ステンレス鋼生誕 100周年1821 :...

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ステンレス鋼生誕 100周年 発展の歴史 画期的な出来事 ステンレス鋼の未来 ニッケル誌 特別号(2012年5月号) ニッケルとその用途の情報誌 ステン レス鋼の 100年

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  • ステンレス鋼生誕100周年 発展の歴史

    画期的な出来事

    ステンレス鋼の未来 ニッケ

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    2012

    年5月

    号)

    ニ ッ ケ ル と そ の 用 途 の 情 報 誌

    ステン レス鋼の 100年

  • 発見一直線で発見に至ることなど滅多にありません。しかも、その果てに、何かの「発見」とともに記される名前は、実のところ先人たちが苦労して築き上げた知識の継承者であるに過ぎません。これはステンレス鋼の場合にも当てはまります。研究、実験、洞察、直観が、時間や技術進歩と結合し、私たちが今ステンレス鋼と呼ぶ鉄クロム合金がこの世に誕生しました。

    ステンレス鋼発明100周年に際し、栄誉とともに記憶される人々の名をここに挙げます。

    1821�:� ��ピエール・ベルティエがクロム合金とフェロクロムに関する研究結果を発表しました。�

    1911年:� �エルウッド・ヘインズがクロム鋼に関する実験を米国で開始し、クロムが化学物質や大気に対する耐食性に及ぼす効果を解明しました。ヘインズはその研究で1915年に特許を申請し、1919年に付与されました。

    1904~�� �レオン・アレクサンドラ・ギレーが、今日ではステンレス鋼に分類される鉄・クロム・ニッケル合金に関する研究を発表しました。

    � �アルバート・マーセル・ポートヴァンはギレーの研究に基づき、W・ギーセンとともに、現代のオーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系のステンレス鋼にほぼ相当するステンレス鋼のデータを発表しました。

    1912年:� �エドアルド・マウラーとベンノ・シュトラウスはクルップ社で勤務中に、2つのクロム・ニッケル・ステンレス鋼に関する特許を取得しました。

    1913年:� �英国シェフィールドでは、テーブルナイフの刃の鋳造・鍛造の責任者を務めるハリー・ブレアリーが、ステンレス鋼の製品化に初めて成功し、�幾多の後継製品の先駆者となりました。

    その他の人名と進歩については本Nickel誌特別号掲載の年表をご覧になるか、さらに詳細な歴史や情報については以下のサイトをご参照ください。

    www.stainlesssteelcentenary.info/StainlessHistory

    ニッケル協会は、特にHarold M. Cobb氏に感謝します。同氏の著になる「ステンレス鋼の歴史」(ASM International)は貴重な情報を提供してくれるとともに、今回のニッケル誌特集号の編纂に大きな助けとなりました。

    1911年�:

  • ニッケルとその用途の情報誌

    発行:ニッケル協会

    プレジデント: Dr. Kevin Bradley 編集発行人: Stephanie Dunn [email protected]

    デザイン: Constructive Communications, Design

    住所: Nickel Institute Nickel Institute Eighth Floor Avenue des Arts 13-14 Brussels 1210, Belgium Tel. 32 2 290 3200 [email protected]

    本誌は読者への一般情報提供を目的としており、しかるべき助言を確保せずして、いかなる特定の目的あるいは用途のために使用もしくは依拠されるべきではない。本誌は専門的に見て正確であると信じられるものであるが、ニッケル協会とその会員、スタッフ及びコンサルタントはあらゆる一般的な、もしくは特定の目的のための適合性について、何ら表明もしくは保証するものではなく、また本書に示されている情報に関して、いかなる種類の義務もしくは責任を負うものではない。

    ISSN 0829-8351

    印刷:カナダ。再生紙使用。

    表紙: 写植:Constructive Communications iStock Photos: © joingate © fcknimages © paci77 © Dmitry Naumov

    目 次ゲスト論説 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .3

    化学産業 . . . . . . . . . . . . . . . . . . .4, 5

    食品と飲料 . . . . . . . . . . . . . . . . .6, 7

    建築 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .8, 9

    彫刻 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10, 11

    輸送 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12, 13

    給配水 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14, 15

    医療 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16, 17

    エネルギー . . . . . . . . . . . . . . 18, 19

    ステンレス鋼の未来 . . . . . . . . . . .20

    ニッケル誌 特別号(2012年5月号) ステンレス鋼: 最初の100年 3

    最初の100年ステンレス鋼:1912~2012年成功には多くの父親がいるものです。総称して「ステンレス鋼」と呼ばれる鉄クロム合金群にもフランスのピエール・ベルティエ(父親というより「祖父」と呼んだ方が適切かもしれません)から米国のエルウッド・ヘインズの間にやはり多くの父親がおります。ステンレス鋼の誕生に貢献したその他の人々については、左のページに若干の説明を加えました。

    ステンレス鋼に関する初期の歴史から私たちが教わることの一つは、冶金の技術革新は必ずしも円滑に連続的に進んだわけではない、ということです。大小様々な洞察と技術革新が、なぜステンレス鋼は耐食性を持つのか、ステンレス鋼の各グレードで耐食性、強度、延性、高温強度がどのように発現するのかという現在の知識を生み出したのです。

    実験と技術革新は、ステンレス製のナイフとフォークが誕生してからも止むことはありませんでした。ステンレス鋼の発明から100年が経った今日、ステンレス鋼はフェライト系、オーステナイト系、マルテンサイト系、二相系、析出硬化系の5種類に分類されています。これらはどれも工業、構造、建築、医学、美観などのきわめて幅広い最終用途に欠かせない品質を提供しています。

    同じ時間を経て、寿命末期のステンレス鋼(様々な形態のスクラップ)を回収しリサイクルを通じて再利用することの重要性とメリットも世界中で理解されるようになりました。ステンレス鋼の利用で、製品の耐久性が増すことにより社会の物質集約度が軽減されます。実際、ステンレス鋼は世界で最も盛んにリサイクルされ、しかもそれが利益をもたらしている物質の一つです。

    これまでに達成されたことと未来が持っているものの両方を祝して、2012年5月15日に北京で「ステンレス生誕100周年展」を開催し、その後、各地を巡回します。

    これを記念して、今号のNickel誌は特別版を作成しました。本誌をお読みいただければ、ステンレス鋼がどこまで進歩し、社会のまさしく全ての分野にどれだけ影響を及ぼしているかがわかります。また次の100年にどのような新しい種類や用途が生まれ、重要性を高めることが期待できることを知ることができます。

    ISSFは、ニッケル協会が長年にわたってステンレス鋼の生産者と利用者のコミュニティに多大な貢献を果たした点に感謝の意を表したいと思います。本特別版はニッケル協会との関係の重要性を示す証拠の一つです。

    国際ステンレス鋼フォーラム事務局長 パスカル・パイエット・ガスパール

    www.worldstainless.org

  • 4 ステンレス鋼: 最初の100年 ニッケル誌 特別号(2012年5月号)

    化学産業におけるステンレス鋼 ニッケル協会コンサルタント Gary Coates、Garcoa Metallurgical Services

    化学産業(CPI)について考える時、ステンレス鋼抜きには想像できません。医薬品(1)、肥料、紙、プラスチック、石油化学製品及びその他の多くの製品の安全かつ費用対効果に優れた生産は、ステンレス鋼の利用によるところが大きいのです。

    オーステナイト系ステンレス鋼は、1909~1912年の間に、エドアルド・マウラーとベンノ・シュトラウスという研究者によって最初に開発されました。その後、ドイツ・エッセンにあったフリードリヒ・A・クルップの製鋼所で製品化されました。V2Aと呼ばれたこの合金は現在の304(S30400)に相当する組成であり、「18-8」とも呼ばれるように、18%のクロムと8%のニッケルを含んでいます。この合金は特に硝酸に対して他に類を見ない耐食性を持つことが明らかになりました。それから100年を経た現在、この合金の低炭素バージョンである304L(S30403)が今なお硝酸を扱う標準的材料です(2)。

    さらに上記のドイツの研究者たちはこの原料が持つ高温特性を解明し、クロムの含有率を高くした(18~20%)V2Aが様々な種類の 高 温 ガ ス に 対 し て 耐 性 を 持 つ こと を 発 見 し ま した。304H(S30409)、321(S32100)、347(S34700)を含むこの合金の様々なバージョンは、また、CPIの高温用途で今なお広く用いられています。

    しかしステンレス鋼産業はそこで立ち止まりませんでした。

    改善された耐食性と高温特性を有する新しいステンレス鋼が開発されました。18-8組成にモリブデンを2%添加することで(ミクロ組織を完全なオーステナイトに保つためニッケルをさらに2%添加 )、「耐 酸 性」ステンレス鋼として現 在 広く知られる材 料316(S31600)が誕生しました。このグレードは硫酸やリン酸といった弱還元性の酸に対する耐食性がさらに高くなっています。また、ニッケルとモリブデンを多めに添加することや銅、窒素、タン

    グステン、その他いくつかの元素をさらに添加することで、より高

    い耐食性を持つオーステナイト系合金が長年をかけて開発され

    ました(3)。

    二相系(オーステナイト・フェライト系)のステンレス鋼は1930年

    代には早くも発見、利用されていましたが、優れた溶接性(4)を持

    つように改良されたのは1970~80年代に入ってからのことで

    す。二相系ステンレス鋼が持つ塩化物応力腐食割れに対する耐

    性は、化学処理産業になくてはならないものです。またフェライト

    系のステンレス鋼については、自動車の排気系に用いられる極

    めて低合金のクロム11%の合金(S40900およびその改良版)か

    ら、海水冷却システムに用いられる極めて高合金のスーパーフェ

    ライト系合金まで、幅広い開発が長年続けられてきました。

    析出硬化系のステンレス鋼は、高強度とともに一定の耐食性が

    必要な用途に開発されました。その後もCPIの様々なニーズに応

    えるため、多くの新合金が開発されてきました。

    鉄鋼メーカーは、CPIが特定の用途にどの合金を選ぶべきかわか

    るようにするために、生産する合金の特性を文書化しなければな

    りません。この方法は1924年に米国材料試験協会(ASTM)の第

    27回年次会議から始まり、今もなお続いています。仕様や規定の

    制定を進めることは、CPIでステンレス鋼を適切に選択、利用する

    上で不可欠の要素です。現在CPIでは、世界のどの国の工場でも

    利用できる標準化した仕様の確立を目指しています。

    高温用途の材料には、高強度とともに高温環境に対する高い耐

    性が必要です。こうしたニーズを満たすため、高クロム高ニッケル

    の合金が数多く開発されました。ニッケルは高温でも高強度を維

    持し、経時による脆化を防ぎます。

    これらのすべてが、化学産業における過去1世紀のステンレス鋼

    の性能がこの上ない高い信頼性、安全性、費用対効果を示したこ

    とを実証しています。

    1924:化学産業で最初のステンレス鋼製タンク

    1912:クルップ社が化学産業用のオーステナイト系合金の特許取得

    1932:石油化学産業で二相系ステンレス鋼の最初の船舶建造

    1960年代:硫酸関連設備用に鍛錬N08904 及びN08020 を導入

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  • ニッケル誌 特別号(2012年5月号) ステンレス鋼: 最初の100年 5

    医薬品、肥料、紙、プラスチック、石油化学製品及びその他の多くの製品の安全かつ費用対効果に優れた生産は、ステンレス鋼の利用によるところが大きいのです。

    1970年代:二相系及び6%Moステンレス鋼の合金元素に窒素を使用

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    2000年代:ハイパー二相系ステンレス鋼を初めて生産

    1990s年代:7%Moステンレス鋼の開発

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  • 6 ステンレス鋼: 最初の100年 ニッケル誌 特別号(2012年5月号)

    ニッケル協会コンサルタント r・e・avery、avery Consulting associates

    ニッケル含有ステンレス鋼は、家庭の食卓用食器類や調理器具から乳製品や食品の加工設備、ビールやワインの大型貯蔵容器に至るまで、幅広い用途に適した材料です。一言でいえばステンレス鋼は理想的な材料なのです。それは食品の味や外観に影響を与えず、錆びにくく、表面を清潔で衛生的に保つことが容易だからです。

    ハリー・ブレアリーの硬化系ステンレス鋼が最初に使用されたのはキッチンナイフであり、すぐに他の種類の台所用具が続きました(1)。ただしそのほとんどは比較的柔らかく耐食性の高いニッケル含有18/8合金であり、当時はStaybriteと呼ばれていました。

    ステンレス鋼製の台所用品が初めて一般に公開されたのは、1933~1934年のシカゴ万国博覧会におけるUSスチール社による展示でした。これらは、USスチール社がザワークラウト、トマト、ダイオウ、肉などの食材を用いた広範な調理実験を行った上で公開されました。食材サンプルに付着する鉄、クロム、ニッケルの量はごく微量に過ぎず、食材の外観、味、色に変化はありませんでした。

    酪農業では昔から細菌が牛乳に悪影響を及ぼすことがわかっていました。また加工部品の接触表面についても、表面の微生物個体群を安全な水準まで減少させるために定期的に殺菌しなければなりません。ステンレス鋼表面は、化学殺菌剤の腐食作用に対する優れた耐食性だけでなく容易な洗浄可能性についてもよく知られています(2)。

    酪農業におけるもう一つの懸念は、鉛、溶出可能な銅やその他の有害物質を含んだ合金による汚染でした。そこで、ステンレス鋼がかつて「酪農用金属」だった銅ベース合金に取って代わりました。

    酪農や食品のサプライチェーンが地方の農家から集中処理工場に移行するのにともない、設備と部品の大型化が必要になりました(3)。1927年という初期の一例として、11,000リットル(2,700米ガロン)の牛乳運搬トラックが挙げられます(年表は以下を参照)。

    1920年代末期、北米で「3-A衛生規格」機構が設立されました。これは食品衛生の向上において意義のある一歩でした。現在、68の設備規格があり、その中で用いられている主要材料は304(S30400)や316(S31600)です。1946年3月の最初の規格の一つに、牛乳および乳製品用のステンレス鋼貯蔵タンクの規格がありました。それ以降8回の更新があり、そのすべてがステンレスを指定しています。

    ある大手酪農食品企業が、長い年月稼動している設備の例を示しました。1954年に設置された316型ステンレス鋼の横置き加熱調理器と1949年に購入された304型ステンレス鋼のクリームチーズ成形機が良い例です。

    一方、飲料産業(4)(ワイン、ビール、ノンアルコール飲料)も長年にわたってステンレス鋼を幅広く利用しています。ステンレス鋼の耐久性を顕著に表しそれを証明しているのが、ニュージーランドの有名なビール会社であるLion Breweriesです。同社は新工場に移転した後も旧工場のステンレス製部品の一部を新工場で再び利用しています。

    ビール醸造所で用いられるステンレス鋼製の設備で最大級の一つに低温安定化容器があります。これは発酵後のビールを安定させ熟成させる容器です。新工場には24基の240m3と120m3タンクが導入されました。これらの容器の一つが新工場に輸送される様子を示しています(5)。

    現在、中国やインドなどの国々で急速に発展を続ける食品産業も、同じくステンレス鋼を使用することで製品の安全性を保証しています。誕生から100年間、ステンレス鋼は耐久性と安全性という最も優れた理由により食品加工に携わってきました。

    ステンレス鋼は理想的な材料なのです。それは食品の味や外観に影響を与えず、錆びにくく、表面を清潔で衛生的に保つことが容易だからです。

    食品飲料用のステンレス鋼

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    1914:ステンレス製の食卓用ナイフを初めて製造 1919:ステンレス製食器

    の量産

    1927:牛乳輸送トラック用に溶接ステンレス鋼を初めて使用

    1935:ステンレス製キッチンシンクの設置の大幅増加

    1939:’Revere Ware’―銅底のステンレス鋼調理器具

    1950:三層タイプの調理器具(6)(ステンレスー炭素鋼ーステンレス)

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  • ニッケル誌 特別号(2012年5月号) ステンレス鋼: 最初の100年 7

    食品飲料用のステンレス鋼

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    1970-1979:キッチン用にステンレス鋼の使用の大幅増加

    1978:ステンレス製魔法瓶の登場

    1997:ANSI/NSFが飲料水システムにステンレス鋼種を承認1963:ステンレス鋼のビ

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  • ニッケル協会コンサルタント Catherine houska、tMr Stainless

    ステンレス鋼は、80年以上にわたって進歩的、現代的なイメージを投影する卓越した材料であり続けています。また長期耐久性が第一条件とされる交通量の多い公共輸送、安全及びその他の建築用途でもステンレス鋼は広く用いられています。中でも最も多く用いられているのは、ニッケルを含有する300系のステンレス鋼です。

    知られている最古の建築用途は1920年代半ばまで遡りますが、それは玄関や産業施設の屋根など、比較的小規模で目立たないプロジェクトでした。こうした初期建築の多くは現在もなお利用されており、その一例にロンドン・サボイホテルの玄関の天蓋(1929年)があります(1)。

    人類は、権力と富を誇示するため、あるいは所有者同士の競争として、あるいはただ技術の限界に挑戦するため、常に巨大建造物を建設してきました。超高層ビルは20世紀のピラミッドであり、ステンレス鋼を初めて利用した巨大建築物が世界で最も高いビルであったクライスラービル(2)(1930年)とエンパイアステートビル(1931年)だったのも納得のいくところです。クライスラービルが世界最高層のビルだったのはわずか数カ月間でしたが、エレガントに光り輝くステンレス鋼によるアールデ

    コスタイルによって、このビルは気品ある超高層ビル設計の手本として全世界で不朽の評価を得ることになりました。

    エンパイアステートビルは40年以上にわたって世界最高層のビルであり続けました。上層階と尖塔がステンレス鋼で覆われている点はクライスラービルと同様ですが、こちらは外壁にもステンレス鋼を利用した初めての建築物でした。円柱状のステンレス鋼スパンドレルが窓のそれぞれと境界を接し、スパンドレル上部が各階最上部で陽光を反射します。パネルを交換したのは、1945年に米国空軍の中型爆撃機がビル側面に衝突した時だけです。

    こうした初期の建築物は302型(S30200)ステンレス鋼を使用していますが、現在は304型(S30400)もそれと同様に容易に入手できます。現代建築では優れた耐食性を持つ316l型(S31603)が望ましく、海の近くの建築物や道路に散布した塩がかかる建築物では特に推奨されます。それでも、古い建築物のステンレス鋼が比較的低合金でありながら素晴らしい性能を発揮しているのは実に驚異的です。ステンレス鋼発展100周年に際し、こうした初期の建築物はステンレス鋼の耐久性と長寿命をはっきりと示

    す輝かしい証拠品です。

    1950年代初期における金属とガラスのカーテンウォール設計の導入は、高層建築物設計に大変革をもたらしました。こうした設計による初期の有名な

    8 ステンレス鋼: 最初の100年 ニッケル誌 特別号(2012年5月号)

    1929:サボイホテルの玄関の天蓋

    1930:クライスラービルの建設

    1931 :エンパイアステートビルの建設

    1950年代:カーテンウオールの登場

    永続的建築物のステンレス鋼

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  • ニッケル誌 特別号(2012年5月号) ステンレス鋼: 最初の100年 9

    1976:自由の女神の腐食した支柱をステンレス鋼に交換

    1991:カナリー・ワーフ・タワー(ロンドン)の建設

    建築物の多くはステンレス鋼を使用しています。たとえばニューヨーク市のソコニー・モービル・ビル(1954年)やシカゴのインランドスチールビル(3)(1958年)などは、どちらも50年以上もの間、粋な姿を留めています。1960年代までに、ステンレス鋼は、東京カテドラル聖マリア大聖堂(4)(1961年)の屋根やピッツバーグのメロンアリーナ(1961年)など世界中の著名な建築物で利用されるようになりました。

    比較的軽量の外板で建築物を覆うことのできる能力と新しい表面仕上げ方法が同時に導入されたことで、設計の可能性は大きく広がりました。1970年代にステンレス鋼の着色加工法が初めて導入され、優れた耐久性が証明されました。電気化学的に着色させた霊友会釈迦殿(東京)の屋根板は、設置から40年近く経っても変わらぬ色調を保っています(5)。

    世界の一流の建築家は、シカゴのトランプ・タワー(6)などの比較的伝統的なカーテンウォールや、ワシントン州シアトルのeMP(エクスペリエンス・ミュージック・プロジェクト)ミュージアム(7)などの彫刻的な外装、そのほか生物気候学的なサンスクリーン、優雅な店舗の内

    装、世界中のトランジットビルなどに、ステンレス鋼をよく採用します。

    フィンランド・トゥルクのMyllyn teräs橋(8)は、長い耐用期間にわたり構造的完全性を保持してメンテナンス費用を最小化

    すると同時に、設置環境にも配慮して、全長99m、有効幅20mの複合構造の連続桁橋として建設されました。橋の下面と側面は二相系2205(S32205)型ステンレス鋼の被覆が施されています。1958年のブリュッセル万国博覧会で建設されたアトミウム(9)は、当初はアルミの外板を用いていましたが、2005年にオーステナイト系316l型ステンレス鋼の外板に交換されました。これは、望ましい耐久性と優れた耐食性を持つ表面に仕上げ、時間が経過しても色あせたりくすんだりしないようにするためでした。

    これらの建築物は、用途と使用環境の幅広さを象徴しています。定期的にメンテナンスを行っている建築物もあれば、全くメンテナンスを行っていない建築物もあります。しかしどの建築物も、建

    築設計材料としてのステンレス鋼の卓越した性能と費用対効果を表すと同時に、長期的な性能が求められる持続可能な設計にステンレス鋼が最適であることを明らかにしています。

    人類は、権力と富を誇示するため、あるいは所有者同士の競争として、あるいはただ技術の限界に挑戦するため、常

    に巨大建造物を建設してきました。

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    1986:ロイズビル(ロンドン)の建設

    2000:Padre Arrupe 橋(スペイン)の建設

    2011:建築家ゲーリーのニューヨークの設計

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    1999:クアラルンプールのペトロナス・ツイン・タワーの建設

  • 10 ステンレス鋼: 最初の100年 ニッケル誌 特別号(2012年5月号)

    ニッケル協会コンサルタント Catherine houska、tMr Stainless

    長い間、彫刻家は、風雨に耐え何世代も持ちこたえられる素材を探し求めてきました。比較的近年、たとえば1930年代、彫刻家たちはニューヨーク市の建築物にステンレス鋼、とりわけニッケル含有の300系合金からインスピレーションを得ました。イサム・ノグチはaP通信社を説得して、自身の有名な彫刻「ニュース」(1)にブロンズではなくステンレス鋼を用いることを認めさせました。これは「スクープを得ようとする」5人の新聞記者を描いたアールデコ調の彫刻で、1940年以来、50ロックフェラープラザの玄関の上に掲げられています。高さ6 .7m、幅5 .2m、重量8 .2トンのこの有名なレリーフは世界で初めての大型鋳造ステンレス鋼彫刻です。

    1947年、建築家のエーロ・サーリネンと構造工学技術者のハンスカール・バンデルは、米国ミズーリ州セントルイスに建設した高さ192mの「ゲートウェイ・アーチ」(2)の設計によって、世界の大型彫刻の概念を一変させました。細部の仕上げには構造設計上の研究が必要でしたが、外装に304(S30400)型鋼を用いたこの「アーチ」が1965年にようやく完成した頃には、すでに世界中でステンレス鋼は大型彫刻用途における優れた素材になっていました。「ゲートウェイ・アーチ」は世界でも最も高いモニュメントであり続けています。

    ニューヨークのフラッシング・メドウズ・パークで開催された1964年万国博覧会で、ギルモア・クラークは304l(S30403)型ステンレス鋼を使用して高さ43m、重さ370トンの球体「ユニスフィア」(3)を創作しました。これは世界で最もアイコン的かつ一体感のある彫刻の一つに数えられており、数多くの映画、tv番組、ミュージックビデオに登場しています。

    フィンランド・ヘルシンキにある最も重要なランドマークの一つに、作曲家ジャン・シベリウス(1865~1957年)の栄誉をたたえた「シベリウスのモニュメント」(4)があります。エイラ・ヒルツネンが設

    計し1967年に公開されたこのモニュメントは、手仕上げの銀色パイプ600本を互いに溶接して波形にし、移り変わる季節を示唆し

    ています。パイプには鳥のさえずりが反響され、嵐の時には共鳴します。様々な直径のステンレス鋼チューブで作り上げたこのモニュメントは、長さ10 .5m、奥行き6 .5m、高さ8 .5m、重量27トンです。

    それ以降のほとんどの彫刻家は伝統的な地金仕上げを採用しています。オーストラリア・キャンベラにある国会議事堂の最上部には、304型ステンレス鋼製で4つ股の高さ81mの旗竿があり、標準的な圧延仕上げを採用しています。この建物は1988年に完成しました。

    テキサス州ヒューストン市は1992年、再開発プロジェクトの一環として、継ぎ目のない鏡面仕上げ304型ステンレス鋼を用いた6対のアーチをポストオークブールバードに設置しました。

    ステンレス鋼の着色法が利用可能になった時、当初は日本で壁画の製作に使われましたが、1992年に建築家フランク・ゲーリーが大型彫刻にも利用できることに気づきました。ゲーリーはバルセロナで、電気化学的に着色した316(S31600)型ステンレス鋼の「魚」(5)を創作しました。これは長さ56m、高さ35mの作品です。金色に輝くこの彫刻は現地(カタロニア)では「ゲーリーズ・パイクス」と呼ばれ、オリンピック港の前に設置されていて、誘惑的な地中海の青い海の中に飛び込もうとしているように見えます。

    並外れた長期の性能保持実績とメンテナンスの手間が少ないステンレス鋼は、彫刻家にとって好ましい素材です。近年の例を挙げれば、316型ステンレス鋼チューブでできた120mの塔―「光の尖塔」とも呼ばれるダブリンの「光のモニュメント」(6)(2003年)、316型ステンレス鋼製の高さ61~83mの3本の湾曲した塔から成るウェストバージニア州アーリントンの米国空軍記念碑(2006年)、316型ステンレス鋼製のシカゴの豆形の「雲のゲート」(7)(2004年)、モンゴルにある馬の背に乗ったチンギス・カンの高さ40mの彫像(8)(2009年)―彫像の表面は227トンのステンレス鋼で覆われている―などがあります。世界的に有名な作品からさほど知られていない作品まで、ほとんどの都市の中心街で目にするこうした作品を通して、ステンレス鋼が今後幾世代にもわたって一般市民の想像力をかき立てるに違いありません。

    永遠の彫刻に用いられるステンレス鋼

    1932:ナイアガラハドソンビルのファサード

    1940:ロックフェラープラザ

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    1947-1965:セントルイスのゲートウエイ・アーチ

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  • ニッケル誌 特別号(2012年5月号) ステンレス鋼: 最初の100年 11

    2012:スプラウツ・デリー

    2009:トールツリーとアイズ

    2000:エドワード・タフトによる’Escaping Flatland’

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    2006:米国空軍記念碑

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    1988:オーストラリアの国会議事堂の旗竿

    1967:シベリウスのモニュメント

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    12 ステンレス鋼: 最初の100年 ニッケル誌 特別号(2012年5月号)

    輸送に用いられるステンレス鋼冶金コンサルタント harold・M・Cobb

    ステンレス鋼は、自動車やトラックから鉄道車両、船舶そして航空機に至るまで事実上あらゆる種類の輸送で重要な役割を果たしています。たとえば、国内線であれ国際線であれ、ステンレス製の旅客用鉄道車両を目にするのは珍しいことではありません。

    ステンレス鋼製の輸送用機器が最初に製造されたのは1931年、バッド社による水陸両用航空機(1)でした。この会社は米国ペンシルバニア州フィラデルフィアにあるスチール製自動車車体メーカーで、発明家であり事業家であったエドワード・G・バッド(1870~1946年)にちなんで名づけられています。ニッケル含有18-8ステンレス鋼による高強度成形物は、いかなる方法でも溶接できないことが判明しました。電気抵抗スポット溶接をもってしても、溶接部付近の金属を焼鈍 (軟化)し、その結果、耐食性を低下させることなしにはできませんでした。幸いなことに間もなくスポット溶接設備が改良され、溶接時間が30分の1秒に短縮されたことで、この問題は解消されました。この飛行機は完成後、欧州と米国の空を飛び、このメーカーの技術力と製造技能を実証、宣伝しました。

    エドワード・バッドがステンレス鋼を用いて行った第2の実験は、ゴムタイヤ式鉄道客車でした(2)。フランスの実業家アンドレ・ミシュラン(1853~1931年)がバッドに未来を切り開くのはゴムタイヤ式鉄道車両だと語ったのです。ミシュランはタイヤを鉄道線路に密着させるフランジ付きの鋼製車輪をすでに発明していまし

    た。必要だったのは、空気式タイヤで支えることができる極めて軽量の鉄道車両でした。

    バッドはこの課題に対し、ガソリンエンジンを動力とした軽量の35人乗りステンレス鋼製車両を製造しました。バッド・ミシュラン・ラファイエットと呼ばれた最初の車両はフランスでの実験に成功を収め、それを受けて米国の鉄道会社3社は、チャンスを逃すまいとゴムタイヤ式の鉄道車両を購入しました。

    その一方、ラルフ・バッド(エドワード・バッドとは無関係)は経営難にあえぐ自身の鉄道会社のために光輝く流線形のステンレス鋼製車両を思い描いていました。1933年、米国の鉄道会社重役だったラルフ・バッド(1879~1962年)は、3台の車両からなるステンレス鋼製列車を発注しました。ディーゼル電気モーターで駆動する鋼製車輪の列車でした。バーリントン・ゼファーとして知られるこの列車は、最初の運転であらゆる記録を塗り替えました。夜明けから日没までに米国のデンバーからシカゴまで1,000マイル(1610km)の距離を走破したのです。平均時速は77 .5マイル(125km/h)、最高速度は時速112マイル(180km/h)でした。

    Budd Companyはその後50年の間に1万台を超える鉄道車両を製造し、その一部は現在もなお使用されています(3)。現在では、地下鉄、通勤列車、長距離列車の客車にステンレス鋼は広

    く用いられ、長寿命と低い維持費を実現しています。鉄道車両外板は301ln型ステンレス鋼(UnS S30153)と呼ばれる304型ステンレス鋼の高強度鋼

    1931:最初のステンレス鋼航空機

    1914:航空機エンジンの排気弁に導入

    1953:軽量のジェット圧縮機翼

    1934:列車「ゼファー」運転開始

    1949:ステンレス鋼の自走式鉄道車両

    1961:ステンレス鋼製の地下鉄車両の登場

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    1927:牛乳輸送トラック用に溶接ステンレス鋼を初めて使用

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  • ニッケル誌 特別号(2012年5月号) ステンレス鋼: 最初の100年 13

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    か、200系合金の同等品(S20153)のいずれかで製造するのが一般的です。

    第二次世界大戦中、米国では貨物輸送機に対する需要が多くありました。しかし残念ながらアルミが不足していました。そこでバッド社は米国の陸軍と海軍からステンレス鋼製の航空機を製造する契約を取得しました。これが双発のBudd rB-1コネストガです(4)。

    1981年、かつてゼネラルモーターズの副社長だったジョン・デロリアンは彼の理想の車、ステンレス製スポーツクーペ「デロリアンDMC-12」の生産を開始しました(5)。デロリアンモーター社は1982年に破産して解散しましたが、それまでにこの車を9千台以上生産販売しました。現在、ステンレス鋼は一般的な自動車の排気系統から燃料系統に至る無数の内部部品に用いられています。自動車会社の中には、オーステナイト系ステンレス鋼のエネルギー吸収特性に着目して、ステンレス鋼製車体フレームの設計の研究を進めているところがあります。

    ステンレス鋼製のタンクは長年にわたり道路輸送に利用されてきましたが、その始まりは1927年、米国で牛乳輸送に用いられたことです。今日ではステンレス鋼製のタンクを道路で見るのは珍しいことではなくなりました(6)。ステンレス鋼製タンクを用いて建造された最初の遠洋ケミカルタンカー(7)はM/t lindであり、1960年に納入されました。こうしたタンカーは、石油タン

    カーのタンクを小型化して数を増やすように改良したもので、それによって食料品(ワイン、植物油)から特殊な石油ベースのオイル、硫酸やリン酸といった腐食性の化学物質まで、多様な貨物に対応できるようになりました。元来こうしたタンクは、316l型ステンレス鋼を窒素添加してさらに強化した316l型ステンレス鋼(S31653)および316lよりも強度を増した317ln型ステンレス鋼(S31753)を用いて建造されていました。現在では強度がそれをさらに上回る二相系ステンレス鋼2205型ステンレス鋼(S32205)が最も普及しております。これはタンク壁を薄くして、その結果、さらに大量の製品を輸送することが可能になっています。ISoコンテナとして広く普及しているモジュール式のタンクコンテナは、保護用の金属フレームで囲まれたタンクで、海上、陸路、鉄道で容易に輸送することができます。全世界で何万隻ものステンレス鋼製タンクコンテナが利用されています。

    ステンレス鋼はこれまでの100年間を通じて、物と人を目的地に運ぶ用途に用いられており、それが今後も続くことは間違いありません。

    1981:デロリアン社のステンレス鋼自動車

    1996:自動車の排気系統はすべてステンレス鋼に転換

    2008:ステンレス鋼フレームの次世代車両の開発

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    1967:コンバーチブル型リンカーン・コンチネンタル

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    ステンレス鋼はこれまでの100年間を通じて、物と人を目的地に運ぶ用途に用いられてきました。

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  • 14 ステンレス鋼: 最初の100年 ニッケル誌 特別号(2012年5月号)

    ニッケル協会コンサルタント Stephen lamb、Consultancy resources Corporation

    ステンレス鋼は、飲料水であれ、超純水であれ、廃水であれ、流出水であれ、水の取り扱い、貯蔵、処理に大きな役割を果たしています。ステンレス鋼が用いられる大きな理由は、これらの各種の水に含まれる多様な化学物質の腐食作用に対する耐食性であり、それによって飲料水や高純度水の完全性を保っています。

    飲料水は一般に食料品よりも腐食性が低く、水道事業の特定用途では昔からステンレス鋼が用いられてきたものの、しばしば一般用途には高価過ぎると考えられました。ステンレス鋼が実際にどれほど費用対効果に優れているかが明らかになるまで、長い年月を要したのです。

    様々な処理水流に対するステンレス鋼の耐食性が初めて体系的に評価されたのは1970年代のことです。ニッケルを9%含有する304型ステンレス鋼(S30400)と12%含有する316型ステンレス鋼(S31600)を他の合金とともに廃水環境で実験しました。この実験で好結果が出たことを受け、処理水流の配管、通気配管のほか、浄化装置の建造やスラッジ除去用のスクレーパーアーム、ボルト締めといったプラント内の様々な用途で、オーステナイト系ステンレス鋼の利用が拡大しました。

    人が消費する飲料水の取り扱いでも同じくステンレス鋼の利用が増加し、現在ではステンレス鋼が必須と考えられています。現在の水処理プラント(1)では、浄化処理と組み合わせて膜セルを使用することが多くあり、それによって細菌、コロイドおよびクリプトスポリジウムなどの飲料水の病原体を除去します。膜セルを用いないプラントはオゾン処理など他の浄化方式を採用しています。処理が完了した水は塩素処理した上で配水する前にタンクや貯水池に貯蔵します。こうしたタンクはステンレス鋼製のパイプ、薄鋼板、厚鋼板で建造されています。

    重要性を増しつつある水技術の一つに脱塩(2)があります。海水や半塩水を淡水化する技術です。ずっと腐食性の水を扱うために、二相系や超二相系、超オーステナイト系などのより高合金ステンレス鋼が必要となります。これらのステンレス鋼は、塩化物を含んだ水流の処理、膜含有セル、濃縮塩水流など水処理プロセスの様々な段階で用いられます。一方、標準的な種類のステンレス鋼は淡水の貯蔵に用いられます。脱塩産業は過去10年間に全世界

    で240%の成長を遂げ、減速する気配がありません。

    アジア、オーストラリア、欧州ではステンレス鋼製の配水管及び給水管を用いて処理済みの水を家庭や企業に直接供給しています。日本では配水管は埋設されていますが、河川にかかった道路橋側面に設置されるものもあります。欧州ではドイツが水道管でのステンレス鋼の利用で先頭に立っており、その有名な一例として2006年ワールドカップのために建てたミュンヘンのアリアン

    ツ・アリーナ(3)があります。最近では中国が2008年北京オリンピックの際の北京国家体育場や国家水泳センターの水道配管を含む水道管需要に対してステンレス鋼を採用しました。

    ステンレス鋼の水道管は、立上り管や分岐管が高いポンプ圧に耐える必要のある高層建築物で多く用いられています。たとえば台湾の台北金融大楼、マレーシア・クアラルンプールのペト

    ロナス・ツインタワー、北京の中国中央電視台本部ビル、オーストラリア・クイーンズランド州ブリスベーンのオーロラタワーなどです。スコットランドでは国立健康施設の温水と冷水の供給に316l型(S31603)ステンレス鋼管が指定されています。カリフォルニア州サンディエゴ郡に新設されるパロマー・ポメラド医療センターも同様であり、この施設は北米最大の医療施設になるでしょう。

    配管材料は、ステンレス鋼製の付属品、継手、タッピングスリーブ(4)、リペアクランプなどと共に用いられることが多くあります。これは埋設構造物を含むことが多く (5)、付属品などは様々な土壌にさらされていますが、これまで問題は事実上全く報告されていません。

    水道配管に用いられるステンレス鋼はほとんどオーステナイト系(304型鋼と316型鋼)ですが、二相系ステンレス鋼も大口径の配管系統を中心に利用され始めています。

    ニューヨーク市環境保護局はラウンドアウト貯水池(マンハッタン島の飲料水源)で直径244cm(96インチ)の立上り管を建設するに際し、少なくとも100年の耐用年数が確実に見込める素材を選択するために、浸漬実験を行いました。同局は実験結果に基づき304型ステンレス鋼と306型ステンレス鋼を選択しました。ステンレス鋼発明200周年を迎える2112年においても、その配管が利用されている姿が見られるでしょう。

    水に用いられるステンレス鋼

    1935:ステンレス製キッチンシンクの設置大幅増加

    1922:最初のステンレス鋼ボイラー管

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    1960年代:近代的な脱塩プラント登場

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  • ニッケル誌 特別号(2012年5月号) ステンレス鋼: 最初の100年 15

    今日、飲料水や高純度水の完全性を保つ必要性があり、ステンレス鋼は人が消費する飲料水の取り扱いでもその要求を満たす。

    2004:101階建てビルの防火及び給水設備にステンレス配管

    1997:ANSI/NSFが飲料水システムにステンレス鋼種を承認

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    1980年代:海水の逆浸透設備実用化

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  • 16 ステンレス鋼: 最初の100年 ニッケル誌 特別号(2012年5月号)16 ステンレス鋼: 最初の100年 ニッケル誌 特別号(2012年5月号)

    1950年代:外科用ステープル

    1962:使い捨てステンレス鋼注射針1926:外科用インプラントに初めてオ

    ーステナイト系ステンレス鋼を使用

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    1940年代:ステンレス鋼の歯科矯正アーチワイヤーの開発

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  • ニッケル誌 特別号(2012年5月号) ステンレス鋼: 最初の100年 17

    欧州鉄鋼協会  tony newson、eUroFer、

    ステンレス鋼は発明から100年の歴史を通して、製品の手頃な価格、耐久性、衛生性を保証する上で耐食性、製造の容易さ、殺菌の容易さが鍵となる医療の分野で用途を確立しました。

    1925年には早くも、手術器具カタログではステンレス鋼がニッケルメッキの炭素鋼器具に代わる高価な選択肢として提案されましたが、1938年までには多くのメーカーがニッケルメッキ器具を完全に廃止していました。工具や器具の製造においては(1)、高硬度が必要ではない場合には304型ステンレス鋼(S30400)などのニッケル含有オーステナイト系合金を用い、高硬度が必要な場合にはマルテンサイト系合金を用いるのが最も一般的です。しかし手術用メスの刃、のみ、丸のみなどの鋭利な刃先の器具については炭素鋼を用いての製造が続いていました。炭素鋼の場合、鋭利にはなるものの、洗浄殺菌手順を慎重に管理しないと錆びてしまう恐れがあります。硬化マルテンサイト系ステンレス鋼で作った手術器具の刃先は(2)、多くの場合、炭素鋼の同等製品に比べ耐久性が低く、頻繁に研ぐ必要があります。医療用の工具と器具の分野は現在では全世界で300億米ドル規模の産業であり、その中でステンレス鋼は大きな地歩を占めています。

    歯科用器具にも、医療器具と同じ理由から同じ合金が用いられています。ステンレス鋼は歯科装置(3)や時には歯冠として口の中にも用いられています。ステンレス鋼は通常、口の中に金属味を感じさせることはありません。

    病院や診療所のあらゆる設備と表面部位は、感染症の蔓延を防ぐため頻繁な洗浄と殺菌が必要であり、現在では病院のテーブル、カート、台車、キャビネット、点滴スタンド、ベッドなどあらゆる種類の設備や、シンク、シャワー、病人用便器など日常的な備品にステンレス鋼が用いられています(4)。

    インプラント用途に用いられるステンレス鋼グレードとそれ以外の医療機器に用いられる標準的な量産品グレードでは大きな違いがあることは重要な注意すべきことです。たとえばeUでは、インプラントを人体組織に30日以上接触する医療器具と定義しています。そのためインプラントは特別な要件を持つ独自の仕様となっています。

    腰、膝、指及び肩の関節、プレート、スクリュー、ワイヤーなどの固定器具のような外科用インプラント(5)には、鍛造オーステナイト系ステンレス鋼と高窒素ステンレス鋼が用いられています。これらのインプラントの材料は、本来316(S31600)ステンレス鋼から発展したものです。しかしインプラントは生体適合性を持つ必要があると同時に、X線や磁気共鳴映像(MrI)(6)などの術後診断技法にも適合していなければなりません。MrIを使用する場合、インプラントは非強磁性物質のみを含んでいなければならず、そのためステンレス鋼インプラントの化学組成を、ニッケル、窒素、マンガンといったオーステナイト形成元素の量を増やして強化しています。

    さらに、インプラントグレードのステンレス鋼は、耐孔食性及び量産品のステンレス鋼には適用されない内部清浄度に関する特別な要件があります。そのため「クリーンな」インプラント用のステンレス鋼、すなわち硫化物やケイ酸塩、酸化物のような非金属不純物の濃度が低いステンレス鋼を生産するため、真空溶解やエレクトロスラグ精製といった特殊な製造方法が採用されています。またインプラントについては、微生物汚染を防ぐため、特殊な表面仕上げ要件と厳格な洗浄方式が定められています。

    aStM F138規格に準拠して製造された316lvM(UnS S31673)ステンレス鋼インプラント(7)を使用した長期の臨床経験から、このインプラントは人体に対し容認可能な生体適合性を持つことが確認されています。ただし外科用インプラント材料が炎症のような有害反応を示すことはないと保証することはできません。特に、ニッケルに対し敏感な患者さんにはチタン合金のインプラントを使用することもできますが、ニッケル成分が非常に少ないインプラントグレードのステンレス鋼(S29108)も利用できます。

    要約するとステンレス鋼は、優れた耐食性と、多様な医療器具に適合する幅広い機械的及び物理的特性を備え、費用対効果に優れた工学材料群です。1世紀前の開発以来、ステンレス鋼は人類の健康と福祉に測り知れない貢献をしてきました。

    医療用器具は世界で300億米ドルの市場で、その大きな部分はステンレス鋼が占めています。

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    医療に用いられるステンレス鋼

    1970年代:人工股関節 1994:ステンレス鋼ステントの導入。1999年までに経皮冠動脈インターベンションの84%に使用。

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    1960年代:ステンレス鋼の歯科用小型ブラケット

  • 18 ステンレス鋼: 最初の100年 ニッケル誌 特別号(2012年5月号)

    1954:ロシアの最初の発電用原子炉

    英国ステンレス鋼協会(BSSa)  alan harrison

    エネルギーと電力が容易に利用できることは現代社会に不可欠な条件です。この100年間、燃料の採取と発電のいずれにもステンレス鋼は重要な役割を果たしてきました。そして「よりグリーンな」エネルギーを生産する上でもその必要性は増しています。

    今日、石油やガスの採取は以前より難しいものになっています(1)。これは流体が「高温で酸性(硫化水素を含んでいる)」であり、塩化物を含んだりする場合が多くなっているからです。こうした腐食性環境に対応するため、多くの場合にステンレス鋼が必要とされます。すなわち、具体的には316l型ステンレス鋼(S31603)から二相系や超二相系グレードのステンレス鋼、時にはニッケル合金までを含む範囲のステンレス鋼です。沖合プラットフォーム(2)でも、腐食性の海水に耐性を持つという理由からステンレス鋼が使用されています。通常-162℃で貯蔵される液化天然ガスに対しては、配管であれタンクであれ、304l(UnS S30403) 型ステンレス鋼を使用するのが一般的です。たとえそれより低温になっても、304lは高い延性を保ちます(3)。

    水力発電(4)では、タービンブレードを410niMo(S41500)や16Cr-5ni-1 .5Mo合金(en 1 .4418、UnS番号なし)といった焼入れ可能なステンレス鋼で製造することが多くあります。ダムのゲートは304l型ステンレス鋼か316l型ステンレス鋼のどちらかで製造することが多く、ローラーガイドは17-4Ph(S17400)といった析出硬化可能な合金で作ります。

    石炭火力発電所では、高温の燃焼区画及びより低温の耐食性が必要な区画の両方で数多くの異なる用途でステンレス鋼が使用されています。過去35年間は、二酸化硫黄排出物を抑制するために、ガス浄化システムにニッケル合金とともにステンレス鋼を使用してきました。最近では水銀レベル低減のために使用しています。10 .5% Crのフェライト系ステンレス鋼(たとえばUnS S40977やen 1 .4003)は特に、何百万トンの石炭を輸送する鉄道車両に用いられています。このグレードと304(S30400)は共に、摩耗が問題になる石炭シュートで用いられています。

    天然ガス燃焼火力発電所は、ジェットエンジンとほぼ同じ方法でタービンを使用します。タービン自体にはニッケル合金が用いられる一方、復熱装置のハウジングなど多くの部品に301(S30100)型ステンレス鋼や321型ステンレス鋼(S32100)などのステンレス鋼が用いられます。

    化石燃料火力発電所のガス排出物から炭素を回収・貯蔵する技術は現在開発中ですが、いくつかの設計がステンレス鋼を多用することがすでに明らかになっています。たとえばCo2を除去するアミンスクラバーでは、多様なグレードのステンレス鋼が必要になると考えられます。たとえば316l、410niMo、347(S34700)、2205二相系(S32205)、904l(n08904)、6% Moの一群(たとえばS31254やn08367)などです。

    原子力発電部門は化石燃料発電所と共通する部分が多くありますが、使用済み燃料に関する特殊な用途がいくつかあります。輸送中に使用済み燃料から出る中性子放射を減速させるため、ボロンを少なくとも0 .5%添加した304(S30462)型鋼が用いられています。naG(硝

    酸グレード)と呼ばれる特殊な種類の304l型鋼は燃料の再処理に用いられています。

    現在、波力や潮力を利用するために多くの装置が開発されています(5)。これらのプロトタイプ装置のあるものは、石油天然ガス部門の海水用途で長い実績のあるステンレス鋼を使用しています。この新しいエネルギー部門に知識を移転する重要性はさらに増しています。二相系合金及び超二相系合金は強度と耐食性を兼ね備えており、この厳しい環境でも重要な役割をきっと果たすでしょう。

    ステンレス鋼は太陽エネルギー(6)にうってつけの素材です。その用途にはソーラー温水パネル、薄膜光電池(Pv)パネルの基板、結晶Pvパネルの支持パネルとコネクター、集光システムの大面積ミラーなどがあります。

    バイオ燃料部門(7)はすでにステンレス鋼の耐食性と耐熱性を活用しています。嫌気性分解では304型ステンレス鋼を大口径分解タンク及び関連配管に使用しています。304型ステンレス鋼はコーンやサトウキビからのエタノールの生産にも広く用いられています。316l型ステンレス鋼はより腐食性の強い条件下で用いられています。この部門で加熱プロセスでは、高温での優れた強度と耐食性のためにステンレス鋼が使用されています。

    そのほかステンレス鋼を使用する開発中の技術として、燃料電池、廃棄物エネルギープラント、地熱発電所(8)、核融合プロセス、エネルギー貯蔵などがあります。人間社会の未来が技術革新と再生可能エネルギー源にかかっていることは明らかであり、これらのエネルギーの生産にステンレス鋼が重要な役割を果たすであろうことも、同じく明らかです。

    エネルギー生成と発電に用いられる ステンレス鋼

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    1922:最初のステンレス鋼ボイラー管

    1930年代:エジプトのアスワンダム用に1500Tのステンレス鋼半

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  • ニッケル誌 特別号(2012年5月号) ステンレス鋼: 最初の100年 19

    1966:初めての潮力発電所にステンレス鋼のタービン翼を使用

    1975:酢油やガス使用発電所の材料基準に初めてNACE MR0175発行

    2003:酢油やガス使用発電所の材料基準に初めてNACE MR0175/ISO 15156発行

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  • 20 ステンレス鋼: 最初の100年 ニッケル誌 特別号(2012年5月号)

    ニッケル協会コンサルタント Gary Coates、Garcoa Metallurgical Services

    nickel誌の本特別号では、この100年間にわたるステンレス鋼利用の急成長を振り返り論評しました。1914年、全世界のステンレス鋼生産量は100トン程度であったはずです。1934年には米国の生産量だけでおよそ42,000トンであったと推定されます。2011年には全世界で32,000,000トン以上が生産されました。

    過去10年間における諸々の合金開発や経済混乱にもかかわらず、300系のニッケル含有合金が今でもなお全世界のステンレス鋼生産量全体の3分の2近くを占めています。さらに200系、二相系、析出硬化系のステンレス鋼及び一部のマルテンサイト系と超フェライト系合金がニッケルを含有しています。

    なぜニッケル含有合金にこれほど大きい需要が継続するのでしょう。簡単に言えば、ニッケルがもたらす特性に大きな価値があるからです。100周年記念の本号でもそうした様々な特性を、その全てではありませんが数多く紹介しました。たとえば300系ステンレス鋼の優れた溶接可能性と成形性です。ニッケルがステンレス鋼にもたらす特性に関する詳細は当協会発行の「ニッケルの利点(nickel advantage)」をご覧ください。

    ステンレス鋼の高い成長率を支えてきたのはニッケル協会の刊行物であり、その中に間もなく創刊28年に達するニッケル誌があります。同誌に掲載されている質の高い情報は、世界中で高く評価されています。現在は論文と情報を掲載したウェブページがマウスで数回クリックするだけですぐに閲覧できます。

    ステンレス鋼の成長が継続しているのは、全世界にある、有益な文献とサービスを地元言語で提供している多くのステンレス鋼開発協会の活動による部分も大きい。

    しかし、未来はどうなのでしょう。もちろん確実なことは何一つありませんが、それでもある程度合理的な予測を行うことはできます。それを以下に述べます。

    ニッケル含有鋼と非含有鋼を含むすべてのステンレス鋼に対する需要はこの先も成長を続けるでしょう。全世界の人口が増え、所得水準が上がるにつれ、人々は長持ちで手入れの簡単な高品質の製品を購入するようになります。食品飲料産業については、一般市

    民も政府も確実に細菌が食品を汚染することのない厳しい規格を望んでいます。これはつまりステンレス鋼の需要が増えるということです。すでに牛舎の搾乳設備やストールは、使用する度の殺菌が容易なためステンレス製になっています。

    飲料水や廃水処理産業でも衛生規格は厳しくなります。脱塩プラントは半塩水や海水を処理するため高合金のステンレス鋼を必要としますが、それ以外の分野で使用される設備は今後も主に304lと316lのステンレス鋼製が使用されるでしょう。

    長持ちするステンレス鋼ファサードを備えた格式の古い建築物は今後も人気を維持する一方、水道管や工業用ファスナー、防火設備など「隠れた」用途でのステンレス鋼利用も増えるでしょう。

    大量輸送交通機関の車両製造でもステンレス鋼の使用量は増加するでしょう。これは長寿命と少ない保守の手間、車重の軽減、乗客安全性の向上に対する必要性を反映したものです。

    用途の拡大に応じて新しいグレードのステンレス鋼開発が進むでしょう。たとえば電力産業では蒸気温度が高くなれば燃料変換効率も上昇するため、費用対効果に優れた新しいステンレス鋼グレードが必要となります。

    化学産業では安全性と環境保護に関する懸念から、オーステナイト系及び二相系のステンレス鋼の使用が増えるでしょう。

    次の100年の間に、すでに進行中のステンレス鋼合金の世界的な標準化と合理化が完了するでしょう。それによってステンレス鋼メーカーが費用面の恩恵を受け、それがエンドユーザーに還元されるでしょう。ただし304型ステンレス鋼は、今後も最も多く生産される合金であり続けるでしょう。

    ステンレス鋼の寿命末期リサイクル率は、すでに約90%と非常に高い水準にありますが、含有されている貴重な元素を回収することの重要性をより多くの人が理解するゆえに、この率はさらに高まるでしょう。

    これまでの100年でステンレス鋼は実験室を出て社会全体で利用されるに至りました。次の100年間で何が起こるかは想像することしかできませんが、私たちが確信していることが一つあります。それはニッケルとステンレス鋼は今後も幅広く利用され、人類に貴重な貢献をもたらし続けるだろうということです。

    ステンレス鋼の未来

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    2025:高速のステンレス鋼鉄道車両が中国の主要都市全てを結ぶ

    2006:中国が世界最大のステンレス鋼生産国となる

    2035:全ての化石燃料発電所に炭素隔離設備

    2055:実用化された最初の核融合炉

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    2070:ステンレス鋼の電気自動車が一般的になる

    2045:実用化された最初の超臨海水原子炉

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