パネルシアターの誕生 パネルシアターの世界 で、...

西使フランスの幼稚園でのパネル指導 海外からのパネルシアター短期留学 小学2年生・算数の授業 Pペーパー パネル布 難民キャンプ訪問打合せ会(タイ) 17 16

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パネルシアターの世界

パネルシアターの誕生

 

パネルシアターは、一九七三(昭和四十八)年に

児童文化研究家・浄土宗西光寺(東京都)住職の古

宇田亮順が創案した新しい児童文化財で、布地のパ

ネル板に、絵人形(または文字など)を貼ったり外

したりして、おはなしや歌あそび、ゲームなどを展

開して行う表現方法である。

 

その基盤となったのは、貼り絵の手法である。毛

羽立ちの良い布(フランネル地)を板に貼って舞台

となるパネル板を作り、紙に描いた絵人形の裏にも

同様の布を貼り、両者のひっつきを利用して舞台に

絵人形を貼って、おはなしを展開していったもの

で、「フランネルグラフ」「ボントン絵え

話ばなし」という名

前で活用されていた。

『フランネルグラフ』(山田稔・清水建至著、社団

法人キリスト教視聴覚センター、一九六一年)によ

れば、「フランネルグラフは、世界の視聴覚教育界

では、アメリカ、イギリスなどで特に発達していま

すが、どのような未開の国でも用いられてない国は

ないというほどに広く普及している教材」であり、

キリスト教の布教を中心として世界各国で実演され

ていたのである。

 

ただ、このフランネルグラフは、創り手にとって

手間のかかる裏打ちをしなければならない、という

短所があった。厚手の紙の裏面を、サンドペーパー

かカミソリの刃の角、ビンの王冠などで同一方向に

こすり、条じょうこん痕

をつけて毛羽立たせなければならな

い。そのうえ、裏返しができない、重くなると落ち

る、という欠点も併せ持っていた。

 

古宇田は、なんとかこの点を改善できないかと、

長年試行錯誤を重ねた結果、ようやく「不織布(衣

料用芯地や、工業・土木などの各種産業資材とし

て使用されていたもの)」と出合い、舞台用の布切

(フランネル等)に磁石のように付着するというこ

とを発見し、限りない可能性を持った新しい児童文

化財として、パネルシアターを誕生させたのであ

る。

 

以下、この不織布をパネルシアター・ペーパー

(以下、Pペーパー。Pペーパーは三菱製紙のMB

Sテックの130番〈標準厚〉、180番〈厚口〉

が適している)と呼び、舞台用の布をパネル布(日

本不織布3150番が適している)と呼ぶ。

パネルシアターの特徴

 

Pペーパーの発見により、パネルシアターは、

①軽くて丈夫。

②両面に絵が描ける。

③それがそのまま付着する。

 

という三つの基本的な特徴を持つことになるが、

その他に、パネルシアターの特徴として次のような

ものが挙げられる。

④絵に動きがあること。

⑤同じ絵でも貼り方によって異なった見方ができ

ること。

⑥絵を移動することにより位置の交換や組み合わ

せができること。

⑦瞬間的な場面転換ができること。

⑧トリック(例えば、重ね貼り、窓開き……)が

できること。

⑨演者が舞台の裏に隠れることがないので、観る

人との間に強い親近感、一体感が生まれるこ

と。

 

などである。

(『こうざパネルシアター』古宇田亮順、阿部恵共

著・大東出版社・一九八一年)

 

パネルシアターは、子どもにも手軽に活用できる

ということから、“大人が与える”というだけでな

く、“子ども自身が創造できる”文化財でもある。

 

児童文学者の髙橋良和(一九一一〜一九七七年)

は、「パネルシアターの世界は実に大きく広くそし

て利用価値には幅がある。(中略)幼児・児童の情

操教育に大きな役割を果たすものである」と述べ、

「パネルシアターは視聴覚文化財の革命である」と

記している(古宇田他 

前掲書)。

広がる活用の場

 

初期のパネルシアターは、古宇田が浄土宗の住職

であるということから、仏教教義や説話をわかりや

すく理解してもらえるような作品や、子どもたちと

の交流の手助けとなるようなものが多く生み出され

た。やがて児童音楽協会、道潅山学園保育福祉専門

学校、フジテレビ教育事業部などでパネルシアター

が紹介され、各地の教育・保育の場で公開研究会が

開催されるようになり、全国に広まっていった。読

売テレビの『ロンパールーム』、NHKの『おかあ

さんといっしょ』、NHK教育テレビの『こどもの

療育相談』などで取り上げられたことも普及に拍車

をかけた。今では幼稚園、保育所はもとより、小学

校、特別支援学校、福祉施設、児童館、図書館、警

察署、消防署、子ども会、国際交流、子育て支援、

教化、布教など、幅広い分野で活用されている。

フランスの幼稚園でのパネル指導

海外からのパネルシアター短期留学

小学2年生・算数の授業

Pペーパー

パネル布

難民キャンプ訪問打合せ会(タイ)

17 16

 

白いパネル板の上を絵人形が自在に動きまわり、おはなしや歌が進むにつ

れ、観客はどんどんその世界に引き込まれる……。一度観ると、子どもから大人

まで、誰もが魅了されてしまうパネルシアターの世界について、ご紹介します。

適当なパネル板やイーゼルが用意できないときは、移動用黒板やホワイトボードなどを利用し、パネル布をクリップや磁石などで貼りつける。

パネル布:付着力のよい布地で、舞台に使う。Pペーパー:絵人形に使う不織布。

舞台を組み立てる

イーゼル

パネル板

Pペーパー

パネルシアターの種類

 

現在パネルシアターには三つの手法が考えられ

ている。

①白パネル

 

白いパネル布を貼った舞台のことである。通常

は明るい場所で行うもので、絵人形の動きや位置

から奥行きを感じることができており、背景の移

り変わりについて観客が自由に想像を膨らませる

ことができる。明るいということから、観客の反

応を見て演じることができ、手あそび、クイズ、

歌あそび、おはなし、ゲーム、マジックなどに適

している。

②黒パネル(ブラックライトのパネルシアター)

 

黒いパネル布を貼った舞台で、絵人形は蛍光ポ

スターカラーや蛍光ペンで着色し、ブラックライ

ト(正式にはブラックライトランプという。蛍光

作用の強い紫外線を発生する特殊蛍光灯)という

蛍光灯を当てる。会場は、暗転にしておくことが

大切である。暗闇の中で浮き上がったように光る

絵が美しく、夜空や宇宙などの幻想的な独特の雰

囲気を醸し出すことができる。ブラックライトの

演者は、黒や紺の服を着用することが望ましい。

③影絵式パネル

 

角材やスチールなどで作ったしっかりした枠組

みに白いパネル布をピンと貼り、裏からスライド

の映写機などで光を当てて影絵的な透視効果を醸

し出すものである。作品の幅が限りなく広がる。

 

以上の三種が現在考えられているが、作品に応

じて使い分けることが大切である。

絵人形の作り方

 

絵人形は、ポスターカラーや水性絵具で着色し

(クレヨン・クレパスは、Pペーパーやパネル布

を汚す可能性があり相応しくない)、切り抜いて

創る。

 

型どりができると着色するが、遠くからでも観

やすいようにしっかりとした色づかいで着色する

ことが大切である。そのあと、再び油性のマジッ

クペンではっきりと縁取りをする。この縁取りが

パネルシアターの命である。太すぎると縁ばかり

が目立つし、細すぎると白の舞台に貼っていると

いうことで色彩が生きてこない。太からず細から

ずということで、3ミリから4ミリ位の太さで描

くとよい。

 

絵が完成したらはさみで切り取るが、細かい部

分については絵に沿って切り取るのではなく、少

し余裕を残して切り取る。なぜなら、細かな切り

取りは角が折れ曲がる危険性があるからである。

少しの余白は、白い舞台には目立たない。ただ

し、例外的に余白を残さない場合もある。それは

重ね貼りをする場合である。重ねた上の絵人形に

余白があると、余白が余白として目立つからであ

る。

 

裏と表と違った絵を描く場合、裏の絵が表に透

けるときがある。この場合は、厚口のPペーパー

を二枚重ねてボンドで貼りつけるとよい。

 

黒パネルの作品は、余白を残しておくとそこが

青く光るので、余白は黒く塗りつぶさなければな

らない。

 

できあがった作品は、空き封筒などで保存して

おく。袋の表にはタイトル、絵人形の種類、制作

年月日などを記入しておくとよい。

※2011年1月現在、影絵式パネルの舞台の販売はありません。

ブラックライトのパネルシアター『二河白道』

大学授業の一コマ

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演じ方

①演者は舞台に向かって右側の袖に立つ

 

右利きの人は舞台に向かって右側、左利きの人は

左側に立って演技する。左側に立って演技する場合

は、舞台下手から出てくる方向に絵人形を描くこと

が大切である。

②演者は黒子ではない

 

パネルシアターは、舞台と演者の両者によって構

成される。演者の人間性やキャラクターによって、

絵人形はさまざまな表情を持つことになる。

③利き手で貼る

 

少しでも死角を無くすためにも利き手で貼る。た

とえば、右利きの人が左手で貼ると背中を向けるこ

とになるので気をつけたい。中腰で貼ったり、横の

位置から遠くまで手を伸ばして貼る必要はない。速

やかに貼って所定の位置に戻り、演技をする。

④絵人形は台詞・歌詞の少し前に出す

 

絵人形は、台詞や歌詞の少し前に出すことによ

り、みんなでおはなしや歌を共有できるので、わか

りやすくなる。

⑤貼るタイミングと剥がすタイミングを考える

 

貼ることばかりに気を取られて剥がすことを忘れ

てしまうと、画面が雑然となる。常に剥がすことも

考えておくことが大切である。

⑥バランス良く貼る

 

絵人形を貼る位置、全体の構成、安定性のある貼

り方、絵人形と残りの空間のバランスに留意した

い。

⑦絵人形に細かな動きを求めない

 

舞台に貼った絵人形は、台詞の度に動かさない。

絵人形の細かな動きは演者が補うとよい。

⑧トリックを使い過ぎない

 

パネルシアターにおいてトリックは魅力的なもの

であるが、使い過ぎは禁物である。ここぞというと

きに使ってこそ、トリックで

ある。

⑨音楽の良さを取り入れる

 

アコーディオン、ピアノ、

ギター、キーボードといった

楽器を使うのも一考で、効果

音なども適宜使うと効果があ

る。

文責:髙橋司

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基本のトリック13

パネルシアターの特徴のひとつに「トリック」がある。現在考えられている13の主な「トリック」を以下に記す。

3 組み合わせ たとえば、人と影といった場合、通常ひとつの絵で表されるが、別々に描いて組み合わせる。

1 裏返し 同一の絵で左右の変化なら、1枚のPペーパーの表と裏の両面に絵を描く。異なった絵の場合、2枚のPペーパーに描いた絵を貼り合わせる。

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2 重ね貼り 絵人形の上に重ねて貼りたい場合、上に重ねる絵人形の裏にパネル布を裏打ちすると、重ねて貼ることができる。

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6 引っ張り 白い糸を利用して(黒パネルのときは黒い糸)、たとえば山の後ろから太陽を引っ張り出す。

7 窓開き 窓を開く、口を開けるといった場合に、別々に描いたものをガーゼでPペーパーを繋ぎ合わせる。

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4 ポケット Pペーパー2枚でポケットを作り、その中から絵人形を出す。

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8 かぶせ ポケットの逆で、帽子をかぶるときなどに利用する。

5 糸留め(動作づけ) 口を動かす、手足を動かすといった場合に、別々に描いたものを糸で繋ぐ。

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13 蓄光シールの活用 光を蓄えて暗闇の中で光を放つ。ブラックライトの明かりを消したあと、それまでに見えない画像が現れる。

10 切り込み 切り込みを入れて、出し入れする。▼

11 人形パネル 表裏側面を貼り合わせ、手を入れて人形劇のように使用する。

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9 スライド 同じ絵人形を重ねておいて、瞬時にずらす。

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12 回転 たとえば風車を回すとき、滑車を絵人形の裏に貼り合わせ、糸を舞台の後ろに垂らしておき、引っ張って回転させる。