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抗エストロゲン薬 アロマターゼ阻害薬 HER2阻害薬 福岡大学病院 薬剤部 久保田 知佳

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Page 1: 抗エストロゲン薬 アロマターゼ阻害薬女性ホルモン剤の作用機序 視床下部 乳房 視床下部 乳房 下垂体前葉 下垂体前葉 副腎皮質 卵巣

抗エストロゲン薬 アロマターゼ阻害薬 HER2阻害薬

福岡大学病院 薬剤部

久保田 知佳

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本日の内容

抗エストロゲン薬 アロマターゼ阻害薬 LH-RHアゴニスト 黄体ホルモン剤

女性ホルモン剤について

HER2阻害薬

トラスツズマブ ラパチニブ

女性ホルモン剤の主な副作用

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女性ホルモン剤の作用機序

視床下部

乳房

視床下部

乳房

下垂体前葉 下垂体前葉

副腎皮質 卵巣

エストロゲン

エストロゲン

CRH

ACTH

LH-RH

閉経前 閉経後

LH FSH

子宮

卵巣機能の

低下

抗エストロゲン薬

アロマターゼ 阻害薬

アロマターゼ

アンドロゲン

LH-RHアゴニスト

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転移臓器、転移程度の診断、ホルモン感受性の評価、無病期間、年齢、閉経状況

転移性乳癌の診断

N Engl J Med 339(14):974,1998

第一次 ホルモン療法

第二次 ホルモン療法

第三次 ホルモン療法

ホルモン感受性あり 生命を脅かす転移なし

ホルモン感受性なし 生命を脅かす転移あり

第一次 化学療法

第二次 化学療法

第三次 化学療法

効果あり 効果なし

症状の増悪なし 症状の増悪あり

症状の増悪なし

症状の増悪なし

症状の増悪あり

症状の増悪なし

症状の増悪なし

症状の増悪あり

症状の増悪あり

症状の増悪あり

効果あり

効果あり

効果なし

効果なし 緩和ケア

Hortobagyi:転移性乳癌の治療適応

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抗エストロゲン薬

乳腺のエストロゲン受容体(ER)に結合し、抗エストロゲン作用を示す

※Selective Estrogen Receptor Modulator(SERM) 標的臓器によってアゴニスト作用、アンタゴニスト作用が異なる。

乳腺組織 骨組織 子宮内膜 脂質代謝

エストロゲン アゴニスト アゴニスト アゴニスト アゴニスト

タモキシフェン アンタゴニスト アゴニスト アゴニスト アゴニスト

ラロキシフェン アンタゴニスト アンタゴニスト アンタゴニスト アンタゴニスト

タモキシフェン (ノルバデックス®、タスオミン®)

1日20㎎を1日1~2回 (最大1日40㎎まで) エストロゲン受容体に結合して阻害

トレミフェン(フェアストン®) 1日1回40㎎ 他治療無効例で、1日1回120㎎ エストラジオールがエストロゲン受容体に結合するのを阻害

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抗エストロゲン薬

タモキシフェンは、CYP2D6で代謝される。

効果発現に数週間から数カ月かかる 継続して服用する必要がある

→CYP2D6阻害薬・誘導薬、CYP2D6で代謝される薬剤との併用に注意 ホットフラッシュに使用されるパロキセチンとの相互作用あり

→タモキシフェン 4-OH-タモキシフェン

エンドトキシフェン CYP2D6 活性化

トレミフェンは、他剤無効の場合、高用量で用いることがある

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アロマターゼ阻害薬

アロマターゼ阻害作用によって、エストロゲン 産生を低下させる

→適応 : 閉経後乳がん

アナストロゾール(アリミデックス®) 1日1回1㎎

エキセメスタン(アロマシン®) 1日1回25㎎

レトロゾール(フェマーラ®) 1日1回2.5㎎食後

乳房

視床下部

下垂体前葉

副腎皮質

エストロゲン

CRH

ACTH

アロマターゼ 阻害薬

アロマターゼ

アンドロゲン

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アロマターゼ阻害薬

非ステロイド型 非ステロイド型 ステロイド型

一般名 (商品名)

アナストロゾール(アリミデックス) レトロゾール(フェマーラ)

エキセメスタン(アロマシン)

作用機序 アロマターゼのヘムリングという部分に可逆的に結合して、アロマターゼの作用を阻害

アロマターゼのアンドロゲン結合部位に強固に結合し、アンドロゲンのエストロゲンへの変換を非可逆的に阻害

効果 再発抑制効果は同等

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アロマターゼ阻害薬

非ステロイド型 (アリミデックス®)

ステロイド型 (アロマシン®)

副作用 骨粗鬆症 高TG血症 高コレステロール血症 性器出血 肝障害(AST・ALT・Bil上昇) 男性化

骨粗鬆症 高TG血症 高コレステロール血症 性器出血 肝障害(AST・ALT・Bil上昇) 男性化

SABCS 2010より

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LH-RHアゴニスト

LH-RHを高濃度持続的に供給し、下垂体における LH-RH受容体のダウンレギュレーションを起こさせ、 脱感作を誘導する →閉経状態(男性なら去勢状態)となる (投与中止でもとに戻る)

視床下部

乳房

下垂体前葉

卵巣

エストロゲン

LH-RH

閉経前

子宮

LH-RHアゴニスト

down-regulation

適応:閉経前乳がん

ゴセレリン酢酸塩(商品名:ゾラデックス注) 3.6㎎を前腹部に4週毎に1回皮下注

リュープロレリン酢酸塩(商品名:リュープリン注) 3.75㎎を4週毎に1回皮下注、または 11.25㎎を12週毎に1回皮下注(SR注)

フレアアップ現象:投与初めは一次的にホルモン分泌が 上昇し一見悪化しているようにみえる (一過性にLH上昇)

LH FSH

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黄体ホルモン剤

酢酸メドロキシプロゲステロン(商品名:ヒスロンH)

1日600~1200㎎を、分3

副作用

他のホルモン療法に耐性になった場合に使用される場合が多い

不正性器出血 満月様顔貌 体重増加

下垂体を介したエストロゲン産生低下、副腎皮質ホルモンの低下、 エストロゲン受容体発現の低下等が考えられているが、 十分にはわかっていない。

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ホットフラッシュ

副作用①

顔・体がほてる、汗をかく 高頻度に出現 治療開始数カ月で次第に軽快 対策 ・軽症:経過観察 ・ひどい時:他のホルモン剤に変更する SSRI(パロキセチン)が有用とも言われているが、タモキシフェンとの 相互作用あるため慎重に判断

症状は数カ月で軽快することが多い

筋肉痛

更年期障害 LH-RHアゴニストで高頻度 症状:抑うつ、いらいら、ほてり、めまい、肩こりなど

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副作用②

無月経、月経異常、不正性器出血

子宮への影響

血液への影響

抗エストロゲン薬に出現 子宮内膜に対してアゴニストとして働くことによる

→治療効果が子宮内膜がん発症率を大きく上回っている

Lancet 351: 1451-1467. 1998 5年間服用による子宮体がん発生率は24000例中でわずか42例(0.175%)

タモキシフェンは子宮に対してはアゴニストとして働くことによる

抗エストロゲン薬に出現 血栓・塞栓症、静脈炎、血管性浮腫

タモキシフェンにより子宮体がん、子宮筋腫、子宮内膜症を合併する可能性あり

定期的な子宮の検査が推奨される

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副作用③

骨粗鬆症 長期投与で、骨塩量減少、骨粗鬆症、骨折リスク増加 → 定期的(6ヵ月~1年)な骨密度測定

骨密度低下例では、Ca製剤、ビタミンD、ビスホスホネート系薬剤を使用

関節痛(関節のこわばり、痛み)

アロマターゼ阻害薬に高頻度に出現 内服開始後2カ月以内に起こり、内服中止で消失 NSAIDsやアセトアミノフェンを使用することもある 症状強い場合は、他剤に切り替える

処方例1) Rp. 乳酸カルシウム 3g 3×毎食後 アルファロール(0.5) 1Cp 1×朝食後 処方例2) Rp. フォサマック(35) 1錠 1×起床時 週1回

※ビスホスホネート系薬剤使用前に、顎骨壊死予防のため歯科受診し治療を済ませておく。

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HER2阻害薬

トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)

ラパチニブ(商品名:タイケルブ)

注射剤

内服薬

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HER2 過剰発現 腫瘍細胞

ADCC

ADCC:Antibody-dependent cell-mediated toxicity

抗体依存性 細胞障害作用

直接的腫瘍細胞 増殖抑制作用

乳がん患者の25~30%がHER2陽性

HER2阻害薬①

トラスツズマブ(ハーセプチン®)

HER2受容体

トラスツズマブ

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HER2阻害薬①トラスツズマブ 副作用

Infusion reaction(重症例0.3%)

薬剤投与中または投与開始後24時間以内に多く見られ、一般的な点滴静注に伴う過敏反応、ショックとは異なる特有の症状が現れる

症状

軽度~ 中等度

約40%に出現、嘔気、嘔吐、疼痛、頭痛、咳、めまい、 発疹、無力症

重度 呼吸不全、呼吸困難、低血圧、喘息、喘鳴、気管支痙攣、血管浮腫

心障害( 4.6%)(死亡例あり)

アントラサイクリン系薬剤の治療歴がある場合や、本剤との同時併用はリスク大 →本剤とアントラサイクリン系薬剤との同時併用は避ける

タキサン系薬剤との同時併用でも心毒性増強

定期的な心エコーによる心機能評価を実施する

肝障害

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HER2阻害薬②

ラパチニブ(タイケルブ®)

EGFR(HER1)とHER2のチロシンキナーゼ活性を阻害する

血液-脳関門(B.B.B)を通過する

→脳転移巣にも効果が期待できる??

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HER2阻害薬②ラパチニブ

副作用 下痢(73%)

悪心(24%)、嘔吐(14%)、食欲不振(28%)

口内炎(35%)

搔痒感(26%)、皮膚乾燥(30%)、手足の皮膚炎、爪囲炎(13%)

疲労(24%)

水分摂取、下痢止めの服用 →ひどい時は連絡

発疹(55%)

皮膚障害に対しては、ステロイド外用で対応

うがいの励行(アズノール® うがい液の使用)、 口腔内ステロイド剤(ケナログ ®、デキサルチン®軟膏の塗布)

処方例) Rp. ロペミンカプセル 1Cp 1×下痢時

匂いの強いものを食べない。無理をして食べない。 食べられるものを、食べられる時に、食べられる量を。

※頻度(%)は、ラパチニブ単独投与時(タイケルブ®インタビューフォームより)

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HER2阻害薬②ラパチニブ

服用上の注意

♠代謝:主にCYP3A4

→グレープフルーツ(ジュース)、セイヨウオトギリソウの摂取は控える →CYP3A4阻害薬・誘導薬、CYP3A4で代謝される薬剤との併用に注意

♠1日1回決められた時間に、空腹時に服用する

(食事の1時間前後は避ける)

→1日2回服用でAUCが上昇する →空腹時と比べて、AUCが低脂肪食で約3倍、高脂肪食で約4倍上昇

♠錠剤を砕いたり、割ったりして服用しない

♠飲み忘れたら、そのまま飛ばして、次回から服用する

→砕いたり割ったりして服用した時の安全性・有効性は確認されていないため

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HER2阻害薬②

参考)ラパチニブ併用レジメン ラパチニブ+カペシタビン療法

1week 2week 3week

ラパチニブ (タイケルブ)

1日1回(起床時) 1回5錠(1000mg)

カペシタビン (ゼローダ)

1日2回朝夕食後

毎日服用

2投1休

<注意点>

手足症候群(53%)→服用開始時から手足の保湿ケアの励行 発現時はステロイド外用剤で対応(mild~strongestまで) 下痢(60%)→止痢薬(ロペラミド等)で対応、脱水症状に気をつける 肝障害、疲労、悪心、嘔吐、食欲不振

★用法が異なるため、コンプライアンスに対する患者の理解が大切

★併用時の副作用

処方例) Rp. リンデロンVG軟膏 発疹部、亀裂のあるところ Rp. ヒルドイドクリーム かさかさするところ

※頻度(%)は、2剤併用時(タイケルブ®インタビューフォームより)