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ジェットプロジェクト めて」 16 報告書 Jet-Project

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Page 1: 小樽ジェットプロジェクト研究会報告書 「小樽の将来都市像 …...第3節 小樽のその他のさまざまな強み 8 第2章 小樽を取り巻く環境 第1節

小樽ジェットプロジェクト研究会 報告書

「小樽の将来都市像を求めて」

平成16年3月

報告書Je t-P ro jec t

Page 2: 小樽ジェットプロジェクト研究会報告書 「小樽の将来都市像 …...第3節 小樽のその他のさまざまな強み 8 第2章 小樽を取り巻く環境 第1節

目 次

はじめに 1

第1章 小樽の強みと特色

第1節 地勢と自然環境における特色と強み 3

第2節 歴史と伝統における特色と強み 6

第3節 小樽のその他のさまざまな強み 8

第2章 小樽を取り巻く環境

第1節 小樽が構造的に抱える弱み 10

第2節 小樽を取り巻く社会的な潮流 11

第3章 小樽市の進むべき方向性の考察

第1節 将来都市像の方向性 15

第2節 『資源適合』と3Rの視点17( 成功の鍵=Key Factors For Success」としての認識)「

第4章 将来都市像として導かれる「はぐくみ交流都市・おたる」

第1節 三つの都市像が内包するエッセンスの抽出 20

第2節 三つの都市像のエッセンスの再構築 21

第3節 将来都市像としての「はぐくみ交流都市・おたる」 24

第5章 「はぐくみ交流都市・おたる」の具体像

第1節 21世紀プランとの比較からみた「はぐくみ交流都市・おたる」26

第2節 「はぐくみ交流都市・おたる」の担い手と役割 28

第3節 「はぐくみ交流都市・おたる」の実現と課題 29

要 約 31

「小樽の将来都市像を求めて」要約イメージ 33

小樽ジェットプロジェクト研究会名簿 34

報告書Je t-P ro jec t

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報告書Je t-P ro jec t

は じ め に

日本経済は1990年代初めのバブル崩壊後、長期間にわたって停滞を続け 「失われた10、

年」と言われた。その後も停滞を続け、特に地方経済にとっては、未だに出口が見えない

状況が続いている。

こうした中、日本の都市が直面している最大の問題は、間近に迫った少子高齢社会の到

来である。国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計人口』(平成14年1月推計)

、 、 、によると 日本の総人口は 平成18(2006)年の約1億2,774万人をピークに減少へ転じて※1平成62(2050)年には1億60万人にまで落ち込むとされている。

世界保健機構(World Health Organization; WHO)によると、高齢化率 が7%を超※2

えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会、21%を超えると超高齢化社会と定義されて

いる。日本は、平成7年の国勢調査で高齢化率が14.8%に達していたことから、'90年代

半ばには、すでに高齢社会に突入していたことになる。

高齢化率の増大は、より少数の現役世代がより多数の高齢者を支えることを意味し、医

療、年金などの社会保障分野で現役世代の負担を増加させる要因となり、さらには、将来

における社会不安を抱えることで、消費の減退を招く一因にもなっている。

また、高度経済成長期にあっては、旧型産業を上回った生産・所得効果を有する新型産

業が出現し、この新型産業が衰退産業の穴を埋め合わせ経済全体を押し上げた。しかし、

'90年代に入ってからのIT化は、労働力を余剰化したり、原材料・資源消費の節約効果

を上げる反面、従来の産業技術の革新に比較すると、生産・雇用・所得の波及効果が少な

いとも言われている。

一方、'90年代に入って本格化したアウトソーシングの国際展開は、低賃金・低地価な

どの低生産コストにより、国際競争上の有利性を確保するため、アジア地域への投資を急

増させ、特に東アジア地域に大きな経済成長をもたらした。これによって、わが国のこれ

らの国々に製品を輸出する業種を中心に業績は上向き、国内の設備投資は、製造業が集積

する大都市圏と地方都市との間で二極化が進行しているとも言われている。

わが国は、財政の再建という重要課題にも直面している。国・地方合わせた長期累積債

務は約700兆円と言われている。この問題を解決するために、地方交付税・国庫補助金の

削減、税源の委譲といういわゆる「三位一体」の改革が進められつつある。地方の自立に

よって行政効率を高めようという試みである。このことは、国への依存体質を断ち切りな

がら、自らの力で地域経済を発展させ、財政を自立させていかなければならないことを意

味するものである。しかし、実際には交付税の削減などにより、地方財政はより厳しい局

面を迎えているのが現状である。

本市に目を転じてみると、周知のとおり、国よりも早く人口減少、少子高齢社会を迎え

ている。また、経済不況などを背景とする税収の減少などもあって財政が危機的な状況に

直面している。住民の高齢化だけではなく、公共施設などの社会資本の老朽化が進み、都

市自身も高齢化していると言える。こうした中でいかに地域の独自性を発揮しながら、経

済を活性化し、さらには財政的にも自立することが求められている。

(註) ※1: コー ホート要因法による中位推計※2: 高齢化率=総人口に占める65歳 以上の高齢者の割合

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本研究会は、平成14年9月に本市の「将来都市像」を描くことを目的に発足し、市職員

10名が山田家正小樽市顧問のご指導の下、研究会や職員による勉強会を重ね議論を行って

きた。

我々の目的は、拡大成長型から縮小均衡型の社会へと急激な社会構造変化を迎えている

中で、長期的な視点に立ち、本市が持続的に活力を維持することができるような方向性を

論理的な必然性をもって導き出すことであった。

その際に、都市としての持続的な活力として、人の生活や心の豊かさという「人・生活

(くらし 」の要素と、産業の振興や地域の活性化など「価値・活力の創出」としての要)

素の重要性を認識し、これら二つの要素を包括的に満たすような「将来都市像」を描くこ

とを前提に置いた。

その結果 「選択と集中」の観点から施策を展開すること、歴史性や地域性に裏付けさ、

れた多くの資源の活用を図ること、官民協働などまちづくりへの市民参加を促進すること

などにより、絶えず変化する社会経済状況の中にあっても、都市としての活力が持続的に

維持できるのではないかと考えるに至ったのである。

そして、この考え方に基づき、本市のまちづくりにとって必要なことは「交流と連携」

であり、また「創造と育成」であって、それぞれが有機的に結びつくことによって持続可

能な地域社会の形成が図られるとし、それは「はぐくみ交流都市・おたる」を実現するた

めの取り組みによって可能になるとしたのである。

我々が描いた将来都市像「はぐくみ交流都市・おたる」が、将来の小樽のまちづくりに

とっての指針となれば幸いである。研究会では、各職場の担当職員からも現状や課題につ

いてレクチャーをいただいた。この場を借りてお礼を申し上げたい。

平成16年3月

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報告書Je t-P ro jec t

第1章 小樽の強みと特色

本報告書は、小樽の望ましい「将来都市像」を描くことをテーマとするものである。す

なわち、絶えず変化する社会構造などの環境変化に適合しつつ、本市が進むべき基本的な

方向付けを行うものであり、いわば都市経営の視点から長期的な「経営戦略」を構築する

ことをねらいとしている。

したがって、その議論を進めるにあたっては、前提となる共通認識を明らかにしておく

ことが必要となる そこで 経営戦略策定のために用いられる基本的な分析手法である S。 、 「

WOT分析」を行うことにより、本市の現状を的確に把握するとともに、社会構造変化と

そのトレンドを確認することとする。

「SWOT分析」とは、企業などの経営戦略立案を支援するための基本的な分析手法と

して一般的に活用され、経営環境を内部環境(資源構造)と外部環境に分類することによ

り現状を把握する手法である。表1-1で示すように、SWOTのSはStrengths(強み)、W

はWeaknesses(弱み)を意味し、内部的な資源構造を分類したものである。同様に、Oは

Opportunities(機会 、TはThreats(脅威)を表し、経営にさまざまな影響を与える外部)

環境を示している。これらを明らかにすることにより、例えば、強みを発揮し得る機会に

新たなチャンスを見いだしたり、逆に脅威にさらされている領域については、戦略的に強

化を図るなど、進むべき方向性や選択肢を検討する前提として用いられる。

SWOT分析表1-1

好影響(プラスに作用) 悪影響(マイナスに作用)

Strengths(強み) Weaknesses(弱み)内

部 資源構造における特色的な利点 資源構造における特色的な問題点

Opportunities(機会) Threats(脅威)外

部 外部環境における戦略機会 外部環境からの悪影響

本章では、まず、小樽のまちの強みに焦点を当て、分析を進めることにする。

第1節 地勢と自然環境における特色と強み

1.人々を魅了する豊かな自然とその恵み

○海と山に囲まれた豊かな自然環境

○前浜で捕れる新鮮な海の幸

小樽は、北海道の北西部に位置し、道都札幌市に隣接するまちである。一方で日

本海に面し、あとの三方を山々に囲まれているため、海と山に囲まれた豊かな自然

環境を有している。

日本海に接する長い海岸線は、日本海の荒波に削られて変化に富み、特に、ニセ

コ積丹小樽海岸国定公園に含まれる西側では、奇岩連なる勇壮な断がい美を誇って

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いる。また、その一方で、長く続く砂浜をも有し、風光明美な景色を楽しめるだけ

でなく、海水浴や海洋レジャーのスポットにもなっている。

市街地を囲むように三方に広がる山や丘陵地は、標高500m~900mにわたって緑

豊かな環境を生み出し、立体的なまち並みをつくり出している。このまち並みによ

り、小樽は、絵画や文学の舞台ともなる情緒的な風情を醸し出す「坂のまち」とし

て知られている。さらに、山並みを利用して、ゴルフ場やスキー場、キャンプ場な

どが開設されており、それぞれの季節に応じたレジャーを楽しめるため、市民はも

とより多くの観光客でにぎわっている。

これらの豊かな自然は、まちに四季折々のさまざまな彩りを添え、市外から訪れ

る人々に旅情を醸し出すだけでなく、この地に暮らす人々にも安らぎを感じさせて

いる。このことは、住環境や教育環境としての潜在的な力になっていることを意味

し、現在の小樽観光の魅力として重要な要素となっているだけでなく、小樽のまち

の発展における戦略を引き出すための大きな力となることを示している。

2.大都市札幌市と隣接することによる有利性

○交通アクセスの良さ(鉄道、高速道路、4車線道路など)

○札幌市民の身近なレジャースポット

○北海道の経済・文化の中心から得られる質の高い情報

本市は、約180万人の人口を抱える道都札幌市と隣接し、快速電車によって約30

分で結ばれている。また、基幹道路として札樽自動車道、国道5号が両市を結び、

車では約1時間で往き来ができる。特に、国道5号については、平成13年に札樽間

が4車線化されて渋滞が緩和されたことにより、利便性が大きく向上し、両市にお

ける交流人口の拡大に寄与している。

本市の観光入込客数は年間800万人を数えるが、表1-2「平成14年度小樽市観光入

込客数集計表」に見るとおり、その7割は道内客で占められる。

平成14年度小樽市観光入込客数集計表表1-2

観光入込客数 8,476.3千人※左表の1~3は、

道 外 客 2,363.7千人 27.88%観光入込客数を客1

道 内 客 6,112.6千人 72.12%層別に分けたもの

日 帰 り 客 7,734.4千人 91.25%2

宿 泊 客 741.9千人 8.75%

海 水 浴 客 192.8千人 2.27%3

海水浴客以外 8,283.5千人 97.73%

〔小樽市経済部観光振興室『平成14年度小樽市観光入込客数』 〕より

また、平成12年度に市で実施した「小樽市観光経済波及効果調査」によると、道

内客のうち約7割が札幌市を中心とした道央圏からの入り込みであり、さらに、そ

の多くがリピーターとして来樽している。これらの数値は、まさに、小樽が札幌市

民にとっての身近な観光レジャースポットとなっていることを示す。札幌にも開拓

時代の趣きある建築物が残存し、都会らしいアミューズメントスポットなども多く

存在しているが、港まちとして栄えてきた小樽のたたずまいとは趣きを異にするも

のであり、札幌にはない小樽の異国情緒漂うたたずまいと観光資源が札幌市民をひ

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き付けるものと思われる。

一方、札幌への購買力の流出が小樽市内の小売業者にとっては脅威となっている

が、札幌の180万人という人口は、戦略次第では小樽が提供するサービスの消費者

となり得るものであり、札幌市との隣接はビジネスチャンスととらえることもでき

る。

また、小樽は、北海道らしい自然環境に恵まれた後志への西の玄関口でもある。

札幌へ来た観光客の後志管内への回遊、後志特産品の札幌への輸送が活発化される

と、小樽の役割が広がり、ビジネスチャンスも拡大するものと思われる。

さらに、北海道の空の玄関口である新千歳空港とは、札樽自動車道・道央自動車

道を通じて車で約1時間20分、快速電車で約1時間で結ばれている。空港までの移

動時間が1時間ほどというアクセスの良さは、観光やビジネスにも大きな強みであ

る。

札幌にはさまざまな機能が集積し、多くの情報や人間が集まっている。小樽は、

隣接する利点を生かし、そこに集まる情報に耳を傾け、そこに集まる人々の目を小

樽に向けさせることで上手に札幌を利用することもできる。人口も財政規模も小樽

の12倍ある札幌市と対等に対抗しようとすることよりも、このまちが、都会の人々

にとっていかに「特別の場」となるかということに生き残りの策があるように思わ

れる。

3.100年を迎えた歴史ある港湾

○市街地に隣接し、運河などの観光スポットまでの距離が近い

○本州と北海道を結ぶフェリー航路

○アジアやロシアなどの対岸諸国との交易拠点

小樽は、古くからその変化に富んだ海岸線により天然の良港として栄え、北海道

開拓の海の玄関口という役割を担いながら、港湾都市としての地位を築いてきた。

小樽港は、幌内炭田の開発に伴う石炭の積出港として、明治13(1880)年に手宮~札

幌間で鉄道が敷設されたことにより整備された港で、明治32(1899)年の開港以来、

平成11年で100周年を迎えた歴史を持つ。

昭和40年代から、新潟・敦賀・舞鶴への長距離フェリーも次々と就航した。現在

は敦賀便が運休中となっているが、依然として本州と北海道を結ぶ重要な日本海ル

ートの拠点となっている。

平成9年には勝納ふ頭に-13mの大型岸壁が整備され、大型穀物船の入港も可能

となった。また、平成12年には港町ふ頭の-14m岸壁も供用開始された。さらに、

平成14年には中国との定期コンテナ航路が開設されたことに伴い、ガントリークレ

ーンも整備され、港湾機能が拡充されながら利便性を高めている。

なお、表1-3「小樽港における輸出入貨物国別分類表」によると、輸出入合わせ

て550,898トンある貨物量のうち、半数近くがアジアなどの対岸諸国との交易によ

、 。るものであり 小樽港が日本海における重要な交易拠点となっていることが分かる

、 、 、また 石油・天然ガスの開発が進むサハリンとの定期航路も開設されており 今後

対岸の開発による港湾利用の一層の活発化が期待されている。

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平成14年小樽港輸出入国別分類表表1-3(単位 :トン)

貨物合計 輸 入 輸 出

ア メ リ カ 285,686 285,686 0

ロ シ ア 143,558 113,906 29,652

中 国 62,928 55,334 7,594

カ ナ ダ 38,117 38,117 0

タ イ 9,000 9,000 0

韓 国 4,065 3,954 111

北 朝 鮮 3,108 1,823 1,285

コ ン ゴ 2,396 0 2,396

マレーシア 2,040 2,040 0

合 計 550,898 509,860 41,038

〔小樽市港湾部港湾振興室『平成14年小樽港統計年報』 〕より

一方、ウォーターフロントの整備としては、平成2年に小樽港マリーナの供用が

開始された。運河や小樽築港駅周辺の再開発とも相まって、憩いの親水空間を形成している。また、最近では、港が市街地に隣接するという利点もあり、大型観光客

船の「飛鳥」などが入港し、レジャー港としての価値が見直されている。

第2節 歴史と伝統における特色と強み

1.歴史とその遺産

○道内有数の歴史性○豊富な歴史的建造物・産業遺産・文化遺産

小樽は、元治2(1865)年に村並みとして誕生した。明治2(1869)年に明治政府が、 、札幌に開拓使を置くと 小樽のまちは北海道開拓の海の玄関口として大いに発展し

大正11(1922)年に市制が施行された。その後、第一次世界大戦の戦争特需により、

道内で収穫された小豆をはじめとする穀物のヨーロッパでの需要が高騰し、その積出港であった小樽の動きがそのまま世界の商況に影響を与えるという事態に及ぶ

と、巨万の富を得る者も現れてきた。市内中心部の色内本通り周辺には、多くの都

市銀行や商社が軒を連ね、世界の商況を反映して活発な取引を繰り広げた。このことから、その周辺は「北のウォール街」と呼ばれ、一大商業地域として栄えた。

戦後、経済情勢や流通機構が大きく変わり、小樽の経済を支えた雑穀や海産物などの卸商が衰退の一途をたどると、大手銀行や商社も次々と撤退し、小樽のまちは

斜陽の都市と言われた。そのため、高度経済成長期のスクラップ&ビルドの波に流

されなかったことが幸いし、色内本通り、堺町通り、浅草通りなどに往時の繁栄をしのばせる歴史的建造物が数多く残った。これらが、新たな命を吹き込まれて現代

によみがえり、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している。本市では、このたたず

まいを次代に引き継ぐべく、行政と民間で足並みをそろえ、まずは歴史的建造物を保存するという形でまちづくりを進め、昭和58年に「小樽市歴史的建造物及び景観

地区保全条例」を制定し、行政として、正式にまちづくりの方向性を示した。

また、明治・大正期に全盛を誇ったニシン漁も、小樽のまちに大きな財産を築いた。祝津・高島地区にはニシン漁場建築物などが数多く残り、漁場の文化を今に伝

えている。

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2.職人業と技術の伝承

○伝統ある職人業

○地場産業の高い技術力

商工港湾都市として発展してきた小樽は、このまちに住む人々のくらし、また、

さまざまな人々が行う経済活動に必要とされる「モノづくり」のため、多くの職人

がこのまちに集った。ある技術は当時のままの職人業として伝えられ、またあるも

のは、現代社会に必要なモノの生産の基礎技術として市内の中小企業に伝えられて

いる。

当時の日本の基幹産業であった綿花栽培の肥料として、小樽からは大量のニシン

カスが北前船で運搬されたが、これらを支える技術として、造船、錨、ガラス、帆

布、漁具、魚網、ストーブなどの製作技術が培われていった。さらに、石炭輸送な

どを支える技術として、鋳物、大工、木型、金型、金属加工、レンガ積みなどの技

術が鍛えられた。また、小樽のまちが形成されるに伴う内需として生活物資や食料

が供給されていくことになるが、これらは、畳、時計、菓子、酒造、製本、ろうそ

く、家具、ゴム靴、仏壇などの製造技術を高めることとなった。

しかし、時代の流れの中で、あるものは時代遅れとなり、また、あるものは需要

。 、 、が減って厳しい経営を強いられている その一方では 当時のままではないにしろ

その技術が現在にも市内の中小企業の中に息づいている。

例えば、ロケット部品にも利用されているバネや不凍給水栓、半導体工場におけ

る静電気防止の作業靴としてそのシェアを伸ばすゴム製品などがある。また、鋳物

業においては、マンホールの製造に移行し、昭和30年代に始まった全道的な下水道

事業に伴う鋳物製マンホール需要の活況を背景に、マンホールに絵柄を配すること

で日本各地から注文が殺到し生産が追いつかなかったという事例もある。

職人業と最先端技術との融合がもたらすこのような事例は、大規模工場の誘致が

困難な時代に、中小企業の生き残りに多くの示唆を与えるものである。特に最近で

は、異業種交流による新技術・新製品開発などの動きもあり、現在の企業が擁する

技術を活用できるチャンスを注意深く探し出すことも必要である。市内製造業者の

技術は高く、方向付けによっては、さらに目を見張る発展を期待できる。

平成4年、市内の職人たちが職人業の継承や共同研究開発、それぞれの技術の向

上と生業の生き残りを目的に集い 「小樽職人の会」を設立した。その活動は年を、

追うごとに活発化し、平成11年に「全国職人学会」を発足し、全国の職人たちとの

ネットワークを深め、平成15年には「世界職人学会」を開催するなど、その活動は

。 、 「 」世界を股にかけるほどとなっている また 平成9年から実施している 体験工房

では、市民をはじめ市外からの修学旅行生や観光客が数多く参加(平成15年度約

7,500人)し、好評を得ている。このことは、小樽観光の重要な要素となっている

とともに、学校教育や生涯学習の分野においても重要な要素となっている。

当初、30業種32人の参加で始まった小樽職人の会も、現在では81業種86人を数え

る。このような取り組みは全国的にも珍しく、職人の世界に詳しいタレントの永六

輔氏は 「明治時代に小樽へ移住してきた職人たちは、北海道の厳しい気候や物資、

、 。 、が限られる状況の中で 業種を越えて協力し合った その気風が現代に引き継がれ

職人の会の発足に結びついたのであろう」と評価している。

このように、小樽の再生にとって、小樽の職人や中小企業の業や技術における潜

在的なエネルギーはとても大きく、大きな強みとなると思われる。

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第3節 小樽のその他のさまざまな強み

1.観光要素

○全国、アジアに知られるネームバリュー

○年間800万人の観光客

○数多い宿泊施設

○テレビや雑誌などの取材・ロケーションの多さ

小樽は、国内外から年間約800万人もの観光客が訪れる観光都市である。旅行会

社などから聞く話でも、小樽は人気がある観光地であり、雑誌の企画「行きたい観

光地」アンケートでも、上位にランクされている。

小樽の観光資源は、他都市に比べても数多く、ニセコ積丹小樽海岸国定公園内の

勇壮な海岸美、おたる水族館をはじめとする祝津マリンパークの各施設、銀行建築

、 、や洋館・漁場建築などの意匠が楽しめる歴史的建造物群 小樽運河などの産業遺産

朝里川温泉郷、新鮮な海の幸、海水浴やマリンレジャー、スキーなどのウインター

スポーツ、小樽港マリーナなどの親水空間、ガラスやオルゴール…などが挙げられ

る。このほかにも数多くの観光資源があり、アジアの経済成長と相まって、小樽が

国際的な観光都市として発展する可能性は大きい。また、観光都市としての重要な

条件の一つとして、良質な宿泊施設が多くあることが挙げられる。この点について

も、小樽には近年、宿泊施設に対する投資が多くあり、条件を備えているものと思

われる。

このような都市の魅力から、市内では、映画やテレビ、雑誌などのロケーション

や取材が数多く行われている。その中でも、小樽を舞台にした日本映画の「ラブレ

ター」は、国内はもとより海外でも上映され、特に、台湾や韓国で人気を博し、一

大ブームとなった。香港や台湾からの観光客だけでなく、韓国からの観光客の掘り

起こしにも寄与した。これまでも映画やテレビのロケ地という要素が観光へと結び

付いてきたが、アジアをはじめ海外で日本映画が上映される機会が多くなり、さら

に韓国や香港のメディアによるテレビ・映画のロケも行われるようになってきた昨

今では、海外からの集客にも結び付いてきている。

市では、平成15年3月に官民連携による「小樽フィルムコミッション」を設立し

た。全市をあげてのロケ・取材の協力体制づくりを進めることで、今後、さらに多

くのロケ誘致が期待できる。

2.住環境その他

○高等教育機関の充実

(小樽商科大学、小樽短期大学、北海道薬科大学、北海道職業能力開発大学校)

○元気な高齢者

○市民の強い郷土愛

小樽には、ビジネス創造センターの併設とともに、平成16年 4月にビジネススク

ールが開設される小樽商科大学をはじめとした高等教育機関が多くある。このこと

は都市としての大きな財産であるだけではなく、さまざまな情報の集積や専門知識

を持った人材の育成を可能とする。また、産学連携による共同プロジェクトにも参

画するなど、教育機関が地域の活性化における重要な役割を担っている。

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、 、 、また 表1-4が示すとおり 小樽の人口の4分の1は65歳以上の高齢者であるが

高齢者人口の増加が今後も続くことから、労働人口に占める高齢者の割合が大きく

上昇すると予測され、高齢者がまちづくりを進めるための重要な人材となることも

考えられる。

( )表1-4 住民基本台帳~年齢別人口推移と割合 各年末(単位 :人口は人、割合は%)

人口/年 平成10年 平成11年 平成12年 平成13年 平成14年 平成15年

総 計 154,504 153,284 151,715 149,964 148,410 146,874

年 少 人 口 18,327 17,715 17,253 16,710 16,388 15,964

(割 合) (11.86) (11.56) (11.37) (11.14) (11.04) (10.87)

生産年齢人口 102,525 101,093 99,010 97,039 95,065 93,196

(割 合) (66.36) (65.95) (65.26) (64.71) (64.06) (63.45)

老 年 人 口 33,652 34,476 35,452 36,215 36,957 37,714

(割 合) (21.78) (22.49) (23.37) (24.15) (24.90) (25.68)

〔小樽市市民部戸籍住民課『小樽市住民基本台帳人口年齢構成表』 〕より

※年少人口は0歳~14歳、生産年齢人口は15歳 ~64歳、 老年人口は 65歳以上の人の数をいう。

なお、厚生労働省では、2004年度から銭湯を地域の「健康増進拠点」とする方針

を打ち出している。市町村と銭湯が協力して、高齢者に銭湯での入浴のほか、健康

相談も行ってもらうというものである。市内に数多くの銭湯がある小樽市では、高

齢者の健康管理を図ることができ、さらに銭湯を拠点として、元気な高齢者とのネ

ットワークづくりも可能となる。

また、小樽では、かつて、運河の埋め立て推進派、全面保存派とで市内を2分し

た全国的にも知られる「運河論争」があった。これらはまさしくそれぞれ異なった

価値観による郷土愛のぶつかり合いであった。この市民の強い郷土愛は、今なお息

づいており、解体予定だった歴史的建造物を買い取って文化ホールとして活用する

NPO法人のほか、市民の寄付などで運営費をまかない全国的な文学賞を設けてい

る団体など、数多くのまちづくり団体が存在することにも裏付けられる。

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第2章 小樽を取り巻く環境

前章では、小樽のまちの強みについて分析を行った。本章では、SWOT分析のプロセ

、 。スとして 本市の抱える構造的な弱みと外部環境である機会と脅威を分析することとする

第1節 小樽が構造的に抱える弱み

1.地勢的側面

○行政コストが多くかかる地形(東西に細長く、山坂が多い)

○行政コストが多くかかる気候(降雪量が多い)

○平坦地が少ない(大規模施設の建設が困難)

小樽市は、東西に細長い地形のため、消防署に代表されるように、施設の配置な

どにおいても効率的に展開することが難しく、行政コストが多くかかる。また、市

、 、域の大部分を山地や丘陵地が占めているため 平坦地が少なく急坂が多いことから

降雪期間には車両の通行に危険が生じ、ロードヒーティングの敷設個所も多い。さ

らに降雪量も多いため、除排雪費に年間10億円も要するなど、行政コストが大きく

なる傾向にある。

また、市街地には、広く使用できる平坦地がないため、大規模な施設の建設も難

しい。

2.経済・財政的側面

○基幹産業がない

○雇用の場が少ない

○勤労者の低所得

○低廉で質の良い住宅が少ない

○保守的な住民気質

○競合する重要港湾を二つ持つ

○小樽港では港湾後背地が少なく機能拡充が困難

小樽には、高い技術力を持つ中小製造業が多い反面、かつて小樽経済を支えた卸

売業・繊維業などの衰退で、小樽経済の軸となるような基幹産業がないことから、

雇用の場も少ないのが現状である。

中小零細企業が多く、日本の長引く景気低迷を反映して小樽経済全体が停滞して

いる状況は、税収が上がらない原因の一つとなっている。

また、平坦地が少なく傾斜地が多いことから、土地の造成や住宅建設のコストが

多くかかる。そのため、低廉で質の良い住宅が少なく、また、雇用の場も少ないこ

とから、若年層の人口流出が激しく、高齢化に拍車をかけている。

若年層の人口流出により市内に留まる人材が不足するため、企業や店舗における

後継者不足にもなっている。高齢化が著しいためか、新しい取り組みを敬遠する保

守的な傾向もあり、経済活性化策の展開が難しくなっている。

現在、本市は、小樽港と石狩湾新港の二つの重要港湾を抱えるという特殊な状態

になっている。石狩湾新港は北海道、石狩市、小樽市の共同管理で運営されている

が、実態としては北海道が主体となっている。新港の港湾管理には協定書が交わさ

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報告書Je t-P ro jec t

れ、協定の規定により、本市は港湾整備にかかる経費の一部を負担をしている。し

かし、この負担は、小樽市域側に企業立地が進まない現状では、市にとって大きな

重荷となっている。また、小樽港は市街地に隣接する反面、後背地が少ないことか

ら、港湾機能の再編も検討されている。

第2節 小樽を取り巻く社会的な潮流

これまでの常識だった右肩上がりの経済成長は今後見込めず、社会全体が大きく変わり

つつある昨今、小樽市など自治体を取り巻く環境も大きな変化を迎えている。そのため、

小樽の将来的な戦略を考える上で、時代の潮流を無視することはできず、逆にその変化を

チャンスととらえ、時代に沿った運営を行っていく必要がある。

そこで、ここでは、時代の潮流について分析したい。

1.人口減少社会の到来と少子高齢化の急速な進行

○人口の急速な減少

○高齢化の急速な進行

○少子化の急速な進行

平成12(2000)年の日本の総人口は、同年の国勢調査によると1億2,693万人であ

った。国立社会保障・人口問題研究所が行った推計調査の結果によると、平成18

(2006)年ころに1億2,774万人でピークに達した後、長期の人口減少過程に入ると

いう。平成25(2013)年には、ほぼ現在の人口規模に戻り、平成62(2050)年にはおよ

そ1億60万人になるものと予測されている。このように、わが国はまもなく人口減

少時代に突入し、右肩上がりの人口増加の傾向は終わる。これは、出生率の低下と

高齢化の急速な進展による自然減の結果である。

今後、各地域では、少ない人口のパイの奪い合いをますます激化させてくると思

われる。本市においては、年々、人口が減少するとともに、高齢化率が25%を超え

。 、 、 、ている 今後 さらに人口が減少し ますます高齢化が進むことを十分に考慮して

まちづくりの戦略を練る必要がある。

2.高度情報通信社会の到来

○IT化の進展

○ネットワーク社会の到来

コンピューターが飛躍的に普及し、インターネットの利用者が急増した結果、会

社や組織のみならず、個人レベルのネットワークも世界中に広がり、国境を越えた

情報のやりとりが頻繁に行われている。

これに伴い、国もIT化に向けた政策を積極的に展開するようになった。今後、

地方に居ながら中央との情報のやりとりもスムーズにできるようになり、地方と中

央との情報格差もなくなると思われる。

、 。 、 、また 世界に向けた情報の発信も瞬時に可能となってきた さらに IT技術は

福祉コミュニティを築くにあたっての重要な素材ともなり、地域間の連携に大きく

寄与するものとなっている。

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3.日本経済の低迷と自治体財政の危機

○日本経済の低迷

○国と自治体の財政危機

○失業率の上昇

'90年代の日本は 「失われた10年」と言われ、経済の地盤沈下が続いた。この、

背景には、バブル崩壊後に残った不良債権の処理がなかなか進まなかったことや、

低廉な人件費などの好条件を求めて企業の海外移転が進んだこと、海外の安価な製

品が国内市場に大量に供給され価格競争の激化を招いたことなどがある。こうした

一連の動向により、日本はデフレ状態に陥ったと言われ、企業活動をはじめとする

さまざまな部門で悪影響が生じている。

加えて、少子高齢化の到来は 「より少数の現役世代がより多くの高齢者を支え、

る」構図となり、現役世代の負担を増加させる要因ともなっている。そのため、将

来への不安から個人消費が停滞することにもつながっている。

こうした長引く景気の低迷は、税収の低下を招き、国や地方自治体の財政を硬直

化させている。

4.国内外の地域間競争の時代

○アジアの経済成長

○ボーダレス化の進行

○グローバル化

○強大化した大都市札幌市との競合

○海運物流の拠点ルートは太平洋側

情報・通信機器や交通手段の飛躍的な進歩により、各国の経済は今まで以上に結

び付きを強めている。こうした中、アジア諸国では、他国からの生産拠点のシフト

。 、 、 、 、などにより経済的にも大きな成長を遂げている 特に 中国では 北京 天津周辺

上海、香港、広東を中心に工業ベルト地帯が広がり、都市整備のための建設ラッシ

ュで沸き返っている。各国の経済成長に伴い、国民の所得も上昇し、アジアが海外

旅行やし好品の一大市場になりつつある。

さらに近い将来には、仙台から東京、北九州を通って、釜山からソウル(今はソ

、 )、 、 、 、ウルで中断しているが 10年後には北朝鮮をも通り 天津 上海 シンガポール

ジャカルタまで、16億人程度の人口を擁する巨大な都市工業ベルト地帯ができると

も言われている。実質的には東アジアが一つの国のように、グローバル化が進むと

予想されている。

しかし、製造業などにおいては、アジア諸国の安い人件費を背景に、日本経済を

脅かす存在となっている。地域間の競争は国内にとどまらず、世界、特にアジアを

視野に入れなくてはならなくなってきている。また、日本市場の閉鎖性が世界的な

批判の的となり、外国企業も自由に日本国内で活動できる環境づくりが求められて

いる。

5.生き方・考え方の多様化

○パーソナル化の進行

○教育に対する関心の高まり

○健康・安全志向の高まり

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報告書Je t-P ro jec t

一つの会社に定年まで働くという終身雇用制度が見直されつつあり、雇用の形態

が大きく変わってきている。最近では、労働者の約4人に1人がパート労働者とな

。 、 、っている 企業側に正社員を雇う体力がなくなってきたこともあるが その一方で

自分の技能や価値観に応じて、自由な働き方を選択する人々が増えてきていること

も背景にある。

社会への不安感が増し、人やモノ、情報の国際交流が盛んに行われている昨今、

人々の価値観は画一的ではなくなり、自分らしくゆとりをもって生き、心の充足感

を求める人が多くなってきた。観光や消費動向においても、画一的な志向は失われ

つつあり、個人の価値観が優先される時代となっている。

このような背景や少子化を受けて、教育の質の向上に対するニーズが高まってい

る。子供たちの教育に対しては、その子供の能力や適性に応じた教育を受けられる

ようなシステムが求められている。また、高齢社会の到来に伴い、自己実現や自己

向上の欲求が高まりつつあることから、生涯学習施設やそのシステムづくりが求め

られている。

さらに、高齢化の進展に伴って、健康志向も高まり、食に対する安全性の要求も

大きくなってきた。また、昨今の社会不安を象徴するかのように、犯罪などのない

安全な社会環境も重要視されている。

6.地方が地方らしく … 行政を取り巻く潮流

○地方分権(権限委譲)の進展

○規制緩和の進行

○民間企業の行政分野への進出

○行政組織のスリム化と再編化

○市民の行政参加意識の高まり

全国一律の時代から、地方分権という、地方自治体がそれぞれの実状に応じて自

らの裁量により柔軟にまちづくりを行っていく時代を迎えている。

しかし、地方では、自主的な財源は限られているという状況にあっても、地域経

済や観光の振興、防災などに対応していかなくてはならない。また、国の規制緩和

が次第に進められている中、福祉や行政事務などでは民間企業の行政分野への進出

も多くなってきた。今後、地方自治体は、民間企業との棲み分け(共存)も視野に

入れていかなければならない。

地方は、地域振興及び経済硬直化の打開策として、規制緩和による特区制度を活

用することを考えており、今後、同じタイプの地域間で競争が激化していく。競争

に打ち勝つためには、議会や行政組織の改革を含めた効率的な行政運営を図ること

が必要となる。

このような厳しい状況にあっても、地方自治体はその地方の特色あふれる自治を

目指し、知恵を絞っている。人々の考えや生き方が多様化する中、住民の行政参加

意識も高まり、住民自身がまちづくりのパートナーへとその役割を変化させつつあ

る。このようなパートナー型住民が、ボランティアやNPO活動に関わりながら積

極的に自治へ参加するようになってきた。自治体と住民とのパートナーシップが今

後の地方自治には不可欠である。

以上、第1章及び本章を通じて、SWOT分析の枠組みにより、本市の強みと弱み、

そして機会と脅威を分析してきた。それをまとめたものが次の表2-1である。ここに整

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理された要素が、今後の議論の前提事項であることを確認しておきたい。

本市のSWOT分析表表2-1

Strengths(強み) Weaknesses(弱み)

・海と山に囲まれた豊かな自然 ・行政コストが多くかかる地形・大都市との隣接による (東西に細長く山坂が多い)

人やモノの高い交流機会 ・行政コストが多くかかる気候

・大都市との交通アクセスの良さ (降雪量が多い)・豊富な歴史的建造物や文化遺産 ・港湾後背地がないため、

・豊富な産業遺産 港湾機能の拡充が難しい

・港が市街地に隣接 ・平坦地が少なく、・アジアやロシアなど対岸との交易拠点 大規模施設の建設が難しい

・フェリー航路を有する ・重要港湾が二つあり、

・上下水道の高い普及率 それらが競合している・数多い宿泊施設 ・基幹産業がない

・800万人を超える観光入込客数 ・雇用の場が少ない

・高等教育機関の充実 ・低廉で質の高い住宅が少ない(小樽商科大学、

小樽短期大学、北海道薬科大学、

北海道職業能力開発大学校)・地場産業の高い技術力

・伝統ある職人業・全国、アジアに知られる

ネームバリュー

・元気な高齢者の多さ・取材のロケーションの多さ

(高いマスコミの注目度)

・郷土愛の強さ

Opportunities(機会) Threats(脅威)

・IT化の進展 ・経済状況の低迷

・ネットワーク社会の到来 ・国や自治体の財政危機

・グローバル化の進行 ・国内外の地域間競争の激化・ボーダーレス化の進行 ・札幌市の強大化

・規制緩和の進行 ・高齢化の急速な進行

・アジアの経済成長 ・少子化の急速な進行・民間企業の行政分野への進出 ・人口の急速な減少

・地方分権(権限委譲)の進展 ・失業率の上昇・市民の行政参加意識の高まり ・海運物流拠点ルートは太平洋側

・パーソナル化の進行

・教育に対する関心の高まり・行政組織のスリム化と再編化

・健康、安全志向の高まり

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第3章 小樽市の進むべき方向性の考察

第1節 将来都市像の方向性

ここまで、本市の特質としての「強みと特色 「構造的な弱み 、そして本市を取り」 」

巻く環境変化などの本市を取り巻く「社会潮流」をみてきた。

ここでは、本市が今後どのように進むべきかを示す、都市としての活力を維持するた

めの最適な将来都市像を検討したい。

本市が将来にわたり持続的活力を維持するには、前章までで確認したSWOT分析の

考え方に基づき、本市の「強みと特色」を生かしつつ「社会潮流」への適切な対応を図

りながら、既存の「強みと特色」をさらに強化することや 「構造的な弱み」を克服す、

る方向性に進路をとるような戦略的な取り組みが必要である。これを分かりやすく示す

と図3-1の考え方によって表される。

戦略的な取り組みの考え方図3-1

本市の「強みと特色」の強化本市の「強みと特色」の活用 × 「社会潮流」への適切な対応 ×

本市の「構造的な弱み」の克服

上記の考え方に本市の特質を当てはめて検討した結果、以下の三つの方向性を見いだ

すことができた(表3-1)。

SWOT分析の考え方から導かれる本市の進むべき方向性表3-1

本市の進むべき本市の強みと特色 社会潮流への対応 強みの強化 / 弱み ・課題の克服

方向性(を生かしつつ) (を図ることによる) 【最適な方向性】

・高等教育機関 ・教育の質の向上 ・産学連携による産業創出

・豊かな自然環境 ・生涯学習の機運 ・生きがいづくり教育文化都市

・歴史と伝統 ・個人の価値観の多様化 ・自己実現

(産業文化遺産の活用) ・ネットワーク社会 ・世代間交流

・郷土愛 ・高齢化社会への対応 ・民活による財政負担縮減

福祉コミュニティ(地域貢献の意識) ・健康、安全志向の高まり ・シルバービジネスチャンス

都市・元気な高齢者 ・協働型社会の実現 ・高齢者の生きがいづくり

・ネットワーク社会

・豊かな自然環境 ・価値観の多様化 ・観光の基幹産業化と

・歴史と伝統 (趣味志向、本物志向) 波及効果の実現

国際観光都市(産業文化遺産の活用) ・グローバル化 ・新産業の創出

・ブランドと知名度 ・対岸諸国の経済成長 (税収と雇用の場の創出)

(道内有数の観光都市) ・高齢化社会への対応

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ここに導かれた「教育文化都市 「福祉コミュニティ都市」そして「国際観光都市」」

という三つの方向性は、単独でも本市の進むべき将来都市像となり得るものである。

しかし、これら三つの都市像は、それぞれの方向性は異なっていても、相互に排他的

な性質を持たない。すなわち、右肩上がりの成長を経て縮小均衡型社会を迎えている中

で 「教育文化 「福祉コミュニティ 「国際観光」という都市像は、拡大・成長という、 」 」

視点ではなく、いずれもが質的な充実を志向している点で共通しているためである。

したがって、三つの都市像の持つ特質を有機的に結び付けつつ将来都市像を描くこと

が、本市の「強みと特色」をさらに強化する、もしくは「構造的な弱み」を克服するこ

とにつながる関係、いわば強固な『組合せの妙』につながるものと考えられる。

『組合せの妙』とは、将来都市像を構成するいくつかの要素が、それぞれ単独に存在

している時に比べ、共存することでより効果を発揮することができる、あるいは、互い

に依存し影響し合うことで、個々の和よりも全体の方が大きくなるような関係性を意味

し、二つの効果から成り立つものである。一つは相補効果(コンプリメント効果 、も)

う一つは相乗効果(シナジー効果)と呼ばれるものである。

相補効果とは、三つの将来都市像のそれぞれが、他の足りない部分を補い合うことに

より、単独でよりもうまく機能する効果を意味している。

下の図3-2で 「国際観光都市」と「福祉コミュニティ都市」の関係性をみると 「国、 、

際観光都市」の側面では、観光案内などの現場において、高齢者を含め、ボランティア

などの良質な働き手が得られると同時に、市民意識の向上に伴うホスピタリティの浸透

が図られていく。また 「福祉コミュニティ都市」の側面では、観光産業などの現場に、

おいて、市民の生きがいづくりや社会貢献が図られたり、高齢者の健康増進に寄与する

などのプラスの作用が得られる。

この関係性は、一つの将来都市像の不足している部分を他の将来都市像の要素が良い

影響を補完的に及ぼし合うことで、密接不可分な関係を構築することを意味している。

相補効果と相乗効果図3-2

ホスピタリティ 生きがい、社会貢献(相補効果)

ボランティア 健康増進

国際観光都市 福祉コミュニティ都市

観光教育・人づくり 生きがい

産学連携 メージアップ コミュニティの再生

産業の活性化

税収増・人口増

(相乗効果)

観光・学術交流 技術・知恵の伝承

産学連携 生涯学習・継続学習教育文化都市

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次に、相乗効果とは、三つの将来都市像が関係し合い、相補効果を発揮する中で、さ

らに波及的に得られる効果を意味する。

先の図3-2では 「国際観光都市 「福祉コミュニティ都市 「教育文化都市」の要素、 」 」

が関係し合い 『組合せの妙』を発揮することによりイメージの向上が図られ、小樽の、

知名度やブランド力を向上させる。これにより、産業の活性化に寄与したり、税収増・

人口増に作用したりするなど、さまざまな波及効果が生ずる。

すなわち、相乗効果とは、相補効果を前提とし、その波及効果として生ずる影響であ

るとともに、三つの将来都市像が調和を図りながら向上しつづけるための原動力となる

ものである(図3-3)。

将来都市像を描くためのアプローチ図3-3

本市の「強みと特色」の活用 「社会潮流」への適切な対応×

【社会変化を前提】

( )三つの将来都市像 方向性

教育文化都市 福祉コミュニティ都市 国際観光都市

相 補 効 果 相 乗 効 果

(コンプリメント) (シナジー)

組合せ

本市の将来都市像

【組合せの妙】

(相乗効果・相補効果)

第2節 『資源適合』と3Rの視点( 成功の鍵 = K ey F a cto rs F o r S u c ce ss」としての認識)「

、 。本市が構造的に財政的な困難に陥りやすい体質にあることは 先にみたとおりである

、 、 、さらに 今後については かつて経験したことのない少子高齢化社会が待ち受けており

本市をさまざまな面で制約する条件となっている。

しかしその一方で、豊かな自然環境を含む恵まれた地勢のもと、古くから商都として

栄えてきた本市には、ハード面、ソフト面のいずれにおいても活用できる資源に満ちあ

ふれていることを、再認識するべきである。これらの資源を余すところなく生かしきる

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ことが、将来にわたって本市が活力を維持するためのよりどころとなる。

先に検討した三つの将来都市像は、本市の既存の資源と今後の社会変化を前提として

導かれた方向性であるが、これらを実現させるためには、資源を効果的かつ継続的に活

用する が必要となり、『資源適合』

(1)将来都市像の実現に必要な資源の裏付けがあること

(2)将来都市像の実現のために、持てる資源を最大限有効に利用すること

(3)将来都市像に向けた実現化の取り組みを進める過程で、再び資源を蓄積すること

が求められる。このプロセスは循環的なものであるがゆえに、将来にわたって環境変化

に対する持続的対応を図るという望ましいあり方を実現することが可能となる。

これらの一連のプロセスとしての「資源適合」の状態を意識的、組織的に作り上げる

『成功の鍵=Key Fact ors Fo rことが、本市が将来にわたり活力を維持する上での

となるものであり、不可避的な取り組みであることを認識Success(以下、KFS 』)

しておくことが重要である。

さて 「資源適合」の状態を意識的に作り上げるためには、以下に掲げる三つの視点、

が重要であると考えられる。

一つめは の視点である。本市の特質をみると、古くから北の商都、『再生(Revive 』)

として栄え、歴史的建造物が数多く、海と山、温泉など天然の資源を含め、魅力に満ち

た観光資源が多い。また、港湾機能をはじめとする交通アクセスや良好な住環境などの

都市基盤も有効な資源となっている。これら本市に既に備わるものを時代のニーズと環

境変化に対応させ 「再生」を図っていくことが求められる。また、今後の成熟型社会、

においては、個人の価値観の多様化が進み、生きがいづくりや地域社会における貢献を

通じての自己実現など、個人や地域コミュニティ単位における「再生(新たな価値を吹

き込むこと 」が重要性を増していくと考えられる。こうしたハード(資源)とソフト)

(人やコミュニティ)の「再生」を、小樽らしさを活かしながら実現していく視点が求

められる。

二つめは の視点である。本市の資源的特質の根幹を成すものは、、『再編(Regroup 』)

まちとしての歴史性、自然環境、都市基盤、観光客の流入にもみられるブランドやイメ

ージ、風土的気質としての地域愛などであり、有形・無形を問わず多様性に富むもので

ある。今後の取り組みについては、従来型の固定的な枠組みを越え、さまざまな組織や

業種が結び付いたコラボレーション(協働 、新と旧との交わりなど、本市の多様性に)

富んだ特質を横断的に資源として「再編」していく視点が求められている。

三つめは の視点である。上記の「再生」と「再編」の視点を、『再評価(Revalue 』)

意識しながら資源を活用するにあたり、やみくもに資源を摩耗することは避け、新たに

創出し蓄積していく姿勢が求められる。そのためには、従来見落とされていた資源的価

値や今後新たに活用すべき潜在的資源を見落とすことなく、状況に応じて適切に評価・

活用することが必要である。このように 「再評価」を意識的に行うことが重要となっ、

ていく。

三つの都市像である「教育文化都市 「福祉コミュニティ都市 「国際観光都市」を」 」

同時に追求することが本市の将来都市像としての『組合せの妙』であり、これを実現す

るには、 が不可欠である。KFSとしての「資源適合〔再生・再編・再評価=3R 」〕

すなわち、今ある資源を「再生 「再編 「再評価」の視点から最大限に活用しつつ、」 」

新たな資源を創出・蓄積していくことで、持続的な将来都市像へのアプローチを図るこ

とが可能となる。そして、これら一連の取り組みは、本市の資源や特質を媒介として現

『ダイナ在の取り組みと将来の取り組みとが一貫性をもってつながるという意味から、

としてとらえることができる(図3-4)。ミックな組合せの妙』

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3R〔資源適合〕と『組合せの妙』の関係性図3-4

●将来都市像実現の鍵 = K e y F a c to rs F o r S u cc ess●

の状態「資源適合」

�資源の裏付けがある将来都市像

�資源の有効活用

�資源の蓄積

●新たな価値・使命を ●多種多様な特色や資源を

吹き込むこと 横断的に再編すること

・自然や地勢 ・既存の組織・業種の

・歴史的資産、都市基盤 枠組みを越えた協働

・人、コミュニティ ・新と旧の交わり

「再生」の視点 「再編」の視点

(R evive) (R eg ro up)

再生・再編・再評価

3R

●見落とされていた資源、潜在的な資源を見いだすこと

●新たな資源を創出・蓄積すること

「再評価」の視点

(R evalu e)

本市の将来都市像

ダイナミックな組合せの妙

・ 組合せの妙」に基づく将来都市像「

・時間経過とそれに伴う取り組みによる

資源の活用と蓄積の循環的営み

三つの都市像の「組合せの妙」

(相乗効果・相補効果)

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第4章 将来都市像として導かれる「はぐくみ交流都市・おたる」

第1節 三つの都市像が内包するエッセンスの抽出

前章では 本市の将来的な方向性を示唆するものとして 三つの方向性 すなわち 教、 、 、 「

育文化都市 「福祉コミュニティ都市 「国際観光都市」を抽出し、これらを相乗効果」 」

と相補効果を発揮する形で組合わせる『組合せの妙』により、本市の資源を最大限に活

用し、かつ、環境変化に対する適応力を持った都市像を描くことが可能であるとの見解

を示した。

また、その実現と持続力の確保につながる成功の鍵〔KFS〕として 「資源適合」、

の状態が必要であること、具体的には〔再生・再編・再評価=3R〕の視点が不可欠で

あるとの認識を示した

本章は、こうした思考の枠組みを前提として、本市の具体的将来都市像としての進む

べき進路を探ることをねらいとする。

まず、本市の真の将来都市像を描くためのアプローチとして、三つの方向性のそれぞ

れのイメージやコンセプトを分類・整理し、それぞれの構成要素となるエッセンス(本

質)を抽出したものが以下の表4-1である。ここに列挙されたエッセンスを一つに再構

築することで 『組合せの妙』が最大限に発揮される将来都市像を検討していくことと、

する。

三つの方向性を構成するエッセンス表4-1

イメージ・コンセプト 構成するエッセンス方 向 性

・高齢化社会に対応した生涯学習 ・人と知恵の交流と創造

・雇用形態の多様化に対応した継続教育(職業能力) ・生きがい創造

・少子化に対応した地域ぐるみの教育 ・人材育成、子育て支援教 育 文 化 都 市

・産業分野の人材育成 ・産学連携

・産学連携による事業基盤の底上げ ・異業種交流(クラスター)

etc etc・地域資源を活用した学術研究と実用化 … ・地場産業の育成と支援 …

・元気な高齢者の活躍、知恵と経験の地域資源化 ・地域コミュニティ

(高齢化社会の短絡的なマイナスイメージの一掃) ・人と人の交流と連携福祉

・シルバービジネスの育成と支援 ・協働、支え合いコミュニティ都市

・NPO、ボランティアなど社会参画の推進 ・世代間交流、生きがい創造

etc etc・地域コミュニティの再生(支え合うまち)… ・社会参画意識、自発性 …

・経済波及効果を伴う基幹産業化 ・人と時(歴史性)の交流

(滞在型、回遊型、体験型、特産品) ・人の連携、学び合い

・新たな観光資源発掘(歴史資産、港湾の活用など) ・人材育成

・本物志向(市民の理解と協力、教育部門との連携) ・生きがい創造国 際 観 光 都 市

・市民ぐるみのホスピタリティ ・新たな価値、新産業の創出と育成

・国際観光都市化による知名度・ブランド力の強化 ・産学連携、地場産業の育成と支援

etc etc・人材の活用(高齢者を含む雇用の場)… ・異業種交流(クラスター)…

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報告書Je t-P ro jec t

第2節 三つの都市像のエッセンスの再構築

前節では、三つの都市像のイメージやコンセプトと、その構成要素として抽出される

主要なエッセンスを整理した。

これらのエッセンスを都市の主要な二つの要素である「くらし」と「活力 、すなわ」

ち 人の生活や心の豊かさという 人・生活の軸 と 産業の振興や地域活性化など 価、 「 」 、 「

値・活力創出の軸」の二つの軸に分類整理したものが表4-2である。

「くらし」と「活力」の軸に分類されるエッセンス表4-2

人・生活の軸 価値・活力創出の軸

・ 人の交流と連携 ・ 知恵の創造

・ 世代間交流と連携 ・ 人材育成

・ 時(歴史性)の交流 ・ 産学連携

・ 人材育成 ・ 異業種交流(クラスター)

・ 生きがい創造 ・ 地場産業の育成と支援

・ 子育て支援 ・ 新産業の創出と育成

・ 地域コミュニティ ・ 新たな価値の創造

・ 協働、支え合い ・ 社会参画・自発性

・ 社会参画・自発性

●「人・生活の軸」について

まず「人・生活の軸」を見ると 「人の交流と連携 「生きがい創造 「子育て支援」、 」 」

「地域コミュニティ 「協働、支え合い 「社会参画・自発性」などのエッセンスに分」 」

類される。本市の「人・生活の軸」における将来都市像を展望すると、社会転換の中で

、 「 」 。価値観の多様化が進み 地域コミュニティにおける 支え合い が重要性を増していく

そうした気運の中で、社会参画による自己実現や個人の生きがいが創出されるという図

式が浮かび上がってくる。

まず 「教育文化都市」の側面からは、生涯学習による知識の習得、雇用形態の多様、

化に伴う継続的な職業能力の向上、他者との学び合いの中から生まれる自己実現や生き

がいの創出などが想起される。

「福祉コミュニティ都市」の側面からは、個人の価値観の多様化が進む中で、社会参

、 、 、画意識や自発性 ボランティア意識が今後ますます高まりをみせ 子育て支援をはじめ

さまざまな協働のスタイル、いわば新たな地域コミュニティとしての支え合いが生じて

くる可能性があり、それに対応できる体制づくりが必要であると認識させられる。

また 「国際観光都市」の側面からは、本市における観光に対する重要性の認識が高、

まる中で、市民の理解と協力体制が深化し、地域ぐるみの「おもてなしの心」が生まれ

ることも期待できる。市民一人ひとりが、小樽市が観光都市であることを認識するとと

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報告書Je t-P ro jec t

もに誇りを持ことによって、本物志向の観光客のニーズに対応できるホスピタリティの

醸成が可能となる。これらにより、営利・非営利(ボランティアなど)を問わず、多く

の人が本市の観光施策にさまざまな形でかかわりを持つ土壌が生まれる。

すなわち、観光とは、単に産業としての重要性のみならず、一人ひとりの市民にとっ

ても、人と人との交流の場であるとともに、観光に自らコミットメント(関与)する人

にとっては、自己実現や生きがいづくりの場がさまざまな形で創出され得る可能性を秘

めたものであることが分かる。

このように、本市の将来都市像を描く上で 「人・生活の軸」に分類されるエッセン、

スを眺めると、価値観の多様化が進む中で、人が自己実現を求める、生きがいづくりの

場を求めるという気運が確実に強まっていくことが予想される。こうした社会ニーズに

対応するためには、人と人とがさまざまな形で『交流』できる場が必要であり、また、

人と『連携』する機会があることにより、効果的に各人の目的が達成される可能性が高

まっていく。

以上を踏まえ というあり方を「人・生活の軸」の将来都市像を描く、『交流と連携』

ためのキーワードと位置付けたい(表4-3)。

「人・生活の軸」の将来都市像を描くキーワード表4-3

価値観の多様化が進む中で、自己実現や生きがいづくりの場を求

める社会ニーズが増大する。それに対応するためには、人と人とが

『 』 、『交流と連携』 さまざまな形で 交流 できる環境と雰囲気が必要であるとともに

人と『連携』する機会が豊富にあることによって、効果的に各人の

目的が達成される可能性が高まる。

●「価値・活力創出の軸」について

エッセンスを分類した表4-2の「価値・活力創出の軸」を見ると 「知恵の創造 「人、 」

材育成 「産学連携 「異業種交流(クラスター 「地場産業の育成と支援 「新産業の」 」 )」 」

創出と育成 「新たな価値の創造」などが分類される。すなわち、本市の「価値・活力」

創出の軸」の将来都市像を展望すると、地域資源を最大限に活用しながら、同業種、異

業種、あるいは産学、意欲ある個人など、さまざまな活動主体が相互に緊密な連携を図

りながら、知恵や付加価値を創造していく姿が浮かび上がる。

まず 「教育文化都市」の側面からは、本市にある教育機関はその専門性を遺憾なく、

発揮し、新たな活力源としての付加価値創出のため、民間活動の連結、あるいは後押し

としての役割を担う重要性が今まで以上に高まることが予想される。また、活力創出の

基盤づくりのため、人材育成の必要性が個人、企業などさまざまな場面で増大する。こ

うした、地域としての『基盤づくり=人材育成』のニーズは、今後ますます重要になる

と考えられる。

「福祉コミュニティ都市」の側面からは、少子高齢化というかつて経験したことのな

、 『 』 、い社会が現実化する中で 従来のような お年寄り=弱者 というイメージから脱却し

「元気な高齢者」の知恵や経験とバイタリティを積極的に価値の創出に活用していくこ

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報告書Je t-P ro jec t

とが望まれる。すなわち、地域コミュニティにおいて、あるいは観光産業の面などで、

、 。 、元気で社会参画意識のある高齢者が貢献できる分野は 数限りなく存在している また

高齢化が進展する中で、シルバービジネスの成長する素地もさまざまな局面で生じつつ

ある。こうした環境変化を的確にとらえ、積極的な価値創造を図ることにより、新たな

産業創出の切り口としていくべきである。

また 「国際観光都市」の側面からは、本市の観光人気を一過性のものとせず、今後、

も持続的な魅力を維持するために 「本物志向」の観光都市へと転化していく必要性が、

高まっている。そうした取り組みを追求する中で、他の産業への波及効果を生み出す観

光を本市の次世代を支える基幹産業として育てていくべきである。すなわち、業種、業

界を問わず、観光に対する理解と意識を深め、地域資源を最大限に活用して魅力づくり

を行うとともに、例えば、体験型観光などを新たな観光資源として創出・育成していく

ことは、観光客に飽きられないためにも、資源を枯渇させないためにも不可欠である。

、 、 、また 市民の観光に対する意識を高めるため 教育機関で特色ある観光教育を行ったり

意欲ある市民の観光ボランティア隊を組織したりするなど、高度化する観光ニーズに対

応できる人材を育成し、訪れる観光客をリピーター化するような地域ぐるみでの戦略的

な取り組みが必要になると考えられる。

このように、小樽の将来都市像を描く上で 「価値・活力創出の軸」に位置付けられ、

、 、 、 、るエッセンスを眺めると 少子高齢化 地域間競争 個人の価値観の多様化が進む中で

本物志向などの質の高度化も進展するなど、これまでとは異なる新たな社会が出現する

ことが予想される。こうした社会変化に対応するために、新たな切り口の発想と価値の

創出とともに、さまざまな問題解決法を『創造』する取り組みが重要性を増していくも

のと考えられる。それと同時に、これらに対応できる人材を『育成』する取り組みも必

要となると考えられる。

以上を踏まえ というあり方を「価値・活力創出の軸」の将来都市像、『創造と育成』

を描くためのキーワードと位置付けたい(表4-4)。

「価値・活力創出の軸」の将来都市像を描くキーワード表4-4

さまざまな面で従来と異なる新たな社会が現実化する中で、社会

変化に対応するための新たな切り口の発想と価値の創出が重要性を

増していく。

すなわち、社会変化に的確に対応するために、新たな価値や問題『創造と育成』

解決法を『創造』する取り組みが必要となる。それと同時に、そう

した取り組みに対応できる人材を『育成』する体制づくりが重要性

を増していく。

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第3節 将来都市像としての「はぐくみ交流都市・おたる」

前節では、三つの都市像のエッセンスを抽出し、それを再構築する過程で 「人・生、

活の軸」では『交流と連携』というキーワードを、同様に「価値・活力創出の軸」では

『創造と育成』というキーワードを見いだすに至った。

ここでさらに重要なことは、この二つのキーワードは、それぞれが見いだされた軸の

みではなく、もう一方の軸においても不可欠な要素となっていることである。

例えば 『交流と連携』については、異業種交流(クラスター)や産学連携など、多、

様なネットワークによる新たな価値の創出という観点で 「価値・活力創出の軸」でも、

重要なキーワードとなっている。

同様に 『創造と育成』は、生きがい創造や地域ぐるみでの人材育成など 「人・生、 、

活の軸」でも密接な関係を持っている(図4-1)。

すなわち 『交流と連携 『創造と育成』という二つのキーワードの取り組みを同時、 』

に追求することで 「人・生活の軸」と「価値・活力創出の軸」が有機的に結び付き、、

「人を育てる 「活力を生み出す」という都市のバイタリティーを高めるもとを生み出」

す構造となる。

「交流と連携」と「創造と育成」の関係性図4-1

【 】【人・生活の軸】 価値・活力創出の軸

人を育てる

交流と連携 創造と育成

創造と育成 交流と連携

活力を生み出す

さらに、この構造に3R〔再生・再編・再評価〕の視点を加えることによって、資源

を効果的かつ継続的に活用する『資源適合』が図られ 「人を育て 「活力を生み出す」、 」

ことが一時的なものではなく、持続的に維持されることになる。これが、前章で述べた

『ダイナミックな組合せの妙』にほかならず、小樽の将来都市像となるものである。

、 、 、『 』言い換えると 小樽の将来都市像は 三都市像と3Rの視点を基本に 交流と連携

『創造と育成』を同時に追求することで、持続的に「人を育て 「活力を生み出す」サ」

イクルであると定義することができる(図4-2)。

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そして、この将来都市像を 『交流と連携 『創造と育成』というキーワードを用い、、 』

と呼ぶこととする。「はぐくみ交流都市・おたる」

「はぐくみ交流都市・おたる」が導かれるまで図4-2

教育文化都市 福祉コミュニティ都市 国際観光都市

エッセンスを抽出し再構築

「組合せの妙」 「資源適合」

相乗効果と相補効果 3R…再生・再編・再評価

【人・生活の軸】 【価値・活力創出の軸】

交流と連携 創造と育成

人を育てる

「 」組合せの妙

交流と連携 と 創造と育成

の視点3R

活力を生み出す

「 」はぐくみ交流都市・おたる《ダイナミックな組合せの妙》

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第5章 「はぐくみ交流都市・おたる」の具体像

前章までは、将来都市像として 「はぐくみ交流都市・おたる」という概念が導かれ、

るまでの理論的な道筋を示すとともに、その意味するメカニズムを説明してきた。本章

では、より具体的なイメージが図られるよう、全体的な見地から「はぐくみ交流都市・

おたる」を眺めてみることとする。

第1節 21世紀プランとの比較からみた「はぐくみ交流都市・おたる」

現在 本市のまちづくりの指針と位置付けられる基本計画として 21世紀プラン 小、 、 〔

樽市総合計画〕がある。

この21世紀プランは 「市民福祉の向上」を基本理念とし 「市民と行政が一体と、 、

なって個性豊かで魅力あるまちづくりをすすめ、市民が快適で安心して暮らせる活力あ

」 。ふれる地域社会の実現をめざす ことを目的に平成10(1998)年に策定されたものである

この中で、本市の将来都市像を「未来と歴史が調和した安心、快適、躍動のまち」と定

め、平成22(2010)年を構想の目標年次に据えている。

21世紀プランでは、将来都市像の実現に向け、市政の各分野における施策の展開方

向を「施策の大綱」として整理している。これは、全体を下記五つのプランとそれを構

成する36施策の分野に分け、各分野ごとに施策の理念や目標を掲げ、その展開方向を明

らかにしたものである(表5-1)。

21世紀プラン〔小樽市総合計画〕における「施策の大綱」表5-1

① はぐくみ 文化・創造プラン ……… 教育文化

② ふれあい 福祉・安心プラン ……… 市民福祉

③ うるおい 生活・快適プラン ……… 生活環境

④ ゆたかさ 産業・活力プラン ……… 産業振興

⑤ にぎわい 都市・形成プラン ……… 都市基盤

以上のように、21世紀プランは総合的な計画であり、市政の各分野を等質のものと

して網羅している。それに対し 「はぐくみ交流都市・おたる」の概念は、本市の長期、

。 、持続的な活力の維持を目的として都市経営の視点から導かれたものである この概念は

本市の資源と特質、外部環境としての社会的トレンドを分析した上で、本市の進むべき

方向性を「選択」し、その選択肢に「集中」して取り組むことを主張している点で、本

質的に相違したものである。

次ページの図5-1は、21世紀プランの「施策の大綱」に掲げられた項目を「はぐく

み交流都市・おたる」のモデルに当てはめたものである 『交流と連携 『創造と育成』。 』

の視点は、三つの都市像を包含するものだが、その中で 「国際観光都市」の都市像は、

、「 」 。 、収入の増加として寄与し 福祉コミュニティ は支出の減少として寄与する さらに

「教育文化都市」の都市像は、人材育成という長期的な投資としての意味合いを持つこ

とで、地域内での収支バランスを持続的に均衡させる機能を果たしていくことが期待さ

れるものである。

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21世紀プラン「施策の大綱」と「はぐくみ交流都市・おたる」の関係図5-1

福祉コミュニティ都市国際観光都市

【 】 【 】ゆたかさ 産業振興 ふれあい 市民福祉

観光を軸とした 社会参画と自己実現

波及効果 生きがいと健康増進

(収入の増加) (支出の減少)

相 乗 効 果

交流と連携 創造と育成ゆたかさ・活力

産業の活性化

イメージアップ

税収・定住人口増

教育文化都市

【 はぐくみ 教育文化 】

人育て

さまざまな連携

(長期的な投資)

影 響 波 及

ハード・基 盤

インフラ

都市基盤 生活環境

【 】【 にぎわい 都市基盤 】 うるおい 生活環境

港湾 住みよい住環境

市街地整備など 環境保全・防災など

※上図は、21世紀プランの「施策の大綱」を 「はぐくみ交流都市・おたる」の中に位置付けた場合、

の概念図である 【ゆたかさ 産業振興】は、便宜上、国際観光都市の内部に組み込まれているが 「は。 、

ぐくみ交流都市・おたる の概念は、三つの方向性の『組合せの妙』としての相乗効果の結果、産業の」

活性化、ゆたかさや活力が創出されることを意味するため、相乗効果の中にも【ゆたかさ 産業振興】

が含まれている。

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報告書Je t-P ro jec t

先に解説したように、これら三つの都市像は 『組合せの妙』の相補効果として互い、

に結び付きながら、一方で相乗効果を発揮して産業の活性化や本市のイメージアップに

寄与し、最終的には税収増や定住人口の増加(減少の抑止)に帰結する。

この「はぐくみ交流都市・おたる」モデルの内部には、21世紀ブランで掲げる「①

はぐくみ 教育文化 「②ふれあい 市民福祉 「④ゆたかさ 産業振興」の三つの分」 」

野が組み込まれている。

一方 「③うるおい 生活環境 「⑤にぎわい 都市基盤」の軸は、ハード基盤やイ、 」

ンフラ的な要素であり 「はぐくみ交流都市・おたる」モデルには、直接的には組み込、

まれてはいない。しかし、前ページの図5-1で示したように 「はぐくみ交流都市・お、

たる」を目指す中でさまざまな取り組みが行われ、その相乗効果として地域内収支の均

衡化が果たされていくため、生活環境や都市基盤という市の施策面にも影響と波及効果

を及ぼしつつ、一貫性のある都市像を作り出していくことになるのである。

第2節 「はぐくみ交流都市・おたる」の担い手と役割

次に 「はぐくみ交流都市・おたる」という都市像を実現する上で、行政を含めたそ、

。れぞれの担い手がどのような役割を果たす必要があるのかを示したものが図5-2である

これまで述べてきたとおり 「はぐくみ交流都市・おたる」の都市像は 『交流と連、 、

携 『創造と育成』という二つのキーワードから成り立っている 『交流と連携』の視』 。

点には、協働、社会参加、支え合いやコミュニティなどのエッセンスが含まれ、同様に

『創造と育成』の視点には、自発性、人材育成、価値創造などが含まれている。

こうした枠組みの中で、行政の果たすべき役割として、少子・高齢化や厳しさを増す

経済情勢などのさまざまな課題や問題を解決するために、民間の経営手法を含めた良い

部分を積極的に取り込んでいく姿勢が求められる。そして、従来にも増して行政活動の

内容と効率性や有効性に対する市民の関心が高まり、これらの説明責任を果たす上での

情報開示の姿勢が求められていくものと考えられる。

次に、市民の役割として、地域の課題・問題を自分たちの問題として認識し、市政へ

の積極的な参画や社会貢献の意識を高めていくことが重要となる。また、右肩上がりを

前提とした社会・経済システムの終えんと厳しい財政環境の中で、行政サービスに対す

る応分の受益者負担に対する理解も必要となる。さらに、市民主体の住みやすい「まち

づくり」の必要性が高まる中で、一人ひとりが地域コミュニティの担い手であることを

自覚することも求められる。

さらに、企業の役割としても、単に営利企業としての最大利潤の追求ではなく、本市

とともに歩み発展していく中で、雇用の場の提供とともに、地域貢献などの社会的使命

を果たすことが求められる。

以上、行政、市民、企業の役割をみてきたが、自分たちのまちのことは自分たちで決

めるという「自己決定 「自己責任」に基づく当事者意識を高め、それぞれがより良い」

パートナーシップを発揮していくことが求められている。

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「はぐくみ交流都市・おたる」の中で各担い手が果たすべき役割図5-2

市 民 企 業・社会貢献 ・社会的使命

・受益者負担 (雇用の場)

コミュニティ 適正利潤・ ・

の担い手 地域貢献・

交流と連携 創造と育成

協 働 自 発 性「 」はぐくみ交流都市・おたる

社会参画 人材育成実現の担い手

支え合い 価値創造パートナーシップコミュニティ

行 政民間活用・

情報開示・

スピードと・

効率

第3 節 「はぐくみ交流都市・おたる」の実現と課題

以上「はぐくみ交流都市・おたる」の都市像を、21世紀プランとの比較、担い手と

役割という観点からみてきた。繰り返し述べてきたように 「はぐくみ交流都市・おた、

る」という概念は、資源と特質をよりどころとして、外部環境としての社会変化に適応

する過程から、都市としての戦略的な方向性とダイナミックな変化のプロセスを導き出

したものである。

、 、 「 」今後は 右肩上がりの経済成長が終わり 都市の生き残りの道として あれもこれも

という総花的なあり方から 「選択と集中」への転換が求められる。持続的な活力を維、

持するためには、都市経営の発想に立ち、組織や資源を効率的・効果的に活用しながら

行政運営を図っていくことが重要である。

そうした背景の中で 「はぐくみ交流都市・おたる」という都市像から本市の行政課、

題をとらえると、例えば「超高齢化社会への対応」という課題については、単に福祉政

策という行政コストの問題としてとらえるのではなく、大勢いるはずである元気な高齢

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報告書Je t-P ro jec t

者が、生きがいづくりや健康増進などを目的として、積極的にコミュニティや産業の現

場(観光やシルバービジネスなど)とかかわることができる仕組みさえ整えば、地域の

活性化にさまざまな可能性を及ぼし得るものであることに気付く。

また 「二つの港湾」の活用という課題をみると、石狩湾新港は「はぐくみ」の視点、

で、産学連携の素地を固めるなどの魅力づくりにより企業誘致の促進を図る方途で、ま

た、小樽港については 「交流」の視点から、今後の観光資源として親水空間的な活用、

を模索する方途で、活用されることになる。

このように 「はぐくみ交流都市・おたる」という都市像の基底にあるのは、さまざ、

まな地域資源を社会変化のプロセスの中で効果的に活用していく姿勢であり、それこそ

が将来都市像実現の鍵〔KFS〕として位置付けた3R〔再生・再編・再評価〕の視点

につながるのである。

こうした「はぐくみ交流都市・おたる」は、それ自体がダイナミックな変化を必要と

する都市像であるため、その実現までにはいくつかのハードルが考えられる。

まず、既存のあり方にとらわれずに変化を促進する営みであるがため、誰が主体とな

り、どのように推進していくのかという問題が挙げられる。庁内の職員はもとより、市

民や企業などのまちづくりの担い手の理解と協力を得るとともに、当事者意識を醸成す

ることが課題となる。

次に、現状を打破し、変化を求めることは「痛み」を伴う可能性があることである。

例えば、市民や企業に対する受益者負担を求めること、その前提として庁内の徹底した

、 「 」 。情報開示や合理化・効率化を図ることは ある種の 痛み を伴うことを否定できない

こうした変化の代償に耐え、受け入れる体質転換を図ることも大きな課題である。

、 〔 〕 〔 〕最後に 将来都市像実現の鍵 KFS として位置付けた3R 再生・再編・再評価

の視点を貫徹できるかという問題が挙げられる。小樽は、歴史的・文化的な特性や自然

環境などの数多くの資源に恵まれている。これらの資源を3Rの視点から最大限に活用

していくことが「はぐくみ交流都市・おたる」のポイントにほかならず、本市の生き残

りの道であるととらえている。

本市が活力を今後も維持する上で、単なる他都市の先進事例の模倣や追随に終始して

はならない。たぐいまれなほど豊富な資源と魅力的な特質を持つまちとしての自覚を持

った上で、3Rの視点から社会変化への対応を見誤らず、見過ごさずに都市経営を行っ

ていくことが何よりも重要であると考える。

◇ ◇参考資料

伊丹 敬之 著 『新・経営戦略の論理』 日本経済新聞社刊 1984年

森地 茂、篠原 修 編著 『都市の未来』 日本経済新聞社刊 2003年

地域経済再生と中小企業政策の役割永山 利和 『都市問題研究』都市問題研究会刊 2001年

日本再生へのシナリオ ~ 空間経済学の視点から藤田 昌久 『不動産調査月報』日本不動産研究所刊 2003年8,9月号

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報告書Je t-P ro jec t

要 約

現在、少子高齢化が急激に進展する中で、これまでの右肩上がりを前提とした社会経

。 、 、済システムは過去のものとなりつつある 本報告書は こうした環境変化の中にあって

本市が今後も活力を維持するための中長期的な将来都市像を検討したものである。

変化の過渡期で将来都市像を描くためには、従来の常識や考え方の枠組みにとらわれ

ないことが必要であり、我々は企業の経営戦略策定などに活用されるSWOT分析の手

法を用いて、本市を取り巻く環境と優位性、克服すべき課題などを明らかにした。

そこからまず、本市の方向性として「教育文化都市 「福祉コミュニティ都市 「国」 」

際観光都市」という三つの都市像を論理的に導いた。そして、それぞれを単一の都市像

ととらえずに、一つに融合させるべきだと考えた。なぜなら、この三都市像は、いずれ

もが拡大・成長を目指すのではなく、質的な充実を志向している点で相反する性格を持

たないためであり、これらを一体として追求することにより、互いに良い影響を及ぼし

合う『組合せの妙』が発揮されると考えたからである。

次に、資源を効果的かつ継続的に活用することが、KFS〔成功の鍵(Key Factors

For Success)〕であると認識し、この状態を我々は『資源適合』と呼んだ。特に本市に

おいては、3R〔再生(Revive)・再編(Regroup)・再評価(Revalue)〕の視点が不可欠で

あり、本市のまちづくりにおける共通のスタンスとして位置付けることで、将来に向け

ての一貫した取り組みが可能となると考えたのである。

こうしてSWOT分析から導かれた二つの考えをもとに、本市の将来都市像の検討を

行った。まず、都市を構成する要素として、市民の「くらし(人・生活 」と、産業や)

経済活動などの「活力(価値・活力創出 」の二つの側面があることに着目し、先に述)

べた三都市像の方向性を当てはめた。その結果 「人・生活の軸」においては『交流と、

連携』というキーワードが、同様に「価値・活力創出の軸」においては『創造と育成』

というキーワードが見いだされた。

さらに 『交流と連携』と『創造と育成』は、相互に関連し合いながら「人を育てる、

こと」と「活力を生み出すこと」という都市のバイタリティーを高めるもとを生み出す

構造になっていることに着目した。

以上の結果、小樽の将来都市像は、三都市像と3Rの視点を基本に 『交流と連携』、

と『創造と育成』を同時に追求することで、持続的に「人を育て 「活力を生み出す」」

『ダイナミックな組合せの妙』となるという結論に達した。

低成長時代に都市が活力を発揮するためには、行政が主体のまちづくりでは限界があ

る。そのことを前提に 「はぐくみ交流都市・おたる」では、今後の地域社会で重要性、

Page 34: 小樽ジェットプロジェクト研究会報告書 「小樽の将来都市像 …...第3節 小樽のその他のさまざまな強み 8 第2章 小樽を取り巻く環境 第1節

報告書Je t-P ro jec t

が増すと考えられる「協働、社会参加、支え合いやコミュニティ、自発性、人材育成、

価値創造…」などのエッセンスを含めている。さらに、行政・市民・企業の三者が、産

学官連携などさまざまな手法による結び付きを強め、まちづくりの担い手として良きパ

ートナーシップを発揮することを不可欠な要件として位置付けている。

、 〔 、 〕また 現在の市政運営の基盤である21世紀プラン 小樽市総合計画 平成10年策定

と我々が提案する「はぐくみ交流都市・おたる」との関係性を見ると、前者が政策を等

、 、 、質のものとして網羅しているのに対し 後者は 小樽の資源と環境変化を踏まえた上で

適切な「選択と集中」により活力を持続させることを主眼としている点において、両者

は質的に異なっている。

本研究会では、本市の将来都市像を描くための議論を展開したが、これを実現するた

めの具体的な方策にまでは踏み込まなかった。本報告書をたたき台として、多くの建設

的な議論が行われ、今後の市政に生かされることを期待する。この「はぐくみ交流都市

・おたる」という将来都市像とそれを導くために行われた議論の過程が少しでも役立つ

ことで、小樽が独自性を発揮し、将来にわたって活力を維持する魅力的な都市となるこ

とを望むものである。

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「小樽の将来都市像を求めて」《 要約イメージ 》 Strengths

 強 み

Weaknesses 弱 み

Opportunities 機 会

Threats 脅 威

人・生活

価値・活力   創出

小樽の強みと特色小樽を取り巻く環境

将来都市像の方向性

成功の鍵 <KFS>

エッセンスを抽出

「はぐくみ交流都市」おたる<ダイナミックな組合せの妙>

小樽の将来都市像

<キーワード>

交流と連携

人・生活の軸<エッセンス>

価値・活力創出の軸<エッセンス>

<キーワード>

創造と育成

再 構 築

第1章第1~3節

第2章第1~2節

第3章第2節

都市の要素

第5章

担い手

組合せの妙相乗効果

福祉コミュニティ都市

教育文化都市

国際観光都市

人を育てる

活力を生み出す

交流と 連携

創造と 育成

組合せの妙3R

 「はぐくみ交流  都市・おたる」

  パートナーシップ

市 民・社会貢献・受益者負担・コミュニティの   担い手

企 業・社会的使命(雇用の場)・適正利潤・地域貢献

行 政・民間活用・情報開示・スピードと    効率

・協  働

・社会参加

・支え合い

・コミュニティ

・自 発 性

・人材育成

・価値創造

3 R

 

 ◎人と知恵の     ◎地域コミュニティ   ◎人と時(歴史性)の    交流と創造   ◎人と人の              交流 ◎生きがい創造       交流と連携    ◎人の連携、学び合い ◎人材育成      ◎協働、支え合い    ◎人材育成 ◎子育て支援     ◎世代間交流      ◎生きがい創造 ◎産学連携      ◎生きがい創造     ◎新たな価値の創造 ◎地場産業の     ◎社会参画意識     ◎新産業の    育成と支援   ◎自発性           創出と育成

教育文化都市福祉コミュニティ都市国際観光都市

再評価Revalue

再 編Regro up

再 生Revive

第3章第1節

第4章第2節

第4章第3節

第4章第1節

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報告書Je t-P ro jec t

小樽ジェットプロジェクト研究会名簿

小樽市 顧問 山 田 家 正

企画部 企画調整担当主幹 迫 俊 哉

建築都市部 建築指導課 確認係長 西 島 圭 二

経済部 産業振興課 産業振興係長 勝 山 貴 之

福祉部 高齢社会対策室高齢福祉課 高齢福祉係長 佐 々 木 真 一

財政部 資産税課 土地係 中 村 哲 也

経済部 商業労政課 商業振興係 池 田 克 也

市民部 総合サービスセンター 戸籍窓口係 山 廣 伸 幸

福祉部 介護保険課 給付係 須 藤 慶 子

土木部 建設課 道路係 佐 藤 久 弥

水道局 総務課 経理係 笹 原 馨

◇研究会 勉強会 開催経過◇及び の

【研究会】 (山田顧問を交えての研究・意見交換会)

(平成14年 9月 4日~平成16年 3月17日)23回開催

【勉強会】 (プロジェクトメンバーのみの自主勉強会)

(平成15年 1月23日~平成16年 3月12日)28回開催