イノベーションとしての改善活動と組織設計 ·...

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イノベーションとしての改善活動と組織設計 日時:2017111日水曜 於:小島ホール 発表者:岩尾俊兵 (東京大学大学院経済学研究科 マネジメント専攻経営コース博士課程)

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イノベーションとしての改善活動と組織設計

日時:2017年11月1日水曜

於:小島ホール

発表者:岩尾俊兵

(東京大学大学院経済学研究科

マネジメント専攻経営コース博士課程)

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目次

• 研究の背景

• 既存研究レビュー

• 分析枠組みと研究手法

• 改善活動の実態①:4社比較

• 改善活動の実態②:トヨタ自動車

• 改善活動と組織:シミュレーション・アプローチ

• 改善活動の性質変化とマネジメント

• ディスカッションと結論

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第1章:研究の背景

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改善活動は地味にみえて大事な経営問題

• 改善活動=品質・コスト・生産リードタイム・フレキシビリティ等の経営指標の向上を目的とする工程・作業の変化 – 企業の競争優位の源泉となる(Bessant, 1992) – 取り組むリスクが小さい(Varadarajan, 2009) – 近年新興国での研究隆盛(Gonzalez Aleu, & Van Aken, 2016)

第1章:研究の背景

4

例)トヨタ自動車の改善活動による利益 出所:有価証券報告書より筆者作成 VA/VEを除くと500/3000億円(直近2年) ⇒ただし、工場での改善がVA/VEにつながることもあるため分離は難しい

利益の20~50%に貢献

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

2000

2001

2002

2003

2004

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2015

2016

億円

西暦

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生産現場の改善効果が経営全体に及ぶことも

• 製品開発や部品購買など生産以外の企業活動にもプラスの影響を持つとの指摘(Clark & Fujimoto, 1991; Nishiguchi, 1994) – 製品開発:治工具・試作生産など隠れた製造活動を伴うため製造のスピードが開発のスピードに影響

– 部品購買:サプライヤーへの知識移転に影響

• つまり…経済活動にとってインパクトのある活動 – イノベーションと対置される重要な活動とみる立場(Imai, 1986)

– あるいはイノベーションの特殊形(インクリメンタル・イノベーション)とみる立場(Abernathy, 1978)

第1章:研究の背景

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改善活動には規範的な見方が存在

• 改善ノウハウや(QC7つ道具etc.)(Imai, 1986など)改善活動の分類についての研究が存在(Abernathy, 1978など)

• ある種の標準的な型が存在するとの前提 – 近年の研究の3割近く(Glover et al., 2014)

①小規模・インクリメンタル(Bessantet al., 2001; Choi, 1995)②工程改良目的(Anand et al., 2009; Bhuiyan & Baghel, 2005)③個々独立した同様な性質・規模の活動の積み重ね(Anand et al., 2009)④作業者・作業集団主導型(Bessant et al., 2001; Koike, 1998)の技術変化

第1章:研究の背景

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規範論や分類論を超えた研究が必要

• こうした前提を実証面から検証する研究の蓄積はいまだに少ない(Choi, 1995; Gonzalez Aleu, & Van Aken, 2016)

–規範を前提にすると改善活動の実態比較という視点が薄れやすいのではないか?

第1章:研究の背景

7

※近年のレビュー論文にもみられる(Gonzalez Aleu & Van Aken, 2016)

(1)小規模で規模にバラツキがない

(2)工程イノベーションに分類可能

(3)独立した活動の積み重ね・集合

(4)作業者・作業集団がおこなう

既存のイノベーション論における改善活動観

イノベーション論における改善活動(出所:筆者作成)

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規範論への実証的な疑問あり

• ⑴いくら小規模だとしても数十年間にわたって改善活動の余地が存在し続けるのはなぜか?

• ⑵⑶多数のイノベーションが生まれる中で企業ごとの選択の余地(特徴)はあるか

• ⑷あるとしたらどのような企業特性が影響しているのか⇒組織構造・調整形態?

8

産業種別 プロセス産業 組立産業

工程数 全体で4から5など少数 1部品だけでも100以上

工程数削減のインパクト ラディカル インクリメンタル

既存工程改良のインパクト インクリメンタル インクリメンタル

第1章:研究の背景

組立産業における工程数削減の効果(出所:Utterback (1994) の議論を基に筆者作成)

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実態を踏まえた改善マネジメント研究も可能?

• 改善活動の実証的研究により規範論を超えた研究が可能

• 同じ技術変化の一種である他のイノベーション(製品開発等)への社会科学的な蓄積を活用できるのでは

• たとえば…他のイノベーション活動で盛んに論じられる資源動員・調整問題(Allen et al., 1979; Clark & Fujimoto, 1991; Van de Ven, 1986)

• 技術変化には(全社視点の)調整必要⇒改善も技術変化⇒改善も(全社視点の)調整必要? – 改善活動が小規模・作業集団完結型ならば(ステークホルダーの数が少ないならば)全社的な資源動員は問題にならない

• 現実はどうか?⇒実務家は改善活動がときに部門横断的で大規模になりうると示唆(原田, 2013; 松島・尾高, 2008) – ときとして大規模な調整問題が発生する可能性もある

第1章:研究の背景

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以後さらなるレビューと実証の必要あり

• ただし…実務家は理論を提示しているわけではなく、仮に改善活動が大規模になるとすれば「どのような論理で何が必要になるのか」一般化しているわけではない

– 「改善活動は既存研究の見方で十分か?不十分だとすればなぜ不十分で何が必要か?」

– これが大きなリサーチ・クエスチョン

• そのため…①関係する理論を整理した上で、②改善活動の実態を調査する必要がある –次章で既存研究レビュー

第1章:研究の背景

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第2章:既存研究レビュー

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今井2著作の事例も多くは前章の枠内 • 改善活動研究の嚆矢とされ(Bessant, et al., 2001; 藤本, 1997;

Glover et al., 2011)事例紹介が豊富な今井正明2著作(今井, 1988; 2011)を分析

• 改善活動の規模:(総体としては大規模であっても)個別は小規模

– 費用:0円、1件当たり64円、日産化学のみ16万円

– 期間:数日から数週間がほとんど

• 個別改善活動で1ヶ月を超すものはアルパルガタスの3か月間とマタラッツォ・オブ・モノリス・リオ・デ・ラ・プラタの2例のみ(2例は初めて改善活動に取り組んだ事例)

– 効果:日産自動車の作業時間0.6秒改善、キヤノンの1件当たり約5万円、日立電子の10万円、日産化学の1件当たり役64万円、富士ゼロックスの67万8500円など数十万円を超えない

• 改善活動数:アイシン・エィ・ダブリュやキヤノンで年間20~30万回

• 参加者:作業者(従業員)とその管理者がほとんど

– コンサルタントと社長が主に活躍するという例外が2つ 12

第2章:既存研究レビュー

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近年の海外での研究状況も同様

• 改善活動の実証的研究は個別の改善活動を「改善イベント(Kaizen events)」または「改善プロジェクト(Continuous improvement projects)」と呼び成功要因を研究(Farris et al., 2009; Glover et al., 2011; Gonzalez Aleu & Van Aken, 2016) – 自身の研究が改善活動の実証的な分析としておそらく初であると述べる(Farris et al., 2009; Glover et al., 2011)

• 改善プロジェクトは基本的に数日で終わる – 月に1回~16回以上生まれ(14社中5社は月5回以上改善イベントが起こっている)

• 経営層の支持のもと数名の作業者チームにより実現

• 資源の使用よりもタスク分割とチームワークが重要(Farris et al., 2009; Glover et al., 2011; Glover et al., 2014)

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第2章:既存研究レビュー

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規模

貢献度(発生数・利益など) 既存研究の主な対象

実務家の視点は異なる

第2章:既存研究レビュー

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• 潜在的には改善活動の規模は多様:改善活動は小~大規模まで様々発生しうる(松島・尾高, 2008; 原田, 2013)

点線:潜在性を表現(実務家の視点と一部の研究)

こうした活動のうち何を「改善活動」と呼称するのか⇒呼び方の問題だけではない可能性

⇒なぜなら組織全体の資源動員・調整が必要となるから(武石ほか, 2012)

既存研究が主な対象とする改善活動(出所:筆者作成)

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改善活動の組織は小集団的との見方

• 改善の主役として作業者(集団)とそのリーダーに注目(福澤ほか, 2012; Koike, 1998)

• 改善活動のリーダーは作業の上手さによってフォロワーを惹きつける(野渡, 2012)

• 改善活動は作業集団による小集団活動という形態を持つ(Cole, 1985; 野中, 1990)

• 小集団改善活動では作業者達が身近な問題を自主的に設定・解決・実行する(QCサークル本部編, 2012; 城戸, 1986; 城戸, 1988)

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第2章:既存研究レビュー

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改善活動が小集団的になる論理存在

• リーン生産方式によって「異常」の発見が容易になる(Adler et al., 1997; 野中, 1990; 大野, 1978)

• 組織内の目的・手段関係に異常が生じると組織成員は作業を見直す(Feldman & Pentland, 2003; Weick & Quinn, 1999)

• このとき作業について一番情報を持つのは実際に作業をおこなう作業者(Von Hippel & Tyre, 1995) – つまり組織理論的にも作業者による問題解決が高効率(城戸,

1986; 城戸, 1988 )

• 改善活動へのモティベーションを前提として作業者の小集団に任せる方がよい(Cole, 1979)

• 上記論理展開は、製品イノベーションよりも工程イノベーションにおいて成り立つ(Anand et al., 2009; Andries & Czarnitzki, 2014)

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第2章:既存研究レビュー

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技術的知識の必要性があると小集団的改善が常に効果的とは限らない

• 改善活動が人工物の変化をともなう場合、技術的知識が必要(Dul & Ceylan, 2011; 三枝, 2016)

• そのため工場現場では作業者と技術者が役割分担するとされる(小池ほか, 2001) – 分担があいまいな仕事の場合の調整をどうするのかといった点はあまり研究されない

• 改善活動が時に部門横断的におこなわれる必要があることは述べられる(中條, 2011) – 具体的なマネジメントの在り方についてはこれからの研究課題(中條, 2011)

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第2章:既存研究レビュー

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(技術的)設計論でみると改善活動は特殊

• イノベーション創出活動としての製品開発・工程開発・改善活動はみな(新)設計をともなうという共通点あり(Simon, 1969; Suh, 1990; Suh, 2001)

• ただし、改善活動は環境と設計対象が一体であり(Dul & Ceylan, 2011; 小池ほか, 2001)改善活動自体によって設計の前提の環境を変化させる

– 場合によってはインプット(作業)を変化させるなど追加の改善活動が必要となる可能性あり

– これは第1章での最初の疑問に答えるもの

• 「問題解決の連鎖」という特性

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第2章:既存研究レビュー

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技術変化としての改善活動の 調整範囲は変化する可能性あり

• イノベーション創出は組織的な問題解決(Clark & Fujimoto, 1991; Myers & Marquis, 1969)

– そのため調整形態がイノベーションに影響

• 製品開発などの調整範囲は初めから大規模に設定(Utterback, 1994; Clark & Fujimoto, 1991)

• 一方、改善活動の調整範囲はほとんどの場合小さくて済むと考えられるが、改善プロジェクトの性質によっては必要な調整範囲が変化する?

– 問題解決の連鎖のどこまでを扱うか

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第2章:既存研究レビュー

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改善活動に大小があるならば対応組織にも大小がある?

• 組織設計のいかんによって創出されるイノベーションの種類が変化する可能性指摘(Aoki, 1986; Romanelli & Tushman, 1994; Büschgens et al., 2013; Valle & Vázquez-Bustelo, 2009)

– イノベーションの性質に対する技術決定論に対して組織決定論的な要素の存在示唆(Edmondson, 2012; 内野, 2006)

• 改善活動がもし小規模~大規模なものまであるなら組織構造と改善活動の平均的な規模に相関存在?

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第2章:既存研究レビュー

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既存研究レビューのまとめ

• まとめると…問題解決の連鎖の結果として大規模になる潜在的可能性⇒こうした潜在性の中で「どのような規模のものまで扱うのか」「どのような規模のものに集中するか」⇒改善活動に対しどのような組織設計をおこなうかにより上記の選択結果は変化するのでは

• 実証結果から再考察

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第2章:既存研究レビュー

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第3章:分析枠組みと研究手法

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改善活動の実態を下図で把握 • 改善活動の実態を下記の図にプロット

第3章:分析枠組みと研究手法

23 規模

貢献度(発生数・利益など)

潜在的な改善活動の出現可能性図(出所:筆者作成)

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各社の平均的な改善活動の規模を比較

第3章:分析枠組みと研究手法

潜在的な改善活動の可能性の中で、 実際の企業ではどのようなタイプの 発現の仕方がみられるのか?

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規模

貢献度(発生数・利益など)

小規模中心

大規模中心

バランス型

改善活動の分類図(出所:筆者作成)

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改善活動に小規模~大規模まで幅がある場合①どの規模のものを②どれくらい③どのような組織で行っているか分類

• 背景:組織決定論的な論理

第3章:分析枠組みと研究手法

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規模

貢献度

改善活動の始端    組織構造    実現される改善活動

写像       写像

本論文の分析枠組み概念図(出所:筆者作成)

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定性・定量にこだわらず研究手法使用

• 結果を比較表で分類していく

• リサーチ戦略としての三角測量(Yin, 1994)

26

改善活動の規模 改善活動を担う組織

A社 ― ―

B社 ― ―

C社 ― ―

… ― ―

リサーチ戦略 リサーチ問題のタイプ 行動事象に対する制御の必要性 現在事象への焦点

実験 どのように なぜ どれくらい あり あり

定量調査 だれが なにを どこで どれくらい なし あり

資料分析 だれが なにを どこで どれくらい なし あり/なし

歴史分析 どのように なぜ なし なし

事例研究 どのように なぜ なし あり

改善活動の分類表(出所:筆者作成)

研究戦略の考え方(出所:Yin (1994) をもとに筆者作成)

第3章:分析枠組みと研究手法

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第4章:改善活動の実態①:4社比較

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実態把握のために4社を比較

• 対象企業:日本国内売上規模上位8社のうち許可が得られた3社

• および内1企業の関連会社の計4社 • 3社の年間生産台数の合計は国内60%超となり、内1社の関連会社を含めた調査対象全4社の国内シェアは約65%(2014年12月31日時点)

• 対象は車体・成形・塗装・組立からなる完成車工場

第4章:改善活動の実態①:4社比較

28 第5章インタビュー調査概要(出所:筆者作成)

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4社4様の改善活動の実態が存在

• A社:作業者からの改善活動が中心。予算も作業者が持つ。小さい改善活動中心。

• B社・C社:技術者中心。予算は本社技術者が持

つ。大きい工程開発中心。設備投資が中心的な時期と作業改善が中心的な時期がある。予算は基本的に技術者だが作業者に予算を配ることも。

• D社:作業者と技術者の間をいったりきたりする

ライン内スタッフが存在。予算は工場のライン内スタッフと本社技術者がそれぞれ持つ。小さいもの大きいものが混在。バランス型。

29

第4章:改善活動の実態①:4社比較

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データに重み付け⇒事例と同様の結果

30

6.5%9.9% 7.6%

76.0%

0.0%0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

投資額

件数

33.3%

66.7%

0.0% 0.0% 0.0%0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

投資額

件数

27.8%

55.6%

13.9%

2.8% 0.0%0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

投資額

件数

15.72%

0.17% 0.00%0%

10%

20%

30%

40%

50%

現場リーダー 工場技術者 本社技術者

組織成員種別

各成員数÷工場従業員総数

3.85%

0.38%3.46%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

現場リーダー 工場技術者 本社技術者

組織成員種別

各成員数÷工場従業員総数

20.00%

5.00%

1.00%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

現場リーダー 工場技術者 本社技術者

組織成員種別

各成員数÷工場従業員総数

A社              C社               D社

第4章:改善活動の実態①:4社比較

日本の自動車メーカーの3類型(出所:筆者作成)

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4社は3つの平均規模・組織に分類可能

31

改善活動の規模 改善活動を担う組織

A社 小規模中心 作業者中心

B社 比較的大規模中心 技術者中心

C社 比較的大規模中心 技術者中心

D社 バランス型 バランス型(工場技術員)

資源配分と組織形態の差異によりこの違いが生まれているのか? ⇒マルチエージェント・シミュレーションを用いて追加実験(6章)

第4章:改善活動の実態①:4社比較

4社比較事例結果概要(出所:筆者作成)

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4章のまとめと残された疑問 • 改善活動の平均的規模と中心的な組織には4社で差異がある⇒既存研究の範囲では不十分

• また、調整形態(資源配置と組織設計)が改善活動の平均規模に影響か

• しかし…これは単に「何を改善活動と呼ぶか?」の問題でないと言えるのか?

• 4社それぞれ「改善活動」も「工程革新」もある • そこで…1社における改善活動の規模がいかにして変化するのか詳細に観察する必要性あり – 「改善活動」と「工程革新」の関わり合いも観察

• 小から大まで満遍なく行っていたD社に注目 – 次章:D社と同様のトヨタ自動車の事例を分析

32

第4章:改善活動の実態①:4社比較

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第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

33

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4つのサブ・クエスチョンから検討

34

(1)小規模で規模にバラツキがない

(2)工程イノベーションに分類可能

(3)独立した活動の積み重ね・集合

(4)作業者・作業集団がおこなう

Q1:イノベーションの規模

Q2:関係した部署・組織の数

Q3:主要な貢献者

Q4:活動プロジェクト間の関連

Q1

Q2

Q3

Q4

(1)

(2)

(3)

(4)

既存研究の改善活動観   サブ・クエスチョン

第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

改善活動の実態についてのサブ・クエスチョン関連図(出所:筆者作成)

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改善活動の規模には幅があった

• 全て同様に小規模な活動の積み重ねか?

– No:ステークホルダーの数、調整時間、投資額、

経済効果のどれを見ても比較的小さいものから大きいものまで幅がある

第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

累積調整範囲 累積調整量 投資額 コスト削減効果

事例1 1 1.5 ¥0 ¥140,000

事例2 2 2.5 ¥30,000 ¥290,000

事例3 3 5.5 ¥300,000 ¥2,160,000

事例4 4 7 ¥0 ¥3,300,000

事例5 6 14 ¥0 ¥1,560,000

事例6 4 15 ¥20,000,000 ¥20,000,000

事例7 6 17 ¥52,000,000 ¥20,000,00035

イノベーションの規模の比較要約(出所:筆者作成)

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Case Q1 Q2 Q3 Q4

事例11.5人・時消費、0円投

資、14万円コスト削減高岡工場1部署 直接作業者と組長 事例2に影響

事例2

調整量2.5人・時、3万円

の投資、29万円のコスト

削減効果

高岡工場内2部署 作業者と工場技術員 事例3に影響

事例3

調整量5.5人・時、

30万円の投資、

216万円のコスト削減

3部署

(高岡工場と設備業者)

作業者、工場技術員、

設備業者事例6に影響

事例4

調整量7人・時、

0万円の投資、

330万円のコスト削減

4部署(トヨタ内)

設計部での設計変更含む

作業者、工場技術員、

設計部技術者、

調達部門

事例5

調整量14人・時、

0万円の投資、

156万円のコスト削減

6部署(高岡工場内と

マーカー製造業者)

作業者、工場技術員、

マーカー製造業者―

事例6

調整量15人・時、

2000万円の投資、

年間約2000万円コスト減

4部署(トヨタ自動車内

とAGV製造業者)

作業者、工場技術員、

AGV製造業者事例7に影響

事例7

調整量17人・時、

5200万円の投資、

年間約2000万円コスト減

6部署(トヨタ自動車内

と設備業者)

作業者、工場技術員、

生産技術部、設備業者―

改善活動が製品設計の変更を含むことも

• すべて工程改良を目的としているか?⇒No

第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

製品の設計変更含む (VA/VEの一種)

36

改善活動サブ・クエスチョン回答結果まとめ(出所:筆者作成)

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改善が次の改善に繋がり大規模化

• 全て独立した活動か? – No:改善プロジェクト同士がつながって大きな経営方針となる場合もある • これが既存の生産方式とまったく異なる(=ラディカルに近い)イノベーションとなる可能性も

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

Time

累積調整量

事例6

事例7事例5

事例4

事例1

事例2

事例3「変種変量ライン化」方針

人・時

第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

37

個別改善プロジェクト間の関わり(出所:筆者作成)

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小集団改善活動だけに留まらないものも存在

• すべて作業者・作業集団主導型か?:No – 小規模から大規模まで、作業者中心から本社技術者中心まであるが、間を繋ぐ「調整役の技術者」中心

– 技術員室:ライン内スタッフと呼べる組織構造

• 作業者中心の小さな改善から本社生産技術中心の大きな改善までつなぐ

• 作業者と技術者の「連結ピン」

• 物理的・組織的にラインに近いが、知識は本社技術者に近いスタッフが必要(別の側面で両者に近いスタッフ) – ライン内スタッフ

第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

38

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ライン内スタッフは技術的な調整者

• 事例1:作業者と組長が相談

• 事例2:改善始点は課長⇒組長が改善プロジェクトを進めるうちに保全工と技術員室に相談⇒工場技術員がお金を出す⇒改善の終点は作業者による承認

• 事例3:改善の始点は工場のトップ⇒技術員室が改善プロジェクト主導⇒改善案の原案は直接作業者の意見を反映して修正

• 事例5:品質管理部の技術者が始点⇒組立部・塗装部・車体部の工場技術員が主導

• 事例7:本社生産技術の予算に頼っていたが作業者の意見を工場技術員が代弁

第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

39

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トヨタ自動車におけるライン内スタッフの説明

40

第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

工場技術員

他工場

技術部(設計部)

生産技術部

調達部門

トヨタ

部長(基幹職1級)

組長

班長

他企業2他企業1

工場長(役員)

工長

高岡工場

課長 車体部 成形部 塗装部 組立部

1ボデー課 2ボデー課 プレス課 技術員室

B工程 C工程 etc.

1組 2組 etc.

1班 2班 etc.

フタ物工程

工務部 品質管理部

改善活動をめぐる組織内外の状況(出所:筆者作成)

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トヨタ自動車におけるライン内スタッフの説明

• 工場の製造品質・生産性・生産リードタイム・フレキシビリティに責任を持つ技術者

• 新卒時から本籍は基本的に1工場のまま

• (生産管理や経営工学等の)大学院修了者が大半であり、工場長⇒生産担当副社長⇒社長を目指す

• オフィスは工場内にあり、毎日の仕事は工場を歩いて問題解決&工場長マターのプロジェクトの両立

• 改善活動に関する予算は年間数千万~数億保持⇒それ以上必要な場合は本社生産技術部(技術者)と交渉

41

第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

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トヨタ自動車におけるライン内スタッフの説明

このとき…技術や知識は、

• 情報を集まりやすくする機能を持ち

• 改善活動の影響範囲についての技術的な判断を可能に

• 技術者同士の円滑なコミュニケーション担保

• 権威受容によってコンフリクトを起こさせずに現場の意思決定前提を変更

42

第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

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順位相関係数もここでの議論と矛盾しない

• 事例の数(=サンプル数)が少ないためスピアマンの順位相関係数を用いて分析

• 5%水準で統計的に有意なのは調整努力についての指標間と、コスト削減効果に対しての調整量という2つ

• 経済効果との関係が一番きれいに出るのは調整量?

第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

43

累積調整範囲 累積調整量 投資額 コスト削減効果

累積調整範囲 1

累積調整量 0.909 * 1

投資額 0.283 0.593 1

コスト削減効果 0.679 0.883 * 0.692 1

N = 7 * p < .05. 事例のスピアマンの順位相関係数(出所:筆者作成)

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5章のまとめと次なる疑問

• 改善活動の既存研究の想定からの逸脱は、時間経過によって小→大、あるいは大→小追加というように変化しうることにより発生

– ダイナミックな視点が必要

– 問題解決の連鎖のどこまでを扱うか

• そのため特殊な組織が調整を行う場合もある

• こうした改善活動の性質を踏まえ組織構造(設計)と改善活動成果の関係を一般化できるか

– 4章・5章の結果がシミュレーションでも再現できるか

44

第5章:改善活動の実態②:トヨタ自動車

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第6章:改善活動と組織 :シミュレーション・アプローチ

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「シンプルセオリー」の理論化のために シミュレーションを利用

• 組織形態(組織構造)と技術変化(としての改善活動)の平均規模には関係がありそう

–若干の経験的・論理的基礎を持つが未発達な知見(Davis et al., 2007)=シンプルセオリーである

• シンプルセオリーを理論化するにはシミュレーションが有効( Davis et al., 2007 ) –論理的に単純化されたモデル構築で論点を整理

–実験が可能なため「とりあえずやってみて」探索的な理論構築が可能

–多様な要素が絡みあう場合、詳細な長期観察に代替

第6章:改善活動と組織:シミュレーション・アプローチ

46

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シミュレーションの前提 • 作業者が0~1、技術者・ライン内スタッフが0~10の一様分布に従う大きさのアイデアを思いつく:作業者・技術者の資源も同様:ライン内スタッフは0~5.5

• 周りで一番アイデアが大きい人に自分のアイデア・資源を託しアイデア実現に必要な資源が集まれば改善活動が発生:作業者2000人技術者200人(ライン内スタッフは両者を50人ずつ減らし100人)

• 資源配置によってA~C社の事例を再現

• ライン内スタッフ設置によって折衷型を再現

• 技術者とライン内スタッフの違いは「作業者からの認知度」のみ(ライン内スタッフが10倍認知)

– 「スモールワールド・ネットワーク」的なネットワーク形態(Watts & Strogatz, 1998)

47

第6章:改善活動と組織:シミュレーション・アプローチ

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作業者の行動モデル

48

開始

自分の周囲のエージェントを認識範囲:作業者1,技術者1,ライン内スタッフ10

周囲にエージェントいない

アイデア>0

周囲に作業者がいる

自分よりアイデアが大きい作業者を認識

当該作業者に資源を委託

自分のアイデアを0~1の伝達率で伝える

資源>アイデア

アイデア分の資源を消費しイノベーションを生成 アイデアは消滅

周囲に技術者・スタッフがいる

自分よりアイデアが大きいエージェントを認識

当該エージェントに資源を委託

自分のアイデアを0~1の伝達率で伝える

アイデア>0かつ資源>0

アイデア 資源

周囲で自分が最大の資源を持っている

資源を全て使用してイノベーションを生成 アイデアは消滅

ランダムな方向に1進む

終了作業者型エージェントの行動原理(出所:筆者作成)

第6章:改善活動と組織:シミュレーション・アプローチ

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技術者とライン内スタッフの行動モデル

49

開始

自分の周囲のエージェントを認識範囲:作業者1,技術者10,ライン内スタッフ10

周囲にエージェントいない

アイデア>0

周囲に作業者がいる

50%の確率で作業者のアイデアを実現またはアイデアを0~1の吸収率で学習

資源>アイデア

アイデア分の資源を消費しイノベーションを生成 アイデアは消滅

周囲に技術者・スタッフがいる

自分よりアイデアが大きいエージェントを認識

当該エージェントに資源を委託

自分のアイデアを0~1の伝達率で伝える

アイデア>0かつ資源>0

アイデア 資源

周囲で自分が最大の資源を持っている

資源を全て使用してイノベーションを生成 アイデアは消滅

ランダムな方向に10進む 一定のルールで現場と本社を移動

終了

当該作業者のアイデア>0

自分の資源>当該アイデア

技術者・ライン内スタッフ型エージェントの行動原理(出所:筆者作成)

• 全く同一

• 違いは作業者からの受け入れられ度合い(視野の広さ)

第6章:改善活動と組織:シミュレーション・アプローチ

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作業者が資源を持つ場合

50

84.08%

12.95%

2.17% 0.31% 0.12% 0.06% 0.00% 0.19% 0.06% 0.00% 0.06% 0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1 1,357

209

35 5 2 1 0 3 1 0 1 0

200

400

600

800

1000

1200

1400

作業者中心型のシミュレーション百分率結果(出所:筆者作成)

作業者中心型のシミュレーション実数結果(出所:筆者作成)

第6章:改善活動と組織:シミュレーション・アプローチ

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技術者が資源を持つ場合

51

32.69%

7.69% 0.00% 1.92% 3.85% 3.85%

0.00% 5.77% 3.85%

9.62%

30.77%

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

技術者主導型のシミュレーション百分率結果(出所:筆者作成)

17 4 0 1 2 2 0 3 2 5 16 0

200

400

600

800

1000

1200

1400

技術者主導型のシミュレーション実数結果(出所:筆者作成)

第6章:改善活動と組織:シミュレーション・アプローチ

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ライン内スタッフ型のネットワークを採用

52

66.46%

10.98% 4.88% 2.44% 0.61% 0.00% 1.22% 1.83% 0.61% 1.83%

9.15%

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

109 18 8 4 1 0 2 3 1 3 15

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

ライン内スタッフ設置型のシミュレーション百分率結果(出所:筆者作成)

ライン内スタッフ設置型のシミュレーション実数結果(出所:筆者作成)

第6章:改善活動と組織:シミュレーション・アプローチ

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標本数 合計 平均 分散

作業者中心型 129 80.65221 0.625211 * 0.000204

技術者中心型 129 2539.412 19.68537 * 21.30673

ライン内スタッフ型 129 771.4718 5.980401 * 0.297683

F (2, 384)= 1731.0 *: p < 0.001

シミュレーション・モデルでも4・5章の議論再現

シード値を物理時間にして乱数を発生させF検定しても同様 無限母集団を仮定した十分なサンプル数:385回以上(誤差5%、信頼度95%、母比率50%)

53

69.23%

21.33%

5.36%1.02% 0.51% 0.31% 0.00% 1.22% 0.46% 0.00% 0.56%

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

5.33% 2.51% 0.00% 1.25% 3.13% 3.76%0.00%

7.52% 5.64%

15.67%

55.17%

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

100%

0% 0%0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

現場リーダー 工場技術者 本社技術者

組織成員種別

資源の配分状況

0% 0%

100%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

現場リーダー 工場技術者 本社技術者

組織成員種別

資源の配分状況

組織成員種別

資源の配分状況

25.23%

8.33% 5.56% 3.70% 1.16% 0.00% 3.24% 5.56%2.08%

6.94%

38.19%

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

0%

25%

75%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

現場リーダー 工場技術者 本社技術者

組織成員種別

資源の配分状況

組織成員種別

資源の配分状況

第6章:改善活動と組織:シミュレーション・アプローチ

シミュレーション・モデルにおける改善活動のインパクト(出所:筆者作成)

シミュレーションの統計分析結果(出所:筆者作成)

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極端な仮定下でライン内スタッフの効果確認

• 感度分析1:ライン内スタッフの資源0

• 感度分析2:作業者中心型にライン内スタッフ

54

平均改善活動規模

作業者中心型 0.628

技術者中心型 19.612

ライン内スタッフ型 6.163

感度分析1 4.218

感度分析2 1.116

全試行において乱数シード値を10に固定

第6章:改善活動と組織:シミュレーション・アプローチ

シミュレーションの感度分析の結果(出所:筆者作成)

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6章のまとめと残された疑問

• 組織構造・組織設計と改善活動成果の関係性はシミュレーション・モデルでも再現された

• 残された疑問…スイッチを押すように資源配置や組織設計を変えるだけで改善活動の平均規模をコントロールできるのか?

• そもそも簡単に変えられるのか?変えたらすぐに効果があるのか?:改善活動の性質変化 – 7章・8章で考察(スライドの区分は“7”)

55

改善活動の規模 改善活動を担う組織

条件1 小規模中心 作業者中心

条件2 大規模中心 技術者中心

条件3 バランス型 技術者・ライン内スタッフ

シミュレーション結果概要(出所:筆者作成)

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第7・8章:改善活動の性質変化とマネジメント

56

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改善活動の組織設計と性質変化が起こっている可能性が高い海外生産拠点に注目 • 海外生産拠点は本社指導⇒自主的改善活動へと変化していく(藤本, 2012; 大木, 2009)

• 同じ企業系列で①改善活動が活性化した拠点と②そうでない拠点を比較してみれば前章最後の疑問に答えられるのではないか?

第7・8章:改善活動の性質変化とマネジメント

この生産拠点に注目 0

50

100

150

200

250

300

品質(最終ライン

手直し数)

生産性(必要作

業時間)

生産リードタイム

(中間在庫量)

フレキシビリティ

(製造品種等)

フレキシビリティ

(生産量)

E社国内生産拠点

E社海外生産拠点

E社海外Z工場

出所:筆者作成

改善活動の規模 改善活動を担う組織

能力構築前 ー 本国からの派遣者中心

能力構築後 小規模中心 現地作業者中心

海外生産拠点への改善活動定着(出所:筆者作成)

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海外派遣者は作業者と技術者をつなぐ調整者

• E社海外生産拠点Y工場 – 作業者にやる気も能力もあって改善提案を行うが会社の目的と一致していない:E社方式が日⇒英⇒現地語翻訳で意味不明

– そのため資源をY工場技術者が持ち、小~大まで改善活動を主導:カイゼンエンジニア職、英語理解可能

• 日本からの派遣者は作業者の改善提案を本社と一致させるのが上手い:実は調整役だった

第7・8章:改善活動の性質変化とマネジメント

E社海外生産子会社Y工場における改善活動(出所:筆者作成)

改善活動の規模 改善活動を担う組織

日本人派遣者不在時 小規模~中規模 現地人技術者中心

日本人派遣者滞在時 小規模中心 日本人派遣者が調整役となり作業者中心

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現場と本社が改善活動の目的を共有し調整不要に

• 海外生産拠点Z工場では①改善活動へのモチベーションが生まれるよう人事制度を整え、②現地人を日本に招きE社方式を理解させ、当該現地人がE社方式を現地語訳するという2段階

• 「何が会社にとって良い改善か」の理解促進 – ここはトップダウンのコミュニケーション – 以後はこの現地人が社長へ:日本からの派遣は減少

第7・8章:改善活動の性質変化とマネジメント

59

改善活動の規模 改善活動を担う組織

H社長改革前 小規模~中規模 日本人派遣者が調整役

H社長改革後 小規模~中規模 作業者中心・一部技術者による補助

E社海外生産子会社Z工場における改善活動の性質変化(出所:筆者作成)

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資源配分変化には実際は経営努力必要

• 資源配分だけでは改善活動の性質変化は望めない:資源を作業者に闇雲に使用される

• そのため…経営目標の共有がトップダウン的になされる必要がある

• それでは…ライン内スタッフ制の採用はどうか?組織図を変えればよいのか?

60

第7・8章:改善活動の性質変化とマネジメント

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技術員室が廃止・存続している企業を比較

• 技術員室を廃止してしまったA社とトヨタ自動車に聞き込み調査&70歳代元トヨタ自動車技術員室所属者のオーラルヒストリー

• A社:技術員室という組織が2010年まで存在 – 構成員は基本的に高卒の技能員出身者のうち改善の能力に優れた者を現場から引き抜いてきた

• トヨタ自動車:技術員室がライン内スタッフとして現在も改善活動の補佐をおこなう – 2社の比較から若干の考察が可能かもしれない

• ライン内スタッフ:部門「内」と部門「外」とを同様に調整する専門スタッフ

61

第7・8章:改善活動の性質変化とマネジメント

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M元副社長・自動車事業部長談

• 一般的には、技術員室を持つかどうかは、生産準備の頻度、規模、技術レベルと生産技術部のパワーとのバランスをどう考えるかで決まります。技術員室が出来ると生技は現場を見なくなります。生技は将来を見て、現在は現場に任せろという考えがあります。新車の生産準備と生産技術開発的な仕事に専念するということです。これだと現場を知らない技術者ができてしまいます。トヨタの様に沢山の車種を抱え、次から次へと新車生準が続く会社は、技術員室が必要です。(A社自動車工場)も生準が立て込んだ時には有効でしょうが、そうでもない時は、生産技術と技術員室は同じ様なダブり仕事をするか、本当に現場は製造に任せて、生技開発に専念することになるのでしょうが、事業部の生技でできる開発のネタはそうはありません。結局は技術員室はダブった組織となるのでしょう。(A社自動車工場)も(車種1)のフルモデルチェンジ、(建屋)でも(車種1)生産、(車種2)のマイナーチェンジと2010までが大変な年だったのかも知れません。(A社自動車工場)に技術員室を作るかどうかは、昔から上記の様な議論があります。最近は「コラボ」で対応している様にも見えます。

62

第7・8章:改善活動の性質変化とマネジメント

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現場と経営層からの必要性の認識が基礎

• 生産車種が多い、マイナーチェンジ・メジャーチェンジが頻繁だと調整の必要性が増加するためライン内スタッフの必要性が高まる

• 工場の数や本社と工場との距離などの企業の物理的な条件もライン内スタッフの必要性を高める場合がある

• ライン内スタッフの構成員の質によっても当該組織の必要性の認識は変化する

• ライン内スタッフは、作業者からみた必要性または経営層からみた必要性、一定の水準を下回ると、経営トップ層によって廃止されてしまう

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第7・8章:改善活動の性質変化とマネジメント

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ライン内スタッフ一人一人が現場の役に立つよう 努力しないと成り立たない?

• A社「上から目線でパソコンばかり見ていて役に立たない」 – 工場技術員の役割は組長や工長に吸収⇒数十万円規模の設備改善であれば現場で完結

– 多額の投資が必要となる改善活動はプロジェクトチームに生産技術部門や設計部門が参加することで実現

– A社の工場は一か所で生産技術部門と設計部門が隣接 • 今後生産拠点が増え組織的・物理的な距離が広がると、プロジェクチームによる調整は難しくなる?

• トヨタ自動車「ただひとつ心しとけ。お前はヒモなんだ」「現場でみんなが汗を流して仕事してる。その汗の一滴でも二滴でも減らすことを考えろ」

• 大卒・高卒の差と物理的な問題などで現場からの必要性の認識に差が出る?⇒常に信頼される必要

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第7・8章:改善活動の性質変化とマネジメント

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7・8章のまとめ

• 改善活動の性質変化は容易に可能なものではない

• 資源配置の変化を有効な改善活動につなげるには事前に組織目標を全階層で共有する必要がある

• ライン内スタッフ組織が定着するには①生産現場にライン内スタッフへの需要があること、②ライン内スタッフ一人一人が努力することの2つが必要

• つまり…「どの規模の改善活動に注力するか?」「ど

のような組織を用いるか?」という一種の生産・組織戦略には移動障壁あり

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第7・8章:改善活動の性質変化とマネジメント

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第9章:ディスカッションと結論

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改善活動成果の実態には小規模中心・ 大規模中心・バランス型が存在

67 分析枠組みを用いた比較(出所:筆者作成)

規模

貢献度(発生数・利益など)

小規模中心

規模

貢献度(発生数・利益など)

バランス型

規模

貢献度(発生数・利益など)

大規模中心

第9章:ディスカッションと結論

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改善活動は既存研究の想定から逸脱する 場合があり調整問題が生じることがある

• 工場の改善活動を経営組織論・イノベーション論から分析 – その実態によっては改善活動をめぐる調整問題という研究課題を提示できると指摘

• 既存研究の想定する改善活動はステークホルダー間の全社レベルでの調整はあまり問題とされてこなかった

• こうした既存研究の見解は、改善活動をステレオタイプ的に定義ないし想定してしまっているがゆえに生じたものである可能性があった – そのため、調整問題が本当に必要ないのかについては、改善活動の実態把握をおこなわないと分からない

• 結果…改善活動は既存研究の想定と完全に一致するわけではなかった

• その逸脱部分ゆえに組織設計が影響する可能性があった

第9章:ディスカッションと結論

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どのような改善活動成果が中心となるかには組織決定論的な側面あり

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改善活動の始端    組織構造    実現された改善活動

写像       写像

規模

貢献度

小規模中心

大規模中心

バランス型

日本の自動車産業:①作業者の小集団的な改善活動をおこなう場合②技術者が改善活動を主導する場合③両者をつなぐ中間的な組織としてライン内スタッフが存在する場合

第9章:ディスカッションと結論

改善活動の組織決定論(出所:筆者作成)

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「工場」の改善活動には「全社」的組織設計必要

• 改善活動をめぐる調整問題は2パターン: – 組織階層の上下でのタテ方向の調整問題 – 異なる機能部等間でのヨコ方向の調整問題

• 調整機構としてどのような組織構造を用いて改善活動をおこなうのかという視点(=組織設計の視点)が必要

• このとき…権限(広義の資源)の配分と組織成員のネットワーク形態(Watts & Strogatz, 1998)が変化すると、組織が生み出す改善活動の規模も変化

• ただし、組織構造の変化には、上記組織が受け入れられる土台を作るための全社的なマネジメントが必要

• 工場の改善活動は、生産現場で完結する問題解決に終始するわけではなく、全社的な意思決定と経営努力を必要とする余地がある

• これ自体新たな組織形態(組織構造)を模索するイノベーティブな活動

第9章:ディスカッションと結論

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