トランスジェンダー青年が抱く性別違和感の思春期...

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Title トランスジェンダー青年が抱く性別違和感の思春期・青 年期における変容過程 : 複線径路・等至性モデル (TEM)による分析 Author(s) 吉川, 麻衣子 Citation 沖縄大学人文学部紀要(20): 1-16 Issue Date 2018-01 URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/22086 Rights 沖縄大学人文学部

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Titleトランスジェンダー青年が抱く性別違和感の思春期・青年期における変容過程 : 複線径路・等至性モデル(TEM)による分析

Author(s) 吉川, 麻衣子

Citation 沖縄大学人文学部紀要(20): 1-16

Issue Date 2018-01

URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/22086

Rights 沖縄大学人文学部

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沖縄大学人文学部紀要 第 20 号 2018

〈論文〉

トランスジェンダー青年が抱く性別違和感の思春期・青年期における変容過程

―複線径路・等至性モデル(TEM)による分析―

 

吉川 麻衣子

要 約

 本研究では,トランスジェンダー青年が,思春期・青年期の発達過程においてど

のような行為や心情を経験し,自らの生き方をどのように模索するのかを複線径路・

等至性モデル(TEM)を用い質的に分析した。4 名の研究参加者がサポート・グルー

プで語った内容から作成した TEM 図を基に分析したところ,①「自分らしさ」を模

索する過程で自己を過剰抑制して自傷行為等に及び,②「性同一性障害(性別違和)」

という用語を知って自らの性別違和感を理解し,③サポート・グループに参加する

ことで他者と類似した経験を語り合えることの安心感を得て,④高校に進学するこ

とを選択し,⑤ジェンダークリニックを受診し,⑥大学・専門学校に進学すること

を選択していた。それらの経験に至る径路は多様であり,親や教師の理解が得られ

るかどうか,診断を受けて治療を開始できるかどうかが,トランスジェンダー青年

が思春期・青年期を生きる上で重要な岐路となることが示唆された。

キーワード:性別違和感,性同一性,トランスジェンダー,思春期・青年期,複線径路・等至性

モデル

Ⅰ 問題と目的

 2013 年,米国精神医学会は『精神疾患の分類と診断の手引き(Diagnostic and Statistical

Manual of Mental Disorders)第 5 版』を発行し,“Gender Identity Disorder”から“Gender

Dysphoria”へ疾患名を変更した。この用語の転換の背景には,欧米を中心に性別違和を持つ人

びとの脱病理化を目指す動きがあったとされる(針間,2015)。その後,日本語訳の検討にあたっ

た日本精神神経学会が,「性同一性障害」から「性別違和」へと疾患名を変更したのは翌年のこ

とである。変わったのは疾患名だけではない。性別への身体的な違和感がなくても,期待される

性役割に対する違和感が強ければ,診断基準を満たすと変更された(針間,2015)。しかしなが

ら,この新たな疾患名は一般社会のみならず,医学界においても定着しているとは言い難い。「性

同一性障害」当事者にも,医療者にもこの変更について賛成しがたい人びとが少なからず存在し,

ジェンダークリニック 1) で出される診断書には「性同一性障害(性別違和)」と記されることが

多いのが現状である。また,国連の WHO(世界保健機関)が規定する ICD(国際疾病分類)も

まもなく改訂される動きがある。精神疾患でも身体疾患でもない分類がなされる見込みである

が,ICD に準拠して診断基準が規定されている本邦においては,現時点では精神疾患の分類のま

まである。このような用語の転換期にあることを鑑み,本稿では,疾患というよりも「性別違和感」

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沖縄大学人文学部紀要 第 20 号 2018

をもつ人びとが,自らの個性的なジェンダー・アイデンティティに誇りをもって示す際に用いる

「トランスジェンダー 2)」という表記を採用することとした。

 トランスジェンダーの人びとが抱く「性別違和感」とは何か。ここにもさまざまな定義が存在

する。中塚(2017)は,身体の性(生物学的性)と心の性(性自認)とが一致しないため,「自

分の身体が自分のものではないような感覚」と定義し,「身体の性」に対する「嫌悪感」につい

て強調した。また,康(2017)は,「戸籍上の性と性自認が一致せず,戸籍上の性に当てはめら

れることにストレスや違和感を抱くこと」と定義し,「身体の性」という言葉ではなく「指定さ

れた性別(assigned gender)」という言葉を使用することにより,性分化疾患 3) を持つ人の「違

和感」も含意するものと解釈した。さらに,佐々木(2017)は,「出生時に割り当てられた性別

に対して一貫して同一感を持たない状態」を「性別違和感」と定義した。この定義にある「一貫

した同一感」とは,「たとえば男性アイデンティティの強弱を捉えるために,10 年前も男性であ

り,今も男性であり,30 年後も男性だろうという時間軸的な一貫性の感覚の強さを測定し,また,

男性としてこう在りたいと思い,他者も自分を男性だと思っているだろうと思い,そして男性と

して現実の社会の中で生きていっているだろうという,他者も社会も含めた統一的な感覚の強さ」

であるとし,それは置かれた環境で強まったり弱まったりすると示唆した。つまり,「性別違和感」

は揺れ動くものであるとされている。ここで本稿では,佐々木の定義に一部倣い,「出生時に指

定された戸籍上の性に対して一貫した同一感をもたない状態」を「性別違和感」と定義する。

 ところで,性別違和感はいつ頃から自覚され始めるのか。「性同一性障害(性別違和)」の総合

的診療の拠点となっている岡山大学ジェンダークリニックを受診した 1,167 名を対象にした調査

では,トランス女性(431 名)の場合は 33.6%,トランス男性(736 名)の場合は 70.0% が小

学校入学以前から性別違和を感じていたことや,約 9 割が中学生までに自覚していたことが示

唆されている(中塚,2013)。また,2012 年に日本精神神経学会の『性同一性障害診療ガイド

ライン(第 4 版)』が改訂されたことを受けて,思春期の性同一性障害の子どもたちへの対応が

始まったことにより,ジェンダークリニックを受診する若年者が増加している(中塚,2017)。

文部科学省は,2015年には『性同一性障害に係る児童生徒に対する細かな対応の実施等について』

を全国の教育委員会等に通知した。さらに,翌年には,『性同一性障害や性的指向・性自認に係る,

児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)』と題する周知資料を公表し

た(文部科学省,2016)。しかしながら,この資料を活用している学校現場は未だ少なく,教職

員に周知されているとは言い難い現状がある(吉川,2017)。

 思春期・青年期における性別違和感について注目すべき理由は,それが“死”と結びつきやす

いためである。中塚(2013)は,ジェンダークリニックの受診者 1,154 名中,自殺念慮経験者

が 58.6%(トランス女性 =63.2%,トランス男性 =55.9%),自傷・自殺未遂経験者が 28.4%(ト

ランス女性 =31.4%,トランス男性 =26.6%)と示唆している。また,自殺念慮の発生時期の第 1

のピークは二次性徴による身体の変化や恋愛の問題,学校という環境の問題などが重なる思春期

の頃であり,第 2 のピークは就業や結婚などに纏わる困難が生じやすい社会へ出る前後の時期(青

年期から成人期初期)であるとした上で,学校および就労の場における「性同一性障害(性別違

和)」への理解と対応の重要性について言及している。

 この思春期・青年期は「アイデンティティの確立」に取り組み始める“疾風怒濤”の時期である。

アメリカの児童精神科医エリクソンによると,アイデンティティとは,「私は唯一無二の存在で

あり,過去も現在も未来も私である」という感覚・自信のことを指す(Erikson,1959)。その人

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トランスジェンダー青年が抱く性別違和感の思春期・青年期における変容過程

の行動や考え方の基盤となるアイデンティティは,試行錯誤を繰り返しながら生涯を通して確立

されていくものではあるが,心理社会的な影響を受けながら,自己の内面で起こる葛藤との折衝

を重ね,個々の歩幅で確立の道を進み出そうとする青年にとって,特に重要な発達課題とされる。

自分の存在を模索し始める時期に,トランスジェンダー青年は,自らのジェンダー・アイデンティ

ティの揺らぎをさまざまな生活場面に際して経験する。トランスジェンダーの社会的認知度は上

がってきてはいるが,必ずしも理解や受入れの段階にあるとは言えない。望むキャリアを選択し

ようとしても,それが許容されない社会制度上の障壁がある。例えば,2004 年に施行された「性

同一性障害特例法」では,戸籍上の性別を変更することが認められている。しかし,変更できる

条件として,2 名以上の医師により「性同一性障害」の診断を受けていること,20 歳以上であ

ること,現に婚姻をしていないこと,現に未成年の子がいないこと,生殖腺の切除または生殖腺

の機能を永続的に欠く状態にあること,性器の外観を変える手術を受けなければならないことが

明示されている。2014 年 5 月,WHO は「手術を強制してはいけない」と本邦に対して勧告を

出したが,現在も変わらずこれらの条件は残存している。そのような本邦の現状の中で,トラン

スジェンダー青年は,社会で働くこと,そして,生きていくことをどのように考えているのだろ

うか。

 そこで,本研究では,性別違和感を抱えたトランスジェンダー青年は,男女二分論が前提とさ

れた学校生活をどのように乗り越え,自らの生き方を模索するのかについて,キャリア選択・移

行期である中学・高校時代に経験される行為や心情に注目し,そのプロセスにおいて重要な分岐

点や関わりは何かを質的に検討することを目的とする。本邦では,治療・手術を経た性別移行過

程における成人のトランスジェンダー当事者の心理的変容に関する示唆は,2010 年頃から増加

傾向にある(吉川,2016)。それらの示唆においても,思春期・青年期に経験した事象が回顧的

に述べられているが,自明のことながら,過去の捉え方は現在の状態の影響を受ける。できるだ

け語り手の心理的様相を鮮明に描くため,本研究では,思春期・青年期の体験の只中で語られた

内容をデータとして用いることとする。

Ⅱ 方 法

1.データ収集

(1)研究参加者

 本研究の協力者は,筆者が運営に関係している「トランスジェンダー(傾向を含む)青年のサ

ポート・グループ」に参加する 4 名であった。当グループは,月 1 回のペースで開催されてい

る Closed-Group で,一般に向けた募集は行わず,縁故者から紹介がある場合のみ参加可能となっ

ており,毎回 10 名前後の参加者がいる。4 名の概要を表1に示す。

 4 名の共通点は,①同級生であること,②中学 2,3 年生の頃にサポート・グループに参加し

始め,以降,継続的に参加していること,③ジェンダークリニック初診時が高校生であったこと,

④現在,大学あるいは専門学校に在籍していることの 4 点であり,「性同一性障害(性別違和)」

の診断の有無,ホルモン治療開始の状況は異なる。本研究で扱うデータは,サポート・グループ

内で 4 名が語った内容を用いた。2014 年 8 月から 2017 年 8 月の 3 年間(計 28 回;2014 年 2 回,

2015 年 8 回,2016 年 10 回,2017 年 8 回)のグループ・セッションのデータを用いた。1 回

のセッションは約 2 時間である。

 なお,サポート・グループとは,特定の悩みや障がいを持つ人たちを対象に行われる小グルー

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沖縄大学人文学部紀要 第 20号 2018

プのことである。その目的は,仲間のサポートや専門家の助言を受けながら,参加者が抱えてい

る問題と折り合いをつけながら生きていくことである。専門家あるいは当事者以外の人びとに

よって開設・維持されるが,参加者の自主性・自発性が重視される相互援助グループである(高

松,2009)。

表 1 研究参加者の概要

概  要

A

・2014 年 8 月(中学 2 年生),親の知人の紹介でグループ参加。2017 年 8 月時点は大学生。

・高校 1 年生の頃,母親同伴でジェンダークリニックを受診。

・約半年間通院後に「性同一性障害(性別違和)」の診断を受けた。治療は未開始。

B

・2014 年 11 月(中学 2 年生),親の勧めでグループ参加。2017 年 8 月時点は大学生。

・高校 2 年生の頃,両親同伴でジェンダークリニックを受診。

・約 1 年間通院後に「性同一性障害(性別違和)」の診断を受けた。治療は未開始。

C

・2015 年 4 月(中学 3 年生),知人の紹介でグループ参加。2017 年 8 月時点は大学生。

・高校 1 年生の頃,友人と共にジェンダークリニックを受診。

・約 1 年間通院後に「性同一性障害(性別違和)」の診断を受けた。大学進学が決まってまもなくホル

モン治療を開始。治療費は全額自費。性別適合手術に備えて貯金している。

D

・2015 年 6 月(中学 3 年生),知人の紹介でグループ参加。2017 年 8 月時点は専門学校生。

・高校 2 年生の終わり頃,一人でジェンダークリニックを受診。

・約 2 年間通院を続けているが,未だ診断は出ていない。

(2)倫理的配慮

 まず,サポート・グループに参加する際には,筆者および主催者と参加者との間で同意書が交

わされている。その内容は,毎回のセッションを音声データで残すということである。当グルー

プでは,本研究とは別に,「当事者研究」も並行して実施されているため,参加者は自身の研究

記録として音声データを取っている。また,同意書には,「研究で記録を使用する場合には,用

いられるデータを本人と確認し,承諾が得られた部分のみを使用すること」という項目が設けら

れている。本研究への参加依頼の際には,改めて本研究に関する同意書を交わした。研究目的や

プライバシー保護に関すること,情報公開の範囲と留意事項について書面で説明し,協力して

もらえる場合には,本人と保護者に同意書への署名をいただいた。本研究で使用するデータは,

28 回のグループ・セッションのうち 4 名が自身のことを語った部分のみとし,分析に使用する

音声データを逐語化した時点で本人とグループ参加者に内容を確認してもらい,1 名でも使用を

控えて欲しいと申し出があった箇所は削除した。

2.データ分析

(1)TEM とは

 本研究は,性別違和感をもつトランスジェンダー青年の心理的変容プロセスを明らかにするこ

とであり,客観的で一般化可能な示唆を導くことよりも,人生のある時点における自己語りを基

に研究参加者にとって役に立つ形で結果を示すことを優先する。そこで,分析方法は,複線径路・

等至性モデル(Trajectory Equifinality Model;以下,TEM と記す)を選択した。

 TEM とは,Valsiner,J. が創案したもので,発達を点ではなくプロセスで捉えようとする発達

心理学の観点から,人間の経験を時間的変化と社会的・文化的な文脈との関係で捉え,その多様

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トランスジェンダー青年が抱く性別違和感の思春期・青年期における変容過程

な径路を記述するための質的研究の手法の一つである。「TEM は単なる技法のマニュアルでは

なく,具体的なライフ(生命・生活・人生)を丁寧に考えることを本質的に含んでいる方法論で

ある」(安田・サトウ,2012)。

 他の質的研究法とは異なる TEM の特徴は,「時間」を捨象しないということである。非可

逆的な時間の流れの中で,個々人の歩みは多様であるが,等しくあるいは類似した「等至点

(Equifinality Point;EFP)」を経験するという考え方に依拠している。そして,等至点に到達

する間には,各々の人生の選択や出来事があり径路が分かれていく。それを「分岐点(Bifurcation

Point;BEF)」と呼び,分岐点を経て等至点に収束すると考える。また,選択をしながら人生の

歩みを進めていく際に,後押しとなる影響を「社会的ガイド(Social Guidance;SG)」,阻害・

抑制的に働く影響を「社会的方向づけ(Social Direction;SD)」とし,それらによって多くの

人が制度的・慣習的・結果的に経験するポイントを「必須通過点(Obligatory Passage Point;

OPP)」と呼んでいる。これらの概念を用いて人生の歩みを可視化していくのが TEM である。

 また,TEM で扱うデータ数については「1・4・9 の法則」が提唱されている(荒川・安田・サトウ,

2012)。「同じような」経験をした人をサンプリングするものとし,1 名であれば個人の経験の

深みを探ることができ,4 名であれば経験の多様性を描くことができ,9 名であれば径路の類型

を把握することができるとされる。本研究は,上述の通り,一般化あるいは類型の把握を目指し

てはいない。トランスジェンダー青年が,どのように思春期・青年期の時期を生きているのかを,

そのプロセスにおける人生の選択・心理的変容の個々の多様性を損なうことなく明らかにすると

いう研究目的に沿った研究方法として,TEM を採用した。

(2)分析手順

 データ分析は TEM の分析手順(安田・サトウ,2012;安田・サトウ,2017)に従った。①

4 名が参加したサポート・グループの音声記録を逐語化し,4 名が語っている音声データを抽

出した。② 4 名の音声データの内容を意味のまとまりごとに切片化し,それぞれに内容を端的

に示すラベルをつけた。③思考や認知,行動などの変容について時間軸に沿って並べ,個別の

TEM 図を作成した。④個別に作成された図を各自確認してもらい,加筆・修正を行った。⑤ 4

名分の TEM 図を照らし合わせ,類似した内容のものをまとめてラベルを作成した上で,一つの

TEM 図に統合した。⑥統合図が完成した時点で,4 名に再度確認してもらい,加筆・修正を行った。

Ⅲ 結 果

1.トランス男性が思春期・青年期に経験する行為・心情の変容プロセス

 図 1 は,4 名のデータを統合した TEM 図である。トランスジェンダー青年が,キャリア選択

をする重要な時期である中学・高校時代をどのように過ごしているのか,また,その過程におい

てどのような行為・心情が経験されやすいのかを明らかにすることが本研究の目的である。その

ため,4 名がデータ収集時において「現在のこと」(中学生・高校生の時期)を語っている部分

に焦点を当て,「それ以前のこと」(幼少期から中学校入学以前)については,本研究の考察に必

要な部分のみを TEM 図に組み込んだ。また,表 2 は,図 1 を分析するために整理した概念表で

ある。

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沖縄大学人文学部紀要 第 20号 2018

サ ポ ー ト グ ル ー プ に 参 加 す る

親 が 理 解 し て く れ る

親 に 違 和 感 を 伝 え ら れ な い

親 が 理 解 し て く れ な い

図1 トランス男性が思春期・青年期に経験する行為・心情の変容プロセス

我 慢 し て 女 子 の 制 服 を 着 用 す る男 子 の 制 服 を 着 用 す る

知 人 に 違 和 感 を 伝 え る

親 子 の 葛 藤

親 に 違 和 感 を 伝 え る

非可逆的時間

※は語りの主体を示す

等至点(

)必須通過点(

)分岐点(

)データか

ら得られ

た径路

理論上想定可能な径路

行為・経

験心情

選択はされ

なかったが

あり得

た行為・経

高 校 に 進 学 す る

「 性 同 一 性 障 害 」 と い う 言 葉 を 知 る

自 殺 企 図

ホ ル モ ン 治 療 開 始 す る ホ ル モ ン 治 療 開 始 で き な い

高 校 に 進 学 し な い

部 活 動 を や ら な い 自 己 否 定 感

自 傷 行 為 を す る

貫 く こ と の 限 界

理 解 あ る 教 師 と 出 会 う 理 解 あ る 教 師 と 出 会 え な い

ジ ェ ン ダ ー ク リ ニ ッ ク を 受 診 す る

将 来 が 閉 ざ さ れ た 感 覚

大 学 ・ 専 門 学 校 に 進 学 す る就 職 す る

社 会 に 出 る こ と の 恐 れ診 断 を 受 け ら れ な い「 性 同 一 性 障 害 」 の 診 断 を 受 け る

自 認 す る 性 に も っ と 近 づ き た い

治 療 費 捻 出 の た め

ア ル バ イ ト を す る 焦 燥 感

焦 燥 感

医 師 へ の 疑 念

自 傷 行 為 を す る

支 え と な る 人 と 出 会 う

感 謝

親 へ の

苛 立 ち

性 別 違 和 感 が あ る

二 次 性 徴 に よ る 身 体 変 化 へ の 嫌 悪 感

男 女 別 活 動 の 拒 否

男 女 二 分 論 へ の 疑 問

性 別 違 和 感 が な い

他 の 子 と 何 か が

違 う と い う 感 じ

恋 愛 対 象 の 性 別 の 揺 れ

一 人 称 ( 僕 ・ 私 ) の 迷 い 性 別 違 和 感 を 自 覚 す る

社会的ガイド

社会的方向づけ

自 己 否 定 感 不 完 全 燃 焼

新 し い こ と へ の チ ャ レ ン ジ

性 別 変 更 ・ 通 称 名

使 用 に 関 す る 社 会

制 度 上 の 障 壁

中 学 卒 業 後 の キ ャ リ ア 選 択 を す る

ロ ー ル モ デ ル の

姿 か ら 将 来 の 自

己 像 を 想 像 す る

社 会 の 現 実 を 知 る

生 き 方 の 可 能 性 を 拡 げ た い

親 と 話 し 合 い

を 重 ね る

親 へ の 感 謝

い じ め ・ 不 登 校

を 経 験 す る

中 学 校 入 学 ( 女 子 制 服 の 着 用 を 義 務 付 け ら れ る )

学 校 生 活 に お け る

性 役 割 の 押 し つ け

「 自 分 ら し く 生 き る こ

と 」 を 推 奨 す る 社 会 的

風 潮 の 高 ま り

自 分 を 抑 制 し 適 応 し よ う と す る あ り の ま ま に 生 き よ う と す る

部 活 動 に 没 頭 す る

「 自 分 ら し さ 」 を 模 索 す る

学 習 意 欲 が 低 下 す る

申 し 訳な さ

多 様 な 性

に 関 す る

情 報 発 信

違 和 感 の 正 体 が 分 か り 安 心 感 を 得 る

安 心 し て 自 分 を 語 れ る 場 を 得 る

小 学 校 入 学

高 校 卒 業 後 の キ ャ リ ア 選 択 を す る

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トランスジェンダー青年が抱く性別違和感の思春期・青年期における変容過程

表 2 TEM の概念表

概 念 本研究の位置づけ

等至点:EFP(Equifinality Point)

①「自分らしさ」を模索する②「性同一性障害(性別違和)」という言葉を知る 【違和感の正体が分かり安心感を得る】③サポート・グループに参加する 【安心して自分を語れる場を得る】④高校に進学する⑤ジェンダークリニックを受診する⑥大学・専門学校に進学する

分岐点:BEF(Bifurcation Point)

①自分を抑制し適応しようとする・ありのままに生きようとする②親に性別違和感を伝える・伝えられない③高校で男子の制服を着用する・我慢して女子の制服を着用する④理解ある教師と出会う・出会えない⑤「性同一性障害(性別違和)」の診断を受ける・受けられない⑥ホルモン治療を開始する・開始できない

必須通過点:OPP(Ob l igatory Passage Point)

①小学校入学②中学校入学③中学卒業後のキャリア選択をする④高校卒業後のキャリア選択をする

社 会 的 方 向 づ け:SD(Social Direction)

社会的ガイド:SG(Social Guidance)

①<学校生活における性役割の押しつけ><「自分らしく生きること」を推奨する社会的風潮の高まり>:女らしく,男らしくではなく,性役割にとらわれずに

「自分らしく生きること」が大事だという社会的風潮が高まる(SG)。一方で,「学校生活における性役割の押しつけ」が「自分らしく生きようとする」方向性を抑制している(SD)。②<多様な性に関する情報発信>:メディア等を通して,男女二分論では捉えられない「多様な性」に関する情報に触れる機会が増えたこと(SG)。③<性別変更・通称名使用に関する社会制度上の障壁>:「性同一性障害(性別違和)」の診断を受け,自認する性にもっと近づきたいと思っても,社会制度上,若年者には経済的な面においても厳しい状況がある。また,トランスジェンダー青年が就職する際,性別・名前に関して不利益・誤解を被る場合もある(SD)。④<ロールモデルの姿から将来の自己像を想像>:ロールモデルの存在のおかげで将来が閉ざされた感覚から脱して,未来の自己像を描けるようになることがある(SG)。

2.等至点と分岐点の設定と語りから読み取れる背景要因

 それぞれ異なる径路を歩んでいても,非可逆的な時間の流れの中で辿りつく等しくあるいは類

似した経験が等至点である。また,分岐点とは,等至点から次の等至点に到達するまで,あるい

は必須通過点から等至点に到達するまでの間で行われる人生の選択や出来事のことである。表 2

の通り,本研究では,研究テーマに照らして 6 点の等至点と 6 点の分岐点を設定した。ここでは,

非可逆的時間に沿って,研究参加者の語りから読み取れる等至点および分岐点の背景要因につい

て示す。以下,行為・経験を【 】,心情を《 》,実際の語りの内容を「 」で記す

(1)「自分らしさ」を模索する(等至点①)

 中学校入学以前の発達過程において,4 名はすでにそれぞれの経験の中で「自分らしさ」の模

索を始めていた。小学校入学直後には【性別違和感があった】A と B は,《二次性徴による身体

変化への嫌悪感》を抱きながら,学校生活で当然のようにさせられる【男女別での活動を拒否】

し,「自分の性がよく分からない子どもは私たちの学校(クラス)にはいないことを前提に話し

ている担任の発言に苛立ちを感じていた(A)」という。また,2 名とも「作文を書く時に<僕

>と書くと訂正され,話をする時に<僕>と言うと同級生から指摘された」とし,「最初は国語

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沖縄大学人文学部紀要 第 20号 2018

の作文の時間だけが苦痛だったが,次第に学習意欲が低下していった。『自分らしく』過ごした

いと思いながらも,そんなことは小学生の自分にはとても表現できなかった」と語っていた。一

方,小学校入学時点では,【性別違和感がない,あるいはよく分からなかった】C と D は,それ

ぞれ異なる径路を経て中学校入学前には【性別違和感を自覚】していった。そのような状態で迎

えた中学校入学を機に,彼らは「自分らしさ」の模索をさらに深めていった。

(2)自分を抑制し適応しようとする・ありのままに生きる(分岐点①)

 【「自分らしさ」の模索】という等至点を経た 4 名は,中学校での【女子制服の着用義務】について,

「苦痛以外の何物でもなかった」と全員が語っていた。しかし,中学入学後の適応スタイルは A,B,

C の 3 名と D とでは異なっていた。前者の 3 名は,【自分を抑制し学校生活に適応しようとする】

方法として,【部活動に没頭】することを選択し,所属感を得ようとした。「スポーツに打ち込む

ことでフラストレーションを発散していた(B)」,「束の間の所属感でもよかった,居場所が欲

しかった(A)」と語っていた。しかしながら,競技スポーツに熱心になればなるほど,「女子の

部活に所属していることの疑念や,女子のユニフォームの着用,本当は他にやりたい競技がある

のに女子だからという理由でできなかったり,公式試合には出られなかったりした(B,C)」。「一

番きつかったのは,“本物の男子”との体力差だった(A)」と語っていた。こうした《自己否定

感(A)》や《不完全燃焼感(B,C)》を抱き,3 名はほぼ同時期に人生初めての【自傷】を行っ

ていた。一方,群れることを嫌い【ありのままに生きる】ことを選択した D は,「他者と接する

ことで嫌でも自分自身を意識させられる(D)」ため,なるべく人と接触しないように学校生活

を送っていた。しかし,その生き方を《貫くことの限界》を突き付けられる激しいいじめ経験を

機に《自己否定感》を強く抱くようになり,【自殺企図】に及んでいた。

(3)「性同一性障害(性別違和)」という言葉を知る(等至点②)

 自らの存在を否定し,「消えたい」という想いをそれぞれの方法で行動化した 4 名は,「性同

一性障害(性別違和)」という言葉をほぼ同時期に知った。「幼少期からずっと自分の内でうごめ

いていた違和感の正体が分かり,とにかく安心した(A)」,「テレビでこの言葉を知って,自分

のモヤモヤとかイライラは,これ(性別違和)のせいだったのだと確信した。当事者が語る生い

立ちと自分が重なってすごく納得できたと同時に,すごく泣けてきた(C)」と語っていた。こ

の時期は 2014 年 5 月頃であり,アメリカの有名女優の同性婚が報道され,NHK 総合では,ト

ランスジェンダーを含む多様な性に関する情報番組が放送された(SG)。この番組を 4 名とも観

ていた。正しい情報を得ることにより,それまで自己破滅的な考えに支配されていた D は,「生

まれた女性の身体にすごく嫌な感じがしていたり,女扱いされるとすごく腹が立ったり,男子の

格好が好きだったり,男子の方が話しやすかったりするのは,『自分だけ』が特別なのではない

と分かって,本当に,本当にホッとした」と語っていた。

(4)親に性別違和感を伝える・伝えられない(分岐点②)

 メディア等を通して,【『性同一性障害』という言葉を知った】4 名には,その後,【親に違和

感を伝える・伝えられない】の分岐点が訪れた。【伝える】選択をした A は,「親に話してみると,

『そうじゃないかと思っていた』と言われて,話す前の緊張が一気に緩んだ(A)」と語っていた。

C は,親との話し合いが A と B ほど簡単には進まなかったが,「親子の葛藤」を繰り返しながら,

時間をかけて互いの想いを交換した。

 また,中学生の時期には【親に違和感を伝えられなかった】D は,「今,話をしてもどうせ分かっ

てくれないと思うから話さない。話さないでも察して欲しいという苛立ちもある」と,グループ

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トランスジェンダー青年が抱く性別違和感の思春期・青年期における変容過程

の初回参加時(中学 3 年生)に語っていた。それから時を経て,高校 3 年生のキャリア選択時

にようやく【親と話をする】機会が得られた。「親が一生懸命に自分を理解しようとしてくれた。

親は親で大変だったと思う。生まれてきたこと,産んでくれたことに感謝している(D)」と語っ

ていた。

(5)サポート・グループに参加する(等至点③)

 4 名は,中学 2,3 年生時に初めてサポート・グループに参加した。A は親の知人の紹介,B

は親の勧め,C と D は知人の紹介によりグループの存在を知り,それぞれが自らの意思で参加

を決めた。「知らない人と一緒に話すのは得意じゃないけど,同じ境遇の人たちに会ってみたかっ

た(A)」,「知人がグループに参加していたので安心だった(C)」,「親は何も分かってくれない。

藁にもすがる思いでここへ来た(D)」と初回参加時に語っていた。また,参加するようになっ

て 3 ~ 5 回目には,「安心して素直に自分を語れる場所になりつつある。いちいち細かい説明を

しなくて分かってくれる人がいることが有難い(B,D)」と語っていた。また,「(グループのこ

とを)もっと早く知っていたら,もっと早く来られていたかというとそうでもない。ようやくこ

ういう場所に来られるようになった。そういうタイミングなのだと思う(B)」と当時語っていた。

(6)高校に進学する(等至点④)

 【中学卒業後のキャリア選択をする】という必須通過点を経た 4 名は,共に【高校に進学する】

ことを選択した。「高校に進学せず」就職する選択肢もあったはずだが,その選択はなされなかっ

た。語り手のライフストーリーによると,この時点で「就職すること」を考えた人はいなかった。

「将来やりたいことをやるには高校ぐらい出ておかないといけないと思う(A)」,「中学までの学

校生活が苦痛だったから,高校に行ったら何か変われるのではないかと密かに期待している(D)」

と語っていた。

(7)制服の選択(分岐点③),理解ある教師との出会いの有無(分岐点④)

 【高校に進学する】という等至点を経た 4 名は,高校での制服を選択することとなった4)。戸

籍上の性別は「女性」のまま【(自認する性である)男子の制服を着用する】ことを選択できた

(許可された)のは A と B だった。「高校入学前に制服のことで母親と高校へ相談に行った。『う

ちの学校にはあなたのような生徒がすでにいて,生徒本人が望む方の制服を着用できるようにし

ているので,安心して高校に通ってください』と言われて,涙が出た(A)」と語っていた。一方,

【我慢して女子の制服を着用する】ことを選択させられた C と D も,入学前や入学直後に高校側

へ働きかけていた。しかしながら,「『私たちの学校では女子が男子の制服を着用することについ

ては,保護者から反対意見が強く対応が難しい』と言われ,悔しくて涙が出た。A と同じ学校

に行けばよかった(C)」と語っていた。A が【理解ある教師との出会い】について涙を流しな

がらグループ・セッションで話した直後に C から語られた言葉であった。

 二人の発言を受けて,その日のセッションは【理解ある教師との出会い】や学校の対応が主題

となった。「(C の話を聴いて)同じ教育関係者として本当に申し訳ないと思った,学校はもっと

生徒の立場で考えるべき」と別の参加者の発言があり,それを受けて,D が「これから高校に入

学しようとしている性別違和感がある後輩たちに,私たちと同じような想いをさせたくない。少

しずつでも社会を変えていきたい。力を貸して欲しい」と語る場面があった。その後,学校で

は理解が得られなかった C と D であったが,グループ参加を通して【支えとなる人との出会い】

へと繋がっていった。

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沖縄大学人文学部紀要 第 20号 2018

(8)ジェンダークリニックを受診する(等至点⑤)

 A と C は高校 1 年生,B と D は高校 2 年生の時に初めてジェンダークリニックを訪れた。A

と B は親同伴で受診した。C は親には内緒のまま友人と初診を終えたが,2 回目の受診前に母親

と時間をかけて話し合いをし,以降は親と共に通院するようになった。D は,一人で初診に臨ん

だが,その後,内緒にしていた親に発覚して叱責を受けた。しばらく実家から離れて暮らしてい

た時期もあったが,現在では,親の同意を得て,クリニックへの通院を約 2 年間続けている。

(9)大学・専門学校に進学する(等至点⑥)

 【高校卒業後のキャリア選択をする】という必須通過点を経た 4 名は,共に【大学・専門学校

に進学する】ことを選択した。この等至点については,【ジェンダークリニックを受診】後の径

路において,【「性同一性障害(性別違和)」の診断】を受けるか受けられないか,また,【ホルモ

ン治療を開始】するかできないかによって,進学の意味づけが異なっていた。この点については,

次項で述べる。

(10)「性同一性障害(性別違和)」診断の有無(分岐点⑤),ホルモン治療開始の有無(分岐点⑥)

 【ジェンダークリニックを受診する】という等至点後の径路は,【「性同一性障害(性別違和)」

の診断を受けた】A,B,C と,約 2 年間通院を続けているが【診断が出ていない】D とでは大

きく異なった。また,【ホルモン治療を開始】するか否かとも関連性があった。

 キャリア選択時にすでに【「性同一性障害(性別違和)」の診断を受け】【ホルモン治療を始め

ていた】C は,【治療費捻出のために複数のアルバイト】に従事していた。(性別移行前であるた

め)保険適用外のホルモン治療を受け続けるには,費用を稼ぐために過重労働をしなければなら

ない状況にあった(SD)。C は,そのアルバイト経験を通して,【社会の現実を知る】こととなった。

アルバイト先でハラスメントを受けたのである。「スカート姿が見たい」,「女らしく色気を出して」

などと言われ,それを断ると暴言を吐かれることもあったという。その経験から《社会に出るこ

との恐れ》を感じ,「特にやりたいことはないが,人生の選択を先延ばしにしたくて【大学へ進学】

する(C)」と語っていた。

 一方,【性同一性障害(性別違和)」の診断は受けている】が,【ホルモン治療は開始できていない】

A と B は,見た目も《自認する性(男性)にもっと近づきたい》が,主に経済的な理由から治

療は始められずにいた。願望と現実の乖離で《焦燥感》が高まり,2 名とも同時期に【自傷行為】

を繰り返すようになった。

 また,【診断を受けていない】D は,「いつになったら診断がもらえるのか。この医者は本当

に自分のことを分かっているのか。目の前に分厚く高い壁があって,先が全く閉ざされた感覚で

毎日を過ごしている」と,その只中のセッションで語り,A,B 同様に D も【自傷行為】を頻繁

に行うようになっていった。だが,D の場合はそのことが契機となり,【親と話し合いを重ねる】

ことができ,「自分自身の苦しみをようやく親が受け止めてくれた(D)」と語り,自傷行為は次

第に収束していった。その頃に,D の救いとなっていたのは,ロールモデルの存在(SG)であっ

た。サポート・グループで出会った成人やメディアに登場する当事者が,困難をどのように抱え,

乗り越えてきたのかを語るのを聴くにつれ,「将来の自分の姿が少しずつではあるが想像できる

ようになってきた(D)」と語っていた。このように,それぞれの径路は異なるが,A,B,D の

3 名の【大学・専門学校に進学する】意味は,「《生き方の選択肢を拡げたい》からである」と語っ

ていた。

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トランスジェンダー青年が抱く性別違和感の思春期・青年期における変容過程

Ⅳ 考 察

1.トランスジェンダー青年は思春期・青年期をどのように生きているのか

(1)性別違和感の変容過程

 多くの場合,物心つく頃には,自分の性別が男性なのか女性なのかを認識するとされる(遠藤,

2016)。本研究の参加者 4 名は,「小学校入学前の時期より,女の子の遊びや玩具(女の子の人形),

服装(スカートやフリルのついたブラウス)や装飾(髪留めやリボンなど)に対して,嫌悪感が

あり,男の子の遊びや玩具,服装を好む傾向があった」と共通して語っていた。しかし,それを

出生時に指定された性別に対する違和感と自覚していたのは,A と B の 2 名であり,C と D の

2 名は「迷い」の渦中にあった。中学校入学までの間に,自我が成長し,自他比較を行うことに

よって,その「迷い」が「確信」へと変わっていった。中塚(2017)は,「二次性徴が始まる前

の年齢で性別違和感を持つ子どもの中には,性別違和感が軽くなったり,消失したりする場合,

あるいは,性同一性障害ではなく同性愛であるとわかる場合がある」と示唆している。本研究の

D の小学校時代の経験は,この兆候が現れていたのかもしれない。また,性別違和感が成人期以

降で「確信」される場合も報告されており(遠藤,2016),芽生えから確信へ至る性別違和感の

様態・変容過程は実に多様であると考えられる。

 また,本邦では,二次性徴抑制ホルモンを投与する治療が行われている。この治療は 18 歳未

満で性別違和感を強く訴える方に,一定期間行われ,ホルモンの投与を中止すると正常な二次性

徴が再開されるものである。佐々木(2016)は,「日本では,第二次性徴を止めて,自分の性同

一性について今一度ゆっくり熟考するという重要な段階をスキップし,安価であるという理由か

らなのか,最初から異性化ホルモンを投与する医療者がいる」と指摘している。本研究の D は,

ジェンダークリニックへの通院を約 2 年間継続しているが,未だ「性同一性障害(性別違和)」

の診断が出ていない。《自認する性にもっと近づきたい》心情の高まりから,《焦燥感》が募り,【自

傷行為】に及んだ。しかしながら,その行為を機に,疎遠になっていた親との愛着関係が再構築

され,ジェンダーの面だけではなく,アイデンティティそのものへの模索を始めていった。D 自

身は,「自分は何者かという問いは,トランスジェンダーの人びとだけではなく,多くの人びと

が問い続けるものだと思う。今はただ,じっくりと自分のことを考える時期を与えてもらったの

だと受け入れている」と語っていた。

 このようなことから,性同一性への違和感である「性別違和感」は,必ずしも思春期以前に確

定するのではなく,思春期以降の二次性徴による身体的変化や性の成熟,そして,さまざまな社

会・環境的影響によって省察が繰り返される過程で変容していくものであると解される。その過

程において,時や状況によって違和感は強められたり緩和されたりするものである。昨今,自己

判断で異性化ホルモンをインターネットで購入して服薬する行為が問題となっている。その行為

は,当然,身体的に重大な影響を及ぼす危険性がある。しかし,それだけではなく,多くの青年

が自分自身について熟考する過程で生じる「アイデンティティの混乱」を安易に対処しようとす

る行為とも考えられる。青年期の心身の発育発達・健康の観点から,制度上の規制も含め早急に

対策を講じる必要がある。

(2)“死”への結びつき

 メンタルヘルスの領域では,性別違和感をもつ人びとの自傷・自殺未遂経験率の高さが喫緊の

課題となっている(中塚,2013)。本研究の参加者も全員がそのような行為を経験していた。本

研究の結果で特に注目すべき点は,一見すると,生活にうまく適応しているかのように思える青

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沖縄大学人文学部紀要 第 20号 2018

年に潜む“死”の危険性である。「自分らしさ」を抑えながらも幼少期から抱く性別違和感と対

峙し,時には意図的に無視をしながら,トランスジェンダーの青年たちは生きている。救いを求

める想いで中学校入学後に部活動に没頭した A,B,C の 3 名であったが,その活動の中にさえ,「男

女二分」の規則があった。ユニフォームの色の指定,性別によっては挑戦できないスポーツ競技

があるなどを目の当たりにしたり,“本物の男子”との体力差を意識させられる経験を通して,「も

うこの世界に自分の居場所はないと感じた(A)」という。

 彼らは,望まない性の制服の着用に代表される性役割の押しつけがある一方で,「女性らしく,

男性らしくではなく,自分らしく生きていこう」という社会的風潮の高まりの狭間で揺らいでい

ることも明らかになった。本来の自分自身の欲望を抑制して周囲の人に同調したり,束の間の所

属感を得たりして,どうにか生きていこうとしている。その姿は,生きる活力に溢れ,大きな声

を出して,グラウンドを走り回っている元気な姿にしか見えないかもしれない。しかし,ある日

突然のタイミングで心のバランスが崩壊してしまい,青年たちは急速に“死”へ向かおうとする

ことがある。そのタイミングとは,他者にとっては些細で取るに足らない出来事かもしれない。

自傷行為は,「精神的苦痛の鎮痛効果」や「自尊心」などと関連するが,「人生最初の自傷に限っ

ていえば,じつは自殺の意図があることが少なくない」(松本,2014)。つまり,自傷は決して

失敗した自殺企図ではなく,「死のう」という意図をもった行為なのである。そのような心理状

態を青年たちは懸命に生きているのである。

 また,中学校入学後,「自分らしく」生きようと,友人関係をあえて作らず,一人黙々と過ご

そうとした D は,その生き方を貫くことに限界を感じ,生きることを諦めようとした。この心

情は,本研究のテーマである性別違和感だけでは考察し難い。思春期心性の一つに「両価性(ア

ンビバレンツ)」がある。自立したいという欲求と離れることへの不安が同時に生じ,一見矛盾

した態度を示すことがある。その両者の揺れを生活に支障が出ない範囲に収めるには,他者との

適度な関わりが必要である。社会や学校・仲間集団からの影響を受けながら,自我同一性の獲得

の基盤を形成していく。D の行為・経験は,思春期心性の課題と解されるが,性別違和感を強く

持つがゆえに「両価性」の傾向が高まる可能性を示唆した理論的裏付けは,現時点では見出され

ていないため,この点については今後の研究課題としたい。

2.思春期・青年期のトランスジェンダー青年の支えになっていたのは何か

(1)理解ある学校・教師との出会い

 「たかが制服,たかが名前の呼ばれ方で,傷つき,“死”を選択しようとするほど自己否定感が

強まることが本当にあるのか,大袈裟なのではないだろうか」。これは,筆者がある場面で教育

関係者から受けた言葉である。本研究では,思春期・青年期のトランスジェンダー青年の心理的

様相を描く上で,「学校・教師」との出会いは,非常に重要な事象であると想定していた。本研

究の参加者 4 名の場合,中学生の頃には,自分自身の性別違和感について教師に話すことは一

切なかった。しかし,勇気をふり絞って「信頼できる同級生や部活の友人には,少しずつ話をし

ていた」というエピソードもあった。ホワイトリボン・キャンペーン(2014)の調査によると,

小学生から高校生の間に自分自身のセクシュアリティを打ち明けた相手は,609 名中,約 6 ~ 7

割が同級生を選んでいた。また,日高(2013)は,教職員 5,979 名中,性別違和をもつ児童・

生徒と関わったことがある教員は約 10% であり,教師には話しづらいと意識的・無意識的に考

えている児童・生徒が多いことを示唆した。「こんなことを話したら,成績に影響するのではな

いか。先生たちの間で情報が広まるのではないか」と心配して話さない。その心理は容易に想像

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トランスジェンダー青年が抱く性別違和感の思春期・青年期における変容過程

できる。これらのことから,学校現場の中で相談しやすい環境を創っていくことは勿論だが,児

童・生徒同士の間でカミングアウトが行われていることを鑑み,打ち明けられた児童・生徒が執

拗に拒絶して相手の価値観を否定することなく多様性を受容できる素養を育むことを,日頃の教

育活動で取り組む必要があるのではないか。

 また,高校生になると少し様相が異なる。本研究の参加者 4 名中 2 名は,高校入学時に「理

解ある教師」との出会いを果たしている。既述の通り,入学前に「制服」のことで学校へ相談に

訪れた際の対応は,その生徒にとっての高校時代,ひいてはその後の人生に対するモチベーショ

ンをも左右すると推察できるエピソードが語られていた。さらに,そのうちの 1 名は,法律上

の氏名変更は未だ行っていないため学籍上は本名を使用していたが,学校生活において通称名の

使用が日常的には認められていた。「本名が女性っぽくて可愛らしい名前だったし,(本名で呼ば

れると)過去に引き戻される感覚になる。通称名で呼んでもらえるようになってからは自信をもっ

て顔を上げて学校生活を送ることができた」と語っていた。「たかが制服,たかが名前の呼ばれ方」

ではなく,それは彼らのアイデンティティを示す誇りなのである。トランスジェンダーの児童・

生徒に対する合理的配慮をどこまで容認・運用できるかを各学校現場で検討する必要がある。

(2)社会からもたらされるサポート

 本研究の結果によると,心理的な振幅が大きい中学校時期では,【「性同一性障害(性別違和)」

という言葉を知る】ことを機に,【違和感の正体を知り安心感を得る】経験をしていた。正しい

情報を届けることによって,死への結びつきの強いトランスジェンダー青年たちの命を救えるこ

とがある。本研究の参加者 4 名は,自傷行為や自殺企図に及んでいた状態の時に,TV 番組を通

して「性同一性障害(性別違和)」の情報を得て,それまで言葉では表現できなかった「違和感」

の原因を知り,「自分だけではなかった」と安堵した。個人差はあるが,この社会的サポートによっ

て,4 名は将来展望が開けた可能性がある。一方で,例えば,旧来の性役割の押しつけや個性的

なセクシュアリティの芸能人に対して執拗に不適切な関与を続ける場面に触れるなど,メディア

等による傷つき体験は,彼らの命を奪う行為になりかねない。それは,性別違和感を抱える青年

たちを傷つけるという意味でも,そのような人たちは笑われるべき存在なのだという意識を広く

植え付けてしまうという意味でも十分留意すべきことは至極当然である。

 また,社会からのサポートとして,トランスジェンダー青年に大きな影響を及ぼすのは,ロー

ルモデルの存在である。キャリア選択の時期に,先達が辿った道程を知る機会が,自らの人生選

択のターニングポイントになることがある。しかし,就職の時期を目前にしたトランスジェン

ダー青年の中には,履歴書の性別欄に対する拒絶感,面接で見た目と名前の齟齬を指摘されるの

ではないかという不安などがあり,就職活動すらなかなか始められない人びとがいる。本研究の

C のように,アルバイト先でハラスメントを受けて,《社会に出ることの恐れ》を抱く青年も少

なくない。既述の通り,本邦における性別変更の手続きは非常に厳しく,多大な費用を要する。

2018 年度より「性同一性障害」の人を対象にした「性別適合手術」を公的医療保険の適用対象

とする方針を厚生労働省が発表したが,本稿執筆時点では,その詳細は未だ不透明である。その

ような状況で,先達が困難さをどのように乗り越えていったのかを知る機会を増やすことは,非

常に重要なキャリア支援になると考えられる。

3.総 括

 トランスジェンダー青年が,思春期・青年期の時期にどのような行為や心情を経験し,将来を

どのように歩んでいきたいと考えるようになるのか。そのプロセスにおいて,重要な分岐点や関

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沖縄大学人文学部紀要 第 20号 2018

わりは何かを検討することが本研究の目的であった。

 社会的助勢により「性同一性障害(性別違和)」という言葉を知り,長年苦しんできた違和感

が自分固有のものではなかったという安堵感を得るものの,本来自分が生きたいように生きるこ

とは容易ではないと思い知らされる現実に彼らは幾度も遭遇していた。しかしながら,彼らはそ

の度に,親や友人,そして,同じような経験をしてきた人びとに援助を求め,その縁を引き寄せ,

困難さを抱えながらも生きぬき,葛藤とともに乗り越えようとしていた。本研究の結果のみでト

ランスジェンダー青年の心理的様相を理論化するのは拙速に過ぎるが,彼らの心理を理解し,彼

らが望む支援のあり方を窺える有意義な示唆を得ることができた。

 一方,今後の研究課題として次の 2 点を挙げる。1 点目は,「性別違和感」の更なる探究の必

要性である。本研究で描かれた人生径路には,思春期・青年期の発達過程において多くの青年が

経験することと,性別違和感をもつがゆえに経験されることが混在していた。本研究でそれらの

差異や関係性を明らかにすることは困難であった。「自分とは何か」を模索する発達過程において,

トランスジェンダー青年が必ずしも社会的・身体的違和を感じるとは限らない。非常に強い悲し

みを伴って感受する人もいれば,僅かに引っかかりを感じる,または全く感じない人もおり,違

和の感じ方は多様である。それは果たして「違和」という状態なのだろうかという疑問も残った。

今後は,邦訳の再検討も含め,「違和」の有無や度合による人生径路の様相の差異を明らかにし

ていきたい。

 2 点目は,「多様性理解」を深める教育実践の探究である。トランスジェンダー青年にとって

重要な関わりは,理解ある学校・教師の存在であることが本研究で見出された。その関わりが,

彼らの「生」の原動力となる可能性が推察された。翻って,社会的認知が広がりつつあるとはいえ,

男女二分論の意識が色濃く残る学校教育においては,彼らの生きる希望を奪いかねない言動が蔓

延していることも示唆された。人は自分と異質な存在を恐れ,既存の概念や自らの価値観の枠に

当てはめて物事を理解しようとする傾向にある。同調化圧力によって異質なものに対して無自覚

にも攻撃的になることがある。一人ひとりのアイデンティティは単一ではなく複雑かつ複合的な

ものであり,ある観点において多数派である者も,別の観点から捉えると少数派になる。社会的

動向を受け,文部科学省がようやく性的な少数者に目を向け始めたのは既述の通りである。今後

は,その姿勢を教育現場に浸透させるために,すべての児童・生徒の「性」と「生」を支え得る

理論的・実践的研究の蓄積が必要である。

【注 釈】

1)ジェンダークリニック:性別違和や,それに関する悩みなどに対する治療を目的としたクリニックのこ

とである(木下,2017)。

2)トランスジェンダー:ジェンダー・アイデンティティを「男女二分論」を超えて,常に変化していくも

のとして捉えるとするならば,トランスジェンダーとは,出生時に指定された性別と合っていない人を

示す語である(Dannielle & Russo, 2016)。出生時に指定された性別が男性であった者が女性へと性別

を移行する者を MTF(Male to Female),出生時に指定された性別が女性であった者が男性へと性別を

移行する者を FTM(Female to Male)と表記していたが,昨今,MTF をトランス女性(Transwoman),

FTM をトランス男性(Transman)と表記するようになった(佐々木,2017)。本稿でも,引用部分以

外はトランス女性,トランス男性と表記することとした。また,ジェンダークリニック受診中で未だ診

断の受けていない者を「トランスジェンダー傾向」と表記することとした。なお,トランスジェンダー

の人びとのすべてが,医学的な診断や治療,性別適合手術,氏名や性別の変更を望むわけではなく,そ

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トランスジェンダー青年が抱く性別違和感の思春期・青年期における変容過程

のあり方も多様である。

3)性分化疾患(Disorder of Sex Development;DSD):非典型性に対して診断されるが,「身体的性別も

またさまざまなレベルで存在し,濃淡で捉えうる」(佐々木,2017)。性染色体のパターン,精管,卵管,

子宮,卵巣,精巣などの生殖腺の発達具合,ホルモンの量的なバランス,内性器・外性器の内観・外観

などにおいて,個人差がある。

4)近年,女子生徒でも男子生徒用の制服を着用できる学校,女子制服をスカートからパンツスタイルへと

一新した学校,女子制服をスカートとパンツスタイルの 2 種類用意して選択できるようにしている学校

などが増えてきたが,そのような配慮がなされていない学校も未だ多いのが現状である。

【謝 辞】

 本研究に協力していただいた 4 名の青年に心より感謝申し上げます。自分たちが歩んできた過去が図示さ

れた本研究の結果を目にした際,「よくここまで生きてきたな」と語り,出会った人や環境にあらためて感

謝するとともに,今まさに「同じような経験」の只中にいる人に向けて,エールを送っていたことをここに

記しておく。

【文 献】

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endomameta.com/schoolreport.pdf(2017 年 11 月 1 日取得)

木下真也(2017)性別に対する違和感とは(トランスボーイ),『性別に違和感がある子どもたち』,合同出版,

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康 純(2017)『性別に違和感がある子どもたち:トランスジェンダー・SOGI・性の多様性』,合同出版 .

松本俊彦(2014)『自傷・自殺する子どもたち』,合同出版 .

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について(教職員向け)』(2016 年 4 月 1 日)

中塚幹也(2013)学校の中の「性別違和感」を持つ子ども:性同一性障害の生徒に向き合う,JSPS 日本学

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中塚幹也(2017)『封じ込められた子ども,その心を聴く:性同一性障害の生徒に向き合う』,ふくろう出版 .

佐々木掌子(2016)性別違和を持つ子どもへの心理的支援,『精神療法』,42(1),pp.24-29.

佐々木掌子(2017)『トランスジェンダーの心理学:多様な性同一性の発達メカニズムと形成』,晃洋書房 .

高松里(2009)『サポート・グループの実践と展開』,金剛出版 .

安田裕子・サトウタツヤ(2012)『TEM でわかる人生の径路:質的研究の新展開』,誠信書房 .

安田裕子・サトウタツヤ(2017)『TEM でひろがる社会実装:ライフの充実を支援する』,誠信書房 .

吉川麻衣子(2016)心理臨床領域における「性の多様性」に関する課題と展望:2010 年以降の研究動向を

もとに,『沖縄大学人文学部紀要』,第 18 号,pp.25-40.

吉川麻衣子(2017)沖縄県の学校現場における「性の多様性」の実態:教職員を対象とした基礎調査をもと

に,『沖縄大学人文学部紀要』,第 19 号,pp.1-15.

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沖縄大学人文学部紀要 第 20 号 2018

The Process of Experiencing in Trans Men Youth with the Feeling of Gender Dysphoria: Analysis of the Trajectory Equifinality Model(TEM)

Maiko YOSHIKAWA

Abstract Using the Trajectory Equifinality Model (TEM), this study has conducted that transmen youth experienced what kind of act and feelings in adolescence and groped for how I should live. The TEM was created based on the narratives of four transmen who participates in the support group. As the results, six important points were clear: for example, knowing the word “Gender Identity Disorder / Gender Dysphoria,” finding the support group that can talk about oneself in peace, and having parents and teachers understand oneself. Their aspects were the complex and diversity of life.

Keywords: Trans man,Gender Dysphoria,SOGI,Trajectory Equifinality Model(TEM),

Diversity