第1章 スポーツとスポーツ産業 スポーツとスポーツ...

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1 第1章 スポーツとスポーツ産業 スポーツとスポーツ産業をテーマとして考えるにあたり、先行研究を参考にしたが、ス ポーツ自体の捉え方、スポーツ産業の定義も識者によって種々様々であり、まず、こうし た論点を多少なりとも整理して、理解しておく必要性がある。 そこで、第1節ではスポーツ、第2節ではスポーツ産業の捉え方について整理、確認し、 第3節ではスポーツやスポーツ産業の主体である個人や企業と地域という視点で状況を確 認していく。なお、現在のスポーツ振興は、「する」、「みる」、「支える」の各視点から行わ れているが、そのまま産業にあてはめにくい面もあり、第2節では「する」、「みる」を、 第3節では「支える」を中心にとりまとめている。 第1節 スポーツの推移と現状 1.スポーツの定義と意義 (Sport の語源は古代ローマ時代のラテン語に遡る) Sport の言葉の語源にしても、古代ローマ時代のラテン語に遡るもの(金芳・松本編 [1997])から、(鹿島茂[1992]『フランスにおけるスポーツ、スポーツという文化』TBS ブリタニカを引用して)フランスの古語から経緯を説明したもの(広瀬[2002])、さらに 近代の言葉から説明したもの(原田編[1997])まで様々である。ここでは、長文になるが、 松本の説明を引用することで、Sport という言葉の持つ意味、感覚を確認する。 「英語の”Sport”の語源をたどってみると、古代ローマで用いられたラテン語 の”deportare”にたどりつくという。deportare は de(away)と portare(carry)の合成語で あり、もともと『ある物をある場所から他の場所へ移す』ということを意味し、そこから 『心の重い、いやな、塞いだ状態をそうでない状態に移す』、つまり具体的には気晴らしを する、楽しむ、遊ぶということを意味するようになったという。その後、この deportare はフランスに伝えられて、”desporter”あるいは”desport”という語を生み出し、それ がさらにイギリスに伝わって後に”disport”となり、16 世紀にはそれから接頭語がぬけ落 ちて”Sport”となって今日にいたっている。 スポーツの語源の変化をみた場合、すでにみたような原語となる deportare は『遊ぶ、 気晴らしをする、楽しむ』という意味をもってきたが、このもっとも基本的な原義は今日 にいたるまで一貫して保持され、『スポーツ』のベースとなっている。しかし、それぞれの 時代、社会において『スポーツ』が意味してきた具体的な内容に関しては、さまざまに変 化してきている。イギリスにおいて”Sport”という語ができた当初は、義務からの気分転 換、娯楽、休養、慰めなどを意味していたという。ところが、17~18 世紀になると、スポ ーツは特に『狩猟』をさす言葉として使われるようになった。この時期、『スポーツ』の語 を使用したのはジェントルマン階級であり、当時、彼らが特権的に行っていた狩猟が『ス

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第1章 スポーツとスポーツ産業

スポーツとスポーツ産業をテーマとして考えるにあたり、先行研究を参考にしたが、ス

ポーツ自体の捉え方、スポーツ産業の定義も識者によって種々様々であり、まず、こうし

た論点を多少なりとも整理して、理解しておく必要性がある。

そこで、第1節ではスポーツ、第2節ではスポーツ産業の捉え方について整理、確認し、

第3節ではスポーツやスポーツ産業の主体である個人や企業と地域という視点で状況を確

認していく。なお、現在のスポーツ振興は、「する」、「みる」、「支える」の各視点から行わ

れているが、そのまま産業にあてはめにくい面もあり、第2節では「する」、「みる」を、

第3節では「支える」を中心にとりまとめている。

第1節 スポーツの推移と現状

1.スポーツの定義と意義

(Sport の語源は古代ローマ時代のラテン語に遡る)

Sport の言葉の語源にしても、古代ローマ時代のラテン語に遡るもの(金芳・松本編

[1997])から、(鹿島茂[1992]『フランスにおけるスポーツ、スポーツという文化』TBS

ブリタニカを引用して)フランスの古語から経緯を説明したもの(広瀬[2002])、さらに

近代の言葉から説明したもの(原田編[1997])まで様々である。ここでは、長文になるが、

松本の説明を引用することで、Sportという言葉の持つ意味、感覚を確認する。

「英語の”Sport”の語源をたどってみると、古代ローマで用いられたラテン語

の”deportare”にたどりつくという。deportare は de(away)と portare(carry)の合成語で

あり、もともと『ある物をある場所から他の場所へ移す』ということを意味し、そこから

『心の重い、いやな、塞いだ状態をそうでない状態に移す』、つまり具体的には気晴らしを

する、楽しむ、遊ぶということを意味するようになったという。その後、この deportare

はフランスに伝えられて、”desporter”あるいは”desport”という語を生み出し、それ

がさらにイギリスに伝わって後に”disport”となり、16 世紀にはそれから接頭語がぬけ落

ちて”Sport”となって今日にいたっている。

スポーツの語源の変化をみた場合、すでにみたような原語となる deportare は『遊ぶ、

気晴らしをする、楽しむ』という意味をもってきたが、このもっとも基本的な原義は今日

にいたるまで一貫して保持され、『スポーツ』のベースとなっている。しかし、それぞれの

時代、社会において『スポーツ』が意味してきた具体的な内容に関しては、さまざまに変

化してきている。イギリスにおいて”Sport”という語ができた当初は、義務からの気分転

換、娯楽、休養、慰めなどを意味していたという。ところが、17~18 世紀になると、スポ

ーツは特に『狩猟』をさす言葉として使われるようになった。この時期、『スポーツ』の語

を使用したのはジェントルマン階級であり、当時、彼らが特権的に行っていた狩猟が『ス

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ポーツ』の本義として理解されたのである。

19 世紀になると、スポーツは『運動競技(イギリス産の近代スポーツとしての)』を意味

するように変化していく。この時期は、新興ブルジョアジーを中心として、それまでの前

近代的なスポーツの改編がなされ、ルールと形態を統一して合理的な内容とし、フェアプ

レイやスポーツマンシップ、アマチュアリズムなどといった、精神的な刻印をつけて特徴

づけられた運動競技が、『スポーツ』の意味する内容となったのである。このようなスポー

ツ理解は、イギリスをはじめとしたヨーロッパ列強が、植民地獲得政策のもと世界にその

勢力を広げていくのにともない、共通理解として世界中に広まっていった。

転換の時代といわれる現代においては、スポーツもその理解の仕方に変化が現れてきて

いる。それは、スポーツ=運動競技(近代スポーツ)という限定的な理解から、原義的な

『気晴らし、遊び』に含まれる広範な活動をできうる限りスポーツのなかに取り込もうと

する動きとして現われてきている、このような『スポーツ』理解の変化は、現代における

スポーツ状況の変化、つまり具体的には多様化によってもたらされてきているといえる。」

(金芳・松本[1997])。

(スポーツの意味合いと定義)

上でみたように言葉がそもそも持つ意味合いを踏まえると、「スポーツ」が元々持ってい

る「気晴らし、遊び」という意味合いに含まれる広範な活動、すなわち、「個人の自由で自

発的な身体活動」(山下・畑・冨田編[2000])や、人間の身体活動を必要に迫られて行う(自

然的運動現象)か、体を動かすこと自体を目的とする(意図的運動現象)かで区分し、後

者のなかに、スポーツと呼ばれる活動が含まれるという説明(八代・中村編[2002])も可

能となる。

そうしたなか、原田[2002]が「スポーツは『ルールと勝敗があり、大筋活動をともなっ

た激しい身体活動』(すなわちサッカー、ラグビー、バレーボールといった競技スポーツ)

としてこれまで狭義に理解されてきた。しかし現代社会において、都市住民とスポーツが

かかわる場面はより多面的で、生活に密着するようになってきた。健康づくりのために行

うスポーツ、仲間と交わるレクリエーションとしてのスポーツ、娯楽としての見るスポー

ツ、情報を得るための読むスポーツ、そしてファッションを楽しむための着るスポーツな

ど、われわれの生活がスポーツとかかわる場面は想像以上に多い。したがってスポーツに

は『ルールと勝敗があり、大筋活動をともなう激しい身体活動』として定義される競技ス

ポーツだけでなく、『ルールと勝敗がなく、激しい大筋活動を必要としない身体活動』であ

る体操やウォーキング、そして『自由時間に自発的に楽しみを求めて行うレジャー』とし

てのスポーツ観戦やギャンブル・スポーツをも取り入れる必要がある」と説明している。

このように、現在のスポーツ振興(「する」、「みる」、「支える」の3つの視点から振興)を

念頭におき、「狭義的には、ルールや勝敗の有無やその激しさなどには関係なく、体を動か

すことを目的とした自発的な身体活動を、広義的には、そうした身体活動を間接的に体験

する、支援する一連の活動を含む」ものを、今回扱うスポーツの範囲と定義する。ただし、

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文献によってスポーツの定義は異なっており、また、この定義の一部分しか説明していな

いことも多い点に留意が必要である。 (スポーツの意義は多面的)

狭義のスポーツ、すなわち、自ら体を動かすことに関しての意義は、スポーツを行う動

機、スポーツがもたらすベネフィットと言い換えることもできるが、諸説1を基に整理する

と、①健康の維持増進(身体的効果)、②楽しみ、ストレス発散(精神的効果)、③自己の

開発(心身の能力向上)、④他とのコミュニケーション、関係構築の4点に集約できる。①

については、医療費削減などを意図して、行政機関などでスポーツ振興に取り組んでいる

ところであり、また、④に関連しては、社会的地位や役割の向上、一体感の醸成などの指

摘があるほか、広瀬[2002]が「視覚に訴えやすいため、non-verbal コミュニケーションと

して言語、国境、人種の壁を越えたグローバルなアピールが可能である。しかも趣味性が

低いため、世代間のギャップも少ない」と、スポーツの持つメディアヴァリュー(メディ

アにおいて取り上げる価値の高いコンテンツ)という視点で指摘しているとおりである。

また、同時に広瀬は、スポーツの持つ「公共性」にも触れており、その結果として、ス

ポーツを行う施設が公的な資金で賄われていることや欧州などでの有料放送による人気ス

ポーツの独占を禁じる法律を制定する動きにつながっているとともに、スポーツ競技を見

せることでビジネスを行っているプロスポーツ企業の情報公開の必要性を説いている(広

瀬[2002]及び[2005])。

広義でのスポーツに含まれる間接的な身体活動の体験、すなわち、「みる」ことに関して

は、その動機(意義)を、松岡は野球を例にとり、図表1-1-1のように説明している

(原田編[2004])。 図表1-1-1 スポーツ観戦動機の構成因子

動機の構成因子 定義

達成 チームの勝利や成功と自分を結びつけて、達成感を得る

美的 野球のプレーが持つ美しさ、華麗さ、素晴らしさを見る

ドラマ 予測できないドラマチックな試合展開を見ることによって、興奮や緊張感を楽しむ

逃避 日常生活から逃避し、さまざまなことを一時的に忘れる

知識 野球の技術を学んだり、知識を深めたりする

スキル 選手の技能レベルの高いプレーを見て楽しむ

交流 スポーツ観戦を通して、友人・知人や恋人と楽しく過ごすことができる

所属 自分がブルーウェーブの一員であるかのように感じる

家族 スポーツ観戦を通して、家族で楽しく過ごすことができる

エンタテイメント スポーツ観戦をエンタテイメント(娯楽)として単純に楽しむ

資料:松岡宏高、原田宗彦編[2004]『スポーツマーケティング』。

1 例えば、通商産業省[1990]、松田[1996]、片山・木村・浪越編[1999]、原田編[2004]及び[2007]、早川

[2006]に説明されている。

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(スポーツの分類に様々な視点)

自ら行うスポーツをみる場合に、その種目の特性によって区分するやり方と、身体活動

のレベルによる分け方など、様々な視点での分類も試みられている。前者の例としては、

松田[1996]は、コープランドが提唱した購買行動の特性に基づく分類をもとにして、競技

種目を区分している。その要旨は図表1-1-2に示したとおりである。

図表1-1-2 消費行動特性による分類とそれに対応した競技種目

分類名 消費行動特性 商品例 該当する競技種目

寄品(型スポーツ) 習慣的購買、近隣の店舗で購買、

相対的に低価格、高い購入頻度

高い製品の事前知識

食料品、

日用雑

貨品

水泳、ボウリング、エアロビク

ス・ダンス(産業にはなりにく

いが、ジョギング、ランニング、

バドミントン、バレーボール、

ゲートボールなども入る)

買回品(型スポーツ) 比較購買、商業集積地での購買

相対的に中価格、低い購入頻度

低い製品の事前知識

衣料品

テニス、ゴルフ

専門品(型スポーツ) ブランド指名買い、特定店舗での購買

相対的に高価格、低い購入頻度

高い製品の事前知識

美術品、

高級車

空域性(ハンググライダー、グ

ライダー、パラグライダーな

ど)、海洋性(スキューバダイ

ビング、ヨットなど)、山岳性

(スキー、登山など)スポーツ

資料:松田義幸[1996]『スポーツ産業論』をもとに作成。

消費行動特性については、野口智雄[1994]『マーケティングの基本』を参照した。

レベルによる区分としては、松本(金芳・松本共著[1997])が以下の4区分を示している。

「1)各種プロスポーツをはじめとし、さらにオリンピックや世界選手権などの各種選手

権大会をもつチャンピオンシップスポーツ

2)勝ち負けにこだわらず、『誰でも、いつでも、どこでも』をモットーにして気軽にス

ポーツを楽しもうとするニュースポーツ

3)特定の地域、民族の文化に閉じられた、独特の意味・価値をもつスポーツとしての

エスニックスポーツ

4)現在社会が生み出した複合汚染によりダメージを受けた心身の健康を回復するため

の健康スポーツ、『癒し』のスポーツ」

なお、2つ目のニュースポーツは必ずしも新しいものでなくとも、日常的に行われる軽

度な身体運動としての各種競技などが含まれるものと考えられる。

また、スポーツの捉え方に関しては、清水(八代・中村編[2002])は「選ばれた人が、

学校や企業で、勝利や記録達成、教育を目的として、他のものを犠牲にして行う」チャン

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ピオンシップスポーツから、「みんなが、各自の生活に即した場や機会で、各自の目的にあ

わせて、生活に適合させながら行う」生活スポーツへと比重が移ってきていることを指摘

している。

2.スポーツの歴史

(生きるための術から世界共通化したものに発展)

では、スポーツはどのようにして発生、発展してきたのであろうか。松本(金芳・松本

共著[1997])によると、未開社会においても、生きるための営み、実用術として形成され

た今日のスポーツの原初形態がみられ、その後、実用的な拘束性から離れた活動となり、

祝祭的、非合理的な側面を持ちつつ、前近代に至った。

さらに、松本の説を引用すると、産業革命以降、合理主義的な思考が広まり、また、人々

の活動範囲が広がるにつれ、それまでのスポーツ的活動に大きな変化が生じてくる。そし

て、「スポーツにおける近代化の動きは、パブリックスクールで教育の手段としてスポーツ

を採用するようになるにおよんで、その一応の仕上げをみる」のである。

こうした流れのなかで特徴的なものとしては、それまで地域ごとに代々受け継がれてい

た「ルールの統一」を松本はあげている。また、そうした「競技形態の規格化を支えたの

が、用具・器具・施設の規格化であった。つまり、どこでも、いつでも、誰でも同じやり

方でそのスポーツを行うためには、そこで用いられる用具や器具が同じ規格のものであり、

また競技場が同じ規格である必要があった。このような用具・器具の規格化を可能にさせ

たのは、産業革命以降の技術革新の成果であった。なかでも 19世紀中期までにいちおうの

レベルに達する鉄とゴムの生産・加工技術の進歩が、スポーツの近代化に大きな貢献をし」、

さらに、「ルールの統一にともなう競技形態や用器具の規格化は、一方ではまたスポーツの

数量化(時間や距離などの計測、競技の得点化)という現象も引き起こし」たと指摘して

いる。

また、広瀬[2005]は、こうしたスポーツの概念形成のなかで、「目的/成果という要素が

加わったこと」、「暴力の抑制、規範/規律の遵守のもとで行うこと」が、国家における人

材育成の手段としての位置づけをうみだし、「国民を生産する有用なソフトとして『近代化』

を目指す国家で採用されていった」と指摘している。同じ視点から、澤野[2005]は、「どこ

の国でも学校教育に体育は取り入れられているが、体育の起源が軍事教練であることにか

わりはない。近代化の過程で、人の身体を飼い慣らして軍隊の集団行動に合わせるために

生まれたものである」と学校教育としてのスポーツ、すなわち、「体育」について解説して

いる。

(日本のスポーツは明治時代の西洋化とともに輸入)

米倉(上西編著[2000])は、日本には武術としての柔剣道、流鏑馬、蹴鞠などがあった

が、スポーツといえるものはほとんどなく、「明治維新以後、日本の西洋化に伴い今ある日

本のスポーツは 100%西洋から伝わってきたもの」であり、その普及は、余裕のある豊かな

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階級が受ける学校教育のなかで発達してきたと指摘している。さらに、米倉は、「スポーツ

の発達の中に日本人の武士道、義務教育みたいなものが混ざり合い、他の国ではみられな

い日本独特の『体育』というもの」や地域のクラブで発展した欧米のスポーツとの性質の

違いを生み出し、「アマチュアスポーツとプロスポーツの棲み分けをする大きな要因」とな

り、「スポーツはアマであるべきだ、お金を稼ぐのは卑しいという伝統を強く持つに到った」

とも指摘している。なお、このアマチュアの意識の問題については、後述する。

日本のスポーツの発展の経緯としては、渡辺[2004]は、「我が国スポーツは学校教育の領

域から 1964 年(昭和 39 年)の東京オリンピックを境にしてスポーツの大衆化が進み、従

来の『教育・競争・訓練』から『健康・ファッション・レジャー』的要素を増幅させ」た

と指摘している。

(学校教育としてのスポーツの課題)

学校教育としてのスポーツに対しては、少子化を受けた運動部員の減少、教員の高齢化

に伴う指導者不足などの指摘がなされている。こうした学校を取り巻く環境面以外の課題

としては、広瀬[2002]は、「問題があったとすれば、その様式のみを受け入れ、肝心な精神

的バックボーン、言い替えれば文化的な背景をほとんど無視してしまったということ」で

あり、身体能力、競技能力の向上に重点がおかれ、「スポーツマンシップの教育が体育授業

において欠如しているのである。競技会の開会式などで頻繁に『スポーツマンシップに則

り…』と宣誓されているにも関わらず、その意味を教えていないのはかなり不健全ではな

いだろうか」とコメントしている。

また、松田[1996]は、「チャンピオン・スポーツは、ワークの世界に属し、生涯スポーツ

は自由学芸のレジャーの世界に属する」ことが理解されておらず、体育教師の養成システ

ムなどにおいても、「理念、研究、教育は、発育・発達、専門のコーチ学に片寄っており、

自由学芸のレジャーの世界の枠組みではとらえられていなかった」とし、この点がスポー

ツが「習慣化、生活化しない、一番の原因」と指摘している。

さらに、長積(原田編著[2007])は、学校教育を中心としたシステム上の限界として、

各学校の卒業とともに引退を余儀なくされることから、「スポーツに親しむ機会や活動を行

う場は、連続性や継続性の仕掛けはなく、一時的かつ分断化」しており、「入学までの数ヶ

月間のブランクがスポーツ欲求を低下」させるという「スポーツから離脱しやすい仕組み

になっている」ため、上の学校にあがるごとにスポーツのクラブ加入率が低下する、「スポ

ーツ参加者がその隙間からポロポロとこぼれ落ちてしまうような状態が、現在のわが国に

おけるスポーツ振興システム」と分析している。

(スポーツ振興には企業も大きな役割)

澤野[2005]は、「企業がスポーツ選手を従業員として雇用し、企業の金銭を含む物理的援

助・サポートのもとで、仕事の一環として、あるいは終業後におこなうスポーツ活動」を

企業スポーツと定義し、スポーツは国や地域により様々な発展形態をとるなかで、企業ス

ポーツが日本に も特徴的であると述べている。すなわち、ビジネスとして、収益を得る

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ために行うのではなく、「形式的にはゼニ金抜きでスポーツ、あるいは、スポーツ選手を支

援してきた」ことは日本企業に特徴的なことであると指摘している。したがって、後述す

る「スポーツ産業」とは異なるレベルで企業がスポーツに関わってきたのである。

以下の経緯、分析も澤野によるものであるが、日本での企業スポーツは、明治末期から

大正初期にかけて、八幡製鐵所など、大規模な工場が建設されるにつれて、「労務対策」と

して成立してきた。「支出は伝統的には『労務費』」、「所管は労務部」であったという。さ

らに、労務費のなかでも、「福利厚生費のところと教育訓練費だったところは区別され」、

後者では、企業での必要な人材育成(セルフ・マネジメント能力や管理能力、対人能力)、

あるいは、「企業の責任で『お嫁に出す』という風習」として企業スポーツが営まれてきた。

(企業スポーツの位置づけの変容)

ただし、この 10 年、企業が保有するスポーツクラブが廃部、休部している例は数多く、

大きな転換期を迎えている(図表1-1-3)。この背景として澤野は、(景気変動などの

要因というよりも構造的な要因として)工場現場や事務作業のコンピュータ化、省力化、

さらには、マニュアル化が進み、企業で行う業務は、正社員で行う管理やセールス業務か、

派遣社員などが行うコンピュータ化のできないルーチンワーク・単純作業になってしまっ

たため、「従来より格段に少ない頭数の管理職と、あとは決められた仕事を指示とマニュア

ルに従ってこなす現場作業員がいれば、組織全体は回るように」なり、その結果、「企業に

とって『企業スポーツ』は重荷」になっていると指摘している。

図表1-1-3 年次別・企業スポーツ休廃部数一覧(1991年~2007年)

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10

20

30

40

50

60

70

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91年

19

92年

19

93年

19

94年

19

95年

19

96年

19

97年

19

98年

19

99年

20

00年

20

01年

20

02年

20

03年

20

04年

20

05年

20

06年

20

07年

0

50

100

150

200

250

300

350

休廃部数

累計

資料:株式会社スポーツデザイン研究所調べ。(注)調査結果は、ホームページで確認できる(アクセス日 平成20年2月13日)。 http://www.sportsnetwork.co.jp/newtopics/2007_06kyuhaibu.pdf

(6

さらに、「『企業スポーツ』は、人材育成面で企業に貢献してきた」が、グローバル競争

のなかで、「小さな技術革新を無効にして人件費の格段の節約を不可避にし」、選手の意識

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が変わり、「スポーツをすることで仕事もできるようになるような『文武両道』の社員が採

れなくなった」ことが、 終的には企業スポーツの大きな転換点となったと指摘している。

こうした流れのなかで、企業とスポーツの関係は、労務費の関係から広告宣伝費の関係

へと変質し、費用対効果の側面から、「チーム・スポーツよりも個人競技」という経営判断

が働くことになったのである。さらに、「近年では、マスコミを通じて流れるスポーツ関係

者・スポーツ評論家による『スポーツの(企業からの)自律論』も、企業スポーツをディ

スカレッジしている」とも澤野は分析している。

なお、休廃部の一巡と景気回復に伴い、近年の年間休廃部数は、ピークであった 1998~

2002 年の同値と比較して少ない数で推移している。こうした状況に関しては、選手による

教室開催などの「企業の社会貢献」や「M&A(企業の合併・買収)後の一体感の醸成」

の手段として企業スポーツを見直す機運があるとのコメント(日経産業新聞[2007 年 10 月

18 日])もみられる。

(企業スポーツの所管が不明確との指摘)

スポーツは文部科学省の所管であるが、一方、民間企業がスポーツ振興のために設立し

た財団の所管は経済産業省となり、企業スポーツは経済産業省の所管という棲み分けにな

っているという指摘(澤野[2005])がある一方、「企業スポーツについては、所管が明記さ

れておらず、経済産業省と文部科学省の境界領域」という指摘(SSF笹川スポーツ財団

[2006])もある。また、サッカーや野球などプロ化しているスポーツに対して文部科学省

は対応しきれていない(広瀬[2006])なども含め、企業スポーツやビジネスとしてのスポ

ーツ(興行)に対して行政側の対応が後手に回っていることが指摘されている。

また、新聞報道によると、平成 19 年8月 22 日に、文部科学省副大臣の私的諮問機関「ス

ポーツ振興に関する懇談会」が、「スポーツ省を設立し、スポーツ大臣を配置」などの提言

をまとめている(日本経済新聞[2007 年8月 23 日])。スポーツ担当相自体は、これまでに

も設置されたことがある。しかし、広瀬[2006]が指摘しているように、「内閣改造に伴って

新設された『国民スポーツ担当相』という職に注目したが、日本史上初のスポーツ担当相

の誕生は、驚くほど注目を集めず、その後注目されないままに雲散霧消した」という結果

となっており、今回の提言がどのような形で実現、機能し、スポーツ振興につながってい

くのか、今後の動向を注視していく必要があろう。

(総合型地域スポーツクラブの設置への動き)

総合型地域スポーツクラブとは、平成7年から現在の文部科学省が設置を推進している

もので、「多種目」「多世代」「多志向」という特徴をもった地域の誰もがスポーツを楽しめ

る環境を作ろうとするもので、「住民の自治的・自立的な活動を基調とするスポーツシステ

ム」であり、「一人でも多くの地域住民が、このスポーツシステムを支える役割を担い合い

ながら、生成・発展させていくべき性質のもの」(日本体育・スポーツ経営学会[2004])と

されている。また、「さらにスポーツ経営体としての総合型(地域スポーツ)クラブは会員

の自主運営が基本とされる。すなわち会員は会員自身がスポーツを楽しむと同時に、スポ

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ーツの場づくりや各種事業の企画・運営に参加することも前提にされている」(日本体育・

スポーツ経営学会[2004])のである。

また、文部科学省では、スポーツ振興基本計画2〔12(2000)年策定、13(2001)年度か

ら 22(2010)年度までの 10 年計画〕において、「生涯スポーツ社会の実現のため、できる

かぎり早期に、成人の週1回以上のスポーツ実施率が 50 パーセントとなることを目指す」

と定めており、その実現のために必要不可欠な施策として、「2010年までに、全国の各市区

町村において少なくともひとつは総合型地域スポーツクラブを育成。(将来的には中学校区

程度の地域に定着)」を掲げている。

現在の設置状況は図表1-1-4に示したとおりであるが、兵庫県で総合型地域スポー

ツクラブ数が 800 を超えており、また、全市区町村に設置済みとなっているのは、法人県

民税の超過課税を財源としたCSR(文化・スポーツ・レクリエーション)事業の一環で

ある「スポーツクラブ 21 ひょうご」によるところが大きいとされている3。

図表1-1-4 総合型地域スポーツクラブの育成状況(近畿地方と全国:平成19年7月1日現在)

府県名市区町村数

①創設済みクラブ数

①がある市区町村数

②創設準備中クラブ数

②がある市区町村数

③育成クラブ総数(①+②)

③がある市区町村数(重複除く)

市区町村数に対する比率

滋賀県 26 37 12 5 5 42 15 57.7%京都府 26 25 13 3 3 28 15 57.7%大阪府 43 37 17 7 7 44 21 48.8%兵庫県 41 831 41 0 0 831 41 100.0%奈良県 39 11 7 8 6 19 11 28.2%和歌山県 30 11 9 13 7 24 13 43.3%全国 1,827 2,004 631 551 386 2,555 894 48.9%資料:文部科学省調べ。

(総合型地域スポーツクラブの課題)

生涯スポーツ社会実現のために大きな役割を期待されている総合型地域スポーツクラブ

であるが、現状としては、日本体育・スポーツ経営学会[2004]が、「総合型地域スポーツク

ラブづくりは、行政主導という、古いスポーツ振興システムのままで、新しいシステムを

構築しようとする大変矛盾した一面を持っており、スポーツのイノベーションを促進する

というよりも後退させる様相さえみせている」と指摘する側面が影響してか、長積(原田

編[2007])は、「文部科学省をはじめ、スポーツ振興に携わるわれわれが真摯に受け止めな

2 文部科学省ホームページに掲載されている(アクセス日 平成 20年2月 13日)。

http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/plan/06031014.htm 3 山口[2006]に詳しい経緯、事例などが記載されているが、神戸市における総合型地域クラブの創設・育

成に関するサポートのひとつに、「会員ポイントシステム」があり、地元のスポーツ用品店で総合型クラブ

の会員証を提示すると 15%割引きになる。さらに、購入金額に応じてポイントが加算され、ポイントが貯

まれば、スポーツ用品と交換できるというシステムである。『これは、兵庫県運動用品商業共同組合神戸支

部との連携で実現した。大型店舗に押され気味の地元のスポーツ用品店と総合型クラブの双方にメリット

のあるアイデアといえる。』(山口[2006])。

該当スポーツ用品店などの詳しい情報は、神戸総合型地域スポーツクラブのホームページに掲載されて

いる(アクセス日 平成 20年2月 13日)。 http://www.sportsclub-kobe.com/point/middle.html

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ければならないことは、わが国のスポーツ振興の基軸となった総合型地域スポーツクラブ

が 1995 年から補助事業として育成され始め、11 年の年月が経とうとしているが、このよう

なクラブの育成を中心としたスポーツ振興によってスポーツ非実施者をスポーツ参加とい

うステージに向かわせることが、あまりできていないということである」、「総合型地域ス

ポーツクラブの育成は、既存のスポーツチームや団体を統轄することに躍起になり、政策

目標で掲げられた週1回以上の成人のスポーツ実施率を上げるために必要な底辺の拡大を

進めることができなかったと判断されて仕方がない状況にあるといえる」という状況にあ

ると指摘している。

そして、なぜ総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業は行政主導に陥るのか、という

点に関しては、日本体育・スポーツ経営学会[2004]では、「クラブ育成モデル事業において

は、事業の立案主体は文部科学省であるものの、総合型クラブをどのようにつくっていく

か、どんなものにしていくかということに関してはモデル指定を受けた自治体に任されて

いる。しかしながら、例えば自治体の側が総合型クラブに対する認識が浅く、クラブづく

りに対するノウハウについてもあまりない状態で、3年間で成果をあげるためには国が例

示する総合型クラブの型やイメージに既存の仕組みをあてはめていくことが効率的である

と考えるであろう。その結果自治体にクラブづくりは任されてはいるものの、その地域に

あったクラブを作る時間的な余裕がないため国が例示する型やイメージに左右され、期限

内に事業成果(クラブの形を作ること)を効率的にあげることが優先されてしまう。そし

てこれが行政主導にならざるをえない状況をつくりだすひとつの原因であると考えられる。

総合型クラブ本来の意義や役割を考えると、事業期間の3年間でうまく軌道に乗せること

は難しいといわざるを得ない。行政主導から住民主導へスムーズに移行させていくために

も、長期的な視点に立ってクラブづくりに取り組む姿勢が求められる」とその背景と対応

策を示している。

3.スポーツに関する課題

(これまでの地域スポーツの状況)

総合型地域スポーツクラブが、「多種目」、「多世代」、「多志向」、「住民の自治的・自立的

な活動」という特徴をもったものということは、逆に言うと、これまでの各地域でのスポ

ーツがそうではなかったことを表している。例えば、日本体育・スポーツ経営学会[2004]

では、地域スポーツの状況を、「スポーツは開放的と思われがちであるが、日本における地

域スポーツは競争論理を重視するがゆえにその活動の様相は極めて閉鎖的になっていると

思われる。すなわち、多くのスポーツクラブの活動を見ると対外試合に向けた練習が活動

の中心となり、一年中同じ仲間と同じスポーツ種目を行っている。また、クラブの人間関

係は選手と補欠というチーム型のクラブが多く、歴史と戦歴のあるクラブほどその敷居は

高い」、「勝利をめざして継続的に活動するためには、いわゆる集団のまとまり(凝集性)

を高める必要がでてくる。確かにクラブが成立するためには成員間に『われわれ意識』が

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必要になるし、長続きしているクラブはまとまりがよい。一方、集団の凝集性が高いこと

は、一方で外部からみると壁が高いことを意味する。従って、まとまりのよいクラブほど

メンバーの確保に四苦八苦することになる」と単一種目、同じメンバーという点を指摘し

ている。 また、世代については、「従来のスポーツ事業の構成方法をみると、人間関係分節型の事

業展開をしてきている。すなわち、子どもは子どもだけで、高齢者は高齢者だけで、障害

者は障害者だけで集団を作るようスポーツ事業が企画されている。もちろん指導効率や安

全性といった側面からはそのような同質の仲間でのスポーツ活動は妥当なものと言えよう

が、『地域』にふさわしいスポーツ活動としては十分とは言えない」とし、競争志向である

状況を、「極端な表現をすると、現在の地域スポーツはチャンピオンシップスポーツのコピ

ーということができよう。すなわち、地域スポーツがチャンピオンシップスポーツの論理

である勝ち負けの論理で実践されている場面も多く見られる。それゆえ地域スポーツにお

ける様々な問題が発生してきている。もちろんスポーツは『アゴン(競争)の原理』に基

づいて組織化された活動であるので、勝ち負けを否定してしまうとスポーツは成り立たな

い。問題はスポーツに内在する『競争(競い合う)』楽しさを地域生活を豊かにする論理の

中でいかに消化してゆくかにかかっていよう」と分析している。

(スポーツに対する意識)

さらに、スポーツに対してお金をかけず、行政などに依存していることは、スポーツの

発展の歴史からもそうした風土を生み出していることがうかがえる。先に触れたように、

スポーツはまず生活に余裕のある人々が通っていた学校から始まっている。つまり、澤野

[2005]の指摘するように、「地代や利子など不労所得が大きい貴族や、パブリックスクール

や大学を卒業して高額の収入のある人がプレーするかぎり、スポーツは金銭の授受を伴う

必要はない」状況にあった。さらに、こうした背景を持ちつつ、アマチュアという概念が

形成されていったことから、アマチュアスポーツの祭典として開始されたオリンピックは、

「一定の職場で働くことによってはじめて生活が成り立つ人がスポーツをする場合、なん

らかの財政援助が必要なことは自明である。オリンピックが成立した段階では、女性・有

色人種・労働者は排除されていた」という「階級に基づく差別意識も同様に垣間見られる」

ものであったとの解釈も成り立つのである。

日本におけるアマチュアの概念の定着に関しては先に確認したとおりであるが、「(プロ

の地位が非常に低く、アマチュアの方が力を持っているという)過程を経て日本のスポー

ツは育った、というよりもプロが育たなかった」し、オリンピックにもプロ選手が参加で

きるようになった結果、「プロとアマの棲み分けというのは、欧米のプロ化の流れの中で、

日本のスポーツ界が一番悩んでいる問題」と米倉(上西編著[2000])が指摘する状況にあ

る。

さらに、スポーツに関する意識としては、プロとアマチュアの問題に限らず、国民の意

識にも問題が存在するとの指摘がなされている。例えば、八代は、「我が国におけるスポー

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ツが学校の教育として、あるいは行政の強いサポートの下で発展してきたために、スポー

ツをめぐる権利や義務に関する意識や能力が十分育ってこなかった」と指摘している(八

代・中村編[2002])。すなわち、「スポーツは文化であり、すべての人々に開かれた権利」

であるが、「権利の行使には一方で義務を伴う」ことが自覚できていない、あるいは、義務

を果たしていないことを問題提起している。

また、義務を果たしていない別の事例としては、長積(原田編著[2007])が「われわれ

が親しむスポーツに対する価値や費用負担意識とはいかなるものか、すなわちスポーツに

対する投資的価値についていま一度、考え直すべきではないか」と指摘している「総合型

地域スポーツクラブの平均月会費は 285 円」という文部科学省調査結果4をあげることがで

きる。さらに、兵庫県による総合型地域スポーツクラブの調査結果を引用した山口[2006]

も、「クラブの会費は 99%が徴収しているが、徴収額は月『100 円以下』が 58%、『100~200

円』が 18%と少額」と文部科学省と同様の結果を基に、「クラブの運営が補助金に依存して

いることがわかる」と指摘している。

こうした甘えの意識は、アマチュア競技連盟のイベント作業で、有給の専属スタッフが

自らのミスを「われわれはアマチュアだから」と言い訳したという自らの体験を基に「競

技がアマチュアであることと、そのマネージメントもアマチュアで許されるかどうかはま

ったく別問題」であり、「混同は許されるべきではない」と指摘している点や、行政の縦割

りのなかで情報が一元化されていないことなど、「『顧客満足』という認識を欠く」事例は

枚挙に暇がなく、プロスポーツ選手が「社会人としてのマナーや立ち居振る舞いにも高い

ものが求められる」ことを自覚していない事例として自分中心の発言内容などをあげて、

様々な視点から広瀬[2002]も指摘している。こうした先行研究を踏まえると、スポーツの

教育、振興においては、技能や体力の向上のみならず、スポーツに対する意識付けも重視

して行う必要があるといえよう。

(子どもの体力低下の背景)

文部科学省などの調査によると、子どもの体力は低下傾向が続いている。こうした背景

として、原田[2002]は、「消える遊び空間」として、遊びとしてのスポーツを手軽にできる

スポーツ環境がないことを指摘するとともに、子どもの遊びの推移を比較し、遊びそのも

のが体を動かすものでなくなってきていることを問題提起している(図表1-1-5)。

同様の調査結果を山口[2006]にも見ることができる。これは、先行調査研究(岡田知子・

山口泰雄[2001]「子どもの“児童公園”に関する研究 -神戸市渦が森地域におけるケー

ススタディ-」『神戸大学発達科学部研究紀要』第8巻第2号:415-428 頁)を引用し、「神

戸の小学生の遊びや生活時間の現状を把握するために、20 年前のデータと比較分析」した

もので、「渦が森小学校4年生と6年生計 137 人を対象にし、1980 年に神戸市立教育研究所

が実施した質問項目と同じ設定で調査」をしている。この調査結果は、「ふだんの遊び場に

ついてたずねたところ、80 年の調査では『屋外』と答えたのは4年生で 52%、6年生は 46%

4 平成 17年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査結果

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だった。ところが、20 年後には4年生が 26%、6年生が 17%と激減した。『1週間に塾に

通う日数』も 20 年前との差が明らかである。『0回』が4年生で 67%、6年生で 49%だっ

たが、今回は4年生で 34%、6年生で 25%、『4回以上』は6%(6年生)にすぎなかっ

たのが今回は 20%で、3倍以上になった。このように、20 年前に比べて、子どもの屋外遊

びは半減し、塾通いは3倍になっている」というものであった。

図表1-1-5 子どもたちが帰宅してからの遊び

(単位:%)

1973 年当時の小4男子の父親が

小学生の時(戦後復興期の遊び)

1973 年当時の小4男子

(高度経済成長期の遊び)

1997 年の小学生男子

(現在の遊び)

ビー玉 42 野球 25 テレビゲーム 74

こままわし 42 ボール遊び 23 ゲームボーイ 56

べったん(めんこ) 41 キャッチボール 19 テレビ 52

野球 35 ゲーム 11 ドッジボール 48

とんぼとり 28 本読み 8 本読み 37

1973 年当時の小4女子の母親が

小学生の時(戦後復興期の遊び)

1973 年当時の小4女子

(高度経済成長期の遊び)

1997 年の小学生女子

(現在の遊び)

なわとび 64 ゴムとび 41 本読み 64

かくれんぼ 39 トランプ 17 テレビゲーム 52

ゴムとび 38 なわとび 17 テレビ 50

お手玉 36 本読み 15 自転車のり 38

ドッジボール 30 バレーボール 13 ドッジボール 36

(注1)「父親の小学生時代」「母親の小学生時代」「小4男子(73 年)」「小4女子(73 年)」のデータは、

藤本浩之輔『子どもの遊び空間』(NHKブックス、1974 年)227 頁の表 51 から引用。ただし、サンプ

ル数は不明でパーセントだけが表示。「父親の小学生時代」とは、小4男子(73 年)の父親にたずねた

遊びのことを意味する。

(注2)表中の数字は、すべて重複回答である。したがって小学生男子のテレビゲームは、小学生男子サ

ンプル合計 27人の 74%を意味する。また小学生女子の本読みは、小学生女子サンプル合計42人の64%

という意味である。

(注3)97年調査のサンプルは、住民票からの無作為抽出により、阿倍野校区内の小学生180 人に質問紙

を送付し、69人の有効標本を回収した。

97 年調査は、原田研究室において、73年調査と同一地域で同じ調査を実施したもの

資料:原田宗彦[2002]『スポーツイベントの経済学』。

なお、「公園についての自由記述では、『フェンスがあり、狭くて走り回れない』、『あま

り人がいないので怖い』、『ごみがあふれていて汚い』と不満が続出した。それでも7割以

上が『必要な場所』、『公園は楽しい』と答えた」という結果は、子どもが運動することを

完全に嫌っている訳ではなく、今後、より運動する方向に転換する可能性があることを表

しているともいえよう。

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(今後のスポーツの取り組みへの提案)

こうした状況のなか、SSF笹川スポーツ財団[2006]では、試合を通じて、主体的な練

習のモチベーションも生まれ、また、スポーツの楽しさを理解できるものであるから、試

合中心のスポーツ文化、すなわち、「わが国のスポーツ環境を『練習優先』から『試合第一、

練習第二』に転換すること」を提案している。これは、「内発的動機」を重視し、子どもが

「自分が本当に弾きたい」という気持ちが内側から涌き出てくるまで待ち、その時に一気

に教えると、スポンジに水がしみ込むかのようにものすごく速いスピードでバイオリンの

弾き方を吸収し、3、4歳でバッハやモーツァルトを弾けるようになるケースもあるとい

う「鈴木メソッド」5にも相通じるものがある提案で、スポーツの楽しさ、試合に負けたく

やしさなどが練習への動機となり、「やらされる練習」から「自ら進んで行う練習」になる

ことで、スポーツ技術の向上にも良い効果が出てくることが期待される。

また、日本体育・スポーツ経営学会[2004]では、「総合型(地域スポーツ)クラブだけが

地域スポーツの場ではない」と、総合型地域スポーツクラブが、各個人が自主性をもって

スポーツを楽しむことを妨げることのないようにという指摘も行っている。

5 鈴木メソッドに関しては、株式会社コーチ・トゥエンティワンの発行しているメールマガジンWEEK

LY COACHの 2007 年 11 月 21日付けVol.425「内発的動機」(鈴木義幸)を参照した。

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第2節 スポーツ産業の推移と現状

“スポーツ産業”という言葉からイメージされる具体的な業種は、人により様々である

のが実態であろう。この要因は、広瀬[2006]が指摘しているように、「『スポーツは生産さ

れるのか?』したがって、『スポーツは産業化できるのか?』という基本的な部分の了解が

不十分だからではないだろうか」、「スポーツは今や産業として大きな分野になっている。

しかしながら、言うまでもなく元々経済財として生産されたものではない。即ち、産業化

することを想定されていない」という要因があると思われる。

こうした状況のなか、「スポーツビジネスをどのように定義するかはまだ明確になってい

るわけではない。比較的先行しているアメリカにおいてすらその定義化はなされないまま

スポーツマーケティングにシフトしている。同様に、わが国においてもスポーツビジネス

は、スポーツマーケティングとして論述されていくことが多い」と早川[2006]が指摘する

流れとなっており、各研究者が自らの論点に応じて定義をしつつ、議論(研究)を深めて

いるのであろう。当節では、“スポーツ産業”はどのようなイメージで語られ、あるいは、

研究されてきたのかという点から確認していく。

1.スポーツ産業の定義と特性

(1) スポーツ産業の定義

(広義的定義と狭義的定義)

日本標準産業分類での産業の定義を参考にし、スポーツ産業を広義的に定義したもので

は、木村(片山・木村・浪越編著[1999])の「事業所において社会的な分業として行われ

るスポーツの財貨及びサービスの生産または提供に係わるすべての経済活動をいう。家庭

内の家事労働を除き営利活動のみならず、非営利活動も含める」というものがあげられる。

同じく、木村は、スポーツ事業を、「営利であるか非営利であるかにかかわらず、社会的な

分業(仕事)として行われるスポーツサービスの生産と提供にかかわる経済的かつ社会的

な活動」と定義している。

こうした広義的な定義としては、清水(八代・中村編[2002])も「スポーツやスポーツ

にかかわる財やサービスの生産と提供を事業内容とする産業」とし、「建設業、製造業、小

売業、通信業、サービス業などの各産業分野を横断し、これらの業種からスポーツに関連

するものを取り出してまとめた集合体として名付けられ」たものであり、「スポーツ事業以

外の事業(スポーツ行動の成立・維持・発展には直接関係しない事業)も多く含まれてい

る」と指摘している。また、渡辺[2004]も、「第1次産業から製造業等の第2次産業および

第3次産業に跨る横断型産業であり、それぞれの特質を有したスポーツに関しての財貨ま

たはサービスを生産し提供する集合体である。また、それは営利活動、非営利活動も含め

る」としており、スポーツに関わっている業種を全て含めた集合体としてのスポーツ産業

を定義づけている。

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一方、スポーツを「する」「みる」ための事業(「させる」、「みせる」ことで対価を得る)

に絞り込み、議論を展開している研究も多い。例えば、広瀬[2006]は、スポーツマネジメ

ントをテーマとした同著のなかで、「『スポーツというサービス』を生産し、販売する産業」、

「即ち、スポーツ産業はスポーツ・サービス産業であり、第三次産業であること」を前提

とし、「スポーツ用品産業は、第二次産業の製造業であるので、『スポーツ産業』には含ま

れない」として論を進めている。また、渡辺[2004]は、「スポーツビジネスの複合体がスポ

ーツ産業と捉えてよいと考える。スポーツの用品製造や販売もスポーツビジネスには違い

ないが、スポーツビジネスはスポーツ産業のなかでもスポーツを商品化できるもの、すな

わち、業として確立し得るかどうかが前提」として、プロスポーツ、授業料・指導料等を

徴収するスポーツ教室、ジムなどを具体例としてあげている。こうした指摘は、産業論を

展開するのではなく、その先のマネジメント論を展開していくことが主目的であり、その

ためには、同質的な業種に絞り込む必要があることから、絞り込みをしたうえで議論を展

開しているものと考えられる。 (スポーツマーケティングの研究の視点)

先に見たように、論点を踏まえたスポーツ産業の定義という点では、“スポーツマーケテ

ィング”という研究のなかでの議論も多い。この議論のなかでの各研究者の立場、論点の

整理を丁寧に行っている研究として、原田[2004]がある。そこでは「『するスポーツ』を強

調した山下(山下秋二[1985]『スポーツマーケティング論の展開』体育経営学研究)の考

え、『見るスポーツ』を強調した間宮(間宮聰夫[1995]『スポーツビジネスの戦略と知恵』

ベースボールマガジン社)や広瀬(広瀬一郎[2002]『新スポーツマーケティング』創文企

画)の考え、そして両者を包含したマリン(Mullin B, Hardy S.& Sutton W.[2000] Sport

marketing Human Kinetics)」の3つの立場を紹介している。

先に定めた本報告書でのスポーツの定義の視点に立てば、本報告書におけるスポーツ産

業の定義は、「する」スポーツ、「みる」スポーツとともに「『着るスポーツ』(スポーツ用

品の購買)、そして非営利活動をも包含する『支えるスポーツ』(スポーツ・ボランティア

活動)にまで守備範囲を広げる立場が存在する」(原田[2004])と同じ立場(定義)という

ことになる。 (通産省によるスポーツ産業の定義と分類)

通商産業省(現経済産業省)が平成2年に発表した「スポーツビジョン 21」では、スポ

ーツ産業を「『スポーツ需要』を的確にとらえ、国民のスポーツの文化的享受の実現のため

に、『モノ』『場』『サービス』を提供する産業」と定義しているが、「従来の産業分類によ

っては範囲を規定されず、複数の産業群から構成される概念」、「消費者の求める各種の要

求に的確に提供する観点から産業をとらえた概念」としている。スポーツ産業の領域、産

業の広がりを表す図表を提示している(簡略化して図表1-2-1に掲載)。

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図表1-2-1 『スポーツビジョン 21』に示されたスポーツ産業領域

スポーツサービス業

<用品関連> <情報関連> <スペース関連>

スポーツ用品流通業

(スポーツ用品卸売業)

(スポーツ用品小売業)

(スポーツ用品輸入代理

業)

スポーツ用品レンタル業

スポーツ用品宅配業

スポーツジャーナリズム業

会員権売買業

スポーツイベント業

スポーツアクセス業

スポーツ旅行業

スポーツ保険業

スポーツ情報ネットワークシステム業

スポーツ金融業

スポーツ施設運営業

(会員制スポーツ施設運営)

(非会員制スポーツ施設運営)

(スポーツ宿泊施設運営)

スポーツ人材派遣業

スポーツ貸倉庫業

スポーツカウンセリング業

スポーツスクール業

(スポーツ専門学校)

ソ フ ト

(種目別スポーツスクール

業)

ハ ー ド

用品 スペース

スポーツ用品製造業

(品種別分類)、(種目別分類)

ニュースポーツ用品製造業

(スポーツ用オートバイ製造業)、

(スポーツ用自転車製造業)、

(スポーツ用自動車製造・改造業)、

(各種スカイスポーツ用品製造業)、

(各種マリンスポーツ用品製造業)、

(その他ニュースポーツ用品製造業)

スポーツ施設関連品等製造業

その他スポーツ関連品等製造業

都市型スポーツスペース業(建設業)、(開発業)、

(種目別スポーツスペース業)、

(多種目複合スポーツスペース業)、

(その他スポーツスペース業)

リゾート型スポーツスペース業(建設業)、(開発業)、

(種目別スポーツスペース業)、

(多種目複合スポーツスペース業)、

(その他スポーツスペース業)

スポーツスペースリフォーム業

その他スポーツ関連スポーツスペース業

スポーツ製造業 スポーツスペース業

資料:通商産業省[1990]『スポーツビジョン 21』より作成。

この分類は、スポーツに関係する業種を全て網羅するという形で作成されており、概念

的な分類という色彩も濃い。例えば、スポーツ用自転車製造業などにおいて、自転車の使

用で、スポーツとスポーツ以外に明確に区分できるのかという問題(日常用とスポーツ用

との区別がつきにくくなっているという製品そのものの持つ特性)もある。

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こうした点では、『スポーツビジョン 21』について、渡辺[2004]は「『する』スポーツを

中心として『読む』『飲む』などこれまでなかった多角的な観点から各種産業を再編成して

おり、スポーツ産業理解において示唆に富んだものとされている。ただ、現実においては

分類上重複する業種や業域が存在するといった問題やプロスポーツの領域の不明確さなど

が指摘されており、今後におけるスポーツ産業領域問題についての課題でもある」と評価、

指摘している。さらには、早川[2006]の指摘のように、「スポーツ選手の権利主張・擁護を

代弁・弁護するエージェント業やインターネット上で行われるスポーツビジネスなどの新

たなビジネス、とりわけメディア・スポーツには言及されていない」という課題もある。

ただし、早川の指摘は、『スポーツビジョン 21』作成時点(1990 年)以降、権利ビジネス

が確立・拡大してきたこと、メディアにおけるスポーツ(特に国際大会)の位置づけが大

きく変わってきたこと、インターネットの発展など、作成時点と指摘時点のスポーツに関

係するさまざまな環境の違いを考慮する必要もあろう。

(2) スポーツ産業の特性

(サービス業の特性での捉え方が多い)

業種横断的に位置づけたスポーツ産業の全体をカバーするような特性を示すことは、か

なり難しい作業である。上西[2000]は、「スポーツ産業には製造業なども含まれるものの、

スポーツがすぐれて人間の身体活動と不可分であるゆえに、その本質はいわゆる第三次産

業、サービス産業である」とも述べている。

例えば、先に引用した『スポーツビジョン 21』における産業特性の記述を確認すると、

「スポーツ産業は、製造業、サービス業に広がる横断型産業であり、それぞれ特質を有す

る業種の集合であるが、これを総体として見た場合には、大きく以下の特徴が考えられる」

として、「スペース・立地重視型産業、時間消費型産業、サービス業の比重が高い、 終消

費財、サービスを扱う産業」の4点をあげ、あわせて、スポーツ産業の文化性、公益性に

もふれている。4点の特性のうち、 初の2点は、スポーツという行為そのものの特性で

あり、図表1-2-1を使うならば、図表中央部の「スペース」で区切られた部分に含ま

れる各業種の特性であるともいえる。

また、木村(片山・木村・浪越編著[1999])は、「①生産者側からだけではとらえにくい、

②サービス部門の比重が高い、③消費者の享受能力がキーポイント(消費者の能力によっ

て、その使用価値は著しく違ってくる)、④空間・時間消費型(消費者が単に財貨を所有す

れば満足が得られるというところにあるのではなく、スポーツという特別の空間で、ある

一定の時間、製品やサービスと楽しい関係をつくれるかどうかという点にある)、⑤非市場

経済の影響が大きい(税金によってまかなわれてきた部分が大きい。またスポーツは常に

外部のサービスの消費を必要とするわけではなく、自家生産(内生化)できるという特徴

もある)、⑥いまだに「スポーツの商業化」の批判」と6点の特性を論じている。

このように、スポーツ産業の特性という場合、スポーツの特性とも言い替えできるよう

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なものをあげているケースが多いようである。逆に言えば、スポーツ産業に共通するもの

といえば、スポーツを扱っているということであり、スポーツそのものの特性に影響を受

ける産業であるとしか言いようがないのかもしれない。

こうした点では、木村(八代・中村編[2002])が、マリンらの論を引用して説明してい

る「スポーツサービスの特徴である①スポーツは無形で主観的である(無形性と主観性、

参加した人によってさまざまな印象をもたれ、体験され、解釈される)、②スポーツは一貫

性がなく予測不可能である(非一貫性と非予測性)、③スポーツは消滅しやすい(一過性)、

④スポーツは感情を伴う(情緒的一体感)(Mullin,Hardy & Sutton,1993)」を念頭におい

ておくと理解しやすいと言え、渡辺[2004]が、スポーツビジネスの特有性の1つにあげて

いる「レジャー的部分があるためブームに左右されやすい」という点も、スポーツ産業に

属する各業界を経営的側面から考察する上で重要なポイントといえる。

(3) スポーツ産業の規模

(把握の難しさ)

スポーツやスポーツ産業の定義自体が難しく、既存の統計データ(業種区分)と必ずし

も一致しないこと、先に述べたように、事業者、あるいは、消費者自身がスポーツか否か

を判断、区分しにくい製品特性があること、また、業種横断的な側面を持つことから、そ

の規模を計ることも難しい。

(スポーツ産業の規模の推計)

詳しくは第3章で確認することになるが、スポーツ産業の規模を示している代表的なも

のに、『レジャー白書』(財団法人社会経済生産性本部)がある。その 2007 年版によると、

スポーツ市場は平成 18 年で4兆 2,970億円となっている。なお、このうち、ゴルフ関連(ゴ

ルフ用品、ゴルフ場、ゴルフ練習場)の合計は1兆 6,970 億円で、約4割(39.5%)をし

めている。この要因としては、松田[1996]が、「(1994 年に全体の 47.1%を占めていること

を踏まえ)プレイ人口が多いことと、プレイ料金が高いこと」、「ゴルフ場に対する補完的

装置としてゴルフ練習場の存在」を指摘している。

上條[2002]は、『レジャー白書』や順天堂大学の試算を基にスポーツ産業の規模を「(1995

年時点で)約7兆 5000 億円」と推定し、「7兆円超の規模というと、99 年の医薬品産業の

規模約6兆円より大きな規模」と評価している。さらに、「試合参加やレジャー・スポーツ

のためのスポーツ・ツーリズムの要素、スポーツ医療の要素、スポーツ新聞やスポーツ雑

誌以外のメディアでのスポーツ関連情報提供市場の要素などが脱落」していることを指摘

している。

米国のスポーツ産業の規模を原田[2002]が引用しているものをみると、「ジョージア工科

大学がアトランタ五輪(1996 年)の前年に行った調査では、アメリカのスポーツ産業は 1520

億ドルという巨大市場を持ち、国内産業別ランキングの 11 位に位置づけられた。この調査

では、スポーツ産業を『スポーツエンターテイメント』『スポーツ製品』『スポーツ支援組

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織』の三領域とし、ツーリズムからイベント、そしてメディアからプロスポーツまでを含

む視点から分析している。1520億ドルという額は、電機産業の 1385 億ドル(13 位)、印刷・

出版産業の 897 億ドル(19 位)、そして自動車産業の 887 億ドル(20 位)を上回り、国内

総生産の 2.0%に相当する」規模である。

さらに、原田は、「(レジャー白書の)数字は、スポーツ用品の購入、スポーツ施設使用

料、スクール参加費用、スポーツ観戦費用といったスポーツに関連した個人消費の総額で

あり、アメリカのようなスポーツ関連のツーリズムやスポーツ用品の開発費用、そしてマ

スメディアで動く放送権料やスポンサーマネー等の数字は含まれておらず、スポーツ市場

の実態を把握するには不十分」と指摘したうえで、「わが国の『スポーツイベント』市場の

規模を推計した報告書によれば、イベント関連だけでも約 5.5 兆円規模の市場があるとさ

れている(社団法人スポーツ産業団体連合会『スポーツイベント市場に関する調査研究』

1996 年)。これにジョージア工科大学の試算で用いられた、スポーツ・ツーリズムを含む『ス

ポーツエンターテイメント』という大きな枠組みや、スポーツ用品、そしてスポーツ支援

団体といった項目を加えていくと、わが国のスポーツ産業の大きさは、アメリカには及ば

ないものの 15 兆円程度の規模になるのではないだろうか」と試算している。

スポーツ産業をどう定義するかによって金額は異なるとしても、上條[2002]の指摘する

ように、「スポーツ市場を形成するスポーツ支出の規模が小さいのではないかとの意識が根

強かった」ものは、改めねばならないということであろう。

あわせて、上條[2002]は、「日用のシューズをスポーツにも使うということよりも、スポ

ーツ・シューズを日用のシューズとしても使うということのほうが多いことは興味深い」

と、「『スポーツの感覚』が日常生活をリードするパワーを一層強めてきた」ことを指摘し

ている。これは、スポーツ産業がスポーツを行う人のみならず、スポーツを行わない人も

対象(市場)にできうるという、スポーツ産業の持つポテンシャルを指摘しているといえ

る。

(4) 「みる」スポーツ

(「みる」スポーツとは)

「みる」スポーツは、視点を変えれば「みせる」スポーツともいえる。一番わかりやす

い事例は、スポーツを興行として行うプロスポーツや、大会運営費用などを賄って余りあ

る収入を得ているオリンピックなどの国際スポーツ大会などがあげられる。

競技スポーツの商業主義的発展段階に関する渡辺[2004]の説を図表1-2-2に示した。

「みせる」スポーツとして、直接的、間接的に「みる」者から対価を得ている程度により、

3段階に区分できるということ、各々の段階に含まれるスポーツがどのようなものかとい

う点で、参考になるものである。

こうした「みる」スポーツは、誰から対価を得ているのかということでは、広瀬[2005]

が指摘するように、「ファンとメディアとスポンサー企業」ということになる。すなわち、

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ファンからは、入場料やチームの関連グッズなどの販売収入、メディアからは放映権料、

スポンサー企業からはスポンサー料をスポーツの主体(チームや大会主催者)は得ること

になる。こうした4種類の収入は、知名度、ファン層の多さなどにより相乗効果的に拡大

していくものであるが、逆に、立ち上げ時には、いずれからの収入も少なく、厳しい経営

状況に直面することになる。 図表1-2-2 競技スポーツの商業主義的発展分類

スポンサーシップそのもの

スポンサーシップ一部あり 商業スポーツ

スポンサーシップなし 準商業スポーツ プロ野球、大相撲、

競技スポーツ Jリーグなど

実業団大会など (プロスポーツ)

学校教育・地域社会での みせるスポーツ

スポーツ 大学駅伝、冠大会など

(++社主催**大会)

(純粋アマチュア競技)

資料:渡辺保[2004]『現代スポーツ産業論』より作成。

(「みる」スポーツとしてのスポーツ産業の特性)

先にスポーツの定義の項でもみたように、「みる(みせる)」スポーツ、特に、興行ビジ

ネスを行っているプロチームにスポーツ産業を限定した場合では、広瀬[2005]は、他の産

業との違いという視点から「プロダクトの生産過程の違い、ステークホルダー(特に顧客)

が複雑、公共性の問題」の3点をあげている。生産過程というのは、「生産する商品とは『ゲ

ーム(試合)』」であり、「『ゲームという製品』の質を上げるためには、いかに高レベルで

実力を拮抗させるかが課題」、すなわち、「1チームの突出は経済的、産業的には無意味で

す。重要なのはリーグ全体が『共存共栄』型の産業であるという認識です(個人競技はこ

の限りではありません)」と説明している。

原田(山下・畑・冨田編[2000])は、サービス商品としての「みるスポーツ」が持つ商

品特性として、「①品質が不安定で結果が予測しにくい、②消費者が納得する価格が設定し

にくい、③チームの戦力や選手のモチベーションなどマーケティングの力が及ばない要素

が多い、④ファン層が幅広く、したがってファン市場を特定化しアプローチすることが困

難である」の4点をあげている。ただし、①の不安定性がある(結果は体験するまでわか

らない)からこそ、広瀬の指摘している共存共栄が成り立ち、また、ファンをひきつける

要素になっているともいえよう。

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なお、「みる」スポーツとしては、スポーツそのもののみならず、そこに付随する要素も

重要になってくる。斉藤(八代・中村編[2002])は、みるスポーツの価値(楽しさ)の構

造として、スポーツレベルとして、ゲームレベル(学習、競技内容、試合結果)とゲーム

以外(セレモニー)、それに、エンターテイメントレベル(メディア、お祭り騒ぎ)の3点

をあげている。後でも触れるが、プロスポーツとして、ビジネスを成立させるためには、

勝敗に関わらず、収入を得ることも重要であり、「みせる」スポーツにおいては、これら3

点のバランスをうまくとる必要がある。

また、広瀬[2005]は、「みせる」というエンターテイメント性の視点から、「音楽や映画

をはじめとする他の産業は、そもそも『見せるため』『聞かせるため』に作られていますが、

スポーツはもともと見られるために開発されていない」、「プレーしている人間が楽しめれ

ばいいように作られているため、理解するためには、相当なエネルギーを必要」とすると

いう点で他の産業との違いがあり、「面白さを理解してもらうためには、見る者に学習させ

る必要がある」ものの、それは「学習して一度面白いと思ってしまえば習慣的になってし

まう可能性の裏返し」でもあると指摘しているが、この点も、「みせる」スポーツとしての

大きな特徴であるといえる。 (メディアにとってのスポーツの重要性)

先に、スポーツの特性として、①健康の維持増進、②楽しみ、ストレス発散、③自己の

開発、④他とのコミュニケーション、関係構築の4点をあげた。このうち、②、④の点が、

様々なコンテンツとして扱うメディアのなかで、スポーツが重要な位置を占めることにつ

ながっている。特に、④については、広瀬[2002]が「視覚に訴えやすいため、non-verbal

コミュニケーションとして言語、国境、人種の壁を越えたグローバルなアピールが可能で

ある。しかも趣味性が低いため、世代間のギャップも少ない」と広い訴求対象をもつスポ

ーツの特性を指摘しているとおりである。

また、広瀬は、「報道と並んで もリアリティーのあるソフトであり、報道(ニュースヴ

ァリュー)という側面も併せもつため、テレビのニュース、または新聞で記事のネタとし

て取り上げられることも多い。したがって量としての露出が確保でき、なおかつ質として

のアピール力も強力である」とも指摘している。

テレビメディアに限ってみた場合、広瀬は、「制作費という観点からも大変便利なソフト

である。何といっても全ての試合がオリジナルであり、そのオリジナリティーはテレビ制

作サイドが責任を持つ必要がない(競技力や試合展開に責任を持てと言っても無理な話)」

というスポーツの特徴や「『準備ができない』出来事性(イベント性)と、本来持っている

公共性のおかげで並み居るエンターテイメント・ソフトのなかでは報道という範疇で扱わ

れるという特権的な地位」がスポーツに与えられていることもあわせて指摘している。

このように、コンテンツ(放送する内容・情報)としての特徴を持つスポーツは、「(衛

星放送やケーブルテレビ、有料テレビなど)世界中で多チャンネル化が進んでいる現在、

地球規模で慢性的なソフト不足が起こっている」(広瀬[2002])なかでは、その価値がより

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高くなってきている。この点は、早川[2006]も、「(多チャンネル化のなかで)スポーツを

コンテンツとして考えれば、かなりのチャンネルを埋めることが可能となる。つまり、多

チャンネルによる放映を組み合わせることによってこれまでとは違う映像、あるいはクラ

イアントの求める内容の映像を提供することが出来るようになる。例えば、あるプレイを

映像化して放映する場合、現在は各カメラの映像を放送局でディレクターやプロデューサ

ー(スイチャー)の操作によって切り替えながら行っている。これを、各カメラの映像を

そのままチャンネルに流し、視聴者が自分で好きなカメラに切り替えるようにすれば、単

純な映像でありながら視聴者にとっては個々人にあった大変興味ある映像をたのしむこと

ができるのである」とコンテンツとしての価値の高さを指摘している。

(スポーツビジネスの確立)

こうしたスポーツのメディア内での重要性の高まりの中で、「スポーツの持つ商品価値が

マーケティングの視点から開発され、『スポーツ権益の再販』というスポーツビジネスの仕

組みが完成した」(原田[2002])、すなわち、「(1)独占放送権販売(放送権料)と(2)公式ス

ポンサー・サプライヤー制度、そして(3)商品ライセシングによるマーチャンダイジングと

いった、スポーツが生み出す『権利』を取引するスポーツビジネスの<方程式>をつくり、

それを事業として軌道に乗せた」(原田[2004])のは、1984 年のロサンゼルス五輪であった

と指摘されている。

その後、オリンピックのみならず、各種国際大会においても、放送権料などの高騰がみ

られ、原田のいう「スポーツ権益の再販ビジネス」が加速することになる。しかし、それ

は、金銭的なメリットをスポーツ側(国際大会主催者やプロスポーツチーム)が受けるだ

けには留まらなかった。

(メディアにコントロールされるスポーツとの指摘も)

すなわち、「現在ではテレビにおけるスポーツイベントの宣伝効果に注目したスポンサー、

そのスポンサーの獲得により利益をあげようとするテレビ界、テレビ局の放映権料とスポ

ンサーの協賛金でイベント(競技会)を運営しようとするスポーツ界、といったそれぞれ

のサイドの利害関係が一致してその共同体制が成立しないと、メジャーなスポーツイベン

トが開催できないまでに」なってしまい、その結果「『プレイする人中心』から『見る人中

心』にその重点が移され、そのイベントの送り手であるテレビの意向がスポーツのあり方

を左右するまでになっている」と松本(金芳・松本共著[1997])は指摘している。

つまり、「テレビサイドにとって、スポンサー獲得と高視聴率獲得のためにはスポーツの

よりいっそうの『ショー化』が必要であり、そのためにスポーツの競技運営方法のみなら

ず、スポーツそのもののルールや競技形態の変革にまでその影響力を行使するという事態

が生じてきた」し、逆に、「メジャーなスポーツへの進展をねらって、テレビ放映に合う内

容へとスポーツ界自身からスポーツの変革を行うということも起きて」おり、「テレビによ

るスポーツの支配」が起きていると、あわせて松本は指摘している。

この点は、早川[2006]も、「テニスのタイブレーク方式の導入、バレーボールのラリーポ

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イント制、プロバスケットのクォーター制、プロ野球の延長時間、イニングスの規定、サ

ッカーのVゴールやPK採用などの競技内容の変更に関わるものや、競技日程、競技開始

時間の設定そしてオリンピックに見られる種目設定(見栄えのする種目の採用)など競技

の運営に関わるものまでメディアやスポンサーからの要求によるものである。これを整理

してみると、一定の放送時間内で競技が終了するような時間制限ルールの変更から放送時

間に合わせた競技時間の変更(ソウル五輪大会や米国でのサッカーワールドカップ大会)、

そしてより見栄えのする競技種目へと変更内容が拡大してきている。これはメディアのグ

ローバル化が進むことで一層加速しているといえる」とより多くの具体例をあげて指摘し

ている。実際、どこまでマスメディアを意識してルールを変えているのか、議論の余地も

あろうが、こうした批判の裏側には、スポーツを「する」側面よりも、「みせる」側面を重

視している(ように見える)ことへの問題提起が含まれているものといえよう。

なお、メディアに関しては、第3章第5節でさらに掘り下げて考えていくこととしてい

る。

(「みる」スポーツ経営のために)

ただし、山本(広瀬編著[2006])が指摘するように、「(スポーツビジネス産業の顧客の)

余暇時間はスポーツ産業だけの独占物ではない」ことから、「多数のエンターテイメント産

業との間で消費者を奪い合う、『余暇をめぐる戦い』という形でエンターテイメント産業内

での競争が巻き起こされている」なかで、スポーツが生き残るためという視点では、こう

した対応はやむをえないという側面もあるだろう。

また、スポーツ興行を事業とする事業者にとっての経営面での留意点としては、広瀬

[2005]が指摘するように、「(勝ち続けることはできないし、勝ち続けることは、逆にリー

グとしての面白み(共存共栄体制)をなくすことから、)負けても楽しく感じてもらえるよ

うな、エンターテイメント的な要素や付加価値を創出するマーケティング活動を行わなけ

ればならない」、つまり、「勝敗に事業性がリンクしないことが重要」といえる。 また、厳しい意見としては、山本(広瀬編著[2006])の「わが国のプロ・スポーツ・チ

ームが企業の福利厚生、広告宣伝の手段として位置づけられる“企業スポーツ”の枠を打

ち破っていないことに 大の問題があるのではないか」という指摘や広瀬[2006]の「スポ

ーツ競技における成功だけを目的にチームを運営し、その生み出す赤字をオーナーである

企業から補填する形態の他人依存型のプロ・スポーツ・チーム経営を行うようなあり方は、

結局自らの力で成長を成し遂げることができないという意味で本格的なスポーツビジネス

展開の阻害要因になっている」という指摘もある。

さらに、斉藤(八代・中村編[2002])は、「観戦者の観戦能力によって観戦される内容は

異なる(初級者のスポーツ観戦はエンターテイメント価値の割合が大きく占め、ゲームの

結果や選手の応援といった表象的な部分に注目する。一方、上級者は、スポーツの本質的

価値である技術や戦術という抽象的な部分やドラマティックな展開といった競技内容に大

きな関心が集まり、さらに観戦することで自分の技能を高めるよう学習したり、鑑賞のた

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めの教養を高めようとする)」として、「すべての観戦者の『みるスポーツ』の楽しさを十

分に堪能させるような経営が期待されるが、他方では、初級者や中級者の『みるスポーツ』

生活を定着させることで、継続的な観戦を促し上級者の方へスライドさせていく、つまり

観戦者を上級者へ育てていくという時間的なパースペクティブにそった長期的戦略も求め

られる」と、スポーツを「みる」側の育成の必要性を指摘している。

(「みせる」スポーツの舞台としての施設の課題)

後でみるようにスポーツ施設は、都道府県持ち回りで開催されている国民体育大会や国

際スポーツ大会の招致により整備されてきた。ただし、渡辺[2004]は「これらの施設はハ

ード、ソフト両面からみたとき、はたして『みる』側、『みせる』側のニーズに立脚してい

るかどうか疑問が残る。岡野(岡野俊一郎 産経新聞 1993 年1月 23 日)のいうように、

日本のスポーツ施設は、『道場から劇場へ』という発想の転換が今、求められている」と 1993

年の岡野のコメントを引用しながら、施設の課題を指摘している。

また、「みる」スポーツに関しての著述の多い広瀬も、「日本においては、プロスポーツ

の施設でさえ、あくまで『競技』することのみが重要であり、『見ることを前提に造られて

いる』ケースは少ないのが現実」とし、例えば、「『見やすい』『歩きやすい』『ゲートがわ

かりやすい』『待ち合わせがしやすい』…、こうしたことに配慮されている施設はまだ少数」

と指摘している(広瀬[2005])。施設面の課題は古くから指摘されてきたものの、施設の整

備・改修を伴うことからか、状況はあまり改善されていないといえる。

施設面が「みせる」スポーツの選手に与える影響として、同じく広瀬[2005]は、「日本の

学校の体育館には観客席がありません。したがって、日本においては、少なくとも、高校

まで体育館で行うスポーツは、“する”ものでしかなく、“観る”対象ではない」ことを指

摘し、このため、「小学校・中学校・高等学校と、常に見せることを意識せずにプレーして

きた選手が、ある日突然、見せることを前提にプレーをしろと言われても難しいのが現実」

であり、「観戦することが一般に定着してはじめて、その中から競技に対する興味が涌いて

くる人が出てくる」ことから、「 低限、“観る”ためのスポーツとして定着するために、

2段ないし3段の観客用組立式ストレッチャーを、学校を含めた全ての体育館に用意する

など、“観る”ためのハード整備が必要」と対応策を提案している。 スポーツ施設に関しては、第3章第1節、第3節でさらに掘り下げて考えていくことと

している。

(セカンドキャリア問題)

施設面とともに、「みせる」スポーツが解決すべき大きな課題としては、プロ選手の引退

後の社会人としての生活、いわゆるセカンドキャリアの問題もある。間野[2006]によると

「プロスポーツ選手の平均引退年齢は、相撲が二十二歳、サッカーが二十五歳、野球が二

十九歳と『選手』として活躍できる期間は極めて短い」のである。

しかも、澤野[2005]の言葉を借りるならば、評論家やコーチ、球団職員などに全ての選

手がなれる訳でもないなか、「子供のころから、野球しかしてこなかった人が、30 を過ぎて

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突然企業で働くのは困難といえる。働くすべを覚えるのは、個人差はあってもせいぜい 20

代までで、その後は家業を継ぐとか何かの店をもつなどしか可能性が残されていないこと

になる。専門知識だけが問題ならば、何歳になろうと改めて勉強すればいいが、『商売』と

いう観点からの挨拶や人間関係技能、資金や伝票の流れ、儲けの仕組みなど、企業で働く

ための基本的事項を頭が固くなってから習得するのは容易ではない」という課題を抱えて

いる。

間野[2006]の指摘するように、「企業スポーツが衰退する中、大学や高校での活躍が、か

つてのように就職活動に有利に働くとは限らなくなりつつあることからも、プロスポーツ

選手の引退後の不透明さは、ドミノ倒しのように、企業スポーツ→大学スポーツ→高校ス

ポーツに波及し、『スポーツをしても将来は暗い』といった風潮とともに縮小均衡に向かう

恐れもある」状況は避けなければならない。

したがって、広瀬[2006]の指摘するように、「産業の将来を担うべき人材の育成は将来に

備える戦略の中では上位に位置付けられるべきものだ。 近『セカンドキャリア』問題が

クローズアップされているが、セカンドキャリアではもう遅いのである。ファーストキャ

リアの段階でキャリア構築を検討しなければ有効な対応は無理であろう」から、「選手のキ

ャリア問題は当人だけの問題ではない」ものであり、「人材の育成と有効な活用方法は、ス

ポーツ界全体が真剣な再検討をすべき時がきている」と、プロスポーツ業界をあげての対

応が必要となっている。実際、プロスポーツ業界において、支援の動きが出始めている。

引退した選手が、スポーツ用品店やスポーツ施設業などで、指導面も受け持ちつつ、販

売や施設管理などを受け持っている場合も散見される。この延長線上にある考えとして、

広瀬[2005]は、スポーツ施設などにおける指定管理者制度が「トップ選手のセカンドキャ

リアとしても十分に可能性は広がる」なかで、「運営を受注する人材のキャパシティーが不

足している」と指摘している。地域社会としても、「みせる」スポーツをしていた人をいか

に、「支える」(教授する)側に立たせ、卓越したスポーツ技術を地域に還元してもらうか

を考えることも、セカンドキャリア解決策やスポーツ振興策のひとつといえよう。なお、

具体的な対応状況などは、第3章第7節で確認することとしている。

(5) スポーツマーケティングの対象

(of と through のマーケティング)

スポーツ産業や第4章で触れるスポーツによる地域振興などを考えていくには、「スポー

ツマーケティング」という概念を整理しておく必要がある。中西(片山・木村・浪越編著

[1999])がまとめたものを引用すると、「Mullin(1985,1993)によれば、スポーツマーケテ

ィングには2つの性質があるという。すなわち、『スポーツのマーケティング』(marketing

of sport)と『スポーツによるマーケティング』(marketing through sport)といった2

つの構成要素がそれです。前者は、スポーツの消費者に対する直接的なスポーツ製品やサ

ービスのマーケティングを意味しており、後者はスポーツプロモーションを利用したスポ

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ーツ以外の消費者製品や工業製品のマーケティングを意味しています」ということである。

こうした2つのスポーツマーケティングに関して、原田[2004]は、「する」スポーツと「み

る」スポーツに分けて、さらに公共セクターと民間セクターという主体別に分けて例示し

ている(図表1-2-3)。

図表1-2-3 スポーツマーケティングの領域

するスポーツ 見るスポーツ

公共セクター 民間セクター 公共セクター 民間セクター

スポーツのマーケ

ティング

・スポーツ振興戦

・公共スポーツ施

設の集客戦略

・民間スポーツク

ラブの会員獲得

戦略

・スポーツ用品メ

ーカーの新製品

キャンペーン

・公共スタジアム

の経営

・プロスポーツチ

ームへの出資

・民間スタジアム

の経営

・プロチームの経

スポーツを利用し

たマーケティング

・公共広告へのス

ポーツ選手の活

・フットサルや3

オン3を使った

企業の PRや商店

街の販促活動

・スポーツによる

まちづくり

・スポーツを触媒

(キャタリスト)とし

た都市経営

・実業団チームに

よる企業イメー

ジの向上

・スポーツ・スポ

ンサーシップ

資料:原田編著[2004]『スポーツマーケティング』より作成。

こうした2つの区分は、すなわち、特定のスポーツそのものの振興(人気)と密接な関

連を持つ業界もあれば、スポーツそのものの振興(人気)とは関係なく、その時々で人気

のあるスポーツ業種、あるいは、スポーツ選手を使っていくことが可能な業界もあるとい

うことを示している。何らかの形でスポーツに関わる業界、企業が多いなか、各々がどち

らに属しているのかを踏まえたうえで、スポーツ産業なり、スポーツによる地域振興を考

えていかねばならないのである。 この点に関して、広瀬[2002]は、平成 10 年に起こった Jリーグのチームの消滅をめぐる

世論やメディアが、「『of』の観点での意見がほとんどであった。何故全日空がチームに出

資しているのか、つまり『through』の観点からのものが見られなかった」と指摘し、「あ

の時点では、スポーツマーケティングからの議論がついに見られなかったのは実に残念で

あった」と結んでいる。スポーツ競技でのプロ化が進みつつあるなかで、スポーツマーケ

ティングに関する2つの視点は、一般的に十分区別しては理解されていないのが実態であ

ろう。

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2.スポーツ産業の歴史

(スポーツ産業の区分)

スポーツ産業の成り立ちと発展の経緯を確認するが、ここでのスポーツ産業とはスポー

ツ用品業界(製造・卸・小売)が中心であり、その後、スポーツの大衆化に伴って、スポ

ーツを扱うメディア、あるいは、スポーツ施設業などが発展してくる。プロスポーツなど

は野球やレスリングなど長い歴史を持つものの、各種競技がプロスポーツ化してきたのは、

Jリーグに触発されてのここ 10 年くらいの動きであり、スポーツ産業の歴史と銘打って論

じている中に、プロスポーツは含まれていないものが多い。ここでも、スポーツ用品業界、

スポーツを扱うメディア業界、スポーツ施設業界に限定して、それらの推移を確認する。

(スポーツ用品業界の歴史)

スポーツの歴史で確認したように、日本のスポーツは西洋から輸入されたものであり、

当初、スポーツ用品は輸入品で賄われていた。「明治期のスポーツ用品は学校教材として扱

われており、スポーツ用品産業は学校を頼りにしていた部分が多い。学校へのスポーツ用

品納入に際しては、地域のスポーツ用品店が学校の指定を受けて、運動靴やスポーツウェ

アの受注を受け持つことで利益をあげている場合が多かった」(竹田、原田編著[2007])よ

うである。その後、輸入代替の形でスポーツ用品製造業が起こるが、これは他の製造業で

も数多くみられる業界の端緒である。

同じく竹田は、「明治 40 年前後から、スポーツ用品・販売を行う企業が現われはじめ6、

大正時代には『製造(メーカー)』『卸(問屋)』『小売』の分化が出現7し、昭和に入るとこ

れら3つの層が明確化することによって産業としての体制が整いはじめた」と昭和初期ま

でのスポーツ用品産業の歴史を述べている。なお、当時は、「他の産業と同じように、卸(問

屋)によって大きくなった産業で、卸(問屋)が商品の企画・開発力を持っており、メー

カーに商品を依頼し、その商品に自社の商標(ブランド)をつけ、小売店に商品を卸して

いた」と業界の構成者間の関係にも触れている。 また、原田[2007]によると、「東京オリンピックが開かれた 1964 年ころまで、スポーツ

用品は日用雑貨用品の域を出ず、町の運動具店において細々とした小売が行われてきたに

過ぎない。商品の流通経路も単純で、他の業界のような一次・二次問屋も介在せず、『メー

カー』『卸売り業者』『小売業者』の三者から構成されていた。さらに戦前のスポーツ用品

には目立った技術革新もなく、製品の質も当時の外国製品に比べて決して高いものではな

かった」とのことである。

こうしたスポーツ用品業界に3つの節目があると、竹田(原田編著[2007])は述べてい

る。これを図表化したものが、図表1-2-4である。さらに、渡辺[2004]は、流通段階

の変化について、「市場におけるスポーツ製品は供給過剰の様相を呈し、また、量販専門店

6 業界の先駆けとなったのは、現在のミズノ株式会社(明治 39(1906)年4月1日創業)といわれている。 7 渡辺[2004]によると、『大正の末には運道具製造販売組合が結成され、わが国で初めてスポーツ産業の業

界組織化がみられた』とのことである。

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の躍進はスポーツ市場の成熟化を促進し、これまでの市場の形態も『メーカー主導型』か

らユーザー・消費者に直接的な『小売主導型』、そして生活の質的充実を求める『ユーザー・

消費者主導型』へと変化していった」とも指摘している。 なお、スポーツ用品は単なるスポーツをするための用品(道具)から、ファッション性

を帯びてきたと竹田は指摘しているが、近年では、「今やスポーツ用品の売り場は、モノだ

けでなく、スポーツ用品のもつ文化的イメージやファッション性、商品の購買と使用によ

って生まれるライフスタイル、あるいはスポーツ用品の発する情報といった目に見えない

記号を消費する場所となった」と原田[2007]が指摘するように、付加価値部分に大きな比

重が置かれるようになってきているのである。

図表1-2-4 スポーツ用品産業の節目

時期 変化の概要

東京オリンピック

(1964年)

・オリンピックを契機にメーカーがブランド戦略を行うようになり、業界内で

の主導権が卸からメーカーに移動するきっかけとなった。

(具体的な動き:有名選手に自社製品を提供するメーカー主導のプロモーション

単品の製造から総合化に移行、製造卸という企業形態の登場)

第1次オイルショック

(1973年)

・業界は一時的に不安感に陥るが、1年足らずで景気回復に入り、メーカーから

小売店まで、前年比 20~30%の伸びをみせる企業も珍しくなかった。

(とくに、1975~1981 年ころまではスポーツブームといわれ、スポーツウェア

は、スポーツだけでなくファッションとしても注目された。このころ、アパレ

ルメーカーやシューズ、バッグ業界からの市場参入が多くみられた。)

バブル経済崩壊

(1991年)

・これまでは、景気に関係なく右肩上がりで成長してきたため、景気に影響され

ない産業といわれてきたが、これは単にモノがなかっただけであり、市場にモ

ノが余りはじめるとそのもろさが浮き彫りとなってきた。

・業界で、消費者ニーズと言われはじめたのがこの時期である。生産主義からよ

うやく消費者を意識するようになった時期であり、マーケティングの必要性が

唱えられはじめた。

資料:原田宗彦編著[2007]『スポーツ産業論第4版』より作成。

(スポーツを扱うメディア業界の歴史)

メディアは、全体としてみれば、スポーツのみならず、さまざまな情報を扱っているが、

そのなかでも、スポーツに特化して情報を収集し、情報発信しているものも数多い。

原田[2007]によると、「スポーツ雑誌の先駆である『運動界』(明治 30年)、『運動の友』

(明治 39 年)、『月刊ベースボール』(明治 41 年)、『国民体育』(大正4年)、『アサヒ・ス

ポーツ』(大正 12 年)といった雑誌が相次いで創刊されるなど、活字メディアによるスポ

ーツ情報の提供が活性化した」と、明治時代後半から大正時代にかけて、スポーツ雑誌が

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確立されてきたことを指摘している。

さらに、渡辺[2004]は、「スポーツ関連紙では 1946年に『日刊スポーツ』、1948 年『デイ

リースポーツ』、1949 年『スポーツニッポン』、1950 年『報知新聞』がスポーツ紙として再

発足した」と、戦後直後にスポーツ紙が始まっていることを指摘している。

さらに、電波を介して情報を伝えるメディアとしてのラジオ、テレビはその発展の中で

スポーツ番組が重要な役割を果たしてきた。さらに近年では、衛星放送やケーブルテレビ

など、多チャンネル化が進んでおり、メディアにとってスポーツは重要なコンテンツであ

ると同時に、メディアがスポーツに大きな影響を与えているのは、先にみたとおりである。 (スポーツ施設業界の歴史)

スポーツは学校教育として導入されたものであり、当初は、行政機関などによる施設整

備が中心であった。原田[2007]によると、「明治 30 年から昭和7年にかけて設立された社

会体育運動施設の数は 641 で、種目では陸上や球技場を含む各種運動施設が 325、スキー・

スケート場が 170、水泳プールが 77、そして武道場が 69 となっており、この時期の急速な

普及をうかがい知ることができる(今村、1970)。しかしその数も、昭和6年の満州事変を

ピークに下降線をたどることになる」という経緯をたどっている。

民間施設に関しては、同じく原田は、「一方民間施設に関しては、YMCAが大正6年

(1917)に屋内温水プールをもつ東京YMCA体育館や夏季の野外活動施設の建設を始め

たが、それらはキリスト教の啓もう運動が底流にあるレクリエーション・ムーブメントで

あり、今でいうビジネス的感覚とはいささか異なるものであった。その他にも、テニスコ

ートやゴルフコースが民間業者の手によって建設されたが、その多くは特定のクラブ会員

の利用に限定されているか、単なる貸施設的な性格を有するものであった」と指摘し、「産

業と呼べるほどの発展をみせるのは 20世紀後半のことである」と結論づけている。

渡辺[2004]の「スポーツ施設・空間産業は、リゾート型と都市型に分けられ」、「リゾー

ト型は自然やその資源を生かしたものであり、スキー場、ゴルフ場、オートキャンプ、マ

リーナ」、「都市型は日帰り利用できるものであり、ゴルフ練習場、ボーリング場、スケー

ト場がある」と解説しているように、スポーツ施設は、自然を活かした施設か、人工的な

施設かで大きく2つに区分できる。 渡辺の説を引き続き引用すると、「(昭和 50年代以降)リゾート法(総合保養地域整備法)

の制定もあり、スポーツ産業のなかでは施設、サービス関連業種が活況を呈し、昭和 60年

代以降リゾート・レジャー志向へと市場は移行していった」とリゾート型のスポーツ施設

を使ったスポーツが一時期盛んになったが、バブル経済の崩壊とともに、市場は縮小傾向

に転じ、施設運営企業の倒産などもみられるようになっている。

一方、都市型スポーツ施設としては、ボウリング場にみられるように、ブームになると

一気に施設数が増え、その後、ブームの終焉とともに厳しい状況を迎えるなど、変動が激

しい。また、都市立地ということでは、スポーツ施設での収益と他の事業などでの収益の

比較から、スポーツ施設運営から転換するといった動きもみられるなど、様々な要因の影

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響を受けることも特徴として指摘できよう。

当初は、スポーツ施設というスポーツの「場」だけを提供していたが、その後、スポー

ツの指導などのソフトが加わった事業も大きな成長をみせることとなった。原田[2007]の

説を借りるならば、「ハードとしての施設・空間にソフトであるサービス・情報が加味され

て生まれた新しいタイプのビジネス」であり、その中には、「フィットネスクラブやテニス

クラブに代表されるクラブビジネス、そしてスイミングスクールやテニススクールに代表

されるスクールビジネスが含まれる」ものである。

このように、スポーツをするための「場」の提供から、ソフトの提供を含めたものに施

設の位置づけは変わってきている面があり、さらに、先にみたように、「みる」ための施設

としての機能も求められる時代となってきている。このように、スポーツ施設業界は大き

な進化の過程にあるともいえよう。

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第3節 スポーツやスポーツ産業を取り巻く状況

1.地域への貢献の動き

(1) 企業などの動き

(企業の社会的責任(CSR)の概念の広がり)

近年、「企業の社会的責任」あるいは「CSR(Corporate Social Responsibility)」と

いう言葉を目にしたり、耳にする機会が増えている。平成 16年9月に公表された経済産業

省の「『企業の社会的責任(CSR)に関する懇談会』中間報告書」8によると、CSRへの

関心の高まりの背景としては、「グローバリゼーションの進展」、「情報化の進展」、「CSR

を企業価値の一つとして認識する動きの高まり」、「企業に対する社会的責任活動を求める

声の高まり」の4点をあげている。4点目については、「1990 年代後半以降、我が国におい

ては、企業のブラント価値を大きく損なう企業不祥事が一部の企業において発生した。特

に、商品・サービスの欠陥や事故により消費者に大きな被害を与えたものもあり」、企業を

見る目が厳しくなっていることを背景として指摘している。

すなわち、企業活動が消費者をはじめとする利害関係者や地域社会や地球環境にまで影

響を与えることがみられるなか、今まで以上に、「経済面に加え社会面、環境面の行動を包

含し、内容的にも、 も基礎的な取組である法令順守はもとより、環境保全、消費者保護、

公正な労働基準、人権、人材育成、安全衛生、地域社会貢献などの幅広い要素から構成す

る」CSRの意識が企業においても消費者においても高まってきているのである。

第1章で紹介した広瀬[2002]の日本の学校教育でスポーツマンシップの意味合いを教え

ていないという文脈での「スポーツマンシップ」とは、「ルールを遵守することの重要性や

フェアプレーや相手を思いやることの必要性など、人間の尊厳の理解に繋がる精神的な徳

目」であることを踏まえると、CSRの精神そのものが、「スポーツマンシップ」であると

みることもできよう。

CSRのなかでは、地域社会貢献は構成要素のひとつに過ぎないが、企業が利益追求の

みならず、地域社会にも目を向けることが求められる時代となっており、また、そうした

企業の行動が本業そのもの(製品やサービスの販売など)にも大きな影響を与える時代に

なってきているのである。

(2) 個人の動き

(ボランティア活動の定着)

平成7年の阪神淡路大震災の経験を経て、日本にもボランティア活動が定着したといわ

れている。その後、自然災害や大きな事故などにおいて、人々が自発的に復旧作業などに

協力している光景をよく目にするようになってきた。

8 経済産業省ホームページで確認できる(アクセス日 平成20年2月13日)。 http://www.meti.go.jp/policy/economic_industrial/press/0005570/0/040910csr.pdf

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新出(山下・畑攻・冨田編[2000])は、「このような社会の風潮は、スポーツの普及・振

興が多くのボランティアによってもたらされたことを再認識させることになったとともに、

新たなスポーツに関するボランティアの形態をも創出する機会になった」と指摘している。

そして、「新たなスポーツに関するボランティアの一例は、平成 10 年の2月に開催された

長野オリンピックにおいて3万2千人のボランティアが大会の運営を支えたことに見るこ

とができる」といわゆるスポーツ大会に関わるボランティア活動が一般に定着してきたこ

とを例示している。

(スポーツ・ボランティアとは)

スポーツに関わるボランティア活動、いわゆる「スポーツ・ボランティア」の定義に関

して、SSF笹川スポーツ財団[2006]では、文部科学省の定義9を引用し、「地域におけるス

ポーツクラブやスポーツ団体において、報酬を目的としないで、クラブ・団体の運営や指

導活動を日常的に支えたり、また、国際競技大会や地域スポーツ大会などにおいて、専門

能力や時間などを進んで提供し、大会の運営を支える人のこと」と解説している。

この定義の中にみられるように、スポーツ・ボランティアの対象となるものも幅広い。

前出のSSF笹川スポーツ財団の『スポーツ白書 2007』によると、スポーツ・ボランティ

アの役割と範囲は、図表1-3-1のように整理できる。また、新出(片山・木村・浪越

編著[1999])は、武隈の説を引用し、スポーツ・ボランティアのカテゴリーの整理を行っ

ている。その中で、図表1-3-1の整理に付加するものとしては、高齢者や障がい者が

スポーツを行う際の「福祉スポーツのボランティア」をあげることができる。

図表1-3-1 スポーツ・ボランティアの役割と範囲

区分 活動時期 ボランティアの主体 役割

専門家(技術・ノウハウ

保有者)

ボランティア指導者(監督・コーチ、

指導アシスタント)

クラブ・団体ボランティア

(クラブ・スポーツ団体)

定期的

一般 運営ボランティア(クラブ役員・監

事、世話係、運搬・運転、広報、デ

ータ処理、競技団体役員など)

専門家(技術・ノウハウ

保有者)

審判、通訳、医療救護、大会役員、

データ処理など

イベント・ボランティア

(地域スポーツ大会、国

際・全国スポーツ大会)

不定期的

一般 給水・給食、案内・受付、記録・掲

示、交通整理、運搬・運転、ホスト

ファミリーなど

アスリート・ボランティア トップアスリート、プロ

スポーツ選手

ジュニアの指導、施設訪問、地域イ

ベントへの参加など

資料:SSF笹川スポーツ財団[2007]『スポーツ白書』より作成。

9 文部省「スポーツにおけるボランティア活動の実態等に関する調査研究協力者会議」(1997)

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(スポーツ・ボランティアにおける課題)

スポーツ・ボランティアに限らず、不定期的に不特定多数の人間を集め、運営していく

イベント・ボランティア全般についてあてはまることであるが、ボランティアをどう組織

化して、どう運営していくかという、ボランティアを活用する側の運営能力、運営ノウハ

ウが必ずしも確立していないということが課題としてあげられる。

この点を新出(山下・畑・冨田編[2000])は、「スポーツイベントの規模にも関係するこ

とであるが、ボランティアの組織をイベントを経営する組織のどこに位置づけたらいいの

か検討しておくべきであろう。また、広い範囲からボランティアとしての協力者を募集す

る際には、どのような形式・方法を用いてボランティアの募集を行うと効果的なのかとい

うリクルーティングの課題とその後の研修に対してどのような内容を取り上げ、どのよう

に教育していくことがその後の活動に意義のあるものとなるかという課題の検討が必要と

なる。これらの課題は、ボランティア組織の位置づけ同様に経営過程の中で考えておく必

要がある」と指摘している。

さらには、ボランティアとして参加する者の中に、ボランティア活動とは別の目的(有

名選手を近くで見たいなど)で参加する者やボランティアという立場に甘えて責任ある行

動を取らない者が皆無とはいえない状況をいかに改善していくかも課題としてあげられよ

う。

また、広瀬[2005]は、マネジメントという視点から、「ボランティアに対する妄信的な評

価」として、「一般論として言えることですが、特にスポーツの場合は、『成果』と『稼働』

の混同と、作業の自己目的化という傾向が多く見られます」と指摘するとともに、「『能力

があり、成果も出しているが、無償である』なら、それを1つの価値として認めることの

意味はあります。しかし、『ボランティアであるかどうか』は『成果』を達成することにと

ってどういう意味があるのでしょうか?コストがかからない、それは『成果』が達成され

てはじめて、評価の対象になる事柄なのです」と、スポーツ界にある「『ボランティアだか

ら尊い』といった風潮」に警鐘を鳴らしている。

(ボランティア活動を超えて)

このように課題もあるものの、スポーツ・ボランティアは一定の定着をみている。しか

し、スポーツ・ボランティアを超える行為に関しては、一般化しているとは言いがたい状

況にある。この点を澤野[2005]は、「個人による公益事業や社会事業は、諸外国に比べると

不思議なほど発達しない。税制の問題もあるだろうし、家督や相続に対する伝統的な考え

も影響しているかもしれない。だから、市民球団というような感覚は薄く、Jリーグがそ

のような理念を掲げて活動してもそれに呼応するケースが少ないことは残念で、地方自治

体がバックアップしてようやく機能しはじめるという状態である。社会人野球で、大リー

グで活躍する野茂英雄投手がオーナーとしてつくったチームや、萩本欽一が旗揚げした欽

ちゃん球団の活躍に注目したいが、スポーツチームに私財を投げ打つのは売名行為という

よりフィランソロピーであるという世論を喚起したいところである」と問題提起している。

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企業スポーツが厳しい状況にあるなか、個人でボランティア活動を超えた動きがどこまで

できるのか、この点が今後のスポーツ振興にも大きな影響を与えるであろう。

2.地域資源活用の動き

(経済産業省施策に「地域資源」の視点)

経済産業省では、平成 18 年度から「地域資源∞全国展開プロジェクト(小規模事業者新

事業全国展開支援事業)」10を開始し、18 年度は 207件、19 年度は 233 件の支援プロジェク

トを採択している。この事業は、地域の中小企業や地域経済が活性化するために、地域の

資源を使った新たな製品の開発や全国的な販路開拓、観光開発という取組を、地域の事業

者が商工会・商工会議所と協力して行うものに対して幅広い支援を行う施策である。

さらに 19 年度には「中小企業による地域産業資源を活用した事業活動の促進に関する法

律(中小企業地域資源活用促進法)」が成立し、「中小企業地域資源活用プログラム」11が創

設された。これは、価格競争に巻き込まれない商品・サービスづくりのための有効な素材

のひとつが、各地域にある優れた地域資源ということで、地域資源をキーワードとした事

業展開を支援するものである。地域資源を活用した中小企業の取組として、産地技術型、

農林水産型、観光型の3類型が示されている。

あわせて、大阪府においても、19 年度に「おおさか地域創造ファンド」12を立ち上げ、「地

域の産業や企業、大学など知的資源、まちなみや文化財などのさまざまな観光資源、そし

て地域の人材といった地域資源を活用しての地域の活力を増して行くこと」を支援する施

策を展開している。

こうした施策展開を受けて、例えば、「地域資源∞全国展開プロジェクト」では、ウォー

キング、トレッキングなどをテーマとした事業が採択されている。一定の要件を満たすこ

とは必要であるが、スポーツに関連した産業も地域資源という観点からの施策活用が可能

な状況にある。 (地域の中小企業の異業種間の連携を促す「新連携」事業)

近年に始まった中小企業支援施策としては、「新連携」13(法律に基づく正式な名称は「異

10 中小企業庁のホームページに18、19年度の採択案件などの記載がある(アクセス日 平成 20年2月 13

日)。 http://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/chiiki/070509chiki_mugen.htm 11 独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する中小企業のためのポータルサイト「J-Net21」に詳しい

記載がある(アクセス日 平成 20年2月 13日)。

http://j-net21.smrj.go.jp/expand/shigen/about/pdf/all.pdf

当法律に関連した大阪府の状況は、以下アドレスを参照のこと(アクセス日 平成 20年2月 13日)。

http://www.pref.osaka.jp/keieishien/keikaku/indexchiiki.htm 12 財団法人大阪産業振興機構のホームページに詳しい記載がある(アクセス日 平成 20年2月13日)。

http://www.mydome.jp/aopf/ 13 根拠法律は、中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律(中小企業新事業活動促進法)で、この法

律は、中小企業経営革新支援法、中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法、新事業創出促進

法の3法律を整理統合するとともに、新事業活動(新連携)の支援を加え、平成 17年4月13日に公布・

施行されたものである。近畿経済産業局ホームページを参照した(アクセス日 平成 20年2月13日)。

http://www.kansai.meti.go.jp/2chuusyou/shinrenkei/index.html

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分野連携新事業分野開拓」)支援もある。「新連携」の定義は、「その事業を異にする事業者

が有機的に連携し、その経営資源を有効に組み合わせて新事業活動を行うことにより、新

たな事業分野の開拓を図ること」であり、異分野の中小企業がお互いの「強み」を持ち寄

り、連携することで、1社ではできなかった製品・サービスを開発する新しい事業形態を

イメージしており、国の認定を受けた場合、事業化に向けた各種支援が受けられるもので

ある。 地域内外の中小企業などが連携することにより、これまでにない新たな事業の展開、あ

るいは、これまで1社ではできなかった事業化を促進させようとするものであり、当事業

では、地域に存在する様々な中小企業などの状況をいかに把握して、その強みを自社の事

業展開に活用できるかという点が重要となってくる。 この認定企業グループの中には、スポーツをテーマとしたものもあり、ホテル、大学、

NPOなどが連携しての「スポーツホテル事業」も認定されている(詳細は後述)。 (指定管理者制度による民間活用の動き)

公共施設の管理運営は、行政組織かその出資法人などに限定されていたものが、平成 15

年6月の地方自治法の改正(施行は 15 年9月)により、民間事業者を含む幅広い団体が引

き受けることが可能となった。引き受け手を「指定管理者」と呼んでいる。行政組織は、

公共施設の管理運営を直営で行うか、指定管理者に委託するかの選択を迫られており、多

くの施設が民間の事業者の管理運営に委ねられることとなった。

これは、規制緩和の流れの一環であり、民間事業者による柔軟性のある施設運営によっ

てサービスを向上させ、また、必要となる費用を低減させる目的がある。スポーツ施設な

どでも民間事業者に管理運営を委ねているケースが多くなっており、スポーツ産業、スポ

ーツ行政にも大きく関連する動きでもある。

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第4節 小括

まず、第1節では、スポーツの定義やその背景にある歴史的推移を確認し、それらがど

のように日本に導入、定着していったか、また、その結果としての現状と課題を概括した。

スポーツの意義としては、先行研究から①健康の維持増進(身体的効果)、②楽しみ、スト

レス発散(精神的効果)、③自己の開発(心身の能力向上)、④他とのコミュニケーション、

関係構築の4点に集約できるとしたが、ヒアリングでは、「ココロとカラダの健康」と「個々

のコミュニケーションと組織の活性化」の2本柱という意見もあった。すなわち、「スポー

ツ=(心身の)健康」という側面が強く認識されているので、後者のコミュニケーション

やそれによる組織の活性化、一体感を強調すべきという意見であった。また、スポーツ振

興に大きな役割を果たしてきたのは学校教育と企業であるが、前者では6・3・3・4制

という学校教育制度の弊害、後者では企業内での位置づけの変化により、大きな課題を生

み出していることが指摘されている。 平成7年から導入されている総合型地域スポーツクラブは、多種目、多世代、多志向、

住民の自治的、自立的な活動とされているものの、官主導での形成となっていることも多

く、地域住民に定着しているとは言い難い面もある。この背景には、学校教育を通じてス

ポーツを体験してきたことから、コストを払う、あるいは、主体的に動くという責任を果

たす意識が希薄であることがあげられる。また、練習中心での接し方では必ずしもスポー

ツの楽しさを十分に理解できないまま、スポーツから遠ざかることも多いことから、今後

は、スポーツに対する意識付け、スポーツとの接し方を含め、大きく転換する必要がある

との指摘もあった。 第2節では、スポーツ産業に関する先行研究を確認したが、スポーツ産業の定義も一様

ではない。また、スポーツ産業の特性としても、幅広い業種を一括りにすることも難しく、

スポーツの特性をそのままスポーツ産業の特性と捉えている研究もみられる。なお、マー

ケティングの視点からは、興行面を取り上げたものも多い。 スポーツ産業の規模では、スポーツ産業をどう定義するか、あるいは、日用品とスポー

ツ用品の区別が付きにくくなっているなか、どう算出するのかという課題を抱えている。

しかしながら、「スポーツ市場を形成するスポーツ支出の規模が小さいのではないかとの意

識が根強かった」のは改めねばならない規模であることは確かであろう。 「する」、「みる」、「支える」という視点でスポーツをみると、「みる」スポーツは、メデ

ィアにとって重要性を増している一方で、スポーツがメディアからの多大な影響を受けて

いる面も指摘されている。さらに、スポーツ施設において「みせる」視点が十分配慮され

ていないこと、選手を引退した後のセカンドキャリア問題など、「みる」スポーツの抱える

大きな課題もその解決への取組は緒に就いたばかりである。 マーケティングの視点では、「スポーツのマーケティング」と「スポーツによるマーケテ

ィング」、すなわち、「of」と「through」のマーケティングという2区分の理解が重要であ

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るが、混同されていることも多い現状についての指摘もあった。 日本でのスポーツ産業の歴史の中心となるのはスポーツ用品業界であるが、それでも明

治後半以降の展開となる。東京オリンピック、第一次オイルショック、バブル経済の崩壊

などいくつかの節目を経て、付加価値の比重を高める方向に転換してきている。 第3節では、スポーツやスポーツ産業の主体となる個人や企業や、それらと地域との関

係をみるという視点で、CSR、ボランティア活動など、企業、個人を問わず、地域(社

会)に貢献しようという動きが強まっていること、こうした流れのなか、ボランティア側、

ボランティアを使う側ともに課題があることは否めないものの、「支える」スポーツである

スポーツ・ボランティアが盛んになってきていることを確認した。

さらに、経済産業省の施策に地域の視点が入ってきており、地域にある資源の活用、企

業との連携など、新たな施策が近年スタートした。また、行政改革の面からは、公共施設

の指定管理者制度が導入されており、スポーツ施設も指定管理者による管理運営となった

ところが多いことなどを確認した。

このように、「スポーツ」と「スポーツ産業」について、先行研究を集約する形で、一定

のとりまとめを行い、スポーツやスポーツに関連した産業の振興、スポーツを核とした地

域振興などへの基礎情報を得てきた。次章では、大阪府内を中心に、スポーツとスポーツ

を行う主体である府民の関係を確認していくこととする。

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山下秋二・畑攻・冨田幸博編[2000]『スポーツ経営学』大修館書店

渡辺保[2004]『現代スポーツ産業論』同友館

2.資料

日経産業新聞 2007年 10 月 18 日

日本経済新聞 2007年8月 23 日朝刊

Page 40: 第1章 スポーツとスポーツ産業 スポーツとスポーツ …namihaya-sports.net/sankaiken/03_1syo.pdf1 第1章 スポーツとスポーツ産業 スポーツとスポーツ産業をテーマとして考えるにあたり、先行研究を参考にしたが、ス

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3.統計

財団法人社会経済生産性本部[2007]『レジャー白書 2007』