プロテオミクスの手法によるラミンaの機能解析 -...

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.はじめに HGPS とその原因遺伝子ラミン A 早老症 HGPS 患者は,若い頃から老化の生理学 的特徴を示し,その平均寿命は約13歳である。臨 床的特徴として,低身長,脱毛症,骨の変化,関 節の凝り,突出した静脈,色素不足の肌,口周り のチアノーゼ(図 1 )などが挙げられ,主な死因 は心筋梗塞等の動脈硬化性疾患である[2]。その 発症率は約800万分の 1 である[3]。 HGPS は,核膜の裏打ち構造である核ラミナ の構成タンパク質ラミン A をコードする遺伝子 の変異によって生じる常染色体優性遺伝病であ る[3]。ラミン A は核膜の物理的な強度を保つ一 〔千葉医学 8847 512012千葉大学医学部 5 Daisuke Kinoshita: Functional analysis of lamin A by using proteomics Elucidation of the cause of atherogenesis in Hutchinson-Gilford Progeria Syndrome . 5th grade Medical Student, School of Medicine, Chiba University, Chiba 260-8670. 〔 第三回千葉医学会奨励賞 〕 プロテオミクスの手法によるラミン A の機能解析 早老症である Hutchinson-Gilford Progeria Syndrome における 動脈硬化性疾患の原因解明に向けて 木 下 大 輔 要  旨 老化や死は,生物にとって避けることのできないものであり,長年に亘って老化に関する研究 や議論が続けられている。早老症は,若い頃から老化の生理学的特徴を示すものであり,Hutchin- son-Gilford progeria syndromeHGPS)が促進的な老化過程と類似していることから,同疾患は 老化研究のモデルとして注目を浴びている[1]。 HGPS は平均寿命13歳,主な死因は心筋梗塞等の動脈硬化性疾患である。本疾患は,核膜の裏打 ち構造の構成タンパク質であるラミン A が部分欠損することで生じる常染色体優性遺伝病である 2]。このように,疾患の原因遺伝子および変異はわかっているものの,その発症機構は解明され ておらず,特に,タンパク質レベルでの詳細な研究は未着手であった。 そこで,最新のプロテオミクスの手法を用いて,原因遺伝子である,野生型および変異型ラミン A 相互作用タンパク質の網羅的な解析を行った。その結果,野生型ラミン A に対する相互作用が新 規であり,かつ変異型ラミン A において相互作用の消失するタンパク質が同定された。また,変 異型ラミン A の導入に伴い,老化した血管の細胞において新たに同定された分子をノックダウン することで,その細胞死を防ぐことができた。さらに,変異型ラミン A 導入に伴う細胞の形質の 確認を行う過程で非常に興味深い結果が得られた。すなわち,HGPS 患者の主な死因は動脈硬化性 疾患であることから,血管の細胞に変異型ラミン A を導入したところ,通常とは異なる HGPS に特 徴的な動脈硬化性疾患を実験上,再現できたのである。 今回得られた新たな知見は, HGPS の病態に迫るものであると考えられるので,ここに報告したい。 Key words: 早老症,Hutchinson-Gilford Progeria Syndrome HGPS),動脈硬化性疾患,プロ テオミクス,ラミン Ap53依存性シグナル

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Ⅰ.はじめに-HGPSとその原因遺伝子ラミンA-

 早老症HGPS患者は,若い頃から老化の生理学的特徴を示し,その平均寿命は約13歳である。臨床的特徴として,低身長,脱毛症,骨の変化,関節の凝り,突出した静脈,色素不足の肌,口周り

のチアノーゼ(図 1)などが挙げられ,主な死因は心筋梗塞等の動脈硬化性疾患である[2]。その発症率は約800万分の 1である[3]。 HGPSは,核膜の裏打ち構造である核ラミナの構成タンパク質ラミンAをコードする遺伝子の変異によって生じる常染色体優性遺伝病である[3]。ラミンAは核膜の物理的な強度を保つ一

〔千葉医学 88:47~ 51, 2012〕

千葉大学医学部 5年Daisuke Kinoshita: Functional analysis of lamin A by using proteomics-Elucidation of the cause of atherogenesis in Hutchinson-Gilford Progeria Syndrome- . 5th grade Medical Student, School of Medicine, Chiba University, Chiba 260-8670.

〔第三回千葉医学会奨励賞〕

プロテオミクスの手法によるラミンAの機能解析― 早老症であるHutchinson-Gilford Progeria Syndromeにおける

動脈硬化性疾患の原因解明に向けて ―

木 下 大 輔

要  旨

 老化や死は,生物にとって避けることのできないものであり,長年に亘って老化に関する研究や議論が続けられている。早老症は,若い頃から老化の生理学的特徴を示すものであり,Hutchin-son-Gilford progeria syndrome(HGPS)が促進的な老化過程と類似していることから,同疾患は老化研究のモデルとして注目を浴びている[1]。 HGPSは平均寿命13歳,主な死因は心筋梗塞等の動脈硬化性疾患である。本疾患は,核膜の裏打ち構造の構成タンパク質であるラミンAが部分欠損することで生じる常染色体優性遺伝病である[2]。このように,疾患の原因遺伝子および変異はわかっているものの,その発症機構は解明されておらず,特に,タンパク質レベルでの詳細な研究は未着手であった。 そこで,最新のプロテオミクスの手法を用いて,原因遺伝子である,野生型および変異型ラミンA相互作用タンパク質の網羅的な解析を行った。その結果,野生型ラミンAに対する相互作用が新規であり,かつ変異型ラミンAにおいて相互作用の消失するタンパク質が同定された。また,変異型ラミンAの導入に伴い,老化した血管の細胞において新たに同定された分子をノックダウンすることで,その細胞死を防ぐことができた。さらに,変異型ラミンA導入に伴う細胞の形質の確認を行う過程で非常に興味深い結果が得られた。すなわち,HGPS患者の主な死因は動脈硬化性疾患であることから,血管の細胞に変異型ラミンAを導入したところ,通常とは異なるHGPSに特徴的な動脈硬化性疾患を実験上,再現できたのである。 今回得られた新たな知見は,HGPSの病態に迫るものであると考えられるので,ここに報告したい。

 Key words: 早老症,Hutchinson-Gilford Progeria Syndrome (HGPS),動脈硬化性疾患,プロテオミクス,ラミンA,p53依存性シグナル

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48 木 下 大 輔

方で,多様なタンパク質と相互作用することで,DNA複製および遺伝子の発現にまで関与する分子量74,139Daのタンパク質である[4]。図 2および図 3に示したように,ラミンAをコードする664のアミノ酸のうち,608から657番目に至る50アミノ酸残基が欠損し,その結果,メタロプロテアーゼZMPSTE24によるプロセッシング部位が失われることでHGPSが発症する[1]。この変異型ラミンAの生成は,ラミンA遺伝子の1824番

目の塩基CのTへの置換に伴うmRNA前駆体のスプライシング異常に起因することが報告されている。 このように,HGPSの原因遺伝子および変異はわかっているものの,その発症機構は未解明であり,根本的な治療法も確立されていない。また,タンパク質レベルでの詳細な研究は進んでおらず,未だ網羅的な解析はなされていない(既知のラミン相互作用タンパク質に関しては図 4参照)。そこで,HGPSの原因解明,治療法の開発を目指し,最新のプロテオミクスの手法を用いた,野生型および変異型ラミンA相互作用タンパク質の網羅的な解析に取り組んだ。本研究により,HGPSの原因解明,治療法の開発のみならず,正常な老化過程の進行の理解にもつながる新たな知見が得られる可能性がある。また,核膜の裏打ち構造であるラミンAの機能解析を通じて,未解明の核機能の実体に迫るという大きな意義を持つ。

Ⅱ.プロテオミクス-その概要URL a)と有用性-

 ゲノム(genome)とは,gene (遺伝子) + ome (総体)の造語で,ゲノムプロジェクトを通じ,ヒトゲノムをはじめとする数多くの生物種の全DNA塩基配列情報が解読された。ポストゲノム時代を迎えた今,gene (遺伝子)をもとに作られるprotein (タンパク質)のome (総体),すなわちプロテオーム(proteome)を対象にした研究に注目が集まっている。細胞機能の直接の担い手はタンパク質であることから,生命現象の全容を解明するために,「いつ」「どこで」「どれだけ

図 1 HGPSの特徴

図 2 ラミンA Hutchinson-Gilford Progeria Syndrome (HGPS)の原因遺伝子

図 4 ラミン既知相互タンパク質 (文献[4]より引用)

図 3 HGPSを引き起こすラミンAの遺伝子変異 変異型ラミンA生成のメカニズム (文献[1]より引用)

HGPS

ABCD:

E:FG:HIJ

Hutchinson-Gilford Progeria Syndrome (HGPS)

13

2

A

DNA

HGPS

A

A(progerin)

664 a.a.

CaaX

CaaX608 657

11

AQVGG QSPQNCaaX608 657

50

BAF, barrier-to-autointegra�on factor; BTF,BCL2-associated transcrip�on factor; CRX, cone-rod homeobox; GCL, Germ cell-less; HP1, heterochroma�n protein-1; LAP1/2, lamina-associated polypep�des-1 and -2; LBR, lamin-B receptor; Pol II, RNA polymerase II; RB, re�noblastoma protein;YA, young arrest

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49プロテオミクスの手法によるラミンAの機能解析

の量の」タンパク質が働いているのか,また,異なるタンパク質同士が互いにどのように関わりあいながら働いているのかを網羅的に解析するプロテオーム研究の重要性は明らかであろう。 このような背景のもと,生命活動の直接の担い手であるプロテオームを系統的・網羅的に解析しようという新しい研究分野,プロテオミクスが,1995年に誕生した。特に,ここ数年間にその解析技術は劇的な進歩を遂げ,実際にプロテオミクスによってさまざまな未知の生命現象が解明されるという成果が上げられてきた。今後,さらにプロテオミクス研究を精力的に進めることで数多くの生命の謎が解明されるとともに,その成果が新しい病気の診断法や治療法の開発といった医科学分野の進歩にも多大な貢献をすることが期待されている(図 5)。 プロテオミクスのアプローチの新規性は,従来の研究方法を,釣り竿で獲物を釣り上げるのに例えると,プロテオミクスの手法は,網を用いて獲

物を一網打尽に捕獲することにある。従来のアプローチでは気付くことのできなかった,予期せぬ「獲物」も捕獲できるのがプロテオミクスの魅力であると私は考える。網羅的に解析することで,宝の山を見つけ出す可能性を秘めているのだ(図 6)。

Ⅲ.今回用いたプロテオミクスの手法

 プロテオミクスの研究分野は大きく分けて,①  プロファイリング解析(タンパク質の存在量の変動を調べる)②  フォーカストプロテオミクス解析(タンパク質の翻訳後修飾,細胞内小器官を調べる)③  リンケージ解析(タンパク質の集合状態・相互作用を調べる)の 3つの分野に分けることができる。今回の実験では,主にタンパク質の集合状態・相互作用を調べるリンケージ解析を用いて,発症機構が未解明でありその治療法が確立されていない早老症HGPSの病態の解明に迫った。 では,今回用いた手法を概説する。 今回の実験で用いたプロテオミクスの手法の概要を図 7に示した。 本手法は,エピトープ(FLAG)タグを融合した野生型および変異型ラミンAを細胞で発現させ,抗FLAG抗体ビーズを用いた免疫沈降法により回収したこれらの相互作用タンパク質を質量分析計により同定するというものである。つまり,野生型および変異型ラミンA相互作用タンパク質をそれぞれ網羅的に同定し,その違いを比較検討することで病態に迫ろうというものだ。

図 5 プロテオミクスとは

図 6 プロテオミクスの有用性 網羅的に解析することで,従来のアプローチでは同定されなかった予期せぬ「宝」を見つけることができる。

図 7 本実験で用いたプロテオミクスの手法

Gene ( ) + ome ( )

Protein( ) + ome ( )

A A

FLAG A

FLAG A

A

HEK293( )

AFLAG AFLAG

HEK293( )

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50 木 下 大 輔

いかと考えられる。なお,野生型ラミンAが変異型ラミンAに変異することで,DNA-PKとの相互作用が失われるという質量分析で得られた結果は,免疫沈降により単離した相互作用タンパク質についてのウェスタンブロット解析でも確認された。 変異型ラミンAにより,DNA損傷応答経路に異常が生じ,p53依存性シグナルの活性化およびそれに伴う老化が引き起こされることはすでに報告されていたが,変異型ラミンAとp53をつなぐDNA損傷応答異常の詳細なメカニズムは未解明であった。今回の相互作用タンパク質解析により,野生型ラミンAが変異型ラミンAに変異することで,本来あるはずのDNA-PKとの相互作用が失われ,それが病態に関与しているのではないかという仮説が得られたのである。 この仮説を実証するため,次のような実験を計画した。冒頭でもふれたように,HGPS患者は動脈硬化性疾患で亡くなることから,血管の細胞に変異型ラミンAを発現させることで,それらが老化することが予測される。さらに,老化した細胞において,本実験により同定されたDNA-PKおよびp53をノックダウンして老化形質が改善されるか否かを検討することで,それらの病態への関与を調べるというものである。そこで,血管の細胞に変異型ラミンAを導入したところ,ここで大きな展開を見せることとなった。 中膜の平滑筋細胞に,変異型ラミンAを過剰発現させたところ,形態異常を示すとともに,細胞死が誘導され,増殖が停止した。しかし,それに対して,内膜の血管内皮細胞では,変異型ラミンAの過剰発現は細胞増殖に影響を及ぼさなかった。また,線維芽細胞およびHEK293細胞において,変異型ラミンAを発現させた場合も,血管内皮細胞と同様に野生型ラミンA発現の場合と同様に変化が見られなかった。 以上の結果は,①  通常の動脈硬化では傷害されている血管内皮細胞では顕著な異常が見られない。

②  血管平滑筋細胞が顕著に減少することが原因で心筋梗塞が起こる。といったHGPS患者に特徴的な動脈硬化性疾患を,実験上再現することができた非常に興味深い

Ⅳ.ラミンAとp53依存性シグナル

 今回のプロテオミクスの手法を用いた解析により,既知の野生型ラミンA相互作用タンパク質を複数同定できたことに加え,新規の相互作用タンパク質を145個同定することができた。そこで,野生型ラミンAと変異型ラミンA相互作用タンパク質の比較を行ったところ,変異型ラミンAにおいて,野生型で見られるはずの相互作用が55個消失していた。これらのタンパク質の機能は,DNA損傷応答に関与するタンパク質,リボソームタンパク質,その他に分類することができた。私はこれらのうち,DNA損傷応答に関与するタンパク質に着目し,その中でも特にDNA-dependent serine/threonine protein kinase (DNA-PK)に注目した。このタンパク質に注目した理由と,今回の実験結果から考えられたラミンA遺伝子の変異に伴うHGPSの発症機構についての仮説を合わせて次に説明する。 2005年のNatureにて,変異型ラミンAが,p53が関与するDNA損傷応答および修復機構に異常を起こすということが報告されたが,その詳細なメカニズムは未解明であった(図 8)。今回,私が新たに発見したDNA-PKがその詳細な機構を埋める手がかりになると考えたのである。p53は,DNA損傷に応答してリン酸化を受けることで,DNA修復シグナル伝達系を活性化する。このp53のリン酸化を触媒するのがDNA-PKである。そこで,以下の仮説を考えた。 p53に直接影響を及ぼすDNA-PKが野生型ラミンAと相互作用すること,変異型ラミンAでは相互作用が失われることから,DNA-PKがラミンAとp53をつなぐ重要なタンパク質なのではな

p53-/- (HGPS)

NATURE|Vol 437|22 September 2005

phenotype

Ap53DNA

DNA p53A

図 8 変異型ラミンAとp53依存性シグナル

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51プロテオミクスの手法によるラミンAの機能解析

たのも非常に興味深い結果といえよう。 今後,変異型ラミンAが血管平滑筋細胞特異的に細胞死を起こすメカニズムの解明に向け,同定された分子の病態への関与を詳細に検討するとともに,変異型ラミンAとp53をつなぐ血管平滑筋細胞特異的タンパク質Xの同定を行う予定である。その後,早老症マウスおよび血管平滑筋細胞特異的タンパク質Xノックアウトマウスを用いた解析を進めることで,HGPSの原因解明,その先にある治療法の開発に取り組んでいきたい。さらに,HGPSの原因解明はもちろんのこと,一般的な老化の新たな分子メカニズムを明らかにし,老化や加齢に伴って引き起こされる疾患の新たな治療につなげたい。

謝  辞

 本研究を行うにあたり,直接ご指導いただいた南野徹先生はじめとする千葉大学大学院 医学研究院 循環病態医科学の先生方,立命館大学 生命科学部 生命医科学科 早野俊哉先生,大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学 小室一成先生には大変お世話になりました。この場をお借りして御礼申し上げます。

文  献

1) Mounkes LC, Stewart CL. Aging and nuclear organization: lamins and progeria. Curr Opin Cell Biol 2004; 16: 322-7.

2) Merideth MA, et al. Phenotype and course of Hutchinson-Gilford progeria syndrome. N Engl J Med 2008; 358: 592-604.

3) Pollex RL, Hegele RA. Hutchinson-Gilford progeria syndrome. Clin Genet 2004; 66: 375-81.

4) Gruenbaum Y, et al. The nuclear lamina comes of age. Nat Rev Mol Cell Biol 2005; 6: 21-31.

5) Varela I, et al. Accelerated ageing in mice deficient in Zmpste24 protease is linked to p53 signalling activation. Nature 2005; 437: 564-8.

参考URL

a) 立命館大学 生命科学部 生命医科学科 プロテオミクス研究室Homepage 「プロテオミクス研究室 概要」http://www.ritsumei.ac.jp/lifescience/bm/hayano/overview.htm (2011年11月現在)

結果であるといえる。なお,変異型ラミンAが血管平滑筋細胞特異的に傷害を引き起こす分子メカニズムについての報告はこれまでのところない。そこで,傷害された血管平滑筋細胞において,当初の予定通り,病態との関与が予測される遺伝子をノックダウンすることで,その表現型を改善できるか否かを調べた。 今回ノックダウンしたのは,プロテオミクスの手法を用いた相互作用タンパク質解析により同定されたDNA-PK,p53およびその上流,下流のDNA損傷応答経路に位置するタンパク質群である。その結果,変異型ラミンAを過剰発現したcontrolでは細胞死が誘導されたのに対し,変異型ラミンAを過剰発現し,かつDNA-PKを上流とするDNA損傷応答経路の分子をノックダウンした場合には,細胞が増殖している様子が確認された。 特に,プロテオミクス解析で同定されたDNA-PKについてその詳細を調べたところ,変異型ラミンA過剰発現に伴い,DNA-PKのリン酸化およびその発現レベルが上昇していることがウェスタンブロット解析により確認された。今のところ,DNA-PKが変異型ラミンAによる血管平滑筋細胞の傷害と関与しているのではないかと考えている。

Ⅴ.おわりに

 今回,最新のプロテオミクスの手法により,野生型ラミンA新規相互作用タンパク質であり,かつ変異型ラミンAにおいて相互作用の消失するDNA損傷応答経路に関わるタンパク質を同定した。また,変異型ラミンA過剰発現により,血管平滑筋細胞特異的に細胞死が誘導され,同定された分子を上流とするDNA損傷応答経路の遺伝子をノックダウンすることで,その表現型を改善することができた。今回得られたHGPS発症モデルは,今まで明らかにされていなかったラミンAとp53をつなぐ新たな分子を同定し,変異型ラミンAにおいて相互作用が消失することで,DNA損傷がないにもかかわらず,その経路の活性化が引き起こされているというものである。さらに,血管平滑筋細胞特異的に細胞死が起こるという細胞特異的に起こるHGPSの病態を実験上再現でき