プライベートクラウドとグリッド ·...

プライベートクラウドとグリッドプライベートクラウドとグリッド

2009年3月12日

グリッド協議会副会長富士通株式会社

岸本光弘

博士（情報科学）

グリッド協議会第26回ワークショップ

Copyright 2008-2009 FUJITSU LIMITED1

目次目次

クラウド・コンピューティングとは

プライベートクラウドの特徴

クラウドとグリッド

クラウド標準化に向けた動き

まとめ


クラウド・コンピューティングとはクラウド・コンピューティングとは


クラウドコンピューティングとはクラウドコンピューティングとはデータもプログラムも雲（クラウド）の上に置かれている。ネットに接続するブラウザがあれば、どんな端末からでも雲に届く

Eric Schmidt, Google CEO

一連のITケーパビリティをサービスとして外部に提供することGartner

インターネットという「雲 = クラウド」の向こう側に、サービスを提供するサーバなどがあるが、ユーザーはサーバの場所も台数も構成も認識できず、単にサービスを受け取る

Wikipedia

「ネット経由でよそのＩＴケーパビリティを使うこと」


クラウド上のサービスクラウド上のサービスサービスの形は多様

対象ユーザも、企業、コンシューマー、開発者など様々

提供されるレイヤーも、物理資源からエンドユーザアプリまで様々

主な例デスクトップアプリ• メール

(GMail 等)、オフィス

(Google Docs 等)、…

ソーシャルウェア• SNS (Facebook 等)、SBM (はてなブックマーク等)、

…

企業向け業務パッケージ• CRM (Salesforce.com 等)、ERP (NetSuite 等)、

…

開発環境• 言語 (Salesforce.com の Apex 等)、プラットフォーム

(Force.com 等)、…

ミドルウェア• DB (Amazon Simple DB 等)、

…

物理資源• VM ホスティング

(Amazon EC2 等)、オンラインストレージ

(Amazon S3 等)、…


Amazon EC2/S3/EBSAmazon EC2/S3/EBSElastic Compute Cloud

$73 / 月・仮想サーバ

$230 / 月・TB downloadSimple Storage Service

$150 / 月・TBElastic Block Storage

$100 /月・TB

クレジットカードを使い、WEBから利用者登録（約15分）

利用環境設定、VMイメージ作成構築、起動（約30分）

仮想リソース

物理リソース

ユーザ

S3

Amazon Machine Image

書籍：Amazon EC2/S3クラウド入門


Animoto.comAnimoto.com

写真と音楽をアップするだけで音楽にあわせたスライドショーを自動生成するサービス

元々50台の仮想サーバで運営していたが、 Facebookで有名になったため、4日以内に3,500台まで急遽増設


派生した観点派生した観点クラウド・コンピューティングについての様々な議論を見ると、クラウド上で提供される１サービスについてのみではなく、異なる観点に派生した議論がある

1. サービスの外側で築かれるエコシステムについてここでは「エコシステム」を、パートナーや開発者コミュニティやユーザなどに影響を与えるもの全体、という広い意味で使う• 開発・連携の仕組み・場

(Salesforce.com の Force.com 等)

• 金のまわり方 (Google の AdSence 等)• 技術者育成 (Google 101 等)• etc.

2. サービスの内側で使われる実装技術について従来の技術スタック (例えばウェブ３階層) とは異なる技術要素に着目• 大規模データ処理の容易にするフレームワーク (Google の map-reduce 等)• 多数の顧客に対するサービスを１インスタンスのアプリ・ＤＢで実行

(Salesforce.com の

multi-tenant 等)

• オンラインサービスの高可用化

(Amazon の eventually-consistent 等)• etc.


３つの観点の概念図３つの観点の概念図

クラウドの実装技術

クラウドのエコシステム

関連コンセプト: Web 2.0, Web Platform

関連コンセプト: SaaS, Utility Computing

関連コンセプト: Grid Computing, P2P

クラウドのサービス人・モノを集める工夫

集めたものを活かす工夫


クラウド・コンピューティングの特徴クラウド・コンピューティングの特徴


サービス利用者からみた利点サービス利用者からみた利点自然に得られる利点

ネット上にあること• どこからでもアクセスできる

• 誰とでも（共有したければ）共有できる

ローカルにもたないこと• セットアップや移動が不要

• ローカル資源の管理が不要

サービス提供者への期待（集約効果から還元されることへの期待）安い• 従量制あるいはタダ

柔軟• いつでも必要に応じて増減できる

自前で全部やらなくてよい• 建屋、ハード、ソフトなどのエキスパートにならなくてよい

• 災害対策やセキュリティ対策やコンプライアンスなども

常に最新の機能が利用できる


クラウドのインパクト The Big Switch (by Nicholas Carr)

クラウドのインパクト The Big Switch (by Nicholas Carr)

電力とITは非常に広範に利用できるので、供給を集約することができれば、汎用技術は規模の経済の利点を享受できる

ユーティリティコンピューティングの興隆は、これまでのビジネスモデルを破壊する脅威である。数千から数億のユーザが使えるようなスケーラブルなサービスは、企業やSMB向けソリューションの特徴とコストを激変させる (Bill Gates)中小企業は完全ユーティリティモデルにより、大幅な経済的恩恵を受けられる。一方、大部分の大企業は、過去のインハウスへのIT投資と、ユーティリティの利点を慎重にバランスしなければいけない

ユーティリティコンピューティングが成熟するには、数年が必要である。もっとも困難なのは、企業が所有するシステムをあきらめさせ、データセンタを使うよう仕向ける点である

従来のハードウェア（・ソフトウェア）ビジネスの多くが、単純に失われるだろう


クラウドの実装技術クラウドの実装技術

仮想サーバ

並列フレームワーク SaaS

Amazon S3/EC2

RightScale, GigaSpaces, Elastra, 3Tera

Hadoop

over EC2

Hadoop

GFS, BigTable,MapReduce AppEngine

Force.com

Azure

Astoria

Caroline

Cohesive

ジョブ管理・インフラ管理

分散処理層アプリエンジン

Source: The Computational Data Center

– A Science Cloud, Dennis Gannon

Director Microsoft Research


３種類のプラットフォーム by Marc Andreessen

３種類のプラットフォーム by Marc Andreessen

ユーザ開発者クラウドプロバイダ

例：eBay, Paypal, GoogleMap, Flic

独立したサービス

を実装し、エンド

ユーザに提供

Level 1: Access API RESTや

SOAPで

アクセス

できる

Level 2: Plug-in API

例：Facebook

独立した

サービスとし

て実装する

サービスは、プラットフォームの一部として提供される

Plug-in登録

呼び出し

Level 3: Runtime Environment

例：Salesforce.com, Second Life, Amazon, Akamai

サービスは、プラットフォームの上で実行され、提供される

サービスは、クラウド上で開発されるサービスのスケーラビリティや高可用性をサポートサーバ購入初期投資や運用コストを軽減


クラウドの普及を阻む課題クラウドの普及を阻む課題

1. サービスの可用性

2. データの囲い込み（ロックイン）

3. データの秘密保持と監査能力

4. データ転送の性能限界

5. 性能が予測不可能

6. ストレージのスケーラビリティ

7. 大規模分散システムに潜むソフトのバグ

8. 迅速なスケールアップ・ダウン

9. 悪い評判が広がること

10. ソフトウェアライセンス Above the Clouds: A Berkeley View of Cloud Computing, UCB


Gmailサービスの停止Gmailサービスの停止2009年2月24日、18:30から約2時間半、世界中の数千万人のGoogle Appsおよび一般のユーザがメールの読み書きができなかった

ヨーロッパのDCで定期メンテナンスのため、他のDCに処理を分散させたところ、ユーザに近いDCにデータを移動させるプログラムにバグがあり、DCが過負荷に陥り、将棋倒しに停止

Googleは完璧ではない、Googleもミスをする• Nelson Mattos, 技術担当副社長

各サービスの健康状態が一目でわかるGoogle Apps Status Dashboardを翌日から提供

ユーザに無料サービス期間を提供


Google docの秘密漏洩Google docの秘密漏洩

2009年2月22日に、ユーザの文書がユーザの連

絡先中の意図しない相手と共有されてしまう事故が発生

以前文書を共有したことのあるユーザー

テキスト文書およびプレゼンテーションだけ、スプレッドシートは含まれない

影響が出た文章は、全体の 0.05%被害を受けたユーザにお詫びメールを送付


Cogheadの倒産Cogheadの倒産

Adobe FlexベースのPaaSを提供するベンダCogheadが2月18日に倒産

SAPが資産を買い取ったので、顧客は4月末日ま

ではデータとアプリケーションをダウンロードできる

PaaSのサービスは継続しない

アプリケーションはXML文書（メタデータ）で、Coghead上でのみ動作する

競合ベンダCaspioが移行サービスを提供開始

アプリ移行には数日必要


プライベートクラウドの特徴プライベートクラウドの特徴


プライベートクラウドとパブリッククラウドプライベートクラウドとパブリッククラウド

パブリッククラウド

大規模仮想化インフラから必要な資源をオンデマンドで提供

どこからでも利用可能、誰とでも共有可能

特徴

• 低価格、従量課金

• オープンで、創造的なコミュニティ

プライベートクラウド（企業内クラウド）

仮想化技術を活用した、企業システムの標準化・仮想統合

SOAに基づいた、企業システムの再統合

特徴

• インフラは企業が所有、オンプレミス

• 企業の特性にあった、インフラを選定


企業システムの進化企業システムの進化

市場規模

2009 2011 2013


プライベートクラウド

既存企業システム

仮想化・標準化・SOA

価格メリット、所有から利用へ SaaS

Web 2.0

受託SI

ミッションクリティカル分野


企業システムの多様化企業システムの多様化企業にとってもクラウドの（部分的な）利用は不可避

利用形態には様々な組み合わせが可能であり、多様化が進むサービスの運用場所: 自社ネットワーク内／自社ネットワーク外

サービスの利用形態: 直接（ユーザから）／間接（他のサービス経由）

サービスの所有者: 自社／他社

プラットフォームの所有者: 自社／他社

ハード

ミドル

ハード

ハード

ミドル

ハード

アプリ

ハードハード

アプリアプリアプリアプリ

自社ネットワーク

従来型システム

プライベートクラウド

ハード

ミドル

ハードハードハード

アプリ

利用者外部直接利用

外部間接利用

内部

間接

利用内

部直

接利

用

アプリアプリアプリ



クラウドとグリッドクラウドとグリッド


グリッドはクラウドの実装技術グリッドはクラウドの実装技術オンデマンドで計算パワーを利用する仕組み（Ian Foster)

ビジョンはGRIDと同じ。技術課題もほぼ共通

Amazon, Google, MS等が、現在提供している規模（サーバ数やデータ量）は桁違い

現在のCloudは、特定用途で採用API、プロトコルは独自（非標準）

同じマーケティング（まずはクラスタから着手）

インターネット上のスケーラブルなサービスのプラットフォームがクラウドで、グリッドはクラウドを実現する標準技術群（OGF OGSA-WG)

Clouds are Grids properly done (The 451 Group, William Fellows)


15 Ways to Tell it’s not a Cloud15 Ways to Tell it’s not a Cloud

James GovernorのMonkchipsブログ

クラウドではないもの1. ラベルの裏側に、GRIDとかOGSAとか書いてあるシステム

2. 40ページもの要求仕様書をベンダに渡すようなシステム

3. 個人のクレジットカードだけでは使えないシステム

4. ハードウェアを売りつけるシステム

5. APIが公開されていないシステム

6. アプリのアーキテクチャを変えないと使えない

7. プロビジョンに10分以上かかる

8. 10分以内に撤収することができない

9. 物理サーバの所在場所がわかる

10. コンサルタントが部屋に待機している

11. 必要なサーバ台数を、常に指示する必要がある

12. 特定のOSでのみ稼動する

13. 自分のマシンからでは接続することができない

14. 専用のソフトウェアのインストールが必要

15. ハードウェアを全部所有する必要がある

Windows Azure?!

Amazon EC2?

Google AppEngine?

Force.com?


クラウド上のグリッドシステムクラウド上のグリッドシステム

クラウドは、スタートアップ企業・時限プロジェクトにとって強力なインフラである

スケールメリットを活かし、コスト・価格は低下する

経済合理性から、長期的にはユーティリティモデルに移行 (The Big Switch)

大規模なグリッドシステムをクラウド上に構築できないか？

EGEEの調査報告 @ OGF23• EGEEの規模（250サイト, 5万CPU, 20PB, 毎日15万ジョブ)では、インフラ（サー

バ＋ストレージ＋ネットワーク)でさえ、EC2の方が高価

• 高機能サービス（ジョブ管理、データサービス、セキュリティ）が必要

South Florida大学の事例 @ OGF24• 高エネルギー物理向けグリッドの27ヶ月分の実験データを分析

• Amazon EC2/S3は、宣伝どおりの信頼性を持つ

• ストレージコスト、ネットワークコストは高価、5GBの制限は不便

グリッドとクラウドの統合に向けたロードマップの策定を提言


クラウドの標準化クラウドの標準化

• OGF22• OGF23 & BEinGRID• OGF24 & GridAsia 2008• OGF25• 関連する団体

© 2008 Open Grid Forum

27

OGF22 2008/2/25-28 Boston

Cloud Computing, Grids, and the coming IT Cambrian Explosion

Irving Wladawsky-BergerChairman Emeritus, IBM Academy of TechnologyVisiting Professor, Engineering Systems, MITAdjunct Professor, Tanaka Business School, Imperial College

カンブリア爆発とは、5億年前のカンブリア紀に生

物の多様性が一気に多様化した現象。細胞が完

璧化かつ標準化され、複雑な有機体を作ることが

可能になったIT産業はこれまで、コンピューティングの基本技術

開発に数十年間を費やしてきたが、最近の一連の

破壊的イノベーションにより、スケーラブルで多様

なシステムが多数現れる

ITカンブリア爆発

が来る


28

OGF22 Cloud Systems BOF

• OGFがクラウドをテーマにして、初めて開催した会議• Bird of Feather: 作業部会設立前に関心を持つ研究者・技術

者が集まって議論するミーティング• 90分×2回、約60名が出席

• What are Clouds? • Geoffrey Fox (Indiana University)

• Cloud Systems BoF• Steven Newhouse (Microsoft)

• Cloud Computing – a view from the Network cloud• Martin Swany (U of Delaware/Internet2)

• First Steps in the Clouds• Kate Keahey(Argonne National Lab)


29

OGF23 & BEinGRID 2008/6/2-6 in Barcelona

• A Head in the Cloud - The Power of Infrastructure as a Service• Dr Werner Vogels• VP and CTO at Amazon.com

• 世界最大規模のIaaSであるamazon.comの狙い、構築で得られた経験を説明

• スケーラビリティ、信頼性、性能、コストのバランスに関する見解


30

OGF24 & GridAsia 2008

• ４つのキーノートのうち２つで、クラウドコンピューティングを説明

• GridAsiaのEnterprise Grid Adoptionトラックで、２つのクラウドセッションを開催


31

OGF24 & GridAsia Keynote

• Cloud Computing: Tomorrow's Choice for Enterprise Applications• Peter Coffee (Director, Platform Research, Salesforce.com)

• Accelerating Enterprise Grid Adoption• Tan Tong Hai (President & Chief Executive Officer, Singapore

Computer Systems)

• Massive Scale-Out and The Emergence of Cloud Computing• Alanna Dwyer (Business Director, Unified Cluster Portfolio,

Hewlett-Packard)

• Japanese Grid Initiatives and Future Directions• Hiro Kishimoto (Fujitsu Laboratories)


OGF25 Catania Italy, March 2-6 2009OGF25 Catania Italy, March 2-6 2009

Cloud Computing Workshop3つのセッションで、eScienceグリッドや商用クラウドの発表と議論

グリッド対クラウド

それぞれの、強みと弱みの比較

学術・研究プロジェクトが主流のグリッド v.s. 安価な商用クラウド

現時点のクラウドサービスは、ハードウエア・インフラレベル

グリッドとクラウド

両方が共存しているという ”現実” を受け入れる

両方の「良いところ取り」を目指す

グリッドの標準仕様の一部は、クラウドに適用できる

優れたクラウド（コンシューマ向け）技術は、グリッドに提供できる

仮想化インフラを管理提供するクラウド的な研究プロジェクトが増加中

「グリッド

対クラウド」から、「グリッド

と

クラウド」に発展


クラウド関連の団体クラウド関連の団体OGF

Infrastructure Cloud API BoF at OGF25IaaSのVM管理APIの標準化を目指すが、まだ、議論は始まっていない

DMTF仮想サーバ管理と、標準VMフォーマット(OVF)勧告を公表すみ

SNIACloud Storage Technical Work Group (TWG) データアクセスと制御のAPIとアーキテクチャを開発する

来週、サンノゼで開催されるAPTSでF2Fの予定

Cloud Computing Interoperability ForumGoogle GroupクラウドのアーキテクチャとAPI・プロトコルを活発に議論

OMGStrategies and Technologies for Cloud Computing Interoperability (SATCCI)March 23-27 in Washington DCCCIF, OCC, OGF, DMTF, NCOIC, OMG, Open Groupなど、多数の標準化団体

NICTが、米国政府調達でのクラウド標準の必要性を説明


まとめまとめ

グリッドはクラウドの実装技術

グリッド

v.s. クラウドからグリッド

と

クラウドに発展

標準仕様に基づく複数クラウド相互接続は、まだ時期尚早

複数クラウドへの移植性提供が現実的

複数の標準化団体で、クラウド標準化の準備が始まっている

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