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1 アコーディオンはバンドネオンの代用品にあらず? 齋藤 冨士郎 バンドネオンはアルゼンチン・タンゴ演奏での主役楽器であると同時にアルゼンチン・タンゴ以外の 音楽分野ではほとんど使われない。勿論、数は少ないが三浦一馬氏のようにバンドネオンでのクラシッ ク音楽演奏を標榜する人はいる。その彼でもモサリーニと共演するなど、全くアルゼンチン・タンゴと 無縁であるわけではない(尤も、モサリーニの音楽は伝統的なアルゼンチン・タンゴからは離れている が)。また北村 聡氏のようにバンドネオンでブルックナーの第 8 交響曲の演奏に取り組むという野心的 挑戦をした人もいる。歴史的にはバンドネオンは教会におけるパイプ・オルガンの代用品であったと言 うし、今日でもそのような使われ方がされている所もある。しかし基本的にはバンドネオンはアルゼン チン・タンゴ専用の楽器であると言いきって特段の問題はない。一方で、音を出す原理はバンドネオン とほとんど同じであるにも拘らず、アコーディオンがアルゼンチン・タンゴ演奏での主役楽器になった ことは殆ど無かった。しかし、近年になってアルゼンチン以外の国々のタンゴ楽団でアコーディオンを 主役楽器とするタンゴ楽団がいくつか出現している。 アコーディオンを演奏楽器とするアルゼンチン・タンゴ演奏楽団としては日本では次の 3 楽団がある。 1.トリオ・ロス・ファンダンゴスTRÍO LOS FANDANGOSトリオ・ロス・ファンダンゴスは 1999 年に福岡で結成されたトリオで、メンバーは 谷本 仰:バイオリン いわつなおこ:アコーディオン 秋元多恵子:ピアノ 3 人であり、結成以来 18 年間(2017 年現在)このメンバーで活躍してきたことは他に例を見ないこ のトリオの強みであると言える。このトリオは 2002 年より西日本を中心に活発な公演ツアーを行ってお り、更に「東京タンゴ祭」(2012)、「福岡 SAKURA TANGO FES.」(2014~毎春)、第 4 回上海国際タ ンゴフェスティバル(2014)、奈良タンゴ祭(2015)などに出演し、関東地区でも年に何回かのライブ やミロンガへの出演を果たしている。2015 年には初のヨーロッパ・ルクセンブルグ、ウィーン公演、4 度目のアルゼンチン・ブエノスアイレス公演を行い、国営ラジオ 2×4 や番組 Tango Relajado に出演の ほか、サロンカニング、マルディータミロンガ、ドスオリージャスなど数々のミロンガや、 La Trama どでのライブを行う(以上同トリオの HP http://tlftango.com/profile.html より)。フェースブックによ れば 2017 年も 11 月から年末にかけてブエノス・アイレス公演を果たしている。 トリオ・ロス・ファンダンゴスは 2004 年から 2016 年まで、ほぼ 2 年ごとに計 6 種の CD を出してい る。1 つのタンゴ楽団が 12 年間に 6 種の CD を出すというのは、日本で他には小松亮太楽団、アストロ リコ楽団、小松真知子&タンゴクリスタルあたりに止まるのではないか。またこれらの 3 楽団にしても CD 毎にメンバーは多少入れ替わっているし、 CD の製作もそれほど定期的ではない。 18 年間、メンバー が不変であるという強みが 12 年間に 6 種の CD を出すことを可能にしているのだと思う。 トリオ・ロス・ファンダンゴスの「売り」は何と言ってもバンドネオンにひけを取らないいわつなお この見事な、というよりは達者なアコーディオンである。しかしそれも、リーダーの谷本 仰(本職は 牧師さんであるという)の決してアカデミックではないが、「これぞタンゴだ」とも言うべきバイオリン

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Page 1: アコーディオンはバンドネオンの代用品にあらず?webtango.web.fc2.com/acordion.pdf1 アコーディオンはバンドネオンの代用品にあらず? 齋藤

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アコーディオンはバンドネオンの代用品にあらず?

齋藤 冨士郎

バンドネオンはアルゼンチン・タンゴ演奏での主役楽器であると同時にアルゼンチン・タンゴ以外の

音楽分野ではほとんど使われない。勿論、数は少ないが三浦一馬氏のようにバンドネオンでのクラシッ

ク音楽演奏を標榜する人はいる。その彼でもモサリーニと共演するなど、全くアルゼンチン・タンゴと

無縁であるわけではない(尤も、モサリーニの音楽は伝統的なアルゼンチン・タンゴからは離れている

が)。また北村 聡氏のようにバンドネオンでブルックナーの第 8交響曲の演奏に取り組むという野心的

挑戦をした人もいる。歴史的にはバンドネオンは教会におけるパイプ・オルガンの代用品であったと言

うし、今日でもそのような使われ方がされている所もある。しかし基本的にはバンドネオンはアルゼン

チン・タンゴ専用の楽器であると言いきって特段の問題はない。一方で、音を出す原理はバンドネオン

とほとんど同じであるにも拘らず、アコーディオンがアルゼンチン・タンゴ演奏での主役楽器になった

ことは殆ど無かった。しかし、近年になってアルゼンチン以外の国々のタンゴ楽団でアコーディオンを

主役楽器とするタンゴ楽団がいくつか出現している。

アコーディオンを演奏楽器とするアルゼンチン・タンゴ演奏楽団としては日本では次の 3楽団がある。

1.トリオ・ロス・ファンダンゴス(TRÍO LOS FANDANGOS)

トリオ・ロス・ファンダンゴスは 1999年に福岡で結成されたトリオで、メンバーは

谷本 仰:バイオリン

いわつなおこ:アコーディオン

秋元多恵子:ピアノ

の 3人であり、結成以来 18年間(2017年現在)このメンバーで活躍してきたことは他に例を見ないこ

のトリオの強みであると言える。このトリオは 2002年より西日本を中心に活発な公演ツアーを行ってお

り、更に「東京タンゴ祭」(2012)、「福岡 SAKURA TANGO FES.」(2014~毎春)、第 4回上海国際タ

ンゴフェスティバル(2014)、奈良タンゴ祭(2015)などに出演し、関東地区でも年に何回かのライブ

やミロンガへの出演を果たしている。2015年には初のヨーロッパ・ルクセンブルグ、ウィーン公演、4

度目のアルゼンチン・ブエノスアイレス公演を行い、国営ラジオ 2×4や番組 Tango Relajado に出演の

ほか、サロンカニング、マルディータミロンガ、ドスオリージャスなど数々のミロンガや、La Trama な

どでのライブを行う(以上同トリオの HP:http://tlftango.com/profile.html より)。フェースブックによ

れば 2017年も 11月から年末にかけてブエノス・アイレス公演を果たしている。

トリオ・ロス・ファンダンゴスは 2004年から 2016年まで、ほぼ 2年ごとに計 6種の CDを出してい

る。1つのタンゴ楽団が 12年間に 6種の CDを出すというのは、日本で他には小松亮太楽団、アストロ

リコ楽団、小松真知子&タンゴクリスタルあたりに止まるのではないか。またこれらの 3楽団にしても

CD毎にメンバーは多少入れ替わっているし、CDの製作もそれほど定期的ではない。18年間、メンバー

が不変であるという強みが 12年間に 6種の CDを出すことを可能にしているのだと思う。

トリオ・ロス・ファンダンゴスの「売り」は何と言ってもバンドネオンにひけを取らないいわつなお

この見事な、というよりは達者なアコーディオンである。しかしそれも、リーダーの谷本 仰(本職は

牧師さんであるという)の決してアカデミックではないが、「これぞタンゴだ」とも言うべきバイオリン

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とこれも決して派手ではないが、トリオの大黒柱の役割を果たしている秋元多恵子のピアノがあっての

ものである。譜面なしで展開される柔軟で息の通う演奏は、国内外のライブ会場や「ミロンガ」におい

て熱い支持を得ているという。

しかしこのトリオも結成以来18年を経て、いろいろな事情があってのことと思われるが、最近では各々

のメンバーの単独での活動も始まっており、今後の動向に注目したい。

フェースブック掲載の画像より

2.ラスト・タンゴ(LAST TANGO)

ラスト・タンゴは一般的には未だそれほどの知名度はないと思われる。この楽団は 2010年に東京都

板橋区成増の小さなミュージックバー「Bar Nyarango(旧 On the Railroad)」のオーナー兼歌手のマヤ

ンの伴奏楽団として誕生し、2011年にタンゴ楽団として正式に発足した(https://www.

last-tango.net/profile)。この楽団が一般のタンゴ・ファンの前に登場したのは 2013年の「東京タンゴ

祭 2013」においてではなかったかと思う。

メンバーは

柴田菜穂:バイオリン

田ノ岡三郎:アコーディオン

江森孝之:ギター

西村直樹:ベース

マヤン(本名不明):ボーカル

HP掲載の画像より

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の四重奏団+歌手の編成である。そして発足以来同じメンバーで 99回に及ぶライブ活動を行ってきたと

言う(上記 HPによる)。これまでに 2種の CDを出している。

2017年 9月に聴いたライブの印象では、全体的に演奏のテンポは速く、小気味よい。この楽団のリー

ダーはバイオリンの柴田菜穂で中々の弾き手である。田ノ岡三郎のアコーディオンもバンドネオンに比

べて遜色のない力演であった。比較しては失礼かもしれないが、トリオ・ロス・ファンダンゴスのいわ

つなおこを西の横綱とすれば、田ノ岡三郎は東の横綱である。ベースは一般には縁の下の力持ち的役割

であるが、西村直樹のベースは畳を破って縁の下から突き出るような勢いある。ギターの江森孝之は専

ら編曲面で楽団を支えているという紹介されている。歌手のマヤンはタンゴのみならず、様々なジャン

ルの歌曲を取り上げているということである。

3.サルガヴォ(Salle Gaveau)

サルガヴォ(Salle Gaveau)のバンド名はパリにあるコンサートホールに由来している。現在のメン

バーは

喜怒無月:ギター

佐藤芳明:アコーディオン

林 正樹:ピアノ

鳥越啓介:コントラバス

の 4人である。以前はバイリオン奏者の喜多直毅も在籍したが、現在は離れているようである。

この楽団を単純にタンゴ楽団に位置付けるのは些か問題があるかもしれない。何しろ、アストル・ピ

アソラの音楽に強い影響を受け、タンゴをベースにクラシック音楽、ジャズ、プログレッシブ・ロック

などの要素を取りいれた、極めて前衛的な演奏を展開しているからである。CD:“La Cumparsita Salle

Gaveau”,Intoxicate INTD-1015に収められている「ラ・クンパルシータ」は誰が聴いても、恐らく「ラ・

クンパルシータ」には聴こえず、「これは何だ、これがタンゴか」と言うに違いない。それでも一応タン

ゴ楽団を標榜しており、アコーディオンを使用しているのでここに加えた。

これら以外にも、雑司ケ谷の「エル・チョクロ」のホームページを見ていたら下に示したような佐藤

芳明:アコーディオン、鈴木広志:サックス、田中庸介:ギター、吉田篤貴:バイオリンからなる四重

フライヤー画像より

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奏団のフライヤーがあった。ただ、フライヤーに書かれていることからは純粋はタンゴ楽団とは言えな

そうであり、特定の楽団名も名乗っていないようなので、参考扱いにした。

最近は米国にもいくつかのタンゴ楽団が出現しており、それらの中のいくつかはバンドネオンでなく

アコーディオンを用いており、またバンドネオンとアコーディオンを併用している例もある。

4.アシェヴィル・タンゴ・オーケストラ(Ashevile Tango Orchestra):

http://www.asheviletangoorchestra.org/

アシェヴィル・タンゴ・オーケストラはノースカ

ロライナ州アシェヴィルに拠点を有するタンゴ楽

団で、南東部でのタンゴ音楽のコミュニティでのラ

イブ演奏を提供するために 2010 年に設立された、

ということ以外には詳しい情報はない。メンバーも

その時々で入れ替わっているらしい。写真を見ると

バンドネオンとアコーディオンの両方を使ってい

るようだ。

5.トカート・タンゴ(Tocato Tango):

http://toniknightmusic.com/tocato-tango/

トカート・タンゴ(Tocato Tango)とは「タンゴによってクレージーに駆り立てられた」を意味するア

ルゼンチン表現(ルンファルド?)であるという。編成はアコーディオン、コントラバス、バイオリン、

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ギター、ピアノの五重奏団であるが、メンバーの名前はわからない。

この楽団はワシントン州べリンガムに拠点を置き、ウァットコム

(Whatcom)郡周辺の特別なイベント、レストラン、クラブに定期的に

出演し、又、私的及び公的催し物にも出演している。CD の有無はわか

らない。

6.トリオ・ガルーファ(Trio Garufa): http://www.triogarufa.com/

トリオ・ガルーファはサン・フランシスコ湾岸地域で 2001 年に結成され、米国国内を始めアルゼンチ

ン、カナダ、コロンビアでの公演を果たしており、そのレパートリーは古典タンゴからピアソラ作品に

至る。少なくとも 3枚の CD を出している。

メンバーはギジェルモ・ガアルシーア(Guillermo García)(ア

ルゼンチン人、ギター)、アドリアン・ヨスト(Adrian Jost)(ス

イス人、バンドネオン、アコーディオン、バヤン)、サッシャ・

ヤコブセン(Sascha Jacobsen)(米国人、コントラバス)の 3人

である。バヤンとはロシア式のアコーディオンで、独自の鍵盤

配列を持つ。音色は通常のアコーディオンと大差ないが、微妙

に違う点もあるという。かなり重いそうだ。

7.トリウンファル(Triunfal)

トリウンファルは上に述べたロシア式アコーディオンのバヤンと 18世紀ロシア楽器のバラライカ、そ

れとクラシック・ギターによるトリオで、アルゼンチン・タンゴ・ダ

ンサー向けのライブと共に、多くの文化的イベントで演奏している。

メンバーはウラジミール・セディク(Vladimir Sedykh)(バラライカ)、

ユージン・サイモン(Eugene Simon)(バヤン)、グレゴリー・ニスネ

ヴィッチ(Gregory Nisnevich)(ギター)の 3人である。コロラド州デ

ンヴァーを拠点とするという。

Trio Garufa 691012 Trio Garufa 691013

バヤン (出典;Wikipedia)

Triunfal

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下の 2つはヨーロッパの楽団である。

8.イヴェット・オルネ(Ivette Horner)

(LP:BRILLOSO CONTINENTAL TANGO de Ivette Horne,

EMI=Odeon(東芝音工) OP-80197)

イヴェット・オルネはフランスの女性アコーディオン奏者である。彼女はフランス南部、スペインと

の国境に近いタルブという町の出身である。12歳の時に病気療養中にアコーディオンに出会う。そして

急速に腕を上げて、13歳の時には初めての国際コンクールで優勝するまでになった。1948年にはスイス

のローザンヌで開かれたアコーディオン国際コンクールで第 1位となった。(以上、高場 将美氏執筆の

上記 LP のライナーノートより)。LP ジャケットの画像を見る限り、彼女の使用アコーディオンは鍵盤式

ではなく両側ともボタン式にようである。この LP は彼女のアコーディオン独奏(伴奏つき)によるタン

ゴを 12曲収めている。どういうわけか LP のタイトルは「輝くコンチネンタル・タンゴ」となっている

が、実際はすべてアルゼンチン・タンゴの有名曲である。

OP-80197 JOKER SM 4070

9.フィサルモニカ・マリオ・バッタイニ(FISARMONICA Mario Battaini)

(LP:TANGO ARGENTINO FISARMONICA Mario Batttaini, JOKER SM 4070)

この LP は珍しいイタリアのタンゴの LP である。演奏者の経歴は全く不明である。フィサルモニカと

は想像するにアコーディオン奏者のバッタイニが率いる楽団であろう。この楽団はタンゴのみならずワ

ルツやポルカ、パソドブレの LP も何種類か出しているようだから、タンゴ楽団というよりはダンス音楽

楽団なのだろう。14曲の収録曲中、10曲がアルゼンチン・タンゴ有名曲で、残りの 4曲はタイトルはス

ペイン語だが、恐らくヨーロッパ人の作曲になるものと思われる。言い換えれば「アルゼンチン・スタ

イル模擬タンゴ」である。演奏スタイルはドナート・ラシアッティ楽団のバンドネオンをアコーディオ

ンに替えて、更に派手にしたようなスタイルである。

アルゼンチンにもアコーディオンを演奏楽器とするタンゴ楽団

がある。

10.トリオ・コンベンティージョ(TRÍO CONVENTILLO)

(LP:BAILONGO EN EL PATIO TRÍO CONVENTILLO,

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RCA Víctor,TLP-40035)

トリオ・コンベンティージョはアコーディオン奏者のレネー・トーレ(René Torre)が率いる現代のタ

ンゴ・トリオで、著名なタンゴ・スポットである「カーニョ 14」で活動してきた。ジャケット画像を見

る限りでは鍵盤式ではなくボタン式のアコーディオンのようだ。演奏曲目の殆どは古典タンゴであり、

それにポルカやフォックス・トロットが混じっている。

以下の 3楽団はアルゼンチンで 1930年代に活躍した楽団である。

11.トリオ・ロス・ナティーボス(TRÍO LOS NATIVOS)

(ロス・トレス・ナティーボス・ビクトル(LOS TRES NATIVOS

VICTOR))(復刻 LP;A.V.ALMA CTA-5045)

アコーディオンとギターからなるトリオで、バンドネオンも加わっているようだし、曲によっては管

楽器も加わることもあるようだ。録音専門の楽団でタンゴよりも地方舞曲を多く録音していたという。

メンバーは不詳だが「パリのカナロ」の作者の一人であるフアン・カルダレラがギターを弾いていたと

いう話もある(以上、高場 将美氏執筆のライナーノートによる)。

12. オルケスタ・ビクトル・ポプラール(ORQUESTA VÍCTOR POPULAR)及び

オルケスタ・アルヘンティーナ・ビクトル(ORQUESTA ARGENTINA VÍCTOR)

(復刻 LP;A.V.ALMA CTA-5045)

アコーディオン、バンドネオン、ピアノ、コントラバス、バイオリン、チェロ、木管楽器などが入っ

たサロン音楽オーケストラとも言うべき、これまた録音専門楽団である。10.も11.もアコーディ

オン奏者の腕前は中々のものである(以上、高場 将美氏執筆のライナーノートによる)。

13.チャルロのアコーディオン独奏

歌手のチャルロはアコーディオン演奏を余技としており, 1939年に“9 de julio”(復刻 CD:A.M.P.

CD-1081)、“La Cumparsita”(復刻 CD:A.M.P. CD-1145)、“Don Juan”などをギター伴奏で録音している。

余技とは言え、中々の腕前である。

14.マランド(Malando)楽団

マランド楽団はアコーディオンを演奏楽器とするアリー・マースランド(Arie Maasland)をリーダ

ーとするコンチネンタル・タンゴ楽団である。しかしその演奏スタイルはコンチネンタル・タンゴでは

あるけれどもアルゼンチン・タンゴの要素も含んだ独特のスタイルである。そしてマランド楽団はアル

ゼンチン・タンゴも多数録音しており、これが中々の名演奏である(LP:「アルゼンチン・タンゴのすべ

て(Argentine Tangos by Malando)」、PHILIPS SFL-7045)。

アコーディオンはバンドネオンと比べると音色が明るいので、一般には、「哀愁」や「センチメンタル」

を標榜するアルゼンチン・タンゴの演奏には向かないと思われているであろう。しかしこれまでに引用

したいくつかの楽団の演奏を聴く限りでは、アコーディオンと雖もバンドネオンに比べてそれほど遜色

があるとは思われない。アコーディオンを演奏楽器とするタンゴ楽団は、アマチュア楽団まで範囲を広

TLP-40035

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げて調べれば、他にもいくつかあると思う。

バンドネオンによるクラシック音楽というものは確かにあるし、演奏家もいる。また、バンドネオン

は一部の教会では今日でもオルガンの代わりに使用されているという。とは言え、バンドネオンはアル

ゼンチン・タンゴがあってこその楽器であることには否定できないし、それは今後も続くであろう。見

方を変えれば、バンドネオンはアルゼンチン・タンゴ以外にはほとんど使い道が無い楽器、言葉は悪い

が「つぶし」の利かない楽器である。「つぶし」が利かないということは、ブエノス・アイレスやモンテ

ビデオを除けば、そして限られた演奏家を除けば、バンドネオンの演奏だけでは殆ど「飯が食えない」

ことを意味する。(ピアノやバイオリンでもそれだけで「飯を食う」のは容易なことではない。)一方、

アコーディオンはバンドネオンに比べれば「つぶしが利き、飯が食える」楽器である。最近のことは知

らないが NHKの「のど自慢」の伴奏はアコーディオンであったし、例に挙げるのは気がひけるが、東京

が焼け野原であった当時、多くの傷痍軍人がアコーディオンを弾きながら募金活動していたことを思い

出す方々も居られるであろう。

「アルゼンチン・タンゴ=バンドネオン」という図式は間違っていない。しかしそれに拘ることはアル

ゼンチン・タンゴのグローバル化への阻害になる側面もある。近年、(アルゼンチンにおいてさえも)バ

ンドネオンを使用しないタンゴ楽団がいくつか出現している。それらの楽団に演奏による CD を聴いた感

じでは、決して違和感はなく、むしろ「結構やるではないか」という印象すら受ける。

「アルゼンチン・タンゴ=バンドネオン」という図式に囚われないで、アコーディオンも含めた、バン

ドネオン以外の楽器で構成されたタンゴ楽団の活動が盛んになることは良いことであるし、アルゼンチ

ン・タンゴのグローバル化への道でもあろう。