青果物収穫後のロス削減につながる 最新の研究事例...

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149 食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 3 ⧻シリーズ解説⧻ わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策 ●1.はじめに● 日本国内の青果物輸送をとりまく環境は,コー ルドチェーンの発達や道路環境の整備,輸送トラ ックの改良などにより,以前と比較して大幅に改 善されている。それでも,野菜や果物といった青 果物の輸送中におけるロス(減耗)率は,1割以 上に達すると推計されている(例えば,平成25 年度の野菜および果実の減耗率は,それぞれ10% と17% である 1) )。また,我が国は農産物の輸出 額を2020年までに1兆円規模に拡大することを 目標に掲げており 2) ,この流れに従えば,既にタ イ,台湾および香港などのアジア圏で人気の高い 日本産青果物のさらなる輸出拡大も想定されるが, それらの地域を含め,海外においては日本国内よ りも流通環境が劣ることが多い。これらの背景を 踏まえると,輸送先が日本国内であれ海外であれ, 青果物の輸送中におけるロスを削減するためには, 今まで以上の対策が不可欠である。 青果物の輸送中におけるロスの原因は,外観や 食味など変化に代表される生理的要因によるもの と,衝撃や振動による機械的損傷に代表される物 理的要因によるものに大別される。そのため,収 穫後におけるロス削減のためには,双方の要因を 制御する必要がある。本稿では,筆者らが携わっ た,生理的要因および物理的要因の制御により青 果物収穫後のロス削減を目指した最新の研究事例 を2つ紹介する。 ●2.カラーピーマンの収穫後に おける着色に関する研究● カラーピーマンは,完熟した大型の果実を使用 するピーマンの一種で,ジャンボピーマンあるい はパプリカとも呼ばれる。赤や黄,オレンジなど の色がミックスサラダや炒 いた め物などのアクセント に使われるため,外食や惣 そうざい 菜産業では一定の需要 がある。カラーピーマンの国内生産量は3,789 t 3) ,輸入量は32,893 t である 4) 。したがって, 国内流通量に占める国産品の割合はわずかに1割 程度である。カラーピーマンの9割は,韓国,オ ランダ,ニュージーランド等から輸入されている のが現状である。カラーピーマンの消費量は,輸 入統計でジャンボピーマンの項目が加えられた 2000年以降,国内生産も含めて12年間で約5倍 に増えている。また,外食や惣菜産業では,カラ ーピーマン以外の野菜はほぼ国内から調達するこ とが可能なため,国産の信頼性を求める消費者の 意向を反映して,カラーピーマンの国内生産量の 増加が強く望まれている。 カラーピーマンの栄養成分は,野菜の中でも優 青果物収穫後のロス削減につながる 最新の研究事例 きたざわ・ひろあき 鳥取大学大学院連合農学研究 科および神戸大学大学院海事 科学研究科修了。(独)農研機 構食品総合研究所任期付研究 員などを経て,現在,国立研 究開発法人農研機構食品総合 研究所主任研究員。 博士(農学),博士(工学) 北 澤 裕 明 た・ 名古屋大学農学部博士課程 前期課程および岐阜大学連 合大学院農学研究科修了。 (独)農研機構野菜茶業研 究所を経て,現在,国立研 究開発法人農研機構食品総 合研究所上席研究員。 博士(農学) 永 田 雅 靖  ⧻シリーズ解説⧻ わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策 第10回

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149食品と容器 2016 VOL. 57 NO. 3

⧻シリーズ解説⧻ わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策

●1.はじめに●日本国内の青果物輸送をとりまく環境は,コー

ルドチェーンの発達や道路環境の整備,輸送トラックの改良などにより,以前と比較して大幅に改善されている。それでも,野菜や果物といった青果物の輸送中におけるロス(減耗)率は,1割以上に達すると推計されている(例えば,平成25年度の野菜および果実の減耗率は,それぞれ10%と17% である1))。また,我が国は農産物の輸出額を2020年までに1兆円規模に拡大することを目標に掲げており2),この流れに従えば,既にタイ,台湾および香港などのアジア圏で人気の高い日本産青果物のさらなる輸出拡大も想定されるが,それらの地域を含め,海外においては日本国内よりも流通環境が劣ることが多い。これらの背景を踏まえると,輸送先が日本国内であれ海外であれ,青果物の輸送中におけるロスを削減するためには,今まで以上の対策が不可欠である。

青果物の輸送中におけるロスの原因は,外観や食味など変化に代表される生理的要因によるものと,衝撃や振動による機械的損傷に代表される物理的要因によるものに大別される。そのため,収穫後におけるロス削減のためには,双方の要因を制御する必要がある。本稿では,筆者らが携わっ

た,生理的要因および物理的要因の制御により青果物収穫後のロス削減を目指した最新の研究事例を2つ紹介する。

●2.カラーピーマンの収穫後に    おける着色に関する研究●カラーピーマンは,完熟した大型の果実を使用

するピーマンの一種で,ジャンボピーマンあるいはパプリカとも呼ばれる。赤や黄,オレンジなどの色がミックスサラダや炒

いた

め物などのアクセントに使われるため,外食や惣

そうざい

菜産業では一定の需要がある。カラーピーマンの国内生産量は3,789 tで3),輸入量は32,893 t である4)。したがって,国内流通量に占める国産品の割合はわずかに1割程度である。カラーピーマンの9割は,韓国,オランダ,ニュージーランド等から輸入されているのが現状である。カラーピーマンの消費量は,輸入統計でジャンボピーマンの項目が加えられた2000年以降,国内生産も含めて12年間で約5倍に増えている。また,外食や惣菜産業では,カラーピーマン以外の野菜はほぼ国内から調達することが可能なため,国産の信頼性を求める消費者の意向を反映して,カラーピーマンの国内生産量の増加が強く望まれている。

カラーピーマンの栄養成分は,野菜の中でも優

青果物収穫後のロス削減につながる最新の研究事例

き た ざ わ・ ひ ろ あ き鳥取大学大学院連合農学研究科および神戸大学大学院海事科学研究科修了。(独)農研機構食品総合研究所任期付研究員などを経て,現在,国立研究開発法人農研機構食品総合研究所主任研究員。博士(農学),博士(工学)

北 澤 裕 明

な が た・ ま さ や す名古屋大学農学部博士課程前期課程および岐阜大学連合大学院農学研究科修了。

(独)農研機構野菜茶業研究所を経て,現在,国立研究開発法人農研機構食品総合研究所上席研究員。博士(農学)

永 田 雅 靖 

⧻シリーズ解説⧻ わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策 第10回

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青果物収穫後のロス削減につながる最新の研究事例

れており,例えば赤ピーマンのビタミンC 含量は可食部100 g 当たり170 mg と野菜の中ではトップクラスの含量で,栄養学的にも優れた食品である5)。また,赤ピーマンの特徴的な色素であるカプサンチン,カプソルビンをはじめ,ゼアキサンチン,ククルビタキサンチン,β - カロテン,β -クリプトキサンチン等のカロテノイド色素も含まれていることが知られている6)。

これまでカラーピーマンの国内生産量が増加しない原因のひとつとして,開花から収穫までの期間が長く,暖房費や栽培管理にコストが多くかかることがあげられる。宮城県農業・園芸総合研究所が調査した事例では,研究所付近における標準的な半促成作型で,冬に栽培を打ち切る際には,全収量の約2割に相当する果実が出荷基準まで着色が進まず,出荷できず廃棄されていた。そこで,吉田らは,これら栽培終了時の残果の効果的な着色促進方法について検討した。まず,温度,植物ホルモン,光照射などが果実の着色に及ぼす影響を調べ,カラーピーマンの未熟果に蛍光灯で光照射すると,果実の着色が顕著に促進されることを見いだした7)。このようなカラーピーマンの光照射追熟技術によって出荷可能となる果実が増えれば,農家の手取り収入が増え,コスト削減にもつながることから,関連するプロジェクトに参画した宮城県,岩手県,山形県,高知県等を中心に普及が進められている。

カラーピーマン果実の成熟に伴う着色の変化は,

クロロフィルの分解とカロテノイドの生合成のふたつの現象からなっている。果実の着色に対する温度の影響を調べたところ,10 ~ 35℃で比較した結果,クロロフィルの分解は15 ~ 25℃で進みやすく,10℃や35℃では顕著に抑制された。一方で,果実の赤色色素(カロテノイド)の含量は,20 ~ 25℃での蓄積が多かったが,樹上で完熟させた果実に比べると,色素の含量は半分以下であった。

カラーピーマンと同じナス科のトマトでは,果実の成熟はエチレンによって制御されていることがよく知られている。一方,カラーピーマン果実の成熟における植物ホルモンの影響は,詳細には知られていなかった。そこで,それらの影響を調べた結果,エチレンとジャスモン酸メチルの併用で,クロロフィルの分解促進とカロテノイド色素の合成がやや促進されたが,エチレンあるいはジャスモン酸メチル単独での効果は小さく,同じナス科の植物であっても,トマトとカラーピーマンでは果実の成熟機構には大きな違いがあることが分かった。

さらに,光の影響を調べた結果,暗黒で貯蔵した場合に比べて,光のある条件ではクロロフィルの分解とカロテノイドの合成が有意に促進されることを見いだした。着色が5% 程度進んだ果実であれば,昼白色の蛍光灯を用いて照射する光の強度

(光合成光量子束密度)が,約100μ mol・m-2・s-1であれば,20℃,5日間の照射で,販売可能な

レベルまで着色が進んだ。カラーピーマン果実に対する光照射が

着色を促進する機構については,永田ら8)

が,光照射の有無によるカラーピーマン果実のクロロフィル分解(第1図),特徴的な赤色色素であるカプサンチンの蓄積(第2図)と,生合成に関わる酵素遺伝子の発現について解析し,着色が開始した果実に光照射することによって,生合成全体の流れを制御しているフィトエン合成酵素の遺伝子発現を100倍以上増加させる

第1図 催色期のカラーピーマンのクロロフィル含量に       対する光照射および暗黒の影響

G は緑熟果,Br は催色果,L1 ~L5 はそれぞれBr 果実に1~5日間25℃で光合成光量子束密度100 μmol・m-2・s-1 で光照射追熟させたもの。D1~D5 はそれぞれ1~5日暗黒に貯蔵したもの。光照射で,クロロフィルの分解がやや促進される。

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ことを見いだした(第3図)。関連する他の酵素遺伝子も発現が数倍増加した。

この技術は,20℃程度の部屋を確保して,5日間,乾燥を防ぎながら蛍光灯で果実に光の刺激を与えればよいので,規模に応じて自作の光照射用ラックを組んだり,場合によっては居室や会議室などのスペースを利用したりすることが可能である。運転に必要なコストも,処理に使う部屋の温度管理と光照射に必要な電力のみである。光照射して色づいた果実を目視で確認しながら順次出荷が可能である。このような利用技術を開発することによって,従来では栽培打ち切り時に廃棄していた全収量の2割にあたる残果も,その7割程度が出荷できるようになった。すなわちこの技術によって,全収量を14%程度増加させることが可能となった。カラーピーマン果実の食料資源としてのロスを回避しつつ,農家の手取り収入を増加させることが可能な技術として,今後,日本国内で広く普及することが期待される。

●3.繰り返し衝撃によるイチゴの損傷を軽減するための新たな損傷 

    評価理論の構築と包装設計●衝撃による青果物の損傷性は,元々工業製品を

対象に提唱された損傷限界曲線(Damage Boundary Curve,以下 DBC)理論を適用し,評価されてきた9)。この理論によれば,対象物に衝撃が印加された際におけるピーク加速度(Peak Acceleration,以下 PAcc)および速度変化(Velocity Change,以下 Vc)の組み合わせに対応する DBC(第4図)を衝撃試験によって予め導出しておけば,実輸送中の衝撃環境に照らし対象物が破損するか/しないか,あるいは対策(例えば緩衝材の使用)が必要か/不要か,を判断することができる。しかし,この理論では,損傷発生までの衝撃の繰り返し回数(以下 N)については考慮されてこなかった。

輸送中の青果物は,1度の衝撃よりも繰り返し衝撃により損傷することが多いため,従来の DBC理論の適用には限界があった。青果物の繰り返し衝撃による損傷の評価においては,物品の繰り返し応力による損傷評価のための理論である S-N曲線理論が応用されてきた10)。ところが,この理論では PAcc と N との関係は評価できるものの,DBC で評価することが可能な Vc の影響を考慮することができない。したがって,青果物の繰り返し衝撃による損傷を評価するためには,PAcc,Vc および N の3要因を考慮する必要があり(第5図),それら全てを包含した新規理論の構築が必要であると考えられた。そのためには青果物が繰り返し衝撃により損傷する際における PAcc とVc の組み合わせの違いによって N が変化することを実証する必要があった。

第3図 催色期のカラーピーマンのフィトエン合成酵素(Psy)遺伝子の発現に対する光照射および暗黒の影響

G は緑熟果, Br は催色果, L1 ~L5 はそれぞれBr 果実に1~5日間25℃で光合成光量子束密度100 μmol・m-2・s-1 で光照射追熟させたもの。 D1~D5 はそれぞれ1~5日暗黒に貯蔵したもの。1~2日の連続光照射により, 暗黒に比べてPsy の発現が有意に上昇した。 このことがカロテノイド生合成経路全体を活性化させ,カプサンチンの蓄積を促進しているものと考えられた。

第2図 催色期のカラーピーマンのカプサンチン含量に対する    光照射および暗黒の影響

G は緑熟果,Br は催色果,L1 ~ L5 はそれぞれ Br 果実に1~5日間 25℃で光合成光量子束密度 100 μ mol・m-2・s-1 で光照射追熟させたもの。D1~ D5 はそれぞれ1~5日暗黒に貯蔵したもの。5日間の光照射で,有意にカプサンチンが蓄積する。

青果物収穫後のロス削減につながる最新の研究事例

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青果物収穫後のロス削減につながる最新の研究事例

最初に筆者らは,一般的な2段詰めトレーに収納されたイチゴ果実を供試材料とした衝撃試験を行い,繰り返し衝撃による果実の損傷発生において,N が PAcc と Vc の組み合わせによって様々に変化することを実証し,PAcc と Vc の組み合わせ条件が多様となる実輸送環境を想定した上でイチゴ果実の損傷防止のための緩衝包装を設計する場合,それらの組み合わせに対応する N を想定しておく必要があることを提言した11)。

次に,その提言に基づき,繰り返し衝撃によるイチゴ果実の損傷発生において N の変化に及ぼす PAcc と Vc の組み合わせの影響を,実輸送で用いられる2種類の包装条件下で検証することとした。1つ目では,果実を段ボール箱に収納する際に,内部底面に異なる物性を有する緩衝材(段ボール板およびシリコンゴムシート)を配置した際における N の変化について検証し,2つ目では,多段積み包装における段(部位)の違いが N に及ぼす影響について検証した。その結果,前者では,緩衝材の違いによる N の差異が衝撃に伴う Vc の違いに起因していることを証明するとともに,提示範囲は限定的であったものの,任意の N に対応する DBC の導出に世界で初めて成功した(第6図)12)。また,後者では,段の違いによる N の変化が,段ごとの PAcc と Vc の組み合わせの違いにより生じていることを証明した13)。

以上の結果は,繰り返し衝撃によるイチゴ果実の損傷評価に,S-N 曲線理論を適用した場合,包装条件や流通環境の違いにより生じる多様なPAcc とVc の組み合わせ条件に対応することができないことを示すとともに,これまで行われてきた衝撃に対する緩衝包装設計が物理的要因によるロス削減の観点からは不充分であったことを証明するものであった。

これらの検証結果を踏まえ,筆者らは,多段積み包装されたイチゴ果実の損傷を制御するための方法を提案した14)。この方法では,包装容器と包装容器の間もしくは包装全体の最底面に,板またはシート状の緩衝材を配置することにより,段ご

第4図 速度変化(Vc)およびピーク加速度(PAcc)    から導出される損傷限界曲線(DBC) 想定される衝撃にともなうVc 値およびPAcc 値のいずれかが損傷領域にある場合,緩衝材を使用するなどの対策を講じる必要がある。

第5図 損傷発生までの衝撃の繰り返し回数(N)を    考慮した損傷限界曲線(DBC)

第6図 損傷発生までの衝撃の繰り返し回数(N)を  考慮したイチゴ果実の損傷限界曲線(DBC)の例

⧻シリーズ解説⧻ わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策

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⧻シリーズ解説⧻ わが国の食品ロス・廃棄の現状と対策

1) 農林水産省.(2013):食糧需給表(平成25年度),http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/(2016年1月28日アクセス)

2)内閣官房.(2015):総合的なTPP関連政策大綱,

http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/14/151125_tpp_seisakutaikou01.pdf(2016年1月28日アクセス)

3)農林水産省.(2012):地域特産野菜生産状況調査,http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokusan_

との PAcc および Vc の組み合わせを変化させ,これにより衝撃1回当たりに蓄積される損傷度

(d,N の逆数)を部位ごとに変化させることができる。これにより,異なる易損性を有する,すなわち硬度の異なるイチゴ果実の混載が可能となり(第7図),輸送効率が向上するだけでなく,輸送中の損傷によるロスを低減できるものと期待される。現在,構築した理論およびそれに基づく包装設計の実用化に向け,実証試験を進めているところである。また,繰り返し衝撃を受けた際にイチゴ果実と同様に蓄積疲労損傷が引き起こされる青果物としては,レモン果実15)やマンゴー果実16)などが知られており,これらの果実を対象とした新規の包装設計への応用についても検討している。

●4.おわりに●●1.はじめに●で述べた通り,これまで青果

物収穫後のロスに関して,生理的要因に関する対策と物理的要因に関する対策とは分け隔てて考えられがちであった。このことは,例えば包装設計において前者に関するものが「鮮度保持包装」,後者に関するものが「緩衝包装」と別々に呼ばれることからも伺える。しかし,実際には生理的変化の結果として現れる果実の軟化が機械的ストレスにより引き起こされるといった様に,双方の要因は表裏一体であることが多い。双方の要因を考慮可能な新規の理論が構築され,さらにそれに基づく対策を講じることが,今後,青果物収穫後の

ロス削減を進める上で重要と考えている。

謝辞●3.繰り返し衝撃によるイチゴの損傷を軽減

するための新たな損傷評価理論の構築と包装設計●で紹介した研究事例は,農林水産省・新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業「国産果実の輸出促進に向けた低コスト生産・流通システムの開発(課題番号:1913)」,文部科学省および日本学術振興会・科学研究費補助金若手研究(B)

「損傷限界曲線を応用した新たな緩衝包装設計理論の構築と青果物輸送包装の最適化(課題番号:21780236)」,および農林水産省・食料生産地域再生のための先端技術展開事業「被災地における農産物加工技術の実証研究」より資金提供を受けて実施したものである。ここに記して厚く御礼申し上げる。

参 考 文 献

第7図 各段におけるピーク加速度(PAcc)および速度変化(Vc)の    制御による,繰り返し衝撃によるイチゴ果実の損傷制御の例d は衝撃1回あたりに蓄積される損傷度であり,損傷発生までの衝撃繰り返し回数(N)の逆数である。この例では,プラスチック段ボールシートを緩衝材として用いている。

青果物収穫後のロス削減につながる最新の研究事例

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青果物収穫後のロス削減につながる最新の研究事例

yasai/(2016年1月26日アクセス)4)農林水産省.(2012):財務省貿易統計(輸入)http://

www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/index.html#r(2016年1月26日アクセス)

5)文部科学省.(2015):日本食品標準成分表,野菜類, http://www.mext.go.jp/component/a_menu /science/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/01/15/ 1365343_1-0206r2_1.pdf(2016年1月29日アクセ

ス)6)Hornero-Mendez, D. et al. (2000): Carotenoid

biosynthesis changes in five red pepper (Capsicum annuum L.) cultivars during ripening. Cultivar selection for breeding, J. Agric. Food Chem., 48, 3857–3864.

7)吉田千恵ら.(2014):催色期に収穫したカラーピーマン果実の着色促進に関する要因について,園学研,13,155–160.

8)永田雅靖ら.(2015):光照射追熟したカラーピーマン果実におけるカロテノイド代謝関連遺伝子の発現変動,園学研,14( 別2),309.

9)Mathew, R. and Hyde, G. M. (1997): Potato Impact Damage Thresholds, Trans. ASABE, 40, 705–709.

10)北澤裕明ら.(2010):イチゴ輸送中の衝撃解析と損傷発生予測,園学研,9,221–227.

11)北澤裕明ら.(2012):蓄積疲労を考慮した青果物のための新たな損傷予測理論の構築(第1報)―繰り返し衝撃によるイチゴの損傷発生―,日本包装学会誌,21,125–132.

12)Kitazawa, H. et al. (2014): Effect of difference in acceleration and velocity change on product damage due to repetitive shock, Pack. Technol.Sci., 27, 221–230.

13)北澤裕明,斎藤勝彦.(2014):蓄積疲労を考慮した青果物のための新たな損傷予測理論の構築(第2報)―多段積み包装されたイチゴ果実の損傷発生に及ぼす繰り返し衝撃の影響―.日本包装学会誌,23,277–285.

14)Kitazawa, H. et al. (2015): Method for controlling damage to products subjected to cumulative fatigue considering damage degree at each layer in stacked packaging, J. Pack. Sci. Technol., Jpn., 24, 69–78.

15)池田裕朗ら.(2010):収穫から選果までの間にレモン果実が受ける衝撃解析,園学研,9,107–112.

16)Nakanishi, Y. et al. (2015): Evaluation and estimation of damage to tree-ripened ‘Irwin’ mangos from repetitive shock during transport-tation, Trop. Agric. Develop., 59, 112–117.

食品加工における微生物・酵素の利用<新食品編> 本書は既刊の「食品加工における微生物・酵素の利用<伝統食品編>」の姉妹編としてまとめたものである。 本新食品編ではアミノ酸,新甘味料,新たな機能性食品の生産や利用をはじめ,麹菌や酵母など発酵微生物の遺伝子解析,育種など,ポストゲノム時代へ向けた新たな研究開発についても紹介した。

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