ベトナム 年度...

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1 ベトナム 2016 年度 外部事後評価報告書 円借款「ベトナム北部国道交通安全強化事業」/円借款附帯プロジェクト「交通警察官 研修強化プロジェクト」 1 外部評価者:新日本有限責任監査法人 髙橋久恵 . 要旨 「ベトナム北部国道交通安全強化事業」(以下、「本体事業」という。)は、同国北部 の国道において、交通安全に資する設備の整備、周辺住民や道路利用者への啓発活動、 交通指導取締り、交通安全教育の強化を通じて、交通事故死者数及び事故件数の減少、 事故被害の軽減を図り、もって周辺の生活環境及び道路の利用環境の改善に寄与するこ とを目的として実施された。また、「交通警察官研修強化プロジェクト」(以下、「附帯 プロ」という。)についても、交通安全を取りしまる交通警察官の教育機関である人民 警察学院(People’s Police Academy、以下、「PPA」という。)を支援した事業であった。 両事業(以下、「本事業」という)の目的は、交通事故を社会問題として、その解決を 課題としてきた同国の開発計画やセクター戦略に加え、周辺住民や道路利用者の啓発活 動や交通規則に対する倫理・道徳観の改善に対する同国の開発ニーズ、さらに我が国の 援助政策と高い整合性を有している。なお、本体事業の事業費、事業期間は計画内に収 まっており、効率性は高い。本体事業完了後、対象国道での交通事故発生件数、交通事 故死者数・負傷者数が軽減し、事後評価時点においても車両登録台数の増加にも関わら ず対象道路の位置する省・市での同数も事業実施前と比較し軽減していることが確認さ れた。さらに、道路状況の改善にともない道路利用者の被害の軽減や維持管理コストの 軽減にも貢献しており、道路環境への満足度も高い。また、PPA でも、附帯プロ実施後 には教育内容や教授法が改善し、教育を受けた人材の交通教育現場での活躍が確認され ている。しかし、事後評価時における対象国道での有効性を測るデータが入手できなか ったことから、間接的な効果の確認にとどまった。したがって、本事業の有効性・イン パクトは中程度と判断する。本体事業で整備された機材の維持管理状況は良好で、啓 発・交通取締り活動も各地域で継続されている。運用にあたり技術面の問題はないもの の、運営・維持管理の実施・管理体制、財務状況に軽度の問題が確認された。附帯プロ についても、 PPA での教育活動の持続性に懸念はないものの、研究活動の財務面に課題 が確認された。よって、本事業一体としての持続性は中程度と認められる。 以上より、本事業の評価は高いといえる。 1 「交通警察官研修強化プロジェクト」は「ベトナム北部国道交通安全強化事業」の円借款附帯プロ ジェクトと位置付けられていることから、一体評価の対象とする。詳細は「1.3 評価の方針」を参照 のこと。

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ベトナム

2016 年度 外部事後評価報告書

円借款「ベトナム北部国道交通安全強化事業」/円借款附帯プロジェクト「交通警察官

研修強化プロジェクト」1

外部評価者:新日本有限責任監査法人 髙橋久恵

0. 要旨

「ベトナム北部国道交通安全強化事業」(以下、「本体事業」という。)は、同国北部

の国道において、交通安全に資する設備の整備、周辺住民や道路利用者への啓発活動、

交通指導取締り、交通安全教育の強化を通じて、交通事故死者数及び事故件数の減少、

事故被害の軽減を図り、もって周辺の生活環境及び道路の利用環境の改善に寄与するこ

とを目的として実施された。また、「交通警察官研修強化プロジェクト」(以下、「附帯

プロ」という。)についても、交通安全を取りしまる交通警察官の教育機関である人民

警察学院(People’s Police Academy、以下、「PPA」という。)を支援した事業であった。

両事業(以下、「本事業」という)の目的は、交通事故を社会問題として、その解決を

課題としてきた同国の開発計画やセクター戦略に加え、周辺住民や道路利用者の啓発活

動や交通規則に対する倫理・道徳観の改善に対する同国の開発ニーズ、さらに我が国の

援助政策と高い整合性を有している。なお、本体事業の事業費、事業期間は計画内に収

まっており、効率性は高い。本体事業完了後、対象国道での交通事故発生件数、交通事

故死者数・負傷者数が軽減し、事後評価時点においても車両登録台数の増加にも関わら

ず対象道路の位置する省・市での同数も事業実施前と比較し軽減していることが確認さ

れた。さらに、道路状況の改善にともない道路利用者の被害の軽減や維持管理コストの

軽減にも貢献しており、道路環境への満足度も高い。また、PPA でも、附帯プロ実施後

には教育内容や教授法が改善し、教育を受けた人材の交通教育現場での活躍が確認され

ている。しかし、事後評価時における対象国道での有効性を測るデータが入手できなか

ったことから、間接的な効果の確認にとどまった。したがって、本事業の有効性・イン

パクトは中程度と判断する。本体事業で整備された機材の維持管理状況は良好で、啓

発・交通取締り活動も各地域で継続されている。運用にあたり技術面の問題はないもの

の、運営・維持管理の実施・管理体制、財務状況に軽度の問題が確認された。附帯プロ

についても、PPA での教育活動の持続性に懸念はないものの、研究活動の財務面に課題

が確認された。よって、本事業一体としての持続性は中程度と認められる。

以上より、本事業の評価は高いといえる。

1「交通警察官研修強化プロジェクト」は「ベトナム北部国道交通安全強化事業」の円借款附帯プロ

ジェクトと位置付けられていることから、一体評価の対象とする。詳細は「1.3 評価の方針」を参照

のこと。

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1. 事業の概要

事業位置図 設置された交通標識と信号 人民警察学院での実習風景

1.1 事業の背景

ベトナムでは、交通事故の多発が社会問題となっていた。なかでも、道路、内陸水運、

海運、鉄道等の運輸モード別でみると、道路で生じる交通事故が件数で全体の 96%、

死者数で 97%、負傷者数で 98%と、そのほとんどの割合を占めていた。道路交通事故

による年間死者数は、1992 年から 2002 年の間に、2,755 人から 12,800 人へと約 4.6 倍

に増加し、2002 年以降は減少傾向にあるものの、依然として年間 11,000 人を超えてい

る。年間道路交通事故死者数の割合を、ASEAN 諸国で比較すると(2002 年時点)、ベ

トナムは 4 番目に高い状況にあった2。同国政府は交通安全対策を図るため、「3E」とさ

れる施設整備(Engineering)、教育・啓蒙(Education)、指導・取り締まり(Enforcement)

を重視し、事故多発地点でのインフラ整備、取締り強化のための体制構築や法令整備、

啓発活動の実施などを行ってきたが、予算の制約もあり、さらなる対策が求められてい

た。かかる状況を受けて、我が国政府は、交通量が増加している国道を対象に交通安全

に資する施設の整備、周辺住民に対する啓発活動、交通指導取締り及び交通安全教育の

強化に係る支援を実施するに至った。

また、同国では急激な交通状況の変化に対し、交通の取締りにあたる交通警察官を養

成する教育機関の研修内容がその変化に十分対応できていない状況であった。したがっ

て、交通現場での対策に加え、現状に即した交通警察官を養成する教育・研修内容の改

善も喫緊の課題とされていた。そこで、技術協力支援を通じ、警察官の養成・輩出や幹

部職員の再訓練を実施する PPA の教育内容を向上し、本体事業との連携を図ることで、

交通警察行政の現場と教育現場の両方に対して支援を行うことが計画され、より効率的、

効果的な成果の発現を期待し、附帯プロの実施に至った。

2 JICA 提供資料

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1.2 事業概要

【円借款】「ベトナム北部国道交通安全強化事業」(本体事業)

ベトナム北部の 4 国道(3・5・10・18 号線)において、交通安全に資する施設を整備し、

周辺の住民及び道路利用者に対する啓発活動並びに交通指導取締り、交通安全教育に係る

支援を実施することにより、交通事故死者数及び交通事故件数の減少・被害の軽減を図り、

もって周辺住民の生活環境改善及び道路の利用環境改善に寄与する。

円借款承諾額/実行額 6,557 百万円 / 6,059 百万円

交換公文締結/借款契約調印 2007 年 3 月 / 2007 年 3 月

借款契約条件 金利 1.3 %

返済

(うち据置

30 年

10 年)

調達条件 一般アンタイド

借入人/実施機関 ベトナム社会主義共和国政府/国家交通安全委員会

事業完成 2014 年 6 月

本体契約 -

コンサルタント契約 Consia Consultants(デンマーク)/株式会社オリエンタルコ

ンサルタンツ(日本)(JV)

関連調査(フィージビリティ

ー・スタディ:F/S)等「プレ F/S」2006 年 11 月

関連事業 ・技術協力「ハノイ交通安全人材育成プロジェクト」(2006年~2010 年)

・世界銀行「道路安全事業」(2005 年~2012 年)

・アジア開発銀行「ASEAN 地域道路安全プログラム」(2003年~2004 年)

【円借款附帯プロジェクト】「交通警察官研修強化プロジェクト」(附帯プロ)

上位目標 警察教育機関における交通警察訓練能力が向上する。

プロジェクト目標PPA における交通警察学部の教育内容が充実する。PPA 交通警察学部

指導教官の教授能力が向上する。

成果

成果 1交通警察学部教育において「道路交通法と安全教育」、「交通規則・管

理」、「交通違反取締り」、「交通事故データの収集」に関わる教育内容

が充実する。

成果 2 学生を主体とした新たな教授法が導入される。

成果 3 交通安全研究センターが設立され、研究開発業務が開始される。

日本側の協力金額 399 百万円

事業期間2010 年 6 月 ~ 2013 年 12 月

(うち延長期間:2013 年 7 月 ~ 2013 年 12 月)

実施機関 ベトナム社会主義共和国政府 /人民警察学院

我が国協力機関 警察庁

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1.3 評価の方針

妥当性は本体事業と附帯プロの両方、効率性は主に本体事業を対象とし、有効性・イ

ンパクト、持続性については、本体事業に加え、事後評価時に確認できる附帯プロの各

成果・目標等の達成状況と本体事業との相乗効果として期待されるインパクトへの道筋

等に基づきを分析・評価を行った。円借款事業と円借款附帯プロの一体評価では、円借

款附帯プロのプロジェクト目標の達成度を円借款事業の効果発現の一部としてとらえ、

附帯プロによる効果発現の貢献度合いを確認し、評価判断に加味する。しかし、本件に

関しては、関連資料に両事業の関連性につき具体的な記載がなく、本事業の実施機関も

事業間の連携や関係性を把握していない状況であった。一方、事業の概要によれば、警

察官の教育機関を支援の対象とした附帯プロは、本体事業の支援した「交通安全施設整

備」「交通安全教育・啓発活動」「交通安全指導取締り強化」の 3 つのコンポーネントの

うち、「交通安全指導取締り強化」に関連するといえる。ただし、交通安全取締り用資

機材の供与(本体事業)が比較的短期間で有効性(事故数)やインパクト(道路の周辺・

利用環境)に影響するのに対し、PPA での教育現場の支援(附帯プロ)が本体事業の有

効性やインパクトに貢献するには一定の期間を要することから、事後評価時点に確認で

きる相乗効果やインパクトは限定的といえる。そのため、本事業の有効性の評価は事後

評価時に確認できる有効性・インパクト及び相乗効果に基づき、確定した。

2. 調査の概要

2.1 外部評価者

髙橋久恵(新日本有限責任監査法人)

2.2 調査期間

今回の事後評価にあたっては、以下のとおり調査を実施した。

調査期間:2016 年 9 月~2017 年 11 月

現地調査:2016 年 12 月 4 日~12 月 22 日、2017 年 4 月 12 日~4 月 21 日

3. 評価結果(レーティング:B3)

3.1 妥当性(レーティング:③4)

3.1.1 開発政策との整合性

本事業の計画時、ベトナム政府が策定した「社会経済開発 5 カ年計画」(2006 年~

2010 年)は、交通事故問題を深刻な問題と捉え、道路交通事故件数の減少は全ての

人々と社会全体が担う課題であり、課題解決に直接携わる組織への資機材・設備供

給を重視するとした。当時策定中であった「国家交通安全戦略」(2006 年~2016 年)

は、交通事故件数、死傷者数の低減、住民の交通安全意識の向上、国による交通安

3 A:「非常に高い」、B:「高い」、C:「一部課題がある」、D:「低い」4 ③:「高い」、②:「中程度」、①:「低い」

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全の管理権限の強化を交通安全分野の目標とし、特に国道における安全対策を重点

とすることが計画された。

事後評価時の「社会経済開発 5 カ年計画」(2016 年~2020 年)」でも、経済成長を

重視するとともに、経済発展と調和した持続的な文化・社会発展、人々の生活の向

上を注力すべき事項として示している。そのため、社会の安全・秩序を確保に向け、

交通安全の確保、規則の順守、交通事故軽減への対応策を継続し、交通規則の取締

り強化を図ることが記載されている。なお、事後評価時においても、計画時の「国

家交通安全戦略」(2006 年~2016 年)は有効であり、国道の安全対策が引き続き重

視されている。

本事業は交通事故・被害の減少を目指したものであり、上記のとおり計画時から

事後評価時まで、本事業はベトナムの開発政策との整合性が認められる。

3.1.2 開発ニーズとの整合性

本体事業の審査時のベトナムでは、1996 年には 5,800 人であった交通事故による

死者数が 2005年には 11,500人に倍増しており、交通事故は深刻な問題となっていた。

なかでも、運輸モード別では道路交通事故がその大部分を占め、さらに 2001 年に発

生した道路交通事故の 49%は国道で起きていた。この状況に対し、国家交通安全委

員会は道路交通事故の主な原因を道路利用者の交通規則不遵守、政府の交通安全管

理に対する認識・能力不足、不十分な制裁措置、規定・基準・規則・条例の不一致

や発効遅れ、交通安全取締りに必要な技術・機材不足、交通法に関する啓発活動・

情報普及不足、インフラ不備5等にあるとした6。

交通事故による死者数は 2014年には 8,788人、2015 年には 8,385 人、2016 年に 7,696

人と減少傾向にある。道路交通事故のうち、国道で生じる事故の割合も本体事業審

査時の 49%から 2015 年には 35%まで減少した。しかし、運輸モード別でみた道路

交通事故は、事後評価時においても全体の死者数の 96%~98%を占めている。国家

交通安全委員会は、道路における交通事故状況の改善に向けて、引き続き交通安全

に向けた国道の施設整備、道路利用者・住民の啓発活動、交通規則に対する倫理・

道徳観の改善、定期的な交通安全年・月間等のキャンペーンの実施が必要であると

している。

また、交通安全を取り締まる交通警察官の教育機関を支援した附帯プロについて

も同じく交通安全に資する事業である。よって、対象国道路線における交通安全の

改善を目指した本体事業は、附帯プロとともに、計画時及び事後評価の両時点にお

いて同国の開発ニーズに対応した事業であったといえる。

5 具体的には、車両・自転車等・歩行者の混在、交通標識の不足等が挙げられた。6 出所:JICA 提供資料

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3.1.3 日本の援助政策との整合性

計画時において、外務省が策定した「ベトナム国別援助計画」(2004 年 4 月)は①

成長促進、②生活・社会面での改善、③社会・経済の基盤となる制度整備の 3 分野

を重点分野とした。このうち①成長促進では自動車交通を含む「運輸交通安全に係

る支援に重点的に取り組む」ことが示された。また、JICA の 2006 年度「国別業務

実施方針」でも、「幹線道路及び都市において、交通安全に資する施設整備、沿道の

住民・道路利用者に対する啓発活動、交通安全取締り及び交通安全教育の強化に係

る支援を検討する」とした。本事業は、交通安全に資する施設の整備、啓発活動、

交通安全教育の強化を支援するものであり、計画時の記載の通りベトナムに対する

日本の援助政策との整合性が認められる。

3.1.4 事業計画やアプローチ等の適切さ

附帯プロに関しては、事業実施による相乗効果が確認できるまでには、一定の期

間を要することが想定される。一方、交通安全のための施設・機材の整備や啓発活

動を実施した本体事業と交通安全を取り締まる交通警察官の教育機関を支援した附

帯プロは、ともに政策・開発ニーズに合致し、交通安全に資する事業である。交通

警察行政の現場と教育現場に対して支援を行うことで効率的・効果的な成果の発現

を期待するというプログラム的な支援としては妥当な位置づけであったと考えられ

る。

以上より、本事業の実施はベトナムの開発政策、開発ニーズ、日本の援助政策と十分

に合致しており、事業計画やアプローチ等も適切であったことから、妥当性は高い。

3.2 効率性(レーティング:③)

3.2.1 アウトプット

本体事業では、ベトナム北部の以下の国道 4 路線(詳細は表1及び図1参照)に

おいて、交通安全に必要な①施設整備、②教育・啓発のための資機材調達と研修、

③指導・取締りのための資機材調達と研修、④コンサルティング・サービスが行わ

れた。計画と実績は表 2~5 のとおり。

表 1 本体事業の対象国道路線の区間と位置

路線 区間 省/市

3 号線 ハノイ~タイグエン ハノイ市、タイグエン省

5 号線 ハノイ~ハイフォン ハノイ市、ハイフォン市、ハイズオン省、フンイェン省

10 号線 ニンビン~クワンニンハイフォン市、ナムディン省、タイビン省、クワンニン

省、ニンビン省

18 号線 バクニン~クワンニン バクニン省、ハイズオン省、クワンニン省

出所:JICA 提供資料

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図 1 対象路線地図

出所:実施機関提供資料

(1) 交通安全施設整備の主な変更点

アウトプット実績の表示の一部が計画時と異なっており、単純に比較することが

できない項目が含まれる。整備された施設の合計数や km 数は計画と異なるが、計

画された項目は概ね網羅され実施された。なお、実施機関の提案により、交通量に

比して道路幅が狭い対象区間の安全性を考慮し、3 号線と 18 号線で 2 車線道路の 4

車線化が追加された。本体事業では、契約後に交通事故の実績を分析するとともに、

受注コンサルタントの分析結果と関係機関の提案や意見を踏まえた議論が行われ

た。当初の分析よりも詳細に検討した結果に基づき施設の改善を行ったため、計画

時との相違は生じたが、より現場の状況に即した支援を行うための変更であり、妥

当な変更と考えられる。

表 2 アウトプットの計画と実績(交通安全施設整備)

計画 数量 実績 数量

交差点信号(地点) 20 交差点信号(地点) 64信号等(地点) 16 信号等(地点) 上記に

含む鉄道の踏切(地点) 2 鉄道の踏切(地点)

非主要交差点の改良(地点) 36 道路照明設置(km) 7道路標識設置(地点) 42

押しボタン式信号設置(地点) 10 押しボタン式信号設置(地点) 3歩道橋の設置(地点) - 歩道橋の設置(地点) 13バイク・自転車専用レーン設置の拡幅

(地点)2

バイク・自転車レーンの拡幅

(地点)6

拡幅区間(km) 10 中央分離帯設置(km) 32中央分離帯設置(地点) 8 中央分離帯改良(地点) 18

3

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出所:JICA 及び実施機関提供資料

(2) 交通安全教育・啓発活動のための資機材供与及び研修の変更点

主に啓発活動用のキャンペーンに必要な資機材、啓発活動に使用される資機材、

及び研修の実施が支援された。同活動に向けたアウトプットについても、受注コ

ンサルタントと関係機関からの提案、意見を踏まえて実際の資機材供与・研修が

行われたため、計画時との相違が生じた。当初の分析よりも詳細に検討した結果

に基づき提供される機材が確定されており、現場の状況に即した妥当な変更と考

えられる。

表 3 アウトプットの計画と実績

(交通安全教育・啓発活動のための資機材供与及び研修)

項目 計画 実績

交通安全施設整備地点でのキ

ャンペーン活動用資機材横断幕・ポスター

ポスター、バナー、リーフレ

ット作成・配布、宣伝車、ユ

ニフォーム等

交通安全施設整備区間での教

育・キャンペーン活動用資器

横断幕、ポスター

教育補助機材、パソコン、プ

リンター、ビデオレコーダ

ー、プロジェクター、カメラ、

テープレコーダー、道路標識

模型、ヘルメット等

教員用研修用資機材、登下校

時の交通安全指導員の研修用

資機材、学校・コミューンで

の交通安全教育用資機材

N/A

DVD 等教材、学校での交通安

全コーナー設置、交通標識表

示セット、パソコン、プロジ

ェクター、カメラ等

リーダー研修小中学校教師 1,170名保護者・地元住民等

1,034 名

交通安全教育研修・ワークシ

ョップ開催:小中学校指導者

(927 名)、教員・学生・地元

住民等(105,518 名)

出所:JICA 及び実施機関提供資料

(3) 交通安全指導取締り強化のための資機材供与、研修、及び交通安全キャンペー

ンの変更点

交通指導取締り強化のための資機材供与、研修は交通警察及び各省の交通安全委

員会と協議のうえ決定されており、計画時より詳細な調整を行った結果、実績と相

違している。同変更は、現場の状況に即した妥当な変更と考えられる。

カーブでのガードレール等設置(地点) 24 カーブでの安全設備等設置区

間(km)2

設置区間(km) 11.3バス停車帯の設置(地点) 16 バス停車帯の設置(地点) 98路肩拡幅(幅:2.5m)区間(km) 63 路肩拡幅(幅:11m)区間(km) 6

路肩拡幅(幅:19.2m)区間(km) 6オーバーレイ(km ) 359道路改良(2→4 車線)(km) 19.5

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表 4 アウトプットの計画と実績

(交通安全指導取締り強化のための資機材供与、研修、及び交通安全キャンペーン)

項目 計画 実績

交通安全施

設整備地点

での指導・

取締りに利

用する資機

パトカー(18 台)、白バイ(35 台)、

レッカートラック(17 台)、重量

計(11 個)、スピードガン(35 個)、

アルコール測定器(34 個)、ビデ

オレコーダー(34 台)、デジカメ

(34 台)、警告灯(68 台)、ガイド

ポスト・誘導灯・警笛・(各 340)、無線機(68 機)、コンピューター

(28 台)

パトカー(13 台)、白バイ(48 台)、

レッカー車(13 台)、スピードガン

(13 個)、アルコール測定器(数不

明)、デジカメ(32 台)、ガイドポ

スト・誘導灯・警笛・(数不明)、コ

ンピューター(65 台)スピード測

定器(13 機)、ビデオレコーダー(31台)、プリンター(30 台)等。

リーダー研

地元の地域リーダー(900 名)、各

地域の交通安全巡回員(22 名)、

交通警察官(詳細情報なし)

交通警察官(380 名)

交通安全キ

ャンペーンバナー、TV、新聞等 計画どおり

出所:JICA 及び実施機関提供資料

(4) コンサルティング・サービス

本体事業のコンサルティング・サービスでは、通常実施される詳細設計、入札

補助、施工管理等に加え、コンサルタントは実施機関に対して学校教育・住民・

交通警察官向けに実施した研修計画の策定、実施を支援した。

表 5 アウトプットの計画と実績

計画 実績

事業管理補助(包括的アクションプランの作成、関係機関間の調整、モニタ

リング・評価等への支援) 計画どおり詳細設計、入札補助、施工管理

プロジェクト・マネジメント・ユニットに対する研修計画作成、研修実施補助

出所:JICA 及び実施機関提供資料

3.2.2 インプット7

3.2.2.1 事業費

審査時の本体事業の計画額は 7,773 百万円(うち円借款部分は 6,557 百万円)で

あった。実績金額は 7,215 百万円(うち円借款部分は 6,059 百万円)となり、計画

内に収まった(計画比 93%)。実績金額が計画を下回った主な理由は為替の変動

であった8。

附帯プロの事業費の計画額は 350 百万円であったが、事業期間の延長に伴い、

7 外部事後評価レファレンスに沿い、附帯プロの事業費と事業期間の計画・実績の比較は記載するが、

原則として評価判断には加味しない。8 出所:日本人専門家への質問票調査。日本人専門家によれば、審査時 1 円 =180 ベトナムドン(VND)

であった為替レートは、実施中は 1 円 =265VND、2014 年 6 月には 1 円 =200VND、とその変動が

予想できない状況であり、円と VND の変動を調整しながら進めた結果、計画比 92%に収まった。

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専門家の追加投入があったことから、実績は 399 百万円となり、計画を上回った

(事業期間の延長及び専門家追加投入の詳細は「3.2.2.2 事業期間」参照のこと)。

3.2.2.2 事業期間9

本体事業は 2008 年 1 月から 2013 年 6 月までの計 66 カ月となることが計画され

ていた。実際は 2009 年 11 月から 2014 年 6 月までの 56 カ月となり、計画内に収

まった。なお、コンサルタント契約時期が計画より約 1 年 10 カ月遅れて開始され

事業完了時期も計画より後ろ倒しとなった。この遅れはコンサルタント契約に係

る書類の承認に必要なベトナム政府内の調整の遅れによるものであった。

一方、附帯プロは、2010 年 6 月から 2013 年 6 月までの 3 年間となることが計

画されていた。実際は 2013 年 7 月から 12 月まで期間が延長され、計画を上回っ

た。これは、開始当初から計画されていた交通安全研究センターの研究活動の開

始につき、予算・人員の確保を目的として、センターの法的な位置づけを変更し

たためである。これにより、正式な組織設立の承認を得るため、新規研究要望・

現場のニーズの取りまとめや法的枠組み、予算措置、人員配置計画や今後の活動

計画策定に係るアドバイスを行うことを目的に終了時評価時に 6 カ月の延長が決

められた10。

3.2.3 内部収益率(参考数値)

審査時には、本体事業の経済的内部収益率(Economic Internal Rate of Return、以下、

「EIRR」という。)は 20%と試算されていた11。審査時と同条件で再計算を試みるべ

きところ、前提条件の詳細が得られなかったこと、実施機関より路線ごとのデータが

得られなかったことから12、事後評価時点の EIRR の再計算を行うことはできなかっ

た。

一方で、本体事業では事業完了時にコンサルタントにより事業開始時に算出され

た EIRR と事業完了時の EIRR が以下のとおり示され、前提条件については確認でき

ていないものの、5 号線を除いた路線で事業完了時点の EIRR は試算された値に達し

たことが確認された。5 号線のみ他の路線より低かった理由は、整備された施設の中

で単価の高い歩道橋の設置数が他の路線に比較して多く13、事業コストが高かったた

め、との見解が示された。

9 事業期間は、計画時の書類によりコンサルタント契約を起点とする合意が確認できたため、コンサ

ルタント契約~コンサルティング・サービス終了時点と定義する。10 出所:日本専門家へのインタビュー調査及び PPA 質問票回答11 費用:事業費(税金を除く)、運営・維持管理費、便益:死傷者及び家族にかかる医療費及び社会

的費用、プロジェクトライフ 10 年12 便益の試算には対象国道で生じる交通事故発生件数や死傷者数が必要になる。「3.3 有効性」で後

述のとおり、同国では国道毎の同数を入手することができないため、審査時と同様の前提に基づいた

計算は困難であった。13 歩道橋の設置数は国道5号線では 5 カ所、3・10 号線には設置がなく、18 号線は 3 カ所であった。

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11

表 6 経済的内部収益率の比較(事業完了時)

事業開始時

の試算

事業完了時(2013 年)

3 号線 5 号線 10 号線 18 号線

12%‐24% 21.2% 11.4% 23.9% 14.7%【便益】事故費用軽減費用、走行時間及び燃料費節減効果

【費用】事業費、運営維持管理費

出所:実施機関提供資料

以上より、本体事業は事業費、事業期間ともに計画内に収まり効率性は高い。

3.3 有効性14(レーティング:②(円借款:②/附帯プロ:③))

本体事業では、交通安全施設の整備、啓発活動・キャンペーンへの実施を通じ、道路

の交通安全に資するための支援が実施された。一方、附帯プロは、主に警察官人材を養

成する教育現場を支援の対象としており、その成果が教育を受けた人材を通じて道路現

場での交通安全に資する段階に至るまでには一定の期間を要する。したがって、事後評

価時における両事業の有効性・インパクトを並列に扱うことが困難であったことから、

本体事業・附帯プロそれぞれの有効性・インパクトを記載のうえ、各サブレーティング

を示すこととした。なお、本事業の有効性の評価は「1.3 評価方針」のとおり、事

後評価時に確認できる有効性・インパクト及び相乗効果に基づき、確定した。

3.3.1 定量的効果(運用・効果指標)

(1)対象区間の交通事故発生件数、交通負傷者数、交通事故死者数

表 7 は交通事故発生件数、負傷者数、死者数の推移である。審査時及び事業完了

時には、対象路線ごとのデータを本体事業で雇用したコンサルタントが入手してい

た。図1の通り、本体事業の対象路線は 1 路線が複数の省に跨って位置しているが、

事後評価時点で事故数等のデータは省毎にまとめられており、路線ごとのデータを

実施機関及び関係機関は有していない。したがって、事後評価時における本体事業

の効果を正確に確認することができなかった。そこで、本評価では得られる情報と

して事業完了時に作成されたプロジェクト評価報告書15 より実績を引用した。実績

は資機材設置直後のデータであり、本体事業の直接的な効果を示しているといえる。

審査時と事業完了時に作成されたプロジェクト評価報告書は 2006 年の基準値が一

致しないため、目標値を単純に比較することができない。しかし、件/km/年あた

りの交通事故発生件数は 18号線を除き概ね目標値の 8割程度またはそれ以上に改善

している16。したがって、事業完了時においては概ね目標値を達成していたといえ

る。また、図 2 は表 7 の 2006 年~2013 年までの実績を図に示したものである。機

14 有効性の判断にインパクトも加味して、レーティングを行う。15 出所:JICA 及び実施機関提供資料16 実施機関に 18 号線と他の国道に異なる点があるのかを確認したが、詳細な理由は不明であった。

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12

材の設置が開始された 2011 年を目途に、交通事故の発生件数、死者数及び負傷者数

が減少していることがわかる。

本体事業では交通事故が多発する地点に優先して施設を設置してきた。例えば、

急カーブ個所の改良は運転手の視界を広げ事故の発生を防ぐことに貢献しており、

交通量の多い国道での歩道橋や自転車・バイク専用レーン、中央分離帯を設置した

ことはいずれも道路利用者安全性の確保に直結しており、事業完了時における本体

事業の効果が確認された。

表 7 対象国道での交通事故発生件数、負傷者数、死者数

指標名国道線

基準値

2006 年

審査年

目標値

2016 年

事業完成3 年後

機材設置前 設置中・設置後

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013 年(完成年)

交通事故発生件

(件/年)

3 号

5 号

10 号

18 号

119

449

170

42

84

319

121

30

75

158

47

210

61

153

48

219

143

134

39

157

198

152

48

130

236

179

92

134

98

75

35

87

52

66

36

55

22

74

41

105

交通事故発生件

(件/km/年)

3 号

5 号

10 号

18 号

1.8

4.2

1.2

0.9

1.3

3.0

0.9

0.6

1.2

1.7

0.6

1.3

0.9

1.7

0.6

1.4

2.2

1.4

0.5

1.0

3.1

1.6

0.6

0.8

3.7

1.9

1.1

0.9

1.5

0.8

0.4

0.6

0.8

0.7

0.4

0.4

0.3

0.8

0.5

0.7

交通事故負傷者

(人/年)

3 号

5 号

10 号

18 号

156

65

199

47

111

46

141

33

89

147

37

163

58

110

25

155

178

103

21

142

223

99

19

113

288

72

69

87

99

35

21

82

48

27

14

68

6

37

31

85

交通事故負傷者

(人/km/年)

3 号

5 号

10 号

18 号

2.5

0.6

1.4

0.3

1.8

0.4

1.0

0.2

1.4

1.6

0.4

1.0

0.9

1.2

0.3

1.0

2.8

1.1

0.3

0.9

3.5

1.1

0.2

0.7

4.5

0.8

0.8

0.6

1.5

0.4

0.3

0.5

0.7

0.3

0.2

0.4

0.1

0.4

0.4

0.5

交通事故死者数

(人/年)

3 号

5 号

10 号

18 号

58

11

36

30

41

8

26

21

61

115

43

163

49

138

46

155

71

92

42

142

97

121

49

113

72

76

52

87

44

74

30

82

31

66

31

68

25

63

31

85

交通事故死者数

(人/km/年)

3 号

5 号

10 号

18 号

0.9

0.1

0.3

0.7

0.6

0.1

0.2

0.5

0.9

1.2

0.5

1.0

0.8

1.5

0.5

1.0

1.1

1.0

0.5

0.9

1.5

1.3

0.6

0.7

1.1

0.8

0.6

0.6

0.7

0.8

0.4

0.5

0.5

0.7

0.4

0.4

0.4

0.7

0.4

0.5出所:JICA 及び実施機関提供資料

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13

図 2 対象区間の事故件数、負傷者数、死者数の推移

(事業実施前、施設・資機材設置以降、事業完了時まで)

出所:実施機関提供資料より作成

また、図 3 に各対象路線の位置する市・省の事後評価時における交通事故数、

交通事故による死者数、負傷者数を事業実施前の同数で割った数値(事業実施後

の数値/事業実施前の数値)を示す。数値が 1 を下回れば、事後評価時の事故数

等が事業実施前の同数を下回ったことを指す。なお、事故数等は交通量や車両の

登録台数の増加に比例するため、事後評価時に事業実施前の何倍程度の車が各

市・省登録されているかについても参考情報として記載した(表 8)。審査時の JICA

提供資料では、1996 年から 2005 年までに同国の交通事故数は倍増したとされてい

るが、表 8 では全ての市や省で車の登録台数は大幅に増加しているにも関わらず、

図 3 のデータはタイビン省を除き事後評価時の死者数は事業実施前の同数より減

少していることを示している。このデータには各市・省に位置する他の道路で発

生した事故情報も含まれるため参考情報にすぎないものの、本体事業が対象とし

た路線の位置する地域で交通安全状況が改善したことを示す情報と考えられる。

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14

路線 市・省 車両登録台数の変化 (倍)

③ ハノイ市 9.7⑤⑩ ハイフォン市 11.0③ タイグエン省 10.1

⑤⑱ ハイズオン省 13.5⑤ フンイェン省 9.3⑩ ナムディン省 11.6⑩ タイビン省 11.3

⑩⑱ クワンニン省 10.0⑩ ニンビン省 9.5⑱ バクニン省 11.8

表 8 車両登録台数の変化

出所:各市・省交通安全委員会提供資料

注:数値は 2008 年と 2016 年の車両登録台数の比較

3.3.2 定性的効果(その他の効果)

本体事業では、審査時に定性的な効果は指定されていなかったが、受益者調査17の

実施を通じて、以下の定性的効果が確認された。

17 本体事業の対象路線 4 国道(3 号、5 号、10 号、18 号)の①道路利用者(運転手)、②周辺住民合

より各 100 名、計 200 名(有効回答数。①男性 100 名、②男性 39 名、女性 61 名)を有意抽出し、現

地調査補助員がインタビュー調査を行った(3 号:タイグエン、5 号:ハイズオン、10 号:タイビン、

18 号:バクニンの各省で①②とも各 25 名)。道路利用者は、対象国道沿いかつ施設が整備された近

隣の休憩所、工業団地、バス停車帯で有意抽出により回答者を抽出。車両の運転手は概ね男性であっ

たことから、ジェンダーバランスを考慮した回答を得ることが困難であった。周辺住民は、各省の沿

線上の住民を有意抽出により選定した。対象路線の市/省の住民リストには対象路線上に位置する地

域としない地域が混在しており、リストから受益者を適格に抽出できないこと、住民リストの入手に

は人民委員会の了承が必要であるが、時間の制約により対象地域全ての人民委員会からの了承を得る

ことは困難であったことから、施設が整備された近辺の道路沿いで有意抽出により回答者を選定した。

基本的には数世帯ごとに事前質問(事業前後の状況を把握しているか、啓発活動に関与があるか、ま

たは活動について聞いたことがあるか等)の回答を得たうえで回答者を選定。沿線上の世帯を対象と

したことで、地域住民全体ではなく主に沿線上の住民の意見が反映された結果となっている。

図 3 事業実施前後の事故数、死者数、負傷者数

(事業実施後 2016 年/事業実施前 2010 年)

出所:国家交通安全委員会及び各市・省交通安全委員会提供資料

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15

(1)対象区間での交通安全状況の改善

回答者の 90%以上が対象国道の交通安全状況が改善したとしている。道路利用

者(主に運転手)・周辺住民ともに、交通安全に資する施設設置が対象区間におけ

る交通安全の状況の改善に寄与していると回答しており(図4参照)、本事業の貢

献状況が確認できる。具体的には、交差点や信号の設置により、安全に道路を横断

できるようになった、バス停車帯の設置により道に飛び出しバスを待つ人々がいな

くなり、安全性が高まった、中央分離帯の設置により運転手が反対車線にはみ出し

ながら運転することがなくなり、安全な運転が可能になったなどの意見が挙げられ

た。

表 9 交通安全の改善

大幅に改善 改善 変化なし 悪化 大幅に悪化

道路利用者 46% 54% 0% 0% 0%周辺住民 40% 52% 8% 0% 0%

出所:受益者調査

図 4 交通安全が改善した理由(複数回答)

出所:受益者調査

事業実施前(左)と本事業で歩道橋を実施した後(右)の道路状況

注:左は実施機関により提供された写真

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16

(2)交通事故に係る被害の軽減

道路利用者は回答者全員、住民の回答者の 88%が交通事故に係る被害が軽減した

と回答した。理由として、本体事業実施以前には道路走行中に事故を頻繁に見かけ

たことや自身が事故に巻き込まれる経験もしたが、実施後にはその頻度が大幅に減

少したことが述べられた。回答は必ずしも回答者本人の被害軽減を指していないが、

回答者が実際に確認した事象をもとに得られた情報であり、全体として対象道路で

の交通事故による被害の軽減を表したものといえる。

図 5 交通事故に係る被害の軽減

出所:受益者調査

(3)交通規制・ルールの理解の向上

周辺住民の 80%が交通規則・ルールの理解が事業実施後に向上したと回答した。

本体事業で実施した対象国道近隣小中学校での啓発教育や周辺住民を対象とした

交通安全に関するキャンペーンの実施が理解の促進に貢献したといえる。受益者へ

のインタビューによれば、同国では本体事業実施以前にも啓発活動等は実施されて

きたが、本体事業では過去の活動では使用されていなかった写真や映像を用いた教

材が採用されており、従来の活動に比べ理解を得やすい活動が実施されたといえる。

一方、道路利用者(運転手)向け啓発活動などは実施されておらず、設置された標

識やルールを十分に把握していないとの回答が挙げられ、理解の促進は限定的であ

ったといえる。一事業で全利用者を網羅することはできないが、今後道路利用者に

向けた理解の促進を図る対応が求められる。

図 6 交通規制・ルールの理解の向上

出所:受益者調査

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17

(4)交通マナーの変化

本体事業では、周辺住民を対象とした啓発活動・キャンペーンも実施された。そ

の結果、回答した周辺住民の約 87%が自身の交通マナーが改善したと回答した。

本事業と他の実施主体による活動・キャンペーンを区別していない回答者もおり、

改善状況の全てが本体事業のみによるものではないと考えられるが、周辺住民の交

通マナーの改善に本体事業の啓発活動やキャンペーン活動が寄与したと考えられ

る。一方で、道路利用者の同数は 42%にとどまり、半数以上の回答者は変化なし

とした。

図 7 自身の交通マナーの変化

出所:受益者調査

3.4 インパクト

3.4.1 インパクトの発現状況

本体事業の実施を通じて期待されたインパクトは「対象道路周辺住民の生活環境

の改善」「道路利用者の利用環境改善」であった。受益者調査を通じて確認されたイ

ンパクトの発現状況は以下のとおり。

(1)対象道路周辺の生活環境の改善及び道路利用者の利用環境改善

受益者調査によれば、回答した住民の 62%が道路周辺の生活環境が改善したとし

ている。主な理由として、路肩の拡幅、オーバーレイ、道路改良が行われたことで、

「道路周辺の砂埃が軽減した」「より安全な生活環境となった」「道路沿いで商売を

行いやすくなった」等の意見が挙げられた。さらに、本事業実施後の道路の利用環

境について、全ての回答者が改善したと感じている。道路利用者に確認したところ、

中央分離帯の設置や急カーブ個所の改善、ライトの設置等は道路運転時の安全性に

係る利用環境を大幅に改善したとの説明が得られた。なお、道路の利用環境改善に

伴い、回答者の 51%が車両の維持管理費が軽減さしたとしており、その理由として

道路の利用環境の改善に伴い、急カーブでの無謀な運転等が減り、タイヤの摩耗や

故障個所等の修理等に係るコストが軽減した等の説明がなされた。

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18

表 10 対象道路周辺の生活環境の改善及び道路利用者の利用環境改善

大幅に改善 改善 変化なし 悪化 大幅に悪化

対象道路周辺の生活環境の改善 0% 62% 38% 0% 0%道路利用者の利用環境改善 44% 56% 0% 0% 0%出所:受益者調査

表 11 道路利用者の車両の維持管理費の軽減

大幅に軽減 軽減 変化なし 増加 大幅に増加

車両の維持管理費の軽減 2% 49% 49% 0% 0%出所:受益者調査

(2)対象道路周辺住民及び道路利用者の満足度

回答者全員が事業実施後の道路交通安全環境に満足していると回答した。道路交

通の安全に資する施設は利用者の運転事情、歩行事情に直結している。例えば、交

差点やバス停車帯、歩道橋等の設置は歩行者が車両事故に巻き込まれる危険を軽減

しており、自転車やバイク専用レーンは車両・自転車/バイクの安全な走行に貢献

している。中央線・分離帯の設置は車両が反対車線を走行することを防いでおり、

2 車線から4車線への拡幅個所では安全な走行に加え、道路が舗装されたことで埃

が舞わなくなるという環境面での正の影響も確認されている。

表 12 道路交通安全の環境に対する満足度

非常に満足 満足 どちらでもない 不満足 非常に不満足

対象道路周辺住民 0% 62% 38% 0% 0%道路利用者 40% 60% 0% 0% 0%出所:受益者調査

3.4.2 その他、正負のインパクト

(1)自然環境へのインパクト

計画時の関連書類によれば、同国の「環境保全法 2005」18に準拠し、本体事業に係る

環境影響評価報告書が作成された。工事実施中は、当初計画から変更のあった拡張箇所

も含め、施工業者により大気、騒音についてモニタリングが実施された。また、実施機

関への聞き取り、モニタリング報告書、サイト視察を通じて、実施中に騒音等の苦情等

は発生していないことも確認された。

(2)住民移転・用地取得

本体事業は、既存の公道用地内で実施されるもので、用地取得及び住民移転を伴わな

い計画であった。しかし、2 車線から 4 車線への道路改良が追加されたことで、3 号線

18 The law on Environment Protection of Vietnam, 2005

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19

のタイグエン省で 23 世帯が移転をし、2.1 ヘクタールの用地が取得された。実施機関及

び受注コンサル、周辺住民への聞き取り調査によれば、住民移転・用地取得ともに地方

政府の規則に沿い実施され、特段問題は生じなかったことが確認された。

交通安全に資する施設の設置、小中学校や周辺住民への交通安全に関する啓発活

動等の実施を通じて、事業完了時には対象路線での交通事故死者数、交通事故発生

件数、交通事故負傷者数が事業実施前より減少したことが確認された。さらに、周

辺住民の生活環境や道路利用者の交通安全状況、加えて彼らの交通安全に対する満

足度は改善し、交通事故に係る被害も軽減した。一方で、事業完了時以降の対象路

線の交通事故に係るデータが集計されておらず、事後評価時の情報が実施機関より

得られなかった。したがって、完了時以降事後評価時までの有効性・インパクトの

評価判断の根拠が十分に得られなかったため、本体事業の有効性・インパクトは中

といえる。

3.4.3 附帯プロの有効性・インパクトの発現

3.4.3.1 附帯プロの有効性

附帯プロのプロ目は PPA の交通警察学部の「教育内容の充実」と「指導教官の教

授能力の向上」、設定された指標や達成状況は以下の通りである。

指標 1:シラバス、教材が PPA により承認される。

指標 2:講義・実習においてプロジェクトの成果物が使われ始める。

指標 3:政策提言を含む研究結果が公安省に報告される。

附帯プロの実施を通じて、PPA では 4 教科19の教科書及び副教材20、シラバスが作

成された。これらは PPA により承認済みである。(指標 1)。過去の教材は、近年の

交通事情が反映されていなかったのに対し、新教材はベトナムの現状を反映しつつ

作成され、より現実に沿った内容へと改善した。さらに、授業のスタイルにも大き

な変化が見られた。事業実施前は講義が中心であったが、新たなカリキュラムでは、

十分な実習の時間が設けられるようになっている。

本附帯プロ事業の実施以前、教官は主に自身の経験に基づき一方的に講義を進め

る座学中心の授業を行っていた。事業実施中、教官は授業用の教授シナリオを作成

し、本事業で作成された教材や副教材を用いて、講義や実習にあたった(指標 2)。

また、適宜学生に質問を投げかけ、学生の理解度をチェックしながら授業が実施さ

れた。学生の積極的な参加を促す生徒中心の授業内容もパイロット授業として繰り

返し実施された。その過程で、教官の教授能力が評価され、フィードバックを伝え

ることで教授能力の改善へもつながった。警察学部の学生や一部の卒業生へのイン

19 「道路交通法及び道路交通安全宣伝」「交通規制」「取締り及び交通違反の処理」「交通事故の調査・

処理」20 問題集やビデオクリップ、パワーポイント教材等

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タビューでも、自身の参加度が高まることで、授業の理解度が改善したとの説明が

なされており、指導教官の教授能力が向上したことも確認された。

PPA では、交通警察活動に係る研究テーマを設定し、研究活動が行える体制が PPA

内に整備された。附帯プロ完了時点では公安省より PPA 付属の研究センターとして

承認され、人員も増強されている。将来的には全国の交通事故のデータを分析し、

効果的な政策提言を行う機能の強化が期待されている。事業実施中に交通安全白書

を出版しており、同白書は政策提言議論のための有用な基本情報として認識されて

いる(指標 3)。

上記の通り、3 つの指標は達成済みであり、PPA の交通警察学部の教育内容が充実す

る、教授能力が向上するというプロジェクト目標は達成したといえる。

3.4.3.2 附帯プロのインパクト

附帯プロでは、「警察教育機関における交通警察訓練能力が向上する」ことがイン

パクトとして期待された。以下に設定された 2 つの指標の達成状況は、次の通りで

あった。

指標 1:人民警察大学・専門学校が、PPA が作成した教材を使用し始める。

指標 2:PPA で研修を受けた人民警察大学・専門学校の教官が学生を教え始める。

PPA により作成・承認された教材は、附帯プロ事業完了後に、PPA のみでなくホーチミ

ンの人民警察大学、ハノイ及びクアンナム省の人民警察カレッジ、さらにホーチミンとカ

ントーにある専門学校に導入され、事後評価時においても活用されている(指標 1)。同

教材を活用することで、主に警察官幹部クラスを養成する PPA のみでなく、現場の警察

官を育てる人民警察大学や専門学校等の教育機関の教育内容の充実に貢献していること

が確認された。また、PPA によれば、事業実施以降完了後も、教育機関の教員への教育・

研修は PPA 及び出張講習を通じて定期的に実施されている。したがって、将来的には

各校の卒業生が現役の交通警察官として配置され、現場での交通安全に向けた取締

り強化に貢献することが期待される。

附帯プロの実施を通じて、PPA での教育内容・教授法が改善し、PPA が作成した教材・

PPA で研修を受けた人材が人民警察大学や専門学校においても活躍していることから、プ

ロ目・上位目標は達成していることが確認された。したがって、附帯プロの有効性・イン

パクトは高い。

上記の通り、本体事業では事業完了時点までの交通事故死者及び事故件数の減少、被

害の軽減、さらに周辺住民の生活環境や道路利用環境の改善が有効性・インパクトとし

て確認された。一方、事後評価時点にはその効果を示すに十分な情報が得られなかった。

また附帯プロは PPA の教育内容の充実と教授能力の向上を図ることを目的として実施

されたものであり、附帯プロ自体の有効性・インパクトは高いといえるが、本体事業と

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21

の相乗効果として考えうるインパクト21を確認するには時期尚早であると考えられる。

以上より、本体事業及び附帯プロ両事業の実施により一定の効果の発現がみられ、一体

評価としての本事業の有効性・インパクトは中程度である。

3.5 持続性(レーティング:②(円借款:②/附帯プロ:②)

3.5.1 本体事業の持続性

3.5.1.1 運営・維持管理の体制

本体事業で整備した施設・機材の運営・維持管理体制は下表のとおり審査時以降

変更は生じていない。ただし、主に信号施設の維持管理を担うタイビン、バクニン、

ハイズオン、クアンニン、ナムディン省は、本体事業完了後に各施設の引き渡し証

明が正式に省に渡されていないとしている。そのため、施設は省に属する施設と認

められておらず、事後評価時に故障等で使用できない施設はないものの、施設の維

持管理予算が確保できないという問題が生じている。その他、施設や拡幅された道

路の維持管理を担うベトナム道路総局(Vietnam Road Administration、以下、「VRA」と

いう。)は、日常の維持管理を民間業者に委託しつつ、管理を担当している。啓発活

動、交通安全指導の取締り、交通安全教育等の活動の実施主体の役割についても下

表に示す通り明確となっている。各種活動・運営・維持管理の実施に充分な人員の

確保状況について全省から回答を得られていないものの、回答を得た省(10 省中 6

省)からは問題ない点が報告されている。

表 13 施設・機材の運営・維持管理体制

施設・機材・活動名 運営・維持管理機関名

信号 各省/市交通警察局

その他施設、道路 VRA学校教育のための資機材 各省/市教育訓練局

地域での教育・啓発のための資機材 各省/市交通安全委員会

取締りのための資機材 各省/市交通警察局

学校での交通安全教育活動 各省/市教育訓練局

地域での交通安全教育活動 各省/市交通安全委員会

取締り活動 各省/市交通警察局

出所:JICA 提供資料及び実施機関へのインタビュー

3.5.1.2 運営・維持管理の技術

信号を除く施設・道路の維持管理を担う VRA は、運輸省の下部組織として設立さ

れた機関である。道路インフラの運営・維持管理の豊富な経験を有しており、技術

面での能力に特段の問題はない。信号を管轄する省・市の交通警察局も、適切な運

21 たとえば、卒業生が各地域で交通取り締まりの活動に従事するなど、道路の交通安全に資する活

動が想定される。

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22

用・維持管理実施の技術レベルに懸念はない22。実際に対象道路を走行した際にも、

信号や照明、歩道橋、バス停車帯等の施設は適切に活用されている点が確認された。

啓発活動の実施に向けて供与された資機材は、ポスターや横断幕など使用期限が短

く、消耗品でもあることから、維持管理が必要とされるものはオーディオ教材や宣

伝車に限られる。実施機関を通じた現況確認やサイト視察を通じて、これらは適切

に運営・維持管理がなされ、有効に活用されている点が確認された。よって、運営・

維持管理の技術面における懸念事項はないといえる。

3.5.1.3 運営・維持管理の財務

運営・維持管理を担う上記各組織が必要な予算の手当てを行う。

拡幅された道路や中央分離帯等主要な施設の維持管理を担う VRAの道路管理局は

運輸省を通じて予算配分を受けている。VRA の職員によれば、決して十分な維持管

理費が配賦されているわけではないが、必要 低限の維持管理を行うことは可能で

ある(金額は表 14 参照)。サイト視察時に対象道路を実走した際にも、各路線の道

路状況は概ね良好であったため、財務面における深刻な懸念はないといえる。

表 14 VRA の対象路線ごとの運営・維持管理費

(単位:百万 VND)

国道 2013 年 2014 年 2015 年 2016 年

3 号 16,224 6,146 8,104 7,399

5 号 8,205 7,473 8,533 0

10 号 7,930 15,925 16,585 12,510

18 号 3,916 1,650 616 401出所:VRA 提供資料

注:2016 年の 5 号線の運営・維持管理費が 0 となった理由を VRA に確認したところ、明確

な理由は得られなかったが、配賦金額は申請額に基づいたものであるとのことであった。

信号施設の運用・維持管理を担当する市や省の交通警察局では、「3.5.1.1 運営・維

持管理の体制」で記載の通り、その責任の所在が明確となっていないことから、大

半の交通警察局はその運営・維持管理のための予算を確保できない状況にある。し

たがって、財務面での持続性には懸念があるといえる。実施機関や各省への質問票、

サイト視察時に故障や維持管理不足により支障が生じている箇所は確認されていな

いが、今後の維持管理予算の確保に向けて、まずは引き渡し証明の発行を通じた運

営維持管理機関の明確化、加えて予算の確保が必要である。

22 実施機関及び省交通警察局へのインタビュー調査より

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23

3.5.1.4 運営・維持管理の状況

【施設、機材、資機材】

本体事業で支援をした施設・機材等の維持管理状況を現地調査時に確認したとこ

ろ、一部で歩行者向け歩道橋の利用率が低い(歩行者が歩道橋を使用せず、道路を

遮断してしまう)ケースが見受けられるものの、設置された信号やバイク・自転車

専用レーン、中央分離帯、急カーブの安全設備、バス停車帯等は十分に活用されて

いる。また、本体事業で支援をした資機材のうち、ポスター等は啓発、教育などの

活動で数回使用した後、痛みが激しくなったものは廃棄済みであるが、宣伝車やパ

トカー、白バイ、レッカートラックといった交通安全キャンペーン用の機材は事後

評価時においても有効に活用されており、運営・維持管理の状況に問題となる事項

はない。

【教育・啓発・交通取締り活動】

啓発活動、交通指導取締りの強化、交通安全教育に対する活動は、学校教育に組

み込まれるとともに、地域ごとに交通安全キャンペーンやコンテストが定期的に開

催されていることが省交通安全委員会や訪問した小学校でのインタビュー調査を通

じて確認された。例えば、ハイズオン省では 2013 年に小中学校計 348 校を対象とし

た交通安全セミナー、2014 年にはコミューンリーダーや安全指導員 600 名を対象と

した交通安全研修、2015 年にも 265 コミューンや地区(Ward)の交通安全担当職員

を対象とした交通安全研修が、省交通安全委員会の主催により実施された。活動の

継続にあたっては、本体事業で支援した教材や宣伝車が有効に活用されており、そ

の貢献は大きいといえる。

一方、サイト視察時のインタビュー調査では、道路利用者(運転手)が標識を正

確に理解していないとの意見が度々報告された。今後、道路利用者を対象とした標

識の読み方や歩行者に対する交通安全に対する啓発活動等、必要に応じた活動を実

施・継続する必要性が高いといえる。

上記の通り、本体事業で設置をした施設及び資機材は十分に活用され、啓発活動や交

通規則の取締りにかかるキャンペーン活動なども各地域で継続されている。その運用・

維持管理に必要な技術面での能力に関する問題も特段確認されなかった。しかし、一部

の省(現在確認できている範囲で9省中6省)では、これら施設や資機材の引き渡しが

正式に通知されていないとの理由により、維持管理の責任の所在が明確となっておらず、

そのための予算も確保されていない等、持続性に係る体制面及び財務面に一部問題があ

る。よって、本体事業によって発現した効果の持続性は中程度と判断される。

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24

3.5.2 附帯プロの持続性

3.5.2.1 運営・維持管理の体制

PPA では、通常離職等もなく、教員数・職員ともに適切な人数が配置され、必要

な教育を提供する体制が整っている。交通安全研究センターについても、公安省の

承認が得られた 2013 年に 7 名から 13 名に職員数が増員された。事後評価時には計

25 名となり人員数は確保されている。よって、求められた教育を提供するための

必要な教官数、職員数が配置されており、組織・体制面での持続性に支障はない。

3.5.2.2 運営・維持管理の技術

PPA では、退職を除く離職はほぼないため、教員の教授能力が維持されている。

また、事業完了後も交通安全ルールの変更や新たなルールの導入に際し、副教材の

該当箇所を更新する等、教育内容の改善も持続されており、技術面でのキャパシテ

ィに懸念はない。一方、交通安全研究センターでは、博士、修士保有者、学士等、

交通安全分野での研究活動に適した人材を採用しているが、若手人材が多いことか

ら、今後適宜研修等を通じた若手人材の能力の向上が課題とされている。

3.5.2.3 運営・維持管理の財務

PPA の研修プログラムは全て交通警察局の許可のもとに実施されており、その運

営・実施に必要な予算は公安省より配賦されている。公安省から予算に関する情報

は提供されていないが、PPA 職員によれば、承認された研修プログラムへの予算額

は毎年問題なく配賦されている。実際に、毎年計画された研修プログラムが実施さ

れていることからも、PPA が適切な教育を提供するための財政面での問題はないと

いえる。一方、交通安全研究センターの職員からは、同センターでは予算の不足に

よりリサーチ活動に制限があるとの回答が得られた。研究の予算は、2014 年には

200 百万 VND、2015 年には 300 百万 VND、2016 年には 700 百万 VND が配賦され

たが、同センターの職員によれば、同額は交通安全に関する冊子の発行をカバーで

きる範囲の金額であり、同センターに期待される交通安全に資するための分析・研

究を実施するためには 1,500 百万 VND 程度が必要とされている。

3.5.2.4 運営・維持管理の状況

PPA では、附帯プロ完了後も、実際の交通規制を踏まえた教育内容の改善が行

われるなど、PPA で改善された教育内容の提供は持続性が見込まれる。また、附

帯プロ作成を支援した主要科目のカリキュラムや教材は、事後評価時までに他の

交通警察官の教育機関に提供され、実際に活用されている。したがって、十分に

活用されるのみでなく、他学校へも普及されるなど、持続性は確保されており、

今後も見込まれる。ただし、プロジェクトの完了は 2013 年 12 月であり、その卒

業生の人数は事後評価時においても一定程度の人数に限られていることから、交

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通現場で卒業生が活躍し、その効果が実際に広く確認されるまでには、数年間の

時間を要するといえる。

附帯プロで改善された教育内容、カリキュラム、教材等は PPA により必要な改定

が行われ引き続き活用されるとともに、他の交通警察学校への普及も確認されている。

技術面での課題もなく、十分な持続性が見込まれている。しかし、設立された交通安

全研究センターの財源が不足しており、一部の研究が制限されるなど財政面での課題

が確認されているため、本事業によって発現した効果の持続性は中程度と判断される。

以上より、本体事業・附帯プロ両事業の実施によって発現した効果の持続性の一体評

価は中程度と判断される。

4. 結論及び提言・教訓

4.1 結論

本体事業は、同国北部の国道において、交通安全に資する設備の整備、周辺住民や道

路利用者への啓発活動、交通指導取締り、交通安全教育の強化を通じて、交通事故死者

数及び事故件数の減少、事故被害の軽減を図り、もって周辺の生活環境及び道路の利用

環境の改善に寄与することを目的として実施された。また、附帯プロについても、交通

安全を取りしまる交通警察官の教育機関である PPA を支援した事業であった。両事業

を合わせた本事業の目的は、交通事故を社会問題として、その解決を課題としてきた同

国の開発計画やセクター戦略に加え、周辺住民や道路利用者の啓発活動や交通規則に対

する倫理・道徳観の改善に対する同国の開発ニーズ、さらに我が国の援助政策と高い整

合性を有している。なお、本体事業の事業費、事業期間は計画内に収まっており、効率

性は高い。本体事業完了後、対象国道での交通事故発生件数、交通事故死者数・負傷者

数が軽減し、事後評価時点においても車両登録台数の増加にも関わらず対象道路の位置

する省・市での同数も事業実施前と比較し軽減していることが確認された。さらに、道

路状況の改善にともない道路利用者の被害の軽減や維持管理コストの軽減にも貢献し

ており、道路環境への満足度も高い。また、PPA でも、附帯プロ実施後には教育内容や

教授法が改善し、教育を受けた人材の交通教育現場での活躍が確認されている。しかし、

事後評価時における対象国道での有効性を測るデータが入手できなかったことから、間

接的な効果の確認にとどまった。したがって、本事業の有効性・インパクトは中程度と

判断する。本体事業で整備された機材の維持管理状況は良好で、啓発・交通取締り活動

も各地域で継続されている。運用にあたり技術面の問題はないものの、運営・維持管理

の実施・管理体制、財務状況に軽度の問題が確認された。附帯プロについても、PPA で

の教育活動の持続性に懸念はないものの、研究活動の財務面に課題が確認された。よっ

て、本事業一体としての持続性は中程度と認められる。

以上より、本事業の評価は高いといえる。

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26

4.2 提言

4.2.1 実施機関への提言

・省の交通安全委員会では、本体事業で設置された施設や資機材の受け渡しが正式

に実施されていないとの理由により、維持管理の必要性は認めているものの破損等

が生じた際の予算を事前に申請することができない状況にある。実施機関は早急に

省の維持管理担当機関に書面での正式な受け渡しを行い、省政府が維持管理に必要

な予算を確保する体制を整える必要がある。

・本体事業実施後においても、道路利用者が道路標識を正確に理解していない、歩

行者が歩道橋を利用せず国道を横切るなどの例が数多く見受けられている。省・

市の交通安全委員会や交通警察局は、道路利用者や周辺住民の道路安全のルール

などへの理解をさらに深めるための対応を図ることが望ましい。その際、例えば、

啓発活動の継続に加え、標識の説明をポスター等で運転手の確認しやすい場所

(休憩スポット等)に掲示することや免許交付・更新時に説明用のリーフレット

を配布するなどの工夫を図ること等も有効であると考えられる。

4.2.2 JICA への提言

なし

4.3 教訓

・維持管理体制の明確化と事前の合意

本体事業終了後、省交通安全局では正式に施設・資機材の引き渡しが行われていな

いとしている。そのため、事後評価時において、省ではその維持管理の必要性を認識

しながらも、今後破損などが生じた場合の予算の確保を行うことができていない。本

体事業では、支援された施設・資機材の運用・維持管理の責任は実施機関から対象地

域の 10 省/市の交通安全委員会や交通警察局へ移行することとされていたが、事業完

了時に必要な手続きが事業関係者間で共有できていなかったことが要因として挙げら

れる。実施機関と維持管理機関が異なる場合、また関係機関が多岐にわたる場合には、

事業の計画段階において、実施機関・維持管理機関は事業完了後の責任・役割分担を

明確にし、必要な手続きにつき合意を得ておく必要がある。

・実施機関によるモニタリングの視点を取り入れた指標の設定

本評価を実施するにあたり、本事業では実施機関が既存の情報から得ることのでき

ないデータを運用・効果指標として設定していたことが確認された。実施機関が事業

を実施するにあたり、計画時にモニタリング体制を整備しておくことは、事業の進捗

管理及び効果を把握する上で重要な事項である。したがって、計画時に実施機関が通

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常収集している情報を活用してモニタリングを行う体制が整っているかを確認するこ

と、またはモニタリング可能な指標を設定し、そのための体制を整備しておくことが

望ましい。

以上

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28

本体事業の主要計画 /実績比較

項 目 計 画 実 績

① アウトプット

交通安全施設整備

交差点信号(地点)

信号等(地点)

鉄道の踏切(地点)

非主要交差点の改良(地点):

押しボタン式信号設置(地点)

歩道橋の設置(地点)

バイク・自転車専用レーン設置

の為の拡幅 (地点 )中央分離帯設置(地点)

カーブでのガードレール等設置

区間(km)

バス停車帯の設置(地点)

路肩拡幅区間(km)

2016

23610

-

28

11.31663

交差点信号(地点)

信号等(地点)

鉄道の踏切(地点)

道路照明設置(km)

道路標識設置(地点)

押しボタン式信号設置(地点)

歩道橋の設置(地点)

バイク・自転車専用レーン設置

の為の拡幅 (地点 )中央分離帯設置(地点)

カーブでのガードレール等設置

区間(km)

バス停車帯の設置(地点)

路肩拡幅区間(km)

オーバーレイ(km)

64上記に

含む

742 313

618

29812

359交通安全教育・啓

発活動用機材

a)施設整備地点でのキャンペーン活動用資

機材:横断幕、ポスター、メディア利用

b)施設整備区間での教育・キャンペーン活動

用資器材:横断幕、ポスター、メディア利用

c)教員用研修用資機材、登下校時の交通安

全指導員の研修用資機材、学校での交通

安全教育用資機材、コミューンでの交通安

全教育用資機材

d)リーダー研修:学校教師(小中学校)指導者

(1,170 名)保護者・コミューンメンバー(地元

住民)等(1,034 名)

a)ポスター、バナー、リーフレット作成・配

布、宣伝車、ユニフォーム等

b)教育補助機材、PC、プリンター、ビデオレ

コーダー、プロジェクター、カメラ、テープレコ

ーダー、道路標識模型、ヘルメット等

c) DVD 等教材、学校での交通安全コーナ

ー設置、交通標識表示セット、PC、プロジェ

クター、カメラ等

d)交通安全教育研修・ワークショップ開催:

小中学校指導者(927名)、教員・学生・地元

住民等(105,518名)

交通安全指導取

締り強化用機材

a) 施設整備地点での指導・取締りに利用する

資機材:パトカー(18台)、白バイ(35台)、レッ

カートラック(17台)、重量計(11個)、スピード

ガン(35個)、アルコール測定器(34個)、ビデ

オレコーダー(34台)、デジカメ(34台)、警告

灯(68台)、ガイドポスト・誘導灯・警笛・(各

340)、無線機(68機)、コンピューター(28台)

b) リーダー研修:地元の地域リーダー(900名)、各地域の交通安全巡回員(22名)、交通

警察官(詳細記載なし)

c) 交通安全キャンペーン:バナー、TV、新聞

a) パトカー(13台)、白バイ(48台)、レッカー

車(13台)、スピードガン(13個)、アルコール

測定器(数不明)、デジカメ(32台)、ガイドポ

スト・誘導灯・警笛・(数不明)、コンピュータ

ー(65台)スピード測定器(13機)、ビデオレ

コーダー(31台)、プリンター(30台)等。

b) リーダー研修:交通警察官(380名)

c) 計画どおり

コンサルティング・

サービス

a)事業管理補助

b)詳細設計、入札補助、施工管理

c)PMU に対する研修計画作成、研修実施補助

計画どおり

②期間 2008年1月~2013年6月(66カ月) 2009年11月~2014年6月(56カ月)

③事業費外貨内貨

合計うち円借款分換算レート

2,860百万円4,913百万円

(674,863百万 VND)7,773百万円6,557百万円

1VND = 0.00728円(2006年11月時点)

不明不明不明7,215百万円6,059百万円

1VND =0.00442円(2009年11月~2014年6月平均)

④貸付完了 2014年7月以 上