クリーニング所の 新型インフルエンザ対策について ·...

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クリーニング 所の 新型インフルエンザ対策について クリーニングと公衆衛生に関する研究委員会

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Page 1: クリーニング所の 新型インフルエンザ対策について · 想定外の豚インフルエンザの流行がメキシコ を中心に発生し、whoは新型豚インフルエ

クリーニング所の新型インフルエンザ対策について

クリーニングと公衆衛生に関する研究委員会

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クリーニングと公衆衛生に関する研究委員会編

委員長 高田 勗北里大学名誉教授

中央労働災害防止協会顧問

副委員長 門脇武博

和田耕治

北里大学名誉教授全国クリーニング生活衛生同業組合連合会顧問・クリ-ニング綜合研究所所長

北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教厚生労働省・新型インフルエンザ専門家会議委員

経済産業省中小企業庁・新型インフルエンザ対策のための中小企業 BCP -事業継続計画- 策定指針検討委員会委員

 「クリーニング所の新型インフルエンザ対策について」の本資料は、平成20年度の「クリーニングと公衆衛生に関する研究委員会」(委員長 高田 勗 北里大学名誉教授)の中間報告会において、全国クリーニング生活衛生同業組合連合会・クリーニング綜合研究所より提案説明がされ、当該研究委員会で検討されたものを、厚生労働省「新型インフルエンザ専門家会議委員」等でおられる和田耕治 助教(北里大学医学部衛生学公衆衛生学)にご高閲を賜りました。ここに深甚な謝意を申し上げます。

 平成21年4月

全国クリ-ニング生活衛生同業組合連合会  会長 青山 亨

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新型インフルエンザの基礎的知識

1.新型インフルエンザの出現……………………3 1−1新型インフルエンザの概要

1−2新型インフルエンザと    通常のインフルエンザの違い

1−3過去に流行した    新型インフルエンザからの示唆

1−4新型インフルエンザの発生段階

1−5新型インフルエンザの    流行による被害想定

2.インフルエンザウイルスの感染経路………6 2−1飛沫感染

2−2接触感染

2−3空気感染(参考)

3.薬剤を用いた新型インフルエンザ対策………7 3−1新型インフルエンザワクチン

3−2新型インフルエンザ治療薬

4.個人や事業者が実施できる具体的な感染予防策…7 4−1人との距離の保持

4−2手指衛生

4−3咳エチケット

4−4職場の清掃・消毒

4−5通常のインフルエンザワクチンの接種

5.感染予防に必要な保護具と衛生用品…………9 5−1マスク

5−2ゴーグル、フェイスシールド

5−3手袋

5−4保護具の購入・備蓄

5−5保護具の管理・教育

5−6保護具の廃棄

5−7感染リスクに応じた保護具の選び方 

5−8消毒剤

新型インフルエンザ行動計画(事業継続計画)

1.基本的な考え方…………………………………13

2.事業活動への影響………………………………13

3.危機管理体制の明確化…………………………13 3−1意志決定方法

⑴事業活動への対応

⑵取引業者(サプライチェーン)への対応

3−2通常時の体制

4.感染予防の目的・対応 ………………………15

5.感染予防への対応………………………………15 ⑴前段階(未発生期)〜第一段階(海外発生期)

⑵第二段階(国内発生早期)

⑶第三段階(感染拡大期、まん延期、回復期)

6.カウンター等での受付・返却などでの対応……18

7.情報の収集と共有体制の整備…………………19

8.新型インフルエンザに対応した事業継続の検討…19 8−1事業継続方針の作成

9.教育・訓練………………………………………19

10.最後に……………………………………………20

【目 次】

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新型インフルエンザの基礎的知識

1.新型インフルエンザの出現

1─1)新型インフルエンザの概要

 新型インフルエンザウイルスとは、動物、特に鳥類にのみ感染していた鳥インフルエンザウイルスが、初めは偶発的に人に感染したものが、遺伝子の変異によって、人の体内で増えることができるように変化し、さらに人から人へと効率よく感染するようになったものである

(図1)。このウイルスが人に感染して起こる疾患が新型インフルエンザである。①新型インフルエンザウイルスは、人類にとっては未知のウイルスで人は免疫を持っていないため、容易に人から人へ感染して広がり、急速な世界的大流行(パンデミック)を起こす危険性がある。②鳥インフルエンザウイルスにも様々な種類があるが、現在最もこの新型インフルエンザに変異しそうなウイルスが、鳥インフルエンザ

(H5N1)である。しかしながら、近年H7と呼ばれる型も流行の可能性が示唆されている。一方、先般(4月25日)、世界各国が想定していた鳥インフルエンザ(H5N1)ではなく、想定外の豚インフルエンザの流行がメキシコを中心に発生し、WHOは新型豚インフルエンザの呼称を「インフルエンザA(H1N1)」と発表した。このように、今後どの型が流行するかは明らかではない。

1-2 新型インフルエンザと通常のインフル

エンザの違い

①新型インフルエンザと通常のインフルエンザの違いについて、現段階で想定される違いを表1に示す。

②通常のインフルエンザはインフルエンザウイルスに感染して起こる病気で、かぜよりも、比較的急速に悪寒、高熱、筋肉痛、全身倦怠感を発症させるのが特徴である。

図1 鳥インフルエンザと新型インフルエンザの関係

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③新型インフルエンザの症状は未確認であるが、大部分の人が免疫を持っていないため、通常のインフルエンザと比べると爆発的に感染が拡大し、非常に多くの人が罹患することが想定されている。それと同時に罹患者のうちかなりの割合の人が肺炎などの合併症を起こし、死亡する可能性も通常のインフルエンザよりも高くなる可能性がある。

④毎冬に流行する通常のインフルエンザは、ある程度人と共存しており、感染による死亡率は0.1%以下である。 我が国では毎年約1,000万人がインフルエンザに罹患し、約1万人が死亡しているという報告もある。

1─3 過去に流行した新型インフルエンザか

らの示唆

①過去に流行した新型インフルエンザの一つとしてスペイン・インフルエンザ(1918─1919年)がある。世界では人口の25 〜 30%が罹患し、4,000万人が死亡したと推計されている。 当時の記録から、大流行が起こると多くの人が感染し、医療機関は患者であふれ、国民生活や社会機能の維持に必要な人材の確保が困難になるなど、様々な問題が生じることが考えられている。

②スペイン・インフルエンザでは、世界中に流

行の波が到達するまで、6〜9ヶ月の期間であったが、現代社会では、人口の増加や都市への人口集中、航空機などの交通機関の発達などから、世界のどこで発生しても、より短期間に蔓延すると考えられる。  また、スペイン・インフルエンザには3回の流行の波があり、新型インフルエンザにも流行の波があり、一つの波が2ヶ月程度続くと考えられている。そのため、一度流行が終わても、次の流行に備えて更なる対策が必要である。

1─4 新型インフルエンザの発生段階

 国の行動計画では表2に示すように、新型インフルエンザが発生する前から国内発生、パンデミックを迎え、小康状態に至るまでを5つの段階に分類して、それぞれの段階に応じた対策などを定めている。 5つの段階は、基本的に国における戦略の転換点を念頭に定めたものであるが、都道府県においては、その状況に応じ柔軟に対応する場合もあり得るものである。 また、状況により地域ごとの対応が必要となる場合を考慮し、第三段階を3つの時期に小分類されている。①「前段階」未発生期では、発生に備えて体制の整備を行うとともに、国際的な連携の下に

発病         急激                    急激

症状(典型例)    

              

潜伏期間       2~5日                   未確定(発生後に確定) 

人への感染性     有り(風邪より強い)             強い       

発生状況       流行性              大流行性 / パンデミック 

致死率 **       0.1%以下                   未確定(発生後に確定)* 

項目 通常のインフルエンザ 新型インフルエンザ

38℃以上の発熱。咳、くしゃみ等の呼吸器症状。 頭痛、関節痛、全身倦怠感等

未確定(発生後に確定)

表1 新型インフルエンザと通常のインフルエンザとの違い

* アジア - インフルエンザ:0.5%、スペイン - インフルエンザ:2%** 致死率=一定期間における当該疾病による死亡者数 / 一定期間における当該疾病の罹患者数

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発生の早期確認に努めることを目的とする。具体的には、行政機関及び事業者等の事業継続計画の策定、医療提供体制の整備、抗インフルエンザウイルス薬及びプレパンデミックワクチンの備蓄等が行われる。②「第一段階」海外発生期では、ウイルスの国内侵入をできるだけ阻止するとともに、国内発生に備えて体制の整備が行われる。具体的には、新型インフルエンザの発生国・地域(以下「発生国」という。)への渡航自粛等、発生国に滞在す在外邦人に対する情報伝達と支援、発生国からの入国者に対する検疫、健康監視・停留等の措置の強化等が行われる。③「第二段階」国内発生早期では、国内での感染拡大をできる限り抑えるため、患者に対する入院措置(感染症指定医療機関等)、接触者に対する外出自粛要請、発生地域での学校等の臨時休業や集会・外出の自粛要請、感染防止策の徹底の周知等の公衆衛生対策等が実施される。④「第三段階」感染拡大期・まん延期・回復期では、健康被害を最小限に抑えるとともに、医療機能、社会・経済機能への影響を最小限に抑えることが主な目的となる。感染拡大期

は、地域での公衆衛生対策を継続して行うとともに、患者に対し感染症指定医療機関等への入院措置を行う。一方、まん延期は、医療機関における感染の可能性を少なくするため、発症者のうち重傷者は入院を受け入れるが、軽症者は原則として自宅療養となる。⑤「第四段階」小康期では、社会・経済機能の回復を図り、第三段階までに実施した対策について評価を行い、次の流行の波に備えた対策を検討し、実施する。 人から人への感染の増加が確認され、WHOのフェーズ4(我が国の「第一段階」)が宣言された後は、短時間で感染が拡大し、世界的な流行となる可能性がある。このような状況を考えると、現在は、事業者が事前対策を検討・準備することができる貴重な時期といえる。

1─5 新型インフルエンザの流行による被害想定

①新型インフルエンザが流行した際には、全人口の約25%が罹患し、医療機関を受診する患者数は最大で2,500万人になると想定されている。また、過去に流行したアジア・インフルエンザやスペイン・インフルエンザのデータに基づき推計すると、入院患者は53

発生段階                        状 態   

前段階(未発生期)       新型インフルエンザが発生していない状態            

第一段階(海外発生期)    海外で新型インフルエンザが発生した状態           

第二段階(国内発生早期)   国内で新型インフルエンザが発生した状態      

表2 我が国における発生段階の区分

第三段階          国内で、患者の接触歴が疫学調査で追えなくなった事例が生じた状態                               

各都道府県の判断

各都道府県において、入院措置等による感染拡大防止効果が期待される状態

第四段階(小康期)      患者の発生が減少し、低い水準でとどまっている状態

感染拡大期

まん延期

回復期 各都道府県において、ピ-クを越えたと判断できる状態

各都道府県において、入院措置等による感染拡大防止効果が十分に得られなくなった状態

表2 我が国における発生段階の区分

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〜 200万人、死亡者は17〜64万人となる。②しかし、これらはあくまでも過去の流行状況に基づいて推計されたものであり、今後発生するかも知れない新型インフルエンザが、どの程度の感染力や病原性を持つかどうかは不明である。 人口密度の高い地域においてはより多くの人が感染する可能性もあり、地域差も出ると考えられている。

③流行による社会への一般的な影響は次のものが想定される。

・膨大な数の感染者(疑い例を含む)と死者・社会不安による治安の悪化やパニック・医療従事者の感染による医療サービスの低下・食料品・生活必需品、公共サービスの提供に従事する人(交通・通信・電気・食料・水道など)の感染による物資の不足やサービスの停止

・ 行政サービスの水準低下(行政手続きの遅延など)

・日常生活の制限・事業活動の制限や事業者の倒産・莫大な経済的損失

2.インフルエンザウイルスの感染経路

 現段階では、新型インフルエンザが発生していないため、感染経路を特定することはできないが、通常のインフルエンザと同様に、飛沫感染と接触感染図2が主な感染経路と推測されている。 なお、空気感染は医療現場などの極めて限定した場でのみ起こり得ると考えられている。ウイルスは細菌とは異なり、粘膜・結膜などを通じて生体内に入ることによって細胞の中でのみ増殖することができる。 環境中(机、ドアノブ、スイッチなど)では状況によって異なるが数分間から長くても数十時間内に感染力を失うと考えられている。

2─1 飛沫感染

 飛沫とは、「咳」や「くしゃみ」により口や鼻から飛び出す水滴である。 ウイルスは、ある程度の重さのある飛沫に含まれて外に出る。感染した人が「咳」や「くしゃみ」をすることで排泄する、ウイルスを含む5㎛以上の飛沫が浮遊し、これを他の人が鼻や口から吸い込み、粘膜に接触することによって感染する経路である(飛沫感染)。 飛沫は、空気中で1〜2m以内しか到達しない。

2─2 接触感染

 接触感染とは、ウイルスと粘膜などの直接的な接触、あるいは中間に介在する環境などを介する間接的な接触によって感染する経路である。 例えば、患者の咳、くしゃみ、鼻水などに含まれたウイルスが付着した手で環境中(机、ドアノブ、スイッチなど)を触れた後に、その部位を別の人が触れ、かつその手で自分の眼や口や鼻に触れることによって、ウイルスが媒介される。

図2 新型インフルエンザの感染経路

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2─3 空気感染(参考)

 空気感染とは、飛沫の水分が蒸発して乾燥し、さらに小さな粒子(5㎛以下)である飛沫核となって、空気中を漂い、離れた場所にいる人がこれを吸い込むことによって感染する経路である。 飛沫核は空気中に長時間浮遊するため、対策としては特殊な換気システム(陰圧室など)やフィルターが必要になる。 現時点において、新型インフルエンザウイルスの主な感染ルートとして考えられているのが飛沫感染、接触感染であり、空調などを通して感染する可能性のある空気感染は科学的根拠がない。

3.薬剤を用いた新型インフルエンザ対策

 国では新型インフルエンザ対策の一つとして、新型インフルエンザワクチン、抗インフルエンザウイルス薬を用いた対策を行っている。

3 ─1 新型インフルエンザワクチン

 新型インフルエンザの発症予防や重症化防止に効果が期待できるワクチンとして、①パンデミックワクチンと②プレパンデミックワクチンがある。①パンデミックワクチンとは、人―人感染を引き起こしているウイルスを基に製造されるワクチンであり、国民全員分を製造する計画である。 発症予防や重症化防止の効果があると考えられているが、実際に新型インフルエンザが発生しなければ製造できない。②プレパンデミックワクチンとは、新型インフルエンザウイルスが大流行を起こす以前に、人―人感染の患者または鳥から分離されたウイルスを基に製造されるワクチンである。 政府は流行が予測されている鳥インフルエンザウイルス(H5N1)に対するワクチンをプレパンデミックワクチンとして製造、備蓄している。

3─2 新型インフルエンザ治療薬

 新型インフルエンザの治療薬としては、毎年流行する通常インフルエンザの治療に用いられているノイラミニダーゼ阻害薬が有効であると考えられている。ノイラミニダーゼ阻害薬には、経口内服薬のリン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)と経口吸入薬のザナミビル水和物(商品名:リレンザ)があり、国での備蓄を行っている。

4.個人や事業者が実施できる具体的な感染予防策

 新型インフルエンザの感染予防策は、一般の人々が普段の生活の中で実施できるものが多い。 有効と考えられる感染予防策は、①人との距離の保持、②手指衛生、③咳エチケット、④職場の清掃・消毒、⑤通常のインフルエンザワクチンの接種、が挙げられる。

4─1 人との距離の保持

 最も重要な感染予防策は、人との距離を保持することである。 特に、感染者から適切な距離を保つことによって、感染リスクを大幅に低下させることができる。 逆に、人が社会活動を行うことで、感染リスクが高まると言える。〈目的〉 咳、くしゃみによる飛沫感染予防〈効果〉 通常、飛沫はある程度の重さがあるため、発した人から1〜2m以内に落下する。つまり、2m以上離れている場合には感染するリスクは低下する。〈方法〉 感染者の2m以内に近づかないことが基本となる。 不要不急な外出を避け、不特定多数の者が集まる場には極力行かないよう、業務のあり方や施設の使用方法を検討する。

4 ─2 手指衛生

 手指衛生は感染対策の基本であり、外出から

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の帰宅後、不特定多数の者が触るような場所を触れた後、頻回に手指衛生を実施すべきである。また、環境整備や発病者がいた場所などの消毒をした際、手袋を外した後に流水・石鹸による手洗い、または速乾性擦式消毒用アルコール製剤による手指衛生を必ず実施する。〈目的〉 本人および周囲への接触感染の予防〈効果〉 水と石鹸による手洗いは、付着したウイルスを除去し、感染リスクを下げる。 また60〜80%のアルコール製剤に触れることによって、ウイルスは死滅する。〈方法〉 石鹸を用いて最低 15秒以上洗うことが望ましい。 洗った後は水分を十分に拭き取ることが重要である。速乾性擦式消毒用アルコール製剤(アルコールが 60 〜 80%程度含まれている消毒薬)はすぐに乾くため、タオルや水も必要でなく、簡便に使用できる。

4─3 咳エチケット

 風邪などで「咳」や「くしゃみ」がでる時に、他人に移さないためのエチケットである。感染者がウイルスを含んだ飛沫をばらまいて周囲の人に感染させないように、咳エチケットを徹底することが重要である。〈目的〉 咳、くしゃみによる飛沫感染予防〈効果〉 ウイルスは、「咳・くしゃみ」をすることで排泄される、ウイルスを含む5㎛以上の飛沫が1〜2m浮遊し、これを人が吸い込むことによって感染する(飛沫感染)が、咳エチケットによってこれを防ぐことができる。〈方法〉 咳・くしゃみの際は、ティッシュなどで口と鼻を被い、他の人から顔をそむけ、可能な限り1〜2m以上離れる。ティッシュなどがない場合は、口を前腕部(袖口)でおさえて極力飛散しないようにする。前腕部でおさえるのは、手の場合よりも他の場所に触れることが少ないため、接触感染を防ぐことができるからである。

 呼吸器系分泌物(鼻汁・痰など)を含んだティッシュは、すぐにゴミ箱に捨てる。 「咳・くしゃみ」をする際に押さえた手や腕は、その後直ちに洗うべきであるが、接触感染の原因にならないよう、手を洗う前に不必要に周囲に触れないよう注意する。手を洗う場所がないことに備えて、携行出来る速乾性擦式消毒用アルコール製剤を用意しておくことが推奨される。 飛沫の拡散を防ぐために、「咳」をしている人にマスクの着用を積極的に促す。

4 ─4 職場の清掃・消毒〈目的〉 周囲への接触感染の防止〈効果〉 感染者が「咳」や「くしゃみ」を手で抑えた後や鼻水を手でぬぐった後に、机、ドアノブ、スイッチなどを触れると、その場所にウイルスが付着する。ウイルスの種類や状態にもよるが、痰に含まれるウイルスは、その場所である程度感染力を保ち続けると考えられる。このため、清掃や消毒を行うことにより、ウイルスを除去することができる。〈方法〉 通常の清掃に加えて、水と洗剤を用いて、特に机、ドアノブ、スイッチ、階段の手すり、テーブル、椅子、エレベーターの押しボタン、トイレの流水レバー、便座など人がよく触れるところを拭き取り清掃する。 頻度については、どの程度、感染者が触れる可能性があるかによって検討するが、最低1日1回は行うことが望ましい。 消毒や清掃を行った時間を記し、掲示する。 従業員が発症し、その直前に職場で勤務していた場合には、当該従業員の机の周辺や触れた場所などの消毒剤による拭き取り清掃を行う。その際、作業者は必要に応じて市販の不織布製マスクや手袋を着用して消毒を行う。 作業後は、流水・石鹸または速乾性擦式消毒用アルコール製剤により手を洗う。 清掃・消毒時に使用し

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た作業着は洗濯、ブラシ、雑巾は水で洗い、触れないようにする。・食器・衣料・リネン───通常どおりに洗浄・清掃を行う。 衣料やリネンに患者由来の液体が付着しており、洗濯などが不可能である場合は、当該箇所をアルコール製剤を用いて消毒する。

・壁、天井の清掃───患者由来の体液が明らかに付着していない場合、清掃の必要はない。患者由来の体液が付着している場合、当該箇所を広めに消毒する。

・ 床の清掃───患者が滞在した場所の床については、有機物にくるまれたウイルスの除去を行うために、濡れたモップ、雑巾による拭き取り清掃を行う。明らかに患者由来の体液(血液、尿、便、喀痰、唾液など)が存在している箇所については、消毒を行う。

4─5 通常のインフルエンザワクチンの接種

〈目的〉 通常のインフルエンザに罹患した場合の重症化予防〈効果〉 新型インフルエンザが流行する際には、通常のインフルエンザも同様に流行することが予測されるが、両者の症状は似る可能性が高いため、医療機関でもいずれのインフルエンザに感染したのか判断がつきにくいことが予測される。 通常のインフルエンザワクチン接種の発症予防効果は完全ではないが、接種により重症化のリスクを減らすことができ、通常のインフルエンザによる外来患者を減らすことができれば、流行時の医療機関の混雑緩和にもつながる。インフルエンザ様症状を呈する者を減らすことは、新型インフルエンザの患者への医療の提供体制の確保の観点からも重要である。〈方法〉 医療機関で接種する。ただし、副作用のリスクも十分理解した上で接種を行う。

5.感染予防に必要な保護具と衛生用品

 新型インフルエンザの感染対策に使用する代表的な保護具は、①マスク、②ゴーグル、③手袋がある。感染予防策については、前述のように外出を控える、手洗いの励行といった対策を主にしながら保護具は補助的に用いる。 保護具は適正に使用しないと効果は十分には得られない点に留意する必要がある。 新型インフルエンザの感染対策に使用するマスク、ゴーグル・フェイスマスク、手袋の考え方を以下に示す。

5─1 マスク

 症状のある人がマスクを着用することによって、咳、くしゃみによる飛沫の拡散を防ぐことができ、感染拡大を防止できる。 マスクをすることによって、健常者がウイルスの吸い込みを完全に防ぐという明確な科学的根拠はないため、マスクを着けることによる防御を過信せず、お互いに距離をとるなど他の感染予防策を重視する。 市販の不織布製のマスクが購入の対象となる。不織布製のマスクは、医療用のサージカルマスク(外科用マスク)と呼ばれることがある。 N95マスク以上(防じんマスクDS2規格以上)のような密閉性の高いマスクの着用は、患者と接するリスクの高い場合においてのみ着用を検討する。

*マスクの装着にあたっては説明書をよく読み、正しく着用する。特に、顔に合っているか、注意する。 マスクの外に病原体が付着するリスクがあるため原則使い捨てとし、捨てる場所や捨て方にも注意をして、他の人が触れないようにする。①市販の不織布製マスク(サージカルマスク、外科用マスク)  現段階では、「咳」や「くしゃみ」等の症

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状がある人が咳エチケットとして着用することで飛沫を飛散させない効果はある。 一般的に、マスクを着用することで着用者が防御性を過信することは望ましくない。②N95マスク以上(防じんマスクDS2規格以上のマスク)の効果  N95以上のマスク、または防じんマスクDS2以上は、着用に当たって、フィットの確認や着用の教育が必要である。 正しい使用が行えない場合には効果が十分に発揮されない。  感染リスクが高く教育可能な医療関係者などが、インフルエンザ症状のある人との近距離での接触が予想される場合に着用することが想定されている。

5 ─2 ゴーグル、フェイスシールド

 ゴーグルやフェイスシールドは、眼の結膜からの感染を防ぐために着用が考えられる。ゴーグルは、直接的な感染だけでなく、不用意に眼を触れることを防ぐことで感染予防にもつながる。 ゴーグルやフェイスシールドは、感染患者に接触するリスクが高い場所で必要になるため、一般の企業で使用する場はそれほど多くないと考えられる。

5─3 手袋

 手袋は、ゴム製の使い捨て手袋の使用である。 手袋着用の目的は、自分の手が汚れるのを防ぐためである。 従って、滅菌されている必要はない。 新型インフルエンザなどの細菌やウイルスの対策としては、手から直接感染するのではなく、接触感染により手についたウイルスが口や鼻に触れることで感染する。つまり、手袋をしていたとしても、手袋を着用した手で鼻や口を触ってしまっては感染対策にはならない。また、手袋を着脱した後は、直ちに流水や消毒用アルコール製剤で手を洗う。

5─4 保護具の購入・備蓄

 保護具は保護する能力が強いほど長時間の着用は難しい。 そのため、選択にあたっては使用する時間を想定し、試験的に従業員に着用させて、決定することが望まれる。 保護具を購入するにあたっては、次のプロセスで行うことが望ましい。・ 感染のリスクに応じた保護具を選択し、実際に使用する従業員の意見を聴取する。その際、保護具の密着性、快適性などについても考慮する。 また、候補となる保護具は複数の型やサイズを選択する。

・コストを評価する。 管理面または環境面の改善により保護具が不要となり全体として費用がかからないことがある。

・個人の身体、保護する部分に合うものかを確認する。

・ 流行時に安定した供給が可能か確認する。・ 保護具の選定を行ったら、個人に配布して一人一人の身体の形にあっているかを確認する。 その際に正しい着用方法を指導する。個人にあったサイズを確認して、記録しておく。

・ 使用可能なものを選ぶ。

5 ─ 5 保護具の管理・教育

 保護具は自らを守るものであり、感染リスクがある場所に入る前に着用する。 必要な場所ですぐに入手できないと、着用する人が減る可能性がある。従って、定期的な保護具の供給の管理者も必要になる。 保護具は、定められたように着用しないと効果が十分には発揮されないため、説明書などを確認して適正に着用できるようにする。 また、保護具は着用により不快感も伴うため、時間が経つにつれ正確に着用されなくなる可能性もあることも含めて、教育・訓練を行う。 新型インフルエンザ流行時には、感染に対す

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る恐怖で不必要に保護具を使いすぎることの無いよう、適正に使用するよう教育なども行う必要がある。

5─ 6 保護具の廃棄

 保護具を着用することで汚染を広げないように注意すると同時に、汚染された場合の廃棄や取替え時には自らが感染したり、新たな感染源を作ってしまう恐れがあるため注意が必要である。 基本的には保護具は、使い捨てである。 しかし、コストもかかることと、場合によっては流行の初期において保護具が不足してしまう可能性もある。 そのような状況では使用時間を長くする、繰り返し使用するといったことが必要になるかもしれないが表面には何が付着するかわからないため、なるべく1日に1、2回は交換する。 全ての保護具を外した後には、保護具にウイルスがついている可能性もあるのですぐに手洗いや消毒用アルコール製剤による消毒を行う。また、廃棄場所をきちんと定め、その処分をする人の感染対策についても十分に検討しておく必要がある。

5─7 感染リスクに応じた保護具の選び方

 保護具は感染リスクに応じて選択することが望まれる。 次ページの表3に感染リスクに応じた保護具をあげる。

5─8 消毒剤

 インフルエンザウイルスには次亜塩素酸ナトリウム、消毒用エタノール、イソプロパノールのような消毒用エタノール製剤、などが有効である。 消毒剤の噴霧は不完全な消毒や、ウイルスの舞い上がりが起こる可能性があり、また消毒実施者の健康障害につながる危険性もあるため、実施してはならない。①次亜塩素酸ナトリウム  次亜塩素酸ナトリウムは原液を希釈し、0.02 〜 0.1w/v%(200〜1,000ppm)の溶液、例えば、塩素系漂白剤等を用いる。 30分間の浸漬かあるいは消毒液を浸したタオル、雑巾などによる拭き取り消毒を行う。②イソプロパノールまたは消毒用エタノール  70 v/v%イソプロパノールまたは消毒用エタノールを用いて消毒を行う。 消毒液を十分に浸したタオル(ペーパータオルなど)、脱脂綿を用いた拭き取り消毒を行う。

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― 12 ―

新型

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新型インフルエンザ行動計画(事業継続計画)

1.基本的な考え方

 新型インフルエンザが世界的大流行(パンデミック)した場合は、約2ヶ月間続き、その後1年以上にわたって複数の流行の波が生じることが想定されている。 新型インフルエンザの対策に当たっては、これらの特徴を考慮して、事業活動に応じた持続可能な対策が必要である。 クリーニング事業者(以下、事業者)は新型インフルエンザから事業者自身および従業員・パート等(以下、従業員等)ならびにその家族の感染防止が最優先である。 そのためには、早め早めに対応することが、感染の拡大を防止し、従業員等の安全性を高めるために重要である。

2.事業活動への影響

 クリーニング所の経営形態には、1事業者・パート・アルバイト等の場合と、2事業者・従業員・パート・アルバイト等の場合がある。事業者は各自の経営形態を考慮して、新型インフルエンザの流行に応じた事業活動の継続等を決定することが必要である。 新型インフルエンザの大流行による直接的な影響としては、事業者・従業員等の罹患やその家族等の看病による欠勤者が数多く(厚生労働省の予測で最大で4割)発生し、事業活動が大幅に低下することが推測される。 流行期の2ヶ月間については、従業員等の出勤率は6割程度となり、これが年に2〜3回発生し、終息まで約2年間続く。このため、

事業者は不要不急の業務を縮小する 。 クリーニング所内での感染拡大により、2〜3週間程度、職場での事業活動が不可能になる場合がある。

3.危機管理体制の明確化

3 -1 意志決定方法

 新型インフルエンザの発生前に、発生した場合を想定して行動計画を作成しておくことが重要である。その際、新型インフルエンザが大流行(パンデミック)した場合、事業を続けるのか否かである。すなわち、1)社会機能維持に関わる者として事業を続ける事業者なのか、2)事業自粛が求められる事業者なのか、によって事業者の意志決定が大きく異なるため、十分に検討する必要がある(図3)。 社会機能維持、即ち事業継続計画策定に関しては、経済産業省中小企業庁から運用指針が公表されている(末尾の引用・参考資料および関連ホームページ参照)。⑴事業活動への対応

①新型インフルエンザ行動計画の作成に当たっては、事業者が率先して各担当責任者または従業員を交えて行うことが必要である。⇒行動計画の作成者の選任と具体的行動計画を作る。

②クリーニング所は社会機能維持(例えば、医療従事者、治安維持者、ライフライン関係者等)に必要な事業と位置付けるか、感染拡大防止のため事業活動の自粛と位置付けるか。

 ⇒前者として位置付ければクリーニング所は休業できない。 事業者が感染した場合を

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想定して、代替責任者を選任して重要業務を任せる。

  さらに、事業継続に伴う基本的な方針(従業員等の出勤率を6割程度と想定し、最重要事業の選定と方針など)を明らかにしておく。

  後者の場合には、事業者が感染したり、大流行になったときにはクリーニング所を臨時休業することが可能である。

③事業者が新型インフルエンザを発症した場合、事業活動を継続するか否か。

 ⇒所内にドライ機、水洗機等を取扱える者、また、仕上作業ができる者がいる場合は、その者を代理の責任者とし、事業活動の継続が可能である。しかし、代理の責任者がいない場合には、事業活動は不可能となり、臨時休業もやむを得ない。

④従業員等が新型インフルエンザを発症した場合、事業活動を継続するか否か。

 ⇒従業員等が発症した場合は、出勤禁止であるが、事業者は発症していないため、事業活動は可能である。⑤事業者の家族等が新型インフルエンザを発症した場合、事業活動を継続するか否か。 ⇒家族等が発症した場合、事業者は家族を介して発症の危険性があるため、事業活動は臨時休業する。⑥従業員等の家族等が新型インフルエンザを発症した場合、事業活動を継続するか否か。 ⇒従業員等の家族等が発症した場合、従業員等は自宅待機となる。事業者は感染者との接触がないため、事業活動は継続可能である。⑦従業員等が発症した場合、出勤、連絡、医療機関受診等に対してどのように対応するのか。 ⇒本人が 38℃以上の発熱がある場合および家族に 38℃以上の発熱者がいる場合は欠

は い

継続する

あなた(=事業者)は、近隣等で新型インフルエンザが流行した場合、事業を自粛しますか、継続しますか。

自粛する

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いいえは い

いいえ

は い いいえ

は い

いいえ

いいえ

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補助要員は確保できますか

従業員は十分にいますか

図 3 新型インフルエンザが流行した場合の事業者の判断

図 3 新型インフルエンザが流行した場合の事業者の判断

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勤とする。また、事業者へ出欠勤状況を報告する。事業者は医療機関での受診を指示する。

⑧賃金、在宅勤務などについて、検討しておく。⑵ 取引業者(サプライチェーン)への対応

後述の5の⑵の④を参照。

3-2 通常時の体制

 新型インフルエンザについての情報収集や感染予防についての情報収集。 ⇒情報収集としては全国クリーニング生活衛生同業組合連合会、所轄の保健所、近隣の医療機関、テレビ・ラジオ等の報道などから入手する。また、必要と思われる機関の電話番号を把握しておく。

4.感染予防の目的・対応

 新型インフルエンザの流行に対する対策の最優先の目的は感染拡大の防止である。・ 事業者や従業員等への感染予防ならびにその家族への感染予防・拡大防止

・ クリーニング所内での感染予防・拡大防止・ 顧客への感染防止

5.感染予防への対応

 まず、流行の地域や流行の規模により感染のリスクを想定し、我が国における新型インフルエンザの発生段階の区分(表4)に基づき、発生段階ごとの対策を樹立する必要がある。我が国では、現状、鳥インフルエンザの発生は前段階(未発生期)であるが、豚インフルエンザに関しては、第一段階(海外発生期)である。 新型インフルエンザの発生時に、従業員を感染から守り、事業を継続するために、ソフトウェア対策(感染防止のルール作り等)とハードウェア対策(感染防止のための物品備蓄等)の実施が必要である。こうした対策のうち、特に重要なものが感染防止のルール作りである。感染防止のルールについては、発生段階ごとにどのようなことを行うのかを検討・決定することで、より有効なものとなる。発生段階ごとの対策、即ち、感染防止のルールの例を表 5に示す。⑴前段階(未発生期)~第一段階(海外発生期)

 新型インフルエンザへの対策として必要不可欠な個人の感染予防行動の習慣化や、発生

発生段階                        状 態   

前段階(未発生期)       新型インフルエンザが発生していない状態            

第一段階(海外発生期)    海外で新型インフルエンザが発生した状態           

第二段階(国内発生早期)   国内で新型インフルエンザが発生した状態      

表 4 我が国における発生段階の区分

第三段階          国内で、患者の接触歴が疫学調査で追えなくなった事例が生じた状態                               

各都道府県の判断

各都道府県において、入院措置等による感染拡大防止効果が期待される状態

第四段階(小康期)      患者の発生が減少し、低い水準でとどまっている状態

感染拡大期

まん延期

回復期 各都道府県において、ピ-クを越えたと判断できる状態

各都道府県において、入院措置等による感染拡大防止効果が十分に得られなくなった状態

表 4 我が国における発生段階の区分

資料:新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議 平成 21 年 2 月 17 日

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表5 発生段階ごとの感染防止のル-ル

後は入手困難になる必要備品の備蓄を行い、同時に、発生後に従業員等に過剰な不安感やパニックが発生しないようにするため、以下の対策を行う。①感染予防行動の習慣化  手洗い、うがい、咳エチケットの予防行動は、個々人が習慣化することが必要である。

②必要備品の備蓄(表6 参照)

  感染の危険性が高い一般クリーニング所の事業者等向けに不織布製のマスク、手袋(手洗いが徹底されれば不要と考えられる 。

手洗い場所の確保が難しい時は、アルコール製手指消毒剤を準備しておく。ただし、火災には注意)を2ヶ月分備蓄するようにする。 病院寝具等を取り扱うクリーニング所では洗濯物の仕分けに際して、繊維ダスト(新型インフルエンザウイルスが付着しているかもしれない)が飛散するため、事業者等は不織布製のマスク、手袋、ゴーグルの備蓄を検討しておくことも必要である。 クリーニング所が事業継続を行う上で、感

表 6 クリーニング所における感染防止のための備蓄品リスト

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N95

1 2 /

1

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染防止のための日常備品の備蓄(表6)が必要である。 また、品不足に備えて食料や日常必需品を個人・家庭で事前に備蓄(表7)するようにする。⑵第二段階(国内発生早期)

 クリーニング所での感染者の早期発見に重点をおく。①早期発見のための対応  事業者・従業員等およびその同居家族について、毎朝の検温を義務化し、38℃以上の発熱、咳、全身倦怠感等がある場合は、仕事(出勤)を見合わせる(図4)。  発熱者については、自治体が指定する発熱相談センター、医療機関等で相談・診断を受け、医師により他者への感染の可能性がないことが確認されるまで仕事を見合わせる。  なお、発熱した場合の職場への連絡については、電話による連絡のほか、連絡方法を話し合っておく。②手で顔を触らない(接触感染を避けるため)③職場での欠勤者の把握  事業者は特に休暇取得者、欠勤者等の理由を確実に確認し、体調不良者の早期発見

に努める。④取引業者(サプライチェーン)のクリーニング所内への立入   各種洗濯機の故障・保守等、溶剤・洗剤等の納品に伴う取引業者の訪問など、やむを得ず事業所内に入る場合は、発熱がなければ2m以内に近づいても問題ないが、発熱が疑われるときは、事前の検温や入場前の手洗い、手指消毒等を徹底すると同時に、発熱がみられる場合には不織布製のマスクを着用するか、極力2m以上の間隔を保つ。⑤通勤方法の変更  従業員等は満員電車やバスの利用を回避し、時差出勤、自動車通勤、自転車通勤等を事業場の所在地の特性に合わせて実施する。⑥不特定多数の者との接触(会議、出張など)を避ける。

⑶第三段階(感染拡大期、まん延期、回復期)

 クリーニング所内での感染拡大の防止に重 点をおく。 事業者・従業員等の感染や発症した家族の世話等のために事業者・従業員等が長時間にわたって休業・欠勤する可能性があり感染拡

表7 個人・家族における日常必需品の備蓄品リスト

出典:つくしんぼ:第154 号、北里研究所たより。 平成 20 年11月

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事業者・従業員等、その同居家族等は毎日、検温する

医師の指示に従う 解熱後、出勤可 出勤禁止と自宅待機 出勤可

事業者・従業員等が38℃未満の発熱

事業者・従業員等が38℃以上の高熱

事業者や従業員は医療機関で診断※

同居の家族等は医療機関で診断※

事業者・従業員等の同居家族等が 38℃以上の高熱

事業者・従業員等の同居家族等が 38℃未満の発熱

陰 性陽 性陰 性陽 性

※第 2段階(国内発生早期)では検査が可能と推測されるが、第 3段階(感染拡大期等)では全ての発熱者等の検査は不可能となることから、症状だけの判断になると推測される。

事業者や従業員等のカウンター受付や外交、出勤等禁止

事業者や従業員等のカウンター受付や外交、出勤等禁止

図4 事業者・従業員等や同居家族等が発病した場合の判断

*第二段階(国内発生早期)では検査が可能と推測されるが、第三段階(感染拡大期等)では全ての発熱者等の検査は不可能となることから、症状だけの判断になると推測される 。

大の防止に努める。①クリーニング所の臨時休業  クリーニング所内で感染者が確認された場合、社会機能の維持に関わる者として事業継続を実施するのか、事業自粛(その事業を2週間程度、臨時休業)をするのか、危機管理体制の行動計画に明記しておく。臨時休業した事業所の従業員等は自宅待機とする。 なお、事業所の臨時休業に当たっては、所轄の保健所等と連携し、判断する。

②事前にどのような状況で事業所を臨時休業すべきかを検討する。

③原則は在宅待機とする。事業継続を実施する場合には人員計画を作成する。

6.カウンター等での受付・返却などでの対応

 カウンターで利用者が持参した衣料を受取る際のチェックや返却時のチェック、洗濯物の集配や配達などの際に利用者と接するため、特に、飛沫感染を避けるには、2m以内になるべく近づかないことが基本である。しかし、現実的には難しいため、不織布製マスクの着用が必要である。 また、利用者が感染しているかも知れないため、利用者から感染しないためにも、不織布製マスクの着用が必要である(図5)。 一方、持ち込まれた洗濯物に家族等、利用者等の排泄物等が付着している危険性があることも想定される。このため、洗濯物を取り扱った直後には、手指等を石けん、消毒剤等を用いて十分に洗浄・消毒する。

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7.情報の収集と共有体制の整備

①発生時における情報収集  正しい情報を、所轄の保健所、市町村保健センター、全国クリーニング生活衛生同業組合連合会、ラジオ・テレビ報道等より継続して入手できるようにする。

②医療機関等への連絡  緊急時における保健所、近隣の医療機関等との連絡が取れるよう準備する。

③従業員等への情報提供・普及啓発  従業員等に対して、クリーニング所より情報を提供し、感染予防方法を徹底する。また、必要に応じて、従業員等が保健所、医療機関等と連絡が取れるよう準備しておく。

8.新型インフルエンザに対応した事業継続の検討

 前述の3で述べたように、新型インフルエンザに対しては、事業を継続することに伴い社会的責任を担うとともに、従業員等や利用者等が感染する危険性(リスク)を防止するこ

とを考慮して、事業継続のレベルを決めなければならない。8 -1 事業継続方針の作成

 新型インフルエンザの発生時における事業継続に係る基本的な方針を作成する。 クリーニング所において、事業継続をどの程度行うかについての決定は、クリーニング事業者、従業員等や利用者等の感染予防策の実施を前提として、クリーニング事業者自らの経営判断として行われる。 ただし、業種・業態によっては、社会機能の維持に必要な事業の継続を要請される事業者や、感染拡大防止のため事業活動の自粛を要請される事業者がある。

9.教育・訓練

 事業者は新型インフルエンザに関する正しい知識を習得し、従業員等への周知に努める 。現時点から始めるべき感染予防策を実践することが求められる。 感染予防策は、事業者から従業員等一人ひとりまで全員による行動変容が重要である。

カウンター業務 集配等の外交業務

対応しない 対応する 外交に行く 外交に行かない

実際には利用者の感染状況の把握はむずかしいため、「うつされないため」に事業者・従業員等はマスクを着用する。洗濯物を取り扱った後には、手指の洗浄・消毒・うがい等を励行する

利用者が感染・発熱している

利用者が感染・発熱していない

訪問先に感染・発熱者がいない

訪問先に感染・発熱者がいる

図5 新型インフルエンザが流行した場合のクリーニング所等や外交の判断 

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そのため、現時点で始める感染予防策を決め、事業者自らが率先して実践することが望まれる。 通常のインフルエンザについても感染の疑いがある場合、積極的に休んで医療機関等の診察を受けることを励行する。

10.最後に 感染予防の観点から、最低必要な新型インフルエンザから身に守るために、新型インフルエンザに対する個人及び家庭における感染防止対策および必要な備蓄などを取りまとめた携帯カード( 図6)を作成し、日常的に携帯することにより、理解を深め、緊急の対応に活用されたい。 新型インフルエンザ大流行への対策は、「うつされないこと」と同時に、「うつさないこと」が重要であり、社会全体の感染拡大防止につながる。

引用・参考資料および関連ホームページ等

★ 新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに

  関する関係省庁対策会議(2008.7.30)

「新型インフルエンザ対策行動計画」(2009.2.17)http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/kettei/090217keikaku.pdf

「新型インフルエンザ対策ガイドライン」(2009.2.17)http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/guide/090217keikaku.pdf

★経済産業省中小企業庁

 「中小企業 BCP 策定運用指針を用いた 新型インフルエンザ対策のための BCP (事業継続計画)策定指針」(2009.3) http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/ influenza/index.html

◦和田耕治「企業のための新型インフル

 エンザ対策マニュアル」

 東洋経済新報社(2008 . 11)

◦厚生労働省

 http://www.mhlw.go.jp/ 国立感染症研究所感染症情報センター http://idsc.nih.go.jp/index-j.html 厚生労働省−新型インフルエンザなど感染症相談窓口 Tel.03-3234-3479(午前9時〜午後5時)

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〈表面〉

〈裏面〉

図 6 新型インフルエンザ対策「携帯カード」

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編 集:クリーニングと公衆衛生に関する研究委員会発行元:全国クリーニング生活衛生同業組合連合会    東京都新宿区若葉1-5 全国クリーニング会館(03-5362-7201)

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定価1,000円