フランス・パリ近郊にある高磁場 mri 研究センター...

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フランス・パリ近郊にある高磁場 MRI 研究センター「NeuroSpin」の紹介 大学院新領域創成科学研究科 全世界的に高齢化が進行し、年々、認知症患者が増え続けています。その中で、発症前 に認知症の兆候をいち早く見出し、認知症の発症を未然に予防する医療診断技術の確立に 期待が寄せられています。このような社会背景に呼応して、フランス国において、パリ近 郊の CEA サクレー研究所内に、最先端の MRIMagnetic Resonance Imaging: 核磁気共 鳴画像)装置群を擁する大規模な高磁場 MRI 研究センター「NeuroSpin」が、2007 1 月に設置されました。高齢化に対応した生命科学研究を展開すべく、大学院新領域創成科 学研究科では、医学系研究科・工学系研究科・総合文化研究科などと連携し、2007 年の設 置当初から NeuroSpin との間で学術的な交流を行ってきました。現在、国際学術交流に関 する協定の締結が結ばれつつある状況にあります。この最終的な打ち合わせを兼ねて、 2010 5 月に新領域創成科学研究科の久恒辰博准教授を含め 3 名が現地に赴き、協議ならびに 施設の視察を行ってきました。あちらの様子を皆様へ紹介させていただきたく、ニュース として掲載させていただきました。 NeuroSpin の正面玄関から見た建物の概観

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Page 1: フランス・パリ近郊にある高磁場 MRI 研究センター …フランス・パリ近郊にある高磁場MRI 研究センター「NeuroSpin」の紹介 大学院新領域創成科学研究科

フランス・パリ近郊にある高磁場 MRI 研究センター「NeuroSpin」の紹介

大学院新領域創成科学研究科

全世界的に高齢化が進行し、年々、認知症患者が増え続けています。その中で、発症前

に認知症の兆候をいち早く見出し、認知症の発症を未然に予防する医療診断技術の確立に

期待が寄せられています。このような社会背景に呼応して、フランス国において、パリ近

郊の CEA サクレー研究所内に、最先端の MRI(Magnetic Resonance Imaging: 核磁気共

鳴画像)装置群を擁する大規模な高磁場 MRI 研究センター「NeuroSpin」が、2007 年 1月に設置されました。高齢化に対応した生命科学研究を展開すべく、大学院新領域創成科

学研究科では、医学系研究科・工学系研究科・総合文化研究科などと連携し、2007 年の設

置当初から NeuroSpin との間で学術的な交流を行ってきました。現在、国際学術交流に関

する協定の締結が結ばれつつある状況にあります。この最終的な打ち合わせを兼ねて、2010年 5 月に新領域創成科学研究科の久恒辰博准教授を含め 3 名が現地に赴き、協議ならびに

施設の視察を行ってきました。あちらの様子を皆様へ紹介させていただきたく、ニュース

として掲載させていただきました。

NeuroSpin の正面玄関から見た建物の概観

Page 2: フランス・パリ近郊にある高磁場 MRI 研究センター …フランス・パリ近郊にある高磁場MRI 研究センター「NeuroSpin」の紹介 大学院新領域創成科学研究科

施設は、MRI装置群を含む研究スペースと研究員用のオフィススペースからなっていま

すが、今回は、主に研究スペースに設置されたMRI装置群についての紹介を行います。

NeuroSpin 施設の全体イメージ図

MRI装置が設置される建物の様子

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現在、3T人体用MRI、7T人体用MRI、7T動物用MRIが稼動し、研究が進めら

れている。17.6T動物用MRI装置については、装置の設置が完了し最終調整段階に

ある。世界最高機種となる『人体用 11.7T-MRI 装置』については、2012 年の完成に向け、

急ピッチで装置開発が進められている。

中央部分の回廊からMRI装置群が設置される建物の様子を望む

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Clinical Care Facility 内の様子

乳幼児向けの待合室や、かわいらしいデザインの

MRI装置の模型が展示されていた。NeuroSpin で

は乳幼児の脳の発達に関する研究も予定されている。

Facility 内に設置されたベッドの様子

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人体用MRI装置群を用いた実際の研究風景。Le Bihan 所長(右から 3 番目)より、研究

内容の説明を受ける。

7T人体用MRI装置 3T人体用MRI装置

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動物用では、世界最高機種となる17.6TMRI装置の最終調整の様子

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『人体用 11.7T-MRI 装置』の完成予想模型

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『人体用 11.7T-MRI 装置』の開発状況につ

いて、説明する Le Bihan 所長。超伝導磁石

の設計プランの詳細や超伝導運転に必要と

なる超流動ヘリウム冷凍機について説明を

受ける。NeuroSpin では、6つの研究プラン

を軸に最先端のMRI研究が実施されてい

る。 1) Pushing the limits of MRI

2) Multiscale brain functional architecture

3) Brain development and plasticity 4) Genetics and phenotypic variability in brain anatomy 5) Cognitive codes 6) Translational research for neurological and psychiatric disorders

『人体用 11.7T-MRI 装置』が設置される円筒状の部屋の様子

中央の巨大なコンクリートの床の上に 11.7T-MRI 装置が設置される。

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また、今回、今度進める国際共同研究につい

て、大学院新領域創成科学研究科の久恒准教

授と大学院医学系研究科精神医学講座の八

幡憲明特任助教が、内容の紹介を行った。

その後、関連する NeuroSpin サイドの研究

者数名と具体的な打ち合わせを行った。下図

は NeuroSpin の研究を紹介するパネル。

今回の視察のメンバー:写真右より医学系研究科の八幡憲明特任助教、新領域創成科学研

究科の久恒辰博准教授、Denis LeBihan NeuroSpin 所長、JASTEC 社(神戸製鋼グループ)

より参加の横田泰直氏。なお、今回の写真撮影は在仏カメラマンの酒巻洋子氏による。

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用語説明

MRI: Magnetic Resonance Imaging (核磁気共鳴画像法) 磁気を用いて、生体組織の状態を観察する非侵襲的なバイオイメージング技術。磁場中

に置かれた原子核が特定の周波数の電波エネルギーを吸収する NMR(Nuclear Magnetic Resonance: 核磁気共鳴)という物理現象を利用して、主に生体内の水素原子核(プロトン)

の分布ならびに状態を画像化する方法である。現在,臨床的には、1.5T(テスラ)ならびに

3T 装置などが画像診断用に利用されている。東京大学内においても、複数の施設において、

3T 装置、ならびに 1.5T 装置が稼動し、研究や医療に利用されている。また、動物用の装

置としては、4.7T ならびに 7T 装置などが稼動し、既に研究・教育活動に貢献している。 MRI が優れているのは、非侵襲的に(体を傷つけることなく、体外から)組織の様子を

観測し、診断できる点にある。この特徴は、健常者に対する利用という面で大きなアドバ

ンテージを持ち、特に脳活動の観察、脳機能の解明に大きな威力を発揮する。そのため、

認知症の予防や診断の分野においても MRI 研究に強い期待が寄せられている。 T: Tesla (テスラ) 磁場強度の単位。SI単位系における磁束密度を表す単位。テスラの名称は、アメリカ

の電気工学者 Nikola Tesla の名前にちなむ。CGS 単位系で用いられるガウス(G, gauss)とは 1T = 10000G の関係にある。全世界的に見て、7T までは、人体用の MRI 装置が市販

されている。また、9.4T までは、装置開発が進み、現在、世界で 3 台の装置が研究用とし

て、稼動している。人体用の 11.7T 装置となると、超伝導磁石の技術開発の面でも、ブレ

ークスルーが必要とされていたが、NeuroSpin では、国際熱核融合プロジェクト(ITER)で培われた高磁場超伝導磁石の開発・製作技術を活用し、新たな設計原理に基づいてこの課

題の解決を達成した。 CEA: Commissariat à l'énergie atomique (仏語)(フランス原子力庁) CEA は、1 万 5 千人以上の職員とフランス国内に 9 つの研究センターを擁するフランス

政府の機関である。NeuroSpin は、CEA のサクレー研究所施設内に設置されており、CEAの基礎研究部門である DSV(des sciences du vivant (仏語) 生命科学) に所属する。 なお、CEA の説明(英語)は、下記の公式ホームページに詳しい記載がある。 http://www.cea.fr/english_portal/cea/identity NeuroSpin : (ニューロスピン)

設立背景ならびに研究内容については、下記のホームページに英語で詳しい記載がある。 http://meteoreservice.com/neurospin/

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NeuroSpin への行き方 パリのシャルル・ド・ゴール国際

空港(下図内の四角で囲んだ駅)

からパリ地下鉄 RER B 線で一本。

最寄り駅の Le Guichet(まるで

囲んだ駅)から、朝夕には、無料

のシャトルバスが CEA サクレー

研究所との間を往復している。 交通アクセスも良く、ド・ゴール

国際空港からも 1 時間程度の距

離に位置している。

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編集後記:

NeuroSpin は最新鋭のMRI装置を擁する世界屈指のMRI研究センターであるが、そ

の建物も、高名な建築家クロード・ヴァスコーニ(Claude Vasconi) 氏のデザインというこ

ともあり、モダンで、かつ明るく、今回訪れたパリ近郊の初夏の風景に溶け込んでいた。 以上、今回の紹介文は、主に、新領域創成科学研究科の久恒が担当した。