ワークライフ・バランスの現状 ·...
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国土交通省テレワーク連続ミニセミナー (第4回 )
&日本テレワーク学会アカデミック・サロン (第9回 )
2011年12月21日
産業能率大学 経営学部 佐藤百合子
ワークライフ・バランスの現状
1.仕事と生活の調和憲章ーワーク・ライフ・バランスとは何かー
ワーク・ライフ・バランスが実現した社会とは‐‐-
国民一人ひとりが、やりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や
地域生活などにおいても、子育て期、中高年期
といった人生の各段階に応じて、多様な生き方
が選択・実現できる社会
「仕事と生活の調和憲章」より
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具体的には、
① 就労による経済的自立が可能な社会
② 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
③ 多様な働き方・生き方が選択できる社会
このような社会をつくrために、ワークライフ・バランスを
取りいれていく。
1-2.関係者が果たす役割
企業と働く者:強調して生産性の向上に努める職場の
意識や職場風土の改善を行い、
働き方の改革に自主的に取り組む
国 民: 一人ひとりが自らの仕事と生活の調和
の在り方を考える
消費者として、サービスの背後に
ある働き方に配慮する
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1-2.関係者が果たす役割(続)
国 :国民運動を通じた気運の醸成
制度的枠組みの構築
環境整備などの促進・支援策に
積極的に取り組む
地方公共団体:自らの創意工夫のもとに、地域の
実情に応じた展開を図る
2.企業や働くものの取り組み
1)日本経済団体連合会
2)日本商工会議所
3)日本労働組合連合会
4)情報産業労働組合連合会
5)JEC連合
6)日本生産性本部
7)お仏壇のやまき、北國銀行、六花亭
その他企業、団体など
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3.国の取り組み
1)「カエル!ジャパン」キャンペーン (内閣府)
2)仕事と家庭の両立支援 (厚生労働省)
3)イクメン取得促進 (厚労省、内閣府、総務省など)
4)WLBの実現に取り組む企業支援
5)メンタルヘルス対策
6)勤労観・職業観の形成などのキャリア教育 (文科省)
7)多様な働き方の選択(テレワークも含む)
8)女性や高齢者の就業促進
さまざまな省庁が取り組んでいる。
4.地方公共団体の取組
1)2011年のWLBの進捗状況
登録・認定・認証制度の実施は46の自治体、
表彰制度は41の自治体 が実施している。
2)融資制度・優遇金利設定は41自治体
公契約上の配慮は43自治体
(参考資料を参照)
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5.東京都における取組から
*経営戦略としてのWLB
WLBが企業、個人社会が抱える以下のような課題の解決に有効である
①環境変化への適応 ②優秀な人材の確保
③社員の意欲向上・定着 ④雇用形態の多様化
⑤投資効果の大きい人材育成
⑥長時間労働の削減・生産性の向上
5-2.WLBの満足度が高い人ほど会社のための努力をいとわない
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
全く満足せず
あまり満足していない
やや満足
非常に満足
WLBの状態に対して
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5-3.東京都が行っている取組
1)次世代育成企業支援事業
2)中小企業両立支援推進助成金
3)いきいき職場推進事業
4)働き方の改革{東京モデル」事業
5)「東京しごとの日」事業 など
6.行動指針と実現度指標
1)行動指針
「仕事と生活の調和憲章」により提案された行動指針を
いう。WLB憲章で示す社会(仕事と生活の講和が実現した社会)を実現するため、企業や働く者、国民の効果的な取組み、国や地方公共団体の施策の方針を決める。
(行動指針の性格より)
2)政策によって一定の影響を及ぼすことができる項目について数値目標を設定する。2020年の数値は目標では
なく、進展度合いを測るものである。
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7.今後に向けた課題
1)社会的気運の醸成を図るために
2)仕事と生活の調和に取り組む企業や人を支援するために
3)仕事と生活の調和に向けた取り組みを通じた「ディーセント・ワーク」の実現
4)働くことによる経済的自立の実現のために
5)健康でゆたかな生活のための時間を確保するために
6)多様な働き方・生き方が選択できるようにするために
8.海外の動き
1)アメリカ
ワ-ク・ファミリー・バランス 子育て中の女性の支援
↓
ワーク・ライフ・バランス 男性も含めたものに変化
↓ 企業は福利厚生と考える
ワーク・ライフ・バランス(改革) フォード財団の研究
↓ (1993~1996)ワーク・ライフ・バランス 企業の経営戦略の一つ
となる
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8-2.アメリカ(続き)
2)フォード財団の研究
ワーク・ライフ・バランスが可能となるように、「仕事のやり方」を考える必要性がある。仕事を再設計する、生産性を向上させるとなれば、企業も業績をあげられるし、従業員も時間の余裕ができる。
↓WIN-WINの関係
1990年代の初めのリストラや技術進歩によって、従業員の負荷が増え、ストレスの増加、モラルの低下が問題となっていた。
8-3.アメリカ(続き)
3)仕事の再設計(フォード財団)
①仕事と理想的な従業員増についての既存の価値観・規範
をみなおす。
②習慣的な仕事のやり方を見直す。
③仕事の効率と効果を向上させ、同時に仕事と私生活の
共存をサポートするための変革を行う。
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8-4.アメリカ(続き)
4)2003年9月
*上院で仕事と家庭生活の摩擦を減らすことは国の優先
課題の一つであることを決議した。
*毎年10月を「全国仕事家庭月間」とする
など11項目による。
5)2003年に「ナショナル・ワーク・ライフ・イニシアティブ」
が始まる。
9.イギリス
1)2000年に「ワーク・ライフ・バランス・キャンペーン」を開始
企業で働く従業員の生活の質を高めるだけでなく、
企業にとっても競争力を高めて業績向上につながる
↓
企業に良い影響を与えるWLBの導入には、従業員から
の要望と企業からの要望を、一つ一つ丁寧に組み合わ
せる作業が重要である
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9-2.イギリス(続き)
2)チャレンジ基金(The Challenge Fund)
WLBの導入を希望する企業に、無料コンサルティング
の機会を与える制度
*2000年から2003年までに1,150ポンドが投入され、
448企業が支援を受けた。影響した従業員は120万人
といわれる。
3)長時間労働の習慣を変化させる
10.ドイツ
1)ファミリー・フレンドリー的企業文化の勧め
出生率の低下 202カ国のうち185位の出生率
↓
このため、WLBよりも、ファミリー・フレンドリーという
言葉が使われる
2)2003年以降、積極的に取り組んでいる。夏には、「家族
のための同盟」(Allianz fur Familie)を結成している。これは政府、財界、労働組合などが加わっている。
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10-2.ドイツ(続き)
3)取組
①ベスト・プラクティスの分析とその紹介
②社会的影響の試算
③企業コンクールの実施
④地域連携の促進
11.日本の現状
ファミリー・フレンドリー策 女性の育児支援
↓
ワーク・ライフ・バランス 包括的な考え方
↓
次世代育成真根支援対策推進法(次世代法) 2003年
↓ 301人以上の企業にWLBの行動計画策定を義務付け
WLB憲章 WLB行動指針 2007年
くるみん制度 表彰制度 2010年12月には
↓ 1,016社が認定を受けた
現在に至る
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12.海外のWLBをまとめると
1)WLBのLは個人の生活でなく、家族の生活を指すというニュアンスが強かった。しかし、 近は幅広くLを個人の生活ととらえる見方が広がっている。
2)WLBあるいは「ダイバーシティ」というニュアンスをたどる国もある
3)各国とも認定制度を持っている(スエーデン、アメリカは
除く)
4)各国では、指数や数値目標がある
13.なぜ、日本ではWLBは進まないか
1)なぜ、特に男性の間でWLBが進まないか①企業が業務の見直しを行わないで、制度化する
ただ、制度を作っただけで満足する従業員は結局元と同じになり、何もメリットがない例)ノー残業デイ → 電気を消し、その後点灯
育児休業制度 → 代替の補充を考えない
これは、管理職などが、仕事を考え直さないことからくるこれでは制度は使われないし、意識も変わらない
②制度を利用するのは、女性だと思っている。確かに、産休などはそうだが、育児休業、介護休業は男性が取得してもかまわない
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13.WLBが広まらない理由(続き)
③キャリア・ロスになってしまう男性も女性も、特に男性が育児休暇、介護休暇を取ると、出世をあきらめてものと思ってしまう。
この考え方は、根強くあり、男性自身のみならず、女性もそう思ってしまう所に問題がある。また、管理職側も同じように考えていると、これは企業の意識など変わりようがない
**育児休業を取得した場合の3つのロス所得ロス キャリア・ロス 業務知識のロス
3つのロスのうち、キャリア・ロス、業務知識のロスは、補う必要がある
14.新しい考え方
1)WLBの考え方を新しくする①生涯時間の上で考える 個人、ならびに企業②男女ともに考える 個人、ならびに企業
*女性の育児休業の取得率を上昇させる*男性の育児休業の取得率を上昇させる*介護休業の取得をさせやすくする方法を考える
③生涯キャリアプランを立て、それぞれがどの位置で会社の制度を使うかを考える
2)業務知識のロスをなくす方法を考える①テレワークを使って、勉強あるいは仕事をさせる②労働時間の柔軟化を図り、自分で勉強に行ったり、
資格を取ったりする (代替要員は自分で見つけてもよい)
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14.新しい考え方(続)
3)キャリア・ロスを考えない休業中に業務知識を補ったり、資格をとったりすれば、それはキャリア・ロスではなく、キャリア・アップである。
*また、とらない人達のことも、管理職は考えることが必要である。かれらは、取り残された、割に合わない不公平だと感じるからである。
*まず、管理職が在宅で仕事をしたり、テレワークをすることが重要かもしれない。
重要なこと①社員全員が、仕事と自分の生活のバランスを考え、個人が
自分のライフコースを考えて、さまざまな行動を考えること②経営者も、自分のWLBを充実させていく
15.新しい理論の導入
*ワーク・ライフ・ボーダー理論
異質の2つのドメイン、仕事と家庭を持ち、個人がその境界
を行き来するborder crosserとなるものである。労働と家庭
の異質な分野、相反する分野で、境界線を個人が管理す
るという議論である。つまり、個人は右側に家庭の領域を、
左側に仕事の領域を持っており、その領域を個人個人が
決めていくというものである。仕事が家庭を圧迫する場合も
あるだろうし、家庭が仕事を圧迫する場合もある。しかし、そ
れを個人個人がうまく、管理するような制度を作ることが重
要であるという考え方である。
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16.WLBの今後
1)現在、育児にかかわる分野が飛びぬけて多いが、今後
仕事の分野にも拡大してくる.
理由1:これまでの仕事のやり方を見直さないと
競争に勝てなくなる
理由2:ホワイトカラーの生産性の上昇が課題
理由3:人々は気持よく働くとともに、気持よく家庭生活
を送ることも期待している
理由4:また、ボランティアなどで、自分のやりたい事を
見つける人々も増えてきた
16-2.WLBの今後(続き)
2)特にテレワークや在宅勤務、裁量労働制等の働き方の
多様性が求められてくる
3)地方公共団体の公契約上で、WLBを求めることも必要に
なってきている
④)もはや福利厚生ではなく、必要な人材を取るためには、
WLBを実現しなければならない
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御清聴、ありがとうございました.
参考文献
1.独立行政法人労働政策研究・研修機構
「ワーク・ライフ・バランスに関する企業の自主的な取り組みを
促すための支援策」 2011年3月
2。仕事と生活の調和連携推進・評価部会、仕事と生活の調和
関係省庁連携推進会議 合同会議
「仕事と生活の調和レポート2011」(案) 2011年11月4日
3.内閣府 「少子化社会対策に関する先進的取り組み事例
研究報告書」 2006年3月
④.東京都のホームペイジhttp://seikatsubunnka.metro.tokyo.jp 2011年11月19日
参考文献(続き)
5.佐藤百合子 「ホワイトカラーと仕事からみたテレワークの在り方」 2010年 日本テレワーク学会 大会報告書
6.佐藤百合子 「ワーク・ライフ・バランスとテレワーク」
2010年5月 臨場感プロジェクト資料