トウモロコシサイレージ等の収穫・調製・給与技術もph は4...

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トウモロコシサイレージ等の収穫・調製・給与技術 (独)農研機構 北海道農業研究センター 酪農研究領域 上席研究員 大下 友子 1.はじめに 2007-2008 年に高騰した輸入穀物価格はいったん低下したものの、この春より再び上昇 に転じ、米国の干ばつによる生産量減が報じられた 7 月以降はシカゴ相場では過去最高の 価格を記録した。このため、わが国の畜産経営に対する影響は 2008 年度以上に大きいので はと懸念されている。輸入穀物価格が今後どのように推移するかは不透明であるが、輸入 穀物を安価でかつ安定的に入手するのは、かなり困難と予想される。このため、わが国の 畜産を今後も持続的に発展させていくには、現在、海外依存割合の高い輸入濃厚飼料の代 替となる自給飼料の生産体制を作り上げる必要がある。輸入穀物への依存度を減らす方策 としては、自給粗飼料の品質を高めることや輸入穀物の代替となる濃厚飼料資源を自給生 産することが有効と考えられる。 C4 植物である(飼料用)とうもろこしは、ホールクロップ、子実のいずれにおいても圃 場生産性が高く、その効率的活用は購入飼料費の削減につながると期待され、道内では栽 培面積が 4 8 ha まで回復した。道内で飼料用とうもろこし利用が改めて見直された理 由としては、大型機械+バンカーサイロの大量調製貯蔵技術、細断型ロールベーラを利用 した省力的調製技術や再梱包技術の普及が進みつつあること、収穫調製作業をコントラク ター等の外部支援組織が担う体制が整いつつあること、今まで栽培できないとされてきた 地域向けの極早生品種が開発されたこと等があげられる。今回は、飼料用とうもろこしを ホールクロップサイレージとして利用することの有利性と、利点を活かすべく利用の際の 留意点を整理するとともに、トウモロコシの新たな利用方法の1つである雌穂(イアコー ン)サイレージの生産利用技術について TMR センターにおける事例を含めて紹介する。 2.飼料用トウモロコシ利用の有利性 飼料用とうもろこし利用の最 大のメリットは、圃場面積あた りの収量が高いことと、調製し たサイレージは乳牛の嗜好性が 高い飼料であることにある。表 1 を見ると、トウモロコシサイ レージを多給利用した場合には、 圃場面積あたりの乳生産量が最 も高いことがわかる。すなわち、 限られた飼料畑面積でより多く の乳牛を飼養しようとするので あれば、粗飼料としてトウモロ コシホールクロップサイレージ 表1 トウモロコシサイレージ利用時の圃場面積あたり 飼養可能頭数と産乳可能量 GS+CS CS多給 収量 (ton/haトウモロコシ 14.65 14.65 混播牧草 9.04 チモシー 7.45 1頭あたり必要なほ場面積 (haトウモロコシサイレージ 0.18 0.45 牧草サイレージ 0.53 乾草 0.06 ほ場面積あたり飼養可能頭数 (頭/ha1.41 1.96 ほ場面積あたり産乳可能量 (kg/ha/年) 20,740 27,829 乳代 (万円/ha153.1 205.4 総飼料費 (万円/ha) 49.8 74.3 ほ場面積あたり飼料費差し引き乳代(万円/ha103.3 131.1 1

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トウモロコシサイレージ等の収穫・調製・給与技術

(独)農研機構 北海道農業研究センター

酪農研究領域 上席研究員

大下 友子

1.はじめに

2007-2008 年に高騰した輸入穀物価格はいったん低下したものの、この春より再び上昇

に転じ、米国の干ばつによる生産量減が報じられた 7 月以降はシカゴ相場では過去 高の

価格を記録した。このため、わが国の畜産経営に対する影響は 2008 年度以上に大きいので

はと懸念されている。輸入穀物価格が今後どのように推移するかは不透明であるが、輸入

穀物を安価でかつ安定的に入手するのは、かなり困難と予想される。このため、わが国の

畜産を今後も持続的に発展させていくには、現在、海外依存割合の高い輸入濃厚飼料の代

替となる自給飼料の生産体制を作り上げる必要がある。輸入穀物への依存度を減らす方策

としては、自給粗飼料の品質を高めることや輸入穀物の代替となる濃厚飼料資源を自給生

産することが有効と考えられる。

C4 植物である(飼料用)とうもろこしは、ホールクロップ、子実のいずれにおいても圃

場生産性が高く、その効率的活用は購入飼料費の削減につながると期待され、道内では栽

培面積が 4 万 8 千 ha まで回復した。道内で飼料用とうもろこし利用が改めて見直された理

由としては、大型機械+バンカーサイロの大量調製貯蔵技術、細断型ロールベーラを利用

した省力的調製技術や再梱包技術の普及が進みつつあること、収穫調製作業をコントラク

ター等の外部支援組織が担う体制が整いつつあること、今まで栽培できないとされてきた

地域向けの極早生品種が開発されたこと等があげられる。今回は、飼料用とうもろこしを

ホールクロップサイレージとして利用することの有利性と、利点を活かすべく利用の際の

留意点を整理するとともに、トウモロコシの新たな利用方法の1つである雌穂(イアコー

ン)サイレージの生産利用技術について TMR センターにおける事例を含めて紹介する。

2.飼料用トウモロコシ利用の有利性

飼料用とうもろこし利用の

大のメリットは、圃場面積あた

りの収量が高いことと、調製し

たサイレージは乳牛の嗜好性が

高い飼料であることにある。表

1 を見ると、トウモロコシサイ

レージを多給利用した場合には、

圃場面積あたりの乳生産量が

も高いことがわかる。すなわち、

限られた飼料畑面積でより多く

の乳牛を飼養しようとするので

あれば、粗飼料としてトウモロ

コシホールクロップサイレージ

表1 トウモロコシサイレージ利用時の圃場面積あたり飼養可能頭数と産乳可能量

GS+CS CS多給

収量 (ton/ha)

トウモロコシ 14.65 14.65

混播牧草 9.04

チモシー 7.45

1頭あたり必要なほ場面積 (ha)

トウモロコシサイレージ 0.18 0.45

牧草サイレージ 0.53

乾草 0.06

ほ場面積あたり飼養可能頭数 (頭/ha) 1.41 1.96

ほ場面積あたり産乳可能量 (kg/ha/年) 20,740 27,829

乳代 (万円/ha) 153.1 205.4

総飼料費 (万円/ha) 49.8 74.3

ほ場面積あたり飼料費差し引き乳代(万円/ha) 103.3 131.1

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の利用が も有効な方策と言える。

次に栄養的なメリットを見ると、いつ収穫しても良質なサイレージが調製しやすいこと、

糊熟期以降の栄養価がほとんど変わらないこと、給与面に関しては、牧草サイレージより

も栄養価が高いことや乳牛の嗜好性が高いこと等があげられる。表 2 に収穫時期別トウモ

ロコシサイレージの発酵品質を示したが、雌穗がほとんど登熟していない時期に収穫して

も pH は 4 以下で、いずれの時期の収穫でも V スコアは良の 80 点以上となっている。

栄養成分の推移を見る

と、糊熟期以降はほとんど

変わらず、65%程度の TDN

含量が期待でき、収穫適期

を過ぎると著しく栄養価が

低下するイネ科牧草類のサ

イレージに比べ、高い栄養

価を維持する期間が長いと

言える(表 3)。しかしなが

ら、乾物率が低いものほど、

より多くの排汁が発生する

ことから、未熟なトウモロ

コシでは、詰め込み量の

1割以上が排汁として流

出してしまい、乾物回収

率は黄熟後期を 100 とす

ると乳熟期から黄熟初期

までの乾物回収率は約 1

割減少してしまう(図 1)。

養分回収率を見ると、粗

タンパク質では黄熟後期

を 100 とした場合、乳熟

期で 73、糊熟期で 84、完熟期で 95 となり、また、可消化養分(TDN)含量は黄熟後

期を 100 とすれば、乳熟期で 78、糊熟期で 85、完熟期で 92 となる。このように、乾

表2.収穫時期別ホールクロップサイレージの発酵品質収穫時期 ⽔分 (%) pH VBN/TN VFA(新鮮物%) 乳酸(新鮮物中%) Vスコア⽔熟期 85.6 3.72 11.05 0.31 1.57 84乳熟期 83.2 3.6 7.28 0.37 1.53 93糊熟期 79.6 3.73 5.43 0.62 1.27 89

⻩熟初期 75.2 3.71 4.43 0.64 1.48 90⻩熟後期 68.6 3.85 4.87 0.68 1.38 95

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物で 1 割程度の損失であ

っても、消化性の高い成

分の損失が多いため、可

消化養分の損失は 2-3 割

にも達することになる

(図 2)。

表4には、収穫時期別の

トウモロコシサイレージの

乳生産性を示した。また、

表5には、乾物率の高いサ

イレージが低いサイレー

ジよりも、泌乳牛の採食

性が高く、濃厚飼料給与

量を低減できることを示

した(大下ら 2007)。

原物収量(がさ)が欲し

いとの理由から原物収量

が少ない早生品種よりも

登熟の遅い中生あるいは

晩生タイプの品種を選ぶ

場合もあるかと思うが、

栽培する地域で黄熟中後期

まで登熟する品種を選ぶこ

とがトータルなサイレー

ジ生産性の観点からも、

また泌乳牛の採食性から

も有利と言える(表5)。

また、先の表1に示した

試験では、トウモロコシ

サイレージを組み入れた

粗飼料の泌乳牛における

乾物採食量は約14kgであ

り、牧草サイレージ(出

穂期刈りチモシー1番草

主体)のみを粗飼料源と

した場合よりも粗飼料摂

取量が約3kg高かった。

牧草サイレージととうもろこしサイレージを粗飼料源とした給与試験データを基に

して購入飼料費が安価であった2001年と価格が高騰した2008年における試算結果(大

塚 2010)を図3に示した。これを見ると、いずれの時期においても、とうもろこしサ

3

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イレージの多給利用は収益性が高いことがわかるが、併せて牧草サイレージの品質改

善を行うことが一層の飼料費の節減につながることが伺える。

3.ホールクロップサイレージの収穫調製給与技術上の留意点

飼料用トウモロコシは圃場面積あたりの乳生産性が も高い作物であり、収穫時期は雌

穂にでんぷんが蓄積する黄熟中後期が適期であることを示してきた。一方で、収益性を確

保するためには、収穫・調製時および給与の面でいくつか留意すべき点がある。以下に、

留意すべきことがらを整理する。

1)収穫・調製時の留意点

飼料用トウモロコシの収穫時期に台風や強

風によって倒伏してしまうケースがある。

また、根腐れ病等による収穫適期を待たず

に茎葉が早い時期に枯れ上がる被害も報告

されており、これらの対応策が求められて

いる。近年、TMR センターやコントラクタ

ー組織では、ロータリーヘッド付きの自走

式フォレージハーベスタ(写真1)の導入

が進んでいるが、本機は台風等で倒伏した

原材料も収穫でき、また、収穫能率が高い

ことから、収穫した原材料を圃場より

トラックで大型バンカーサイロやスタ

ックサイロに輸送し、ショベルやローダーで鎮圧作業を行う作業体系でトウモロコシサイ

レージの効率的な大量調製貯蔵を可能とした。一方で、収量を追求するあまり地際ぎりぎ

りから収穫すると土砂が混入し、サイレージの品質が劣化する危険性が高くなる。また、

作業性を優先するあまり、踏圧が不完全な場合は、開封後に好気的変敗が発生する危険性

が高くなる。特に、バンカーサイロ等の水平型サイロでは、詰め込み密度が低くなると、

写真 1. ロータリーヘッド付き自走式フォレージハーベスタ

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開封後の好気的変敗が起こるリスクが高まることが知られている。図 4 に示したように、

密度が低い部位ほどサイレージの品温

が高く、密度が低くなりやすい壁面付

近の踏圧を十分に行うことが変敗防止

の第一歩である。また、密度を高める

ためには、切断長を短くすることが有

効であり(図 5)、破砕処理装置(クラ

ッシャー)利用時の切断長は、破砕処

理なしのハーベスタで推奨されている

9mm の切断長よりも長い 16-19mm が

適当とされている(谷川ら 2008)。

調製時の変敗防止対策の一つとして

はサイレージ添加剤の利用がある。近

年の研究から、ヘテロ型発酵型乳酸菌

の変敗防止効果が明らかになっている

(表 6)。

ただし、先に述べたように、踏圧を

きちんと行うことや十分な取り出し量

を確保することが重要であることは言

うまでもない。

開封後の変敗対策の一つとして、近

年注目されているのが、細断型ロール

ベーラによって再梱包することであり、

サイレージの好気的変敗を予防するこ

ともできる。気温の上昇とともに、サ

イロ内のとうもろこしサイレージは変

敗しやすくなる。そこで、バンカーや

スタックサイロで貯蔵したものを細断

型ロールベーラで再梱包することで、

取り出し量を増やし、変敗による廃棄

量を減らすことができる。再梱包によ

って、有機酸の生成量が増加すること

が確認されており、ロールベールのラ

ップフィルムに傷がつかなければ、長

期貯蔵も可能であり、変敗防止の一つの対策と言える。

2)給与上の留意点

トウモロコシホールクロップサイレージは、他の粗飼料である牧草サイレージや牧乾草

に比べ、飼料粒度が細かく、ミネラル含量が少なく、サイレージの PH も低いことから、

大量に摂取した場合にルーメンアシドーシス等の代謝障害の発生が懸念される。これらの

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対策としては、わが国では、牧

乾草を体重の 0.5%程度併給す

ることや破砕処理等が有効と報

告されている。また、トウモロ

コシサイレージが主要な粗飼料

源である米国では、TMR やトウ

モロコシサイレージの粒度分布

の推奨値が公表されている(表

7)。トウモロコシサイレージ給

与する際は、茎葉や芯の残飼を

少なくし、飼料設計通りに繊維

を摂取させることが重要と考え

られる。

一方、乾乳牛にトウモロコシサイレージを給与する場合は、栄養濃度のコントロール

が必要であり、特にサイレージ主体飼料を飽食給与した場合に、とうもろこしサイレ

ージを混合給与すると分娩後にケトーシスの危険性が高まることが指摘されている

(図 6)。ただし、乾乳後期にとうもろこしサイレージを利用しても、トラブルなく

移行期を乗り切っているケースも多いことから、ケトーシス発生とトウモロコシホー

ルクロップサイレージの化学

性や繊維の消化性や物理性等

の関係を今後明らかにする必

要がある。いずれにせよ、分

娩後のケトーシスを避け、泌

乳期のとうもろこしサイレー

ジ多給につなげていくための

乾乳期におけるとうもろこし

サイレージならし給与時は、

栄養濃度の低い牧乾草と組み

合わせて、過肥にならないよ

うにすることが重要である。

以上のように、酪農経営では自給粗飼料の品質を高めることが、コスト低減に対して

も有効であると言える。このためには、圃場面積あたりの粗飼料の栄養収量を高める技術

開発の重要性は依然として高い。一方で、現在の乳生産性を低下させずに、飼料自給率を

高めるには濃厚飼料資源の確保も不可欠である。道内では濃厚飼料を自給生産するために

トウモロコシ雌穂利用に着目した技術開発に取り組んでいるので、その成果の一部を紹介

する。

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4.自給濃厚飼料としてのトウモロコシ雌穂(イアコーン)サイレージの生産利用技術

1)海外でのイアコーンサイレージの利用状況

先に述べたように飼料用トウモロコシは C4 植物で生産性は高く、圃場面積あたりの

穀実収量も C3 植物であるイネ、ムギに比べ高い。このため、欧米では HMEC や CCM

等の略称で呼ばれ(表 8)、自給濃厚飼料資源として古くから利用されてきた。海外

での雌穂収穫の方法としては、大まかに分けて、コンバインで子実のみ(一部、芯を

含む)を収穫する方法と自走式フォレージハーベスタを利用する方法がある。コンバ

イン収穫したものは、乾

燥穀実あるいはバンカー

サイロやタワーサイロあ

るいは簡易なスティール

サイロに貯蔵し、自家産

の濃厚飼料として、泌乳

牛のみならず、肉用牛お

よび鶏豚の中小家畜にも

利用されている。一方、ハーベスタ収穫の場合、子実のみならず、芯と一部の穂皮お

よび若干の茎葉を含み、コンバイン収穫のものよりも、繊維含量が高く、栄養価も低

い(表 8)。ハーベスタで収穫したイアコーンサイレージはイアレージとして分類さ

れている。

2)イアコーンサイレージ収穫・調製の機械化体系

わが国でのトウモロコシ雌穂に関する研究は 70 年代後半に一時行われたものの、収

穫の作業効率が低かったことや輸入穀類に比べコストが高かったため、当時は実用化

までに至らなかった。しかしながら、海外の事例から、雌穂収穫専用のコーンヘッダ

表8 海外におけるイアコーンサイレージの名称と乾物率と栄養価1)

名称 利⽤部位 乾物率 (DM)(%)

栄養価 (TDN)(DM中%)

HMSC (High moisture shelled corn) ⼦実 71.8 91.5

HMEC (High moisture ear corn),CCM (Corn cob mix) 2) 芯+⼦実 67.1 86.6

Snaplage (Earlage) 芯+⼦実+外⽪ 60-70 74.0 - 83.01)コンバイン収穫のHMSCとHMEC(CCM)の値はNRC(2001)より、ハーベスタ収穫のSaplage

の値はNorth Dakota State University Extension Service(2010)より引⽤2)CCMは、HMECのヨーロッパにおける⼀般名称

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であるイアスナッパヘッドがあれば、近年、TMR センター等を中心に導入されている

自走式フォレージハーベスタと細断型ロールベーラを組み合わせることによって、実

用的な作業能率でイアコーン収穫とサイレージ調製ができる可能性があると考え、そ

の作業性について検証を行った。その結果、ホールクロップサイレージ並の作業体系

(図 7)と作業能率で収穫できることが明らかとなった(表 9)。

表9 収穫作業能率と損失率 (大津ら2012)

3)イアコーンサイレージの飼料価値

表 10 に同一圃場の飼料用トウモロコシから生産したホールクロップサイレージとイア

コーンサイレージの成分組成と発酵品質を示した。イアコーンサイレージはホールクロッ

プサイレージに比べ、乾物率とでんぷん含量が高く、TDN 含量でも約 12 ポイント高く、

濃厚飼料としての利用が十分可能と考えられた(表 10)。また、保存性について検討した

結果、ホールクロップサイレージと機械収穫したイアコーンの粒度は細いものの、細断型

ロールベーラで密封梱包でき、

梱包密度はホールクロップの

約 2 倍で、乳酸とエタノール

を含み良好な発酵品質で、約1

年間保存できることを確認した。

ただし、貯蔵時のネズミ等によ

るラップフィルムの破損には十

分注意が必要である。道内で過

去 3 年間に生産されたイアコー

ンサイレージの平均乾物率は

60.6%、乾物中のでんぷん含量

は 55.1%、TDN 含量は 79.6%で

あり、飼料成分、栄養価から濃

厚飼料として十分利用可能であ

ると言える。

サイレージ作   業 収  穫1) 梱包密封2) 収  穫3) 梱包密封2)

自走式ハーベスタ バケットローダー 自走式ハーベスタ バケットローダー+スナッパヘッド +ロータリーヘッド

作業体系 細断型ロールベーラ 細断型ロールベーラダンプトラック ダンプトラック

ハンドラ ハンドラ作業人数 人 3 3 3 3圃場作業効率 % 84 97 83 96圃場作業量 ha/h 1.5 1.2 1.1 0.41)作業幅4.57m。ハーベスタの設定切断長5mm,破砕装置間隙2mm。2)呼び径1000mm×1000mm。巻き数は3回6層。3)作業幅4.5m。ハーベスタの設定切断長19mm,破砕装置間隙2mm。

イアコーンサイレージ ホールクロップサイレージ

ホールクロップ イアコーン イアコーン(道内平均)

粒度(8mm以下の割合%) 30.2 56.3梱包密度(kgDM/m3) 190 403飼料成分 乾物(%) 31.8 56.1 60.6 粗タンパク質 (%DM) 7.1 7.1 7.8 NDF(%DM) 41.1 24.8 24.1 でんぷん(%DM) 28.6 53.5 55.1発酵品質 pH 3.71 3.82 4.00 VBN/TN(%) 5.10 5.40 4.43 乳酸(%FM) 1.61 1.11 1.02 酢酸 (%FM) 0.32 0.33 0.24 エタノール(%FM) 0.50 0.42 0.43 Vスコア 99 98 99栄養価(TDN含量%DM)3) 65.4 77.7 79.61)同一圃場、同一時期に生産(供試品種:RM90日、栽植密度:8400本/10a)

3)TDN含量は去勢ヒツジを供し、全糞採取法で査定

2)ホールクロップサイレージは調製後半年で、イアコーンサイレージは調製後10~12ヶ月で開封し分析に供した。

表10.北海道内で生産されたイアコーンサイレージの成分組

成と発酵品質

8

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イアコーンサイレージに対する乳肉用牛の嗜好性は大変良く、泌乳牛に対しては、トウ

モロコシサイレージ給与時に 2.4kgDM、牧草サイレージ給与時に 3.3kgDM、放牧時に

5.4kgDM を圧片輸入圧片トウモロコシの代替として給与しても、乳量、乳成分および血液

性状に差は認められなかった(表 11)。イアコーンサイレージを利用することで、飼料自

給率を 10 ポイント以上向上でき、特に、乳量が 26kg/日程度であれば、集約放牧とイアコ

ーンを組み合わせることで飼料自給率 100%の達成も可能と言える。

4)イアコーンサイレージの生産コスト

道内でイアコーンサイレージの生産利用に取り組む TMR センター(作付け面積 27ha)

の生産コスト(2010 年実績)

は 37,454 円/10a であった。一

方、イアコーン(原物)収量

は 1,442kg/10a でサイレージ

の TDN 含量が 79.1%であっ

たことから TDN 収量は

736kg/10a となった。これらの

数値を元に、イアコーンサイ

レージの生産コストを計算す

るとTDN1kgあたり 51円/kg

となった(図 8)。これは、2012

年 3 月時点の圧片トウモロコ

シ価格並みであることを示し

ている。本 TMR センターで

は、ハーベスタおよびロールベーラは既存の機械を利用し、スナッパヘッドは、所有業者

から借用しているので、スナッパヘッド(定価:1,200 万円/台)を新規導入した場合では

TDN1kg あたり約 9 円(原物 1kg あたりでは 4~5 円)のコスト上昇が見込まれる(償却期

間:7 年)。ただし、この費用は収穫面積によっても左右され、圧縮できる可能性は十分に

ある。また、生産コストを大きく左右するのは、単位面積あたりの圃場収量であり、図 9

には十勝地域で品種と収穫時期による収量の影響を調査した結果を示した。イアコーンサ

イレージの収量は黄熟後期(ホールクロップサイレージの収穫適期)よりも 1~2 週間後の

試験概要(頭数、分娩後⽇数、開始時体重)1

験処理 (圧⽚給与量kgDM, ECS給与量kgDM 圧⽚区(1.9, 0) ECS区(0, 2.4) 圧⽚区(2.4, 0) ECS区(0, 3.3) 圧⽚区(3.4, 0) ECS区(0, 5.4)

併給飼料1)

総乾物摂取量 (kg) 23.4 23.4 22.4 22.2 21.5 22.9体重変化量 (kg) +3.0 +2.0 +9.0 +1.7 +13.9 +14.0

乳量 (kg) 32.7 34.0 32.2 32.1 26.1 26.0 乳脂率 (%) 3.85 3.61 4.36 4.25 3.92 4.01 乳タンパク率 (%) 3.25 3.22 3.30 3.17 3.14 3.11

⾎液性状 BUN (mg/dL) 12.9 11.3 13.7 13.5 17.2 17.3 Glu (mg/dL) 75.2 74.7 69.2 67.1 67.1 65.0 NEFA (mg/dL) 213 218 139 120 138 1221) CS;トウモロコシサイレージ、 GS;グラスサイレージ、 圧⽚;圧⽚トウモロコシ、 ECS;イアコーンサイレージ、 conc;配合飼料、 SBM;⼤⾖粕

CS+GS+conc+SBM GS+conc+SBM 放牧草+GSのみ

舎飼 CSベース(n=6, 109⽇, 630kg) 舎飼 GSベース(n=6, 129⽇, 647kg) 放牧 GSベース(n=8, 150⽇, 581kg)

表 11 イアコーンサイレージ給与泌乳牛の飼料摂取量、乳生産性および血液性状

9

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完熟期(雌穂乾物率は

55%以上)が も高く、

イアコーン向けの雌穂

登熟の早い品種を選べ

ば 1,000 kgDM/10a 以

上の収量を確保するこ

とが可能であることを

示している。また、栽

植密度を 7,500 本/10a

(ホールクロップ向

け)から 9,000 本/10a

に 高 め 、 追 肥 量 を

2kg/10a 増肥すること

で、雌穂乾物収量を現

在の 1.1 倍以上に高められることが道総研畜産試験場の試験で明らかにされている。仮に

乾物収量が 900kg から 1,000kg/10a になったとすると TDN1kg あたり約 6 円コストが低下

すると試算され、収量確保がコスト削減に果たす効果が高いことがわかる。

5)イアコーンサイレージの自給濃厚飼料資源として定着させるには?

以上、トウモロコシ雌穂のみを収穫しサイレージ調製するため機械化体系を示し、また、

生産したイアコーンサイレージが自給濃厚飼料として十分利用でき、その生産コストは現

在の圧片トウモロコシ価格並みであることを示した。

今後、わが国で耕地の効率的利用を図りつつ、濃厚飼料資源を自給生産していくために

は、畑作農家で生産し畜産農家で利用するといった耕畜連携の体系作りが不可欠である。

そのためには、連携コーディネータを育成するとともに、ヨーロッパで定着しているよう

に飼料用のトウモロコシ生産を組み入れた新たな畑輪作体系を組み立てる必要がある。ま

た、イアコーンサイレージを酪農家が利用する際には、組み合わせ給与する牧草サイレー

ジ等粗飼料の品質を高める工夫をすればより一層の飼料費削減が可能と考えられる。

5.参考文献

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