低レイノルズ数型乱流モデルを用いた 取水路流れ計算...key words: low reynolds...

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水 工 学 論 文 集,第46巻,2002年2月 低 レイノルズ数型乱流モデルを用いた 取水路流れ計算 STUDY ON NUMERICAL SIMULATION OF FLOW IN AN INTAI<E STRUCTURE USING A LOW REYNOLDS NUMBER k-E MODEL 熊谷 洋1・ 田中 仁2 Yo KUMAGAI and Hitoshi TANAKA 1正会員 工修 北大学 大学院博 士後期課程 工学 研 究 科 (〒980 -8579 仙 台 市 青 葉 区 荒 巻 字青 葉06) 東北電力株式会社 電力流通本部送変電建設センター土木G (〒980-0811 仙 台 市 青 葉 区 一番 町3丁 目7番23号 明治 生 命 仙 台 ビル7F) 2正 会 員 二博 東北大学大学院教授 工学 研 究 科(〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉06) To promote time and effort savings and to increase efficiency in experiment, numerical simulations have been applied in various cases. In an intake structure with a gradual expansion, streamline approaches wall and separation occurs due to Coanda effect. Using the standard k-c turbulence model, such a behavior in an intake structure cannot be well reproduced, especially in a separation region. In the present study, revived version of k-c model proposed by Abe et al.(1992) is applied to a flow in an intake structure with a gradual expansion. The results using this model show good agreement with laboratory experiment. Key Words: low Reynolds number turbulence model, grid topology, computational hydraulics, Coanda effect 1.は じめに 水理構造物を設計する場合,水 路内の流況を把握するこ とは重要であ り,数 多 くの水理 模型実験 が桁 われてい る。 しか し,水理模型実験は模型製作,改 造,計 測に多大な労 力 を必要 と し,模 型 実験 か ら得 られ る情報には限 りがあ る。 現在,コ ンピューターのCPU速 度の著しい高速化により, 実 際の水理構造 物 にお け る流況 に関 して数値 シ ミュ レー シ ョンを用 い た検討 が可能 な状況 となってきた。数値 シ ミュ レー シ ョンは,① 最適設計 のアプ ローチ,② 経済 性の 向上,③ 実験で再現できない条件での解析が可能などの利 点 が あ り,水 理構造物設計への適用事例(例 えば, Kmmagai1))が急速に増加 している。 水理構造物 にお ける流 れの数値 シ ミュ レーシ ョンでは, 渦 粘性 モデル を用 いた標 準舵 モデル2)が 一般 に用 い られ, 壁面 の境界条件 としては,壁 関数 が用 い られ ることが多い。 しかし,水 路構造物内の流れは,水 路幅,水 路高ともに変 化 し,水 路内にはく離領域がある場合が多い。実際の計算 では,は く離 ・再付 着点でUτ=0(Uτ:摩 擦 速度)とな り対 数則が成立 しない部分についても,は く離 ・再付着点の Uτを乱 流エネル ギー か ら算 出 し,流 速を対数則 か ら算 出 することで全体の流れ場 を計算 している。熊谷 ら3),4)は, は く離 を伴 う水 路構造 物内の流 れに標 準娩 モデル を適用 して計算 した結果 と実験 結果 を比較 し,は く離発生地 点か ら流下す るにつれ て計算精度 が低下す る傾 向にあることを 指摘 した。このため,水 理構造物内の流 れに標準鹿モデ ル を適用 して実施す る数値 シ ミュ レーシ ョンは,模 型実験 にお ける工数削減な どの コス ト低減 に大 きく寄与 してい る ものの,現 状では水路内流況研 傾向の把握3),導流壁 によ り分割 され る通 水断 面の流量配分の把握4)を行 う程度 で, 実施 に向けた設計は水理模型 実験 の結果 に基づいて行 って い るのが現状であ る。 現在,新 規の発電所建設地点の減少および既存発電 所における土木設備の修繕 ・改良工事費の予算枠が 年 々減 少 して お り,金 銭 的 ・時間 的負 担 の大 きい水 理 模 型 実 験 に よ る水 理 設 計お よび検 討 は実施 が困難 とな り,金 銭的 ・時間的 に低 コス トな数値 シ ミュ レーシ ョ ンを活用 した設計 ・検討 が強 く求 められて きている。 しか し,標 準左εモ デル を用 い た従来 の計 算 手法 では, は く離 を伴 う水 路 内 にお け る流況 の 再現 性が低 い た め, 計 算 のみ で水 理設 計 ・検討 の実施 は困難 で あ り,よ 高 精度 に水路 内 流況 を計 算可 能 な手 法 が求 め られ て い ―863―

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Page 1: 低レイノルズ数型乱流モデルを用いた 取水路流れ計算...Key Words: low Reynolds number turbulence model, grid topology, computational hydraulics, Coanda effect

水 工 学 論 文 集,第46巻,2002年2月

低 レイノルズ数型乱流モデルを用いた

取水路流れ計算STUDY ON NUMERICAL SIMULATION OF FLOW IN AN INTAI<E STRUCTURE

USING A LOW REYNOLDS NUMBER k-E MODEL

熊 谷 洋1・ 田中 仁2

Yo KUMAGAI and Hitoshi TANAKA

1正会員 工修 東北大学大学院博士後期課程 工学研究科 (〒980 -8579 仙台市青葉区荒巻字青葉06)

東北電力株式会社 電力流通本部送変電建設センター土木G

(〒980-0811 仙台市青葉区一番町3丁 目7番23号 明治生命仙台ビル7F)2正会員 二博 東北大学大学院教授 工学研究科(〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉06)

To promote time and effort savings and to increase efficiency in experiment, numerical simulations have been applied in various cases. In an intake structure with a gradual expansion, streamline approaches wall and separation occurs due to Coanda effect. Using the standard k-c turbulence model, such a behavior in an intake structure cannot be well reproduced, especially in a separation region. In the present study, revived version of k-c model proposed by Abe et al.(1992) is applied to a flow in an intake structure with a gradual expansion. The results using this model show good agreement with laboratory experiment.

Key Words: low Reynolds number turbulence model, grid topology, computational hydraulics, Coanda effect

1.は じめに

水理構造物を設計する場合,水 路内の流況を把握するこ

とは重要であり,数 多くの水理模型実験が桁 われている。

しかし,水理模型実験は模型製作,改 造,計 測に多大な労

力を必要 とし,模型実験から得られる情報には限りがある。

現在,コ ンピューターのCPU速 度の著しい高速化により,

実際の水理構造物における流況に関して数値シミュレー

ションを用いた検討が可能な状況となってきた。数値シ

ミュレーションは,① 最適設計のアプローチ,② 経済性の

向上,③ 実験で再現できない条件での解析が可能などの利

点があ り,水 理構造物設計への適用事例(例 えば,

Kmmagai1))が急速に増加している。

水理構造物における流れの数値シミュレーションでは,

渦粘性モデルを用いた標準舵モデル2)が一般に用いられ,

壁面の境界条件としては,壁 関数が用いられることが多い。

しかし,水 路構造物内の流れは,水 路幅,水 路高ともに変

化し,水 路内にはく離領域がある場合が多い。実際の計算

では,は く離 ・再付着点でUτ=0(Uτ:摩擦速度)となり対

数則が成立しない部分についても,は く離 ・再付着点の

Uτを乱流エネルギーから算出し,流 速を対数則から算出

することで全体の流れ場 を計算している。熊谷ら3),4)は,

はく離を伴う水路構造物内の流れに標準娩モデルを適用

して計算した結果と実験結果を比較し,は く離発生地点か

ら流下するにつれて計算精度が低下する傾向にあることを

指摘 した。このため,水 理構造物内の流れに標準鹿モデ

ルを適用して実施する数値シミュレーションは,模 型実験

における工数削減などのコス ト低減に大きく寄与している

ものの,現 状では水路内流況研傾向の把握3),導流壁によ

り分割される通水断面の流量配分の把握4)を行 う程度で,

実施に向けた設計は水理模型実験の結果に基づいて行って

いるのが現状である。

現在,新 規の発電所建設地点の減少および既存発電

所における土木設備の修繕 ・改良工事費の予算枠が

年々減少しており,金 銭的 ・時間的負担の大きい水理

模型実験による水理設計および検討は実施が困難 とな

り,金 銭的 ・時間的に低コス トな数値シミュレーショ

ンを活用した設計 ・検討が強く求められてきている。

しかし,標 準左εモデルを用いた従来の計算手法では,

はく離を伴 う水路内における流況の再現性が低いため,

計算のみで水理設計 ・検討の実施は困難であり,よ り

高精度に水路内流況を計算可能な手法が求められてい

―863―

Page 2: 低レイノルズ数型乱流モデルを用いた 取水路流れ計算...Key Words: low Reynolds number turbulence model, grid topology, computational hydraulics, Coanda effect

る。

近年,安 部 ・長野 ・近鯉 によりk-εモデルの式中にUτ

を使用しない低レイノルズ数型乱流モデル(以 下ANKモ

デルと記す)が 提案された。従来モデルでは,は く離 ・再

付着点においてUτ=0となり,壁 からの距離を適切に扱え

なかったが,ANKモ デルでは,k-εモデルの式中にUτを使

用せず,流 れ場でのコルモゴロフの速度スケールと乱流レ

イノルズ数を用いることで,は く離 ・再付着点におけるこ

の問題を解決している。

本研究は,取 水路内の流れにANKモ デルを用いて解析

した結果を,実 験結果と比較することにより,計算精度を

検証するものである。また,標 準舵モデルの計算結果と

も比較し,ANKモ デルを用いた計算精度の確認も行う。

2数 値計算法

(1)基 本方程式

基本方程式は,連 続式 とレイノルズ方程式(RANS)

であり,式(1)~(2)に 示す。

(1)

(2)

ここで,Uiは 時間平均速度,xiは 空間座標,ρ は流体

の密度,pは 圧力,vは 動粘性係数-uiujは レイノルズ

応力,vtは 渦動粘性係数,kは 乱流エネルギー,δijは

クロネ ッカーのデルタで ある。本研究で用い られ る

ANKモ デルは,式(3)~(5)の 通 りである。標準k-εモデ

ルについては,他 の文献2)を 参照されたい。

(3)

(4)

(5)

ここで,ε は逸散率であ り,σkと σεはモデル定数

である。5つ の定数とモデル関数fμ,f2は,次 の通 りで

ある。

(6)

(7)

(8)

y*,y+は無次元長さ,瓦 は乱流 レイノルズ数,Uε はコル

モゴロフの速度スケールであ り,こ れらを以下に示す。

(9) (10)

(11) (12)

計算では第一格子点高 さがy+<11.6を 満たすように設

定し,y+<1で あればno slip条件,1<y+<11.6で あれば,

式(13)~(14)に示す補間式を用いた。

(13)

(14)

ここで,κ はカルマン定数,yc+=11.6,yc=yc+v/Uτ であり,

対数則 と壁法則の交点座標である。

計算プ ログラムとしては,有 限体積法が用いられ,

SIMPLE法 で圧力補正式を計算 している。移流項は3次

精度のMUSCL法 が用いられている。計算コー ドは,汎

用コー ドであるSCRYUver1.9を 用いた。

(2) 水理模型実験

実験データは,揚 水発電所上池取水口および導水路の水

理模型実験データを使用 した。解析対象は,導 水路~取水

口までとした。図-1に水理模型全体図,図-2に 取水口部の

詳細を示す。表-1に 導流壁挿入位置を示す。水理模型の材

質は,導 水路は透明アクリル製,取 水口導流壁は塩化 ビ

ニール製,上 蓋は透明アクリル製である。水理 模型縮尺は

1/50とした。図中の寸法は,全 て模型実験のスケールであ

る。流量は 実スケールにおいてQ=94m3/sで ある。流速

は電磁流速計を用い 図上3の左上 に定義されるUxUyの2方

向成分についてLZ~R2断 面の100ポ イン ト分測定した。さ

らに,図-3の 右上に定義される流速 成分(Ux',Uy')に変換 し,

図-7に 示す流速分布作成および表-2,3に 示す流量配分の

計算を行った。流速 成分は,図-3に 示すベク トルの向きを

正とした。

壁面近傍計測ポイン トと壁面の間は20mmあ るが,こ の

部位は速度勾配が大きいことか ら,図-3に 定義するUx'よ

り,壁 面から0mm,5mm,10mmの ポイントを壁近傍の実験

データから補間した。壁面から0mmの ポイン トの流速は,

全て0と した。壁面から5mm,10mmの ポイン トにおける具

体的な補間万法 としては,実 測データと壁の問にはく離領

域が無い時には対数則を用いた。はく離領域がある場合,

実測データとUx'=0の 間にある補間ポイン トにおいては,

その間の線形補間データを用い,Ux'=0と 壁面の問にある

補間ポイン トにおいては,Ux<0で ある最 も近傍 の実測

データを用いた。

流量配分は,流 速測定ポイン トおよび補間値値の分担通水

面積を乗 じて算出 した。検討形状は,水 理模型実験原案

Case1と 流量配分を改善したCase2の2ケ ースとした。

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表-1 導流壁設置位置

図-1 水理模型全体図

図-2 取水口部詳細図

図-3 取水口出口部における流速計測立置図

図-4 導水路部解析格子

図-5 取水口部解析格子

(3)計 算方法

ANKモ デル を用いた解析 を実施す る場合,壁 面近傍

まで格子を配置するため,解 析格子数が著 しく増加 し,

導水路~取水 口までを一体 で解析す ると計算時間が著

しく増加す ることか ら,導 水路部 と取水 口部 に分割 し

て解析 した。計算は,Pentium III600MHz,主 メモ リー

1,024Mbyteを 搭載 したPCを 用いて実施 した。ANKモ デ

ル を使用 した解析格子 を図-4,5に 示す。取水 口部の解

析格子数はCase1,2に おいて約250,000要 素,導 水路部の

解析格子数は約450,000要 素 とした。曲が り開始部 より

上流部の助走距離 については,杉 山ら6)に よれば管径D

の40倍 程度の長 さを流下 させ ることにより土分発達 し

た流れになると報告 されているが,予 備計算によれ ば

半分の20Dに した場 合でも土分発達 した流れ になること

を確認 したので,計 算負荷 を低減 させ るため,助 走距

離Lを 図-4に 示す通 り20Dと した。

導水路の流入条件は,一 様流速 を与えた。k,εの流入 条

件は実験で計測 してお らず不明であるため,k=10-4m2/s2,

ε=10-4m2/s3と小 さな値 とした。 導水路の流 出条件 は,

∂U/∂x=∂V/∂x=∂W/∂x=0,∂k/∂x=∂ ε/∂x=0と した。

取水 口部の流入条件は,導 水路の流出部のU,V,W,k,ε

を与 えた。流 出条件 は,∂U/∂x=∂V/∂x=∂W/∂x=0,

∂k/∂x=∂ε/∂x=0とした。

初期条件 としては,全 域で流速をゼロとし,k,ε につい

ては無視出来るほどに十分に小 さい値を与え,流 れが定常

状態に至るまで計算を行った。

Case1に ついては,ANKモ デルと比較するため,標 準

k-εモデルで取水口部の計算 も併せて行った。取水口部の

―865―

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解析格子数は約40,000要素とした。

(4)格子ひずみ度

非構造格子を用いた一般座標系格子は,解 析結果の格子

依存性があることが従来から指摘されている(例 えば 熊

谷ら4))。格子ひずみの大きさをあらわすパラメーターと

して,3次 元の場合における格子ひずみ度 γを式(15)で

定義する。

(15)

ここで,e1,e2,e3は 図-6に 示す ように一般座標系にお け

る単位ベク トルである。図-6の 左に示す2次 元セルを用い

て格子ひずみ度 γについて説明する。図-6の左に示す通 り,

格子ひずみ度 γは,辺f,iと 辺e,gの 中点を結んだ線 上に位

置す る単位ベク トルe1,e2の内積の絶 対値である。直交格

子ではこの値が0と なる。格子のひずみが大きい時には,

この値が大きくな り,最 大で1.0に近づく。3次 元の場合,

向かい合 う面上の重心同士を結んだ線上に位置する単位べ

ク トルe1,e2,e3の内積の絶対値である。

今回,格 子ひずみ度 γを解析格子系全体で低減させ るた

め,格 子 トポロジーは導流壁周囲を0型 格子,そ れ以外を

L型 格子の組み合わせ とした。

その結果,取 水路部 については,著 者 ら7)が 提案 した

指針,す なわち,y+<20の 領域において γ<07を 満たす解

析格子 となった。

図-6 格子ひずみ度γ

3.計 算結果

計算結果の評価 は,実 験結果 と比較することで実施 し,

比較検討項 目としては,(1)流 速分布形状,② 最大流流速発生

位置,③ は く離領域発生位置,④ コアンダ効果,⑤ 流量配

分,⑥ 最 大流速である。

(1)流 量配分

取水路の流量配分結果における実験 と計算の比較を表-

23に 示す。Case1の 実験結果とANKモ デルを用いた計算

結果を比較 し,流 量配分の差は,最 大で6.1%,最 小で

19%,平 均で40%と なった。Case1の 発験結果 と標準k-ε

モデルを用いた計算結果を比較し,流 量配分の差は,最 大

で63%,最 小で0.5%,平 均で3.7%と なり,流 量配分結果

に関しては,ANKモ デル と標準k-εモデルは,ほ ぼ同等の

結果 となったが,こ れは,流 入条件は,同 一なものを使用

していることと,流 入 口~導流壁挿入位置が近接 してお り,

ANKモ デル と標準k-εモデルの計算結果の差が小さいのが原 因

と考えられる。

表-2 流量配分結果(Case1)単 位(%)

表-3 流 量配分結果(Case2)単 位(%)

Case2の 実験結果 とANKモ デルを比較 した結果,流 量

配分の差は,最 大で34%,最 小で0.3%,平 均で1.7%と

な り,Case1よ り良好な結果を得 られた。ANKモ デルを

用いた計算により,取 水路の流量配分は,約5%以 内の

誤差で計算可能 と考えられ る。

(2)流 速分布

取水 口内の流れ は,水 路幅が漸拡 してお り,逆 圧力

勾配のため壁面で流れがは く離 し,逆 流域 が生 じやす

い。漸拡の程度が大きい場合,コ ア ンダ効果に より流

れが一方の壁面に沿って流れ るため,通 水能力が低下

す ることとなる。

図-7にCase1,2の 取水口入 口部における流速の 実験結果

を示す。横軸は水路幅a,縦 軸は水路高hで無次元化した。

図-7よ りUx'<0m/sの流速値が存在 し,水 路内で逆圧力勾配

のために壁面で境界層がはく離 している。最大流速の発生

位置は,Case1の 全断面において上下に偏心 しているもの

の,左 右の偏心はあま り見られない。一方,Case2は,上

下の偏心の他に左右の偏心が見られる。特にL2,R2断 面に

おいて最太流速発生位置が水路中央寄 りに偏心 している。

Case2は,Case1と 比較 してL2,R2の 通水量が多く,導 水路

断面か らL2,R2断 面にかけて平面的な曲がりと水路幅の漸

拡により,流 れが左右に偏流 しやすいと考えられる。実験

データを補間して求められた流速分布形状より,Case1,2

の全断面において,コ アンダ効果が発生しているのは明ら

かである。Case1よ りCase2の 方がコアンダ効果は大きく,

特にCase2のL2,R2断 面においてコアンダ効果による偏流

の程度が大きい。

Case1,2の 取水口入口部における流速の計算結果を図-8

―866―

Page 5: 低レイノルズ数型乱流モデルを用いた 取水路流れ計算...Key Words: low Reynolds number turbulence model, grid topology, computational hydraulics, Coanda effect

図-7実 験結果

図-8計 算結果

―867―

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に示す。横軸は水路幅a,縦 軸は水路高hで無次元化した。

ANKモ デルにより計算されたCase1の結果は,最 大流速位

置の上下の偏心は再現されていないものの,は く離領域が

計算されており,流 速分布形状は良好に再現されている。

最大流速は,実 験結果と比較して―20~30%の差で計算さ

れた。摩擦速度Uτを用いないANKモ デルは,最 大流速 こ

そ実験との差はあるものの,複 雑形状においても流速分布

形状およびはく離頂域の再現性が良好である。

標準k-εモデルにより計算されたCase1の 結果は,流速分

布形状が異なる結果となった。最大流速は,実 験結果と比

較して最大100%の 差で計算され,ANKモ デルと比較して

劣る結果となった。漸拡する水路内ではく離が生じている

場合,熊 谷ら3),4)による既往の結果と同様,計 算結果は実

験結果を良好に再現しなかった。

ANKモ デルにより計算されたCase2の 結果は,Case1同

様,最 大流速位置の上下の偏心は再現されていないものの,

流速分布形状は良好に再現した。L2,R2に おいて,Case2

は,Case1よ りコアンダ効果に伴う偏流の程度が大きいが,

解析結果もCase1よ りCase2の方が左右の偏流の程度が大

きくなった。はく離領域は,計 算により再現されている。

最大流速は,実 験結果と比較 して―20~15%の差で計算さ

れた。

これらの結果より,標 準k-εモデルで良好に再現できな

かったはく離を伴う漸拡取水路流れについて,ANKモ デ

ルを用いることにより,再現することが可能になった。

(3)設 計への適用

ANKモ デルを用いて得られた結果の設計への適用につ

いて考察する。

例えば 揚水発電所の取水口前面に設置するスクリーン

は,カルマン渦の共振振動による破損防止のため,水理 模

型実験で得られる最大流流速に基づき構造設計を行う。実験

で得られる最大流流速は,プ ロペラ流速計や電磁流速計で60

秒程度計測されたデータの平均値で,±50%程 度の時系列

的な変動8)を有する。そのため,設 計に使用する場合にお

いては,実 験の流速の時系列的な変動を考慮し,実験で得

られる最大流速の15倍以上8)の値を用いている。ANKモ デ

ルを用いて計算された結果は,最大流速の誤差は20~30%

程度であり,実 験で得られる最大流流速の±50%の 変動内に

収まっており,流 量配分の誤差も5%程度で,流 速分布形

状の再現性も良好であることから,設 計で使用することが

可能であると判断される。ただし,最 大流流速を20%程 度過

小に評価するため,危 険側の設計の懸念があることから,

実施設計においては十分な精度とはいえないが,そ の手前

の基本設計においては,十 分使用に耐えられると判断され

る。

4.結 論

取水口部に標準k-εモデルを用いた計算結果とANKモ デ

ルを用いた計算結果を比較した結果,次 の結論が得られた。

(1)流 量配分結果において,標 準k-εモデルを用いた計算

とANKモ デルを用いた計算について実験結果と比較

した。ANKモ デルは,標 準K-εモデルを用いた計算と

ほぼ同等な結果が得られた。Case1,2において,ANK

モデルと実験結果との差は0.3%~6.1%と なり,平 均

では2.9%となった。

(2)ANKモ デルを用いた場合,管 路隅角部におけるはく

離頂域が計算されており,コ アンダ効果による偏流も

再現されていることから,流速分布形状の再現性は良

好である。ただし,上 下の偏心の再現は出来なかった。

(3)ANKモ デルを用いた計算では,実 験結果と比較して

最大流流速は約30%の 差となった断面は存在するものの,

実験結果との差は概ね20~15%と なった。

(4)標 準k-εモデルを用いた場合,流 量配分はANKモ デル

とほぼ同様な結果を得られるが,最 大流速はANKモ

デルより劣る結果となった。流速分布形状,最 大流速

の出現位置について実験結果を再現せず,特 にはく離

領域の分布形状は実験結果と異なった。

(5)ANKモ デルを用いた流速分布形状,最 大流速発生位

置,は く離頂域発生位置,コ アンダ効果による偏流の

大きき,流 量配分,最 大流速について実験との比較検

討した結果,基 本設計への反映は十分可能である。

参考文献

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pp.767-772, 1997.2) Launder, B. E. and Spalding, D. B.: The numerical computation of

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(2001.10.1受 付)

―868―