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新商品・ソリューション・サービス解説 106 富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018 Create On Demand を実現させる 「Iridesse TM Production Press」 Creating on Demand with the Iridesse TM Production Press 富士ゼロックスは、これまで最新のデジタル印刷機を発 売し、Print On Demand分野のリーディングカンパニー として商品開発からサポートまでグローバルに価値を提 供してきた。Print On Demand機の価値は、ユーザー一 人ひとりに最適化された情報の提供が中心であったが、さ らにこれからの商品は、人それぞれの多様な感性や嗜 こう タイムリーに表現し、人と人、企業と人の間の共感を高め ていくような表現力や加工力を備えた「Create On Demand」な商品・サービスへと進化させていく必要があ る。その中核となる新商品が「Iridesse TM Production Press」である。業界初の6色プリントエンジンや新規カ ラーマネジメント技術により多彩な色表現、多様な媒体へ の印刷を可能とし、新しい価値軸で印刷市場の活性化を目 指す。本稿では、この商品の主要技術について紹介する。 Abstract From product development to customer support, Fuji Xerox has consistently led in the print-on-demand field with its state-of-the-art digital printers capable of tailoring output to individuals. However, a new evolution is underway in which products and services must now swiftly cater to individual user preferences and sensitivities in order to promote better understanding between people and organizations. At Fuji Xerox, products and services capable of this level of expression and processing are referred to as Create-On-Demand products and services. One product essential to this collection is the new Iridesse TM Production Press. Equipped with a six-color print engine (an industry first) and new color management technology, this printer delivers an expansive range of color while also printing on a wide selection of media types. This paper introduces the main Iridesse TM Production Press technologies designed to stimulate the printing market through provision of new value. 執筆者(Author栗田知一(Tomokazu Kuritaグラフィックコミュニケーションサービス事業本部 開発統括 第二商品開発部 Product Development II Development Unit Graphic Communication Services Business Groupほか7【キーワード】 デジタル印刷、Iridesse TM Production Press、Super EA- Ecoトナー、メタリックカラー、ホワイトトナー、6色プリン トエンジン、GX Print Serverコントローラー Keywordsdigital printing, Iridesse TM Production Press, Super EA-Eco Toner, metallic color, white toner, six-color marking engine, GX Print Server controller

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新商品・ソリューション・サービス解説

106 富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018

Create On Demand を実現させる 「IridesseTM Production Press」 Creating on Demand with the IridesseTM Production Press

要 旨

富士ゼロックスは、これまで最新のデジタル印刷機を発

売し、Print On Demand分野のリーディングカンパニー

として商品開発からサポートまでグローバルに価値を提

供してきた。Print On Demand機の価値は、ユーザー一

人ひとりに最適化された情報の提供が中心であったが、さ

らにこれからの商品は、人それぞれの多様な感性や嗜し

好こう

タイムリーに表現し、人と人、企業と人の間の共感を高め

ていくような表現力や加工力を備えた「Create On

Demand」な商品・サービスへと進化させていく必要があ

る。その中核となる新商品が「IridesseTM Production

Press」である。業界初の6色プリントエンジンや新規カ

ラーマネジメント技術により多彩な色表現、多様な媒体へ

の印刷を可能とし、新しい価値軸で印刷市場の活性化を目

指す。本稿では、この商品の主要技術について紹介する。

Abstract

From product development to customer support, Fuji Xerox has consistently led in the print-on-demand field with its state-of-the-art digital printers capable of tailoring output to individuals. However, a new evolution is underway in which products and services must now swiftly cater to individual user preferences and sensitivities in order to promote better understanding between people and organizations. At Fuji Xerox, products and services capable of this level of expression and processing are referred to as Create-On-Demand products and services. One product essential to this collection is the new IridesseTM Production Press. Equipped with a six-color print engine (an industry first) and new color management technology, this printer delivers an expansive range of color while also printing on a wide selection of media types. This paper introduces the main IridesseTM Production Press technologies designed to stimulate the printing market through provision of new value.

執筆者(Author) 栗田知一(Tomokazu Kurita) グラフィックコミュニケーションサービス事業本部 開発統括 第二商品開発部 ( Product Development II Development Unit Graphic Communication

Services Business Group) ほか7名

【キーワード】

デジタル印刷、IridesseTM Production Press、Super EA-

Ecoトナー、メタリックカラー、ホワイトトナー、6色プリン

トエンジン、GX Print Serverコントローラー

【Keywords】 digital printing, IridesseTM Production Press, Super EA-Eco Toner, metallic color, white toner, six-color marking engine, GX Print Server controller

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Create On Demand を実現させるIridesseTM Production Press

富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018 107

1. はじめに

富士ゼロックスは、2000年の「Color DocuTech60」

リリース以来、継続的に新商品を発売しプロダクションカ

ラーサービス業界をリードしてきた。2010年、当社が

「Color 1000 Press」を発売した以降は、競合からもプ

ロダクション用デジタル印刷機が相次いで発売され、オフ

セット印刷からの移行が加速され、Print On Demand機

が定着している。昨今デジタルコミュニケーションが加速

する中、今後の市場は、Print On Demand機から「Create

On Demand」商品、すなわち、人それぞれの多様な感性

や嗜好をタイムリーに表現し、人と人、企業と人の間の共

感を高めていくような表現力や加工力を備えた印刷プラッ

トフォームへ移行すると考えられる。

「Create On Demand」を実現していくためには、デ

バイスの進化だけではなく、上流から下流までのワークフ

ロー全体の連携・連鎖がますます重要となる。上流ではデ

ジタルマーケティングやAI(人工知能)解析などが生み出

す多様な情報とつながる仕組み、下流では多種なマテリア

ルや形態に仕上げる仕組みも重要である。

それらの仕組みを備え、当社の「Create On Demand」

路 線 を リ ー ド す る こ と に な る 新 商 品 が 「 IridesseTM

Production Press」である。本商品は「Color 1000i

Press」1)の上位機種にあたり、最新のワークフローと連携

できることと、業界初のワンパス6色プリントエンジン採

用であることが最大の特徴である。本稿では、この商品の

主要な技術を紹介し、今後の展望を示す。

2. 主要技術について

「IridesseTM Production Press」の開発方針は、第一

にプロダクション機として重要な生産性、用紙汎用性、画

質、信頼性の向上を基盤とする。そのうえで、多色化をは

じめとする多彩なアプリケーションを用途に応じて増設で

きる、付加価値の高い商品を目指した。

本商品は、安定感のある「Color 1000 Press」のプラッ

トフォームをベースに当社独自の技術で進化させた。さら

に、業界初のワンパス6色プリントエンジンの採用と新規

カラーマネジメント技術により、ゴールド、シルバー、ホ

ワイトの下刷りにおいて光輝性の高いメタリックカラー表

現が実現できるようになり、色紙/黒紙へのホワイトの印

字も可能になった。

こうした能力を持たせるため、新トナー設計、6色プリ

ントエンジン技術、高画質補正技術、高生産性を維持しつ

つ高画質を実現するコントローラー設計、高信頼性/耐久

性設計などの技術開発を行った(図1)。以下、これらの主

要技術を紹介する。

3. 新トナー設計

印象的でデザイン性に優れた付加価値の高い印刷物を

オンデマンドで表現するために、高い生産性を維持しつつ

高画質での重ね刷りを実現する必要がある。そこで、業界

最小粒径のCMYKカラー用トナー「Super EA-Ecoトナー」

に加え、メタリックカラー用の「ゴールド・シルバートナー」、

そして業界初の超低温定着性能を持ち、高い白色度が得ら

れる「ホワイトトナー」を開発した。

3.1 Super EA-Ecoトナー技術

基礎色であるCMYKカラー用トナーには、新規に開発し

たSuper EA-Ecoトナーを導入した。特徴は、業界最小ク

ラスの粒径と業界トップレベルの低温定着性能である。業

界最小クラスの粒径を達成するために、当社独自開発の

EA(Emulsion Aggregation)製法を改良し、構成粒子の

凝集バランスを精密に制御した。その結果、従来のEA-Eco

トナーの粒径分布を悪化させることなく、小粒径化するこ

とに成功した。トナーの小粒径化により、細かな文字や細

線はよりくっきりと、ハーフトーンなどの階調表現はより

スムーズに、そしてドット形状はより忠実に再現可能にな

り、空の青さの微妙な色調や、肌の質感などを再現する画

質が、大きく向上した。

またSuper EA-Ecoトナーにおいて、新規開発のシャー

プメルトポリエステル樹脂と微分散技術の採用により、低

温定着性を有する既存のEA-Ecoトナーを進化させ、さら

に約10℃低い定着性能を実現した。Super EA-Ecoト

ナーの温度に対する粘度変化を図2に示す。温度に対して

シャープに粘度が変化する「シャープメルト特性」をより

図1 「IridesseTM Production Press」の主要技術

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Create On Demand を実現させるIridesseTM Production Press

108 富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018

高めることで、低い温度でより素早くトナーを溶融し、粘

度を十分に低くすることを可能にしている。一方、低温部

の粘度については、EA-Ecoトナーと同様となるように設

計し、常温時にはトナーが変形しないように、温度対応特

性を保持した。Super EA-Ecoトナーの低温定着性により、

機器のより高い生産性を可能にした。

3.2 ゴールド・シルバートナー技術

メタリックカラー用のトナーは、「Color 1000i Press」

に搭載した「ゴールド・シルバートナー」に、Super EA-

Ecoトナーに導入したシャープメルトポリエステル樹脂の

微分散技術を応用展開している。この方法により、Super

EA-Ecoトナー同等の低温溶融性を実現した。低温から溶

融しやすくすることにより、画像品質である光輝感がさら

に向上するとともに、ゴールド・シルバー画像とカラー画

像の色重ねが同時印刷で可能になった。従来トナーを改良

し、さらに光輝性を向上させたゴールド・シルバートナー

の低温定着を可能にしたことで、メタリックカラーの再現

が自在となり、表現の可能性が大きく拡大した。

3.3 ホワイトトナー技術

印刷デザインの拡張や多彩なメディアへの印字を可能

にするため、ホワイトトナーは、透明フィルムや色紙への

白単色印刷だけでなく、カラー画像を印字する際の下敷層

の機能を果たすことが要求される。そのため、高い白色度

と低温定着性の両立が必要となる。ホワイト画像は、カラー

画像と色の発現原理が異なる。たとえば赤は、赤色の光の

みを反射して、それ以外のすべての光を吸収させることで

発現するが、白の場合は、すべての色の光を屈折または散

乱させることで発現する。そのため高い白色度を得るには、

高屈折率の白色顔料が画像中に高濃度で均一に分散してい

ることが重要となる。

一方、トナー表面に白色顔料が露出すると、電気漏洩に

よる帯電不良が発生し、部材へダメージを与える懸念があ

る。そこで、EA製法技術を進化させることにより、高濃度

の白色顔料をトナー中に均一分散させ、さらにトナー表面

に精密なシェル構造を形成することにより、白色顔料の表

面露出を抑制している(図3)。

また、一般にホワイトトナーは、高濃度の白色顔料を含

有するため、溶融時のトナー粘度が上昇して低温定着性が

悪化しやすい。そこで、「IridesseTM Production Press」

のホワイトトナーは、メタリックカラー用のトナー同様に、

シャープメルトポリエステル樹脂の微分散技術を応用展開

することでSuper EA-Ecoトナー同等の低温定着性を実

現した。

4. 6色プリントエンジン技術

「Color 1000i Press」では、上刷り用に特殊トナー*1

のエンジン(=特殊色エンジン)を右側に配置していたが、

「IridesseTM Production Press」は左右両端に特殊色エ

ンジンを配置している。このことにより、特殊トナーの上

刷りと下刷りの両方が可能な、業界初の6色プリントエン

ジン技術を実現した(図4)。

図2 Super EA-Ecoトナーの温度に対する粘度特性

図3 カラー画像とホワイト画像の違い

図4 6色プリントエンジン構成

*1 特殊トナー:ゴールド、シルバー、ホワイト、クリアトナー

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富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018 109

4.1 ホワイトトナー高隠蔽率*2画像設計技術

ゴールド、シルバー、クリアトナーに続き、新たに開発

したホワイトトナーは、特に色紙/黒紙上に印字する際、

隠蔽率が高いことが重要である。高隠蔽率獲得のため、現

像に使用するホワイトトナー量を従来よりも大幅に増やし、

さらに十分な現像性を得るためトナーを大粒径化して、画

像を形成している。一方それゆえに、色重ねするときにト

ナーの飛散やカラートナーの発色性低下など、ホワイトト

ナー上のカラー画像へ影響がないようなトナー層数*3お

よび粒径設計*4が重要となった。重ねるトナー層数は、用

紙/色上質紙の表面凹凸を考慮し、ロバスト性*5を付与す

るとともに、フィルムのような高抵抗メディアへ印字する

ときでも、トナーが飛散しにくいように設計することが必

要である。

これらの条件を同時に満たす画像設計を行うため(考慮

すべき諸条件の関係は図5参照)、まず目標とする隠蔽率か

らトナー量を求め、さらにトナー層数とトナー粒径に対す

る各種の画質トラブルが発生する領域の関係を明確化し、

最適な層数と粒径の関係を決定する設計手法を確立した。

結果、高隠蔽率と高画質化を達成した。

4.2 6色重ね画像*6転写技術

トナー総量*7が増加するため、6色重ね画像を転写する

には、転写電圧の出力を高くする必要がある。しかし、出

力を高くすると転写電界が軸方向で不均一となり、プリン

ト面内の色再現性が悪化し、部分的な放電現象による

CMYKの4色カラー画質の悪化も招く可能性がある。

この問題を解決するために、6色重ね画像と接触する2

次転写ベルト*8は高抵抗化設計を行い、非通紙部への電流

の流れを抑制して軸方向電界を均一化した。また放電現象

抑制のため、2次転写ニップ圧力*9を高くし、トナーと用

紙表面との微小ギャップを低減させた。これらにより高画

質な6色重ね画像転写技術を実現した。

4.3 6色重ね画像定着

6色重ね画像は、トナー総量が増加するため、定着温度

が上昇する。すると、定着器各部からの放熱量が従来より

高くなり、定着器の温度分布が悪化する。熱圧定着では加

熱部材の温度により画像濃度や光沢性が変化するため、温

度分布の悪化は、画質ムラとして視認される。

これに対し、詳細な部品構成や機内のエアフローを含め

た複雑な放熱を考慮した高精度3次元モデル熱解析により、

定着用の加熱ランプの位置、電力制御などで配熱設計を行

い、温度均一化を実現した。また、解析には、熱伝導方程

式を差分法で算出する自社開発の方法「温度分布改善シ

ミュレーション」を活用し、効率的な開発を実現した。

5. 高画質化技術

ゴールドトナーやシルバートナーを単色だけでなく

CMYKトナーと掛け合わせることにより、“キラキラ感”

を演出するメタリックカラー対応技術やホワイトトナーの

高画質化技術、周期濃度ムラ補正技術は、本商品の必須の

要件である。

5.1 メタリックカラーマネジメント技術

当社では、金泥を使った甲冑装飾の絵など、現代のメタ

リックカラーを含んでいる古文書の複製活動から2)、鮮や

かなメタリックカラーを表現するためには、CMYKトナー

層の下層に隠蔽性の高いメタリックトナー層を形成するこ

とが必要であるとわかった。従来機では、メタリックトナー

層はCMYKトナー層の上層に形成されたが、図4で示した

ように、本商品ではメタリックトナー層をCMYKトナー層

の下刷りになるように、刷り順を変更した。

しかしながら、図6に示したように、メタリックカラー

画像では観察角度によって色再現が異なってくるため、オ

フセット印刷用のメタリックカラー特色*10を、CMYKト

*2 隠蔽率:塗料が下地の色の差を覆い隠す度合いのこと *3 トナー層数:均一平面上に並べたトナー層の数、トナー層の

厚さにも相当する *4 粒径設計:単一トナーの平均な直径を設計すること *5 ロバスト性:応力や環境の変化など外乱の影響で生じる変化

を阻止する内的な仕組みや性質 *6 6色重ね画像:6つのマーキングエンジンでそれぞれ現像され

たトナー画像を転写ベルト上(1次転写部)に最大6色重ねて

形成する画像 *7 トナー総量:用紙上における単位面積あたりのトナー重量

図5 ホワイトトナー量-粒径設計における制約条件成

*8 2次転写ベルト:1次転写で形成されたトナー像(ここでは6色

重ね画像)を用紙に転写する2次転写時の帯電ベルトのこと*9 2次転写ニップ圧力:2次転写ベルトが用紙に転写する時ベル

トが用紙側に加える弾性的な圧力 *10 特色:メタリックカラーのようにCMYKの基本となる色の組

み合わせでは表現できない色

トナー粒径

異粒径混合に伴う発色低下抑制

ベンチマーク隠蔽率

現像性

色上質紙用紙露出抑制

フィルム紙トナー飛散抑制

色上質紙

フィルム紙

高隠蔽率(高トナー量)

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Create On Demand を実現させるIridesseTM Production Press

110 富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018

ナーとメタリックトナーの組み合わせで再現する場合、こ

れまでの観察角度では、目標としている色再現が得られな

いことがわかった。つまり従来の観察角度45°の測色値に

基づくカラーマネジメント技術では、入射光の正反射方向

に近い観察角度15°における色再現は、目標とする色再現

と異なってしまうということである。そこで、メタリック

カラーの特徴である複数の観察角度に対する色再現性を考

慮することで、色の見え方を、目標とする色再現に近づけ

るカラーマネジメント技術を開発した。この技術により、従

来機種に比べて、PANTONE® METALLICS Coated*11に

近い色再現を実現した(図6)。

5.2 ホワイトトナーカラーマネジメント技術

ホワイトトナーに重ねるCMYKトナーの総量に応じて、

ホワイトトナーの量を調整する技術を搭載した。たとえば、

トナー総量が多い画像の場合は、ホワイトトナー量を減ら

す制御を行うことで、高い白色度の確保とトナー飛び散り

の改善を両立させた。

5.3 周期濃度ムラ補正技術

電子写真方式のプリンターでは、感光体や現像ロールの

偏心*12など、回転部材の加工精度の不足によって周期的

な画像濃度ムラが発生し、画質を劣化させることがある。

そこで、感光体や現像ロール起因の周期濃度ムラを補正す

る技術を新たに開発した。基準チャートを出力し、画像を

イメージセンサー「Full Width Array」でスキャンし、そ

の情報を基に、2次元的な露光光量変調量*13を決定し、画

像濃度ムラを補正する技術である。さらに、トナー濃度セ

ンサーを用いて中間転写ベルト上の周期濃度ムラ情報を読

み取り、2次元で露光光量変調量にフィードバックをかけ

る新たな自動セットアップ機能を開発した。これにより、

環境や使用状況の変化によって周期濃度ムラが変わっても、

お客様がそのつど補正を実施せずとも常に良好な状態を維

持することが可能となった。

また、従来機には、感光体と現像ロールに起因する各々

の周期濃度ムラが干渉することで、ページ間で周期濃度ム

ラの補正効果がばらつくという課題もあった。その解決策

として、ページの先端と、感光体、現像ロールの相対位置

が常に同じになるように同期制御し、ページごとの周期濃

度ムラが一定となるようにしてすばやい課題解決につな

がっている。

5.4 色管理技術

プリンター出力物の色は、キャリブレーションを行った

りデバイスリンクプロファイルなどを作成したりすること

で、所望の色が得られるように調整/管理する。しかし、

同じ機種でも複数台になると個体差によるばらつきが生じ、

さらに機種が異なると色再現の状態そのものも変化する。

それゆえ、複数のプリンター間で同一色を再現させるには、

カラーマネジメントの専門的な知識を持った人がそれぞれ

のプリンターの色を同じ基準で調整/管理するのが従来の

方法である。これには多くの工数を要し、利便性が悪いこ

とに課題があった。

そこで、人を派遣せずともリモートで簡単にプロファイ

ル 調 整 が 行 え る サ ー ビ ス と し て 「 Remote Color

Management Service3)」を提供できるようにした。本体

に搭載されている「Full Width Array」でスキャンした測

色画像データを、ネットワーク経由で専用サーバーに格納

し、最適な色合わせの作業内容を特定する。このサービス

では、クラウドを活用して複数のプリンターの状態をリア

ルタイムに一元管理することで、常に所望の色管理ができ

るようにもなっている。詳細は、本誌の特集内の論文「ク

ラウドを活用したプリンターのカラーマネジメントサービ

ス」を参照いただきたい。

6. 高速高画質コントローラー設計

6.1 GX Print Serverの狙い

「IridesseTM Production Press」用コントローラー

「GX Print Server」は、高速化、高画質化のための各技

術(「VersantTM」シリーズで導入した中間データフォー

図6 メタリックカラーの観察角度における色再現

*11 PANTONE® METALLICS Coated:世界で使用されている

メタリック系の色見本帳の1つで、プロダクトデザインの制

作・製造工程においての色指定に使用されている *12 偏心:重心が回転の中心からずれていること *13 露光光量変調量:潜像形成時の光量を可変しながら潜像形成

と最適な光量を調整すること

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Create On Demand を実現させるIridesseTM Production Press

富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018 111

画質キーバーツ 交換インターバル

現像器(MM Unit)

感光体ドラム

チャージコロトロン

転写ベルト(IBT)

定着モジュール

C1000iP

Iridesse

マットによるデータ量圧縮、RIPアクセラレータボードで

のハードウェア画像処理、高速シリアル伝送技術を用いた

画像転送、3Dキャリブレーションなど)を搭載することで、

1,200 dpi x 1,200 dpi x 10bit, 120ppm、すなわち6

色の印刷性能を最大限に発揮できる大容量の画像データ処

理を行うことが可能になった。ユーザーインターフェイス

も一新し、効率的かつ直感的な操作性を提供している。

6.2 特色の指定

多彩なプリントを実現するため、さまざまな処理方法を

搭載している。たとえば「指定した特色版を置換する」と

は、DTPアプリケーションにて、ゴールドトナーやシル

バートナーに代表される特殊トナーで表現する特色を定義

し、その定義に従って、プリントサーバー上で特殊トナー

での表現に変換し、特色をプリントすることである。この

処理方法により、たとえばブランドカラーなど特別に規定

した色の表現も、そのためのトナーを準備することなく、

既存のトナーで表現することができる。

またGX Print Serverでは、シルバーおよびゴールドの

特殊トナーを使用する、当社独自のメタリック特色をFuji

Xerox Metallic Standardとして定義している。シルバー

ベースは36色、ゴールドベースは24色を準備した。これ

らの特色はAdobe Illustrator などのDTPアプリケー

ションにライブラリーとしてインストールでき、メタリッ

ク特色を使用したデザイン作成を可能にしている。もちろ

んPantone® Metallics Coatedも可能である。

当社では、カラーマネジメント技術の知見をもとに、特

殊トナーを使用して表現できる光輝性の高いメタリックカ

ラーをあらかじめ登録しており、アプリケーションから簡

単に指定して印刷できる。それによって、光輝感の高いメ

タリックカラーを用いた印刷物を簡単に作成することがで

き、表現力の広がりによる新たな価値を提供した。

7. 信頼性改善

本商品は、前世代機である「Color 1000/1000i Press」

の市場信頼性データを分析し、マーキング部材を中心に寿

命改善を行っている(図7)。現像装置は、マグロールスリー

ブのV溝の摩耗による現像剤搬送量の変動を抑えるため、

TaC(Tetrahedral amorphous Carbon)コーティング

を採用した。この技術は、マグロールスリーブ表面にダイ

ヤモンド構造のカーボンを蒸着させることで表面硬度を向

上させるとともに、対摩耗性を大幅に改善することを可能

にした。

転写装置は、転写クリーナー部と2次転写部において、

使用する除電ブラシに高耐久性素材を採用し、転写クリー

ナーおよび2次転写部の寿命を改善した。また、転写クリー

ナーのスクレーバ部先端にもTaCコーティングを採用し

ている。定着装置は、ステアリング機構を改良し、ベルト

内面や各ローラーの汚れや偏摩耗の影響を受けにくくした。

8. おわりに

今後「Create On Demand」を実現していくため、

「IridesseTM Production Press」は、デバイスの進化に

よる色表現の進化、多彩な媒体への印刷技術の向上だけで

なく、お客様の多様な感性や嗜好を表現できるようなソ

リューションツールやそれを効率的かつ安全に出力できる

印刷プロセス全体の最適化ができるような進化を目指して

いる。

そのためには、上流では、デジタルマーケティングやAI

解析、セキュアな環境などが生み出す多様な情報とつなが

る仕組み作りが、下流では、多種なマテリアルや形態に仕

上げる、デバイスに限定されない仕組み作りが重要である。

複数のデジタル印刷機を制御/管理し、手戻りのない印

刷ワークフローシステムによって、スキルに依存しない作

業の標準化、印刷工程のシームレス化など、印刷プロセス

全体を革新的に進化させる商品を提供する。これにより、

顧客価値向上に貢献することで、印刷業界全体を盛り上げ

ていきたい。

商標について

IridesseTM Production Pressは、米国ゼロックス社の登録商標また

は商標です。

PANTONE® METALLICS Coatedは、米国パントン社の登録商標ま

たは商標です。

Adobe Illustratorは、アドビシステムズの登録商標または商標です。

Remote Color Management Serviceは、富士ゼロックス株式会社

の日本における登録商標または商標です。

その他の商品名、会社名は、一般に各社の商号、登録商標または商標

です。

図7 マーキング部材の延命化

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Create On Demand を実現させるIridesseTM Production Press

112 富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018

参考文献

1) 箕田 淳ほか:“Color 1000i Press”、富士ゼロックステクニカルレ

ポート, No.25, pp.131-140, (2016).

http://www.fujixerox.co.jp/company/technical/tr/2016/p_03.html ( 参 照

日: 2017.12.24)

2) 木村 秀貴:“京都伝統文書復元プロジェクトとそれらを支えるデジタ

ル印刷技術”, 富士ゼロックステクニカルレポート, No.24, pp.61-

68, (2015).

https://www.fujixerox.co.jp/company/technical/tr/2015/pdf/s_07.pdf (参照日: 2018.02.23)

3) Remote Color Management Service:

http://www.fujixerox.co.jp/product/software/r_color_manage/index.html (参照日: 2018.03.06)

筆者紹介

栗田知一 グラフィックコミュニケーションサービス事業本部

開発統括 第二商品開発部に所属

専門分野:商品開発推進、システム設計

箕田 淳 グラフィックコミュニケーションサービス事業本部

開発統括 第二商品開発部に所属

専門分野:商品開発推進、システム設計

久保昌彦 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:画質設計、画像処理

森 研二 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:画質設計

小谷津 淳 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:画質設計

安孫子力雄 グラフィックコミュニケーションサービス事業本部

開発統括 第三商品開発部に所属

専門分野:コントローラー設計

中井大介 デバイス開発本部 次世代マーキング開発部に所属

専門分野:マーキング設計

佐藤修二 画像形成材料事業部 化成品開発部に所属

専門分野:現像剤設計