デジタルソースを活用した硝子成形技術教材の開発Ⅰ€¦ ·...

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1.はじめに ものづくりのノウハウが、近年の団塊世代 の退職により、技術継承できない問題が数多 く発生している。 東京硝子製品協同組合(以下、組合とする。) は、硝子製品等を取り扱う会員企業として、 医理化部会、食器部会、びん部会の3部会で 構成された異業種組織であり、この組織にお いても例外ではない。 2002 年、硝子成形技術を組織内で共有する ため、硝子成形技術に関する技術教材を組合 側で作成し活用していた。 しかし、今日の深刻な技術継承問題もあり、 技術教材としての役割とその内容について幾 つもの改善項目が浮き彫りとなった。将来的 には、部会ごとに技術ポイントが整理され、 幅広い技術教材・映像資料としての役割が求 められていた。 実現場では、各企業独自のノウハウが記述 されている技術書や、工場や製造現場にマニ ュアル的なものが辛うじて存在はしているも のの、視覚的にまとめられているものは、実 際ほとんど見当たらない。 本報告は、「食器」「医理化」「びん」の部会 ごとの教材作成を将来的に見据え、まずは「食 器」をテーマとした教材開発を行ったので、 その実践事例を報告する。 2.開発仕様について 開発仕様を決定するにあたり当初は、映像 のみで構成されたものを検討していた。しか し、映像のみでは一方向といった点とユーザ ーは、全ての映像を見ることが前提となる。 また、硝子成形における各所の解説につい て、すべてナレーションへ置き換えること は可能ではあるが、本のように前に戻り、改 めて内容を確認するといった形式ではない。 組合側から、特に解説部分について、利用 するユーザーがテキストとして情報が得られ るようにとの提案があり、話し合いの中、開 発仕様について以下の通りとなった。 2002 年組合が作成した教材コンテンツの内 容が盛り込まれていること ・タイトル名を「グラスウェアの世界」とし 一般ユーザーにも親しみをもたせること ・テキスト、イラスト、写真、動画、音声が 内容に応じて盛り込まれ、ユーザーのペース で閲覧できること ・段階的に学習できるスタイルであること ・双方向を可能とした構成であること ・今回制作したデジタルデータが、WEB も活用できること ・ディスクメディアにより管理できること PC 版で WIN MAC に対応できること デザイン開発ツールは、テキスト、イラス ト、写真、動画、音声などのデジタルデータ を取り扱い、プログラミング制御により活用 できる点と将来的に WEB 上の配信も組合側 として視野に入れていることから、 ADOBE FLASH をメインツールとした。 3.コンテンツ 2002 年組合が作成した教材コンテンツを 踏まえ、メニュー項目を 11 項目に絞り込ん だ。更に下位階層について、利用されるユー ザーの動線を検討しながら整理を行い、最終 的に 280 項目にまとめた。作業効率を考え、 コンテンツマップ(図1)を作成した。 デジタルソースを活用した硝子成形技術教材の開発Ⅰ Development of the glass molding technology teaching materials which utilized a digital source 永田 友博, 三屋 恵一郎 NAGATA Tomohiro, MITSUYA Keiichirou -77-

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Page 1: デジタルソースを活用した硝子成形技術教材の開発Ⅰ€¦ · 収録を行った(図11)。 4.オーサリング テキスト、写真、sd 映像、hd 映像、ボタ

1.はじめに

ものづくりのノウハウが、近年の団塊世代

の退職により、技術継承できない問題が数多

く発生している。 東京硝子製品協同組合(以下、組合とする。)

は、硝子製品等を取り扱う会員企業として、

医理化部会、食器部会、びん部会の3部会で

構成された異業種組織であり、この組織にお

いても例外ではない。 2002 年、硝子成形技術を組織内で共有する

ため、硝子成形技術に関する技術教材を組合

側で作成し活用していた。 しかし、今日の深刻な技術継承問題もあり、

技術教材としての役割とその内容について幾

つもの改善項目が浮き彫りとなった。将来的

には、部会ごとに技術ポイントが整理され、

幅広い技術教材・映像資料としての役割が求

められていた。 実現場では、各企業独自のノウハウが記述

されている技術書や、工場や製造現場にマニ

ュアル的なものが辛うじて存在はしているも

のの、視覚的にまとめられているものは、実

際ほとんど見当たらない。 本報告は、「食器」「医理化」「びん」の部会

ごとの教材作成を将来的に見据え、まずは「食

器」をテーマとした教材開発を行ったので、

その実践事例を報告する。

2.開発仕様について 開発仕様を決定するにあたり当初は、映像

のみで構成されたものを検討していた。しか

し、映像のみでは一方向といった点とユーザ

ーは、全ての映像を見ることが前提となる。 また、硝子成形における各所の解説につい

て、すべてナレーションへ置き換えること

は可能ではあるが、本のように前に戻り、改

めて内容を確認するといった形式ではない。 組合側から、特に解説部分について、利用

するユーザーがテキストとして情報が得られ

るようにとの提案があり、話し合いの中、開

発仕様について以下の通りとなった。 ・2002 年組合が作成した教材コンテンツの内

容が盛り込まれていること ・タイトル名を「グラスウェアの世界」とし

一般ユーザーにも親しみをもたせること ・テキスト、イラスト、写真、動画、音声が

内容に応じて盛り込まれ、ユーザーのペース

で閲覧できること ・段階的に学習できるスタイルであること ・双方向を可能とした構成であること ・今回制作したデジタルデータが、WEB に

も活用できること ・ディスクメディアにより管理できること ・PC 版で WIN と MAC に対応できること

デザイン開発ツールは、テキスト、イラス

ト、写真、動画、音声などのデジタルデータ

を取り扱い、プログラミング制御により活用

できる点と将来的に WEB 上の配信も組合側

として視野に入れていることから、ADOBE FLASH をメインツールとした。 3.コンテンツ

2002 年組合が作成した教材コンテンツを

踏まえ、メニュー項目を 11 項目に絞り込ん

だ。更に下位階層について、利用されるユー

ザーの動線を検討しながら整理を行い、最終

的に 280 項目にまとめた。作業効率を考え、

コンテンツマップ(図1)を作成した。

デジタルソースを活用した硝子成形技術教材の開発Ⅰ

Development of the glass molding technology teaching materials which utilized a digital source Ⅰ

永田 友博, 三屋 恵一郎

NAGATA Tomohiro, MITSUYA Keiichirou

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Page 2: デジタルソースを活用した硝子成形技術教材の開発Ⅰ€¦ · 収録を行った(図11)。 4.オーサリング テキスト、写真、sd 映像、hd 映像、ボタ

図1 コンテンツマップ

リニュアル版のコンテンツの骨子ができあ

がり、組合側との話の中、次の具体的内容が

あげられた。 ・デザイン変更とナビゲーション ・イラスト及び写真修正 ・SD 映像補正(表示サイズ、色調補正) ・HD 撮影 ・新規コンテンツの撮影および音声収録 3.1 デザイン変更とナビゲーション

2002 年組合が作成した教材コンテンツは

WEB サイトに用いられているナビゲーショ

ン構成である(図 2)。デザインについては、

簡素なものとして制作されていた。イメージ

を大幅に変更する上で、特に食器硝子の美し

さをより強調するため、イメージ画像には曇

りや反射のない透明感とグラスのラインを強

調した写真画像を用い、メニュー部分は無彩

色をベースとしたシンプルなデザインとした

(図3及び図4)。

図2 2002 年制作された技術教材画面

図3 開発途中のトップ画面

図4 リニュアル版完成トップ画面

3.2 イラストおよび写真修正 PCモニターによるカラー表示が前提とな

るため、硝子製造現場で使われている図5の

簡易手順イラストを基に、改めて詳細な図6

のイラストを描きおこした。

図5 簡易イラスト(一部)

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図6 詳細なカラーイラスト

カラーイラスト以外に、写真による新規追

加を行った。撮影可能なものは高画質撮影を

行った。特に、記録的な画像については、既

に撮影できないものも多い。よって組合所有

の記録写真ストックから、適正なデジタル補

正を行い、コンテンツの充実を行った。 3.3 SD 映像補正

記録映像は、技術伝承の資料として非常に

貴重であるが、その時代での撮影条件や機材

環境により、その仕上がりは大きく影響する。 現場では、硝子の色を判断するため、室内

照明が弱く、撮影環境には適していない。 記録映像の大半が光量不足で画面全体がア

ンダーとなり、作業風景や職人の細かな動き

が、見えにくい。また、2002 年の教材に盛り

込まれている映像は、既に映像圧縮の関係か

らブロックノイズが発生したものがあり、細

部を確認できるほどの画質ではない。また、

映像再生時の表示サイズは、固定 320×240ピクセルのため、大きい PC 画面であればよ

り小さく感じる。 以上のことから、組合所有管理の記録マス

ターテープから再びデジタルキャプチャし、

今回のリニュアルに合わせ、色調、画質、表

示サイズの補正を施し、今回のリニュアル版

に出力し直した。 図7と図8は同じディスプレイ上で開いた

比較用のものだが、再出力した映像データは、

固定サイズではなく、利用する PC モニター

サイズに応じて、表示が大きくなるように最

終的に組み込んだ。

図7 SD サイズ(補正前)

図8 SD サイズ(デジタル補正)

3.4 HD 撮影 各企業の協力により、硝子成形の現場にて

HD 撮影を行い、各々の工程での技術ポイン

トについて、アドバイスを頂き映像構成を行

った。図9は編集した映像画面。

図9 ハンドメイドによる硝子成形

3.5 新規コンテンツの撮影および音声収録

新規コンテンツの一つに硝子のひずみに関

する項目がある。硝子の破損には、いくつか

の条件が重なって破損するが、その原因の一

つにひずみが関係している。硝子のひずみは

簡単に見ることはできない。今回、図 10 の

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ひずみによる実験と食器硝子に多い傷により

破損の様子を実験形式で撮影を行った。しか

し映像だけでは、内容の主旨が伝わらないこ

とから、解説ナレーションを付け、コンテン

ツの充実を図った。

図 10 ひずみ実験の様子

図 11 音声収録

取材時に多くのことを解説して頂くが、現

場では大きな周辺音によって聞き取りにくい

ものが多い。そこで、コンテンツによっては

詳細なナレーション加えることで、情報を的

確に伝えることができることから、別途音声

収録を行った(図 11)。 4.オーサリング テキスト、写真、SD 映像、HD 映像、ボタ

ン、イラストの各デザインパーツを制御する

ため、各データをライブラリ化し、ADOBE FLASH の ACTION SCRIPT を用い、プログ

ラミングを行った。すべてのデジタル素材と

プログラミングにより、PC 版で再生できる

形式に仕上げた(図 12 及び図 13)。

図 12 オーサリング画面

図 13 ボタン制御プログラム(一部)

5.ディスクパッケージデザイン 食器硝子の華やかなイメージが重要となる

ことから、業界の方々の商品イメージや意見

を頂きながら、今回のデザインに反映させた。 また、硝子成形技術としての技術解説コン

テンツとして盛り込みながらも、硝子に興味

のある一般ユーザーにも、関心を持ってもら

えるような、パッケージデザインを目指し行

った(図 14)。

図 14 DVD パッケージデザイン

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6.DVD販促用広告 業界紙に掲載するため、A4 サイズ版の広

告をデザインした(図 15)。組合 WEB サイ

トにも販売告知情報を WEB サイトとして制

作した(図 16)。

図 15 販売促進用チラシデザイン

図 16 組合 WEB サイト

7.発表 2008 年1月「東京グラスウェアショー

2008」にて、硝子のひずみ実験に関する映像

コンテンツを公開発表した。 また 2008 年 2 月組合側主催の報告会に合

わせ、DVD 制作発表を行った。 8.最後に 今回の制作ノウハウを活かし、更に理化学

分野とびん分野について、継続した取り組み

を行うことで、硝子業界に有効な教材及び記

録コンテンツができるものと考える。 またマルチメディア教材制作を、リニュア

ル企画から実戦的にデザイン制作を行えたこ

とで、製品としてのデザイン表現やものづく

りへの技術的指導にも影響を及ぼす良い経験

となった。 今回のリニュアルにより、デザインやコン

テンツの充実など大幅に改善できたことで、

関連会社からの問い合わせや活用していきた

いとの声があり、業界からの一評価を頂いた。 謝辞 本教材開発は、東京硝子製品協同組合によ

る平成 19 年度受託研究として行ったもので

ある。数多くの企業と現場の方々のご協力に

より、完成に結びついたことを深く感謝致し

ます。また、ご尽力頂いた関係各位に深く感

謝致します。 参考文献 (1)東京硝子製品協同組合、ガラス器成形・

加工技術教育研修用テキスト、(2002)

(2)日本ガラス工芸協会、日本のガラス展、

(1978)

(3)株式会社視覚デザイン研究所、ガラス

工芸ノート、(1991)

*ADOBE FLASH は ADOBE 社の商品、登

録商標です。

*SD 標準画質 *HD ハイビジョン画質 協力企業 社団法人日本硝子製品工業会 / 東京国際ガ

ラス学院 / 松徳硝子株式会社 / 岩澤硝子

株式会社 / 中金硝子株式会社 / 山春硝子工

芸株式会社 / 井田硝子株式会社(現 株式会

社深川硝子工芸) / 有限会社泉硝子工業所 /

株式会社堀口硝子 / 青山硝子株式会社 / 廣

田硝子株式会社 / 有限会社ボブクラフト /

アデリア株式会社 / 株式会社木村硝子店 /

東洋佐々木ガラス株式会社 / 吉沼硝子株式

会社 / 小坂義弘(ギャラリーよし) / 中村

成男(東京硝子株式会社) / 有限会社佐藤硝

子 /有限会社根本硝子工芸 / グラスウェア

ータイムス (順不同)

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