ナノインプリントリソグラフィ市場に 参入する...

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2013.5 Laser Focus World Japan 12 ナノインプリントリソグラフィの最 初の事例が文献に登場して以来、約 17 年経つが、今になってようやく産業 界の関心が高まり始め、今月にはガラ ス大手の独ショット社がこの業界に参 入した。しかし、彼らが語る関心、「ガ ラス上のナノインプリントリソグラフ ィ」は、他の企業が追求してきたもの と多少異なる。 この技術は、いわゆる熱エンボス加 工でも実施されているが、電子ビーム リソグラフィなどの従来のナノリソグ ラフィ技術によってマスタパターンを 作製する。次にこのマスタをスタンプ として利用して、レジストコート基板 上にそれを押し付ける。スタンプを除 去した後、このパターンを異方性エッ チング技術によって基板に転写する。 当時米ミネソタ大学に席を置いてい たスティーブン・シュー氏(Stephen Chou)と そ の 仲 間 た ち が 権 威 あ る Science誌に最初に投稿して以来、こ の技術はサブ波長構造の創成と高いス ループットからなる魅力的な組み合わ せを実現する一連の応用分野において その道を見出してきた (1) 当初、非常に多くの研究所デモンス トレーションによって、回折格子から 薄膜トランジスタにいたる大面積の光 学素子と電子素子の作製におけるナノ インプリンティングの能力が紹介され た。しかし、産業界にも基盤を得るこ ととなった。日立グローバルストレー ジテクノロジーズ社は、磁気記録用途 向けのナノインプリント法の研究を行 っている。とはいえ、より大きな規模 でこの技術を確立する上で必須の機能 密度を実現できるか否かはいぜんとし て不明瞭だ。 ITRS 記述 ナノインプリント技術は国際半導体 技術ロードマップ( ITRS、業界のエキ スパートチームによって作成されてい るテクノロジーアセスメント文書)にも 登場し、そこでは、ナノインプリンテ ィングが将来のエレクトロニクスを支 えることになるという半導体産業界の 確信が表明されている。2007年に、 日本の東芝は、この技術が現在の産業 界の中心課題である22nmノードに対 しても有効であることを立証した。 米マサチューセッツ工科大学のナノ リソグラフィのエキスパート、カール・ バーグレン氏(Karl Berggren)は、「ナ ノリソグラフィの際立つ長所は、競合 する他の方法に比して、より高い解像 度で、より大きな面積にわたってパタ ーンを複製できる能力だ」と語ってい る。「しかし、従来からのマスク製造 における欠陥とコストの問題を解決し なくてはならない。ナノリソグラフィ はパターンを複製するだけであり、マ スタパターンはいぜんとして誰かが作 らねばならない。このことは些細とは 到底言えない挑戦だ」と付け加えた。 オプティクスとエレクトロニクスに おける臨界サブ波長用途では、「不完 全性」の尺度、すなわち、不完全な圧 痕の数、包有物、レジスト不均一性、 その他の不備を適切に処理する必要が ナノインプリントリソグラフィ市場に 参入するショット社 次世代リソグラフィ world news 図1 ナノインプリントリソグラフィスタンプがマスタから作製され、光回折スクリーンの製造に 使用された。(資料提供:ショット社)

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Page 1: ナノインプリントリソグラフィ市場に 参入する …ex-press.jp/wp-content/uploads/2013/05/201305_0012wn01.pdf12 2013.5 Laser Focus World Japan ナノインプリントリソグラフィの最

2013.5 Laser Focus World Japan12

 ナノインプリントリソグラフィの最初の事例が文献に登場して以来、約17年経つが、今になってようやく産業界の関心が高まり始め、今月にはガラス大手の独ショット社がこの業界に参入した。しかし、彼らが語る関心、「ガラス上のナノインプリントリソグラフィ」は、他の企業が追求してきたものと多少異なる。 この技術は、いわゆる熱エンボス加工でも実施されているが、電子ビームリソグラフィなどの従来のナノリソグラフィ技術によってマスタパターンを作製する。次にこのマスタをスタンプとして利用して、レジストコート基板上にそれを押し付ける。スタンプを除去した後、このパターンを異方性エッ

チング技術によって基板に転写する。 当時米ミネソタ大学に席を置いていたスティーブン・シュー氏(Stephen Chou)とその仲 間 たちが権 威 あるScience誌に最初に投稿して以来、この技術はサブ波長構造の創成と高いスループットからなる魅力的な組み合わせを実現する一連の応用分野においてその道を見出してきた(1)。 当初、非常に多くの研究所デモンストレーションによって、回折格子から薄膜トランジスタにいたる大面積の光学素子と電子素子の作製におけるナノインプリンティングの能力が紹介された。しかし、産業界にも基盤を得ることとなった。日立グローバルストレージテクノロジーズ社は、磁気記録用途

向けのナノインプリント法の研究を行っている。とはいえ、より大きな規模でこの技術を確立する上で必須の機能密度を実現できるか否かはいぜんとして不明瞭だ。

ITRS記述 ナノインプリント技術は国際半導体技術ロードマップ(ITRS、業界のエキスパートチームによって作成されているテクノロジーアセスメント文書)にも登場し、そこでは、ナノインプリンティングが将来のエレクトロニクスを支えることになるという半導体産業界の確信が表明されている。2007年に、日本の東芝は、この技術が現在の産業界の中心課題である22nmノードに対しても有効であることを立証した。 米マサチューセッツ工科大学のナノリソグラフィのエキスパート、カール・バーグレン氏(Karl Berggren)は、「ナノリソグラフィの際立つ長所は、競合する他の方法に比して、より高い解像度で、より大きな面積にわたってパターンを複製できる能力だ」と語っている。「しかし、従来からのマスク製造における欠陥とコストの問題を解決しなくてはならない。ナノリソグラフィはパターンを複製するだけであり、マスタパターンはいぜんとして誰かが作らねばならない。このことは些細とは到底言えない挑戦だ」と付け加えた。 オプティクスとエレクトロニクスにおける臨界サブ波長用途では、「不完全性」の尺度、すなわち、不完全な圧痕の数、包有物、レジスト不均一性、その他の不備を適切に処理する必要が

ナノインプリントリソグラフィ市場に参入するショット社

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図1 ナノインプリントリソグラフィスタンプがマスタから作製され、光回折スクリーンの製造に使用された。(資料提供:ショット社)

Page 2: ナノインプリントリソグラフィ市場に 参入する …ex-press.jp/wp-content/uploads/2013/05/201305_0012wn01.pdf12 2013.5 Laser Focus World Japan ナノインプリントリソグラフィの最

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ある。東芝は当時の最も優れた競合技術に匹敵する24nmの高密度フィーチャで0.3/cm2以下の欠陥密度を実現したと主張している。 しかし、この業界に参入したショット社は、他の用途向け圧痕作製へのナノインプリントの利用を提案している。同社は、例えば、特注仕様の屈折率(ゾルゲルナノインプリントコーティングによる)あるいは金属的様相を30×40cmサイズの大形ガラス基板の表面に付与するロールプリントフィーチャを狙っている。これらは、まさに、ナノ次元のフィーチャの不完全性がさほど問題にならないマクロ的応用の範疇だ。ショット社は、この技術をさらに推し進める準備を開始したようだ。

 ショット社のコーティング研究部門のシニアマネージャ、エベリーネ・ルディガー‐ボイクト氏(Eveline Rudigier-Voigt)は、「われわれはナノ構造化を革新的な応用と製品の将来開発に向けたテクノロジープラットフォームへと転換する研究を懸命に続けている」と言う。 米ミシガン大学のL・ジェイ・グオ氏

(L. Jay Guo)は、まさにこの種の大規模ロール・ツー・ロールナノインプリント研究に長年従事し、多数の特許を取得した。同氏は、「ナノインプリンティングは17年間にわたって開発が続けられたが、多くの人々の関心は不完全性レベルが極めて厳しく要求される電子および磁気記録用途に集中してき

た。しかし、欠陥が許容される他の用途も多数存在する」と言う。 グオ氏は、ショット社の動向は、エレクトロニクス産業の大手市場から距離を置くが、このアプローチはニッチ市場で急成長を開始するに違いないと確信している。またグオ氏は、「私はボリュームが大きな駆動力になると考える。人々はより良くより快適な暮らしと仕事環境を望んでいる。このアイデアが公表されるや否や、人々は現時点では予測不可能である多くのアプリケーションも考え出すであろう」と指摘している。� (Jason�Palmer)

参考文献(1)�S. Chou et al., Science, 272, 85 (1996);

doi:10.1126/science.272.5258.85.LFWJ