きるのです。

 

試合では、一人ひとりのプレー

ヤーの動きが、コート上に映しだ

されるので、観戦する観客もイン

タラクティブな感覚で試合を楽し

むことができます。

 「モーショントラッキング技術」

はスポーツや医療等幅広い分野で

の活用が期待されています。

 

また、「LEDディスプレイ」

の高輝度でキメ細かい映像は屋

内・屋外を問わず、照明条件や設

置場所の環境を選ばないといわれ

ています。近年注目されているデ

ジタルサイネージ(屋外・店頭・

公共空間・交通機関など、あらゆ

る場所で、ネットワークに接続し

たディスプレイなどの電子的な表

示機器を使って情報を発信するシ

ステム)としての活用でも、LE

Dディスプレイはコストパフォー

マンスとメンテナンス性に優れて

おり、今後も期待が大きい技術で

あるといわれています。

練習用ハイテク

バスケットボール

 

バスケットの本場、アメリカ

では練習用のハイテクバスケッ

トボールが開発されています。

「94Fifty

バスケットボールスマー

LEDコートに選手の軌跡が示される (画像提供:AKQA社)

bjTVプレイバイプレイの画面

Page 3: スポーツにおける ICT技術活用の現状について · スポーツにおける ict技術活用の現状について 飛躍のチャンス2020年オリンピック・パラリンピック

トセンサ」というバスケットボー

ルとスマートフォンをハイテク技

術で結びつけた製品です。

 

外観は普通のバスケットボール

ですが、ボールの中にハイテクを

駆使した仕掛けがあって、選手の

シュートの軌跡やボールの回転等

のデータがスマートフォン等のモ

バイルデバイスにBluetooth

(近

距離無線通信)技術により伝送さ

れます。このデータを分析し、選

手が理想的なシュートを行えるよ

うに練習に活用するのだそうで

す。ボールの表面には電源スイッ

チをつけられない、もちろん電源

コードもつながない、外観は普通

のボールです。ボールを数回ドリ

ブルすることでスイッチが入り、

システムが起動する仕掛けになっ

ています。節電のため、ボールが

使われないときには自動的にスリ

ープ状態となり電力消費を抑えま

す。コードがつなげないので、充

電はワイヤレス充電(端子やコネ

クタなどの金属接点を接続しなく

ても、充電器の上に機器を置くだ

けで充電が完了する)技術を導入

し、充電パッドの上にボールを置

くだけで充電が可能です。

 

このように様々な最先端技術を

駆使してボールとICT端末がつ

ながることで、科学的なトレーニ

ングが可能となるのです。

ICT技術が変えた

全英オープンゴルフの楽しみ方

 

ICT技術のスポーツへの活用

は、何もバスケットボールだけに

限った話ではありません。201

5年7月に開催されたゴルフの

「全英オープン」では、NTTデ

ータがオフィシャルパトロンとし

て大会をサポートしました。全長

15mに及ぶ巨大な"N

TT DATA

Wall"

(以下W

all

という)が会場

内に展示されました。

 

Wall

には、スコアやランキン

グはもちろん、リアルタイムで各

ホールのプレー情報やプレイヤー

個人の詳細情報、世界のソーシャ

ルメディアでの全英オープンの盛

り上がり具合まで、ゴルフをもっ

と楽しむための情報がグラフィカ

ルなデザインでリアルタイムに表

示され、新しいゴルフ観戦のスタ

イルが提案されました。

 

さらに、W

all

から離れた場所

でもリアルタイムで高精細動画を

ストレスなく楽しんでもらうため

に、眼鏡型のウェアラブルデバイ

ス(身に着けて利用するコンピュ

ーター装置)やタブレット端末用

の「M

obile DATA Wall

」も提供

されました。

 

これには、同社の「W

iFi

マル

チキャスト技術(動画等のファイ

ルを異なるデバイス向けにW

iFi

上で一斉に配信できる技術)」が

活かされました。配信先が増えて

もトラフィックの遅延がほとんど

起きず、また高精細な動画が解像

度を落とすことなくそのまま配信

されたのです。

 

会場ではT

witter

とWall

の連

携イベントも開催され、イベント

時間中に公式T

witter

アカウン

トにお気に入りの選手名をハッシ

ュタグ付き(#記号と半角英数

字で構成される文字列のことを

Twitter

上ではハッシュタグと呼

び、発言内に「#○○」と入れて

投稿すると、その記号つきの発言

が検索画面などで一覧可能になる)

でツイートすると抽選が行われ、

当選したアカウント名と投稿者が

選んだ選手名が現地のW

all

本体

94Fiftyバスケットボールスマートセンサ (画像提供:InfoMotion社)

全英オープンで設置されたNTT DATA Wall (画像提供:㈱NTTデータ)

Page 4: スポーツにおける ICT技術活用の現状について · スポーツにおける ict技術活用の現状について 飛躍のチャンス2020年オリンピック・パラリンピック

に表示されます。選手を応援した

全員にその選手のリアルタイムの

プレー情報が届く仕組みを提供し

ました。

 

世界中の自宅で楽しむゴルフフ

ァン向けにもW

all

と同じ内容が

楽しめるようインターネット上に

特設サイトが開設されました。

2020年「ICTショウ

ケース」を世界へ発信

 

このように、スポーツとICT

は相性がよいばかりでなく、実は

スポーツがICTの技術革新を進

める原動力となっています。その

絶好の機会がオリンピック・パラ

リンピック大会であるといわれて

います。

 

1964年の東京オリンピック

開催が契機となりカラーテレビが

普及したことはよく知られていま

す。1960年からカラー映像で

の放送が始まっており、同大会か

ら初めてカラー映像によるテレビ

中継が開始されました。このとき、

オリンピック史上初となる衛星放

送による国際中継にも成功し、日

本の放送技術の高さを世界に知ら

しめる結果となりました。

 

1998年の長野オリンピック

では、当時急速に普及しつつあっ

たインターネットを本格的に活用

し、選手情報や競技予定、競技結

果やその画像、オリンピック競技

会場周辺の観光情報等の幅広い情

報が公式ホームページを通じて提

供されました。さらに選手や大会

関係者等の間では情報共有用にイ

ントラネットが整備されました。

 

2020年に東京大会が開催さ

れます。総務省は、わが国の持続

的成長の実現に向け非常に重要な

機会と捉えており、2014年11

月に「2020年に向けた社会全

体のICT化推進に関する懇談

会」を設置しました。同省は20

20年をターゲットイヤーとし

て、無料公衆無線LAN、多言語

音声翻訳、デジタルサイネージや

4K・8Kの普及促進、放送コン

テンツの国際展開、世界一安全な

サイバー空間の実現などを一体的

に進め「ICTショウケース」と

して世界に発信しようと考えてい

ます。特に、期待されている技術

の一つが、4K・8Kの映像技術

です。この技術により現在のフル

ハイビジョンに比べ大幅に高精細

な映像が実現できます。今年には

BSで試験放送を開始し、早期の

実用放送をスタートし、2020

年の東京大会開催時には競技会の

様子を4K・8Kで放送し、東京

の競技場以外の全国各地でパブリ

ックビューイングにより、オリン

ピックの感動を競技場のみではな

く全国で共有できることを目指し

ています。

 

これまでも、オリンピックを契

機に技術革新が進み、インフラも

整備されることで、その後の日本

経済の発展に寄与してきました。

今回も、オリンピック開催以降の

日本を明るく照らすであろう様々

なプロジェクトが進行しています。

 

たとえば、4K・8Kの高精細

映像技術は、医療分野での4K・

8K内視鏡、診断での画像解析、

遠隔医療、遠隔操作手術実現等に

必要な技術としても期待されます。

こうした日本の技術が再び世界に

認められ技術立国日本の復権が期

待されています。

おわりに

 

ICT×スポーツについて述べ

てきましたが、「ICT×○○」

の○○の部分に観光、医療、教育

等をあてはめてみると、すでに

様々な取り組みがなされており、

そこには新たなビジネスチャンス

も広がっています。2020年に

は、世界中から多くの人が来日し

ます。そのころにはICTにより、

言葉の壁もある程度取り払われて

いるかもしれません。

 

情報が新たな価値を生み出すと

言われて久しいですが、ICT技

術の進歩は企業のビジネスチャン

スを増大させるだけでなく、我々

の社会生活の各場面で必要不可欠

のものとなっていることも実感さ

れているのではないかと思います。

一方、その便利さの中で、情報セ

キュリティの危険性も顕在化して

おり、その対策は必須となってき

ています。だれもが安心してIC

Tを活用できる環境を維持、向上

させることにより、ICT技術の

活用が明るい未来を創造すること

につなげたいものです。

(㈱京都総合経済研究所

調査部長 

楢舘孝寿)

出典:平成27年版 情報通信白書

2020年に向けた社会全体のICT化全体像

参考文献:『平成27年版情報通信白書』

参考ホームページ:AKQA社・㈱バスケプラス・

InfoMotion

社・㈱NTTデータ・bjTV