コロラド州デンバー学区における公立学校教員の 報酬制度に ... ·...

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要約:本稿の目的はコロラド州デンバー学区における ProComp と呼ばれる報酬制度の仕組 みとその運営機構を解明することにある。 次の 4 点が明らかとなった。第一に主として集団的な報酬により構成されている。その 報酬は幅広く教師たちに分配される。第二に主として客観的な評価指標により構成されて いる。第三に主観的評価に伴う紛争の種は報酬の分配によって処理されている。第四に教 員組合は,制度の実施面の管理,財源管理,苦情処理手続きそれぞれの委員として配置さ れている。 米国は客観的な評価指標に基づいた集団的報酬取引である一方,日本は主観的な評価指 標に基づいた個人別報酬取引であり,組合規制力は米国の方が強いということが示唆され た。 キーワード:教員評価,労使関係,アメリカ 目次 1.はじめに 2.児童・生徒の成長の領域 2-1.高業績校 2-2.高成長校 2-3.期待の凌駕 2-4.児童・生徒の成長目標および児童・生徒の学習目標 3.市場報酬 3-1.任命困難職 3-2.指導困難校 4.知識と技能 4-1.専門性向上単元 4-2.授業料と学生ローンの返済 4-3.上級学位と上級免許 5.包括的専門職評価 5-1.効果的教育実践の構成 5-2.観察 5-3.専門職気質 ──────────── 同志社大学研究開発推進機構・社会学部特別任用助手 2016 6 30 日受付,2016 7 22 日掲載決定 論文 コロラド州デンバー学区における公立学校教員の 報酬制度に関する一考察 ──ProComp の細部とその運営機構に焦点を当てて── 岩月真也 71

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要約:本稿の目的はコロラド州デンバー学区における ProComp と呼ばれる報酬制度の仕組みとその運営機構を解明することにある。次の 4点が明らかとなった。第一に主として集団的な報酬により構成されている。その

報酬は幅広く教師たちに分配される。第二に主として客観的な評価指標により構成されている。第三に主観的評価に伴う紛争の種は報酬の分配によって処理されている。第四に教員組合は,制度の実施面の管理,財源管理,苦情処理手続きそれぞれの委員として配置されている。米国は客観的な評価指標に基づいた集団的報酬取引である一方,日本は主観的な評価指

標に基づいた個人別報酬取引であり,組合規制力は米国の方が強いということが示唆された。

キーワード:教員評価,労使関係,アメリカ

目次1.はじめに2.児童・生徒の成長の領域2-1.高業績校2-2.高成長校2-3.期待の凌駕2-4.児童・生徒の成長目標および児童・生徒の学習目標

3.市場報酬3-1.任命困難職3-2.指導困難校

4.知識と技能4-1.専門性向上単元4-2.授業料と学生ローンの返済4-3.上級学位と上級免許

5.包括的専門職評価5-1.効果的教育実践の構成5-2.観察5-3.専門職気質

────────────†同志社大学研究開発推進機構・社会学部特別任用助手*2016年 6月 30日受付,2016年 7月 22日掲載決定

論文

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察──ProComp の細部とその運営機構に焦点を当てて──

岩月真也†

71

5-4.児童・生徒の認知5-5.専門職の実践5-6.児童・生徒の成長:学区成長と児童・生徒の学習目標5-7.最終評価の確定

6.ProComp の運営機構6-1.実施面の管理:トランジション・チーム6-2.財源管理:教員報酬財団6-3.苦情処理手続き:専門調査委員会

7.おわりに

1.はじめに

本稿は米国コロラド州デンバー学区における報酬制度に焦点を当て,その仕組みと運営機構の解明を目的とする。この目的の背景には,米国における教員の賃金制度,評価制度,労使関係を明らかにした上で,日米の相違は何か,その相違はなぜ生じるのか,日本の特質とは何であるのかを明らかにしたいという意図がある。すでに米国のコロラド州デンバー学区における賃金制度と評価制度である ProComp(Professional Compensa-tion)の仕組みに関する全体像は明らかにした(1)。しかし,本稿ではより細部に立ち入って報酬の仕組みとその制度運営の機構に対して検討を加えることとする。米国の報酬制度については,Harris(2007)と Baratz-Snowden(2007)とが検討を加えている。Harris は米国の報酬制度の歴史に言及した上で,様々な類型の報酬制度を比較検討しながら,各類型のメリットとデメリットを指摘している。一方,Baratz-Snow-den は複数の州や学区の報酬制度の事例を参照しながら,報酬制度を支える条件を検討している。複数の報酬項目を設置している ProComp が成功事例として参照されていた。しかしながら,両者とも報酬制度の仕組みに対する説明は大雑把に過ぎる。その結果,報酬決定を導く評価の仕組みに加えて報酬制度の運営機構に対する記述が不十分であり,結局のところよく分からない。具体的に何がよく分からないのか。本論で詳しく検討するけれど,Baratz-Snowden や Harris が指摘するように,確かに

ProComp には複数の報酬項目が設置されている。この複数の報酬項目が ProComp を支えていることに関連している点については同意する。しかし,次の諸点はどうしても分からない。一つに学校集団に対する報酬である。集団に対する報酬なので,学校内の教師間の協調性を妨げないとされている。しかし,裕福な地域の学校と貧しい地域の学校との間に報酬をめぐる紛争は生じないのだろうか。この紛争はどのように処理されているのか。集団に対する報酬が設置されていたとしても,集団間の紛争を処理する仕組みがなければ安定的に報酬制度は運用されないのではないか。この点の説明は決定的に欠けている。二つに同僚による評価を伴った報酬がある。身近な同僚からの評価であるか

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ら納得性が得られやすいとされている。本当だろうか。同僚間での評価をめぐる紛争は発生しないのだろうか。少なくとも,その可能性は有している。では,どのようにその紛争の発生を処理しているのだろうか。この点についても十分な説明がなされていない。三つに,日本においてはしばしば評価制度の問題点として取り上げられてきた校長による依怙贔屓が介入する余地のある主観的な評価は,米国においてはどのように処理しているのか。米国の校長と教師の関係は,日本のそれよりも信頼に満ちているということなのか。この点についても明瞭な説明がなされていない。このように先行研究は米国の報酬制度に対する様々な説明と提案(Recommendation)をしてきたけれど,説明や提案の前提となる,報酬制度それ自体の仕組みがきちんと理解されているのかどうかは甚だ怪しい。先行研究をいくら読んでみたところで,主たる評価者である校長にも,報酬を支払う学区担当者にも,評価されその結果に応じて報酬を受け取る教師にも身を置くことは決してできない。身を置くとは,校長であればどのように評価するのかが分かるということであり,学区担当者であればどのような条件の下に報酬を支払うのかが分かるということであり,同様に教師であればどのように評価され報酬がどのように支払われるかが分かるということである。これまでの研究では分からない。そこで,本稿は ProComp という報酬制度の仕組みの理解に徹したい。具体的には

ProComp に内包されている複数の報酬項目の手続きをそれぞれ詳細に明らかにする。また,ProComp を運営する機構とその機構に教員組合がどのように関与しているのかについても触れる。加えて,日米の相違についても検討しておきたい。研究枠組みは,労使関係論の分析枠組みを採用した。労使関係論は仕事と賃金に関する制度を分析の対象とし,制度を実体的ルールと手続的ルールとに区分している(Dunlop 1958,中村・岡田 2001)。本稿では賃金に関する制度である ProComp の実体的ルールに重点を置いている。研究方法については 2015年 11月から 12月(第一回現地調査)と 2016年 3月(第二回現地調査)にデンバー教員組合(Denver Classroom Teachers Association(DCTA))の執行委員長(President)に行なったインタビューに基づく事例研究である。第一回現地調査では,執行委員長の友人であるジェファソン学区(Jeffco Public Schools(JPS))の早期教育課長補佐(Assistant Director of Early Childhood Education)にもインタビュー調査ができた。第二回現地調査においては,インタビュー調査に加え,デンバー教員組合とデンバー公立学校区(Denver Public Schools(DPS))との団体交渉の場にゲストとして参加させて頂いた。誠に貴重な体験であった。また,2016年 4月 26日には,現地調査を整理している過程において,いくつかの不明点があり,その不明点をメイルでのやり取りを通じて明瞭にした。インタビューを行った対象者および所属,日程,調査項

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目は表 1にまとめた。本論に入る前に,ProComp の概要を示しておこう(表 2)。2005年,ProComp はデンバー教員組合とデンバー公立学校区との団体交渉を経て導入された。ProComp の報酬には「児童・生徒の成長(Student Growth)」の領域に「高業績校(Top PerformingSchools)」,「高成長校(High Growth Schools)」,「期待の凌駕(Exceed Expectations)」,「児童・生徒の成長目標(Student Growth Objectives(SGOs))」及び「児童・生徒の学習目標(Student Learning Objectives(SLOs))」が,「市場報酬(Market Incentives)」の領域に「任命困難職(Hard to Staff Assignment)」,「指導困難校(Hard to Serve School)」が,「知識と技能(Knowledge and Skills)」の領域に「専門性向上単元(Professional De-velopment Units(PDUs))」,「授業料と学生ローンの返済(Tuition and Student Loan Re-imbursement)」,「上級学位と上級免許(Advanced Degrees, Licenses and Certificates)」がそれぞれ配置され,それに「包括的専門職評価(Comprehensive Professional Evaluation(CPE))」が加えられている。これらそれぞれが報酬項目であり,また報酬獲得条件がそれぞれ設定されている。その報酬獲得条件を満たせば一定の報酬が与えられるという仕組みになっている。報酬は一時的な報酬としての賞与(Bonus)と積上げ可能な報酬としての昇給(Salary Increase)とに分類されている。このように ProComp は様々な項目から構成される報酬制度である。本稿の構成については,2節から 5節にかけて,「児童・生徒の成長」領域,「市場報酬」領域,「知識と技能」領域,「包括的専門職評価」それぞれの報酬項目の手続きを論じる。6節では ProComp の運営機構にデンバー教員組合がどのように関与しているのかを論じる。7節において,明らかになったこと,日米の相違に係る示唆,今後の研究課題をそれぞれ示す。なお,本稿は科学研究費補助金(研究課題名;「日米における教育力の組織的基盤の解明」平成 27年 8月~平成 28年 3月,研究活動スタート支援)の研究成果の一部である。

表 1 インタビュー・リスト

対象者 所属 年月日 調査項目執行委員長 デンバー教員組合 2015/11/27 賃金制度,ProComp,団体交渉早期教育課長補佐 ジェファソン学区 2015/11/27 賃金制度,ProComp,団体交渉執行委員長 デンバー教員組合 2015/11/30 賃金制度,ProComp,団体交渉執行委員長 デンバー教員組合 2015/12/4 賃金制度,ProComp,団体交渉執行委員長 デンバー教員組合 2016/3/4 賃金制度,ProComp,団体交渉執行委員長 デンバー教員組合 2016/3/7 団体交渉(ゲストとして参加)執行委員長 デンバー教員組合 2016/3/9 賃金制度,ProComp,団体交渉

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2.児童・生徒の成長の領域

ここでは「児童・生徒の成長」の領域における報酬項目の手続きを述べる。「児童・生徒の成長」の領域には「高業績校」,「高成長校」,「期待の凌駕」,「児童・生徒の成長目標」の報酬項目があった。「高業績校」からみてみよう。

表 2 ProComp の概観:2013年から 2014年:報酬指標=$381.18

報酬の領域と項目 報酬獲得条件 金額児童・生徒の成長

高業績校 ・高業績校に配置されておれば賞与。・デンバー公立学校区の学校評価フレームワーク(School Performing Framework)に基づいて,「卓越」もしくは「基準に到達」と評価されれば,高業績校として認定される。

$2,439.55報酬指標の 6.4%分

高成長校 ・高成長校に配置されておれば賞与。・デンバー公立学校区の学校評価フレームワークの「学力成長」項目において「期待以上」もしくは「基準に到達」と評価されれば,高成長校として認定される。

$2,439.55報酬指標の 6.4%分

期待の凌駕 ・「期待を凌駕」と認定されれば賞与。・教師が指導している 4学年から 10学年の児童・生徒の 50%が,コロラド州児童・生徒の成長指標に基づいて学力成長の程度が 55分位数以上であれば,「期待を凌駕」と認定される。

$2,439.55報酬指標の 6.4%分

児童・生徒の成長目標↓(2014-15年より)児童・生徒の学習目標

・2つの目標を達成すれば昇給。・1つのみの目標達成であれば賞与。

$381.18報酬指標の 1%分

市場報酬 任命困難職 ・任命困難職に就いておれば賞与。 $2,439.55報酬指標の 6.4%分

指導困難校 ・指導困難校で働いておれば賞与。 $2,439.55報酬指標の 6.4%分

知識と技能 専門性向上単元 ・経験年数(credited service)14年以下の教師が「専門性向上単元」を完了すれば昇給。・経験年数 15年以上の教師が「専門性向上単元」を完了すれば賞与。

$762.36報酬指標の 2%分

授業料と学生ローンの返済

・受講する授業を完了すれば授業料の支払い。・所得に基づいて学生ローンを返済。

年間$1000生涯$4000

上級学位と上級免許 ・新たな上級学位もしくは上級免許を取得できれば昇給。

$3,430.62報酬指標の 9%分,3年に 1度の適用

包括的専門職評価 ・経験年数 14年以下の教師が「満足」と評価されれば昇給。

・見習い教員は毎年実施,正規教員は 3年に 1度実施。→2014-2015年より,全教員は毎年実施。

見習教員$381.18報酬指標の 1%分正規教員$1,144.00報酬指標の 3%分

出所:ProComp handbook より作成。

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2-1.高業績校教員は「高業績校」と認定された学校に配属されておれば,報酬指標の 6.4%分の賞与を受け取ることができる。では,「高業績校」はどのように認定されるのか。「高業績校」の認定にはデンバー公立学校区が実施する学校評価フレームワークという学校評価システムが用いられ,その評価結果が「卓越」もしくは「基準に到達」と認められた学校が「高業績校」と認定される(2)。学校評価フレームワークの評価項目は小中学校と高校とで若干の違いがある。本研究の目的の背景にある日米比較は,義務教育段階を想定しているので,以下,小中学校の評価項目を確認していきたい。学校評価フレームワークの評価項目は,「学力成長(Academic Growth)」,「基礎学力(AcademicProficiency)」,「児童・生徒の関与(Student Engagement)」,「在籍者数(Enrollment)」,「保護者満足度(Parent Satisfaction)」という 5項目から構成されている(3)。以下,それぞれの評価手順を確認しよう。「学力成長」の項目では,州テストにおいて,州内の児童・生徒と比較しながら,当該学校の児童・生徒の学力がどれくらい向上したのかが評価される。したがって,前年度の学力水準と比較した当該年度の学力水準から学力成長の程度が導かれることとなる。学力成長の項目は 5つの評価項目の中で最もウエイトが大きい。「高業績校」の評価項目全体の約 6割を占めている。「学力成長」の評価となる元とされる州テストは,コロラド州評価プログラム(Colo-rado State Assessment Program(以下,CSAP と称す))である。CSAP はコロラド州の 3

学年から 10学年の児童・生徒が受ける算数・数学,読解,筆記のテストである。しかし,「高業績校」の報酬は 4学年から 10学年の児童・生徒の学力成長度に基づいている。学力成長度は過去との比較が必要なるので,3学年の児童・生徒の学力成長度は測定できない。なお,2009年 12月から 2011年 8月にかけて,コロラド州教育委員会は新しいコロラド州学業水準(New Colorado Academic Standards)を採用したので,これまで実施していた CSAP では新しい学業水準を反映できなくなってしまった。そこでコロラド州過渡的評価プログラム(Transitional Colorado Assessment Program(以下,TCAP と称す))が開始された。TCAP もまたコロラド州の 3学年から 10学年の児童・生徒が受ける算数・数学,読解,筆記の新しい学業水準を反映させる州テストである。事実,テスト結果のサマリーを見てみると,2011年のスクールイヤーまでは CSAP と表記されているけれど,2012年スクールイヤーからは TCAP と表記されている(4)。以下,TCAP に基づく評価手続きを述べることとする。「学力成長」は複数の評価指標から構成されている。(1)「TCAP による学力成長パーセンタイル中央値(TCAP Median Growth Percentile)」-読解,算数・数学,筆記それぞれについて,TCAP による学校の学力成長パーセンタイル中央値が 50以上であった

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か(5)-,(2)「TCAP による学力成長パーセンタイル中央値の類似学校との比較(TCAPMedian Growth Percentile Compared to Similar Schools)」-読解,算数・数学,筆記それぞれについて,TCAP による学力成長パーセンタイル中央値は類似学校よりも同等もしくはそれ以上であったか-,(3)「学力成長の挽回(Catch-Up Growth)」-読解,算数・数学,筆記それぞれについて,TCAP において高いパフォーマンス水準へ移行した児童・生徒の割合は一定の基準に達したか(6)-,(4)「学力成長の維持(Keep-Up Growth)」-読解,算数・数学,筆記それぞれについて,TCAP において「堪能」もしくは「進歩」を維持している児童・生徒の割合は一定の基準に達したか(7)-,(5)「継続的在籍者の成長(Continuously Enrolled Growth)」-読解,算数・数学,筆記それぞれについて,学校に継続的に在籍している児童・生徒の TCAP による学力成長パーセンタイル中央値は,学校に継続的に在籍していない学区の児童・生徒の学力成長パーセンタイル中央値を上回ったか-,(6)「CoALT による学力成長(CoALT Growth)」(8)-CoALT のパフォーマンス水準を維持もしくは改善させた児童・生徒の割合は一定の基準を満たしたか-,(7)「個別グループの学力成長(Disaggregated Group Growth)」-昼食費の減額もしくは無料,マイノリティ,英語学習者に属する児童・生徒ごとの TCAP における学校の学力成長パーセンタイル中央値は 50以上であったか,学校の個別グループのパフォーマンスはどの程度だったか-,(8)「個別グループの学力成長の比較(Disaggre-gated Group Growth Comparison)」-学校の個別グループは準拠グループ(referencegroup)と比較して,同等もしくは高い成長を示したか(9)-,(9)「障害をもつ児童・生徒の学力成長の比較(Students with Disabilities Growth Comparison)」-障害をもつ児童・生徒の学校の学力成長パーセンタイル中央値は州のそれと比べて同等もしくは高かったか-,(10)「ACCESS(10)による学力成長パーセンタイル中央値(ACCESS Median

Growth Percentile)」-ACCESS による学校の学力成長パーセンタイル中央値は 50以上であったか-,(11)「DRA 2/EDL 2(11)による学力成長(DRA 2/EDL 2 Growth)」-DRA 2/EDL 2において進歩を示している児童・生徒の割合は基準に達したか-,(12)「DRA 2/EDL 2による学力成長の比較(DRA 2/EDL 2 Growth Compared to Similar Schools)」-DRA 2/EDL 2において進歩を示している児童・生徒は類似学校と比較して同等以上であったか-。以上が学校評価フレームワークにおける学力成長の評価指標である。学校評価フレームワークを構成する 2つ目が「基礎学力」である。「基礎学力」の評価配分は,「高業績校」の全評価の約 2割を占めている。この評価項目では,州テストにおける児童・生徒の一時点の学力水準(a snapshot)が評価される。この州テストについても,TCAP が使用される。「基礎学力」の評価項目は次の通りである。(1)「TCAP による堪能の割合(TCAP %Proficient)」-読解,算数・数学,筆記それぞれについて,堪能もしくは進歩の児童・生

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徒の割合が基準に達したか-,(2)「TCAP による堪能の割合の比較(TCAP % Profi-

cient Compared to Similar Schools)」-TCAP の読解,算数・数学,筆記それぞれについて,児童・生徒の堪能もしくは進歩の割合が類似学校と比較して同等以上であったか-,(3)「個別グループの状況(Disaggregated Group Status)」-昼食費の減額もしくは無料,マイノリティ,英語学習者それぞれの児童・生徒に関して,堪能もしくは進歩の割合が基準に達したか-,(4)「個別グループの障害をもつ児童・生徒の比較(Studentwith Disabilities Disaggregated Group Status Comparison)」-障害をもつ児童・生徒のパフォーマンスは州の割合と比較してどの程度良かったか-,(5)「TCAP による進歩の割合(TCAP % Advanced)」-TCAP において,児童・生徒の進歩の割合は一定の基準に達したか-,(6)「ACCESS の期待値の割合(ACCESS % at Expectations)」-学年の期待水準もしくはそれ以上の評価を受けた児童・生徒の割合は一定の基準に達したか-,(7)「DRA 2/EDL 2の割合(DRA 2/EDL 2)」-読解が学年水準(grade level)もしくはそれ以上であった児童・生徒の割合が一定の基準を満たしたか-。これが「基礎学力」の評価指標である。3つ目の評価項目は「児童・生徒の関与」である。この評価項目は学校が児童・生徒との関係をどれだけ効果的に構築し保証しているのかを評価するものである。(1)「児童・生徒の出席率(attendance rate)」-当該学校の児童・生徒の出席率の平均は一定の基準を満たしたか-,(2)「児童・生徒の満足度調査の結果(student satisfaction surveyresults)」-肯定的回答の割合は一定の基準を満たしたか-,(3)「保育施設の提供(center-based program offerings)」-学校は保育施設の提供を行ったか(12)-。これらが「児童・生徒の関与」を評価する際の評価指標とされている。4つ目が「在籍者数」である。この評価項目は児童・生徒がどの程度学校に在籍しているのかを測定し,学校がどの程度効果的に児童・生徒のニーズに応えているのかを評価するものである。(1)「類似学校と比較した児童・生徒の復学率(Re-enrollment RateCompared to Similar Schools)」-類似学校と比較して復学率は同等以上であったか-,(2)「類似学校と比較した年間の児童・生徒の在籍率(% of Enrolled the Entire Year

Compared to Similar Schools)」-類似学校と比較して年間の児童・生徒の在籍率は同等以上であったか-,(3)「在学者数の変化(Enrollment Change)」(13)-在籍者数は改善されたか-が評価指標となっている。5つ目が「保護者満足度」である。この項目はデンバー公立学校区が行なう保護者満足度調査(DPS parent-satisfaction survey)に基づいている。(1)「保護者の満足(ParentSatisfaction)」-肯定的回答の割合は一定の基準を満たしたか-,(2)「回答率(ParentResponse Rate)」-保護者の回答率は一定の基準を満たしたか-が評価指標となる。これら全 5項目で獲得した合計ポイントの割合に基づいて,各学校は「卓越」,「基準

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に到達」,「注視を要する」,「特に注視を要する」,「保護観察を要する」の 5つの評価のいずれかに認定される。獲得した合計ポイントの割合は,当該学校の獲得した合計ポイントを獲得可能ポイントで除して算出される。「卓越」はポイント獲得割合が 79.5%以上とされる。「卓越」と評価された学校は学区の期待水準を超えており,なおかつ,「学力成長」と「基礎学力」においてより高い評価を得ているとみなされる。「基準に到達」はポイント獲得率が 50.5%以上 79.5%未満とされ,「基準に到達」と評価された学校は学区の期待水準に達しており,「学力成長」と「基礎学力」のいずれか,もしくは両方において高い評価を得ているとみなされる。「注視を要する」はポイント獲得率が 39.5%以上 50.5%未満とされ,「注視を要する」と評価された学校は学区の期待水準を下回っているとみなされる。授業プログラムやスタッフの異動についての介入が入るかもしれない。「特に注視を要する」は 33.5%以上 39.5%未満とされ,「特に注視を要する」と評価された学校は学区の期待水準を大幅に下回っており,大幅な改善が必要とされる。授業プログラムやスタッフの異動についての介入が入る。「保護観察を要する」は 33.5%未満とされ,「保護観察を要する」と評価された学校は学区の期待水準を大幅に下回っており,大幅な改善が必要とされる。授業プログラムやスタッフの異動についての介入が入る。加えて,「保護観察を要する」と評価された学校に追加的な予算の見直しが要求され,学区はこの学校を支援するために,追加的な予算や支援計画を提供する。2013年度におけるデンバー学区のとある小学校の評価結果を確認してみよう(表

4)。上段の「総合評価」の列は「獲得ポイント」,「獲得可能ポイント」,「ポイント獲得率」,「評価(Stoplight)」である(14)。上段の「総合評価」の列を見てみると,この小学校の「獲得ポイント」は 83ポイントであり,「獲得可能ポイント」は 147であるので,「ポイント獲得率」は 56.46%である。「評価」は「基準に到達」であった。このことが示されている。下段の「総合評価」と「範囲」には「卓越」,「基準に到達」,「注視を要する」,「特に注視を要する」,「保護観察を要する」それぞれに対応する「ポイント獲得率」が示されている。この小学校の「ポイント獲得率」は 56.46%なので,50.5%以上79.5%未満の「範囲」に入る。その「範囲」は「基準に到達」である。このようにして「ポイント獲得率」から「評価」が導かれる。なお,表 4上段の「1.学力成長」,「2.基礎学力」,「5.児童・生徒の関与」,「6.在籍者数」,「7.保護者満足度」はそれぞれ評価項目を示している。3と 4の評価項目は高校にのみ適用されるので,この小学校の評価フォームにはない。これらの評価項目にはそれぞれ獲得ポイントと獲得可能ポイント,ポイント獲得率,評価結果が示されている。表 4下段の「評価項目 1, 2, 3, 4, 6, 7」および「評価項目 5」それぞれには,各評価項目の評価範囲と評価結果が示されている。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 79

このように「高業績校」は 5つの評価項目とその項目に付随する様々な評価指標に基づいて認定される。すなわち,学校は「卓越」,「基準に到達」,「注視を要する」,「特に注視を要する」,「保護観察を要する」の 5つの評価の内,「卓越」,「基準に到達」と評価された学校は「高業績校」として認定され,その学校に配属されている全教員は報酬指標の 6.4%分の報酬を賞与として受け取ることができる。全評価に占める「学力成長」と「基礎学力」の割合については前者が約 6割,後者が約 2割であった。つまり,「高業績校」の評価割合の約 8割の評価は州テストであるTCAP に基づいている。「高業績校」に認定されるためには,TCAP において,優秀な成績を獲得する必要があるということである。「高業績校」の認定は毎年実施され,該当する学校はオンライン上に公表される。もし,「高業績校」と認定された学校に配置されたければ,当該学校に応募して面接で認められなければならない。ただし,評価は毎年変動する性質なので,「高業績校」へ移動する動機は希薄である。「今年『高業績校』じゃなくても来年は『高業績校』になるかもしれないから,ほかの学校にいく必要はない」(16)ということである。2012年-2013年度の「高業績校」の認定に関して,76校が「高業績校」と認定されている。2013年-2014年度については 78校が「高業績校」と認定されている(17)。2014年-2015年度のデンバー公立学校数は約 180校存在し,その内の約 30校が Pro-

Comp の対象とされないチャータースクールなので,ProComp の対象校の約半数の学校が「高業績校」と認定され,その学校に配属されている全教員は報酬指標の 6.4%分の賞与を獲得している。このように「高業績校」の報酬は非常に広範囲にわたっている。また,評価指標については,評価に校長の判断を介入させない州テスト,児童・生徒の在籍者数,児童・生徒及び保護者の満足度といった客観的な評価手法がとられている。

表 4 学校評価フレームワーク:2013-2014年総合スコア

出所:DPS, School Specific SPF-Elementary Schools より作成(15)。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察80

2-2.高成長校次に「高成長校」の評価項目をみていこう。教員は「高成長校」と認定された学校に配属されると報酬指標の 6.4%分の賞与を獲得することができる。「高成長校」に認定されるためには,学校評価フレームワークの「学力成長」項目において,「凌駕」もしくは「基準に到達」と認められなければならない。「高業績校」の認定が学校評価フレームワークの全評価項目における獲得ポイント率であったのに対して,「高成長校」の認定は,学校評価フレームワークの「学力成長」項目のポイント獲得率からのみ算出される。「学力成長」の評価指標は「高業績校」の場合と同様である。ここでも TCAP が使用されることとなる。「学力成長」の評価段階は「凌駕」,「基準に到達」,「接近」,「基準未満」の 4段階である。ポイント獲得率が79.5%以上であれば「凌駕」,50.5%以上 79.5%未満であれば「基準に到達」,33.5%以上 50.5%未満であれば「基準に接近」,33.5%未満であれば「基準未満」とそれぞれ認定される。したがって,この 4段階の評価の内,「凌駕」もしくは「基準に到達」の評価を得た学校は,「高成長校」と認定され,そこで勤務する全教員に報酬が配分されるわけである。先の小学校の評価フォームであれば次のようになる(表 4)。まず,注目すべきは,

「1.学力成長」の列である。この列が「学力成長」の程度を表している。この小学校の場合,獲得ポイントが 55,獲得可能ポイントが 101,ポイント獲得率は 54.50%である。評価結果は「基準に到達」であった。下段左側の「評価項目 1, 2, 3, 4, 6, 7」とその下の「範囲」は評価結果とその範囲を示している。この小学校の場合,「学力成長」のポイント獲得率は 54.50%なので,50.5%以上 79.5%未満の「基準に到達」の範囲に収まる。その結果,「学力成長」の評価は「基準に到達」となり,「高成長校」として認定されている。2012年-2013年度に「高成長校」として認定された学校数は 82校であった。2013年-2014年度のそれは 80校であった。ProComp 資格のある学校の半数以上が「高成長校」項目による報酬を獲得している。もちろん,認定された学校では働いている全ての教師には報酬指標の 6.4%分の賞与が与えられることとなる。なお,「高成長校」と認定された学校に移動したければ,「高業績校」と同様に当該校へ申し込んで面接を受ける必要がある。申し込み先の校長や教頭に認められれば,「高成長校」と認定された学校で働くことができる。ただし,「高成長校」の認定は毎年更新されるので,移動に対する教員の動機はやはり希薄である。「高成長校」の報酬についてもデンバー学区内の半数の学校に分配されるというように広範囲にわたっている。この報酬項目についても州テストを用いた客観的な評価であった。校長の判断の余地はない集団に対する報酬である。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 81

2-3.期待の凌駕教師は自身が指導している 4学年から 10学年の児童・生徒の 50%が,コロラド州児童・生徒の成長指標(Colorado’s Student Growth Indicator)に基づいた「学力成長」項目(18)において,55分位数以上であれば報酬指標の 6.4%分の賞与を獲得することができる。科目は読解,筆記,算数・数学である。読解,筆記,算数・数学を担当しない教員は「期待の凌駕」による報酬を獲得する資格が与えられていない(19)。小学校教師であれば,読解,筆記,算数・数学のいずれかが適用される。なお,この 55分位数というのは,コロラド州内を意味する。すなわち,「期待の凌駕」項目はコロラド州内での児童・生徒の学力成長の割合に基づいているので,デンバー学区内での賞与獲得割合は定められていない。類似集団(Similar group)内の前年比の点数の伸びが 100分位数で計算される。前述した TCAP の「学力成長」の算出方法が用いられる。また,「期待の凌駕」報酬は「高業績校」報酬や「高成長校」報酬のように認定校に所属する全教員に報酬を分配するものではなく,個々人の教師に報酬を分配するものである。したがって,同一校内において,「期待の凌駕」報酬による賞与を獲得した教師と獲得することができなかった教師とが存在することになる。このように,「期待の凌駕」による報酬は,州テストに基づいた「学力成長」という客観的な指標が使用される個人別の報酬であった。

2-4.児童・生徒の成長目標 および児童・生徒の学習目標次に「児童・生徒の成長目標」による報酬を見てみよう。「児童・生徒の成長目標」は個々の教師が目標を設定し,その設定した目標が一定の水準を超えたか否かによって合否を決めるものである。ProComp の導入に伴い,しばらくは「児童・生徒の成長目標」が運用されてきたけれど,2014年度より「児童・生徒の成長目標」から「児童・生徒の学習目標」へと変更された(20)。従来運用されてきた「児童・生徒の成長目標」よりも「児童・生徒の学習目標」は,「よりアカデミックな側面の評価に近づけた」(21)。以下では「児童・生徒の学習目標」の運用について説明する(22)。「児童・生徒の学習目標」では,個々の教師が 1つもしくは 2つの教科に関わる目標を設定し,2つの目標を達成した教師には報酬指標の 1%分の昇給,1つの目標のみを達成した教師には報酬指標の 1%分の賞与がそれぞれ与えられる。「児童・生徒の学習目標」の評価プロセスを見てみよう。8月から 9月にかけて,教師は校長もしくは教頭と協議しながらデンバー公立学校区成績責任・調査・評価課(DPS Accountability, Research and Evaluation(ARE))が作成したガイドラインに従って教科に関わる目標を 1つもしくは 2つ設定する。その目標には計量可能な目標や計量不

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察82

可能な目標が組み込まれる。例えば,「音楽担当の教師ならリズムに関すること,小学校の算数担当教師なら計算に関する目標を立てる」(23)。次に教師の目標に関わる児童・生徒たちの学習の基準線となるデータを集め,教師と校長とが相談をしながら,目標の対象となる児童・生徒たちを次の 5つの基準のいずれかに分類する。「1.非常に準備不足」,「2.準備不足」,「3.いくらか準備されている」,「4.準備されている」,「5.準備が進んでいる」。つまり,この分類によって,教師が設定した目標に対する児童・生徒の現状が位置づけられるのである。目標に対して,「1.非常に準備不足」のように遠くに位置しているのか,それとも「5.準備が進んでいる」のように目標に対して近くに位置しているのかが決定される。その後,10月から 3月にかけて実践へと移る。その間,児童・生徒の進捗を観察するために一連の証拠が集められる。評価は 4月から 5月にかけて行われる。教師はデータチームや校長もしくは教頭と目標と実践とがどのように関連していたのかについて,児童・生徒の成長に基づいて評価および反省する。最終的な評価者は校長である-時に教頭が評価するが,主として最終評価者は校長である(24)-。ここに評価者である校長の判断が入り込む余地がうまれる。「児童・生徒の学習目標」では TCAP は使用されず,あくまで設定した目標に対する実践において,児童・生徒がどれほど成長したのかという点が評価される。評価の際には表 5のマトリクスが使用される。左側の縦列は分類した児童・生徒の基準グループである。上段の横列は 5段階の評価を表している。すなわち,「1.未習熟」,「2.部分的習熟」,「3.適度な習熟」,「4.高い習熟」,「5.顕著な習熟」である。マトリクス内には「該当なし」,「0」,「1」,「2」,「3」の数字と「教師と校長による決定:0, 1, or 2」,「教師と校長による決定:0, or 1」,「教師と校長による決定:2 or 3」とが表示されている。「教師と校長による決定:0, 1, or 2」は教師と校長とが協議して,「0」,「1」,「2」のいずれかを決定する部分である。「教師と校長による決定:0, or 1」と「教師と校長による決定:2 or 3」についても同様に,教師と校長とが協議して,「0」もしくは「1」を,「2」もしくは「3」をそれぞれ決定する。ここに校長の判断が入り込む。「児童・生徒の学習目標」において目標達成の認定のためには,教師は最終評価者である校長から「達成」の認定を得る必要がある。「『2』及び『3』は『達成』と認定される。『1』については校長の裁量によって『達成』か否かが決められる」(25)。つまり,「1」で「達成」が得られる場合もあれば得られない場合もある。おそらく,「0」に近い「1」であれば「達成」は得られない。「0」についてはもちろん「達成」は得られない。「児童・生徒の学習目標」の評価は校長の判断に委ねられることとなる。このように ProComp の「児童・生徒の学習目標」では,個々の教師が 1つもしくは

2つの目標を設定し,その後,担当児童・生徒を 5つのグループのいずれかに位置づけ

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 83

られ,評価マトリクスにしたがって「達成」か否かが決定される。「達成」を得た教師は目標を達成したと認められる。目標達成の数に基づいて昇給か賞与のいずれかが報酬として配分される。これが「児童・生徒の学習目標」による報酬決定の仕組みである。ただし,現状の「児童・生徒の学習目標」報酬の仕組みは上記とは異なる。どういうことか。2014年-2015年度は「児童・生徒の学習目標」の導入の初年度ということもあり,「児童・生徒の学習目標」申請者全員に報酬が提供されている。これはデンバー公立学校区とデンバー教員組合との団体交渉によって決定された(26)。つまり,評価結果に基づいて報酬が分配されるのではなく,「参加」に基づいて報酬が分配されることとなる。その結果,2つの目標を設定した教師は昇給を獲得でき,1つの目標を設定した教師には賞与が与えられる。デンバー公立学校区が 2つの目標を無理やり設定しないよう教師に通達を出していることから,2014-2015年度において,多くの教師が 2つの目標を設定し昇給を獲得したものと考えられる(27)。つまり,校長の判断が評価に入り込む「児童・生徒の学習目標」については,2014年-2015年度については,「参加」に基づく報酬によって,校長と教師間に生じうる「達成」か否かをめぐる紛争の種を処理しているということである。2015年-2016年度の「児童・生徒の学習目標」の報酬条件についても「参加」に基づかせるか,もしくは「評価」に基づかせるかについて,デンバー公立学校区とデンバー教員組合とが交渉中である。以上,「児童・生徒の学習目標」は個人別の報酬であり,校長の判断に基づく主観的な評価方法であった。とはいえ,現在のところ,報酬は「参加」に基づいて決定されている。「高業績校」,「高成長校」,「期待の凌駕」の客観的な評価方法とは一線を画している。

3.市場報酬

「市場報酬」は「任命困難職」と「指導困難校」の 2つの報酬項目から構成されてい

表 5 「児童・生徒の学習目標」評価フォーム

未習熟 部分的習熟 適度な習熟 高い習熟 顕著な習熟非常に準備不足 教師と校長による

決定:0, 1, or 23 3 3 3

準備不足 教師と校長による決定:0 or 1

2 3 3 3

いくらか準備されている 0 1 2 3 3

準備されている 該当なし 0 1 2 3

準備が進んでいる 該当なし 0 0 1 教師と校長による決定:2 or 3

出所:DPS, SLO Handbook-15/16より作成。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察84

る。「任命困難職」による報酬から確認してみよう。

3-1.任命困難職教師は「任命困難職」と認定された職につけば報酬指標の 6.4%分の賞与を得ることができる。「任命困難職」とは有資格の教師が少なく,離職率の高い職である。近年の「任命困難職」には,特別支援担当教員,数学担当教員,スペイン語による英語習得担当教員が含まれている(Briggs et al 2014 : 21)。例えば,「10人募集して 8人しか集まらないことがある。それが『任命困難職』だ。小学校教員は十分いる。国語担当教員も十分いる。だけど,特別支援担当教員,数学担当教員はなかなか集まらない」(28)とのことである。現場では「任命困難職」を次のように認識している。「『任命困難職』は教師の能力が不足しているというよりも,スタッフが足りていないということだ」(29)。なぜ不足が生じるのだろうか。概して理系学部出身の学生は数学の教師として働きたがらないからである。「私の教え子は大学で数学を専攻していました。今は,エンジニアとして民間で働いています。その方が多くの給与がもらえるからです。大学で数学を専攻して,教師になった教え子はいません。私もエンジニアになると思います。もし,数学の先生になったら驚かれます。エンジニアになれたのにどうして数学の先生になったんだよ,と人は言うでしょうね」(30)。では,不足の生じた職に対して,学校はどのように対応しているのか。「欠員が生じた場合,募集をかけ,それでも欠員が埋まらなければ,代替教員(Substitute Teacher)を雇って対処することになる」(31)。日本において数学担当教員や特別支援担当教員が定員割れを起こしているという状況がありうるのだろうか。ないのではないか。この点は,今後きちんと確認する必要がある。さて,「任命困難職」はどのように認定されているのだろうか。デンバー公立学校区はデンバー学区全域における欠員情報を集約している。欠員情報は欠員が生じた学校長が欠員情報をデンバー公立学校区へ報告することによって集計される。その後,デンバー公立学校区は欠員が生じた職を「任命困難職」としてそのリストを公表する(32)。こうして教師は「任命困難職」として認定された職に就いていれば賞与を受け取ることができる。「任命困難職」による報酬の目的は,特別支援の教師,数学の教師,スペイン語の話せる英語教師をデンバー学区で雇用し,離職させないことにある。しかし,この目的の達成は難しい。「任命困難職」による報酬をもってしても埋まらない職は代替教員で埋めることになるのが現状である。なお,2009-2010年度,2010-2011年度,2011-2012年度に関しては,約 3割の教師が

「任命困難職」として認定されている(Briggs et al 2014 : 21)。以上,「任命困難職」による報酬は,不足している職のリストに基づく賞与であった。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 85

一旦,欠員リストが作成されれば,報酬決定に個々人の判断が入り込む余地はない。欠員リストに自身の職が掲載されているか否かという客観的な指標に基づいて報酬が決定される。

3-2.指導困難校「指導困難校」による報酬は,「指導困難校」と認定された学校で働いている教師に報酬指標の 6.4%分の賞与を提供するものである。「指導困難校」の賞与は,デンバー公立学校区の教師たちが「指導困難校」で働くことへの承認を促すために設置されている。デンバー教員組合の執行委員長によると,「指導困難校」は,「貧困に基づいている。貧困家庭は給食費の減額を政府に申請する。つまり,『指導困難校』は貧しい児童・生徒の多い学校という意味」(33)である。具体的に「指導困難校」はどのような条件下で認定されているのだろうか。「『指導困難校』は給食費の無料・減額(Free and Reduce Lunch)の割合に基づいて認定している。児童・生徒の給食費の無料・減額の割合が小学校は 92%以上,中学校は 85%以上,高校は 75%以上であれば,『指導困難校』と認定される。認定された学校をデンバー公立学校区は公表する。デンバーは経済事情が苦しい世帯が多い」(34)。つまり,小学校であれば,在籍している児童・生徒の 92%以上が給食費の無料・減額の適用を受けておれば「指導困難校」として認定されるということである。この 92%という数字は学校内で 92%の児童・生徒が給食費の無料もしくは減額を受けているという意味である。「指導困難校」の認定基準については了解した。一方,なぜ「指導困難校」が設置されねばならないのか。この点に関わって,貧しい児童・生徒の多い学校は,校内暴力が多いのか尋ねた。「執行委員長:必ずしもそうではない。時々あるくらいだ」,「早期教育課長補佐:教師と学区の担当者がそうならないようにうまくやっているんです。いくつかの学校はとても大変ですけどね。子供に問題があるときは大体親に問題があります。親に問題がある子供は大変なんです」(35)という。必ずしも校内暴力が多いというわけではないようだ。では,貧しい児童・生徒は学業成績が低いのだろうか。「執行委員長:一般には低い。でも,必ずしも全員がそうではない」。「岩月:日本では貧しい児童・生徒のキャリアは低いです。裕福な家庭の子供は塾に通うことができる」。「早期教育課長補佐:それは日本の大きな問題だわ」。「岩月:裕福な家庭の子供は大学進学に有利です。」「執行委員長:それはここでも同じです」(36)。やはり,外国であろうが貧しい児童・生徒の学力は一般的に低い。加えて,執行委員長は次のように語る。「私があなたの生徒としましょう。『指導困難校』に在籍する私は,勉強があまり好きではない,注

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察86

意力もとぼしい,勉強に向かう姿勢にも課題を抱えている。だから,あなたは長い時間をかけなければなりません。この過程において,あなたは私のノートや行動をチェックし話し合いを続けます。とても長い時間を要します。それと親との関係は基本的には良好ですが,まれに保護者と衝突することもあります。『指導困難校』の教師は本当にすばらしい。とてもうまく教える。しかし,何人かの教師はその学校を去ります」(37)。つまり,「指導困難校」の教師は科目の指導,態度の指導に非常に時間がかかるので非常に大変だということである。基本的に保護者との対応に問題はないが,時に保護者対応が大変になる。教師たちは優秀だけれど,何名かの教師はその学校を離れてしまう。だから「指導困難校」の報酬がある。これがデンバーの ProComp の「指導困難校」の報酬を必然化させている。概して指導困難校がデンバーには多いので,半数以上の学校をカバーするほどの「指導困難校」の報酬が導入されている。また,州テストに基づく報酬のみでは,指導困難校で働く教師にとっては不公正な制度であるといえる。公正さを確保のためには,「指導困難校」の報酬が設置されていなくてはならない。「指導困難校」による報酬獲得率を確認してみると,2009年-2010年度は 46%であったものが,2010年-2011年度と 2011年-2012年度には 53%,56%とそれぞれ増加している(Briggs et al 2014 : 21)。ProComp に参加している半数の教師は「指導困難校」の報酬を獲得していることになる。貧困家庭の児童・生徒を多く抱える教師たちは,「高業績校」の報酬や「高成長校」の報酬や「期待の凌駕」の報酬を獲得することができなかったとしても,その代わりに,「指導困難校」の報酬を獲得する資格が与えられている。「指導困難校」の報酬は,一部の教師に報酬が偏る事態を抑制し,貧困家庭の児童・生徒を多く抱える教師たちへの報酬を配分している。それによって,Pro-Comp による報酬分配の平準化に寄与している。もちろん,「高業績校」の報酬や「高成長校」の報酬や「期待の凌駕」の報酬の資格を獲得することができず,さらに,「指導困難校」の報酬の資格が与えられなかった教師は不運ではある。しかし,「指導困難校」の報酬は ProComp という制度を支える一翼を担っていると言えよう。なお,デンバー教員組合は「指導困難校」の報酬範囲を拡大させようとデンバー公立学校区と交渉を現在もなお続けている(38)。このように「指導困難校」の報酬は,児童・生徒の貧困の程度に基づいており,報酬決定に対する評価者の判断が入り込む余地はない。客観的な指標に基づく集団に対する報酬である。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 87

4.知識と技能

4-1.専門性向上単元「専門性向上単元」による報酬は,「専門性向上単元」を完了した経験年数(39)14年以下の教師へ報酬指標の 2%分の昇給を提供するものである。経験年数 15年以上の教師が「専門性向上単元」を完了すれば,報酬指標の 2%分の賞与となる。「専門性向上単元」による報酬は個々の教師に支払われる報酬である。なお,「専門性向上単元」の設計には,クラスルームティーチャーも参加している(40)。ところで,なぜ経験年数 15年以上の教師に対する報酬は,昇給ではなく賞与なのか。答えは ProComp の報酬財源の維持である。「『専門性向上単元』の報酬は昇給に関するものなので,一定のところで制限しなければ財源がなくなってしまいます」(41)ということである。それでは「専門性向上単元」の内容を確認していこう。「専門性向上単元」の目的は継続した学習を行うことで児童・生徒に資することとされている。「専門性向上単元」のプロセスについては,まず各教師は自身に適した「専門性向上単元」を選択する。「専門性向上単元」には大きくは次の 4タイプが配置されている。1つは学校主催の「専門性向上単元」-例えば,総合的な改善計画(Unified Improvement Plan(UIP))-,2つに複数の学校に渡って展開される特定科目の担当者グループの「専門性向上単元」や総合的な改善計画の「専門性向上単元」,3つに学校内での特定科目の小集団による「専門性向上単元」,4つに学区主催の「専門性向上単元」である(42)。このような複数のプログラムから自身に適したプログラムを選択する。「専門性向上単元」のプログラムは,特定のプログラムを選択した教師がグループとなり,グループごとに,学習(Study),実践(Demonstrate),反省(Reflect)という 3

つのプロセスを経て実施される。その理由については,「成功裡の学習は,一つのイベントやテストによって判断されるのではなく,むしろ,教育実践中の結果によって決定される」からであるいう。「専門性向上単元」の最終評価はどのようになされるのか。まずグループ内でプレゼンテーションを行う。ここで,同一プログラムを選択した教師同士で反省が行われることとなる(表 7)。各教師は自身の取組みの結果-児童・生徒にどんな影響をもたらしたのか-を説明し,同僚からの質問に答えなければならない。その間,各教師は同僚評価のフィードバックフォーム(表 8)に必要事項を記入する。ここには教師の実践が記録され,各同僚たちはその教師が「専門性向上単元」を完了したか否かを記入する。記入の際には,「専門性向上単元」内容と発表を評価するための規程(表 9)が使用され

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察88

る。同僚による評価の過程を経て,最終的には,「デンバー公立学校区の『専門性向上単元』課の担当者(PDU department)が『専門性向上単元』を完了したか否かを判断します」(43)。なお,「評価は数値に基づくものではありません。記述式で行います」(44)とのことである。このように「専門性向上単元」の評価においては,同僚間での評価を経た後に,「専門性向上単元」課の担当者が「専門性向上単元」が完了したか否かを最終的に決定する。完了と認定された教師には報酬が与えられるということである。なお,これまでの「専門性向上単元」報酬の獲得率については十分に確認できなかった(45)。

表 7 「専門性向上単元」の同僚評価手順

目的:・「専門性向上単元」のプロセスを通して,互いの学習内容を共に検討し共有すること。・全メンバーの成長に資するよう肯定的な態度でフィードバックを行うこと。

10分:・発表者は「専門性向上単元」の情報,成果,学習内容の重要性を報告する。中断はしない。・発表の間,同僚はフィードバックフォームにメモをとりながら聞き,疑問点をそのフォームに記入する。

5分:・議論:全メンバーは発表者の学習内容に対する考え,メモ,疑問点,アイディアを共有する。・同僚は評価の規定に従って報告者の「専門性向上単元」を評価する。・同僚は発表者にフィードバックフォームを提供する-発表者はフィードバックフォームを吟味して「専門性向上単元」課担当者に預ける-。フィードバックフォームを手元に置いておきたい場合,スキャンしたものを発表者に送付する。

以上のプロセスは全発表者が報告し終えるまで繰り返される。

出所:収集資料より作成。

表 8 同僚評価のフィードバックフォーム

出所:収集資料より作成。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 89

このように「専門性向上単元」は評価過程に同僚教師による評価とデンバー公立学校区の「専門性向上単元」課担当者の評価が組み込まれた個人別報酬である。したがって,「専門性向上単元」の評価過程には同僚や「専門性向上単元」課担当者の判断が入り込む余地があり,完了か否かという評価結果に対する紛争が生じる可能性を有している。しかし,執行委員長によると,「専門性向上単元」のプログラムを終えれば,「通常,『専門性向上単元』の完了と認定され,『専門性向上単元』報酬が獲得できる」(46)。この慣行が同僚評価を伴う「専門性向上単元」の報酬をめぐる紛争を処理していると考えられる。なお,「専門性向上単元」の評価に関しては団体交渉の争点としてあげられていないのが現状である。

4-2.授業料と学生ローンの返済「授業料と学生ローンの返済」による報酬は,授業料や学生ローンの返済に充てることができる。年間 1000ドルが,生涯 4000ドルがそれぞれ上限とされている。授業料については参加したプログラムを完了することが条件となっている。たとえば,「授業料と学生ローンの返済」は,専門分野の向上に関わるワークショップへの参加費,学歴取得のプログラムに必要な授業料に充てることができる(Briggs et al 2014 : 22)。学歴取得のプログラムについては,学士+30,学士+60,修士,修士+30,修士+60,博士等の資格を取得したか否かは関係ない(47)。後者の学生ローンについては当該教師の課

表 9 「専門性向上単元」内容と発表を評価するための規程

基準に達していない 基準を満たした 基準を超えた学習内容は何か? ・「専門性向上単元」と発

表者の学習内容とが関連していない。

・「専門性向上単元」と発表者の学習内容とがいくらか関連している。

・「専門性向上単元」と発表者の多様な学習内容とが明確に関連している。

専門性への影響はどうだったか?

・学習内容を実践に応用していない。・影響がほとんどない。・同僚との共同がなされていない。

・学習内容を実践に応用している。・専門性といくらか結びついている。・同僚との共同がいくらかなされている。

・学習内容を実践に応用し,多様な技能が示されている。・専門性と明確に結びついている。・同僚との共同が十分になされている。

児童・生徒の学習への影響はどうだったか?

・影響がほとんどない。・児童・生徒の学習の経過を認識していない。

・児童・生徒の学習が日付や成果等の特定の証拠に基づいて示されている。・児童・生徒の学習の経過をはっきりと理解している。

・児童・生徒の学習が日付や成果等の特定の証拠に基づいて示されている。・児童・生徒の学習と今後の課題について十分な理解を示している。

「専門性向上単元」の経過に関する証拠

・「専門性向上単元」における生産物,経過,活動に関する証拠がない。・成果物や証拠は教師の学習を示していない。・今後の教育に関わるインプリケーションが確認されていない。

・「専門性向上単元」と関連する生産物,経過,活動の証拠が少なくとも一つは示されている。・成果物や証拠は教師の学習を示している。・今後の教育に関わるインプリケーションが確認されている。

・「専門性向上単元」と関連する生産物,経過,活動の多数の証拠が示されている。・成果物や証拠は教師の学習に大きな影響があったことを示している。・今後の教育に関わる洞察に満ちて大望のあるインプリケーションが確認されている。

全体的な発表内容 ・発表や成果物は十分に整理されておらず,不完全な発表だった。

・発表や成果物はよく整理されており,完璧な発表だった。

・顕著な発表と成果物:明確で,簡潔に,詳述された。

出所:収集資料より作成。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察90

税所得(taxable income)を考慮して決定される。この「授業料と学生ローンの返済」による報酬は,個々人の教師に支払われ,その獲得条件には,ワークショップの完了や課税所得という客観的な指標が用いられている。

4-3.上級学位と上級免許「上級学位と上級免許」による報酬は,新たな資格を取得した教師に対して報酬指標の 9%分の昇給を与えるものである。ただし,この報酬の獲得は 3年に 1度という規定がある。「上級学位」の取得とは,修士もしくは博士の学位の取得を意味している。「学士+30,学士+60,修士+30,修士+60は上級学位には含まれない」(48)。したがって,学士資格を保有する教師が修士を取得した場合と修士資格を保有する教師が博士を取得した場合にのみ,「上級学位」の取得による報酬が与えられる。「上級免許」の取得とは,スクールナースやソーシャルワーカーなどの児童・生徒への支援専門職(Student Services Professionals(SSPs))に対する資格である。基本的には教師はこの「上級免許」と関係ない。基本的にはというのは,全米教職専門職基準委員会(National Board for Professional Teaching Standards(NBPTS))(49)に承認された免許は「上級免許」に含まれるからである。「ただし,この全米教職専門職基準委員会の免許取得は相当難しい。4, 5年挑戦してとれるかどうかだ。何度もトライしないと全米教職専門職基準委員会の免許はとれない」(50)というのが実情である。この報酬の獲得率を確認しておこう。2010-11年度は 11%(384名)の教師が獲得した。2011-12年度は 13%(481名)に増加した(Briggs et al 2014 : 22)。以上のように,「上級学位と上級免許」に基づく報酬は,主として「上級学位」の取得が条件とされている。ここでの報酬獲得条件についても,評価者の判断が入る余地はない。資格リストという客観的な指標に基づいている。

5.包括的専門職評価

5-1.効果的教育実践の構成現在,「包括的専門職評価」の報酬には「効果的教育実践」(Leading Effective Aca-

demic Practice(LEAP))という評価システムが用いられている(51)。「効果的教育実践」は教師の教育効果を測り,教育力の向上を目標としている(52)。2011-12年度,デンバー公立学校区は「包括的専門職評価」の評価手法として,デンバー公立学校区,デンバー教員組合,校長,教師によって設計された「効果的教育実践」の運用を開始した。それまでの「包括的専門職評価」の報酬は校長や教頭などの学校管理者(53)による別の評価

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 91

システムに基づいていた。「効果的教育実践」が導入された 2011-12年度,教師たちは従来の「包括的専門職評価」にて「満足」を獲得するか,もしくは「効果的教育実践」の試行に「参加」すれば「包括的専門職評価」の報酬を獲得することができた(Briggset al 2014 : 23)。つまり,「効果的教育実践」に参加した教師については,「効果的教育実践」の「評価」に関わらず,「効果的教育実践」への「参加」に基づいて報酬を得ることができたということである。「包括的専門職評価」の報酬は個々の教師に対する個人別報酬である。獲得条件は次のように規定されている。経験年数 14年以下の教師は「満足」と認定されれば報酬を獲得することができる。正規教員(テニュア)に対する評価は 3年に一度行われ,その場合の報酬は報酬指標の 3%分の昇給である。一方,見習い教員に対する評価は毎年実施され,その場合の報酬は報酬指標の 1%分の昇給となる。なお,若干の正規教員に対する「効果的教育実践」は毎年行われおり,その場合の報酬も報酬指標の 1%分の昇給とされている。もし,「不満足」の評価を受けた教師は,一年間のパフォーマンス・プランを受講し,2年目は成長プランを受講しなければならない。もちろん,報酬は与えられない。一方,経験年数 15年以上の教師にはこの報酬資格が与えられていない。なぜ 15年以上の教師は資格がなくなるのか。やはり,財源の問題である。「『専門性向上単元』と同じです。しかし,我々はこの年数制限については納得していません」(54)。なお,「効果的教育実践」は,2014年-2015年度より全教員に毎年実施されることとなり,報酬は報酬指標の 1%分の昇給とされている。評価方法については次の通りである。「効果的教育実践」の評価者は学校管理者である。主として校長が評価者であるが,教頭が評価者となる場合もある(55)。「効果的教育実践」は複数の評価項目から構成され,各評価項目を総合して最終評価がなされる。最終評価は「基準未満」,「接近」,「効果的」,「卓越」の 4段階である。「効果的」もしくは「卓越」を得た教師は報酬を獲得することができる(56)。先の「満足」とは,「効果的」もしくは「卓越」を意味する。「効果的教育実践」の構成を詳細に確認しよう。「効果的教育実践」においては,教育実践の正確な評価を得るためには,教育実践の総合的な評価の使用が重要であるとの認識から,教師の教育効果を測定するために,次の評価項目から構成されている。「効果的教育実践」の評価割合の 50%を占める「専門職の実践」の評価指標は「観察」,「専門職気質(Professionalism)」,「児童・生徒の認知」から構成される。「効果的教育実践」の残りの 50%を占める「児童・生徒の成長」の評価指標は「学校評価」-学校評価フレームワークの「学力成長」に基づいた学校別評価-,「学区成長(District Growth)」-コロラド州の学区成績フレームワーク(State’s District Performance Framework(DPF))に基づいた学区別評価-,「州テスト」-TCAP/CMAS の「学力成長」に基づいた個人別評

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察92

価-,「総合評価(Collective Measures)」-「学校評価」と「学区成長」による総合評価),「児童・生徒の学習目標」-目標とその達成度に基づいた個人別評価-から構成されている(表 10)。ただし,「児童・生徒の成長」に含まれる複数の評価指標は年度によって採用されるものとされないものとがあり,評価割合についても変動する。例えば,2013-14年度の「児童・生徒の成長」は「州テスト」が 30%,「学校評価」が 15%,「学区成長」が 5%であったのに対して,2014-2015年度については,「児童・生徒の成長」の評価が用いられておらず,「専門職の実践」のみの評価とされている。しかし,2015-2016年度については,再び「児童・生徒の成長」が採用され,「児童・生徒の学習目標」が 45%,「学区成長」が 5%とされている。さらに,2016-2017年度については,「州テスト」が25%,「児童・生徒の学習目標」が 20%,「総合評価」が 5%というように予定されている(58)。このように「児童・生徒の成長」を評価する評価指標やその配分割合は毎年変更しうる。様々な評価指標の存在に対して執行委員長は,「減らしたいんだ」と困ったように語っていた(59)。結局のところ,「効果的教育実践」における報酬の基準である「効果的」および「卓越」の基準はどうなっているのか。この点が最も肝要である。2015-2016年度の評価割合は,50%を占める「専門職の実践」の「観察」が 30%,「専門職気質」が 10%,「児童・生徒の認知」が 10%であり,残りの 50%を占める「児童・生徒の成長」の「児童・生徒の学習目標」が 45%,「学区成長」が 5%であった(60)。以下,2015-2016年度の「効果的教育実践」の評価手続きを確認していきたい。まず,「専門職の実践」の「観察」,「専門職気質」,「児童・生徒の認知」の 3項目を確認し,その後,「児童・生徒の成長」の「学区成長」,「児童・生徒の学習目標」の 2項目を確認する。最後に,「効果的教育実践」の最終評価の手続きを確認する。それでは,「観察」からみていこう。

表 10 「効果的教育実践」の構成

専門職の実践(50%)

観察(30%)専門職気質(10%)児童・生徒の認知(10%)

児童・生徒の成長(50%)

州テスト(個人別評価,TCAP/CMAS に基づく学力成長)学校評価(学校別評価,学校評価フレームワークの学力成長)学区成長(学区別評価,州の学区成績フレームワークに基づく)「児童・生徒の学習目標」(個人別評価,目標に対する達成)総合評価(学校・学区別評価,学校評価と学区成長に基づく)

出所:DPS, LEAP Handbook : Growing as an Educator 及び DPS, LEAP Student Growth-Past, Pre-sent & Future より作成(57)。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 93

5-2.観察「観察」は「学習環境」と「教授」から構成されている。スクールリーダー-主に校長-や教員リーダー(Teacher Leader)(61)が教師のクラスルームでの実践を観察し,事実を集め,最終的にスコアを付ける。ここにスクールリーダーや教員リーダーによる判断が評価に入り込む。観察者は事実を見直し,重要なフィードバックを行い,教師の成長のための次のステップを確認し,さらなる学習への示唆を行う。全ての教員は「観察」のスコアを手にすることとなる。「観察」の評価項目は表 11の通りである。「学習環境」と「教授」の項目が設置されている。「学習環境」の項目には,さらに「快適な学級風土と環境」(Positive ClassroomCulture and Climate)と「効果的学級運営」(Effective Classroom Management)の小項目があり,それぞれに 2つの評価指標(LE.1~4)がある。「教授」の項目にも,「卓越した授業内容の伝達(Masterful Content Delivery)」と「影響力のある教授手段(High-Impact Instructional Moves)」の小項目があり,それぞれに 4つの評価指標(I.1~8)がある。各評価指標(LE.1~4及び I.1~8)には「基準未満」,「接近」,「効果的」,「卓越」の評価が付けられ,「基準未満」は 1~2ポイント,「接近」は 3~4ポイント,「効果的」は 5~6ポイント,「卓越」は 7ポイントというように評価に応じてポイントが付けられる。

表 11 「観察」の評価フォーム

領域 期待 指標

学習環境

快適な学級風土と環境

LE.1 公平性を育む態度で,多様な児童・生徒の集団や文化に対する尊重,関心,知識を有している。LE.2 礼儀正しくやる気に満ちた学級環境を構築している。

効果的学級運営LE.3 児童・生徒の態度や習慣に対する明瞭で高い期待を有している。LE.4 学級内の設備環境は児童・生徒の学習をサポートしている。

教授

卓越した授業内容の伝達

I.1 スタンダードに基づく学習内容の目標と習得言語の目標とをはっきりと伝え,論理的に説明している。

I.2 児童・生徒の成功を保証するために,デジタル機器や他のサポートを適切に駆使して,批判的思考が要求される難しい課題を与えている。

I.3 学習内容の目標や習得言語の目標に到達するために,適度なペースで様々な教育手段を実践している。

I.4 すべての児童・生徒が積極的かつ適切に学術言語を使用できるようにしている。

影響力のある教授手段

I.5 学習内容の目標と習得言語の目標に対する児童・生徒の理解を確認している。

I.6 児童・生徒の学習ニーズに応える個別対応を行い,学習内容の目標と習得言語の目標の達成に寄与している。

I.7 学習内容の目標と習得言語の目標に沿って,学術的な観点からの記述式コメントを児童・生徒へフィードバックしている。

I.8 デジタル機器や他の手段を適切に利用しながら,児童・生徒のコミュニケーションや協調性を促進している。

注:太字は原文のままである。出所:DPS, LEAP Handbook : Framework for Effective Teaching : Observation より作成。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察94

「観察」の最終スコアの算出方法を確認しよう(表 12)。「観察」の評価割合は 30%であった。「観察」を構成する「学習環境」には 10%の評価割合が,「教授」には 20%の評価割合がそれぞれ配分されている。両者の評価指標(LE.1~4及び I.1~8)には 1

ポイントから 7ポイントが配分されており,この平均スコアが算出される。その後,算出された平均スコアを獲得可能スコア(7ポイント)で除し,獲得スコアの割合が算出される。最後に,「学習環境」には 10%分の重みづけがなされ,「教授」には 20%分の評価の重みづけがそれぞれなされて,合計獲得ポイントが算出される。これで「観察」の最終スコアが算出されたことになる。

5-3.専門職気質「専門職気質」の評価はスクールリーダーと教師の自己評価を通して行なわれる。ここにもスクールリーダーによる判断が評価に入り込む余地が生まれている。「専門職気質」は教授活動外の仕事,児童・生徒の学習のための個人的・共同的な側面が評価される。「専門職気質」の評価は,(1)「児童・生徒の必須の知識とデータの利用」,(2)「効果的な共同と関与」,(3)「深い考察,学習,改善」,(4)「高いリーダーシップ」の 4項目からなる。なお,(4)「高いリーダーシップ」については,教員リーダーにのみ適用される。(1)から(3)の評価項目については,2つの評価指標がそれぞれ設定されている。(4)については 1つのみ設定されている。「専門職気質」の評価フォームを整理したものが表 13である。各評価指標(P.1~P.7)には「基準未満」,「接近」,「効果的」,「卓越」の評価が付けられ,「基準未満」は 1ポイント,「接近」は 2ポイント,「効果的」は 3ポイント,「卓越」は 4ポイントというように評価に応じてポイントがそれぞれ付けられる。「専門職気質」の最終スコアの算出手順についても確認しよう(表 14)。「観察」と同様の手続きをふむ。「専門職気質」には 10%の評価割合が与えられている。評価指標(P.1~P.6)には 1ポイントから 4ポイントが配分されており,この平均ポイントが算出される。その後,算出された平均ポイントを獲得可能スコア(4ポイント)で除し,

表 12 「観察」のスコア算出のイメージ

評価 成績 獲得可能スコア

獲得スコア割合 評価の重み 合計獲得

ポイント学習環境

(LE 1~LE 4) 5.10(平均) ÷ 7 = 0.729 × 10 = 7.29

教授(I 1~I-8) 4.30(平均) ÷ 7 = 0.614 × 20 = 12.28

出所:DPS, Calculating Overall 15-16 Professional Practice Rating より作成(62)。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 95

獲得スコアの割合が算出される。最後に,「専門職気質」には 10%分の重みづけがなされ,合計獲得ポイントが算出される。これで「専門職気質」の最終スコアが算出されたことになる。

5-4.児童・生徒の認知「児童・生徒の認知」は教師の学級や実践に関する児童・生徒の意見を検討する評価項目である。「児童・生徒の認知」の評価には児童・生徒の認知調査(Student Percep-tion Survey)が使用される。児童・生徒の認知調査は,(1)「学習の促進」,(2)「児童・生徒の高い期待」,(3)「児童・生徒の支援」の質問項目から構成されている。さらに,この 3項目それぞれに複数の質問が設けられている(表 15)。児童・生徒はそれらの質問に対して,「決してない」,「時々」,「たいてい」,「いつも必ず」のいずれかで答える。「たいてい」,「いつも必ず」が肯定的回答であるとカウントされる(64)。次に「児童・生徒の認知」の最終スコアの算出手順を確認する。「児童・生徒の認知」の評価割合は 10%であった。評価の手順は次のようである。まず,個々の教師のピア・グループが確認される。ピア・グループは小学校,小学校特別支援学校,中学校,高校に分類される。その後,児童・生徒の認知調査が実施され,(1)「学習の促進」,(2)「児童・生徒の高い期待」,(3)「児童・生徒の支援」の質問項目ごとに,児童・生徒の肯定的回答の割合によって「平均を大幅に上回る(WAA)」,「平均を上回る(AA)」,

表 13 「専門職気質」の評価フォーム

評価 期待 指標

専門職気質

児童・生徒の必須の知識とデータの利用

P.1 公平性を育むために,児童・生徒の文化,ニーズ,成長に関する知識を有し活用している。

P.2 児童・生徒ごとに指導方法を柔軟に変え,指導計画を立案するために,児童・生徒のデータや学習状況を活用している。

効果的な共同と関与P.3 児童・生徒の成功を実現するために,同僚教員たちと共同している。

P.4 児童・生徒の成功を支援する過程において,地域,家族,児童・生徒に関与し支援している。

深い考察,学習,改善

P.5 自己認識を示し,チームとの共同的実践を考察し,フィードバックを行っている。

P.6 専門性向上への機会を追求し,探究文化に寄与している。高いリーダーシップ P.7 同僚間の共同を促進し,児童・生徒,学校,教員への尽力を示している。

注:太字は原典のままである。出所:DPS, LEAP Handbook : Framework for Effective Teaching : Professionalism より作成。

表 14 「専門職気質」のスコア算出のイメージ

評価項目 成績 獲得可能スコア

獲得スコアの割合 評価の重み 合計獲得

ポイント専門職気質:(P.1-P.6) 2.50(平均) ÷ 4 = 0.625 × 10 = 6.25

出所:DPS, Calculating Overall 15-16 Professional Practice Rating より作成(63)。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察96

表 15 児童・生徒の認知調査の質問項目

学習の促進(13項目)・自分の間違いを理解させてくれるので,次はもっとうまくやれる。・学習への関心をもたせてくれる。・私たちが何を学習するのか,なぜ学習する必要があるのかについて説明している。・私たちが学習する事柄について覚えるのではなく,考えるように促している。・自分の考えを伝えるよう励ましてくれる。・新しい事柄ができるよう手助けをしてくれる。・理解が進むように色々な例を挙げてくれる。・学級内では間違いを正すことができる。・私が理解しているか確認している。・理解の難しい事柄を上手に説明している。・色んな方法で説明している。・学級内では,私は自分の回答を説明しなければならない。・みんなが理解できているかどうか知っている。児童・生徒の高い期待(8項目)・学級の規則が明確になっているか確認している。・学級内では,一生懸命に勉強しなければならない。・みんながお互いを尊重し合っているかを確認している。・学級内では,自分のすべき課題について一生懸命に考えなければならない。・私たちがやるべきことをやっているか確認している。・努力したことについては認めてくれる。・学級内での私たちの態度が良いかを確認している。・学級内での私の頑張りを確認している。児童・生徒の支援(7項目;1つの逆符号)・私の話を聞いてくれる。・私を無視する(逆符号)。・先生の接し方が好きだ。・私を信頼してくれている。・助けてほしい時,親切に応じてくれる。・学級の規則は公正だ。・私を気にかけてくれる。

出所:DPS, Student Perception Survey より作成(65)。

表 16 「児童・生徒の認知」の成績,定義,獲得ポイント

成績 定義 獲得ポイント平均を大幅に上回る(WAA) 99%~100% 6

平均を上回る(AA) ピア・グループ平均+5ポイント~98% 5

平均(A) ピア・グループ平均±5ポイント未満 4

平均を下回る(BA) ピア・グループ平均-5~15ポイント 3

平均を大幅に下回る(WBA) ピア・グループ平均-15ポイント未満 2

不満(U) 50%以下 1

出所:DPS, Student Perception Survey Point Allocation for LEAP Professional Practice より作成(66)。

表 17 「児童・生徒の認知」のスコア算出のイメージ

評価項目 成績 獲得可能スコア

獲得スコアの割合 評価の重み 合計獲得

ポイント(1)学習の促進:A(2)児童・生徒の高い期待:AA(3)児童・生徒の支援:A

13(合計ポイント)

÷ 18 = 0.722 × 10 = 7.22

出所:DPS, Calculating Overall 15-16 Professional Practice Rating より作成(67)。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 97

「平均(A)」,「平均を下回る(BA)」,「平均を大幅に下回る(WBA)」,「不満(U)」のいずれか評価がなされ,獲得ポイントが算出される(表 16)。以降は「観察」と「専門職気質」のスコア算出方法と類似した手続きである。表 17の手順に従うこととなる。質問項目である(1)「学習の促進」,(2)「児童・生徒の高い期待」,(3)「児童・生徒の支援」には,1ポイントから 6ポイントがそれぞれ配分されており,この合計ポイントが算出される。その後,算出された合計ポイントを獲得可能スコア(18ポイント)で除し,獲得スコアの割合が算出される。最後に,10%分の重みづけがなされ,合計獲得ポイントが算出される。これで「児童・生徒の認知」の最終スコアが算出されたことになる。

5-5.専門職の実践以上,「専門職の実践」の「観察」,「専門職気質」,「児童・生徒の認知」それぞれの合計獲得ポイントを獲得することができた。これでようやく「専門職の実践」の評価が得られる準備が整った。「専門職の実践」の評価は,「観察」,「専門職気質」,「児童・生徒の認知」の各合計獲得ポイントを合計して「専門職の実践」の総合スコアを決める。その総合スコアを「専門職の実践」の評価フォームに当てはめる(表 18)。「専門職の実践」は「基準未満」,「接近」,「効果的」,「卓越」のいずれかに評価される。自動的に決まらない「判断」部分は校長が決める。ここに校長の判断が評価に入り込む。「専門職の実践」の総合スコアが 22未満であれば「基準未満」となる。22以上 25未満であれば校長が「基準未満」もしくは「接近」のいずれかに決定する。25以上 30.5未満であれば「接近」,30.5以上33.5未満であれば「接近」もしくは「効果的」,33.5以上 39未満であれば「効果的」,39以上 42未満であれば「効果的」もしくは「卓越」,42以上 50であれば「卓越」となる。このような過程を経て,ようやく「効果的教育実践」の 50%の評価を占める「専門職の実践」の評価に辿り着けるわけである。

5-6.児童・生徒の成長:学区成長と児童・生徒の学習目標次に「効果的教育実践」の残りの 50%を占める「児童・生徒の成長」のスコア算出手順を確認する。「児童・生徒の成長」の評価配分は「学区成長」が 5%,「児童・生徒

表 18 「専門職の実践」の評価フォーム

<22 ≧22−25< ≧25−30.5< ≧30.5−33.5< ≧33.5−39< ≧39−42< ≧42−50基準未満 判断 接近 判断 効果的 判断 卓越

出所:DPS, 2015-2016 : LEAP BASIC FAIRNESS GUIDE より作成(68)。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察98

の学習目標」が 45%であった。まず「学区成長」から確認しよう。この評価項目は,学区成長が指標とされるので,デンバー学区内の教師間はおろか学校間に差が付かない。学区全体の評価である。学区成長の評価には,どのような州テストが用いられているのか。この点についての詳細は今後の検討課題としたい。ここでは「学区成長」の評価は 5%の重みづけがなされた上で算出され,各教師には 3.75ポイントが「学区成長」の最終ポイントとして等しく付与されていると述べるに留める。「児童・生徒の学習目標」には 45%の評価割合が与えられていた。まず,「児童・生徒の学習目標」の成績を評価する際に使用されるマトリクス(表 5)には 0ポイントから 3ポイントが配分され,この合計ポイントが算出される-0ポイントから 3ポイントの配分は,「児童・生徒の学習目標」の対象とする児童・生徒 1人分である。したがって,「児童・生徒の学習目標」の対象とする児童・生徒が複数名であれば,合計ポイントも変わり得る。例えば,「児童・生徒の学習目標」の対象とする児童・生徒が 10名であれば,獲得ポイントは 0ポイントから 30ポイントの範囲となる-。算出された合計ポイントを獲得可能スコア(対象とする児童・生徒数に基づく)で除し,獲得スコアの割合が算出される。最後に,45%分の重みづけがなされ,合計獲得ポイントが算出されたことになる(表 19)。これでようやく「児童・生徒の成長」の最終ポイントを算出する準備が整えられた。

「児童・生徒の成長」の最終スコアは,「学区成長」の 3.75ポイントと「児童・生徒の学習目標」の合計獲得ポイントとを合計して算出される。「児童・生徒の成長」の最終スコアが算出されれば,「基準未満」,「接近」,効果的」,「卓越」のいずれかに位置づけられる(表 20)。すなわち,「児童・生徒の成長」の最終スコアが 3.75~18.59ポイントであれば「基準未満」,18.6~32ポイントであれば「接近」,32.1~45.14ポイントであれば「効果的」,45.15~50ポイントであれば「卓越」というように評価が決定される。

表 19 「児童・生徒の学習目標」のスコア算出のイメージ

評価項目 成績 獲得可能スコア

獲得スコアの割合 評価の重み 合計獲得

ポイント児童・生徒の学習目標 20 ÷ 30 = 0.66 × 45 = 29.7

出所:DPS, Student Growth Using Student Learning Objectives より作成(69)。

表 20 「児童・生徒の成長」の評価フォーム

「児童・生徒の成長」の獲得ポイント 「児童・生徒の成長」の評価3.75~18.59 基準未満18.6~32 接近32.1~45.14 効果的45.15~50 卓越

出所:DPS, Student Growth Using Student Learning Objectives より作成(70)。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 99

これで「効果的教育実践」の残りの 50%の評価を占める「児童・生徒の成長」の評価に辿り着いたわけである。

5-7.最終評価の確定ようやく「効果的教育実践」の最終評価が確定できる段階に入った。最終評価の手順は次の通りである。「専門職の実践」および「児童・生徒の成長」には,「基準未満」,「接近」,「効果的」,「卓越」のいずれかの評価がすでにそれぞれ与えられている。その「専門職の実践」および「児童・生徒の成長」の評価が表 21のマトリクスに位置づけられることとなる。「専門職の実践」および「児童・生徒の成長」の両評価を統合して,「基準未満」,「接近」,「効果的」,「卓越」のいずれかの評価が決定する。これが「効果的教育実践」の最終的な評価である。ただし,自動的に決まらない「判断」部分はやはり校長が決める。ここにもやはり校長の判断が評価に入り込む。この最終評価において,「効果的」,「卓越」の評価を得た教師には,「効果的教育実践」による報酬が与えられる-なんと複雑な手順か!-。このように「効果的教育実践」は複数の評価項目が混在している。「効果的教育実践」を構成する「学区成長」は州テストという客観的な指標に基づいた学区集団に対する評価である一方,他の「観察」,「専門職気質」,「児童・生徒の認知」,「児童・生徒の学習目標」は評価者の判断が入り込む余地のある個人別評価であった。とりわけ,「児童・生徒の認知」については児童・生徒の判断が教師の評価に組み込まれている。報酬の獲得率も見ておこう。ほぼ 100%の教師が「効果的教育実践」による報酬を獲得している。2009-10年度,2010-11年度,2011-12年度にかけて,「不満」の評価を得た教師は 1%未満であった(Briggs et al 2014 : 24)。なお,2011-12年度からは「効果的教育実践」が新しく導入され,この年は「参加」に基づいた報酬条件であった。2014-2015年度の報酬獲得率の詳細は分からないけれど,執行委員長によるとやはり報酬獲得が一般的であるとのことである。「効果的教育実践」による評価には評価者の判断が入り込む項目と客観的な項目とが混在していた。評価者の主観の余地が生まれることによって,評価者と被評価者間に評

表 21 「効果的教育実践」の最終評価フォーム

評価 「児童・生徒の成長」基準未満 接近 効果的 卓越

「専門職の実践」 卓越 判断 判断 判断 卓越効果的 判断 判断 効果的 判断接近 判断 接近 判断 判断

基準未満 基準未満 判断 判断 判断

出所:DPS, 2015-2016 : LEAP BASIC FAIRNESS GUIDE より作成(71)。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察100

価結果に対する紛争が生じうるけれど,現在のところ,ほぼ 100%の教師が報酬を獲得できる慣行によって,その紛争の種は処理されている。とはいえ,団体交渉での争点の一つは「効果的教育実践」の評価基準である。この点は別稿にて論じる予定である。

6.ProComp の運営機構

ここでは ProComp の運営機構とデンバー教員組合がその機構にどのように関与しているのかについて述べておきたい。これまで見てきたように,ProComp による報酬は,多様な要素から構成されている。ProComp が安定的に運営されるためには,それ相応の運営機構が組織されておかねばならない。また,ProComp の運営に対するデンバー教員組合の合意も不可欠である。以下,ProComp の実施面,財政面,苦情処理面における運営機構を把握し,デンバー教員組合がその運営にどのように関与しているのかを述べることとする。

6-1.実施面の管理:トランジション・チーム様々な報酬項目とそれに伴う様々な評価項目から構成される ProComp がきちんと実施されているのかどうかを管理するのがトランジション・チームである。例えば,「実施面で問題が生じた場合,トランジション・チームが対策を考え,ProComp の実施面を管理している」(72)。トランジション・チームの委員は同数のデンバー公立学校区およびデンバー教員組合の代表者で構成されている。つまり,デンバー教員組合は Pro-

Comp の実施面を担う委員の一員であり,ProComp が適切に実施されているのかどうかを管理しているということである。

6-2.財源管理:教員報酬財団ProComp による多額の報酬の財源は,教員報酬財団(Teacher Compensation Trust)が管理している(ProComp 協約 4.1)。教員報酬財団の委員は,ここでもデンバー教員組合の 3名の代表者,デンバー公立学校区の 3名の代表者,さらに,この 6名から合意の得られた 2名の地域代表者から構成される(ProComp 協約 4.1.2)。したがって,Pro-Comp 報酬の財源はデンバー公立学校区とデンバー教員組合および地域代表者とによって,共同で管理されている。つまり,デンバー教員組合は ProComp の報酬財源の管理も担っているということである。

6-3.苦情処理手続き:専門調査委員会ProComp による多様な報酬に関わる苦情処理については ProComp 協約が次のように

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 101

規定している。「ある教師が ProComp による複数の報酬項目の内のいずれかに合意しない場合,その決定は見直されるものとする。見直すのは,専門調査委員会(ProfessionalReview Panel)から選ばれた教師の一人と行政担当者もしくは校長の一人である」(Pro-Comp 協約 2.6.1)。加えて,「専門調査委員会は最低 5名のデンバー教員組合のメンバーと 5名の校長もしくは行政担当者によって構成されるものとする」(ProComp 協約2.6.1.1)。このように苦情処理を担う専門調査委員会にもデンバー教員組合のメンバーが入っており,メンバー数もデンバー公立学校区側と同数である。また,専門調査委員会の選抜に関して,「専門調査委員会のメンバーは,ProComp のトランジション・チームの管理の下でデンバー公立学校学区人的資源課(Human Re-sources)によって集められた委員会が実施する面接によって選ばれる」(ProComp 協約2.6.1.2)。トランジション・チームのメンバーにも同じ数の学区およびデンバー教員組合の代表者で構成されているので,専門調査委員会のメンバーを選ぶ際にもデンバー教員組合の規制がはたらいている。つまり,デンバー教員組合は専門調査委員会のメンバーの選定や苦情処理手続きの一端をも担っているということである。では,苦情処理の具体的な手続きはどのように規定されているのか。「意思決定過程。通知の上で,1名の教師および 1名の行政官からなる 2名の委員は,その意見の相違を見直すために,専門調査委員会からランダムに選抜される。教師と意思決定をした管理職が争点の事実を表明する意見聴取にしたがって,2名の委員は争点を考慮する。もし2名の委員が処理すべき決定に合意すれば,彼らはある決定を出し,その決定は実施されるものとする。もし 2名の委員が処理すべき決定に合意しなければ,元の決定が維持されるものとする(ProComp 協約 2.6.1.5)。この規定はデンバー公立学校区側に主導権がある。デンバー教員組合が苦情処理に対して一定程度の規制を行っているものの,最終的な決定権は行政側であるデンバー公立学校区が握っている。例えば,「児童・生徒の学習目標」の評価の際,教師の評価者である校長による依怙贔屓が生じうる可能性がある。依怙贔屓の存在に関して執行委員長は「それは起りえるね。……それを完全になくすことはできない。でも最小限にすることはできる。『児童・生徒の学習目標』に関する争点があって,教師は達成したと思っているけど,校長は達成していないと言う。なぜなら,校長はその教師のことが好きではないから。そうなると,その教師には達成したと主張する場が与えられる。自分がやったという証拠を見せる。アピールするプロセスをもっているんだ。でも完璧ではない。……合意に達しなければ,独立した専門調査委員会が出てくる」(73)。このように,「児童・生徒の学習目標」の評価に伴う依怙贔屓はありえる。それは完全には無くならない。しかし,依怙贔屓を最小限にすることはできる。まずは教師と校長で話し合う。エビデンスに基づいてアピールをし合う。それで解決しなければ,専門調査委員会が処理するということであ

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る。また,「効果的教育実践」の最終評価者は校長であり,校長の依怙贔屓に対してデンバー教員組合はどのように対処しているのか。これも校長と当該教師との話し合いの場が設定され,それでも解決しない場合は,やはり専門調査委員会が処理することとなる。このように「児童・生徒の学習目標」や「効果的教育実践」という苦情が発生しそうな項目についての苦情処理手続きは,ProComp 協約に規定され,デンバー教員組合は苦情処理を担う専門調査委員会の委員であった。では,実際のところ,苦情処理件数はどの程度存在するのだろうか。執行委員長の答えは次のようであった。「苦情処理件数は多くない。年に 2, 3件だ。争点や問題の多くは人的資源課と話し合っている。不平不満になりそうなことは数百とあって熟慮した。数百もあったので我々は心配だった。しかし,専門調査委員会に持ち込まれることはほとんどない」(74)。苦情処理件数の少なさをどのように考えればよいのだろうか。Pro-Comp の評価システムがほぼ完璧だということであろうか。評価に対する妥当性が担保されているということであろうか。評価者による依怙贔屓は皆無に等しく,教員の大部分は評価に対して納得しているということだろうか。専門調査委員会に持ち込まれそうな案件は,評価者の判断が入り込みうる「専門性向上単元」,「児童・生徒の学習目標」,「効果的教育実践」の 3つである。「専門性向上単元」については,教師の評価者は同僚と「専門性向上単元」課担当者であり,評価プロセスに主観が入り込む余地があるものの,「専門性向上単元」を終えれば報酬が獲得できるのが慣例となっている。「児童・生徒の学習目標」については最終評価が校長による判断に依るものの,2014-2015年度は申し込めば評価結果に関わらず報酬を獲得できることになっている。「効果的教育実践」についても,最終評価については校長の判断に基づくものの,報酬獲得率は概して高い。「専門性向上単元」,「児童・生徒の学習目標」,「効果的教育実践」それぞれに苦情発生の余地が相当程度含まれているとしても,運用面において,報酬獲得が担保されるのが慣行となっている。報酬獲得の担保という慣行が,現在のところ,苦情を抑制する主要な理由であると考えられる。苦情の抑制という点に関わって,やはり,団体交渉を通して ProComp の争点を処理するデンバーの労使関係の存在は無視できない。労使関係の機構については今後の研究課題としたい。

7.おわりに

ProComp の各報酬項目の手続きを確認し,加えて,ProComp の運営機構と運営に対

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するデンバー教員組合の関与を確認してきた。以下,明らかになったことを整理し,日米の相違に関する示唆を示し,今後の研究課題を述べる。第一に,ProComp の報酬には集団的な報酬と個人別の報酬とが混在し,比重としては集団的な報酬要素が大きいということが明らかとなった。また,デンバー学区の教師たちには多様な種類の報酬が分配されている。日本は個人別の報酬に限られており,集団的な報酬はなされていない。第二に,客観的な評価指標が重視されている。校長による判断が伴う主観的な評価指標が一部にあるものの,大部分は客観的な評価指標により ProComp は構成されている。「高業績校」,「高成長校」,「期待の凌駕」は州テストに基づいた客観的な評価指標であった。「任命困難職」は不足している職のリストに基づき,「指導困難校」は児童・生徒の貧困度に基づき,それぞれ客観的な指標から報酬が与えられる。「授業料と学生ローンの返済」は所得に基づき,「上級学位と上級免許」は認定された資格リストに基づき,これらも客観的な指標から報酬が与えられる。一方,「専門性向上単元」は同僚やデンバー公立学校区の担当者の判断が介入する主観的な評価に基づいた報酬であった。「児童・生徒の学習目標」は校長による主観的な評価に基づいた報酬である。「効果的教育実践」には「専門職の実践」の「観察」,「専門職気質」それぞれが校長の判断を伴う主観的な評価指標に基づき,「児童・生徒の認知」については児童・生徒の肯定的回答という児童・生徒の判断に基づく主観的な評価指標であった。「児童・生徒の成長」の「児童・生徒の学習目標」は主観的評価に基づき,「学区成長」については客観的評価に基づいている。「効果的教育実践」は主観的評価指標と客観的評価指標とが混在していた。このように,ProComp による報酬獲得の評価指標には客観的指標と主観的指標とが混在しているものの,比重としては主観的指標よりも客観的指標の方がより大きい。日本は主観的な評価指標に基づいている。客観的指標への試みは一部ではなされているのかもしれないけれど,主として学力テストという客観的指標を用いることは日本では難しい。米国においても学力テストに基づく報酬のみでは実施困難であるけれど,児童・生徒の貧困率に基づいた「指導困難校」を設置することによって,報酬分配を平準化して処理している。なお,筆者が主観的な評価指標と客観的な評価指標とに拘る理由は,どちらが望ましい評価指標であるのかを検討したいからではなく,日米の相違を検討したいからである。第三に,ProComp の運営に対してデンバー教員組合は深く関与している。制度実施面の管理,報酬財源の管理,評価結果に対する苦情処理手続きについて,デンバー教員組合の組合員はそれぞれの委員として構成されている。日本では組合員が評価制度の実施面の管理,報酬財源の管理,苦情処理手続きに委員として構成されているのだろう

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か。もし,日本の教員組合が評価制度の運営のメンバーに入っていないとすれば,制度の運営面については,米国の組合規制の方が圧倒的に強いといえる。日本の教員組合の制度に対する関与という点については今後の研究課題となる。第四に,主観的評価に伴う紛争の種は報酬の分配によって処理されている。全体に占める割合が少ないとはいえ,「専門性向上単元」,「児童・生徒の学習目標」,「包括的専門職評価」のように主観的評価が一部に入っている。ただし,「専門性向上単元」についてはプログラムを終えれば報酬が獲得できる慣行ゆえに,大きな問題とはみなされていない。一方,「児童・生徒の学習目標」はその評価にあたって,評価者と被評価者間に紛争が生じうるけれど,現在のところ,「児童・生徒の学習目標」の報酬は「参加」に基づくものとして労使で決定している。ここに米国組合の規制力の高さが現れている。「包括的専門職評価」については,これまではほぼ 100%の教師が「効果的」以上の評価を受けて報酬を得ることで,紛争の種を処理している。労使で決めた苦情処理の手続き規定が,評価者に対して教師と評価結果をめぐって苦情処理の手続きを経なければならない面倒を課すことによって,100%に近い報酬獲得が実現されているのだとすれば,これもまた米国の組合規制の強さの現れの一つである。日米の相違という点では,米国は客観的な評価指標に基づいた集団的報酬取引であるのに対して,日本は主観的な評価指標に基づいた個人別報酬取引であり,組合規制の力は圧倒的に米国の方が強いということが示唆される。より説得的な説明をするためには,次の課題に取り組む必要がある。第一に報酬制度の仕組みを設計,運用,改訂する手続的規則である団体交渉の仕組みを明らかにすること,これと関連して,第二に組合内民主主義の機構を明らかにすること,第三に労働支出に対する規制の仕組みを解明することである。とりわけ,米国の教育の基盤を形成する教師たちの実践を理解するためには,第三の課題がより重要な課題となる。第四の課題として,米国調査と並行しながら,日本における教員組合の反対給付と労働支出に対する規制の取組みについても解明しなければならない。

注⑴ 岩月真也(2016)「米国教員の賃金制度と業績給の仕組みに関する一考察」『評論・社会科学』117号,

pp.151-178。⑵ 学校評価フレームワークの説明は主として DPS, School Performance Framework を参照した。(http : //

spf.dpsk12.org/。最終アクセス日:2016年 2月 24日)。⑶ 評価項目の細部に関しては,主として,DPS, 2014 School Performance Framework Rubrics Elementary

School Level を参照した。(http : //spf.dpsk12.org/documents/current/documentation/languages/english/SPF_Rubric_ES_English.pdf。最終アクセス日:2016年 2月 24日)。

⑷ Colorado Department of Education, CSAP/TCAP-Data and Results より。(https : //www.cde.state.co.us/as-sessment/coassess-dataandresults。最終アクセス日:2016年 6月 27日)。

⑸ ポイントの算出は表 3の通りである。学力成長パーセンタイル中央値が 35未満=「基準未満」,35以

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上 50未満=「基準に接近」,50以上 65未満=「基準に到達」,65以上=「凌駕」というように評価され,この評価を 2年分蓄積し,下記のマトリクス(表 3)に当てはめて,ポイントが算出される。他の「学力成長」に関するポイント算出方法についても,同様に通年比較を通じて算出される。ただし,評価項目によっては,「凌駕」の項目がなく,「基準に到達」の項目までとなっている。その場合,獲得可能なポイントは 2~4ポイントというように変動する。

⑹ 児童・生徒の州テストのスコアは,スコアに応じて,「不満」,「部分的に堪能」,「部分的に相当程度の堪能」,「堪能」,「卓越」と評価される。「成長の挽回(Catch-Up Growth)」とは,「不満」から「部分的に堪能」以上への移行,「部分的に堪能」から「部分的に相当程度の堪能」以上への移行,「部分的に相当程度の堪能」から「堪能」以上への移行を指す。「堪能」から「卓越」への移行は次の評価指標で説明するように,「学力成長の挽回」ではなく「成長の維持」(Keep-Up Growth)に分類される。

⑺ 「学力成長の維持(Keep-Up Growth)」は,「堪能」の維持,「堪能」から「卓越」への移行,「卓越」の維持を指す。注意すべき点は,「堪能」から「卓越」への移行は「学力成長の挽回」とは分類されず,「学力成長の維持」に分類されるということである。

⑻ CoALT(Colorado Alternate Assessments)は顕著な認知障害を持つ児童・生徒への代替的テストである(Colorado Department of Education, About the Colorado Alternate Assessments(CoALT))より。(https : //www.cde.state.co.us/assessment/coaltassess-about。最終アクセス日:2016年 6月 20日)。

⑼ ここでの個別グループについても,昼食費の減額もしくは無料,マイノリティ,英語学習者に属する児童・生徒である。

⑽ ACCESS とは英語学習者のための学力テストである。⑾ DEA 2(Developmental Reading Assessment)及び EDL2(Evaluación del desarrollo de la lectura)は,児童・生徒の読解能力を評定する(DPS, DPS DRA2/EDL2 K-8 GUIDEBOOK より)。(http : //dpsare.com/wp-content/uploads/2015/08/READAct_DRA2EDL2_Guidebook.pdf。最終アクセス日:2016年 6月 20日)。

⑿ この評価指標は,学校評価フレームワークの全体の評価に含まれるけれど,児童・生徒の関与の評価項目には含まれない。学校評価フレームワーク評価のボーナスポイントとしてカウントされる。

⒀ この評価指標についても,学校評価フレームワークの全体の評価に含まれるけれど,児童・生徒の関与の評価項目には含まれない。学校評価フレームワーク評価のボーナスポイントとしてカウントされる。

⒁ 実際の評価フォームでは評価結果は信号機のように青,赤,黄のように色分けされている。「卓越」は青,「基準に到達」は緑,「注視を要する」は黄,「特に注視を要する」は橙,「保護観察を要する」は赤というように表示されている。

⒂ DPS, School Specific SPF-Elementary Schools より。(http : //spf.dpsk12.org/spf_elementary.html.最終アクセス日:2016年 6月 20日)。

⒃ インタビュー記録より(2015年 11月 27日,デンバー教員組合執行委員長)。⒄ DPS, Eligibility & Payment(http : //denverprocomp.dpsk12.org/eligibility/。2016年 2月 24日)より。なお,SPF Rating and Indicator summary Report には学校評価フレームワークに参加している全ての学校の成績が示されている。(http : //www.cpr.org/sites/default/files/2014 spfresults_092114.pdf,最終アクセス日:2015年 12月 29日)。

表 3 学校評価フレームワークによるポイント算出のイメージ

2年目1年目 基準未満 基準に接近 基準に到達 凌駕

基準未満 0ポイント 0ポイント 2ポイント 2ポイント基準に接近 0ポイント 2ポイント 2ポイント 4ポイント基準に到達 2ポイント 2ポイント 4ポイント 4ポイント凌駕 2ポイント 4ポイント 4ポイント 6ポイント

出所:DPS, 2014 School Performance Framework Rubrics Elementary School Level より作成。

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ただし,学校評価フレームワークの対象学校数と ProComp の対象学校数とは異なっているので,学校評価フレームワークの「基準に到達」と「卓越」の合計数と「高業績校」の認定数は異なる。

⒅ コロラド州児童・生徒の成長指標に基づいた「学力成長」項目とは,コロラド州において,3学年から 10学年の児童・生徒が受ける国語と算数・数学のテストである TCAP に基づいた「学力成長」の評価項目である。

⒆ インタビュー記録(2016年 3月 4日,デンバー教員組合執行委員長)。⒇ DPS, Student Learning Objectives(SLOs)より(http : //sgoinfo.dpsk12.org/,最終アクセス日:2016年 6月 28日)。

21 インタビュー調査より(2015年 11月 27日,デンバー教員組合執行委員長)。22 以下の説明は断りのない限り SLO handbook 15/16に沿って進められる(DPS, SLO handbook 15/16より)。(http : //dpsare.com/teachers/student-learning-objectives-slos/,最終アクセス日:2016年 6月 28日)。

23 インタビュー調査より(2015年 11月 27日,デンバー教員組合執行委員長)。24 インタビュー調査より(2015年 11月 30日,デンバー教員組合執行委員長)。25 インタビュー調査より(2015年 12月 4日,デンバー教員組合執行委員長)。26 団体交渉の詳細については別稿で論じたい。27 なお,「児童・生徒の学習目標」の導入前に実施されていた「児童・生徒の成長目標」の「達成」獲得割合は次の通りであった。2009年度,2010年度,2011年度に関して,2つの「達成」を獲得した教師は 6割以上,1つの「達成」のみ獲得した教師は 1割強,「達成」を獲得できなかった教師は 1割未満,「児童・生徒の成長目標」に申請していない教師は 2割強から 1.5割で推移している(Briggs et al2014 : 16)。申請者だけに限っていえば,9割以上の教師が 1つ以上の「達成」を獲得している。

28 インタビュー記録より(2015年 12月 4日,デンバー教員組合執行委員長)。29 インタビュー記録より(2015年 11月 27日,デンバー教員組合執行委員長)。30 インタビュー記録より(2015年 11月 27日,Assistant Director(JPS))。31 インタビュー記録より(2015年 12月 4日,デンバー教員組合執行委員長)。32 「任命困難職」のリストは下記の通りである(表 6)。なお,2012-2013年度から 2015-2016年度の間,このリストは変更されていない。

33 インタビュー記録より(2015年 11月 27日,デンバー教員組合執行委員長)。34 インタビュー記録より(2015年 12月 4日,デンバー教員組合執行委員長)。35 インタビュー記録より(2015年 11月 27日,デンバー教員組合執行委員長,Assistant Director(JPS))。36 同上より。

表 6 「任命困難職」のリスト

・国語科担当者(英語とスペイン語能力を有する)・チャイルド・ファインドチームの担当者(有資格のバイリンガル)・特別支援教育評価チーム(SEAS)の担当者(有資格のバイリンガル)・中学校および高校の数学担当教員・聴覚訓練士・作業療法士・理学療法士・看護師・心理士・言語療法士・特別支援教育センタープログラム担当者・特別支援教育担当教員・巡回者(聴覚障害担当)・巡回者(視覚障害担当)・特別支援教育の巡回局担当

出所:DPS, Hard to Staff Assignment 2015-16より作成。(http : //denverprocomp.dpsk12.org/H2Staff 2012-13。最終アクセス日:2016年 6月 20日)。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 107

37 インタビュー記録より(2016年 3月 4日,デンバー教員組合執行委員長)。38 デンバー教員組合とデンバー公立学校区との交渉に関しては改めて論じたい。39 経験年数とは,デンバー公立学校区によって承認されたフルタイム契約の年数である。経験年数にはデンバー学区外での経験も含まれ得る。一方,勤続年数(Years of service)はデンバー学区での仕事のみに限定された年数を指す。DPS, 2015-’16 ProComp Payment Opportunities を参照した。(http : //static.dpsk12.org/gems/newprocomp/201516ProCompElementsTable2015082700000002.pdf,最終アクセス日:2016年 6月 28日)。デンバー教員組合の執行委員長も次のように説明する。「経験年数というのは,認定された年数

(recognized year)を指します。デンバー学区内の経験年数だけではありません。他の学区で働いていたら,その年数はカウントされます。デンバー学区で何年働いたかどうかではなくて,認定された年数が何年なのかというのが経験年数という意味です」(インタビュー記録,2015年 11月 27日)。

40 DPS, PDU handbook より。以下,断りの無い限り,PDU handbook に基づいている。(http : //static.dpsk12.org/gems/newprocomp/ProfessionalDevelopmentUnitHandbook20102011.pdf,最終アクセス日:2016年 6月 28日)。

41 インタビュー記録より(2015年 11月 27日,デンバー教員組合執行委員長)。42 ProComp Handbook より。43 インタビュー記録より(2015年 11月 27日,デンバー教員組合執行委員長)。44 インタビュー記録より(2015年 12月 4日,デンバー教員組合執行委員長)。45 「専門性向上単元」報酬を獲得した教員の割合は,2009-2010年度で ProComp 参加者の 42%,2010-11は 54%,2011-12は 56%であったと示されている(Briggs et al 2014 : 22)。しかし,分母は ProCompに参加している教師であるのか,「専門性向上単元」の資格を有している教師であるのか,それとも「専門性向上単元」を実施した教師であるのか,いずれであるのかが確認できていない。

46 インタビュー記録より(2015年 11月 30日,デンバー教員組合執行委員長)。47 インタビュー記録より(2015年 11月 27日,デンバー教員組合執行委員長)。48 同上より。49 1983年,『危機に立つ国家』(“A Nation at Risk”)が報告された。それを契機として 1987年に NBPTSは設立した。NBPTS は教員ゴールド免許を認定する。NBPTS の目的は教師のための高い免許基準を設定することで,児童・生徒によりよい教育を提供することにある。

50 インタビュー記録より(2015年 12月 4日,デンバー教員組合執行委員長)。51 インタビュー記録より(2016年 3月 4日,デンバー教員組合執行委員長)。なお,「効果的教育実践」は ProComp の報酬を決定することに限定して運用されているわけではない。「効果的教育実践」の評価結果は,テニュア付与の条件でもある。その条件とは,デンバー学区において,3年連続で「効果的」もしくは「卓越」の評価を獲得できれば,その教師はテニュアを獲得できるというものである。

52 DPS, LEAP Handbook : Growing as an Educator より。以下,断りの無い限り,LEAP Handbook を使用している。

53 「スクール・アドミニストレーターとは校長や教頭などの学校管理職のことだ」(インタビュー記録,2015年 11月 27日,デンバー教員組合委員長)。

54 インタビュー記録より(2015年 11月 27日,デンバー教員組合委員長)。55 インタビュー記録より(2015年 11月 30日,デンバー教員組合執行委員長)。56 インタビュー記録より(2015年 11月 27日,デンバー教員組合執行委員長)。57 DPS, LEAP Handbook : Growing as an Educator 及び DPS, LEAP Student Growth-Past, Present & Futureより。(https : //drive.google.com/drive/folders/0Bz9HbM6CzF9ZWVZjR1lqMkQ3QUk。最終アクセス日:2016年 6月 21日)。

58 DPS, LEAP Student Growth-Past, Present & Future より。59 インタビュー記録より(2015年 12月 4日,デンバー教員組合執行委員長)。60 なお,「児童・生徒の認知」が実施不可であれば,評価配分は「観察」35%,「専門職気質」15%,「児童・生徒の認知」0%となる。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察108

61 教員リーダーとは,上級チームリード,チームリード,チームスペシャリスト,リージョナルチームスペシャリスト,新任教員担当の役割を担う教師である。2015-2016年度については,その役割を担っている教師には報酬が次のように与えられている。上級チームリードは 5000ドル,チームリードは3000ドル,チームスペシャリストは 1500ドル,リージョナルチームスペシャリストも 1500ドル,新任教員担当は 800ドルである。DPS, Salary-Setting Guide : Teachers and Specialized Service Providers より。(http : //careers.dpsk12.org/wp-content/uploads/2015/12/Teacher-and-SSP-salary-setting-guide.pdf。最終アクセス日:2016年 6月 21日)。

62 DPS, Calculating Overall 15-16 Professional Practice Rating より。(http : //leap.dpsk12.org/LEAP/media/Main/PDFs/Professional-Practice-Calculation-Guide-2016.pdf。最終アクセス日:2016年 6月 21日)。

63 同上より。64 「児童・生徒の支援」に関する「先生は私を無視する(逆符号)」の質問については,「決してない」,「時々」が肯定的回答とみなされる。

65 DPS, Student Perception Survey。(http : //leap.dpsk12.org/LEAP/media/Main/PDFs/DPS-Student-Perception-Survey-Items.pdf,最終アクセス日:2016年 6月 21日。)

66 DPS, Student Perception Survey Point Allocation for LEAP Professional Practice(http : //leap.dpsk12.org/LEAP/media/Main/PDFs/SPS-Points-Allocation_Jan 2016.pdf。最終アクセス日:2016年 6月 21日)。

67 DPS, Calculating Overall 15-16 Professional Practice Rating より。68 DPS, 2015-2016 : LEAP BASIC FAIRNESS GUIDE より作成。(http : //hr.dpsk12.org/wp-content/uploads/

2015/09/2015-16-LEAP-Basic-Fairness-Guide-9-8-15_teachers.pdf。最終アクセス:2016年 6月 21日)。69 DPS, Student Growth Using Student Learning Objectives より。(http : //dpsare.com/wp-content/uploads/2015/

11/Student-Growth-Using-Student-Learning-Objectives.pdf.最終アクセス日:2016年 6月 21日)。70 同上より。71 DPS, 2015-2016 : LEAP BASIC FAIRNESS GUIDE より。72 デンバー教員組合執行委員長とのメイルでのやり取りに基づく(2016年 4月 26日)。73 インタビュー記録より(2016年 3月 4日,デンバー教員組合執行委員長)。74 同上より。

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収集資料DPS, LEAP Handbook : Framework for Effective Teaching : Observation。DPS, LEAP Handbook : Framework for Effective Teaching : Professionalism。DPS, LEAP Handbook : Growing as an Educator。DPS, PDU Final Peer Review Feedback Form。DPS, PDU Peer Review Protocol。DPS, ProComp Handbook。DPS, Rubric For Scoring PDU Content and Presentation。

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察 109

The purpose of this study is to analyze the structure of performance-based teacher compen-sation system, it’s called “ProComp”, and the administrative organizations through a case studyon Denver County, Colorado in U.S.

The major findings are as follows. First, the compensation system is composed of multipleincentives. The system provides most of teachers with multiple incentives. Second, the system iscomposed mainly of objective indicators. Third, distribution of incentives to many teachers dealswith seeds of conflicts on account of subjective measures in ProComp. Fourth, teachers union inDenver is appointed as boards of operation, funds and grievance.

My implication here is as follows. While U.S. is mostly multiple compensation systembased on objective indicators, Japan is only individual based on subjective measures, and more-over, the powers of U.S. teachers union to regulate the compensation system is more influencethan the power of Japanese teachers union.

Key words : Teacher evaluation, Industrial relations, United States of America

A Study of Performance-Based Teacher Compensation Systemin Public Schools in Denver, Colorado :

Focusing on the Detail of ProComp and the Administrative Organizations

Shinya Iwatsuki

コロラド州デンバー学区における公立学校教員の報酬制度に関する一考察110