ハダカデバネズミのマクロファージの同定と細胞株樹立に ... · 2020. 6....

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Instructions for use Title ハダカデバネズミのマクロファージの同定と細胞株樹立に関する研究 Author(s) 柴田, 悠平 Citation 北海道大学. 博士(医学) 甲第14068号 Issue Date 2020-03-25 DOI 10.14943/doctoral.k14068 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/77910 Type theses (doctoral) Note 配架番号:2533 File Information Yuhei_Shibata.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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Instructions for use

Title ハダカデバネズミのマクロファージの同定と細胞株樹立に関する研究

Author(s) 柴田, 悠平

Citation 北海道大学. 博士(医学) 甲第14068号

Issue Date 2020-03-25

DOI 10.14943/doctoral.k14068

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/77910

Type theses (doctoral)

Note 配架番号:2533

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Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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学位論文

ハダカデバネズミのマクロファージの同定と

細胞株樹立に関する研究

(Detection and establish of cell lines of macrophage in

naked mole-rat)

2020 年 3月

北海道大学

柴田 悠平

Yuhei Shibata

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学位論文

ハダカデバネズミのマクロファージの同定と

細胞株樹立に関する研究

(Detection and establish of cell lines of macrophage in

naked mole-rat)

2020 年 3月

北海道大学

柴田 悠平

Yuhei Shibata

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目次

発表論文目録及び学会発表目録 1頁

1. 要旨 2頁

2. 略語表 5頁

3. 緒言 6頁

4. ハダカデバネズミ(NMR)のマクロファージの同定と細胞株樹立に関する研究 7頁

4.1 背景 7頁

4.2 方法 9頁

4.3 結果 19頁

4.3.1 NMRマクロファージとモノクローナル抗体の交差性についての検討 19頁

4.3.2 各種サイトカインとNMRマクロファージの交差性についての検討 27頁

4.3.3 NMRマクロファージの貪食能の検討 32頁

4.3.4 NMRマクロファージの形態と遺伝子発現についての検討 34頁

4.3.5 抗NK1.1抗体によるNMRマクロファージの架橋刺激についての検討 42頁

4.3.6 NMR PEC細胞株の樹立 44頁

4.3.6.1 レトロウイルスベクターによるマウスPECを用いた検討 45頁

4.3.6.2 レンチウイルスベクターによるマウスPECを用いた検討 48頁

4.3.6.3 NMR PECのレンチウイルスベクター感染 53頁

4.3.7 NMR PEC由来の細胞株NPM1の機能解析 56頁

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4.4 考察 67頁

5. 結論 71頁

6. 謝辞 72頁

7. 利益相反 73頁

8. 引用文献 74頁

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発表論文目録及び学会発表目録

本研究の一部は現在以下の学術論文雑誌で発表した。

Haruka Wada, Yuhei Shibata, Yurika Abe, Ryo Otsuka, Nanami Eguchi, Yoshimi Kawamura,

Kaori Oka, Muhammad Baghdadi, Tatsuya Atsumi, Kyoko Miura, and Ken-ichiro Seino

Flow cytometric identification and cell-line establishment of macrophages in naked mole-rats

Scientific reports

Published online 2019 Nov 29.

本研究を発表した学会発表は無い

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1. 要旨

【背景と目的】高齢社会になった我が国において、主要な死因を占めるがんや動脈硬

化症等の老化関連疾患の有病率がより一層増すことが予想され、これらの疾患に対す

る対処が今後重要になる。これまでショウジョウバエ、線虫、マウス・ラットなどの

モデル動物が医学研究に寄与してきたが、これらはヒトに比して寿命が短い動物種で

ある。近年、分子生物学的な解析技術の進歩により、より望ましい形質を持つ動物を

用いた研究が着目されている。東アフリカの地中に生息するハダカデバネズミ(naked

mole rat: NMR, Heterocephalus glaber)は、マウスと同じサイズでありながら長寿形質を

示し、老化耐性だけではなく、腫瘍や動脈硬化等の加齢関連疾患に対しても耐性を持

つことが報告されている。また、NMR の腫瘍耐性のメカニズムについて、これまで

contact inhibitionに対する過剰応答、高分子ヒアルロン酸の分泌、がん抑制遺伝子の不

活化によるアポトーシスや細胞老化の誘発、p53 の高発現、テロメラーゼ活性の過剰

制御、タンパク質合成能、高い抗酸化活性やオートファジー活性、より高度なDNA二

重鎖の修復能などが報告されている。一方、NMR の免疫系についての報告について

は、少なく腫瘍免疫についても未だ不明な点が多い。そこで、本研究では NMR につ

いて、各種免疫担当細胞を解析し、種特異的な免疫機能の解明を目的とした。

【材料と方法】はじめにNMR由来の骨髄細胞、脾臓細胞、peritoneal cavity cells(PEC)

を用いて、マウス/ヒトのモノクローナル抗体、サイトカインとの交差性を検証した。

次にNMRの免疫担当細胞の同定を目指し、セルソーターで分取した各種細胞のサイ

トカイン反応性や貪食能を解析、評価するとともに、定量 PCR 法により、免疫関連

遺伝子発現の検討を行った。さらに、ウイルスベクターを用いて、マクロファージ細

胞株を樹立し、その特性について検討した。

【結果】NMRの骨髄細胞、脾臓細胞およびPECは、マクロファージの細胞表面マー

カー分子を認識する抗マウス CD11b 抗体、NK 細胞のマーカー分子を認識する抗マ

ウス NK1.1 抗体に交差性を示した。またマウス/ヒトマクロファージコロニー増殖因

子 (M-CSF)に反応して有意に増殖し、さらに活性化することで貪食能を示すことが

分かった。CD11b陽性あるいはCD11b陰性細胞について、それぞれサイズ毎にセル

ソーターで分取し、各分画の特性について検証した結果、CD11b陽性、low side scatter

の分画の細胞は、大きい細胞質と空胞を有し、マクロファージ様の形態であることを

確認した。この分画の細胞は M-CSF 刺激により有意に増殖し、貪食能を有すること

が明らかとなった。また、この細胞は、マクロファージ特異的な細胞表面マーカーの

遺伝子である Emr1 (F4/80)、Cd68 および Siglec1(CD169)を高発現していることを

確認した。この NMR 由来の細胞に対して抗 NK1.1 抗体を使用し、架橋刺激をする

ことで、有意な増殖と形態の変化を認めた。さらに Simian virus40 early

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region(SV40ER)を含むレトロあるいはレンチウイルスベクターを用いて細胞株の樹

立を試みた結果、マウス PEC では、レトロウイルスベクターを用いた場合、不死化

細胞は得られたが、細胞表面の CD11b および F4/80 分子の発現は消失した。一方、

レンチウイルスベクターを用いた所、細胞への感染効率が増加するとともに、CD11b

およびF4/80分子の発現を保持したまま細胞が不死化することが分かった。NMRの

PECに対してレンチウイルスを感染させたところ、M-CSF非依存的に増殖する細胞

(Naked mole rat Peritoneal cavity Macrophage-1: NPM1)を得た。このNPM1細胞は貪食

能、抗マウス/ヒト CD11b 抗体および抗マウスNK1.1 抗体と交差性を示し、LPS 刺

激により炎症性サイトカイン遺伝子の発現レベルが亢進した。また IFN-γあるいは

IL-4などのサイトカイン刺激を加えることでM1/M2マクロファージサブセットへの

分化誘導能を認めた。またマウス細胞の培養条件と同様の温度である 37℃、20 % O2

および 5 % CO2濃度の条件下で培養すると細胞は死滅し、32℃、5 % O2および 5 % CO2

濃度の条件で増殖することが判明した。

【考察】本研究においてNMR細胞は、抗マウス/ヒトCD11b抗体及び抗マウス/ヒト

M-CSF に交差性を示すことが明らかとなり、これはアミノ酸配列の相同性に起因す

るものと考えられた。CD11b分子は、一般にマクロファージに加えて、好中球や樹状

細胞にも発現している分子であるが、セルソーターを用いて細胞を分画し、サイトカ

イン反応性や貪食能、またEmr1 (F4/80)、Cd68およびSiglec1(CD169)など細胞表面

マーカーの遺伝子発現を解析した結果により、この CD11b 分子を発現している細胞

について、NMRのマクロファージと定義した。またこの細胞は、抗マウスNK1.1抗

体も交差性を示したが、一般に、NK1.1分子はNK細胞のマーカーであり、定常状態

のマウスマクロファージでは発現は認められないこと、刺激があった時に発現が亢進

することが報告されている。一方、NMR 由来のマクロファージは定常状態でも発現

し、また抗 NK1.1 抗体を使用して架橋刺激することで、細胞増殖能を示したことか

ら、抗NK1.1抗体が認識する分子は、NMRマクロファージにおいて実際に細胞機能

を制御していることが示唆された。今後、抗マウスNK1.1抗体が認識する分子の同定

や NK1.1 陽性 NMR 細胞の細胞傷害性を示す必要があると考えられた。これまでマ

ウスを使用した研究でNK細胞は老化細胞を除去することで、個体の寿命が延長する

ことが報告されていることから、NMR マクロファージが NK1.1 分子の発現を介し

て、個体の長寿、腫瘍耐性の形質獲得に寄与する可能性が考えられた。本研究で

SV40ERを導入することで機能的なNMR マクロファージのNPM1細胞株を樹立す

ることができた。このNPM1細胞は、一般的なマウスの細胞培養条件下では死滅し、

低温および低酸素下で増殖することを確認した。これまでNMR細胞は温度耐性があ

る一方で、酸化ストレスへの耐性が低いことが報告され、またHIF-1αが高発現して

おいることから、低酸素環境に耐性を示す可能性が考えられた。さらにSV40ERが抑

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制するp53と相互作用を持つことから、本遺伝子導入による細胞増殖への影響も考え

られた。

【結論】本研究では長寿形質を有するNMRの免疫担当細胞の解析を行い、マクロフ

ァージの同定と新規マクロファージ NPM1 細胞株を樹立するとともに、その細胞機

能を評価し、低温および低酸素耐性など特異的な性質を有することが明らかとなった。

今後、本研究で新たに樹立されたNPM1細胞を詳細に検証することで、NMR種特異

的な免疫機能の制御および長寿形質獲得の機序解明に寄与する可能性が期待される。

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2. 略語表

本文中のおよび図中で使用した略語は以下の通りである.

APC Allophycocyanin

CSF1 Colony stimulating factor 1

CSF1R Colony stimulating factor 1 receptor

FBS Fetal bovine serum

FITC Fluorescein isothiocyanate

HIF Hypoxia Inducible Factor

IFN Interferon

IL Interleukin

Klrb1c Killer cell lectin-like receptor subfamily B member 1C

LPS Lipopolysaccharide

M-CSF Macrophage colony stimulating factor

NF-κB Nclear factor-kappa B

NMR Naked mole rat

NPM1 Naked mole rat peritoneal cavity macrophage-1

PBS Phosphate buffered saline

PE Phycoerythrin

PEC Peritoneal cavity cells

PI Propidium Iodide

SV40ER Simian virus 40 early region

SV40-LT SV40 large T antigen

SV40-ST SV40 small T antigen

TNF Tumor necrosing factor

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3. 緒言

2010 年、我が国は 65 歳以上の人口が全人口の 21%以上を占める超高齢社会となっ

た。悪性腫瘍は日本における死因の第一位であり、一般に悪性腫瘍の有病率は加齢に

伴い高くなるため、今後、がんの有病率と死亡率の増加が予測される。種々の原因に

よりがん化した細胞は、生体内でのがん免疫編集により質的に変化するとことで免疫

系の排除機構から逃避し、増殖、浸潤、転移能の獲得など悪性化することが提唱され

ている(Schreiber et al., 2011)。最近、担がん生体での免疫抑制の機序の一つに免疫チェ

ックポイント分子、PD-1(Ishida et al., 1992)、PD-L1(Freeman et al., 2000)が関与している

ことが明らかとなった(Iwai et al., 2002)。そこで PD-1/PD-L1 を介した免疫抑制シグナ

ルを阻害することで抗腫瘍効果を示すこと(Iwai et al., 2004)から、免疫チェックポイン

ト阻害薬が開発され、がん治療の領域においても免疫系が注目されている。

これまで細胞のがん化の機序において、細胞老化の関与も明らかになっている。細

胞老化とは、一般に遺伝毒性のあるストレスが加わった時に非可逆的に細胞周期が停

止する事象で、これまで胚発生、創傷治癒、がん抑制などに関わる一方で、発がんや

動脈硬化症などの老化関連疾患に関わることが報告されている(van Deursen, 2014)。細

胞老化の機序には p53などのがん抑制遺伝子や細胞周期調節分子の p16や p21が関連

していることが明らかとなってきている(Malaquin et al., 2016)。本邦では動脈硬化を背

景とする脳梗塞、心筋梗塞などの心血管イベントは死因の第二位であり、今後、加齢

関連疾患への対処が重要になると考えられる。

医学、生物学研究において、ショウジョウバエ、線虫、マウス、ラットなどを用い

て様々な生命機能に関する分子生物学的な機序が解明されてきたが、これらの動物種

はヒトに比して寿命が短い。最近、加齢や長寿形質を解明する上で有用な性質を有す

る生物を対象とした研究も進められている。東アフリカの地中に生息するハダカデバ

ネズミ(NMR)は、マウスと同等のサイズであるが、20 年以上の長寿を示すことから、

老化耐性に関する研究のモデル動物として近年注目されている(Seluanov et al., 2018)。

また NMR は老化だけではなく、腫瘍や動脈硬化など加齢関連疾患耐性を持つことも

報告されている。これまで腫瘍耐性のメカニズムとして、細胞周期調整分子 p16を介

した接触阻害に対する過剰応答(Seluanov et al., 2009)や高い抗酸化活性(Lewis et al.,

2012)なども報告されている。しかしながらNMRの免疫系については不明な点が多く、

種特異的な腫瘍耐性と免疫機能との関連も未だ明らかにされていない。

本研究は、腫瘍を含む加齢関連疾患耐性を持つ NMR の免疫担当細胞の機能を解析

し、種特異的な長寿形質との関連について明らかにすることを目的とした。

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4. ハダカデバネズミ(NMR)のマクロファージの同定と

細胞株樹立に関する研究

4.1 背景

ハダカデバネズミ(Naked mole rat: NMR, Heterocephalus glaber) はアフリカ大陸東端

の地下に生息し、約 300匹からなるコロニーの中で単一の雌のみが出産する真社会性

齧歯類である(Jarvis, 1981)。一般に NMR の平均体重は 35 g であり、マウス(Mus

musculus)と同程度であるが、寿命が最長 32年と、一般的なマウスの寿命が 3年から 5

年であるのに比べて、著しく長い寿命を持つ齧歯類である。また、NMRは生涯の 8割

の期間において活動性、妊孕性そして心機能が低下しない性質、加齢に関連した死亡

リスクの上昇を認めず、自然発がんは極めて稀であることが報告されている

(Buffenstein, 2008; Delaney et al., 2016; Edrey et al., 2011; Ruby et al., 2018)。これらの特徴

から近年 NMR は加齢関連疾患の研究に加えて、腫瘍耐性機能解析のモデル動物とし

て注目されている(Seluanov et al., 2018)。

これまでNMRの腫瘍耐性メカニズムは、早期の接触阻害効果(Seluanov et al., 2009)、

高分子ヒアルロン酸の分泌(Tian et al., 2013)、p53 や Rb といったがん抑制遺伝子の不

活化によるアポトーシスや細胞老化の誘発(Miyawaki et al., 2016; Seluanov et al., 2009)、

p53の高発現(Lewis et al., 2012)、テロメラーゼ活性の制御(Liang et al., 2010)などが報告

されている。またより忠実で精度の高いタンパク質合成能(Azpurua et al., 2013; Lewis et

al., 2015; Perez et al., 2009)、高い抗酸化活性(Lewis et al., 2015; Yu et al., 2011)、高いオー

トファジー活性(Zhao et al., 2014) 、より正確なDNA二重鎖の修復能(Tian et al., 2019)

も腫瘍耐性に関係していると考えられている。さらに最近 NMR から樹立した人工多

能性幹細胞が、がん化耐性を持っていることも明らかとなった(Miyawaki et al., 2016)。

一般に、腫瘍発生には遺伝子変異だけでなく自然免疫と獲得免疫が関連している

(Dunn et al., 2004)。しかしNMRにおけるがん化耐性と免疫機能との関連は明らかにな

っていない。Chengらによるマウスとの比較研究で、NMRマクロファージは高い貪食

能を持ち、Toll様受容体を介した刺激に対してアポトーシスが起こりにくく、NF-κB蛋

白を高発現するという特徴が報告された(Cheng et al., 2017)。

マクロファージは自然免疫、獲得免疫だけではなく、腫瘍発生・抗腫瘍発生にも重

要な役割を持ち(DeNardo and Ruffell, 2019) 、動脈硬化症などの加齢に関連した疾患の

発症にも関与することも報告されている(Tabas and Lichtman, 2017)。NMRが有する、が

ん、動脈硬化などの加齢関連疾患に対して耐性である性質について、マクロファージ

が関与する可能性も推察される。

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本研究では、NMRの免疫担当細胞、特にマクロファージについて着目し、その機能

解析を行なった。また細胞株の樹立は免疫細胞の機能解析に貢献するため(Mauel and

Defendi, 1971; Raschke et al., 1978)、さらに本研究において、機能的な新規NMRマクロ

ファージ細胞株の樹立も目指した。

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4.2 方法

マウス、ラットおよびNMR

野生型C57BL/6 マウスは日本エスエルシー株式会社より購入した。Lewis ラット脾臓

細胞は北海道大学大学院医学研究院機能再生医学分野整形外科学教室角家健特任准教

授より供与頂いた。NMR の各組織は北海道大学遺伝子病制御研究所動物機能医科学

研究室(現・熊本大学大学院生命科学研究部老化・健康長寿学分野/大学院先導機構)

三浦恭子准教授より供与頂いた。実験には 3~5歳齢の雌雄の個体を使用し、同一実験

には全て同一コロニーの個体を用いた。本研究における動物実験は、北海道大学によ

り承認され (承認番号: 17-0112) 、所定の「国立大学法人北海道大学動物実験に関する

規程」に従って遂行した。

NMRの骨髄細胞および脾臓細胞の単離

NMRについて、イソフルランによる鎮静化後、頸椎脱臼し、四肢、脾臓を採取した。

四肢から筋・軟骨を剥離した長管骨の骨端を切断し、リン酸緩衝生理食塩水(phosphate

buffered saline: PBS)をシリンジで注入して骨髄細胞を回収し、溶血操作は行わなかっ

た。脾臓についてはスライドガラスのすりガラス部分ですりつぶし、得られた脾臓細

胞をPBSで懸濁し、遠心分離して回収した後、溶血した。溶血は、溶血バッファー(0.15

M NH4Cl、0.01 M KHCO3、0.1 mM Na2EDTA)を 3ml加え 2分間室温静置した後、さら

に PBSを 7 ml加え、溶血バッファーを中和した。溶血後、細胞を遠心分離し、上清を

除去した細胞を培地に懸濁して、以降の実験に使用した。

Peritoneal cavity cells(PEC)の回収

PECの回収は既報(Lu and Varley, 2013; Ray and Dittel, 2010) に従って実施した。PEC回

収の5日前に、3 % チオグリコール酸 1 mlをマウス、あるいはNMRに腹腔内投与した。

マウスは頸椎脱臼をした後に腹部の皮膚を切開し、腹膜を露出させ3 % 胎児牛血清

(FBS)を添加したPBSを腹腔内に投与し、軽くマッサージした後、再度針を穿刺して吸

引した。引き続き、新たに3% FBS含有PBSを投与し、前述の方法にて回収する操作を

複数回行った。NMRは既報(Kawai et al., 2011)に従って作成した麻酔薬(3.5% ドミトー

ル(日本全薬工業)、10 % ミダゾラム(武田薬品)、12.5 % ベトルファール(明治製菓ファ

ーマ)含有生理食塩水を腹腔内投与した後、イソフルラン吸入で鎮静した。鎮静後、腹

部を70 %(v/v) エタノールで消毒し、5 U/mlヘパリンを加えた生理食塩水を5~10 ml腹

腔内に投与した。複数回の穿刺を避けるため23 G翼状針を留置した。腹腔内投与後、

腹部を優しくマッサージし、翼状針からの自然滴下で腹腔内に投与した生理食塩水を

回収した。5~10回繰り返した。処置終了後NMRの状態は良好であった。マウスおよ

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びNMRからそれぞれ回収したPECに混入した赤血球は前述の溶血バッファーを用い

て除去した。

細胞培養

本研究において以下の通り D10 培地および R10 培地を調製し、細胞培養とその後の

実験に使用した。D10培地は、DMEM(和光純薬工業) にFBSを 10 %(v/v)、L-Glutamine

を 0.6 % (w/v)、非必須アミノ酸(ナカライテスク)を 0.1 mM、ピルビン酸ナトリウム(ナ

カライテスク)を 1 mM、ペニシリンを 10 U/ml、ストレプトマイシンを 100 μg/ml(ナカ

ライテスク)および 2-メルカプトエタノール(ナカライテスク)を 0.1 mM となるように

それぞれ添加して作製した。R10培地は、L-グルタミン酸含有RPMI1640培地(和光純

薬工業)に FBS を 10 %(v/v)、非必須アミノ酸を 0.1 mM、ピルビン酸ナトリウムを 1

mM、ペニシリンを 10 U/ml、ストレプトマイシンを 100 μg/m(ナカライテスク)、l, 2-メ

ルカプトエタノールを 0.1 mM(ナカライテスク)となるようにそれぞれ添加して作製し

た。マウスの細胞は、37 ℃(5% CO2、20% O2)下で、NMRの細胞は 32 °C(5% O2、5%

CO2)の条件で、それぞれ培養した。

フローサイトメトリー

細胞は、0.5 %(vol/vol) FBSと 2.5 mM EDTAを添加した PBS (以下 FACSバッファー)

に懸濁して解析に用いた。5% ラット血清および 5% マウス血清を含有した FACS バ

ッファーを用いて、室温 5分間ブロッキングを行った後に、蛍光標識した各種抗体と

反応させた。フローサイトメトリーに用いた各種モノクローナル抗体を Table 1 に示

す。死細胞の染色はPropidium iodide(PI)、4', 6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)を用いて

行った。フローサイトメトリーは Cytomics FC500(Beckman Coulte)、FACS Canto II、

FACS Aria II(BD Biosciences)を使用して実施した。データの解析は FlowJo(トミーデジ

タルバイオロジー株式会社)を用いて行った。

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Table 1 フローサイトメトリーに用いたモノクローナル抗体

Antibody Conjugation Clone Supplier

Anti-mouse CD3ε FITC 145-2C11 eBioscience

Anti-mouse CD4 FITC RM4-5 BioLegend

Anti-mouse CD8a FITC 53-6.7 BioLegend

Anti-mouse CD8b FITC YTS156.7.7 BioLegend

Anti-mouse/human CD11b FITC, APC M1/70 eBioscience(FITC), BioLegend(APC)

Anti-mouse CD11c FITC HL3 BioLegend

Anti-mouse CD19 FITC 1D3 eBioscience

Anti-mouse CD45 FITC 30-F11 BioLegend

Anti-mouse CD45r FITC RA3-6B2 eBioscience

Anti-mouse CD49b FITC Hal/29 BioLegend

Anti-mouse NK1.1 FITC PK136 eBioscience

Anti-mouse Gr-1 FITC RB6-8C5 eBioscience

Anti-mouse F4/80 APC BM8 BioLegend

Anti-mouse TLR4 FITC MTS510 Biological Laboratoories

Anti-mouse TCRβ FITC H57-597 eBioscience

Anti-mouse TCRγδ APC eBioGL3 BioLegend

Anti-human CD3 PE UCHT1 BioLegend

Anti-human CD4 PE OKT4 BioLegend

Anti-human CD8 PE OKT-8 BioLegend

Anti-human CD11c PE 3.9 BioLegend

Anti-human CD13 PE WM15 BioLegend

Anti-human CD14 PE HCD14 BioLegend

Anti-human CD19 PE HIB19 BioLegend

Anti-human CD33 APC WM53 BioLegend

Anti-human CD45 FITC HI30 eBioscience

Anti-human CD56 PE MEM-188 BioLegend

Anti-human α/β T cell Receptor Alexa647 IP26 BioLegend

Anti-Rat CD68 FITC REA237 Miltenyi Biotec

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12

細胞の架橋刺激

平底の96穴プレートにPBSで希釈し最終濃度5 μg/mlとした抗マウスNK1.1抗体

(purified anti-mouse NK-1.1 antibody, BioLegend)あるいは5 μg/mlアイソタイプコントロ

ール抗体(Purified Mouse IgG1, κ, Isotype Control Antibody, BioLegend)を添加し、4 ℃で

一晩静置した。翌日、上清を除去した後に、マウスおよびNMR由来の細胞をそれぞれ

1週間、培養した。

細胞増殖評価MTT

マウスおよびNMR 由来の細胞をサイトカイン存在下または非存在下で 7 日間培養し

た後、Cell Proliferation Kit I(Roche)を用い、細胞増殖の程度についてMTTアッセイで

評価した。測定にはMultiscan FC(Thermo Fisher Scientific)を使用し、波長は 570 nmで

計測した。

ウイルスベクター

レトロウイルスベクターpMXs-gw-IPは北海道大学遺伝子病制御研究所免疫生物分野

で作成したものを用いた。エントリーベクターpENTR-SV40ER、レンチウイルスベク

ターCSII-EF-SV40ER-TK-Hyg(Figure 1)およびCSII-EF-SV40ER-TKは北海道大学遺伝子

病制御研究所動物機能医科学研究室(現・熊本大学大学院生命科学研究部老化・健康長

寿学分野/大学院先導機構)、三浦恭子准教授より供与頂いた。LRクロナーゼ(Thermo

Fishcer)を用いてpMXs-gw-IPにエントリーベクターpENTR-SV40ERを組み替え、レト

ロウイルスベクターpMXs-SV40ER-IPを作製した。各ウイルスベクターはコンピテン

トセル DH5αへ形質導入し、シングルコロニーを増殖させた後、FastGene Xpress

Plasmid PLUS Kit( 日本ジェネティクス ) もしくはNucleoBond® Xtra Midi EF

(MACHEREY-NAGEL)を用いてプラスミド抽出を行った。

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13

Figure 1 レンチウイルスベクター(CSII-EF-SV40ER-TK-Hyg)のプラスミドマップ

本研究で使用したレンチウイルスベクター(CSII-EF-SV40ER-TK-Hyg)のプラスミド情

報を示す。プラスミドマップについて、SnapGene Viewer (GSL Biotech)を用いて作製し

た。

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14

レトロウイルスの作製

レトロウイルスベクターをPlatE細胞株へトランスフェクションして作製した。PlatE細

胞株はD10培地で培養した。ウイルスプラスミドベクター (11.4 μg)および

Polyethyleneimine(MAX 34.2 μg)について、総量500 μlとなるようにOpti MEM(Gibco) に

添加し、Polyethylenimine MAX transfection reagent(コスモバイオ)を用い、PlatE細胞株に

トランスフェクションを行った。トランスフェクションした翌日に培地交換を行い、

10 μMホルスコリン(和光純薬工業)を添加した。さらに翌日、培養上清を回収し、

Polyethylene glycol(PEG)溶液と3:1の割合で混合した。ウイルスおよびPEG混合液は

4 ℃で一晩静置し、1500 gで30分間遠心した。上清を除去した後、再び1500 gで5分間

遠心し、残っている培養上清を除去した。形成されたペレットについて、血清不含細

胞培養液を用いて懸濁し、細胞へ添加した。直ちに使用しない混合液は−80 ℃で凍結

保存し、以降の実験に使用した。

レンチウイルスの作製

レンチウイルスベクターを Lenti-X293T 細胞株へトランスフェクションして作製した。

Lenti-X293T 細胞株は D10 培地で培養した。パッケージングプラスミドは pMD2.G

(Addgene)および psPAX2 (Addgene)を用いた。レンチウイルスベクター(pMD2.G 1.5 μg、

psPAX2 3 μg)、パッケージングプラスミド(6 μg)およびPolyethyleneimine(MAX 47.5μg)

について、総量 205.5 μl となるように OptiMEM を添加し、Polyethylenimine MAX

transfection reagent(コスモバイオ)を使用してLenti-X293T細胞株にトランスフェクショ

ンを行った。トランスフェクションした翌日に培地交換を行い、10 μMホルスコリン

(和光純薬工業)を添加した。さらに 2日後、培養上清を回収し、Polyethylene glycol(PEG)

溶液と 3:1の割合で混合した。ウイルスおよびPEG混合液は 4 ℃で一晩静置し、1500

gで 30分間遠心した。上清を除去した後、再び 1500 gで 5分間遠心し、残っている培

養上清を除去した。形成されたペレットは血清不含細胞培養液を用いて懸濁し、細胞

へ添加した。直ちに使用しない混合液は−80 ℃で凍結保存し、以降の実験に使用した。

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15

貪食能試験

培養した NMR 細胞に対して、蛍光標識した大腸菌(pHrodo Green E. coli BioParticles

Conjugate for Phagocytosis, Thermo Fisher Scientific)を添加し、2時間培養した。大腸菌と

共培養した骨髄あるいは脾臓由来の細胞は PBS で洗浄した後に 4 % パラホルムアル

デヒドで固定した後、免疫染色を行い、DAPIで核を染色した。セルソーターで分取し

た細胞および後述の細胞株は 5 μg/ml Hoechst 33342を使用して、核染色した。観察は

蛍光顕微鏡を用い、画像解析は ImageJを用いて行った。

組織学的観察

NMR由来の細胞について、サイトスピン(Thermo Fisher Scientific)を用いて単層塗抹標

本スライドを作製し、鑑別用血液染色液Diff-Quik(シスメックス株式会社)を用いて染

色した。染色後、エタノールによる脱水、キシレンによる透徹およびTOLUENE

SOLUTION(Fisher Scientific)による封入を行った後、光学顕微鏡を使用して形態を観察

した。

マクロファージサブセットの分化誘導

NMR由来の細胞について、既報(Riquelme et al., 2013)に従って、マクロファージの分化

誘導を行った。10 ng/mlのマウスM-CSFを添加した培地で 6–7日細胞を培養し、さらに

各種ヒト/マウスサイトカイン(M1: LPS 10 μg/ml +マウス/ヒトIFN-γ 25 ng/ml、M2a: マ

ウス/ヒト IL-4 25 ng/ml、M2c: デキサメタゾン 1 μM、M0(control) : 生理食塩水)存在

下にて24時間培養することで、各サブセットへの分化誘導を試みた。

RNA抽出、cDNA合成と定量PCR

培養細胞のRNAについて、TriPure Isolation Reagent(Roche Diagnostics GmbH)を用いて

抽出し、さらにReverTra Ace qPCR RT Master Mix(東洋紡)を使用して cDNAを合成し

た。作成した cDNAを鋳型とし、標的遺伝子に特異的なプライマーおよびKAPA SYBR

Fast qPCR kit(日本ジェネティクス)を用い、Step One Real-Time PCR System(Applied

Biosystems)を使用して定量 PCR を行った。本研究で使用した各種プライマー配列を

Table 2 に示す。mRNA の発現量の解析には ΔΔCT 法を用い、Actb を内因性コントロ

ールとした。

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16

Table 2 定量PCRに用いたプライマー配列

Actb forward 5’-AGACCTTCAACACCCCAGCCATGT-3’

Actb reverse 5’-GGCCAGCCAGGTCCAGACGCAG-3’

Cd11b forward 5’-AGAATGCAAGAGGCTTCGGG-3’

Cd11b reverse 5’-CTGTGCTGTAGTCACACTGGT-3’

Cd68 forward 5’-TGTGAGGGTGCTCATACCCA-3’

Cd68 reverse 5’-TGGCATTTCTGCAACTGAAGC-3’

Cd69 forward 5’-ATGTCCCACAACAGAGACCAG-3’

Cd69 reverse 5’-GGACAGCACATGGGATAGGAA-3’

Cd86 forward 5'-CTCGCTCCTCCCTGGCTAAT-3'

Cd86 reverse 5'-TACCTGGTCCCATGGTGCAT-3'

Cd163 forward 5'-AGTCCACTTGAGTCCCTTCACTA-3'

Cd163 reverse 5'-TCCACTCTGCCACTACACTTG-3'

Csf1r forward 5’-TCAGACACACGGGGACCTAT-3’

Csf1r reverse 5’-GGTGAAACCGTACCAGGGAG-3’

MHC class II forward 5'-CTGACCGAGTGAAGGAAGGG-3'

MHC class II reverse 5'-AACAGACCTCCCTTGGGACT-3'

Ifnb forward 5’- ACAACGCAGCAGCAGTTT-3’

Ifnb reverse 5’-GAGCAGCATTCTCCTTCC-3’

Ifng forward 5’-TGCGAGTCAAGATTTACAAAAGAA-3’

Ifng reverse 5’-TCTGGTTGCCTCCGGATTTT-3’

Il1b forward 5'-GTGATGCACCCGTCCTAACA-3'

Il1b reverse 5'-GCCGGTTCAGATTCTCTCCG-3'

Il10 forward 5'-GTTGCCTGGTCTTACTGGCT-3'

Il10 reverse 5'-GCTTGATGTCTGGGTCGTGA-3'

Irf4 forward 5'-AGGGATTACGTCCCTGACCA-3'

Irf4 reverse 5'-AGGTGGGGCACAAGCATAAA-3'

Irf5 forward 5'-CTTGGAAGCTGAGGACCTCTT-3'

Irf5 reverse 5'-TCCACCCCCTCAGTGTACTT-3'

Itgax forward 5'-GTATGAAGCCCACGACCCTG-3'

Itgax reverse 5'-ACCTGTCCATTTGCTTCCTCC-3'

Mpo forward 5'-GCACAGGATACTTATGGGGCT-3’

Mpo reverse 5'-CGAGGTCTCTACCTCCTCTGG-3'

Mrc1 forward 5'-AGCTTTGACTGCCTCGACTG-3'

Mrc1 reverse 5'-GTGGTCTTGTGTATTCACCTTTTGT-3'

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17

Nos2 forward 5'-TCCCTTCCGAAGTTTCTGGC-3'

Nos2 reverse 5'-GGAGTAGGCTGTGTGCACTT-3'

Siglec1 forward 5'-GGTCGCACATCCATGTCTCA-3'

Siglec1 reverse 5'-GTCCGGAGCACCTCATTTTC-3'

Tgfb forward 5'-CCAGTGATACACCGGAGTGG-3'

Tgfb reverse 5'-TTTGCTGTCACAGGAGCAGT-3'

Tlr3 forward 5'-CCTTGTTGGGACTGTGGC-3'

Tlr3 reverse 5'-GGCAGGTGGCAATCTTCT-3'

Tlr4 forward 5’-GCCTGCGTGAGACCTGAAAG-3’

Tlr4 reverse 5’-AGGGGATTAAAGCTCAGGTCC-3’

Tnfa forward 5’-ATGGCATGGATCTAACGG-3’

Tnfa reverse 5’-CGGCTGACAGTATGGGTG-3’

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18

統計解析

統計学的解析は、JMP 14(SAS Institute Inc.)を用いて行った。本研究における有意水準

は5 %とし、p値が5 %を未満の場合に統計学的に有意差ありとした。

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19

4.3 結果

4.3.1 NMRマクロファージとモノクローナル抗体の交差性に

ついての検討

NMR由来の骨髄細胞、脾臓細胞および PECについて、マウスあるいはヒト免疫担

当細胞に対するモノクローナル抗体の交差性について検証した。それぞれの細胞を

Forward scatter(FSC)と Side scatter(SSC)で展開した所、骨髄細胞では異なる二つのサイ

ズの分画、脾臓細胞およびPECについては、一つのサイズ分画を認めた(Figure 2)。

本研究で検討した抗マウス抗体の中で、抗マウス/ヒト CD11b 抗体(clone: M1/70)が

全ての細胞に対し交差性を示した(Figure 3、4、5)。骨髄細胞においてはサイズの大き

い分画(Fraction a)でのみ交差性を認めた(Figure 3)。CD11b タンパク質のアミノ酸配列

を比較検討した所、二種間で高い相同性(NMR vs. mouse: 72.77 %、NMR vs. human:

75.35 %、mouse vs. human: 74.59 %)が保たれていることを確認した(Figure 6)。

さらに抗マウスNK1.1抗体(clone: PK136)についても交差性を認めた(Figure 3、4、5)。

CD11b 抗体と NK1.1 抗体を二重染色した所、CD11b 陽性細胞は NK1.1 も共発現して

いることが確認された(Figure 7)。

一方、上記のCD11b抗体以外の抗ヒト抗体については、NMRの細胞との交差性を認

めなかった(Figure 3)。さらにラットマクロファージの代表的な細胞表面マーカーであ

る抗ラット CD68 抗体との交差性を検証した結果、NMR 細胞との交差性は認められ

なかった(Figure 8)。

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20

Figure 2 NMR由来の骨髄細胞、脾臓細胞およびPECのフローサイトメトリー

NMRより骨髄(BM)、脾臓(SP)および PECを回収し、それぞれの細胞について、フロ

ーサイトメトリーによる解析を実施し、それぞれ Forward scatter(FSC)と Side scatter

(SSC)で展開した二次元ドットプロットを示した。骨髄細胞について、FSCおよびSSC

が低値の細胞画分を Fraction a(Fr. a)、高値の細胞画分を Fraction b(Fr. b)とし、脾臓細胞

あるいは PEC の FSC および SSC が低値の細胞画分を、それぞれ Fraction c(Fr. c)およ

び Fraction d(Fr. d)として図中に示した。

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21

Figure 3 NMR由来骨髄細胞における各種抗マウス/抗ヒトモノクローナル抗体

の交差性

Figure 2に示したNMR由来の骨髄細胞における Fraction aおよびFraction b細胞群(Fr.

a, Fr. b)について、各種細胞表面分子に対する抗マウスモノクローナル抗体、あるいは

抗ヒトモノクローナル抗体の交差性をフロサイトメトリーにて検証した。図中に灰色

で示したヒストグラムはアイソタイプコントロールを示す。

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22

Figure 4 NMR由来脾臓細胞に対する抗マウスモノクローナル抗体の交差性

Figure 2に示したNMR由来の脾臓細胞における Fraction c細胞群(Fr. c)について、各種

細胞表面分子に対する抗マウスモノクローナル抗体の交差性をフローサイトメトリー

にて検証した。図中に灰色で示したヒストグラムはアイソタイプコントロールを示し、

右図は細胞数について拡大したものを示す。

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23

Figure 5 NMR 由来骨髄細胞に対する抗マウスモノクローナル抗体の交差性

Figure 2 に示した NMR 由来の骨髄細胞における Fraction d 細胞群(Fr. d)について、

CD11b あるいは NK1.1 分子に対する抗マウスモノクローナル抗体の交差性をフロー

サイトメトリーにて検証した。図中に灰色で示したヒストグラムはアイソタイプコン

トロールを示し、右図は細胞数について拡大したものを示す。

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24

Figure 6 ヒト、マウスおよびNMRにおけるCD11b分子のアミノ酸配列比較

ヒト、マウスおよび NMR の CD11b タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、CLC

Sequence Viewer 8(QIAGEN Bioinformatics)を用い、それらの相同性を比較検討した。

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25

Figure 7 NMR骨髄、脾臓およびPEC由来の細胞におけるCD11bおよびNK1.1の

発現解析

NMRより骨髄(BM)、脾臓(SP)および PECを回収した後、それぞれの細胞について、

蛍光標識した抗マウス/ヒトCD11b 抗体あるいは抗マウスNK1.1.抗体を用いて二重染

色し、フローサイトメトリーによる解析を実施した。生細胞における CD11b および

NK1.1分子の発現レベルについて、二次元プロットに展開して示した。

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26

Figure 8 NMR由来の骨髄細胞、脾臓細胞およびPECと抗ラットCD68抗体との

交差性

Lewis ラットの脾臓細胞(control)、 NMR 由来の骨髄細胞、脾臓細胞および PEC につ

いて、抗ラットCD68 抗体、あるいはアイソタイプコントロール抗体を使用し、それ

ぞれ染色を行い、フローサイトメトリーによって、CD68 分子を発現する細胞を解析

した。図中の%は、生細胞における抗体と反応した細胞の割合を示す。

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27

4.3.2 各種サイトカインとNMR マクロファージの交差

性についての検討

前述の検討から、NMRの骨髄、脾臓および PEC は、マウスおよびヒトのマクロフ

ァージの細胞表面マーカーである CD11b を発現している細胞を含むことが判明した。

そこで次に、マクロファージに対して作用するサイトカインであるマウスあるいはヒ

トMacrophage colony stimulating factor (M-CSF)の交差性について検討した。

20 μg/ml のマウスあるいはヒト M-CSF を添加し、各細胞を 7 日間培養した。MTT

アッセイでそれぞれの細胞の増殖能を評価した所、マウスおよびヒト M-CSF 存在下

で有意な細胞増殖を認めた。マウスおよびヒト M-CSF 間では増殖能に有意差を認め

なかった(Figure 9)。またNMR由来の骨髄細胞、脾臓細胞およびPECは、M-CSF刺激

によりマクロファージ様の突起を伸長させることを確認した(Figure 10)。NMR、マウ

ス、ヒトのCSF1およびその受容体であるColony stimulating factor 1 receptor(CSF1R)の

アミノ酸配列を比較した。その結果、NMRのCSF1のアミノ酸配列の相同性はヒトと

は 67.21 %、マウスとは 71.71 %であった。CSF1Rについては、ヒトとは 74.09 %、マ

ウスとは 79.31 %と約 70–80 %の相同性を認めた(Figure 11、12)。

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28

Figure 9 NMR骨髄、脾臓およびPEC由来の細胞に対するマウスM-CSFあるい

はヒトM-CSF刺激による細胞増殖の評価

NMR の骨髄細胞(BM)、脾臓細胞(SP)および PEC に対して、マウス M-CSF(mM-CSF)

あるいはヒトM-CSF(hM-CSF)添加して 7 日間培養し、MTT アッセイでそれぞれの細

胞増殖能を評価した。

図は代表的な結果について平均値および標準偏差を示した。NS: not significant、*p < 0.05、

**p < 0.01、Student’s t-tests.

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29

Figure 10 NMR骨髄、脾臓およびPEC由来の細胞に対するマウス/ヒトM-CSF

添加による形態の変化

NMRより骨髄(BM)、脾臓(SP)および PECを回収し、それぞれの細胞に対してマウス

M-CSF(mM-CSF)あるいはヒトM-CSF(hM-CSF)添加して 7日間培養した後、位相差顕

微鏡で観察した。左上に拡大像を示す。Scale bar: 20 μm

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30

Figure 11 ヒト、マウスおよびNMRにおけるCSF1分子のアミノ酸配列比較

ヒト、マウスおよびNMRのCSF1タンパク質について、アミノ酸配列情報をもとに、

CLC Sequence Viewer 8(QIAGEN Bioinformatics)を用い、それらの相同性を比較検討し

た。

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31

Figure 12 ヒト、マウスおよびNMRにおけるCSF1R分子のアミノ酸配列比較

ヒト、マウスおよび NMR の CSF1R タンパク質について、アミノ酸配列情報をもと

に、CLC Sequence Viewer 8(QIAGEN Bioinformatics)を用い、それらの相同性を比較検討

した。

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32

4.3.3 NMRマクロファージの貪食能の検討

貪食能はマクロファージの重要な機能の一つである。そこで、貪食された大腸菌の

みがファゴソーム内の pH 変化に反応し緑色の蛍光を発する pHrodo system を用いて

NMRマクロファージの貪食能を評価した。

NMR 骨髄細胞と脾臓細胞を 20 μg/ml マウスM-CSF 存在下で 8 日間培養し、蛍光

顕微鏡で観察した。CD11b陽性の細胞は、大腸菌の貪食に起因する緑色蛍光を発する

ことを認めた。この緑色蛍光のシグナルは 4 ℃の培養下では認めなかった(Figure 13)。

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33

Figure 13 NMR骨髄あるいは脾臓由来の細胞に対するマウスM-CSF刺激による

貪食能の評価

NMR の骨髄(BM)あるいは脾臓(SP)由来の細胞を 20 μg/ml マウス M-CSF 存在下で

32℃、4℃で 8 日間培養した。これらの細胞に対して pHrodo-labeled E. coli particles を

添加し、2時間インキュベートした後、抗マウス/ヒトCD11b抗体あるいはアイソタイ

プコントロール抗体で染色を行い、蛍光顕微鏡で貪食の程度を解析した。

赤色:抗マウス/ヒトCD11b抗体(右)、アイソタイプコントロール抗体(左)、青色:核

(DAPI)、緑色:貪食された pHrodo-labeled E. coli particles、Scale bar: 20 μm

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34

4.3.4 NMRマクロファージの形態と遺伝子発現につい

ての検討

これまでの検討から抗マウス/ヒト CD11b 抗体および抗マウス NK1.1 抗体が NMR

由来の細胞と結合するモノクローナル抗体であることが判明した。そこで、これらの

抗体が認識している細胞を検証するため NMR の骨髄あるいは脾臓から CD11b 陽性

NK1.1 陽性細胞、あるいは CD11b 陰性 NK1.1 陰性細胞をそれぞれセルソーターで回

収し、塗抹標本を作成してその形態を検討した。CD11b陽性NK1.1陽性細胞は杆状核

を有するものや大きい細胞質と空胞を有するものが混在する一方で、CD11b 陰性

NK1.1陰性細胞は、それらの構造を認めなかった(Figure 14)。

そこで、フローサイトメトリーの Forward scatter(FSC)と Side scatter(SSC)に注目し、

NMR由来骨髄のCD11b陽性細胞あるいは陰性細胞について、さらにFSC、SSCの異

なる集団をセルソーターで分画し、それぞれの細胞について形態を解析、評価した

(Figure 15)。その結果、分画 1(Fr. 1)の細胞は約 8 μm大で杆状・分葉核を持つ好中球様

の細胞であった。分画 2(Fr. 2)の細胞は分画 1 の細胞に類似していたが 10 μm 大で空

胞を有していた。分画 3(Fr. 3)の細胞は 12 μm大で大きい細胞質を有しており、空胞を

有するなど分画 2の細胞と類似していたが杆状・分葉核を持つものは含まれておらず、

核も乏染性であった。さらに、この分画の細胞のみ偽足様の突起を認めた。一方、CD11b

陰性細胞の分画 4(Fr. 4)では様々な種類の細胞が混在しており、分画 5(Fr. 5)の細胞は空

胞と顆粒を有していた。

次に上記分画 1~5の細胞のM-CSF反応性を評価した。Figure 16に示すように分画

3 の細胞が最も高い M-CSF 反応性を認めた。また分画 2 と 3(Fr. 2, 3)の細胞を分取直

後に先述の pH Rodo systemを用いて貪食能の評価を行った所、分画 3(Fr. 3)の細胞の方

が有意に高い貪食能を有していた(Fiture 17)。

続いて各分画 (Fr. 1, Fr. 2, Fr. 3, Fr. 4, Fr. 5) 細胞における遺伝子発現の違いについて

定量PCRを用いて検証した。分画 3(Fr. 3)の細胞はMHC class 2とCD86の発現が他の

分画に比して高い傾向であった(Figure 18)。これまで樹状細胞もMHC class 2を高発現

しており、CD11bは樹状細胞にも発現していることが報告されている(Yao et al., 2019)。

そこで代表的な樹状細胞の細胞表面マーカーである Igtax(CD11c)の遺伝子発現を比較

した所、各細胞分画における発現に差を認めず、フローサイトメトリーでも同様の傾

向であることを確認した(Figure 19)。さらに Emr1(F4/80)、CD68、Siglec1(CD169)など

のマクロファージの細胞表面マーカーの遺伝子発現は分画 3(Fr. 3)で高い傾向にあっ

た。M2マクロファージのマーカーであるMrc1 (CD206)、CD163や、Tlr3、Tlr4、Ifnb、

Tnfaなど自然免疫に関連する分子の遺伝子発現も各分画で比較したが特徴的な傾向を

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35

認めなかった。

本研究で得られた各NMR細胞分画の形態、M-CSF反応性、貪食能および遺伝子発

現の特徴から分画 3(Fr. 3)はマクロファージである可能性が示唆された。

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36

Figure 14 NMR由来のCD11b陽性NK1.1陽性細胞および

CD11b陰性NK1.1陰性細胞の形態

NMRの骨髄(BM)および脾臓(SP)由来の細胞について抗CD11b抗体あるいは抗NK1.1抗

体を使用して二重染色を行った。各蛍光強度の細胞集団について二次元ドットプロッ

トで展開し、CD11b陽性NK1.1陽性(DP)細胞とCD11b陰性NK1.1陰性(DN) 細胞につい

て、それぞれセルソーターで回収した。回収した細胞分画について、サイトスピンで

塗抹標本を作製し、Diff-Quik染色を行った後、顕微鏡で観察した。Scale bar: 20 μm

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37

(A) (B)

Figure 15 NMRの骨髄より単離したCD11b陽性NK1.1陽性細胞

およびCD11b陰性NK1.1陰性細胞の形態

NMR骨髄由来のCD11b陽性細胞(青)とCD11b陰性細胞(赤)について、Forward scactter お

よびSide scatterで展開した(A)。Forward scactterおよびSide scatterの異なる細胞分画(Fr. 1,

Fr. 2, Fr. 3, Fr. 4, Fr. 5)について、それぞれセルソーターで回収した。各細胞分画(Fr. 1,

Fr. 2, Fr. 3, Fr. 4, Fr. 5)について、サイトスピンを用いて塗抹標本を作製し、Diff-Quik染

色を行い顕微鏡で観察した(B)。Scale bar: 20 μm

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38

Figure 16 NMR骨髄より回収した各細胞分画におけるM-CSFの反応性

NMR骨髄より回収した各細胞分画 (Fr. 1, Fr. 2, Fr. 3, Fr. 4, Fr. 5)について、20 μg/mlマウ

スM-CSFあるいは生理食塩水(control)を添加し、7日間培養した。培養したそれぞれの

細胞についてMTTアッセイで増殖能を評価した。代表的な結果について、吸光度の平

均値および標準偏差を棒グラフで示した。*p < 0.05、**p < 0.01、Student’s t-test.

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39

(A)

(B)

Figure 17 NMR骨髄より回収した細胞分画2および3の貪食能

NMR 骨髄より回収した Fr. 2 と Fr.3 の細胞について、分画後、直ちに pHrodo-labeled

E. coli particles を添加し、2 時間後に蛍光顕微鏡により、各細胞の貪食能を評価した

(A) 。緑色:貪食されたE. coli particles、青色:核(Hoechst 33342)、Scale bar: 20 μm.

また貪食された大腸菌の個数について、代表的な結果の平均値および標準偏差を示し

た(B) 。**p < 0.01、Student’s t-test.

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40

Figure 18 NMR骨髄より回収した各細胞分画における各種遺伝子の発現解析

NMR骨髄より回収した各分画の細胞(Fr. 1, Fr. 2, Fr. 3, Fr. 4および Fr. 5)について、各

種遺伝子の発現を定量PCRで解析、評価した。それぞれの遺伝子発現レベルについ

て、平均値および標準偏差で示した。Actbを内因性コントロールとして用いた。

ND: not detected.

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41

Figure 19 NMR骨髄より回収した各細胞分画における抗マウスCD11c抗体の

交差性

NMR骨髄より回収した各分画の細胞(Fr. 1, Fr. 2, Fr. 3, Fr. 4および Fr. 5)について、抗

マウスCD11c抗体およびアイソタイプコントロール抗体を使用して染色した。生細

胞における蛍光強度をヒストグラムで示した。

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42

4.3.5 抗NK1.1 抗体によるNMR マクロファージの架橋刺激に

ついての検討

本研究で使用した抗マウスNK1.1 抗体は、マウスのCD161あるいはKiller cell lectin-

like receptor subfamily B member 1C(Klrb1c)と呼ばれる NK 細胞表面分子を認識する

(Lanier et al., 1994)。Klrb1cはNK細胞の活性化受容体の一つで、これまで抗NK1.1抗

体による架橋刺激は、NK 細胞の増殖を促進することが報告されている(Reichlin and

Yokoyama, 1998)。そこで本研究では、抗マウスNK1.1抗体、あるいはアイソタイプコ

ントロール抗体をコーティングした 96 穴プレートで NMR PEC を 1 週間架橋刺激し

た後、位相差顕微鏡で形態の観察および MTT アッセイで増殖能の評価を行った。そ

の結果、抗マウスNK1.1抗体を用いて架橋刺激を行った細胞は、アイソタイプコント

ロール群と比較してサイズが大きくなっており、マクロファージ様の偽足を進展させ

ていた(Figure 20A)。また架橋刺激した細胞群は、アイソタイプコントロール群と比較

して有意に細胞増殖能の亢進を示した(Figure 20B)。これらの結果から、抗マウスNK1.1

抗体はNMR由来のPECを活性化させる作用を有することが示唆された。

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43

(A)

(B)

Figure 20 NMR由来PECにおける抗マウスNK1.1抗体を使用した架橋刺激による

細胞の増殖評価

NMR より回収した PEC について、5 μg/ml 抗マウスNK1.1 抗体あるいはアイソタイ

プコントロール抗体でコーティングした平底 96 穴プレートに PEC を 7 日間培養した

後、位相差顕微鏡にて観察した(A)。Scale bar: 20 μm. また、上記培養条件で 7日間培

養した際の細胞増殖能について MTT アッセイで評価し、代表的な結果の平均値およ

び標準偏差を棒グラフで示した(B)。

**p < 0.01、Student’s t-test.

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44

4.3.6 NMR PEC細胞株の樹立

NMR は地中で生活する種のためマウスやラットとは異なる特殊な飼育環境が必要

である。従って、NMRの免疫担当細胞も種特異的な形質、機能を有すると考え、本研

究ではNMRマクロファージ細胞株の樹立とその形質と機能の解析、評価を行った。

細胞株の作成にあたり、細胞不死化のために一般的に用いられるSimian virus 40 early

region(SV40ER)を使用した(Saenz-Robles et al., 2001)。SV40ER は SV40 large T antigen

(SV40-LT)と small T antigen(SV40-ST)の二つのがん蛋白をコードしている。SV40-LT は、

がん抑制遺伝子である p53 と Rb に結合し、それぞれの機能を抑制することで目的の

細胞を不死化させ、SV40-STは protein phosphatase 2Aの機能を抑制することで細胞を

不死化させることが知られている(Hahn and Weinberg, 2002)。

本研究では予備的検討としてNMRに先立ち、まずはマウスのPECを用いて細胞株

の樹立に関する条件検討を行った。

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45

4.3.6.1 レトロウイルスベクターによるマウス PECを用

いた検討

野生型C57BL/6 マウスから PEC を回収し、最終濃度が 50 ng/ml となるようにマウ

ス M-CSF を添加した R10 培地で培養を行った。細胞が十分に増殖したことを確認し

た後、予め調製したレトロウイルス pMXs-SV40ER-IPを感染させた。引き続き、ピュ

ーロマイシンを 1.5 μg/mlの濃度となるように添加して培養を行い、レトロウイルスが

感染した細胞のセレクションを 2日間行い、引き続き増殖が認められた細胞を継代し

た。

レトロウイルスが感染したマウス PEC は大きい細胞質を有し(Figure 21)、細胞継代

の際トリプシンで容易に剥離出来た。これはSV40を用いてマウス PECの細胞株を樹

立した既報(Kreuzburg-Duffy and MacDonald, 1994)と同様であった。

これらの細胞について、PEC の代表的な細胞表面抗原分子である CD11b および

F4/80 分子の細胞表面の発現レベルをフローサイトメトリーにて確認した結果、これ

らの分子を発現している細胞を認めなかった(Figure 22)。

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46

Figure 21 レトロウイルス pMXs-SV40ER-IPを感染させたマウスPEC由来細胞の

形態

野生型C57BL/6 マウスから PEC を回収し、レトロウイルス pMXs-SV40ER-IP を感染

させた。感染後、ピューロマイシンを 1.5 μg/ml の濃度となるように添加し、2 日間、

細胞のセレクションを行った。その後、増殖の認められた細胞について、位相差顕微

鏡で観察した。Sale bar: 50 μm

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47

Figure 22 レトロウイルス pMXs-SV40ER-IPを感染させたマウスPEC由来細胞の

フローサイトメトリーによるCD11bおよびF4/80発現解析

野生型C57BL/6 マウスから PEC を回収し、レトロウイルス pMXs-SV40ER-IP を感染

させた。感染後、ピューロマイシンを 1.5 μg/ml の濃度となるように添加し、2 日間、

細胞のセレクションを行った。引き続き、増殖の認められた細胞について、蛍光標識

した抗マウスCD11b抗体あるいは抗マウスF4/80抗体を用いて染色し、フローサイト

メトリーによる解析を行った。死細胞をPIで染色し、PI陰性の生細胞におけるCD11b

あるいは F4/80 分子の細胞表面発現レベルについて、それぞれ蛍光強度のヒストグラ

ムで示した。灰色で示したヒストグラムはアイソタイプコントロール抗体で染色した

細胞の蛍光強度を示す。

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48

4.3.6.2 レンチウイルスベクターによるマウス PECを用

いた検討

前述の検討で、レトロウイルスベクターを用いることにより、マウス由来 PECの不

死化には成功したが、CD11bや F4/80 などマクロファージ細胞表面の抗原分子の発現

が著しく低下あるいは失われた。そこで、レンチウイルスベクターを用いてPECの不

死化の検討を行った。

野生型C57BL/6 マウスから回収した PEC について、最終濃度が 50 ng/ml となる様

にマウスM-CSFを添加したR10培地で培養を行った。増殖が確認された PEC由来の

細胞について、予め作成したレンチウイルスベクターCSII-EF-SV40ER-TK あるいは

CSII-EF-SV40ER-TK-Hygを感染させた。

ハイグロマイシン耐性遺伝子を有するCSII-EF-SV40ER-TK-Hygについて、200 μg/ml

となる様にR10 培地にハイグロマイシンを添加し、2 日間の培養によるセレクション

を行った後、引き続き増殖が認められる細胞株を樹立した。レンチウイルスベクター

CSII-EF-SV40ER-TKを感染させて得られた細胞は、レトロウイルスベクターを感染さ

せた細胞と同様に、大きい細胞質を有し (Figure 23)、トリプシン処理により容易に剥

離可能であった。また、これらの細胞について、引き続き、マウスM-CSFを添加しな

いR10培地を使用して培養を行なったところ、持続した増殖能を有していた(Figure 24)。

フローサイトメトリーによる解析の結果、CSII-EF-SV40ER-TKを用いて不死化した

細胞は、PECの代表的な細胞表面抗原分子であるCD11bおよび F4/80の発現が確認さ

れた。一方、ハイグロマイシンを使用してセレクションを行い不死化した細胞は、

CD11b および F4/80 の発現は認めなられなかった(Figure 25)。本研究で得られた細胞

をフローサイトメトリーで比較したところ、CSII-EF-SV40ER-TKを用いて不死化した

細胞は、PIの染色レベルの違いから 2つの細胞集団から構成されることが明らかとな

った(Figure 26A)。それぞれの細胞集団について、CD11bおよび F4/80の発現を解析し

たところ、CSII-EF-SV40ER-TK を感染させて得られた細胞に認められた PI の染色レ

ベルが比較的高い細胞集団がCD11bおよび F4/80を発現していた(Figure 26B)。

以上の結果から、ハイグロマイシンによる PEC 由来細胞のセレクションにより、

CD11bおよび F4/80分子の発現の低下あるいは発現している細胞集団が失われる可能

性が示唆された。

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49

Figure 23 レンチウイルスCSII-EF-SV40ER-TKを感染させたマウスPEC由来細胞

の形態

野生型C57BL/6 マウスから PEC を回収し、CSII-EF-SV40ER-TK を感染させた。感染

後、増殖した細胞を 3日毎に継代し、得られたマウスPEC由来の細胞株について、位

相差顕微鏡で観察した。Sale bar: 50 μm

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50

Figure 24 レンチウイルスを感染させた野生型マウスPEC由来細胞の増殖曲線

野生型C57BL/6マウスからPECを回収し、CSII-EF-SV40ER-TKを感染させた。マウ

ス PEC を 3日毎に継代し、増殖した細胞の数を計測して求めた。細胞数の平均値±

標準偏差について、折れ線グラフで示した。

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51

(A)

(B)

Figure 25 レンチウイルスを感染させた野生型マウス PEC 由来細胞のフローサイト

メトリーによるCD11bおよびF4/80分子の発現解析

野生型 C57BL/6 マウスから PEC を回収し、CSII-EF-SV40ER-TK あるいは CSII-EF-

SV40ER-TK-Hygを感染させた。CSII-EF-SV40ER-TK-Hyg を感染させた細胞は、ハイ

グロマイシンを添加した培地で培養し、セレクションを行なった。CSII-EF-SV40ER-

TK(A)あるいは CSII-EF-SV40ER-TK-Hyg (B)を感染させた細胞について、蛍光標識し

た抗マウスCD11b抗体および抗マウスF4/80抗体を使用して染色した。PI陰性の生細

胞における蛍光強度をヒストグラムで展開した。図中に灰色で示したヒストグラムは

アイソタイプコントロール抗体の蛍光強度を示す。

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52

(A)

(B)

Figure 26 野生型マウスPECから得られた細胞集団におけるCD11bおよびF4/80

分子の発現解析

野生型 C57BL/6 マウスから PEC を回収し、CSII-EF-SV40ER-TK あるいは CSII-EF-

SV40ER-TK-Hygを感染させた。CSII-EF-SV40ER-TK-Hyg を感染させた細胞は、ハイ

グロマイシンを添加した培地で培養し、セレクションを行なった。感染後、それぞれ

の細胞について、PIを使用して染色し、フローサイトメトリーによる解析を行なった。

各細胞について、FSCと PIで展開した density plotを示した(A)。さらに蛍光標識した

抗マウス/ヒト CD11b 抗体あるいは抗体マウス F4/80 抗体を使用して染色し、細胞集

団 1および 2の蛍光強度について、それぞれヒストグラムで示した(B)。図中に灰色で

示したヒストグラムはアイソタイプコントロール抗体の蛍光強度を示す。

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53

4.3.6.3 NMR PEC のレンチウイルスベクター感染

マウス由来 PEC を使用した検討の結果、ハイグロマイシンを使用せず、CSII-EF-

SV40ER-TKを用いることで、CD11bおよび F4/80分子を細胞表面に発現し、かつM-

CSF非依存的な増殖能を有する不死化細胞が得られると考え、レンチウイルスベクタ

ーを用いてNMR細胞の不死化による細胞株の樹立を行った。

NMRより回収した PECについて、最終濃度が 10 ng/mlとなるようにマウスM-CSF

をR10培地に添加して培養を行なった。細胞の増殖が確認された後、予め作成したレ

ンチウイルスベクターを感染させた。

レンチウイルスを感染させたNMR の PEC 由来の細胞は、マウス PEC を使用した

予備検討で得られた細胞と同様に細胞質は大きく、核は腫大していることが確認され

た(Figure 27)。この細胞について、NMRの生活環境に準じて、32 °C、5 % O2および 5 %

CO2濃度の低温、低酸素濃度、マウスM-CSFの非添加条件にて培養を行った。その結

果、NMRのPECより得られた細胞株は、増殖を維持することが明らかとなった(Firure

28)。

本研究で作成したこの細胞株をNPM1(Naked mole rat Peritoneal cavity Macrophage-1)と命

名した。

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54

(A) (B)

Figure 27 NMR由来PECより得られた細胞株NPM1の形態

NMRからPECを回収し、最終濃度が 10 ng/mlとなるようにマウスM-CSFをR10培

地に添加して培養を行なった。細胞の増殖が確認された後、レンチウイルスベクター

CSII-EF-SV40ER-TKを感染させた。感染後、さらに増殖して得られたNPM1細胞に

ついて位相差顕微鏡で観察した(A)。Scale bar: 50 μm また、NPM1細胞について、サ

イトスピンで塗抹標本を作製した後、Diff-Quik染色を行い、細胞の形態を観察した

(B)。Scale bar: 20 μm

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55

Figure 28 NMR由来PECより得られた細胞株NPM1の増殖曲線

NMRからPECを回収し、最終濃度が 10 ng/mlとなるようにマウスM-CSFをR10培

地に添加して培養を行なった。細胞の増殖が確認された後、レンチウイルスベクター

CSII-EF-SV40ER-TKを感染させた。感染後、さらに増殖して得られたNPM1細胞に

ついて、3日毎に継代し、細胞の数を計測して求めた。細胞数の平均±標準偏差につ

いて、折れ線グラフで示した。

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56

4.3.7 NMR PEC 由来の細胞株NPM1の機能解析

本研究で NMR の PEC より樹立した NPM1 細胞株について由来元の NMR の PEC

と同様の機能を有するかどうか検討した。

まず各種モノクローナル抗体を使用し、NPM1 細胞株について交差性を確認したと

ころ、NMR PEC 同様に抗マウス/ヒト CD11b 抗体および抗マウス NK1.1 抗体に対し

て交差性を示し、抗ラットCD68抗体と交差性を示さなかった。また抗マウスCD11c

抗体ともわずかに交差性を示すことを見出した(Figure 29)。さらに pH Rodo system を

用い、貪食能を評価した所、NPM1は貪食能を有することが判明した(Figure 30)。

LPS刺激に対するNPM1の反応性を定量PCRによる遺伝子発現の解析で検証した。

NPM1に対して 1 μg/ml LPSを添加し、24時間培養した。培養後、細胞を回収し、定

量 PCR で各種遺伝子の発現レベルを評価した結果、LPS 刺激により Cd11b、Cd69、

Cd86、Itgax、Emr1 (F4/80)、Mrc1 (CD206)、Mpo1、Tlr3、TnfaについてmRNA発現レ

ベルの有意な亢進を認めた。一方、Csf1r、Cd68、Ifnb、Ifng の遺伝子発現レベルは低

下し、MHC class 2、Tlr4、Il10、Cd163の発現レベルの変化は確認されなかった(Figure

31)。

次にNPM1 について、LPS および各種サイトカイン刺激によるM1/M2 マクロファ

ージへの分化誘導能を検証した。既報(Riquelme et al., 2013)に基づき、LPS、マウス/ヒ

ト IL-4および IFN-γ、あるいはデキサメタゾンを添加し、それぞれの条件でM1/M2サ

ブセットに関係する遺伝子発現レベルを定量 PCR にて解析し、M1/M2 マクロファー

ジへの分化誘導を評価した(Figure 32)。その結果、LPSおよび IFN-γ刺激を加えた際、

M0(control)と比較して M1 マクロファージ関連遺伝子である Tnfa、Il1b、Arg2 の発現

レベルの亢進を認めた。一方 IL-4 の刺激条件においては、M2 マクロファージ関連遺

伝子の発現亢進を認めなかった。しかしながら、M2 マクロファージ関連遺伝子であ

るArg1、Mrcは IL-4の刺激を加えた際に発現が低下した。

さらにNPM1 について、CSII-EF-SV40ER-TK を感染させたマウス PEC の培養条件

である 37°C、20 % O2および 5 % CO2濃度で培養したところ、細胞増殖が停止する一

方、32℃、5 % O2および 5 % CO2濃度の低温、低酸素条件では、細胞増殖が継続する

ことを見出した(Figure 33)。37℃で 1 週間培養した NPM1 細胞は腫大し、細胞質内に

顆粒を認め(Figure 34)、また経時的に浮遊している死細胞の増加も認められた。そこで、

フローサイトメトリーにて、細胞の状態を解析した結果、PI陰性の生細胞の割合につ

いて、37℃条件に比べて 32°C、5 % O2および 5 % CO2濃度の条件において、有意な増

加を認めた(Figure 35)。本実験で、NPM1の細胞質が腫大していることから、酸化スト

レスによる細胞老化の可能性を推察した。細胞老化により IL-6、TNF-α等の炎症性サ

イトカインを分泌する細胞老化随伴分泌現象と呼ばれる状態となることが報告されて

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57

いる (Malaquin et al., 2016)。本研究では IL-6、TNF-αおよび IFN- γの遺伝子発現レベ

ルを定量 PCRで評価したが、これらの炎症性サイトカイン遺伝子発現レベルの変化は

確認されなかった(Figure 36)。マウス PEC 由来の不死化細胞においては、培養温度が

32℃、5 % O2および 5 % CO2濃度の条件で細胞増殖の速度は有意に低下したが、増殖

は継続し(Figure 37)、NMRによる温度感受性の違いが示唆された。

以上から本研究で樹立した NPM1 は M-CSF 非依存的な細胞増殖能および貪食能を

有すること、また抗ヒト/マウス CD11b 抗体および抗マウスNK1.1 抗体に対する交差

性を持つことが分かった。さらに LPS 刺激に対して炎症性サイトカインの mRNA 発

現レベルの亢進を認め、またLPSおよび IFN-γあるいは IL-4の刺激依存的にM1また

はM2 マクロファージへの分化誘導機能も有することが示され、種特異的な温度感受

性を有する機能的なマクロファージ細胞株NPM1の樹立が示唆された。

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58

(A)

(B)

Figure 29 NPM1細胞のフローサイトメトリーによる各種モノクローナル抗体の

交差性に関する解析

NMRのPECよりレンチウイルスベクターを使用し、NPM1細胞株を作成した。得られ

た細胞について、抗マウス/ヒトCD11b抗体、抗マウスCD11c抗体および抗マウスNK1.1

抗体を用いて染色し、フローサイトメトリーにより各抗体の交差性を解析し。PI陰性

の生細胞について、各抗体の染色の組み合わせにて展開した二次元ドットプロットを

示した(A)。また抗ラットCD68抗体を用いてNPM1細胞を染色し、フローサイトメトリ

ーによる解析を行い、生細胞における抗ラットCD68抗体の結合に起因する蛍光強度に

ついて、ヒストグラムで展開した(B)。

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(B) CD11b、NK1.1抗体で二重染色したものを示す。

Figure

Figure

Figure 30 NPM1細胞の貪食能評価

NMRのPECよりレンチウイルスベクターを使用し、NPM1細胞株を作成した。得られ

たNPM1細胞について、pHrodo-labeled E. coli particlesを添加し、2時間後に蛍光顕微鏡

で観察した。左上に拡大像を示す。

緑色:貪食されたE. coli particles、青色:核(Hoechst 33342)、Scale bar: 20 μm.

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60

Figure 31 NPM1細胞のLPS刺激による各種遺伝子発現レベルの解析

NMRのPECよりレンチウイルスベクターを使用し、NPM1細胞株を作成した。得られ

たNPM1細胞について、LPS 1 μg/ml で24時間刺激した後、細胞を回収し、定量PCRで

各種遺伝子発現を解析した。遺伝子発現レベルの平均値および標準偏差について、棒

グラフで示した。Actbを内因性コントロールとして用いた。NS: not significant、ND: not

detected、*p < 0.05, **p < 0.01, Student’s t-test.

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Figure 32 NPM1細胞のLPS、IFN-γ、IL-4あるいはデキサメタゾン刺激による

各種遺伝子発現レベルの解析

NMRのPECよりレンチウイルスベクターを使用し、NPM1細胞株を作成した。得られ

たNPM1細胞について、LPS、IFN-γ、IL-4あるいはデキサメタゾンで24時間刺激した後

回収し、定量PCRで各種遺伝子発現を解析した。遺伝子発現レベルの平均値および標

準偏差を棒グラフで示した。Actbを内因性コントロールとして用いた。刺激の条件を

以下に示す。M0: 生理食塩水(control)、mM1: LPS 10 μg/ml + マウスIFN-γ 25 ng/ml 、

hM1: LPS 10 μg/ml + ヒトIFN-γ 25 ng/ml、mM2a: マウスIL-4 25 ng/ml、hM2a: ヒトIL-4

25 ng/ml、M2c: 1 μM デキサメタゾン

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62

Figure 33 NPM1細胞の培養条件による細胞増殖の比較検討

NMRのPECよりレンチウイルスベクターを使用し、NPM1細胞株を作成した。得ら

れた細胞について、32℃、O2 5%、CO2 5%濃度、あるいは 37℃、O2 20%、CO2 5%濃

度の条件で培養した。細胞は 3日毎に継代し、増殖した細胞の数を計測して求めた。

細胞数の平均±標準偏差を折れ線グラフで示した。

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Figure 34 NPM1細胞の培養条件による形態の比較検討

NMRのPECよりレンチウイルスベクターを使用し、NPM1細胞株を作成した。得られ

た細胞について、32℃、5 % O2および5 % CO2濃度、あるいは37℃、20 % O2および5 %

CO2濃度の条件で7日間培養し、位相差顕微鏡で、それぞれの細胞の形態を観察した。

Scale bar: 50 μm

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(A) (B)

Figure 35 NPM1細胞の培養条件による生細胞の比較検討

NMRのPECよりレンチウイルスベクターを使用し、NPM1細胞株を作成した。得られ

た細胞について、32℃、5 % O2および5 % CO2濃度、あるいは37℃、20 % O2および5 %

CO2濃度の条件で7日間培養した。培養後、それぞれの細胞を回収し、さらにPIを使用

して染色した後、フローサイトメトリーで生細胞を解析した。PI 陰性の細胞を生細胞

(Live)とした(A)。生細胞の割合について、フローサイトメトリーの解析結果より平均

値および標準偏差を計算して求め、棒グラフで示した(B)。**p < 0.01, Student’s t-test.

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Figure 36 NPM1細胞の培養条件による炎症性サイトカインの遺伝子発現レベルの

解析

NMRのPECよりレンチウイルスベクターを使用し、NPM1細胞株を作成した。得られ

た細胞について、32℃、5 % O2および5 % CO2濃度、あるいは37℃、20 % O2および5 %

CO2濃度の条件で7日間培養した。培養後、それぞれの細胞を回収し、定量PCRにて、

TFN-α、IFN-β、およびIFN-γ遺伝子の発現を解析した。各種遺伝子発現レベルにつ

いて、得られたデータから平均値および標準偏差を計算して求め、棒グラフで示した。

Actbを内因性コントロールとして用いた。NS: not significant、ND: not detected、**p < 0.01,

Student’s t-test.

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Figure 37 レンチウイルスを感染させたマウスPECの培養条件による

細胞増殖の変化

野生型C57BL/6マウスからPECを回収し、CSII-EF-SV40ER-TKを感染させ、32℃、5 %

O2および5 % CO2濃度、あるいは37℃、20 % O2および5 % CO2濃度の条件で培養した。

感染後、3日毎に細胞を継代し、増殖した細胞の数を計測して求め、それぞれの平均値

±標準偏差について、折れ線グラフで示した。**p < 0.01, Student’s t-test.

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67

4.4 考察

NMR は体のサイズが類似したマウスから推定される寿命よりも著しく長い寿命を

持つ動物である。長寿と免疫系の関連について、近年の研究により、マクロファージ

は動脈硬化症、がんといった加齢に関連する疾患の発症に関与することが明らかとな

っている。そこで本研究では、NMRについて、免疫担当細胞中のマクロファージの機

能を解析することで、NMRの種特異的な形質を明らかにすることを考えた。しかしな

がら、これまでNMRのマクロファージを同定する方法は未だ確立されていない。

一般に、標的分子に特異的に反応するモノクローナル抗体は分子生物学的解析手法

として非常に有用であるが、NMR の分子に特異的に反応するモノクローナル抗体は

ない。そこで、本研究では市販されているマウスあるいはヒト免疫担当細胞の細胞表

面分子に対するモノクローナル抗体を用いて、NMR におけるマクロファージの同定

を試みた。その結果、マウスおよびヒトCD11b分子に対するモノクローナル抗体(clone

M1/70)がNMRのマクロファージと特異的に反応することを見出した。

CD11b はマウスおよびヒトのマクロファージの代表的な細胞表面分子である。抗

CD11b抗体(M1/70)は、Mac-1抗原として知られているインテグリンαM (Itgam)を認識

し(Springer et al., 1979; Springer, 1994)、マクロファージや単球を含む骨髄球系細胞の同

定に使用されるとともに、ヒト、マウスあるいはウサギのCD11b分子と交差性を持つ

ことが知られている(Ault and Springer, 1981)。本研究ではNMRの骨髄細胞、脾臓細胞

およびPEC由来の一部の細胞群と反応することが明らかとなった(Figure 3-5)。そこで、

CD11b 分子のアミノ酸配列を検証した結果(Figure 6)、高い相同性を持つことから

M1/70 抗体が認識するエピトープは共通していると考えた。また本研究において、

NMR細胞はマウスおよびヒトのM-CSFと反応し、交差性を持つことが明らかとなり、

CD11b 分子と同様に M-CSF 分子におけるアミノ酸配列の高い相同性によるものと考

えた (Figure 11、12)。

抗マウス/ヒトCD11b抗体を使用し、セルソーターで単離したCD11b陽性細胞を観

察したところ、好中球様の細胞とマクロファージ様の細胞が混在したこと(Figure 14)か

ら、抗マウス/ヒト CD11b 抗体と反応した細胞はヘテロな細胞集団であると考えた。

一般的にフローサイトメトリーにおいて、好中球の細胞集団は単球・マクロファージ

の集団よりも高い FSCおよびSSC値を示すことから、本研究でFSCおよびSSCの展

開にてそれぞれの細胞集団を区別するとともに、M-CSF刺激による反応性と貪食能の

違いにより、好中球あるいはマクロファージの表現型を示す細胞集団を絞り込み、分

画 2が好中球様の細胞集団で、分画 3がマクロファージ用の細胞集団であると推察し

た(Figure 15-17)。さらに各細胞集団について定量 PCRによる解析を行った結果、分画

3 の細胞集団は、他の分画の細胞集団よりも MHC クラス 2 および CD86 の遺伝子を

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高発現している(Figure 18)とともに、これまでCD11b 分子は好中球やマクロファージ

だけではなく樹状細胞にも発現していることが報告(Yao et al., 2019)されていることか

ら、分画 3はマクロファージに加えて樹状細胞様の抗原提示細胞集団である可能性も

考えられた。

Itgax(CD11c)は樹状細胞の代表的なマーカーであるが、マクロファージでも発現する

ことが報告されている(Uematsu et al., 2008)。本研究において、分画 3の細胞集団にお

ける Itgax(CD11c)遺伝子(Figure 18)およびタンパク質 (Figure 19)の発現レベルについて

は、他の分画細胞集団と比較して有意な差は認められなかった。また樹状細胞はいわ

ゆる「樹状突起」という特徴的な形態を示すが(Steinman and Cohn, 1973)、分画 3の細

胞集団は樹状突起を認めないこと(Figure 15B)から、樹状細胞とは異なる細胞集団と推

察した。一般に樹状細胞に比べ、マクロファージはより高い貪食能を示すことが知ら

れている(Ilse Van et al., 2013)が、分画 3 の細胞はより効率的な貪食能を示した(Figure

17)。さらに本研究において分画 3 の細胞集団はM-CSF への有意な増殖を示したが、

マクロファージにおける CSF1R の発現は樹状細胞よりも高いレベルであり

(MacDonald et al., 2005)、分画 3の細胞集団はM-CSFに対する反応性が低いこと(Figure

16)が明らかとなった。以上の形態学的特徴、M-CSF刺激に応答した有意な細胞増殖、

食作用活性および遺伝子発現プロファイルの結果から、分画 3 はNMR におけるマク

ロファージの細胞集団であると考えた。

本研究において抗マウスNK1.1抗体(clone: PK136)もNMR由来の細胞に交差性を持

つことが明らかとなった。NK1.1 分子は、マウスのNK細胞表面マーカータンパク質

の一つであり、CD161 あるいは Killer cell lectin-like receptor subfamily B member 1C

(Klrb1c)とも呼称され(Lanier et al., 1994)。C57BL/6、FVB/N、NZBなど特定の系統のマ

ウスに発現している(Carlyle et al., 2006)。ヒトにおいては lectin-like transcript 1(LLT1) が

CD161の機能性リガンドとして知られているが(Carlyle et al., 2006)、マウスにおけるリ

ガンドは未だ明らかになっていない(Bartel et al., 2013)。Klrb1c分子はNK細胞活性化

受容体の一つで、マウスではNK細胞に対する架橋刺激により活性化されることが報

告されている(Reichlin and Yokoyama, 1998)。本研究においてCD11b陽性細胞の大部分

がNK1.1 分子を発現することを見出した。またCD11b およびNK1.1 分子を両方共に

発現している細胞集団は、マクロファージ、顆粒球などの骨髄細胞様の形態を示すこ

とが明らかとなった。さらにこの細胞集団は貪食能とM-CSF反応性を示し、NMRマ

クロファージは抗マウス NK1.1 抗体と反応する分子を発現していると考えた。近

年、”danger signal”である尿酸ナトリウム(monosodium urate)の結晶がマクロファージに

対して作用して、NK1.1 分子を発現誘導するとともに、抗腫瘍機能を促進させること

が報告された(Steiger et al., 2015)。また IL-2とM-CSFの共刺激によりNK1.1分子の発

現が亢進し、NK細胞様の機能を示すことが報告されている(Li et al., 1989)一方で、マ

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ウスのマクロファージにおいて、通常状態ではNK1.1が発現しているという報告は確

認されなかった。したがってNMRのマクロファージは定常状態においてNK1.1の発

現を認めることから、NK 細胞様の機能を有し、これが NMR の種特異的な免疫応答

に関与している可能性が考えられた。本研究で抗マウスNK1.1抗体による架橋刺激で、

NMRのPECが増殖したことから、抗マウスNK1.1抗体が認識する分子を同定するこ

とにより NMR の免疫機能の解明に繋がると考えた。これまで NMR のゲノムは解析

されており、本研究ではNMRのゲノムデータベースを用いてKlrb1cのオルソログを

検索した。また抗マウスNK1.1抗体が認識するアミノ酸配列は、その配列によって形

成される立体構造の影響を受ける可能性が報告されており(Carlyle et al., 2006)、これら

のアミノ酸配列についてもデータベースで検索したが候補分子を特定することはでき

なかった。今後、NMR における抗マウス NK1.1 抗体に反応する分子の同定方法とし

てcDNAライブラリーを用いた発現クローニングや免疫沈降法などのさらなる検証が

必要と考えられる。

NMR マクロファージの詳細な機能について未だ明らかになっていないため、本研

究ではSV40ERのトランスフェクションにより、新規NPM1細胞株を樹立し、その性

質および機能を検証した。NPM1 は貪食能を有し(Figure 30)、LPS 刺激後の定量 PCR

において、マクロファージの表面マーカーであるCd11b、Emr1 (F4/80)、Mrc1 (CD206)

や炎症性サイトカインである Tnfa の遺伝子発現レベルが亢進している (Figure 31)こ

とから、機能的な細胞株であると考えた。ここでLPSを認識する受容体 Tlr4の発現レ

ベルには変化は認められなかったが、これはNMR マクロファージに関する既報と同

様の結果であった(Cheng et al., 2017)。さらに本研究において、NPM1細胞に対してM1

型への分化誘導刺激を加えた際に、M1 型のマクロファージに関連する遺伝子発現レ

ベルの亢進を認めた。一方 M2 型への分化誘導刺激を加えた場合には、M2 マクロフ

ァージ関連遺伝子の発現は亢進しなかった。しかしながらArg1、MrcなどM2型マク

ロファージに関連する遺伝子の発現レベルはM1 型のマクロファージへの分化誘導刺

激を加えた条件で低下していた。これらの結果からNPM1は定常状態では抗炎症作用

のある M2 型のマクロファージの機能を有し、さらに NMR の種特異的な免疫機能に

寄与することが考えられた。

本研究においてNPM1細胞は、培養温度が 32℃、O2濃度が 5 %の培養条件で生存、

増殖し、NMRの生活環境と類似した条件において増殖能を有することが考えられた。

これまでNMRの線維芽細胞を使用した研究では、42 ℃の高温下で生存可能であり温

度耐性があることが報告された(Salmon et al., 2008)が、本研究で樹立した NPM1 につ

いては、37 °C で生存することができなかった。また先述の研究で、NMR由来の線維

芽細胞は過酸化水素による酸化ストレスに対して耐性がないことが示された。一方

NMRは低酸素誘導因子であるHIF(Hypoxia Inducible Factor)1-αの発現が低酸素耐性マ

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ウスに比較して高発現していることが報告されている(Xiao et al., 2017)。さらにHIF-1

αはがん抑制遺伝子の p53と相互作用を示しアポトーシスに関与していることが報告

されている(Obacz et al., 2013)。通常、37℃での培養条件下では、20 % O2濃度とNMR

の生息環境に比較して高酸素環境であることから、本研究の結果はSV40-LTを用いた

トランスフォーメションにより、p53、Rb の機能を抑制していることで酸化ストレス

耐性を低下させた可能性を示唆する。それゆえ今回樹立したNPM1はNMRの免疫機

能に加えて、種特異的な形質に関する作用メカニズムの解明に有用であるとともに、

NPM1は増殖能を保ち続け抗抗マウスNK1.1抗体に交差性を有することから、先述の

NK1.1抗体が反応する分子の同定に寄与する可能性が考えられる。

これまで NMR はマウスに比較して赤脾髄の割合が高いことが報告されており

(Cheng et al., 2017)、骨髄由来のミエロイド型細胞群が優位で、リンパ球系の細胞が少

ないことから、NMR においてはマクロファージが種特異的な形質における主要な役

割を担っている可能性が考えられる。さらに本研究でNMRのマクロファージはNK1.1

分子を定常状態で発現していることが示されたが、これまでマウス生体内において

NK1 細胞は老化した細胞を除去する働きをもち、寿命が延長すること(Baker et al.,

2016)、細胞老化した細胞を含めた異常細胞を除去することが報告されている(Sagiv et

al., 2016)。本研究でNMR 由来のマクロファージは、定常状態でNK1.1 分子を発現し

ていることから、NMR 生体内において NK1.1 陽性マクロファージが老化細胞を除去

し、長寿や腫瘍耐性に寄与している可能性が示唆された。これまで NMR の研究にお

いて、マウスあるいはヒトの細胞傷害活性の解析、評価で用いられる YAC-1 や K562

に相当するターゲット細胞が確立されていないため、本研究で見出したNK1.1陽性マ

クロファージの細胞傷害性の解析法の確立とその評価が今後の課題の一つと考える。

本研究において明らかになった NMR のマクロファージに関する種特異的な性質や

機能について、さらに詳細な解析、検証を行うことにより、NMRの特徴である長寿と

腫瘍耐性能獲得のメカニズムが明らかとなり、本研究で樹立したNPM1細胞株は、こ

れらの解明に大きく寄与すると考える。

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5. 結論

1.本研究全体からの新知見

・長寿形質を有するNMRの免疫担当細胞の解析を行った結果、抗マウスCD11b抗体

及びマウス/ヒトM-CSFがNMRに交差性を持つこと、CD11b陽性、low side scatter

の分画の細胞は、大きい細胞質と空胞を有し、マクロファージ様の形態であること、

さらにM-CSF刺激により活性化することで貪食能を示すことが明らかとなった。

・NMR PEC からレンチウイルスベクターを用いて新規細胞株を樹立するともに、そ

の機能性を解析した結果、樹立したNPM1細胞株は、貪食能、抗マウス/ヒトCD11b

抗体、抗マウス NK1.1 抗体と交差性を示し、LPS 刺激により炎症性サイトカイン遺

伝子の発現レベルが亢進すること、IFN-γあるいは IL-4 などのサイトカイン刺激を

加えることでM1型あるいはM2型のマクロファージサブセットへの分化誘導能を有

すること、一般的なマウスの細胞培養条件下では死滅し、低温、低酸素下で増殖する

ことが確認された。

2.新知見の意義

・これまで長寿形質を有する NMR について免疫担当細胞に関する報告は少なく、本

研究で新たに得られた知見は、今後、NMRの免疫応答に関する研究の発展に寄与する

可能性がある。

・本研究で NMR より新規マクロファージ細胞株の樹立に成功したことで、いまだ不

明な点が多い NMR の免疫機能について、詳細な解析を行うことが可能となり、種特

異的な性質に関する作用メカニズムの解明に貢献できる。

3.今後展開されうる研究

・NMR について T 細胞やB 細胞などマクロファージ以外の免疫担当細胞を同定し、

種特異的免疫応答や免疫関連疾患の解明を行うことが望まれる。

・本研究で新たに樹立したNPM1細胞株を用いて詳細な機能解析を行うことで、新領

域研究への展開も望まれる。

4.今後の課題

・NMR のマクロファージに発現している抗マウス NK1.1 抗体が認識する分子の同定

を行う必要がある。

・NPM1 細胞株の増殖や機能を制御する培養温度や低酸素条件などの環境因子とその

作用メカニズムについて明らかにする必要がある。

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72

6. 謝辞

本論文は筆者が北海道大学大学院医学院 内科学分野 免疫・代謝内科学教室博士

課程に在籍中の研究成果をまとめたものです。同教室、渥美達也教授には指導教官と

して本研究の実施の機会を与えて頂き、その遂行にあたって終始、御指導を頂きまし

た。ここに深謝の意を表します。

本研究全般にわたり直接御指導御鞭撻賜りました北海道大学遺伝子病制御研究所免

疫生物分野 清野研一郎教授に深く感謝いたします。基礎的な部分から基礎論文作成

まで直接の御指導頂きました同分野 和田はるか講師、ムハンマド・バクダーディー講

師に心から感謝致します。基礎論文の共同研究者の皆様はじめ暖かく自分を迎えて下

さった同分野の皆様にも心から深く感謝致します。

貴重なハダカデバネズミの検体を提供して頂き、御指導頂きました北海道大学遺伝

子病制御研究所動物機能医科学研究室(現熊本大学大学院生命科学研究部 老化・健康

長寿学講座/大学院先導機構)三浦恭子准教授、同河村佳見助教、同岡香織先生に心か

ら感謝致します。また Lewis ラット脾臓細胞を提供頂きました北海道大学大学院医学

研究院専門医学系部門機能再生医学分野整形外科学教室角家健特任准教授に心から感

謝致します。

自分の進捗状況を気にかけて下さり日々応援して下さった保田晋助准教授(現東京

医科歯科大学膠原病・リウマチ内科教授)、Olga Amengual 助教、坊垣暁之助教 (現北

海道医療大学医療技術学部 臨床検査学科教授)、奥健志助教、加藤将助教、河野通仁

助教、そして本論文作成に当たり叱咤激励して下さいました藤枝雄一郎助教に心から

深く感謝致します。

大学院を同期入学し、苦楽を共にしながらいつも温かく励ましてくれた河野通大先

生、谷村瞬先生に心から深く感謝致します。後輩の自分をいつも見守って下さった清

水裕香先生、渡邊俊之先生、志田玄貴先生、野口淳史先生、嶋村早苗先生、大村一将

先生、中村浩之先生、久田諒先生、菅原恵理先生に心から深く感謝致します。実験の

ことなどで色々と相談に乗って下さった大西直樹先生、尾形裕介先生、阿部靖矢先生、

狩野皓平先生、下山修平先生に心から深く感謝致します。臨床業務の間に実験を行う

ことを快諾し応援して下さった国立病院機構北海道医療センターリウマチ科市川健司

先生、苫小牧市立病院内科堀田哲也副院長に心から深く感謝致します。この他にもこ

の論文作成にあたり、ここに記載出来ない位多くの御協力、御助言、御支援を頂きま

した。重ねまして心より感謝致します。

最後に、いつも自分を励ましてくれた両親、妹、そして常にそばで支えてくれた妻

と二人の娘達に心から深く感謝致します。

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7. 利益相反

本研究に際し、開示すべき利益相反状態はない。

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74

8. 引用文献

Ault, K.A., and Springer, T.A. (1981). Cross-reaction of a rat-anti-mouse phagocyte-specific

monoclonal antibody (anti-Mac-1) with human monocytes and natural killer cells. The Journal

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