アワヨトウとクサシロキヨトウの識別法jppa.or.jp/archive/pdf/55_03_38.pdfヒメクサシロキヨトウ(m.stenogra,ρha)に外見が最も...

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130 第 55 巻 第3号 (2001 年) 植物防疫基礎講座 ヤガ類の見分け方( 2 ) アワヨトウとクサシロキヨトウの識別法 よし 農林水産省農業環境技術研究所 まつ しん いち ア ワ ヨ ト ウ と ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ は ヤ ガ科 ヨ ト ウ ガ亜科 に属する中型のヤガで幼虫はイ ネ科植物を加害する。 ワ ヨ ト ウ は大発生した時には二次的にイ ネ科以外の作物 にも被害を及ぽすことがある。 こ れ ら 2 種 と そ の 近縁種 はキヨトウ類 (Leucania- complex) と呼ばれており, 全世界から多数の種が知られている。 キ ヨ ト ウ類の仲間 に は全世界的 に は ま だ未記載種 も た く さ ん あ り , 著者は これらの分類学的研究を継続中である。 我が国からはキ ヨトウ類はこれまで43種が報告されており, 今回の 2 種 を 含 め て 全 て の キ ヨ ト ウ 類 を thimna 属 l 属 と し て扱う こ とが提唱されている (YOSHIMATSU, 1994) 。 この 辺りの事情については, 吉松 (1995) を参照願いたい。 キ ヨ ト ウ類のなかで, 害虫 と し て 「農林有害動物 ・ 昆 虫名鑑J (1987) に登録されているのは, アワヨトウと クサシロキヨトウの2種であるので今回はこれらの成虫 お よ び幼虫, 婦での識別法について述べる。 両種の卵は 枯葉の縦に折れた聞な どに惨状物質で卵塊状に く っ つい て産み込まれるので, 識別は困難であると考えられる。 I 成虫での識別法 キ ヨ ト ウ類の成虫は前麹に斑紋がほ と ん どな く , 一様 に淡黄褐色を呈する ものが多い。 アワヨトウとクサシロ キ ヨ ト ウ も そ の典型で, 産卵の際に枯れたイ ネ科植物の 中に入り込むとなかなか見つからない。 キ ヨ ト ウ類は ヨ ト ウガ亜科に属するので, 数十倍程度の倍率の実体顕微 鏡下で複眼に短い毛が確認でき る。 一方, キ ヨ ト ウ類に 前麹の色彩が酷似 し て お り , し ば し ば誤同 定 さ れ る イ ネ ヨトウ ( ωamia inferens) はカ ラ ス ヨ ト ウ亜科に属す るので複眼の毛は有さず簡単に識別でき る。 ア ワ ヨ ト ウ の前麹は一様に淡黄褐色で全体に小さ な黒 点を散在させる。 一方, ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ の 前麹 は 淡 灰 Identi白cation Method of Mythimna sψata and M. loreyi (Lepidoptera, Noctuidae Hadeninael . By Shin-ichi YOSHlMATSU (キーワード:アワヨトウ, ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ , 成虫, 雌雄交尾 器, 幼虫, 踊, 分類) 褐色で, 麹脈聞に暗色細条を密布させている。 ただし, 麹の鱗粉が少 し脱落す る と 識別が難 し く な る 。 このよう な場合は, 雄 も 雌 も 交尾器の形態を観察す る こ と で識別 は容易である。 クサシロキヨトウ雄のみは第1十第2腹 節側方に一対の黒色の毛束を備えるが, 雌にはない。 ア ワ ヨ ト ウの前麹はた ま に赤褐色に近い色を呈する こ とがあり, そ の場合屋久島以南 に分布す る マ エ ジ ロ ア カ フキヨトウ ( Mythimna 仰llidicosta) と 酷似 す る 。 クサシロキ ヨ ト ウ成虫は我が国では琉球列島に産する ヒメクサシロキヨトウ ( M. stenogrρ) に外見が最も 近いが, この種は稀であるのでそう問題にすることはな い。 クサシロキヨトウと混同してよく誤同定されるの が, スジシロキヨトウ ( M. stata) , ニセスジシロキヨ トウ ( M. þolysticha) , ノヒラキヨトウ ( M. obsoleta) の3種である。 このうち, スジシロキヨトウとニセスジ シ ロ キ ヨ ト ウ は ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ よ り は 一般 に 大型 で あ るので区別でき るが, 同定に慣れない場合は交尾器形態 を観察す る 方が よ い。 この他にアトジロキヨトウ ( M. comþta ) も 上 記 5 種 に 類似 し て い る が, 最も小型であ る。 日本産のキ ヨ ト ウ類全ての種の交尾器は, YOSHlMATSU (1994) に よ り 図示, 記載されているので参考にしても らいたい。 ただし, 後に埼玉県よ り l 雌に基づき記録さ れ た M. snelleni (和 名 な し ) に つ い て は, HREBLAY (1996) を参照いただきたい。 1 雄交尾器 図-1 に両種の雄交尾器の一部であ るパルパ (valva) を示した (図では右が後方となる)。 形態の差は明瞭で あ る が, 区別のポイ ン ト を少しだげ述べたい。 Cucullus 上 に は ア ワ ヨ ト ウ で は coronal spine が多 数 あ る が, サシロキヨトウでは全くない。 Cucullus 背 方部 に は ア ワ ヨ ト ウでは とがった長い突起を備えるが, クサシロキ ヨ ト ウ で は cucullus に は そ の よ う な 突起 は な い。 アワ ヨ ト ウ で は cucullus 基部 の ア ー ム が長 く 伸長 し て い る の に 対 し て ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ で は cucul lus基部は伸長 せ ず直接 costa と 連結 し て い る 。 クサシロキヨトウでは valvula の腹方後部 に は 曲 が っ た 長 い 突起 を 備 え る が, ア ワ ヨ ト ウ では valvula の腹方後部は扇状に広 く 突出す 38

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  • 130 植 物 防 疫 第 55 巻 第 3 号 (2001 年)

    植物防疫基礎講座

    ヤ ガ類の見分 け 方 ( 2 )

    ア ワ ヨ ト ウ と ク サシ ロ キ ヨ ト ウ の識別法

    よし農林水産省農業環境技術研究所 吉

    ま つ

    松し ん

    慎い ち

    は じ め に

    ア ワ ヨ ト ウ と ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ は ヤ ガ科 ヨ ト ウ ガ亜科

    に 属 す る 中型の ヤ ガ で幼虫 は イ ネ 科植物 を 加害す る 。 ア

    ワ ヨ ト ウ は 大発生 し た 時 に は 二次的 に イ ネ 科以外の作物

    に も 被害 を 及ぽす こ と が あ る 。 こ れ ら 2 種 と そ の近縁種

    は キ ヨ ト ウ 類 (Leucania-complex) と 呼 ばれ て お り ,

    全世界か ら 多数の種が知 ら れて い る 。 キ ヨ ト ウ 類の仲間

    に は全世界的 に は ま だ未記載種 も た く さ ん あ り , 著者 は

    こ れ ら の 分類学的研究 を 継続 中 であ る 。 我が国か ら は キ

    ヨ ト ウ 類 は こ れ ま で 43 種が報告 さ れ て お り , 今 回 の 2

    種 を 含 め て 全 て の キ ヨ ト ウ 類 を A⑪thimna 属 l 属 と し

    て 扱 う こ と が提唱 さ れて い る (YOSHIMATSU, 1994) 。 こ の

    辺 り の事情 に つ い て は , 吉松 ( 1995) を 参照願 い た い。

    キ ヨ ト ウ 類の な かで, 害虫 と し て 「農林有害動物 ・ 昆

    虫名鑑J (1987) に 登録 さ れ て い る の は , ア ワ ヨ ト ウ と

    ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ の 2 種で あ る の で今回 は こ れ ら の成虫

    お よ び幼虫, 婦での識別法 に つ い て 述べ る 。 両種の卵 は

    枯葉の縦 に 折れた 聞 な ど に惨状物質で卵塊状 に く っ つ い

    て 産 み込 ま れ る の で, 識別 は 困難であ る と 考 え ら れ る 。

    I 成 虫 での識別法

    キ ヨ ト ウ 類の成虫 は前麹 に斑紋がほ と ん ど な く , 一様

    に 淡黄褐色 を呈す る も の が多 い。 ア ワ ヨ ト ウ と ク サ シ ロ

    キ ヨ ト ウ も そ の典型で, 産卵 の 際 に枯れた イ ネ 科植物の

    中 に 入 り 込む と な か な か見つ か ら な い。 キ ヨ ト ウ 類 は ヨ

    ト ウ ガ亜科に属す る の で, 数十倍程度 の倍率の実体顕微

    鏡下で複眼 に短い毛が確認で き る 。 一方, キ ヨ ト ウ 類 に

    前麹の色彩が酷似 し て お り , し ば し ば誤同定 さ れ る イ ネ

    ヨ ト ウ (5,ωamia inferens) は カ ラ ス ヨ ト ウ 亜科 に 属 す

    る の で複眼の 毛 は 有 さ ず簡単 に識別 で き る 。

    ア ワ ヨ ト ウ の前麹 は一様 に 淡黄褐色で全体 に 小 さ な黒

    点 を散在 さ せ る 。 一方, ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ の前麹 は淡灰

    Identi白cation Method of Mythimna sψarata and M. loreyi (Lepidoptera, Noctuidae, Hadeninael . By Shin- ichi

    YOSHlMATSU ( キ ー ワ ー ド : ア ワ ヨ ト ウ , ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ , 成虫, 雌雄交尾

    器, 幼虫, 踊, 分類)

    褐色で, 麹脈聞 に 暗色細条 を 密布 さ せ て い る 。 た だ し ,

    麹の鱗粉が少 し脱落す る と 識別 が難 し く な る 。 こ の よ う

    な場合 は , 雄 も 雌 も 交尾器 の形態 を観察す る こ と で識別

    は容易 で あ る 。 ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ 雄 の み は第 1 十 第 2 腹

    節側方 に 一対の黒色 の 毛束 を備 え る が, 雌 に は な い。

    ア ワ ヨ ト ウ の 前麹 は た ま に 赤褐色 に 近 い色 を呈す る こ

    と が あ り , そ の場合屋久島以南 に 分布す る マ エ ジ ロ ア カ

    フ キ ヨ ト ウ ( Mythimna 仰llidicosta) と 酷似す る 。

    ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ 成虫 は我が国で は 琉球列島 に 産 す る

    ヒ メ ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ ( M. stenogra,ρha) に 外見が最 も

    近 い が, こ の種 は稀であ る の で そ う 問題 に す る こ と は な

    い。 ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ と 混 同 し て よ く 誤同 定 さ れ る の

    が, ス ジ シ ロ キ ヨ ト ウ ( M. striata) , ニ セ ス ジ シ ロ キ ヨ

    ト ウ ( M. þolysticha) , ノ ヒ ラ キ ヨ ト ウ ( M. obsoleta)

    の 3 種で あ る 。 こ の う ち , ス ジ シ ロ キ ヨ ト ウ と ニ セ ス ジ

    シ ロ キ ヨ ト ウ は ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ よ り は一般 に 大型 で あ

    る の で区別 で き る が, 同定 に慣れな い場合 は 交尾器形態

    を観察す る 方 が よ い。 こ の 他 に ア ト ジ ロ キ ヨ ト ウ ( M.

    comþta) も 上記 5 種 に 類似 し て い る が, 最 も 小型 で あ

    る 。

    日 本産 の キ ヨ ト ウ 類全 て の 種 の 交尾器 は , YOSHlMATSU

    ( 1994) に よ り 図示, 記載 さ れ て い る の で参考 に し て も

    ら い た い。 た だ し , 後 に埼玉県 よ り l 雌 に 基づ き 記録 さ

    れ た M. snelleni (和 名 な し ) に つ い て は, HREBLAY

    ( 1996) を参照 い た だ き た い。

    1 雄交尾器図-1 に 両種の雄交尾器 の 一部 で あ る パル パ (valva)

    を 示 し た ( 図 で は 右が後方 と な る ) 。 形態 の 差 は 明瞭で

    あ る が, 区別 の ポ イ ン ト を 少 し だ げ述 べ た い。 Cucullus

    上 に は ア ワ ヨ ト ウ で は coronal spine が多 数 あ る が, ク

    サ シ ロ キ ヨ ト ウ で は 全 く な い。 Cucullus 背 方部 に は ア

    ワ ヨ ト ウ で は と が っ た 長 い 突起 を備 え る が, ク サ シ ロ キ

    ヨ ト ウ で は cucullus に は そ の よ う な 突起 は な い。 ア ワ

    ヨ ト ウ で は cucullus 基部 の ア ー ム が長 く 伸長 し て い る

    の に 対 し て ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ で は cucullus 基部 は 伸長

    せ ず直接 costa と 連結 し て い る 。 ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ で は

    valvula の腹方後部 に は 曲 が っ た 長 い 突起 を 備 え る が,

    ア ワ ヨ ト ウ で は valvula の腹方後部 は扇状 に 広 く 突 出 す

    38 一一

  • ア ワ ヨ ト ウ と ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ の識別法 131

    る 。

    2 雌交尾器

    図ー2 に 両種 の 雌交尾器 を 示 し た 。 両種 の 決定 的 な 違

    い は cervix bursae の 形状 で あ る 。 ア ワ ヨ ト ウ で は cer

    vix bursae は 長 い 管状 と な り , 一度前方 に 折れ 曲 が っ

    た 後 に 後方 に 折れ曲 が り , 末端部 は再び前方 に 向 か つ て

    折れ曲 が る 。 そ の一部 は 硬化 し て い る が, 膜質の部分 も

    あ る 。 一方, ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ で は cervix bursae は管

    状 と は な ら ず, ま ん じ ゅ う 型で全体 は膜質であ る 。 図で

    は 両種の雌交尾器 は 右側面図 と 左側面図 と な っ て お り ,

    見 た 方 向 が違 う の で注意 し て 欲 し い (papilla analis 側

    が後方) 。

    ト一一一一一→

    図 - 1 ア ワ ヨ ト ウ と ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ の雄交尾器右パルパ内面図 (YOSII IMATSU, 1994 を改変)

    上 : ア ワ ヨ ト ウ , 下 : ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ . 目 盛 l

    m町1.

    A D

    E キ ヨ ト ウ 類幼 虫 の特徴

    キ ヨ ト ウ 類幼虫 を 特徴づ け る 形質 と し て , 老熟幼虫 に

    見 ら れ る 特異 な 大腿が あ げ ら れ る 。 例 と し て , ア ワ ヨ ト

    ウ の 1 齢 か ら 終齢幼虫 ま で の 大 腿 内 面 図 を 図-3 に 示 し

    た 。 ヤ ガ科では大腿 に 6 本の 鋸歯 を 備 え る こ と が一般的

    で あ る の で, 図 中 で は そ れ ぞ れ の 鋸歯 に BECK ( 1960)

    に 従 っ て 後 方 の も の よ り 順 に , V, H 1 , H 2, H 3,

    D 1, D 2 と 符号 を つ り た 。 以 下, キ ヨ ト ウ 類大 腿 の 形

    態変化 を齢期 を追 っ て 見 て み る 。 若齢で は大限 は 6 本の

    完全 な 鋸歯 を 備 え る ( 図-3, A, B) 。 中 齢 に な る と ま

    papilla analis glandula sebacea;;! corpus bursae

    図 - 2 ア ワ ヨ ト ウ と ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ の 雌 交 尾 器

    (YOSII IMATSU, 1994)

    上 : ア ワ ヨ ト ウ 雌交尾器右側面図, 下 : ク サ シ ロ キヨ ト ウ 雌交尾器左側面図. 目 盛 1 mm.

    E F G 図 - 3 ア ワ ヨ ト ウ幼虫の左大限内面図 (YOSHIMATSU, 1990 を改変)

    A : 1 齢, B : 2 齢, C : 3 齢, D : 4 齢, E : 5 齢, F : 6 齢, G : 7 齢. 目 盛, A, B : 0 . 05 mm, C : 0 . 1 mm, D : 0 . 2 mm, E : 0 . 3 mm, F, G : 0 . 5 mm.

    一一一 39 一一一

  • 132 植 物 |坊 疫 第 55 巻 第 3 号 (200 1 年)

    H2 H3

    図 - 4 ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ 終i愉fJJ!Hの左大W�,I勾而悶

    日 成 0 . 5 111111.

    ず H 3 と D 1 の 聞 に 小 さ な 前 が形成 さ れ (図-3, C) , 続 い て こ の溝 は拡張 し D 1 と D 2 は接近 し ( 図 3, D, E) , そ の後老玉県 に 近づ く に つ れ て H 1 と H 2 の 聞 に さら に も う 一つ滞が形成 さ れ V と I-1 1 は接近す る (図-3,F, G) 。

    一般的な ヤ ガ類の幼虫で は I 齢~終齢の間, 大mìlの 6本の鋸歯の位置 は あ ま り 変化 し な い。 し か し , キ ヨ ト ウ類で は大!胞の鋸歯 は 齢期 と と も に 一連 の 変 化 を し , また , こ の変化のパ タ ー ン は キ ヨ ト ウ類の どの種で も ほ ぽ同 じ で あ る 。 こ の よ う な一連の形態的変化 を通 し て形成さ れた キ ヨ ト ウ 類老熟幼虫の特異な大胞 は キ ヨ ト ウ 類で独 自 に 獲 得 さ れ た 形質 だ と 考 え ら れ た (Yo日1I 1 �IATSU,1 990) 。 す な わ ち , ヤ ガ類老熟幼虫で こ の よ う な 特 異 な大限、を備 え る も の が い れ ば, そ の種 は キ ヨ ト ウ 類の仲間であ る と い う こ と がで き る 。 ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ 終齢幼虫

    の大限内面図 を 図-4 に 示 し た。

    皿 終齢幼 虫 での識別法

    1 終齢幼 虫の検索表

    l . 頭部の左右 l 対の 刺毛 P l と AF 2 は ほ ぼ直線上 に並ぶ。 !阿部の ど の刺毛の刺毛基板 も 茶褐色で割 と よく 目 立つ。 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ・ ・ ・ ・ ・ ・ ー ア ワ ヨ ト ウ

    頭部左右の P 1 を 結ぶ線分 は左右の AF 2 を 結ぶ線分 よ り も 明 ら か に よ に 位置す る 。 j阿部の刺毛基板 はな い。 . . . . . . . . . … ・ ・ ー ・ ・ … … 一 . . . . … ・ ・ ・ ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ

    2 終齢幼 虫の記載

    ア ワ ヨ ト ウ の幼虫 は集合飼育す る と 強 く 黒イじす る が,ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ の幼虫 は い か な る 街度で も 濃い黒色 には な ら な い (III'I\O, 1 962) 。 野外で も 大発生が起 こ る と アワ ヨ ト ウ の黒化 し た 幼虫が見 ら れ る こ と があ る 。 幼虫の個体群密度 に依存 し た 両種の色彩, 行動, 生理の詳細 につ い て は巌 ( 1988) を参照 し て ほ し い。

    1wAO ( 1 962) は ア ワ ヨ ト ウ 終齢幼虫の体色 を , 主 に 男、化の程度 に よ っ て , い く つ かの タ イ プ に 分 け た 。 著 し く黒化 し た タ イ プでは, 背域 は ビ ロ ー ド様の黒色で, 頭部は黄褐色で濃い暗褐色の網 目 状模様 を 持 ち , そ の 中 で も

    図 - 5 ア ワ ヨ ト ウ と タ サ シ ロ キ ヨ 卜 ウ の頭議

    上 ー ア ワ ヨ ト ウ , 下 : ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ . 斑 紋 は 頭

    部友半分 の み, 車u毛名 は右半分 の み記入 し た . �I 盛1 111111.

    前額縫線機 と 単限付 近の条線 は 特 に 目 立 つ 。 前胸背楯 は明瞭な 白線 を も っ漆黒, 気門下域 は黄色 か桃色 を 帯 び 白みがか る が, 極端な黒化個体では黒みがか る 。 腹部側面も か な り 黒化 し, I直脚 は 明 瞭 な 黒帯 を も ち , 気 門 は 黒色。

    ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ 終齢幼虫 は 強 く 黒化す る こ と は な いの で, ア ワ ヨ ト ウ の黒化 し た 個体 と は外見で区別 す る こと がで き る 。 ア ワ ヨ ト ウ 終齢幼虫が黒化 し て い な い場合は ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ 幼虫 と 外見が類似す る の で, 細部形態 に 基づ い て 識別 し た 方が よ い。 両種 と も 腹脚 は 同 等 に発達 し, 鈎爪は単列半環状, 同長状で長短交互 を な さ ない。 両種 と も 体長 は 27�40 mm, 頭幅 2 . 9�3 . 5 mm。

    ア ワ ヨ ト ウ : 頭部淡褐色で, 前額縫線横付近 に は太 い黒条 を備 え る (図ー5 上) 。 胴部賞灰色で細 い黒線がかすり 状 に 走 る 。 背線, 側線, 気門上線, 気門線, 気門下線は そ れぞれ細 く 黄 白 条 を な し , 側線 と 気門線の背縁 は淡

    一一一 40 一一一

  • ア ワ ヨ ト ウ と ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ の識別法 133

    黒条 を な す。 気門 は褐色 で黒環 を 備 え る 。

    ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ : 頭部 は 淡茶褐色 を呈 し , 前額縫線

    横付近 に は太 い 淡黒条 を 備 え , 頭部側方 に は網 目 状 の 淡

    黒色の紋様 を 持 つ (図-5 下) 。 胴部 は 淡黄緑色 で背線,

    側線, 気門線 は 白色。 気門線 と 気門上線 の 聞 の領域 は周

    囲 の色彩 よ り や や濃 く な る 。 気門 は 淡褐色。

    IV 婦 での識別法

    1 舗の検索表

    l . 腹部末端 は 平滑で彫刻 は な く , 側方の 1 対の刺毛 は

    ほ と ん ど 目 立た な い 突起上か ら 生 じ る 。 1 対 の 尾刺

    は長 く , ほ ぽ平行 に 走 る 。 … . . , ・ H ・ H ・ H ・ - ア ワ ヨ ト ウ

    腹部末端 に は顕著な彫刻 が あ り , 側方の 1 対の刺毛

    は 目 立 っ た 突起物上 か ら 生 じ る 。 l 対 の 尾刺 は 短

    く , 側方 に 向 か つ て 聞 く 。 … … … ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ

    2 舗 の記載

    踊 で は 腹部 末端 に 両種 の 形 態 的 な 差異 が顕著 に 現 れ

    る 。 図-6 に 婦の第 10 腹節末端部 の 右側面 図 と 腹面図 を

    示 し た 。 両種 と も 末端部 中央 に 1 対の太い尾刺, 側方に

    細 い 1 対の刺毛, 背 方 に 細 い l 対の刺毛 を 備 え る 。 右側

    面図で は両種 と も こ れ ら の う ち 1 本ず つ が見 え る 。 腹面

    図 で は 両種 と も 背 方 の 細 い l 対 の 刺 毛 は 隠 れ て 見 え な

    し ミ。

    ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ で は , 側方の細い 1 対の刺毛 よ り 後

    方 に は 多数の顕著な彫刻 を 備 え る が, ア ワ ヨ ト ウ で は こ

    の部分 は平滑で彫刻 は 確認で き な い 。 ア ワ ヨ ト ウ で は側

    方 の 細 い 1 対 の 刺毛 よ り 前 方 に は 体 を 横 断 す る 簸 が あ

    る 。 側方の細 い I 対の刺毛お よ び、背方の細 し リ 対の刺毛

    は ア ワ ヨ ト ウ の 方 が ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ よ り も 明 ら か に長

    い。 ま た , 中央の l 対 の 太 い 尾刺 も ア ワ ヨ ト ウ の 方が長

    い。 ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ で は , 側 方 の 1 対の刺毛 は 目 立 つ

    た 突起物上か ら 生 じ る が, ア ワ ヨ ト ウ で は側方の l 対の

    刺毛 は あ ま り 目 立 た な い 突起物上か ら 生 じ る 。 体長 は ア

    i!ffl/ア苦 農薬概説

    図 - 6 ア ワ ヨ ト ウ と ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ の婦の腹部第 10 節末端図

    A : ア ワ ヨ ト ウ 右側面図, B : ア ワ ヨ ト ウ 腹面図,

    C : ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ 右側面図, D : ク サ シ ロ キ ヨ トウ 腹面図. 日 盛 0 . 5 mm.

    ワ ヨ ト ウ で約 18 mm, ク サ シ ロ キ ヨ ト ウ で約 16 mm。

    お わ り に

    ア ワ ヨ ト ウ の生 き た 幼虫 を い た だ い た 農業環境技術研

    究所の吉田睦浩氏 お よ び 日 頃 よ り ご指導 い た だ き , ま た

    本稿の校聞 を 賜 っ た服部伊楚子氏 に 感謝 申 し 上 げた い 。

    引 用 文 献1) BI,CK. H. ( 1960) : Die Larvalsystematik der Eulen

    (N octuidae) . Academie Verlag. Berl in. 406 pp. 2) HREBLAY. M. ( 1996) ・ Esperiana 4 : 133� 158. 3) i I\'AO. S. ( 1962) : Mem. Co11 . Agric. Kyoto Univ.. 84 :

    1�80 4) 巌 俊一 (1988) : 巌俊一生態学論集 全一巻, 思索社,

    東京. 760 pp 5) 山本義丸 (1965) 原色 日 本蛾類幼虫図鑑 (上) . 保育社,

    大阪. pp 77�84 6) YOSII IMATSU. S. ( 1990) : Tyo to Ga 41 : 171�179. 7) YOSHI�IATSU. S. ( 1994) : Bu11 . Natl . Inst. Agro-Envi

    ron. Sci . 11 : 81�323. 8) 吉松慎一 (1995) : 植物防疫 49 : 385�387.

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    一一一 41 一一一